『オズのビリーナ』




                 第十一幕  ドラゴンと種

 一行は地下の道、迷路の様に道別れをしているそこをビリーナの案内で的確に進んで行っていきました。
 そして遂にです、ビリーナは前を見て皆に言いました。
「この角を右に曲がったわね」
「いよいよなのね」
「種がある場所に行けるのね」
「そうよ」
 ガラスの猫とエリカに答えました。
「左右に道があるけれど」
「右に曲がったら」
「そこにあるのね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「右に行くわよ」
「左に行ったら何があるの?」
 ナターシャはビリーナにもう一方の道のことを尋ねました。
「それで」
「左は行き止まりよ」
「そうなの」
「ある程度は行けるけれど」
「進んでいくと」
「行き止まりになるから」
 だからだというのです。
「行っても仕方ないわよ」
「そうなのね」
「だから気にしないでね」
 左の道はというのです。
「そっちは」
「わかったわ、けれど地下はね」
「入り組んでいるでしょ」
「ええ、道も広場もあって」
「迷路でしょ」
「まさにそうね」
「それで中には色々なものもあるの」
 その色々なものについてもです、ビリーナはお話しました。
「種もあってね」
「財宝もあるの」
「そう、そちらもね」
「そうなのね」
「財宝はあちこちにあるわよ」
 オズの国の地下にというのです。
「金も銀も宝石もね」
「財宝も」
「ええ、あちこちにね」
「一杯あるのね」
「あらゆる場所にね」
「じゃあそういうものが欲しかったら」
「そういうものがある場所に行けばいいの」
 こうナターシャにお話します。
「その時はね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「私は今のところはね」
「財宝には興味がないのね」
「何かオズの国にいると」
 それこそというのです。
「お金の概念もないし食べるものにも着るものにも困らないし」
「そうした国だからね」
「ええ、それに欲しかったらその辺りにあるし」
「幾ら何でも」
「そう、充分にあるから」
 それでというのです。
「私は別にいいわ」
「あんた無欲ね」
「そういう訳でもないけれど」
「それでもっていうの」
「この国には何でもあるから」
「だからなのね」
「別にいいわ」
 財宝等はというのです。
「少なくとも今はね」
「そう言うのが無欲だけれどね」
「そうなの」
「ええ、私はそう思うわ」
 自分の後ろにいるナターシャにお顔を向けて言いました。
「あんたはそうよ」
「無欲なのね、私は」
「私が見たところはね、ただね」
「ただ?」
「あんただけじゃなくて五人共そうね」 
 ナターシャ達全員がというのです。
「欲がないね」
「僕お金好きだよ」
「僕もだよ」
「僕もやっぱり」
 ジョージに神宝、カルロスが答えます。
「お金があったら何でも買えるから」
「それだけで困らないし」
「あんないいものないよ」
「金や銀、宝石があったら」
 恵梨香も言います。
「奇麗だし」
「そうだよね、ただオズの国にいたら」
「必要ないしね」
「なくても普通に生きていけるから」
 男の子三人は恵梨香に言います。
「欲しいって思わないよね」
「金や銀もこうして地下だと幾らでもあるし」
「都はエメラルドで一杯だしね」
「いつも見ていて傍にもあるから」
 また言った恵梨香でした。
「特に欲しいとは思わないの」
「そうなのね、けれど欲が深いと幾ら持っていても欲しくなるものよ」
 ビリーナはまた言いました。
「昔のラゲドー王といいね」
「あっ、そういえば」
「あの人は金も銀も一杯持っていたでしょ」
「宝石もね」
「それでもまだ欲しいって言ってたわね」
「それにオズの国の支配者にもなろうとして」
「既にノームの王様だったのにね」
 何でも持っていたというのです。
「さらに欲しがっていたわね」
「何度も攻めようとして」
「そうした人もいるのよ」 
 ラゲドー王の様に欲深な人がというのです。
「だからあんた達はね」
「傍に一杯あれば満足っていうから」
「無欲よ、ただね」
「ただ?」
「時として欲が深いことも必要よ」
「無欲は美徳じゃないの?」
