『オズの五人の子供達』




              第六幕  元の国に戻っても

 五人はそれぞれが作ったお料理をパーティー会場である宮殿の舞踏の間に持って行ってもらいました。そのお手伝いをしたのは小柄な茶色の髪に青い目の女の子です。服はエメラルドの都らしく緑のメイド服です。  
 その娘にボルシチを持って行くお手伝いをしてもらいながらです、ナターシャは彼女にその名前を尋ねました。
「シェリア=ジェムさんですよね」
「はい、そうです」
 女の子はにこりと笑って答えました。
「この宮殿のメイドです」
「そうですよね」
「この宮殿のことなら隅から隅まで知っています」
 そこまで知っているというのです。
「長い間ここにいますから」
「それじゃあオズマ姫のことも」
「あれだけ素晴らしい方は他にいませんね」
 オズマ姫のこともこう言うのでした。
「ドロシー王女もベッツイさんも」
「三人共そうですよね、本当に」
「他の方々も。多分この国は世界で一番いい国ですよ」
「私の国もいい国ですけれど」
 ナターシャは祖国ロシアのことを言います、ロシアはといいますと。
「寒いんですよね」
「寒いんですか」
「はい、とても」
 それがロシアだというのです。
「冬なんか息が凍ります」
「息がですか」
「オズの国ではそうした場所はありますか?」
「あると思いますけれど」
 ナターシャはボルシチを入れたお鍋をワゴン車で運んでいます、ジェリアはそのお手伝いをしているのです。
 その中で、です。こう言うのです。
「ただ私は」
「ジャムさんはですか」
「ジェリアでいいです」
 ジェリアはすぐにこうナターシャに答えました。
「私の呼び方は」
「砕けてですね」
「はい」
 それでいいというのでした。
「それで」
「わかりました、じゃあジェリアさん」
「はい」
 にこりと笑って答えました、そしてでした。
 二人で宮殿の舞踏室にお料理を運んでいきます、ですが。
 お手伝いをしているのはジェリアだけではりません、他の皆もです。
 かかしや木樵だけではありません、ドロシー達もです。五人がお料理を運ぶのを手伝っています。カルロスはベッツイはロバと一緒にお手伝いをしてくれることに驚いて言いました。
「あの、ちょっと」
「ちょっとって?」
「どうしたの?」
 ベッツイだけでなくロバもカルロスにお手伝いをすることについて何か問題があるのかという顔で言うのでした。
「お手伝いして悪かったの?」
「何か問題があるのかな」
「お姫様なのに」
 だからだというのです、カルロスは。
「そんなこをしたら」
「何言ってるのよ、私も元々はこうしてね」
「家事をしていたんだ」
「そうよ、だからね」
 こうして身体を動かすことはというのです。
「当たり前のことだから」
「だからなんだ」
「そうだよ、僕もね」
 ロバも言ってきます、その背中には大きな肉を何本も突き刺した細い剣を沢山乗せた銀のお皿があります。お皿もかなりの大きさです。
「こうして働いているんだ」
「貴方は確か」
「うん、ハンクだよ」
 ロバはにこりと笑って名乗りました。
「ロバのハンクだよ」
「私の昔からのお友達よ」
 そうだとです、ベッツイがまた言ってきます。
「アメリカからずっと一緒なのよ」
「この国に来てからもね」 
 一緒だとです、笑顔でお話したハンクでした。
「それでアメリカいにいた頃からね」
「何かあると働いているから」
「いいんですか」
「皆でやればそれだけ楽だし早く終わるじゃない」
 こうも言うベッツイでした。
「だからね」
「皆で働いて」
「早くパーティーをはじめましょう」
 こう言うのでした、そうしてです。
 皆でパーティーの準備をしています、その中にはオズマもいます。恵梨香はそのオズマに言うのでした、彼女もまた。
「あの、王女様までなんですか」
「女王でもいいわよ」
「女王様がですか」
「こうして一緒にパーティーの準備をしていることがおかしいの?」
「ちょっとないですよ」
「あら、けれどね」
「けれど?」
「貴女のお国でも国家元首はいつも働いておられるのじゃなくて?」
 オズマは恵梨香を見てにこりとして言うのでした。
「日本でも」
「陛下ですね」
「そう、貴女の国にも国家元首がおられるわよね」
「天皇陛下がおられます」
「天皇陛下もいつもj働いておられるでしょ」
「お休みもお仕事です」
 そのご休息もだというのです、ちゃんとお仕事に入っているのです。
「毎日毎日。本当に働いておられます」
「そうなのよ。国家元首はね」
「常に働いておられないと駄目なんですか」
「私もそうなのよ」
 オズの国の女王であるオズマもだというのです。
「こうしてね」
「いつも働かないと駄目ですか」
「まずは自分でね」
「けれど私達のお手伝いなんて」
