『オズのベッツイ』
第十一幕 ウーガブーの国
銀の菖蒲を手に入れた一行は真実の池からウーガブーの国に向かいました、そのアンの祖国にです。
そのウーガブーの国に向かいながらです、カルロスはアンに尋ねました。お花はハンクの背中にコップと一緒にあります。
「昔はオズの国の端と端でしたね」
「ウーガブーの国と真実の池はね」
「そうでしたね、ウィンキーの」
「そうだったわ、けれどね」
それでもとです、アンはカルロスに笑顔で答えました。
「今は違うから」
「どちらもウィンキーの国の真ん中ですね」
「ええ、ウーガブーの国は北西の真ん中で」
アンはカルロスに応えてそのそれぞれの位置をお話しました。
「真実の池、一夫の村は南西の真ん中よ」
「それぞれですね」
「そう、それぞれの方角の真ん中にあるのよ」
こうカルロスにお話するのでした。
「今ではね」
「それだけオズの国が広くなったんですね」
「そうよ、それでね」
「それで、ですね」
「昔は端から端に行くことだったけれど」
「今は真ん中から真ん中にですね」
「行くことになったのよ」
ウィンキーの国の中で、です。
「そうなったのよ、ただね」
「その歩く距離はですね」
「変わらないから」
それ自体はというのです。
「端と端を行き来することにはならなくなったけれどね」
「歩く距離は一緒ですね」
「そう、そしてね」
アンはさらに言いました。
「ウーガブーの国も真実の池も変わっていないわ」
「最初の時からですね」
「ウーガブーの国は小さいわよ」
今もだというのです、アンの国は。
「村みたいなものよ」
「そうなんですね」
「そう、つまり私は村長だったのよ」
笑ってこうも言ったアンでした。
「そして今は村長の娘なのよ」
「王女様じゃなくて」
「ええ、そんなものよ」
「何かそう言われますと」
「田舎娘みたいだっていうのね」
「そう思えてきました」
「そうね、私は田舎娘よ」
自分でも言うのでした。
「長い間外のことは何も知らなかったね」
「田舎娘だったんですか」
「そうよ。本当に外のことは何も知らなかったわ」
オズの国を征服しようと思うまではです、本当にアンは何も知らない女の子だったというのです。けれど今はです。
「けれど今はね」
「違うんですね」
「そのつもりよ。まあ王女といってもね」
「そんなにですか」
「畏まる必要はないから、それにここはオズの国でしょ」
この国だからというのです、この不思議の国だからだと。
「オズの国には王女様が一杯いるじゃない」
「そうですね、確かに」
カルロスはベッツイを見ました、ここで。他ならぬこの娘も王女様です。そしてそれはドロシーやトロットも同じです。
「オズの国の中にも色々な国があって」
「そうでしょ、特別なものでもないから」
「そのこともあってですか」
「お友達よ、私達は」
王女やそうした立場に関係なく、というのです。
「ましてや貴女達はオズの国の大切なお客様だから」
「だからですか」
「私も大切にね」
「お友達としてですか」
「お付き合いしたいわ」
こう笑顔出言うのでした。
「是非ね」
「そうですか、それじゃあ」
「前も言ったけれどウーガブーの国に入ったら楽しみにしていて」
その時はというのです。
「心ゆくまでおもてなしさせてもらうから」
「フランス料理にイタリア料理ですね」
ナターシャがアンの言葉に応えました。
「そちらですね」
「それとドイツ料理ね」
「ウーガブーの王宮のシェフさんが作ってくれる」
「本当にどれも凄く美味しいの」
その人が作ってくれる三国のお料理はというのです。
「だからね」
「そのお料理をですね」
「楽しみにしていてね」
こう皆に笑顔で言うのでした、そしてウーガブーの国までの道中は。
とても平和でした、皆歩きながらお喋りも楽しんでいます。
その道中で、です。恵理香はふと気になってでした。
ベッツイにです、こう言いました。
「間に合うんですよね」
「ええ、そのことは安心して」
「それならいいですけれど」
「この調子ならね」
ベッツイは穏やかに微笑んで恵理香に答えます。
「結婚記念日まで充分よ」
「間に合って、ですね」
「おじさんとおばさんにジャムを届けられるわ」
「それならいいです」
「安心していいわ、この道中は私の知る限りは何もないから」
「ええ、これといってないわよ」
