『新オズの腹ペコタイガー』




               第一幕  幾ら食べても

 恵梨香達五人の少年少女はこの時もオズの国に来ていました、そのうえで今日はエメラルドの都の商店街で遊んでいます。
 一緒にいるトロットにです、恵梨香が言いました。
「あの、この都にも和食のお店あるんですね」
「ええ、出来たのよ」
 そうだとです、トロットは恵梨香にくすりと笑って答えました。
「この都にもね」
「そうなんですね」
「それでどうかしら」
 その緑の街の中で、です。トロットは恵梨香に尋ねました。
「これからそのお店に入る?」
「そうしていいんですか?」
「いいわよ、この国では誰もが何時でも好きな時に好きなものを食べられるわね」
「はい、そうですね」
「だからね、貴方達さえよかったら」
 恵梨香達五人がというのです。
「どの和食を食べてもいいのよ」
「どのお店でもですね」
「そうよ、じゃあ何を食べたいのかしら」
「ううん、そうですね」
 そのお話を聞いてです。恵梨香はといいますと。
 考える表情になってです、四人に尋ねました。
「皆和食食べたい?」
「お寿司?」
 最初に応えたのはジョージでした。
「それ食べる?」
「お寿司か、いいね」
 次に応えたのは神宝でした。
「じゃあそれを食べる?」
「そうだね、最近食べてなかったし」
 カルロスは最近ずっとお寿司を食べていなかったことに気付いて言いました。
「いいかもね」
「私もお寿司を食べたいわ」 
 最後に応えたのはナターシャでした。
「大好きだし」
「皆それでいいのね」
「お寿司嫌いな人あまりいないよ」
「あんな美味しいもの他にないからね」
「確かに高いしそうそう食べられないけれど」
「一度食べれば忘れられないわ」
 四人は恵梨香に微笑んで言いました。
「だからね」
「お寿司にしよう」
「それで皆で食べてね」
「楽しみましょう」
「うん、じゃあね」 
 それならとです、恵梨香も頷いてでした。
 あらためてです、トロットに言いました。
「じゃあお寿司でお願いします」
「わかったわ、それじゃあね」
「僕も食べようかな」
 トロットと一緒にいるロバのハンクも言いました。
「これから」
「ええ、そうするといいわ」
「とはいっても僕はね」
「貴方はロバだからね」
「お寿司は食べないよ」
 こう言うのでした。
「別にね」
「そうよね、それじゃあ」
「草を食べるよ」
「牧草屋さんに行って」
「そうするよ」
「じゃあまずはそっちに行きましょう」
 トロットは微笑んでこう提案しました。
「牧草屋さんにね」
「最初に?」
「お寿司屋さんの前にね」
「別にいいよ。これからベッツイのところに行くから」
「そこでなのね」
「ベッツイと一緒にいてね」
 そのうえでというのです。
「食べようかなって思ってるから」
「あら、けれどベッツイはね」
 ベッツイと聞いてです、トロットはこうハンクに言いました。
「船長さんと一緒にさっき魔法使いさんのところに行ったわよ」
「あれっ、そうなんだ」
「だから今はこの国にないわよ」
「そういえば昨日言ってたよ」
 ハンクはここで思い出しました。
「魔法使いさんからお薬貰うって」
「魔法のね」
「姿を消せるお薬をね」
「そうでしょ、だからね」
「ベッツイは今はだね」
「王宮じゃなくて魔法使いさんのお家にいるわ」
「魔法使いさんのお家だと」
 魔法使いさんは王宮にいますがエメラルドの都の外にお家も持っているのです。今日はそこにいるというのです。
「ここからちょっと遠いね」
「そうでしょ、だからね」
「今はだね」
「先に牧草屋さんに行って」
 そしてというのです。
「貴方が食べてね」
「それからだね」
「私達に付き合ってくれるかしら」 
 こうハンクに言うのでした。
「そうしましょう」
「それじゃね、それからだね」
「うん、お寿司をね」
 まさにそれをというのです。
「食べましょう」
「確かオズの国のお寿司は」
 恵梨香はお寿司のことを言いました。
「お魚は外の世界では海のものでも」
「ええ、オズの国では川や湖に鮪や鯛がいるから」
「海にもいますけれど」
「川魚のお寿司も食べられるわよ」
「それで都でもですね」
「川魚のお寿司になるわ」
「川や湖にいる鮪や鯛のお寿司をですね」
「それになるわ、ではね」
「はい、まずは牧草屋さんに行って」
「それからですね」
「一緒に食べましょう」
 そのお寿司をというのです。
「そうしましょうね」