「美徳だけれど欲が深かったら何でもしたいって思うでしょ」
 ビリーナはこうしたことも言うのでした。
「それで努力するから」
「いいの」
「私は欲が深いわよ」
 自分のことも言ったビリーナでした。
「何でも欲しいから」
「それで冒険もして」
「頭も動かすからね」
 そうして努力もするからというのです。
「欲が深いことも悪いことじゃないの」
「何か難しいお話ね」
「要するにあれだよ」
 キャプテンも皆にお話します。
「欲が深くても自分で努力して手に入れればよくてね」
「盗んだり奪ったりしたら駄目なの」
 トロットもこうお話します。
「生み出したり冒険をしたり発掘したりしてね」
「手に入れることはいいんですね」
「そういうことなの」
「つまりラゲドー王みたいにしたら駄目なんですね」
「そうよ」
「ビリーナみたいな欲の適え方がいいんですね」
「要するに欲を向ける対象と欲を適える方法よ」
 この二つだというのです。
「大事なのはね」
「そういうことなんですね」
「そうよ、私達も欲が深いわよ」 
 トロットはにこりと笑って述べました。
「いつも楽しい思いをしたいって願っていてね」
「その為に動いているから」
「欲が深いわよ」
 そうだというのです。
「こうして冒険も楽しんでるし」
「欲と言っても色々なんですね」
「私が無欲だったら」
 またビリーナが言ってきました。
「虹色の菫の種なんて欲しいと思ってないわよ」
「そういえばそうね」
「自分お国に咲かせたいなんてね」
 それこそというのです。
「思わないわよ」
「そういうものなのね」
「そう、欲は上手に使うことが大事なの」
「成程ね」
「じゃあその欲を上手に使ってね」 
 そしてと言うのでした、ここでまた。
「種を手に入れるわよ」
「今からね」 
 こうお話してでした、そのうえで。
 一行は角を右に曲がりました、その先はまだ見えてはいませんがそれでもです。ビリーナは確かな声で言うのでした。
「さあ、ここをまっすぐに進めば」
「種に辿り着けるのね」
「そうよ、歩いて行けば行き止まりがあって」
 それでというのです。
「そこにあるのよ」
「種が」
「じゃあ行きましょう」
「種のところまで」
「歩いてね」
 こうお話してでした、皆で先に先にとです。角を曲がってからも進んでいきました。そして遂になのでした。
 先が見えてきました、ですが。
 道にでんとでした、緑色のドラゴンが丸くなって寝ていました。蝙蝠の羽根があって尻尾と首は長く頭いは二本の角もあります。
 そのドラゴンを見てです、ビリーナは極めて冷静に言いました。
「あら、ドラゴンね」
「あらって」
「だからお話してたでしょ」
「地下にはドラゴンの巣もあるから」
「出会うこともあるのよ」
「だからなの」
「こうして会ってもね」
 それでもというのです。
「私別に驚いてないわよ」
「そうなのね」
「左の方に道が出来てるわね」
 ビリーナは寝ているドラゴンの左手に視線をやって気付きました。
「そういえば」
「じゃああの道は」
「そう、ドラゴンが掘ってきた道でね」
「それでここに出てなの」
「寝てるのよ」
 まさにというのです。
「ここがいいと思ったのでしょうね」
「寝る場所に」
「それで寝てるのよ」
「それはわかったけれど」
「わかったけれどっていうのね」
「あのドラゴンさんがいたら」
 それこそとです、ナターシャはビリーナに言うのでした。
「先に進めないわよ」
「ええ、わかってるわ」
「わかってるの」
「わかっていて冷静なのよ」
「じゃあ解決方法は」
「もう頭の中にあるわ」
 ビリーナのそこにというのです。
「安心してね」
「じゃあこれから」
「いい?ドラゴンはおおむね寝たら中々起きないの」
 ビリーナはここでドラゴンの習性のことをお話しました。
「それで寝起きが悪い場合もあるの」
「あっ、そういえば」
「そうだよね、ドラゴンってね」
「一回寝たら中々起きないお話が多いね」
 恵梨香にです、ジョージと神宝が言います。
「それで起きたら暴れるとか」
「そうしたお話もあるね」
「オズの国でもそうなのね」
「ええ、そうよ」
「そうしたドラゴンもいるわよ」
 三人にガラスの猫とエリカが答えます。
「中々起きないし無理に起こして暴れる場合もあるから」
