『オズのモジャボロ』
第二幕 いざ出発
朝になりました、皆朝御飯を食べてです。
出発の時になりました、モジャボロはにこにことして言うのでした。
「さて、朝御飯も食べたしね」
「いよいよですね」
「出発ですね」
「そう、カドリングに行こうね」
「朝に御飯を食べることもいいのよね」
ドロシーもにこにことしています、見ればもう旅に出る為のラフなスカートと上着です。その上着の色は五色です。
緑を基調として赤に青、紫に黄色です。この五色です。
その五色の服を見てです、恵梨香が尋ねました。
「あの、その服は」
「ええ、オズマから貰った服の一つなのよ」
「そうなんですか」
「どうかしら」
その膝までのスカートをひらひらと動かしての言葉です。
「似合ってる?」
「とても。それでその五色は」
「それぞれの国の色なの、オズの国のね」
「そうですよね」
「そう、それで緑色がベースなのは」
このことはドロシーから言うのでした。
「やっぱりドロシーさんがエメラルドの都の王女さんだからですね」
「そうなの、だからなの」
「最初は青いイメージがあったんですけれど」
「最初に来た国はマンチキンだからね」
それでドロシーの最初のイメージカラーは青だったというのです。
「だからよね」
「はい、そう思っていました」
「そうよね。けれど私の色はね」
「ドロシーさんの色は?」
「実は最初はこれといってなかったのよ」
オズの国に来た頃はというのです。
「王女になるまではね」
「それで今はですね」
「そう、緑でね」
そしてだというのです。
「あと四色も一緒になって」
「オズの国の色ですね」
「それになったのよ」
そうだったというのです、オズの王女として。
「どの色も好きだけれどね」
「そうですか」
「そう、それで今の色はね」
「オズの国ですね」
「そうなの。ではいいわね」
「はい、出発ですね」
「トト、行きましょう」
ドロシーはここでトトにも声をかけました。すると黒くて長い毛の小さな犬が尻尾を振りながらドロシーのところに来て言ってきました。
「お待たせ、ドロシー」
「ええ、じゃあね」
「今回も一緒にね」
「チョッキンペットの村に行きましょう、まずは」
「そうそう、まずはあの国に行こう」
モジャボロも言ってきます。
「最初はね」
「それから兎の国ですね」
「あの国に行くんですね」
「そして実はね」
「実は?」
「実はといいますと」
「他にも行く場所が出来たんだ」
モジャボロはここで五人にこのこともお話するのでした。
「チョッキンペットと兎の国以外にね」
「あれっ、そうなんですか」
「他にも行く場所が出来たんですか」
「そうなんだよ」
こうお話するのでした。
「実はね」
「それで何処に行くんですか?」
ナターシャがモジャボロに尋ねました、具体的に何処に行くのかを。
「一体」
「狐の国とロバの国だよ」
「あれっ、確かその二国は」
「そうよね」
恵梨香もナターシャの驚きの言葉に応えて言います。
「死の砂漠の外にあって」
「オズの国にはないですけれど」
「もうそう簡単にオズの国には他の国の人は入ることが出来ないですよね」
「私達の方法以外では」
「いやいや、実は死の砂漠の場所を変えたんだよ」
「あの砂漠のですか」
「それを」
死の砂漠はオズの国の周りを完璧に囲んでいます、砂漠に入ればどんな生きものもその砂に触れてしまって灰になってしまうのです。だから誰も砂漠に囲まれているオズの国に入ることは出来ないのです。
狐の国もロバの国も砂漠の外にあります、だから五人はこう言うのです。
ジョージがです、考える顔で言いました。
「サンドボートを使うのかな」
「あのモジャボロさん達がオズの国に入った時のだね」
「あれをだね」
神宝とカルロスがジョージに応えます。
「あれをまた使うのかな」
「それでかな」
「それかオズマ姫かグリンダさんの魔法かな」
ジョージはこれを使うのではとも考えました。
「それで送ってもらうのかな」
「魔法使いさんもおられるし」
「そうなのかな」
「いや、魔法は使わないよ」
モジャボロが男の子三人に言ってきました。
「それはね」
「そうなんですか」
「魔法は使わないで、ですか」
「あの二国に行くんですか」
