『ランメルモールのルチア』




                              第一幕  悲しい予兆

 スコットランドの古い時代の話だ。この話を知る者は多い。この話を聞いて誰もが胸を痛める。この話はこのレーズンウッドの城からはじまった。
 城の庭園の中は木々もあり広いかなり大きな城だ。下は緑の絨毯だがその草の色は冴えず何処か寒々としたものを感じさせる。
 その絨毯の上に人々がいた。狩人の服を着ている。
「さあ、これからですが」
「ノルマンノ様」
「うむ」
 彼等の中でもとりわけ背の高い痩せた顔の男に対して声をかけていた。黒い髪をしていて目は窪んでいて小さい。見れば彼も狩人の服を着ている。彼の狩人の服はブラウンである。
「我等はこれから何処に」
「何処に行けばいいでしょうか」
「海岸だ」
 ノルマンノは彼等にそこだと告げた。
「いいな、それではだ」
「海岸ですか」
「あの海岸に」
「あそこにある塔のある場所に行き」
「あの場所に行き」
「そうして?」
「あの広大な廃墟に向かおう」
 それを周りに告げるのだった。
「いいな、そして」
「そして?」
「あの汚らわしい秘密を隠しているヴェールと落とすのだ」
「そうするのですね」
「そうだ」
 まさにそうするというのである。
「そうしてだ」
「そうして?」
「それからは」
「我等を求めている名誉に応えて忌まわしい真実を恐ろしい雲間の稲妻の様に見よう」
「そうするのですね」
「ここは」
「そうだ、そうしよう」
 こう言っているとであった。逞しい顎鬚を生やした厳しい顔の大男がやって来た。赤いゆったりとした服を着ている。マントも赤だ。見れば髭と髪はくすんだ金色で目は灰色だ。その彼がノルマンノ達のところに厳しい顔でやって来たのである。随分と不機嫌な様子だ。
 ノルマンノがその彼に声をかけてきた。
「エンリーコ様」
「何だ?」
「随分と不機嫌な御様子ですが」
 こう彼に問うのだった。
「どうされたのですか?」
「理由はわかっている筈だ」
 エンリーコはその不機嫌な声で彼に返した。
「わしの運命はだ」
「運命は」
「残念なことに色褪せようとしている」
 こう言うのである。
「そしてだ、あの男はだ」
「エドガルドめですか」
「そうだ、あの我が一族にとって代々の宿敵であったあの家の最後の生き残り」
 エンリーコの声が実に忌々しげなものになった。
「あの男が廃墟から我々を嘲笑っているだろう」
「我が家をですか」
「左様」
 まさにそうだというのである。
「しかしだ」
「しかし?」
「その屈辱を晴らすことはできるのだ」
「ルチア様ですね」
「そうだ、あの娘をだ」
 顔を見上げて語るのだった。
「あの娘を使う。だが」
「ルチア様はまだ納得されません」
「どうするべきか」
「落ち着かれて下さい」
 ここで黒い法衣を着た男が出て来た。金髪碧眼で細長く端整で知的な顔をしている。彼が出て来てエンリーコに対して言うのであった。
「お待ち下さい」
「ライモンドか」
「はい、ルチア様はです」
 彼、ライモンドもまたルチアの話をした。
「先頃亡くなられた」
「母上のか」
「そうです、母上のことを泣いておられるのです」
 そうだというのである。
「お気の毒な乙女がどうして花嫁の褥に入ることができましょうか」
「ではどうせよというのだ?」
「お待ち下さい」
 こうエンリーコに言うのだった。
「今は」
「今はか」
「はい、ルチア様はお優しい方です」
「優し過ぎる」
「だからです。ここはです」
「待てというのだな」
 ライもンドの言葉を受けて言うのだった。
「つまりは」
「御願いします」
「それはわかった」
 エンリーコの彼のその言葉は受けた。
「しかしだ」
「しかし?」
「今はそれでもだ」
 こう言うのである。
「それどころではない。我が家は」
「エンリーコ様」
 しかしここでノルマンノがエンリーコの耳元で囁いた。
「ルチア様はです」
「どうしたのだ?」
「愛に燃えているのです」
 こう囁くのだった。
「どうやら」
「まさか、そんなことが」
「待つのだ、ノルマンノ」
 ライモンドはすぐに彼を止めに入った。
「ここはだ」
「しかしライモンド殿」
