『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第九十話 孔明、秘策を授けるのこと
連合軍は都に来た。しかしであった。
その前にいる謎の一軍を見てだ。彼等は進撃を止めてだ。そのうえでだった。
本陣の天幕に集いそのうえで。これからのことを話し合っていた。
「数は五十万」
「対することはできる数だけれど」
「敵の氏素性がわからない」
「そのことがな」
「参ったわね」
「刹那達のことならわかってるよ」
楓がこう一同に話す。
「そして常世のこともね」
「アンブロジアのこともな」
今度は覇王丸が話す。
「わかってることはわかってるぜ」
「そのことはいいのですが」
呂蒙が不安に満ちた顔で述べる。
「問題はあの白装束の一団です」
「敵の主力になってるわね」
「敵兵は殆んどがそれよ」
辛姉妹が話す。
「あの連中の正体がわからないから」
「迂闊に手出しができないわね」
「二度程戦っていますけれど」
盟主の座にいる袁紹が眉を顰めさせながら話す。
「兵というよりあれは」
「刺客ね」
曹操も言う。
「そういった感じよ」
「確かに。あれは」
「兵の動きではありませんでした」
夏侯姉妹もそのことについて頷く。
「妙に俊敏で抜け目なく」
「剣呑なものがありました」
「そうですね。あれはまさに」
「兵の動きじゃ絶対になかったよな」
顔良と文醜もこう言うのだった。
「五十万の刺客ですか」
「嫌な戦になりそうだな」
「それだけじゃねえぜ」
草薙が鋭い顔で一同に話す。
「そのオロチだよ。オロチのなかにな」
「何かいた?」
「誰かが」
「青い丈の長い服の奴いただろ」
こうこちらの世界の仲間達に問うのだった。
「顎鬚生やしていてな」
「はい、いました」
諸葛勤が答える。
「報告にあります」
「そいつな、ゲーニッツっていうんだよ」
その男の名前をだ。話すのだった。
「吹き荒ぶ風のゲーニッツな」
「私の双子の姉さんを殺した男」
神楽はその目に怨みを宿して話す。
「その男もいるのね、やっぱり」
「あいつは尋常じゃなく強い」
草薙の声は警戒するものだった。
「バケモンだ。まさにな」
「そいつまさかと思うけど」
張遼がその草薙に問う。
「うち等が束になってもって位かいな」
「あいつ一人で国潰せる位の力はあるな」
そこまでの力があるとだ。草薙は言い切った。
「呂布でも一人じゃ絶対に勝てねえな」
「嘘を言うななのですっ」
陳宮は草薙の今の言葉にすぐに反論した。その両手を拳にして顔は怒っている。
「恋殿に勝てる奴なんていないのです」
「ねね、それは違う」
だが呂布自身がだ。隣にいるその陳宮に話すのだった。
「恋より強い奴もいる」
「そんな、恋殿より強い奴なんて」
「感じる。その連中が敵にいる」
表情は変わらない。しかしその目の光は強い。
「そのゲーニッツって奴だけじゃない」
「ああ、残念だけれどな」
その通りだとだ。今度は覇王丸が話すのだった。
「そのアンブロジアの巫女のミヅキって奴もな」
「尋常でない強さなのです?」
「洒落になってねえ」
真顔で陳宮に話すのだった。
「やっぱりそいつも国一つ潰せる位の強さがあるんだよ」
「洒落になっとらんな」
張遼はここまで聞いて思わず言った。
「そんなやばい奴等がごろごろってな」
「しかも刺客みたいな奴等が五十万」
「尋常でない戦いになるな」
「絶対に」
全員でこう話していく。しかしここでだ。
本陣にだ。袁紹軍の士官が一人入って来てだ。そうして報告するのだった。
「只今妖怪が二匹出て来ました」
「あいつ等ね」
曹操は話を聞いてだ。瞬時に顔を真っ青にさせて述べた。
「生きていたのね」
「死んで欲しかったのですが」
「全くです」
筍氏の叔母と甥も言うのだった。
「そうおいそれとは死にませんか」
「迷惑な話です」
「殺しても死なない連中だから」
曹操も始末することは諦めていた。無理だとわかっているからだ。
