『オズのムシノスケ』




              第九幕  大学に戻って

 朝になりました、するとです。
 かかしと木樵がでした、テントの中で男女に分かれて寝ている皆に言いました。
「皆、朝だよ」
「起きる時間だよ」
 こう言うのでした。
「さあ起きてね」
「朝の用意をしよう」
「わかったわ」
 最初に応えたのはドロシーです、すぐに身体を起こしてです。
 一緒に寝ていた恵梨香とナターシャ、それにトトに言いました。
「皆朝よ」
「あっ、朝ですか」
「もうですか」
「ええ、起きて」
 こう皆に言うのでした。
「そしてね」
「はい、これからですね」
「朝御飯を食べて」
「水浴びもしてね」
 身体を綺麗にすることも忘れないのでした。
「そうしてね」
「また旅をですね」
「続けるんですね」
「まずは朝御飯」
「それからですね」
「そうよ、まずはね」
 何といってもというのです。
「朝御飯からよ」
「まずは食べないと」
 二人も起き上がっています、恵梨香はその中で言うのでした。
「はじまらないからですね」
「そうよ、お腹が空いたままだとね」
「何も出来ないですから」
「だからですね」
「皆で朝御飯を食べて」
 そしてなのでした。
「水浴びもして歯も磨いて」
「身体も綺麗にして」
「また旅をはじめましょう」
 こうお話してなのでした、そうして。
 皆テントから出てでした、そのうえで朝御飯を食べるのでした。朝御飯はトーストにハムエッグ、それとボイルドベジタルブルに林檎のジュースです。
 かかしと木樵は食べる必要がないので二人の分はありませんがそれでもです。
 他の皆の分はたっぷりとあります、皆でいただきますをしてから教授はそのボイルドベジタブルを食べながら言うのでした。
「一日のはじまりにはね」
「まずはですね」
「食べてからですね」
「それも美味しいものをたっぷりと」
「栄養を摂ってから」
「はじめるべきだからね」
 それでだというのです。
「皆今日も美味しく食べよう」
「笑顔で」
「そうしてですね」
「そう、笑顔だよ」
 笑顔を絶対に忘れないでというのでした。
「笑顔で食べないとね」
「そうですね、それじゃあ」
「楽しく食べましょう」
「美味しいものを皆で明るく食べると」
「自然と笑顔になりますね」
「そうなりますね」
「そう、普通にしているとね」
 特別暗くない場合は別にしてです、皆今はそこまで暗くないので。
 それで楽しく朝御飯を食べます、その中でカルロスはこんなことを言いました。
「あの、前から思ってるんですけれど」
「どうしたの?」
「ドロシーさんって朝は絶対にお野菜か果物を出しますよね」
「ええ、そうよ」
「それは身体にいいからですね」
「トマトとかもよく出すでしょ」
「はい」
 その通りです、ドロシーはトマトやそれを使ったお料理もよく出します。
「お昼も晩も」
「美味しいだけじゃなくてね」
「身体にもいいからですね」
「そうなの、特に朝はね」
 この時はなのでした、丁渡今です。
「ビタミンを補給して」
「そうしてですね」
「一日をはじめるべきだからね」
「だから絶対になんですね」
「朝はお野菜か果物も出してるの」
 そうだというのです。
「エネルギー補給の為にも」
「やっぱりそうですか」
「そうなのよ」
「ううん、ヘルシーですね」
「これがアメリカ人だとね」
 どうかと言ったのはジョージです、バターをたっぷりと塗った熱いトーストを食べながら。
「もっと凄いメニューになるんだよね」
「朝もだよね」
「そう、分厚いベーコンとか出てね」
「カロリーが多いんだね」
「だからね」
 そのカロリーの高い食べものを朝から食べるからだというのです。
「すぐに太るんだ」
「油断をしてると」
「ちょっと身体を動かさないと」
 それこそです、アメリカにいますと。
「凄く太るよ」
「やっぱりそうなんだね」
「確かに朝はしっかり食べないと駄目だけれど」
 神宝も言います、ハムエッグをトーストに挟んで食べながら。
「アメリカはちょっと凄過ぎるよ」
「神宝もそう思うんだね」
「うん、中国も朝から結構食べるけれど」
 それでもだというのです。
「アメリカ人はまた別格だよ」
「よく言われるね」
