『オズのビリーナ』




                 第二幕  ドロシーの急用 

 楽しい夜を過ごして朝になってからです、ドロシーは皆と一緒に朝御飯を食べながらです。皆にこんなことを言いました。
「今朝はたっぷり食べましょう」
「はい、沢山食べてですね」
「出発ですね」
「マンチキンにあるビリーナのお家に」
「そうするからですね」
「沢山食べるべきですね」
「そうよ、長い間歩くから」
 それでとです、ドロシーは言うのでした。
「栄養を補給しておきましょう」
「わかりました、この朝御飯ですと」
 カルロスはスクランブルエッグと焼いたベーコンを楽しんでいます。
「幾らでも食べられますね」
「本当にこの王宮のお料理は何時食べても最高ですね」
 神宝はトーストに苺ジャムをたっぷりと塗ってにこにことしています。
「お腹一杯になってもまだ食べられそうです」
「どんなお料理も美味しくて」
 ジョージはボイルドベジタブル、人参やブロッコリーにドレッシングをかけて食べています。
「ドロシーさんの言う通りに出来ますよ」
「新鮮ですし」
 恵梨香は食べやすい位にスライスされたオレンジやアップル、苺を甘いヨーグルトと一緒に食べています。今朝のお料理はビュッフェ方式で皆それぞれ好きなだけ食べています。
「美味しいですね」
「そう、皆バランスよく食べてね」
 栄養をとも言うドロシーでした。
「私もそうしてるし」
「うん、僕もそうしてるしね」
 トトはドロシーの足元で大きなお肉とミルクを食べています。
「沢山食べないとね」
「冒険に出てもすぐに動けなくなるから」
「そうなんだよね」
「だから皆で食べましょう」
「もう食べているわよ」
 エリカはキャットフードとミルクを食べています。
「この通りね」
「エリカは言うまでもないわね」
「ええ、この通りね」
 今もキャットフードを美味しそうに食べています、ドロシーに言われるまでもなく。
「食べているわよ」
「私はここで待っているわ」
 ガラスの猫は食べる必要がないのでただそこにいるだけです。
「皆が食べ終わるのをね」
「そうしていくのね」
「そうよ、この通りね」
「じゃあ待っていてね」
 ビリーナは今は生の麦を食べています。
「暫くね」
「身体を奇麗にしながらね」
「ここでもそうするのね」
「言ってるでしょ、私の身体は磨けば磨く程奇麗になるのよ」
 昨日自分で言ったことをビリーナにも言うのでした。
「だからね」
「そうするのね」
「そうよ、今もね」
 自分でその自分の身体を磨いて奇麗にするというのです。
「そうするのよ」
「そうなのね」
「それでね」
 また言ったガラスの猫でした。
「ピカピカになってから冒険に出発するわよ」
「あら、私も負けないわよ」 
 エリカはガラスの猫に今朝もライバル心を向けました。
「この通りね」
「奇麗になったっていうのね」
「今朝も朝早く起きてお風呂に入れてもらってね」
 王宮の侍女の人で早朝に当直が入っている人にです。
「ブラッシングまでしてもらったのよ、香水までかけてもらってね」
「だからなの」
「そう、今の私は最高に奇麗よ」
 誇らしげに胸を張っての言葉です。
「あんた以上にね」
「言うわね、それはまた」
「事実だからよ、あんたには負けていないわよ」
「あんたはきらきらしてないじゃない」
 ガラスみたいにというのです。
「そしてハートや脳も見えないでしょ」
「そう言うあんたはふさふさしてるの?」
 エリカはここでも負けじと返します。
「私みたいに。香りはするかしら」
「だからあんたの方が上っていうのね」
「そうよ、きらきらしててもハートや脳味噌が見えていても」
 それでもというのです。
「ふさふさしてないし香りもないし」
「負けるっていうのね」
「私にはね」
「何か」
 ナターシャはソーセージを食べながら言いました、二匹を見つつ。茹でたソーセージはとても美味しいものです。
「どっちも同じだけね」
「奇麗っていうの?」
「ナターシャはそう言いたいの?」
「ええ」
 その通りという返事でした。
「どう聞いてもね」
「あら、そうかしら」
「私の方が奇麗でしょ」
