『三つのオレンジの恋』
第二幕 オレンジの中の姫
魔女クレオンタの城を目指す王子一行。その足取りは実に速いものだった。
瞬く間に森も河も谷も越え海も荒野も山もものとはしなかった。途中襲い掛かって来た魔物や野獣、山賊達もその知恵と剣で全て倒し今では最後の難関である砂漠を進んでいるのだった。
砂漠は辺り一面黄色く焼けた砂があるばかりである。空には太陽が憎らしいまでに強い光を放っている。その中を王子は道化師を連れて意気揚々と進んでいた。
「もうすぐ砂漠を越えるな」
「ええ、そうですね」
道化師は前を進む主の言葉に応えた。二人は確かな足取りで砂漠を進んでいる。
「三日歩いていますし」
「思ったより楽な旅だったな」
王子は堂々とした姿勢で前を進みながら言った。
「この旅は」
「楽っていいますか王子が凄過ぎるんですよ」
道化師はこれまでのことを振り返りながら彼に返した。
「だって何が目の前にあっても何が来ても」
「どうしたというのだ?」
「平気な顔で越えてやっつけちゃったじゃないですか」
どの様な困難な場所でも恐ろしい敵が出て来てもであったのだ。
「大海原も越えましたしドラゴンだってやっつけたし」
「その様なことは造作もないことだ」
ここでも胸を張って言う王子だった。
「今の私にはな」
「そうなんですか」
「目的があればだ」
王子の言葉は続く。
「どの様な困難も困難とはならない」
「どんなものがでもですか」
「そうだ。だからだ」
王子の足取りはここでも確かなものだった。
「私はオレンジを手に入れるのだ」
「わかりました。しかしですね」
不意に首を捻る道化師であった。
「一つ思うことがあるんですが」
「何だ?それは」
「何でオレンジなんですか?」
彼はそれがどうしてもわからないのだった。
「オレンジが。まああの性悪魔女の呪いのせいなんですがね」
「さてな。果たして何があるかだな」
「何も無いかも知れませんね」
こんなことも言う道化師だった。
「あいつのことですから。悪意のものですし」
「それでも私は手に入れる」
呪いをかけられたせいだとわかっていても王子の決意は揺るがなかった。
「三つのオレンジをな」
「わかってますよ。じゃあクレオンタのお城にですね」
「もうすぐだ」
こう話しながら先を目指す。その二人の前に黄金の髪と目の男が姿を現わしたのであった。
二人はその男を見て。すぐに言ったのだった。
「むっ、貴方は」
「魔女チェリーではないですか」
「私のことは知っているのだな」
チェリーは二人が自分を見ても驚かないのを見てまずはこう述べた。
「既に」
「貴方も有名人ですからね」
道化師が彼に言葉を返した。二人は自分達の前に姿を現わした黄金の髪と目の魔法使いと対しながらそのうえで話すのだった。
「地下の世界にいて人の為になることをする」
「その通りだ」
道化師のその言葉に対して頷くチェリーだった。
「そしてファタ=モルガーナのライバルですね」
「あの女とはこの世がはじまった時から共にいるが」
ファタ=モルガーナの名前が出て来ると途端に不機嫌な顔になった。
「好きになれん。むしろ」
「むしろ?」
「大嫌いだ」
お互い嫌い合っているのである。
「全く以ってな」
「ああ、そうですね」
道化師は彼のむっとした顔になったうえでの言葉に納得した顔で頷いた。
「貴方達はそれこそ」
「まさに火と水だ」
それだと自分で言うチェリーだった。
「ずっとな」
「その通りですね。それでですが」
道化師は彼の話を聞きながら言葉を返した。
「どうしてここに」
「ここにか」
「はい。私達の前に出て来た理由は」
「やはりあの女のことだ」
むっとした顔はそのままであった。
「あの女がこの王子に呪いをかけていたことは前から知っていた」
「そうだったのですか」
「機を見て何とかしようとは思っていた」
王子を見ながらの言葉である。
「しかしその前に肝心の呪いが解けてしまったがな」
「そうすると今度はこの呪いで」
「それでだ」
道化師の話を受けながら述べるチェリーであった。
「魔女クレオンタの城はこれまでの様にはいかん」
「といいますと」
「魔女はあの城に一人で暮らしている」