 実際にそうだと返すジョージでした。
「スクランブルエッグとかも多くて」
「ソーセージとかパンもね」
「パンがホットケーキだったりしてね」
「そうした凄いカロリーのメニューだから」
「しかもお昼も夜もだからね」
「太り過ぎになるのも当然だよ」
 神宝は真剣な顔で言うのでした。
「アメリカ人の場合は」
「実は僕も日本に来てびっくりしたよ」
 彼にしてもなのでした。
「御飯にお魚、お味噌汁とお漬物でね」
「和食のカロリーは確かに少ないね」
 その通りと返す神宝でした。
「中国人の僕から見てもね」
「そうだね」
「中国だと朝は麺とかお饅頭とか茶卵だけれど」
 こうしたものが中国の朝食だというのです。
「カロリーは多いね、和食よりも」
「というか最近中国でもだよね」
 カルロスがその神宝に言うことはといいますと。
「結構太ってる人多くなってるよね」
「そういえば」
 言われてです、神宝もそのことを否定出来ませんでした。
「かなりね」
「そうだよね」
「元々中華料理は油よく使うし」
 これもまた中華料理の特徴です。
「それに洋食も食べる様になったから」
「だからだよね」
「うん、太ってきてる人が増えたよ」
「そうだね、実はこっちもなんだ」
「ブラジルもなんだ」
「太ってる人多いよ」
 カルロスは自分のお国のことも苦笑いになって言いました。
「結構ね」
「何かね、それ言うとね」
「どの国もじゃないかな」
 ジョージと神宝もお話します、男の子三人で。
「太ってる人が多いのは」
「カロリーの多いもの食べてる国は」
「アメリカや中国だけじゃなくて」
「ブラジルもなんだ」
「そうみたいだね、やっぱり食べるものは大事だね」
 その通りだと言いながらです、カルロスはです。
 あらためてです、今皆で食べている朝食を食べつつ言うのでした。
「カロリーも考えないと」
「いえ、多少太っていないと」
 ここで言って来たのはナターシャでした、林檎のジュースを飲みながらそのうえでカルロスにこう言うのでした。
「身体がもたないわよ」
「身体が重くなって病気にもなるよ」
「寒いとね」
 ナターシャが出したのは寒さからです。
「身体がもたないわよ」
「ああ、ロシアはね」
「そう、ロシアの寒さは別格だから」
 それ故にでした。
「寒さに対抗する為に太らないと」
「だからロシアの女の人は」
「凄く太ってる人が多いのよ」
「寒さに対抗する為に」
「男の人もね」
「太らないといけない場合もあるんだ」
「そうなのよ」
 その通りだというのです。
「あとお酒もね」
「ウォッカだね」
「それを飲まないと」
「寒さに身体がもたないんだ」
「それがロシアなの」
 そうだというのです。
「ロシアの寒さには太らないと駄目なのよ」
「国によって違うんだね」
「そう、まあ確かにね」
 ナターシャはジョージを見ても言いました。
「アメリカ人はね」
「太り過ぎだっていうんだね」
「幾ら何でもね」
 渡が過ぎるというのです。
「身体に悪いわよ」
「ロシアでもなんだ」
「動けなくなりそうになる位太ってる人いるでしょ」
「うん、いるよ」
 実際にと言うのです。
「冗談抜きでお腹の脂肪が膝まで来る人が」
「そこまで太るとね」
 それこそだというのです。
「大変なことになるわよ」
「実際になってる人多いよ」
「そこまで太ったら駄目だから」
「僕もそれがわかったよ」
 日本に来てというのです。
「アメリカ人は太り過ぎかもってね」
「そう、私もね」
 そのお料理をテーブル駆けから出してくれるドロシーも言います。
「そういうことを考えてね」
「お料理をですね」
「出してくれるんですね」
「皆のリクエストをそれぞれ聞く時もあるけれど」
 一度に出す時はというのです。
「カロリーとか栄養バランスも考えて出してるのよ」
「太り過ぎないように」
「栄養バランスが偏らない様に」
「そうしたことは教授が教えてくれたの」
 今度は教授を見て言います。
「そうしたことも」
「オズの国では病気になることがないにしても」
 教授もお話します。
「太り過ぎになることもないのだよ、けれど」
「それでもですよね」
「そうしたことを考えて食べていると」
「身体の調子がよくなるからね」
 だからだというのです。
