『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                       第九十六話  軍師達、狐を見るのこと

 孔明は陸遜達の話を聞いたうえでだ。こう鳳統と徐庶に尋ねた。
「雛里ちゃんと黄里ちゃんはどう思う?」
「司馬尉さんと歴史にあるあの女達」
「それが関係あるかどうかよね」
「ええ。具体的には」
 どうなのか。孔明はこのことも言った。
「まさか。あの狐と司馬尉さんは」
「多分。それはないわ」
「あの人達は魔物ではないな」
 それはないとだ。彼女達は言った。
 そしてその証拠にだ。孔明にこのことを話した。
「だって。その影は人間だったから」
「鏡のある部屋で御会いしたこともあるけれど」
「そうよね。その際はね」
「影は人間のものだったわ」
「鏡にその姿は映ったわ」
 二人はそのことを見ていたのだ。そのうえでの話だった。
「司馬尉さんは人間だと思うわ」
「紛れもなく」
「影は真の姿だし」
 どれだけ巧みに化けてもだ。影は真の姿を映し出すものだというのだ。
 そしてだ。鏡も。
「鏡に映るものは真の姿」
「それに映らないのは鬼」
 即ちだ。霊だというのだ。
「そして魔物なら真の姿が映るから」
「だから」
 鳳統と徐庶は司馬尉は人間だというのだ。
「間違っても魔物じゃないわ」
「そうした存在ではないわ」
「そうよね。あの人は人間よね」
 それは確かだというのだ。
「狐じゃないわ」
「あの女達は狐だと言われてそれで」
「この国に代々害を為してきたけれど」
 それがだ。その九尾の狐だったのだ。
「けれどその狐じゃないわね」
「ええ、それはね」
「違うと思うわ」
「じゃあ一体」
 ここでだ。孔明は首を捻った。
 そしてそのうえでだ。また言うのだった。
「あの人があの女達と姿が同じなのは」
「偶然の一致じゃないのはわかるけれど」
「けれど」
 こう口ごもる彼等だった。
「仙人でもないでしょうし」
「そうした存在でも」
「仙骨がないから」
 彼女達もこのことは見抜いた。
「仙人ではないわよね」
「不老不死でもない」
「それも間違いないわよね」
「つまり。司馬尉さんは」
 どういった人物か。孔明は話した。
「私達と同じ寿命で生きている人間よ」
「そう。確かに怪しいけれど」
「人間であることは間違いないわ」
「けれど」
 それでもだというのだ。
「姿形があの女達と同じで」
「しかも何かを企んでいる感じだから」
「怪しいことこのうえない」
「全くね」
 こんな話をするのだった。そうしてだ。
 孔明は二人にあらためて話した。
「それでだけれど」
「ええ、それで」
「どうしようかしら」
「まだ。もう少し」
 こう言ってからだった。
「見るべきだと思うわ」
「司馬尉さんのことを」
「そして妹さん達を」
「ええ、見るべきよ」
 そうだというのだ。これが孔明の今の考えだった。
「さもないと見誤るから」
「そうね。あの人はとにかく謎が多いから」
「余計にね」
「そうしましょう。ここはね」
 こうしてだった。二人は司馬尉達はまだ見ることにしたのだった。
 その司馬尉はだ。今闇の中でだ。
 妹達を連れた上でだ。于吉達と話していた。
「順調よ」
「そうですか。順調ですか」
「楽しんでいるのだな」
「ええ、そうさせてもらっているわ」
 そうだとだ。于吉と左慈に対しても話すのだった。
「今はね」
「それは何よりです」
「俺達もそうしたいがな」
「それは無理よ。それにしても」
「あの狐の力はどうでしょうか」
 ここでこう言う于吉だった。
「司馬家にある狐の力は」
「九尾の狐の力ね」
「今あの狐は東にいますが」
「倭にね」
「今はそこで眠っています」
 その狐はだ。そうしているというのだ。
「そしてやがて時が来れば」
「目を覚ましそして」
「今度はあの国に乱を起こします」
 それを企んでいるというのだ。