それでだ。仕方なくだ。盟主の袁紹に話すのだった。
「覚悟が必要よ」
「妖怪登場ですわね」
「そうよ。麗羽は知らなかったわね」
「貴女から聞いていますけれど」
曹操からだ。事前に情報は聞いているのである。
「それ以上ですのね」
「百聞は一見にしかずよ」
「まあ。妖怪とはいっても」
袁紹は比較的楽観していた。それが言葉にも出ている。
「大したことはありませんわね」
「あの、そう思うとです」
「大変なことになりますよ」
視覚的に記憶がある顔良と文醜が主に話す。
「多分。その妖怪達は」
「あたい達何か嫌な記憶がありますから」
「ですから。幾ら妖怪といいましても」
袁紹は二人の言葉にいぶかしむ顔で返すのだった。
「それでも別に何もかも破壊したりはしませんわね」
「あの、それはかなり甘いと思います」
周泰もその妖怪達が誰なのか察して袁紹に話す。
「おそらく。その妖怪さん達は」
「何かわかりませんが通しなさい」
袁紹は彼等について何も知らないまま命じる。
「宜しいですわね」
「覚悟しておきなさい」
袁紹だけでなく本陣にいる全員への言葉だった。
「何があっても怒らないことね」
「だから何だってんだよ」
ダックがその曹操に飄々と返す。
「妖怪が怖くて何ができるってんだよ」
「その言葉後悔するわよ」
曹操は真顔でそのダックに返す。
「それでもいいわね」
「わかんねえな、本当に」
「全くだな」
ダックにビッグベアが応えて話す。
「だから妖怪っていってもな」
「今俺達の前にいる奴等よりずっとましだろ」
「そう思っていればいいのだが」
「後悔はしないでくれ」
真顔で彼等に話す夏侯姉妹だった。そうしてだった。
彼等が将校に案内されて本陣に来た。その瞬間だった。
「あら、皆集まってるのね」
「あたし達の美貌を見に来たのね」
妖怪達はそれぞれの身体を不気味にくねらせながら話す。
「それじゃあサービスして」
「皆に。これをプレゼントよ」
こう言ってだ。妖怪達は周囲にウィンクと投げキッスを捧げる。すると。
その瞬間にだ。天幕の中において。
大爆発が起こりだ。誰もが吹き飛ばされるのだった。天幕の中は忽ちのうちにぼろぼろになってしまった。
その中からようやく立ち上がりだ。ガルフォードが言った。
「や、やっぱりこの連中か」
「あら、アメリカのハンサム忍者ね」
「相変わらず活躍してるのね」
「そういえば思い出したぞ」
ガルフォードは彼等を指差しながら言う。
「俺がこの世界に来たての頃に。夢に出て来たな」
「枕元にいたのよ」
「そのあたりちゃんと訂正してね」
「そうだったのかよ」
枕元に来ていたと聞いてだ。ガルフォードも愕然となる。
「こいつ等、何時の間に」
「あたし達に不可能はないから」
「どんな警護も瞬間移動で突破できるのよ」
「そら人間ちゃうやろ!」
ケンスウもぼろぼろになりながらも立ち上がって言う。
「エスパーとかそんなの超えてるやろ!」
「あら、失礼な坊やね」
「こんな乙女達を捕まえて」
「あかん、会話ができん」
ケンスウも唖然となる。
「こいつ等絶対に普通の人間やないで」
「だから言ったのよ」
曹操も爆発でぼろぼろになってしまっている。
「この連中は普通じゃないのよ」
「幾ら何でもこれは」
袁紹も必死に盟主の座に戻りながら話す。
「有り得ませんわ」
「予想以上だったのね」
「ここまでの恐ろしい連中だとは」
袁紹も思いも寄らなかったのである。
「とにかく。倒さないといけませんわね」
「あら、そうすることはないわ」
「だってあたし達貴方達の味方だから」
妖怪達はこう主張するのだった。
「今白装束の連中が来ているわね」
「そうよね」
「その通りじゃ」
袁術も何か立ち直って話す。
「それでどうしようかと話しておったところじゃ」
「そうよね。実はね」
「あの連中のことは知ってるのよ」
妖怪達はあらためて彼等に話す。
「それもよくね」
「そうだったのだけれど」
「同じ妖怪だからか?」
甘寧は本気でこう思っている。
「だからなのか」
