『オズのビリーナ』




                  第三幕  ご主人を立てる将軍

 一行はすぐにエメラルドの都からマンチキンの国に入りました、ですがここで夕方になってしかも日が沈もうとしています。 
 その状況を見てです、トロットはキャプテンに尋ねました。
「もうお休みするべきかしら」
「それがいいね」
 キャプテンはトロットにすぐに答えました。
「それがね」
「やっぱりそうよね」
「うん、丁度近くに川もあるし」
「そこで身体を奇麗に出来るから」
「丁度いいよ」
 ここで今日はお休みにすることがというのです。
「もうね」
「それじゃあね、皆お休みにしましょう」
 トロットはナターシャ達にも二匹の猫にもお話しました。
「晩御飯を食べて身体も奇麗にして」
「それで、ですね」
「テントの中でお休みね」
「そうしましょう」
 ナターシャとエリカにも応えたトロットでした。
「ここはね」
「わかったわ、それじゃあね」
 ビリーナも応えます。
「今日は休みましょう」
「それで、だよね」
 ここでカルロスがビリーナに言いました。
「日の出と共にビリーナが鳴くのよね」
「鳴かないわよ」
 ビリーナはそのことは否定しました。
「私雌鶏だから」
「そうそう、朝に鳴くのは雄鶏でね」
 神宝がビリーナの言葉を聞いて皆に言いました。
「雌鶏は鳴かないんだよね」
「雌鶏のお仕事は卵を産むことで」
 ジョージはビリーナを見ながら言います。
「朝に鳴くことじゃないんだね」
「だからビリーナは朝は早起きでも」
 恵梨香はビリーナが日の出と一緒に起きることは知っています、それで言うのでした。
「鳴かないのね」
「そうよ、私は鳴かないから」
 このことを断るビリーナでした。
「覚えておいてね」
「わかったわ、それで卵だけれど」
 ビリーナは卵のことから言います。
「雛が生まれる場合とそうじゃない場合があるのね」
「そうよ、私は産み分けが出来るの」
「そうなのね」
「オズの国でそれが出来る様になったの」
 こうお話するのでした。
「私はね」
「そうなのね」
「雛が産まれる卵は食べないでね」
 そのことは断ったビリーナでした。
「絶対に」
「それはわかってるわ」
「というかそうした卵は今は産まないけれどね」
「じゃあ何処で産むの?」
「私の国で産む様にしているわ」
 そうしているというのです。
「今はね」
「そうなのね」
「王宮にいる時とかに産むのは雛がいない卵よ」
「じゃあ食べられるの?」
 エリカはビリーナにこのことを聞きました。
「その卵は」
「ええ、食べていいわよ」
 こうエリカに答えるのでした。
「好きなだけね」
「わかったわ、それじゃあね」
「ええ、何ならノーム王にぶつけてもいいわよ」
「ノーム王ってラゲドーさん?」
「今は別の人だったわね」
 実はノームの王様も代わっています。
「ラゲドーさんはオズの国の中で楽しく暮らしてるわよ」
「もう悪いことは考えないで」
「そう、幸せにね。けれどね」
「若し悪いことをしたら」
 その時はというのです。
「ぶつけてやればいいのよ」
「ノームは卵をぶつけたら死んじゃうから」
「そうすればいいのよ」
「そうなのね」
「その証拠にラゲドーさん私の国には絶対に近寄らないから」
「卵が一杯あるからね」 
 鶏は卵を産む、それ故にです。
「だからよね」
「そう、それでね」
「あの人絶対に近寄らないのね」
「あとね」
 さらに言うビリーナでした。
「ノームの人達自体がよ」
「近寄らないのね」
「そうなの、私達が大嫌いだから」 
 もう鶏自体がというのです。
「そうしてるの」
「よくわかったわ」
「けれど他の皆は来てくれるわよ」
「私達みたいに」
「そうよ、ただ悪いことは絶対にしないこと」
 このことは断りを入れたビリーナでした。
「いいわね」
「あんたの国の法律?」
「そうよ」
 その通りという返事でした。
「そこはちゃんと守ってね」
「わかってるわよ、ただね」
「目の前で動かれると」
「私は自然に前足は出るわよ」
