『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第九十七話 司馬尉、京観を造るのこと
司馬尉のことはだ。相変わらず警戒されていた。
夏侯姉妹にしてもだ。都にある曹操の屋敷の中で顔を顰めさせてこう話していた。
「ここまで怪しい話が多いとだ」
「気になるか、姉者も」
「ならない筈がない」
夏侯惇は少しムキになったような口調で妹に返した。
「謎が多いにも程があるぞ」
「そうだな。ここまで謎が多いとな」
「光武帝の頃から三公を出している」
夏侯惇は今度はこのことを話した。
「そこまでの名門なのはわかるが」
「言いたいことはわかっている」
夏侯淵も怪しむ顔で返す。
「氏素性が知れぬからな」
「そうだ。秋蘭も司馬家に入ったことはあるか?」
「いや、ない」
すぐにだ。夏侯淵も答える。
「誰も入ったことがない」
「あの屋敷には誰も呼ばれていないが」
「考えてみればこれも奇妙なことだな」
「そうだ。普通は三公ともなればだ」
どうなるかというのだ。その場合は。
「何かあると多くの者を呼ぶものだが」
「司馬家にはそうしたことはない」
「それも全くだ」
夏侯惇はいささかうわずった声で妹に話していく。
「だからあの家の中のこともだ」
「誰も一切知らない」
「我等が開く宴にも出て来ることもなかった」
宴を開くことも出ることもしないというのだ。
「まさに謎の者だ」
「まして我等の中には宴好きな者が多いしな」
「私も大好きだ」
他ならぬだ。夏侯惇もそうである。彼女は無類の酒好きで大食でもあるのだ。
「特に華琳様のお料理を召し上がるのはな」
「そうだな。しかしまことにだ」
「司馬尉、何者だ?」
「私も色々と半蔵殿達と話しているわ」
「忍の者でもわかりかねるか」
「全くだ。影一つ見つからない」
「影といえばです」
ここでだ。程cが出て来た。
「影を隠す為には」
「闇の中に入ればいいな」
夏侯淵は彼女のその言葉にすぐに返した。
「それで完全に見えなくなる」
「はい。司馬尉さんの影もです」
「闇の中にあるからか」
「見えないのだな」
「そう思います。とにかく本当に何もわかりません」
程cもその眉を顰めさせ小声になって話す。
「影が闇の中に入ったみたいに」
「怪しい奴だ」
夏侯惇はたまりかねた様にして述べた。
「それだけはわかるのだがな」
「そしてです」
程cの目が。今度は警戒するものになった。
そしてその警戒する目でだ。こう話した。
「私達の味方ではないでしょう」
「それはおかしなことだな」
夏侯惇はさらにいぶかしむ顔になってだ。程cのその言葉に応えた。
「私達は共に何進大将軍の下にいたが」
「同じ陣営にいてもです」
どうかとだ。程cはまた話す。
「敵同士であることはあります」
「そうだな。華琳様にしても麗羽殿にしても」
夏侯淵は二人と司馬尉のかつての関係を思い出しながら話した。
「あの御仁のことは常に嫌っておられる」
「そういうことです。同じ陣営においても対立はありますから」
「同じ大将軍の配下であったとしてもか」
「そう。味方とは限らないのです」
「そしてです」
もう一人来た。郭嘉だ。
「あの白装束の者達ですが」
「そうだ。あの連中だ」
「官渡でも出て来たのだ」
夏侯姉妹はかつてのことをここで言った。
「華琳様と麗羽殿を狙ってだ」
「急に出て来たのだ」
「あの者達がいて何故でしょうか」
郭嘉がここで言うこととは。
「司馬尉殿は狙われなかったのでしょうか」
「あの者達と宦官も関係があったようですが」
程cが話す。
「それなら司馬尉さんのところにもあの者達が向かっていた筈です」
「しかしそれはありませんでした」
「向かったのは普通の兵達です」
「これも思えば」
「怪しいな」
「それもまた、か」
夏侯姉妹は軍師二人の話を聞いて述べた。
「白装束の者達に狙われなかったのも」
「そのことも」
「このことは仮定に過ぎません」
こう前置きしてからだ。程cは二人に話した。
「ですが。彼等と司馬尉さんは」
「つながっていてもおかしくはない」
「そうだな」
「雰囲気も似た感じですし」
程cはこのことも指摘する。
「とにかくあの人は警戒し過ぎてもし過ぎることはないです」
「確かに黒ではありません」
