『オズのムシノスケ』




               第三幕  ボタン=ブライト

 一行は大学の何処かにいるボタン=ブライトを探すことにしました。ですがその前にです。
 ドロシーは皆にです、こう言うのでした。
「あの子を探すよりも先にね」
「はい、石拾いですね」
「僕達が今しているこれをですね」
「最後までしましょう」
 つまりグラウンドを完全に綺麗にしようというのです。
「そうしましょう」
「一度やったら最後まで、ですね」
「そう、しないと駄目だから」
 だからだとカルロスにも答えます。
「だからね」
「それで、ですね」
「今はね」
「石拾いをしてですね」
「あの子は確かにふらりとしてるけれど」
「それでもですね」
「物凄くよく寝る子だから」
 よくです、会えばすやすやと寝ているのがボタン=ブライトです。そうしたとてものどかな男の子なのです。
「だからね」
「それで、ですね」
「そう、すぐに大学から出ることはないから」
「そう、あの子は一日の半分以上を寝て過ごすこともあるのだよ」
 教授もこう皆にお話します。
「そして歩くのも決して速くないから」
「この大学から出ることはですね」
「大学の全ての門のチェックを厳しくしよう」
 具体的に言えば出る人のです。
「そこで彼が見付かればいいし」
「若し門で見付からないにしても」
「学校の中にいることは間違いないですから」
「そう、必ず見つかるよ」
 大学の中を探していればというのです。
「何しろこの大学もまた壁に覆われているからね」
「そういえばこの大学の壁って」
 カルロスは教授に言いました、大学を全て城壁の様に覆っている石の壁をです。
「マンチキンにあっても青だけじゃないですね」
「あっ、そういえば」
「そうだね」
 ジョージと神宝も言います、ここで。
「青だけじゃなくて赤、黄色、紫、緑ってね」
「それぞれ交代で配色されてるよね」
「一色一色ずつね」
「綺麗に色分けられているね」
「それはこの大学がオズの国全てから学生が集まっているからだよ」
 だからだとです、教授は二人にもお話しました。
「マンチキンにあってもね」
「だからですか」
「それでなんですね」
「そう、マンチキンにあってもね」  
 青の色のこの国にあってもだというのです。
「五つの国の全ての学生諸君の為にね」
「五色なんですね」
「それぞれの色なんですね」
「建物もだよ」
 見ればです、大学の建物もです。
 青いものもあれば黄色いものもあります、勿論他の三色もです。大学の中はその五色で綺麗に彩られています。
「それぞれの学生諸君の色を表しているんだ」
「オズの国全ての」
「五つの国の、ですね」
「そうだよ、この大学はマンチキンにあってもね」
「オズの国全てのですね」
「大学だからですね」
「だからこうした色なんだ」
 壁も建物もというのです。
「そういうことだよ」
「ううん、だから青だけじゃないんですね」
「マンチキンにあっても」
「そうだよ、ただ草木はね」
 こうしたものはといいますと。
「マンチキンにあるから」
「青なんですね」
「そういったものは」
「そうだよ、オズの国の自然のものは全てその国の色になるんだ」
「マンチキンなら青」
「そしてそれぞれの国の色に」
「だから草木は青だよ」
 この王立大学もだというのです。
「そうなっているんだよ」
「そうですか。それじゃあですね」
 ナターシャは教授のお話をここまで聞いて言いました、その言ったことはといいますと。
「ボタン=ブライトの服は白ですよね」
「白の水兵さんの服だよ」
「白だと青の中で目立ちますし」
 それにというのです。
「壁や建物の青以外の色とも」
「白は目立つよ」
「じゃあそのことも頭に入れて探せば」
「ボタン=ブライトを見つけやすいというんだね」
「はい、そう思いますけれど」
「うん、その通りだよ」