「そうした意味で私達と同じです」
「面白い狐ね。そして」
「はい、そしてですね」
「我が司馬家に力を与えてくれた」
「その血を飲ませることによって」
「それまで司馬家は」
 どうだったかとだ。嫡流の彼女自身が話す。
「しがない豪族だったけれど」
「それが大きく変わりましたね」
「狐の血の力でね」
「妖術。それもあらゆるものを得て」
「変わったわ」
 こうだ。于吉に悠然と笑って話すのである。
「光武帝に取り入って」
「そこから代々ですね」
「高官になり力を蓄え」
「そして今」
「この国を滅ぼし」
「新たな国を築かれますね」
「そうするわ。その国の名は晋」
 既にだ。彼女のその国の名も決めていた。
「そこにするわ」
「破壊と混沌の国」
「その国の名よ」
「それではです」
「協力してくれるのね」
「それが私達の目的でもありますので」
 そのだ。破壊と混沌こそがだというのだ。
「是非共」
「期待しているわ。そして私は」
「その司馬家の中でもですね」
「狐の力が最も強く出た者」
 そうだというのだ。司馬尉こそがだ。
「そしてこの娘達も」
「殷代に現れた妹達の力がね」
「最もよく出ているのよ」
 こう本人達が話すのである。
「だから。この力で」
「楽しませてもらうわ」
「頼むぞ」
 彼女達には左慈が応える。
「御前達の力も必要だからな」
「この世界を破壊と混沌に陥れ」
「多くの異形の者達が闊歩する世界にする」
「その為にはね」
「私達の力も必要ね」
「はい、そうです」
 まさにそうだとだ。今度は于吉が応える。
「ですから余計にです」
「任せてもらうわ」
「こちらもね」
「まさか。私達が」
 司馬尉は妖しい笑みと共に話した。
「狐の力を得た人間とはね」
「誰も思わないわね」
「そんなことは」
「それがいいのだ」
 左慈もだ。それをよしとした。
「そうした意味でオロチと同じだからな」
「ああ、そうだ」
「その通りです」
 闇の中にだ。社とゲーニッツが出て来てだった。それぞれ言ってきた。
「俺達も人間だがな」
「心はオロチですから」
 そこがだ。司馬尉達と同じだというのだ。
「誰も俺達を怪しまなかったからな」
「それがよかったのです」
「身体さえ人間ならばです」
 どうかとだ。于吉は話す。
「誰も気付きませんよ」
「そうだな。身体さえ人ならばだ」
 左慈もそのことを言う。二人の顔は悠然とした笑みになっている。
 そしてその笑みでだ。彼等はさらに話すのだった。
「それでいいのだ」
「心には気付きません」
「決してな」
「その通りよ」
 司馬尉も二人に同じ笑みで返した。
「私の心は人が言う人のものではないのだから」
「はい、私達と同じですね」
「こちらの世界の住人のものだな」
「誰か言ったよな」
 社は楽しげに笑いながら話す。
「俺達のいる世界は魔界だってな」
「魔界ね。そうよね」
「確かにそうなるわね」
 司馬師と司馬昭も社のその言葉に乗って頷く。
「私達が目指す社会はそうしたものだし」
「一理あるわ」
「その通りよ。私達はね」
 どうなのかと。また話す司馬尉だった。
「この世は今は味気ない社会だけれど」
「はい、すぐにです」
「その魔界に変えてやろう」
 于吉と左慈がまた言う。そうした話をしてからだ。
 左慈は司馬尉にあらためて尋ねた。その尋ねたこととは。
「それでだ」
「何かしら」
「この戦いではどうした趣向を見せてくれるのだ?」
「趣向ね」
「そうだ。ただ勝つだけではないな」
「そんなことはしないわ」
 それはだ。司馬尉も怪しい笑みで笑って否定した。闇そのものの笑みで。
「決してね」
「ではどうするのだ?」
「見ていて。まずは勝つわ」
「そこからか」
「そしてそれからよ」
 怪しい笑みのままでだ。司馬尉はさらに話す。
「面白いものを見せてあげるわ」
「面白いものですか」
「そうよ。面白いものをよ」
 于吉にも語る。その笑みのままで。
「見せてあげるから楽しみにしていて」