アンも恵理香に言ってきました。
「怖い場所も危険な場所もね」
「クレバスとかもですか」
「ええ、ないから」
それで安心していいというのです。
「何も心配はいらないわ」
「わかりました、それじゃあ」
「そういうことでね、ただね」
「ただ?」
「歩くことは歩いていくわ」
このことは続けるというのです。
「この調子でね」
「歩かないとですね」
「間に合うものも間に合わないから」
それで、というのです。
「歩いていくわよ」
「わかりました、このまま」
「ええ、歩いている速さはいいから」
元気でしかも整っている煉瓦の道を歩いているからです。その旅の速さはかなりのものです。そしてその歩みの速さでなのです。
「順調にね」
「行ってですね」
「まずはウーガブーの国よ」
その国にというのです、そして。
一行はどんどん進んでいきます、真実の池からウーガブーの国は離れていてもです。
順調に近付いていました、夜はしっかり寝ていてもです。
朝早く起きてです、チーズとパンを食べつつです。ジョージはベッツイに言いました。
「このまま行けば」
「ええ、もうすぐね」
「ウーガブーの国ですね」
「そう、どうも私が考えているよりはね」
むしろ、という口調での言葉でした。
「早く着きそうよ」
「それは何よりですね」
「早いなら早いに越したことはないわ」
この場合は早いとなります。速く歩いて早く着くのです。
「ウーガブーの国に着くことも」
「ええ、あの人も治るし」
アンも言ってきました。
「それでね」
「ジャムもね」
「そう、ジャムも出来るから」
その人が元気になってです。
「貴女にとってもいいことよ」
「本当にそうよね」
「この場合は早いに越したことはないわ」
今この時はだというのです。
「誰にとってもね」
「その通りよね、じゃあね」
「食べ終わって歯を磨いたら」
「また出発ね」
「そうよ、ウーガブーの国までね」
行くと言ってです、そして。
実際に朝御飯を食べて歯を磨いてからです、また歩きはじめました。黄色い木々に囲まれた煉瓦の道を進んでいきます。
その途中で、です。神宝は道の右手にある牧場を見て言いました。囲いの中でのどかに草を食べている牛達をです。
「ホルスタインですね」
「ええ、ウィンキーのね」
「黒と黄色の模様ですね」
「普通は白地で黒でしょ」
「はい」
神宝は自分達の世界のホルスタインのことからベッツイに答えました。
「そうです」
「けれどここはウィンキーだから」
「ホルスタインも白じゃなくてなんですね」
「黄色になるの」
「それで他の国ではですね」
「それぞれの色になるのよ」
ホルスタインもというのです。
「それでミルクもね」
「黄色ですね」
「そう、ウィンキーの国の色になるから」
「そういえばマンチキンのプティングは青ですね」
ナターシャが言ってきました、ここで。
「そしてウィンキーのプティングも」
「黄色なのよ」
「そうですね」
「そう、それぞれの国の色になるのよ」
「それがオズの国の特色ですね」
「ええ、ただね」
ベッツイはナターシャ達にこうも言いました。
「基本の色はそれぞれだけれどその人がそうしたい色にもなれるのよ」
「ウィンキーでも黄色以外の色にですね」
「なれるのよ」
「それでかかしさんもですね」
「そうよ、あの人の服は青いでしょ」
「はい」
マンチキンの色です、かかしが生まれたその国の服と帽子、それにブーツを今も着ているのです。そしてその中に藁を積めています。
「そのことはかかしさんが望まれているからですね」
「他の人や生きものも同じよ」
「そうでありたいという色であれば」
「ウィンキーでも他の色でいられるのよ」
そうだというのです。
「だから貴女達もなのよ」
「黒だったりピンクだったり」
「赤や青だったりするのよ」
ベッツイは五人の服も見てお話します。
「そうなのよ」
「そういうことなんですね」
「オズの国はそうした国でもあるの」
「自分がどうか、ですね」
「そうよ、それぞれの色にもなれる」
「だから私もなのよ」
ここでアンが言ってきました。
「今は黄色い軍服だけれどね」
「オズの国を征服しようとされた時は緑でしたよね」
「外の国のことは知らなかったけれど」
例えウィンキーの国にあってもです。
「気取りだったでしょ」
「はい」
「色は重要だけれど絶対かというとね」