「そうだよ、だから砂漠の場所が変わったんだよ」
またこのことをお話したモジャボロでした。
「狐の国もロバの国もね。他の国もね」
「囲んでるんですか?」
恵梨香がモジャボロに尋ねました。
「ローの国や他にも幾つか国がありましたけれど」
「うん、そうなんだ」
モジャボロは恵梨香に陽気に笑って答えました。
「オズの国がある大陸の全てをね」
「じゃあ大陸の海岸がですね」
「そう、全部死の砂漠になったんだ」
そうなったというのです。
「とはいっても流れ着いた人が辿り着ける様に死の砂漠は海岸からほんの少し後ろにあるんだけれどね」
「そうだったんですね」
「そう、だからね」
それでだというのです。
「狐の国もロバの国もね」
「行けるんですね」
「今はね」
「じゃあ狐の国とロバの国にも」
「うん、行くよ」
その二国にもだというのです。
「じゃあいいね」
「それでその二国は何処にあるんですか?」
カルロスがオズの国の中における狐の国とロバの国の所在地について尋ねました。
「確か大陸の南の方にありましたから、どっちも」
「うん、カドリングにあるよ」
一行が今か行くその国にだというのです。
「あの国はね」
「そうですか、それじゃあ」
「うん、このまま行けばね」
いいというのです。
「ではいいね」
「はい、わかりました」
「このままカドリングに行こうね」
「あの、けれど」
「頭を換えられたりしないですよね」
ここで、です。ジョージと神宝がモジャボロにこのことを尋ねました、とても心配そうにしているお顔で。
「モジャボロさんみたいに」
「ボタン=ブライト君もそうでしたけれど」
「そのことは大丈夫よ」
見送りに来ていたオズマがこのことについては大丈夫だt言ってきました。
「狐の王様もロバの王様もオズの住人になったから」
「あっ、だからですね」
「もう魔法は」
「そうよ、使うことは禁止されたから」
オズの国で魔法を使えるのはオズマとグリンダ、それに魔法使いだけです。この三人だけと決められたからです。
狐の王様もロバの王様も魔法は使えません、今は。
「安心してね」
「ならいいです、けれど狐ですよね」
ここで神宝は自分のお国の狐のお話をしました。
「妖力がありますけれど」
「狐もそれぞれだから」
「普通に魔法を使うことはですね」
「ええ、化かされたりしないから安心してね」
オズマは神宝に微笑んでお話しました、こうしたお話をしてでした。
一行はオズの国を旅立ちました、オズマの見送りを受けて。
南に南に下っていくとです、緑に輝くエメラルドの都は次第に小さくなっていき消えていきました。そして。
前には少しずつ赤い世界が見えてきました、恵梨香はその赤い世界を見てドロシーに目を輝かせて言いました。
「見えてきましたね」
「ええ、カドリングの国がね」
「次はあの国ですね」
「そう、あの国に行くのよ」
「あの国に行くのははじめてです」
五人共です、カドリングに行くのははじめてなのです。
「前はマンチキンの国で」
「それで今度はね」
「そうです、あの国ですね」
「ギリキンとウィンキーはまだよね」
「そうです、少なくとも本格的には」
行っていないとです、恵梨香は五人を代表してドロシーに答えました。
「行っていないです」
「では今度はね」
「どっちかにですね」
「行くといいわ」
ウィンキーかギリキンにだというのです。
「どの国もとても素晴らしい国だから」
「ウィンキーの皇帝が木樵さんでしたね」
ナターシャも大好きなこの人がです。
「そうでしたね」
「そうよ、あの人がウィンキーの主よ」
「そしてかかしさんとジャックさんもおられて」
「ウィンキーもいい国よ」
「あの国にも行ってみたいですね」
「そしてギリキンが」
カルロスがギリキンについて言いました。
「オズマ姫がおられましたね」
「ジャックが産まれてね」
「そうでしたね」
「そうよ、オズマは最初男の子だったのよ」
チップという男の子でした、最初は誰もあの男の子がオズの国の主でとても可愛らしいお姫様は思っていませんでした。
「ただ今ではね」
「魔法で、ですね」
「そう、チップの姿にもなれるのよ」
つまり男の子にもなれるのです。
「今はね」
「そうなんですね」
「そう、それでギリキンもね」
「あの国もですね」