 このことは自分でもどうしようもないというのです。
「猫だからね」
「猫の習性ね」
「そうよ」 
 まさにそうなってしまうというのです。
「このことはどうしようもないから」
「だから目の前で雛達が動かないで欲しい」
「本当に触らずにいられないから」
「それは私もよ」 
 ガラスの猫もでした。
「猫だからね」
「目の前で何かが動いたら」
「悪気がなくてもね」
 それでもというのです。
「前足が出るのよ」
「このことはどうしようもないのね」
「自分でもね」
「習性は難しいわね」
「何とかしようと思ったこともないけれど」
 ガラスの猫もエリカもです、二匹共そうしたことは積極的に変えようという性格ではないです。
「どうしようもないわよ」
「そうなのね」
「そうよ、だからあんた達で気をつけてね」
「仕方ないわね」
「猫はそうしたものってことでね」
「よくわかったわ、けれど」 
 また言ったビリーナでした。
「猫は外の世界じゃ鶏の天敵なのよね」
「ええ、猫は鳥も好きだから」
 エリカの言葉です。
「鼠やお魚と同じくね」
「だからね」
「けれど猫は満腹だと何もしないわ」
 それも一切というのです。
「目の前で動かない限りね」
「あんたいつも満腹だからね」
「美味しいキャットフードを食べてね」
「それでよね」
「ええ、あんた達を襲ったりしないから」
 目の前で動かれない限りはです。
「本当にね」
「じゃあいいわ、一緒に来てね」
「あんたの国にね」
「今からね」
「それじゃあね」
「しかし、あんたも変わったわね」
 エリカにこうも言ったビリーナでした。
「本当に」
「キャットフードを食べるから?」
「ええ、昔は魔法使いさんの子豚を狙ったりもしてたわね」
「それで騒動も起こしたわ」
「その頃と比べたら」
「キャットフードがオズの国にも入ってきてね」
 そしてというのです。
「変わったのよ」
「そっちの方が美味しいから?」
「そうよ、ずっと美味しいから」
 だからというのです。
「そちらばかり食べる様になったのよ」
「そうなのね」
「そうよ、他のものよりもね」
 キャットフードの方がというのです。
「お気に入りなのよ」
「そういうことね」
「だからね」
 それでというのです。
「あんた達は安心してね」
「目の前にいない限りは」
「まあ私はただ手が出るだけでね」
 ガラスの猫はといいますと。
「食べることもしないから」
「あんたはそうよね」
「私は食べる必要も寝る必要もないの」 
 そのどちらもです。
「何もしなくていいから」
「ガラスの身体だからね」
「この身体はそうした意味でもいいのよ」
 食べることも寝ることもしなくていいからというのです。
「休む必要もないから」
「幾らでも動けるわね」
「いざとなったらあっという間にエメラルドの都に戻れるわよ」 
 実際にそうして皆の危機を知らせたこともあります。
「困った時は私に行ってね」
「そんなに困ったことにならない様にするわ」
 そもそもと言ったトロットでした。
「私にしてもね」
「そこは安心してなの」
「そうよ」
 まさにというのです。
「ビリーナの国に行くまでもね」
「オズの国は何かと起こるからね」
 キャプテンも言います。
「それだけにね」
「用心してね」
「旅をしていかないとね」
「駄目よね」
「そう、何が起こっても的確に対処してね」
 そしてというのです。
「トラブルがない様にする」
「それが大事だよ」
「私も気をつけないとね」
「くれぐれもね」
「そこはね」
 こう二人でお話するのでした、トロットは今回の旅行はトラブルがない様に明るく楽しいものにしようと思っていました。
 そしてまずはです、テントを作りました。すると。
 そこで、です。トロットはテーブル掛けを出してそのうえで皆に言いました。
「じゃあ皆で食べましょう」
「今日は何を食べるか」
「それですね」
「ええ、晩御飯には何がいいか」
 それがというのです。
「今の問題よ」
「今夜は」
 ナターシャはトロットの言葉を受けて言います。
「青いものとか」
「マンチキンだから?」