「私も研究して調べたのだよ」
「そういうことですね」
「身体にいいものを食べるからこそ体調がよくなる」
「オズの国でもですね」
「そのことは同じなんですね」
「そうなのだよ、だから私も研究してドロシー嬢にも他の皆にも教えているのだよ」
 教授はいささか勿体ぶった様な調子でお話しました。
「食事の栄養のことを」
「そう、やっぱりね」
 また言うドロシーでした。
「ちゃんとしたものを考えて食べないとね」
「身体の調子が悪くなる」
「そういうことですね」
「そうよ、だから朝からね」
 今の様にというのです。
「考えてるのよ」
「お野菜も果物もですね」
 カルロスも言います。
「ちゃんと食べる様に」
「そうなの、朝から栄養のバランスよくね」
「しっかりと食べてですね」
「元気にやっていきましょう」
「それが一番ですね」
「そうよ、それとね」
 ここで、でした。ドロシーはです。
 恵梨香に顔を向けてです、この娘に言うのでした。
「恵梨香、ちょっといいかしら」
「はい、どうしたんですか?」
「貴女この前面白い食べものこと言ってたわね」
「確かホヤでしたね」
「そう、それをね」
 そのホヤのことを言うのでした。
「食べてみたくなったわ」
「ホヤですか」
「どんなものかって思ってね」
「ううん、ホヤは」
 どうかとです、恵梨香は首を少し傾げさせてなのでした。そのうえでドロシーに言いました。
「オズの国にあるでしょうか」
「オズの国はアメリカで食べられるものは何でもあるわよ」
「それでもホヤは」
「ないの?」
「確かに日本ではホヤを食べますけれど」
 それでもというのです。
「食べる人は少ないです」
「そうなの?」
「東北の方で少しです」
「食べる人がいるだけなの」
「東北では結構食べるみたいですけれど」
 それでもだというのです。
「あまり」
「多くないのね」
「はい、日本全体で言いますと」
「ホヤって確か」
 カルロスもここで言います。
「あれだよね、海で採れる」
「そう、海鼠みたいなものでね」
「噂には僕も聞いてるけれどね」
「カルロスも食べたことないわよね」
「神戸にはないよね」
「ええ、神戸は関西だから」
 この地域にあるからだというのです。
「今じゃ注文したりして手に入れることは出来るけれど」
「それでもだよね」
「あまりね」
 広く食べられているかというと、というのです。
「食べないから」
「神戸ではそうだよね」
「神戸は明石から海の幸が一杯採れるけれど」
「ホヤはないね」
「そう、ないから」
 だからだというのです。
「あまりね」
「美味しいのかな」
「ううん、どうかしら」
 首を傾げさせて言う恵梨香でした。
「かなり癖が強いのよ」
「恵梨香は食べたことあるんだ」
「お父さんがネットで取り寄せてね」
 そうして食べたことがあるというのです。
「家族でね」
「あるんだ」
「そうなの、美味しいとは思うけれど」
 それでもと言うのでした、恵梨香も。
「癖が強いことは確かよ」
「海鼠とかよりも」
「ええ、海鼠よりもね」
「あれよりも癖が強いんだ」
「だから食べるには少し抵抗があるから」
「海鼠は私も食べたことがあるわ」
 ドロシーはこちらはあるのでした、この海の幸は。
「日本の生のものでも中国の干したものもね」
「海鼠はあるんですか」
「ええ、お刺身で食べたわ」
「そうですか、アメリカでも海鼠を食べるんですか」
「多分恵梨香のお国からアメリカに来た人が食べてるのよ」
 日系人の人達がというのです、アメリカには日本から渡ってアメリカ人になった人達も結構いて暮らしているのです。
「それで私もね」
「海鼠を召し上がられたんですね」
「あっちは普通に食べてるわ」
 海鼠はというのです。
「他に雲丹もね」
「あれもですね」
「ええ、食べてるわ」
 こちらもだというのです。
「美味しいわね」
「雲丹美味しいですよね」
「大好きよ」
 ただ好きなだけではなく、でした。
「お寿司でも美味しいわよね」
「そういえばオズの国でもお寿司食べますね」
「恵梨香のお国の人もいるからね」 
 だからなのです。
「食べてるわ」
「そうですね、それでホヤも」
「あれば食べたいわね」
「あればいいですね」
 心からこう言うドロシーでした。