「いいのよ、何度も言うけれどお仕事だから」
 だからだというのです。
「気にしないでね」
「じゃあ」
「まずは自分で動くことよ」
 またこう言ったオズマでした。
「女王なら尚更ね」
「それでなんですね」
「そうよ。それにベッツイが今言ったけれど」
 そのベッツイも見ます、カルロスのお手伝いをハンクと一緒にしている彼女を。
「皆ですればそれだけ楽になるし早く済むわね」
「そうですね、皆でやれば」
「だから私もね」
 一緒に働くというのです、オズマはこの時はくるくると男の子みたいに動いています。その綺麗なドレスもそれに合わせてひらひらと。
 その動きを見てです、かかしにお手伝いをしてもらっている神宝は木樵と一緒にいるジョージにこう囁きました。
「そういえばオズマ姫は」
「そうそう、長い間男の子だったね」
「男の子に姿を変えられていたんだったね」
「そうだったね」
 ここでこのことがお話されたのでした。
「だから動きも」
「その時の名残があるんだ」
「そうよ。私は今でもね」
 そのオズマが答えます、二人に。
「チップになれるのよ」
「女の子から男の子にですか」
「なれるんですか」
「ええ、そうよ」
 こう答えるのでした。
「魔法でね。男の子にもなれるから」
「何かそれは凄いですね」
「何時でも男の子になれるなんて」
「オズマ姫かチップさんなのか」
「ちょっとわからないです」
「私は私だから」
 オズマはジョージのハンバーガーのお皿と神宝の蒸し餃子のお皿をそれぞれ受け取ってテーブルの上に置きながら応えます。
「どちらの姿でもね」
「じゃあオズマ姫でもチップさんでもですか」
「女王様は女王様ですか」
「男の子の時もね」
 つまりチップでもです。
「私はこの国の皆と一緒にいるから」
「だからですか」
「そうしたことは気にすることなく」
「このパーティーも楽しみましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆でパーティーの用意をしていきます、その中には右足が木になっている船長さんの服を着たおじさんと丸々と太った全身銅のロボットもいます、ロボットの背中にはゼンマイがあって全身はとてもきらきらとしています。丸い目とタキシードを着ている様な装飾が彫られていて頭にはこれまた銅のシルクハットがあります。手足はとても細いです。
 その船長さんとロボットを見てです、恵梨香は言いました。
「船長さんとチクタクさんですね」
「そうじゃよ」
「そうーーです」
 船長さんとチクタクはそれぞれの言葉で恵梨香に答えます。
「わしがベッツイのお友達の船長じゃよ」
「チクタクーーです」
 こう答えるのでした。
「わし等もな」
「パーティーーーに参加ーーさせてーーもらいます」
「チクタクさんの喋り方って」
 恵梨香はチクタクと会うのははじめてです、そのうえで言うのでした。
「ボームさんが紹介してくれた通りね」
「ボームさんーーですね」
「はい、チクタクさんのことも書いてくれています」
「それはーー何よりーーです」
 こう返すチクタクでした、そしてでした。
 お握りのお皿を持って行くチクタクを見てです、こうも言いました。
「ただチクタクさんも食べることは」
「必要ーーありーーません」
 やはりそうだというのです。
「かかしーーさん達ーーとーー同じーーです」
「そうですよね」
「わしは食べることも好きじゃがな」
 船長さんはそうだというのです。
「食べないと困ってしまう」
「そうですね、じゃあ」
「うむ、この変わった御飯は」
「お握りです」
「日本で食べておるのじゃな」
「はい、そうです」
「和食はわしも食べておるが」
 それでもだというのです。
「こんな変わったものは見たことがない」
「これはーー川草ーーですね」
 チクタクはお握りを巻いているものを見てすぐにそれだとわかりました。
「こうしたーー使い方ーーがーーありーーますか」
「そうなんです、日本では海草を使うんですけれど」
「オズの国には海がないからのう」
 船長さんもよく知っています、このことは。
「だからじゃな」
「はい、そうです」
 それでだというのです。
「ビーナさんとお話をしてこれにしました」
「その時に決めたのか」
「そうです」
「そういえばおうどんにはな」
「川草をだしに使いますね」
「あと小魚の干物をな」
 それもだしに使うというのです。
「それではお握りにか」
「あっ、だしに使うのは昆布でして」
「また違う川草なのじゃな」
「海苔です」
 それで巻いているというのです。
「あと卵焼きとかも作りましたし」
「これーーですね」
 チクタクは長方形で緑色に焼かれている卵を研いだものを見ました。
「オムレツーーではないーーですね」
「はい、それとは少し違いまして」
「ああ、これは時々見るのう」