「注意してね」
「そこは一緒なんだね」 
 カルロスは寝ているドラゴンを見て述べました。
「他の世界のドラゴンと」
「このドラゴンもそうかしら」 
 トロットも言います。
「起きないし寝起き悪いのかしら」
「その可能性はあるから」
 だからとです、ビリーナはトロットにも応えました。
 そしてです、こうトロットに言いました。
「北風と太陽でね」
「太陽でいくのね」
「鳴らぬなら鳴かせてみせよよ」 
 こうも言ったビリーナでした。
「それでいくわよ」
「豊臣秀吉さんね」
 恵梨香は鳴かぬならと聞いて述べました。
「それは」
「日本の戦国大名ね」
「天下人よ」
「その人みたいにね」
「鳴かせてみせよなの」
「今回はね、起きないならね」
 それならというのでした。
「起こしてみせよよ」
「北風と太陽なら太陽で」
「それでいくわよ」
「具体的にはどうするの?」
「まずはトロットにテーブル掛けを出してもらうの」
「これね」 
 そのトロットからの言葉です、実際にもうテーブル掛けを出しています。そのうえでビリーナに微笑んでこう言うのでした。
「私もわかったわよ」
「私の考えが」
「ええ、何となくにしても」
「そうでしょ、じゃあいいわね」
「今からよね」
「ドラゴンの好きな食べものを出すの」
 テーブル掛けからというのです。
「そうしましょう」
「ドラゴンの好きなものというと」
「お肉よね」
「しかも大きな生肉ね」
「それを前に置いたら」
 寝ているドラゴンのです。
「起きるわよ」
「そうよね」
「匂いでね」
「じゃあ今から出すわね」
 トロットも応えてです、そのうえで。
 トロットは寝ているドラゴンの前にそおっと、ドラゴンを起こさない様に気をつけて近付いてです。そしてでした。
 テーブル掛けを開いてそこに大きな、牛一頭位の生肉の塊を出しました。ナターシャはその肉の塊を見て言いました。
「大きいわね」
「あれ位の大きさでもね」
「それでもなの」
「ドラゴンには一食分かしらね」
「牛一頭分あっても」
「大きいからね」
 ドラゴンの身体がです。
「だからあれ位あってもよ」
「一食なのね」
「そう、私達なら一食でもとてもでしょ」
「皆いてもね、ステーキやシェラスコにしても」
 それでもというのです。
「一日あっても食べられそうもないわ」
「ところがドラゴンは身体が大きいからよ」
「あれだけあってもなのね」
「一食よ」
「そうなのね」
「だからね」
「あれだけ出したの」
 ナターシャも納得しました。
「そうなのね」
「しかもドラゴンの好きな生肉よ」
「生肉は」
「お刺身思い出したわね」
「日本のね、日本には牛や馬のお刺身もあるから」
「あのお肉は牛肉よ」
 トロットが戻って来てお話しました、見ればテーブル掛けはその手にちゃんと持っています。お肉の下から抜いてきたのです。
「そのお肉にしたの」
「牛肉ですか」
「どのお肉でもよかったけれど」
「羊でも豚でも」
「けれどこれがいいかしらって思って」
「牛肉にされたんですね」
「そう、それじゃあね」
 その生に食いを見ながらの言葉です。
「後はドラゴンが起きるだけよ」
「お肉の匂いで」
「それを待つだけよ」
「起きますかね」
「起きるわよ」
 ビリーナは自信に満ちた声で言い切りました。
「絶対にね」
「ドラゴンならですか」
「ええ、生肉の匂いでね」
「大好物の匂いだから」
「それも間近にあるからね」
 それならばというのです。
「絶対に、すぐに起きるわ」
「それじゃあ」
「このまま見ていましょう」
「起きるのを待って」
「それじゃあね」
 こうお話してでした、皆はことの成り行きを見守りました。するとビリーナが言った通り実際にでした。
 ドラゴンはまずはそのお鼻をひくひくとさせました、それを見たガラスの猫が皆に対してこう言いました。
「あら、本当によ」
「お鼻がひくひくしだしたわね」 
 エリカも言います。
「そうなってきたわね」
「そうね、じゃあ」
「このまま起きるわね」
「そうなるわね」
 こうお話するのでした、二匹で。
「じゃあ起きたら」
「お肉食べるわね」
「そうなるわ、絶対にね」
 大好物のそれをというのです、そしてでした。
 実際にです、ドラゴンは目を覚ましてでした。そのお肉を見てです。