「だから。あたし達は妖怪じゃないわよ」
「絶世の美女よ」
やはり会話は通じない。
「あたし達はあらゆる並行世界の監視者なのよ」
「それがあたし達の仕事なのよ」
「並行世界?」
その言葉にだ。こちらの面々は首を捻る。しかしここでだ。
ハイデルンがだ。こう彼等に説明した。
「並行世界というのはだ」
「ええ、一体」
「何なんですか?」
「まず世界は一つではないのだ」
ハイデルンが話すのはここからだった。
「この世界があり我々の世界があるな」
「それぞれの世界がある?」
「つまりは」
「そうだ。無数の世界が同時に存在しているのだ」
そうだとだ。ハイデルンは話すのである。
「それが並行世界なのだ」
「その通りよ。世界は一つじゃないの」
「無数にあるのよ」
妖怪達も話すのだった。
「それでね。あたし達はね」
「その並行世界の監視と管理が仕事なの」
「あらゆる世界の均衡が保たれるようにね」
「常に働いているのよ」
「それではだ」
タクマがその彼等に問う。
「この世界はやはり」
「ええ、均衡が脅かされているわ」
「均衡を破壊しようという連中にね」
「ではあれなのか」
孫権はここまで聞いて述べた。
「あの白装束の者達は」
「ええ、並行世界の均衡を脅かす者達よ」
「私達監視者と対立する立場にいるのよ」
「そうか。話はわかった」
孫権もここまで聞いて述べた。
「私達の世界のあらゆる異変はあの者達が黒幕だったのか」
「ええ。あちらの世界のあらゆる怪しげな勢力と手を組んでね」
「そうして彼等をこちらの世界に導いてね」
「それで。この世界を破壊しようとしているのよ」
「勿論その後であちらの世界もね」
つまりだ。二つの世界を破壊しようとしているのだ。
そのことを聞いてだ。誰もが言うのだった。
「洒落になってないな」
「そうだよな」
「これは」
「そう、一つの世界だけの問題じゃないの」
「あらゆる世界にとっての問題なのよ」
また話す怪物達だった。
「だからこそあたし達はこの世界に来てね」
「今ここにいるのよ」
「話はわかりました」
劉備が応える。
「では私達に」
「協力させてもらうわ」
「喜んでね」
二人はまたこのことを答えた。
「というよりか是非共」
「協力させて欲しいのよ」
「この世界の為にだな」
関羽が二人に尋ねた。
「そうだな」
「ええ、そうよ」
「その通りよ」
彼等にしてもそうだと返すのだった。
「あたし達の役目以上にね」
「世界もそこに住んでいる人達も守りたいのよ」
職務以上のものをだ。抱いているというのである。
「だから。本当にね」
「御願いするわ」
「わかったのだ」
強い顔で頷く張飛だった。
「では力を貸して欲しいのだ」
「御願いします」
劉備も彼等に言う。
「是非共」
「そしてだ」
ここでもう一人来た。彼は。
華陀だった。彼は真剣そのものの顔で一同に話すのだった。
「連中は太平要術の書も使っている」
「あの書ね」
「そう、あれだ」
こう曹操にも話す。
「久しいな。皆元気で何よりだ」
「そうですね。華陀さんも」
劉備がその華陀に応える。挨拶も為される。
その挨拶の後でだ。華陀はさらに話した。
「あの書は人の負の感情を集めそれを糧として力を蓄えるものだ」
「そしてその書の力でも」
「この世界を」
「そうだ。奴等は何段も手段を用意しているんだ」
華陀もだ。そのことをはっきりと把握していた。だからこその言葉だ。
「この世界を滅亡させる為にな」
「オロチ、アンブロジア、常世」
「そして太平要術の書」
「本当に幾つもだな」
「何段も用意してか」
「そうしているんだな」
「用意周到なんてものじゃないな」
皆華陀の話を聞いて言う。敵のその備えの見事さをだ。
「そこまでしてこの世界を滅ぼしたいのかよ」
「そしてもう一つの世界も」
「俺達の世界もか」
「何もかもを」
「力があるなら全て使う」
華陀はここでまた言った。
「それは当然だ」
「だからそうしてきている」
「向こうもありったけの力を使ってか」