「そうでもないんですね」
「木樵さんだって黄色じゃないじゃない」
ウィンキーの皇帝であるこの人もでした。
「銀色でしょ」
「ブリキの銀色ですね」
「住んでいるお城さえもね」
とにかく全てがブリキです、だからこの人は銀色なのです。
「そうでしょ」
「そうですね、言われてみれば」
「だからそれぞれの色でもいいの」
「オズの国では」
「そう、勿論このウィンキーの国でもね」
「そういうことなんですね」
「特にその色でなくてもいいと思えばその国の色になるわ」
アンもまた牧場の牛達を見つつお話します。
「あの子達もね」
「牛さん達もですか」
「そうなの、白くもなれるわ」
ナターシャ達の世界のホルスタインの様にというのです。
「白いミルクも出せるし」
「ミルクもですね」
「黄色いものでなくてね」
ウィンキーのそれでなくても、というのです。
「白いものも」
「そして白以外の色もですか」
「出したいと思えば出せるのよ」
「面白いですね、それも」
「ここは不思議の国なのよ」
ベッツイは面白いと言ったナターシャに微笑んでこう返しました。
「だからね」
「そうしたこともですか」
「あるのよ」
「私達の世界とは違って」
「同じ世界の何処かにあってもね」
「そうなんですね」
「この国は特別なの」
オズの国だけはというのです。
「他の国とは違うのよ」
「歳も取らないしね」
ハンクも言ってきました。
「僕だって本当にどれだけ生きているか」
「そういえばあんたもう相当よね」
「うん、驢馬とは思えない位にね」
ハンクはガラスの猫にも答えました。
「長生きしているよ」
「そうよね」
「オズの国にいるとね」
歳を取らないからでした。
「歳を取ることもないからね」
「あんたもいつも元気なのね」
「お腹は空くけれどね」
それでもなのです、オズの国にいますと。
「歳を取らないし病気にもならない」
「まさにいいこと尽くめね」
「君はそういう実感はないよね」
「だってあたしはガラスだから」
普通の猫ではなくガラスで出来た猫だからです。
「最初からそうしたことはね」
「縁がないね」
「食べる必要もないし寝る必要もなくて」
「最初から歳も取らないね」
「全くね」
そうだとです、猫はハンクにお話しました。
「そんなことは一切縁がないわ」
「そうだよね」
「あんたのその喜びのこともね」
そもそもそうしたことを感じる必要がないからというのです。
「あたしは知らないしわからないわ」
「それはもう仕方ないね」
「そうね、ただ食べることって」
ここで猫はハンクだけでなく他の皆も見て言うのでした。
「そんなにいいことかしら」
「ええ、とてもいいことよ」
アンが猫のその問いに微笑んで答えました。
「その度に楽しめるね」
「そんなにいいことなのね」
「貴女は何も食べる必要がないから」
「味とか満腹とかわからないわ」
食べることの楽しみ、それはというのです。
「そんなにいいものかしら」
「最高の気分になれるわよ」
「そうなのね」
猫はアンの言葉に少し考える顔になりました、そしてそのお顔でこう言いました。
「皆がそう言うのならそうなのでしょうね」
「羨ましいと思うことは」
「ないわ」
全く、という口調での返事でした。
「そんなこともね」
「ないのね」
「だって食べる必要がないし食べることも出来なくて」
「そう思うことも」
「ないから」
だからだというのです。
「それでなのよ」
「そうなのね」
「そう、あたしには全く縁のないことだから」
その食べることがというのです。
「興味も湧かないわ」
「そうなのね」
「だからウーガブーの国に着いた時も」
アンが皆に楽しみにする様に言っているこのこともだというのです。
「あたしは散歩を楽しむわ」
「そちらをなのね」
「そう、食べることも寝ることもしないけれど」
それでもというのです。
「お散歩は楽しめるからね」
「だからなのね」
「そちらを楽しむわ」
こうアンに言うのでした。
「そういうことでね」
「それじゃあウーガブーの景色を楽しんでね」
「そうさせてもらうわね」
こうしたこともお話したのでした、一行はそのまま歩いてです、煉瓦の道をどんどん進んでいって遂になのでした。
山と山、その間にある谷が見えてきました。アンはその谷を見て皆に笑顔で言いました。
「遂にね」