「わかりました、それじゃあ」
「お寿司っていいわよね」
 トロットも笑顔で言うのでした。
「不思議なお料理よね」
「不思議ですか」
「だってお酢を効かせた御飯の上にお魚と乗せるでしょ」
「ネタをですね」
「一見何でもないようで」
 それでもというのです。
「凄く美味しいから」
「だから不思議ですか」
「私から見ればね」
「そうなんですね」
「そう思うの日本人だけよ」
 ナターシャが恵梨香に言ってきました。
「お寿司が普通に思うのは」
「そうかしら」
「あんな不思議な食べものはないわ」
 こうも言うナターシャでした。
「御飯の上にお刺身」
「それがなの」
「他にはないお料理よ」
「寿司は中国にもあるけれど」
 中国人の神宝が言います。
「馴れ寿司でそれもポピュラーじゃないからね」
「あれ作るのに時間かかるんだったね」
 ジョージも馴れ寿司について言います。
「それもかなり」
「そうらしいわね」
 恵梨香も馴れ寿司について答えました。
「滋賀の鮒寿司とかね」
「鮒が食べられることがね」 
 カルロスはこのことについて言いました。
「僕不思議だよ」
「ええ、私も鮒はね」
「恵梨香も食べられるとはだね」
「思っていなかったわ」
「けれど滋賀では」
「そう、ああして食べるのよ」
 鮒寿司にしてというのです。
「一回食べたけれど」
「どうだったの?」
「かなり癖のある味だったわ」
 こうお話しました。
「前にもお話したかしら」
「そういえばそうかな」
「鮒寿司のこともね」
「お寿司のお話した時に」
「そのお寿司のことも」
「あのお寿司みたいな馴れ寿司がね」
 まさにというのです。
「最初のお寿司だってね」
「今の握り寿司みたいなのじゃなくて」
「昔はああしたお寿司なかりで」
「むしろ握り寿司は新しいのね」
「お寿司の中でも」
「奈良県に柿の葉寿司ってあるけれど」 
 恵梨香はこのお寿司のこともお話しました。
「こっちのお寿司も独特なのよ」
「ええと、柿の葉寿司って?」
「詳しいお話はですね」
 恵梨香はトロットにも応えました、皆ここで牧草屋の前に来ました。
「ハンクさんが食べて」
「それでお寿司屋さんの中でなのね」
「一緒に食べながらお話していいですか?」
「ええ、それじゃあね」 
 トロットは恵梨香の言葉に笑顔で頷きました、そしてです。
 皆はまずはハンクが御飯を食べ終えてです、それからです。
 ハンクは皆にです、こう言いました。
「僕はお店の前で待ってるよ」
「そうするのね」
「寝てると思うから」
「ゆっくり食べていいってことね」
「そうしてね、もうお腹一杯で眠いよ」 
 実際にと言うハンクでした。
「だから僕もゆっくり寝るから」
「私達もね」
「ゆっくりと食べてね」
「わかったわ、それじゃあね」
 トロットはにこりと笑ってハンクの言葉に応えました、そして皆をお寿司屋さんの中に案内しました。そこで皆でお寿司を食べるのでした。
 お寿司は回転寿司でした、皆カウンターのところに座ってです。 
 それぞれ好きなお寿司のお皿を取って食べはじめました、その中で。
 ジョージ達四人はあらためてです、恵梨香に尋ねました。
「それで柿の葉寿司ってどんなお寿司かな」
「奈良県のお寿司っていうけれど」
「柿の葉を食べるの?」
「そうしたお寿司かな」
「まず鮭の。お酢をかなり効かした切り身をネタにしてね」
 恵梨香は四人にです、鮪のお寿司を食べながらお話しました。
「そのお寿司を柿の葉で包むの」
「ふうん、それでなんだ」
「柿の葉寿司っていうんだ」
「柿の葉で包むから」
「だからなんだね」
「こうしたら普通のお寿司より日持ちがいいの」
 お酢を普通のお寿司より沢山使って柿の葉で包んでいるからです。
「そうしたお寿司なの」
「そういえば奈良県ってね」
「山ばかりでね」
「海がないから」
「普通のお寿司は食べられなかったね」
「今は食べられるけれど」
 それでもというのです。
「昔は無理だったから」
「お寿司もだね」
「そうしたお寿司だったんだね」
「お酢を強くして柿の葉で包んだ」
「そうしたお寿司だったんだ」
「そうなの、このお寿司も美味しいから」
 柿の葉寿司もとです、恵梨香は皆にお話しました。
「よかったら食べてみてね」
「奈良県のそのお寿司も」
「普通のお寿司もいいけれど」
「食べてみればいいのね」
「機会があれば」
「そうしてね。あと奈良県は歴史がある場所で」
 奈良県自体のこともです、恵梨香はお話しました。