「本当に」
「そうね、後はね」
「後は?」
「海にいるかしら」
 そのホヤはというのです。
「オズの国の周りの」
「あそこにですね」
「いればね」
 そうすればというのです。
「採ってね」
「食べられますね」
「あの海にいないものはないわ」
 美味しく食べられるものならです。
「それこそね」
「それじゃあホヤも」
「あるかも知れないわ」
 また言うドロシーでした。
「だから一度探してみようかしら」
「そうされるんですね」
 恵梨香も言うのでした。
「ホヤを探して」
「食べてみるわね。けれどね」
「けれど?」
「日本人って色々食べるのね」
 かなり感心した様にです、こうも言うドロシーでした。
「中国人もそうだけれど」
「アメリカ人もだね」
 教授はオズの国と最も関わりの深いこの国の名前も出しました。
「かなり色々食べるね」
「そういえばそうね」
 ドロシーはジョージを見つつ教授に答えました。
「私達の頃はそうでもなかったのに」
「今はね」
「かなり食べる様になったわね」
「そうよね」
「この三国の人達はかなり色々食べて」 
 教授はここで少し微妙な顔になってこうも言いました。
「納豆とかもね」
「ああ、あれはね」
 ドロシーも納豆についてはです、少し苦笑いになって言いました。
「私も最初何これって思ったわ」
「ああ、納豆は」
「僕もです」
「私もでした」
 ジョージと神宝、ナターシャもです、それぞれ微妙なお顔になってドロシーに答えます。
「最初何かって思って」
「糸引いてますからね」
「腐ってるんじゃないかって」
「噂には聞いてましたけれど」
「実際にその目で見ますと」
「自分の目を疑いました」
「そうよね、私もびっくりしてね」
 そうしてとまた言うドロシーでした。
「日本人はこれを食べるのかしたってオズマとお顔を見合わせたわ」
「よく言われます」
 実際にと返す恵梨香でした。
「実は日本人の間でも」
「色々言われてるのね」
「はい、これは食べられるのかって」
「腐ってるとか言われるのね」
「よく言われます」
 日本人の間でもです、納豆はそう言われるというのです。
「関西でも」
「恵梨香は関西生まれの関西育ちよね」
「神戸ですから」
「関西では納豆を食べないの?」
「最近までそうでして」
「それでなのね」
「今でも年配の方は」 
 お歳を召されている方はというのです。
「納豆を食べないです」
「成程ね」
「ですが私は」
 恵梨香自身はといいますと。
「大好きです」
「そうそう、外見はともかくとしてね」
「食べますと」
 お口の中にです、実際に入れて味わってみますと。
「美味しいですよね」
「はい、かなり」
 そうだというのです。
「御飯に合って」
「そうなのよね、あっさりとしたお味で」
「不思議な食べものよね」
「うん、食べるとね」
「美味しいんだよね」
「意外と以上に」
 ジョージ、神宝、ナターシャの三人は納豆のお味についてはこう言うのでした。
「おうどんやお蕎麦にも合って」
「栄養もあるし」
「お腹にもたまって」
「納豆って不思議な食べものだわ」
 ドロシーはしみじみとして言うのでした。
「私も大好きよ、今ではね」
「僕あれ本当にね」
 カルロスが言うには。
「腐ってるのかって冗談抜きで思ったよ」
「それでもカルロスも今では」
「大好きだよ」
 そうだというのです、今では。
「あれ美味しいよね」
「そうでしょ」
「朝とかね」
「御飯にかけてね」
「食べると元気が出て来るよ」
「じゃあ今度ね」 
 ドロシーはカルロスの言葉も聞いて言いました。
「朝に納豆出すわね」
「御飯とですね」
「その組み合わせで、ですね」
「皆で楽しく食べましょう」
「ううん、それだとね」
 ここで木樵が皆のお話を聞いてこう言うのでした。
「ボタン=ブライトにも納豆を出したらどうかな」
「納豆をですか」
「うん、枕元に置くとかね」
「いや、それは」
 カルロスは木樵の笑顔の提案にはです、どうかというお顔でこう答えました。
「よくないと思います」
「匂いがきついからだね」
「匂いは本当に」
 納豆のそれはというのです。
「強烈ですから」
「確かにかなりね」
 木樵も言います。
「強いね」
「はい、食べものの匂いにしては」