「ええ、来たわね」
「戻って来たわ」
こうベッツイに答えたのでした。
「ウーガブーの国にね」
「そうね」
「ただ、本当に早かったわね」
ウーガブーの国に戻った時がというのです。
「考えていた時よりずっと」
「そうね、歩く速さがね」
「予想以上だったから」
「皆と一緒だと」
「一人旅の時よりもね」
「足が進んで」
そしてだったのです。
「すぐに戻れたわ」
「やっぱり旅は一人で行くよりもね」
「誰かと行った方がいいわね」
ここでもこのお話になるのでした。
「やっぱり」
「そうでしょ、私が言った通りでしょ」
「本当にね。これでね」
「そう、後はね」
「すぐにこのお花をあの人にあげて」
ハンクの背中にあるコップの中の銀の菖蒲も見てです、アンは意気込む顔で言いました。
「そしてね」
「治してあげるのね」
「その為に旅をしたから」
それならばとです、アンはベッツイに答えました。
「すぐにそうするわ」
「それじゃあ行きましょう」
「ええ、今から」
アンは喉をごくりと鳴らしてでした、そうして。
ウーガブーの国に真っ先に入りました。するとお国の中でお仕事をしていた人達が笑顔で王女に言ってきました。
「王女さんお帰り」
「よかった、無事だったんですね」
「いや、皆心配していたんですよ」
「また急に出て行かれたから」
「旅の間何かありはしないかって」
「何もなくてよかったです」
「それにベッツイさん達も一緒なんですね」
ウーガブーの人達はアンと一緒にいるベッツイにも気付いて言いました。
「旅の道中で一緒だったんですね」
「それで、ですね」
「ここでも一緒で」
「あとその子達は」
恵理香達にも気付いたのでした。
「ええと、ベッツイ王女のお友達?」
「そうなのかな」
「見たところはじめて見る子達だけれど」
「一体?」
「ええ、この子達はね」
ここで、でした。ベッツイがウーガブーの国の人達に恵理香達のことをお話しました。そして旅のこともです。
その全部を聞いてです、ウーガブーの人達は納得して頷いて言いました。
「ああ、そうなんですか」
「ベッツイさん達と一緒だったんですね」
「この子達も外の世界から来たんですか」
「外の国から」
「そうだったんですね」
「それもアメリカだけじゃなくて日本や中国からも」
「ロシアやブラジルからも」
こうそれぞれ言って恵理香達を囲んで、です。五人に笑顔で言いました。
「王女さんと一緒に旅をしてくれたんだね」
「それで楽しく旅をしてたんだね」
「いや、有り難うね」
「うちの王女さんいい娘だけれど無鉄砲なところあるからね」
「言いだしたら聞かないところがあるから」
「その王女さんと仲良くしてくれてね」
「本当に有り難いよ」
こうそれぞれ言うのです、ですが。
そのウーガブーの人達の言葉を聞いたアンはです、難しい顔で言うのでした。
「何か私が困った娘みたいね」
「実際に無鉄砲じゃない」
ガラスの猫がそのアンに言います。
「今度のことでも」
「それでそう言うのね」
「そうよ、あんたはもっとね」
「慎重になれっていうのね」
「今回はあたし達が一緒になったからよかったけれど」
「いつもそうとは限らないから」
「そう、もう少しね」
アンは慎重さを身に着けないといけないというのです。
「もっとね」
「ううん、そのことは」
「すぐには出来ないっていうの?」
「無理かも」
「それじゃあ少しずつでもよ」
それこそというのが猫の言葉でした。
「なおしていきなさい、またあたし達が一緒になるとは限らないから」
「そう、猫の言う通りですよ」
「今回のこともですよ」
ウーガブーの人達もアンに注意する口調で言うのでした。
「銀の菖蒲を見付けにいくことはいいとして」
「一人で急に飛び出るなんて無茶ですから」
「せめて誰か一緒にいないと」
「本当に危ないですよ」
こう言うのでした、自分達の愛する王女に。これは愛しているからこその厳しい言葉なのです。
「私達もいますから」
「その都度仰って下さい」
「お供させて頂きます」
「ですからもうこんなことはされないで下さい」
「一回や二回じゃないですし」
「これまで何度もありましたし」
「今度こそは止めて下さい」
こう王女に言うのでした、そしてです。
ウーガブーの人達はアンにです、あらためて尋ねました。
「それで、ですけれど」
「お花を持って来られましたし」
