『オズのベッツイ』




                 第五幕  果樹園と巨人の国

 一行はハーグの都に向かいます、その途中で、です。
 果樹園の中に入りました、その果樹園の中においてです。
 ベッツイは皆にです、こう言いました。
「ここはハーグの都の人達の果樹園だけれど」
「それでもですね」
「この果樹園の果物はなんですね」
「ええ、食べていいのよ」
 そうだというのです。
「自由にね」
「随分気前がいいですよね」
 カルロスはベッツイの言葉を聞いてハーグの人達特に皇帝の気前のよさに感嘆しました。
「食べていいなんて」
「それも幾らでもね」
「本当に気前がいいですね」
「だって、幾ら食べてもね」
 周りにあるプラムや林檎等を見ての言葉です。
「すぐに生えて実るから」
「だからですか」
「そう、ここにいる鳥や動物達も食べているわよ」
 すぐ傍で小鳥達がオレンジをとても美味しそうに食べています。
「だから私達もなの」
「食べていいんですね」
「ええ、そうよ」
 ベッツイは笑顔で五人にお話するのでした。
「遠慮なくね」
「じゃあお言葉に甘えて」
「是非」 
 五人はすぐにでした、周りにある様々な果物を自分の手でもいでです。そのうえでお口の中に運んでいってです。
 食べはじめました、そのうえで言うのでした。
「うわ、美味しい」
「もうとても」
「こんなに美味しいなんて」
「本では読んでいたけれど」
「これはかなり」
「沢山食べてね」
 そう言うベッツイ自身です、いちじくをにこにことして食べています。
「本当にどれだけでもあるから」
「はい、ただ」
 ここでナターシャがそのベッツイに言います。
「果物だけですと」
「お腹が膨れないわよね」
「果物はビタミンがありますけれど」
「そうでしょ、丁渡お昼だからね」
 それでというのです。
「パンと牛乳も出すわ」
「そしてですね」
「ついでだからお昼にしましょう」
 果物を食べるついでにというのです。
「そうしましょう」
「そうですね、それじゃあ」
「そう、食べてね」
 そしてというのです。
「それからハーグの都に向かいましょう」
「そういうことですね」
「まずは食べることよ」
 とにかくこのことにこだわるベッツイでした。
「お腹が一杯になってね」
「そして、ですよね」
「いつも言ってるけれど何かが出来るから」
 それでというのです。
「食べましょう」
「そうですね、それでなんですけれど」
「それで?」
「ベッツイさんが今召し上がっているいちじくですけれど」
 そのいちじくを見て言うのでした。
「とても美味しそうですね」
「よかったら貴女もどうかしら」
 ベッツイはそのいちじくを一個ナターシャに差し出しましあた。
「これね」
「いえ、それはベッツイさんが」
「私が食べて」
「はい、それから」
 そのうえでというのです。
「私は私で、です」
「いちじくの木から自分でなのね」
「取って食べます」
 そうするというのです。
「そうしますから」
「いいのね」
「はい、お気遣いなく」
「じゃあ私も」
 桃を食べていた恵里香もいちじくの木を見て言うのでした。
「いちじくを」
「僕は葡萄を食べるよ」
「僕は次は林檎かな」
 バナナと食べているジョージと梨を食べている神宝はこちらでした。
「そっちも美味しそうだし」
「それもかなりね」
「僕はメロンかな」
 カルロスはたわわに実ったメロンをです、プラムを食べつつ見ています。
「あのメロン凄く美味しそうだね」
「メロンね、だったらね」
 ベッツイはカルロスがメロンを見ているのを見て彼に答えました。
「切る必要があるから」
「だからですね」
「ええ、これをどうぞ」
 こう言ってでした、カルロスに果物ナイフを差し出しました。それもちゃんと刃の方を持って柄のところから差し出します。
「使ってね」
「有り難うございます」
「メロンを切ってね」
「その中をですね」
「好きなだけ食べてね」
 こう言うのでした。
「是非ね」
「わかりました」
「そうそう、ナイフで切っただけじゃ駄目よね」
 ベッツイはカルロスがナイフを受け取ってからさらに言うのでした。
「それじゃあね」
