『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第八十九話  闇達、姿を現すのこと

 遂に都まで目前に来た連合軍、その本陣でだ。
 袁紹がだ。またしてもであった。
「さて、それでは」
「はい、駄目ですから」
「大人しくして下さいよ」
 顔良と文醜がすぐに言う。
「先陣は劉備さんなんですから」
「あの人に任せてればいいんですよ」
「むう、最後の最後もですのね」
 二人に言われてだ。むっとした顔で言う袁紹だった。
「わたくしはここにいたままですのね」
「ですから。総大将がです」
「先陣とかなんてないですから」
「では仕方ありませんわね」
 こう言われるとだった。袁紹もだ。
 仕方なく本陣に残る。その先陣ではだ。
 劉備がだ。自身の配下を天幕に集めてだ。そうして話すのだった。
「それじゃあ皆」
「はい、それではですね」
「いよいよ決戦なのだ」
 関羽と張飛が強い顔で応えた。
「残っている敵と遂に」
「戦って勝つのだ」
「あの白い奴等は絶対にいる」
 呂布も場にいる。そうしてぽつりと話すのだった。
「奴等と戦いになる」
「その他にもいるぜ」
 草薙もここで出て来て話す。
「オロチだの何なりがな」
「そのオロチだな」
「話聞くと洒落になってねえよな」
 趙雲と馬超がこう草薙に言った。
「この世界の何もかもを破壊するか」
「そういう考えの奴等か」
「それな。つまり奴等はこの世界の文明を破壊するんだよ」
 それがオロチの考えだというのだ。
「人類社会ってやつをな」
「文明を破壊されたらそれこそあれだよ」
 馬岱も怪訝な顔で話す。
「蒲公英達楽しいこととかなくなっちゃうよ」
「そうよね。もう今更古代の生活には戻れないわ」
 黄忠も眉を潜ませて話す。
「三皇五帝に人の世が定められて以来培ってきたものは捨てられないわ」
「要するにオロチはそういうものを全て破壊しようっていうんだよ」
 草薙はまたオロチについて話した。
「だからそういう奴等の好きにされたらな」
「しかし。向こうはこう言う筈だ」
 魏延がここでこう言うのだった。
「人間が自然を破壊しているとな」
「そうじゃな。向こうには向こうの言い分がある」
 厳顔はここで弟子の側に立って話した。
「そうした考えに至るのも考えられなくはないか」
「はい、確かに人間は自然を破壊しています」
「それは確かです」
 孔明と鳳統もそれはそうだと話す。
「そうして文明を築いていきです」
「多くの生物を滅ぼしていっているのは確かです」
「そうよね。じゃあ人間は」
 劉備は軍師二人の言葉を聞いて暗い顔で言う。
「私達は滅びる方が」
「それは間違っているわ」
 しかしだった。その劉備にだ。神楽が言ってきた。
「人間もまた自然の一部よ」
「人間も?」
「ええ、こうした話は前にもしたような気がするけれど」
 それでもだとだ。神楽はあえて話すのだった。
「人間も自然の一部で」
「じゃあその人間が築く文明も?」
「自然の一部なのよ」
 こう劉備達に話す神楽だった。
「それを全て否定するのもまた傲慢というもよ」
「つまりあれですよね」
 真吾は考える顔で首を捻りながら言う。
「そう考えるオロチはそう考える自然の神様の一人なんですか」
「ああ、そこ一柱だ」
「神はそう数えられる」
 二階堂と大門が真吾に話す。
「その辺り覚えておけよ」
「学校の授業には出ないがな」
「そうなんですか。そう数えたんですか神様って」
「そうだよ。しっかりとな」
「記憶しておくのだ」
「わかりました。まあそれでオロチなんですけれど」
 真吾はさらに話すのだった。
「人間と自然を完全に分けてるんですね」
「それが間違いなんだよ」
 草薙は真吾を通してここにいる全ての者に説明した。
「人間と自然は対立するものじゃないんだよ」
「同じものか」
「一部か」
「そうなんですね」
「それがわかっていないのがオロチって神様なんだよ」
 そしてなのだった。今度はだ。
