『オズのムシノスケ』




                 第二幕  王立大学に着いて 

 一行はエメラルドの都の緑からです、やがて。
 黄色い煉瓦の道を歩いているとでした、その左右の草原がです。
 緑からでした、まるで二色の絨毯の分かれ目の様に。
 青に変わりました、神宝は自分の青い服を見てからこうドロシーに言いました。
「マンチキンに入りましたね」
「そうね、今ね」
「ここからがマンチキンの国ですね」
「貴方達が最初に来た国でね」
 そしてとです、ドロシーも言います。
「私が最初に来たオズの国でもあるわ」
「そうでしたね、カンサスから」
「あの時が懐かしいわ」
 ドロシーは微笑んで神宝に答えました。
「最初にオズの国に来た時がね」
「かかしさんに木樵さん、臆病ライオンさんにもお会いして」
「エメラルドの都にも行ってね」
「ドロシーさんの最初の旅でしたね」
「その最初の旅からね」
「大冒険でしたね」
「エメラルドの都までのね」
 そして都に着いてからもでした。
「私の最初の旅行よ」
「そうでしたね」
「確かそれまでは」
 ドロシーがオズの国に入るまではです、赤い服のジョージが言います。マンチキンの青の中に赤が映えます。
「ドロシーさん旅行はされてなかったんですよね」
「殆どカンサスにいたわ」
「そうでしたよね」
「オズの国に来てからね」
「ドロシーさんの数多くの旅行がはじまったんですね」
「そう、トトもね」
「いや、ご主人とはね」
 そのトトも言うのでした。
「カンサスからの付き合いだけれど」
「オズの国に入るまではね」
「一緒に旅行はしていないよ」
 トトもだというのです。
「僕もそうだよ」
「そうだったわよね」
「それがね」
「オズの国に来てからなんだ」
「沢山の旅をして」
 そして、だったのです。
「沢山の人達に会ってきたわ」
「そうですよね」
「私の旅はそうした旅よ」
「だから今回の旅も」
「何が起こるのか楽しみよ」
 心からこう言うドロシーでした、ジョージにも。
「いつもいきなり起こるけれどね」
「何かはですね」
「若しくは誰かが出て来るか」
「いつもいきなりですね」
「そう、オズの国では特にね」
「私はあれですね」
 ナターシャはマンチキンの青い草原と遠くに見える青い森達を見ながら言うのでした、その黒い服をひらひらとさせて歩きながら。
「オズの国の不思議な人達と」
「会いたいのね」
「オズの国には面白い人達が一杯いますから」
「そうなのよね、このマンチキンの国も」
「そうでしたね」
「そうでしょ、マンチキンの国にはね」
 この国にはと言うドロシーでした。
「ジンジャー将軍がいたわね」
「あっ、あのかかしさんに反乱を起こした」
「そう、あの人がね」
「あの人マンチキンの人だったんですね」
「元々ね、そして今もね」
「マンチキンに住んでおられるんですね」
「結婚してね」
 今では将軍も奥さんです。
「そうしてるのよ」
「そうなんですね」
「ただ。将軍のお家では大学より向こうにあるから」
 だからと言うドロシーでした。
「今回はね」
「そこに行くことはですね」
「ないと思うわ」
「そうですか」
「ただ、私の旅行はいつも少し先がわからないから」
 何が起こるかわからないからというのです。
「若しかしたらね」
「ジンジャー将軍とお会いすることもですね」
「他の人に会うこともね」
 マンチキンのです。
「あるかも知れないわ」
「そうなんですね」
「そういうことだから。とりあえずは」
 今はと言うドロシーでした。
「大学に行きましょう」
「あと少しですよね」
 ピンクの服の恵梨香が尋ねました、今度は。
「大学まで」
「ええ、そうよ」
「都から本当に近いですね」
「何かあればオズマ達がすぐに行ける様にね」
「近い場所に建てたんですね」
「そうなの」
 それでだというのです。
「大学は都から近くにあるの」
「そういうことですね」
「そうなの。ムシノスケ教授も行き来が楽だって喜んでるわ」
 大学の学長さんであるこの人もそう言っているというのです。
「有り難いってね」
「それは何よりですね」
「そろそろ見えて来るわよ」
 お話をしているうちにでした。
「大学がね」
「どんな場所ですかね」
 黄色い服のカルロスもにこにことしています。
「大学は」
「とても綺麗でね」
 ドロシーはカルロスにもお話します。
「そして大きな建物よ」