「はい、それにですね」
「スプーンもどうぞ」
 今度はスプーンを差し出したのでした。
「これも」
「有り難うございます、それじゃあ」
「メロンも美味しいから」
「物凄く美味しそうです」
 カルロスはメロンをじっと見たままです、心から食べたいと思っていることがよくわかります。そのこともなのでした。
「今すぐ食べたい位です」
「カルロスってメロン好きなの?」
「実際そうですね」
「やっぱりそうなのね」
「大好きです」
 好き以上にというのです。
「見ているだけで喉がなります」
「あら、本当に大好きなのね」
「見ているだけで」
 それこそというのです。
「喉が鳴ります」
「じゃあどうぞ」
「はい、いただきます」
 こうしてでした、カルロスはとても大きなメロンを自分から取ってそして切ってスプーンで食べるのでした。
 そしてそのメロンを食べつつです、こうも言いました。
「こんなに美味しいメロンはそうは」
「ないっていうのね」
「ブラジルにも日本にもないです」
「そんなに美味しいの?」
 カルロスのお話を聞いてでした、恵里香が顔を向けてきました。
「そのメロンって」
「うん、凄く美味しいよ」
「じゃあ一個貰おうかしら、私も」
「幾らでも食べていいっていうからね」
「それじゃあよね」
「食べていいわよ」
 勿論とです、ベッツイは恵里香に答えました。
「そのメロンもね」
「それじゃあメロンも」
 恵里香は実際にメロンを手に取りました、ベッツイは彼女にもナイフとスプーンを差し出しました。そしてなのでした。
 恵里香もでした、こう言いました。
「凄くね」
「美味しいよね」
「ええ、凄くね」
 こうカルロスに答えるのでした。
「こんな美味しいメロンはね」
「確かにね」
「そうそうないよ」
「本当にオズの国の食べものは美味しいけれど」
「このメロンもね」
「いいね」
「ええ、とてもね」
 こう言うのでした。
「凄く」
「そうだね、ただ」
「ただ?」
「これだけ美味しい果物が多いとね」
「食べるのに困るのね」
「どうにもね」
 それで困るというのです。
「何を食べたらいいのかな」
「ううん、もう好きなものを食べて」
「好きなものを?」
「それでいいんじゃないかしら」
「全部食べてなんだ」
「ええ、それでね」
「お腹一杯になたtらそれで終わりで」
 カルロスは恵里香の言葉を理解して言いました。
「そういうことかな」
「ええ、それでどうかしら」
「そうだね、それでいいね」
 カルロスも恵里香の言葉を受けて頷きました。
「もうね」
「ええ、好きな果物を食べてね」
「パンも食べて」
 カルロスはこちらも忘れていませんでした。
「そして牛乳もね」
「ええ、こうしたお昼もいいわよね」
「パンと果物もね」
 そして牛乳です。
「シンプルだけれどね」
「かえってそれがいいわね」
「うん、果物はいいよね」
「身体にもいいのよ」
「ビタミンが凄くあって」
「そうよ、ビタミンも摂らないとね」
 ナターシャも言ってきました。
「駄目なのよ」
「そういえばナターシャよくオレンジとか食べてるわよね」
 見れば今もです、ナターシャはオレンジを食べています。
「今だってそうだし」
「柑橘類を特に食べるようにしているわ」
「好きだから」
「好きだしそれにね」
「ビタミンもなのね」
「そう、摂らないと駄目だから」
 そして、でした。何故摂らないと駄目なのかということもです。ナターシャは恵里香達にお話するのでした。
「身体によくないのよ」
「それは私も知ってるけれど」
「壊血病になるわよ」
「j壊血病って」
「そう、あの病気になるから」 
 だからだというのです。
「果物は気をつけて食べているのよ」
「壊血病なんて」
 それこそと言う恵里香でした、そしてです。 
 神宝もです、首を傾げさせて言うのでした。
「今時そんな病気ないんじゃ」
「うん、ないよね」
 カルロスも同じ意見です。
「もうね」
「そもそも壊血病ってそうそうならないよ」
 ジョージにしても言うのでした。
「果物とかお野菜があれば」
「なかったらなるわよ」
 ナターシャは四人に言うのでした。
「ロシアではね」
「ああ、ロシアはね」
「確かにね」