「あの子が納豆を好きならいいけれど」
 それなら問題ありません、しかしです。
 そうでなければです、カルロスはそのことを踏まえて言うのでした。
「苦手なら」
「嫌な起こし方だね」
「嫌いなものの匂いで起こると」
 それはというのです。
「あまりよくないですよね」
「確かにね」
「やっぱりお菓子でいくべきです」
「そうなるね」
「そういえば納豆ってね」
 ここで、です。かかしが言うことはといいますと。
「藁の中に入っているね」
「はい」
「だから僕も時々ね」
「その藁の納豆をですか」
「間違えてね」
「かかしさんの中にですね」
「入れてしまうこともあるよ、けれどすぐにトトが見付けてくれるんだ」
 トトを見ながら笑ってお話するのでした。
「ちゃんとね」
「だって納豆って凄く似合うからね」
 トトもこう言うのでした。
「僕もすぐにわかるよ」
「臆病ライオンや腹ペコタイガーにも言われるよ」
 納豆の藁を間違えて中に入れた場合はです。
「納豆が中にあるってね」
「それで取り出すんですね」
「僕は納豆を食べないからね」
 もっと言えば何も食べません、かかしは。
「だからね」
「納豆もですね」
「そう、食べないからね」
「だから出してですね」
「他の皆が食べるんだ」
 こうカルロスにお話するのでした、そして。
 そのうえでなのでした、ここでこうも言うのでした。
「トトもね」
「そう、僕も納豆を御飯にかけてね」
 そうしてというのです。
「食べてるよ」
「トトも納豆食べるんだね」
「好きだよ」
「そうなんだ」
「じゃあ今度ね」
 また言うドロシーでした。
「朝に納豆を食べましょう」
「はい、是非」
「そうしましょう」
 皆で納豆について楽しくお話します、そしてでした。
 そうしたことをお話してなのでした、皆で。
 笑顔で朝御飯を食べてそれからでした、皆で。
 また出発します、その道中は今度は平和でした。けれどカルロスは少し警戒しているお顔で皆に言いました。
「ひょっとしてね」
「何かあるかも、よね」
「だってね、これまでね」
「いつも何かあるのがオズの国だから」
「大学に戻るまでもね」
 それこそと恵梨香に言うのでした。
「あってもね」
「不思議じゃないわね」
「この国はそうした国じゃない」
「いつも何かが起こる国ね」
「そう、だからね」
「いつも何が起こるのかね」
 そしてだと言うのでした。
「わからない国だから」
「そうしたことをお話したけれどね」
「うん、実際に起こってもね」
 それでもと言うカルロスでした。
「覚悟はしてね」
「大学まで戻りましょう」
「そうしようね」
 こう皆とお話して注意していました、そしてやっぱりでした。
 道の真ん中でまたです、大きな生きものが寝ていました。今度の生きものはといいますと。
 鹿です、カルロスはその鹿を見て言うのでした。
「やっぱりね」
「ええ、そうね」
 恵梨香もカルロスのその言葉に頷きます。
「何かがあったわね」
「というかまた寝ている生きものに出会うってね」
「不思議な縁って言うのかしら」
「そんな感じだよね」
「本当にね」
「そうだよね、けれどね」
 ここでなのでした、カルロスは自分達の前で寝そべってすやすやと寝息を立てている鹿を見ました。そして言うことは。
「大きな鹿だね」
「ブラジルにはこの鹿いないの?」
「うん、ここまで大きな鹿はね」
 いないとです、カルロスは恵梨香に答えます。
「いないよ」
「確かこの鹿は」
「ヘラジカだよ」
 教授が皆に教えてくれました。
「ムースともいう寒い地域にいる鹿だよ」
「そうなんですか」
「オズの国にもいるんだ」
 その鹿もというのです。
「色は君達の世界とはまた違うけれどね」
「青いですね」
 カルロスはその鹿を見て言いました。
「やっぱりマンチキンの国ですから」
「そう、だからね」
「青いんですね」
「他の国だとその国それぞれの色だよ」
 そうなるというのです、オズの国らしく。
「青だけじゃないよ」
「そこはオズの国ですね」
「そうだよ、それでだけれど」
「はい、このヘラジカさんもですね」
「起きてもらわないとね」
 ヘラジカを避けて通ることが出来ます、それでもというのです。
「ヘラジカも群れで生きる動物だから」