「それが大学ですね」
「そう、敷地も広くて」
「僕達の学校よりも」
「ううん、そこまではわからないけれど」
 それでもと返すドロシーでした。
「広いことは間違いないわ」
「そうなんですね」
「グラウンドが幾つもあって」
「サッカーグラウンドもあればいいですね」
「カルロスの好きなね」
「やっぱりサッカーグラウンドがないと」
 カルロスはドロシーに笑顔でお話します。
「何か学校って気がしないですよ」
「あら、そこまで好きなのね」
「はい、グラウンドがあって」
 そしてというのです。
「後はゴールがあれば」
「サッカーのゴールね」
「あれもあればいいですね」
「野球やバスケとは本当に違うのね」
「そうなんです、サッカーは」
「ううん、フットボールとも」 
 ドロシーはアメリカのスポーツをここでも言うのでした。
「違うのね」
「アメリカンフットボールですね」
「あれともまた違うのね」
「そうです、アメフトとも全く」
「フットボールはね、私はしないけれど」
 ドロシーはカルロスに答えてお話します。
「凄く激しいスポーツよね」
「ラグビーと一緒で」
「ラグビーねえ」
 ドロシーはカルロスとお話しながらこちらのスポーツのことも考えるのでした。
「あれもね」
「激しいですよね」
「身体と身体がぶつかってね」
「しかも始終走って」
「相当に体力を使うわね」
「ですからアメフトやラグビーをしていると」
 どうなるかといいますと。
「物凄く体力がついて体格も」
「立派になるのね」
「身体も大きくなって筋肉質になります」
「そうなっていくのね」
「そうじゃないとやれないですから」
 ラグビーもアメフトもです、このことは。
「どっちも」
「サッカーも走るわよね」
「けれど身体と身体はぶつからないですから」
「だから違うのね」
「ラグビーはサッカーから生まれましたけれど」
「あら、そうなの」
 ドロシーはこのことは知りませんでした、そrで今のカルロスのお話を聞いて目を瞬かせてこう言うのでした。
「ボールが全然違うのに」
「それでもなんです」
「ラグビーはサッカーから生まれたスポーツなのね」
「そうなんです」
「ううん、あまり想像がつかないわね」
「ムシノスケ先生ならそのことをご存知だと思いますよ」
「では一度ね」
「先生からですね」
「そのことも聞いてみようかしら」
 そうしたことをお話しているうちにでした、一行はその王立大学に着きました。大学は石のとても綺麗で立派な建物が幾つもあって。
 とても広かったです、その広さは。
「うちの学園とね」
「同じ位あるわね」
 恵梨香がカルロスに答えます、皆でその大学を見ながらです。
「動物園も水族館もあって」
「植物園もね」
「美術館に博物館もあって」
「色々と勉強する場所があって」
「凄く立派な大学ね」
「そうだね」
「この大学はオズマがオズの国の若い人達に必要だと思ったものが全部あるの」
 ドロシーがこう五人にお話します。
「動物園も博物館もね」
「全部ですね」
「作られてるんですね」
「そうなの、だからね」
「全部あるんですね」
「勉強に必要なものが」
「学問よ」
 勉強ではなくと言うドロシーでした。
「勉強はベンキョー錠ですぐに済むから」
「だから学問をですか」
「この大学の人達はするんですね」
「本を読んだり何かを見てね」
 そうして学問に励んでいるというのです。
「身体を動かす合間にね」
「その身体を動かすことですね」
 カルロスが言いました、ここでまた。
「それが何か」
「そうよね、そこは」
「僕はそれが何か知りたいんです」
 大学のスポーツは、というのです。
「ですから」
「カルロスはスポーツ好きだからね」
 ドロシーもこのことがわかっています、そして。
 ここで五人全員を見てです、こうも言うのでした。
「ジョージは力持ちで神宝はもの知りでナターシャは頭がよくて恵梨香は優しくて」
「私達の中で、ですね」
「皆バランスがいいけれどね」
 その中で五人がそれぞれ突出しているものはというのです。
「それぞれそうよね」
「それで僕はなんですね」
「スポーツね」
 ドロシーはまたカルロスに言いました。
「一番得意なのは」
「そうですか、それはいいことですね」
「そうよね。それじゃあ」
「大学でもね」
「どんなスポーツがあるのか見させてもらいます」
「そうしてね。それで教授もね」
 他ならぬムシノスケ教授もというのです。