「お野菜や果物はね」
「寒いのよ」
 寒い、まさにそのことによってなのです。
「お野菜も果物も長い間冬は困っていたのよ」
「冬は植物自体が育たないからね」
「ロシアはその冬が長いから」
「それでだね」
「オレンジなんて今みたいに手に入らなかったの」
 恵里香はそのオレンジも食べつつ言うのでした。
「そのお話を昔から聞いてるからなの」
「ナターシャは果物を食べるんだ」
「今みたいに」
「そういうことなんだね」
「私も今は壊血病にならないことはわかってるわ」
 そう簡単にはです。
「ロシアでもそうよ」
「けれどだね」
「そのことが頭にあるから」
「どうしても」
「ええ、食べるようにしているの」
 壊血病のことが頭にあるからなのです。
「いつもね」
「そうなのね、じゃあ蜜柑も」
 恵里香はオレンジと同じ柑橘類というのでこの果物も出しました。
「あれも」
「好きよ」
「そうよね、蜜柑もね」
「ええ、大好きよ」
 実際にそうだというのです。
「冬によく食べるわ」
「私と一緒に遊んでいる時も食べてるわよね」
 お部屋の中でゲーム等をしている時にです、ナターシャはよく蜜柑を食べているのです。
「ビタミンは摂らないと、それに美味しいし」
「そういうことね」
「そう、食べているわ」
 ナターシャはオレンジの後はネーブルも手に取るのでした。
「こうしてね」
「そうね、後ね」
「後?」
「私は柑橘類が好きだけれど」
 恵里香が今手に持っている果物を見ての言葉です。
「恵里香はそれが好きね」
「柿?」
「あと枇杷もよね」
「確かにどちらもね」
 その両方がというのです。
「好きよ」
「そうよね」
「嬉しいことにこの果樹園にはどちらもあるから」
「両方食べるのね」
「特に柿よ」
 この果物をというのです。
「好きよ」
「それで今から」
「柿は大好きよ」
 本当にとです、恵里香はナターシャににこりと笑って答えました。
「本当に」
「柿は。確かに美味しいけれど」
 それでもと言うナターシャでした、柿については。
「渋いものもあるから」
「あっ、早い柿はね」
「あれは少し」
「うん、渋柿はね」
 恵里香も渋柿にはやや苦いお顔です。
「私も駄目よ」
「食べてしまった、って思ったことがあるわ」
「あるわ、柿の甘さは好きだけれど」
「渋さは」
 それはなのでした。
「苦手よ」
「そうよね」
「柿はね、私も好きよ」
 ここでベッツイも言ってきました。その横ではハンクが草を食べています。彼はここでも草を食べているのです。
「ただ、やっぱりね」
「渋柿はなんですね」
「ベッツイさんも」
「ええ、あれはね」
 どうしてもというのです。
「無理よ」
「普通の柿はいいですよね」
「そちらはいいのよ」
 好きだというのです。
「けれど渋い柿は駄目よ」
「じゃあ干し柿は」
「あっ、柿を干した」
「はい、あちらは」
「干した果物は好きよ」
 干した果物についても言うベッツイでした。
「干し柿もね」
「じゃあ渋柿は」
「干してよね」
「召し上がるといいです」
 それならというのです。
「そうすれば」
「そういうことね」
「渋さも干せば甘くなります」
「そこが面白いわよね」
「はい、柿だけでなく果物は」
「私干した果物も好きだから」
 ベッツイはにこにことしてこのこともお話するのでした。
「干し柿もね」
「あれはいいドライフルーツですね」
 恵里香もベッツイに応えます。
「日本のドライフルーツの一つで」
「ええ、柿の渋さがなくなってね」
「甘さが残って」
「私も好きよ」
「それは何よりです、けれど干し柿はオズの国にもあるんですね」
「だから同じ時代のアメリカが反映されるのよ」
 文化はです、勿論その文化の中に食べものも入ります。
「日系人の人もいるじゃない」
「それで、なんですね」
「そう、だから干し柿もあるのよ」
 その柿を食べる日本から来た人もアメリカにはいるからというのです。
「それで私達も食べられるのよ」
「そういうことなんですね」
「これまで私達が出した食べものと同じよ」
「和食、中華もですね」
「ボルシチなんかもね」
 ベッツイはナターシャにも視線を向けて微笑んで言います。
「出るのよ」