郭嘉がまた話す。
「しかしそれはです」
「見えていないだけか」
「その黒が」
「はい、そうしたものですから」
怪しいというのだ。彼女達もそう見ていることだった。
そしてその彼女達をだ。呼ぶ声がした。
「ああ、そっちにいたのか」
「むっ、ガルフォードではないか」
「どうしたのだ?」
「いやな、町に出ないか?」
こうだ。彼は四人を町に誘うのである。
「今からな」
「町にか」
「そしてそこでか」
「ああ。買い物しないか?ちょっと見て欲しいものがあるんだよ」
「見て欲しいもの」
「といいますと」
軍師二人も彼のその言葉に反応を見せる。
「お酒でしょうか」
「それとも食べ物ですか?」
「ああ、パピィのな」
「ワン」
ここでそのパピィが鳴く。ここでもガルフォードと一緒なのだ。
「首輪を買おうと思ってな」
「それで我等にか」
「その首輪を選んで欲しいのか」
「パピィはレディーだからな」
それでだというのだ。
「同じレディーに選んで欲しくてな」
「しかし私はだ」
「私もだ」
夏侯姉妹がそれぞれガルフォードに応えて言う。
「そうしたことにはだ」
「あまり力になれないが」
「そうか?そうは思えないけれどな」
「我々は生粋の武人だぞ」
「その我々にそうした女の子らしいものを選んでくれと言われてもだ」
「レディーだよ、レディー」
ガルフォードはこう彼等に話す。
「女の子とはまた違うけれどな」
「いや、それでもだ」
「女の子らしいというとだ」
それでもだとだ。また話す二人だった。
「やはり。そうしたことは」
「縁がないが」
「私はどちらかといいますと」
程cもここで話す。
「猫派ですが」
「そうか。じゃあ駄目か」
「いえ、御一緒させて下さい」
だが、という感じでだ。彼女はガルフォードに話した。
「ワンちゃんも嫌いではありません」
「おっ、そうなのか?」
「はい。ですからそれでは」
「悪いな。それじゃあな」
「私も。よければ」
郭嘉もだった。名乗り出て来た。
「御供させて下さい」
「ああ、あんたも来てくれるのか」
「実は。町に出る予定もありましたから」
「これから袁術さんとデートなのです」
ひょこっと出て来た様にして言う程cだった。
「それでなのです」
「うっ、風何故それを」
「さっき袁術さんのお手紙を見て大喜びなのを見たから」
それでだというのだ。
「知ってました」
「うう、秘密にしていたのに」
「鼻血出して喜んでいたから」
わかったというのだ。
「ただのデートなのに」
「デ、デートから全てがはじまるから」
郭嘉はやけに必死の顔になってだ。両手を拳にして胸の前で縦に振りながら主張する。
「そこから美羽様とあんなことやこんなことが」
「あんなことにこんなこと?」
「接吻をしたり同じものを同時に食べたり」
「それは前にしたような」
「また。同じことを」
とにかく必死に言う郭嘉である。
「するかも知れないから」
「だからあんなに興奮して」
「私は確かに華琳様の家臣だ」
それはだというのだ。
「しかしそれと供にだ。美羽様とは心と心でつながっていて」
「こんな関係なんです」
程cはクールにガルフォードに説明する。
「今都で話題の三角関係です」
「三角関係?」
「ここにもう一人。張勲さんが入ります」
「ああ、あの人もか」
「偶像支配者とか何とか」
随分あからさまにだ。程cは話す。
「そんなお話です」
「偶像支配者って何なんだ?」
「また別の世界のお話で」
「別の世界ねえ。そういえばあんた」
「はい」
「どっかであれだよな。ホルモンだらけの世界にいたよな」
ガルフォードもガルフォードでこんなことを言う。
「そうじゃなかったか」
「記憶にあります」
程c自身もそのことを否定しない。
「中々恐ろしい世界でした」
「だよな。あんたも色々あるんだな」
「そうですね。私にしても凛ちゃんにしても」
「あんた達もだよな」
ガルフォードは夏侯姉妹も見る。
「色々な世界に縁があるよな」
「それを言ってしまうとな」
「その通りだな」
姉妹もそのことを認めて言う。
「何かとだ」
「縁はあちらこちらにある」
「じゃあそっちの縁にも協力してもらってな」
どうかとだ。ガルフォードはさらに話す。
「頼むな」
「わかった。それではだ」
「町に出るとしよう」