「それじゃあですね」
「マリューさんも」
「ええ、マリューは今もよね」
アンは病気の話になるとそのお顔を真剣にさせてウーガブーの人達に言いました。
「寝込んでるのよね」
「はい、そうです」
「今も寝ています」
「熱で起き上がれないです」
「苦しんでます」
「かなり辛そうです」
「そうよね、けれどそれも終わりよ」
アンは今度はきっとなった顔で言いました。
「このお花をね」
「はい、このお花をですね」
「磨り潰してマリューさんにあげて」
「そして熱病をなおして」
「元気になってもらいましょう」
「今からマリューのところに行くわ」
真剣な顔のまま言うアンでした、そしてそのお花をハンクの背中から受け取ってです。一軒のお家に入りました。
お家の中では一人のおばさんがベッドの中にいました。少しお顔に皺がありますが奇麗なお顔をしています。
アンはベッツイ達と一緒にそのおばさんのところに来てこう言いました。
「マリュー、遅れて御免なさい」
「あっ、王女様」
マリューさんはアンを見てすぐに起き上がろうとしました、ですが熱で苦しくてそれで起き上がれませんでした。
そしてアンもです、そのマリューさんに注意しました。
「駄目よ、起きては」
「ですが王女様の御前ですので」
「そんなことはいいの」
どうでもいいと返すアンでした。
「無理はしないことよ」
「だからですか」
「そう、起きなくてもいいわ」
こうマリューさんに言います。
「わかったわね」
「王女様のお言葉なら」
マリューさんもベッドの中で頷きました、そしてでした。
アンはすぐにです、お花をその場で磨り潰しました、するとお花は銀と緑のストライブのとても奇麗なシャーベットみたいになりました。
そのお花から作ったお薬をです、マリューさんに差し出して言いました。
「さあ、これを飲んで」
「このお薬を飲めばですね」
「そう、その病気はすぐに治るわ」
アンはにこりと笑ってマリューさんに答えました。
「だからすぐにね」
「これを飲んで」
「そう、元気になって」
「わかりました、それでは」
マリューさんもアンの言葉に頷いてです、そのうえで。
そのお薬を受け取ってお口の中に含みました。すると。
その熱で赤くなっているお顔が徐々に普通の色になっていってです、それまで苦しそうだった表情もです。
あっという間に元気なものになってです、こうアンに言いました。
「このお薬を飲みましたら」
「治ったのね」
「この通りです」
こうアンに答えたのでした。
「もうベッドから起き上がれます」
「よかったわ、もうこれで大丈夫ね」
「はい、それと」
マリューさんはここでアンと一緒にいるベッツイを確認しました。そしてそのベッツイに対して笑顔で言いました。
「ベッツイ王女がおられるということは」
「あっ、無理はしないで下さい」
「いえいえ、もうすっかり大丈夫ですよ」
マリューさんはアンににこりと笑って答えました。
「この通り」
「それで、ですか」
「はい、もう今からです」
「ジャムを作られるんですね」
「黄金の林檎から作ったジャムですね」
「そうです、それをですね」
「今すぐに作られます」
こうアンに答えるのでした。
「ですから」
「そのジャムを」
「今から作りますので」
「それでそのジャムを受け取って、ですね」
「ヘンリーさんとエムさんの結婚記念日にお二人にお渡し下さい」
「わかりました、じゃあお願いします」
ベッツイはあらためてマリューさんにお願いしました、そしてです。
マリューさんはすぐにベッドから起き上がってです、キッチンに立ってそこにあった黄金の林檎を手に取って。
ジャムを作りました、そのジャムをガラスの瓶に入れるとそこには黄金の色をしたとても奇麗なジャムがありました。
そのジャムを見てです、ナターシャは喉をごくりと鳴らしてからアンに尋ねました。
「このジャムがですね」
「ええ、見ていたわよね」
「はい、黄金の林檎のジャムですね」
「そうよ、マリューだけが作られるね」
「伝説のジャムですね」
「黄金の林檎は普通の林檎と違うの」
このことからお話するアンでした。
「だからジャムを作るにもね」
「普通のジャムとは違うの」
林檎のそれとは、というのです。
「他のお料理に使うにもね」
「パイやお茶にもですか」
「そう、黄金の林檎はまた別なのよ」