「とてもいい国だから」
だからだというのです。
「行ってみるといいわ」
「はい、じゃあ次の機会には」
「どっちかに行かせてもらいます」
こう答える五人でした、カドリングに向かいながら。
次第に赤が大きくなってです、そして。
緑と赤が綺麗に別れました、まるで二色の絨毯の様に。
黄色い煉瓦の道はそのままで草原の色が別れたのです、ジョージはその赤い草原を見て目を瞠って言いました。
「赤い草原ってね」
「うん、オズの年代記では読んでいたよ」
神宝も唸る顔で応えます。
「けれどね」
「こうしてこの目で見るとね」
「凄いね」
「全くだよ」
こう言うのでした、鮮やかな赤い草原を見ながら。
「いや、綺麗だよ」
「赤い草原もね」
「何もかもが赤いけれどね」
「うん、木も家もね」
本当に何もかもが赤いです、カドリングは。
「鮮やかな赤でね」
「この国も素晴らしいね」
「服もそうなんだよ」
トトが二人に下から言ってきました。
「カドリングはね」
「うん、赤だね」
「そうだよね」
「そうだよ、赤だよ」
まさにその色だというのです。
「カドリングだからね」
「そうだよね、やっぱり」
「赤だよね」
「うん、だから人に会うことも楽しみにしていてね」
こうお話するトトでした、ですがここでなのでした。
カルロスがです、そのトトに尋ねました。
「あの、いいかな」
「どうしたの?」
「トトも普通に喋ってるよね」
「人間の言葉をね」
「そうだよね、やっぱりそれも」
「そうだよ、他の動物の皆と同じでね」
「オズの国だからだね」
カルロスは自分から言いました。
「だからだね」
「オズの国では動物は喋られるからね」
「トトも最初は喋られなかったのよ」
ドロシーがこのことをカルロス達にお話しました。
「ビリーナもそうだけれど」
「けれどオズの国に入って」
「それで」
「そうなの、それでなの」
喋られる様になったというのです。
「私ともお話が出来る様になったのよ」
「そうなんですね、トトも」
「この犬も」
「トトはずっと一緒にいる私の友達よ」
ドロシーにとって、というのです。
「私がまだほんの小さな子供だった頃からのね」
「そしてこれからもですね」
「ずっとですね」
「そう、ずっとね」
まさにというのです。
「トトは私の友達よ」
「それでそのトトも今回は」
「僕達と一緒ですか」
五人もトトを見て言うのでした、そして赤い草原の中の黄色い煉瓦の道を進んでいってです、モジャボロが皆に言いました。
「さて、そろそろね」
「そろそろ?」
「そろそろっていいますと」
「お昼だからね」
見ればお日様がかなり高くなってます、それで言うのでした。
「御飯を食べようか」
「あっ、丁度いい具合に」
恵梨香が右手を指し示した、そこにです。
お弁当の木の森がありました、それを指し示して言うのです。
「お弁当があります」
「うん、じゃああそこまで行ってね」
「そしてですね」
「お昼を食べよう」
まさにそのお弁当をです。
「そうしよう」
「晩御飯の分も頂いていきましょう」
ナターシャは夜のことも考えて言いました。
「そうしましょう」
「夜もですね」
「夜の分もなの」
「だって晩御飯の時もお弁当の木が傍にあるとは限らないじゃない」
ナターシャはこう恵梨香に答えます。
「だからよ」
「それでなの」
「そう、だからね」
晩のことも考えてだというのです。
「晩の分もね」
「そうね。そうした方がいいかしら」
「いや、それには及ばないよ」
けれどここで、です。モジャボロが五人にこう言ってきました。
「晩のことはね」
「特にですか」
「取っておく必要がないんですか」
「うん、晩は晩でどうにかなるからね」
だからだというのです。
「心配しなくていいよ」
「そうですか、じゃあ」
「このままですね」
「うん、気にしなくていいい」
こうお話してでした、そのうえで。
一行はお弁当の木のところに向かいました、そうしてそれぞれお弁当を取ってそのうえで食べはじめました。
ナターシャはそのお弁当を食べてこう言いました。
「いや、これは」
「これはって?」
「どうしたの?」
「いいわね、黒パンがね」
ブリキの中の黒パンを出して食べながらです、ジョージと神宝に答えます。
「美味しいわ」