「行ったら面白いわよ」
「あっ、昔は日本の首都があったんだよね」
「古い神社やお寺も一杯あって」
「仏像もあるのよね」
「歴史のある古いものも」
「東大寺とかね」
 特にでした、恵梨香はこのお寺をお話に出しました。
「あそこの大仏さんは凄いわよ」
「あの大仏さんだと」
 ナターシャは本で読んだその大仏さんのことを言いました。
「怪獣でも勝てそうね」
「立ったらね」
「あんな大きな像他にないわ」
「若しあの仏像が立ち上がったら」
 神宝も言います。
「誰も勝てないね」
「うん、特撮映画みたいになるね」
 ジョージもお寿司を食べながら頷きます。
「それこそ」
「あんな大きな仏像があるなんてね」
 カルロスもしみじみとしています。
「奈良県ってそれだけでも凄いよ」
「あそこは他に興福寺とか春日大社もあって」
 奈良県にはというのです。
「古いものも一杯あるの」
「聞いた話だとね」 
 トロットは?のお寿司を食べています、そうしながら言うのでした。
「奈良には鹿がいるのよね」
「はい、います」
「それで皆に愛されてるのよね」
「それが奈良県の人は違うんです」
「地元の人は?」
「奈良から来た娘がお友達にいるんですけれど」
 そのお友達のお話によると、というのです。
「物凄く大きな態度で人のお弁当とか取ったりするから嫌われてるみたいです」
「あら、そうなの」
「どれだけでも食べてやりたい放題して」
「それは酷いわね」
「ちょっと悪戯したら隙を見てやり返してくるそうなんです」
「悪戯をする子の方が悪いけれど」
 それでもと言うトロットでした。
「それはまた悪い子達ね」
「はい、ですから」
「奈良の人達はなのね」
「あの鹿をあまり好きじゃないらしいです」
「そうなのね」
「確かに奈良県のマスコットですけれど」
 それでもというのです。
「困った子達みたいです」
「近くで見ると違うのね」
「そうなんです」
「オズの国にも鹿はいるけれど」
 それでもと言うトロットでした。
「そんなね」
「悪い子はいないですよね」
「そこまで悪い子はいないわ」
「そうですよね」
「鹿だけでなく他の生きものもね」
 トロットは今度は数の子を取りました、恵梨香は鉄火巻きです。他の皆もそれぞれの好きなお寿司のお皿を取っています。
「困った子はいても」
「奈良の鹿よりはですね」
「悪い子達じゃないわ」
「人のお弁当取ったりしませんよね」
「しないわ、というかそんなに悪いことするの」
「お菓子も取るみたいですよ」
「とにかく何でも食べるのね」
 トロットは奈良の鹿についてしみじみとした口調になりました。
「厄介な子達ね」
「そうみたいですよ」
「わかったわ、じゃあ今度外の世界に行ってみたら」
「奈良に行かれますか?」
「そうしてみるわね、その子達も見てみたいわ」
 奈良の鹿達、他ならない彼等もというのです。
「どんな子達かね」
「私も見たことありますけれどかなり人間慣れしています」
 恵梨香はトロットにこのことをお話しました。
「そのことは確かです」
「人を怖がらないのね」
「むしろ自分達の方が偉いって思ってる感じです」
「そんなに態度が大きいの」
「あの子達神様の使いですから」
 恵梨香は鉄火巻きの後はイクラ巻きを食べました。
「春日大社の」
「あっ、神道の」
「日本の宗教のだね」
「神様の使い」
「その神社の」 
 四人もそれぞれ言います、恵梨香のお話を聞いて。
「それでだね」
「奈良の鹿は大事にされてて」
「それでかえって」
「態度が大きくなったんだね」
「そうなの、本当に大事にされてるから」
 むしろ大事にされ過ぎているからです。
「凄い態度が大きいらしいの」
「甘やかし過ぎ?」 
 トロットは卵のお寿司を取りました、卵焼きのものです。
「ひょっとして」
「そうかも知れないです」
「誰でも悪いことをしたら怒られるけれど」
「あの子達はそういうことがないので」
「だから悪い子達になってるのね」
「そうみたいです」
「それはよくないわね」
 事情を聞いてです、トロットは心配する様な口調になって言いました。
「やっぱり悪いことをしたら怒らないと」
「駄目ですよね」
「何もしなかったり言いがかりで怒ったらいけないけれど」
 八つ当たりもです。
「けれどね」
「悪いことをしたらですね」
「怒ることよ」
「そうしないと本当に悪い子になりますね」
「ええ、そうよ」
 こうしたお話をしながらです、皆でお寿司を食べました。その後で、でした。
