『オズの五人の子供達』




            第一幕  不思議なジャック

 今日はハロウィンです、世界中から人が集まって勉強をしている八条学園でもハロウィンを楽しんでいます。
 あちこちで魔女や妖怪、お化けの格好をした人達、特に学生さん達が楽しんでいます。そしてその中に。
 ある女の子がいました、その娘はといいますと。
 黒髪を長く伸ばしていて切れ長の黒い目を持っています。お人形さんみたいな整った顔立ちの小柄な女の子です。お顔とお肌はとても白くピンクと白の上着と長いスカートを着ています。
 この娘の名前を三上恵梨香といいます。八条学園初等部に通う娘で五年生です。この恵梨香に綺麗な長い金髪で青い大きな目の女の子が声をかけてきました。ふわりとした黒いドレスは何処か魔女みたいです。この娘の名前をナターシャ=ゴルチャコワといいます。ロシアから来た留学生で恵梨香と同じ初等部の五年生です。
 そのナターシャがです、恵梨香に声をかけてきて言います。
「恵梨香、楽しんでる?」
「あっ、ナターシャちゃん」
「私は楽しんでるけれどね」
「そうみたいね、ナターシャちゃんの服も」
「そう、これね」
 ナターシャはにこりとしてその黒いドレスをひらひらとさせます。そのうえで身体はくるりと一回転させます。
 それからです、こう言うのです。
「これゴスロリの服なの」
「ゴスロリって聞いたことはあるけれど」
「それでもなのね」
「そう、ハロウィンに合ってるわよね」
「そうよね、私ゴスロリの服ってはじめて見るけれど」
 ナターシャの黒いドレスとストッキング、それに頭や手のアクセサリー、小悪魔めいたそれも見ての言葉です。
「似合ってるわ」
「似合ってるの?私が」
「そう、似合ってるわ」
 そうだというのです。
「それにハロウィンに合ってるわ」
「そうなの、よかったわ」
 ナターシャは恵梨香の言葉ににこりと笑って応えます、ですが。
 ナターシャはその恵梨香の服を見てです、こう言うのでした。
「ただ恵梨香の服は」
「いつもと一緒だっていうのね」
「うん、そうよね」
「私あまり。ハロウィンの時はね」
「こうした服は着ないの?」
「そうなの」
 だからだというのです。
「いつもと変わらない格好なの」
「袴とかは着ないの」
「袴?剣道の?」
「そう、日本のね」
 ナターシャはにこりとしてです、今度は剣道の素振りの動きをしてみせます。そのうえで恵梨香に言うのです。
「あれとか」
「私剣道はしないし」
「茶道とか華道の方ね」
「そういうことは習ってるけれど」
 それでもだというのです。
「武道はしていないから」
「それじゃ袴ははかないの?」
「うん、武道ではね」
「じゃあ巫女さんになる時は着るわよね」
「巫女さんになることも」
 そのことはどうかとです、こう答えた恵梨香でした。
「ないから、今のところは」
「そうなの、何かね」
「何かって?」
「残念よ。折角似合いそうなのに」
「その言葉は嬉しいけれど」
 それでもだというのです、恵梨香はナターシャに困った笑顔になって言うのでした。
「ちょっとね」
「ちょっとなのね」
「袴は今のところ着ないから」
「やっぱり着物なのね、恵梨香は」
「それも滅多に着ないから」
 着物もだというのです。
「洋服ばかりよ」
「日本人は皆着物を着てると思ってたのに」 
 ナターシャはこのことは残念そうに言います、ロシアにいた頃は日本人は皆着物日本の服を着ていると思っていたのです。
 ところが日本に着てみると違いました、皆洋服を着ていて驚いたのです。それで今恵梨香にも言うのです。
「違ったなんて」
「日本でも同じだから」
「服はなの」
「そうなのよ、けれど日本だけっていうものは多いみたいだから」
「そうよね、神社とかお寺とかね」
「そういうものは楽しんでね」
「わかったわ、じゃあこれから二人でね」
 ナターシャは恵梨香に声をかけます。
「学園のあちこちをね」
「うん、見て回ろうね」
 恵梨香もナターシャの言葉に笑顔で応えます。
「これからね」
「そうしようね」 
 こう二人でお話をして学園のあちこちで行われているハロウィンの仮装行列や催しを観に行くのでした、けれど。
 二人にです、三人の男の子達が声をかけてきました。三人共ラフで動きやすいシャツとズボンといった格好です。