「仕掛けてきているんだな」
「それならです」
孔明だ。意を決した顔で両手を拳にして胸の前に置いてだ。そのうえで仲間達にこう話すのだった。
「私達も全ての力を使いましょう」
「そうよね。向こうもそうしてくるのなら」
鳳統も言う。
「こちらもそうしましょう」
「ええ。それで今は」
「今一番危険なのはだ」
ここでだ。また言う華陀だった。
「書だ」
「その太平要術の書」
「あの書ですね」
「あれですか」
「あの書は既に力を極限まで手に入れている」
その内包できる極限までというのだ。
「後は開放するだけだ」
「ではその力を開放したら」
「この世界は崩壊する」
「その書の力で」
「そうするつもりなんですね」
「そしてその開放を邪魔しようとする俺達を排除する為にだ」
その為にだというのだ。
「今洛陽の南に軍を置いているのだ」
「その軍にも勝たないとね」
「そうしないと駄目よ」
ここでまた話す貂蝉と卑弥呼だった。
そして書もね」
「ちゃんと封印して」
「戦はです」
その戦はどうするか。鳳統が話してきた。
「今袁紹さんの軍は擁州を奪還されましたね」
「あら、気付いていましたの」
「はい、そのことは」
「情報を手に入れたと言うべきかしら」
鳳統の軍師としての力量を考慮しての言葉だった。
「若しくは」
「それは」
「まあいいですわ。とにかくでしてよ」
「はい」
「擁州のわたくしの軍も使うのでしてね」
「あの人達には敵の後方を衝いてもらいます」
まずはだ。彼女達の軍を動かすというのだ。
「審配さん達には」
「将のことも御存知とは」
袁紹はここでも鳳統の力量を見た。そのうえで目を鋭くさせる。
「貴女、やはり」
「あの、それは」
高評価を与えられつい赤面してしまう鳳統だった。
「申し訳ありませんが」
「照れ性なのですね」
このことははじめてわかる袁紹だった。それで一旦言葉を引っ込めてあらためて鳳統に話す。
「それでわたくしの兵も使って」
「そしてそれだけではなくです」
まだだ。兵を使うというのである。
「私達の兵も二手に分けましょう」
「二手に?」
「成程、そうするのですね」
郭嘉と程cがここで頷いて言った。
「主力は前から攻め」
「そして別働隊が側面から」
「はい、そうです」
まさにその通りだとだ。鳳統は曹操軍の軍師二人に応えてさらに話す。
「幸い我々は兵力では優位に立っていますし」
「そうですね。我が軍と袁紹殿の軍を合わせただけで」
「二十五万を優に超えます」
ここでまた言う郭嘉と程cだった。
「そこに孫策殿と袁術殿の兵」
「合わせて五十万を超えます」
「そこにさらに董卓殿と劉備殿の兵」
「七十万ですね」
ほぼだ。大陸中の軍が集っていると言っても過言ではない。彼等は進軍中に援軍を入れたりそうしていってだ。それだけの兵を持っているのだ。
「確かに敵は手強いですが」
「それだけの兵があります」
「こちらはそれを使いましょう」
兵力的に優位なことをだ。鳳統は利用しようというのだ。
「そのうえで敵を囲み殲滅します」
「そしてそこで問題になるのは」
ここで言ったのは曹操だった。
「敵を側面から衝く別働隊ね」
「はい、その別働隊ですが」
鳳統はその側面を衝く別働隊についてもすぐに話した。
「十の軍に分けます」
「十になのね」
「左右二つずつ。縦に五段にして」
そうしてだというのだ。
「その方々に側面を衝いてもらいましょう」
「わかったわ。では将を選ぶのは任せるわ」
曹操はそのことも鳳統に任せるとした。
「前から攻める主力のこともね」
「有り難うございます」
「敵軍はこれでいいわね」
曹操は戦についてはそれでいいとした。しかしだ。
そのうえでだ。このことに話をやるのだった。
「それで後は太平要術の書だけれど」
「それは俺が封印する」
そうするとだ。華陀が話す。
「任せてくれ」
「護衛はあたし達がするわ」
「任せてね」
貂蝉と卑弥呼は聞かれてもいないのに名乗り出た。
「期待していてね」