 お店を出るとです、実際にハンクはお店の入口の横で丸くなって寝ていました。それもとても気持ちよさそうに。
 ですが皆が出て来るとです、すぐに起きてお顔を向けて言ってきました。
「やあ、美味しかったかな」
「ええ、とてもね」 
 にこりとしてです、トロットがハンクに答えました。
「お腹一杯食べてきたわ」
「それは何よりだね。それじゃあね」
「今からね」
「うん、行こう」 
 ハンクは立ち上がって首を横に振ってから言いました。
「他の場所にね」
「それで何処に行くの?」
「そうね、商店街を歩いて回ろうかしら」
 トロットは少し考えてからハンクに答えました、
「そうしようかしら」
「今日はだね」
「ええ、夕方までね」
「それもいいね、それじゃあね」
「今日はそうして遊びましょう」
 商店街の中を皆で歩いてというのです。
「お買いものもして」
「アクセサリー屋さんに行きませんか?」
 恵梨香はこうトロットに提案しました。
「皆で」
「アクセサリー欲しいの?」
「はい、ふとそう思いまして」
「そうね、それじゃあね」
「はい、そのお店に」
「エメラルドの都のお店だから」
 トロットは恵梨香と皆にこのことからお話しました。
「全部緑よ」
「エメラルドを使った」
「緑の陶器とかね」
「全部緑ですよね」
「ええ、じゃあ緑のアクセサリーをね」
「頂きます」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆で今度はアクセサリー屋さんに行きました、アクセサリー屋さんはとても可愛らしい内装で中に色々な種類のアクセサリーがあります。
 そのアクセサリーも奇麗な緑です、その中の。 
 ナターシャは緑のバッタのブローチを見て言いました。
「何かこれって」
「あっ、オズマ姫が」
「ノーム王の時でなられたバッタにね」
「似てるね」
「そうよね」
「あとこのブリキの梟は」
「緑でもね」
 ジョージと神宝はブリキの梟の置きもの、ブリキのそれを見てお話します。
「木樵さんがね」
「姿を変えられていた時みたいだね」
「このガラスの猫ちゃんの飾りは」
 恵梨香は緑のガラスのそれを見ています。
「ガラスの猫ね」
「あの猫をモデルにしてね」
「造られたんですね」
「そうよ」
「これいいですね」
「気に入ったのね」
「はい、あの娘そのものも奇麗ですけれど」
「緑だとね」
 オリジナルのガラスの猫とまた違ってです。
「これはこれで奇麗ね」
「そうですね」
「じゃあこれにするの?」
「そうします」
 こうトロットに答えました。
「あとは」
「他は何にするの?」
「そうですね、それじゃあ」
 恵梨香は他にも選ぶのでした、色々なアクセサリーを。皆それぞれ奇麗なもの可愛いものを買うことにしました。オズの国にお金はありませんが。
 その中で恵梨香は緑の虎のぬいぐるみを見て言いました。
「ううん、どうにも」
「どうにもって?」
「いえ、虎は好きなんですけれど」
「腹ペコタイガーが?」
「腹ペコタイガーさんも好きですけれど」
 恵梨香は少し困ったお顔で隣にいるトロットにお話しました。
「日本の虎もなんです」
「ああ、日本の虎だね」
「あの虎だね」
「そういえばね」
「今年もだったね」
 ジョージ達四人は恵梨香の言葉を聞いて頷きました。
「どうしてもね」
「いつもここぞっていう時になんだよね」
「負けるのよね」
「それで優勝出来ないんだよね」
「今年もね」 
 恵梨香は困った顔のまま言いました。
「折角いいところまでいったのに」
「あっ、野球のことね」 
 ここでトロットも気付きました、恵梨香がどの虎のことで悩んでいるのかを。
「日本の」
「はい、日本に虎は野生ではいないですけれど」
「今はね」
「昔はいました」
 野生の虎がいた場所を領土にしていたからです。
「けれど今は」
「その虎がいるのね」
「そうです、あの虎は」
「確か阪神タイガースだったわね」
「私阪神好きなんですけれど」
「いつもなのね」
「ここぞっていう時に負けるんです」
 そうしたチームは沢山スポーツチームがある中でやっぱりあります、そしていつも負けてしまうのです。
それもここぞという時に。
「困ったことに」
「弱い訳じゃないわよね」
「普段は強いんです」
「けれどここぞって時に」
「負けちゃうんです」
「腹ペコタイガーさんと全然違うわね」 
 トロットはそのチームのことを聞いて言いました。