「固くない?黒パンって」
「そんなイメージがあるけれど」
「今は柔らかくなってるのよ。それにね」
「ああ、ロシアではね」
「黒パンが主流だからね」
「白いパンも美味しいけれどね」
それでもだというのです。
「やっぱり黒いパンも馴染みがあって好きなのよ」
「つまり黒パンはナターシャのソウルフードなんだ」
「そうなるんだね」
「そうよ、だからね」
まさにです、ソウルフードだからだというのです。
「好きなのよ」
「成程ねえ」
「そういうことだね」
「あとこのソーセージとお野菜も」
ソーセージは焼きたてです、そしてお野菜はとてもよく煮られています。その二つも食べて言うのです。
「美味しいわ」
「量も多いわね」
恵梨香は御飯のお弁当を食べています、おかずは鮭に椎茸と筍、それに人参をお醤油で煮たものです。
「これなら一箱食べたらお腹一杯よ」
「僕もだよ」
モジャボロはサンドイッチ、ハムサンドを食べています。彼の大好物である林檎を切ったものもあります。
「一箱でね」
「お腹一杯ですね」
「そうなりますね」
「うん、なるよ」
それだけでだというのです。それぞれのお弁当にはお茶やジュースが入った水筒までしっかりとあります。
「だから食べ終えたらね」
「はい、またですね」
「旅の再開ですね」
「楽しんでいこうね」
その旅をだというのです。
「いいね」
「はい、わかりました」
「食べることも楽しんで」
「食事も旅行も楽しむものだよ」
その両方をだというのです。
「だからいいね」
「はい、じゃあ」
「また食べて」
「そうしようね、今回も楽しい旅になるよ」
モジャボロは食べつつ言うのでした。
「例え何があってもね」
「いきなりノーム王が出て来るとか?」
カルロスは冗談混じりにこんなことを言いました。
「そんなことはないですよね」
「そういえばあのノーム王もね」
「そうよね」
ナターシャと恵梨香がまたお話をしました、その名前を聞いて。
「何度かオズの国やオズの人達に迷惑をかけようとして」
「困った人よね」
「全部忘れたり王様じゃなくなってもね」
「その都度悪くなってね」
「何かをしようとして」
「大変な人よね」
「今のところはね」
ドロシーがそのノーム王についてお話します、五人に。
「あの人はまた大人しくなってるから」
「だからですね」
「あの人のことはですね」
「安心していいわ」
今のところは、というのです。
「そうしていいわ」
「そうですか、今は」
「大丈夫なんですね」
「そう、気にしなくていいから」
こうお話するのでした。
「暫くの間はね」
「あの人もわからないね」
モジャボロは首を傾げさせました、野菜サンドを食べながら。
「悪いことを考えるよりいいことを考える方が幸せになれるのに」
「そういう人もいますよね」
「悪いことばかりを考える人が」
「あの人こそね」
ノーム王こそがです、悪いことばかりを考える人なのです。
「だからね」
「どうにかならないんでしょうか」
「何度気持ちが切り替わっても元通りになって」
「悪いことを企んで悪いことをしようとして」
「しょうがない人ですよね」
「困った人ですよ」
「うん、あれだけ心が切り替わる人だとね」
悪い方向にです。
「またそうなるかもね」
「また悪くなってですね」
「オズの国に迷惑をかけようとするんですね」
「そうするんじゃないかな。マボロシ族とかは心を入れ替えたけれど」
かつて多くの人に迷惑をかけた彼等はというのです。
「ノーム王だけはね」
「どうしてもですか」
「ああなんですね」
「うん、そうなんだよね」
モジャボロは困った顔で五人にお話します。
「そうした運命なのかなとも思うよ」
「あれだけ心が真っ白になってもね」
ドロシーも残念そうに言います。
「何度もね」
「それでもですね」
「その度に悪い心になってですね」
「オズの国に迷惑をかけようとしたんですね」
「何度も」
「下から穴を掘って攻めようとしたりね」
そうしたことをしようとしたこともありました。
「そのマボロシ族達と一緒にね」
「ああ、あの時ですね」
「ヘンリー叔父さん達がオズの国に入られた時に」
「あの時ずっとヘンリー叔父さん達のことばかり考えていたわ」