まずはこのことを二人に話すのだった。
「そしてオレンジのある場所はだ」
「台所ですね」
王子がすぐに答えてきた。
「そこですね」
「わかるのか」
「オレンジは食べるものですから」
だからだと述べる王子だった。
「食べ物があるのは台所ですから」
「その通りだ。流石にわかっているか」
「はい」
きっぱりとした声で答える。その声は聡明そのものの声であった。
「そこだと」
「そうか。なら話は早い」
チェリーは彼の言葉を聞いて頷き。そのうえでまた言った。
「そなたにこれを渡そう」
「これは?」
見ればそれはピンク色のリボンである。それを王子に対して手渡してきたのだった。
王子はリボンを受け取った。そうしてそのうえでまた魔術師に対して尋ねた。
「このリボンは一体?」
「魔女はリボンが大好きなのだ」
「リボンがですか」
「魔女とても女だ」
至極当然のことを話すチェリーであった。
「このリボンを見せれば気を取られる」
「ああ、それでですね」
「それからは」
王子も道化師もここまで聞いてすぐにわかったのだった。
「その隙にオレンジを手に入れて」
「そうするのですね」
「そうだ。そうすればいい」
まさにそれだと教える魔術師だった。
「わかったな」
「はい、それで」
「わかりました」
二人ははっきりとした声で彼の言葉に答えた。
「じゃあそれで」
「やらせてもらいます」
「敵もいれば味方もいる」
チェリーは二人の言葉を受けてからまた述べたのだった。
「そのことはよくわかっているのだぞ」
「わかりました」
王子の返事を聞くとすぐに姿を消す魔術師であった。まるで煙の様に姿を消し後には何一つとして残ってはいないのであった。
彼が消えてから王子は。道化師に顔を向けて言うのだった。
「これでオレンジは手に入ったな」
「そうですね。ですが王子」
「何だ?」
「若しもあの魔法使いが出て来なかったらどうされてました?」
「その時はそのままだよ」
毅然とした声で答える王子だった。
「僕の力でね」
「オレンジを手に入れておられたんですね」
「そうだよ。そのつもりだったけれど」
「その場合は物凄いことになっていたでしょうね」
道化師はそれを聞いて唸るようにして言った。
「それこそ。魔女と死闘で」
「それを覚悟していたけれど」
「いえいえ、とんでもありませんよ」
道化師はここでも平然として言う主に対して驚いて告げたのだった。
「若しそんなことをすればですね」
「どうしたっていうんだい?」
「竜やグリフォンなんてものじゃないですから、魔女は」
そうしたとてつもなく強い魔獣達より遥かに強いというのである。
「それこそ命が幾つあったってですね」
「じゃあこのリボンを使えば」
「はい、もう大丈夫です」
この幸運に心から喜んでいる道化師である。
「ですから行きましょう」
「うん、いざ最後の難関へ」
こうして二人は砂漠の向こうにあるその城に辿り着くのだった。城はまるで蜃気楼の中にあるかの様だった。砂漠の果てに赤い煉瓦の城が建っていた。
二人は早速城壁に縄をかけそれで城壁をよじ登る。そのうえで中に忍び込み忽ちのうちに台所に入り込んだ。台所はかなり清潔で整然と鍋やフライパンが置かれている。火は今はなく所々に食材が置かれている。そうした台所であった。
「奇麗なものだな」
「そうですね」
二人はその台所を見回しながら話す。
「思っていた以上に」
「これならオレンジは簡単に見つかりますかね」
「そうかも知れないな。果物は」
「ああ、ここですね」
道化師が見つけた。丁度目の前にバナナやら桃やら林檎やらがありその中にオレンジが三個あったのである。みずみずしい実に美味そうなオレンジ達であった。
「このオレンジですね」
「そうか、これなんだね」
「はい。それじゃあ」
道化師達はそのオレンジを手に取った。そしてそのまま台所を去ろうとする。しかしここで赤い髪と目をした奇麗な女が台所にやって来たのだった。
「さて、今日の夕食は」
赤く長い髪は後ろに伸ばしている。それは腰まである。白い顔は顎の先が少し尖っていて全体的に整っている。鼻の形も高めでいい。目は丸く大きい。何処かアジア系の面持ちである。