「タイガーさんはここぞって時に凄く強いから」
「もう凄いですよね」
「臆病ライオンさんと同じでね」
「ピンチに強いですね」
「勝負強いのよ」
 腹ペコタイガーはというのです。
「普段はいつも食べたい食べたいだけれどね」
「皆のピンチの時には強い」
「そうでしょ」
「はい、けれど日本の虎は」
「チャンスに弱くて」
「今年もなんです」
 その緑と黒の縦縞の虎のぬいぐるみを見ながらぼやくのでした。
「負けました」
「そうなのね」
「ヤクルトが優勝しました」
「燕だったわね」
「そうです、スワローズです」
「虎が燕に負けるのね」
「日本だとそうなんです」
 他の国の虎と違ってです、日本の虎は燕に負けてしまうのです。
「あと鯉にも弱いです」
「腹ペコタイガーさん鯉好きだよね」
「大好物の一つだよ」
「一番美味しいお魚の一つって言っててね」
「よく食べてるね」 
 四人もその可愛いぬいぐるみを見ながら言います。
「特に凄く大きい鯉をね」
「お刺身とか揚げたりしてね」
「鯉こくも好きよね」
「とにかくタイガーさん鯉も食べるよ」
「それでもなのよ」 
 恵梨香は日本の虎のことをお話するのでした。
「日本では負けちゃうのよ」
「虎が鯉に負けるって」
 ハンクも首を傾げさせることでした。
「それで燕にもだよね」
「そうなのよ」 
 本当にというのです。
「阪神はね。どうにかならないかしら」
「巨人には勝つのよね」
「そういう時もあるんですけれど」 
 それでもというのです、トロットにも。
「これが」
「ファンとしては困ったことね」
「はい、とても」
「阪神の優勝見たいわよね」
「毎年思ってます」
「けれど見られたことは」
「殆どありません」 
 今度は項垂れた恵梨香でした。
「もっともっと強くなって欲しいのに」
「そうなのね、けれどね」
「はい、このぬいぐるみはですね」
「買いましょう」
 こう言うのでした。
「可愛いから」
「腹ペコタイガーさんにも見せますか?」
「それもいいわね、喜ぶと思うわ」
「そうですね、ただ」
「ただ?」
「タイガーさんそれから絶対にそれよりもってなりますと」
「何か食べたいね」
 トロットも笑って応えます。
「そう言うわね」
「はい、いつもそう言いますし」
「そうよね、彼はね」
「食べることが大好きですから」
「鯉だけじゃなくてね」
「お肉も」
「牛肉も鶏肉も好きで」
「オートミールも」
「結構色々食べるのよ」
 ただ食べるだけではないのです、色々なことを食べることが好きなのも腹ペコタイガーの特徴なのです。
「パンだってね」
「サンドイッチもですよね」
「そう、御飯もね」
「お寿司食べますか?」
「どうかしら」
 お寿司はどうかとです、トロットは首を傾げさせました。
「御飯もお魚も食べるけれど」
「お寿司になりますと」
「お寿司はお酢をよく使うから」
 その御飯にです。
「あとお砂もね」
「その二つの味が強いからですね」
「あの人食べるかしら」
「そのことはですね」
「わからないわ」
 こう恵梨香に答えるのでした。
「あのお料理についてはね」
「美味しくてもですね」
「ちょっとね」
「そうですか」
「和食も好きよ」
「そういえば焼き魚もお刺身も天麩羅も」
「どれも食べるわよね」
「お豆腐も」
 腹ペコタイガーはこの食べものも食べます。
「この前食べておられましたね」
「そうでしょ、ただね」
「食べるというよりは」
「飲んでる感じだったでしょ」
「お豆腐は柔らかいから」
「日本のお豆腐は」
 ここでこう言ったトロットでした。
「どうしてもね」
「日本のお豆腐は柔らかくて」
「他の国のお豆腐はそうとは限らないわ」
「オズの国でもですね」
「固いお豆腐もあるわよ」
 そうだというのです。
「お水によって変わるから」
「その固さが」
「だからね」
「そうしたお豆腐もですね」
「オズの国では食べられるわよ」
「むしろね」
 ここで言ったのは神宝でした。
「日本のお豆腐があまりにも柔らかくて驚いたよ」
「僕もだよ」
 ジョージも言ってきました。
「こんなに柔らかいんだって」
「だからお水なのね」 
 恵梨香は二人の言葉も聞いて言いました。
「お豆腐を作る時に使うお水次第でそうなるのね」
「硬水と軟水があって」 
 トロットがお話します、ここでも。
「硬水を使って作ると固くなるの」
「そして軟水を使えば」
「柔らかくなるの」
「そうなるんですね」
「日本は軟水が多いからね」
 日本にあるお水はというのです。