 それでもノルマンノも言い分があった。
「今我が家は」
「しかしだ。ルチア様は今は」
「そういう訳にもいきません。今は」
 彼は家を立てていた。明らかにその立場に立っていた。
 そうしてだった。彼は言うのであった。
「御母上が葬られているその庭園のです」
「あの場所というのか」
「そうです」
 ノルマンノはライモンドに対して話していく。
「あの寂しい路をルチア様が歩いておられました」
「あの路を御一人でか」
「私が見たその限りはです」
 そうだというのだ。
「そこを歩いておられますと怒り狂った雄牛が出て来てです」
「そしてどうなったのだ」
「あの方めがけて突き進んで来ました」
 ノルマンノはこう語っていく。
「しかし空をつんざく銃声が一発轟き渡り」
「銃声が」
「そうして雄牛は倒れました」
 そうなったというのだ。
「それを見ました」
「ではそれは誰だ?」
「その時の男の顔は夜の闇でよくは見えませんでした」
「そうか」
 ここでエンリーコがノルマンノに対して問うた。
「それは残念なことだ」
「ですがルチア様はです」
「それからも会っているというのだな」
「そうです」
 まさにその通りだとエンリーコに話していく。
「毎日夜明けにです」
「それは何処でだ」
「あの並木路で」
 その場所も語られた。
「会っています」
「許せん」
 それを聞いたエンリーコの顔はさらに不機嫌になっていく。
「わしの目を盗んでその様なことをしていたのか」
「はい、その通りです」
「それではだ」
 ここでエンリーコはノルマンノに対してさらに問うのであった。
「その男は誰だ」
「それはわかりません」
「わからないというのですか」
「はい、そうです。ですが」
「ですが?」
「まさかと思うのですが」
 不吉な顔をしての言葉になっていた。
「あの者は」
「誰なのですか?」
「まさかとは思いますが」
 さらに語っていくが顔に浮き出ている不吉さはさらに高まっていた。
「あの男か」
「どうやら」
「何ということだ」
 それを聞いたエンリーコの顔がさらに憤怒で高まっていく。
「残酷で忌まわしい感情だ。この疑念に身体が凍り震え」
「エンリーコ様、どうかここは」
 ライモンドが何とか彼に対して言う。
「落ち着き下さい。冷静に」
「穏やかにです」
「穏やかにだと!?この髪の毛を逆立たせるこの心は最早静められはせん」
 こう言って怒りをさらに増し言葉も出していく。
「わしの妹が我が家にこの様な恥辱をもたらそうとは。これ程罪深い恋を犯し」
「まだわかりませぬ」
「わしを裏切る前にだ」
 最早彼はライモンドの言葉を聞けなくなっていた。
「わしが雷に打たれてもこれだけの恐ろしい運命はあるまい」
「まだはっきりとしませんが」
 ノルマンノもこう断りはした。
「ですが。このままでは」
「エドガルドなぞと共にいられるものか」
 苦々しい顔での言葉だった。
「何があってもだ」
「どうかここは落ち着かれて」
 ライモンドは彼を何とか落ち着かせようとする。しかしそれはできなくなろうとしていた。
「どうか」
「ノルマンノ様」
「ここにおられましたか」
 ここで何人かの狩人姿の男達があらたに庭に入って来た。
「調べてきました」
「その通りでした」
「そうか、やはりか」
 ノルマンノは彼等のその言葉を聞いて頷いたのだった。
 そうしてそのうえで。エンリーコに顔を向けてまた言った。
「この通りです」
「ではやはり」
「はい、そうです」
 まさにそうだと話すノルマンノだった。
「あの男です」
「話せ」
 エンリーコはその密偵達に対して告げた。
「詳しいことをだ」
「はい、それでは」
「お話しましょう」
 こうして彼等は話をはじめた。その話は。
「あの塔の崩れかかった入り口に入るとです」
「そこにしじまの中を蒼ざめた一人の男が通り過ぎました」
「その男だというのだな」
「そうです」
 まさにその通りだという。
「男は足の早い馬に乗り私達の前から消え去りました」
「男の名は鷹匠から聞きました」
「そしてその男の名は」
「エドガルドです」
 またしてもこの名前が出て来た。
「あの男でした」
「間違いなく」
「許せぬ」
 それを聞いていよいよ言うエンリーコだった。
「あの男、どうしてくれようか」
「どうかここはです」
 ライモンドは必死に彼に告げてきた。
「落ち着き下さい」
「ならん!」
 しかしそれはもう無理だった。
「それはだ。最早だ」
「ですがそれは」
「ルチアのことを思い温かい心を出そうとしてもだ」
「ではどうされるのですか」
「復讐だ」
 最早彼にはそれしかなかった。
「復讐を遂げる。あの男にだ」
「ではやはり」
「そうだ。わしの怒りは最早何よりも増して強く唸っている」
 それが今の彼だった。
「この怒りの炎であの男を焼き尽くそうぞ」
「ではいよいよ」
「エドガルドを」
「そうだ」
 狩人達に対して話した。
「ここはだ。何としてもです」
「何としても」
「ここは」
「そうだ。何としてもだ」
 その決意は明らかだった。
「何としてもあの男を倒す。このわしの手で」
「ではエンリーコ様、ここは」
「我等も!」
 狩人の格好をしている兵士達も主の言葉に応える。恐ろしい炎が城の中に燃え盛っていた。
 そしてその頃。寂しい荒野に二人いた。一本の細い木があるその下にふくよかな顔の小柄な美女がいた。豊かな金髪に青い目を持っておりその波立つ髪の奥に儚げな顔を見せている。服は白く清らかなものだ。その彼女が一人のブラウンの髪に緑の目を持つ緑の美女に声をかけていた。この美女は彫は浅いがはっきりとした顔立ちをしていて口が大きい。その服は緑であった。
 白い服の美女がだ。ここで緑の美女に対して問うた。
「アリーサ」
「はい、ルチア様」
 二人は木を挟んで話をしていた。
「もうすぐなのね」
「ですが」
 アリーサはそのルチアに対して不安な顔で言うのだった。
「あまりにも危険です」
「危険だというのね」
「そうです」
 それはあまりにもどうかというのである。
「エンリーコ様が気付かれた楊です」
「兄上が」
「ですからここは」
 こう言うのだった。
「戻られるべきです」
「けれどその前に」
 それを聞いてまた言うルチアだった。それでもといった口調だ。
「エドガルドに危機を伝えなくては」
「あの方にですか」
「そうです」
 そうすると言って聞かないのだった。
「おそらくここにもお兄様が来られるのですね」
「それは間違いなく」
「ではここは」
「残られるのですね」
「そうです、危機をお伝えしなければ」
 こう言いはした。しかしここで木のほとりにあるものを見たのだった。
「あれは」
「どうされました?」
「あの泉は」
 暗い世界の中に一つあるその黒く寂しい泉を見て言うのだった。
「あの泉を見ていると思い出すのです」
「あの泉がどうかされたのですか?」
「レーブンウッド家のある男がです」
 他ならぬルチアの家の宿敵の家のことである。
「嫉妬の怒りに燃えてそうして愛していた女を刺し殺しました」
「そのお話をされるのですか」
「そうです、それを思い出して」
 そうだというのだ。
「その不幸な女は今は」
「水の中に」
「その水の中に眠っている不幸な女を見たのです」
 まだ泉を見ていた。まだであった。
「それが」
「暗い夜更けの中で辺りは静まり返り」
 その言葉が続けられる。
「陰気な月の青白い光が水面を照らしていました」
 言葉は不吉な響きに満ちていた。何よりもだ。
「低い悲しげな呻きが風の中に聞こえてきてこの黒い泉の上に」
「それは気のせいです」
「けれど私は確かに見ました」
 それでもルチアは言うのだった。
「何かを話す人の様に唇が動くのが見えて生気のない顔で私を招いていて」
「お嬢様、それは」
「一瞬じっと立っていたかと思うと突然消えてしまいました」
 最後に言う言葉は。
「どうしてあんなに澄んで黒かった水が赤く見えるのかしら」
「そんなことを仰らないで下さい」
 アリーサはそんなルチアを心から気遣って声をかけた。
「どうか」
「それは何故なのですの?」
「悲しい前兆を感じます」
「前兆を」
「そうです」
 だからだというのだ。
「ですからそれはです」
「それでは私は」
「どうか諦めて下さい」
 そしてこう主に告げたのだった。
「この恋は」
「どうしてそんなことを言うのです?」
「お嬢様のことが本当に心配だからです」
 アリーサも真剣だった。
「ですから。それはどうか」
「いえ、違います」
 しかしここでルチアは言うのだった。
「あの方は不吉ではありません」
「では何だと仰るのですか?」
「光です」
 その不吉とは対極にあるものだというのだ。
「光です。不吉などではありません」
「違うと仰るのですね」
「はい、まさに私の悩みの慰めです」
 そこまで言うのだった。
「あの方がこの上なく燃える情熱で私の心に触れた時に」
「その時にですか」
「そうです。心からの言葉として」
 こう言うのである。
「私に永遠の誠を誓われました」
「そうだと仰るのですね」
「そうです。私は悲しみを忘れ涙は喜びに変わり」
 その言葉を続けていく。
「あの方の御傍にいると私は天国が開く様に思えます」
「しかしです」
「まだ言うのですか?」
「お嬢様があの恋に身を入れられると」
「あの方はあの家の御出身だからですか?」
「そうです」
 それこそが理由だというのだ。
「苦い涙の日々が待っているのですよ」
「いえ、それは」
「あの方が来られた様ですが」
「そうね」
 二人共その気配を察したのである。それで言い合う。
「どうやら」
「では私はこれで」
 アリーサはこう告げてその場を去ろうとする。
「誰か来ないか見ておきますので」
「いつも有り難う」
「お嬢様の為です」
 まさにその通りだというのだ。
「ですからこれで」
「ええ、御願いね」
 こうしてアリーサは姿を消した。するとそれと入れ替わりに青い服とマントを着た黒く豊かな髪を後ろに撫で付けた男がやって来た。
 眉ははっきりとした濃さで細くしっかりとしている。目は奇麗で黒く見事な二重である。鼻の形はしっかりとしていて口元も端整である。その彼がやって来たのだ。
「ルチア、まずは済まない」
「どうしたのですか?エドガルド様」
「こんな時間に会いたいといったことは」
 まずはそのことを彼女に謝罪したのである。
「それは申し訳ない」
「そのことですか」
「実は訳があって」
「それはどうしてなのですか?」
「明日の夜明けには」
 今度は時間を言ってきたのだった。
「空が明るくならないうちにこの祖国から離れなければならないのだ」
「何故ですか?」
「私はフランスに向かう」
 ルチアのその顔をじっと見詰めながら話した。
「あの国と我が国の交渉をする役目を仰せつかったのだ」
「陛下からですか」
「そうだ、陛下からだ」
 まさしくその通りだという。
「そう仰せつかったのだ」
「そうだったのですか。それで」
「それでだ。だからこそ」
「では私は」
「君と別れる前に」
 真剣な面持ちでルチアに告げる。
「彼と会えるといいのだが」
「お兄様に」
「代々に渡る怨敵の間柄を打ち消し」
 彼はそのことを心から望んでいた。
「そうしてその和解の証として」
「証として?」
「君の手を求めたい」
 こうルチアに対して話したのだった。
「是非共」
「いえ、それは」
 しかしルチアはエドガルドのその言葉に首を横に振った。
「なりませんわ」
「駄目だというのかい?」
「そうです、私達のことは」
 ルチアもまたまるで戦場にいるかの如き強張った顔で話す。
「誰にも秘密でなければ」
「ならないというのか」
「そうなのか」
「はい、ですから」
「では私の一族に対する罪深い迫害者はだ」
 それが誰かはもう言うまでもなかった。
「まだ満足していないのだな」
「といいますと」
「彼は私の父を殺し先祖伝来の遺産を奪い」
 怨恨は深かった。そこまで。
「それでも満足しないのか。そのうえで何を望んでいるのだ?」
「それは」
「私の完全な没落か死か」
「死!?」
 今の言葉を受けて思わず声をあげてしまったルチアだった。
「まさかそれは」
「彼は私を憎んでいる」
 それは実によくわかることだった。
「だからこそだ」
「ですがそれは」
「私もまた同じだ」
 その代々に渡る怨恨が彼にもあった。
「この胸の中にある。だからこそ」
「どうされたのですか?」
「聞いて欲しいのだ」
 切実な顔でルチアに言ってきた。
「私のあの裏切られた父の」
「お兄様が殺したあの方の」
「そう、父の墓の上で誓ったのだ」
 彼は言った。
「父が殺されたその時。怒りを込めて君の一族に対する永遠の誓いをだ」
「そうだったのですか」
「しかし君に会って私の心に別の感情が生まれた」
「それでは」
「怒りは収まったが誓いはまだ残っている」
「まさか」
「そう、そのまさかだ」
 こうルチアに返してさらに言った。
「私は誓いを果たすことができるのだ、今も」
「どうかそれは」
 ルチアはすぐにその彼を止めた。
「お忘れ下さい」
「忘れるというのか」
「せめて御気を鎮めて下さい」
 こう言って何とか彼を宥める。
「どうか。私もまた」
「君も?」
「苦しいのです」
「君もまたというのか」
「そうです」
 また切実な顔になっていた。
「その苦しみはまだ足りないと仰るのでしょうか」
「それは」
「どうかです」
 そしてさらに言うルチアだった。
「これ以上の苦しみで私を殺さないで下さい」
「ルチア・・・・・・」
「怒りや憎しみはお忘れになって」
 それが彼女の願いであった。
「どうか愛だけを」
「愛・・・・・・」
「そうです、愛をです」
 それだけだというのだ。
「貴方様のその胸に宿されて下さい」
「それが君の望みなのだな」
「そうです」
 これ以上はないまでにはっきりと答えてみせた。
「どうか私に」
「では誓おう」
 エドガルドも彼女のその言葉を受けて述べた。
「それではだ」
「それでは?」
「私達はここで永遠の絆を結ぶ」
 こう彼女に告げたのである。
「天に対して誓おう」
「神に対して」
「そう、ここに神がおられる」
 このことをルチアに対して言うのである。
「愛する心は聖堂であり祭壇でもあるから」
「ではここで」
「これを」
 指輪を出してきた。そしてそれをルチアの指にはめる。
 そして自分の指にも。そのうえでまた言うのであった。
「これを破ったならばその時は」
「はい、大地に倒れ死にます」
「そうだ、そうなってしまうのだ」
 まさにそうだというのである。スコットランドでは誓いを破ったならば天罰が下り大地に倒れそうして死ぬと言われていたのである。彼等はそれを知ってあえて言うのであった。
「それを破ったならば」
「わかっています」
「私達はこれで永遠の絆を結んだ」
 エドガルドは今それを己の中に見ていた。
「これを分かつもの、それは」
「それは」
「死だけだ」
 それだけだと。今言った。
「それ以外の何者でもない」
「では私達は例え離れていても」
「永遠だ。では」
「行かれるのですか?もう」
「時が迫っている」
 だからだというのである。
「私はこれで」
「では私は」
「どうするというのだ?」
「貴方がフランスに行かれるなら」
 そうならばというのだった。
「私はこの心をフランスに」
「送ってくれるのか」
「私の心はいつも貴方と共にあります」
 だからだというのである。
「ですから」
「わかった。それではだ」
「はい」
「私はいつも君のことを感じている」
 今にもルチアを抱き締めようとしていた。しかし今はそれをしなかった。
「フランスにあってもだ」
「御便りもどうか」
 ルチアはこのことも彼に告げた。
「そうして私の儚いこの運命にも希望を」
「わかっている。それもまた」
「御願いします」
「私のこの燃える溜息が」
 ルチアを見詰めての言葉である。
「そよ風に乗って君に届く」
「私に。それでは」
 ルチアもそれに応えて言うのだった。
「貴方は呟く海に私の嘆きが木霊するのを聞かれるでしょう」
「それをだというのか」
「そうです」
 まさにその通りだという。
「それを知って誓って下さい」
「わかっている。では今誓おう」
「はい、その誓いを御便りに入れて下されば」
「ではまた」
「御会いしましょう」
「神が結びつけてくれた幸せに誓って」
 こう言い合い今は別れた。二人は永遠の絆で結ばれた。しかしその二人の上にある空は暗鬱なものであった。そこには雷が無数の竜の如くうねり轟いていた。



宿敵の妹と恋仲か。
美姫 「また難しそうな恋ね」
しかも、エドガルドはフランスに行くみたいだし。
美姫 「兄も妹が恋する相手を聞いて何か起こそうとしているしね」
一体どうなるんだろうな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る