 教授もです、ナターシャに如何にもというお顔で答えました。
「青の中での白は目立つ、そして」
「他の色の中でも」
「ボタン=ブライトは見つけやすいね」
「このことも考えていけば」
「その通りだよ、ボタン=ブライトが門に来たら見付けられる様にして」
「そのことも頭に入れておけば」
「すぐに見つかるよ」
 そうなるとです、教授も言いました。
「君の言う通りだよ」
「それじゃあ」
「安心して皆で探そう」
 ボタン=ブライトが必ず見つかると確信してというのです。
「そうしよう、じゃあまずは」
「石拾いですね」
 恵梨香も言ってきます。
「これをですね」
「そう、学問もスポーツもね」
「最初は綺麗にすることですね」
「最後もね」
 した後でもというのです。
「綺麗にしないとね」
「駄目ですね」
「それも皆でね」
 勿論教授も一緒にしてこそだというのです。
「恵梨香君の国では正座をするね」
「はい」
「お話を聞いたりする時生徒に正座をさせて自分は立っているだけの先生を見てどう思うかな」
「そんな先生好きになれないです」
 恵梨香は教授の例え話を聞いてすぐに答えました。
「若し生徒の人達にそんなことをさせるのなら先生もしないと」
「駄目だね」
「自分だけしないなんてよくないです」
「そういうことだよ、そうしたことをする人はね」
 どうなのかとお話する教授でした。
「先生をしたらいけないよ。生徒に絶対に慕われないし尊敬もされないよ」
「間違ってもですね」
「そうした人がそう思われる筈がないよ」
 何がどうなってもというのです。
「馬鹿にされて嫌われることはあってもね」
「人に何かをしろと言うのならですね」
「まずは自分がしないと」
 そうでなければというのです。
「人は納得しないよ」
「そうしたものだからですね」
「そう、それにね」
「それにですか」
「自分がやってみせるのを見せるのは教育の基本だよ」
 教育の第一歩だとです、教授は恵梨香にお話するのでした。勿論皆も教授の今のお話をしっかりと聞いています。
「そんなことをする先生は先生になってはいけないよ」
「そうなんですね」
「まあこの大学でもオズの国の他の学校でもね」
「そうした先生はですね」
「いないよ」
 オズの国にはというのです。
「だから安心していいいよ」
「それはいいことですね」
 恵梨香はここまでl聞いて素晴らしいものを感じて頷きました。
「日本じゃとても」
「日本にはそうしたことをする先生がいるんだね」
「はい、います」
「それはよくないね」
 他の世界のことでもです、教授は恵梨香のその言葉に憂うべきものを感じてそしてこうしたことを言うのでした。
「生徒の子達にとって」
「そうですよね」
「その先生はいいよ」
 何故いいかといいますと。
「自分はしないし何かを言われても気にしないといいからね、言い訳だって出来るし」
「けれどですね」
「そんな先生に教えられる生徒の子達は気の毒だよ」
 だからよくないというのです。
「そうした先生がいいことを教える筈がないからね」
「悪い人だからですね」
「悪い人が先生になれば悪い先生になるよ」
「悪い人はどんな仕事をしても悪い人なんですね」
「だって悪い心のままだからね」 
 それでどんな素晴らしい仕事をしてもだというのです。
「悪いことしかしないよ」
「そうなんですね」
「何かをしているからいい人とは限らないんだよ」
 教授はご自身も石を拾いながらです、恵梨香達にこのことをお話するのでした。とても真面目なお顔でそうします。
「どんな人かだよ」
「その人間性が大事なんですね」
「スポーツをしていても学問をしていても」
 それをしていて人が決まるのではないというのです。
「その人がどうかなんだよ」
「それが大事なんですね」
「そう、学校の先生でもね」
 先生が全ていい人ではなく、というのです。
「悪い人がいるから」
「そうした人には」