「私の方が奇麗じゃない」
「どっちも同じだけじゃないわ」
「だって。ガラスの猫はガラスの身体が綺麗でハートや脳も見えて」 
 赤い宝石みたいなそれがです。
「エリカは毛と香りもだから」
「同じ位っていうの」
「どっちがどっちとは言えないの」
「そう思うわ」
 また二匹に言いました。
「というかそうとしか思えないわ」
「そうだよね、僕達にしても」
「同じだけだよ」
「ナターシャと同じだよ」
「そう思えるわ」
 ナターシャ以外の四人もこう言います。
「ガラスの猫もエリカも奇麗で」
「同じだけね」
「そもそもガラスも毛皮も違うから」
「どっちがどっちとは」
 言えないというのです、そして。
 ドロシーもです、こう二匹に言いました。
「毛皮と宝石の価値はそれぞれ違うでしょ」
「確かにそうね」
「そう言われるとね」
 二匹はドロシーに言われて応えました。
「違うわね」
「どうにもね」
「毛皮と宝石だと」
「また違うわ」
「それは貴女達も同じよ」
 二匹の猫もというのです。
「どっちがどっちとは言えないわ」
「そうなのね」
「そこは違うのね」
「それでなのね」
「優劣はつけられないのね」
「そんなことをしても意味がないから」
 だからというのです。
「言い合う時間があったら寝たり遊んだりした方がいいわよ」
「喧嘩をするよりも」
「それがいいの」
「そうなのね」
「それよりも」
「その方がずっといいわ、時間は楽しむ為にあるから」
 だからというのです。
「止めておくべきよ」
「わかったわ、じゃあね」
「私達も張り合うのは止めるわ」
「私は私、ガラスの猫はガラスの猫」
「同じ猫でエリカとは違うってことで」
「そういうことでね、じゃあ朝御飯も食べて」
 また言ったドロシーでした。
「そしてね」
「出発ね、私の国に向かって」
「ええ、私も貴女の国には立ち寄ったことがあるけれど」
 ドロシーはオズの国のあらゆる場所に行ったことがあるのです、オズの国きっての冒険家でもあるからです。
「いい場所よね」
「そういえば何度か案内したわね」
「そうよね」
「それでその都度楽しく過ごしたわね」
「ええ、とてもね」
 にこりと笑って答えるドロシーでした。
「いい時間だったわ」
「だから今回も」
「楽しく過ごさせてくれるのね」
「そうするわ」
 こう笑顔で答えてでした、ドロシーは。
 皆と一緒に朝御飯を楽しく食べてでした、それから。
 食べ終わった皆にです、満面の笑顔で言いました。
「じゃあこれからね」
「はい、出発ですね」
「いよいよですね」
「そうしましょう、途中ジンジャー将軍のお家や王立大学にも寄れたら」
 その時はというのです。
「寄りましょう」
「王立大学ですか」
 王立大学の名前を聞いてです、ナターシャはふと言いました。
「ジンジャー将軍のお家にお邪魔したこともありますけれど」
「貴女達あそこにも行ったわね」
「はい、ですから」
 それでというのです。
「懐かしいですね」
「そうよね」
「あそこで皆で遊んで」
 そしてというのです。
「一緒にいたボタン=ブライトが急にいなくなって」
「あの子はいつもそうなのよね」
「そうですよね」
「いつも急に出て来てね」
「急にいなくなりますね」
「そうした子なのよ」
 このことはドロシーもとてもよく知っていますy。
「不思議な子よね」
「オズの国の人達の中でも」
「そう、けれどね」
 それでもというのです。
「それがいいのよね」
「神出鬼没なところも」
「寝ていながら」
「そう、寝ている間に動いている子なのよ」
 ボタンは全然動いていないけれどです。
「だから今もね」
「寝ながらですね」
「オズの国の何処かにいるわ」
 寝ながら移動してです。
「そうしているわ」
「そうですね、じゃあひょっとしたら今回も」
「あの子に会うかも知れないわね」
 全くのイレギュラーにしても、というのです。そうしたことをお話しながらいざ出発しようとするとです。
 皆のところにです、オズマが来てでした。
 ドロシーの姿を見付けるとです、早速彼女に声をかけました。
「あっ、ここにいたのね」
「あらオズマ、どうしたの?」
「実はウィンキーの国で大変なことが起こってね」