 月がだ。こう仲間達に話した。
「オロチは荒ぶる神ですが刹那はです」
「邪神ですね」
 徐庶が月の話に応える。
「この世に冥府を生み出すという」
「はい、そうなります」
 その通りだと話す月だった。
「刹那は邪神です」
「そっちの方が危ないって言えば危ないわね」
 舞は顔を顰めさせてこう言った。
「あとアンブロジアもいたわね」
「はい、アンブロジアもまた邪神です」
 そうだと話すのはナコルルだった。
「あの神もおそらくこの世界に来ています」
「刹那も。気配が強くなりわかってきました」
 また刹那について話す月だった。
「彼もまたこの世界に来ていて常世を出そうとしています」
「敵も賑やかなのだ」44
「賑やか過ぎるな」
 関羽が張飛に言う。
「これでは他の者達がいても不思議ではないな」
「ああ、いるだろうな」
 テリーがここで言う。
「ネスツとかな」
「ネスツ?」
「そうした怪しい勢力もいるんだよ」
 テリーはいぶかしむ声を出した劉備に話した。
「簡単に言ったら悪の組織だよ」
「そうなんですか。悪の組織ですか」
「そういう奴等も来ているだろうな」
「何か何でも来ているな」
「あんた達の世界の闘える奴全員じゃないのか?」
 趙雲と馬超はテリーに言った。
「そこまでいくとだ」
「いい奴も悪い奴もな」
「そうなってるのはなあ」
 丈が二人に首を捻りながら話す。
「もう否定できないな」
「そうだね。ここまでくるとね」
 アンディーはその丈に言った。
「皆来てるしね」
「俺もな。まさかな」
「こんなことになるなんてね」
 リョウにユリも話す。
「ロバートだけじゃなくな」
「本当に皆来てるなんてないから」
「そやなあ。これやったらミスタービッグもおるやろしな」
「いや、あいつはいてもな」
「別に怪しくはないか」
 ロバートはリョウに言われてこう考えなおした。
「この世界やったら悪事もできんしな」
「そうだ。だから大丈夫だ」
 こう話すのだった。
「あいつに関してはな」
「そやな。まあオロチにネスツに」
「アンブロジアに刹那」
「他は誰がいるかか」
「それが問題だよな」
 全員でこんな話をする。ここでだ。
 天幕の中にリムルルが入って来てだ。こう言うのだった。
「皆、西の方だけれど」
「西?」
「西って?」
「うん、擁州って場所だけれど」
 その州においてだというのだ。
「そこにね」
「擁州がどうしたの?」
 劉備がそのリムルルに問うた。
「一体何が起こったの?」
「そこに袁紹さんの軍が雪崩れ込んで」
 そうしてだというのだ。
「占領しちゃったんだって」
「だからですか」
「それでなのですね」
 ここでだ。孔明と鳳統が言った。
「袁紹さんの軍が思ったより少なかったのは」
「審配さん達がいなかったわ」
「だからですか」
「西から擁州を攻める為だったのですか」
 このことがだ。今になってわかったというのだ。
 そしてだ。本陣の袁紹はだ。
 満足している顔でだ。こう高笑いするのだった。
「おーーーーほっほっほっほ!上手くいきましたわね」
「やっぱりそうしていたのね」
「ええ、そうですわ」
 勝ち誇った感じでだ。袁紹は曹操に応えた。その右手は己の顔に添えてだ。高らかな声でだ。意気揚々と笑っているのであった。
「涼州も手中に収めているなら当然ですわ」
「そうね。西からも攻める」
「所謂分進合撃ですわ」
「それで相手を追い詰めるつもりだった」
「あの娘ではありませんでしたけれど」
 それでもだというのだ。
「ですが上手くいきましたわ」
「といいたいけれどね」
 しかしだとだ。ここで曹操はこう袁紹に話してきた。
「どうも勝手が違ってきたわね」
「どういうことですの、それは」
「私達の今の相手よ」
 彼等のことだとだ。曹操は話すのである。
「わかるでしょ。あの連中がいるわ」
「白装束のあの」
「ええ。官渡で私達を襲ったね」
 そのだ。彼等がだというのだ。
「貴女は匈奴の地でも襲われたそうだけれど」
「ええ、そういうこともありましたわ」