「話を聞くべきでないし間違っても見習ったら駄目だよ」
「悪い人をですね」
「悪い人を見習ったわ悪い人になるよ」
 自分自身もだというのです、悪い人を見習うとそうなるというのです。
「だからね」
「私達も」
「そう、いい先生のお話を聞いて見習うんだよ」
「わかりました」
「いい人になる為にはいい人を見ることだよ」
 それが第一歩というのです、教授は。
「そのことをね」
「わかりました、勉強させてもらいます」
「そうした人をね」
「オズの人達を見習えばいいですね」
 カルロスが笑顔でこう言ってきました。
「そうですね」
「あら、私はね」
「あまり見習ったらよくないよ」
 ドロシーと教授がです、カルロスの今の言葉に笑って返しました。
「結構いい加減だし」
「偏ってるところもあってね」
「貴方達よりずっと怠け者よ」
「知識をひけらかしたりもするしね」
 教授は自分のそうしたところを悪い癖だと自覚しています、そうしたことにも気が付いているのです。
「だからね」
「私は見習うべきではないよ」
「他の人ならいいけれど」
「少なくとも私はね」
「僕もね」
 トトも言うのでした。
「食べて寝て遊ぶだけだから」
「けれど自分で尊敬しろとか言う人って多分碌な人じゃないですよ」
 カルロスは教授達のお話を聞いて何となくそう思いはじめています、それでドロシー達にもこう返すのでした。
「尊敬するなっていう人程」
「尊敬出来るっていうの」
「そう言うのだね」
「はい、ですから」
 それでだというのです。
「オズの国の皆さんを見習わせてもらいます」
「ええと、恥ずかしいけれど」
「どうにもね」
 ドロシー達はカルロスの今の言葉に実際に気恥ずかしいお顔になってそのうえで言うのでした。
「だからちょっと」
「そうしたことは」
「じゃあ見させてもらうだけで」
「見るのは誰も止められないから」
「そのことは言わないけれどね」
「それならそうさせてもらいますね」
 カルロスはにこりと笑ってドロシー達に応えました、そうしたことをお話しつつまずはグラウンドの石拾いをしました。
 その後で、です。ドロシーは皆にこう言いました。
「すっかり日が暮れたから」
「今日はですね」
「ボタン=ブライトを探さずに」
「そう、もうお休みしましょう」
 そうしようというのです。
「この大学の中でね」
「ではお部屋をお貸ししよう」
 教授はすぐにドロシー達に言いました。
「ドロシー嬢と二人の女の子達、男の子達にね」
「僕はドロシーと一緒だね」
「如何にも」
 教授は親しい友人の一人であるトトにも答えました。
「君はドロシー嬢の最も古い友人だからね」
「それでだね」
「この大学にはよい部屋も多くあるので」
「寮があるからね」
 ドロシーが教授に応えます。
「その寮の中に」
「そして来賓用の部屋も多くあるのだよ」
「じゃあ私達は」
「君達は学生じゃないじゃないか」
 だからだというのです。
「お客さんになるよ、だからね」
「来賓のお部屋に」
「そう、入ってもらって」
 そしてというのです。
「ゆっくり休んもらうよ、お風呂も用意しておくよ」
「お風呂にもですね」
「入っていいんですね」
「綺麗にすることは教育の第一歩だと言ったじゃないか」
 だからだと皆にも言うのでした。
「お風呂も毎日ちゃんと入るべきだよ」
「それじゃあ」
「お風呂にも入って」
「綺麗にしてね、そして」
 お風呂だけでなくだというのです。
「晩御飯も食べよう」
「お腹が空いていると何も出来ないわよ」
 ドロシーは食べることの大切さについてもお話しました。
「力が出ないから」
「だから今晩も」
「食べることはですね」
「忘れたら駄目よ」
「さて、私はいつも通りサラダを食べよう」
 これが教授の御飯です、教授はバッタなので食べるものはいつもお野菜や草なのです。
「ドレッシングをたっぷりとかけてね」
「それで僕達は」
「そうだね、君達はね」