こうしてだ。彼等は町に出てパピィーの首輪を探しに向かった。その中でだ。
ふとだ。郭嘉が言うのだった。
「ガルフォード殿に必要な首輪は」
「あっ、そうだよな」
「はい。お一つではありませんね」
こう彼に言うのである。
「パピィーさんのもの以外にも」
「パパー、ピピー、ピパーのものな」
「ワン」
「ワワン」
「ワワワン」
その三匹の子犬がだ。ガルフォードの周りに出て来て応える。彼等はもう賑やかな市場に出ている。左右に店が立ち並び商人の活気のいい声に行き交う者達の明るい顔も見える。そうしたものを見ながら市場を歩いている。
その中でだ。ガルフォードは話す。
「この連中も女の子だからな」
「ならばその者達の首輪もだな」
「女の子用だな」
「そうだよな。買わないとな」
こう話してだった。
「この連中の分もな」
「そうだ、それもだ」
「是非買おう」
夏侯姉妹も応えて言う。こうしてであった。
一行は市場を見回る。その中でだ。
ふとだ。彼等はだ。
ある者と擦れ違った。それは。
「なっ!?」
「ば、馬鹿な!」
「貴方がどうして」
「ここにおられるのですか」
「あら、奇遇ね」
そこにいたのは卑弥呼だった。あの姿で市場を堂々と歩いている。
そのうえでだ。右目をウィンクさせるとそれだけで。
大爆発が起こった。それによってだ。
市場は大混乱に陥った。多くの者が吹き飛ばされていた。
「な、何だ妖術か!?」
「今のは何だ!?」
「爆発だ!」
「凶悪犯が出たぞ!」
「あら、失礼ね」
本人だけが平然としている。
「こんな善良な美女を捕まえて凶悪犯だなんて」
「黙れ!何故片目を瞑っただけで爆発を起こせる!」
「貴殿、そもそもどうしてここにいるのだ」
夏侯姉妹が黒焦げになりながらも立ち上がって問い詰める。
するとだ。卑弥呼はやはり平然として答えるのだった。
「身だしなみの為よ」
「身だしなみ?」
「それでだというのか」
「あたしはこの美貌を誇るけれど」
自分ではこう言う。身体をくねらせつつ。
「もっとね。ダーリンを振り向かせる為にね」
「その為にだというのか」
「さらにか」
「そうよ。お洒落をしようと思ってね」
それでというのだ。
「いいものがあるかどうか探しているのよ」
「そうだったのですか」
「それで市場まで」
「そういうことなのよ」
軍師二人にも答える。
「それでいいアクセサリーを探してるんだけれど」
「アクセサリーか。それなら」
ガルフォードが卑弥呼の言葉に応えて言う。
「俺と同じだな」
「あら、そうなの」
「俺もパピィー達の首輪を探してるからな」
「ワン」
ここでも応えて鳴くそのパピィー達だった。
「だから一緒だな」
「そうね。首輪ね」
「いいわよね」
いつも通りだ。もう一人も急に何処からか出て来た。
「首輪で従順なのも見せて」
「ダーリンを誘惑しちゃうわよ」
「あの、首輪は幾ら何でも」
「危険過ぎます」
軍師二人も流石にそれは止めた。
「そのお姿で首輪までされると」
「大惨事が起こります」
「そうよね。ダーリンだけでなく他の人達も悩殺しちゃうから」
「大変なことになるわよね」
ここでも前向きな妖怪達である。
「そこまでしたらね」
「やり過ぎよね」
「少なくとも止めておけ」
「世の為人の為だ」
夏侯姉妹もそれを言う。
「むしろ余計なアクセサリーはだ」
「慎むべきだと思うがな」
「いや、別にいいんじゃないか?」
ガルフォードは彼女達の邪魔をした。無意識なうちに。
「お洒落はいいことだしな」
「そうよね。流石にわかってるじゃない」
「いいのは外見だけじゃないのね」
「ダーリンの次にいけてるわよ」
「最高よ」
こう言う彼等だった。
「あちらの世界にはイケメンが多いけれどね」
「貴方その中でも屈指よ」
「けれどあたし達は乙女だから」
「浮気はしないのよ」
まだ言う。
「だから御免なさいね」
「あたし達ダーリン一筋だからね」
「何かわからないけれどな」
ガルフォードは首を捻って夏侯姉妹達に話した。
「俺ってこの人達に」
「そうみたいだな。随分な」
「認められているようだな」
夏侯姉妹もそれを話す。
「顔だけでなく人間性もな」
「これはいいことだろうか」
「そうよ。とてもいいことよ」
「それは保障するわ、他ならぬあたし達がね」
また言う彼等だった。一応彼女達ではない。