 その通りだと答える袁紹だった。そのうえでだ。
 彼女はだ。こう曹操に話した。
「では。あの者達が」
「ガルフォード達から聞いたわ」
 曹操は都に入った彼等に聞いたというのだ。
「貴女はまだ聞いていなかったのね」
「今聞こうと思っていましたけれど」
「やれやれ。そういうところが抜けてるんだから」
 袁紹のムラッ気が出てしまっていたのだ。彼女のそうした性格はこうした時にも出るのだった。この辺りが彼女をいささか滑稽な感じにさせている。
 だがそれにめげずだ。袁紹は言うのだった。
「今わかりましたからいいですわ」
「それはそうだけれどね。とにかくね」
「その白装束ですわね」
「ええ、出て来るわ」
 曹操は鋭い目になって袁紹に話した。
「それなら。わかるわね」
「ええ。それでしたら」
「攻めるわ」
 一言だった。
「いいわね。遠慮なく攻めるわよ」
「わかっていますわ。官渡、そして匈奴での恨み」
 袁紹も強い目になって曹操に応える。
「必ず返しますわ」
「ええ、何があろうともね」
「では華琳」
 袁紹はあらためて曹操に話した。
「いざ都に」
「先陣はわかっているわね」
「ええ、わかっていますわ」
 それでいいとだ。袁紹も応える。
「ではいざ」
「都に向かいましょう」
 こう話してだった。彼女達も都に向かうのだった。
 擁州が陥ちたと聞いた劉備達はだ。そのうえで。
 孔明と鳳統がだ。こう彼女達に話すのだった。
「では今よりです」
「都に向かいましょう」
 これが二人の提案だった。
「都はこれで完全に包囲されました」
「これはかなり有利な状況です」
「確かに。敵が何者かも数もまだ完全にはわかりませんが」
「それでも。包囲している現状はです」
「有利よね」
 劉備は軍師二人の言葉に応えて頷いた。
「それじゃあこのまま」
「はい、進みましょう」
「止まる理由はありません」
 また言う孔明と鳳統だった。
「そしてそのうえで」
「彼等を倒しましょう」
「ここで終わらせたいな」
 草薙がこんなことを言った。
「是非な」
「そうね。戦うならね」
「そうしないと駄目ですよね」
 神楽と真吾も言う。
「それなら。今から」
「行きましょう」
「では全軍このままです」
 その劉備が命じた。
「都に向かいましょう」
「おそらく。その手前で」
 ここで徐庶が話す。
「彼等はいます」
「都の外での野戦になるのね」
 劉備は徐庶の言葉を聞いて述べた。
「それなら」
「はい、かなり大規模な戦いになります」
 その通りだとだ。徐庶は劉備に応えた。
 そうした話をしてだった。劉備達は連合軍の先陣として先に進むのだった。
 その南で、だった。やはりだった。
「いたわ」
 偵察に出ていた舞が戻って来て劉備達に話す。
「あの連中がね」
「そうなんですか。やっぱり」
「多いわよ」
 その数についても話す舞だった。
「五十万ってところね」
「五十万ですか」
「ええ、ざっとそれだけはいるわ」
 こう報告するのだった。
「それで他にもね」
「オロチの奴等だな」
「連中もいるのね」
「ええ、いたわ」
 舞は草薙と神楽に真剣な顔で答えた。
「あの青い服の牧師もね」
「ゲーニッツ・・・・・・!」
 草薙は忌々しげな顔と声でこの名前を出した。
「やっぱりいやがったか!」
「あの男がいるとなるとこの戦い」
「ああ、辛いな」
「それと。ネスツの連中もいたわ」
 舞はさらに話した。
「あの白い髪の男と口髭の男がね」
「おいおい、本当にオールスターだな」
 それを聞いてだ。似海道が肩をすくめさせた。
「賑やかな話だぜ」
「相手にとっては不足はなしか」
 大門は細い目のまま腕を組んで述べた。
「思う存分戦えると考えるべきか」
「少なくとも遠慮はいらないみたいだな」
 蒼志狼はその手の剣を見ながら言う。
「この戦いはな」
「数は五十万ね」
 馬岱はその数から話した。
「じゃあ私達だけじゃちょっと辛いかな」
「そうじゃな。幾ら何でも数が違い過ぎるわ」
 厳顔も馬岱のその言葉に頷く。
