『オズのベッツイ』
第三幕 ウィンキーの西へ
ジャックのお家で楽しい一夜を過ごしてからです、ベッツイ達はさらに西に進むことにしました。朝食を食べて歯を磨いてお顔を洗ってからです。
一行はジャックのお家を後にしました、その時にジャックがこう言いました。
「ウーガブーの国までは色々な場所があるからね」
「ええ、メリーゴーランドの山脈とかね」
「そうした場所には気をつけてね」
「そういえばウィンキーの西にも色々な人がいますね」
ナターシャはこのことを思い出してジャックに言いました。
「渡し守さんやラベンダーの熊さんも」
「うん、熊君達の行く方向じゃないけれどね」
ウーガブーの国までの道中はです、ジャックはナターシャにも答えました。
「君達が行く方向は」
「けれどウィンキーの西の方には」
「確かに色々な人達がいるよ」
このことは確かだというのです。
「そのことは憶えておいてね」
「わかりました、それじゃあ」
「さて、僕達は暫くここにいるけれど」
「君達はそろそろ行くんだね」
かかしと木樵も一行に声をかけます。
「楽しい道中にならんことを」
「心地よい旅になることを祈るよ」
「有り難う、それじゃあね」
ベッツイは二人にも応えました、そしてでした。
ジャック達と別れて西に向かうのでした、暫く歩いているとです。
平原に出ました、神宝はその川を見てベッツイに尋ねました。
「この川にですよね」
「そう、ここにおられるのよ」
「羊飼いさんが」
「あの人今もここにおられるのよ」
「そうなんですね」
「そしてここで楽しく働いておられるの」
こうお話するのでした。
「あの人はね」
「それは何よりですね」
「あの人がおられるということは」
「はい、ここがあの平原ですよね」
「ウネリ平原よ」
まさにその平原だというのです。
「だから注意してね」
「ウネリ平原の後は、ですよね」
ジョージはベッツイにこの平原から先のことを尋ねました。
「メリーゴーランド山脈ですよね」
「そう、あそこに出るのよ」
「難所続きですね」
「この平原もそうだからね」
「それがウィンキーの西なんですね」
「そう、そしてこうした場所を越えてね」
そして、というのです。
「ウーガブーの国に行くのよ」
「そういうことですね」
「先は長いわよ」
こうも言ったベッツイでした。
「ここは」
「けれどこの場所は」
ここでなのでした、カルロスが言うことは。
「あまり留まってはいけない場所ですね」
「ええ、出来る限りね」
「じゃあ先に行きましょう」
こうベッツイに言うのでした。
「どんどん」
「ええ、ただね」
「羊飼いさんにですね」
「会いに行きましょう」
折角ウネリ平原に来たからというのです。
「今はね」
「羊飼いさんは何処におられるんですか?」
恵里香はその人の居場所をです、ベッツイに尋ねました。
「それで」
「ええ、もう少し西に行ったらね」
「そこに、ですか」
「あの人のお家があるから」
「そこに行くんですね」
「これからね、旅の楽しみはね」
ベッツイはにこにことして恵里香にこうも言います。
「道中で知っている人に会うこともその一つなのよ」
「だからなんですね」
「そう、あの人にお会いしましょう」
「わかりました」
「ただ、あの人は羊飼いだから」
「羊と一緒にですね」
「お外にいるかも知れないわ」
羊はお外にいます、勿論羊飼いもです。それであの羊飼いさんもお外にいるのではないかというのです。
「けれどまずはお家に行きましょう」
「西に行って」
何はともあれ西に進むのでした、そして。
お家が見えたところで羊達がいてです、その羊達と一緒にでした。
その羊飼いさんがいました、羊飼いさんはベッツイの姿を認めて彼女に声をかけました。
「おお、ベッツイ王女か」
「あっ、羊飼いさん」
お互いに笑顔で言葉を交わせます。
「お元気ですか?」
「ははは、この通りだよ」
笑顔での返事でした。
「わしは元気だよ」
「そうですか、それは何よりです」
「それでどうしてここに来たんだい?」
「実はウーガブーの国に行こうと思いまして」
「おやおや、それはまた遠いところに行くね」
ウーガブーの国と聞いてです、羊飼いさんは少し驚いた口調で言葉を返しました。
「あそこまでなんて」
「黄金の林檎で作ったジャムを頂き」
「それはまたいいものを」
「その為にです」
「成程な、ただね」
「ただ?」
「いや、ベッツイ王女は知ってるがね」
羊飼いさんはここで五人を見て言うのでした。
「そっちの子達はね」
「私達ですね」
ナターシャが応えます。
「そうですよね」
「見たことがないけれど」
「この子達は外の世界から来た子達よ」
ベッツイが羊飼いさんに説明します。
「私のお友達よ」
「ああ、外の世界からだね」
「そうよ、だから私と同じになるわね」
「そうだね、王女さん達は外の世界から来てるから」
ベッツイだけでなくドロシーもトロットもです、このことは。
「一緒だね」
「そうよ、それでここに来たのは」
「旅の途中にわしに会いに来てくれたのかな」
「そうなの、お邪魔だったかしら」
「いやいや、そんな筈はないよ」
笑顔で、でした。羊飼いさんはベッツイに答えました。
「誰かが来てくれて邪魔な筈がないよ」
「有り難う、そう行ってくれて」
「王女さん達とは古い友達だからね」
友達に会って不機嫌でいる人はそうはいません、それに羊飼いさんはとてもいい人なのでベッツイ達に会ってもです。
嬉しいのです、そしてこう言ったのです。
「今日はいい日だよ」
「それにしてもここは相変わらずね」
猫が周り、平原を見回してこう言いました。
「うねっているわね」
「ここはウネリ平原じゃよ」
羊飼いさんはその猫に優しい笑顔で答えました。
「それなら当然じゃろ」
「そう言ってしまえばその通りね」
「あとメリーゴーランド山脈もそのままじゃ」
「あそこがそのままなのは嫌だね」
ハンクは羊飼いさんの言葉に少し苦笑いになって述べました。
「それはまた」
「だからわしはあまり行くことは進めぬ」
「うん、そうだよね」
「しかしウーガブーの国に行くのなら」
「あの山脈を越えないとね」
「駄目じゃ、そしてそこで苦労することになる」
そうなるというのです。
「あそこは厄介じゃよ」
「それでも行かないといけないんですよね」
ここでまた言ったナターシャでした。
「あの山脈に」
「そうなるのじゃ、ウーガブーの国に行くには」
「それじゃあですね」
「あそこで山に苦しめられずに進めたらのう」
「お空の上を進めたら楽ですね」
ナターシャはふと閃いて言いました。
「そうですね」
「そうして進められれば楽じゃな」
「その通りですね」
「しかしじゃ」
それでもというのです。
「それが出来るにはな」
「気球があれば」
「空を飛ぶ道具じゃ」
それが必要だというのです。
「気球でなくてもな」
「それが必要ですね、山脈を楽に越えることは」
「私は何度かあの山脈を越えてるけれど」
こう言ったのはベッツイでした。
「だから当然って思っていたけれど」
「それは、ですね」
「そう、貴方達には辛いわね」
山脈を越えることはです。
「考えてみたら」
「そうですか」
「どうしようかしら、このまま越える?」
ベッツイはナターシャ達に尋ねました。
「山脈に回されながら」
「私達も思っていましたけれど」
「じゃあこのまま行く?」
「そうする?」
ナターシャは恵里香達に顔を向けて尋ねました。
「ここは」
「そのつもりだったけれど」
「どうしようかな」
「羊飼いさんのお話を聞くとね」
「やっぱり、かな」
四人はこうナターシャに答えました。
「他の方法で行くことが出来たら」
「それでいいかな」
「ないと最初考えていた通りにそのまま行くけれど」
「あったら」
「まあ他の方向で行きたいのならじゃ」
羊飼いさんが言ってきました。
「わしがあるものを貸すぞ」
「あるもの?」
「あるものっていいますと」
「うむ、この前ここに魔法使いさんが来たことがあってな」
オズの魔法使いです、オズの国の名士の一人であり誰からも愛されている気さくで知恵も備えている人です。
「簡単な気球を借りたのじゃよ」
「気球をですか」
「それを貸そうか」
こうベッツイ達に申し出たのです。
「王女さん達があの山脈を苦労して越えたくないのならな」
「そうしていいんですか?」
「構わんよ、王女さん達は友達じゃ」
羊飼いさんはベッツイに優しい笑顔で答えました。
「だからな」
「そうですか」
「さて、どうするんじゃ?」
こう問うのでした。
「よかったら貸すが」
「ですがお借りしても」
ナターシャが羊飼いさんに言うことはといいますと。
「お返しする方法が」
「ないというんですね」
「山脈を越えたら気球も一緒ですから」
「ああ、その心配はない」
「それはどうしてですか?」
「気球には魔法がかけられていてな」
羊飼いさんはナターシャにお話します。
「一人でにわしのところに帰って来るのじゃ」
「仕事を終えたら」
「そうじゃ、だからそうしたことは気にしなくてもいい」
こうお話してくれるのでした。
「別にな」
「そうなんですね」
「ついでに言うと燃料とかの心配もない」
こちらも、というのです。
「だからじゃ、どうじゃ」
「どうするの?」
ベッツイはあらためてナターシャ達に尋ねました。
「私は貴方達のことを考えるとね」
「気球をですね」
「借りるべきだと思うわ」
そして山脈を越えようというのです。
「是非ね」
「ううん、それじゃあ」
「図々しいとは思いますけれど」
「折角のご好意ですね」
「羊飼いさんが言って仰ってくれるなら」
「僕達としては」
これが五人の返事でした。
「お願いします」
「そうして頂けなら何よりです」
「気球使わせて下さい」
「是非」
「お借りさせて下さい」
「わかった、ではな」
羊飼いさんは五人の返事に笑顔で応えました、そしてです。
皆にです、こう笑顔で言いました。
「わしの家に行くか」
「はい、そしてですね」
「そのうえで」
「わしが気球を出すからな」
そしてというのです。
「一旦来てくれ」
「わかりました」
五人は羊飼いさんに応えました、そして。
ベッツイ達も一緒に行きます、羊飼いさんのお家に入った時にです。
ベッツイは羊飼いさんにです、こう言いました。
「久しぶりにお会い出来ましたし助けてくれますし」
「何かのう」
「お昼ご馳走しますね」
「いやいや、そんなのはいいよ」
笑ってです、羊飼いさんはベッツイに答えました。
「別に」
「それではお昼を一緒に食べませんか?」
羊飼いさんが遠慮したのを受けてです、今度はこう提案しました。
「どうでしょうか、それなら」
「お礼じゃなくてかい」
「はい、ご一緒になら」
「ふむ、好意を断るのはな」
お友達のそれをです。
「失礼じゃしな」
「それではですね」
「わしも一緒に食べさせてもらっていいか」
「はい、是非」
「それではな、これからな」
「一緒に食べましょう」
「あのテーブル掛けから出すのじゃな」
羊飼いさんもこのことを知っているのでした、テーブル掛けのことを。
「そうじゃな」
「はい、そうです」
「それでは羊を出すか」
「マトンですか?ラムですか?」
「ラムがいいのう」
羊飼いさんが食べたいのはこちらでした。
「今日は」
「ラムですね」
「最近オズの国も料理が増えた」
それで羊飼いさんもというのです。
「わしも色々食べる様になったがな」
「そうですね、私が最初にこの国に来た時よりも」
「料理が増えたわ」
「食材も」
「それでわしも色々食べる様になったが」
「羊料理もですね」
「シシケバブも好きでな」
そして、というのです。
「ジンギスカン鍋も好きじゃ」
「和食ですね」
恵里香がその料理の名前を聞いて言いました。
「あのお料理ですね」
「あれは確か元々日本の料理じゃったな」
「はい、そうです」
恵里香は羊飼いさんに日本人として答えます。
「北海道の方のお料理です」
「北海道?」
「日本の北の方にあります」
北海道と聞いて首を傾げさせた羊飼いさんにです、恵里香はにこりと笑ってそのうえで説明したのでした。
「島でして」
「島なんだ」
「はい、日本は沢山の島から成っている国でして」
「オズの国の外側みたいなものかね」
「あっ、海のですね」
「そうだよ、リンキティンク王国の王様がよく行き来しているんだよ」
オズの国の海沿いにある国の一つです、グリンダが治めているカドリングの国にあるとても明るい王様が治めています。そしてリンキティンク王はその国の王様です。
「そうした国にね」
「そうした島々とはまた違いまして」
「別なんだね」
「はい、北海道は寒くて」
そしてというのです。
「そこでは羊をよく食べるんです」
「それがジンギスカン鍋というのじゃな」
「そうなります」
「あの料理が日本の料理とはわしも知っておったが」
「それでもですね」
「北海道でよく食べるとはな」
そのことはだったというのです。
「知らなかったわ」
「そうだったんですか」
「うむ、そういえば和食で羊料理は他にあまりないのう」
「あっ、そういえばだよね」
「そうだよね」
ジョージと神宝も羊飼いさんの言葉にはたと気付きました。
「和食って羊料理が少ないよね」
「沢山の食材を使っているのにね」
「何故か羊料理はね」
「殆どないよね」
「日本人は羊をあまり食べないよね」
カルロスも言います。
「牛肉や豚肉と比べたら」
「実際にそうなの、あまり馴染みがないの」
日本人の恵里香もこう答えます。
「日本人は海の幸、牛肉に鶏肉、豚肉はよく食べるけれど」
「羊はだよね」
「あまりだよね」
「食べないよね」
「他のお肉に比べてね」
少ないというのです。
「殆ど食べないのに」
「羊も美味しいわよ」
ナターシャも恵里香に言います。
「それもとても」
「ええ、オズの国でもよく食べるわよ」
ベッツイも恵里香にお話します。
「ラムもマトンもね」
「そうですよね、けれど日本は」
「羊はなのね」
「食べない訳じゃないですけれど」
「馴染みが薄いのね」
「そうなんです、値段はとても安いし美味しいのに」
それでもというのです。
「日本ではあまりたべないです」
「それがね」
どうもと言うベッツイでした。
「私にもわからないわ」
「匂いがあまり」
「マトンの?」
「好かれないんです」
「いい匂いじゃないか」
羊飼いさんも首を傾げさせます。
「とても」
「そうなんですけれどね」
「マトンの匂いが苦手とはのう」
「日本人の多くの人は」
「あんたは別にしてか」
「私はあまり」
恵里香自身はというのです。
「そうしたことは気になりません」
「それならよいがな」
「私にとってはマトンの匂いはいい香りです」
「ふむ、しかしな」
「マトンのその匂いが駄目ということはですか」
「わからんのう」
どうしてもというのです、そしてです。
ナターシャはです、こう言いました。
「お魚や海老の方が匂いがしない?」
「うん、そうだよね。海老とかね」
「魚介類の方が匂いはするよ」
ジョージと神宝もナターシャのその言葉に頷きます。
「生臭いっていうかね」
「残るしね、魚介類の匂いって」
「正直マトンよりもね」
「気になるよね」
「そう?確かに新鮮さが気になるけれど」
恵里香はナターシャも入れた三人に首を傾げさせて答えました。
「食欲そそられない?」
「それを言うのならマトンも同じよ」
「うん、あの匂いで食欲を刺激されないことはね」
「少しわからないよ」
「これが文化の違いかしらね」
ベッツイは恵里香達のお話を見て思うのでした。
「それぞれの国の」
「そうじゃないですか?やっぱりそれぞれの国で違いがありますよ」
そのベッツイにです、カルロスが応えます。
「オズの国はそれが反映されますし」
「そう、アメリカのね」
「アメリカは色々な国から人が来ますから」
「文化も多彩なのよね」
それぞれの国のです。
「それでこうしたことも見られるのね」
「そうですね」
「まあそれでも。恵里香自身が羊肉を好きならいいわ」
彼女自身がそうならというのです。
「別にね」
「じゃあ今から」
「羊料理を楽しみましょう」
皆が大好きなそれをというのです。
「それとカボチャも食べる?」
「カボチャですか」
「何かカボチャを食べたくなったのよ」
だからこれにしようというのです。
「どうかしら」
「そうですね、お肉とですね」
「カボチャね。カボチャのサラダに」
カボチャをよく煮てから作ります、ポテトサラダと同じ要領です。
「カボチャのポタージュ、カボチャのパイにね」
「本当にカボチャ尽くしですね」
「けれどいいでしょ、美味しいし身体にもいいし」
「そうですね、カボチャは」
「別にジャックを食べる訳じゃないから」
ベッツイは笑ってジョークも交えました。
「安心してね」
「ジャックさんの頭をですね」
「そう、誰もジャックの頭は食べないわよ」
そのカボチャはというのです。
「だから安心してね」
「はい、それは流石にないですね」
「普通のカボチャよ」
ジャックではななく、というのです。
「それを楽しみましょう」
「そして羊料理は」
「そうね、ステーキにしましょう」
「マトンのステーキですね」
「食べやすいから、ステーキは」
それで、というのです。
「おソースも用意してね」
「それじゃあですね」
「ええ、ステーキよ」
今回出すのはというのです。
「それじゃあ出すわね」
「ではお言葉に甘えて」
羊飼いさんも微笑んで言いました。
「ご馳走になるか」
「それじゃあですね」
「食べ終わったらな」
それからというのです。
「気球を使ってもらうぞ」
「有り難うございます」
こうしてでした、一行はメリーゴーランド山脈は気球で越えることになりました。そして羊飼いさんのお家の外にです。
羊飼いさんは気球を出しました、そしてです。
そのうえでなのでした、こう皆に言いました。
「それではな」
「はい、それじゃあですね」
「これに乗ってな」
「山脈を越えるんですね」
「そして着地すればな。気球は自然にここに戻って来る」
「自動的にですか」
「だからベッツイ嬢ちゃん達が返してくれる必要はないのじゃ」
こうベッツイに言うのでした、何しろ気球の方で返って来るからです。
「安心する様にな」
「面白い気球ですね」
「わしのものじゃからわしのところに返って来る」
あっさりと言う羊飼いさんでした。
「これがこの気球にかけられている魔法じゃ」
「素晴らしい魔法ですね」
「自分のものがなくならないことはな。あとこの気球は例え壊れても一日経てば元に戻る」
そうした魔法も込められているというのです。
「非常に有り難いものじゃ」
「本当にそうですね」
「ではな」
「はい、これから」
「乗って山脈を越えるのじゃ」
「そうさせてもらいます」
「ううん、気球といいますか」
ナターシャは羊飼いさんがポケットから出してくれてからどんどん大きくなって自分達の前にあるそれを見てこう言いました。
「これは飛行船ですね」
「そうね、気球というよりかね」
「飛行船よね」
「こんなに大きいとは思わなかったわ」
「ちょっとね」
「ふむ。これは飛行船というのか」
羊飼いさんもナターシャ達に言われてこう返しました。
「気球ではなく」
「はい、飛行船です」
見れば本当にです、そうした形です。
「これですと」
「そうなのか」
「あとポケットから出て来ましたよね」
その飛行船がとです、ナターシャは羊飼いさんにこのことも尋ねました。
「それから大きくなりましたけれど」
「うむ、そのこともな」
「魔法なんですね」
「この気球、いや飛行船はわしが願えば大きくなったり小さくなったりするのじゃ」
そうだというのです。
「魔法でそうなっているのじゃよ」
「そのことも便利ですね」
「うむ、魔法はとても便利じゃ」
「ただ飛んで人を運ぶだけじゃなくて」
「科学と魔法が一緒になると」
別井の言葉です。
「凄いことになるでしょ」
「それが出来ているのがオズの国なんですね」
「二つが一つの世界でもあるんですね」
「そう、それだけに不思議な世界なのよ」
科学と魔法、全く違っていて決して混ざり合うことがない筈のものが一つになっているからこそなのです。
「この国はね」
「そして凄く魅力的になっているんですね」
「素晴らしい世界に」
「そうよ、だから貴女達もね」
恵里香達五人もというのです。
「この世界に来たら楽しんでね」
「わかりました、それじゃあ」
「そうさせてもらいます」
恵里香とナターシャが五人を代表してベッツイに答えました、そしてでした。
一行は飛行船に乗り込みました、勿論ハンクとガラスの猫も一緒です。猫は飛行船に乗る時に羊飼いさんの方を振り向いてこう言いました。
「たまにはエメラルドの都に来てね」
「ははは、わしはここにいるよ」
「この平原が好きだからなのね」
「そうじゃよ、だからな」
それでというのです。
「ここからは離れんよ」
「そうしてずっとここで生きていくのね」
「ここはいい場所じゃよ」
こうも言う羊飼いさんでした。
「のどかで静かでな」
「あんたはそののどかさと静かさが好きなのね」
「そうじゃよ、だからここにおるよ」
「何処にも行かないのね」
「基本的にはな」
「たまに飛行船を使って行ったりするけれど」
「基本的にはここにおるよ」
それでだというのです。
「都にはのう」
「行かないのね」
「わしはな」
こうしてというのです。
「都みたいな華やかな場所は性に合わんよ」
「のどかで静かな場所が好きだから」
「だからここにおるよ」
「そうなのね、じゃあ私達の方からね」
「こうして来てくれるか」
「時々になるけれどね」
猫は羊飼いさんのそのお顔を見て言いました。
「そうさせてもらうわね」
「それではな」
「ええ、また会いましょう」
こうお話してです、そしてなのでした。
一行は羊飼いさんに一時の別れを告げて飛行船に乗り込み飛び立ちました、そして飛行船の下を見てお話をするのでした。
「あれがメリーゴーランド山脈ね」
「くるくる回ってるわ」
「確かにあそこに行けばね」
「巻き込まれてね」
「辛いことになるわね」
「そうよ、慣れていないと大変なのよ」
ベッツイも五人に言います。
「あそこはね」
「だからですね」
「今回はですね」
「こうして空から越えて」
「向こう側に行って」
「また旅をするんですね」
「そうよ、羊飼いさんのご好意でね」
無事に山脈を越えてというのです。
「行けるのよ」
「羊飼いさんってとてもいい人ですね」
ナターシャはベッツイにしみじみとして応えました。
「本当に」
「ええ、あの人もね」
「オズの国の人達は皆いい人達ばかりですけれど」
「あの人もなのよ」
羊飼いさんもというのです。
「そうなのよ」
「そうですよね」
「そう、それでね」
「こうして飛行船も貸してくれて」
「私達を助けてくれるのよ」
「意地の悪い人だと」
ここで、です。ナターシャはベッツイの言葉を聞いてこうしたことも言いました。
「もう一緒にいたくないですからね」
「そうでしょ、オズの国というかね」
「島にですね」
「そうなの、気難しい人がいるのよ」
「評論家みたいな人ね」
「ええと、名前は何だったかしら」
ベッツイはその人の名前をどうしても出せずに首を捻ってしまいました。
「トロットが会ったね」
「オズの国に来られた時にですね」
「そう、あの時にね」
まさにというのです。
「キャプテン=ビルと一緒に会ったのよ」
「凄く困った人ですよね」
「そう、あと海賊の国もあったわ」
「リンキティンク王が活躍された時ですね」
「そうした人もいるのよ」
「ノーム族のラゲドー王もでしたね」
以前はロークワットといいました、この王様は。
「そうでしたね」
「そうそう、あの人もいい性格じゃなかったわ」
「そうした人達がいたりするんですね」
「オズの国、もっと言えばその周りでね」
そうだとです、ベッツイはお話するのでした。
「クルマー族の人達も最初は困った人達だったらしいし」
「今ではあの人達も」
「ええ、ありのままでいるようになってね」
「いい人達になったんですね」
「ほら、スクーグラー族の人達もね」
ハンクが言ってきました。
「あの人達も最初はとても怖かったんだよ」
「あっ、そうだったね」
「ドロシーさんが最初にお会いした時は」
「物凄く怖かったね」
男の子三人がハンクの言葉に頷きます。
「ハンクさんの言う通りに」
「ドロシーさん達を食べようとしたり」
「相当に」
「僕達はその時はまだオズの国には来ていないけれど」
それでも知っているのです、ドロシー達からお話を聞いて。
「物凄く怖い人達だったんだよ」
「それが今ではなんだ」
「ああしてオズの国に相応しい人達になった」
「そういうことなんだね」
「人は周りの状況や付き合う人達によって変わるよ」
それで、というのです。
「だからスクーグラーの人達も変わったんだよ」
「オズの国に入って」
「それでオズの人達とも出会って」
「そうして」
「そうなんだ、人も国もものも変わるんだ」
まさにその全てがです。
「だからね」
「スクーグラーの人達も変わって」
恵里香も言うのでした。
「けれど厄介な人、人達は」
「いたりするんだよ」
オズの国の周りにも、というのです。
「マンチキンとギリキンには悪い魔女だっていたしね」
「ああ、ドロシーさんが退治した」
「そう、あの二人の魔女達もそうだったし」
「そうした人達と一緒にいると」
「大変だよね」
「ええ、確かにね」
恵里香はハンクのその言葉に頷きました。
「私達の世界でもそうだけれど」
「そうそう、けれどね」
「オズの国の殆ど全ての人達は」
「いい人達だからね」
「あの羊飼いさんも」
「だからこうして助けてくれるんだ」
「そういうことなのね」
「そうだよ、それでだけれど」
ハンクも下の景色を見つつです、ベッツイに尋ねました。
「何処で降りるのかな」
「そのことね」
「うん、飛行船を何処で降ろすの?」
「そうね、山脈を越えてね」
ベッツイはハンクに考えてる顔で答えました。
「平らなところに出たらね」
「そこでなんだ」
「降りましょう」
「そしてまた歩く旅を」
「再開しましょう」
こう言うのでした。
「またね」
「わかったよ、それじゃあね」
ハンクもベッツイのその言葉に頷きました、そしてなのでした。
一行はまずは山脈を越えてでした、そしてです。
平原に降りました、それから飛行船を出るとです。
飛行船は自然に飛んで羊飼いさんのところに帰っていきました、ナターシャはその飛行船を見送りながら言いました。
「オズの国でお空の旅をすることは」
「考えていなかったわね」
「ええ、全くね」
恵里香にも答えました。
「そんなことはね」
「そうよね、けれどね」
「お空の旅もね」
「楽しかったわ」
「少しの間だったけれど」
山脈を越えるまでのです。
「それだけのものだったけれど」
「それでもね」
「楽しかったわ」
空の旅は少しだけだったにしても、というのです。
「とてもね」
「ええ、そうよね」
「だからね」
ナターシャは恵里香にこうも言いました。
「また機会があれば」
「楽しみたいわね」
「じゃあオークに乗る?」
ハンクがこう二人に言いました。
「それなら」
「ああ、あの鳥ね」
「物凄い速さでお空を飛ぶ」
「そう、あの鳥に乗ってみる?」
笑って二人に言うのでした。
「だったら」
「あの鳥は」
ナターシャは少し苦笑いになってハンクに答えました。
「少し」
「乗りにくい?」
「まだ見ていないし」
「乗ってもいないからなんだ」
「ええ、乗るとなるとね」
それはというのです。
「苦労しそうだから」
「それでなんだ」
「うん、あまりね」
乗りたくないというのです。
「トロットさん達のお話を聞いてても大変だったみたいだし」
「じゃあオークでお空は飛びたくないかな」
「そうした時が来るかも知れないけれど」
「今はね」
どうかというのです、そしてでした。
ベッツイがです、皆に言いました。
「さて、今からね」
「はい、今度はですね」
「薊の国と巨人の国でしたね」
「その二国でしたね」
「その二国に行くことになるけれど」
それで、とです。ベッツイは五人に尋ねるのでした。
「いいわね」
「はい、私達だけでしたら不安ですけれど」
ナターシャがベッツイのその問いに答えます。
「はじめて行く場所ですから」
「メリーゴーランド山脈もそうだったけれどはじめての場所はね」
「それだけで、ですからね」
「はい、心配になりますから」
「知っていることは大きいわよ」
その場所、その人がどういったものかということをです。
「それだけで全く違うわ」
「だからベッツイさん達がいてくれたら」
「有り難いって言ってくれるのね」
「それだけで安心出来ます、それじゃあ」
「行きましょう」
その巨人の国、そして薊の国にというのです。
「是非ね」
「はい、それじゃあ」
こうお話してでした、メリーゴーランド山脈を越えた一行はさらに先に進むのでした。一行の旅はまだこれからでした。
ウネリ平原で羊飼いに会いに。
美姫 「そのお蔭で気球を借りることができたわね」
だな。メリーゴーランド山脈を楽に越える事が。
美姫 「本当に良い人たちが多いわよね」
だな。ほのぼのとしてて良いよな。
美姫 「でも、帰りはどうするのかしらね」
そこは頑張ってもらうか、別のルートや方法があるのかもな。
美姫 「旅はまだまだ続くようだし、この先何がまっているのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」