「スポーツが大好きなのよ」
「あの人もですか」
「そう、自分がすることもね」
「そうなんですか」
「あの人もスポーツマンよ」
「お好きなスポーツは」
「色々よ」
 それは一つではないというのです。
「ただ、特に陸上競技が好きかしら」
「跳躍とかですか」
「あの人はバッタだし」
 バッタが学校で勉強を聞いていてです、そこから虫眼鏡で拡大されてそのうえで今の姿になったのです。
「だからね」
「跳躍がお好きなんですね」
「幅跳びも高跳びもね」
 どちらもだというのです。
「お好きなのよ」
「本当にバッタですね」
「そうでしょ、けれど他にも好きな競技が多いから」
「陸上で」
「あの人は陸上を一番よくするわね」
「わかりました、それじゃあ」
「大学に入りましょう」
 こうしてでした、五人はドロシーそしてトトと共に王立大学に入りました。そうしてそのうえで最初に、でした。
 ムシノスケ教授のいる学長室に向かいました、ですが。
 教授はそこにいません、学生さんの一人にこう言われました。
「学長さんは今はスポーツをされていますよ」
「あら、そうなの」
「グラウンドに出られて」
 そしてだというのです。
「棒高跳びをされています」
「そうなのね」
「そうです、それで」
 それでだというのです。
「気持ちよく汗をかいておられます」
「わかったわ、それじゃあね」
 ドロシーは学生さんに笑顔で応えてでした、皆をです。
 グラウンドに案内しました、そこは陸所競技場で多くの学生さんが走ったり鉄球を投げたりハードルを跳んだりしています。
 そのグラウンドの中に入るとです、トトは尻尾をぱたぱたとさせてそのうえでドロシーの方を見上げて言いました。
「ねえ、ちょっとね」
「トトも走りたいのね」
「ここにいるとね」
 それだけでだというのです。
「どうしてもそうなるから」
「ええ、いいわよ」
 ドロシーはそのトトに笑顔で答えました。
「ただ、皆の邪魔にならない様にね」
「陸上競技をしている人達のだね」
「スポーツは他の人の邪魔になったらね」
「駄目だからね」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「他の人の邪魔にならない様に走ってきてね」
「そうするよ」
 トトはこうドロシーに答えてでした、そうして。
 グラウンドの中をとても楽しく駆け回るのでした、ドロシーはそのトトを優しい目で見送りながら
五人に言いました。
「じゃあ私達はね」
「はい、今からですね」
「教授のところに」
「ええと、棒高跳びの場所は」
 そこを探すのでした。
「何処かしら」
「あそこですね」
 カルロスがグラウンドの右のところを指差しました、とても広い競技場の中を。
「あそこで皆」
「あら、そういえば」
「はい、あそこにですね」
 ムシノスケ教授がいました、緑のジャージを着てそうして棒を使って跳んでいます。その教授を見てでした。
 一行はその棒高跳びのところに行きました、するとです。
 教授がです、棒を右手に一行に左手で挨拶をしてきました。
「やあ、暫く」
「ええ、こんにちは」
 ドロシーが一行を代表して挨拶を返します、五人も頭を下げます。
「お邪魔しに来たわ」
「何用で」
 少し勿体ぶったみたいな感じで尋ねてきた教授でした。
「この度は」
「ええ、実はね」
「実は?」
「ベンキョー錠のことで聞きたいことがあって」
「そうなんです」
 カルロスも教授に言うのでした。
「あれは僕達が飲んでもいいかなって」
「飲んで君達の世界の勉強にだね」
「効果があるのかなって思いまして」
「ふむ、確か日本語に」
 教授は右手を顎に当てて言うのでした。
「算数、理科に社会だね」
「あと図工とかも」
「そうしたものだね」
「はい、どうでしょうか」
「そうした錠剤もあるよ」
 教授のカルロスへの返事はこうでした。
「そして飲めばね」
「覚えられるんですね」
「そうだよ。ただ」
「ただ?」
「私の見たところ君達には必要ないね」
 五人を見ての言葉でした。
「飲む必要はね」
「ないんですか」
「もう覚えているものは覚えているんじゃないかい?」
 こう五人に言うのでした。
「困る位悪い成績とは見えないよ」
「どうしてそのことがわかるんですか?」
 カルロスは目を瞬かせて教授に問い返しました。
「僕達の学校の成績が」
