『オズのムシノスケ』




             第五幕  起きないボタン=ブライト

 一行が森の中を進むとです、目の前にです。
 白いものが見えてきました、それは。
「ズボンだね」
「うん、間違いないね」
 先には黒い靴があります、ジョージと神宝はそうしたものを見て言いました。
「青い中に白いものがあるよね」
「本当に目立つね」
「だからすぐにわかったよ」
「ボタン=ブライトだね」
「彼のズボンだよ」
「じゃあ間違いないね」
「うん、見付けられたね」
「寝てるのね」
 ナターシャもです、そのズボンを見ながら言いました。
「どうやら」
「噂は本当なのね」
 恵梨香も言います。
「ボタン=ブライトはよく寝る子なのね」
「そうなの、私もあの子と会う時はね」
 ドロシーが恵梨香に言います。
「かなりの確率でね」
「寝てるんですね」
「そうなのよ、それで起こしてね」
「それからですね」
「そうなの、いつもなの」
 それでだというのです。
「起こしてから旅をはじめるのよ」
「じゃあ今回も」
「今は旅はしていないけれどね」
 大学の中にいます、それで旅をしている訳ではないのです。
「今回もね」
「起こして」
「そう、ボタンとスカーフを返しましょう」
 こうしたことをお話してでした、そのうえで。
 皆でボタン=ブライトのところに来ました、すると。
 やっぱりでした、ボタン=ブライトは寝ていました。
 可愛らしい感じのブロンドの髪の男の子です、お顔も可愛いです。白いセーラー服を着てそのうえでなのでした。 
 森の中でぐっすりと寝ています、その彼にです。
 ドロシーが声をかけました、ですが。
「起きないですね」
「そうね」
 ドロシーは首を傾げさせながらカルロスに答えました。
「今回はちょっとね」
「眠りが深いですか」
「そうみたいね」
「とにかくよく寝る子だからね」
 教授も言います。
「こうしたこともあるんだよ」
「一度寝たらですか」
「起きないってこともね」
 それもだというのです。
「あるからね」
「それじゃあ」
「もうちょっと起こしてみよう」
 こう言ってです、教授もでした。
 ボタンの身体を揺らしてそのうえで声をかけます、ですが。
 やっぱり起きません、それでなのでした。
 首を傾げさせてです、こう五人に言いました。
「駄目だね、今回は」
「何かあったんでしょうか」
「何もなかったと思うよ」
 それは決してというのです。
「オズの国独特の草で寝たとかではね」
「この大学にそうした草はないですね」
「そう、ないよ」
 絶対にというのです。
「植物園にもそうした草はあるけれどね」
「それでもですか」
「あってもね」
「今ここにはですか」
「ないよ」
 決して、というのです。
「この森にあるのは普通の草木、花ばかりだよ」
「それじゃあ」
「そう、だからね」
「彼が寝ていることは」
「いつものことなんだ」
「いつもですか」
「そう、だからね」
 どうして彼が起きないかといいますと。
「ただ眠りが深いだけだよ」
「じゃあどうすれば」
「彼が起きるかだね」
「このまま寝てもらう訳にもいかないですね」
「ボタンとスカーフを返さないといけないからね」
 だからだとです、教授はカルロスにお話しました。
「起きてもらってね」
「そうしてですね」
「そう、返すよ」
 そうしようというのです。
「彼に起きてもらってからね」
「けれどこのままだと」
「そう、寝たままの相手に返すことはね」
 それはといいますと。
「あまりよくないからね」
「起きてもらってから」
「そうしてだよ」
 あくまでだというのです。
「彼に返すよ」
「それじゃあ今から」
「もう一回起こそうか」
 こう言ってです、教授はもう一回ボタン=ブライトの身体を揺らして声をかけます、ですがそれでもなのでした。
 やっぱり起きません、これには教授もです。
 首を傾げさせてです、それで言うのでした。
