『オズの五人の子供達』




               第二幕  青いパンと果物

 恵梨香達はかかし達にそのパンの木のある場所に行きました、するとその森の葉もまた青いものでした。
 その青い森を見てです、カルロスはブリキの木樵に言いました。
「この森も青いんですね」
「マンチキンだからね」
 だから青いとです、木樵はカルロスに微笑んで答えました。
「勿論青いよ」
「だからですね」
「マンチキンは青くて僕が皇帝を務めているウィンキーは黄色いんだ」
「ギリキンは紫でカドリングは赤で」
「それぞれ違うよ」
「それでマンチキンだから」
「青いんだ」
 この森もだというのです。
「野原だって青かったね」
「そうでしたね。じゃあ僕達が今から食べるパンも」
 どうなるかとです、カルロスが考えたところで。
 神宝がです、一つのコッペパンを手に取って言いました。
「青いよ、このパン」
「あっ、本当だ」
 カルロスも神宝が持っているそのパンを見ます、見ればそのパンもとても綺麗なコバルトブルーです。葉と同じ色です。
「青いパンだね」
「林檎もだよ」
 ジョージは林檎を持って来ました、パンの森のすぐ傍に果物も森もあったのです。そしてそのリンゴもでした。
「青いよ」
「青い林檎はあるけれど」 
 カルロスは自分達の世界にあるその林檎のことも言いました。
「あの林檎は緑だからね」
「この林檎は本当に青いよ」
 青は青でもコバルトブルーです、その林檎も。
「この通りね」
「凄い色の林檎だね」
「紅茶もよ」
 ナターシャは森のすぐ傍の紅茶の湖を指さします、紅茶といってもです。
 その湖はとても青い綺麗な湖です、まるでサファイアを溶かした様なとても深い、それでいて澄んでいる湖です。紅茶の香りもします。
 その青い紅茶の湖を見てです、ナターシャは言うのです・
「青いわよ」
「青い紅茶ねえ」
 カルロスはそう聞いてこう言うのでした、首を傾げさせて。
「それって紅茶かな」
「青茶っていうのかな」
 ジャックがカルロスに言ってきました。
「この場合は」
「そうなるよね」
「お茶も国によって色が変わるんだ」
 オズの国ではそうだというのです。
「こうしてね」
「だから紅茶も青いんだね」
「味は変わらないよ」
 どの国でもだというのです。
「一緒の味だよ」
「じゃあ紅茶の味なんですね」
 ナターシャはジャックにこのことを確認しました。
「そうなんですね」
「そうだよ、お茶の味がするよ」
「それじゃあレモンを入れたら」
 ジョージはその青い湖を見つつ言います。
「レモンティーの味になるのかな」
「なるんじゃないの?」
 つぎはぎ娘がくるくると動きつつ答えてきます、この人は今もくるくると軽やかに踊っています。身体の中は綿なのでとても身軽です。
「あたいは飲む必要がないからわからないけれどね」
「ううん、じゃあレモンは」 
 ジョージはここでレモンを探しました、するとです。
 レモンもありました、青いレモンです。そのレモンを見てジョージは言いました。
「じゃあこのレモンを切ってね」
「僕が切るよ」
 ブリキの木樵が名乗り出てきました。
「斧でね」
「そうしてくれるんですか?」
「ちょっと貸して」
 レモンをとです、木樵はジョージに穏やかな声でこうも言います。
「いいかな」
「わかりました、それじゃあ」
 ジョージは木樵の言葉に素直に頷いてでした、そうして。
 右手にレモンを持って左手に持っている斧の刃に近付けるとです、レモンは斧の刃に触れただけで二つになりました。そしてもう一度近付けるとです、その切ったものを。
 するとその切られたレモンも二つになりました、そのスライスされたレモンをジョージに渡して言うのでした。
「これでいいね」
「よく切れますね」
「いつも手入れしているからね」
 だからよく切れるというのです。
「僕の斧はオズの国で一番切れるものなんだ」
「そこまで凄いんですね」
「いざという時は任せてね」
 こうも言う木樵でした。
「僕が皆を守るからね」
「木樵さんがですね」
「そうだよ、だって君達は僕の友達だから」
 神宝にも言う木樵でした。
「何があっても守るよ」
「そう、僕達は友達になったんだよ」
 かかしも言ってきます。その軽やかな動きと一緒に。
「一緒に旅をすることになったからね」
「だからなんですね」
「そう、宜しくね」
 かかしは恭しく一礼して神宝達に言いました。
「これからね」
「わかりました、じゃああらためてお願いします」
 神宝が微笑んで応えます。
「この旅の間」
「こちらもね、さてそれじゃあね」
 友達としてです、かかしは五人の子供達にこうも言いました。
「皆食べてね」
「わかりました、それじゃあ」