「それでだけれどアクセサリーって」
「どれがいいかしら」
「まだ言うのですね」
「アクセサリーですか」
軍師達も怪物達にいささか呆れながら返す。
「ううん、そう言われましても」
「どれがいいかといいますと」
「イやリングとかブレスレットはどうかしら」
「あっ、それいいわね」
卑弥呼がパートナーに応えて頷く。
「あたし達何をつけても似合うけれどね」
「それもいいと思うわ」
「お好きなようにされては」
「そうとしか言えません」
郭嘉と程cはこう彼等にアドバイスをした。
「爆発さえ起こらなければ」
「それでいいと思います」
「爆発が起こるのもあたし達の美しさのせいよね」
「罪な女ね、あたし達って」
「そう思うのならいいが」
「少なくとも爆発は起こさないでもらいたいものだ」
夏侯姉妹は彼等に冷静に突っ込みを入れる。
「とにかく罪のないアクセサリーを選んでもらう」
「それだけを望む」
「そうね。それじゃあね」
「大人しめのを選びましょう」
「たまには慎む美もね」
「いいものだからね」
こんな話をしてだった。彼等は彼等でそうしたアクセサリーを選びに入った。そうしてガルフォード達もであった。
パピィー達の首輪を探す。そしてだ。
「これがいいか?」
「あっ、その首輪ですね」
「それですね」
郭嘉と程cがその首輪を見て言った。黒いシンプルな首輪だ。
その地味と言ってもいい首輪を見てだ。二人はガルフォードに応える。
「それでいいと思いますが」
「この首輪に銀色で名前を入れてもらえば」
「それで充分だと思います」
「それでどうでしょうか」
「そうだな。それがいいな」
ガルフォードもだ。軍師二人のその言葉に頷いた。
そしてそのうえでだ。ガルフォードは実際にだ。
その首輪を買ってだ。銀色で名前を入れてもらいだ。早速パピィー達に付けた。その首輪を付けた彼女達を見てだ。夏侯姉妹が言った。
「ふむ、いいのではないか?」
「よく似合っている」
「そうだよな。じゃあこれでいいよな」
姉妹の言葉を聞いてだ。ガルフォードもだ。
納得する顔になってだ。それで頷いてだった。
「よし、じゃあ決まりだな」
「御勘定ですね」
「ああ。刺繍代も払うからな」
こうその首輪を売っている店の親父に話してだ。そうしてだった。
金も払った。これで決まりだった。
それが終わってからだ。一行は。
ガルフォードがだ。こう夏侯姉妹達に話した。
「じゃあこれからだけれどな」
「何か食べるか?」
「丁度この辺りにいい店があるが」
「そうか。じゃあそこにするか?」
ガルフォードは彼女達の言葉に応えて述べた。
「そこに皆で入って食うか」
「はい、それではですね」
「そうしましょう」
軍師二人も応えてだ。そのうえで、だった。
一行は夏侯淵が勧める店に入った。そこは。
洛陽に普通にあるような中華料理の店ではなかった。色々な国の料理があった。
内装もだ。様々な国のデザインが混ざっていた。その中には。
ガルフォードの祖国アメリカの旗も飾られ海賊のあの髑髏のマークもある。鷲や龍、太陽といったモチーフもある。そうしたものを見てだ。
ガルフォードはまずその星条旗を観て仲間達に話した。
「この旗はな」
「貴殿の国の旗だな」
「そうだったな」
「ああ、しかもテリー達の時代の旗だな」
その時代のアメリカの旗だった。旗にある星の数がそれだった。
「これはな」
「そうですね。星の数を見ますと」
「そうなりますね」
郭嘉と程cもこのことは既に知っていた。そのうえでの言葉だった。
「しかもこの海賊の紋章は」
「見たところ」
「ああ、いらっしゃい」
そしてここで、だった。彼等の前にだ。
一人出て来た。それは。
ジェニーだった。その周りには海賊達がいる。その彼等もだ。
ガルフォード達にだ。笑顔で挨拶をしてだ。そのうえで言ってきた。
「何を食べるんだい?」
「色々な料理があるけれどさ」
「ハンバーガーかい?それとも刺身かい?」
「どれにするんだい?」
「まさかこの店は」
「御主達がなのか」
夏侯惇と夏侯淵の姉妹達が彼等に問うた。
「経営しているのか」
「そうなのか」
「ええ、そうよ」
その通りだとだ。ジェニーが笑顔で答える。
「このお店はあたし達が全部やってるのよ」
「ああ、それでか」
ガルフォードは店の中を見回しながら話した。