「ちょっとこう思ったけれど」
 恵梨香にも答えます。
「どうかしら」
「青い食べものね」
「そう思ったけれど」
「じゃあマンチキンのお料理を出すの?」
「そうなるかしら」
「じゃあマンチキンのカレーとかお素麺とか」
 恵梨香は思いつくお料理の名前を出していきました。
「そういうのかしら」
「カレーとお素麺?」
「組み合わせとしてはおかしいわね」
「ちょっとないわよ」
 ナターシャもこう言います。
「どうもね」
「そういえばそうね」
「どっちも恵梨香の好きなものだけれど」
「そうだけれど」
「その組み合わせは止めましょう」
「そうね、わかったわ」
「今晩はどうしようかしら」
「お肉はどうかな」
 キャプテンは自分の好きなものを出しました。
「ステーキとか」
「あっ、いいわね」
 トロットはキャプテンのその提案に応えました。
「それじゃあ」
「うん、じゃあまずはビーフステーキだね」
「それとお野菜もよね」
「サラダはどうかな」
「レタスをメインにして」
 トロットはサラダについても考えていきます。
「人参やアボガド、ミニトマトに林檎もそれぞれたっぷり入れてヨーグルトをかけて」
「甘くだね」
「そうしたサラダはどうかしら」
「ボリュームのある感じの」
「そうしたサラダはどうかしら」
 白いヨーグルトをかけた、です。
「お野菜は細かく刻んでね」
「いいね、じゃあね」
「そのサラダにして。スープはシチューで」
 それにしてというのです。
「そっちもお肉にしようかしら」
「ビーフシチューだね」
「それがいいかしら」
「いいね、じゃあパンも出して」
「お魚はフライね」
「どのお魚をウライにするのかな」
「鰯かしら」
 そのお魚というのです。
「それがいいかしら」
「それじゃあね」
「全部出して」
 そしてというのでした。
「食べましょう、パンもデザートも出して」
「デザートは何にするのかな」
「プティングかしら」
 トロットが思いついたデザートはそちらでした。
「マンチキンのね」
「青い、ですね」
「ええ、ナターシャが今言ったから」
 青いものを食べたいとです。
「それでなのよ」
「有り難うございます、それでは」
「ええ、ではね」
「お願いします」
 ナターシャも笑顔で応えます。
「それじゃあ」
「そうするわね、青いプティングも美味しいのよね」
「そうですよね」
 そのマンチキンのプティングもです。
「色は普通のプティングとは違いますけれど」
「味はいいわね」
「はい、とても」
「どの勲位のプティングも美味しいでしょ」
「ウィンキーのものもギリキンのものも」
「カドリングのものも」
 勿論エメラルドの都ののものもです。
「美味しいわね」
「オズの国のものはどれも」
 どのお国のプティングもというのです。
「それにお菓子も」
「どれもね」
「はい、美味しくて」
 それでというのです。
「ですから」
「楽しみよね」
「とても」
 その青いプティングもというのです。
「何度食べても美味しいから」
「ではそのプティングを食べて」
「はい」
「楽しんで食べましょう」
「わかりました」
「今のオズの国はお料理も楽しんでるから」
 昔と違ってです。
「貴女達も楽しんでね」
「そうだね」
 ここでキャプテンも頷きます。
「昔のオズの国は違っていたね」
「ええ、食べることについてはね」
「すぐに済ませたりね」
「簡単だったわ」
「それが随分と変わったわね」
「色々なものを沢山食べるようになったわ」
「わしもだよ」
 キャプテンにしてもです。
「日本のものも中国のものも食べたり」
「そうなったわね」
「オズの国の食生活も変わった」
「それも豊かにね」
 昔よりも遥かにです。
「そうなったね」
「こうしたテーブル掛けも発明されて」
「よくなったよ」
「だからよね」
「そう、今晩も楽しもう」
「お夕食をね」
 こうお話してでした、皆で。 
 サラダやシチュー、ステーキにフライを食べていきます。パンもです。そして最後にデザートの青いマンチキンのプティングを食べますが。