 茶色の髪に黒い目で顔にはソバカスのある鼻の高い男の子がいます。ジョージ=オーウェル。アメリカから来た留学生です。
 黒い髪に丸いお鼻、細い目で黒い髪です。王神宝、中国から留学に来ている初等部の生徒の一人です。
 最後はカルロス=アラゴン。ブラジルから来ています。黒い縮れた髪を肩まで伸ばした黒い目の男の子です。肌は褐色です。
 三人共初等部の五年生、恵梨香やナターシャと同じクラスにいます。その三人の男の子達が声をかけてきたのです。
「二人共何処に行くのかな」
「特に決めていないのなら僕達と一緒に行かない?」
「学園のあちこちを見て回ろうよ」
 こう二人の女の子に声をかけてきたのです。
「二人より五人の方が面白いしね」
「三人より五人の方がね」
「だからどうかな」
「えっ、五人でなの」
 恵梨香は目をしばたかせて三人の言葉に応えました。
「回るの」
「何か問題あるかな」
 カルロスはとても明るい笑顔でその恵梨香に尋ねます。
「そうして」
「ううん、そう言われると」
「ないよね」
「私はね」
「私もないわよ」
 ナターシャもこう答えます。
「特にね」
「じゃあいいよね」
「いいわ、けれどね」
 ここでこうです、ナターシャはカルロスに言います。
「私達女の子だから」
「エスコートしろっていうんだね」
「そこまでは言わないけれど」
 それではどう言うかといいますと。
「歩く速さは合わせてね」
「三人共歩くのが速いから」
 恵梨香も三人にこのことを言います。
「ちょっとそれがね」
「僕達そんなに歩くの速いかな」
「普通だよね」
 ジョージと神宝は恵梨香に言われて二人でお話します。
「これ位だよね」
「そうだよね」
「あんた達は野球とかバスケとかいつもしてるでしょ」
 ナターシャはそのジョージと神宝にこう言いました。
「カルロスだって」
「僕はサッカーだね」
「そのあんた達と恵梨香を比べたら」
「違うっていうんだ」
「そうよ、あんた達はスポーツマンで恵梨香は華道や茶道なのよ」
 つまり文化系だというのです、恵梨香は。
「私も身体を動かしてるけれど」
「ナターシャはバレエだったね」
 神宝がナターシャに笑顔で言ってきました。
「そうだったね」
「そう、バレエでいつも身体を動かしてるけれど」
「じゃあ僕達と同じ速さで歩けない?」
「何言ってるのよ、あんた達は男の子で私達は女の子よ」
 だからだというのです。
「背だって違うし」
「あっ、そういえばね」
 三人の男の子達は日本だと中学生だと言っていい体格です、背も高いです。けれど恵梨香とナターシャは二人共普通の女の子、小学五年生の背です。
 だからです、ナターシャはこう言うのです。
「足の長さも違うし体力も」
「違うからなんだ」
「そう、私達はあんた達に合わせられないわよ」
 神宝だけでなくジョージとカルロスにも言います。
「悪いけれどね」
「悪くないけれどね。けれどレディーファーストじゃないとね」
 ジョージはナターシャの言葉を聞いて言いました。
「よくないよね」
「そう考えてくれると有り難いわ」
「じゃあ君達に合わせるよ」
 ジョージがにこりと笑って言います、見ればジョージが赤、神宝が青、カルロスが黄色の上着です、デザインはそれぞれ違いますが色も違います。
「そうするよ」
「そういうことでね」
「じゃあまずはね」
 お話が決まってからです、カルロスが四人に言ってきました。
「最初は何処に行こうかな」
「大学の方に行く?」 
 恵梨香がそっとこう提案しました。
「そうする?」
「大学の方に?」
「あそこで仮装パレードやってるから」
 それでだというのです。
「それ観に行かない?」
「あっ、いいね」
 カルロスは恵梨香のその言葉に明るい笑顔で応えました。
「それじゃあね」
「うん、五人でね」
 こうお話してです、五人は恵梨香の提案に頷いてそのうえで大学の方に行きました。そうして五人で仮装パレードのところに来ると。
 魔女や妖怪、幽霊の格好をした人達が並んで歩いています。歩きながらパフォーマンスをしている火共多いです。
 その人達を見てです、ジョージが四人ににこにことしてお話します。
「やっぱりハロウィンは仮装だよね」
「そうよね、けれど今仮装しているの私達の中では私だけよ」
 ナターシャはそのジョージにこう言います。
「四人共普段の格好じゃない」
「別に仮装しなくてもいいじゃないか」
 ジョージはそのナターシャにこう返します。
「そうじゃないのかい?」
「それはそうだけれどね」
「仮装してお菓子を貰いに行くのもいいけれど」
「ラフな格好で観て回るのもいいのね」
「うん、そう思ってね」
「僕達はこの格好なんだ」
「普段通りなんだよ」 
 神宝とカルロスもそうだというのです。
「それでだから」
「観て回ってるんだ」
「そうなのね、恵梨香と違う理由にしても」
「僕達も普段着だよ」
「この格好で楽しんでるよ」
「ハロウィンは観ても楽しいからなのね」
 ナターシャは二人の言葉を受けて納得しました。
「じゃあ私達も」
「うん、観て楽しもうね」
 恵梨香はナターシャににこりと笑って応えます、そうして五人で観るのでした。
 五人は色々な仮装の人達を観ました、そしてその中に。
 カボチャ頭に細い身体と手足の人を観ました、恵梨香はその人を観て少し驚いた顔になってこう言いました。
「あれっ、あの人って」
「どうしたの?恵梨香ちゃん」
「何かあったの?」
「うん、あの人」
 ジョージと神宝にその人を手で指し示しつつお話します。
「あのカボチャ頭の人だけれど」
「あれジャックじゃない」
 ジョージはそのカボチャ頭の人、オレンジに黄色が入った鮮やかな色で丸い二つの目とギザギザのお口のその人を見て言いました。
「カボチャ頭のね」
「ジャックって?」
「ほら、オズシリーズに出て来る」
「そういえば出て来たわね、そうしたキャラクターが」
「うん、あれだよ」
 そのジャックだというのです。
「あの人はね」
「カボチャ頭のジャックの衣装を着てるのね」
「そっくりだね」
 ジョージはそのジャックを見て感心して言いました。着ている服は昔のアメリカの服西部劇に出て来てもおかしくない感じです。
「本人みたいだよ」
「あれっ、あの人」
 神宝もその人を見ています、そのうえでこう言いました。
「何か違う様な」
「違うって?」
「動きがおかしくないかな」
 こう言うのでした、恵梨香に応えて。
「どうも」
「そういえば何かギクシャクしてるわよね」
 恵梨香もその人をじっと見て言いました。
「人の動きよりも」
「固いよね、何となく」
「ええ、指の動きも」
 そこも見るとでした。
「固いわ」
「何か普通の人と違うみたいな気がするね」
「若しかしたら本人だったりしてね」
 カルロスがここで笑って冗談を言いました、仮装ではなくて本人つまりカボチャ頭のジャック本人ではないのかというのです。
「中に誰もいなくて」
「そんな訳ないよ」
「そうだよ、、有り得ないよ」
 ジョージと神宝がカルロスの言葉を笑って否定しました。
「ジャックがこんなところにいるなんてね」
「こっちの世界にはね」
「ジャックはオズの世界にいるんだから」
「この世界にはいないよ」
「あれはお芝居だよ」
「ジャックになりきっているんだよ」
「いえ、それはどうしかしらね」
 カルロスの冗談に笑って応える二人にです、ナターシャが言ってきました。ナターシャもジャックを見ています。
「何かおかしいわよ」
「おいおい、ナターシャもそう言うんだ」
「あの人が本物のジャックだって」
「よく見て、カボチャの目やお口の中がね」
 そこを見るとだというのです。
「何もないわよ」
「えっ、まさか」
「そんな筈がよ」
「よく見て」 
 ナターシャは自分の言葉を否定しようとする二人にさらにお話します。
「カボチャ頭の中ね」
「そういえば何か」
「おかしいね」
 二人もカボチャ頭の中、目やお口の奥をじっと見ました。するとその中は。
「何も見えないね」
「人のお顔は」
「それに身体も肌じゃないね」
「完全に木ね」
「あそこまで精巧な仮装ってないでしょ」
 ナターシャは今もその人をまじまじと見つつ言います。
「だから若しかしなくても」
「本物なんだ」
「本物のジャックかも知れないんだ」
「まさかと思うけれどね」
 ナターシャはそっと四人に言いました。
「あの人、本物のカボチャ頭のジャックじゃないかしら」
「確かめる?それじゃあ」
 そっとです、カルロスは皆に提案しました。
「あの人が本物かどうか」
「今仮装パレードが終わるから」
 パレードは終点に来ました、終点の場所にはテーブルが沢山用意されていてその上にはお菓子やジュースが一杯置かれています。ハロウィンパーティーも行われるのです。
 そこを見ながらです、恵梨香も皆に言います。
「その時に調べよう」
「うん、それじゃあね」
「その時にね」
 こうお話してでした、そうして。
 五人はパレードが終わるのを待ちました。パレードの終点にあるパーティー会場に入ります。そしてそこでその人を見ていますと。
 パーティーには参加せずそっとある場所に向かいました、そこはといいますと。
「あそこは確か」
「ええ、大学の時計塔の方よ」
 ナターシャが恵梨香に答えます。
「そこに行こうとしているわ」
「そうよね、あそこにね」
「あの時計塔幽霊が出るのよね」
 ナターシャはここでこのことを言いました、八条学園には幽霊や妖怪のお話がかなりありますがその時計塔もそのうちの一つなのです。夜の十二時になると時計塔の窓のところに幽霊が出て来ると言われているのです。
 学園の心霊スポット、怪談場所の一つです。その人はそこに向かっているのです。
 それを見てです、ナターシャは言うのです。
「そんな場所に行くのね」
「どうするの?それで」
 神宝がここで尋ねます。
「あの人についていくの?どうするの?」
「まあ幽霊が出てもね」
 ジョージが神宝に応えて言います。
「怖くない幽霊みたいだし」
「ただそこにいるだけみたいね」
 恵梨香はその怪談話を思い出して答えます。
「別に何もしてこないみたいよ」
「それに今お昼だしね」
 ジョージは時計塔の幽霊が出て来る時間からも言います。こうした幽霊は大抵十二時に出て来ると決まっています。だからお昼にはというのです。
「だからね」
「行ってもいいわね」
「うん、それにあの人が気になるし」
「じゃあついていって」
「確かめよう」
 あの人が誰なのかをです。
「本物かも知れないから」
「そうね。それじゃあね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 五人はそのジャックそっくりの人についていきました、その人は大学の時計塔のところに入りました。そうしてです。
 上にどんどん登っていきます、五人はその人についていって階段を登っていきます。見つからない様にこっそりと隠れながら。
 その中で、です。カルロスが言いました。
「ねえ、この時計塔の頂上って何があるのかな」
「何って時計塔だから時計を動かす場所だよね」
 神宝がカルロスにこう返します。
「それだよね」
「うん、そうだよね」
「着替える場所とかはないよ」
 こう言うのでした。
「本来はね」
「そうだよね、じゃあ何であの人はそこに行くのかな」
「それもわからないよね」
「確かにね」
「余計に怪しくなってきたね」
 カルロスは皆と螺旋階段、時計塔のそこを隠れつつ進みながら皆に言いました。
「あの人は」
「時計塔の一番上で着替えるものかしら」
 恵梨香はこう考えましたがすぐにそれはどうかと思いました。
「そんなことないわよね」
「一人で着替えたいならトイレがあるじゃない」
 ジョージはこう恵梨香に返しました。
「だからね」
「時計塔の上で着替えないわよね」
「うん、ないよ」
 そんなことはまず、というのです。
「そんなことはね」
「じゃあどうしてかしら」
 時計塔の頂上に向かっているのは。
「今ここを登っているのかしら」
「謎は全て一番上のお部屋にあるわね」
 ナターシャは冷静にこう言いました。
「ここであれこれ言うよりもね」
「まずはなのね」
「ええ、上に行きましょう」
 その人を尾行していってです。
「そうしましょう」
「じゃあこのまま」
「隠れながらね」
 螺旋階段は真ん中の円柱の様な場所に巻き付く様にしてあります。中に時計を動かす機械が一杯入っているのです。そしてその円柱が物陰になっていて五人は隠れられているのです。とても有り難いことにです。
「一番上まで行きましょう」
「じゃあね」
 恵梨香も男の子達三人もナターシャの言葉に頷きました、そうしてです。
 その人は一番上のお部屋の扉を開けました、そして。
 五人は扉のところにそっと来ました、そのうえでその人が閉じた扉をそっと開けてお部屋の中を覗いてみますと。
 その人はお部屋の真ん中にいました、そこからです。
 一言です、こう言いました。
「オズ」
 若い男の人の声です、その声でこう言いますと。 
 その人の前に淡い青色の渦巻き、二メートルはあるそれが出てきました。渦は右から左に回っています。
 その渦にです。その人は入っていきました。そうして消えてしまいました。
 その人が入り終えると渦はすうっと煙の様に消えてしまいました。五人はその一部始終を見ました。そうしてです。
 五人共です、驚いた顔でお互いを見て言いました。
「今の見た!?」
「うん、見たよ」
「あの人消えたね」
「急に青い渦が出て来てね」
「その中に入って」
 本当に驚いている顔でお話をします。
「こんなことがあるなんて」
「何か嘘みたいだよ」
「けれど実際に渦が出て来て」
「あの人が中に入ってね」
「消えたから」
「ねえ、ひょっとしたらね」
 ここで、です。恵梨香が四人に言いました。
「私達もあの青い渦を出せるかしら」
「僕達も?」
「あの渦を出せるかっていうんだ」
「うん、どうかしら」
 こうジョージと神宝にも言います。
「出来るかしら」
「とりあえずやってみよう」
 カルロスが恵梨香にこう答えました。
「やってみないとね」
「実際になるかどうかはわからないから」
「そう、やってみよう」
 カルロスは恵梨香だけでなく他の皆にも言います。
「それじゃあね」
「ええ、じゃあね」
 恵梨香が最初にカルロスのその提案に応えました。
「お部屋の中に入ってね」
「うん、やってみよう」
 他の三人も二人に頷いてでした、そうしてです。
 五人はお部屋の中に入りました、お部屋の中は黒い煉瓦造りで色々な機械が横にあります。それで時計を動かす様です。
 けれど今はその機械には目をくれずにです、五人は。
 お部屋の真ん中に行きました、そうして。
 そこで、です。それぞれ顔を見合わせて頷き合って。
 顔を正面に向けてこう言いました。
「オズ」
 五人が一度に言いました、すると。
 五人の前にです、あの淡い青の渦が出て来ました。大きさも渦の流れも同じです。その渦を目の前にしてです。
 ジョージがです、皆に顔を向けて言います。
「じゃあ僕が最初に入るから」
「じゃあ次は僕がね」
「その後で僕だね」
 神宝とカルロスも言います、そして。
 ナターシャはそっと恵梨香の手を自分の手で握って微笑んで言いました。
「行きましょう」
「うん、今からね」
「この渦の中に入りましょう」
「渦の向こうには何があるのかしら」
「それを今から確かめるのよ」
 その為にもです、中に入ろうというのです。
「大丈夫よ、皆一緒だから」
「そうよね、一人じゃないからね」
「そう、安心していいから」
 ナターシャは恵梨香に優しい微笑みで言います。そうしてでした。
 男の子三人がまず渦の中に入りました、それからです。
 恵梨香とナターシャも入りました、そうして渦の向こう側はといいますと。
 普通の野原でした、右手には森が見えます。野原には草とお花があります。ですがその野原はといいますと。
 緑色ではありませんでした、草が青いです。綺麗な青い色なのです。それは森の木の枝もお花もです。何もかもが青いのです。
 その青い世界を見てです、ジョージが言いました。五人共その青い野原の中に一つの場所に集まっています。
「ここはオズの国かな」
「あのカボチャ頭のジャックがいる」
「うん、だって青いから」
 だからだとです、ジョージは神宝に言います。
「だからね」
「マンチキンの国だよね」
 神宝もその青い野原を見回して言いました。
「東の」
「うん、マンチキンの国はオズの東にあってね」
「何もかもが青いからね」
「そんな国はここしかないよ」
 マンチキンの国しかというのです。
「だからここはね」
「マンチキンの国なんだ」
「そう思うよ、だって」
 ジョージは足元のお花を見ました、それは菫です。ですがその菫もです。
「青い菫があるから」
「菫は青くないわ、紫よ」
 ここでナターシャも言います。
「こんなコバルトブルーの菫はないわ」
「そうだよね、じゃあね」
「ここはマンチキンの国ね」
 ナターシャも確信して言います。
「そうとしか考えられないわ」
「だからだったんだね」
 カルロスは納得した顔で頷いています、そのうえでの言葉です。
「あの人は渦を出す時にオズって言ったんだ」
「そうだったんだろうね、さてオズの国に来たのはいいとして」
 ジョージは青い野原を今も見回しながら言います。
「これからどうしようかな」
「オズの国から元の世界に帰るには」
 恵梨香はこのことから考えて皆に言いました。
「オズの国の真ん中にあるエメラルドの都に行ってよね」
「オズマ姫に会えばよかったわね」
 ここで言ったのはナターシャです。
「オズの国の主の」
「あの人は色々な魔法を使えるから」
「だからあの人に会えばいいわね」
「それじゃあ今からエメラルドの都を目指そう」
 ジョージは恵梨香とナターシャのやり取りを聞いて言いました。
「そうしよう」
「そうね、それじゃあね」
「まずは黄色い煉瓦の道を探そうよ」
 ジョージは皆にこうも言いました。
「あの道はエメラルドの都まで一直線につながっているからね」
「そうだったね、あの道を行けばすぐに行けるね」
 神宝も言います。
「それじゃあね」
「黄色い道を探そう」
 皆はジョージの言葉に従いまずは黄色い煉瓦の道を探すことにしました、けれどここでなのでした。
 不意にです、五人に声をかけてくる人がいました、その人はといいますと。
「あれっ、君達あっちの世界の子供達だよね」
「はい、そうです」
「あちらの世界から来ました」
「そうだよね、まさかと思うけれど」
 声をかけてきたのはあの人でした、カボチャ頭のその人です。
「僕と同じ様にして来たんだね」
「じゃあまさか貴方は」
「カボチャ頭の」
「そうだよ、ジャックだよ」
 そのカボチャの頭から言ってきます、見ればその身体は木で木の身体の上に服を着ています。まさにカボチャ頭のジャックです。
「僕がね」
「まさかご本人がハロウィンに参加していたなんて」
「時々あっちの世界にも行っているんだ」
 ジャックは明るい声で恵梨香に答えます。
「そうして遊んでいるんだ」
「そうなの」
「あの学校の時計塔があっちの世界への出入り口なんだ」
 ジャックは五人にこのこともお話します。
「こっちの世界、オズの国からあっちの世界に行くには何処でもオズって言えばいいけれどね」
「こっちの世界に戻るにはなのね」
「うん、あそこでオズって言わないと駄目なんだ」
 その時計塔のところで、です。
「こっちの世界から出るのは絶対にあそこで戻るにもあそこに行かないといけないんだ」
「それでこっちの世界に出て来るのは?」
「あっちの世界に行く時にオズって言った場所だよ」
 そこに戻って来るというのです。
「そうなっているんだ」
「そうだったのね」
「うん、ところで君達は僕を見てここに来たんだよね」
「はい、そうです」
 恵梨香はジャックのカボチャの顔を見上げて答えました。
「ジャックさんと同じ様にして」
「そうだよね、じゃあ向こうの世界に戻るには」
「オズマ姫に会うんですね」 
 神宝がジャックに言ってきます。五人共ジャックの前にいますう。
「そうするんですね」
「そうだよ、オズマに会えばね」
 そうすればというのです。
「オズマが君達の世界に返してくれるから」
「それじゃあ」
「僕について来て」 
 ジャックは明るい声で皆に言いました。
「そうしたらエメラルドの都まで行けるからね」
「お願いします、それじゃあ」
「一緒に」
「うん、行こうね」
 こうしてです、五人はジャックと一緒にエメラルドの都に行くことになりました。オズマ姫に会って彼女の魔法で元の世界に帰してもらう為に。
 五人はジャックと一緒に今煉瓦の道に向かおうとしました、ですがここで。
 一行のところに三人来ました、彼等はといいますと。
 青い上着とズボン、黄色い布に顔を描いた人が来ました。頭には大きな縁の三角帽子があり手袋とブーツも着けています。
 二人目の人は全身ブリキです、頭の先は三角になっていてちゃんと目と鼻、口に耳もあります。その手には大きな斧があります。
 三人目はくるくると踊っています、茶色の三つ編みにボタンの目と刺繍でつけた口、身体はつぎはぎの布でできていて赤地に様々な色のチェックになっています、その上から服を着ています。五人はこの三人を見て言いました。