「アメリカにはロシア系の人もいるから」
 ナターシャも言います。
「それで、ですね」
「そうよ、だからボルシチもあるのよ」
「成程」
「そしてオズの国にも反映されているのよ、国民の人達にしても」
「あっ、そうですよね」
 ここで恵里香はふと気付いて言いました。
「オズの国の人達は色々な人達がいますね」
「白人だけじゃないわね」
 ナターシャも言います。
「アジア系の人も黒人の人もいて」
「ラテン系の人もね」
「そうでしょ、アメリカと一緒よ」
 人種的なことについてもというのです。
「最初は違ったかも知れないけれど」
「今は、ですね」
「そう、変わったのよ」
「だから皆僕を見ても普通なんですね」
 お肌の黒いカルロスの言葉です。
「黒人でも」
「アフリカ系の人も沢山いるからね」
 オズの国にはというのです。
「だからね」
「そういうことですね」
「そう、どの国にも色々な人がいるわよ」
「そしてかかしさんや木樵さんも」
「そうした人達もいるのよ」
 姿形がベッツイ達とは違う人達もというのです。
「そうなっているのよ」
「成程、そういうことなんですね」
 カルロスもベッツイの言葉に納得して頷きました。
「オズの国は本当にアメリカなんですね」
「それもアメリカのいい部分だね」
 アメリカ人のジョージの言葉です。
「アメリカは色々ある国だけれどね」
「そうそう、貴方はアメリカ人だったわね」
「そうなんですよ」
 ジョージはベッツイに微笑んで答えました。
「僕は」
「カルフォルニアよね」
「ロサンゼルスです」
「アメリカであの街が一番色々な人達がいるわよね」
「そうですね、日系人も中国系もアフリカ系も」
「ラテン系もね」
「いますよ、僕の友達にも一杯」
 そのラテン系、つまりヒスパニックの人達がというのです。
「メキシコから来た子達が」
「そうなのね」
「皆でよく野球やバスケしてます」
 ジョージの好きなそうしたスポーツをというのです。
「アメリカにいる頃は」
「日本ではどうなの?」
 日本人の恵里香の問いです。
「あの時と同じ?」
「それは恵里香も見てるじゃない」
「うふふ、そうね」
 そう言われるとです、恵里香も笑って応えます。
「ジョージいつも皆と明るく遊んでるわね」
「サッカーはあまりしないけれどね」
 こちらのスポーツはというので。
「野球やバスケ程は」
「そうよね、ジョージが一番好きなのは野球よね」
「その次にバスケだよ」
「ところでオズの国の中華街ですけれど」
 神宝もベッツイに尋ねます。
「カドリング以外では赤くないですよね」
「ええ、それぞれのお国の色になってるわね」
「はい、全然違いますね」
「あちらの世界では中華街は赤いのよね」
「中国では赤は縁起のいい色ですから」
「だから赤が多いのよね」
「はい、けれどこのウィンキーの国では黄色くて」
 そしてそれぞれの国の色なのです、それぞれの国の中華街では。
「そうなっていますね」
「それが神宝には違和感があるのね」
「少し」
 そうだというのです。
「そこが最初気になりました」
「やっぱりそうよね」
「けれどそれがオズの国なんですね」
「そうよ、オズの国はアメリカを反映しているけれどアメリカとは別の国なのよ」
 同じ世界の何処かにあるのですがそれでも違う世界でもある、オズの国はそうした世界でもあるのです。
「だからそうなっているのよ」
「アメリカであってアメリカでない」
 ナターシャは腕を組んで述べました。
「オズの国ですね」
「そうよ、それがオズの国なのよ」
 そうしたお話をです、ベッツイは皆としました。そしてそのお話が終わった時には丁渡お昼御飯も食べ終えました。
 ベッツイは最後の牛乳を飲んでから皆に言いました。
「じゃああらためてね」
「これからですね」
「ハーグの都にですね」
「そう、行きましょう」
 こう言うのでした。
「お腹一杯になったし」
「巨人の国ですね」
 ナターシャがベッツイに微笑んで応えます。
「今度は」
「そうよ、そして怪力の皇帝さんよ」
「そのヴィグ皇帝ですね」
「あの人に会えるわよ」
「オズの国って本当に色々な人がいますね」