 そのプティングを食べてです、ナターシャはにこりと笑って言いました。
「凄く甘くて美味しいわ」
「ええ、凄く甘いけれど」
 恵梨香も青いプティングを食べながら応えます。
「食べやすいわ」
「その両方が備わってるわね」
「そうね」
「もう一個食べられるかも」
「じゃあ食べる?」
 トロットはナターシャの今の言葉に微笑んで言ってきました、見ればトロットもプティングをとても美味しく食べています。
「もう一個」
「そうしていいですか?」
「テーブル掛けから幾らでも出せるから」
「だからですか」
「そう、どうかしら」
「それじゃあ」
「ええ、皆もどうかしら」
 トロットは他の四人とキャプテンにも尋ねました。
「プティングのおかわりは」
「はい、お願いします」
「このプティングもとても美味しいですから」
「もう一個出して下さい」
「おかわりを」
「わしもな」
 キャプテンも笑ってです、トロットに言います。
「もう一個貰おうかな」
「それじゃあ私ももう一個出すわ」
「そう、沢山食べないとね」
 ビリーナは自分の晩御飯の大豆を食べつつ言います。
「十分に動けないわよ」
「そうなんだよね、オズの国は飢え死にすることもないけれど」
 神宝はオズの国では誰も死なないことから言います。
「お腹が空くとね」
「それだけで動けなくなるからね」
 ジョージも言います、この辺りガラスの猫達と違うのです。
「僕達は」
「だから沢山食べて」 
 五人の中で一番の食いしん坊でもあるカルロスの言葉です。
「栄養もつけないとね」
「オズの国でもね」
 最後に恵梨香が言いました。
「しっかりと食べないとね」
「そうよ、皆いつもしっかりと食べるのよ」
 ビリーナの今の言葉はお母さんめいたものでした。
「いいわね」
「ええ、わかったわ」
 ナターシャが五人を代表してビリーナに応えます。
「そうさせてもらうわ」
「デザートもね、ただね」
「デザートだけでなくて」
「何でもしっかり食べるのよ」
 そうしないと駄目だというのです。
「いいわね」
「バランスよくなのね」
「そういうことよ」
「何でもバランスよく食べてこそ」
「よく動けるから」
 健康にというのです。
「デザートもお野菜もお肉もお魚もね」
「食べないと駄目よ」
「そうよ」
「よく言われるけれどその通りなのね」
「ええ、ただ私は人間とは身体の仕組みが違うから」
 鶏はといいますと。
「お豆や麦だけでいいけれど」
「そうよね、ビリーナ達はね」
 トロットがビリーナに応えます。
「お肉とかお魚は食べなくていいわね」
「そうよ、お豆とかで充分よ」
「そうなのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「私はそうしたのを食べるから」
「今みたいに」
「それで水浴びして寝るわ」
 こう言うのでした。
「私はね」
「私達もね」 
 ここでまた言ったトロットでした。
「御飯の後は男の子と女の子に別れて水浴びをして」
「歯も磨いてな」
 キャプテンも皆に言います。
「寝よう」
「わかったわ」
 こうしてでした、皆でです。
 御飯を食べてそして身体を奇麗にしてからテントの中でぐっすりと寝ました。そして朝になってお日様が出るとです。
 ビリーナはエリカにです、こう言いました。丁度エリカも起きたところです。
「朝よ」
「わかってるわ」
「もう結構起きてるのね」
「そうよ」
 まさにというのです。
「少し前に起きたところよ」
「そうなのね」
「じゃあ皆を起こして」
「ええ、私は鳴かないけれどね」
 雌鶏だからです。
「起こしてそして」
「朝御飯を食べてね」
「旅の再開よ」
 そしてです、二匹で皆を起こしてサンドイッチと野菜がたっぷり入った温かいスープの朝御飯を食べて出発しました。 
 暫く歩くとジンジャー将軍のお家が見えてきました、トロットはそのお家を見て微笑んで言いました。
「前に来た時と変わらないわね」
「ええ、そうね」
 ガラスの猫が応えます。
「このお家もね」
「一緒ね」
「お家も果樹園もね」