それでその中ではじめてチョッキンペットの村や兎の国に行ったのです。他にもカドリングの色々な場所に行きました。
「それで急にだったのよ」
「ノーム王が攻めて来るってですね」
「お話が来たんですね」
「あの時はどうなるかって思ったわ」
「オズの国が滅亡の瀬戸際に陥って」
「それで、ですね」
「そうよ、大変なことになっていたからね」
だからでした。
「どうなるかって思ったわ」
「ううん、ノーム王って本当に酷いですね」
「とんでもない人ですよね」
「今どうしているかしら」
ノーム王のことを思って言うドロシーでした。
「あの人は」
「そうですね、また悪い心になってないといいですけれど」
「今回ばかりは」
「まともになっていて欲しいですよね」
「悪いことばかり考える人になっていなくて」
「せめて普通の人に」
「ええ、本当にそう思うわ」
五人にしみじみとして言うドロシーでした。
「今度こそね」
「ですよね、誰も幸せにならないですから」
「悪いことをしても」
「悪いことを考える人はそれだけで不幸なんだよ」
モジャボロはこうも言うのでした。
「それだけ心が悪くなっていくからね」
「ですよね、じゃあ私達も」
「出来るだけいいことを考えるべきですね」
「それが幸せになる第一歩だよ」
そこからだというのです。
「例えば美味しいものを食べて楽しいとかね」
「今みたいですね」
「こうしてお弁当を食べて楽しいと思うこともですね」
「幸せですね」
「それになりますね」
「そうだよ、幸せとはね」
それはです、何かといいますと。
「心の持ち様でかなり変わるんだよ」
「僕は何時でも幸せだよ」
トトもトトのお弁当を食べています、とても美味しい鶏肉を焼いたものを食べながら尻尾をぱたぱたと横に振りつつ言うのでした。
「だっていつもドロシーと一緒で他の皆もいてくれるからね」
「だからトトも幸せなのね」
「そのことを楽しいって思えるから」
「うん、そうだよ」
まさにその通りだとです、やっぱり尻尾を振って答えるトトでした。
「そう思えるからね」
「私もいつも幸せよ」
ドロシーもなのでした、このことは。
「いつも楽しいって思えているからね」
「そうですか、じゃあ私達も」
「楽しいって思うことですね」
「出来るだけいつも」
「そう思うことですね」
「それが大事ですね」
「そうよ。じゃあ楽しくね」
そう思ってだというのです。
「この旅を続けましょう」
「はい、わかりました」
「それじゃあ皆で」
「楽しくですね」
「この旅を一緒に行きましょう」
「皆で」
「ええ、そうしましょう」
ドロシーは五人ににこりと笑って言いました。
「さあ、ミス=チョッキンペットは元気かしら」
「今も紙の国民と一緒にいるよ」
モジャボロがドロシーにチョッキンペットのことをお話します、その彼女のことを。
「そして楽しくね」
「紙の人達を作っているのね」
「そうしているんだ」
「そうなのね。それじゃあね」
「それならだね」
「ええ、いいわ」
チョッキンペットも幸せならというのです。
「それならね」
「そうだね、ではね」
「一緒に行こうね」
「チョッキンペットの村までね」
こうお話しながらお弁当を食べてでした、そのうえで。
一行はお弁当を食べ終えました、そうしてまた黄色い煉瓦の道を歩いていくのでした。煉瓦の左右には赤い世界が広がっています。
その赤い世界が次第に夕暮れに包まれていくとです、モジャボロはドロシーとトト、五人に対して言うのでした。
「それじゃあ今日はね」
「休憩ですね」
「寝るんですね」
「うん、夜の旅は危ないし冷えるからね」
だからだというのです。
「もう休もう。晩御飯も食べてね」
「あの、それはいいんですけれど」
恵梨香が提案するモジャボロに尋ねました。
「どうして休むんですか?」
「あの、テントでも持っているんですか?」
カルロスも首を傾げさせつつモジャボロに尋ねます。
「ひょっとして」
「折り畳み式で拡げると大きくなるテントだね」
「はい、それと食べものが出るテーブル掛けですね」
「うん、その二つは持って来ているよ」
「じゃあそれを出すんですか」
「そのつもりだよ。ただね」
ここでカルロス達にこうお話したモジャボロでした。
「女の子が三人いるね」
「はい、恵梨香とナターシャとドロシーさんです」
カルロスはモジャボロの言葉に答えました。
「確かに三人ですね」
「それで男は僕達四人」
モジャボロとカルロス、それにジョージと神宝です。
「テントは二つ必要だね」
「男の子と女の子ですね」
「そう、だから二つ用意持って来たよ」
「そうだったんですか」
「うん、テントとテーブル掛けの他には」
その他に持って来たものはといいますと。
「寝袋も持って来たから」
「それも折り畳みのですね」
「そう、持って来たからね」
だからだというのです。
「夜はゆっくりと寝ようね」
「はい、わかりました」
「それなら」
「そうしよう。それじゃあね」
カルロスとのお話を終えてからです、モジャボロは夕暮れの赤い色を深くさせていくカドリングの草原を見回して言いました。
「ここでいいね、テントを置くのは」
「ここですか」
「もうここで置いてですね」
ジョージと神宝がモジャボロに応えます。
「それでテーブル掛けも出して」
「御飯も食べて」
「うん、やっぱり食べることだよ」
本当にです、まずはそれからでした。
「美味しいものを食べようね」
「テーブル掛けから何でも好きなお料理を出せるわよ」
ドロシーは五人にこのことをお話しました。
「このことはもう知ってるわよね」
「はい、前のマンチキンからエメラルドの都に行く時に」
「かかしさん達に教えてもらいました」
ジョージと神宝がドロシーに答えます。
「晩御飯は好きなものを食べていいんですね」
「テーブル掛けに頼んで」
「そうよ、さてこれから何を食べようかしら」
もううきうきとして言うドロシーでした、食べることが楽しみで仕方がないといった感じがもうはっきりと出ています。
「夜はね」
「ははは、まずはテントを置こう」
モジャボロはそのドロシーにお話します。
「拡げればすぐに置けるからね」
「それでよね」
「うん、だからね」
まずはテントを置こうというのです、草原の中に。
「まずは寝る場所を置こう」
「そうね、それじゃあね」
こうしてまずは草原の手頃と思われる場所に足を踏み入れてです、モジャボロは服のポケットから二枚の緑のハンカチを出しました、そして。
そのハンカチを拡げるとです、そのハンカチが。
忽ちのうちに四角すいの形のテントになりました、その大きさは何人も十分に入られるだけの大きさです。その緑のテントが赤い草原の中に二つ置かれたのです。
それを置いてからです、モジャボロは皆に言いました。
「それじゃあね」
「はい、次はですね」
「晩御飯ですね」
「少し早いけれどいいね」
まだ夜になっていません、夕陽は完全に落ちていますが。
「御飯にしよう」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
皆もモジャボロに笑顔で応えます、そうして皆で草原の中に車座になって座り皆が囲んでいる中にテーブル掛けを敷きます、そこでなのでした。
ナターシャがです、こう言いました。
「最近皆ね」
「皆?」
「皆っていうと?」
「それぞれの国のお料理ばかり食べてるわよね」
こう言うのでした。
「だから今は変わったものを食べない?」
「変わったものって?」
ジョージがそのナターシャに問い返します。
「それどういうことかな」
「だから、和食や中華やハンバーガーとかだけじゃなくて」
「ああ、他の国のお料理を食べようっていうんだね」
「そう、シャラスコやボルシチも今は置いておいてね」
そのうえでだというのです。
「他の何かを食べましょう」
「そう言われてもね」
神宝はナターシャの提案に首を傾げさせて応えました。
「ちょっと思い浮かばないね」
「これといって?」
「うん、何かあるかな」
五人のそれぞれのおl国のお料理以外にです。
「オズの国のお料理以外のものだね」
「オズの国はアメリカのお料理だから何でもあるけれど」
このことは言うまでもありません。
「私達のお国以外のお料理にしましょう」
「ううんと、じゃあ」
恵梨香はナターシャの提案を聞いてです、考えるお顔で首を右に傾げさせてこのお料理をお話に出しました。
「カレーとか?」
「カレーライスね」
「ええ、あれならどうかしら」
「カレーは和食でしょ」
「あれっ、インド料理よ」