 再びヴィグ皇帝のことを聞いてです、ナターシャはしみじみとして言いました。
「皇帝さんにしても」
「そうでしょ、だから握手はね」
「危ないですね」
「あの人達も注意してるから」
 握手することを、というのです。
「だって相手の人を挨拶で傷つけたら駄目でしょ」
「それはおかしいですよね」
「そう、だからね」
「握手の挨拶はしないんですね」
「ゾソーゾのお薬を飲んだら大丈夫だけれど」
「私達も怪力を備えたら」
「そうなれば大丈夫だけれど」
 けれどそうでないのならというのです。
「だからよ、いいわね」
「はい、握手はなしで」
「そういうことでね」
 こうお話してでした、皆は立ち上がってです。
 そうしてハーグの都に向かうのでした、程なくして城壁に囲まれた街が見えてきました。そしてベッツイ達がその城門の前に来るとです。
 ふとです、その城門の上からです。
 大きな男の人のお顔がぬっと出て来てです、こう言ってきました。
「あっ、ベッツイ王女」
「お久しぶり」
 その大きな人にです、ベッツイはお顔を見上げて笑顔で挨拶をしました。
「お元気かしら」
「元気ですよ、わしは」
 巨人は明るい笑顔でベッツイに答えました。
「この通り」
「それは何よりよ」
「で、今日は何の御用で」
「ちょっと旅行をしていてね」
 それでとです、ベッツイは巨人に答えます。
「ここに寄ったのよ」
「皇帝陛下にお会いに来られたんですか」
「そうよ、陛下はお元気かしら」
「元気も元気で」 
 巨人はベッツイに笑って答えます。
「今朝もステーキを五枚ぺろりと」
「あら、随分食べたのね」
「そうなんですよ、もう」
 それこそとです、巨人は笑って皇帝のことをお話するのでした。
「それからわし等を相手に相撲やトレーニングをして」
「汗をかいてなの」
「元気にしておられますよ」
「それは何よりね、それじゃあ」
「はい、陛下のところに案内しますね」
「それじゃあお願いするわね」
「おや、ハンクの旦那とガラスの猫のお嬢ちゃん以外に」
 巨人はここでナターシャ達に気付きました。
「五人いるね、子供が」
「私のお友達よ」
 ベッツイは笑顔で巨人に答えます。
「一緒に旅行をしているのよ」
「ああ、そうなんで」
「そうなの、それでだけれど」
「ええ、その子達もですね」
「ヴィグ皇帝のところに案内してくれるかしら」
「わかりました、それじゃあ」
 こうしてでした、城門が開けられてです。
 一行はハーグの都の中に入れてもらいました、そしてです。
 そのお国の中に入って巨人に案内してもらいながら国の大通りを進みます、その左右には見事な家々やお店が並んでいて人々がベッツイ達を歓迎してくれています。
「やあ王女さん暫く」
「相変わらず元気そうだね」
「はじめての子達もいるし」
「元気そうで何よりだよ」
「楽しんでいってね」
「本当に握手はないですね」
 皆笑顔でベッツイの周りに来てくれますが握手を求めてくる人はいません、ナターシャもそれを見て言うのでした。
「一人も」
「そうでしょ、皆わかっているからなのよ」
「その力の強さをですね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「皆握手はしないの」
「他の挨拶なんですね」
「そうよ、さっき言った通りね」
「気をつけてくれているから」
「私達もそれに応えましょう」
「気遣いには応えないといけないですね」
「そういうことよ」
 まさにそうなるのでした、そしてです。
 皆で一緒に立派な宮殿の中に案内してもらいました、宮殿の中にもハーグの人達がいますがその人達を見てです。
 ナターシャは今度はです、こうしたことを言いました。
「やっぱりどの人も痩せて猫背になっていますね」
「この国の人達はね」
 ベッツイはナターシャの今の言葉にも笑顔で応えました。
「そうなのよ」
「そうですよね」
「そして皇帝さんもね」
 そのヴィグ皇帝もなのです。
「痩せておられるのよ」
「年代記とかに書いている様に」
 ボームさんが書いているそれです・
「そうなんですね」
「そうよ、ただ」
「はい、痩せてられていても」
「怪力なのよ」
 このことは変わらないというのです。