「そうか。それではな」
「楽しみにさせてもらいます」
「そうして。ではね」
 左慈と于吉に応えてだった。司馬尉は。
 妹達にだ。こう告げるのだった。
「ではいいかしら」
「はい、お姉様」
「これからですね」
「私達三人とその軍だけでやるわ」
 その戦いをだというのだ。そうするというのだ。
「わかっているわね」
「はい、それはもう」
「承知しています」
「ではね。今からね」
「戦いと。その後のことこそが」
「至上の喜びですね」
 妹達も同じだった。怪しい笑みを浮かべるのだった。
 そのうえでだ。彼女達は闇から消えたのだった。その消える後ろ姿を見送ってだ。
 ゲーニッツがだ。こう于吉に話すのだった。
「私達は最高のパートナー同士ですね」
「はい、その通りです」
「同じ目的、同じ理念を持ち」
「共に働く同志達です」
 まさにだ。彼等はそうした存在だというのだ。
「この世界に集まった」
「はい、その通りですね」
「それでなのですが」
 ここで于吉は話を変えてきた。
「社さんもですが」
「何だ、俺もかよ」
「一緒に食事にしませんか」
 二人をだ。それに誘うのだった。
「これからです」
「食事ですか」
「いいな。丁度そんな時間だしな」
「はい、ではその食事は」
 于吉が言おうとしたそこでだ。ゲーニッツが言った。
「茸料理は如何ですか?」
「茸か」
「それですか」
 茸と聞いてだ。左慈と于吉が考える顔になった。そのうえでだ。
 二人はそのゲーニッツにだ。こう話した。
「そういえばあんた茸好きだったな」
「特に松茸がですね」
「はい、私の好物です」
 まさにそうだとだ。ゲーニッツ自身も話す。
「茸は非常にいいものですよ」
「茸か。それじゃあな」
 社は茸と聞いてだ。そうして言うことは。
「ラーメン、インスタントにな」
「そこに茸をかけてですね」
「ああ、それどうだ?」
 こうその茸を出したゲーニッツに話したのだ。
「茸をあんかけで炒めてな。それをインスタントラーメンにかけるんだよ」
「いいですね。それは」
 ゲーニッツは自分の顎に右手を当ててだ。楽しげに笑って応えた。
「茸ラーメンですか」
「そうだよ。美味いし身体にもいいしな」
「はい、ラーメンだけでは栄養が偏りますから」
「ではそれだな」
「はい、私達はそれで」
 オロチの間ではそれで決まった。そしてそのうえでだ。
 二人は于吉と左慈にだ。それはどうかと提案するのだった。
「どうだ?これで」
「茸ラーメンで」
「そうですね。それではです」
「それにするか」
 二人もそれでいいというのだった。こうしてだ。
 彼等は食事を決めた。それから闇から出てだ。
 山奥の誰もいない筈の場所にある道観の中でだ。鍋を出してだ。
 水を入れそこに火を点ける。火は于吉の妖術によってだ。
 それからラーメンを入れる。三分経つとスープを入れる。茸は既に左慈が炒めていた。
 碗にそれぞれ麺を入れ上から茸をかけ食べる。その味は。
「これはいいな」
「そうですね」
 左慈と于吉が話す。食べながらだ。
「ラーメンは元々好きだがな」
「茸と組み合わせるとさらに」
「ああ、美味くなる」
「これはいいものです」
「そうですね。はじめて召し上がりますが」
「この組み合わせいいな」
 ゲーニッツと社もそうだと話す。
「これは幾らでも食べられます」
「ラーメンもっと入れるか?」
「そうするか」
 左慈も二人の言葉に乗った。そして言うのだった。
「茸もまだまだあるしな」
「おっ、かなり作ったんだな」
「茸を炒めたものも」
 見ればエノキや椎茸、それにエリンギとだ。色々な茸を使っている。それを炒めて香辛料で味付けをしてあんかけをしたものだ。
 それも食べながらだ。社とゲーニッツは話すのだった。
「それは何よりだ」
「美味なものは多いに限ります」
 そうだというのだ。そしてだ。
 実際にラーメンの袋を開いて鍋に入れてだ。さらに食べるのだった。
 その中でだ。左慈はこんなことを話した。