「ダーリンは絶対に守るから」
「いや、それは駄目じゃろ」
袁術は顔を顰めさせてすぐに駄目出しを告げた。
「その太平何とかの書を封印するのは密かに近付いてじゃろ」
「ええ、そうよ」
「その通りよ」
「ならそれではじゃ」
どうかというのである。
「あまりにも目立ち過ぎるではないか」
「あら、目立ち過ぎるの」
「そうなの?」
そう言われてだ。彼等はこう解釈するのだった。
「この美貌故にね」
「綺麗なのも罪なのね」
「まだ言うか、この連中は」
流石の袁術も呆れてしまった。二人のポジティブシンキングにだ。
しかしあらためてだ。こう彼等に告げるのだった。
「とにかくじゃ。御主達はじゃ」
「駄目なのね」
「ダーリンの護衛は」
「むしろその奇天烈な力を戦で使ってもらいたいのじゃが」
袁術も彼等のその桁外れの破壊力は認識していた。先程のウィンクや投げキッスだけで大爆発を起こさせたその力をだ。
「少なくとも戦には勝てるじゃろ」
「ならわかったわ」
「あたし達のこの力を戦の場で使わせてもらうわ」
今度は目を光らせ全身にオーラをまとっての言葉だった。どちらにしても不気味極まる。
「じゃあダーリン、そっちはね」
「別の人に任せるわ」
「ああ、それでだが」
ここでまた話す華陀だった。
「劉備殿の剣だがな」
「私のですか」
「その剣はあっちの世界の連中」
「ほら、黄巾の乱の最後で出て来たあの黒髪の男よ」
「于吉っていうんだけれどね」
貂蝉と卑弥呼はこの男についても話した。
「あの男ともう一人。小柄な緑の髪の男がいるのよ」
「そっちは左慈っていうんだけれど」
「その連中が白装束の連中の頭目だ」
華陀も話す。
「あの連中にとって劉備殿の剣は効果があるんだ」
「それはどうしてなんですか?」
剣の持ち主が華陀に問うた。
「私の剣がどうしてその人達に効果が」
「あの連中は前にも何度かこの世界に介入していたのよ」
「その時にもね。あたし達と戦ったのよ」
「その時にあたし達が造った剣でね」
「劉備さんの御先祖様にあげたのよ」
衝撃の事実がだ。今明らかにされたのだった。
「その人はあたし達と一緒にあの連中と戦ってくれたから」
「それでなのよ」
「?まさかそれは」
周瑜は二人の話を聞いて察した顔になって言った。
「あの漢の高祖の」
「ええ、劉邦ちゃんよ」
「あの娘と一緒に戦って授けたのよ」
またしても衝撃の事実であった。
「漢王朝を統一して間も無くね」
「そうしたのよ」
「そうだったんですか」
それを聞いてきょとんとした顔になって応える劉備だった。
「御先祖様がですか」
「ええ、そうなのよ」
「事実って色々と面白いでしょ」
「というかびっくりし過ぎて」
孫策も唖然となっている。
「何て言っていいかわからないんだけれど」
「だが事情はわかってくれたわね」
「一連の事情が」
「それはね。とりあえずはね」
そうだと答える孫策だった。
「じゃあ華陀の護衛は劉備ちゃんがいいかしら」
「私がですか」
「だって。太平要術の書の傍には絶対に連中がいるわよ」
そのだ于吉達がだというのだ。
「だから。劉備ちゃんがいいじゃない」
「そうですか」
「ええ、それでどうかしら」
また言う孫策だった。
「それと関羽、張飛の二人もいれば護衛は完璧でしょ」
「いえ、まだです」
だが、だ。ここで孔明が言ってきた。
「向こうも桃香様の剣のことは御存知の筈です」
「ですよねえ。だってあの人達にとっての天敵ですから」
陸遜も話す。
「だったら余計に」
「桃香様が護衛を勤められるどころではなくなります」
劉備が集中的に狙われることによってだ。そうなるというのだ。
「最悪の場合何もかもができなくなります」
「ですが華陀さんの護衛は劉備さんが最適ですよ」
陸遜は孔明にこのことも話す。
「ですから。ここは」
「一つ仕掛けができればいいのですけれど」
こんなことも言う孔明だった。
「敵の目を欺く」
「そうしてその隙にですね」
「はい、華陀さんが書を封印されます」