「ううん、それでなんですか」
「黄金の林檎を使ったお料理はマリューだけが作られるのよ」
「魔法みたいなものなんですね」
「そうね、お料理でもね」
それでもとです、アンはナターシャに答えました。
「魔法に近いわね」
「その人だけが出来ることだから」
「そう、だからね」
それで、とです。アンはナターシャにさらにお話するのでした。
「魔法かって言われるとね」
「それが、なんですね」
「そう、似ているわ」
魔法ともとです。
「実際にね」
「何でも極めると魔法に近くなるのかな」
ここで言ったのはカルロスでした。
「お料理にしてもサッカーにしても」
「サッカーも?」
「ペレさんなんて凄いから、昔の映像を観ると」
カルロスは首を傾げさせつつナターシャにお話します。
「信じられない動きしてるから」
「だからそう言うのね」
「うん、お料理でもサッカーでもね」
「極めると魔法に近くなる」
「そうなるのかな」
「そうかも知れないわね」
アンがカルロスに答えました、今度は彼にです。
「何でもね」
「極めるとですね」
「魔法に近くなるのよ」
「職人芸というんでしょうか」
恵理香がアンに言ってきました。
「それは」
「そういえばマリューもね」
「職人ですよね」
「ええ、言われてみればね」
そうなるとです、アンは恵理香にも言いました。
「そうなるわね」
「よく日本じゃそう言われます」
「職人芸は魔法に近い」
「神技と」
「そういえばマリューさんのジャムを作る手際は」
ジョージはそのマリューさんの手のジャムを見て言いました。
「凄い速くその手際もよくて」
「マリューは普通のジャムもいつも作ってるわよ」
「それで、ですね」
「ええ、普通のジャムも絶品なのよ」
「だからなんですね」
「ジャムを作ることでウーガブーの国にマリュー以上の人はいないわよ」
そこまで上手だというのです、マリューさんのジャムの腕は。
「多分オズの国でもそうはいないわ」
「だから神技、魔法なんですね」
神宝も目を瞠ってマリューさんを見ています。
「何か凄い勉強になります」
「極めることってことね、その技を」
「そうなりますね」
「さて、それではです」
そのマリューさんが言ってきました。
「これから」
「このジャムを」
「エメラルドの都に持って行って下さい」
こうベッツイに言うのでした。
「そしてご夫婦を楽しませて下さい」
「わかりました、それでは」
ベッツイはそのジャムを受け取りました、そのうえで。
マリューさんに深々と頭を下げてお礼を言ったのでした。
「有り難うございます」
「また何かあれば何時でも仰って下さい」
「いいいんですか」
「はい、どうぞ」
こうお話してでした、そして。
ベッツイがジャムを受け取って鞄の中にしまったのを見届けてからです、アンは皆に笑顔で言いました。
「それじゃあね」
「ええ、ここに来るまでにお話してくれた通り」
「皆王宮に来て」
こう皆に言うのでした。
「是非ね」
「それで、よね」
「皆王宮のシェフのお料理を楽しんで」
笑顔での言葉でした。
「フランス料理にイタリア料理、それに」
「ドイツ料理ね」
「本当に凄く美味しいから」
そのシェフの人のお料理だというのです。
「楽しみにしてね」
「では王宮に案内させてもらうわ」
ベッツイはこう答えてでした、そしてです。
皆はアンに案内されて王宮に向かいました、そのうえで。
王宮の中に入りました、ウーガブーの王宮は黄色い大理石のとても奇麗なものです。ですがアンはその王宮の中に入ってからです。
皆にです、申し訳なさそうに笑ってこう言いました。
「小さいでしょ」
「この王宮が、ですか」
「ええ、小さいでしょ」
こう皆にお話するのでした。
「この王宮は」
「そうでしょうか」
ナターシャは首を傾げさせてアンに応えました。
「別に」
「そうかしら」
「確かにエメラルドの都の宮殿程大きくはないですけれど」
「あの宮殿はまた特別ですから」
恵理香もアンに言うのでした。
「比べたら駄目ですよ」
「そうなのね」
「はい、この宮殿も大きいですし。それに」
「それに?」
「奇麗ですよ」
「大理石がぴかぴかしているじゃない」
ハンクも言ってきました。
「だから充分過ぎる程ね」
「奇麗で充分だっていうのね」
「僕はそう思うよ」
「これだけ奇麗でしかもあんたが言う程小さくないから」
猫は宮殿の大きさについても指摘します。
「全然大丈夫よ」
「だといいけれど」
「それじゃあこれからよね」
またベッツイがアンに言いました。
「皆で」
「ええ、たっぷり食べてもらうわ」
「フランス料理にイタリア料理、ドイツ料理を」
「本格的な宮廷料理だから」
それをというのです。
「これから楽しんでもらうわ」
「それじゃあ」
こうしてです、皆は王宮の食堂の中にも案内してもらいました。そこもまた非常に奇麗な黄色の大理石のお部屋でした。
そのお部屋の中に入ってです、皆で。
次から次に運ばれて来る宮廷料理を食べます、宮廷料理といってもです。
パスタやソーセージもあります、神宝はトマトとガーリック、それに茄子のスパゲティを食べながら笑顔で言いました。
「いや、王女さんの言われた通り」
「美味しいわね」
「はい、とても」
こうアンに言うのでした。
「美味しいです」
「それじゃあね」
「このパスタもですね」
「食べてね、そしてね」
「その次のお料理もですね」
「遠慮なくて」
食べて欲しいというのです。
「是非ね」
「わかりました、それじゃあ」
「この茄子やトマトも黄色ですね」
ジョージはアンにこのことを尋ねました。
「ウィンキーの国だけあって」
「そうよ、見ての通りよ」
「そうですよね」
「けれど美味しいでしょ」
「はい、最高のお野菜です」
色は違えど、です。
「とても美味しいです」
「だからね」
「このお野菜もですね」
「食べてね」
「わかりました」
「お野菜のお料理もまだ来るから」
「さっきはサラダが出て」
カルロスも言ってきました。
「さらにですね」
「そう、お野菜のお料理はまだあるから」
「王宮ではお野菜もよく食べるんですね」
「果物もね」
こちらもというのです。
「よく食べるわ」
「姫様はお野菜と果物が大好物なのです」
ここで控えていた従者の人が言ってきました。
「好き嫌いなく召し上がられます」
「美味しいからよ」
そのアンがにこりと笑って言ってきました。
「それでなのよ」
「美味しいからですか」
「そう、だからよ」
それでだと言いつつ実際にそのお野菜もたっぷり入っているスパゲティをフォークを使って食べていきます。
「この通りね」
「召し上がられるんですね」
「いつもそうしているの、勿論お魚やお肉も好きよ」
そちらもというのです。
「結局私は何でも食べる娘ということね」
「それが一番いいと思います」
カルロスはそのアンに笑顔で応えました。
「何でも美味しく食べられますから」
「だからなのね」
「はい、何でも食べられることが一番です」
「だったらこのまま」
「好き嫌いなくいくべきですよ」
「じゃあこれからもね」
「はい、それで」
「何でも美味しく食べることにするわ」
こう言ってです、実際に。
アンはスパゲティもその次のお料理も食べていきます、勿論野菜料理もです。
そしてです、お肉もでした。出て来たのは山羊肉をステーキにしたものですがそのステーキもなのでした。
アンはとても美味しそうに食べます、ベッツイはそのアンをにこにことして見ています。そのうえでの言葉はといいますと。
「アンが食べているのを見ているとね」
「どうしたの、今度は」
「いえ、とても美味しそうに食べるから」
それで、というのです。
「見ている方も食欲が出るわ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
「私が食べるのを見るのね」
「見ていいわよね」
「一緒に食べているのに見るなと言う人はいないわよ」
アンはにこりとしてベッツイに言葉を返しました。
「そんなこと言うのはおかしいでしょ」
「ええ、確かにね」
「だからよ」
それで、というのです。
「私はそうしたことは言わないから」
「それじゃあ見させてもらうわね」
「そうしてもいいわ、それじゃああらためて」
「このステーキも食べて」
「デザートもあるから」
「それもよね」
「楽しんでね」
そちらも、というのです。
「ケーキが出るから」
「どんなケーキですか?」
ナターシャはケーキと聞いてです、すぐにアンに尋ねました。
「やっぱりフランスかイタリアの」
「ドイツのケーキよ、正確に言うとオーストリアのケーキね」
「オーストリアの、ですか」
「ザッハトルテよ」