 教授はカルロスに応えて言いました。
「何がいいかな、食べたいものを言ってくれるかな」
「ううんと、それは」
「色々と」
「君達の好きなものを食べてくれ給え」
 それこそ何でもというのです。
「遠慮なくね」
「ううん、じゃあ」
「本当にそれぞれで」
「私もね」
 ドロシーも言うのでした。
「今夜はハンバーガーにしようかしら」
「あっ、ハンバーガーですか」
「あれをですか」
「そうなの、好きなの」
 ハンバーガーがというのです。
「あれがね」
「じゃあ僕はホットドッグかな」
 ジョージがまず言いました。
「それとサラダ、あとコーンクリームスープに林檎に」
「僕は炒飯と八宝菜にするよ」
 神宝はこちらでした。
「海老とお野菜をたっぷりと使ったね」
「僕はソーセージに野菜を炒めて」
 カルロスも言います。
「パンだね、ジュースは林檎やキーウィをミキサーしたもので」
「ポテトサラダにシチューにお肉を焼いて」
 ナターシャも言います。
「それでいいわね」
「私は。御飯と秋刀魚を焼いて野菜の佃煮ね」
 最後に恵梨香が言いました。
「そうした感じで」
「トトは何がいいの?」
「棒はフライドチキンかな」
 トトはドロシーの問いにすぐに答えました。
「それにするよ」
「じゃあテーブル掛け出すわね」
 それでそれぞれのメニューを出して皆で食べることにしました、教授は皆を食堂に案内してそこで食べるのでした。
 サラダにドレッシングをかけてです、教授はこう言いました。
「いや、このサラダは」
「いいでしょ」
「うん、野菜も新鮮でね」
 ボールの中のたっぷりとあるサラダを見ながらです、教授はドロシーに答えます。
「種類も多くて」
「とても美味しそうね」
「レタスにトマト、胡瓜にラディッシュに」
 そうしたものでサラダは彩られています。
「スライスしたオニオンに人参、カイワレとね」
「私も見ていて美味しそうに思えるわ」
「実際に美味しいよ」
 既に皆で頂きますをしています、教授はフォークでサラダを食べながら言います。
「ドレッシングもいいね」
「最高のサラダなのね」
「とてもね。ドロシー嬢のハンバーガーも」
「ザワークラフトとマッシュポテトもね」
 ドロシーはこの二つも出して食べています、そのどちらもだというのです。
「美味しいわよ」
「そうだね、いいことだね」
「やっぱり美味しい御飯はね」
「人に活力を与えてくれるよ」
「一番ね」
「お腹が空いていると何も出来ないよ」
 それこそ、というのです。
「動くことだってね」
「学問もね」
「勿論スポーツもね」
「寝ることだってね」
 本当に何もです、お腹が空いていると出来ないというのです。
「出来ないから」
「だからまずは食べることだよ」
「誰でもね」
「その点かかし君や木樵君は」
 この人達はといいますと。
「食べる必要がないからね」
「羨ましいわね」
「全くだよ、けれど」
「その反面ね」
「彼等は食べる喜びもね」
「知らないわね」
「食べる必要がないからね」
 必然としてです、そうなってしまいます。食べる必要がないとその楽しみも知ることが出来ません。だからなのです。
「そうなるね」
「そうよね」
「かかし君達は何も思っていないことというか」
「むしろ有り難いと思ってるわね」
 食べる必要がない人達はです。
「それこそね」
「そうだね、けれどそれは」
「食べる喜び、味わう喜びを知らないってことでもあるのね」
「だからいいかどうかは」
「どっちなのかしら」
 ドロシーは首を傾げさせて言うのでした。
「このことについては」
「そうだね、ただ」
「ただ?」
「かかし君達が満足してるならね」
 それならというのだ。
「いいんじゃないかな」
「本人次第ってことね」
「うん、本人達がいいと思うのなら」
 教授はこうドロシーにお話します、自分のサラダを食べながら。
「いいね」
「そうなるのね」