「変わっていないわ」
「そうよね」
「前に来た時は将軍ご主人にあれしてこれしてだったけれど」
「所謂かかあ天下だったわね」
 まさにそうだったのです、猫達から見て。
「そうだったけれど」
「そうよね、だから今もね」
「そうだと思うわ」
「将軍がご主人にあれこれと言ってる」
「そんな状況ね」
「あれだけ言われてご主人平気なのかしら」
 ガラスの猫はご主人のことを思って首を傾げさせるのでした。
「どうなのかしら」
「そうね、私だったらああまで言われてたら」
「嫌でしょ」
「そうなるわ」
「私なんかちょっと言われたらよ」
 ガラスの猫の場合はといいますと。
「すぐにぷい、よ」
「人の話はよね」
「強要は嫌なのよ」
「猫だからよね」
「猫は誰にも束縛されない生きものよ」
 そうだというのです。
「だからね」
「聞かないのね」
「そうよ」
 絶対にというのです、そうお話してです。
 ガラスの猫はあらためてです、皆に言いました。
「何はともあれね」
「ええ、将軍のお家に行きましょう」
 ビリーナも皆に言います。
「そうしましょう」
「将軍に挨拶しましょう」
 トロットも皆に勧めてでした、そうしてです。
 皆は将軍のお家の方に行きました、すると将軍は丁度ご主人と一緒にお庭の草刈りをしていました。そしてです。
 将軍は皆が来たのを見てです、お顔を上げて言ってきました。
「あら、トロット王女にキャプテンさんに」
「前に来た外の世界の子達だね」
 ご主人も顔を上げて言ってきました。
「そうだったね」
「はい、お久し振りです」
 五人はご主人そして将軍にここで挨拶をしました。
「お元気そうですね」
「僕は何時でも元気だよ」
 ご主人はにこにこと笑って言ってきます。
「この通りね」
「それは何よりだね」
「実はこれから皆を私の国に招待するの」 
 ビリーナもご主人にお話します。
「そうするの」
「そうなんだね、君の国に」
「それでその途中にね」
「うちに寄ってきてくれたんだ」
「そうなの」
 こうお話するのでした。
「寄る途中だったから」
「そういうことだね、じゃあ」
「ええ、お茶を淹れましょう」 
 将軍はご主人に笑顔で応えました。
「草刈の途中だけれど」
「ちょっとお休みしてね」
「お菓子持って来るわね」
「うん、頼むよ」
「皆どのお菓子がいいかしら」
 将軍は皆ににこりと笑って聞いてきました、マンチキンの農婦の服がとても似合う奥さんになっています。
「色々あるけれど」
「ううん、何でもいいです」
「将軍がお好きなのをお願いします」
「僕達は何でも頂きますので」
「将軍がお好きなのを」
「それをお願いします」
「わかったわ、じゃあクッキーやビスケットを持って来るわね」
 将軍は五人の言葉を聞いて笑顔で答えました。
「そうするわね」
「ええ、そうしてね」
 トロットも将軍に言います。
「貴女の好きなものをね」
「飲みものもそうしていいかしら」
「そうしてね」
「じゃあココアにするわね」
 将軍が今飲みたい飲みものはそれでした。
「それにね」
「それじゃあね」
「クッキーやビスケットは果樹園から持って来て」 
 そしてというのです。
「ココアは淹れるから」
「じゃあその間は」
「あなたがお相手してくれるかしら」
 将軍はご主人にお顔を向けて言いました。
「そうしてくれるかしら」
「うん、いいよ」
 ご主人は将軍に笑顔で応えました。
「それじゃあね」
「私はお菓子とココアを持って来るから」
 こうしてです、将軍が用意に入ってです。
 皆はご主人に案内されてお家に入りました、そして木造の広いお家の中のリビングでお菓子を待つ間楽しいお喋りに入りました。
 するとです、エリカはいきなりご主人に尋ねました。
「あんたいつも奥さんの言いなりね」
「そう言うんだ」
「だってそうでしょ」
 ぶしつけにです、エリカはテーブルの上にちょこんと座って自分の目の前にいるご主人に尋ねるのでした。
「奥さんああしろこうしろばかりでしょ」
「それは違うよ」
「違うの?」
「そう、違うんだよ」
 実はと言うご主人です。
「僕はいつも妻のアドバイスを受けているんだ」
「命令じゃないの」
「命令じゃないよ、だって果樹園に植えるものも御飯のメニューも家の仕事のことも全部僕が決めているんだよ」
「あら、そうなの」
「そう、妻はその決定に従ってくれているんだ」
「じゃああんたがお家のことを」
「全部ね」
 決めているというのです。
「妻はその決定にアドバイスはしてくれてもね」
「反対はしないの」
「僕を立ててくれているよ」
「全然そうは見えないわよ」
「実はそうなんだよ」
 このお家はというのです。
「結婚した時からね」
「ずっとそうなの」
「僕が気付かないこと、忘れていることをね」
「奥さんがフォローして?」
「言ってくれているんだ」
「ううん、そうなのね」
「かかあ天下と思っていたね」
 ご主人はくすりと笑ってエリカに聞き返しました。
「そうだったね」
「ええ、そうよ」 
 これまたはっきりと答えたエリカでした。
「あんた奥さんの尻に敷かれてるって思ってたわ」
「やっぱりそうなんだね」
「だって将軍はオズの国で大叛乱を起こした位の人で」
 そして一時はエメラルドの都の主になていました。
「物凄く気が強いじゃない」
「確かにしっかりしてるけれど」
「それでもなの」
「そうだよ、妻はとても優しくてね」
 気が強いのではなくしっかりしているというのです。
「いつも僕と家のことを気遣ってくれているんだ」
「それでなの」
「そう、いつも感謝しているんだ」
 まさにというのです。
「いい妻だよ、そしていい母親になるね」
「思っていたのと全然違うわね」
 ガラスの猫も言います。
「全然」
「ははは、君達が見ているのと僕が見ているのではね」
「別ものね」
「そうみたいだね」
「ここまで違うなんて」
 それこそとです、ガラスの猫が言うことはといいますと。
「別のお家を見ている気分よ」
「それがうちだけれどね」
「いつも奥さんに立ててもらってなの」
「幸せに過ごしているんだ」
 実際にというのです。
「助けてもらってね、一人でいる時よりも」
「今の方がなの」
「ずっと幸せだよ、最高にね」
「そうなの」
「そうだよ、そしてもうすぐね」
「奥さんがココアとクッキーを持って来てくれるのね」
「ビスケットもね、果物もね」
 ご主人が植えると決めたそれもです。
「皆妻が育ててくれているんだ」
「あんたを助けて」
「そう、僕が何を植えるか決めて」
 そしてというのです。
「育てるけれど」
「奥さんはしっかりとなのね」
「その僕を助けてくれてね」
「育ててるのね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「いつもね」
「成程ね」
「妻がいつも助けてくれていて、愛してくれているから」
「あんたは最高に幸せなのね」
「かかあ天下じゃないよ」
 奥さんに立ててもらっているというのです。
「亭主関白だよ」
「私と一緒ね」
 ここでビリーナがしっかりした声で二匹の猫に言ってきました。
「将軍ご主人を立ててるのよ」
「ううん、そうなのね」
「これが」
「この人嘘を言ってないわよ」
 ビリーナはご主人のこのことも指摘しました。
「本当のことを言ってるわ」
「少なくともこの人が思ってることね」
「私達にそれを語ってくれてるのね」
「そうよ」
 間違いなくというのです。
「私にははっきりとわかったわ」
「私も意外だったわ」
 トロットも言います。
「実は亭主関白のお家だったのね」
「そういえばお母さんお家でいつも言ってました」 
 オズの国に一番近い、オズの国にその状況を反映させるアメリカ生まれのジョージの言葉です。
「お父さんはいつも好き勝手するって」
「うちもです」
 中国生まれの神宝も言います。
「お父さんが何でも決めるってお母さん言ってました」
「うちもかな」
 ブラジル人のカルロスのお家の事情はといいますと。
「お父さん結構我儘かな」
「うちの場合は」
 日本の家庭、恵梨香の場合は。
「お父さんいつもお母さんの言う様にしている様で」
