『オズの五人の子供達』
第三幕 谷も森も
恵梨香達はエメラルドの都に続いている黄色い道を歩いていきます。その黄色い道を進んでいくと一行の前に。
谷が見えてきました、しかしその谷には。
「あっ、橋が」
「橋がかかってるわね」
恵梨香とナターシャは谷にかかっている橋を見て笑顔で言いました。
「確かここは臆病ライオンさんが飛び越えて」
「皆を運んだのよね」
「その時の臆病ライオンさんは凄く勇気があったわね」
「格好よかったわね」
「ライオン君は今は都にいるよ」
かかしがその臆病ライオンは今何処にいるかをお話してくれまっした。
「元気にやってるよ」
「そうですか、じゃあエメラルドの都に行けばですね」
「ライオンさんとも会えるんですね」
「そうだよ、他の皆もいるからね」
他の多くのオズの人達もだというのです。
「いるからね」
「何か余計にエメラルドの都に行きたくなりました」
「本当に」
「そう、だからこの橋を渡ろうね」
橋は石の橋です、見るからに頑丈そうです。
「それで都に行こうね」
「かなり頑丈そうな橋ですね」
ジョージはその橋を見て言いました。
「何人渡っても大丈夫な様な」
「オズマが作ってくれた橋の一つだよ」
ジャックがこのことをお話してくれました。
「皆が安心して色々な場所に行ける様にね」
「オズマ姫がですか」
「作ったんですね」
「オズマはいつもオズの国の皆のとおを気にかけているんだ」
それでだというのです。
「橋もこうしてね」
「かけてくれるんですか」
「皆の為に」
「橋だけじゃなくて堤防や岸辺、港も作ってくれるよ」
そうしたものもです、オズマは皆の為に作っているというのです。
「いつもオズの隅々までオズの全ての場所を観られる鏡で観ているからね」
「じゃあ私達のことも」
「観てくれてるのかしら」
「うん、もう知っていると思うよ」
その通りだとです、木樵が答えます。
「僕達があちらの世界に行くことは伝えてあったしね」
「それじゃあですか」
「私達が会いに行っても」
「もう君達のことは知っているからね」
だからだというのです。
「安心して行けるよ」
「わかりました、それじゃあ」
「都に行って」
「オズマと会ってまずは楽しくお話しよう」
ジャックは五人に笑顔で言います、そしてなのでした。
皆で谷にかけられている橋を渡りました、橋はとても頑丈で皆が一度に渡っても何ともありませんでした。その橋を渡り終えて振り向いてからです。
神宝は青い石の橋を見て笑顔で言いました。
「僕達じゃ飛び越せない幅だけれどオズマ姫のお陰でね」
「渡れたね」
木樵が神宝に応えます。
「よかったね」
「はい、オズの国はオズマ姫が立派に収めてるんですね」
「僕達とそれ程変わらない年齢の筈だけれど」
ジョージも言います。
「それでも立派な女王様なんだ」
「凄いよね」
カルロスも橋を振り向きながら唸る様に言いました。
「天才じゃないかな」
「オズマは努力家なんだよ」
ジャックがそのカルロスに言いました、オズマを天才と言った彼にです。
「魔法も使えるけれど天才じゃないんだよ」
「そうなんですか」
「朝から夜までいつもオズの皆のことを考えてね」
そしてだというのです。
「答えを出していくんだ」
「どうしていいのかを勉強してね」
「僕達と相談したうえで答えを出していくんだよ」
かかしと木樵もオズマのこのことをお話します。
「オズマは天才じゃなくて努力家なんだ」
「自分で勉強して相談して答えを出してよくなっていく女王様なんだ」
「それじゃあやっぱり天才ですよ」
カルロスはそこまで聞いてあらためてオズマを天才だと言うのでした。
「オズマ姫は」
「つまりこういうことだね」
かかしはカルロスが言いたいことをすぐに理解して言葉を返しました。
「天才は努力をする人だということだね」
「九十九パーセントの努力と一パーセントの閃きですよね」
「そう、オズマはいつも九十九パーセントの努力をしているんだ」
「そして一パーセントの閃きは」
「オズマ自身にあって僕達とも相談してね」
その一パーセントがあるというのです。
「そうなんだ」
「そういうことですよね」
「うん、よくわかってるね」
「子供の頃お父さんとお母さんに教えてもらいました」
ブラジルにいる時にだというのです。