「恵梨香ちゃんが言ってるのは私達が普通に食べているカレーでしょ」
「それはね」
その通りだとです、恵梨香もこうナターシャに答えます。
「やっぱり」
「そうよね、それはね」
「駄目かしら」
「ううん、微妙ね」
ナターシャは恵梨香の提案に腕を組んで難しいお顔になって言いました。
「正直」
「微妙かしら」
「あのカレー私和食って思ってるから」
「それはどうしてなの?」
「だって日本のカレーってとろってしてて牛肉が入っていることが多いわよね」
「チキンカレーやシーフードカレーもあるわよ」
「けれどビーフカレーが多いから」
だからだというのです。
「インドは牛肉を食べないからね」
「それでインド料理じゃないっていうのね」
「日本のカレーはね」
「じゃあカレーは」
「インドのカレーならいいと思うわ」
ここでこう提案したナターシャでした。
「カレーでもね」
「インドのカレーね」
「そう、さらっとしてて牛肉の入っていないカレーね」
「そういえば今のアメリカにはインドからの人も来ているわね」
恵梨香は言いました、アメリカは本当に色々な国から人が来ている国です、その中にはインドからの人もいるのです。
「それなら」
「そう、テーブル掛けにも出せるわよね」
「ええ、出せるわよ」
ドロシーが「にこりと笑って二人に答えます。
「そのカレーもね」
「それならですね」
「今晩はカレーですね」
「ええ、それにしましょう」
そのにこりとした笑顔で言うドロシーでした。
「カレーは美味しいし栄養もたっぷり入っているしね」
「しかも身体も温まりますし」
「いいこと尽くめですね」
「だからそれにしましょう」
こうして皆の晩御飯はカレーになりました、本場インドのさらっとした鶏肉とお野菜がたっぷりと入ったカレーです。
お皿の白い御飯の上にルーをたっぷりとかけたカレーをスプーンで食べてです、神宝はにこりと笑ってこう言いました。
「いやあ、旅でのカレーはまた違うよね」
「格別に美味しいんだよね」
カルロスもそのカレーを食べながらにこにことしています。
「普通に食べる時とはまた違って」
「そうそう、そうなんだよね」
「おかわりできるかな」
ジョージはとても勢いよく食べています、その中でこう言うのでした。
「二杯目は」
「ええ、出来るわよ」
ドロシーがそのジョージに答えます。
「食べ終えたお皿をテーブル掛けの上に置いたらお皿が消えてね」
「そしてですね」
「そう、おかわりを欲しいって思えば」
「二杯目が出て来るんですね」
「だから食べたいだけ食べられるのよ」
カレーが、というのです。
「皆お腹一杯食べましょうね」
「はい、じゃあそうさせてもらいます」
こうしてでした、ジョージだけでなく皆がカレーライスをお腹一杯心ゆくまで楽しみました。皆とても幸せな気分になりました。
そしてテントに入る時にです、モジャボロが笑顔で皆に言いました。
「じゃあ夜はね」
「ゆっくり休んでですね」
「温かくして寝て」
「明日は日の出と一緒に起きて」
そしてだというのです。
「煉瓦を歩いていこうね」
「チョッキンペットの村はあとどの位ですか?」
恵梨香は村までの距離を尋ねました。
「明日ですか?明後日になりますか?」
「明後日に着くよ」
モジャボロはこう恵梨香に答えました。
「明日道草をせずにしっかりと歩いたらね」
「そうですか、明後日ですか」
「この調子でいけばね」
「わかりました、じゃあ明後日に」
「うん、村に着くよ」
その時にだというのです。
「だから明日はしっかり歩こうね」
「そうですね、まずは歩くことですね」
「千里の道もだよね」
トトもカレーをたっぷり食べました、そのうえで満足して言うのでした。
「一歩からだよね」
「そう、まずはね」
「そこからよ」
恵梨香とナターシャがトトに答えます。
「どんな長い旅もね」
「その一歩からなのよ」
「そうして歩いていけばだね」
「何時かは辿り着けるの」
「どんな遠い場所にあってもね」
「その通りだよ、だからね」
モジャボロもトトに言います。
「歩いていこう、皆でね」
「うん、わかったよ」
「何度も一緒に冒険の旅をしてきたわよね」
ドロシーもトトに言います。
「だから油断は禁物だけれど」
「不安になったり心配することもなくてだね」