彼女も黒い服を着ている。あのファタ=モルガーナが着ていた服と同じである。その格好で今一人で台所にやって来たのである。
「あの魔女は」
「あれがクレオンタか」
「さてと、昨日は子羊のステーキだったから」
クレオンタはまだ二人に気付かず一人であれこれと考えながら述べていた。
「今夜はお野菜を使ってあっさりしたものにしようかしら。お魚も一緒に」
「早く出るとしよう」
「そうですね」
二人は彼女の姿を認めてそそくさと台所から消えようとした。ところが。
「あっ、あんた達は」
「むっ、しまった」
「見つかったか!」
その通りだった。クレオンタに見つかってしまったのだ。魔女は彼等の姿を認めるとすぐにその手に大きな柄杓を出してきたのであった。
そうしてその柄杓で。二人を殴らんとしてくる。
「私の御馳走を取ろうなんていい度胸ね!許さないわよ!」
「王子、あれを」
「あのリボンをか」
「はい、投げればいいかと」
「よし、それなら!」
王子は道化師の言葉を受けて早速懐からそのピンクのリボンを出して魔女に向かって投げる。魔女はリボンを見るとすぐに柄杓を放り出してそれを手に取ったのだった。
「リボンじゃない、それもピンクの」
リボンを手に取って喜色満面であった。
「これなら丁度いいわ。こうして」
早速そのリボンで髪を括りだす。そしてツインテールにしてみて。
「こんな感じかしら。今度あの人とのデートはこれで行って」
「よし、今だ」
「ですね」
二人は彼女がリボンに夢中になっている間に台所を出た。そうしてまた縄を使って城を後にするのだった。
城を出てまた砂漠に入る。ところがここで二人は思わぬ事態に襲われてしまった。
何とその持ち出した三つのオレンジがである。徐々に大きくなってきたのだ。まるで子供が成長するかの様に。
「あの、王子」
「ああ、また大きくなってきたね」
道化師は一つ、王子は二つ持っている。怪力の王子は自分の身体程にまで大きくなったそのオレンジをそれぞれ肩に担いで持っている。
「また一段と」
「何なんでしょうかね、このオレンジ」
道化師はそのオレンジを背中に担ぎながら言う。顔中汗だらけである。
「あからさまにおかしいですけれど」
「わからない。ただ」
「ただ?」
「これを国にまで持って帰らないといけない」
王子は言うのだった。
「それは何としても」
「別に持って帰らなくてもいいんじゃないですか?」
しかし道化師はこう言うのだった。
「別に」
「別にだって?」
「ええ。何しろ目的は果たしました」
このことを話す道化師だった。
「ですから。もうオレンジは」
「別にいらないというのか」
「一番簡単な方法はですね」
道化師はさらに言葉を続けていく。
「食べることですね」
「食べる」
「そうです、このオレンジをです」
これが彼の提案だった。
「食べるんですよ。どうでしょうか」
「そうだな。食べればお腹が膨れるし」
「しかも荷物もなくなります」
今はこれが一番大きな目的だった。
「荷物もです。ですから」
「それに喉も渇いたし」
あまりにも重いものを熱砂の中で運んでいればだった。汗をかいてしまいそうなってしまうのも道理であった。そうならない方がおかしい話である。
「それじゃあ」
「はい、食べましょう」
ここでまた言う道化師だった。
「早速」
「そうだね。では」
二人はその三つのオレンジをそれぞれ砂漠の上に置いた。そうして王子がその腰の剣を抜いて最初のオレンジを斬った。するとだった。
「えっ!?」
「何と」
その斬られたオレンジを見てまずは驚きの声をあげる二人であった。そこから出て来たのはオレンジの中身ではなく一人の少女だったのだ。少女は虹色の髪と瞳を持つ実に美しい少女であった。
服は薄い白い服で今にも透けそうである。楚々とした外見でその顔立ちもまるで妖精の様である。奇麗に波がかった細い眉に切れ長の目、口は横に広く唇は薄い。そんな少女だった。
「オレンジの中から女の子が」
「どういうことなのでしょう」
「私はニネッタといいます」
「ニネッタ?」
「はい、妖精の国の王女です」
それだと王子に答えるのだった。
「三つの命を持っていますがその三つ共を魔女クレオンタに封じられて」