アンはにこりと笑ってそのケーキのこともお話しました。
「今日のデザートはね」
「ザッハトルテですか」
「シェフの作るデザートの中でも一番美味しいケーキなのよ」
そのザッハトルテが、というのです。
「だから皆もね」
「そのザッハトルテをですね」
「食べて、本当にびっくりする位美味しいから」
「それじゃあ」
「ええ、最後まで楽しんでね」
その食事を、というのです。そしてでした。
皆はお料理のコースを食べていってです、遂にザッハトルテを前にしました。ザッハトルテはとても奇麗な黄色です。
その黄色いケーキを前にしてです、アンは皆に言いました。
「黄色いカカオのチョコレートを使っているからなのよ」
「黄色いんですね」
「チョコレートの色じゃなくて」
「そうなの、だから色は黄色いの」
ナターシャ達にこうお話するのでした。
「けれど味はね」
「それはですね」
「他のオズの国の食べものと同じで」
「味は変わらないから」
このこと自体はというのです。
「安心してね」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
「ええ、食べてね」
こうして皆でザッハトルテも食べます。黄色いチョコレートに覆われたスポンジもまた黄色です。その黄色いケーキをお口の中に入れますと。
チョコレートの強烈な甘さがお口の中を支配しました、その甘さにナターシャは満面の笑顔になってアンに言いました。
「王女さんのお言葉通りでした」
「美味しいでしょ」
「はい、とても」
「この強烈な位の甘さがね」
「いいですね」
「そうなの、コーヒーもあるから」
こちらもです、色は黄色です。ですがその上に乗っているクリームは白い普通のクリームと同じものです。
そのクリームを上に乗せたコーヒーを出してです、アンはこうも言うのでした。
「こちらもね」
「飲んで、ですね」
「味と香りを楽しんでね」
「わかりました、それじゃあ」
こうして皆はコーヒーも飲みつつザッハトルテを楽しみました。そうしてコースを最後まで食べると皆もうお腹一杯でした。
そしてお腹一杯になったところで、です。ベッツイは皆に言いました。
「じゃあこれからね」
「はい、エメラルドの都にですね」
「戻るんですね」
「そうしましょう」
こう皆に提案したのです。
「これからね」
「はい、それじゃあ」
「これから」
「あら、もう行くの?」
アンはベッツイ達のお話を聞いて目を瞬かせて尋ねました。
「今日はここで泊まったら?」
「いえ、折角ジャムを受け取ったからね」
「すぐにでもなのね」
「そう、エメラルドの都に帰りたいから」
だからだというので。
「もうね。発たせてもらうわ」
「一刻も早くエメラルドの都に戻って」
「結婚記念日まではまだ時間があってもね」
ヘンリーおじさんとエムおばさんのです、ベッツイが黄金の林檎のジャムをプレゼントする。
「それでもなの」
「早く戻って」
「そしてなの」
それで、というのです。
「記念日まで都の皆と喜びを分かちたいの」
「そうしたいからなのね」
「今はすぐに戻りたいから」
「そうね、それに早く発った方がね」
「困ったことがあっても間に合うわ」
時間的な余裕も出来るからというのです、ベッツイはもう発ちたいというのです。
「だから今から出発するわ」
「わかったわ、それじゃあね」
アンはベッツイの考えを受け止めました、そうして笑顔で言いました。
「また会いましょう」
「ウーガブーの国に来ていいかしら」
「どうぞ」
笑顔での返事でした、アンのそれは。
「何時でもこうしておもてなしさせてもらうわ」
「それじゃあね」
「ええ、またね」
ベッツイ達とアンは笑顔でお別れをしました、けれどそれは一時のものでまた一緒に楽しく遊ぶことを約束してでした。ベッツイ達はエメラルドの都に戻るのでした。
無事に花を持ち帰ることが出来て良かったな。
美姫 「マリューも元気になったしね」
その陰で無事、ジャムは手に入ったな。
美姫 「一晩ぐらいはゆっくりするかと思ったけれど」
すぐにウーガブーの国を発ったな。
美姫 「後は帰るだけね」
何事もないとは思うが。
美姫 「時間も少しは余裕があるし大丈夫よ」
だな。次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」