「ここは一度本軍と合流しようぞ」
「まさかここで我等だけ行けとは言わないだろう」
 魏延も二人と同じ意見だった。
「ではそうするべきだな」
「そうだな。ここはそうしよう」
 公孫賛も言う。
「一度本陣と合流だ」
「あれっ、公孫賛ちゃんいたのね」
 マリーは彼女に気付いたといった顔だった。
「そうだったの」
「私はずっとここにいたが」
「それは嘘でしょ」
「いた、いたぞ」
 少しムキになって言い返すのだった。
「それは本当だ」
「そうだったの」
「だからどうしていつもこうなのだ」
 存在感のなさにだ。自分自身も嘆くのだった。
「私は全く気付かれないのだ」
「まあ気にしてもね」
「何が悪いのだ、一体」
「だから。包丁持ったら?」
 これが馬岱のアドバイスだった。
「それで相手をメッタ刺しとか」
「物騒だな」
「何か白蓮さんって声を聴く限りだとね」
「目立つというのだな」
「凄くね。けれど白蓮さん自身は」
「うう、それが悩みなのだ」
 とにかく本人は全く目立たないのである。
「どうしたものか」
「白馬しかないからね」
 今言ったのは舞である。
「基本として」
「白馬の方が有名だと嫌だな」
「いや、有名だろ」
「どう見ても」
「そうだよね」
 テリー、丈に続いてアンディも言う。
「俺も馬の方から思い出したからな」
「実は俺もな」
「うん、白馬は目立つから」
 そんな話をしながらだった。三人も公孫賛に話す。
「いっそのこと服装を変えるとかな」
「そうしたことをしてみたらどうだ?」
「かなり違うと思うけれどね」
「服か。それならだ」
 公孫賛は腕を組み考える顔になってだ。こんなことを言った。
「ではメイド服でもだ」
「ゴスロリとかどうですか?」
 真吾は何気なくそちらも薦めた。
「そういう感じでどうですか?」
「何か呂蒙や碧みたいではあるがな」
「じゃあ制服とかは」
 真吾は今度はこれはどうかというのだ。
「ほら、日々の」
「結局はそこに話が落ち着くのだな」
「じゃあ張角さんや甘寧さんや張勲さんも呼んで」
「だからどうしてそこに話がいくのだ」
「インパクトってことで」
「そこから離れられないか、私は」
 そんな話をしているうちにだった。劉備達は一旦本陣と合流したのであった。
 その彼女達を見てだ。于吉は左慈に話した。
 場所は闇の中だ。そこにおいて言うのであった。
「遂にはじまりますね」
「ああ、決戦だな」
「はい、ただしです」
「ただ。何だ?」
「ここで終わればいいのですがね」
 こうだ。闇の中で左慈に言うのである。
「洛陽の戦いで」
「何だ。終わらないとでもいうのか?」
「そんな気がします」
 于吉はその口元から笑みを消していた。そのうえでの言葉だ。
「どうもです」
「それでは定軍山や赤壁で、か」
「そのことも考えておくべきかと」
「ふん、どちらにしろだ」
 それでもという感じでだ。左慈は話していく。
「俺達は俺達の目的を達成する」
「そうです。この世界をです」
「俺達の望むようにさせてもらう」
「例え誰が来ても」
 于吉の言葉には決意があった。その決意を口にした彼にだ。
 司馬尉の声がだ。こう言ってきたのだった。
「面白いわね」
「おや、来られたのですか」
「張譲は消したのかしら」
「いえ、鼠になって頂きました」
 そうだとだ。左慈は司馬尉に話した。
「命を取ることはしませんでした」
「それは何故かしら」
「ははは、鼠は何処にでも出入りできますね」
 思わせぶりな笑みで司馬尉に話すのである。
「そうですね」
「それでは」
「はい、連合軍の中に入ってもらいます」
「そしてその情報を手に入れさせて」
「この洛陽での戦いに役立てます」
 それが于吉の今の考えだった。その考えに基いてであった。
 于吉はだ。司馬尉にさらに話した。
「それで貴女は」
「私は出る訳にはいかないわ」
 それはできないとだ。司馬尉は妖しい笑みで述べた。
「今は乱を避けて都にいないことになっているのだから」
「そういうことですね」
「ええ。この戦いで終わればいいけれど」