「大変なこと?」
「ちょっと竜巻が起こって」
 それでというのです。
「田畑を元に戻すのに私が行くことになって」
「木樵さんやかかしさんのお手伝いで」
「私は魔法が使えるから」
 だからというのです。
「魔法で元に戻せるでしょ」
「ええ、そうね」
「それで私が行って魔法使いさんにも連絡をしたから」
「二人でなのね」
「ウィンキーの国に行くけれど」
 それで、というのです。
「その間王宮に暫くお客さんが一杯来るから」
「その応対になの」
「こうしたことは貴女が一番得意だから」
 オズの国で最もお友達が多いドロシーがです。
「私がいない間留守を頼みたいけれど」
「ちょっと待って、ドロシーはこれから冒険に行くのよ」
 エリカがオズマに彼女の足元から言いました。
「だからね」
「そうなの」
「ええ、だからね」
「それは困ったわね」
「いえ、そうした事情なら」
 是非にとです、ドロシーから言いました。
「私は残るわ」
「そうするの」
「王宮にはいつも誰かがいないといけないから」
「特にお客さんが多い時はっていうのね」
「オズマがいないならね」 
 それならというのです。
「私が残るのが一番だから」
「それでなのね」
「私が残るわ」
「わかったわ、けれどね」
 エリカはドロシーのしっかりとした考えを受けて頷きました、ですがそれはそれでとさらに言うのでした。
「ビリーナのお国に一緒に行く娘は誰にするの?」
「そうだよね、僕はドロシーといつも一緒だからね」
 ここで言ったのはトトでした。
「僕も残るしね、王宮に」
「この娘達とビリーナ、私達二匹の猫だけだとね」
「不安があるよね」
「何かあった時オズに精通している人か大人がいないと」
「そうだよね」
「だから誰かいないかしら」
「それなら」
 すぐにです、オズマが答えました。
「トロットとキャプテン=ビルさんはどうかしら」
「その二人?」
「そう、二人とベッツイも王宮に残るけれど」
「二人ならっていうのね」
「最近冒険に出ていなかったから」
「いいっていうんだね」
「丁度冒険に行きたいって言ってたし」
 そのこともあってというのです。
「いいと思うわ」
「じゃあ二人を呼んで」
「この子達と一緒に冒険に行ってもらいましょう」
「オズの国の冒険は何があってもおかしくないから」
 何時何が起こるかわからない、それがオズの国なのです。
「だから付き添いが必要だしね」
「じゃあ二人に声をかけるわね」
「そうしてくれるのね」
「この子達の冒険は妨げてはいけないわ」
 オズマはこう言うのでした。
「冒険はオズの国では最も貴重なものの一つだからね」
「だからなんですね」
「僕達は今回も冒険に行っていいんですね」
「ドロシーさんに急用が出来ても」
「それでもなんですね」
「行ってもいいんですね」
「そうよ」
 にこりと笑っての返事でした。
「だから一緒に行くといいわ」
「トロットさん達とですね」
「トロットと一緒に冒険に行ったことはあったと思うけれど」
 オズマはナターシャにお話しました。
「あまり多くはなかったわね」
「そういえばそうですね」 
 ナターシャも言われて気付きました。
「私達トロットさんと一緒の冒険はそんなに多くなかったです」
「それなら余計によ」
「トロットさん、そしてキャプテンさんとですね」
「一緒に行くといいわ」
「わかりました、それじゃあ」
「すぐに二人も呼ぶわね」
 トロット、そしてキャプテンをというのです。
「そうするわね」
「お願いします」
 こうしてです、オズマはすぐにトロットとキャプテン=ビルを呼びました。二人に事情をお話するとです。
 トロットは笑顔になってです、オズマに応えました。
「有り難う、冒険に行きたくて仕方なかったのよ」
「そうよね」
「そろそろね」 
 それでというのです。
「私とキャプテンで行こうと思っていたけれど」
「丁度いい機会だったのね」
「じゃあ行かせてもらうわね」
「わしもな」
 キャプテンも笑顔で応えます。
「そろそろと思っていたしな」
「それなら」
「行かせてもらおう」
「それじゃあね、五人をお願いね」
「わしでいいかな」 
 キャプテンはナターシャ達五人にお顔を向けて尋ねました。
「わしと一緒に冒険に行くか」
「はい、お願いします」
「トロットさん、キャプテンさんと一緒に冒険に行ったことは少なかったですし」
「是非一緒に行きましょう」
「楽しく行きましょうね」
「冒険に」
「そうしような、ではビリーナ」
 キャプテンはビリーナにも声をかけました。
「宜しくな」
「こちらこそね、では出発ね」
「私はすぐにウィンキーに向かうわ」
 オズマは皆に言いました。
「まずは木樵さんのお城に行くから」
「そう、実はね」
「僕達が迎えに来たんだ」
 ここでブリキの木樵とかかしも来ました。
「急なことだからね」
「飛行船で都まで来たんだ」
「もう竜巻が国中を吹き荒れていて」
「魔法じゃないとどうしようもない状況なんだ」
「それでなの」
 オズマは二人の言葉も受けつつ皆にお話します。
「今すぐに行くの」
「じゃあ留守は私に任せてね」
 ドロシーはそのオズマににこりと笑って言いました。
「ちゃんとやらせてもらうわ」
「それじゃあね」
「私はこの国の王女だから」
 オズの国で二番目に素晴らしい人なのです、オズマに次いで。
「だからね」
「オズマの留守もオズマの言葉通りにしてみせるわ」
「じゃあお願いね」
「うん、ドロシーなら出来るよ」
「僕達は確信しているよ」
 かかしと木樵はそのドロシーに笑顔で言いました。
「何しろこのオズの国でも屈指の人気者でね」
「誰からも愛されている娘だし」
「しかもオズの国きっての社交派でもある」
「問題はないよ」
「有り難う、ただお客様達に失礼や不愉快がない様に気をつけるから」
 油断も慢心もしないドロシーです、ですからこうしたことは最初から頭に入れているのです。この辺りの頭のよさも備えている娘なのです。
「そのこともね」
「ではベッツイやジュリアがいるから」
 オズマは二人の少女も紹介しました。
「その娘達の助けも借りてね」
「ええ、やっていくわ」
「そうしてね」
「ではね」 
 ドロシーは今度はオズマ達とナターシャ達両方に言いました。
「行ってらっしゃい」
「ええ、私達はウィンキーに行って」
「私達はマンチキンに行きます」
 オズマとナターシャがそれぞれドロシーに応えました。
「そしてその間はね」
「待っていて下さいね」
「そうするわ、じゃあ早速」
 ドロシーはにこりと笑ってです、今度はトトに言いました。
「お仕事の用意をしましょう」
「うん、ジュリアに聞いてね」
「あの娘は王宮のことなら何でも知ってるから」
「お仕事のことも教えてくれるからね」
「だからね」
「まずは、だね」
「ええ、あの娘とお話をして」
 そしてというのです。
「どうしてやっていくか決めましょう」
「そうしようね」
「まずは事前の打ち合わせよ」
 お仕事をするにあたってこのことが大事だというのです。
「あらかじめ何をするのかわかっていればすぐに動けるし」
「動きもスムーズだしね」
「いいからね」
「だからだね」
「まずはジュリアにお話を聞きましょう」
「ベッツイと一緒にね」
「ええ、ベッツイも呼んで」
 ドロシーと一緒に王宮に残ることになる彼女と、というのです。
「そうしましょう、ただもうベッツイは戻ってるのかしら」
「ベッツイが戻るのは明日よ」
「そうなの」
「だからまずは貴女が聞いてね」
「次にベッツイが聞くのね」
「そうすればいいから」
「だからね」
 まずはというのです。
「そうして三人でやっていってね」
「わかったわ」
「あとチクタクもいるし」
 彼もというのです。
「今はギリキンに行ってるけれど」
「明日戻ってくるわね、チクタクも」
「そう、だからね」
「チクタクにも助けてもらって」
「やっていってね」
「一人で無理な時は皆でやる」
「それが大事だからね」
 かかしと木樵がまた言ってきました。
「三人寄ればというしね」
「皆でやっていけば余計にいいよ」
「ドロシーはそうしたことも出来るからね」
「安心してやっていってね」
「ええ、じゃあまずはジュリアにお話を聞くわ」
 こう言ってでした、そしてです。
 ドロシーは早速王宮で留守を守る用意をはじめました、そのうえでウィンキーに行くオズマ達とマンチキンに行くナターシャ達に挨拶をしました。
 ナターシャ達はビリーナの案内を受けつつマンチキンにある彼女の国へ行く道を歩きはじめました。その道中で。
 トロットがです、皆に言いました。
「魔法のテーブル掛けは私が持ってるから」
「だからですね」
「食べることはですね」
「何の心配もいらないわ」
 そうだというのです。
「あとテントも持ってるから」
「だから安心して旅をしよう」
 キャプテンも皆に言います。
「今回の旅も楽しくな」
「やっていきましょう、それと」 
 さらに言うトロットでした。
「皆はビリーナの国に行ったことはないわよね」
「私はあるわよ」
「私もね」
 ガラスの猫とエリカはこうトロットに答えました。
「それも何度もね」
「あの国に行ったことがあるわ」
「オズの国にいたから」
「ちゃんとあるわよ」
「私達ですね」 
 ナターシャがトロットに応えました。
「つまりは」
「ええ、これまでなかったわよね」
「はい、なかったです」
 実際にとです、ナターシャはトロットに答えました。
「だから楽しみです」
「じゃあ楽しみにして行きましょう」
「マンチキンの国には行ったことがありますけれど」
「それでもです」
 ジョージと神宝もトロットにお話します。
「ビリーナの国にはまだです」
「行ったことがありません」
「だからどんな国か」
 カルロスも言います。
「興味があります」
「はじめてですけれど」
 最後に恵梨香がトロットに聞きました。
「楽しみです」
「楽しみにしてないと駄目よ」 
 先頭を行くビリーナは皆の方を振り向いて言いました。
「そこは」
「絶対になのね」
「そうよ、だって私の国なのよ」
 だからだというのです。
「楽しくない筈ないじゃない」
「そう言うのね」
「そうよ、私の子供達と孫達がいて」
 そしてとです、さらにお話したビリーナでした。
「子孫達がさらにいるのよ」
「ビリーナの」
「私と夫のね、鶏に必要なものは全部あるし」
 それにというのです。
「鶏を脅かす存在がないのよ」
「鶏にとっての楽園なのね」
「そうよ」
 まさにというのです。
「あんないい場所はないのよ」
「そうなのね、けれど」
「けれど?」
「貴女達にとっては楽園でも」
 ナターシャは目を瞬かせてからビリーナに問い返しました、ナターシャ達五人は何時しかビリーナの周りにいます。
「私達にとってそうかしら」
「人間にはっていうのね」
「ええ、どうなのかしら」
「楽しい場所に決まってるでしょ」 
 ビリーナはナターシャに今回もあっさりと答えました。
「それは」
「それはどうしてなの?」
「だって何も怖いものがなくてね」
「お国の中に」
「その周りにもね」
 一切、というのです。
「ないから」
「それでなんだ」
 ジョージはビリーナのお話を聞いて言いました。
「僕達にもいい国っていうんだ」
「そうよ」
「何かこれまで狐さんの国とか巡ったけれど」
 神宝は前の冒険のことから考えます。
「そんな感じかな」
「そうだよね、オズの国には色々な国があるけれど」
 カルロスも考えつつ言います。
「そうした国々と一緒かな」
「ええ、カドリングに多いけれど」
 恵梨香も考えつつ言います。
「そうした国と一緒かしら」
「大体そうだな」
 キャプテンが五人に答えてくれました、一行は今は黄色い煉瓦の道を進んでいますがキャプテンの義足は何も問題もなく進んでいます。
「あの国も」
「やっぱりですね」
「狐さんの国とかと一緒ですね」
「オズの国の他の国と」
「それぞれの小さな国とですね」
「同じって思えばいいんですね」
「大体な、そう思ってくれると簡単だね」 
 キャプテンは五人にわかりやすくお話します。
「君達にとっても」
「まあそうね」
「言われてみればそんな感じね」
 ガラスの猫とエリカも言います。
「ビリーナの国もね」
「そうした国よね」
「鶏だけの国だから」
「そんな感じね」
「あら、違うわよ」
 ビリーナはキャプテンや猫達のお話に心外だといったお顔で返しました。
「それは」
「違うの?」
「そうだっていうの?」
「そうよ、私の国を他の国と一緒にしてもらったら心外だわ」