「それであのお城にいたんだね」
「はい」
王子の問いに対してこくりと頷いてみせてきた。
「その通りです」
「またそれは実に」
「面妖な話ですな」
王子だけでなく道化師も言った。
「その様なことがあったとは」
「しかしこれで貴女は助かったのですね」
「はい。ただ」
「ただ?」
「私は・・・・・・」
ここまで言うと急に力をなくしその場に倒れこむニネッタだった。そうしてそのまま事切れ彼女も彼女を包んでいたオレンジの皮も消えていく。最初のオレンジはこうして消え去ってしまった。
「消えた」
「これまた実に面妖な」
二人はそのオレンジも王女も消え去ったのを見て言った。
「どういうことなんだろう」
「ええと、確か王女は」
道化師は彼女の言葉を思い出しながら王子に対して話す。
「三つの命を持っていると仰いました」
「そうだったね」
「そしてそれが三つのオレンジに封じられていると」
「じゃあ残る二つにも」
「そうだと思います」
こう答える道化師だった。
「残る二つの中にも」
「よし、じゃあ」
王子は彼の言葉を聞いてすぐに剣で二つ目のオレンジを斬った。するとそこからもニネッタが出て来たのだった。最初の時と全く同じ姿であった。
「また御会いしましたね」
「ええ」
王子は彼女の言葉に応えた。
「またですね。本当に」
「それでですが」
二人目の彼女はここで言うのだった。
「私に」
「貴女に?」
「命を」
こう言うのである。
「命を・・・・・・下さい」
「命をって」
「そうすれば私は」
また声が弱くなってきていた。
「貴方と共に・・・・・・」
こう言い残してまた倒れ込んだ。そしてまたオレンジと共に消え去ったのである。
王子と道化師は残る一つのオレンジの前にいた。そうしてそのうえで話すのだった。
「命とは」
「ええ。それが欲しいと仰っていましたが」
怪訝な顔で話す。
「それは一体何なのでしょうかね」
「わからないな。命といえば」
「人間食べないと命はありませんがね」
ここでこんなことを言う道化師だった。
「とてもね」
「そうだね。それに水も」
「そうそう、それもです」
王子の言葉を聞いて頷くのだった。
「むしろ水がなくてはですね」
「その通りだ・・・・・・ということは」
「ということは?」
「そうか、そういうことか」
王子はここで納得がいった顔になった。そうしてしきりに頷くのだった。
「そういうことだったんだな」
「何かおわかりで?」
「水筒を出しておいてくれないか」
ここでこう道化師に話すのだった。
「水筒をね」
「これですか」
「よし、それでいい」
道化師が水筒を出してくると満足した顔で頷いた。
そうしてその剣で最後のオレンジを斬った。
またニネッタが出て来た。彼女は言うのだった。
「これが最後の命です」
「わかっています。トゥルファルディーノ」
「はい」
「水筒を」
こう言って水筒を貰いそれを彼女に差し出す。すると彼女はすぐにその中の水を飲みだした。そうするとだった。
「これでいいです」
「命を手に入られたのですね」
「はい、そうです」
満足している顔と声で王子に答えてきた。
「もうこれで」
「そうだったのですね。水だったのですね」
「ええ。命は水です」
微笑んで王子に答える王女だった。
「そういうことだったのです」
「そうだったのですか」
「それで王子」
静かに立ち上がりそのうえで王子に告げてきた。
「私はですね」
「貴女は?」
「貴方のことを知っています」
こう告げてきたのである。
「貴方がどうしてあの城に来たのかを」
「それでは」
「貴方が恋をされた三つのオレンジ」
彼女が封じられていたそのオレンジ達に他ならない。
「それは私のことだったのです」
「では私がファタ=モルガーナにかけられた呪いとは」
「そうです。私を愛するようになる呪いだったのです」
それだというのである。
「ですが。それで宜しいでしょうか」
「はい」
異存なくこくりと頷いてみせる王子だった。
「呪いであっても私の想いは同じですから」
「それは私もです」
彼女もだというのである。
「こうして救い出して下さり命を救ってくれた貴方に」
「では姫よ」
ニネッタを見詰めての言葉だった。
「これからは」
「まずはお城へ戻りましょう」
王子が本来いるその城である。
「そしてそこで」
「そうですね。式を挙げて」
「はい。そうして私達は」
「永遠に結ばれます」
こう言葉を交えさせていくのだった。
「ですから」
「まずは城に」
何につけても最初はそれであった。
「戻りましょう」
「そうですね。それじゃあ」
道化師もここで言うのであった。
「もう何の心配もいりませんし城に」
こうして三人で帰路に着く。王子の帰還が間もないと知ったクラリーチェは。レアンドル、それにファタ=モルガーナをあの大広間に呼んでそのうえで話をするのだった。
「このままだと大変なことになるわよ」
「全くですな」
レアンドルは深刻な顔でクラリーチェの言葉に頷いていた。
「オレンジを手に入れただけでなく姫まで手に入れられたのですから」
「このままでは王子は安泰よ」
クラリーチェの言葉も顔も今にも暴れそうな感じであった。
「どうすればいいのよ」
「案ずることはないわ」
三人の中でファタ=モルガーナだけは冷静だった。落ち着き払った顔で二人に対して言うのだった。
「まさかオレンジを手に入れるとは思わなかったけれど」
「途中で死ぬって思ったのね」
「そうよ。私のショーツを見ていいのは彼氏だけよ」
ここで庭での祭りのことを思い出し身体をわなわなと震わせはする。
「あの人だけよ」
「あの人って誰よ」
「チェリーよ」
彼だというのである。
「悔しいけれどね。この世がはじまった時から一緒で」
「あんた達付き合っていたの」
「夫婦じゃないけれどね」
こう言いはする。
「それでも。まあ付き合いが長くて」
「随分と仲が悪いみたいね、その割には」
このことを突っ込むクラリーチェだった。
「あんた達の仲の悪さは有名よ」
「わかってるわ。それでもよ」
ファタ=モルガーナの言葉が言い訳めいてきていた。
「とにかく。私の純潔はあいつにだけだから」
「純潔って柄にもない」
「これでも女の子よ」
そこは譲らない彼女だった。
「彼氏以外に見られるなんてね」
「ってことはもう寝たりしたのね」
「まあそれは」
このことを言われると頬を真っ赤にさせるファタ=モルガーナだった。
「だから。この世がはじまった時から一緒だから」
「それでなのね」
「人リで寝るのは寂しいじゃない」
言い訳以外の何者でもなかった。
「だから。まあつまりはね」
「あんたって思った以上にずっと純情なのね」
「仕方ないじゃない。とにかくよ」
顔を真っ赤にさせたうえで言葉を続けるのだった。
「王子のことは任せて」
「任せていいのね」
「王子はまずお城まで行かせて」
そこまでは行かせるのだという。
「そこから仕掛けるから」
「そう。幸せの手前でね」
「そういうことよ。じゃあわかったわね」
「ええ、私はそれでいいわ」
クラリーチェには異論はなかった。
「それでね」
「あんたはどうなの?」
「私もです」
レアンドルにはある筈もなかった。
「それで」
「よし、じゃあ話は決まりね」
二人の言葉を受けて確かな顔で頷くそうしてそのうえで黒人の女を二人の前に出してきた。彼女はやたらとはっきりとした目を持っていた。
「黒人?」
「そうですね」
「スメラルディーナっていうのよ」
彼女のことを二人に紹介するのだった。
「私の召使でね」
「それがこの黒人女なのね」
「中々可愛いですな」
褐色の肌に黒い髪、それにそのはっきりとした目に厚い唇である。確かに中々可愛い感じである。
「この娘を使ってどうするの?」
「それで一体何を」
「まあ見ていなさい」
自分の召使の肩を抱きながら微笑むファタ=モルガーナだった。
「この娘が上手くやってくれるから」
「そう。それじゃあ」
「期待していますね」
こうして再び手を打つ三人だった。騒動はまだ続くのであった。
オレンジから妖精の国の王女が出てくるとは。
美姫 「普通ならここでめでたし、めでたしかと思うけれど」
どうもまだ諦めていないみたいだな。何か仕掛けてくるみたいだけれど。
美姫 「一体何をしてくるつもりなのかしらね」
どうなるのか楽しみだな。
美姫 「次回を待っていますね」
ではでは。