 ゆっくりと起き上がったから近付いてその匂いをじっくりと嗅いでから食べはじめました、大きなお肉でしたがあっという間に食べてしまいました。
 そのあっという間に食べるのを見てです、カルロスは驚いて言いました。
「あれだけあったのにね」
「あっという間にだったね」
「全部食べたね」 
 ジョージと神宝も言います。
「流石ドラゴンだね」
「身体が大きいだけはあるね」
「そうだね、やっぱり大きいからだね」
「あれだけのお肉もなのね」
 恵梨香もそのあっという間に全部食べた様子を見て驚いています。
「あっという間なのね」
「ドラゴンの身体から考えたら当然だけれど」
 ナターシャは納得はしていますがそれでも驚いてもいます。
「凄い食欲ね」
「これがドラゴンよ、何はともあれね」
 ビリーナがここで皆に言います。
「ドラゴンさんは起きたわよ」
「さて、後は交渉だね」 
 キャプテンは起きたドラゴンを見て言いました。
「ドラゴンさんにどいてもらおう」
「ええ、事情をお話してね」
 トロットはキャプテンの言葉に頷きました。
「どいてもらいましょう」
「少しの間だけでもね」
「じゃあ今からね」
「あのドラゴンさんのところに行ってね」
 ガラスの猫とエリカも起きたドラゴンを見ています。
「お話しましょう」
「私達の事情をね」
「そういうことでね、ちょっといいかしら」
 ビリーナは早速でした、ドラゴンのところに歩いていって声をかけました。
「お話があるんだけれど」
「あれっ、ひょっとして」
 ドラゴンはビリーナの姿を見て言いました。
「鶏の国の女王さんの」
「ビリーナよ」
「そうだね、その羽毛の色とぴんと張った姿勢はね」
 堂々と胸を張っているその体勢もというのです。
「ビリーナ王女だね」
「その二つで分かったのね」
「貴女は有名人のうちの一人だからね」
 このオズの国でもです。
「僕も知ってるよ、まだ五百年しか生きていないけれどね」
「五百年でまだ?」
 ドラゴンの今の言葉にです、恵梨香は少し驚きましたがすぐにあることを思い出しました。ドラゴンのことについて。
「そういえばドラゴンさんは長生きだったわ」
「そうよ、オズの国では誰も歳を取らないし死なないけれど」
 ビリーナが恵梨香にお話します、皆もうドラゴンのすぐ前に来ています。
「それでもね」
「ドラゴンさんはそうなるずっと前から生きていて」
「一万年位は普通よ」
「そこまで生きられるのね」
「長寿の種族なのよ」
「そうだったわね」
「うん、一万年とか二万年とかね」
 ドラゴンも恵梨香にお話します。
「普通だよ、それはそうとね」
「どうしたの?」
「トロット王女とキャプテンさんも知ってるし」
 ドラゴンは今度は恵梨香を見て言うのでした。
「ガラスの猫さんとエリカさんもね」
「私を知らないオズの国の人はいないわね」
「いたらどうかしてるわ」
 二匹の猫もビリーナに負けない位胸を張った言います。
「あんたも知ってるのね」
「普通に」
「うん、けれど君達五人はね」
 ナターシャ達五人を見て言うのでした。
「知らないけれど」
「この子達は外の世界から時々来てる子達なの」
 ビリーナがドラゴンに説明します。
「オズの国の名誉市民よ」
「そうなんだね」
「だからあんたが知らないのも当然ね」
「うん、トロット王女達のお友達なんだね」
「オズマのお友達でもあるわよ」
 ビリーナがまたお話しました。
「そうなの」
「つまり君達全員のお友達だね」
「だから今回も一緒に冒険してるのよ」
「成程ね、ところで今冒険って言ったけれど」
「私達地下にある虹色の菫の種を手に入れに来たのよ」 
 ビリーナはドラゴンにこのこともお話しました。
「それでここまで来たのよ」
「ああ、この奥にある」
「そう、まさにね」
「じゃあもうすぐだからそこまで頑張ってね」
「そうするわ、ただね」
「ただ?」
「実はあんたに少しここをどいて欲しいの」 
 単刀直入にです、ビリーナはドラゴンに言うのでした。
「是非ね」
「ひょっとしてさっきのお肉は」
「そう、あんたに起きてお話をしてどいてもらう為によ」
「出したんだね」
「そうだったの」
「美味しいお肉だったよ」
 お肉の味についてです、ドラゴンはその大きな舌を出してべろりとお口の周りを舐め回してから言いました。
