『オズのムシノスケ』




       第十幕  ヘラジカ達の群れ

 ドロシーはヘラジカさんにです、あらためて尋ねました。
「それで貴女の群れの場所だけれど」
「そこね」
「一体何処かしら」
「あっちの森よ」
 右手の青い森を指差してです、ドロシーに答えるヘラジカさんでした。
「あそこに私のいる群れがあるのよ」
「そうなのね、それじゃあ」
「今から戻りなさいっていうのね」
「私達も一緒に行くから」
 ドロシーはこのことをまたヘラジカさんに言いました。
「それで間に入ったりするから」
「喧嘩の仲裁してくれるっていうのね」
「そうよ、どういった理由で喧嘩したのか知らないけれど」
 それでもだと言うのでした。
「とりあえず一緒に行くからね」
「頼りにしていいっていうのね」
「どうも貴女意地っ張りみたいだし」
 ドロシーはヘラジカさんのそうした性格をもう見抜いていました、それで皆一緒に行ってそうして仲裁をするというのです。
「そうさせてもらうわ」
「何か悪いわね」
「そう思わなくていいけれど」
「それでもなの」
「そう、とにかくね」
 仲裁に入るというのです。
「森に戻るわよ」
「わかったわ、それじゃあね」
 ヘラジカさんもドロシーの言葉に頷きます、一行はそのヘラジカさんと一緒に森に向かいました。そしてその途中で。
 カルロスは少し考えるお顔になってです、教授に尋ねました。
「あの、少し気になったんですけれど」
「うん、何かな」
「僕達将軍のお家に行く前に象さんに会いましたね」
「うん、煉瓦の道で寝ていたね」
「それで今はヘラジカさんと一緒ですけれど」
「そのことがだね」
「象さんは暑い場所の生きもので」
「ヘラジカはだね」
「寒い場所の生きものって聞いてますけれど」
「どうして同じ国にいるかだね」
 教授はカルロスが言いたいことを察して言いました。
「このことだね」
「それはどうしてですか?」
「うん、オズの国は特に暑くも寒くもなく」
 まずはオズの国の気候のことからお話するのでした。
「そしてこの国は君達の世界とは別の生態系だから」
「象さんとヘラジカさんが同じ場所にいても」
「これがこの国では普通なんだよ」
 オズの国ではというのです。
「全くね」
「そういうことですか」
「うん、そうだよ」
 こうお話するのでした。
「この国ではそれが普通だからね」
「わかりました、そうしたところもオズの国なんですね」
「そういうことになるよ」
「いや、オズの国が不思議の国なのは知ってましたけれど」
「生態系についてもね」
「不思議な国なんですね」
「そういうことだよ」
 こうカルロスにも他の子達にもお話するのでした、そうして。
 一行で森の中に入りました、森はマンチキンの国なので木の葉も草も青くてです。その青い森の中に入って。
 そしてです、皆でヘラジカさん達の群れを探しました、その中で。
 ヘラジカさんはです、少し嫌そうにこう言いました。
「やれやれね」
「ご家族に会いたくないんだね」
「ええ、そうよ」
 その通りとです、ヘラジカさんはかかしに返しました。
「喧嘩したばかりだからね」
「その気持ちはわかるけれどね」
「喧嘩したらっていうのね」
「そう、仲直りした方がいいよ」
「それでなの」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「君はここに戻ってもね」
「嫌な顔はしないで」
「そうだよ、仲直りすべきなんだよ」
「ううん、そのことはわかるけれど」
 まだです、ヘラジカさんは項垂れています。
 そして項垂れつつです、こうも言うのでした。
「会いにくいわね」
「喧嘩した相手とはね」
 今度は木樵がヘラジカさんに声をかけました、森の中をヘラジカさんの案内で進みながら。
「どうしても会いにくいね」
「お父さんとお母さんが悪いのよ」
 ヘラジカさんは膨れたお顔で言うのでした。
「あんなに言わなくても」
「まあまあ、そう言わずにね」
「それでもっていうのね」
「そう、仲直りしてね」
 そしてというのです。
「笑顔になろうね」
「笑顔ねえ」
「誰でも笑顔にならないと」
 それこそというのです。
「楽しくないじゃない」
「楽しく?」
「そう、楽しくならないとね」
「そういえば私って」
「喧嘩してからどうだったかな」
「楽しくなかったわ」
 思い出すとそうでした、ヘラジカさんは喧嘩して家出してからずっとでした。楽しいと思ったことはといいますと。
「全くね」