「かかしさんに」
「ブリキの木樵さんね」
「あとはつぎはぎ娘」
「あら、あんた達あたい達のことを知ってるの」
 そのつぎはぎ娘が言って来ました。
「そうなのね」
「有名人ですから」
 笑顔で、です。ジョージがつぎはぎ娘に答えます。
「オズの国の」
「そういうあんた達は見ない子達だけれど」
「ああ、ドロシーと一緒だね」 
 ここでかかしが言ってきました。
「あっちの世界から来た子達だね」
「はい、そうなんです」
「ジャックさんと一緒のやり方で来ました」
「そうだったんだね、実は私達もさっきまであっちの世界にいたんだよ」
 かかしはその描かれたお口の下に右手を当てて言います。
「ハロウィンのパーティーに参加していたんだ」
「あの学校で遊んでいたんだよ」
 ブリキの木樵も言ってきます。
「そうしていたんだ」
「それでなんですか」
「皆さんここに」
「遊びに行っていたのはあたい達だけよ」
 つぎはぎ娘は今もくるくると踊っています、そのうえでの言葉です。
「ドロシー達はエメラルドの国にいるよ」
「あっ、ドロシーもいるんだ」
 ドロシーと聞いてです、神宝は目を輝かせて言いました。
「あの火共」
「うん、いるよ」
 つぎはぎ娘は神宝に明るく答えます。
「ちゃんとね」
「そうなんだ、サイン貰えるかな」
「サイン?何枚でも書いてくれるよ」
 ドロシーはそうしてくれるというのです。
「ドロシーもオズマもね」
「じゃあドロシーに会った時は」
 サインを書いてもらおうとです、神宝は目を輝かせたまま微笑みました。
「サインしてもらおう」
「さて、ここで一つ問題があるね」
 かかしが言ってきました。
「食べものと飲みものことだけど」
「実は僕達お金も何も持っていないんです」
 カルロスがかかしに答えます。
「オズの世界はお金はいらないですよね」
「いらないよ、けれどね」
「食べものと飲みものはですね」
「君達は必要になるね」
 こう言うのでした。
「その二つは」
「そう、それですよね」
 恵梨香もかかしの言葉にすぐに応えます。
「かかしさん達は何も食べなくていいですけれど」
「それをどうするかだね」
「どうすればいいでしょうか」
「すぐ近くにパンの木があるよ」
 かかしは微笑んで五人の子供達も答えました。
「それはね」
「あっ、そうなんですか」
「すぐそこに紅茶の泉もあるよ」
 都合のいいことにそれもあるというのです。
「林檎や梨の木もあってね」
「今なっています?」
「オズの国だと果物は何時でも出来るよ」
 だから皆食べることには困らないのです、何時でも何処でも食べるものと飲むものが一杯ある国なのですから。
「林檎や梨だけじゃなくてね」
「じゃあそこに行けば」
「パンや果物を好きなだけ食べられるよ」
 そして紅茶もあるというのです。
「じゃあそこに案内するね」
「お願いします」
「それじゃあ行きましょう」
 ナターシャが四人に言います。
「かかしさん達と一緒にね」
「うん、まずは食べないとね」
「はじまらないからね」
 神宝とジョージはナターシャのその言葉に頷きました。
「そろそろお腹が空いてきた頃だし」
「ここで腹ごしらえをしておかないとね」
「パンに果物があると言うことなしだよ」
 カルロスはそれだけで満足といった様です、とても明るいお顔です。
「それじゃあ皆でね」
「行きましょう」 
 恵梨香もそのカルロスの言葉に明るく応えます、そうしてでした。
 五人はジャック達と一緒にエメラルドの都を目指す前にパンや果物を食べることになりました、まずは食べることからでした。



オズの魔法使いは知っているけれど。
美姫 「これは少し違う話みたいね」
既に物語があって、その上で迷い込むというか、自ら行ったと。
美姫 「後先考えないわね」
だな。確実に戻れるかは分からないってのに。勇気があるというか。
美姫 「まあ、どうやら問題なく戻れそうだけれどね」
さて、これから五人の少女たちがどうなっていくのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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