「それでお豆腐も柔らかいのよ」
「そういうことですね、わかりました」
「そして中国やアメリカでは硬水が多いから」
 どちらの国のお水もです。
「お豆腐も固くなるの」
「うん、それがお料理にも影響するんだ」
「他の生活のことにもね」
 二人がまた恵梨香に言いました。
「お水って本当にそれぞれの地域で違うから」
「味とかもね」
「それ次第でね」
「何かと変わるよ」
「アマゾンだとね」 
 ブラジル人のカルロスも言います。
「もうお水飲んだら駄目だし」
「生水は飲まないことっていうから」
「特にアマゾンのお水はね」
「そんなに危ないのね」
「お水の中に何がいて何があるからわからないから」
 だからだというのです。
「迂闊に飲んだら後でお腹壊すよ」
「オズの国のお水は何処のお水も安全で美味しいけれど」
 ナターシャはクールなお顔でお話します。
「外の世界は違うわ」
「日本でもね」
「川や湖のお水は絶対にまずは消毒しないと」
「濾過して沸騰させて」
「そうして飲まないと駄目よ」
「そうしたことを気をつけないと」
 恵梨香も考えるお顔で言います。
「駄目ね」
「それが身体を守ることよ」
「そういうことね」
「まあオズの国ではそこまでしなくていいから」
 トロットは微笑んで五人に言いました。
「安心してね」
「はい、それじゃあ」
「お水のことも安心して」
「そのうえで、ですね」
「また冒険があったら楽しく」
「そして気をつけて」
「行きましょう、今はこの都を楽しみましょう」
 こうも言ってでした、トロットはハンクと共に五人を連れて都の商店街を歩き回って楽しみました。そして宮殿に帰るとです。
 腹ペコタイガーは自分の御飯、何十枚もあるステーキを食べながらです。皆にぼやきながらこんなことを言いました。
「これだけ食べてもね」
「すぐになのね」
「お腹が空くんだ」
 恵梨香にも答えます。
「僕はね」
「貴方はいつもそうよね」
「僕は幾ら食べても本当にすぐなんだ」
「お腹が空いて」
「また食べたくなるんだ」
「それは大変よね」
「この宮殿では何でも好きなだけ食べられるよ」
 魔法のテーブル掛けから幾らでも出せるからです、どんなお料理も。
「それで楽しめるけれど」
「すぐにお腹が空くことは」
「困るね、まあ君達を食べることはしないからね」
「私達だって食べられたくないわよ」
「そうだよね」
「お願いだからそうしたことだけはしないでね」
「絶対にしないよ」
 腹ペコタイガーもこのことを強く約束します。
「何があってもね」
「それは何よりよ。ただ」
「ただって?」
「貴方はどうしてすぐにお腹が空くのかしら」
 恵梨香は首を傾げさせてです、腹ペコタイガーの名前の由来にもなっているこのことについて思うのでした。
「いつもたっぷり食べていても」
「朝昼晩ね」
「おやつも食べてるわよね」
「十時と三時にね」
 しっかりというのです、そちらも。
「合わせて五食だよ」
「それだけ食べても」
「うん、僕はお腹が空くんだ」
 すぐになのです。
「朝起きたら凄く空いていて」
「朝御飯をたっぷり食べて」
「十時になったらなんだ」
 午前のおやつの時間です。
「また空いて食べて」
「そして十二時になって」
「また食べるんだ」
 今度はお昼ご飯をというのです。
「朝御飯以上にたっぷり食べて」
「そして三時になったら」
「また小腹が空くから」
「それでおやつも食べて」
「七時になったらお腹ペコペコになって」
 その時間になってもというのです。
「また食べるんだ」
「晩御飯をね」
「この時が一番食べるね」
 一日の食事の中でもというのです。
「もうお腹一杯ね」
「その時も食べて」
「寝るんだけれど」
「また朝になったら」
「お腹がペコペコになって起きて仕方なくなってね」
「朝御飯を食べる」
「それの繰り返しだよ」 
 これが腹ペコタイガーの日常です。
「オズの国では誰も死なないけれどね」
「食べないとね」
「うん、元気が出なくて切なくなるんだ」
 それでというのです。
「僕はいつもたっぷり食べてるんだ」
「そういうことね」
「だから今もなんだ」
「晩御飯食べてるのね」
「こうしてね、君達も食べるよね」
「ええ、お昼はお寿司を食べたけれど」 
 恵梨香はにこりと笑って腹ペコタイガーに答えました。
「これからね」
「晩御飯も食べるね」
「そうするわ」
「さて、今日の晩御飯は何かしら」
 トロットはにこりと笑って言いました。
「楽しみよね」
「じゃあ今からオズマ姫のところに行きましょう」
「そうね、それじゃあね」
「そしてその晩御飯を食べて」
 そのうえでというのです。
「明日もですね」
「楽しい一日を過ごしましょう」
「わかりました」
 にこりと頷いた恵梨香でした、そして。
 トロットは五人にもです、こう言いました。
「じゃあ皆もね」
「はい、晩御飯を食べて」
「それからですね」
「お風呂に入って歯を磨いて」
「ベッドでぐっすりと寝て」
「また明日ですね」
「楽しい一日を過ごしましょう」
 トロットは五人にもにこりと笑って言いました。
「そうしましょう」
「それじゃあですね」
「これから晩御飯を食べて」
「身体を奇麗にして」
「ゆっくり寝て」
「また明日ですね」
「そうしましょう、じゃあ腹ペコタイガーも」
 トロットは大きな口でステーキをどんどん食べている彼にも言いました、お皿の中に重ねて置かれているそのステーキ達をです。
「食べたらね」
「うん、身体を洗ってもらってね」
「ドライヤーをかけてブラッシングしてから」
「寝るよ」
「貴方と臆病ライオンさん最近特にね」
「お風呂が好きになってるね」
「毎日よね」
 入浴、シャワーを浴びるそれがというのです。
「入っているわね」
「だって僕達も奇麗好きだから」
「だからなのね」
「お風呂に入ってね」
「身体をシャンプーで洗ってもらって」
「奇麗にしてもらっているんだ」
 そうだというのです。
「冒険に行かない時は毎日ね」
「そうなのね」
「うん、だから」
「いいことよ、それじゃあね」
「僕もお風呂に入るよ」
 晩御飯の後でというのです。
「そして身体を奇麗にするよ」
「それじゃあね」
「じゃあ今から」
 恵梨香が再びトロットに言ってきました。
「オズマ姫のところに行って」
「晩御飯にしましょう」
「是非、ですね」
「そうしましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆はオズマ姫達と会ってです、晩御飯を食べました。その晩御飯はお好み焼きに焼きそばといったものでした。
 ただ恵梨香はです、そのお好み焼きを食べてからお風呂の中でナターシャとトロットにこうしたことを言いました。
「今日のお好み焼きは」
「貴方の思っていたお好み焼きではなかったわね」
「ええ、大阪のお好み焼きじゃなくて」
「広島ね」
 ナターシャが言いました。
「あちらのお好み焼きね」
「そうだったわ」
「美味しかったじゃない」
「美味しいことはね」
 間違いないとです、恵梨香も認めます。
「けれどね」
「大阪のお好み焼きが、なのね」
「関西ではお好み焼きだから」
「それで関西で生まれ育っている貴方は」
「広島焼きだと思ってね」
 そうしてというのです。
「今日も食べたわ」
「そうなのね」
「こだわりっていうか」
「そこは譲れないところね」
「どうしてもね」
「そういうものね。私もね」
「ナターシャも?」
「ちょっとお湯から出ましょう」
 くすりと微笑んでです、ナターシャは恵梨香に言いました。勿論トロットにも微笑んで無言で誘いをかけました。
「これからサウナに入りましょう」
「サウナになの」
「どうかしら」
「それじゃあ」
「私もね」
 恵梨香だけでなくトロットも応えてでした、三人で木造りのとても暑いサウナ室に入りました。そしてその中で、でした。
 ナターシャは汗をかきながらです、一緒に汗をかいている恵梨香とトロットに対してこうしたことを言ったのでした。
「このサウナはロシア風だけれど」
「それでもなの」
「サウナはフィンランドでもあって」
「どっちかっていうとなのね」
「私はこちらが本場だと思っているけれど」
「フィンランドの人は違うわね」
 恵梨香も言います。
「やっぱりフィンランドのサウナの方がね」
「本場ね」
「そう思うわね」
「結局お好み焼きもね」
 このお料理もというのです。
「一緒ね」
「どっちも本場って言って引かないのね」
「けれどどっちのお好み焼きも美味しくて」
「どっちのサウナも気持ちいいわね」
 トロットが言ってきました。
「そういうことね」
「はい、私はそう思います」
「ここでこう言えるのがね」
 まさにというのです。
「ナターシャらしいわ」
「私らしいですか」
「ええ、冷静に見られて言えて纏められることが」
「私なんですね」
「五人の中でナターシャはね」 
 彼女のポジション、それはといいますと。
「纏め役ね」