 その言葉に頷いてでした、五人は青いパンや果物、紅茶を飲み食いしはじめました。カップやスピーンといった食器もその辺りの木に実っていました。勿論そうした食器達も青いものです。
 そしてそのパンや果物の味はといいますと。
「あっ、美味しい」
「そうよね」
 恵梨香はパンを食べてすぐに笑顔になりました、ナターシャも笑顔で応えます。
「柔らかくて甘くて」
「うん、とても美味しいわ」
「青いパンも美味しいのね」
「そうよね」
「この林檎もとても美味しいよ」
「梨もね」
 ジョージと神宝は果物を食べています、梨も青いです。
「とても甘くてね」
「しかも新鮮だよ」
「紅茶もね」
 カルロスはカップを湖に入れて紅茶を飲んでから言いました、その青い紅茶を。
「美味しいよ」
「そうなのね」
「確かに青いけれど」
 色はそれです、けれどそれでもなのです・
 お茶も美味しいというのです、それもとても。
「これなら幾らでも飲めるよ」
「そうなのね、じゃあ」
 恵梨香はカルロスの言葉を聞いてから自分もお茶を飲んでみることにしました、それでカップを取って湖の中にそのカップを入れて飲んでみますと。
 確かに紅茶の味です、色は青いですがそれでもです。
 その青いお茶を飲んでです、ここでも笑顔になりました。
「確かに美味しいわ」
「甘くてね」
「お砂糖が入っているのかしら」
「あっ、この湖にはお砂糖は入っていないよ」
 かかしがこのことをお話してくれます。かかし達は飲んだり食べたりはしていませんがにこにことして五人の傍に座っています。
「普通に甘いんだ」
「そうなんですか」
「お砂糖が入っていなくても自然に甘いお茶なんだよ」
「凄くいい湖なんですね」
「この湖もね。オズの国には他にもこうした森や湖があるから」
「じゃあ私達旅の間飲むものや食べるものには困らないんですね」
「うん、そうだよ」
 まさにその通りだというのです。
「ドロシーは朝になればパンで一杯になるバスケットを持っていたけれどね」
「私達はそれがなくて」
「そうだよ、このマンチキンのあちこちにこうした湖や森があるから」
 飲むものにも食べるものにも困らないというのです。
「安心してね」
「わかりました、ただ」
「ただ?」
「お握りはないですよね」
 そのことはとです、恵梨香はかかしにどうなのでしょうかといった顔で尋ねました。
「それは」
「お握り?御飯を集めて丸めたものだね」
「はい、それはないですか?」
「ううん、御飯も食べるけれどね」
 かかしは腕を組んで考える顔になって恵梨香の質問に答えました。
「お握りはね」
「ないんですか」
「うん、あまり見ないね」
 そうだというのです。
「オズの国はパンが多いね」
「じゃあお料理も」
「最近は色々なお料理があるけれどね」
 お握りはというのです。
「それはあまりないね」
「それは残念ですね」
「少なくとも君達の世界にある白いお握りはないよ」
「マンチキンだと御飯も青いんですね」
「そうだよ、お米も青いんだよ」 
 そうなるというのです。
「パスタや麺類もね。麦も青いから」
「じゃあお饅頭やラーメンもですね」
 神宝は自分の大好きなそうしたものも青いとわかりました。
「そうなんですね」
「ああ、君は中国人だね」
「はい、そうです」
「中国の料理も最近はあるよ。オズの国の料理は君達の国で言うアメリカの料理に似ているから」
「そういえば魔法使いさんもドロシーもアメリカの人ですね」
 そのアメリカ人のジョージが言ってきます、五人はパンや果物を食べお茶を飲みながらかかしに尋ねるのでした。
「だからですね」
「アメリカは色々な国から人が来る国だから」
「そうですよね」
 アメリカ人だからです、ジョージもそのことはよく知っています。それで今もかかしの言葉に確かな顔で頷くのでした。
「だから」
「うん、この国には色々なお料理があるんだ」
「けれどお握りはですか」
 恵梨香はどうしてもこのことが残念で仕方がありませんでした、それでパンを食べながらも言うのでした。
「そうなんですね」
「そのことは我慢してね」
「わかりました」
 こう答えるしかありませんでした。
「御飯があればそれを食べます」
「そうしてね、御飯のお料理もちゃんとあるから」
「お握りがないのは」
 ナターシャはパンの中にピロシキがあるのを見て笑顔で食べています、中の具も青いですがちゃんと美味しいピロシキです。
「日本人しか食べないからですか?」
「ああ、僕もあっちの世界で見たけれど」
 今度はジャックが答えてきました。
「お握りは日本人しか食べないよね」
「そうみたいですね」
「アメリカ人は海草を食べないしね」