「いや、私と話していて学校の勉強の話が出るよね」
「はい」
「その受け答えを聞いていたらね」
 そこからだというのです。
「悪くない、むしろかなりいいから」
「だからですか」
「そう、君達はね」
 五人の子供達はというのです。
「そうした心配はいらないね」
「ベンキョー錠を飲むことも」
「実はなんです」
 ここで恵梨香が教授にお話しました。
「私以外の子は留学生で」
「日本以外の国から来ている子達だね」
「はい、他の国で勉強についてこれるだけの」
「学力があるんだね」
「だから留学出来ています」
「それで皆だね」
「少なくとも四人共」
 カルロス達四人は、というのです。
「学校のお勉強も出来ます」
「そういうことだね」
「はい、ですから」
「うん、私の見た通りだね」
「そうです」
「そして君も」
 今度は恵梨香に言う教授でした。
「成績は悪くないね」
「私もですか」
「そう思うけれどどうかな」
「恵梨香は優等生なんですよ」
 カルロスが笑顔で教授にこうお話しました。
「八条学園の中でも」
「いえ、私はそんな」
「実際に凄く頭いいじゃない」
 成績がいいとです、カルロスは謙遜しようとする恵梨香に言います。
「特に国語と社会が」
「そうかしら」
「英語だって出来るし」
「皆とお話してるから」
 だからだと返す恵梨香でした。
「そのせいよ」
「それでも出来るよね」
「まあ。お話したり書いたりとかは」
「ほら、とにかく恵梨香はね」
「お勉強がなの」
「そう、出来るよ」
 そうだというのです。
「僕達の中で一番ね」
「だといいけれど」
「とにかく君達にはね」
 五人には、とまた言う教授でした。
「ベンキョー錠は不要だよ」
「そうですか」
「別に」
「そうだよ、だからね」
「だからっていいますと」
「私達は」
「うん、身体を動かすべきだよ」
 つまり体育に励むべきだというのです。
「この大学の学生の諸君の様にね」
「そうですか、じゃあ」
 カルロスは教授の言葉を聞いてでした、こう彼に言いました。
「サッカーも」
「フットボールかい?」
「いえ、アメリカンフットボールじゃなくて」
「あちらのフットボールをかい」
「していいでしょうか」
「いいよ、ただね」
 教授はサッカーをすることはいいと答えました、ですがそれと一緒にです。カルロスにこうしたことを言いました。
「ただ、この大学だけでなく」
「オズの国で、ですか」
「スポーツは盛んなんだがね」
「サッカーはですね」
「ドロシー王女から聞いているかも知れないが」
 ここでドロシーを見た教授でした。
「この国はアメリカの風俗文化の影響が入るから」
「だからですね」
「そう、楽しまれるスポーツもね」
 アメリカのそれに近いというのです。
「だから野球やバスケ、アメフトが盛んでね」
「そしてですね」
「サッカーはね」
 そちらはといいますと。
「あまり、だね」
「アメリカでもサッカーは盛んなんじゃ」
「うん、楽しんでる人は多いよ」
 実際にとです、アメリカ人のジョージがカルロスに答えます。
「それでもね」
「それなりに強くもあるよね」
「けれどやっぱりね」
「野球やバスケの方が人気があるんだね」
「国技だしね」
 アメリカの、です。
「だからそういうスポーツは別格だよ」
「オズの国でもそうなんだよ」
 教授はまたカルロスにお話しました。
「野球やバスケの方がずっと人気があるよ」
「そうですか」
「グラウンドはあるよ」
「あっ、あるんですね」
「それでも皆他のスポーツをするから」
「誰も使ってないんですか?」
「今誰か使ってたのかな」
 どうかというのです、大学のサッカーのグラウンドは。
「一体」
「誰もいないんじゃ?」
「そうじゃないんですか?」
 学生さん達が教授に答えてきました。
「多分ですけれど」
「それでも」
「そうだね、野球場やバスケのコートはね」
「はい、沢山います」
「いつも通り」
「あとテニスも」
 こちらのコートもでした。
「人気があるけれどね」
「サッカーはといいますと」
「どうしても」
「そうだね、どうだったのかな」
 首を傾げさせて言う教授でした、ですが。
 カルロスは教授にです、こう言うのでした。
「とりあえず今からサッカーのグラウンドに行っていいですか?」
「いいとも」
 教授はカルロスのお願いにあっさりと答えました。
「君達が使いたいのならね」
「はい、それじゃあ」