「何か何処もみたいね」
 ナターシャも言います。
「実はお父さん好き勝手してるのね」
「うむ、どうも」
 キャプテンも言います。
「家庭はそういうものらしいね」
「お父さんは、ですね」
「好き勝手やっていて家事もしない」
「家事はお母さんがするもので」
「どんなに忙しくてもな」
 お母さんはというのです。
「家事をしないといけない」
「それは絶対ですね」
「そう、そしてね」
「お父さんは会社とかでお仕事はしても」
「家では何もしないんだ」
「お母さんは会社のお仕事をしてもですね」 
 ナターシャもその辺りの事情はわかるのでした。
「家事をしないといけないんですね」
「そうみたいだね」
「お父さんはお家で好き勝手にしている横で」
「お母さんは働いているんだよ」
「お母さんの方がずっと大変なんですね」
「そうみたいだね」
「そう、僕は子供の時自分の家でね」
 ご主人がここでまた言ってきます。
「そういうのを見てきて」
「それでだね」
「はい、亭主関白はよくないと思ってますが」
「それがなんだね」
「妻はそうした性格でして」
 しっかりとしていてしかも優しいからというのです、将軍の性格が。
「僕はついついです」
「亭主関白になっているんだね」
「実はそうなんです」
「成程ね」
「もっと妻を大事にしないといけないですね」
「充分大事にしてません?」
 トロットはここまで聞いて腕を組んで言いました。
「そこまで考えてるなんて」
「そうかな」
「私はそう思いますけれど」
「だといいけれどね」
「はい、将軍も幸せだと思いますよ」
「実際にそう言ってくれてるけれどね」
 将軍もというのです。
「妻も」
「奥さんもわかってるんですよ」
「いや、どの家もこうなんだろうね」
「亭主関白ですね」
「そうじゃないかな」
 実はというのです。
「かかあ天下というよりは」
「そうしたものなのね」
「旦那さんの方が強いのね」
 エリカとガラスの猫も言うのでした、考えるお顔で。
「いや、本当にね」
「今日もいい勉強になったわ」
「僕を恐妻家だって思ってたんだね」
「文字通りにね」
「そう思っていたわよ」
 二匹はまたご主人に言いました。
「それが違っていて」
「大抵のお家がそうなのね」
「恐妻家じゃなくてかかあ天下」
「そうしたものなのね」
「そうだよ、じゃあもうすぐ来るよ」
 ご主人がこう言ったその時にでした、キッチンの方から将軍の声がしました。
「ココア入ったわよ」
「お菓子もだね」
「用意出来てるわ」
「じゃあお菓子は僕が運ぶよ」
 ご主人は席を立って将軍に言いました。
「君はココアを頼むよ」
「いつも悪いわね」
「いいよいいよ、夫婦じゃない」
 笑って応えたご主人でした。
「これ位はね」
「それじゃあお願いするわね」
「皆はここで待っていてね」 
 笑顔で、です。ご主人は皆にはこう言いました。
「すぐに持って来るから」
「いえ、じゃあ私達も」
「お手伝いします」
「いいから」
 それは笑顔で断るご主人でした。
「君達はお客さんだからね」
「お手伝いはですか」
「いいんですか」
「そこで待っていてね」
 こう言うのでした。
「そうしていてね」
「わかりました、それじゃあ」
「ここで待たせてもらいます」
「そうさせてもらいます」
「そうしてね、じゃあ持って来るよ」
 こうしてでした、ご主人は将軍のお手伝いをしてお菓子を持って来てくれました。将軍はココアをです。見ればクッキーやビスケット、そしてココアは。
 青いです、トロットはその青いココアとお菓子を見て言いました。
「マンチキンだからね」
「青いんですね」
「そうなの」
 まさにとです、ナターシャに答えます。
「そしてこの青い食べものを見るとね」
「マンチキンの国に来たとですね」
「実感出来るわ」
「この青がいいのよ」 
 持って来てくれた将軍も言います。
「マンチキンって感じで」
「将軍もそう思われてるんですね」
「そうよ」
 その通りという返事です。
「いつもそう実感しているわ、そしてね」
「そして?」