「だからそのことはわかっていてね」
「わかりました」
 ナターシャは五人を代表してベッツイに答えました、ハンクは進む中でガラスの猫にこんなことを言いました。
「最初来た時はまた変わった国だって思ったけれど」
「オズの他の国もそうだけれどね」
「うん、それでもね」
「二度目からはそう思わなくなったわね」
「そうなったよ」
 こう猫に言うのでした。
「僕もね」
「そうよね、私もよ」
「けれど僕は驚くけれど」
「私は驚かないわよ」
 そこは違うというのです。
「好奇心を満足させられて喜ぶだけよ」
「それだけだね」
「私はね」
「そうしたところは猫だね」
「そうよ、猫は好奇心が強いのよ」
 それもとてもです。
「だから私も驚かないのよ」
「そういうことだね」
「そう、それに他の猫は驚くことがあるけれど」
「君はだね」
「私程になると驚くことはとても少ないわ」 
 いつも自信満々であらゆる見てもあらその程度なの、と思う位だからです。
「何があってもね」
「そういうことだね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「私は最初から驚くことは滅多にないのよ」
「好奇心を満足させられても」
「そういうことよ、驚かないことはそれだけで大きいでしょ」
「冷静のままでいられるとね」
 それだけで大きいとです、ハンクも認めます。
「違うよ」
「そうでしょ」
「確かに君のそうした性格は役に立つことも多いね」
「冷静でいられる」
「いつもそうでいられることはね」
「私の最大の武器の一つよ」
 こう誇らしげに言う猫でした、そしてです。
 一行はヴィグ皇帝の前に来ました、立派な服と冠を身に着けた痩せた男の人です。皇帝はベッツイ達を見てすぐに笑顔で言ってきました。
「ようこそ、我が国へ」
「ええ、お邪魔させてもらったわ」
 ベッツイが微笑んで皇帝に挨拶を返します。
「旅の途中でね」
「ほう、旅の」
「そうなの、実はね」
 何故旅に出ているのかをです、ベッツイは皇帝にもお話しました。皇帝はその一部始終を聞いてからこう言いました。
「事情はわかった、しかし」
「しかし?」
「ウーガブーの国の主であるアン女王だが」
「あの人がどうかしたの?」
「今はウーガブーの国にはいない」
 このことをです、皇帝はベッツイ達にお話しました。
「何でも君達はトラブルに遭うと言われたそうだが」
「このことかしら」
「そうかも知れないな」
「このままウーガブーの国に行ったら残念なことになっていたわね」
「そうだな、女王がいないとな」
「黄金の林檎はとても貴重なものだから」
 オズの国にあるものの中でもです、とりわけそうであるものの一つです。
「貰ってジャムを作ってもらうにはね」
「国家元首である女王の承認が必要だな」
「そうなの、あの黄金の林檎はね」
 女王本人の、というのです。
「いると思っていたから特に気にしていなかったことだけれど」
「しかしだ、女王は今はウーガブーの国にはいない」
 皇帝はベッツイに確かな声で答えました。
「残念だが」
「あの、一ついいですか?」
 神宝が右手を挙げて皇帝に尋ねました。
「皇帝陛下」
「うむ、何だね」
「どうして皇帝陛下がそのことをご存知なんですか?」
「余がアン女王が今ウーガブーの国にいないことをだね」
「はい、皇帝陛下はこの国から離れませんよね」
「城壁の外から出たことはない」
 皇帝は微笑んで神宝に答えました。
「これまで」
「じゃあどうしてそのことをご存知なんですか?」
「それは昨日彼女がこの国に来たからだよ」
「ハーグの都にですか」
「そう、だから知っているのだよ」
 それ故にというのです。
「余は」
「そうだったんですか」
「何でも聞きたいことがあるとかで」
「聞きたいこと?」
「クマセンターに行くそうだ」
「あそこにですか」
「そう、だから彼女は今ウーガブーの国にはいない」
 皇帝は玉座から微笑んで答えました。
「クマセンターに向かっているよ」
「クマセンターというと」
 ジョージはクマセンターと聞いてこう言いました。
「ここから南西ですね」
「少し行ったところよ」