「ここから少し右に行った場所にあるよ」
 教授はグラウンドの場所も教えました。
「そこにね」
「わかりました、じゃあ行ってみます」
「それじゃあね」
 ドロシーもです、カルロスと教授のお話が終わってからでした。皆にこう言いました。
「皆でサッカーのグラウンドに行きましょう」
「はい、今から」
「行きましょう」
 恵梨香達も答えてでした、そのうえで。
 皆でサッカーのグラウンドに向かいました、その間です。
 野球場を見ました、そこでは二つのチームが楽しくプレイしていました。神宝はピッチャーが投げるのを見て言いました。
「あの人のカーブいいね」
「スローカーブかな」
 カルロスもそのカーブを見て言います。
「あのカーブは」
「うん、あのカーブにね」
「ストレートもいいね」
「緩急があるとね」
「そうそう、それだけでね」
「違うよね」
「速いだけでもね」
 速球を投げるだけでもというのです。
「限界があるからね」
「けれどスローボールもあったら」
「うん、速いボールと遅いボールがあったら」
「相手が困惑するからね」
「いいんだよね」
「昔はね」
 ドロシーは彼女がカンサスにいた頃のアメリカの野球のことをお話します、もうかなり昔の頃のことです。
「速いだけだったのよ」
「ピッチャーもですか」
「それだけでいいって思われたんですね」
「そうだったの、私がカンサスにいた頃は」
 その頃の野球はというのです。
「速球だけだったのよ」
「そうだったんですね」
「あと変化球もね」
 ドロシーはカルロスにそのこともお話します。
「カーブとかシュート位だったわ」
「あれっ、それだけですか」
「そうなの、変化球も少なかったのよ」
「二つ位だったんですね」
「カーブでドロップはあったわ」
「あの縦に落ちるカーブですね」
「そう、けれどね」
 変化球の種類はというのです。
「今みたいに多くなかったわ」
「今はかなりありますからね」
 カルロスはピッチャーの人が投げるのを見ながら言うのでした。
「カーブ一つにしても」
「ええ、さっき神宝が言ったスローカーブもそうだし」
「その他にも」
「ナックルカーブなんてものもあって」
「他にもありますね」
「スライダーとかもね」
 横に曲がるこの変化球についてもう言うドロシーでした。
「なかったわ」
「あれ結構新しいんですね」
「そうなの、あの変化球は日本生まれだった筈よ」
「日本ですか」
 ここで驚いたのは恵梨香でした。
「アメリカじゃなくて」
「そうよ、貴女の国でね」
 生まれた変化球だというのです。
「そうだった筈よ」
「そうだったんですか」
「ええ、そしてそのスライダーも」
「結構種類が多いですよね」
「高速スライダーとかね」
 ドロシーは少し投げる仕草をしました、見れば手の握り方はスライダーのものになっています。
「落ちるスライダーとかスライダーとカーブの中間の」
「スラーブですね」
「色々あるわよね」
「あとカットボールもありますね」
「ええ、スライダーもね」
 種類が多いというのです。
「本当に変化球の種類が増えたわ」
「ええと、ドロシーさんの時代は」
 カルロスはドロシーがカンサスにいた時代が何時かを思い出したましたs、その時代は何時だったかといいますと。
「まだベーブ=ルースも」
「いなかったわ」
「そうでしたね」
「本当に昔よ」
「だから変化球も」
「なかったのよ、今みたいに」
「何か想像出来ないですね」
 カルロスだけでなく他の子達もです、そのことは。
「その頃の野球は」
「グラブもとても小さくて」
 野球に欠かせないこれもです。
「今のとは全然違うわよ」
「そんなに違ったんですね」
「別物だったわ」
「何かその頃の野球は」
「カルロス達は想像出来ないわね」
「はい、とても」
 実際にというのでした。
「どういったものか」
「そうよね、けれどね」
「そうした野球だったんですね」
「その頃はね」
「そうですか」
「私は野球もね」
 このスポーツもというのです。
「自分からはしないれどね」
「やっぱり旅行がですね」
「私のスポーツね」
「そうなるんですね」
「テニスもしないのよ」
 自分からはとです、ドロシーは今度は野球のグラウンドの向かい側にあるテニスコートを観ました。そこでも学生さん達が楽しくプレイしています。
「自分からはね」
「そうなんですね」
「一つの場所で身体を動かすより」
 それよりもというのです。
「あちこち旅をする方がね」
「ドロシーさんはお好きなんですね」
「そうなの、景色を見回ったり不思議なことを体験することが」
「そうですか」
「どの旅が一番よかったかっていうと」
 そう考えるとでした。
「私もね」
「これといってですね」
「言えないわ、どの旅も最高に面白かったから」
「だからですか」
「ええ、言えないわ」
「そうなんですね、じゃあ」
「ええ、あそこね」  
 追わしているうちにでした、一行はサッカーグラウンドに着きました。グラウンドは広くて立派なゴールもあります。
 しかしです、そのグラウンドにはでした。
 誰もいません、それでカルロスはやっぱりとなりながらもそれでも残念がるお顔になってそのうえで言いました。
「ブラジルとはどうしても違うね」
「うん、そうね」
 そうだとです、恵梨香がカルロスに答えました。
「オズの国でもサッカーは」
「あまりしないのね」
「そうみたいだね」
「皆野球や他のものをするのね」
「バスケやテニスを」
「どうしたものかしら」
「とはいってもね」
 そう言ってもとです、カルロスは誰もいないそのグラウンドを観ながらそのうえでなのでした。
 皆にです、こう言いました。
「スポーツは好き嫌いだから」
「だからなのね」
「うん、またしてくれる人が出て来るとね」
「その時はよね」
「そう、このグラウンドも賑やかになるから」 
 だからだというのです。
「その時が来ることを願うよ」
「じゃあ僕はね」
 カルロスはといいますと。
「とりあえずグラウンドの石拾いをしようかな」
「それがいいかも知れないわね」
 ナターシャもグラウンドを観ながら言うのでした。
「ちょっと石が多いわよ」
「石が多いグラウンドはよくないよ」
 このことはサッカーだけではありません。
「だからね」
「ここはなのね」
「うん、皆でね」
「石を拾って」
「そうして綺麗にしよう」
「それではね」
 こうしてでした、皆でなのでした。
 グラウンドの石を拾うのでした、そうして皆で拾っているとです。
 トトがドロシーのとろろに来てです、こう言いました。
「ここにいたんだ」
「あらトト、戻ってきたの」
「うん、あちこち駆け回って気持ちよく運動出来たからね」
「満足したのね」
「それでドロシーの匂いを嗅いだらここにいたから」
 犬の鼻でわかったというのです。
「だからね」
「来てくれたのね」
「そうなんだ、それで今は」
「皆でグラウンドの石拾いをしてるのよ」
 ドロシーは実際に屈んで石を拾いながらトトに答えました。
「トトもどうかしら」
「そうだね、ドロシーがするのならね」 
 それならと答えるトトでした。
「僕もね」
「それがいいわね、石拾いをすればグラウンドが綺麗になるから」
「綺麗にすることはいいことだからね」
「身体を動かすこともいいことだけれど」
「綺麗にすることもだからね」
「それに綺麗にすることもね」
 このこともだというのです。
「身体を動かすことの一つよ」
「スポーツなんだね」
「いい汗をかくわよ」
「それじゃあ今度はこれで身体を動かすよ」
「それじゃあね」
 こうドロシーに答えてでした、トトもでした。
 石拾いに参加しました、お口で拾って一つの場所に集めていきます。そうして皆で石拾いをしていますと。
 そこに教授も来ました、それでこう言うのでした。
「おや、石拾いとは」
「ちょっと石が目立っていたんで」
 カルロスが教授に答えます。
「それでなんです」
「グラウンドを綺麗にしているんだね」
「駄目でしょうか」
「石拾いを駄目と言う人はいないよ」
 これが教授の返事でした。
「いいことをどうして駄目だって言うんだい?」
「それじゃあ」
「有り難う」
 お礼すら言う教授でした。
「では私も参加しよう」
「えっ、教授もですか」
「まず自分から動け」
 ここでこんなことも言う教授でした。
「それが王立大学の校則だよ」
「だからですか」
「私は自分の部屋は自分で掃除しているよ」
 そうしているというのです。
「毎朝ね」
「そうなんですか」
「そう、だからね」
「今もですか」
「私も参加させてもらうよ」
「わかりました、それじゃあ」
 こうしてでした、教授も石拾いに参加するのでした。丁渡運動服のままだったので汚れる心配はありませんでした。
 そうして石拾いをしていましたがここで。
 ふとです、教授はあるものを拾いました。それはといいますと。