 お握りには海苔が欠かせません、けれどアメリカ人はその海苔を食べないのです。
「中国人は冷えた御飯を食べないし」
「海草なんて食べないよ」
「冷えた御飯は食べたら駄目だよ」
 そのジョージと神宝がそれぞれ言ってきました。
「あんなの食べられるの?」
「食べるなってお父さんとお母さんに言われてきたんだけれど」
「それがわからないの」
 どうしてもとです、恵梨香は二人に言いました。
「何で皆お握り食べないのか。あんなに美味しいのに」
「そういえば僕も食べないね」
 カルロスも言ってきました、食パンを食べながら。
「お握りは」
「そうよね、カルロス君も」
「御飯を使ったお料理も好きだけれど」
「お握りはよね」
「何かね」
「私もお寿司は食べるわ」
 ナターシャも恵梨香にお話します。
「けれどお握りは」
「皆食べないのね」
「日本人しか食べないことが不思議だけれどね」
 ジャックも言います。
「そうした食べものもあるんだね」
「とても美味しいんですけれど」
 とにかくお握りの美味しさを皆にも知ってもらいたいとです、恵梨香は言います。
「一つ食べれば」
「まあそんなに必死にならなくていいんじゃない?」
 その恵梨香につぎはぎ娘が明るく言ってきました。
「特にね」
「そうなんですか」
「そのうちお握りの木も出て来るかも知れないし」
 こう恵梨香に言うのです。
「出て来なかったら自分で作ってね」
「食べればいいんですね」
「そういうものじゃない」
 こう明るく言うのでした。
「海苔を付けなかったり温かかったらジョージや神宝も食べるかも知れないじゃない」
「うん、それならね」
「僕も食べるよ」
 ジョージと神宝もこう恵梨香に答えます。
「それならお寿司みたいなものだと思うから」
「お寿司は食べるしね」
「そうね、じゃあその時にね」
 恵梨香は二人の言葉も聞いて気を取り直して言います。
「お握りもね」
「では今はパンを食べてね」
 木樵が五人の子供達に今度はこう言ってきました。
「行こうか」
「はい、それじゃあ」
「そうします」
 こう話してでした、五人は。
 パンと果物、そしてお茶を飲んでなのでした。お腹一杯になったところで。
 再び歩きはじめました、そして黄色い道に入りました。その道を見てです。
 恵梨香は道の遥か先、青い草原の中にある煉瓦の道を見てかかし達に尋ねました。
「この道を進めばですね」
「うん、そうだよ」
「この道を進めばエメラルドの都に行けるよ」
 かかしと木樵が恵梨香に答えてくれました。
「無事にね」
「今は崖には橋がかかっていて無事に進めるよ」
「怖い怪物もいなくなってね」
「心配することはないよ」
「それでどれ位かかるんですか?」 
 恵梨香は安全と聞いてからです、今度はエメラルドの都までどれだけかかるのかを聞きました。このことも大事だからです。
「一体」
「一週間位かな」
「それ位だね」
 かかしと木樵はこのことについても答えてくれました。
「大体ね」
「それ位になるよ」
「僕達は寝る必要もないから夜も進んでそれ位だけれど」
「君達は夜寝ないといけないからね」
「それ位かかるよ」
「一週間だね」
「ううん、一週間ですか」
 それだけかかると聞いてです、恵梨香は困った顔になってこう言いました。
「その間学校を休むことになりますね」
「皆私達が何処に行ったのか心配するわよね」
 ナターシャも困った顔になって言います。
「それはよくないわよね」
「あっちの世界じゃ大騒ぎになるよ」
 カルロスもそのことが心配です。
「よくないよね」
「そうよね、一週間もいないって」
「皆に心配をかけるわ」
「あっ、そのことも心配いらないよ」
 困った顔になる五人にです、ジャックが言ってきました。
「こっちの世界でどれだけ過ごしてもあっちの世界じゃ一瞬だから」
「そうなんですか」
「うん、あっちの世界だと時間は全然過ぎていないよ」
「それじゃあ一週間こっちで旅をしても」
「全然時間は経っていないからね」
「そのことも安心していいんですね」
「そうだよ」
 ジャックは恵梨香にこのことをお話するのでした、勿論他の子供達にもです。五人はこのことも教えてもらってほっとしました。
 それで仲良く黄色い道を歩きはじめます、道はとても歩きやすくしかも空気はとても綺麗です。気温も穏やかです。
 その穏やかな気候を感じてです、ナターシャは微笑んでこう言いました。
「春みたいね」
「これがオズの気候なのよ」
 つぎはぎ娘がナターシャに答えます。
「ぽかぽかしてるでしょ」
「これなら幾らでも進められるわ」
「雨だって降るけれどね」
「その雨もですね」
「そう、決まった時間に決まっただけ降るからね」
「その時に注意すればいいんですね」