「皆のところに戻らないといけないからですか」
「そう、だから起きてもらってね」
 そうしてというのです。
「皆のところに戻ってもらおう」
「わかりました、それじゃあ」
 カルロスは教授のお話に頷いてでした、そのうえで。
 その寝ているヘラジカさんに声をかけます、ですが。
 ヘラジカさんはすやすやと寝たままです、それでなのでした。
 カルロスは少し考えてからです、こう言うのでした。
「どうしようかな」
「ううん、そうね」
 ドロシーがそのカルロスに応えて言うことはといいますと。
「ここも太陽でいきましょう」
「太陽ですか」
「そう、それでね」
 こうカルロスにお話します。
「ここはね」
「ヘラジカさんのお顔の傍にですね」
「美味しいものを起きましょう」
「そうしますか」
「ええ、ボタン=ブライトにもするけれど」
 ここでもだというのです。
「このヘラジカさんにもね」
「じゃあ今から」
「ヘラジカさんの好きな食べものを出すわよ」
 こう行ってでした、ドロシーはといいますと。
 テーブル掛けを出してです、そこから。
 青々とした牧草を一杯出しました、そしてその牧草をヘラジカさんの寝ているお顔の傍に置きました。するとです。
 ヘラジカさんはゆっくりと目を開けてです、こう言いました。
「美味しい匂いがするわね」
「起きてくれたのね」
「ええ、この匂いはね」 
 何かといいますと。
「牧草の匂いね」
「ええ、そうよ」
「そうね」
 ここでヘラジカはその開いた目で牧草の山を見ました、そうして言うことはといいますと。
「美味しそうね」
「食べていいわよ」
 笑顔で答えるドロシーでした。
「その牧草全部ね」
「あら、いいの」
「ええ、けれどその代わりね」
「その代わりに?」
「起きてくれるかしら」
 こうヘラジカさんにお願いするのでした。
「あなた多分雌だと思うけれど」
「そうよ」
「ご家族は?」
「群れにいるけれど」
 それでもと言うのです。
「それでもね」
「どうかしたの?」
「お父さん達と喧嘩したの」
「それで群れを飛び出たの」
「ええ、だからね」
 それでだというのです。
「今は一匹なの」
「そうなのね」
「私家出中なのよ」
「だから今も一匹でいて」
「そう、寝ていたの」
「そうだったのね、あのね」
「あのねって?」
「家出して一匹でいるのはよくないわよ」
 ドロシーは少し厳しい口調になってヘラジカさんに言うのでした。
「鹿は一匹でいないでしょ」
「普通は群れで暮らすわね」
「それはヘラジカさんもでしょ」
「私だって普段はそうしてるわよ」
 けれど今はというのです。
「喧嘩したからこうしているのよ」
「一匹でいたらいいことはないわよ」
「獣に襲われるのよね」
「だから早くお父さん達と仲直りして」
 そしてというのです。
「早く群れに戻りなさい」
「そうすればいいのかしら」
「いいわよ、貴女の為にもね」
「ううん、けれどね」
「それでもっていうのね」
「私は悪くないわよ」
 起き上がってそうしてなのでした、ヘラジカさんはその牧草を食べながらドロシーに対してお話するのでした。
「お父さんとお母さんが悪いのよ」
「どうして悪いの?」
「悪いから悪いのよ」 
 説明になっていない説明で返すヘラジカさんでした。
「それ以外の何でもないわよ」
「それじゃあわからないわよ」
「わかるでしょ、けれどね」
「早く仲直りしなさいっていうのね」
「喧嘩自体がよくないし」
 それにというのです。
「後一匹でいたらね」
「よくないからよね」
「どちらもよくないわよ」
「ううん、それじゃあ」
「ここで寝ていないでね」
「群れに戻って」
「そうして休みなさいよ」
 ドロシーは少し厳しい口調になってヘラジカさんにお話します。
「わかったわね」
「嫌よ、だってお父さんとお母さんが悪いのよ」
「またそう言うのね」
「私は悪くないから」
 意地を張った口調でした。
「何で謝らないといけないのよ」
「そう言ってずっと一匹でいるつもり?」
「お父さんとお母さんが謝るまでね」
 それまでというのです。
「私絶対に謝らないから」
「そんなこと言ってると本当に何時か大変なことになるわよ」
「獣に襲われて?」
「カリダとかに襲われたらどうするの?」