「それでこんな内装なんだな」
「中々面白いでしょ」
ジェニーは楽しげに笑ってその言葉に応える。
「お店のおじさんにね。お話してね」
「ちょっと俺達も仲間に入れてもらったんだよ」
「それでこうした店になったんだよ」
ジェニーだけでなく海賊達も話す。
「それでなんだよ」
「こうした店にしてもらったんだよ」
「勿論あれよ」
また話すジェニーだった。
「元の料理も出るからね」
「それを聞いて安心した」
夏侯淵はジェニーの今の言葉にいささか安堵した声で応えた。
「店が完全に変わったかと思ってしまった」
「そうだな。ここまで変わるとな」
夏侯惇も店の内装を見回しながら述べる。
「それが大丈夫かと思ってしまった」
「別に店を占領した訳じゃないからね」
ジェニーは笑ってこう話した。
「協力させてもらってるから」
「成程。それでなんだな」
「そうよ。それで何を食べるの?」
にこりとした笑顔でガルフォード達に問う。
「何でも言ってみて」
「作られるものなら何でも作るぜ」
「そうさせてもらうからな」
「そうか。それじゃあな」
ガルフォードがだ。店のメニューを手に取ってだ。
そのうえでだ。これだと言うのだった。
「鮪のステーキ貰おうか」
「それね」
「それとシーフードサラダな」
野菜を頼むのも忘れない。
「マッシュポテト、スープはオニオンで」
「それとパンね」
「ああ、パンは食パンな」
パンはそれにした。やはりアメリカはパンだ。
「それで頼むな」
「わかったわ。じゃあそちらさん達は?」
「私はいつものを頼む」
「私もだ」
夏侯姉妹はこう言っただけだった。
「店の親父にはこれで通じる」
「それで頼む」
「ああ、あんた達常連さんか」
「そうだったんだな」
「そうだ。だからだ」
「これで充分だ」
姉妹は海賊達にも話した。
「だからそれで頼む」
「そうしてくれ」
「わかったわ。それじゃあね」
ジェニーも笑顔で頷いてだ。こうしてだった。
彼女達も決まった。しかしだった。
ジェニーが程cと郭嘉にも尋ねると。彼女達は。
「私はプリンだけでいいです」
「私は申し訳ありませんが」
こうそれぞれ言うのだった。
「今お腹は空いていませんが」
「これから予定がありますので」
特に郭嘉がだ。恥ずかしそうに言うのだった。
「ですから」
「?予定って?」
ジェニーもそれに反応を見せて目をしばたかせる。
「何かあるの?」
「そ、それは」
「逢引なのです」
程cがあえて誤解するように言った。
「凛ちゃんはこれからそれをしに行くんです」
「風、そんな表現は」
「いえいえ、実はですね」
程cは無表情な顔で話していく。
「これから袁術さんと凛ちゃんで」
「だからそうした言い方は」
「ああ、袁術ちゃんとね」
だが、だった。郭嘉の予想に反してだ。
ジェニーはだ。納得した顔でこう言ったのである。
「デートね」
「あれっ、わかってたんですか」
「そりゃわかるわよ」
楽しげに笑ってだ。ジェニーは程cにも言葉を返した。
「郭嘉がそんな極端なことをね」
「凛ちゃん純情ですから」
「そうよね。想像は凄いけれど」
「凄く奥手なんですよ」
「そ、そんなことは」
郭嘉は顔を真っ赤にさせてだ。何とか否定しようとする。
「私もそうした経験は」
「全然ありません」
また言う程cだった。
「もう接吻も袁術さんとだけの」
「完全になのね」
「乙女です」
郭嘉の本質をだ。見事に指摘していた。
「純情ですから、とても」
「わ、私も一人や二人の経験は」
「華琳様もですね。あえてです」
「袁術ちゃんに譲ってるふしがあるのね」
「何しろ尋常じゃない相性のよさですから」
とにかくだ。運命的なまでの相性のいい二人なのだ。
「もうどうしようもないので」
「そうね。だから今もなのね」
「これから二人でデートなんです」
「仕方ないわね。それじゃあね」
言いながら。ジェニーは。
何処からかあるものを出してだ。それを郭嘉に投げ渡した。
「これだけ持って行って」
「これは?」
「御土産よ」
それを投げ渡してからだ。にこりと笑って言うのである。
「袁術ちゃんと一緒に楽しんできて」
「お茶でしょうか」
「ジュースよ」
それだというのだ。
「極悪ノニジュース。それをあげるわ」
「ノニジュースですか」
「凄くまずいから」
そのまずいものをだ。あえて渡すのである。
「印象に残るまずさよ」
「あの、まずいものをあえて手渡される理由は」
「度胸試しよ。っていうかね」
「というか?」
「こっちの世界じゃそうしてね」
まずいものを口にしてというのだ。
「楽しむ遊びもあるのよ」
「またおかしな遊びですね」
「あたしの国じゃね」
そのだ。イギリスではというのだ。
「もうそんなのしかないけれど」
「イギリスではですか」
「まずいもののしかないわ」
彼女自身も言うことだった。それは。
「それこそね」
「あまりイギリスという国にはな」
「行きたくないな」
それを聞いてだ。夏侯姉妹はだ。
顔を顰めさせてだ。こう言うのだった。
「まずいものしかないとなると」
「遠慮したい」
「正直あたしも驚いたから」
ジェニーはさらに話す。
「他の国の食べ物の美味しさにね」
「それでこのジュースとやらは」
郭嘉はまたジュースのことを尋ねた。
「美羽様と共にですか」
「そうよ。あえて飲んで楽しんで」
「ううむ、本当にわからない趣味ですね」
「そのうちわかるわ。美味しいものを食べることは楽しみだけれど」
そしてだ。話を裏返しにしてだった。
「まずいものを食べるのもね」
「それもですか」
「楽しみなのよ」
「とにかくですね」
郭嘉はいぶかしみながらジェニーに応える。
「美羽様とお話してです」
「それで飲んでみるのね」
「そうさせてもらいます」
今はこう言うしかできない郭嘉だった。そうしてだった。
彼女は袁術とのデートに向かおうとする。だがそこでだった。
何処からかだ。爆発音が聞こえてきた。その音を聞いてだ。
彼女だけでなく他の面々もだ。顔を顰めさせて言った。
「まさかまた」
「あの二人が」
爆発の元凶はすぐに察しがついた。
「片目を瞑るなりしたのか」
「それでなのか」
「全く恐ろしい人達です」
程cも眉を顰めさせて言う。
「それだけであそこまでの騒ぎを起こすとは」
「爆発の方角からすると」
ガルフォードは音の大きさも含めて察して述べた。
「城壁の外だな」
「そうね。人気の少ない場所ね」
ジェニーもそれを察して言う。
「被害は今回は少なそうね」
「とりあえずはよかったです」
程cも損害は軽微と見て述べた。
「あの人達はまさに存在自体が最終兵器ですから」
「一瞬ひやっとしました」
郭嘉は実際にその顔を安堵させている。
「美羽様が巻き込まれたかと思いました」
「袁術さんなら大丈夫です」
彼女のことは程cが保障した。
「そう簡単にどうにかなる人じゃありませんから」
「そうだというのね」
「そう。袁術さんも存外頑丈な方です」
程cはこのことをよく把握していた。袁術のそのことをだ。
「ですから」
「だといいのだけれど」
「じゃあ凛ちゃん」
また告げる程cだった。
「行ってらっしゃい」
「え、ええ」
こうしてだった。彼女は袁術のところに向かうのだった。そしてそのうえで、だった。
二人でデートを楽しみにだ。そして向かうのだった。
彼等が都で楽しんでいるその頃だ。擁州では。
司馬尉達がだ。いよいよだった。
山賊達のいる山にだ。攻撃を仕掛けようとしていた。
それを見てだ。曹仁が仲間達にやや忌々しげに問うた。
「やっぱりこうなったわね」
「ええ、そうね」
曹洪が彼女のその言葉に応える。
「予想していたけれどね」
「私達は蚊帳の外ね」
「司馬家だけで全てやるつもりね」
そうなっていたのだ。彼女達もその率いている兵達もだ。完全に蚊帳の外だった。
その中でだ。沮授が言った。
「問題はあの姉妹ね」
「司馬師と司馬昭ね」
「ええ、あの二人よ」
まさに彼女達だとだ。田豊にも答える。
「あの二人だけれど」
「果たして武の才覚はあるのかしら」
「多分ないわね」
曹仁がそれを察して述べた。
「自分達で武具を手にして戦うのはね」
「それは不得手よね」
「そうした者ではないわね」
こうだ。曹仁は田豊に対して答えた。
「ただ。そうでなくて」
「私達みたいな」
「そうした感じね」
袁紹の軍師二人がだ。鋭い目になって述べた。
「軍を指揮して戦う」
「そうした才覚はあるわね」
「そうね」
その通りだとだ。曹洪も言った。
「そうした才覚を持っているわね」
「それはそれで厄介だな」
これまで話を聞いていたビリーが言った。
「正直一人で戦うのと兵隊率いて戦うのは別だからな」
「ああ。それだけ範囲は広いってことだからな」
ビリーの言葉にホアも頷く。
「そういうことだからな」
「そもそもな」
どうかとだ。今度はダックが話す。
「あの司馬尉って娘は元々参謀だったよな」
「軍師か?それだな」
マイケルも言う。
「作戦を立てるのが仕事だったよな」
「それならあの妹連中もだろ」
ダックは二人のことを察してこう言った。
「洒落にならない位にな」
「切れるわね」
「だからこそあえてね」
曹仁と曹洪も腕を組み考える顔で話す。
「私達を外して」
「自分達だけでやる」
「それだけの自信があるからこそ」
「するのね」
このことがだ。わかったのだ。
「ただ除け者にするだけじゃない」
「それができるだけの自信がある」
「だからこそああして」
「自分達だけでね」
「それとね」
「まだあるわね」
田豊と沮授が目を光らせて話した。
「どうやら私達にあえてね」
「見せるつもりね」
「それならよ」
「見るしかないわね」
曹仁と曹洪は観念した顔で述べた。
「もうこうなったら」
「そうしましょう」
「結局はそうだよな」
ビッグベアもここで言った。
「まあ奴等が何をするかな」
「見るとしよう。ただじゃ」
タンの目がだ。ここで光った。
その眉の奥の目を光らせながら。それで言うのだった。
「嫌なことが起こりそうじゃな」
「そうね。そのこともね」
「覚悟しておきましょう」
田豊と沮授が応える。そうしてだった。
彼等は司馬尉達の戦を見守ることにした。その戦は。
まずは山を囲んだ。その動きは。
あまりにも迅速でありしかも山を完全に取り囲んでいた。その陣の様子を聞いてだ。
沮授がだ。唸る様にして言った。
「見事な布陣ね」
「そうよね」
田豊もだ。ここで言った。
「山を完全に囲んでいるわ」
「兵を効果的に使ってね」
「この布陣をあれだけ短い間に済ませるなんて」
「私達でも中々こうは」
いかないというのだ。そのことを話してだ。
「いかないわね」
「そうはね」
「これは」
素直な賞賛だった。相手が胡散臭いと見ている相手とはいえだ。
その布陣はこう評された。そしてだ。
ダックもだ。こんなことを言った。
「あの連中の陣見てきたけれどな」
「どうだったの?」
「それで」
「嫌な雰囲気だったな」
サングラスの奥の目を顰めさせて。それで話した。
「戦うっていうよりはな」
「それよりは?」
「どういった雰囲気なの?」
「虐殺っていうのか?ほら、あるだろ」
彼には縁のなかったことだがそのこと話として出すのだった。
「ああいう。無意味に殺してそれを楽しむ様なな」
「そういう感じ?」
「そんな雰囲気なの」
「ああ、そうだよ」
こう話すのだった。
「やばいぜ。何かな」
「まさかとは思うけれど」
「戦に出ているのだし」
そうだとだ。曹仁と曹洪は首を捻りながら話した。
「山賊達は攻めて降伏させる」
「それがやり方だけれど」
「だよな。山賊なんてな」
ビリーもそれは当然といった感じで話す。
「懲らしめて後はな」
「ええ、とんでもない連中以外はね」
「村に戻すか兵に組み入れるか」
「そうするものだから」
「そうだろ?それで何で虐殺なんだ?」
首を捻って話すビリーだった。
「ダックよ、それちょっとおかしくないか?」
「俺もそう思うけれどな」
そしてそれはダックもだった。こう言ったのだ。
「あの連中がこれからするのは戦いだしな」
「しかし。嫌な雰囲気か」
リチャードはダックのその言葉に首を捻って話す。
「気になるな」
「全くだな」
「そうだな」
そんな話をしてだった。彼等は。
司馬尉の動きを見続ける。そしてだった。
夜にだ。山賊達が油断して寝た頃にだ。
すぐにだ。囲んだままでだ。
兵達を動かしてだ。即座にだ。
四方八方から攻め立てる。派手に鐘を鳴らし。
「さあ、このままね」
「攻めなさい」
司馬師と司馬昭がこう彼等に命じる。
「山賊達は斬るより捕らえる」
「そうしなさい」
殺しはしないというのだ。
「一人一人。出て来た者をね」
「それぞれ捕らえるのよ」
これが彼女等の策だった。そしてだった。
兵達の動きは。夜であってもだった。
まるで昼の様にだ。的確に動いてだ。
寝込みを襲われしかも夜目にまだ慣れていない山賊達をだ。個々に捕らえていくのだった。
その動きを見ながらだ。司馬師は司馬昭に話した。
「姉上はお流石ね」
「そうね」
こう二人で話すのだった。
「兵達に攻める前にじっくりと目を閉じさせ目を闇に慣れさせ」
「そのうえで攻める」
「こうすれば夜であってもね」
「普通に動けて攻められるわ」
だからいいというのだ。実際にだ。
兵達は山賊達を圧倒していく。取り囲んだうえでのその動きでだ。
山賊達は瞬く間にその殆んどが捕らえられた。討たれるよりもそうされた。
そして朝にだ。司馬尉は。
その捕らえて縛られている彼等を前にしてだ。悠然として言うのだった。
「ではね」
「はい、いよいよですね」
「これからですね」
「楽しむわ」
こうだ。妹達にも話す。そうしてだった。
山賊達を一人一人だった。
首を刎ねその首でだ。何と。
左右に二つの柱を築きだ。門にしたのだった。そしてその門を兵を引き連れ潜ってだ。
そのうえでだ。冷酷そのものの笑みを浮かべてこう言った。
「これが勝利の証よ」
その首の門を潜ってから言うのだった。それを見てだ。
曹仁達は蒼白になりだ。こう言い合った。彼女達はここで遂にだった。司馬尉の前に呼ばれそうして今はその門を見ていた。
「あれはまさか」
「京観!?」
「まさか。それを築くなんて」
「あんなことをするなんて」
「おい、何だよあれ」
ビッグベアもだ。その門を唖然として見つつだ。
そのうえでだ。こう彼女達に問うた。
「人の首で何してるんだよ」
「京観よ」
それだとだ。田豊が話した。
「あれはね」
「京観!?それがあれの名前か」
「ええ。敵を捕らえて皆殺しにし」
そうしてだというのだ。
「ああして戦に勝ったことを祝って築くものだけれど」
「普通あんなことはしないわ」
沮授もだ。蒼白になった顔で話した。
「あまりにも残虐で」
「そう。それこそあんなことをするのは」
「本朝の歴史においても」
どうかとだ。曹仁と曹洪も話す。
「悪鬼羅刹か」
「それに値する者達だけよ」
「ってことはあの連中は」
「そうした奴等かよ」
マイケルもホアもだ。苦味に満ちた顔で言った。
「何て奴等だ」
「怪しいとは思っていたけれどな」
「これは」
「放ってはおけないわ」
曹仁と曹洪はその蒼白の顔で言ってだった。
すぐに司馬尉の前に出てだ。こう言ったのだった。
「司馬尉殿、これは幾ら何でもです」
「度が過ぎます」
「山賊達を捕らえればそれで、です」
「兵に入れるなりすればよかったのでは」
「手ぬるいわ」
血に塗れた笑みで。司馬尉は二人に返した。
「それではね」
「手ぬるい!?」
「そうだというのですか」
「そうよ。山賊達は罪人よ」
だからだというのだ。
「それでただ兵に組み入れたり村に返すのは」
「手ぬるいというのですか」
「それで」
「そうよ。こうしてね」
全員の首を刎ねだ。そしてだというのだ。
「京観を築いたのよ」
「勝った祝いの為だけでなく」
「そうされたと」
「賊は賊よ」
冷徹ではなかった。酷薄な言葉だった。
「賊は捕らえれば」
「処刑する」
「一人残らずですか」
「そうしたわ。こうしてね」
そうした話をしてだ。司馬尉は。
曹仁達にだ。また言ったのである。
「わかったわね。このことが」
「ではこれで正しいと」
「そう仰るのですね」
「その通りよ。では貴女達も」
彼女達にだ。今度はこう告げた。
「この京観をくぐるかしら」
「いえ、遠慮します」
「それは」
まずは曹仁と曹洪が断った。
そしてだ。田豊と沮授もだった。
「私達もです」
「今は」
「俺達もな」
「そんな気持ちの悪いものを傍に見るのはな」
ビリー達は四人よりもさらに不機嫌さを露わにさせてだ。それでだった。
こうだ。司馬尉に言うのだった。
「絶対に嫌だしな」
「遠慮させてもらうぜ」
「そう。じゃあいいわ」
司馬尉もだ。これ以上言わなかった。
「私達だけでね」
「勝手にしな」
ホアは京観から顔を背けさせて告げた。
「そうな」
「当たってしまったのう」
タンもだ。嫌悪を表に出して述べる。
「嫌な予感がな」
「そうだな」
リチャードはタンのその言葉に頷いた。山賊退治は誰もが、司馬尉達以外は考えもしなかった無惨な、あまりにも血生臭い結果に終わったのだった。
第九十八話 完
2011・7・18