 こう言うのです。
「もっともっといい国なのよ」
「あら、じゃあどういった国なの?」
 ガラスの猫はビリーナの横に来て彼女自身に聞きました。
「私から見れば他のオズの国の中の国と一緒だけれど」
「鶏の鶏による鶏の為の国なのよ」
 だからという返事でした。
「それでよ」
「最高の国だっていうの」
「全てが鶏のことを考えて建国されてね」
「鶏が生きるのに相応しい国なの」
「そう、だからね」
「これ以上はなくなの」
「素晴らしい国なのよ」
 こう胸を張って言うのでした。
「私が知る限りで一番の国よ」
「成程ね」
「だからこうして自信を以て言うのよ」
「あんたいつも自信満々だけれどね」 
 こう言ったのはエリカでした。
「今はいつも以上ね」
「その自信の根拠がわかるでしょ」
「そう言われるとね」
 実際にと答えたエリカでした。
「あんたの国のお話だから」
「そうでしょ、じゃあいいわね」
「あんたの国はいい国」
「最高の国ね」
「だからっていうのね」
「来訪を楽しみにしていなさいってことね」
「そうよ、実際に私は楽しみにしているわ」
 胸を堂々と張ったままの言葉です。
「帰国にね」
「その途中にジンジャーさんのお家があるから」
 ここでトロットが皆に言いました。
「そこにも寄る?」
「あっ、ビリーナの国に行くまでにですか」
「あの人のお家もあるんですね」
「あの人のお家はマンチキンの西の方ですけれど」
「途中ですか」
「あの人のお家にも寄れますか」
「そうなの」 
 実際にとです、トロットはナターシャ達に答えました。
「だから寄る?」
「ジンジャーさんがいいっていうのなら」
「僕達もです」
「あの人とも馴染みになりましたし」
「最近お会いしてないですし」
「立ち寄れるなら」
「あの人はお客さん大好きだから」
 トロットはジンジャーのそのことからお話します。
「何時でも誰が来てもね」
「歓迎してくれるんですね」
「僕達でも」
「結構な人数ですけれど」
「それでもですか」
「笑顔で」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「行ってもいいのよ」
「それじゃあ」
 五人は一斉にです、トロットに応えました。そしてでした。
 トロットはあらためてです、皆に言いました。
「じゃあ途中ジンジャーさんのお家に寄りましょう」
「ええ、わかったわ」
 先導役のビリーナも答えます。
「それじゃあね」
「あの人にもお会いしましょう」
「さて、あの人は相変わらずかしら」
 ビリーナは前に向きなおって言いました。
「ご主人と一緒かしら」
「相変わらずのかかあ天下でしょうね」
 エリカの言葉はここでは少しシニカルでした。
「旦那さんを尻に敷いていて」
「うちとは違うみたいね」 
 ビリーナはエリカの言葉を聞いてこう言いました。
「うちは亭主関白だから」
「それ嘘でしょ」
「絶対に嘘でしょ」 
 エリカだけでなくガラスの猫もビリーナに言います。
「あんたの性格だとよ」
「絶対に旦那さん尻に敷いてるわよ」
「それだけ気が強いから」
「間違いないわよ」
「あら、そう言うのね」
「どう考えてもそうだから」
「あんたにしてもね」
 ジンジャー将軍、今はジンジャー夫人と同じくかそれ以上にというのです。
「まさに国の絶対者でしょ」
「旦那さんが逆らえない位の」
「それが違うのよ」
 まだ言うビリーナでした。
「私は夫を立てているのよ」
「そうかしら」
 トロットもビリーナの言葉に首を傾げさせます。
「ビリーナがそんな性格かしら」
「絶対に違うわよね」
「そうよね」
「ええ、私もビリーナとは長い付き合いだけれど」
 そのことからです、二匹の猫に言うのです。
「あまりというか全然ね」
「ご主人を立てるとかね」
「そうした性格じゃないわよね」
「どう考えてもかかあ天下」
「ご主人が可哀想な位に」
「そうとしか思えないわ」
 とてもというのです。
「私にしてみれば」
「そう言ってもお国に来ればわかるわ」
 ビリーナはこのことについても自信満々です。
「私がどれだけ夫を立てているのかをね」
「何かよく聞く言葉ね」
 ナターシャはビリーナの今の言葉に首を傾げさせました、そのうえで言うのでした。
「世間で」
「あら、そうかしら」
「自分では旦那さんを立てているつもりでもね」
「実はというのね」
「違うっていうのがね」
 多いというのです。
「そうした家庭は多いわよ」
「ナターシャはそうした家庭をよく見てきたの?」
「ロシアでは多いのよ」
「かかあ天下のお家が」
「そう、お婆さんが家を動かす国で」
「そのお婆さんがなのね」
「ご主人を尻に敷いていて」
 文字通りにというのです。
「物凄く強い力でお家を動かしているのよ」
「それ中国でもだよ」 
 神宝もお国のお話をします。
「恐妻家凄く多いよ」
「アメリカだってね」
 ジョージもお国のお話をはじめました。
「滅茶苦茶気の強い女の人多いから」
「旦那さんの立場弱いね」
「喧嘩をしても負けるしね」
「そんな風だから」
「ちょっとね」
「女の人ってそんなに怖い?」 
 カルロスは首を傾げさせつつ言います。
「僕そうは思わないけれど」
「お母さんも親戚のおばさんやお姉さん達も皆優しくて」
 恵梨香は自分の周囲のことから考えています。
「友達の皆もね」
「優しくて奇麗でね」
「いい人達ばかりじゃ」
「普段はそうでも怒ると違うじゃない」
「そう、その時はね」
「男の人より怖いから」
 ナターシャとジョージ、神宝は二人にこう返しました。
「そうした時を考えると」
「女の人は怖いよ」
「お家の中でもね」
「ううん、そうなのかな」
「私は瞥に」
 カルロスと恵梨香は三人に言われてもどうかというお顔でした。
「思わないけれど」
「そうよね」
「いやいや、そのことは人それぞれだよ」
 キャプテンはこれまでの人生から五人にお話します。
「怖い人や怖い場合もあれば」
「そうじゃない場合もある」
「そうなんですか」
「そういうものだよ、それに」 
 さらにお話するキャプテンでした。
「その人それぞれの主観があるからね」
「その人がどう思っているか」
「それによっても違う」
「ご主人を立てているのかも」
「そうしたこともですか」
「主観ですか」
「そうだよ」
 実際にというのです。
「だからね」
「一概には言えないんですね」
「奥さんが怖いっていうのも」
「そういうこともですか」
「ご主人もどう言うか」
「そういうことですか」
「同僚でいつも奥さんに言われてる人がいたけれど」
 キャプテンはアメリカにいた頃のお話もしました。
「これが本人によると違っていてね」
「亭主関白だったんですか」
「そう言っていたよ、好き勝手を通してるってね」
 こうナターシャ達に言います。
「これがね」
「そうなんですね」
「そう、これがね」
「そういうものですか」
「そうなんだよ」
「奥さんが言っている様に見えても」
「好き勝手していることもあるよ」
 そうしたケースもお話するキャプテンでした。
「これがね、ただ」
「ただ?」
「完全なかかあ天下の家もね」
 実際にというのです。
「あったりするからね」
「何かですね」
「一概には言えないんですね」
「傍から見ても」
「そうですね」
「中々はっきり言えないんですか」
「だからジンジャー将軍のお家もビリーナのお家もね」 
 どちらもというのです。
「傍からだとわからないよ」
「そうなのね」 
 トロットはビリーナを見ながらキャプテンに応えました。
「じゃあビリーナの言う通りに」
「そう、亭主関白かも知れないよ」
「そう言うとジンジャーさんのお家も」
「どうかわからないよ」
「そうしたものなのね」
「これがね」
「何ていうか」
 トロットはキャプテンの言葉から考えるお顔になって言うのでした。
「世の中って難しいわね」
「難しいというか面は一つじゃないというか」
「それが世の中なのね」
「そうだよ、一面だけを観てもね」
「ものごとはわからないのね」
「全部はね」
「そういうものなの」
 考えるお顔のまま言うトロットでした。
「家庭も」
「そうなんだよ、何でもね」
 家庭だけでなく、というのです。
「多面だよ」
「箱みたいに」
「むしろ箱よりも面が多いんだよ」 
 箱は六面ですが。
「六面だけとは限らないから」
「七面も八面もあったりして」
「数えきれないだけの面があることもね」
「あるのね」
「そうしたものだよ」
「成程ね、わかったわ」
 ここでやっと頷いたトロットでした。
「そうしたことが」
「そうね、それと」
「それと?」
「そうしたことは人もよね」
「何でもそうだよ」
 人も他の生きものもというのです。
「世の中にあるものは何でも多面なんだよ」
「私もキャプテンも」
「そうだよ」
 穏やかにお話をするキャプテンでした。
「一つじゃないんだ」
「そういうものなのね」
 トロットはキャプテンの言葉に考えるお顔になって頷きました。
「それでなのね」
「ビリーナのお家もね」
「本当に亭主関白かも知れないのね」
「そうだよ」
「私は絶対に嘘を言わないわよ」
 実際にビリーナは嘘を言うことはありません、それは彼女のプライドが許さないからです。それは絶対にしないのです。
「私の誇りに誓ってね」
「それは私も知ってるわ」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「夫は王様よ」
「貴女のお国の」
「私は女王でね」
「同列でもなのね」
「夫を立ててるのよ」
「貴女が思うにはなのね」
「そうなるわ、じゃあ行くわよ」 
 ビリーナは皆をあらためて先に先にと行かせます、自分が先導して。
 その時にです、ナターシャはお空を見上げて微笑んで言うのでした。
「この青いお空もいいのよね」
「オズの国のお空が」
「はい、ロシアだとどうしても」
 自分の横に来てくれたトロットにお話します。
「曇っていることが多いので」
「雪が多い国だから」
「冬が長くて」
「こうした青いお空はなのね」
「あまり見られないです」 
 特に冬はです。
「ですから」
「オズの国のお空も好きなのね」
「そうです、今は日本にいますけれど」
 留学して、です。
「日本のお空も好きです」
「ナターシャは青空が好きよね」
 日本人の恵梨香も言ってきました。
「いつも青空だと機嫌がいい位に」
「そうでしょ」
「ロシアではあまりないからなのね」
「そうなの、晴れることがね」
「それでなのね」
「好きなのよ」
「青空も普通にあるものじゃないのね」
 恵梨香はこのことも知ったのでした、ナターシャとのお話で。
「お国によっては貴重なのね」
「そうなの」
「よくわかったわ」
「アメリカもアラスカだとそうだね」
「中国だと四川かな」
 ジョージと神宝はそれぞれのお国のことを思い出しました、この二国にも青空になることが少ない地域があるみたいです。
「あそこは北極に近いし」
「四川はいつも曇ってるらしいからね」
「ブラジルは毎日決まった時間に降るんだよね」
 カルロスのお国はそうみたいです。
「スコールがね」
「ううん、雨が降ることはあっても神戸だと」
 どうかとです、恵梨香もお国のことから言うのでした。
「晴れが多いから」
「そうでしょ、その青空がね」
「ナターシャは好きなのね」
「雨が降っても」
 それでもというのです。
「青空になることが多いことは素敵なことよ」
「そうなのね」
「オズの国はいつも青空よね」
「だから余計になのね」
「私この青空が好きなの」
 見上げながらの言葉です、そのオズの国の青空を。
「ずっと見ていたい位よ、夜までね」
「夜になったら寝るわよ」
 ビリーナはこのことははっきりと言いました。
「いいわね」
「わかっているわ、それじゃあね」
「お日様が暮れるまで歩いて」
「それからよね」
「寝るわよ、いいわね」
「わかったわ」
 ナターシャはビリーナの言葉にも頷きました、そしてです。
 皆で東に向かって歩いていくのでした、緑の国から青の国へ。



ドロシーは行けなくなってしまったな。
美姫 「残念だけれど、仕方ないわね」
代わりにトロットたちが一緒に行く事に。
美姫 「どんな冒険になるのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。



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