「結婚してマンチキンにいるってね」
 まさにというのです。
「実感出来るわ」
「そうなんですね」
「この人と一緒だって」
「僕もだよ」
 将軍にです、ご主人も笑顔で応えます。
「妻がこう言ってくれるからね」
「マンチキンで夫婦になっているって」
「思えるね」
「本当にね」 
 笑顔でお話します、そしてです。
 皆でそのココアとお菓子を飲みます、そのお味はといいますと。
「何度飲んでもね」
「妻が淹れてくれたココアは美味しいね」
「はい、とても」 
 トロットはご主人にも笑顔で答えました。
「美味しです」
「そうだね、じゃあどんどん飲んでね」
「そうさせてもらいます」
「お菓子も美味しいよ」
 キャプテンはクッキーやビスケットを食べています、青いそれを。
「甘くて適度な口ざわりでね」
「クッキー独特の食感がいいですね」
「かなり美味しいです」
「幾らでも食べられる感じです」 
 ジョージと神宝、カルロスも食べつつ言います。
「この青さがいいんですよね」
「マンチキンの色で」
「食欲をそそります」
「多分ね」 
 恵梨香も言うのでした、勿論食べながら。
「最初何も知らないでマンチキンに来たら何だって思ってたわね」
「青いお菓子はアメリカじゃ普通だよ」 
 ジョージはお国のことからお話します。
「ケーキとかでね」
「それは合成着色料だから」
 恵梨香はジョージのその言葉に難しいお顔で答えます。
「また別よ」
「赤かったり黄色かったり紫とかね」 
 神宝は他の国のこともお話しました。
「それぞれの色がはっきり出るからね、オズの国は」
「それで何も知らないでこの国に来たら」
 恵梨香達はオズの国のことはボームさんの本でもう知っていたのです、それで最初に来た時も全く驚いていなかったのです。
「どれだけ驚くか」
「食べなかったかな」
 カルロスはその美味しいクッキーを食べつつ言います。
「そうした子もいるかな」
「私はね」
 恵梨香はちょっと、という感じです。
「そうだったかも知れないわ」
「私もそうかもね」
 ナターシャは恵梨香と同じ意見でした。
「ちょっと以上に抵抗があったと思うわ」
「ロシアでもなのね」
「あまり鮮やかな色の食べものはね」
「合成着色料かと思って」
「抵抗があるわ」
 ナターシャとしてはというのです。
「けれど知ってるとね」
「こうして食べられるわね」
「普通にね、美味しいわ」
「どんどん食べて飲んでね」
 その青いココアを飲みつつ笑顔で言う将軍でした。
「それで気持ちよくビリーナのお国に行ってね」
「もう少し歩くわよ」
 そのビリーナの言葉です。
「楽しみにしていてね」
「夜はしっかりと寝てね」 
 エリカは猫らしくこちらにも興味を見せています。
「行くのね」
「私は大丈夫だけれどね」 
 ガラスの猫はそうした身体なのでその心配は無用です。
「けれどビリーナの国は楽しみね」
「楽しみにしておきなさい」
 ビリーナもクッキーやビスケットを食べています、そのうえでの言葉です。
「いい国だから」
「まあそこはわかってるわ」
「私達にしてもね」
 二匹の猫もこう返します。
「前にも行ったし」
「今回も楽しみにしているわよ」
「期待は裏切らないわ」
 胸を張って言うビリーナでした、見ればエリカもビスケットを食べています。食べていないのは何も食べる必要のないガラスの猫だけです。
「私はね」
「その期待応えてもらうわよ」
「応えさせてもらうわ」
 今も胸を張っているビリーナでした、そうしたお話をしながらです。一行は今は将軍のお家で楽しい時間を過ごしました。



特に問題もなくマンチキンの国に。
美姫 「ここで一泊ね」
だな。観光よりも食事って感じだったけれど。
美姫 「何はともあれ、何事もなくて良いじゃない」
確かに。このまま順調に進むのか。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



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