「エジソンさんがそうだったって」
「そうだよ、オズマは努力しているからね」
「それを考えると天才ですね」
「そうなるね」
オズマは努力する人なのです、だからこそ天才なのです。そして皆はその天才であるオズマの」いるエメラルドの都にまた近付いたのでした、橋を渡って。
その橋を渡ったところで、です。一行の前に森がありました。その森を見てナターシャがこう言ったのでした。
「丁度いいわね」
「御飯ね」
「ええ、丁度お昼になったわ」
ナターシャは自分の黒い服から懐中時計を取り出して時間を見てから恵梨香に言いました。
「お昼御飯のね」
「さっき朝だと思ってたら」
「時間が経つのがかなり早いわね」
「うん、そうよね」
「朝早く起きて朝御飯を食べてずっと歩きながら皆とお話しているから」
「何か時間が経つことも忘れて」
「あっという間にね」
お昼になったというのです。
「そんな感じね」
「充実しているってことじゃないの?」
つぎはぎ娘がナターシャと恵梨香に言ってきました。
「だからなのよ」
「充実していたら時間が経つのは早い」
「そういうことなんですね」
「そうじゃないの?あんた達今充実してるのよ」
「だからお昼もあっという間なんですね」
「朝起きてすぐなんですね」
「いいことだよね」
つぎはぎ娘は今もくるくると踊っています、そうしながら二人にお話していきます。
「あんた達オズの国の中で充実しているんだよ」
「この黄色い道を歩く中で」
「そうなっているんですね」
「そうよ、じゃあ今からね」
「はい、お昼御飯食べます」
「頂きます」
「じゃあその間僕達は周りにいるからね」
今度はジャックがお話します。
「周りに何が来ても僕達が見張っているから」
「安心してですね」
「お昼を食べられるんですね」
「ゆっくりと食べてね」
ジャックは優しい声で五人に言います。
「美味しいものをたっぷりと」
「それじゃあ今から」
「頂きます」
五人はジャックの言葉に応えてでした、そのうえで。
森の中からパンや果物の木を見付けました、この森にもそうした木が一杯ありました。そしてその木の中にです。
缶詰の木もありました、ジョージはその缶詰の木を見て皆に笑顔で言いました。
「缶詰があったよ」
「その噂の缶詰の木がだね」
「あるんだね」
「ほら、色々な缶詰があるよ」
木にです、缶詰が一杯果物の様に下がっていてその種類も一杯あるのです。
コンビーフにシーチキン、フルーツもあります。他にはハンバーグやスパムもです。
そのスパムの缶詰を手に取ってです、ジョージは満面の笑顔で言いました。
「いや、これ食べたかったんだよね」
「スパムだよね、それ」
「うん、そうだよ」
まさにそうだとです、ジョージはコンビーフを手に取っている神宝に答えます。
「僕スパムが大好きだからね」
「アメリカ人はスパムが好きだよね」
「皆よく食べているよ」
「そんなに美味しいんだ」
「何かあると食べるよ」
見れば一つだけではありません、ジョージがその手に持っているスパムの缶詰は。幾つもその手の中にあります。
そして缶切りも取って空けながらです、神宝に言うのでした。
「神宝も食べるかい?皆も」
「ううん、それじゃあ一つね」
神宝はこんびーふ缶を空けながら応えました。
「コンビーフと交換しよう」
「そうしようね」
「けれどね」
ここでこうも言う神宝でした。
「缶詰も木になるなんてね」
「オズの国は僕達の世界とこうしたところも違うね」
「そうだよね」
「この国にいたら」
どうなるかとです、ジョージはスパムを食べながら言います。スパムをフォークで刺して口に持って行ってです。
そしてです、とても美味しそうな笑顔でお話しました。
「スパムだって食べられてね」
「コンビーフもね」
「うん、食べられるね」
「そうだよね」
こう二人でお話しながら缶詰を食べています、カルロスも缶詰を食べていますが彼の缶詰はハンバーグです、、それを食べつつつシーチキンを食べている恵梨香に尋ねます。
「恵梨香ちゃんはお魚好きだよね」
「シーチキンとか?」
「いつもお魚食べてるから」
「ええ、好きだけれど」
「けれど?」
「他のものも好きよ」
お魚以外もだというのです。
「お肉もね」
「嫌いなものないんだ」