「本当にね」
「それは何よりね」
「実はここに出たのはね」
「穴があるわね」
 ビリーナはここでまたドラゴンの左手を見ました、ドラゴン一匹が普通に通られるとても大きな穴がそこにあります。
「あんたの巣ね」
「狭くなったんで拡げてたら」
「ここに出たのね」
「それでここが気持ちよくてね、出たら」
「だから寝床にしようと思って」
「ずっと寝ていたんだ」
 そうだったというのです。
「今までね」
「そうなのね、それでね」
「うん、君達の邪魔になるならここをどくよ」
「そうしてくれると助かるわ」
「あとここは滅多に誰も通らないけれど」
 それでもとです、ドラゴンは考えるお顔で言いました。
「また君達みたいに種を採りに来る人が来るだろうし」
「それなのね」
「別の寝床探すよ、地下はとても広いから幾らでもあるしね」
「そうしなくてもいいわよ」
「いやいや、また誰か来るから」
 それでというのです。
「ここはどくよ、それにもう既に寝床もあるしね」
「最初からあるのね」
「新しい寝床を探してたんだ」
 この辺りの事情もお話するドラゴンでした。
「実はね」
「じゃあ元の寝床でも寝たり」
「うん、そうしてもいいしね」
「新しい寝床も探して」
「そこは僕で考えるよ、それじゃあね」
「どいてくれて」
「誰の邪魔にならない様にするよ」
 こうビリーナを通じて皆にお話するのでした。
「あと穴も埋めるし」
「それじゃあ」
「またね、けれどあの菫はね」
 ビリーナが手に入れるという虹色の菫の種についてもお話したドラゴンでした。
「奇麗だよね」
「あんたも知ってるのね」
「実は僕お花が大好きでね」
「お家の中で飾ってるの」
「花壇を持ってるんだ」
 お家の中にというのです。
「それでその中になんだ」
「虹色の菫もあるの」
「そうなんだ、あそこから貰ったんだ」
「そうだったの」
「それでいつも見ているよ」
「あんたもあのお花好きなの、それで私もね」 
 ビリーナも自分の事情をお話します。
「私の国に飾りたいの」
「それはいいことだね」
「色々な奇麗なお花を飾ってるけれどね」
「あの菫もだね」
「飾りたいの」
 そうだというのです。
「だからよ、手に入れるわ」
「よくわかったよ、じゃあ僕はこれでね」
「ええ、また機会があったら会いましょう」
「その時はまた宜しくね」
「お肉ご馳走するわね」
 笑顔で、でした。トロットもドラゴンに言うのでした。
「その時はまた」
「今度は皆で食べようね」
「生肉を?」
「いやいや、君達は調理したのを食べたらいいよ」
 そうしたお肉をというのです。
「僕は生肉だけれどね」
「私達はステーキやシェラスコを食べて」
「お肉を食べることは同じだからね」
 それでというのです。
「そうしようね」
「じゃあまたお会いした時はね」
「またね」
 こう笑顔でお話してでした、そしてでした。
 ドラゴンは皆と笑顔で別れて穴の中に戻りました、そして穴をすぐに埋めてから姿を消したのでした。それからです。
 ビリーナは皆にです、再び言いました。
「それじゃあね」
「今からね」
「いよいよ種を手に入れるわよ」
「何かそう言われると」
 ナターシャはビリーナの今の言葉を聞いて頷きました、そのうえでの言葉です。
「本当にいよいよね」
「ナターシャもそう思うでしょ」
「貴女の国に行ってね」
「それで地下に入ってね」
「エルフ族とドワーフ族の揉めごとも終わらせて」
「カリフ王ともお話してね」
 ノーム族の王様のです。
「色々あったわね」
「オズの国らしいわね」
「オズの国はね」
 それこそと言うのでした。
「いつも言ってる通りいつも何かある」
「そうしたお国だから」
「今回の冒険もいつも通りよ」
「色々とあったのね」
「むしり何もなくてスムーズに目的まで達することが出来たらうれしい?」
「そう言われると」
 ナターシャも言います。
「あまりね」
「そうでしょ、目的地まで色々あってこそよ」
「面白いのね」
「それが世の中ってものでね」
「オズの国なのね」
「そう、オズの国は特にそうなのよ」
 まさにというのです。
「何かがある国なのよ」
「それで楽しいのね」
「そういうことよ、そのこれまでのことを楽しく思い出しながら」