 船長さんは卵焼きを見て言いました。
「わしは食べたことはないがのう」
「お寿司にも使います」
「そういえばそうじゃったかな」
「これも日本ではよく食べますから」
「それでか」
「作ってみました、それじゃあ」
「うむ、ここに置いてな」
 船長さんは卵焼きを乗せたお皿を空いているテーブルの上に乗せました、恵梨香もそこにお握りのお皿を乗せます、その隣には。
 ふわりと宙に舞っている女の子がいました、虹色の綺麗な服と長い布を身体に巻いています。長い黄金の色の髪もふわりとしていて赤と青の飾りもあります、その目は青くてとても綺麗です。顔立ちは明るくて整っていてとても女の子らしいです。
 その娘を見てです、恵梨香は声をかけました。
「ポリクロームさんですね」
「はじめまして」
 そのポリクロームも挨拶をしてきました。
「この国に来てくれた人よね」
「はい、ジャックさんについて来た形で」
「あの学園に来たのね」
「あっ、ポリクロームさんもですか」
「あの学園には何度も行っているのよ」
 そうだというのです。
「八条学園よね」
「はい、そうです」
「あの学園はいいわね」
「いい場所ですよね」
「だから私も飛ばないで普通の娘としてね」
 妖精であるということを隠してだというのです。
「遊んでいるのよ」
「そうだったんですか」
「ジャックさん達は出来のいい仮装として出入りしているのよ」
「ううん、それは凄いですね」
「そうでしょ。それでだけれど」
 ここでポリクロームはこう言ってきました。
「いいかしら」
「いいっていいますと」
「貴女達のパーティーだけれど」
「今からはじめます」
「楽しいわよ、オズマが主催するパーティーは」
「かなりですね」
「そうよ、かなりよ」
 楽しいものだというのです、オズマが主催するパーティーは。
「だから楽しんでいってね」
「わかりました、存分に楽しませてもらいます」
「そうしてね」
「はい、そうさせてもらいます」
 ポリクロームとも知り合いになりました、そうしてなのでした。
 皆はパーティーの準備を整えました、それからでした。
 オズマは舞踏の間にいる皆にです、明るい笑顔で言いました。
「それでは今からね」
「はい、パーティーをですね」
「はじめましょう」
 右手に緑の林檎のジュースが入っている緑水晶のコップを掲げてでした、そのうえで。
 恵梨香の言葉に応えてです、こう言うのでした。
「皆楽しく食べて飲みましょう」
「わかりました」
「では今から」
 皆も、飲み食いの必要がない人達も儀礼的にコップを掲げてです。そうしてなのでした。
 乾杯の合図をしました、そのうえで。
 パーティーをはじめます、そしてなのでした。
 皆で楽しく飲んで食べはじめます。ドロシーはナターシャが作ってくれたボルシチを食べて笑顔で言いました。
「このシチュー温まるわね」
「はい、それで作ったんです」
「身体を温まることが身体にいいからなのね」
「そうです。ロシアはとても寒いですから」
 だからだというのです。
「よく食べるんです」
「トマトの味が強いわね」
「それがボルシチの特徴です。ただ」
「ただ?」
「本当はボルシチって茶色なんです」
 そうだというのです、あちらの世界では。
「お肉もお野菜も」
「そうなのね」
「そうです、エメラルドの都ですから」
 あらゆるものが緑の国だからです。本当は茶色い筈のシチューも中に入っている色々なお野菜もお肉もなのでした。
 全部緑色です、そして。
 ナターシャもその緑色のボルシチを食べてこう言うのでした。
「味は変わらないです」
「ボルシチはこうした味なのね」
「ドロシーさんはボルシチは」
「実ははじめて食べるの」
「そうなんですか」
「そうなの、他のシチューは大好きでよく食べているけれど」
 ボルシチはというのです。
「はじめてなの」
「そうですか、それではじめて食べてみて」
「美味しいわ」
 にこりとした言葉でした。
「とてもね」
「それは何よりです」
 作ったナターシャにとっても素晴らしいことです、だからです。
 笑顔で自分も食べて言うのでした。
「どんどん食べて下さい」
「それじゃあね」
「はい、じゃあ」
 こう答えてでした、そうして。
 皆はボルシチも食べます、そしてここにあるのはボルシチだけではありません。パーティーには他のご馳走も一杯あります。
 ベッツイはお皿を手に持っています、そのお皿にです。
 カルロスが剣に刺している肉の塊、それを刀で切ってそのうえでベッツイのお皿の上に乗せていきます。そうして言うのでした。
「シェラスコだけれど」
「食べたことがあるわ」
「じゃあ説明はね」
「いらないわ。とても美味しいわよね」
「ブラジルだとね」
「よく食べるのね」
「アメリカで言うバーベキューみたいにね」
 よく食べるというのです。
「僕も好きだよ」
「お肉をこうして食べるのはね」
「牛肉だけじゃないから」
 用意しているお肉はだというのです。
「豚肉もマトンも一杯焼いてるからね」
「それは嬉しいのう」
 船長さんもベッツイの横でお肉を食べつつ笑顔で言います。
「まことにな」
「そうですよね。じゃあ僕も」
「シャラスコを食べるのじゃな」
「どうして作るのか」
 シェラスコだけでなく美味しいもの自体をです。
「食べる為ですから」
「だからこそじゃな」
「jはい、作りましたし」
 それでだというのです。
「どんどん食べていきます」
「自分も食べないと駄目じゃな」
「それが美味しいものですよね」
「その通りじゃ、いや船におるとな」
「他に楽しみがないからですね」
「美味しいものがないとな」
 どうしてもだというのです。
「困るんじゃよ」
「じゃあ船長さんは」
「これでも美味いものには五月蝿いぞ」
 笑ってこうカルロスに言います。
「だからシェラスコについてもな」
「美味しくないとですか」
「悲しくなる」
 怒りはしません、けれどそう思うことはどうしてもだというのです。
「だからわしを悲しませぬ様にな」
「わかってます、じゃあ食べてみて下さい」
 こう言ってです、カルロスは船長さんのお皿の上に乗せたシェラスコのお肉におソースをかけました。そうして船長さんはそのお肉をフォークで取って食べてみますと。
 にこりとしてです、こう言いました。
「うむ、美味い」
「どうも」
 カルロスは船長さんのその笑顔に笑顔で返しました。そうしたのでした。
 ジョージはハンバーガーにホットドッグ、それにサンドイッチを用意しています。けれど緑のパンやお肉、卵等についてはです。
 どうにもというお顔で、です。こう言うのでした。
「何とか慣れてきたけれど」
「エメラルドの都に色によね」
「はい、緑色の食べものにも」
 ようやくだというのです。
「慣れてきましたけれど」
「最初見たらね」
 どうしてもというのです、ドロシーもこの辺りは知っています。
「びっくりするからね」
「はい、大丈夫かなって」
「けれどアメリカは今だと」
 どうかとです、ドロシーはジョージの祖国であり自分の祖国でもあるアメリカの今のことについて言うのでした。
「緑のケーキもあるのよね」
「青いケーキやオレンジのものもあります」
 ジョージもこの辺りのことは知っていて言います。
「ニューヨークに行けば凄いです」
「ニューヨークもかなり変わったらしいわね」
「はい、高いビルがこれでもかと建っていて」
「カンサスじゃお話に聞くだけだったのよ」
 ドロシーはカンサスの大草原で育ってきました、そこからアメリカの他の場所に行ったことはなかったのです。
「それでも凄く栄えている場所って聞いたわ」
「そして今は」
「その時以上なのね」
「そうなんです、それでそのニューヨークは」
 どうかとです、ジョージはドロシーにお話します。
「今は凄いんですよ」
「凄く栄えているのよね」
「そうです、それでケーキも」
「緑色のもあるわよね」
「色を付けているんです」
 つまり自然の色ではないというのです。
「こうした感じじゃなくて」
「オズの国の色は自然のものだからね」
「マンチキンの青もエメラルドの都の緑も」
「そうよ、全部自然だから」
「だから最初見た時は本当にそうだったんだって思って」
 ボームさんの書いていたことは真実だったということを知ったのです、そしてそのうえでなのでした。
「この緑のお料理も」
「アメリカのお料理ね、じゃあ今からね」
「ドロシーさんもですね」
「ええ、頂くわ」
 ドロシーはにこりと笑ってジョージに答えました。そうしてです。 
 ハンバーガーとホットドッグを一つずつ自分のお皿に取ってです、まずはハンバーガーを一口食べて言うのでした。
「うん、美味しいわ」
「そうですか」
「焼き加減もパンとお野菜のバランスもよくて」
「健康にも気をつけてます」
「それだけはあるわ。かなり大きいしね」
 見ればジョージが作ったハンバーガーは日本のそれとはかなり違います、まさにアメリカのビッグサイズです。ドロシーはこのことにも満足しているのです。
「いいわ」
「有り難うございます」
「ええ、じゃあサンドイッチもね」
「はい、どんどん食べて下さい」
 こう言うのでした、ジョージのお料理も好評です。
 神宝の前には白い足首まで完全に隠れたドレスを着た人が立っています。背はとても高くて波だつ明るい茶色の髪を肩の高さで切り揃えていてその頭には金色の王冠があります。
 お顔はお鼻の形も目の形も素晴らしいです、その目はライトブルーでしっかりとしたかつ優しい包容力のある光をたたえています。
 その人を見てです、神宝は言いました。
「よき魔女グリンダさんですね」
「そうよ、私がね」
 その通りだとです、グリンダも答えます。
「カドリングの国を治めているよき魔女グリンダよ」
「そうですね、じゃあ」
「これが貴方が作ってくれたお料理ね」
 木の蒸す為の容器、中国のそれの中にお饅頭や蒸し餃子があります。他には温かい麺類もあります。そうしたものを見て言うのでした。
「それじゃあ今からね」
「はい、召し上がって下さると」
「ではまずはね」
 グリンダは麺類の丼を手に取りました、そしてお箸で、です。
 お箸を上手に使って食べます、そのうえで言うのでした。
「貴方は料理人かしら」
「いえ、とても」
「料理人の人が作ってくれたみたいに美味しいわ」
 神宝が作った麺類はというのです。
「とてもね」
「そんなにですか」
「ええ、美味しいわ」
 グリンダは答えながら今度はお饅頭を食べます、そのお饅頭は肉饅です。
 肉饅も食べてです、グリンダは言うのでした。
「オズの国にも中華料理はあるけれど」
「アメリカのお料理に近いからですね」
「ええ、その中華料理にも負けていないわ」
「そうですか、じゃあ是非」
「今は楽しませてもらうわね」
「そうして下さい」
 神宝はグリンダの言葉に笑顔で応えます、彼にとっては最高の褒め言葉ですから。
 恵梨香のところにはオズマがいます、オズマはそのお握りを見てです。まずは不思議なものを見るお顔でした。
「これがお握りなのね」
「そうです」
「お話は貴女から聞いたけれど」
「こうしたものなんです」
「お寿司とはまた違うわね」
「お寿司はお酢を使って上にネタを置きますけれど」
 それがお寿司です、この場合は握り寿司です。
「けれどお握りは」
「こうしてお寿司より大きくて三角なのね」
「丸いお握りもありますけれど」
 今回恵梨香が作ったものはというのです。
「三角にしました」
「そうなのね」
「そうです、それじゃあ」
「ええ、頂くわ」
 こうしてです、オズマはそのお握りの一つを手に取ってでした。そのうえで。
 一口食べてみてです、恵梨香ににこりと笑ってこう言いました。
「有り難う、お礼を言うわ」
「っていいますと」
「美味しいものを食べさせてくれて有り難う」
 こう言うのでした。
「お握りってこんなに美味しいものなのね」
「じゃあ姫様はお握りを」
「気に入ったわ」
 美味しいからだというのです。
「これからも食べていきたいわ」
「有り難うございます、そう言ってくれて」
「日本人はいつもこんな美味しいものを食べているのね」
「はい、よく食べます」
 実際にそうです、日本人はお握りが大好きでいつもよく食べています。それで恵梨香もこう答えたのでした。
「私もです」
「そうなのね、じゃあ私もね」
「姫様もですね」
「これからはお握りをね」
 また一口食べてにこりとして言うのでした。
「食べさせてもらうわ」
「そうして貰えると何よりです」
 こう応えたのでした、そしてオズマはお握りの中の具も食べて言いました。
「あら、ハンバーグね」
「それを入れてみました」
「そうなのね、お握りはハンバーガーみたいなものかしら」
「ファーストフードと言っていいですけれどまた違うんです」
「じゃあどう違うのかしら」
「中に入れるのはハンバーガーだけじゃないんです」
 本当はハンバーガー等はお握りにはあまり入れないことは後でお話することにしてです、恵梨香はオズマにお話するのでした。
「日本のお料理の具を」
「色々なものを入れるのね」
「はい、そうです」
「具体的にはどういったものを入れるのかしら」
「昆布や鰹節、他には梅干も」
「日本の食べものね」
「はい、そうしたものを入れるんです」
 こうお話するのでした。
「お味噌も」
「あら、お味噌も入れたりするのね」
「そうしたお握りもあります」
「ハンバーグのお握りも美味しいけれど」
 オズマはお味噌を入れるお握りのことを聞いて笑みを浮かべて言いました。
「そちらもね」
「興味がおありですね」
「ええ、一度食べてみたいわ」
「実は日本ではそうした、昆布やお味噌や梅干を入れたお握りの方が多いんです」
 ここでこのことをお話するのでした。
「そちらの方が」
「そうjなのね」
「特に梅干が」
「梅干?梅の実を入れるのね」
「そうです、これがとても酸っぱくて」
「酸っぱいの、梅干っていうのは」
 オズマは梅干のことを聞いてその目をしばたかせます、それで恵梨香に対してこう言いました。
「オズの国にも梅の木はあるわ。けれどね」
「梅干はですね」
「ええ、ないから」
 だからだというのです。
「興味があるわ」
「オズの国にも梅干あればいいですね」
「他の日本のお料理もですね」
「不思議ね。オズの国には和食もあるのにそういった食べものがないなんて」
 それがだというのです、オズマはお握りを食べつつ言います。
「お握りにしても梅干にしても」
「アメリカにある和食だからじゃないでしょうか」
 恵梨香は考えてからです、オズマは答えました。
「それは」
「アメリカにある和食だからなの」
「どうしてもアメリカ人の味に合わせていきますから」
「だからお握りや梅干はアメリカにはないのね」
「そしてオズの国にも」
 アメリカのお料理に近いオズの国のお料理もだというのです。
「そうじゃないでしょうか」
「大体事情はわかったわ、アメリカにも何でもあるということじゃなくて」
「オズの国にもですね」
「何でもあるという国はないわ」
 そうした国がないことはオズマもよくわかっています、何しろオズの国のことなら端から端まで知っているからです。細かいことまで。
「オズの国にもないものはあってね」
「お握りもその一つなんですね」
「そういうことね、じゃあ今はね」
「はい、そのお握りをですね」
「頂くわね。それと」
 ここで、です。オズマは卵焼きも見て言うのでした。
「このオムレツも貰うわね」
「それは卵焼きです」
「日本風のオムレツかしら」
「そう言ってもいいと思います」
 実際にそうだとです、恵梨香も答えます。
「ただこれは和食で」
「お握りにも合うのね」
「とても合います、ですから」
「ええ、こちらも頂くわね」
「お願いします」
 恵梨香の言葉に応えてでした、そうしてです。
 オズマは卵焼きも食べました、そのうえでまた笑顔になるのでした。
 パーティーは笑顔で進んでいきます、歌にダンスもあってです。五人の子供達もパーティーを心から楽しみました。
 そうしてからです、オズマは食べるものがすっかりなくなってデザートが運ばれてからこの場にいる皆に言いました。
「皆、いいかしら」
「はい、何でしょうか」
「ここは」
「デザートを食べながらでもいいから聞いてね」 
 オズのそれぞれの国から取り寄せたそれぞれの国の色の沢山の種類の果物達とお菓子達も意識しての言葉です。
「私に今考えがあるの」
「その考えはどういったものなの?」
 オズマの親友であるドロシーが尋ねます。
「一体」
「ええ、この子達のことだけれど」
 恵梨香達五人を見ての言葉でした。
「この子達はあちらの世界に帰りたいけれど」
「はい、そうです」
 恵梨香が五人を代表しrてオズマに答えます。
「この宮殿のテラスから」
「そうね、帰ってもね」
「それでもですか?」
「何時でもオズの国に来てもらいたいの」
「これからもですか」
「だって貴方達は私達のお友達になったから」
 だからだというのです。
「お友達なら何時でも会いたい、お話したり遊んだりしたいと思うわよね」
「はい」
 その通りだとです、恵梨香はオズマに答えます。
「私も」
「そうよね。それならね」
「私達は何時でもですか」
「オズの国に来てくれるかしら」
「あの時計塔からですか」
「ここで一つ言っておくことがあるわ」
 オズマはにこりとして五人に言いました。
「オズの国にも市民がいるのよ」
「オズの国の人なら誰もがですね」
「そう、オズの国の市民になれば皆何時でもここにいてもいいのよ」
「けれど私達は」
 あちらの世界の人間だからだとです、恵梨香も他の子達も辞退しようとしました。ですが。
 ここで、です。オズマはその五人に微笑みのままこう言いました。
「名誉市民でどうかしら」
「名誉市民ですか」
「ええ、それでね」
 どうかというのです。
「どうかしら」
「オズの市民であるけれど」
「そう、自由にこの国に来られてね」
「私達の世界にいられるんですね」
「それでどうかしら」
 五人にこう尋ねるのでした。
「貴方達にとってもいいと思うけれど」
「ううん、そうですね」
 恵梨香はオズマの言葉を受けてまずは考え込みました、そうしてです。
 四人に顔を向けてです、こう言うのでした。
「どうしようかしら」
「そうだね、何時でも僕達の世界にいてね」
「オズの国にも自由に行き来出来るのならね」
 それならとです、ジョージと神宝が応えます。
「いいよね」
「物凄くいいお話だよ」
「僕も賛成だよ」
 カルロスも笑顔で言うのでした。
「それでね」
「三人は賛成なのね」
「こんないいお話ないと思うよ」
「二つの世界を自由に行き来出来るからね」
「最高の条件じゃない」
 三人はこう言って賛成だと言うのでした、そしてです。  
 その三人の言葉を受けてでした、恵梨香は今度はナターシャ、最後の一人で五人の中では恵梨香と共に女の子である彼女にも尋ねました。
「ナターシャちゃんはどう思うの?」
「私ね」
「うん、どう思うの?」
「私もいいと思うわ」
 ナターシャも笑顔で恵梨香に答えます。
「あちらの世界にいられてオズの国にも自由に行き来出来るなんてね」
「いいお話だと思うのね」
「私もね。ただね」
「ただって?」
「私達は皆賛成だけれど」
 四人はというのです。
「恵梨香ちゃん自身はどうなのかしら」
「姫様のご提案に賛成かどうか」
「そのことね」
「ええ、どうなのかしら」
「私もね」
 恵梨香はです、ナターシャの問いに満面の笑顔でこう答えました。
「こんないいお話ないと思うわ」
「それじゃあね」
「うん、これからもオズの国を行き来出来るのなら」
 それならというのです。
「是非共ね」
「わかったわ、それじゃあね」
 ナターシャは恵梨香の言葉に笑顔で応えました、その笑顔を見てからです。
 恵梨香はオズマに顔を戻してこう答えました。
「そのお話、喜んで受けさせてもらいます」
「わかったわ、では貴方達は今から」
「はい」
「オズの国の名誉市民よ」
 五人共です、そうなったというのです。
「そして今ここにいる皆とね」
「お友達ですね」
「もうそれはなっているけれどね」
 そのことをあらためて言ったというのです。
「だからこれからもね」
「宜しくお願いします」
「あと。あの時計塔から出る場所はいつもマンチキンだけれど」  
 オズマはこのことについても言うのでした。
「私達の魔法でマンチキン以外のね」
「他の場所にもですか」
「出られる様にするわね」
 そうするというのです。
「それぞれが願う場所に行ける様にね」
「オズの国の何処にでもですね」
「そうするわね」
「じゃあこれからは時計塔から」
「オズのどの場所に行けてもね」
「それで市民になったから」
 名誉市民であってもです、市民は市民です。
「どの場所からもですね」
「そう、時計塔に戻れるわ」
 そうなるというのです。
「ただ」
「ただ?」
「一つだけ気をつけて」
 ここで、です。オズマは五人にこのことを注意するのでした。
「貴方達はいい心を持っているからオズの国に入られるけれど」
「悪い心を持っているとですか」
「そうした人は入ることが出来ないから」
 オズの国にだというのです。
「そしてそういう人にオズの国への出入り口を教えてもそうした人は貴方達が言ったことは覚えていないわ。お話した貴方達もね」
「そのことはですか」
「忘れてしまうから」
 そうした人にお話したことをだというのです。
「忘れてしまうわ」
「そうなるんですか」
「オズの国にはよき心の人しか出入り出来ないの」
 これはオズの国にかかっている魔法でそうなっているのです、この魔法は他のどの魔法よりも遥かに強いのです。
 だから、です。とてもなのです。
「そうしても意味がないのよ」
「じゃあ私達五人以外でもいい心の子なら」
 ナターシャはオズマの言葉を聞いて言うのでした。
「誰でも行き来出来るんですね、二つの世界を」
「ええ、そうなるわ」
 そのことはその通りだというのです。
「誰でもね」
「そうですか」
「じゃあいいわね」
「はい、わかりました」
 ナターシャもオズマの言葉に頷きました、他の子供達もです。
 そうしてです、五人でオズマだけでなく今ここにいる皆に言いました。
「じゃあこれからも宜しくお願いします」
「オズの皆さんと一緒にいさせてもらいます」
「この国に来て遊ばせてもらいます」
「美味しいものを一緒に食べましょう」
「二つの世界を楽しませてもらいます」
「こちらこそね。じゃあ今からね」
 ドロシーがです、その五人のところに来て言ってきました。
「パーティーを再開しましょう」
「お祝いのパーティーのですね」
「貴方達がオズの名誉市民になったお祝いよ」
 そして二つの世界を自由に行き来出来る様になったことのだというのです。
「そのお祝いでね」
「パーティーを再開するんですね」
「ええ、そうよ」
 まさにその通りだというのです。
「あらためてね」
「わかりました、それじゃあ」
「今度はデザートも食べて」
「ダンスもね」
 それも忘れないというのです。
「色々なダンスがあるけれどね」
「それじゃあサンバとかどうですか?」
 カルロスは陽気にこのダンスを出しました。
「そっちは」
「あっ、ブラジルのダンスね」
「オズの国にもサンバはありますよね」
「ええ、あるわよ」
 その通りだとです、ドロシーはカルロスに明るい笑顔で答えました。
「オズの国はアメリカに近いからね」
「だからですよね」
「アメリカは色々な人がいるでしょ」
 様々なお国から人が来て出来ているのがアメリカという国です、だからアメリカに近い文化状況であるオズの国もだというのです。
「だからオズの国でもね」
「そうですね、それじゃあ」
「いえ、ただね」
「ただっていいますと」
「今はカーニバルの季節じゃないから」
 ドロシーはカルロスにこのことからお話するのでした。
「それはね」
「どうもですか」
「サンバはカーニバルの時に踊るものよね」