「喧嘩したことばかり考えていてだね」
「ええ、それでね」
 まさにその通りでした。
「全然面白くなかったわ」
「そうだよね、だからこそね」
「仲直りをして」
「楽しい気持ちに戻ることだよ」
 是非共と言う木樵でした。
「それが君がこれからすべきことだよ」
「それじゃあ」
「仲直りするんだよ」
「皆が言いたいことはわかるわ」
 ヘラジカさんにしてもというのです。
「けれどね、どうしてもね」
「仲直り出来ないの」
「気持ちの問題よ」
 恵梨香にも言うのでした。
「貴女もわかるでしょ、喧嘩した後はね」
「うん、どうしてもね」
「気まずくなってね」
「その相手の人と会うこともね」
「嫌になるでしょ」
「だからお父さんとお母さんとも」
「会いにくいわ」
 そして仲直りもというのです。
「何かと心苦しいものがあるわね」
「その気持ちはわかるけれど」
 ナターシャもヘラジカさんに言いました。
「けれど家族は仲良くないと」
「よくないのね」
「家族は仲良くないと」
 それこそというのです。
「自分で自分を苦しめることになるわ」
「厳しいこと言うわね、貴女」
「だって。雪が降ったりしたら」
 そうした時はといいますと。
「お家にいるしかないわね」
「家族と一緒だからっていうのね」
「そう、喧嘩しそうになっても」
「我慢しなさいっていうのね」
「それが一番よ」
「そうかもね、けれどね」
 それでもと返すヘラジカさんでした。
「我慢出来なくなった時によ」
「喧嘩をするから」
「こうなったのよ」
「なったからにはっていうのね」
「そう、どうしろっていうのね」
「だから仲直りに戻るんだよね」
 神宝もヘラジカさんに言います。
「今から」
「まあそうだけれど」
「そりゃね、誰だって喧嘩はするよ」
 神宝もこのことはそうだとします。
「僕だってするし」
「貴方もなの」
「喧嘩をしなかったことのない人っていないんじゃないかな」
「まあ私もね。あまりね」
「いつも喧嘩をしている訳じゃないっていうんだね」
「ええ、そうよ」
 ヘラジカは言い訳めいて神宝にお話するのでした。
「あまりしないと自分では思ってるわ」
「確かにあまり喧嘩っ早そうじゃないね、君は」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「今回はたまたまなのよ」
「たまたま喧嘩をして」
「そう、家出したのよ」
「家出したのはこれまで何度あったのかな」
 ジョージはその数も尋ねました。
「一体」
「これがはじめてよ」
「あっ、はじめての家出だったんだ」
「これまで二回位喧嘩はしたけれど」
「あれっ、案外少ないね」
「だからあまり喧嘩はしないのよ」
 普段はそうだというのです。
「私だってね」
「そうだったんだ」
「それよりも寝たり草を食べたりする方がずっと多いから」
「そうしたことの方が好きなんだ」
「そうよ、私だってね」
 普段はそうだというのです。
「平和にしているのよ」
「それで今回はなんだ」
「あくまでたまたまだから」
「だといいけれど」
「何か私いつも喧嘩している様に思われてない?」
「何となくね」
 そうだと返したのはトトでした。
「だって僕達が君と会ったのは君と喧嘩した時じゃない」
「それでっていうのね」
「喧嘩している時の人に会えばね」
「いつも喧嘩している様に思われるのね」
「そう、誰でもね」
「それは心外よ」
 ヘラジカさんは口を尖らせてトトに抗議で返しました。
「私はあくまで普段は平和だから」
「そうだとしてもね」
「喧嘩した時の私に会ったから」
「しかも最初にね」
「初対面だから余計になの」
「そう、思ったよ」
 いつも喧嘩している様にというのです。
「それが違うのならいいけれど」
「だから違うわよ」
「そうなんだね」
「だからそうって言ってるでしょ」
「だったら本当にそうであって欲しいよ」
「そのことを今から見せてあげるから」
 ヘラジカさんは少しムキになってそのうえで先に進むのでした。
 そしてなのでした、皆で森の中に進んでいってです。
 ヘラジカさんは一行にです、こう言いました。
「そろそろよ」
「群れだね」
「ええ、皆がいる場所よ」
 その場所に入るというのです。
「もうすぐね」
「わかったよ、それではね」
 教授がヘラジカさんに応えてです、そのうえで。
 一旦服の懐から懐中時計を出して時間をチェックしてからです、あらためてこうしたことを言ったのでした。
「群れの皆と会う前にね」
「何かあったの?