 そしてというのです。
「種を手に入れるわよ」
「それじゃあね」
「今から行きましょう」
「それならね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆はあらためて前に進みました、すると。
 広場に出てそこはでした、一面虹色の菫が咲いていました。皆はその菫達を見て満面の笑顔になりました。
 そしてナターシャ達五人もです、笑顔で言うのでした。
「凄く奇麗ね」
「普通の菫よりもね」
「香りもよくて」
「華やかで」
「こうして見ているだけで幸せになれるわ」
 五人で笑顔でお話します、そしてです。
 五人にです、ビリーナは言うのでした。
「私が自分の国に飾りたいって言う理由もわかるでしょ」
「ええ、それじゃあよね」
「そう、これからね」
 まさにというのです。
「種を手に入れるわ」
「それで種は何処にあるの?」
「種は下にあるわ」
「下に?」
「そう、お花が咲いてそこから種が落ちるの」
「そういえばここには」
 キャプテンは広場全体を見ました、すると。
 広場にはお花だけでなくです、蝶々達もいます。その彼等を見てわかったのでした。
「成程ね、花粉をつなげているんだね」
「そうよ、お花は蝶々や蜂がいてこそでしょ」
 ビリーナもキャプテンに応えます。
「それで種も出来て」
「その種を撒けば」
「後は芽が出てお花が咲くのを待つだけよ」
「そうなのね」
「ちなみにお水も必要だけれど」
 ビリーナは今度は上も見ます。
「上からお水も出るから」
「地下水ね」
 今度はトロットが応えます。
「そうなのね」
「ええ、そうよ」 
 まさにというのです。
「だからここは快適なのよ」
「何か不思議な場所ね」 
 ナターシャがこう言いますが。
 ですがそれでもです、ナターシャはすぐにこうも言いました。
「オズの国ってことね」
「ここもね」
「地下だけれどお花が咲いて蝶々がいてお水も降る」
「オズの国だからよ」
「こうしたこともあるのね」
「そう、じゃあ今からね」
「種を手に入れて帰るのね」
 振り返りもした恵梨香でした、これまでの道を。
「そうするのね」
「そう、いいわね」
「ええ、種を手に入れてから」
「そうするわよ」
 こうお話してでした、そのうえで。
 ビリーナは種を二十粒位拾って言うのでした。
「これでいいわ」
「二十粒位拾ったわね」
「ええ、これだけあればね」
「いいのね」
「後はこの種からね」
「芽が出て」
「お花が咲くのよ、そしてね」
 さらに言うビリーナでした。
「そのお花達からよ」
「また種が生まれて」
「芽が出てね」
「お花が咲いていくのね」
「増やしていくのよ」 
 そのお花達をというのだ。
「これからね」
「そうするのね」
「ええ、そうよ」 
 まさにというのです。
「これからね」
「そのことも楽しみなのね」
「凄くね」
 ただ楽しみであるだけでなく、というのです。
「そのこともね」
「お花を増やしていくことも」
「だってお花は増えていくものでしょ」
「それはね」
 ナターシャもそうだと答えます。
「種からね」
「だからよ、これだけ持って行ってね」
 二十粒程をです。
「後は増やすわよ」
「ビリーナってお花を咲かせることも得意なんだよ」
 ここでキャプテンもお話します。
「凄くね」
「あっ、そうなんですか」
「種を食べるだけじゃなくて」
「芽を出させてですか」
「咲かせることもですか」
「得意なんですか」
「そうなんですね」
「そう、これがね」
 実はというのです、五人の子供達にもお話します。
「だから二十粒あればね」
「後は、ですか」
「咲かせるんですね」
「それでその種もですか」
「目を出させて」
「そしてお花を咲かせるんですね」
「そうするからね」
 だからというのです。
「これだけあれば充分だよ」
「ではこれからね」 
 また言ってきたビリーナでした。
「帰りましょう」
「帰り道も何かあるかも知れないけれど」
「そっちも楽しんでいくわよ」
 ガラスの猫とトロットも言います。
「オズの国は山も谷もあるけれど」
「それも動く山や谷だけれどね」
「乗り越えていくわよ」
「楽しくね」
「それじゃあ行きましょう、元来た道を戻ってね」
 そうしてというのです。