「そう、行きましょう」
そのチョッキンペットの村にだというのです。
「そうしましょうね」
「そうだよね。ただ狐やロバの国にも行くけれど」
ジョージは旅の先のことをここで思うのでした。
「あの両国も入っているってことはスクードリー達の国も入ってるよね」
「うん、そうだよ」
その通りだとです、モジャボロがジョージに答えます。
「あの顔が二つある種族だね」
「あの人達は凶暴だから」
「あそこにはあまり行かない方がいいよ」
モジャボロ達は危うくスクードリー達に食べられそうになったことがあるからです、この時ドロシーも一緒でした。
「今もね」
「やっぱりそうですよね」
「危ない場所には近寄らない方がいいよ」
最初からというのです。
「だからね」
「そうですね、じゃああそこには行かないですね」
「狐の国とロバの国には行くけれどね」
それでもだというのです。
「あの国には行かないよ」
「わかりました」
「今回はトンカチ族のところにも行かないし」
首を伸ばして頭をぶつけてくる彼等のところにもです。
「出来るだけ安全な旅の道を選んでいるよ」
「だから煉瓦の道を進んでいるんですよね」
神宝がこのことを尋ねます。
「そうですよね」
「その通りだよ、煉瓦の道は安全だからね」
「安全第一ですね」
「危険な旅は楽しいかも知れないけれど」
それでもだというのです。
「自分達からするものじゃないよ」
「仕方なくそうなるものですね」
「危険には自分から近寄らない」
こうも言うモジャボロでした。
「それが大事なんだよ」
「ですね。じゃあスクードリーのところには寄らないで」
「狐の国と驢馬の国に行く時はね」
「安全な道を進んで、ですね」
「楽しい旅を歩いていこうね」
こうお話するモジャボロでした、そうして。
テーブル掛けをなおしてです、こう言うのでした。
「じゃあ寝ようね」
「はい、それじゃあ」
「今日は」
皆モジャボロの言葉に素直に応えてでした、そのうえでテントに入ります。恵梨香はナターシャ達と一緒にテントに入るとすぐにでした。
モジャボロから貰った寝袋を出してです、そうして。
その中に入ってからです、ドロシーに言いました。
「やっぱりこうして皆と一緒にいるっていいですよね」
「そうよね、旅の間もね」
「とても心強いです」
こう言うのでした。
「ドロシーさんがいてくれて」
「私何もしていないわよ」
ドロシーは笑って恵梨香に答えます。
「モジャボロが全部してくれてるじゃない」
「いえ、ドロシーさんが色々とオズの国のことを教えてくれて」
「チョッキンペットまでの道も教えてくれてるじゃないですか」
ナターシャも寝袋の中からドロシーに言います。
「ですから」
「私もなの」
「はい、心強いです」
「とても」
そうだというのです、二人は。
「ドロシーさん達がいてくれて」
「本当に有り難いです」
「そうなのね、私もね」
「ドロシーさんも?」
「といいますと」
「皆がいてくれて楽しいわ」
ドロシーはドロシーでこう二人に言います、勿論ドロシーも自分の寝袋の中にいて温かい格好で寝ています。
「ほら、旅は多い方が面白いからね」
「だからですか」
「私達が一緒で」
「そう、楽しいわよ」
とてもだというのです。
「本当にね」
「だといいですけれど」
「私達にしても」
「完全に一報が支えているってことはね」
ドロシーはこうしたことも言いました。
「ないのよ」
「人間にはですか」
「ないんですか」
「世の中にはね」
こうも言うドロシーでした。
「一人で立っている人はいないから」
「一人もですね」
「いないんですね」
「そう、そのことは覚えておいてね」
こうしたお話をしてからぐっすりと眠るのでした。皆のカドリングでの旅は和気藹々として進んでいました。
今回も特に問題なく旅が続いているな。
美姫 「そうね。とは言え、やっぱり危ない場所というのは存在しているみたいね」
だな。それにノーム王というのも居るみたいだな。
美姫 「今回の旅では危険な場所へと近づく予定はないようだし」
件の王にも会う事はなさそうだけれどな。
美姫 「この先、どんな旅になるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」