 あのオズの国にいるとても怖い獣です。
「貴女逃げるのよね」
「そうするわ、私脚速いから」
「そうよね、けれど一匹でいたら限度があるから」
「群れに戻った方がいいっていうのね」
「そう、絶対にね」
 ドロシーはきっぱりと言い切りました。
「戻った方がいいわ」
「どうしても」
「何度も言うわよ」
 絶対にというのです。
「わかったわね」
「ううん、それじゃあね」
 少し考えてからです、ヘラジカさんはドロシーに答えました。
「食べてから考えるわ」
「その牧草をなのね」
「そう、全部ね」
 食べてからだというのです。
「だって私お腹空いてたから」
「だからなの」
「そう、それからね」
 こうドロシーに答えるのでした。
「考えるわ」
「そうするのね」
「それからでいいわよね」
「ええ、別にね」
 いいと返すドロシーでした。
「それでいいわよ」
「それじゃあね」
「けれどね」
「群れにはっていうのね」
「そう、帰るべきよ」
「厳しいわね、貴女って」
「厳しくてもね」
 それでもだというのです。
「それがいいから」
「だからなのね」
「そう、戻ってね」
 そしてと、ドロシーは今も言うのでした。
「皆と暮らしさない」
「それじゃあ」
「そう、それじゃあよ」
「食べてからね」
「食べてからよ」
 また言うのでした。
「考えなさいね」
「そうするわね、それとだけれど」
「どうしたの?今度は」
「貴女確か」
 そのドロシーを見て言うヘラジカさんでした。
「ドロシー王女よね」
「ええ、そうだけれど」
「噂には聞いてたわ、オズの国の王女様でオズマ姫のお友達で」
「私のこと知ってるのね」
「貴女は有名だからね。それにね」
 ドロシー以外の皆も見て言うのでした。
「他の人達もね」
「僕達もかな」
「ええ、かかしさんにね」
 かかしを見ての言葉です。
「木樵さんにムシノスケ教授、それにトトね」
「僕も知ってるんだ」
「貴方も有名よ」
「ふうん、そうだったんだ」
「ドロシー王女の一番古いお友達よね」
「カンサスにいた時からのね」
 トトも答えます。
「友達だよ」
「だから貴方もね」
「有名なんだ」
「私でも知ってる位に」
 そこまでだというのです。
「そうなのよ」
「ううん、そうだったんだ」
「そのことはわかったわ」
 そうだとです、ドロシーはヘラジカさんに答えました。
 そうしてです、あらためて言うのでした。
「けれどね」
「群れにはっていうのね」
「このことは絶対よ」
 またヘラジカさんに言うドロシーでした。
「いい?さもないと貴女にとって大変なことになるわよ」
「鹿は皆と一緒にいてこそなの」
「そう、だからね
「何か随分言われるわね」
「言うのも当然よ、皆初対面でも貴女のことを思うからよ」
 だから厳しく言っているというのです。
「ましてや家出なんて」
「余計によくないっていうのね」
「早く帰るの、ここで寝ていないで」
「美味しい牧草も食べたし?」
「そう、お腹一杯になって少しは落ち着いたでしょ」
「確かにね」
「それで落ち着いて考えてみたらどうかしら」
 ドロシーはヘラジカさんの目を見つつ尋ねました。
「家出がよくないことってわかったわよね」
「少しはね」
「少しでもそう思ったらよ」
「群れに帰るべきっていうのね」
「何なら私達が一緒に行くから」
 同行するというのです。
「それならいいわね」
「そこまで言うのなら」
 ヘラジカさんも応えました、そうしてなのでした。
 一行は大学に戻る前にヘラジカさんのことをどうにかすることになりました、この家出した娘をお家に群れに返すことをです。



すんなり大学へと帰れるかと思いきや。
美姫 「行きと同じようにまた寝ている動物が」
今度はヘラジカみたいだな。
美姫 「ボタン=ブライトの予行という訳ではないけれど」
いや、本当に食べ物の匂いで起きたな。
美姫 「これで大学へと戻れるかと思ったんだけれどね」
先にヘラジカを群れへ連れて行く事に。
美姫 「一体どうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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