「それで帰りましょう」
「帰り道も任せてね」
 ビリーナはそちらもと言うのでした。
「私はそっちもちゃんと頭に入っているから」
「ビリーナって本当に頭がいいわね」
 恵梨香はビリーナの自信に満ちた言葉に感心した様に言いました。
「頭が切れて記憶力もあって」
「その頭が私の武器の一つだからね」
「度胸と」
「そうよ、決断力もね」 
 この三つがというのです。
「私の武器だからね」
「そっちにも自信があるわよ」
「記憶力にも」
「オズの国で一番の頭脳はかかしさんにあるけれど」 
 それでもというのです。
「私はその次位にいいから」
「それで自信があるの」
「そうよ、じゃあその私の頭を頼りにしなさいね」
「わかったわ、じゃあ案内もお願いね」
「種はどうして収めるの?」
 このことをです、トロットはビリーナに尋ねました。
「それで」
「ええ、羽根の中にね」
「入れたのね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「安心してね」
「貴女の羽根はポケットなの」
「ええ、言うならばね」
「収めたら落ちないの」
「丁度そうした場所が幾つかあるのよ」
「便利なものね」
「実際に重宝してるわ」
 その羽根のことはというのです。
「お陰で持ち運びも出来ているから」
「種も他のものも」
「そう出来ているからね」
「何なら種は私が持っていてもよかったけれど」
「それには及ばないわ」
 持ち運びについてはというのです。
「もうね」
「じゃあね」
「そういうことでね」
「持ち運びが安全なら」
 それならとです、また言ったトロットでした。
「後は安全に帰るだけね」
「そうよね」
「そう、だったらね」
 それならというのでした。
「安全第一で行きましょう」
「皆揃ってね」
「そのことは当然よ」
 言うまでもないと答えたビリーナでした。
「皆で笑って帰るわよ」
「迷子にもならずに」
「そうして」
 ガラスの猫とエリカも言います。
「笑顔で帰って」
「後は種を撒くのね」
「そうするわよ」
「ただ、鶏の国まで帰るにしても」
 ここで言ったのはナターシャでした。
「何日かかかるわね」
「そうね、けれどね」
「その数日の旅もなのね」
「楽しんでいくわよ」
「それじゃあね」
「そうしていくわよ」
 ビリーナはここでもナターシャに自信に満ちた声で言いました、そしてでした。
 皆で歩いて帰りはじめました、ですが。
 帰り道は何もなく休んだりしながら進んでいきます、思った以上に平穏なのでトロットがこんなことを言いました。
「平和ね」
「ええ、何もないわね」
「これといって誰にも会わないし」
 ビリーナにお話します。
「何か起こるって思って歩いてね」
「一日経ったけれどね」
「何もないわね」
「こんな旅も珍しいわね」
「普通帰り道も何か起こるから」
 オズの国の冒険はです。
「ちょっと拍子抜けよ」
「まあそう言うとね」
「そしてこう言うとね」
「何かあるのよね」
「大抵ね」
 こう笑って言うのでした。
「そうなるのよね」
「そうね、だからね」
「心構えはしておきましょう」
「そうね」
 こんなお話をしているとです、いきなり。
 皆の前にいきなりでした、ぼこんとした勢いで。
 大きなモグラさんが出てきました、最初に出会ったモグラさんの何十倍もある熊みたいな大きさのモグラさんでした。
 そのモグラさんは出て来ていきなりです、こんなことを言いました。
「お腹空いたなあ」
「何よ、あんた」
 エリカがその大きなモグラさんに声をかけました。
「いきなり出て来て」
「あれっ、君は猫だよね」
「見ればわかるでしょ」
 これがエリカの返事でした。
「私は猫よ」
「そうだよね」
「お腹空いたって私を食べるつもり?」
「まさか、猫は食べないよ」
「そうよね、モグラは普通は」
「ましてやそっちの猫はね」
 ガラスの猫も見て言います。
「ガラスだから」
「食べないわね」
「うん、じっと見たらね」
「そういえばあんたモグラだから」
「目は悪いよ」
 見えてはいてもです。
「近くじゃないとよく見えないよ」
「そうよね」
「けれど君がガラスだってことはわかるから」
「それでなのね」
「食べられないってわかるよ」
「それは何よりね」