 ベッツイがジョージに答えます。
「この国からね」
「そうですよね」
「まさかあそこにも行くことになるとは思わなかったわ」
 ベッツイにしても予想外のことでした。
「今回の旅で」
「そうですよね」
「ええ、けれど旅は予定通りにはいかないことも多いわ」
 ここでこう言ったベッツイでした。
「特にオズの国の旅ではね」
「それじゃあですね」
 カルロスがベッツイに応えます。
「これから」
「クマセンターに行くわよ」
 その国にというのです。
「そしてアン女王に会うわ」
「あの人とですね」
「さもないと黄金の林檎が手に入らないわ」
 その林檎から作るジャムがです。
「だからね」
「わかりました、じゃあ今度は」
 カルロスも他の皆も頷いてでした、皆はクマセンターに行くことにしました。そのお話が整ったところで、です。
 皇帝は一行にです、笑顔でこう言いました。
「さて、お昼が過ぎて」
「はい」
「三時になった」
 こう思わせぶりに言うのでした。
「そう、三時だから」
「おやつですね」
 ナターシャは微笑んでその皇帝に応えました。
「その時間ですね」
「そう、これから余はおやつを食べるつもりだが」
「そのおやつをですね」
「諸君等もどうか」
 こう皆に言うのでした。
「これから」
「ご相伴に預かってもいいんですか?」
「おやつも一人で食べると少し味気ない」
 しかし、とです。皇帝は言葉をさらに続けました。
「だが多くで食べると」
「それがですね」
「そう、その味気なさが解決される」
 だからだというのです。
「皆で食べよう」
「これから」
「余は普段は国民の誰かを呼び巨人の召使い達も席に座らせているが」
「そして一緒に召し上がっておられるんですね」
「しかしお客人がいればお客人を優先するのが礼儀」
 国の人達よりもというのです。
「だからだ、どうだろうか」
「ええ、それじゃあね」
 ベッツイがです、一行を代表して皆に答えました。
「宜しくお願いするわ」
「では早速だ」
 皇帝は玉座から立ち上がってでした、そのうえで。
 皆を宮殿の食堂に案内しました、そしてその食堂の席に座ってです。
 程なくして来たその大きなケーキを見てです、皆に笑顔で言いました。
「今日のおやつはこれだ」
「ケーキですね」
 ナターシャがそのケーキを見て言います。
「西欧風の」
「ほう、そこで西欧と言うか」
「はい、ロシア生まれなので」
「そうか、ならロシアのケーキもあるが」
「いえ、今はこちらのケーキをお願いします」
「こちらのケーキを食べたいからか」
「そうです、ですから」
 微笑んでお話するナターシャでした。
「ご馳走になります」
「それならな、そして飲みものだが」
 こちらはといいますと。
「それぞれ紅茶とコーヒーがある。ただ」
「ただ?」
「ただっていいますと」
「ここはウィンキーの国だからな」
 その国の中にあるからというのです。
「どちらも黄色い」
「そうなるんですね」
「黄色だからな」 
 こう一行にお話するのでした。
「一見すると見分けがつきにくい」
「そうですよね、ですが」
「君達もわかる様になったかな」
 ウィンキーの国、もっと言えばオズの国における紅茶とコーヒーの違いにです。
「これが」
「はい、徐々にですが」
「それはいいことだ、目で見るだけで見分けられる様になれば」
「それで、ですね」
「何でもかなり違ってくる」
 皇帝はこうも言いました。
「紅茶やコーヒーだけでなくな」
「他のことでもですね」
「見ること以外でも見分けられる様になれば」
 それで、というのです。
「全く違ってくるのだよ」
「そういうことですね」
「確かに同じ色だよ」
「こっちの世界の紅茶とコーヒーは」
「うん、ウィンキーではこの色だよ」
 黄色であることをまたお話するのでした。
「色だけで見分けることは難しい」
「けれどですね」
「紅茶には紅茶の香りがあるのだよ」
 皇帝はその紅茶を飲みつつ五人にお話します。
「そしてコーヒーにはコーヒーの」
「香りがあるんですね」
「このことを知ると大きいよ」
「目だけじゃないってことですね」
「ものを見分けられるものは」
 応えるナターシャにも他の皆にも言うのでした。
「そうなのだよ、人間には目以外にもあるのだから」
「お鼻、耳、お口、神経ですね」
「そして勘もだよ」
 皇帝はこちらも挙げました。
「全てあるのだから」
「その全てを使って、ですね」
「ものごとを見分けるんだ、いいね」
「わかりました」
「あと外見で判断しないことだ」
 このkとおも言う皇帝でした。
「我が国の国民が非力に見えようとも」
「それは、ですね」
「違いますね」
 五人もこのことがわかっているので皇帝の言葉に頷きました。
「実際は凄い力持ちで」
「握手も出来ないですね」
「そうだよ、我々の力は凄いからね」 
 だからだというのです。
「外見だけで判断したらいけないのだよ」
「そういうことですね」
「何があっても」
「その通り、外見で判断すると痛い思いをすることもある」
 笑ってお話する皇帝でした。
「そのこともよく覚えておくんだ」
「オズの国はそうした人や場所が多いですね」
「余は他の世界のことは知らないがそうだ」
 オズの国はそうだとです、皇帝はナターシャの言葉に答えました。
「外見では見分けてはいけない世界だ」
「このハーグの国にしても」
「その通りだよ、ではおやつを楽しんでだ」
「はい、それからですね」
「君達はすぐに出るのかい?」
 旅を再開するかどうかというのです。
「クマセンターに向かうのかね?」
「ううん、そのつもりだけれど」
「そうか、一泊するつもりはないのか」
 このハーグの都にというのです、ベッツイが答えます。
「それはないのか」
「ええ、クマセンターに行かないといけなくなったから」
 だからだというのです。
「今日はね」
「ここを発ってか」
「クマセンターに向かうわ」
「わかった、ではだ」 
 皇帝はベッツイの言葉を聞いて言いました。
「このケーキと飲みものを楽しんでからな」
「それからね」
「出発するといい」
「わかったわ」
「それじゃあね」
 こう応えてでした、ベッツイは皆と一緒に皇帝が出してくれたおやつを食べてです。それからハーグの都を発つのでした。 
 その時です、皇帝はベッツイ達を見送る時にベッツイにガラスの小瓶を一つ渡しました、そのうえでこう言いました。
「これはお土産だよ」
「ゾソーゾのお薬ね」
「いざという時にはね」
「これを使って」
「危機を脱するといい」
 こう言うのでした。
「何かあった時は」
「いいの?」
「ははは、お客さんには贈りものをする」
 それがとです、皇帝はベッツイに笑ってお話します。
「それが余の礼儀なのだよ」
「それじゃあ」
「うむ、ではな」
 こうお話してでした、そのうえで。
 ベッツイは皇帝からゾソージのお薬を受け取りました、そしてです。
 皇帝にです、笑顔で言いました。
「それじゃあまたね」
「うむ、また来てくれ。その時は」
「その時は、なのね」
「今回以上にもてなさせてもらう」
「わし等も待ってますから」
 皇帝の後ろから巨人達も言ってきます。
「是非共」
「ええ、また来させてもらうわ」
 ベッツイは巨人達にも笑顔で応えます。
「その時は今回以上に楽しくね」
「うん、一緒に遊んだりしよう」
「今回楽しめなかったことは次回の楽しみに」
 皇帝は笑顔で言うのでした。
「置いておこう」
「そういうことね」
「楽しみは置いておくとさらに楽しくものだから」
「また次に来た時に」
「また楽しい思いをしよう」
 皇帝はこう言ってベッツイ達を送りました、そしてです。
 一行はハーグの都から今度はクマセンターに向かいました。旅は少し道から逸れることになりました。



このままウーガブーに行ってたら、完全に待ちぼうけ状態だったな。
美姫 「それこそがトラブルだったのかしら」
どうだろうか。まあ、運良く行先を皇帝が知っていたから良かったけれど。
美姫 「行先が変更になったわね」
ああ。逆にそれによってトラブルに遭うのかもしれないしな。
美姫 「一体、何が起こるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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