「ドロシーは何でも食べたいね」
「最近特にね」
 ドロシーも食べる楽しみを知ったのです、オズの国に来てから。
「カンサスだと食べられるものならって思ったけれど」
「オズの国に来てからは」
「そうなの、何かオズの国もね」
「料理の種類が増えたね」
「私が来てからよね」
「ドロシー嬢が来てから暫く経ってね」
 その時からだとです、教授はドロシーにお話しました。
「そうなってきたよ」
「それもやっぱり」
 何故オズの国のお料理のレパートリーが増えたのか、ドロシーは恵梨香達五人を見てから教授にお話しました。
「アメリカの影響ね」
「そうだね、アメリカの料理のテパートリーが増えると」
「オズの国のお料理のレパートリーも増えるのね」
「そうなるんだよ」
「オズの国はアメリカの影響を受けるから」
 その文化のです。
「お料理もね」
「それでだよ」
「それにあの頃の私達は」
 カンサスにいた頃のドロシー達はどうだったかと言いますと。
「貧しい一家だったから」
「本当に食べられればだったね」
「食べられることは食べられたけれど」
 それでもでした、カンサスにいた頃のドロシー達は。
「貧しかったわ」
「そうだったからね」
「食べることも」
「そう、楽しむことはね」
 それこそ二の次でした。
「あまり考えてこなかったわ」
「だからだよ、今のドロシー嬢は」
「食べることが余計に」
「楽しめる様になってるんだよ」
「そういうことなのね」
「実際に楽しんでいるね」
「ええ、とてもね」
 にこりとしながらです、ドロシーはハンバーガーを食べつつ教授に答えました。
「このハンバーガーもとても美味しいわ」
「随分大きなハンバーガーですね」
 恵梨香はドロシーが両手に持っているそのハンバーガーを見て言いました。
「それは」
「そうかしら、普通じゃないかしら」
「日本のハンバーガーと比べますと」
「というか日本のハンバーガー自体がね」
 それ自体がと恵梨香に言ったのはカルロスでした。
「小さいよ」
「そうなの」
「うん、日本人の食事の量自体が」
「そうそう、日本人って少食だよ」
「僕もそう思うよ」
 ジョージと神宝も恵梨香に言ってきました。
「僕そのことでびっくりしたから」
「そんなに少なくて大丈夫なのかって」
「そのことはね」
「カルロスの言う通りだよ」
「そうなのね」
 恵梨香は三人の男達に言われて目を瞬かせました、本当かしらというお顔になっています。そしてナターシャもでした。
 恵梨香にです、こう言います。
「私もそう思うわ。それに」
「それに?」
「カロリーが少ないわね」
「お料理の」
「そう、私はそのことも気になるわ」
「そうそう、和食はね」
 ドロシーも言うのでした。
「アメリカのお料理の中にもちゃんとあるけれど」
「カロリーがですか」
「少ないわ、あっさりしてるわ」
 そうだというのです。
「ビーフカップにしても」
「ビーフカップ?」
「牛丼のことよ」
 ドロシーはにこりとして恵梨香にビーフカップとは何かということをお話しました。
「あの丼のことよ」
「牛丼があっさりですか」
「私達から見ればね」
「そうなんですか」
「ええ、牛丼もね」
 それもまた、とお話しつつです。ドロシーはマッシュポテトも食べます。
「オズの国だとね」
「ヘルシーですか」
「アメリカじゃそうなんだ」
 ジョージも恵梨香に言います。
「牛丼はヘルシーな料理だよ」
「ううん、日本だとこってりしたお料理だけれど」
「そこが違うんだ」
「そうなの」
 恵梨香はジョージに言われてもまだわからないといった感じです、食べながら首を傾げさせています。
「日本じゃ本当にね。牛丼は」
「あっさりしていないんだね」
「とてもね」
 そうしたお料理だというのです。
「そこは本当に違うわね、ただ」
「ただって?」
「オズの国は牛丼があっさりって思われるみたいなお料理が多いみたいだけれど」
 アメリカの影響が出る国です、恵梨香はこのことからも考えて言いました。
「それでも太ってる人はいないわね」
「オズの国では皆太らないの」
 ドロシーが恵梨香に答えました。
「死なないしね」
「太ることもですか」
「痩せることもね」
 そのどちらもです。
「ないのよ」
「そうなんですね」
「そう、ただ魔法の力でそうなったりしたりね」
「そうしたものを食べたりして」
「姿が消えたりするのと同じで」
 太ったり痩せたり姿が動物になったりすることと同じで、というのです。痩せたり太ったりすることもです。
「あるけれど」
「基本的にはですね」
「オズの国の人はスタイルも変わらないの」
「そうなんですね」
「そう、だから私もね」
 カロリーの高いものを食べてもというのです。
「太らないの」
「そうですか。ただ」
「ただ?」
「ドロシーさんは普段からとてもよく歩いておられますから」
 旅の時は特にです。
「太ることはないと思います」
「うふふ、そうなのね」
「はい、私達の世界でも」
「だといいわ。そちらの世界ね」
「ドロシーさんも行かれたことありますよね」
「ええ、何度かね」
 ドロシーもです、恵梨香達の世界に行ったことがあるというのです。
「かかしさん達と一緒にね」
「そうなのね」
「八条学園にね」
「私達の学園はどうですか?」
「とてもいい場所にね。特にね」
「特に?」
「面白い人達も多いから」
 だからいいというのです。
「好きな場所よ」
「そうなんですか。ところで面白い人達って」
「僕達のことかな」
 カルロスは恵梨香の言葉を聞いて言いました。
「それは」
「いえ、貴方達以外にもね」
「そうした人達がいるんですか」
「夜に大勢出て来るのよ」
「えっ、夜って」
「夜っていうとまさか」
 五人はドロシーの今の言葉にもしやというお顔になりました、夜と聞いてです。
「妖怪とか」
「そうした人達?」
「うちの学園怪談話も多いから」
「夜に出て来る人達って」
「まさか」
「ははは、その話は今は中断してね」
 教授が五人が怖いものを感じたのを見て笑ってこう言ってきました。
「今は楽しく食べてお風呂に入って」
「そうしてですね」
「今日は」
「そう、寝よう」
 そしてというのです。
「明日は朝早く起きて」
「そうしてボタン=ブライトをですね」
「あの人を探すんですね」
「そうしよう、そして彼を探し出して」
 そしてなのでした、教授はここでも彼のボタンを取り出してそのうえでお話しました。
「これを返そう」
「はい、是非」
「そうしましょう」
 五人も教授に笑顔で応えてでした、そのうえで。
 夕食を明るく楽しんでお風呂に入ってそれぞれのお部屋で寝ました。そして朝早く起きてなのでした。
 教授は皆にです、こう言いました。
「さて、朝起きたからには」
「御飯を食べてですね」
「ボタン=ブライトを探すんですね」
「いやいや、御飯の前にだよ」
 その前にだというのです。
「体操をしよう」
「ラジオ体操ですか?」
 体操と聞いてです、恵梨香は教授にこう尋ねました。
「あれをするんですか?」
「まあそんなものだね」
「それするんですか」
「太極拳みたいな感じでするんですね」
 神宝はお国の朝からお話しました。
「今から」
「そうだよ、朝起きてまずは」
 軽くという感じで言う教授でした。
「身体を動かそう」
「はい、わかりました」
「じゃあ今から」
「これで目を覚ますのと一緒に」
 それと共にだというのです。
「身体をほぐして」
「身体をほぐすんですか?」
「ずっと寝ていたら身体が固くなっているんだよ」
 教授はこのことも五人に言います。
「だからここはね」
「目を覚まして身体をほぐして」
「そうしてからですね」
「一日をはじめるんですね」
「そうするんですね」
「そうだよ、じゃあ今から体操をしよう」
 こうしてでした、皆で朝から軽くでした。体操をしてでした。
 目を覚まして身体をほぐしてでした、朝御飯を食べてお顔も洗って歯も磨いてでした。清々しい気持ちになってボタン=ブライトを探すのでした。
 ですが皆で出発する時にです、カルロスがこんなことを言いました。
「今朝の朝御飯はお粥でしたけれど」
「オートミールだね」
 教授がカルロスに応えます。
「あれはどうだったかな」
「はい、美味しかったです」
「それは何よりだよ」
「大麦も牛乳もよくて」
「炊く具合もね」
「よかったです、朝にああしたお粥を食べると」
 それで、というのです。
「かなり元気が出ますね」
「朝のお粥はね」
 それは何かと言う教授でした。
「普通の時に食べるお粥よりいいんだよ」
「お昼や晩に食べる時よりもですね」
「朝は起きたてて食欲があまりないよね」
「どうしても」
「けれどお粥だとね」
 オートミールにしてみてもです、お粥ですから。
「食べやすいからね」
「すぐに食べられてですね」
「そう、エネルギーの補給になるから」
 だからだというのです。
「いいんだよ」
「そうなんですね」
「そう、いいんだよ」
 朝のお粥はというのです。
「とてもね」
「そうですか、だから今朝も」
「オートミールにしたんだよ」
「皆でそれぞれ好きなものを出すよりも」
「それも考えたけれどね」
 それでもだというのです。
「今朝はそうしようってね」
「ううん、朝のお粥は」
「美味しくて量も食べられたね」
「僕お代わりしましたし」
「私も」
「僕もです」
 他の四人も教授に答えました、一杯だけでなくお代わりもしたとです。勿論ドロシーとトトもお代わりをして食べました。
「そうしました」
「美味しかったので」
「朝は大事なんだよ」
 教授はこうも言うのでした。
「早く起きてね」
「体操もしてですね」
「朝御飯も食べて」
「起きるだけじゃないんだ」
 それが朝だというのです。
「起きてね」
「体操をして朝御飯をしっかり食べて」
「顔も洗って歯を磨いて」
「それからなんですね」
「特に御飯はね」
 それはというのです。
「しっかりと食べないとはじまらないからね」
「ううん、そうなんですね」
「だからお粥も」
「いいんだよ」
 しっかりと食べて、というのです。
「まして今日は一日中歩くことになるから」
「だからですね」
「余計にですね」
「そう、君達にしっかりと食べてもらいたかったから」
「オートミールですか」
「その為の」
「大麦に牛乳で栄養を摂れたから」
 教授もです、お肉は食べられないのですが麦や牛乳は大丈夫です。それでそうしたものを食べてなのでした。
 皆で大学の構内を巡ってボタン=ブライトを探します。ですが。
 ここで、です。不意になのでした。
 トトがです、こう言いました。くんくんと匂いを嗅ぎながら。
「あれっ、ボタン=ブライトの匂いはするけれど」
「どうしたの、トト」
「うん、何かね」 
 こうドロシーに言うのでした。
「色々な匂いが混ざってるね」
「ボタン=ブライトに?」
「学校のあちこちを回っているのかな」
「それで色々な匂いがするの」
「そうみたいだよ。それにね」
 それに加えてというのです。
「詳しい場所まではね」
「わからないのね」
「大学の中にいることはわかるよ」
 それはというのです。
「けれどそれ以上はね」
「わからないのね」
「多分ここにいるってことはわかるんだ」
 匂いからです、トトはわかるのでした。
 ですがそれでもなのでした、大学の何処にいるかまでは。
「わからないね、また何処かで寝てるのかな」
「ボタンは何処でも寝るからね」
 教授も言います。
「それこそ屋根の上でも裏でも」
「そうなんだよね」
「そうした場所の匂いがついてだね」
「色々な匂いがするんだろうね」
「多分ね。けれど」
「大学の中にいることは間違いないから」
「じっくりと探そう」
 教授は落ち着いた、確かな声でトトに言いました。