「というか僕が見たところ誰もね」
 トロットやナターシャ達も見て言うのでした。
「僕が食べられるものじゃないね」
「鶏も人間も食べないのね」
「僕は基本菜食主義なんだ」
 ビリーナにもお話します。
「人参やお芋が好きなんだ」
「お野菜がなのね」
「好きなんだ」
「それで今はお腹が空いてるのね」
「何かないかな」
 また言ったモグラさんでした。
「それじゃあ」
「それじゃあね」
 トロットはモグラさんのお話を聞いて言いました。
「私がテーブル掛けでお芋とか出してくれるわ」
「そうしてくれるの?」
「ええ、それで何が食べたいの?」
「お野菜なら何でもいいよ」
 モグラさんはトロットにすぐに答えました。
「それならね」
「何でもいいのね」
「うん、お野菜ならね」
「虫とかはいいのね」
「虫も食べるけれど」
 それでもと言うモグラさんでした。
「あまり好きじゃないんだ」
「菜食主義者だから」
「お野菜がいいね」
「じゃあ出すわね」
「出すのならね」
 ビリーナがここでトロットに言うことはといいますと。
「沢山出さないといけないわよ」
「モグラさんだから」
「そう、この人達は自分の身体の半分の量を食べるのよ」
「重さにしてね」
「ましてこのモグラさん熊みたいな大きさだから」
「尋常なものじゃないわね」
 トロットも言います。
「それなら」
「何百キロと出さないとね」
 それこそというのです。
「いけないわよ」
「わかったわ、それじゃあね」
 ビリーナの言葉に頷いてです、トロットはテーブル掛けを出しましたが。
 物凄い量の、それこそ山みたいな量の人参やジャガイモに薩摩芋、玉葱やピーマンそれに胡瓜と色々なお野菜を出しました。
 そのお野菜の山を見てです、モグラさんは満面の笑顔で言いました。
「これだけあればね」
「満足かしら」
「うん、お腹一杯になるよ」
「かなりの量があるけれど」
 ナターシャはそのお野菜の山を見てモグラさんに尋ねました。
「食べられるの?」
「大丈夫だよ」
 モグラさんはナターシャにも笑顔で答えました。
「残さず食べられるよ」
「これだけあったら」
 それこそとです、ナターシャが言うには。
「何ヶ月分かしら」
「かなりの量だよ」
 カルロスも言います。
「ナターシャの言う通り数ヶ月分はあるね」
「種類も多いしね」
 ジョージは人参もジャガイモも見ています。
「味も楽しめるね」
「そうだね、僕達は生ではあまり食べないけれど」
 神宝はお野菜のすぐ傍まで来ています。
「これだけあったらね」
「ナターシャの言う通り何ヶ月分はあるわよ」
 恵梨香はナターシャと同じ見方でした。
「これを一食でなの」
「うん、食べられるよ」
 モグラさんの返事は変わりません。
「じゃあ早速頂くね」
「ええ、どうぞ」
 トロットが笑顔で応えてでした、そのうえで。
 モグラさんはそのお野菜を食べはじめましたがあれよこれよという間にでした。 
 全部食べてしまいました、そうしてから皆に有り難うと一礼してから去りましたが。
 ナターシャも他の子達も驚いて言うのでした。
「あれだけあったのに」
「本当に食べたわね」
「全部ね」
「残さずに」
「食べちゃったね」
「モグラは一日に自分の体重の半分を食べるからね」
 キャプテンが驚いている五人にお話します。
「だからだよ」
「あれだけの量もですか」
「あのモグラ君は熊並の大きさだったからね」
 それでとです、ナターシャにもお話します。
「逆にあれだけの量でないとね」
「駄目なんですね」
「そうだよ、じゃあ我々はね」
「はい、あらためてですね」
「出発しよう」
「お昼になったら私達も食べるから」
 トロットは皆にこのこともお話します。
「そちらも楽しみにしておいてね」
「わかりました」
 ナターシャは笑顔で応えました、そのうえで皆で出発するのでした。



無事に種を取れるかと思いきや。
美姫 「まさかのドラゴンの登場ね」
だな。まあ、こちらは大きな問題もなく、通過する事ができたけれど。
美姫 「無事に種を手に入れる事もできたしね」
後は帰るだけと。
美姫 「次回も待っています」
ではでは。



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