「しかし。この時代でインスタントラーメンとはな」
「時代考証ですね」
「ああ、それが滅茶苦茶だがな」
「ははは、いいではありませんか」
 それもいいとだ。于吉は笑って彼に話した。
「それもまた」
「いいか」
「そうです。何しろこの世界はあらゆる並行世界の中で特異点ですから」
 だからいいというのだ。
「こうしたものを食べてもです」
「構わないか」
「はい。そしてです」
「そしてか」
「デザートですが」
 次はそれだった。何かというのだ。
「それはどうされますか」
「ああ、それな」
「食後のデザートですね」
 社とゲーニッツがそれに応える。
「そうだな。何がいいかだな」
「色々とありますが」
「アイスクリームはどうでしょうか」
 于吉が提案するのはそれだった。
「それで」
「ああ、アイスクリームな」
「あれもいいですね」
 オロチの二人がそれに乗った。
「じゃあそれにするか?」
「すぐに出せますし」
 彼等の力をもってすればだ。それも普通にできることだった。
「ちょっと向こうの世界に戻ってな」
「持って来ればいいだけですし」
「そうだな。じゃあバニラがいいか」
 左慈が出したアイスはこれだった。
「他には何がいい?」
「そうですね。何でもいいのでは?」
 于吉がその左慈に応えて言う。
「アイスですと」
「何でもいいか?」
「私はバニラでもチョコレートでも」
 構わないというのだ。そのどちらでもだ。
「そしてブルーベリーもです」
「とにかくアイスは何でもか」
「好物ですので」 
 だからいいというのだ。こう話してだ。
 そのうえでだ。二人は社とゲーニッツにも尋ねた。
「そっちはどのアイスがいいんだ?」
「このラーメンを食べ終われば買って来ますが」
「そうだな。俺はバニラか」
「私はストロベリーを」
 二人はこう答えた。
「それでいい」
「それで御願いします」
「わかった。それならな」
「コンビニエンスストアで買ってきますね」
「ああ、頼むぜ。それにしてもな」
 社は二人の言葉を受けてからだ。面白そうに笑いながらこんなことを言った。
「こっちの世界にいてもな」
「それでもだな」
「こうしてあちらの世界のあちらの時代のものを食べられるのは」
「中々面白いな」
「どの世界や時代も行き来できるとはいえ」
 そのことも楽しいというのだ。それが彼等の意見だった。
 そのうえでだ。彼等はさらに話すのだった。
「あちらの世界もいずれはな」
「私達によって破壊される運命にありますが」
「ああ、この世界を破壊してからな」
「そうしましょう」
 社とゲーニッツもその考えだった。
「まずはそれからだ」
「この世界からです」
 こんな話をしてだ。彼等は今は食事を楽しむだった。そうしてデザートも食べてだ。これからのことも考えていくのであった。
 チンもだ。店でラーメンを食べていた。その彼にだ。
 五郎八がだ。難しい顔で彼に話していた。
「おい、一つ聞いていいか」
「何でしゅか?」
「御前キムのこと知ってるよな」
「はい、ジョンさんのことも」
「あいつは元からあんなのか?」
 そのだ。正義一辺倒の性格はというのだ。
「あんな風に何かあれば乱舞なのかよ」
「そうでしゅよ。悪と見ればでしゅ」
「ああしてくれるのか」
「それは貴方もでしゅね」
「ああ、会っていきなりだった」 
 どうなったかというのだ。それでだ。
「ボコボコにされてな。それからな」
「捕まったのでしゅね」
「一回死んだ」
 一言だった。
「そこからずっと修業と強制労働の日々だった」
「そうでしゅね。キムさんに会えばそれで終わりでしゅ」
「ったくよ。この世界でもな」
 どうするつもりだったかとだ。彼はうどんを食べながら話す。ワフウのうどんだがそれを食べながらだ。ラーメンをすするチンに話すのである。
「好き放題しようと思ってたのによ」
「できなかったのでしゅね」
「ああ、いきなり会ったからな」
 この世界に来てすぐにだったというのだ。
「それで牢屋に入ったらな」
「牢屋でしゅか」
「場所は屋敷だったがそこは牢屋だったよ」
 まさにそれだったというのだ。
「何しろ逃げられねえからな」
「そうでしゅね。捕まったら逃げられないでしゅから」
「起きてから寝るまで強制労働と修業でな」
「休む時間はないのでしゅね」
「飯食う時と風呂に入る時にな」
「あとは寝る時だけでしゅね」
「他には何もないからな」
 それがキムの考えたスケジュールだった。しかもそれを実行に移す。
「もう楽しみなんてな」
「ないでしゅね」
「食い物だってあれだよ」
 唯一の楽しみになりそうなそれもというと。
「すげえ粗末なもんばかりでな」
「ではうどんは」
「こんなの食ったの久し振りだよ」
 今食べているだ。それにしてもだというのだ。
「本当にな」
「本当に大変だったのでしゅね」
「大変なんだよ」
 話は現在進行形だった。
「だったじゃねえんだよ」
「ううむ、キムさんに捕まれば」
 まさにその時はだというのだ。それはチンもよくわかることだった。
「私も危ないでしゅね」
「ああ、あんたもあれだったよな」
「脛に傷が一杯あるでしゅ」
 どうして金を儲けているか。それは裏から見てもなのだ。
「実はキムさんとジョンさんにはずっと目をつけられているでしゅ」
「そうだったのかよ」
「キムさんのところにならなくてよかったでしゅ」
「あの娘の陣営な」
「はい、董卓さんの」
 まさにそこだった。彼女のところだ。
「ならなくてよかったでしゅよ」
「ったくよ。何で俺達がキムの陣営なんだよ」
 それが問題だった。五郎八にとっては。
「ついてねえぜ」
「キムさんの陣営ではないでしゅよ」
「結果として同じだよ」
 キムの奴隷になっているからだ。それでそうなるというのだ。
「今だってな。実はな」
「脱走しているんでしゅね」
「抜け出てそれで食ってるんだよ」
 そのうどんをだというのだ。
「そうしてるんだよ」
「脱走はできなかったのではないでしゅか?」
「それでも時々な」
「成程。そうでしゅか」
「時々無性にな。うどんとか食いたくなるだろ」
「麺類はそうでしゅよね」
「だから今こうして食ってるんだよ」
 それでだというのだ。わざわざ脱走してだ。
 そのうどんをひたすらすする。その中でだ。
 彼はまただ。チンに話した。
「で、とにかくな」
「今はうどんを食べるのでしゅね」
「ああ、何杯でもな」
 こうして実際に何杯もおかわりをしていた。そしてだ。
 十杯を食べ終えてからだ。もう一杯おかわりしようとすると。
 いきなりだ。その脳天にだ。
 後ろからネリチャギが来た。それを受けてだ。
 沈んだ彼の後ろにだ。キムが出て来た。その彼が言うのだった。
「全く何処に逃げたかと思えば」
「ここにいたのですか」
 ジョンもいた。二人一緒にいた。
「修業をさぼるとはいい度胸だ」
「これはいつも以上のお仕置きが必要ですね」
「うう、怖いでしゅね」
 チンも二人を見てかなり引いている。ラーメンをすするその手が止まっている。
「踵落としからそれでしゅか」
「んっ?悪事には報いが当然ですが」
「それは違うのですか?」
「勘弁して欲しいでしゅね」
 やはりだ。脛に傷があるからこそ言うチンだった。
「私としては」
「悪はこうして更正していかなければ」
「ですから」
「ううむ、そういえばこの人は」
 そのだ。五郎八はというと。
「かなり酷いことをしてきたそうですが」
「はい、卑劣の極みでした」
「唾棄すべきまでのことをしてきました」
 二人はだ。少なくとも嘘は言っていなかった。
「ですからこうしてです」
「更正を目指しているのです」
「山崎さん達と同じでしゅね」
 彼等も相変わらず捕まっているのだ。
「やっぱり。更正させる為にでしゅね」
「はい、修業と労働です」
「その日々です」
「まあ私は入っていないからいいでしゅが」
 密かに逃げに入るチンだった。
「それならそれでいいでしゅ」
「はい、それではです」
「これから修業がありますので」
 二人はそのまま五郎八を引き摺っていきだ。その修業に戻るのだった。その修業はというと。
 今日はただひたすら走っていた。しかも全速力でだ。そんな彼等を見てだ。
 張遼もだ。都の城壁の上で胡坐をかいて酒を飲みつつだ。こう言うのだった。
「ほんまあの二人は怖いな」
「怖いのだな」
「ああ。めっちゃ怖いわ」
 先頭にいるキムとジョンを見ての言葉だ。
「自分等も同じことするさかいな」
「確かにな。自分がしないということはないな」
 関羽は張遼の横に立っている。そのうえで彼女と話しているのだ。尚その右手にはいつも通り得物がある。それは離していない。
「決してな」
「そこが怖いわ」
「率先垂範だな」
「人に言うのは簡単や」
 それはだというのだ。
「けれどや。それを自分がやるのはや」
「難しいな」
「それが一番難しいさかいな」
「そうだな。人にあれこれ言ってもな」
「自分もそれをする奴は少ない」
 どうしてもだ。人には言えても実践は難しいというのだ。
「自分に甘い者は多い」
「まああれや。愛紗みたいな娘は少ない」
「私か?」
「そんでキムやジョンみたいな男も少ない」
「どっちもだな」
「うちも自分がやれって言われたらな」
 どうかとだ。張遼は少し苦笑いになって述べた。
「ちょっとなあ」
「難しいか」
「話によるけれどな」
「そうだな。実践はな」
「だからあんたは凄いんや」
 関羽にまた話す。
「自分でもやるさかいな」
「私はそもそもだ」
 自分自身のことをだ。関羽は話していく。
「自分が何もしないということは嫌いだ」
「それも大嫌いやな」
「そうだ。一番嫌いなことの一つだ」
 毅然としてだ。張遼にも話す。
「昔からそうだった」
「愛紗は昔から愛紗やってんな」
「そうなるか」
「そや。ほなうちもや」
「貴殿も?」
「自分から率先してやろか」
 こう笑顔で言うのである。
「何でもな」
「前からそうしているのではないのか?」
「まだ足らん思う」
 自分を振り返っての言葉だった。
「そやからや。もっとな」
「そうか。だからこそか」
「そや。うちも頑張るで」
 笑顔のまま関羽に話していく。
「この天下万民の為にな」
「そうだな。共にな」
「あんたに出会えてよかったわ」
 今度はこんなことも言う張遼だった。
「それで味方にいてくれるのもな」
「私も貴殿が敵ならな」
「困ってたかいな」
「そうだ。困っていた」
 そうだとだ。関羽も言うのである。
「手強い相手になっていた」
「そう言うてくれるんかいな」
「だが。味方であったなら」
 話は逆説になっていた。それならばだというのだ。
「非常に頼りになる」
「そやな。うちもや」
「私が味方ならばか」
「頼りにさせてもらうで。それでや」
 瓢箪を出した。その栓を開けながらだった。
「どや。一杯」
「酒か」
「飲むか?美味いで」
「そうだな。私もな」
 関羽も微笑んでだ。瓢箪を出してきた。
 そしてそのうえでだ。張遼にこう言葉を返した。
「どうだ、一杯」
「何や、そっちも持ってたんかいな」
「夜に飲もうと思っていた」
「そうか。それでかいな」
「少し早いが軽く飲むか」
「そうしよか」
 こうしてだった。二人は互いの瓢箪を交換してだ。
 そのうえで酒を楽しむ。キムの地獄の修業を眺めながら、


第九十六話   完


                     2011・7・16



狐本人ではないが、力を持っているのは持っているみたいだな。
美姫 「おまけにやっぱり于吉たちとも繋がりがあるみたいだしね」
暫くは裏で動くのかな。
美姫 「どうするのかしらね。一応、軍師たちは気をつけるみたいだけれど」
さてさて、どうなっていくのかな。
美姫 「気になる続きは」
この後すぐ。



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