孔明は己のその策を話していく。
「これならどうでしょうか」
「はい、いいと思いますよ」
陸遜は穏やかかつにこやかに笑って劉備の暗に賛成した。
「つまり。劉備さんの影武者を置いて敵の目をそちらに向かわせて」
「それでその隙にです」
「ああ、そうそう」
ここでまた言う孫策だった。
「華陀は隠して行った方がいいわね」
「俺は隠れるのか」
「あんたそういう術とか使えるかしら」
「いや、残念だがそうした術は使えない」
少なくとも彼は妖術使いではないのだ。
「戦うことはできるがな」
「そうなのね」
「そうだ。悪いがな」
「いえ、まあそれはね」
どうかというのだ。孫策も何度か少し頷きながら話す。
「普通に考えれば当然だしね」
「それで劉備殿と一緒に行きか」
「それは御願いね」
「わかった。しかしやはりな」
応えながらも劉備を見てだ。彼もこのことについて言及した。
「劉備殿は狙われるな」
「天敵ですから」
それでだというのは間違いなかった。孔明もこのことについてまた話す。
「護衛としては不可欠でも。諸刃の剣です」
「危険な話なのは確かよ」
最初に言う孫策もそれは認める。
「けれど。それでもね」
「それが一番ですね」
「言っておくけれど。彼等強いわよ」
「あたし達と同じだけね」
于吉達の力については貂蝉と卑弥呼が最もよくわかっていた。
「だから。劉備さんの剣の力は必要よ」
「ダーリンが書の力を封じることを成功させる為にはね」
「ですが。本当にです」
孔明の懸念は消えない。
「ここでは相手の目を眩ます策が必要です」
「もう一人の私なのね」
劉備自身も言う。
「誰かいるかしら」
「それならです」
徐庶がここで言う人物は。
「張角さんはどうでしょうか」
「張角さん?」
「あの人?」
「はい、本当にそっくりですから」
二人のその外見についてはだ。知る者は誰もが認めることだった。
「じゃあここは張角さんの協力を得て?」
「それでか?」
「ああ、あの娘ね」
ふとだ。曹操が気付いた様に言葉を出した。
「あの娘なら今呼んでるけれど」
「ああ、そういえばな」
「そうだったよな」
ここでふと気付いたのはマイケルとミッキーだった。
「曹操さん景気付けとか勝った時の祝いにってな」
「あの三姉妹呼んでたな」
「何か好都合だよな」
「そうだよな」
「呼んだのは偶然だったけれどよかったわ」
心からだ。安堵して言う曹操だった。
「本当にね」
「はい、じゃあ張角さんとお話をして」
「そうするのね」
「それで張角さんは何時来られますか?」
孔明はこのことから話した。
「来られ次第すぐに」
「皆、お待たせーーーーーーーーっ」
言っている傍からだった。能天気が声がしてきた。
「元気だった?来たよーーーーーー」
「何か深刻?今」
「物騒な雰囲気」
妹達も来た。三人共場に馴染んでいない。
「戦の前だから?」
「それでこんなに」
「その通りよ」
曹操が三姉妹に答える。
「それでだったんだけれどね」
「あっ、丁度よかったです」
孔明は張角を見て笑顔で話した。
「御願いがあるんですけれど」
「何?色紙?」
能天気なままの張角だった。
「じゃあ筆貸してね」
「それもありますけれど」
色紙についても忘れていない。しかし今はそれ以上にだった。
「あの、それで」
「それで?」
「詳しい話をしたいんですが」
こうしてだ。孔明は戦と策のことを張角に話した。話を聞いてだ。張角はここでも能天気な調子でだ。明るく笑ってこう答えたのだった。
「うん、いいよ」
「いいんですね」
「だって。劉備ちゃんには黄巾の乱の時助けてもらったし」
義理があるというのだ。
「それに劉備ちゃんのことってどうしても断れないから」
「それじゃあ本当に」
「そうさせてもらうわ」
こう孔明にも言うのである。
「是非共ね」
「有り難うございます。それじゃあ」
「すぐに準備に取り掛かろう」
「私達も」
張梁と張宝も言う。
「あたし達戦うことはできないけれど」
「歌うことはできるけれど」