「自分でもあまりないと思うわ」
「好き嫌いがないっていうのはいいことだね」
「うん、そうよね」
「だから今もだよね」
「パンも食べて果物も食べてね」
見れば恵梨香はそうしたものも食べています、他の皆もです。
「バランスよくね」
「何でも食べるんだね」
「それが身体にいいっていうし」
「そういうことだね、じゃあ僕もね」
カルロスは他の缶詰も開きます、そうして食べていきます。
五人はお昼をあっという間に食べ終えました、それからです。
また出発です、お昼のマンチキンの国はとても暖かくて道を歩いていくのに最適でした、そしてなのでした。
この日もかなり歩きました、そうして夜になったところでです。
道の左右にお椀を逆さに置いた様な青い家が一杯ありました、そのお家はといいますと。
マンチキンのお家の中で一番多いタイプのお家です、そのお家の一つから陽気な青い服のお婆さんが言ってきました。
「かかしさん達だよね」
「うん、そうだよ」
かかしがそのお婆さんに笑顔で応えます。
「今からエメラルドの都に行くんだ」
「今日は何処に泊まるか決めたのかい?」
「まだだよ」
かかしはお婆さんに正直に答えます。
「何処かで休もうかって思ってるけれどね」
「じゃあうちに泊まりなよ」
お婆さんはかかしにこう声をかけました、かかしの言葉を受けてから。
「今丁度晩御飯を作ったところだしね」
「そうか、それじゃあね」
かかしはここで皆を見ます、そのうえで言うのでした。
「僕達は食べる必要も休む必要もないけれど」
「その子達だね」
「この子達に食べるものとね」
「休む場所をだね」
「うん、提供してくれたら有り難いけれど」
「そんなのお安い御用だよ」
お婆さんはそのお口を大きく開けて笑ってかかしに答えました。
「そうなんだ、それではね」
「おいで、うちに」
お婆さんはかかし達だけでなく五人も見て言います。
「美味しいもの一杯あるからね」
「はい、それじゃあお願いします」
「お世話になります」
五人はお婆さんに礼儀正しく頭を下げてでした。
そのうえでかかし達と一緒にお婆さんのお家に入りました、お家の中にはお婆さんだけでなくお爺さんもいました。二人でお家の中に暮らしていました。
お爺さんも陽気な笑顔で、です。皆に言いました。
「今晩はゆっくりしていってくれよ」
「すいません、本当に」
「お邪魔して」
「いいんだよ、あんた達はかかしさん達のお友達だね」
お爺さんは木のコップの中の青いビールを飲みながら陽気にお話します。
「そうだね」
「はい、そう言ってもらいました」
「かかしさんに」
「それなら遠慮は無用だよ」
全くだというのです。
「だからね」
「それでなんですか」
「今晩は」
「ベッドはあるから。子供達のがね」
「お子さん達のベッドがですか」
「あるんですか」
「そうだよ、もう皆結婚して家を出たがね」
その彼等のベッドがです、あるというのです。
「そこを使うといいよ」
「わかりました、それじゃあ」
「ベッドお借りします」
「あと御飯はね」
もう一つの肝心なことのお話にもなります。
「質素なものだがね」
「いえ、そんな」
「そんなことは」
「食べてくれ、これをね」
お婆さんがテーブルの上に一杯持ってきました、青い木造りの家の中にある青いテーブルの上にです。
ローストチキンにサラダ、シチューにパン、それにプティングと一杯出てきます。そのどれもが青いものです。
青い鶏のお肉を見てです、ナターシャはお婆さんに尋ねました。
「お肉もなんですね」
「そうだよ、マンチキンじゃ青いんだよ」
「そうなんですね」
「勿論他の国じゃ色が違うよ」
お婆さんもそのことはわかっています、オズの国ですから。
「だからね」
「それでなんですね」
「そうだよ、けれど味はね」
「美味しいんですね」
「あたしも腕によりをかけて作ってるからね」
それもあるというのです。
「じゃあいいね」
「はい、食べます」
「頂きます」
「皆で食べようね」
こうお話してでした、そうしてです。
皆で食べます、そしてなのでした。
そのローストチキンやシチューについてです、五人はお婆さんに笑顔で答えました。
「美味しいです」
「とても」
「そうだろ、美味しいだろ」
お婆さんも食べています、満面の笑顔での言葉です。
「マンチキンのお料理はね」
「そうですね、本当に」
「サラダもパンも」
「プティングも美味しいよ」
その青いプティングもだというのです。
「それもね」
「青いプティングですね」
「これもですね」
「そう、美味しいからね」
それでだというのです。
「最後に食べてね」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
「プティングはあたしが最も得意な料理なんだよ」
「婆さんのプティングは絶品だぞ」
お爺さんも言ってきます。
「もう一回食べたら忘れられないぞ」
「そこまで美味しいんですか。ただ」
ナターシャはその青いプティングを見てです、お爺さんに答えました。
「見ただけでも」
「忘れられないかい?」
「青いプティングなんて私達の世界にはないですから」
あちらの世界ではプティングは黄色いものです、ですから青いプティングが印象に残らない筈がないのです。
だからです、こう言うのでした。
「見ただけで」
「忘れられないかい」
「それにお爺さんが飲んでいるものを」
「ビールだね」
「青いビールですね」
黄色いものではありません、青いビールの上に白い泡があります。これもナターシャ達のいる世界にはありません。
そのビールも見てです、ナターシャはお爺さんに言うのです。
「それも私達の世界には」
「あんた達の世界はオズの国とは全く違うんだな」
「はい、何もかもが」
違うとです、ナターシャは今ではすっかり見慣れた青いパンを食べながら答えます。白パンが青くなっただけで味もかなりいいです。
「違います」
「あんた達の世界はいい世界かい?」
「いいって言えばいいですね」
こう返したナターシャでした。
「悪いって言えば悪いです」
「そんな世界ですか」
「そうなんです」
それがあちらの世界だというのです。
「私達の世界は」
「そうなのかい、辛くはないかい?」
「私達の世界にいてですか」
「うん、どうだい?」
青いビールを飲みつつです、お爺さんは五人に尋ねるのです。
「そうした世界にいたら」
「確かに辛いこともありますけれど」
「それでもなんだね」
「それはそれで楽しい世界です」
「そうか、じゃあどっちかっていうと」
「いい世界だと思います」
「そう思えているのなら何よりだよ」
お爺さんはナターシャの言葉を聞いて笑顔で頷きました、そのうえで五人のお顔を見てこう言ったのでした。
「皆いい顔をしているしね」
「あれっ、僕達男前ですか?」
「そうなんですか?」
「いやいや、そうした意味じゃないよ」
お爺さんはジョージと神宝それは違うと返します。
「明るくていい顔をしてるってことだよ」
「明るい顔ですか」
「今の僕達は」
「よくない状況にいたら暗い顔になるんだよ」
そうなってしまうというのです。
「けれど今のあんた達は皆とてもいい顔をしているからね」
「だからですか」
「いい状況にいることがわかるんですね、僕達が」
「そうだよ、それじゃあね」
それならというのです、五人に。
「そのままの顔でいられる様にするんだよ」
「これからもですね」
「そうだよ」
お爺さんはカルロスにも言いました。
「明るく過ごすんだよ」
「それじゃあこれからも」
カルロスはお爺さんの言葉を聞いて四人を見ました、自分と同じ明るい顔をしている皆をです。
そのうえで、です。皆に言いました。
「宜しくね」
「うん、楽しくね」
「友達でいようね」
四人もそのカルロスに応えます、その五人にです。今度はお婆さんが満面の笑顔でこうしたことを言ってきました。
「お風呂もあるからね」
「あっ、そういえば私達って」
「最近ね」
恵梨香とナターシャがここで気付きました。
「お風呂に入ってなかったわね」
「オズの国に来てからね」
「何日も歩いていたけれど」
「お風呂に入ってなかったわ」
「そうだよね、そういえば」
「僕達オズの国で一度もお風呂に入ってないよ」
「水浴びはしたけれどね」
男の子三人もこの国に来てからお風呂に入ったことがないことに気付きました。ただ毎日水浴びはしていました。
「お風呂はね」
「それはね」
「だったら是非お入り」
お婆さんは五人ににこりとして入浴を勧めます。
「それであったまるといいよ」
「有り難うございます、それじゃあ」
「お風呂も」
「遠慮はいらないからね」
お風呂もだというのです。
「あったまるんだよ」
「湯船のお風呂に入るとね」
恵梨香がここで言います、それはどういったものかということを。
「あったまるだけじゃなくてほっとするから」
「いいのよね」
ナターシャも恵梨香に応えて微笑んで言います。
「私はサウナも好きだけれど」
「ロシアではサウナの方が多いのよね」
「そう、お湯のお風呂よりもね」
ナターシャのお国ではそうだというのです。
「暑くて汗をたっぷりとかけてね」
「あったまることが出来るのね」
「日本だとお湯のお風呂が多いわよね」
「うん、日本でお風呂っていうとね」
お湯のお風呂だとです、恵梨香はナターシャに答えました。
「そっちよ」
「そうよね、私も日本のそのお風呂が好きになってるから」
「それじゃあこれからね」
「ええ、一緒に入りましょう」
「お風呂は男の子と女の子で別れて入るんだよ」
お婆さんはこのことを言うことも忘れていません、五人に言います。
「いいね」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
恵梨香とナターシャがお婆さんに応えます。
「私達一緒に入ります」
「そうします」
「じゃあ恵梨香ちゃん達が先に入ってね」
カルロスが笑顔でその二人に言ってきました。
「そうしてね」
「私達が先に入っていいの?」
「そうしていいの?」
「こういうことは女の子が先にしないとね」
つまりレディーファーストだというのです。
「だから先に入ってね」
「僕達はここにいるから」
「女の子達は先にね」
ジョージと神宝も二人に笑顔で言います、先にお風呂に入ってと。
「そうしてね」
「先にね」
「いいことだよ、女の子は大事にしないと駄目だからね」
木樵も五人に笑顔で言いました、それはとてもいいことだと。
「君達もそのことを忘れないでね」
「jはい、これからもそうしていきます」
「女の子は大切にします」
男の子達も笑顔で応えます、こうしてまずは女の子達が先にお風呂に入ることになりました。そして五人だけでなくです。
お婆さんはかかし達にです、こう言うのでした。
「さて、かかしさん達はね」
「僕達は?」
「かかしさんは中の藁を新鮮なものに取り替えてね」
「あっ、そうしてくれるんだ」
「身体全体をつぎはぎ娘さんと一緒に洗濯をしますね」
かかしとつぎはぎ娘はそうしていつも綺麗にしているのです、お風呂に入る必要はありませんが清潔にしているのです。
「そうしますね」
「ううん、僕達にもそうしてくれるなんて」
「あんた達いい人だね」
かかしだけでなくつぎはぎ娘も言ってきます。
「藁だけじゃなくて洗濯もしてくれるなんて」
「有り難いね」
「ジャックさんの服もね」
お婆さんはジャックが着ている服も見て言いました。
「洗濯するよ」
「明日の朝早くに洗濯するんだ、婆さんは」
お爺さんはこう言います。
「だからかかしさん達は明日朝早くにお願いしますね」
「すいません、お世話になります」
ジャックはお爺さんの言葉にとても明るい顔で応えました。
「綺麗にしてもらいます」
「遠慮はいりませんよ、毎朝洗濯してますし」
お婆さんはジャックに笑顔で応えます。
「お気になさらずに」
「木樵さんは油ですね」
「自分でやるから僕のことは気にしないでね」
木樵はお爺さんんに明るく返します。
「それでね」
「わかりました、そのことも」
こうして五人もかかし達もそれぞれの身体を綺麗にするのでした、まずは夜に五人がお風呂に入ってです。
かかし達が朝に洗濯をしてもらいました、それが終わってからです。
一行は笑顔でお爺さんとお婆さんにお礼を言ってから別れました、そうして再びエメラルドの都まで歩いていくのでした。
その再開された旅の中で、です。恵梨香はかかしに尋ねました。洗濯をしてもらって新しい藁を入れてもらったかかしはうきうきとしています。
「かかしさんさっき洗濯してもらいましたね」
「うん、そうだよ」
その通りだと答えるかかしでした。
「見ての通りね」
「そうですよね、顔も描いてもらって」
「僕の顔は絵の具だから洗濯をすると消えてしまうんだ」
「じゃあ綺麗にする旅に」
「うん、描いてもらってるんだ」
そのお顔をだというのです。
「そうしてもらってるんだ」
「そうなんですね」
「そうだよ、あと歩いていたらね」
「洗濯した後で乾くんですね」
「自然にね。だから僕は干してもらうこともあまりいらないんだ」
「あたいもよ」
つぎはぎ娘もだというのです。
「洗ってもらって絞ってもらったらね」
「それでなんですか」
「歩いて踊っていたら中のお水は自然に落ちていって乾くから」
「干してもらうことはですか」
「特にいらないのよ」
そうだというのです。
「お水が中に一杯あって最初は重いけれどね」
「綿ってお水を吸いますからね」
「そう、綿はね」
綿はそうしたものです、お水をたっぷりと吸うのです。
だからつぎはぎ娘は洗濯をしてもらうと最初は凄く重いのです、ですが絞ってもらってそれで後は普通に歩いて踊っているとです。
「けれど今みたいにいつも通りにしてたらね」
「お水が乾いて落ちてなんですね」
「いつも通りになるよ」
「僕も同じなんだ」
ジャックも言ってきました。
「服は乾くから。それで濡れても気にならないからね」
「それでなんですね」
「気にしないんだ、洗って絞って後は絞った後の皺を伸ばして着ればいいんだ」
それで終わりだというのです。
「僕もね」
「いいですね、濡れていても気にならないのは」
恵梨香はジャック達のそうしたこともいいことだと思いました。
「かかしさん達って」
「木樵さんも」
ナターシャはブリキの木樵を見ています、今の木樵は関節だけでなく全身に油を塗って磨いてもらってピカピカです、とても綺麗です。
「油を塗って磨けばいいんですね」
「そうだよ、それは自分でも出来るからね」
「木樵さんにとってはそれがなんですね」
「お風呂に入ることなんだ」
そうなるというのです。
「人間の身体だった頃は僕も普通にお風呂に入っていたよ」
「私達みたいにですね」
「その頃はお風呂も好きだったよ。けれど今はね」
「お風呂に入ることは」
「する必要がなくなったんだ」
こう言ってです、木樵は自分の足元にいる蟻をひょいとまたいで踏まない様にしました。木樵はこうしたことにいつも気をつけているのです。
「全くね」
「そうなんですね」
「今はこれで満足しているよ」
ブリキの身体になった今はというのです。
「油を塗って磨くことでね」
「それで綺麗になるからですね」
「やっぱり身体は綺麗にしないとね」
駄目だというのです、木樵にしても。
「だからこうしているんだ」
「そうなんですね」
「うん、僕は綺麗にしていることが大好きなんだ」
木樵は綺麗好きでもあるのです、とても。
「君達と同じだよ」
「私達暫く振りにお風呂に入られて嬉しいです」
ナターシャはこのことにとても喜んでいます、それは他の四人もです。
「よかったです」
「とても親切なお爺さんとお婆さんだったね」
「はい」
昨日のことを思い出しての言葉です。
「幸せです」
「身体を綺麗に出来ることは幸せなことだね」
「そうですよね」
「幸せっていうのはいつも周りに一杯あるんだ」
「一杯ですね」
「そう、一杯あるんだよ」
幸せはそうしたものだというのです。
「だから幸せがないって困るよりもね」
「周りにある幸せを探すことですね」
「そうすればすぐに見付かるよ」
木樵はナターシャ達に今このことをお話するのでした。
「幸せはね」
「じゃあ辛い時、悲しい時は」
「まずは落ち着いてね」
それからだというのです。
「周りをよく見るんだ、そうすればね」
「幸せがあるんですね」
「本当にちょっとしたことなんだ。ほら」
丁度ここで木樵の目の前を一匹の蝶が左から右に飛んでいきました。それはあちらの世界ではモンシロチョウですがマンチキンの国なので青いです。
「今僕の前の蝶が飛んでいったね」
「はい」
「綺麗な蝶を見られて幸せだって思うけれど」
「それがですね」
「幸せなんだ」
それに他ならないというのです。
「この通りね。他にもね」
「他にも?」
「今こうして皆と一緒に歩ける」
このこともだというのです。
「幸せだね」
「このこともですか」
「そうだよ、健康に友達と綺麗な場所を暖かく歩ける」
「確かに幸せですね」
「これはかなりレベルの高い幸せだよ」
健康にお友達と綺麗な場所を暖かい中で歩けることはというのです。
「お腹が減っていなくて綺麗な状態でそう出来ているから余計にね」
「そのうちの一つでもですよね」
「幸せだからね、健康なだけでもね」
「じゃあ今の私達は」
「一杯の幸せの中にいるんだよ」
そうだというのです。
「そうなんだよ」
「そうですよね、言われてみれば」
「幸せは一杯あるんだ」
自分達の周りにだというのです。
「すぐ傍にね」
「じゃあ大切なことは」
「見ることだよ」
その自分の周り、そこをだというのです、木樵は言います。
「周りをね」
「それだけでいいんですね」
「そうだよ、けれどそのことに気付くことがね」
「難しいんですね」
「簡単なことなんだけrどね」
それでも気付くことはなのです。
「難しいんだ」
「ううん、気付けば簡単だけれど」
「そのことに気付くことがね」
難しいというのです。
「僕も気付くまでに時間がかかったから」
「確かに今こうしているだけで」
恵梨香もここで言います、皆と周りを見たうえで。
「昨日はお風呂に入れまたし」
「朝も美味しいものを一杯食べられたね」
「お爺さんとお婆さんも凄く親切でしたし」
「幸せだね」
「はい、凄く」
「お金があると幸せじゃないんだね」
神宝はお金のことをここで言いました。
「そうじゃないんだね」
「学校の成績がよくてもみたいだね」
ジョージはあちらの世界のことの学校を思い出しました。
「そうじゃないんだね」
「そうみたいだね」
「僕学校の成績がよかったら幸せだったけれど」
「僕はお金があったらね」
二人はあちらの世界ではそう考えていました。
「そうじゃないんだね」
「幸せじゃないんだ」
「いや、そういうことも幸せなんだよ」
かかしが二人に言いました。
「確かにこの世界ではお金も成績もないけれど黄金やエメラルドに囲まれていて勉強が出来ることは幸せなことだよ」
「それもですか」
「幸せなんですか」
「うん、幸せだよ。けれどね」
「けれど?」
「けれどっていいますと」
「それだけじゃないんだよ」
幸せはというのです。
「それはね」
「それじゃあですか」
「幸せは」
「そう、そのお金や学校の成績だけじゃないんだよ」
あちらの世界ではとても大事なそうしたことだけではないというのです。
「他にも一杯あるんだよ」
「それじゃあスポーツが出来てもですか?」
カルロスは自分が得意としていることから言いました。
「それも幸せでも」
「それだけが幸せじゃないんだよ」
「他にも一杯あるんですね」
「そうなんだ」
こうお話するのでした、かかしは皆にお話します。
「僕も一杯幸せを見付けてきたよ」
「かかしさんもですか」
「周りにある幸せを」
「僕は生まれてすぐにドロシーと出会ってね」
畑のかかしになってすぐにです、彼はドロシーと出会ったのです。
「木樵君とライオン君に出会えて友達が出来て楽しい旅をして」
「エメラルドの都に行ってでしたね」
恵梨香がかかしのその時のことを本人にお話します。
「そうしてでしたよね」
「そうだよ、自分の知恵に気付けて魔法使いさんに脳も貰ってね」
かかしの幸せはまだ続いたのです、それからも。
「オズマにも出会えてドロシーと再会出来て。今じゃドロシーやつぎはぎ娘とも一緒にいられるんだからね」
「幸せが一杯あるんですね」
「そうだよ、僕はとても幸せだよ」
かかしにしてもそうだというのです。
「誰にも負けない位にね」
「ううん、私も学校のお勉強が出来て運動神経もよくてお金があれば幸せですけれど」
恵梨香もあちらの世界のことから考えて言うのでした。
「けれどそれより前に健康ですし家族も優しいですしお友達も一杯いて」
「幸せだね」
「はい、それだけで」
かかしに笑顔で答えました。
「私とても幸せです」
「そういうことだよ、僕や木樵君が言っていることはね」
「幸せは周りに一杯あるんですね」
「自分の中にもね」
一杯あるというのです。
「自分を不幸だって思ったらちょっと落ち着けばいいんだ」
「それで周りを見れば」
「あと自分の中も見ればね」
そうすればだというのです。
「気付くんだよ」
「それで幸せになれるんですね」
「そういうものなんだ。僕も皆も幸せなんだよ」
自分の中にも周りにもその幸せが一杯あるからです。
「今こうして君達という新しい友達と楽しく旅も出来ているんだから」
「そのことも幸せですよね」
「よかったこと探しっていうのかな」
この言葉も出したかかしでした。
「それを探すだけで幸せになれるんだよ」
「探して見付けて」
「暗くなった時こそそうするんだ」
「幸せになれるから」
「明るくなれるからね」
かかしは明るい足取りです、その足取りはとても軽やかです。それまで洗濯をしてあったお水が今はすっかり乾いています。
「そうなるんだよ」
「そうですね。幸せって一杯あるんですね」
そのことがよくわかった恵梨香でした、そうして一行の目の前にです。
まだ小さいです、ですがそれでもです。
エメラルドの都が出て来ました、緑の城壁に囲まれた緑の街、その真ん中に高く大きな宮殿が見えるそれが見えてきました。
その都を見てです、恵梨香はかかし達に尋ねました。
「あれがですね」
「うん、そうだよ」
「エメラルドの都だよ」
まさにそうだとです、かかし達は恵梨香に答えました。
「あれがね」
「そうなんだよ」
「遂に見えてきましたね」
「あそこにオズマ姫とドロシーがいるんですね」
ナターシャもその青い目を輝かせて言います。
「あれが」
「来たんだよ、僕達はね」
ジャックもオズマ達がいるその都を見て笑顔になっている。
「オズマもドロシーも他の皆もいるよ」
「じゃあ臆病ライオンもですね」
「チクタクもムシノスケ先生も」
「そうだよ、皆いるよ」
ジャックは五人の問いにすぐに答えてくれました。
「あの都にね」
「グリンダはカドリングにいるけれどね」
つぎはぎ娘はオズの国のもう一人の最重要人物について言いました。
「他の皆は大体いるわよ」
「あの人達に会えるなんて」
「夢みたいだわ」
ドロシーも恵梨香も目をきらきらとさせています、そのうえでの言葉です。
「ボームさんの本だけじゃなくて」
「本当に会えるのね、皆に」
「もうすぐだよ」
ジャックも言ってきます。
「その前に川と眠り花の園があるけれどね」
「川は大丈夫なんですか?」
ジョージはかかしに尋ねました、その川こそはドロシーが最初にこの国に来た時にかかしが危うく取り残されそうになった場所だからです。
その川は今はどうなのか、他ならぬかかしに尋ねたのです。
「あの時は木樵さんが筏を作ってくれてコウノトリさんが助けてくれましたけれど」
「今はちゃんと船があるよ」
かかしはそのことは大丈夫だとです、ジョージに答えます。
「渡し守りの人もいるしね」
「そうですか、それじゃあ」
「川は大丈夫だよ」
「それじゃあ眠り花の園は」
神宝はその場所について尋ねました。
「まだそのままですか?」
「眠り花の園はグリンダの魔法でその力をなくしたよ」
木樵が神宝にお話します。
「だからあそこもね」
「大丈夫ですか」
「そう、安心していいよ」
そうだというのです。
「あそこもね」
「そうですか、じゃあ今のあの園はただ綺麗な場所ですね」
「全く以てね」
「じゃあ」
ここまで聞いてです、神宝も他の子達もです。
安心してです、かかし達に言いました。
「じゃあ今からその二つの場所も越えて」
「エメラルドの都に行きましょ」
「是非ね。エメラルドの国に入れば」
都のあるそこに入ればどうなるか、かかしが今度言うことは。
「そこはね」
「そこはですね」
「緑色になるんですよね」
「青からね」
マンチキンの青が変わるのです、エメラルドの緑に。
「それがまた綺麗だからね」
「色が変わることもですか」
「そのことも」
「一瞬で変わるよ」
まさにそうなるというのです。
「面白いからね」
「わかりました、じゃあそれを見ることも」
「楽しみにしていますね」
五人はかかしの説明に今から目をきらきらとさせました。そのうえで今はまだ手の平に乗る位、いえ豆粒よりまだ小さく見えるエメラルドの都を見つつそこを目指すのでした。
のんびりとした感じで旅が続いているな。
美姫 「本当よね」
今回は久しぶりのお風呂にご馳走。
美姫 「そして、ベットで就寝できたわね」
だな。道中は安全だったとは言え、流石に慣れないと辛い部分もあっただろうけれど。
美姫 「今回は友達のお婆さんの家があって良かったわね」
まだエメラルドの都までの道のりは長そうだけれど。
美姫 「どんな旅になるのか楽しみね」
次回も待っています。