「おや、これは」
「どうしたんですか?」
「ボタンだよ」
 見れば金色のボタンです、確かに。
「ボタンがあるとはね」
「ここで誰か前にサッカーをされてたんでしょうか」
「そうかも知れないね。いや」
「いや?」
「このボタンの持ち主は」
「お心当たりがあるんですか」
「ボタン=ブライトのボタンじゃないかな」
 こうカルロスに言うのでした。
「ひょっとしたらね」
「ボタン=ブライトっていいますと」
「そう、いつも何処かにいるね」
「水兵さんの服を着た男の子ですよね」
「彼が来ていたみたいだね」
 手に持っているボタンを見ながらです、教授は言うのでした。
「どうやらね」
「そうですか、じゃああの子は」
「今何処にいるかだね」
「はい、若しかしてこの近くね」
「ううん、それはどうかな」
 教授はカルロスの問いにいぶかしむ顔で返しました。
「彼だからね」
「何時何処にいるかわからない子だからですね」
「このボタンを拾ったのはいいけれど」
「今何処にいるのかは」
「それは私にもわからないよ」
「そうなんですか」
「私は知識には自信があるがね」
 伊達に教授ではありません、それもオズの国きってのもの知りと言われる訳ではありません、しかしだというのです。
「だがかかしさんとは違ってね」
「推理はですか」
「そちらは専門ではないからね」
 だからだというのです。
「こうしたことはね」
「わからないですか」
「ううん、ただ」
「ただ?」
「彼がボタンを落としているということは」
 このことは察することが出来る教授でした。
「彼の服に間が出来て困ってるね」
「それは間違いないですね」
「うん、だからね」
 それでだというのです。
「彼に会ったらね」
「その時はですね」
「返してあげよう」
 ボタン=ッブライトにというのです。
「ここはね」
「ううんと、それじゃあ」
 ですがここで、なのでした。カルロスは教授と皆にこう言うのでした。
「ボタン=ブライトを探しません?」
「私達でかい?」
「はい、そうしませんか?」
「いやいや、そうはいかないよ」
 すぐにです、教授はカルロスにとんでもないといったお顔で返しました。
「私は今はこの大学にいないといけないのだよ」
「大学の学長さんだからですね」
「そう、だからだよ」
 それでだというのです。
「君達がボタン=ブライトを探すにしても」
「教授はですね」
「一緒に旅には行けないよ」
「そうですか」
「そう、この大学にいるのならいいけれど」
 それならというのです。
「今は大学は離れられないよ」
「わかりました、じゃあ」
 カルロスは教授の言葉を聞いて仕方ないですねというお顔で答えました、ですがそれでもなのでした。
 トトがです、お鼻をくんくんとさせてから皆にこう言いました。
「あれっ、匂いがするよ」
「匂い?」
「匂いっていうと」
「うん、ボタン=ブライトの匂いがするよ」
 そうだというのです。
「彼この大学にいるみたいだよ」
「えっ、そうなんだ」
「うん、だからね」
 それでだというのです。
「探そうと思ったらね」
「探せるんだ」
「教授も一緒にね」
 大学から離れられないこの人もというのです。
「出来るよ」
「おお、それでは問題ない」
 教授はトトの言葉を聞いて目を輝かせて応えました。
「では私も一緒にボタン=ブライトを探そう」
「あの子が大学にいる間にですね」
「見付けてそうして」
 その手にしているボタンを皆に見せながらの言葉でした。
「このボタンを返してあげよう」
「そうね、あの子がこの大学にいるのならね」
 ドロシーも教授の言葉に応えて言います。
「探してね」
「うむ、返してあげよう」
 こうお話を決めてでした、皆で大学の何処かにいるボタン=ブライトを探すことになりました。この時はまだ誰もこれからどうなるのか知りませんでした。



無事に大学へと着いたな。
美姫 「みたいね。ベンキョー錠は結局、飲めなかったけれどね」
必要ないみたいだしな。それより、今度は人探しみたいだぞ。
美姫 「幸い、大学内みたいだから、教授も一緒に探すみたいだけれど」
果たして、どんな人探しになるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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