「雨には気をつけないとね」
 木樵は雨については心配する顔で言うのでした。
「錆びてしまうからね」
「木樵さんはブリキだからですね」
「そうなんだ、雨に遭ったら錆びて動けなくなるんだよ」
 木樵はそれが心配なのです。
「だから油さしは欠かせないし身体に油も塗っているんだ」
「雨も怖いんですね」
「僕は雨だけは苦手だよ」
 それだけはどうしてもというのです。
「だから気をつけてるんだ」
「僕は火だよ」
「あたいもね」
「僕もなんだ」
 かかしとつぎはぎ娘、ジャック達はこちらが苦手だというのです。
「燃えるからね」
「それだけは近付けないのよ」
「そのことは気をつけてね」
「わかりました、皆さん苦手なものがあるんですね」
「僕達は食べなくても寝なくてもいいけれどね」
 それでもだというのです。
「そういうものは苦手なんだよ」
「それじゃあそうしたものに対しては」
「注意しましょう」
 ジョージと神宝が言うのでした。
「かかしさん達が苦手なら」
「そういうものを怖がらずに済む様にしていきましょう」
「僕は水は平気だからね」
「僕は火は怖くないよ」
 かかしと木樵がそれぞれ言います。
「そうしたことも考えてね」
「旅をしていこうね」
「わかりました、じゃあ雨が降る時間や寝る時間になったら」
 その時はとです、カルロスは丁度右手にあった森を見て皆に言いました。
「ああした森の中に入りましょう」
「そうね、そうした時はね」
 恵梨香はカルロスのその言葉に頷いて答えました。
「そうした場所に入ってね」
「休もうね」
「そうして休みながらでもね」
「エメラルドの都に行こうね」
 こうお話するのでした、そして。
 一行は道を進んでいきます、黄色い煉瓦の道を行く間食べものにも飲むものにも困りませんでした、所々に森や湖があるからです。
 朝もお昼も夕方もです、五人はパンや果物を楽しみました。湖はお茶のものもあればジュースのものもあります。
 そうしたものも食べながら三日進みました、そして三日進んだところでです。
 四日目の朝にです、森から起きたところでジョージがかかし達に尋ねました。
「あの、今のところ崖とか怪物もいなくて」
「うん、ちゃんとそうした怖いものがない様にオズマが政治をしているからね」
「だからなんですね」
「そうだよ、オズの国にはそうしたこともなくなったんだよ」
「オズマ姫って凄くいい政治家なんですね」
「うん、それにお心も綺麗でね」
 かかしはにこりとしてオズマのことをお話します。
「素晴らしい国家元首だよ」
「そうした国家元首はいて欲しいですね」
 ジョージはかかしの言葉にしみじみとして言いました。
「プレジデントにも」
「うん、確かにね」
「本当にそう思うよ、僕も」
 神宝とカルロスもジョージの言葉に頷きます。
「魔法使いさんもいいと思うけれど」
「オズマ姫もね」
「オズマ姫は本当の魔法が使えるからそうしたこともすぐにわかるのよね」
 何処に崖があるか、怪物がいるといったことがです。ナターシャはそのことを言うのでした。
「魔法使いさんは最初は手品師だったから」
「そうした意味では魔法使いでも」
「そう、魔法は使えなかったのよ」
 オズの魔法使いが使えたのは最初は手品でした、ナターシャは恵梨香にこのことをお話するのでした。そうだったといです。
「だからオズの国の何処もすぐに見られなかったのよ」
「それで崖や怪物にもだったの」
「すぐに対応出来ないところがあったのよ」
 この辺りは仕方がありません、手品と魔法は違いますから。
「今は魔法が使えるけれど」
「そうだったわね」
「そうだよ、魔法使いさんもオズの王様として凄く頑張ってたんだけれどね」
 木樵が五人にこのことを言ってきます。
「魔法を使えるってことは大きなことだからね」
「それでなんですね」
「オズマ姫がオズの女王になってからは変わったんですね」
「そうだよ。しかし君達オズの国のことにも僕達のことにも詳しいね」
「本で読みました」
 恵梨香がにこにこと木樵に答えます。
「この国について書いた本を」
「あっ、ボームさんが書いた本だね」
「はい、ライマン=フランク=ボームさんです」
「あの人もエメラルドにいるよ」
 木樵は五人にその人のこともお話しました。
「王室の歴史編纂室の室長さんで他にも色々な役職を持っている人だよ」
「あの人もですか」
「エメラルドの都におられんですか」
「今はね」
 そこにいるというのです。
「アメリカからこっちに来たんだよ」
「そうなんですか」
「あの人が君達に僕達のことを教えてくれたんだね」
「ドロシーさんのことも」
「そうそう、最初にドロシーと会ったのがはじまりだったね」
「そうだったね」
 かかしは木樵の言葉に頷きました。二人はこのマンチキンの国ではじめてドロシーと会った時のことを思い出してにこにことしています。
「僕はドロシーに畑から出してもらったよ」
「僕は関節のところに油をさしてもらってだったよ」
「それでドロシーと一緒に旅をして」
「それからずっと一緒だったね」
「その本でオズマ姫のことも教えてもらったんです」
 恵梨香はオズマ姫についてもそうだったと言いました。
「オズマ姫は最初男の子でしたね」
「そう、実は女の子でね」
「オズの国の女王様だったんだよ」
「そのオズマ姫が戻ってからだよ」
「この国はさらによくなったんだよ」
「オズマ姫にも会えるんですよね、私達」
 恵梨香は今からそのことが楽しみで仕方ありません、それでこれからのことを考えてとても楽しみに思っているのです。 
 だからです、今歩いている黄色い道もです。
「この道も歩いていて楽しいです」
「それは何よりだね、あたい達もね」
 つぎはぎ娘は黄色い道をぽんぽんとステップを踏む様に歩いています、身体の中は綿なのでとても軽やかです、
「この道を歩くの好きなのよ」
「そうなんですね」
「色々な人にも会ったりするし」
「そうそう、この辺りだったかな」
 ここで木樵はふと思い出したみたいに言いました。
「僕達が鼠の女王と会ったのは」
「そうだったと思うよ、ここがね」
「うん、山猫から助けてあげてね」
 かかしとこうしたお話をしているとです、ここで。
 一行にです、右手の茂みからこう声がしてきました。
「お久しぶり」
「おや、声をすれば」
「早速だね」
「元気そうだね」
 かかしと木樵がその声に応えるとです、その右手にです。
 一匹の鼠がいました、その鼠の頭には小さな王冠があります。その王冠を頭に戴いている鼠を見てでした。
 神宝がです、かかしと木樵に尋ねました。
「この鼠がですね」
「そうだよ、鼠の女王様だよ」
「僕が助けたね」
「あの時は有り難う」
 かかしと木樵が神宝に答えるとです、その鼠の女王が言ってきました。
「お陰で今も女王として鼠達と仲良くしているから」
「全く、あの時はびっくりしたよ」
 今度は左手から声がしてきました、そこにはです。
 山猫がいました、山猫はやれやれといった顔で木樵に言います。
「木樵さんがね」
「あれっ、君首は」
「くっつけてもらったよ、あの後で」
 山猫は木樵に首を切られて鼠の女王を食べようとするのを止められたのです。けれど今も元気に生きています。
「獣医さんにね」
「あの時は手荒なことをしたね、御免ね」
「いいよ、だってくっついたから」
 その首がだというのです。
「ブリキの首にはならなかったから」
「ははは、僕みたいにだね」
「そう、元通りだからね」
「ブリキの首もいいものだよ」
「私は元の首がいいのよ」
 山猫にしてみればそうだというのです。
「さもないと美味しいものが食べられないじゃない」
「うちの臣民は食べないで欲しいわね」
 右側から鼠の女王が山猫に抗議します。
「お願いだからね」
「そう言うけれど私は山猫よ。山猫は鼠を食べるものよ」
「お魚にしなさい」
「お魚は好きじゃないのよ」
 どうやらこの山猫は偏食家みたいです、山猫も猫なのでお魚は好きな筈ですがそっちは食べたくないというのですから。
「だからね」
「鼠だっていうのね」
「そう、頂くわ」
「いやいや、君は鼠を食べなくていいんだよ」
 ここでかかしが山猫にこう言いました、山猫の方に顔を向けてです。
「全くね」
「あら、山猫なのに?」
「そうだよ、今じゃキャットフードというものがあるからね」
「キャットフードってあの」
「猫の御飯さ、最近はそれが出て来る洞窟もあるから」
「そこに行って食べればいいのね」
「じゃあ君は鼠だけしか食べられないのかい?」
 かかしは山猫にこうも尋ねました、
「それだったら僕も別のアイディアを出すけれど」
「鼠でなくてもいいわよ」
 山猫はかかしの顔を見上げて答えました。
「別にね」
「そうだよね、じゃあね」
「これからはキャットフードを食べるわ」
「ここから少し行った山の麓にあるから」
「そのキャットフードがある洞窟がなのね」
「そこに行って食べるんだよ」
「わかったわ、それじゃあね」
 山猫はかかしの言葉に頷きました、こうして鼠は食べらえなくなりました。鼠の女王もこのことにはほっとしてかかしに言うのでした。
「有り難うね、助かったよ」
「いやいや、こうすれば皆幸せだからね」
「最近はそういうのもあるんだね」
「キャットフードだね」
「猫の御飯は私達だけじゃなくなったのね」
「色々出来てるんだよ、今は」
 かかしは鼠の女王にもお話します。
「キャットフードの他にも缶詰とかもね」
「缶詰?あの硬い鉄の缶の中に食べものが一杯詰まってる」
「そういうのもあるんだよ」
「それは洞窟にあるのかしら」
「そっちは木に実って出て来るんだ」
「そうなのね」
「そこを開けても食べるものがあるんだよ」
 かかしは鼠の女王に顔を向けてお話します、今度は。
「今はね」
「そうなのね、じゃあ私達の食べる缶詰もあるのね」
「あるよ、君達も食べればいいよ」
「そうするわね、世の中変わるのね」
「オズの国もね。ただこの国はいいものはそのままでね」
 そのまま残ってだというのです、いいものは。
「さらにいいものが出て来るんだ」
「だからキャットフードの洞窟とか缶詰の木もですね」
「そう、出て来るんだ」
 かかしは神宝にお話します。
「そうなんだよ」
「成程、じゃあ僕達も缶詰の木を見つけて開ければいいね」
「缶切りは必要ですか?」
 ジョージは缶詰には欠かせないこの道具のことを尋ねました。
「それは」
「缶詰の木に一緒に出ているよ」
 かかしはジョージにも答えます。
「それもね」
「そうなんですね」
「そう、缶詰も心配しなくていいから」
「本当に便利ですね、缶切りまで出ているなんて」
「それがオズの国だよ」
「人に優しい国ですか」
「そうなるね。もっともこの国にいるのは人間だけじゃないよ」 
 かかしは自分達のこともお話します。
「僕達もいるからね」
「そうですね、僕達はボームさんの本を読んで知っていましたけれど」
 カルロスもその人の本を読んだことがあります、それで知っているのです。
 しかしです、それでもなのでした。
「最初かかしさん達を見たらびっくりしますよ」
「じゃあ僕もかな」
 ジャックはカルロスの言葉を聞いて彼に尋ねました。
「やっぱり皆僕を見たらびっくりされるのかな」
「うん、そうなるよ」
 実際にそうなるとです、カルロスもジャックに答えます。
「僕もジャックさん達のことを知っているから驚いていないしね」
「ボームさんに感謝しないとね」
「そうだよね、僕達にジャックさん達のことを教えてくれたから」
「君達もオズの国に来られたしね」
「そうですね。それでジャックさん達にも人間でない人が一杯おられて」
「動物達も喋るしね」
「そうした国ですね」
 カルロスもボームさんの本を読んでいるので知っています、本当にボームさんは五人にも色々と紹介してくれました。
「鼠の女王と山猫のことも」
「私達のことも有名なのね」
「それは知らなかったわ」
 鼠の女王と山猫もこのことに少し驚いて言いました。
「ただここにずっと暮らしているだけだと思ったのに」
「違うのね」
「うん、僕も知っている位だからね」
 カルロスはにこりとして二匹にお話します。
「有名だと思うよ」
「そのボームさんという人の本のお陰で」
「私達もあんた達に知らているのね」
「そうだよ」
「ボームさんに感謝しないとね」
「全くだわ」
 鼠の女王と山猫はしみじみとした口調になりました、そうしてでした。
 二匹はそれぞれの場所に戻りました、そのお話が終わってからです。
 一行は再び黄色の道を進んでいきます、その途中で、です。
 ジャックは右手にカボチャ畑を見つけました、見れば畑には青いカボチャが一杯あります。そのカボチャ達を見てです。
 皆にです、こう言いました。
「ちょっといいかな」
「あら、かぼちゃを交代するのね」
「うん、そうしたいんだ」
 こうつぎはぎ娘にも言います。
「そろそろね」
「あんたの頭は時々換えないといけないからね」
「だからなんだ、今丁度新鮮なカボチャを見付けたから」
「交換ね」
「そうするよ」
「よし、じゃあちょっと休もう」
「あそこに行ってね」
 かかしと木樵も応えます、そしてでした。
 二人は畑の傍にお家を見つけました、大きな青いログハウスのお家です。三角の木の屋根には煙突が見えます。
「あそこが畑を耕している人の家だろうしね」
「あそこに行ってお話をしよう」
「うん、じゃあね」
 ジャックは二人の言葉にも応えました、そしてです。
 一行はそのログハウスに向かいました。勿論五人も一緒です。ですがここで恵梨香は首を傾げさせて四人に尋ねました。
「ちょっと気になることがあるけれど」
「気になること?」
「何それ」
「うん、ジャックさんの頭っていつもこの色よね」
 黄色がかったオレンジ色のカボチャです、ハロウィンによく使われているカボチャが彼の頭になっているのです。
「けれどマンチキンのカボチャって」
「青いわよね」
 ナターシャが答えました、恵梨香のその言葉に。
「見たところ」
「うん、そうよね」
「今確かジャックさんのお家は」
「ウィンキーにあるよ」
 ジャックからです、恵梨香に答えてきました。
「今僕はそこに住んでいるんだ」
「そうですよね、今は」
「うん、そうだよ」
「じゃあウィンキーは黄色だから」
 マンチキンが何でも青いのに対してウィンキーは何もかもが黄色いのです。黄色がウィンキーの色だからです。
「カボチャも」
「黄色いよ」
「けれど今のジャックさんのカボチャの色は」 
 黄色がかってはいます、けれどオレンジ色です。だから言うのです。
「黄色じゃないし」
「あの畑のカボチャを貰ったら」
 ナターシャはその畑のカボチャを見ました、やっぱりその畑のカボチャも青いです。マンチキンの綺麗な青です。
「やっぱり」
「ジャックさんも青くなるのかしら」
「そうじゃないかしら」
 こう二人でお話します、どうなるのかと思いながら。
 男の子三人もそのことが気になります、その中ででした。
 一降雨はログハウスの扉を叩きました、そして出て来た血色のいいお顔のマンチキンのおじさんに言うのでした。
「あの、よかったらカボチャを一個交換してくれませんか?」
「あっ、カボチャ頭のジャックさんじゃないかい」
 おじさんは笑顔でジャックに応えてきました、そして他の人達も見て言います。
「かかしさんに木樵さん、つぎはぎ娘さんに」
「この子達は僕達の友達です」
 ジャックは笑顔でおじさんにこのこともお話します。
「ですから安心して下さい」
「そうなんだね、それでカボチャを」
「はい、僕の頭のカボチャとおじさんの畑のカボチャを」
「いいよ、じゃあ一個好きなのを持っていくといいよ」
「有り難うございます」
「それでジャックさんの今のカボチャは」
「好きに使って下さい」
 ジャックはにこりと笑っておじさんに言いました。
「スープでもパイでよ」
「悪いね、じゃあパイにさせてもらうよ」
「はい、それじゃあ」
 こうしてお話はあっさりと決まりました、ジャックはおじさんの畑から新鮮な青いカボチャを一個貰いました。そうしてです。
 そのカボチャの目とお口を作って頭のそれと交換するとです、カボチャの色は。
 青から黄色がかったオレンジになりました、五人はそのカボチャの色が変わったのを見て驚いて言いました。
「へえ、そうなるんだ」
「カボチャの色が変わるんだ」
「あっという間だったね」
 男の子三人がそれぞれ言いました。
「いや、どうなるかって思ったけれど」
「それがジャックさんの色なんだね」
「どんなカボチャでもそうなるんだね」
「うん、そうなんだ」
 ジャックもです、こう五人に答えます。
「どんなカボチャでも僕の頭になればね」
「その色になるんですね」
「ジャックさんの色に」
「僕は僕だからね」
 今度は女の子二人に答えるジャックでした。
「僕の頭になればカボチャも僕の色になるんだ」
「それじゃあさっきまでのカボチャは」
 どうなるかとです、恵梨香はこのことについても言いました。
「どうなるんですか?」
「あれはウィンキーのカボチャだからね」
 その国で出来たカボチャだからだというのです。
「黄色になるよ」
「そうなんですね」
「そうなんだ、僕のカボチャはそうなるんだ」
「成程、そういうことなんですね」
「そうだよ、僕の頭は自由に交換出来てね」
 そしてなのでした、
「僕の色になるんだよ」
「それでカボチャを交換するだけで、ですか」
「何時までも生きられるんですね」
「この国では誰も死なないし歳も取らないよ」
 ジャックは五人にこのこともお話します。
「食べないと動けなくなる人はいるけれどね」
「それでも誰も死ななくて歳を取らない」
「そういう国なんですね」
「そうだよ、ただ僕は頭を入れ換える必要があってね」
「僕はブリキを身体に挿すんだ」
 木樵はそうしないと動けないのです。
「さもないと動けなくなるからね」
「僕は時々身体の中の藁を交換してるよ」
「あたいは綿をね」
 かかしとつぎはぎ娘はそうだというのです。
「そうすると動きがよくなって気持ちがいいんだ」
「そうしてるんだよ」
「ううん、それでもね」
「そうよね」
 それぞれそうしたことをしなくてはならくともです、何も飲まず食べず寝らず疲れずにいられることはです。恵梨香とナターシャは二人でお話します。
「凄いわよね」
「有り難いと思うわ」
「確かにね。僕も休む必要はないからね」
 ジャックからも言ってきます。
「それはかなり大きいね」
「そうですよね、それだけで」
「かなり」
「そうだよ、さて頭も交換したし」
 それでだというのです。
「また行こうね」
「はい、いざエメラルドの都に」
「行きましょう」
「あと三日位だよ」
 ジャックは夜休む分を計算に入れて五人にお話します。
「エメラルドの都までね」
「あと三日ですか」
「もう半分越えたんですね」
 最初ここに来た時に一週間でした、もう四日歩いているからです。
「それじゃあもう少し歩いたら」
「元の世界に帰れるんですね」
「そうなるよ、ただこの世界は凄く面白いから」
 それでだとです、ここでこうも言うジャックでした。
「色々と回ったらどうかな」
「マンチキンとエメラルドの都以外のですか」
「他の国にも」
「そうだよ、色々な場所に行けばね」
 いいというのです。
「楽しめるよ」
「とはいっても」
 五人共です、ジャックからお誘いを受けてもです。それでもでした。
 お互いに困った感じの顔になって見合ってからこうジャックに答えました。
「私達今は元の世界に帰りたいです」
「こっちでどれだけいても向こうの世界では一瞬ってわかっていても」
「やっぱりお家に帰りたいです」
「そうしたいです」
「そう、それじゃあ仕方ないね」
 五人がそう思っているのならとです、ジャックも言いました。
「じゃあエメラルドの都に着いたらね」
「はい、オズマ姫にお願いして」
「そのうえで」
「元の世界に帰るといいよ」
 こうしたこともお話してでした、そのうえで。
 一行は黄色い道に戻りました、そしてでした。
 黄色い道を歩いていきます、道の左右はまだ青いです。ですが。
 その青い世界もです、やがては。
「緑になるんだね」
「そうだね」
 神宝はジョージの言葉に笑顔で頷いて答えました。
「エメラルドの都に行けばね」
「そうなるね」
「エメラルドの都に着いたら」
 どうなるか、カルロスは言いました。
「まずはサングラスを貰わないとね」
「さもないと眩しいのよね」
「うん、エメラルドの都はその名前通しエメラルドで飾られているからね」
 だからだとです、カルロスは恵梨香に答えます。
「そうなるよ」
「そうだったわね」
「うん、だからね」
 都の門でサングラスを貰わないといけないのです。
「あそこに入るにはね」
「それはよね」
「そう、そのことは頭の中に入れておこうね」
「エメラルドね」
 この宝石についてです、恵梨香はこう言いました。
「お母さんが好きなのよ」
「へえ、そうなんだ」
「お母さん緑色が好きで」
 それでだというのだ。
「エメラルドも好きなの」
「緑はいい色だよね」
「カルロス君もそう思うのね」
「緑はブラジルだと黄色と一緒に好かれている色なんだ」
 カルロスは自分のお国のことを言いました。
「国旗にも使われているし」
「ブラジルの国旗ね」
「サッカーのユニフォームにもね」 
 それにも使われているというのです。
「鮮やかでいいよね」
「緑だけじゃないのね、ブラジルは」
「うん、黄色もだよ」
「それじゃあエメラルドの都と僕の国だね」
 緑と黄色と聞いてです、木樵が笑顔で言ってきました。
「緑と黄色だから」
「あっ、そうですね」
「そうなりますね」
「それに君の服はね」 
 木樵はカルロスの黄色い上着も見て言いました。
「僕の色そのままだね」
「そういえば君の服は青いね」
 かかしは神宝の上着を見て言います、その青い上着をです。
「マンチキンだね」
「あっ、そうですね」
「それであんたの服は赤ね」
 つぎはぎ娘はジョージの赤い上着をボタンの目でじっと見ています。
「カドリングじゃない」
「そうなるね」
「ウィンキーとマンチキンとカドリングだね」
 三人はそれぞれ三国揃っています、かかしは右手の人差し指を立てて機嫌よくお話します。
「三国だね」
「後はギリキンとエメラルドの都ね」
「そうよね」
 恵梨香とナターシャはここでこうお話しました。
「じゃあ私達も?」
「その色の服がいいのかしら」
「そこはこだわる必要はないんじゃないかな」
 ジャックがその二人に言ってきました。
「特にね」
「そうなんですか」
「こだわることも」
「国にもそれぞれの色があるのと同じで人にもだからね」
 それぞれの色があるというのです。
「それぞれの色があるから」
「じゃあ私の黒もですか」
「ピンクもいいんですね」
「いいと思うよ、それでね」
 こうしたこともお話してなのでした、一行はエメラルドの都へ向かう黄色い道を歩いていきます。もうそれは半ばまで過ぎています。



物語として書かれたオズより後なのは間違いないみたいだな。
美姫 「何て言っても作者までもがいるみたいだしね」
だとすると、特に問題もなく元の世界へと戻れるかも?
美姫 「今の所、道中ものんびりとした感じだしね」
どんな風になるのかが気になるところ。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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