 そうとは決まっていなくて一年中踊ってもいいです、ですがやっぱりサンバといえばカーニバルなのです。
 それで、です。ドロシーはこうカルロスに言うのでした。
「他の踊りにしましょう」
「じゃあポップスのダンスとか?」
「京劇の舞とかは」
 ジョージと神宝は自分達のお国の踊りを出しました。
「けれど姫様やドロシーさんの服だと」
「そうした踊りは似合わないですね」
「日舞もね、そもそも皆で踊るものじゃないし」
 恵梨香もこう言います。
「ちょっとね」
「ここは社交ダンスでいいんじゃないかしら」
 ナターシャがお話に出したのはこれでした。
「姫様もドロシーさんもドレスだし」
「けれどそれだとかかしさん達が」
 恵梨香はかかし達を見てナターシャに言います、今この場にいる人達はむしろドレスで正装している人達の方が僅かです。
「あまり」
「そうね。社交ダンスだと正装じゃないとね」
「合わないから」
「じゃあどうすればいいかしら」
「だったらもうこうしないかい?」
 かかしがここで知恵を出してきました。
「オズの国の豊作をお祝いする踊りにしたらどうかな」
「オズの国ですか」
「それをですか」
「そう、マンチキンのお百姓さん達の踊りでね」
「あれですな」
 ムシノスケはかかしの今の言葉に目を輝かせて応えました。
「秋に皆で踊る」
「そう、それだよ」
「あの踊りならいいですな」
「ムシノスケ先生もそう思われますな」
「はい、私にしましても」
 その通りだとです、ムシノスケは懐から本を取り出しながらかかしに応えます、五人にその本にある絵を見せながらお話します。
「こうしたものだが」
「あっ、そうした踊りですか」
「そうして踊るんですね」
「その通り、踊りやすくてしかも明るく踊れるのだよ」
 それがその踊りだというのです。
「だからどうかな」
「はい、それじゃあ」
「その踊りで」
「オズの国は毎年豊作なのよ」 
 ベッツイ=ボビンがとても明るいお顔で五人にこのことをお話します。
「貴方達の世界よりもさらにね」
「沢山のものが取れるんですね」
「そうよ、お米も麦もお野菜もね」
「果物もですね」
「他のものもね」
 お肉やお乳、お魚もだというのです。
「農薬とかそういうものを使わなくてもいいのよ」
「それはいいですね」
 恵梨香もそのお話を聞いて目を丸くさせています。
「私の親戚の農家の人がいますけれど毎年苺の採れ高に頭を悩ませています」
「少なくないかどうかをよね」
「多過ぎるとそれはそれで困るとか言っています」
 あまり採れ過ぎると安くなったり売れなくなったりするからです、農業も商売ですのでこの辺りが難しいのです。
「それで」
「オズの国ではそうした心配はいらないから」
「そのことも気が楽なんですね」
「だから素直にお祝いが出来るの」
 毎年の豊作、それをだというのです。
「凄く楽しくね」
「じゃあ今からその踊りを」
「皆もそれでいいかしら」
 オズマはにこりとした微笑みで皆に尋ねました。
「かかしさんの提案通りで」
「はい、私達は」
「それでお願いします」
 まずは五人がオズマに答えました。
「その踊りで」
「是非」
「私達もよ」
「それでいいわ」
 次にはドロシーとベッツイが答えました、オズの国の人達を代表して。
「皆で踊りましょう」
「恵梨香達のお祝いにね」
「わかったわ。それじゃあね」
 それではと応えてです、そのうえで。
 オズの人達は五人と一緒にマンチキンの豊作をお祝いする踊りをとても楽しく踊りました、そしてその踊りの後で、です。
 デザートもあらかた食べてしまって音楽も終わったところで。五人はオズマ達に言いました。
「それじゃあまた」
「こちらの世界に」
「何時でも来ていいからね」
 オズマは五人をそれぞれ抱き締めてから優しい声をかけます。
「私達は永遠に貴方達のお友達だからね」
「はい、じゃあすぐに」
「お会いしましょう」
 五人は宮殿のテラスのところに案内してもらいました、そしてそのテラスの前でオズの皆と笑顔で手を振って一時の別れの挨拶をしました。そのうえでほんの一時の別れの挨拶をしたのでした。


第六幕   完


オズの五人の子供達   完


                             2013・12・15



食べて飲んでのパーティーは楽しく終わったな。
美姫 「その上で自由に行き来できるようにもなったしね」
これでお別れしても再会できるな。
美姫 「ええ。次の再会を約束しつつ、無事に帰れたわね」
良かった、良かった。
美姫 「次に来るのは何時頃になるのかしらね」
楽しみだな。
美姫 「そうね。とりあえずはこれで一区切りだしね」
それでは、今回はこの辺で。ではでは。



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