「その立場ですか」
「リーダーはジョージ、参謀は神宝でね」
「カルロスはムードメーカーですね」
「それで貴女は纏め役ね」
「そうなるんですね」
「ええ、五人の中でね」
 こうナターシャ自身にお話するのでした。
「そうだと思うわ」
「そうですか」
「それじゃあ私は」
 五人の最後の一人になった恵梨香がトロットに尋ねました。
「一体」
「五人の中でどうしたポジションか」
「はい、どうなるんでしょうか」
「困った時の恵梨香かしら」
「困った時の、ですか」
「いつも何かあった時に皆をフォローするね」
「それが私ですか」
 少しきょとんとしたお顔になってです、恵梨香はトロットに応えました。
「フォロー役ですか」
「そうだと思うわ」
「ううん、確かに私前に出ませんし」
「いつもこれだとは言ったり動いたりしないわね」
「はい」
「けれどそれが恵梨香の持ち味でね」
 そしてというのです。
「皆が困った時に恵梨香がいてくれたら」
「それで、なんですか」
「いつも助かっているわ」
「そうなの、恵梨香がいないと」
 ナターシャも言います。
「私達困っている時多いわ」
「そうなの」
「私達五人は誰が欠けても駄目なの」
 一人として、です。
「貴女についてもね」
「だといいけれど」
「五人がいてこそ」
 また言うトロットでした。
「貴方達は万全なのよ」
「一人一人ではですか」
「力が限られてるわ」
「そういうものですね」
「そう、あとお好み焼きだけど」
 そのお好み焼きのこともです、トロットは言いました。
「私はどちらも好きよ」
「大阪風も広島風も」
「どっちもどっちとは言わないわ」
「そうなんですね」
「強いて言えばどちらも美味しいわ」
 大阪風も広島風もです。
「そしてどちらもお好み焼きね」
「大阪風、広島風關係なく」
「そう思うわ」
「ううん、何か私だけのこだわりですね」
「お好み焼きについてはね」
「そうなんですね」
 サウナに入りながら言うのでした。
「そう思うと小さなこだわりですね」
「そうね、けれどそうしたこだわりは誰にもあるわね」
 くすりと笑ってまた言ったトロットでした。
「自分だけに留めて。あまり強く持たないべきね」
「それがいいですね」
「周りに出したら困る人もいるし」
 それにというのです。
「強く持ったら自分を縛るから」
「そこまでは持たないで」
「気楽にいきましょう」
 こだわりもというのです。
「そうしていきましょう」
「わかりました」
 恵梨香はトロットの言葉に微笑んで頷きました、そしてです。
 お風呂を楽しんでからです、パジャマに着替えて歯も磨いて。
 大きなふかふかのベッドにナターシャ、トロットと一緒に入りました。恵梨香はそのベッドの中でもナターシャに言いました。
「パジャマも黒なのね」
「黒が好きだから」
 だからと答えたナターシャでした。
「それでなの」
「そういうことね」
「そう言う貴女はパジャマもね」
「ピンクでしょ」
「ピンクが好きだからなのね」
「桜の色だから」
 恵梨香は微笑んでナターシャに答えました。
「それでなの」
「いつもピンクで」
「パジャマもなの」
「本当に桜が好きなのね」
「そうなの、皆それぞれ好きな色あるわね」
「私は黒でね」
「三人もね」
 男の子三人もとです、恵梨香は言いました。
「そうよね」
「ジョージは赤、神宝は青、カルロスは黄色で」
「それぞれね」
「そこもこだわりね」
「そうよね」
「色にもこだわりがあるのね」
 こう二人でベッドの中に入ってからお話しました、その二人をです。
 トロットは両手で自分のところに抱き寄せてそして言いました。
「三人仲良く寝ましょう」
「はい、今から」
「そうしましょう」
「私が真ん中でね」
 そしてというのです。
「ナターシャは右、恵梨香は左ね」
「その位置で、ですね」
「このベッドで三人で」
「寝ましょう」 
 こう笑顔で言って実際にでした。
 三人は柔らかいベッドで三人で寝ました。そうして一日の疲れを癒して明日に向かうのでした。楽しい明日に。



今回は腹ペコタイガーとのお話かな。
美姫 「また旅に出るのかしら」
食べ歩きツアーだったりしてな。
美姫 「一体どんな話になるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。



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