「お茶の時間だからね」
 それでだというのです。
「ちょっと休もう」
「あっ、もうそんな時間なの」
 ドロシーも教授から聞いて言うのでした。
「早いわね」
「皆で楽しくお話しながら歩いていると時間が経つのが早いからね」
 こうです、かかしも言います。
「だからね」
「それじゃあ」
「今からお茶にしよう」
「そうしよう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆一緒にです、その場に座ってです。 
 テーブル掛けを開いてお茶を飲むのでした、ドロシーが皆に出したお茶はレモンティーでした。そのレモンティーを飲みながらです。
 しみじみとしてです、カルロスが言うのでした。
「オズの国はやっぱりアメリカなんですね」
「アメリカの影響が強いからね」
「だから紅茶も」
「そう、レモンティーよ」
 お茶の時間に飲むものはです。
「それになるのよ」
「そうですよね」
「ミルクティーがあってもね」
「主流じゃないんですね」
「コーヒーかね」
 若しくは、というのです。
「レモンティーになるのよ」
「それでお茶の時間も」
「レモンティーで楽しむのよ」
 若しくはコーヒーで、となるというのです。
「それじゃあいいわね」
「はい、わかりました」
「じゃあ飲みましょう」
「そして食べて」
「お茶菓子はね」
 三段セットではありません、イギリスのティータイムとは違い。
「アップルパイにドーナツにね」
「それにですね」
「フルーツもね」
 それもでした。
「こうしたものよ」
「パイナップルにオレンジですね」
「フロリダのね」
「アメリカのティータイムですね」
「それでお茶の時間にしましょう」
 ドロシーはにこりと笑って皆に言いました、そうして食べられる人も食べる必要のない人もその時間を楽しみに入りました。
 その中で、です。ヘラジカさんもレモンティーを楽しんでいました。それと一緒に近くの草を食べつつ言うのでした。
「このレモンティー美味しいわね」
「気に入ってくれたのね」
「ええ、いい葉とお水ね」
「それにレモンもでしょ」
 ドロシーは笑顔でヘラジカさんに答えます。
「そちらもでしょ」
「そういえばね」
「レモンティーは葉とお水とね」
「レモンもいいものがあって」
「美味しくなるから」
「その三つがいいから」
「この味になるのよ」
 そうだとヘラジカさんにお話するのでした。
「だからね」
「私もこのレモンティーを飲んで」
「楽しんでね」
「ええ、わかったわ」
「今の貴女はね」
 そのヘラジカさんはといいますと。
「笑顔になってるわ」
「あら、そうなの」
「にこにことして飲んでるわよ」
 そのレモンティーをというのです。
「とてもいい笑顔でね」
「そうなの」
「自分ではわかってなかったのね」
「ええ、美味しいと思うだけでね」
 そうした感情はというのです。
「自覚していなかったわ」
「そうなのね、けれどね」
「今の私は笑顔なのね」
「とてもいいね」
「そうなの、笑顔なの」
「最初の貴女は寝てて」
 そして起きればです。
「凄く不機嫌そうだったけれど」
「喧嘩して家出したから」
「そう、けれど今はね」
「幸せな笑顔なの」
「美味しいものを口にすると」 
 それで、というのです。
「誰でも笑顔になるから」
「私もなのね」
「そうなっているわ、じゃあね」
「それなら」
「これから群れに戻るけれど」
「仲直りも」
「明るい気持ちで行けるかしら」
 ドロシーはヘラジカさんの目を見てです、そのうえで尋ねました。
「このまま」
「そうなれたらいいけれど」
「じゃあいいわね」
「ええ、そうね」
 笑顔のままですが考えるものを含めてです、ヘラジカさんはその笑顔でドロシーに答えました。
「そうなる様にするわ」
「それじゃあね」
「では飲んで食べ終わったら」
 それでと言う教授でした。
「いいね」
「群れに」
「そうしようね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 まずは皆でお茶とお菓子を楽しんでなのでした。そのうえでテーブル掛けを畳んでなおしてです。それから。
 再び先に進むとです、そこで。
 森の中から沢山のヘラジカさん達が出て来ました、そのヘラジカさん達を見てなのでした。ヘラジカさんは少し立ち止まって言いました。
「来たわね」
「あのヘラジカさんがだよね」
「ええ、私の群れよ」
 カルロスにも答えます。
「あの群れがね」
「着いたね、遂に」
「そうよね、ただ」
「ただっていうんだね」
「正念場ね」
 足を止めたまま言うヘラジカさんでした。
「いよいよ」
「仲直りのね」
「そうなるわね」
「じゃあ」
「前に出て」
「まずは、よね」
「そうしてね」
 こうしたことをです、カルロスとお話してでした。
 ヘラジカさんは前に出ました、すると。
 そのヘラジカさんをです、群れのヘラジカさん達が見て言いました。
「ええ、エイミー」
「エイミーか」
「何処に行ってたんだ?」
「家出するって言って飛び出したけれど」
「何処に行ってたのよ」
「ちょっとね」
 こう群れのヘラジカさん達に言うのでした。
「草原のところまで」
「そうか、あそこか」
「あそこに行っていたのね」
「そうなの、けれどね」
 それでもと言うエイミーでした。
「この人達に言われてね」
「あっ、これはドロシー王女」
「ムシノスケ教授」
「かかしさんに木樵さん」
「トトもいるじゃないか」
 ヘラジカさん達は皆を見て言いました。
「オズの国の名士の人達がこんなに集まって」
「凄いじゃない」
「しかも最近オズの国によく来る子供達も」
「いるわね」
「やっぱり僕達も有名みたいだね」
「そうね」
 恵梨香はカルロスに答えました。
「ドロシーさん達の仰る通り」
「有名になってるんだ」
「私の言った通りでしょ」
 ドロシーは微笑んで五人に答えます。
「貴方達も有名になってるのよ」
「そうなんですね」
「そうよ、このことは覚えておいてね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 ドロシーはヘラジカさん達にです、こう言いました。
「それでだけれど」
「はい、エイミーのことですね」
「この娘のことですよね」
「そうなの、この娘ご両親と喧嘩したのよね」
「そうなんですよ」
「実は」
 ここで二匹のヘラジカさんが前に出て来てです、ドロシーに答えてくれました。
「この娘色々と我儘で」
「前からあれこれ勝手なこと言いますけれど」
「それで今度もです」
「外に出たいなんて言ったんですよ」
「そうよ、この森から出てね」
 当のエイミーも言います、それの何処が悪いのよという顔で。
「オズの国のあちこちを旅したいのよ」
「それでなの」
「そのうえで」
「そう、そうしてね」
 それでというのです。
「私は旅を楽しみたいのよ」
「そんなことをしたら危ないぞ」
「この森を出て旅をするなんて」
「カリダもいて他にも怖い猛獣がいるのに」
「エイミーだけで森の外に出て旅をするなんて」
「怖いもの知らずもいいところよ」
「そんなこと言っても何にもならないわよ」
 これがエイミーの意見でした。
「森の中にいたら確かに安全よ」
「そうだ、この森は広いしな」
「怖い猛獣もいないじゃない」
「わし等はこの森で楽しく暮らせているだろ」
「それの何処が不満なのよ」
「だから。森の外に出て旅をしたいの」
 あくまでこう言うエイミーでした。
「オズの国のあちこちをね」
「御前一匹でか」
「そうするっていうの」
「そう、それで森を出たのよ」
 つまり家出したというのです。
「そうして一休みで草原に寝ていたら」
「私達に会ったのね」
「そういうことよ」
 エイミーはドロシーにも答えました。
「そうだったのよ」
「事情はわかったよ。けれどね」
「けれど?」
「どうして貴女私達と会った後あらためて旅に出なかったの」
「それはドロシーさん達が皆で私に強く、そしてね」
 そのうえでだというのです。
「優しく言ってくれたでしょ」
「だからっていうの」
「そう、それでなのよ」
「それじゃあひょっとして」
 ここでドロシーは気付いたことがあります、そのことはといいますと。
 ふとです、こう言ったのでした。
「貴女お父さん達に頭ごなしに言われたのね」
「その通りよ」
「だからなのね」
「そう、確かに私は旅に出るつもりだったけれど」
「実はそんなにその気持ちは強くなかったのね」
「ちょっと考えて言ってみたのよ」
 実はそれだけだったというのです。
「ふと思いついてね」
「それでご両親に言ったら」
「物凄く頭ごなしに言われてね」
「当たり前だ、危ないじゃないか」
「そんなこと止めるのは当然よ」
 これがご両親の言葉でした。
「全く、御前ときたら」
「無茶なことを言うから」
「それでだよ」
「私達も強く言ったのよ」
「だからそう言われるのが嫌なの」
 エイミーはご両親に言い返しました、右の前足を手の様に動かして。
「私だって子供じゃないから」
「何を言うんだ、子供じゃないか」
「そうよ、私達のね」
「親として子供に言うのは当然だ」
「それの何処が悪いのよ」
「いや、ちょっと待ってくれるかな」
 ここで双方の間にです、教授が入りました。
 そうしてです、こう言うのでした。
「どちらも言いたいことがわかったよ」
「というと?」
「これは認識の違いだね」
 教授は自分の学識のことから話すのでした。
「子供という言葉についてのね」
「それどういうことなの?」
 エイミーがその教授に尋ねます。
「一体」
「うん、まず君は自分を子供じゃないと主張するね」
「ええ、そうよ」
 エイミーは胸を張ってそのうえで教授に答えました。
「こんなに大きいのよ、何処が子供なのよ」
「そう、確かに君はもう子供じゃないよ」
「ほら、教授もこう言ってくれるじゃない」
 エイミーは教授の言葉を受けてご両親に返します。
「私はもう子供じゃないのよ」
「いや、子供だよ」
 けれどここでなのでした、こうも言う教授でした。
「君は子供だよ」
「今子供じゃないって言ったじゃない」
「年齢的にはそうだよ」
「年齢が?」
「そう、もう成人したと言っていいかな」
 エイミーの歳はというのです。
「外見から見る限りはね」
「もう結婚して赤ちゃんも出来るわよ」
「そうだね、けれど」
「けれどなの」
「君は子供なんだよ」
 またエイミーに言うのでした。
「ご両親のね」
「お父さんとお母さんの」
「そう、君は子供なんだ」
 二匹のというのです。
「そうなるんだよ」
「そうだ、御前はわし等の娘だ」
「可愛い子供なのよ」
 ご両親はここでエイミーに強く言います。
「ずっと育ててきたんだ」
「誰がどう言おうと私達の娘よ」
「そう、君はご両親の子供なんだよ」
「ええと、どういうことなの?」
「つまり年齢ではもう子供ではないが」
 教授は少し勿体ぶった調子になってエイミー達にお話しました。
「間柄では子供になるのだよ」
「お父さんとお母さんの」
「その通りだよ」
「だからお父さんとお母さんは私を子供っていうのね」
「二人の間のね」
「それで子供として」
「君に言ったんだよ」
 そうだったというのです。
「君のことを案じてね」
「そうだったの」
「そうだよ。これでわかったかな」
「ええ、何とか」
 エイミーは大体七割位わかっている感じで教授に答えました。完全ではないですがある程度わかったというお顔で。
「そういうことなのね」
「そう、だからね」
 こうエイミーにお話するのでした。
「君は子供じゃないと思っていても」
「お父さんとお母さんが違ったのは」
「そういうことだったの」
「そうだったのね」
「そして」
 教授は今度はです、ご両親の方にお顔を向けました。 
 そのえで、です。今度はご両親に言うのでした。
「お二方にとって娘さんはずっと子供ですな」
「はい、私達の」
「紛れもなく」
「そうですな、可愛いお子さんです」
 このことを言うのでした。
「しかし娘さんはもうです」
「成人した」
「そうなったのですか」
「左様です」
 年齢的にはそうだというのです。
「大人に頭ごなしに言ってはです」
「よくない」
「そういうことですね」
「そうです、ですから」
「ここはですか」
「絶対に」
「そうしたことをしてはいけないです」
 また言う教授でした。
「穏やかに。諭すべきだったのです」
「そうでしたか」
「そうあるべきでしたか」
「左様です」
 こう教授はお話するのでした。
「それがいいのです」
「そうでしたか」
「そうすべきだったのですか」
「そうなのです、子供ではあってもです」
 家族ではあってもです。
「もう大人ですから」
「だからですか」
「もう」
「そうです、強く言うべきではなかったのです」
「それで、ですか。わし等が強く言ったので」
「この娘は」
「怒ってだったのよ」
 抗議めいた口調で、です。エイミーはご両親に言いました。
「私も家出したの」
「そうだったの」
「それで」
「そうよ、わかってくれたかしら」
「そうか、事情はな」
「わかったわ」
 ご両親も納得しました。ですが。
 ここで、です。ふとです。
 教授はエイミーにです、こうも言いました。
「けれどね君はね」
「私は?」
「旅に出るにしても」
 それでもというのです。
「一匹だけで行くのはよくないね」
「危ないからっていうのね」
「そう、君は確かに大きいけれど」
 それでもだというのです。
「草食動物だからね」
「肉食動物に狙われるから」
「一匹で旅をすると危ないよ」
 こうお話するのでした。
「だから私もそれは賛成出来ないよ」
「やっぱりそうなのね」
「うん、それに君は今の暮らしに不満があるのかな」
「そう言われると」
「不満はないね」
「ええ、この森はとてもいい場所よ」
 はっきりと答えたエイミーでした。
「過ごしやすくて食べるものも美味しいものが一杯あって」
「満足しているね」
「ええ、とてもね」
 それでだというのです。
「実際ね」
「本音を言うと旅は」
「それ程までは」
 したくないと言うのでした。
「あまりね」
「そうだね、それだとね」
「旅に出ない方がいいっていうのね」
「出来る限りね」
「そういうものなのね」
「どうしても旅に出たいのなら」
 その時はといいますと。
「君だけじゃ駄目だよ」
「危ないから」
「そう、オズの国は死ぬことはないにしても」
「危ないことは危ないから」
「一匹だけでの旅はよくないんだよ」
 あくまでこう言う教授でした。
「だからいいね」
「森にいるべきなのね」
「今はね」
「そうなのね」
「そして」
 また言う教授でした、今度言ったことはといいますと。
「君はご両親とね」
「仲直りすべきなのね」
「家族は仲良くすべきだよ」
 絶対にというのです。
「いいわね」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「いいね」
「ううん、じゃあ」
「ご両親もですぞ」
 今度はご両親にも顔を向けて言う教授でした。
「娘さんのことを尊重して」
「これからは頭ごなしに言わずに」
「そうして」
「その通りです」
「顔食は仲良くすべき」
「そうですな」
「その通りです」
 こう言うのでした。
「宜しいですな」
「それでは」
「今から」
「仲直りをして下さい」
 教授はエイミーとご両親に同時に言いました。
「ここで」
「それじゃあ」
「今から」
「お互いに」
「仲直りにね」
 ここでドロシーが言います、その言うことはといいますと。
「一緒に何かをしてみたらどうかしら」
「仲直りに?」
「そう、その為にね」
 こうエイミー達に提案するのでした。
「そうしてみたら?」
「ええと、それって」
「一緒に何か食べるとか」
 それか、と言うのでした。
「お散歩するとかね」
「そうしたらいいっていうのね」
「そう、私が思うにはね」
 ドロシーはエイミーに自分の案をお話しました。
「ここは家族でお散歩したらどうかしら」
「この森を」
「あれこれ食べてお話してね」
 そうしてというのです。
「楽しく過ごしながらね」
「そうしながらなの」
「そうしたらどうかしら」
 こう言うのでした。
「ここはね」
「ううん、そうね」
 エイミーはドロシーの言葉に頷いてからです、そのうえで。
 自分のご両親に顔を向けてです、こう言うのでした。
「それじゃあね」
「一緒にか」
「森の中をお散歩するのね」
「そうしよう」
 こう言うのでした。
「私達でね」
「そうだな、それじゃあな」
「家族水いらずでね」
「散歩をしようか」
「一緒に」
「そうしようね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 群れの他のヘラジカさん達もです、こう言うのでした。
「それじゃあな」
「行って来ればいい」
「そうして仲直りしてきたら?」
「色々お話して」
「そうしていいのね」
 エイミーは皆に応えて言いました。
「これから」
「ああ、そうしてな」
「群れに戻って来てね」
「それからまたな」
「楽しく暮らしましょう」
「考えてみたけれどここに私が好きなもの全部あるから」
 だからだと言うエイミーでした。
「旅には出ないわ」
「そうか、ここでか」
「ずっといるのね」
「私だって危ない目に遭いたくないから」
 だからというのです。
「もうここから出ないでいて」
「わし等とずっとか」
「一緒にいれくれるのね」
「暫くはね。けれどね」
「結婚してか」
「あんたも家族を持つの」
「ええ、そうするから」
 エイミーはご両親にもお話しました。
「大人だからね」
「ああ、そうしろ」
「あんたも幸せな家庭を持つのよ」
「そうしてな」
「楽しく暮らすのよ」
「そうしようね、それじゃあ」
 こうお話してでした、エイミーはです。
 ご両親と一緒に歩きはじめました、そうしてドロシー達に言いました。
「色々と助けてくれて有り難う」
「いやいや、お礼はいいよ」
 教授は気さくに笑ってエイミーに答えました。
「それはね」
「そうなの」
「それよりも」
 どうかと言う教授でした。
「君達がね」
「家族が仲直りして」
「そうして幸せに暮らしてくれればね」
 それで、というのです。
「私達は何もいらないよ」
「それじゃあ」
「行って来るといいよ」
 家族でのお散歩にというのです。
「そうして楽しんで来てね」
「ええ、わかったわ」
「それじゃあね」
「お散歩に行って来て」
「仲直りすればね」
「それで私達は満足だよ」
 こう言うのでした、そして。
「そうしれくれれば」
「そうなのね」
「だからね」
「ええ、私達絶対にね」
 エイミーは笑顔で言うのでした。
「仲直りするから」
「そうしてくれれば何よりだよ」
 こう言ってです、皆でエイミー達を送ってです。
 それからでした、皆で。
 教授はです、皆に言いました。
「それではね」
「はい、これで」
「あの娘の話は終わったから」
「これからは」
「大学に戻ろう」
 こう言うのでした。
「これからね」
「そうですね、それじゃあ」
「ボタン=ブライトを起こそう」
 是非にと言うのです。
「大学に戻ってね」
「わかりました、それじゃあ」
 カルロスが応えます。
「森を出て」
「元の道に戻ってね」
「ボタン=ブライトを起こしましょう」
「そうだね、そういえば」
 ここで、です。木樵は今自分達がいる森の中を見てです。そうしてそのうえでこうしたことを言ったのでした。
「この森は広いし木が多いけれど」
「それ程度茂ってはいないね」
 かかしも言います。
「君が斧を振るうまではないね」
「そうした森だね」
「だからここまでもすぐに来られたし」
「帰る時もね」
 その時もだというのです。
「すんなりと帰られるね」
「有り難いことにね」
「さて、ではね」
 それではと言う木樵でした。
「僕達もこれからも同行させてもらうから」
「宜しくお願いするよ」
「お二人なら何時でも大歓迎ですよ」
 カルロスが皆を代表してかかしと木樵に答えます。
「それこそ」
「それじゃあ」
「僕達も」
「はい、是非お願いします」
 こう言ってでした、五人はかかしと木樵を囲んで一緒に遊びながら森への出口に向かうのでした。そうしてまた大学への道に戻るのでした。



無事に群れへと戻って行ったな。
美姫 「良かったわね」
だな。特に大きな問題とかもなく。
美姫 「さて、エイミーと別れて再び大学へと向かうのね」
次こそは大学へと着く事が出来るのか。
美姫 「それとも、また何かが待っているのか」
次回が気になる所です。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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