「さて、どうしたものかな」
「起きないわね」
「元々起きない子だけれど」
「今回は特にね」
「うん、起きないよ」
 教授はこうドロシーに答えました。
「中々ね」
「どうしようかしら」
「起きてもらわないと困るかね」
 ボタンとスカーフを返す為にです。
「まあ起きてもらうのは私達の都合だけれどね」
「寝ているのはこの子の都合でね」
「とにかく。森でずっと寝ていることは」
 そのことはどうかといいますと。
「よくないから」
「ここから運んで」
「ベッドに寝かせよう」
 森の中からです。
「そうしよう」
「じゃあ運びましょう」
「リアカーを持って来よう」
「それにこの子を乗せて」
「運ぼう」
 こうお話してでした、皆で。
 リアカーを持って来てそれにボタン=ブライトを乗せてベッドまで運ぶことにしました。そこでカルロスがです。
 教授にです、そのリアカーのことを尋ねました。
「オズの国にもリアカーってあるんですね」
「うん、あるよ」
 その通りだとです、教授はカルロスに答えました。
「そういったものもね」
「そうなんですね」
「あれはとても便利だね」
「だから大学にもですね」
「あってね」
 そして、というのです。
「何かあれば使うよ」
「それで今も」
「それを持って来てね」
 そのうえで、というのです。
「この子を乗せて運ぼう」
「わかりました、それじゃあ」
「それでリアカーは何処にあるんですか?」
 恵梨香はリアカーのある場所に尋ねました。
「一体」
「ここからだとね」
 教授は今自分達がいる場所から恵梨香に答えました。
「すぐそこに倉庫があるから」
「その倉庫の中にですね」
「リアカーがあるよ」
 そうだというのです。
「それを持って来よう」
「わかりました、それじゃあ」
 こうしてでした、皆で倉庫に行ってそうしてです。
 リアカーを持って来てでした、皆で。
 ボタン=ブライトを乗せて運びます、ですが。
 それでもでした、彼は起きないです。
 しかもです、ベッドのあるお部屋まで運んでそうしてなのでした。
 ベッドまで入れました、ですがそこまでも。
 彼は全く起きません、それでカルロスも驚いて言いました。
「本当に起きないですね」
「流石に今回はね」 
 ドロシーも言います。
「特に起きないわね」
「運ぶ間かなり揺れていたのに」
 リアカーも揺れます、当然ボタン=ブライトも揺れていました。
 ですが全くです、彼は揺れないで。
 それでなのでした、皆そのことに驚いているのです。
「全く起きないなんて」
「これは相当ね」
「滅多なことでは起きないね」
 教授も言います。
「いやはや、どうしたものか」
「教授は何かアイディアがあるかしら」
「彼を起こす為のだね」
「ええ、何か知っていることもね」
「ううん、目覚め草とかかな」
「目覚め草をなのね」
「この子にその匂いを嗅がせれば」
「起きるのね」
「目覚め草なら植物園にあるよ」
 そうだというのです。
「それを使えば」
「起きてくれるのね」
「うん、ただ」
「ただ?」
「あの草は使わない方がいいね」
 教授は難しいお顔になってドロシーに言いました。
「出来ればね」
「それはどうしてなの?」
「匂いがきついんだ」
 だからだというのです。
「それもかなりね」
「そんなに凄い匂いなの?」
「この子達の世界で言うと」
 教授は五人の子供達に顔を向けてからドロシーにお話します。
「スウェーデンのシュールストレミング位にね」
「えっ、あれですか」
 シュールストレミングと聞いてでした、カルロスはそれは幾ら何でもというお顔になって教授に応えました。
「あれ僕一度」
「食べたことがあるのかい?」
「はい、あまりにも臭いので」
 それでだというのです。
「お外で食べたんです」
「中ではとてもだね」
「はい、食べられないです」
 そうだというのです。
「お部屋の中に悪臭が充満して」
「それでお汁が服についたら」
「匂いがついて」
「とんでもないことになるね」
「あんな匂いがするんですか」
「だから植物園でもね」 
 大学の中にあるそこでもでした。
「目覚め草は他の植物とは別々に置かれてるんだよ」
「それを使えば起きても」
「あれは最後の最後にしよう」
 ボタン=ブライトがどうしても起きない場合に限ってというのです。
「そうしよう」
「それじゃあ今は」
「どうして起こすかだよ」
 目覚め草は最後の手段として、というのです。
「それが問題だよ」
「そうですね、ボタン=ブライトをどうして起こすか」
「どうしたものかな」
「皆で考えてみる?」
 ドロシーがこう皆に提案しました。
「この子を起こす方法をね」
「揺らしても声をかけても起きないですからね」
 カルロスはドロシーにも応えます。
「ですから」
「そう、あらためてね」
「人を起こす為の方法だね」
 また教授が言ってきました。
「それについては」
「教授は何か知識が」
「そうだね。ここはね」
「ここは?」
「皆で図書館に行こう」
 こう皆に言うのでした。
「私は考える時はいつも図書館に行くんだ」
「そこで本で調べながらですか」
「そう、考えていくんだ」
「だから今回も」
「そう、図書館に行こう」
 こう言ってです、皆を誘ってです。
 教授は図書館に入りました、王立大学の図書館は物凄い大きさです。その図書館の中に入ってでした。
 皆で席に着いてです、教授は本を開きながら考えます。そうしてでした。
 皆にです、こう言いました。
「北風と太陽だね」
「あの童話ですね」
「そう、それでいこう」
「じゃあ無理に起こすのじゃなく」
「そうだよ、起きてもらうんだよ」
 太陽になるというのです、教授達が。
「彼にね」
「起こすんじゃなくてですね」
「北風で幾ら吹いてもね」
「旅人はコートを脱がないですね」
「寒いと余計に着るね」
「はい、僕達にしても」
「けれど暖かったら」
 寒くなく、です。
「コートを脱ぐね」
「童話にある通りですね」
「無理に起こすのは止めよう」
「起きてもらうんですね」
「そうしよう、だからね」
「その方法をですね」
「皆で探すべきだが」
 それでもとです、教授はここでこう言いました。
「そのやり方ならもう私の知識の中にあるよ」
「僕達が太陽になるですね」
「そう、それはもうあるよ」
 教授は本を開いたまま皆に言いました。
「それを使おう」
「その方法は」
「カルロス君は好きな食べものは何かな」 
 教授はここでは微笑んでカルロスにこう尋ねました。
「一体」
「色々ありますけれど」
「その中で一番好きなものは何かな」
「そう言われるとシェラスコですね」
 これがカルロスが一番好きな食べものだというのです。
「お肉をたっぷりと」
「その匂いも大好きだね」
「はい、大好きです」
 その通りだとです、カルロスは答えました。
「本当に」
「そうだね、だからね」
「ボタン=ブライトにも」
「傍に好きな食べものを置いてね」
 その枕元にだというのです。
「その匂いで」
「起きてもらうんですね」
「そうしよう、これでどうかな」
「いいですね、それは」
 カルロスははっとしたおお顔になって教授の提案に頷きました。
「それじゃあその方法で」
「起きるには目覚ましだけれど」
「あれはね」
 ジョージと神宝がお話します。
「起こすだしね」
「しかもあれを使ってもね」
「多分ボタン=ブライトは起きないね」
「今の彼はね」
「うん、起きないだろうね」
 教授も二人にそうだろうと答えます。
「今の彼の眠りの深さだとね」
「やっぱりそうですよね」
「目覚まし時計じゃ起きないですよね」
「それに起こすだからね」
 ここでもこう言う教授でした。
「起きてもらわないと」
「駄目ですから」
「ですから」
「起きてもらうよ」
 また言う教授でした。
「絶対にね」
「はい、じゃあ」
「ここは」
「食べものを使おう」
 それを彼の枕元に置くというのです。
「そうしよう」
「そのボタン=ブライトの好きなものは」
「一体何かしら」
 今度はナターシャと恵梨香が言いました。
「色々好きなものがあるみたいだけれど」
「一番は何かしら」
「あの子はお菓子が好きなの」
 ドロシーが二人の女の子に答えます。
「それもキャラメルやクッキーとかがね」
「そうしたお菓子がですか」
「好きなんですね」
「それもとびきり美味しいお菓子がね」
「とりわけですね」
「好きですか」
「そうなの、そうしたお菓子なら絶対に起きるわ」
 絶対にというのです。
「あの子でもね」
「それじゃあ」
「お菓子をすぐに集めましょう」
「そうしてあの子の枕元に置いて」
「起きてもらいましょう」
「そうね、それだとね」
 ここでドロシーは皆に言いました。
「マンチキンの国で一番美味しいお菓子を手に入れましょう」
「オズの国で一番美味しいお菓子はね」
 ここで言ったのは教授でした。
「ジンジャー将軍のお家で作っているよ」
「あの叛乱を起こした」
「あの人ですね」
「あの人も今では結婚してね」
 そうしてというのです。
「お菓子を作ってるんだ」
「農家で、ですよね」
「そうされてるんですよね」
「そうだよ、だからね」
 それでだというのです。
「あの人のところまで行ってお菓子を貰おう」
「そしてボタン=ブライトに起きてもらって」
「ボタンとスカーフを返すんですね」
「そうしよう、どうも待っていてもね」
 彼が起きることをです。
「無駄になりそうだし」
「あのまま何週間でも寝そうな感じだよね」
 ドロシーのお膝の上にいるトトが言ってきました。
「本当に」
「そう、そうなりそうだからな」
「待つよりはね」
「動くべきだよ」
 そう思うが故にでした。
「だから将軍の家に行こう」
「ジンジャー将軍のですね」
「あの人のお家に」
「君達は将軍のお家に行ったことはあるかな」
「いえ、なかった筈です」
「確か」
 五人はこう教授に答えました。
「お会いしたことも」
「なかったと思います」
「そうだったね、ではね」
「ジンジャー将軍にお会いする為にも」
「その為にもですね」
「あの人もオズの国の名士の一人でね」
 そのこともあってというのです。
「悪い人ではないからね」
「何かあれですよね」
 カルロスがその将軍について教授に言いました。
「お菓子が好きで」
「そう、それでしっかりしていてね」
「何か子供っぽいところもある人ですよね」
「お菓子が好きで叛乱を起こしたこともあったよ」
 それが元でオズマがオズの国の国家元首になりました、思えば将軍がいてこそ今のオズの国も存在しているのです。
「あの時は大騒ぎだったよ」
「私その時はオズの国にいなかったのよ」
 ドロシーはそうでした、その時は。
「何かあの時期だけはね」
「そうそう、ドロシー嬢が唯一関係しないね」
「オズの国の騒動だったわね」
「ドロシー嬢はこの国にはじめて来てからずっと騒動には関係しているからね」
 そしてその解決に大きく貢献してきているのです、ドロシーがいれば騒動は解決するところがあるのもまた事実です。
「けれどあの時だけはね」
「いなかったのよね」
「オズの国自体にね」
「ドロシーさんがオズの国に正式に入られたのはノーム王が攻めて来た時でしたね」
 また言うカルロスでした。
「その時からでしたね」
「そうなの、それまではね」
「オズの国に来ることはあっても」
「その都度帰られていましたね」
「貴方達の世界にね」
「それがヘンリーおじさん、エムおばさんと共に」
「そう、正式に移り住むことになったのよ」
 おじさん達を助ける為もあってでした。
「そうなったわ」
「そうでしたね」
「それでその時からはね」
「いつもですね」
「オズの国で騒動があればね」
 まさにその時はです。
「私が行ったりしてね」
「解決に尽力されていますね」
「私だけじゃないけれどね」
 ドロシーはいつも動いていますがそれでもです。
「私だけで何かを出来たことは一度もないわ」
「他の方々がおられてこそですね」
「そう、そうしてね」
 そのうえでなのでした。常に。
「いつも騒動が解決出来ているのよ」
「そうなんですね」
「そう、それでジンジャー将軍だけれど」
「ドロシーさんはお会いしたことがありますよね」
「ええ、何度かね」
 その叛乱の時はお会いしていなくともです。
「お会いしたことがあるわ」
「そうですよね」
「悪い人ではないわ。面倒見もよくてね」
「そんな人がどうして叛乱を起こしたんでしょうか」
 カルロスは叛乱やそうしたことは悪い人がすると思っています、それで首を傾げさせてこう言ったのです。
「悪い人でないのね」
「ただしたくてってところが大きかったね」
 教授がそのカルロスにお話します。
「まあ家事をしたくない、お菓子を好きなだけ食べたいっていうのが目的だったけれどね」
「したくて、ですか」
「そう、叛乱を起こしたくてね」
「そんな理由でなんですか」
「君達もひょっとしたらね」
 これは五人がまだわからないことですが教授は今のうちにと思いましてそれであえてこの時にお話したのです。
「何も理由がなくてもね」
「叛乱を起こしたい時がですか」
「来るかも知れないよ」
「何で理由がなくて叛乱を起こすんですか?」
「成長するとね、人は自立したくてね」
 そして、というのです。
「自分だけの考えも持ちたくなって」
「それでなんですか」
「自分だけの世界も持ちたくなって」
 そうした要因が重なって、というのです。
「叛乱や革命を起こしたくなるんだ」
「そうなんですか」
「将軍もそうだったんだよ」
「家事もしたくなくて、ですか」
「そう、女性の権利を主張してね」
「女の人の権利って」
 ここで言ったのはナターシャでした、首を傾げさせて。
「ロシアじゃそれこそ」
「女の人が強いっていうんだね」
「はい、うちのお祖母ちゃんなんか特に」
 ナターシャは実家のお祖母さんのことからお話しました。
「皆お祖母ちゃんの言うこと聞いて大事にしていますよ」
「それも女性の権利だね」
「認められていますよね」
「うちのお母さんネットビジネスやってますよ」
「うちのお母さんも働いていますけれど」
 ジョージと神宝も言います。
「それでかなりお金稼いでいます」
「部下の人も結構いますけれど」
「私のお母さんもです」
 恵梨香もでした、自分のお母さんについてお話します。
「パートに出て働いて」
「そうだね、今は女性の権利があるね」
「昔は違ったんですね」
「オズの国ではあったよ」
「それでもなんですか」
「将軍は叛乱を起こしたんだよ」
 沢山の女の子達を率いてです、その数は結構なものでした。
「女性の権利の為にね」
「あったのにですか」
「それ以上のものを求めてね」
「何か私も」
 恵梨香もでした、首を傾げさせてしまいました。
「わからなくなってきました」
「将軍の叛乱のことが」
「はい、どうにも」
「叛乱といっても色々でね」
「そうした色々な理由があって起こす叛乱もですか」
「あるんだよ」
「そしてその理由に何となく起こしたっていうことも」
 そのこともというのです。
「あるんですね」
「そうなんだよ。あるにはあってね」
 そしてというのです。
「将軍は一度はエメラルドの都を占領したんだ」
「それはかなり凄いですね」
「うん、とにかく叛乱はね」
「理由がなくてもですね」
「起こったりもするよ」
 教授はこう五人にお話します。
「自分達の世界なりを持ちたくてね」
「よくわからない理由ですね」
「若いとね」
「若いとですか」
「そうしたことをしたりもするんだ」
「何かどうにも」
 また首を傾げさせた恵梨香でした、やはり今はまだそうしたことはわからないです、この五人の子供達には。
「私達には」
「成長すればわかるよ」
「何歳になってからでしょうか」
「二十歳かその前位かな」
「かなり先ですね」
「そづあね、君達にとってはね」
「オズの国では皆歳を取らないけれどね」
 ドロシーはオズの国のお話もしました。
「取りたいと取れるけれど」
「それでも基本的には」
「そう、歳を取らないし」
 それにです。
「死ぬこともないのよ」
「そうですよね」
「だから私達も何時までもね」
「叛乱を起こす歳にもならないで」
「ずっといられるのよ」
「そうなんですね」
「そして将軍もね」
 彼女もと言うドロシーでした。
「今は穏やかにね」
「農家の奥さんとして過ごされているんですね」
「ええ、そうよ」
 だからだというのです。
「穏やかにね」
「何か叛乱を起こされてもですか」
「そう、今ではね」
「変わられたんでしょうか」
「若気の至りだよ」
 教授がここでお話に出したことはこのことでした。
「今ではそうしたことはしないよ」
「そうですか」
「人はね」
「とにかくね」
 今はというのです。
「今の将軍はしっかり者の奥さんだからね」
「安心してですね」
「会いに行けるよ」
「わかりました、それじゃあ」
「そういうことでね、さて」
 ここまでお話してでした、そのうえで。
 教授はです、こうも言いました。
「さて、出発するのは明日にしてね」
「今はですね」
「今日は」
「うん、休もう」
 そうしようというのです。
「特に急がないからね」
「ボタン=ブライトが起きれば」 
 今日の間にです、カルロスが言います。
「その時はですね」
「そう、それでお話は終わりだよ」
「ボタンとスカーフを返して」
「そうしてね」
「そのことも考えながらですね」
「今から行こう」
 こう言ってでした、そのうえで。
 皆この日は休むことにしました、そして夕食前にです。
 教授は皆を大学の敷地内の散歩に誘いました、その時にこう言いました。
「この大学をもっと見てくれるかな」
「それで、ですね」
「これからお散歩を」
「うん、今日は結構歩いたけれどね」
 それでもだというのです。
「君達がまだ歩きたいのならね」
「お願いします、それじゃあ」
「是非」
 五人は教授に笑顔で答えました、そのうえで。
 皆で大学の敷地内を散歩しました、するとです。
 とにかく広いです、あらためて歩いてみると。それでカルロスは驚いて言いました。
「こんなに広いなんて」
「思わなかったかね」
「はい、とても」
「広いとは聞いていたね」
「ですがこれ程までとは」
 とてもというのです。
「思わなかったです」
「大体君達の学園と同じ位の広さだと思うよ」
「うちの学園も広いとは聞いていましたけれど」
「実際に歩くと実感するね」
「はい」
 こう教授に答えました。
「本当に」
「聞くのと見るのはまた違っているんだよ」
「歩いてみてもですね」
「百聞は一見に然ずともね」
 教授はこの言葉も言いました。
「いうからね」
「実際にその目で見ることですね」
「学生の諸君にも言っているよ」
「見ることの大事さをですか」
「それは学問についてとても大事なことだからね」
「ベンキョー錠を飲むことよりもですね」
「ベンキョー錠は勉強の為のものでね」
 勉強の中身のものを自分の中に入れるものだというのです。
「学問は自分がしたくてするものだから」
「学問にはですか」
「そう、見ることもね」
 それもというのです。
「大事だからね」 
「それで見ることもですね」
「学生諸君にいつも言っているんだ」
「そういえば僕達も」
 カルロスは教授のお話から気付きました。
「何かと遠足とかで」
「外であらゆるものを見ているね」
「それがなんですね」
「そう、学問なんだよ」
「それになるんですね」
「学問は一生のものだよ」
「へえ、一生ですか」
 そう聞いてです、カルロスは驚いて言いました。
「ずっとやるものですか」
「自分がしたいとね」
「しないといけないものじゃなくて」
「自分がしたい分野をね」
「勉強していくものですね」
「いや、勉強はしないよ」
 教授はカルロスにこのことは注意しました。
「勉強と学問は違うからね」
「そういえば教授はいつもそうお話されていますね」
「そうだね、学問はどうするものかというと」
「勉強でないとすれば」
「調べてね」
 そして、というのです。
「知っていくものだよ」
「そうしたものですか」
「それが学問なんだよ」
「自分からなんですね」
「させられるものでなくて」
「自分からしていくものだよ」
 それが学問だというのです、教授は皆と一緒に歩きつつです、このことをお話するのでした。
「遊ぶことともね」
「遊びともですか」
「似ているね」
「あの、学ぶことと遊ぶことは」
「似ていないというんだね」
「違うんですか?」
「いや、どっちも楽しんで自分からするものだからね」
 教授はカルロス達にお話していきます。
「遊びと似ているよ」
「そういえば遊びも」
「自分から好きなものをして楽しむね」
「はい」
 その通りでした、遊びとはそういうものです。
 だからです、カルロスも教授のお話に頷くのでした。
「その通りですね」
「そう、だからね」
「学問は楽しむものですね」
「そうだよ、勉強は義務かも知れないけれど」
「学問は楽しむものだから」
「ベンキョー錠もないんだよ」
 それで済ませるものではないからというのです。
「勉強は義務、義務は果たすだけでいいけrど」
「そうでないと」
「自分で楽しんで進んでいかないといけないからね」
「自分で見てベンキョー錠も使わずに」
「進めていくものだよ」
「スポーツもですよね」
 カルロスはここではっとしました、そのうえで教授に言いました。
「自分で好きなものをしていきますね」
「そうだね、怪我をしない様に気をつけてね」
「準備体操をして」
「スポーツもね」
「楽しむものですね」
「オズの国では皆楽しんでるよ」
 スポーツもというのです。
「そうしているよ」
「そうですか、それにしてもスポーツも」
「スポーツも。どうしたのかな」
「楽しむことが第一ですよね、やっぱり」
 カルロスはここでさらに深く考えるお顔になりました、そして言うことはといいますと。
「人間は」
「そうだよ、スポーツは楽しまないと駄目だよ」
「勝つ為じゃないんですね」
「勝ったら嬉しいね、スポーツは」
「はい」
「けれどどのスポーツでもね」
 それは教授が好きな高跳びもカルロスが好きなサッカーだけではありません。その他のスポーツもでした。
「勝つことが全てじゃないね」
「はい、確かに」
「いいプレイをした、自分の限界を超えた」
「そして身体を動かしたということが」
「楽しいね、そしてフェアプレイを出来た」
 あらゆるスポーツに欠かせないこのこともでした。
「大事だね」
「勝つだけじゃないんですね」
「スポーツが勝つだけだったら」
 それこそ、というのです。
「面白く元何ともないよ」
「楽しくもですね」
「そう、その他にも様々なことがあるからね」
「じゃあ負けたら丸坊主にしろとか言う先生は」
「それは卑怯なことをした場合かな」
「いえ、普通に勝負をして負けて」
 そしてというのです。
「その場合にです」
「ああ、それはね」
 教授はそうした先生についてすぐにこう答えました。
「その先生が間違ってるよ」
「そうなんですか」
「うん、スポーツは勝ち負けじゃないからね」
「フェアプレイに反しないで負けてもですか」
「それでもいいんだよ、大切なことはね」
「楽しむことと」
「ルールを守ってすることだから」
 スポーツに大事なことはというのです。
「負けて髪の毛を丸坊主にするとかはね」
「間違ってるんですね」
「しかもその先生は自分は丸坊主にしたのかな」
「いえ、それは」
 しなかったとです、カルロスはすぐに答えました。
「しなかったです」
「余計に悪いね」
「余計にですか」
「生徒にそうしろというからにはね」
「自分もですか」
「まず自分が真っ先にしないと駄目だよ」
 教授は言います、これはカルロスだけでなく他の皆にも言うことでした。それもかなり強く言っている言葉でした。
「そんなことをしたら駄目だよ」
「人にそうしろというからには」
「自分もだよ」
 真っ先にすべきというのです。
「丸坊主にしないと」
「そういうものですね」
「その先生は間違ってるよ」
 教授ははっきりと言いました。
「そしてそんな先生とはね」
「どうすればいいんですか?」
「絶対に一緒になったらいけないよ」
「その先生がサッカー部の顧問だったら」
「絶対にその先生のいるクラブや部活には入らないことだよ」
「絶対にですか」
「その先生はよくない人だからね」
 だからだというのです。
「教わってもいいことはないから」
「サッカーをしていてもですか」
「何かをしていてもそれでいい人とは限らないからね」
 それ故にというのです。
「悪い人に教わったら駄目なんだ」
「どんなに自分が好きなことをしていても」
「そう、サッカーでも他の場所でも出来るからね」
「そうなんですね」
「そんな人に教わっても絶対にいいことはないよ」
「人には負けたら丸坊主にしろと言っても自分はしない人は」
「教えている自分の責任はどうなるのかな」
 教授はこのことも指摘しました。
「それはないのかな」
「そういえば」
「そうだね、そうしたことを考えられないとね」
「駄目なんですね」
「そうした人はサッカーでも何でもそのスポーツを教える資格もする資格もないし」
 それに、というのです。
「先生をやる資格もね」
「ないですか」
「絶対にないよ」
 有り得ないといった口調でした。
「私だったらそうした先生は大学には入れないよ」
「そもそもオズの国にはね」
 ドロシーも言います。
「そうした人はいないから」
「そうなんですね」
「ノーム王と同じ位酷い人ね」
 そうした先生はというのです。
「本当にね」
「ノーム王とですか」
「そう思うわ」
 見ればドロシーは頬を膨らませています、そのうえでの言葉でした。
「私もね」
「ドロシーさんもですか」
「どうしてそういう人になるのかしら」
「ううん、それは」
 恵梨香も首を傾げさせています。
「そのことは」
「恵梨香もわからないの?」
「はい、やっぱり育ってきた環境でしょうか」
「自分はよくても、っていう環境でいたからなの」
「それで他人は駄目だとか」
「そんなことはおかしいと思うけれど」
 また言うドロシーでした。
「正座は長くしていたら辛いでしょ」
「はい、とても」
「足が痺れて」
「それをずっと他の人、生徒の人にさせていてね」
「自分だけは立っていたらですか」
「自分だけ楽をしたら駄目だし」
 それにというのです。
「それを見て他の人はどう思うか考えないと」
「そうした人は嫌に思いますよね」
「少なくとも私はそう思うわ」 
 ドロシーは頬を膨らませたまま恵梨香に言いました。
「そんな人は嫌いだしそうなりたくもないわ」
「絶対にですね」
「ええ、そう思うわ」
 こうお話するのでした、そして。
 お散歩をしてでした、それから晩御飯を食べてそれからお風呂に入って寝てです。ジンジャー将軍のお家に向かうのでした。



森から移動してなくて良かったな。
美姫 「確かにその点は良かったわね。でも……」
ああ、まさか寝ているとはな。
美姫 「しかも、起こしても起きないしね」
だよな。ベッドのある場所まで移動させても起きる気配なしだし。
美姫 「次は起きてもらうための手を講じないといけなくなったわね」
その為にジンジャー将軍の家へ。
美姫 「ボタン=ブライトを起こすことができるのかしらね」
どうなるのか、次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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