『オズの五人の子供達』




                     第四幕  エメラルドの都

 エメラルドの都をその目に見た一行はさらに進みます、そしてでした。
 一行の前にです、その川が姿を現しました。つぎはぎ娘はその川を見て五人の子供達にこう言いました。
「この川を今から渡るんだけれどね」
「船があるんですよね」
 恵梨香はかかしが言ったことをつぎはぎ娘にそのまま尋ねて返しました。一行は青い川の岸辺にいます。そこは青い木で波止場が作られています。
 その波止場にいてです、恵梨香はつぎはぎ娘に尋ねたのです。
「そうですよね」
「そうよ、けれど今はね」
「船は別の場所にいるんですか」
「そうみたいよ。別の人を向こう側に送ってるのよ」
「それでなんですね」
「今はここにないのよ」
「そうなんですね」
「ここはオズマも橋を作られなかったんだ」
 ジャックが五人にこのことをお話しました。
「あまりに広い川だからね」
「だからなんですね」
「そうなんだ。だから波止場と船を作ってね」
「渡し守りさんを置いたんですね」
「そうだよ。ここはね」
 そうだったというのです。
「だから少し待とうね」
「わかりました」
 五人は今は船が来るのを待ちました。そしてです。
 少し待っていると波止場に船が来ました。やっぱり青い船です。
 その青い船に乗っているのもマンチキンの人でした。青い服を着た飄々とした感じの人のよさそうなお年寄りです。
 そのお年寄りがです、波止場にいる一行を見て言いました。
「おやかかしさん達じゃないですか」
「暫く振りだね」
 かかしが渡し守りに笑顔で応えました。
「今からエメラルドの都の方に渡りたいけれどいいかな」
「お安い御用ですよ。この川は悪い人以外は渡れますからね」
「つまりオズの住人なら誰でも渡れるからね」
「どうぞ」
 渡し守りもです、かかしに笑顔で応えます。
「乗って下さいよ。ただ」
「ただ?」
「そっちの子供達は一体」
 渡し守りは恵梨香達を見て言いました、彼等は何かというのです。
「マンチキンの子供じゃありませんね」
「ドロシーやベッツイと一緒だよ、つまりね」
「別の世界の子供達ですか」
「うん、僕達について北んだ」
 それで自分達と一緒にいるとです、かかしは渡し守りにお話します。
「そうなんだよ」
「そうですか、ドロシーさんと一緒なら」
「悪い子達だってわかってくれるね」
「勿論ですよ、ドロシーさんはこの国のお姫様で」
 今ではそうなっているのです、カンサスとエメラルドの都を行き来することになっていたドロシーはやがてオズの国にずっといることになり今ではオズの国のお姫様となってオズマ姫のお友達になっているのです。
「オズの国で最も心が綺麗な方ですから」
「そうだね、それじゃあね」
「はい、今からですね」
「この娘達も僕達と一緒にね」
「渡しますね、あっち側に」
 こうしてお話はすぐに整ってでした。
 一行は船に乗り川を渡ります、その船の中においてです。
 恵梨香は渡し守りのお年寄りに尋ねました。
「あの、この川は」
「うん、前はわしもいなくてね」
「渡ることもですね」
「出来なかったんだよ、、中々ね」
「それがオズマ姫がですね」
「そうだよ、波止場と船を作ってくれてね」
 渡し守りは恵梨香に笑いながらお話をします、船はその手に持っている長いオールを器用に動かして操っています。
「それで渡れる様になったんだよ」
「渡し守りさんを置いてくれんですね」
「わしは元々この川で漁師をしていたんだよ」
「それがなんですか」
「姫様に渡し守りをしてくれって直接お願いされたんだ」
「オズマ姫にですか」
「それで人を助けて欲しいってね」
 それで今はだというのです。
「こうして今はこうしているんだよ」
「そうなんですね」
「うん、今漁師の方は息子達がしているよ」
 渡し守りは恵梨香にこのこともお話してくれました。
「何の心配もなくね」
「じゃあ渡し守りさんは今もお魚をですね」
「よく食べてるよ。この川のお魚はとても美味しいんだ」
「そんなに美味しいんですか」
「川辺にある果物もどれも美味くて」
 見れば川辺には果物の木も沢山あります、林檎や梨を見て皆とても美味しそうだと思っています。そう思いながら川を渡っているのです。
「何の心配もなく暮らしているよ」
「この国にいてですね」
「そうだよ。じゃあな」
「はい、この川をですね」
「渡ってエメラルドの国に行くんだよな、あんた達は」
 渡し守りも尋ねてきました。
「姫様に」
「そうするつもりです」
「なら行くといい、姫様はとても素晴らしい方だからな」
「お会いすることもですね」
「楽しいよ。じゃあエメラルドの都も楽しんでくるんだよ」
「そうさせてもらいます」
 こう笑顔でお話してです、そしてでした。
 一行は川の向こう岸に着きました、渡し守りは一行にまた会おうと手を振ってくれました。一行もそれに応えて手を振って挨拶を返しました。
 そのうえでまた黄色い道を歩きはじめました、黄色い道は一行のすぐ傍にありました。
 その道に入って進むと左右に綺麗な花園がありました、ですがその花園がです。
「ここがですよね」
「うん、そうだよ」
 木樵がナターシャに答えます、まさに今一行が左右に見ている花達がなのです。
「眠り花の園だよ」
「じゃあ元はここに入れば」
「眠ってしまってね」
「動けなくなったんですね」
「ドロシーとライオン君もそうなったよ」
 木樵はそのことを懐かしい顔で思い出しながらお話するのでした。
「あの時は大変だったよ」
「けれど今は」
「そうだよ、オズマが花の香りから眠気を取り除いてくれたからね」
「安全なんですね」
「幾らでもここにいてもね」
 そうしてもだというのです。
「眠くなることはないよ」
「そういえば今は」
「眠くないよね、君達も」
「はい、全く」
 そうならないとです、ナターシャも笑顔で答えます。
「そうならないです」
「オズマはオズの国全体を見られていつもオズの国のことを考えているからね」
「この花園もですね」
「安全になったんだ」
「オズの国も平和になったんですね」
「いやいや、平和になっても色々面倒なことはあるんだよ」
 木樵はこのこともお話するのでした。
「残念だけれどね」
「そういえばオズの国には」
「そうだよね」
 ジョージと神宝は木樵の今の言葉に気付きました、オズの国は確かにとても素晴らしい国ですがそれでもなのです。
「色々な種族がいてね」
「中には困った種族もいるね」
「そうなんだ。本当に色々な人がいてね」
 木樵もこのことをお話します。
「悪人ではないにしても」
「困った人達はですよね」
「いるんですよね」
「そうだよ、悪人でなくても困った人はいるよ」
 そうした人はだというのです。
「オズの国にもね」
「悪い人と困った人は違う」
「そういうことですね」
「うん、そのことは覚えておいてね。それでね」
「それで?」
「それでっていいますと」
「どうも世の中はそうした人の方がずっと多いみたいだね」
 悪人よりもです、困った人の方がずっと多いというのです。
「決して人間性が卑しいとか醜いとかじゃなくてね」
「色々な理由で困った人がですね」
「いるんですね」
「この花園だってそうだよ」
 ここにしてもだというのです。
「この花園自体はとても綺麗だよね」
「それに花自体にはですね」
「悪気はないですね」
 花はここに咲いているだけです、花達に悪気がある筈がありません。
 けれどです、その香りがなのです。
「人や動物が寝てしまうから」
「問題なんですよね」
「そうだよ、この花園も困った場所なんだよ」
 困った人と同じくだというのです。
「それでオズの国にはね」
「困った人もいてですか」
「色々あるんですね」
「そうなんだよ。どの国にもいるよ」
 それこそ木樵が皇帝を務めているウィンキーにもです。
「けれどそうしたこともちゃんとしていくことがですね」
「そうですよね、大事ですよね」
 今度はカルロスが応えます。
「僕達も」
「そうだよ、じゃあ花園を越えたらね」
 木樵は旅の話もしました、そうすればだというのです。
「いよいよだよ」
「かなり大きくなってきましたね」 
 その目に見えているエメラルドの都がだというのです。
 見れば確かにです、皆の目に見えているエメラルドの都は最初に見えた時よりもさらに大きくなっています。カルロスもその都を見て言っています。
「それだけ近付いてきたっていうことですね」
「そうだよ」
 ジャックが明るい声でカルロスに応えます。
「僕達もね」
「そうですよね。あの中に入ったら」
「エメラルドで一杯だからね」
「宝石ですね」
 カルロスも宝石の価値はよく知っています、それで宝石について言うことは。
「僕達の世界じゃとても高価なものですけれど」
「こっちの世界じゃ普通だよ」
「だからエメラルドの都にも一杯あるんですね」
「そうだよ。ただこっちの宝石はあちらの世界には持って行けないから」
「それは出来ないんですか」
「オズの国のものは特別なんだ」
 何故こちらの世界の宝石はあちらの世界に持って行くことが出来ないのか、ジャックはカルロス達にそのこともお話するのでした。
「セトモノの国という国もあるよね」
「はい、カドリングの方にある」
「あの国の人や生きものはセトモノの国から出れば動けなくなるんだ」
 完全なセトモノになってしまってです。
「それと同じで。宝石もね」
「若し僕達の世界に持って行けば消えるんですか?」
「只の石になるんだ」
 石は石でもだというのです。
「何の価値もないね」
「そうなんですね」
「そうだよ、何でもなくなるんだよ」
 そうなるというのです。
「只の石になるからね」
「ううん、じゃあ他の金や銀も」
「全部そうだよ。服とかは別に何ともならないし僕達も行き来出来るけれどね」
 石や金銀はだというのです。
「価値があるものはね」
「そういう世界なんですね」
「うん、わかったよね」
「わかりました、そうですか」
 カルロスも他の皆も頷きました、持って行けないというのなら仕方のないことでした。
 それでそのことも頭に入れてそのうえで花園を越えました、するともうそこには様々な果物の木がありました。
 パンの木もあります、恵梨香はそのパンの木を見て言いました。
「ううん、本当にね」
「御飯を食べたいんだよね、恵梨香ちゃんは」
「特にお握りを」
「私はどうしてもね」
 お握りだとです、恵梨香は自分に言ってきたジョージと神宝に答えます。
「そっちなのよ」
「日本人はパンよりもお握りだよね」
「そっちの方が好きだね」
「殆どの人がそうなのよ」
 お握りが好きだというのです、パンよりも。
「パンも嫌いじゃないけれど」
「お握りなんだね」
「御飯を握ったものがなんだ」
「どうも日本人だけらしいけれどね」
「僕それがわからないんだよね」
 カルロスもこう言ってきました。
「日本人があれだけお握りを好きな理由がね」
「何か自然と食べたくなるものなのよ」
「パンみたいに?僕達にとっての」
「そうなの。けれど御飯なら皆食べると思うけれど」
「中国じゃ冷えた御飯は食べないからね」
 神宝はこう答えました。
「だから御飯は食べても絶対に温かいものなんだ」
「お握りは冷えてるから」
「そう、食べないんだ」
 このことは前にお話した通りです。
「僕もお父さんとお母さんに言われてきたよ」
「冷えた御飯は食べるなって」
「そうなんだ」
「僕も御飯は好きだけれど」
 アメリカ人のジョージも言います、もうその手にはパンをどんどん手に取ってみんなにも手渡していっています。
「海草、海苔は駄目だから」
「皆食べないのよね、本当に」
 恵梨香はこのことがどうしてもわかりません、それで首を傾げさせます。そう応えながらジョージからパンを受け取ってお礼を言います。
「ナターシャちゃんも」
「ロシアでは御飯自体殆ど食べないから」
 だからだというのです、ナターシャは無花果の実を取っています。
「それでなのよ」
「ブラジルも御飯も食べるけれど」
「お握りにはしないわよね」
「うん、そうしないからね」
 ブラジルもだというのです。
「けれどエメラルドの都に着いたらね」
「ええ、自分で作ってね」
 そうしてだとです、恵梨香はその目を強くさせて言いました。
「食べます」
「そうするんですね」
「うん、そうするの」
 こう言ってなのでした。恵梨香はパンを食べます。そうして。
 果物を食べて泉から出ているジューースも飲んででした。お昼を食べて。
 それからでした、もう一度黄色い道に入って歩きはじめます。
 皆が見ている都はどんどん大きくなってです、遂に。
 それまで青かった世界が一変しました、青い草原が線もなく緑の草原になっていてです。
 そこにある草木も花々も緑になりました、まさに全く別の色に一変しました。ナターシャはその青から緑の世界に入り言いました。
「変わったわね」
「そうね、あっという間に」
「さっきの青と緑の境界線が国境になるのね」
「マンチキンとエメラルドの国の」
「ええ、そうよね」
「私達エメラルドの国に入ったのね」
「完全にね」
 皆はこのことを確信しました、そしてです。
 周りの緑を見てでした、恵梨香はこうも言いました。
「あと少しで」
「そうだよ、もう少し歩いたらね」
「エメラルドの都だよ」
 まさにそうだとです、その恵梨香にかかしと木樵が答えます。
「そう思うと楽しくなるね」
「けれどまだエメラルドの都には着いていないからね」
「気をつけてですね」
「うん、何でも気を抜くと危ないから」
「転んだりしない様にしないでね」
 言うのはこのことでした。
「だからいいね」
「足元には注意してね」
「わかりました。虫さん達もいますし」
 足元を見れば蟻や他の小さな虫が黄色い道にいます、このことはマンチキンにいた時と変わりありません。
「気をつけます」
「それにしてもマンチキンだと虫さん達も青だったけれど」
 ナターシャは蟻さん達を見つつこう言いました。
「こっちじゃ緑なのね」
「蟻さんが黒くなくてね」
 恵梨香もナターシャに応えながら緑の蟻さん達を見ています。
「緑なのね」
「ウィンキーじゃ黄色になるのよね」
「ギリキンは紫でね」
 もっと言えばカドリングは赤です。オズの国ではそれぞれの国の色にあらゆるものがなっているからです。
「そうなるのね」
「虫さん達も」
「ここは元々。エメラルドの都もそうだったけれど」
「完全に緑じゃなかったんだよ」
 かかしと木樵は皆にこのこともお話しました、かつてのオズの国特にエメラルドの都のことをです。
「都の中はサングラスで緑に見せていたしね」
「何でもかんでもじゃなかったんだよ」
「けれどそれもですか」
「変わっていったんですね」
「そうだよ、マンチキンの国もそうだったし」
「どの国も全てが青や黄色に統一されていなかったんだ」
 かかしと木樵にとってもかなり昔のことです、何しろドロシーとはじめて会った頃のことですから。
「それが次第に変わってね」
「エメラルドの国も全てが緑に。本当にそうなったんだ」
「そうなんですね。オズの国もですね」
「変わったんですね」
 五人はオズの国の変遷も知りました、本当にオズの国は変わっていっているのです。
 そしてです、一行はこっちの世界に来て丁度一週間目にでした。エメラルドの都の前に来ました。そこは緑色のとても頑丈そうな門です。
 その門のところには門番の人が立っています、門番の人もまた緑です。
 緑の軍服に帽子です、かなり古い感じの軍服でナターシャはその軍服を見てこう言いました。
「形はイギリスの衛兵さんみたいね」
「ロンドンによくいる」
「あの衛兵さんだよね」
「ええ、そんな風よね」
 こう恵梨香とカルロスにお話します。
「オズの国の軍服って」
「そうね。銃と腰に剣があって」
「あれで戦うんだね」
「いやいや、この国では戦いがないからね」
 ジャックがその衛兵さんについてお話します。
「この衛兵さんも戦うことはないよ」
「私は只の門番ですよ」
 衛兵さんも笑顔でこう言います。
「この門を見張ることが仕事です」
「そうなんですか」
「それじゃあ特に」
「戦うことはありません」
 実際にそうだというのです。
「特に。それで君達は」
「僕達の友達だよ」
 ここでもかかしが説明します。
「ドロシーと同じ世界から来たね」
「そういえば年齢的にも」
「うん、同じだよね」
「そうですね。ではこの子達も」
「エメラルドの都に来てね」
 そうしてだというのです。
「オズマと会いたいそうだよ」
「そうですか。それではですね」
「僕達と一緒に都の中に入れてくれるかな」
「喜んで」
 笑顔で、です。衛兵さんはかかしに答えました。
「では今から門を開けますね」
「そうしてくれると何よりだよ」
「それでは」
 こうしてでした、都への門が開かれてです。
 皆は都の中に入ります、しかしここで。
 カルロスがです、衛兵さんにきょとんとした顔で尋ねました。
「あの、サングラスは」
「それですね」
「それはもういらないんですね」
「そうです、確かに都の全てはエメラルドで飾られていますが」
「それでもですか」
「サングラスが必要というまではないです」
 そうだというのです。
「今は」
「そうなんですね」
「宝石は確かに眩いですが太陽程ではありません」
 今皆の上にあるそれよりはというのです。
「ですからサングラスまではです」
「必要ないんですね」
「普通にお入りください」
 衛兵さんはカルロスと皆に言いました。
「エメラルドの都に」
「わかりました、それじゃあ」
「今から」
 五人が笑顔で応えてです、そうして。
 皆はかかしと木樵を先頭にして中に入りました、城壁の向こう側にあるエメラルドのの都はといいますと。
 立派な建物が一杯あります、都の中央にある宮殿は立派な塔と見事なアーチの屋根がある宮殿があります。緑色の大理石で造られていてしかもエメラルドで飾られていてきらきらとしています。
 都のどの建物もです、緑色でエメラルドで飾られています。エメラルドがきらきらと輝いていて眩い程です。
 その眩い都の中に商店街があって皆そこで色々なものを買っています、都の人達の服も売っているものもどれも緑です。
 その緑を見てです、ナターシャは夢を見ている様な顔で言いました。
「もうね、ここにいるだけでね」
「どうしたの?ナターシャちゃん」
「こんなに緑に囲まれているとね」
 この色にだというのです。
「信じられないわ」
「そういえばロシアって」
「そうなの、雪と氷ばかりでね」
 ロシアはとても寒いです、だから自然を見てもそうしたものばかりなのです。
「緑はちょっとしか見られないの」
「春と夏があっても?」
「少しだけなの」
 その春と夏の期間がです。
「ほんの少しでね」
「冬が凄く長いのね」
「冬の間は雪ばかり降ってて」
 それでだというのです。
「緑なんてね。こんなにはね」
「見られないのね」
「とてもよ」
 その緑を見ながらの言葉です。
「こんなに見られないわ」
「そうなのね」
「マンチキンでもそうだったけれど」
 最初に来たオズの国であるこの国もだというのです。
「これだけ緑があると」
「それだけでもなの」
「青もないから」
 ロシアにはです。
「あそこまで豊かにはね」
「ううん、白ばかりだと」
「飽きるの、味気がなくて」
「それでも緑はなのね」
「青も他の色もね」
「違うのね」
「こんなに綺麗な緑に囲まれて私とても嬉しいわ」
 ナターシャはあまりにも嬉しくてつぎはぎ娘みたいにくるくると踊りそうになりましたがいつものおすましを保ってこう言いました。
「こんなに緑が一杯の国に来られて」
「凄いね、緑の葡萄だよ」
「緑のパイナップルもあるよ」
 ジョージと神宝は果物屋さんを見て言います。
「マンチキンじゃ青でね」
「それでここは緑なんだね」
「何もかもがね」
「本当にオズの国なんだね」
「そうだよ、だからね」
 それでだとです、ジャックも五人にお話します。
「青から緑に早くね」
「目を慣れさせてですね」
「そうしてですね」
「そう、宮殿に行こう」
 オズマやドロシーが待っているその宮殿にです。
「皆が待っているよ」
「ベッツイさんもいます?」
 恵梨香はこの娘のことを尋ねました。
「今宮殿に」
「うん、いるよ」
 ジャックは明るい声で答えました。
「あの娘も」
「そうなんですか」
「そう、ムシノスケ先生やモジャボロさんもいるし」
「他の人達もですね」
「皆いるよ、皆いてね」
 そしてだというのです。
「君達を待っているよ」
「わかりました、それじゃあ宮殿に」
「行こうね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆は宮殿に向かう都の大路を歩いていきます、その中で。
 かかし達が歩いているとです、都の人達が笑顔で近寄って来て声をかけてきました。
「かかしさん、久し振り」
「都に来られたんですね」
「木樵さんもジャックさんも来られたんですね」
「つぎはぎ娘さんも」
「そうなの、皆久し振りだね」
 つぎはぎ娘が都の人達に笑顔で応えます。
「元気そうだね」
「はい、元気ですよ今日も」
「明るく楽しく過ごしてます」
「食べるものも美味しいですし」
「寝ても気持ちがいいです」
「あたいはたべることも寝ることもしないけれどね」
 つぎはぎ娘は旅をしている時と同じでくるくると踊りながら言います。
「それでも楽しめるなら何よりよね」
「ですよね、それでその子供達は?」
「どの子もはじめて見ますけれど」
「皆ドロシーと同じ世界から来た子達だよ」
 かかしは都の人達にもこうお話します。
「いい子達だよ」
「へえ、ドロシー王女とですか」
「一緒の世界から来た子達なんですね」
「じゃあベッツイちゃんとも同じですね」
「あちらの世界から来た子達なんですか」
「うん、そうなんだ」
 こう都の人達にお話するのでした。
「それで今からオズマのところに案内するんだ」
「女王様のところにですか」
「今から」
「オズマも元気だよね」
 木樵が都の人達に尋ねます、このエメラルドの都の主にしてオズの国に国家元首である女の子のことを。
「君達と同じ様に」
「はい、皆元気ですよ」
「明るくしています」
「ですからそれじゃあ」
「今からですね」
「うん、会いに行ってね」
 そしてだというのです。
「この子達も紹介するよ」
「じゃあ是非宮殿に」
「姫のところに」
「行って来るね」
 木樵は都の人達に明るく手を振って応えます、四人の都の人達とのやり取りは完全にお友達のものです。
 そのやり取りの後で、です。かかしが五人に言いました。
「じゃあ宮殿に行こう」
「わかりました」
「あの宮殿にですね」
「そうだよ、オズマのお家にね」
 その立派な宮殿がです、オズマのお家だというのです。
「行こうね」
「あそこにオズマ姫がいるんですね」
 カルロスは緑色に眩く宮殿を見てナターシャみたいに夢を見る様な顔で言いました。その目は半ば呆然となっています。
「オズの国の女王様が」
「これまでお話した通りね」
「この道を通って」
 その道もです、緑のアスファルトでエメラルドが一杯込められています。
 そしてその道を見て言うのでした。
「この道も綺麗ですよね」
「こちらの世界のアスファルトは黒いですけれど」
 恵梨香もその道を見て言います。
「緑のアスファルトって綺麗ですね」
「緑があるっていいわよね」
 またこう言ったナターシャでした、この娘もその道を見ています。
「とても綺麗でね」
「そうだよね、じゃあこの道を歩いて」
 カルロスは足を何度も踏み締めてナターシャに応えました。
「宮殿まで行こうね」
「皆でね」
 こうお話してでした、そしてなのでした。
 皆で都を進んで行きます、そのうえで。
 皆は大路を歩いていきます、その途中もです。
 都の人達が声をかけてきます、恵梨香達もそれに応えて手を振ります。それはまるで凱旋パレードみたいでした。 
 そのパレードの後で、です。宮殿の入口に来ますと。
 そこにいた衛兵さん城壁の門にいた衛兵さんとは別の人からです、かかし達は衛兵さんに敬礼の後でこう言われたのです。
「お久し振りです」
「オズマに会いに来たけれど」
「姫様でしたら中におられます」
 この宮殿の中にだというのです。
「では中に」
「うん、入らせてもらうよ」
「それでその子供達は」
「この子達はね」
 かかしはこれまで皆にした説明をこの衛兵さんにもしました、そしてです。
 皆で衛兵さんが開けた扉を通ってでした、そのうえで。
 宮殿の中に入りました。宮殿の中も緑の大理石で出来ていてやっぱりエメラルドで飾られています。その宮殿の中を見回してです。
 神宝はジャックにこう囁きました。
「あの、この宮殿は」
「綺麗だよね」
「はい、とても」
 壁に飾られている絵も観ます、その絵もでした。
「まるで美術館にいるみたいです」
「そうだよね、だから僕もこの宮殿が大好きなんだ」
「ジャックさんもですね」
「うん、そうだよ」
 その通りだというのです。
「オズマ達もいるしね」
「オズマさんやドロシーさんにお会い出来るんですね」
 このことについてです、神宝は言いました。
「ずっと会えないと思っていましたけれど」
「絶対に会えないってことはないんだ」
「どの人にもですね」
「そしてどの国にもね」
 絶対に行けないということはないというのです。
「ないよ」
「そうなんですね」
「だから君達もオズの国に来られたんだよ」
 絶対に行けないということがないからです。そしてなのでした。
 皆は宮殿の中を進んでいきます、緑の鏡の様に光を反射するぴかぴかの大理石にエメラルドで飾られた宮殿の中には絵や石像といった芸術品も一杯あります、その中は本当に美術館みたいです、そしてその宮殿を先に先に進んでいってです。
 やがて一羽の鶏と全身がガラスで出来ていて頭と心臓のところに赤い小さなものがある猫に出会いました、その鶏と猫を見てです。
 恵梨香はすぐに明るい顔になって木樵に言いました。
「この子達がですね」
「そうだよ、雌鶏のビーナにね」
「ガラスの猫ですね」
「この子達もいるんだ」
 この宮殿の中で住んでいるというのです。
「こうしてね」
「そうなんですね、この子達よ」
「ちょっと待ちなさいよ」
 その雌鶏のビーナがです、恵梨香に言ってきました。
「今貴女私をこの子達って言ったわね」
「あら、駄目なの?」
「貴女は見たところドロシーより年下ね」
 ビーナは恵梨香だけでなく他の四人も見て言います。
「他の子達も」
「ええ、私達十一歳よ」
「ドロシーは十二歳か十三歳よ」
 ビーナはドロシーの詳しい年齢までは知りません、それでこう言ったのです。
「オズマはもう少し年上だけれどね」
「じゃあ私達は大体ベッツイさんと同じ位の年齢かしら」
「私はもう卵が産めるのよ」
 ビーナは自分のことも言いました。
「お母さんなのよ。貴女達子供よりはね」
「年上だから」
「言葉遣いには気をつけなさい」
 完全にお母さんの言葉でした。
「いいわね」
「わかりました」
「ドロシーやベッツイは長い付き合いだしこの国の王女様でもあるからいいけれど」 
 この二人の場合はというのです。
「いいけれど」
「それでも私達はですね」
「その辺りは気をつけてね。いいわね」
 これがビーナの五人への言葉でした、そしてです。
 ジョージはガラスの猫を見てです、つぎはぎ娘に尋ねました。
「この猫さんが」
「あたしの昔からのお友達でね」
「ガラスの猫さんですよね」
「そうよ、ガラスだからね」
 全身それで出来ているからだというのです。
「あたい達と一緒で食べたり飲んだりはしないのよ」
「そうなんですね」
「その通りよ。けれど私はとても綺麗好きだから」
 そのガラスの猫の言葉です、透き通った身体を隅から隅まで見回しています。
「いつも身体を磨いているわよ」
「だからそんなに透き通っているんですね」
「ガラスはいつも綺麗にしないとすぐに曇ってしまうでしょ」
「はい、本当に」
「だからいつも誰かに洗剤と柔らかい布で拭いてもらってるの」
「それで綺麗なんですか」
「そうよ」
 それでだというのです。
「この脳と心臓もはっきり見えるのよ」
「何か水晶みたいですね」
「水晶に負けないわよ」
 綺麗さではだというのです。
「私はこの世で一番綺麗だから」
「何かビーナさんも猫さんも」
「そうよね、他の人達もだけれどね」
 恵梨香とカルロスが二人でお話します。
「ボームさんが書いていた通りの」
「そのままの人達よね」
「私達はそれぞれ自分を出しているだけよ」
「隠すことなくね」
 ビーナと猫はその二人に言いました。
「嘘は吐かない主義だから」
「そうしているだけよ」
「ボームさんもその私達をそのまま書いているから」
「あの人はとても正直な人だからね」
「今も王室の歴史編纂室で書いておられるわよ」
「とても熱心にね」
「ボームさんはお仕事をしておられるのね。それじゃあね」
 どうかとです、恵梨香は二匹のお話を聞いて考える顔になって言いました。
「ボームさんのお仕事を邪魔したらいけないから」
「そうね、ボームさんにお会いすることは控えておきましょう」
 ナターシャも恵梨香に応えて言いました。
「今はね」
「ええ、そうしましょう」
「それじゃあ今は」
 どうするかといいますと。
「オズマ姫にお会いしましょう」
「ええ、そうね」
 それがいいとお話します、そうしてかかし達の案内を受けて宮殿の奥へと進んでいきます、けれどここでなのでした。
 今度はです、大きなライオンと虎が出て来ました、その見事な鬣を持っているライオンと大きな虎を見てナターシャが言いました。
「臆病ライオンさんと腹ぺこタイガーさんですよね」
「うん、そうだよ」
「その通りだよ」
 二匹はすぐに答えてきました。
「僕が臆病ライオンだよ」
「それで僕がその腹ぺこタイガーなんだ」
「そうですよね」
「うん、けれど君達はじめて見るね」
「それにとても変わった服を着ているね」
 二匹の動物は五人の服も見て言います。
「ドロシーが最初に着ていた服ともまた違うし」
「どの国から来たのかな」
「ドロシーと一緒だよ」
 かかしは二匹にもこうお話します、その後のこともです。二匹もそのことを聞いて納得してそのうえで言うのでした。
「そうなんだ、かかし君のお友達なんだ」
「もうそうなったんだ」
「うん、そうだよ」
 木樵もそうだとです、二匹にお話します。
「僕達はあちらの世界から戻った時にね」
「この子達に会ってなんだ」
「そこからずっと一緒なんだね」
「そうだよ。いい子達だから」
 それでだというのです。
「安心してね」
「うん、ノーム王みたいなことをしないならね」
「僕達は大歓迎だよ」
 彼等にとってはです、ノーム王はまだ忘れられません。何しろ何度もオズの国に危害を加えようとしてきた相手ですから。
 けれど五人はノーム王とは違います、だからです。
「いいよ、じゃあね」
「オズマのところに行ってもいいよ」
「オズマのお部屋はもうすぐよ」
「このお部屋の向こう側よ」
 ビーナとガラスの猫も言ってきました、この二匹もついてきていたのです。
「それじゃあね」
「一緒に行きましょう」
「はい、わかりました」
「今から」
 五人もビーナ達に応えてです、そうしてでした。
 その向こう側のお部屋に行こうとするとです、今度は。
 大きな日本足で立っていてタキシードを着ているこげ茶色の、手と足が二本ずつあるバッタがやって来ました。長い髪とお髭がやたらともじゃもじゃした人もです。
 二人を見てです、恵梨香は笑顔で言いました。
「まさかここでお会い出来るなんて」
「おや、そういうところを見ると」
「君達と会うことははじめてだけれど」
 その彼等も恵梨香の笑顔での言葉を受けて言います。
「かかし君達と一緒にいるし」
「僕達のことを」
「はい、ムシノスケ先生とモジャボロさんですよね」
 恵梨香はその明るい声で二人に答えました。
「オズマ姫のお友達も」
「如何にも。私はオズの国きっての学者でありますぞ」
「僕もこの宮殿によく出入りしているんだ」
「丁度オズマ姫とお昼を共にしようと来たのですが」
「まさかここで会うなんてね」
「それで君達は一体」
「どういった子達なのかな」
 二人もまた恵梨香達にこのことを尋ねます、ですが。
 ここでもかかしが説明します。それでムシノスケとモジャボロも納得してそのうえでそれぞれこう言いました。
「ふむ。事情はわかった」
「あちらの世界に戻ることをオズマに聞きたいんだね」
「それでここまで来た」
「そういうことだね」
「はい、そうです」
 その通りだとです、恵梨香は二人に答えました。
「私達ここに来ましたけれど」
「それなら簡単だよ」
 ムシノスケは恵梨香に明るい声で答えます。
「それはね」
「私達の世界に帰ることはですか」
「今では僕達の世界とオズの国は自由に行き来出来るからね」
「あの学園の時計塔からね」
 ジャックも言ってきます、五人が最初に出会ったオズの国の人もです。
「その他にもね」
「あれっ、あそこ以外にもですか」
「オズの国への出入り口があるんですか」
「うん、そうした場所は世界のあちこちにあるんだ」
 あちらの、五人の世界にというのです。
「あちらの世界からオズの国に行くのにはそうした場所でオズって言えばいいんだよ」
「問題はこちらの世界からですね」
「どうして行き来するかですけれど」
「そういえばジャックさん達はどうしてあっちの世界に行ってるんですか?」
「一体」
「僕達は普通にね」
 どうかといいますと。
「決まった場所でオズって言えばね」
「それで、なんですか」
「行くことが出来るんですか」
「君達もそうかな」
 ジャックはその大きなカボチャ頭を傾げさせて言いました。
「それが出来るかな」
「そうですか、それだったら」
「僕達もそうしてみたら」
「ひょっとしたらね」
 その時はというのです。
「君達もかな」
「どうなんでしょう」
「それが出来たら楽ですけれど」
「ここから帰ることも」
「簡単なんですけれど」
「まあそうしたことはね」
 ここでムシノスケが皆に言ってきました。
「全てはオズマに出会ってからだね」
「どの時にですね」
「わかることですね」
「うん、オズマは全てを知っているからね」
 だからこそだというのです。
「まずはオズマに会おう」
「はい、それじゃあ」
「今から」
「入ろう」
 こう言ってでした。
 一行はオズマの部屋の扉の前に立ちます、その扉の右には大きな鏡がありましたので。
 五人はそれぞれの服をチェックします、そしてなのでした。
 その服を整えます、それからでした。
 オズマのお部屋に向かいます、勿論かかし達もです。
 それぞれの身体を整えます、かかしも木樵もです。
 そうしてでした、皆で扉を開けてオズマの前に参上するのでした。



ようやく都へと到着。
美姫 「特に問題もなく、のんびりと旅を楽しめたんじゃないかしら」
だな。たくさんの人たちに会ったけれど、皆良い人だったしな。
美姫 「そうね。で、いよいよオズマの元ね」
だな。後は元の世界に戻るだけのはず。
美姫 「どうなるのか楽しみね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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