「慌てずにね。そして」
「そして?」
「出来れば一つの場所を探してそれで終わりじゃなくて」 
 それだけでなく、というのです。
「もう一回探して、何度も隅から隅までね」
「探すんですね」
「そうあるべきなんですね」
「そう、そうしてね」
 そしてだというのです。
「ボタンを探そう」
「はい、わかりました」
「それじゃあそう」
「隈なく」
 五人も教授に応えてなのでした、構内を歩きはじめました。そうしてまずはです。
 食堂を探しました、さっき皆で朝御飯を食べたそこをです、隅から隅まで探したのですがそれでもなのでした。
 皆で隅から隅まで探してもです、ボタン=ブライトは食堂にはいませんでした。それでカルロスは少し苦笑いになってこう言いました。
「流石にいきなりは、ですね」
「ええ、見付からないわね」
 ドロシーがそのカルロスに答えました。
「最初からは」
「そうですね、じゃあ」
「じっくり探しましょう」
 ドロシーもこう言うのでした。
「慌てず落ち着いてね」
「そうしてですね」
「探していけばいいですね」
「そうしましょう、ボタン=ブライトはきっと見付かるから」
 このことは間違いないからというのです。
「そうしていきましょう」
「はい、じゃあ」
「次は何処を探そうかしら」
「まずはこの校舎の中を探そう」
 食堂のあるその校舎をというのです、教授が言います。
「そうしよう」
「わかりました、皆で」
「まずはこの校舎を」
「そしてこの校舎で見付からないと」
 そうなってもというのです。
「後はね」
「後はですね」
「それからは」
「他の場所を巡ろう」
 それからもだというのです。
「そうしよう」
「本当に一つ一つですね」
「校内のあちこちを」
「そして探して」
「見付けるんですね」
「そうしよう、時間はあるから」
 このことについては問題ないというのです。
「焦ることはないんだよ。何でも焦ったらね」
「それで駄目になるのよね」
 それで、と教授に応えたのはドロシーでした。
「何ごとも」
「そう、だからね」
 教授もドロシーに応えて述べます。
「一緒に行こう」
「一つ一つの場所を」
 こうお話して皆で食堂を後にするのでした、そして次に行く場所は。
「私の部屋にも行こうか」
「えっ、教授のお部屋にもですか」
「学長室にも」
「うん、行こう」
 そうしようというのです。
「あそこにもね」
「ええと、流石にあそこは」
 カルロスが教授に言います。
「ボタン=ブライトもいないんじゃ」
「いやいや、それはね」
「わからないんですか」
「そうだよ、何でも絶対はないからね」
「だからですか」
「私の部屋も隅から隅まで探してね」
 そして、というのです。
「天井裏も探そう」
「あっ、言われてみると」
 カルロスもここではっとしました。
「天井裏になんかは」
「彼がいそうだね」
「はい、確かに」
 言われてみればでした、このことは。
「それじゃあ」
「私の部屋も探そう」
「隅から隅まで、ですね」
「天井裏もね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆は教授の学長室にも向かいました、とにかく大学の中を隅から隅まで隈なく探してです、ボタン=ブライトを探すのでした。



ボタン=ブライト探しは翌日に。
美姫 「その日はグランドの石拾いになったわね」
だな。まあ、まだ学園にいるみたいだし。
美姫 「で、翌朝から探し始めたけれど」
まあ、流石にすぐには見つからないか。
美姫 「どうもあちこちに行っているみたいだしね」
さてさて、無事に見つかるのか。
美姫 「一体どこにいるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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