「歌はこの後よ」
戦いの後だとだ。曹操も言う。
「とにかくよ。張角には御願いね」
「わかってるって。私頑張るからね」
「実力は凄いんだけれど」
曹操は能天気なままの張角を見ながら不安な顔になって話した。
「ただねえ。性格がねえ」
「性格って?」
「だから。あんたのそのお気楽極楽な性格よ」
本人に対しても言う。
「あんたの個性だけれどね」
「だって私しっかりするのとか苦手だから」
「それもわかってるけれど」
把握しているうえで後援をしている曹操なのだ。
「まあ。今回は御願いね」
「うん、任せて」
「というか責任重大だから」
能天気な調子を崩さない彼女に言い続けはした。だが何はともあれだ。
これで戦のことも書のこともおおよそ決まった。それからであった。
孔明は軍議の後で李典の天幕を訪れてだ。彼女にある頼みごとをしたのだった。
「あの」
「おお、孔明ちゃんか」
笑顔で孔明に声をかける李典だった。今も何かを作っている。
「さっきは見事やったな」
「いえ、私はそんな」
「そこで謙遜するのがええとこやで」
李典はにこりと笑って恥ずかしそうにする孔明に言った。
「孔明ちゃんらしいわ」
「私らしいですか」
「そや。ほんま可愛いわ」
今度はこう言う李典だった。
「で、何で来たんや?お酒ならあるで」
「いえ、お酒ではなく」
「ほなお菓子か?」
「お菓子は食べたいですけれど」
それでもだとだ。孔明は李典を言うのだった。
「実は。御願いがありまして」
「んっ?御願い?」
「はい、仮面を作って欲しいんですけれど」
「仮面っていうたら」
李典は孔明の話を聞いてだ。ふと察したことは。
「あれかいな。趙雲が付ける」
「はい、あれです」
「本人は強引にばれてないということにしてるけどな」
「まあそれは置いておきまして」
孔明は話を軌道に戻した。話が進まないと思ってだ。
「それでああした仮面は作れますか?」
「ああ、お安い御用や」
気軽な言葉で返す李典だった。
「ほな早速作ろか?」
「御願いできますか?」
「御礼はお菓子でええで」
白い歯を見せて笑って。孔明に言った。
「ケーキがええな」
「ケーキですか」
「孔明ちゃんのケーキは最高に美味しいさかいな」
だからだというのだ。
「あのチョコのケーキがええわ」
「わかりました。それじゃあ」
「この戦いが終わってからな」
何気に危険な旗が立ってしまった。
「一緒に食べよで」
「はい、一緒に」
「こんなこと言うとけったいなことになりそうやけどな」
「大丈夫ですよ。皆さん死にません」
「それは大丈夫なんかいな」
「星も見ましたが」
孔明は星から多くのものを知ることができる。軍師として占星術も身に着けているのだ。
「皆さんこの戦いではです」
「死なへんねんな」
「苦難は続く様ですが」
このことはだ。やや暗い顔で話す孔明だった。
「ですが死ぬことはないようです」
「っていうと苦難の後の大団円かいな」
「そうなると出ています」
「何や、王道やねんな」
「そうですね。王道ですね」
「そやったら安心して戦おか」
ここでも白い歯を見せて笑う李典だった。
「どうせ戦うんやったら幸せな結末が一番やさかいな」
「そうですよね。最後の最後はね」
「ハッピーエンドがええさかいな」
こんな話をしてだ。孔明はまた一つ策を用意した。こうしてこの世界の為のあらゆる策が仕掛けられだ。都の南での決戦となるのだった。
第九十話 完
2011・6・16
華陀たちも合流して、いよいよ対決は本格的に。
美姫 「相手も相当色々と用意しているわよね」
オロチだけじゃなく、本当に色々とな。
美姫 「だからこそ、この世界にそれぞれに因縁のある者たちが招かれたのかもね」
孔明が色々と策を設けているみたいだし、それがどんな効果をもたらすのか今から楽しみだな。
美姫 「本当よね。一体、何が起こるのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね」