『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第九十四話  司馬尉、妹達を呼ぶのこと

 曹仁達から司馬尉の妹達の報を受けてだ。
 曹操は目を大きく見開いてだ。己の席から立って言うのだった。
「妹ですって!?」
「はい、そうです」
「その報が来ています」
 韓浩と徐晃がそうだと述べる。
「何でも司馬師殿と司馬昭殿というそうです」
「その御二人が」
「馬鹿な、聞いてないわ」
 曹操もだった。このことは。
「そんな話は」
「はい、それでなのです」
「夏瞬殿や冬瞬殿達も驚きを隠せないようです」
「あの娘に妹がいるなんて」
 曹操は己の席から立ったままだ。また言うのだった。
「そんなことが」
「あの、それでなのですが」
「どうされますか?」
 韓浩と徐晃は曹操にあらためて尋ねた。
「ここはです」
「一体」
「夏瞬達に伝えて」
 決断は早い。驚いていてもこのことは顕在だった。
「今は様子を見なさい」
「動いてはならない」
「そういうことですね」
「ええ、下手に動いたらしくじるわ」
 それを危惧しての言葉だった。
「だからここはね」
「わかりました。それでは」
「そうお伝えします」
「それとね」
 それに加えてだとだ。曹操は言った。
「すぐに劉備の所に行くわ」
「このことをですね」
「お話されますね」
「ええ。丁度あの娘の所に行くつもりだったけれど」
 そのだ。劉備の所にだというのだ。
「益州のことでね」
「あの州の牧にですね」
「劉備殿を推挙されるおつもりだったのですね」
「ええ、そのことを話すつもりだったけれど」
 理由はだ。さらに増えたというのだ。
「今はそれ以上にね」
「そうですね。今は本当に」
「そのことをお話しないと」
「一体どういう家だというの!?」
 曹操もだ。司馬家についてはこう言うしかなかった。
「妹達の存在が今までわからなかったなんて」
「そうですね。こんなことがあるのですか」
「信じられません」
「全くよ。有り得ないことだわ」
 しかし現実だった。それでなのだった。
 曹操はすぐに劉備のいる摂政の宮殿に入った。宮殿といっても小ぶりで大人しい造りなのは劉備の好みが出ているせいだろうか。
 その彼女のところに向かうとだ。 
 入り口でだ。袁紹に孫策と鉢合わせしたのだった。彼女達は曹操の顔を見るとすぐにだ。驚きを隠せない顔でこう言うのだ。
「あの娘に妹がいたですって!?」
「それも二人も」
「そんな話聞いていませんわよ」
「どういうことなの!?」
「貴女達もなのね」
 曹操は二人のその言葉も聞いて言うのだった。
「あの娘達のことは」
「ええ、辛姉妹から聞きましたわ」
「私は二張から」
 それぞれの内政の懐刀からだというのだ。彼女達はそれぞれの情報収集も受け持っているのだ。だからこそ知っているのだ。
「今あちらの陣では大騒ぎだとか」
「司馬尉直率の軍以外ではそうらしいわね」
「何処までも謎ね」
「司馬尉、実はね」
 孫策は眉を顰めさせながら話す。
「私あの娘のことはよく知らないのよ」
「というか全てが謎に包まれているのよ」
「何もかもがですわ」
「このことはね」
 また言う曹操だった。
「とにかく劉備にもね」
「そうですわ。その為に来たのですから」
「是非共ね」
 話をしようというのだ。こうして三人で劉備の場所に向かおうとすると。
 そこには。今度は。
 袁術がだ。慌しく駆けて来てだ。三人に言うのだ。
「大変じゃぞ!」
「ええ、司馬尉よね」
「そうなのじゃ。何と妹がいたのじゃ」
 こうだ。曹操に対しても応える。
「どういうことじゃ。こんなことは初耳じゃぞ」
「だからでしてよ」
 袁紹は顔を顰めさせて彼女に返す。
「これから劉備さんにそのことをお話しに行きますのよ」
「同じくね。私もよ」
 孫策もここでこう言う。
「そのことで劉備のところに行くのよ」
「左様か。主等もか」
「考えることは同じね」
 曹操はまた言った。
「訳がわからないにも程があるわ」
「ううむ、司馬尉と言う者」
 どうなのかとだ。袁術は首を捻りながら話す。
「わからん。何だというのじゃ」
「同感よ。まあとにかくね」
 その袁術に言う孫策だった。
「今は行きましょう」
「そうじゃな。劉備のところにな」
 こうしてだ。袁術も入れて四人になった一行は宮殿の劉備の前に来た。彼女は丁度孔明達と話しているところだった。そこに来たのだ。
 四人の姿を見てだ。劉備はすぐにこう言った。
「あのことよね」
「ええ、そうよ」
 その通りだとだ。曹操が返す。
「やっぱり聞いてたのね」
「うん。信じられないけれど」
「信じられないけれど事実よ」
 曹操もだ。半信半疑といった顔だった。
「あの娘には妹がいたわ」
「しかも二人よね」
「名前は司馬師に司馬昭というわ」
 孫策は二人の名前を話した。
「本当にはじめて聞く名前だけれどね」
「そしてその二人が」
 今度は袁紹が劉備に話す。
「司馬尉の補佐に就きますわ」
「あっという間にここまで決まったのじゃ」 
 袁術も劉備に話す。
「こんなことは有り得ないのじゃ」
「はい、私達にとってもです」
「寝耳に水でした」
 孔明と鳳統もだった。その顔にある驚愕は消せなかった。
「まさか。司馬尉さんに妹さん達がおられるなんて」
「しかももうあちらに向かっておられます」
「私も。朱里ちゃん達からお話を聞いて」
 どうかとだ。劉備も言う。
「びっくりしているところだったの」
「それで何者なのじゃ」
 袁術は単刀直入に述べた。
「その司馬師に司馬昭という者は」
「今わかっているのは名前だけです」
「その他のことは」
 孔明と鳳統が袁術に話す。
「全くわかりません」
「何一つとして」
「謎に包まれているのよ」
 劉備も弱った顔になっている。
「あの娘達が何者なのか」
「そうね。まさかここで出て来るなんて」
「考えもしませんでしたわ」
「けれど」
 それでもだと。ここで言う劉備だった。
「あの娘達は」
「ええ。よからぬものはあるわね」
 曹操は顔を顰めさせて言った。
「あの娘達には」
「ではやはり今は」
 どうするのか。袁紹が話す。
「様子見ですわね」
「結局それしかないみたいね」
 孫策は彼女にしては珍しくはっきりしない顔で述べた。
「今のところはね」
「ではあれじゃな」
 袁術も孫策と同じくはっきりとしない顔になっている。そのうえでの言葉だ。
「曹仁達にはこのまま」
「様子見を伝えるわ」
 曹操もそうするというのだ。
「もっとも。向こうもね」
「あの娘達には一切関わらせないようにしますわね」
 袁紹は不機嫌そのものの顔で話した。
「司馬家の面々だけで仕切りますわね」
「なら尚更見させてもらいましょう」
 孫策も言う。
「どういったことをするのかをね」
「それにしても。司馬尉ちゃんって」
 劉備も首を捻っている。
「ここまで謎が多いなんて」
「謎が謎を呼んでおるのじゃ」
 袁術はこうまで言う。
「そして謎だらけになっておるのじゃ」
「ただいけ好かないとだけ思っていたけれど」
「得体の知れないものも感じてきましたわ」
 曹操と袁紹は彼女への嫌悪をここでも話す。
「どうやら司馬家についても」
「今度さらに調べる必要がありますわね」
「そうね。それでだけれど」
 孫策はここで話を変えてきた。それは。
「劉備にお話したいことがあるのよ」
「私に?」
「そう。今益州が空いてるけれど」
 具体的には牧がいない。そういうことだ。
「どうかしら。その牧にね」
「私がなのね」
「丁度あそこには定軍山もあるし」
 そのだ。華陀達が言っているそこだった。
「民も多いし治めないといけない場所よ」
「そういえば益州って」
 ここでだ。劉備はその益州について話すのだった。
「南蛮と」
「ええ、境を接していたわね」
 曹操がそのことを話す。
「貴女その南蛮に行ったことあったわよね」
「それで猛獲ちゃん達と知り合ったのよ」
 そうだったというのだ。劉備の数多い出会いの一つだ。
「あそこは凄く暑くて」
「それにね」
 曹操は考える顔でさらに話す。
「やっぱり定軍山があるし」
「だから余計になのね」
「ええ。最初から話に出すつもりだったけれど」
「私が益州に」
「そうして。貴女が牧に入って」
「うん、じゃあ」
「徐州に加えて益州ね」
 その二つの州をだ。劉備が治めることになったというのだ。
 その中でだ。さらにだった。
「あと擁州だけれど」
「あそこはどうしますの?」
 袁紹が曹操に尋ねる。
「今はわたくしの軍が占拠していますけれど」
「けれど貴女五つの州を治めているわよね」
「正直。今は」
「その五つの州で手が一杯ね」
「その通りですわ」
 袁紹の事情はそうだった。彼女も今治めている州のことで必死なのだ。
 それでだった。袁紹は言った。
「ですから擁州は」
「そうよね。じゃあ誰が治めるべきかしら」
「同じ董家の者でいいではないか」
 ここでこう言ったのは袁術だった。
「そうではないか?」
「あの家の娘になのね」
「そうじゃ。あの董白がいるぞ」
 袁術は孫策にも自分の考えを話す。
「あの娘に任せればいいではないか」
「そうね。董卓はいないことになってるけれど」
 この辺りは公然の秘密だった。董卓は死んだことになっているのだ。
 しかし董白はいる。それならばだった。
「あの娘がいるなら」
「任せればよいではないか」
「そうね。それじゃあ」
「うむ、決まりじゃな」
 こうしてだった。擁州の牧は董白がすることになった。そうなったのだ。
 こうして益州と擁州のことは話が決まった。漢王朝は彼女達に支えられはじめていた。
 その擁州でだ。司馬尉は。
 二人の少女達にだ。こう言っていた。
「来たわね」
「はい、お姉様」
「只今参りました」
 一人は絹を思わせる妖しい輝きの黒髪を持っている。その髪が腰まである。
 右が前になっている白い着物に紅の袴を着ている。切れ長の睫毛の長い琥珀の目に小さな唇を持っている。顔は細く雪の様だ。
 もう一人は金色の髪を短くしている。はっきりとした青い目であり首には逆さになった十字架をかけ黒い法衣を着ている。シスターの服だ。
 二人共その背は司馬尉よりも低い。その二人がだ。彼女に対して言うのだ。
「司馬師、ここに」
「司馬昭もまた」
「ええ。貴女達がいれば」
 司馬尉はどうかとだ。妖しい笑みで話すのだった。
「最早全てはなったわね」
「この戦は姉上お一人で充分では?」
「それで我等を御呼びしたのは」
「わかっている筈よ」
 妖しい笑みをそのままにだ。司馬尉は言うのだった。
「見せる為よ」
「あの者達にですね」
「私達を見ている彼女達に」
「それとあの世界から来ている面々にもね」 
 彼等のこともだ。司馬尉は妹達に話した。
「見せる為によ」
「我等の戦の仕方と」
「そのやり方を」
「思う存分見せてあげるわ」
 笑みの妖しさがさらに深まる。
「司馬家のやり方をね」
「そういうことでしたら」
「我等もまた」
「さて、では早速ね」
 また妹達に言う司馬尉だった。
「軍儀を開くわよ」
「ではあの者達もですね」
「ここに呼びますね」
「いえ、呼ばないわ」
 曹仁達はだ。呼ばないというのだ。
 それは何故かもだ。司馬尉は話した。
「私達でやるわ」
「やはりですか」
「それされますか」
「そうよ。私達の戦だから」
 それでだとだ。これが司馬尉の言葉だった。
「そうさせてもらうわ」
「後で曹操や袁紹が何か言うのでは」
「それは構いませんか」
「気にする必要があるのかしら」
 司馬尉は平然として妹達に返す。
「あの娘達のことは」
「いえ、その必要はありません」
「全くです」
 司馬師と司馬昭もだ。平然とした笑みで長姉に話す。
「所詮は宦官の娘に妾腹」
「それでどうして気にすることがありましょうか」
「その通りよ。私達は名門司馬家の嫡流よ」
「宦官や妾とは違います」
「何一つとして同じものはありません」
「だから。あの娘達が何を言っても」
 また言う司馬尉だった。
「気にすることはないわ」
「そうですね。それでは」
「あの娘達は」
「ええ。ただ」
 しかしだとだ。ここで司馬尉の言葉が止まった。
 そのうえでだ。この娘の名前を出すのだった。
「劉備といったわね」
「劉備?あのですか」
「何でも皇室の血を引くという」
「あの娘ですか」
「草靴や蓆を売っていたという」
「ええ、あの娘よ」
 まさにだ。その娘だというのだ。
「あの娘は気になるわね」
「ただの抜けてる娘では?」
「話を聞いていますと」
「ええ。あの娘自身はね」
 そのだ。劉備はどうかというのだ。
「政も戦もね」
「どちらについてもですね」
「大したことはありませんね」
「ええ。確かに抜けているし」
 それもまた事実だというのだ。
「ぼんやりとした娘よ」
「では問題にならないのでは?」
「幾ら皇室の者とはいえ」
「あの娘の周りには」
 そのだ。劉備の周りがだというのだ。
「多くの優れた者達が集っているわ」
「その者達がですか」
「問題だというのですね」
「その曹操や袁紹にしても」 
 彼女が侮蔑しているだ。その彼女達もだというのだ。
「劉備の下に集まっているわ」
「あの二人もですか」
「その劉備の下に」
「勿論孫策や袁術もね」
 彼女達のことも話される。
「彼女のところに集っているわ」
「では私達が滅ぼそうとしている者達がですか」
「あの娘の下に集っているのですか」
「では今は」
「あの娘は」
「人を惹き付けて話さないものがあるわ」
 それがだ。問題だというのだ。
「それが気になるわね」
「では。我が司馬家がこれから望みを果たすには」
「その劉備がですね」
「最大の敵になりますか」
「今後は」
「そう思うわ。都に戻れば」
 司馬尉の顔から余裕の笑みが消えていた。そのうえでの言葉だった。
「あの娘をね」
「はい、わかりました」
「手を打ちましょう」
「消すわ。しかも」
 ここでだ。司馬尉の顔に妖しい笑みが戻った。
 それでだ。こう二人に言うのだった。
「思いきりね」
「残忍な方法で、ですね」
「時間をかけて」
「人を殺すには楽しみがなければ意味がないわ」
 妖しい笑みにさらにだ。酷薄なものも宿った。
 そうしてだった。彼女は言うのだ。
「だから。あの娘もね」
「その劉備もですね」
「そうしますか」
「そうするわ。さて」
 ここでだ。また話す司馬尉だった。
 そのうえでだ。彼女達は。
 闇の中に入りだ。軍議を開くのだった。
 軍は司馬家の者達が動く様になっていた。それを見てだ。
 曹仁は苦い顔でだ。曹洪達に言うのだった。
「どう思うかしら」
「あからさまなことをしてくれるわね」
 曹洪もだ。苦い顔で応える。
「私達は完全に蚊帳の外ね」
「そうね。司馬家の面々でね」
「除け者にしてくれるのはわかっていたにしても」
「ここまで露骨にしてくれるとはね」
「全くね」
「やってくれるわ」
 田豊達もここで言う。
「陣も明らかに離してくれたし」
「軍にしてもね」
 とにかくだ。司馬家の者達だけでなのだった。
 彼女達は率いている軍も除け者にされていた。完全に司馬家だけで話が進んでいた。
 そんな中でだ。彼女達は。
「どうしたものかしらね」
「これでは。目付けにしてもやりにくいわね」
「ここまで堂々と話されるとね」
「どうしても」
 これからのことに悩んでいた。しかしだ。
 その彼女達にだ。ビリーが話す。
「まあいいじゃねえか?」
「よい?」
「よいと言うのですか、ビリー殿は」
「ああ、別にな」
 また言うビリーだった。
「あの連中がそうしたいっていうんならな」
「よいというのですか」
「好きなようにですか」
「ああ、見ればいいんだよ」
 にやりと笑ってだ。彼は曹仁達に言った。
「このままだ」
「あの者達をですか」
「司馬家の者達を」
「そうだよ。このままな」
 ビリーの言葉は変わらない。そしてそれは。
 ダックも同じでだ。彼もこう言うのだった。
「離れた場所から見る方がいい場合もあるだろ」
「言われてみれば確かに」
「そうですね」
 曹仁達もだ。考えを変えだした。
「遠くから見てもです」
「見ることができますね」
「よし、じゃあこれで決まりだな」
 マイケルも笑って言う。
「このまま見ていくか」
「司馬尉達の動きをですね」
「それを」
「それでな」
 今度はホアが彼女達に話す。
「これからだけれどな」
「これから?」
「これからといいますと」
「何か食うか?」
 ここでだ。こう提案したのである。
「丁度昼飯の時間だしな」
「そうね。それじゃあ」
「何食べようかしら」
「茶玉子はどうじゃ?」
 タンは自分の好物を出した。
「あれはよいぞ」
「バターコーンがいいな」
「俺は目玉焼きだな」
 ダックとビリーも自分達の好物を話す。
「それじゃあ今からな」
「作って食べるか」
「何か玉子が多くない?」
 田豊は彼等の話を聞いて突っ込みを入れた。
「あれは食べ過ぎるとよくないって聞いたけれど」
「ああ、コレステロールな」
 このことに答えるのはホアだった。
「あれが問題になるよな」
「ならそんなに食べない方がいいのじゃないかしら」
「確かに多いな」
 リチャードも腕を組んでそうではないかと応える。
「それでは野菜も入れるか」
「ステーキはなしか?」
 ビッグベアもビッグベアで自分の好物を話に出す。
「軽く焼いたそれを食いたいんだけれどな」
「ステーキねえ」
「あれもでしょ?」
「コレステロールが高いわよね」
「お肉自体が」
 曹仁達はこのことも知ったのだ。他ならぬビリー達から話を聞いてだ。
「あまり食べ過ぎたら痛風だったかしら」
「あの病気になるって聞いてるけれど」
「私達も気になるけれど」
「貴方達もまずいのでは?」
「確かに食う量は多いけれどな」
 ビリーもそのことは否定しない。笑ってこのことを話す。
「けれどそればっかり食う訳じゃないからな」
「他のものもね」
「お野菜とかもちゃんと食べるから」
「だからいいの」
「そういうことね」
「そう、偏食はしないんだよ」
 それはわかっていた。よくだ。
「バランスよくな」
「食べているからな」
 ビッグベアにしてもそれは同じだった。レスラーは食べるのも仕事だ。それならばバランスよく食べないとならない、そういうことだった、
 それでだった。彼等もまただった。
「野菜も食ってな」
「イモも出すか」
「あとデザートに果物な」
「バランスよくたっぷりとな」
 食べるという話をしてだ。彼等は実際にバランスよくかなりの量を食べた。そしてその中で。
 ダックはバターコーンを食べながら曹仁達に言った。
「それで食った後ちょっとしたらな」
「あのダンスね」
「踊るのね」
「食った後は気持ちよく身体を動かさないとな」
 気が済まないというのだ。
「だからだよ」
「成程、それでなのね」
「いつも踊ってるのはね」
「それが理由だったのね」
「あと練習な」
 それもあるというのだ。
「俺はダンサーだからな」
「こいつ元の世界じゃ世界的に有名なんだよ」
 マイケルが彼女達にこのことを話す。
「ラップダンスでな」
「あのラップというのも最初見た時はね」
「かなりね」
 曹仁達が話す。
「正直何かって思ったけれど」
「見慣れると」
「いいもんだろ」
 笑いながら話すダックだった。
「あのダンスも」
「ええ、そうね」
「その通りよ」
 彼女達もそうだと答える。
「それをなのね」
「食べた後に」
「踊るぜ」
「さて、俺はな」
 ビリーもビリーもでだ。やるというのだ。そのやることは。
「洗濯すっか」
「洗濯ねえ」
「あんた本当にそれ好きよね」
 曹仁と曹洪はビリーのその言葉を聞いて首を捻りながら述べた。
「暇があったらそれしてるわよね」
「何かっていうと」
「ああ、趣味なんだよ」
 実際にそうだというのだ。
「実はな」
「まあ洗剤あるしな」
「そういえば何で洗剤あるんだ?」
 ダックはこのことに突っ込みを入れた。
「この時代にな」
「そうだよな。流石に洗濯機はないけれどな」
 ビッグベアも話す。
「洗剤はあるからな」
「粉のな。おかしな話だよな」
「大体この世界おかしなこと多いぞ」
 ビッグベアはこのことを真剣に指摘する。
「普通にジャガイモとか唐辛子とかあるしな」
「俺の好きなコーンだってな」
「この時代のこの国はないだろ」
「俺達の世界じゃそうだよな」
「服もな」
「ああ、ないからな」
 とにかくだ。そうしたところが違っていた。
 それでだった。彼等は四人に尋ねるのだった。
「そもそもどういう世界なんだよ」
「それすらもわからになくなってきたからな」
「訳のわからないことが多いだろ」
「もう滅茶苦茶なところが多過ぎるぜ」
 ビリーにダック、マイケルにホアである。
「まあ。あの裸のおっさん達は置いておいてな」
「あそこまで考えるとどうしようもないからな」
「問題はこの世界だよ」
「どういう構造になってるんだろうな」
 まさに考えれば考える程だった。そしてだ。
 その彼等にだ。沮授が答えた。
「それね。私達もね」
「わからないっていうのか」
「そっちもか」
「ええ。私達の世界ではね」
 そのだ。彼女達の世界ではどうかというのだ。
「洗剤は普通にあって」
「そうよね。秦代にはね」
「もうあったし」
「それに服はね」
「かなり前からこんな感じよね」
「東周時から」
 そうなっているというのだ。それを聞いてだ。
 タンがだ。その東周時代について話した。
「では孔子以前からじゃな」
「ええ。もうこうした服の原型はできていたわ」
「ちゃんとね」
「服や洗剤の進化が違うようだな」
 リチャードもこのことに気付いた。
「おそらくそれは」
「あれか?ジャガイモとかトマトとかもうあるからな」
 ビリーはこれが大きいのではないかと指摘した。
「食い物が豊富だからな」
「ああ。この世界の食生活ってな」
 それはどうかとだ。マイケルも言う。
「俺達の時代と変わらないからな」
「そうだよな。本当に贅沢だよな」
「この時代じゃないからな」
「俺達の世界だと」
 この辺りが全く違っていたのだった。しかもだ。
 ここでだ。さらにだった。
「武器だってな」
「ああ、この時代にない武器ばかりでな」
「武器の開発も随分と進んでるよな」
「漢代末期じゃない」
「俺達の世界とは本当に違うからな」
「何もかもな」
「確かに別世界ね」
 このことは田豊も認める。
「言うなら私達の世界って」
「一種の特異点かしら」
 沮授は自分達の世界をそうではないかと考えた。
「それでこうした様々な違いが出ているのかしら」
「だから余計にか?」
 ビッグベアは腕を組んで考えながら述べる。
「オロチだの于吉だの怪しいのが一杯来たのか」
「特異点には特異な存在が集る」
 リチャードはこう考えた。
「そういうことか」
「そうでしょうね。多分ね」
「それでなのよ」
 田豊と沮授もそうではないかというのだ。
「あの連中も集った」
「そういうことでしょうね」
「何かそう考えるとな」
 ホアも首を捻って述べる。
「やっぱり集まるところに集るんだな」
「人は相応しい世界に集る」
「そういうことか」
「話はわかった」
 ここでまた話す彼等だった。
「で、こっちの世界に元からいるのはいるか?」
「そういう奴は」
「それがまさか」
「司馬尉?」
 曹仁と曹洪が話す。
「あの娘がまさか」
「そうした人間なのかしら」
「だとしたらどうする?」
「その場合は」
「その場合は倒すしかないわ」
「当然ね」
 真剣な顔でだ。こう言う二人だった。
「例え誰であろうともね」
「この国を害しようとするならね」
「だって。私達が武を磨いてるのって」
「その為だから」
 それでだとだ。彼女達も話す。
「オロチだの何だのが出て来てもね」
「共に倒すわ」
「その覚悟は見事だな」
 ビリーは曹仁と曹洪のその考えをよしとした。
「俺なんてな。棒を身に着けたのってな」
「ああ、御前あれだったな」
「そうだよ。たまたまな」
 どうだったかとだ。ビッグベアに応えて話す。
「喧嘩の時に棒を使ってな」
「そこをギースの部下にスカウトされてだったな」
「ああ、そうだったんだよ」
「そうだよな。それでギースに従ってるのも」
「俺はリリーを養わないといけないんだよ」
 ビリーのその顔が鋭いものになる。
「あいつをな」
「あっ、あんた妹さんいたわよね」
「その話してたわよね」
「いるぜ。最高に可愛いのがな」
 その通りだとだ。ビリーは田豊と沮授の言葉に応えて話す。
「俺の宝物だよ」
「その妹さんに丈の奴が粉かけてんだよな」
「あいつは本気で殺す」
 まさに本気の言葉だった。
「この俺の手でな。始末してやる」
「そんなに嫌?あいつと妹さんがくっつくのって」
「そこまで言うの」
「ああ、リリーには幸せになって欲しいんだよ」
 それでだというのだ。
「あんな馬鹿にリリーは渡せるか、絶対にな」
「まああいつは馬鹿ね」
「間違いなくね」
 曹仁達が見てもだ。丈は確かにそうだった。
 それでだ。ビリーの言葉に頷いてだった。
「まあ。少なくとも物騒なことはしないでね」
「言っても無駄だろうけれど」
「あいつだけは殺す」
 まだ言う彼だった。
「例え何があろうともな」
「やれやれじゃな」
 タンが最後にこう言うのだった。何はともあれだ。彼等は今葉静かにしているのだった。そのうえで司馬尉達の動きを見ていた。


第九十四話   完


                      2011・7・12







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