「若しそうならなかったならば」
「その時に備えさせてもらうわ」
 これが司馬尉の考えだった。彼女は戦いの後のことを考えているのだった。
 その考えに基いてだ。そうしての言葉だった。
「それで今の戦いだけれど」
「はい、白装束の兵達を出します」
「そして、ね」
 司馬尉が言うとだった。即座にだ。
 闇の中に新たな者達が出て来た。彼等は。
「ああ、俺達もな」
「出陣するわ」
「楽しませてもらうよ」
 社にだ。シェルミー、クリスが出て来て言うのだった。三人共期待している笑顔である。その笑顔でだ。こう同志達に話すのだった。
「戦いは嫌いじゃない」
「派手なライブになるわね」
「向こうも必死だしね」
「私もです」
 今度はだ。ゲーニッツだった。彼もまた楽しみにしている笑顔で闇の中に出て来た。そうしてその仲間達にこう宣言するのだった。
「楽しませてもらいます」
「ああ、期待しているからな」
 そうだとだ。左慈が話した。
「この戦いもな」
「有り難き御言葉」
「御前等がいれば百人力だ」
 まさにそうだと話す左慈だった。
「あの連中にも負けないな」
「少なくとも負けはしません」
 左慈はまた言う。
「ただ。どうもです」
「どうも。どうしたんだ?」
「星の動きはです」
「星か」
「はい、確かに我々の望む動きを見せています」
 星の動きを見てこれからのことを考えているのだ。星の動きで未来を見ているのだ。
「ですがそれでも」
「その成就は遅いか」
「私の予想とは違いまして」
 こう言うのであった。
「遅いですね」
「そうか。ではやはり」
「ですから先程も申し上げたのです」
 于吉は話をそこに戻した。
「この洛陽の戦いだけでは終わらない可能性があります」
「厄介な話だな」
 それを聞いてだ。左慈は顔を顰めさせて述べた。
「俺としては一気に終わらせたいんだがな」
「一気にですか」
「そうしてこの世界をさっさと壊したいんだがな」
「ええ。私達の目的は破壊と混乱です」
 于吉も笑みで左慈の言葉に返す。
「だからこそ」
「しかしそうは問屋が卸さないか」
「残念ですがそれは中々なようです」
「わかった。ではここで終わらなくてもだ」
 それでもだと。左慈は意を決した顔で述べた。
「戦わせてもらおう」
「そうだ。俺としてはだ」
 刹那も出て来た。
「ここで終わっては面白くない」
「常世をこの世に出す為には」
「そうだ。それにはより多くの血と絶望が必要だ」
 刹那は于吉に対して述べた。
「より多くのな」
「ただ。厄介なことは」
 黒く長い髪を持つ切れ長の目の女がいた。長身を巫女の服で包んでいる。妖艶でそこにはこの世あらざる美貌を見せている。その女が言うのだった。
「常世も。私にも」
「そうだな。封印を施す者達が来ているな」
「四霊に四宝珠がね」
「そしてだ」
 刹那はその女、羅将神ミヅキに応えながらだ。オロチ一族の面々を見た。
 そしてそのうえでだ。こう彼等に言うのだった。
「御前達もだな」
「はい、そうです」
 その通りだとだ。ゲーニッツが答える。
「あの三種の神器の家もまた」
「俺達も全員来てるけれどな」
 社は明るい笑顔で話す。
「向こうも全員だからな」
「そうは楽にはいかないということですね」  
 于吉が言う。
「私達に対しても来ていますし」
「来るのはわかっていたがな」
 左慈は同志の言葉にこう返した。
「あの二人はな」
「しかもこの世界にもいますし」
「あの赤い髪の医者だな」
「彼のあの術はです」
 于吉の目の光が強くなった。それまでは目も笑っていたがその笑みが消えていた。その剣呑な目でだ。彼はさらに話すのだった。
「太平要術の書を封じます」
「あれに力を蓄えさせてだったわね」
 司馬尉がここで于吉に問うた。
「その力で。この世界を」
「はい、混沌と破壊の世界にします」
 于吉もだ。こうだと司馬尉に答える。
「その力があの書にはあります」
「いいことよ。私にしてもね」
「貴女の王朝には秩序はありませんね」
「秩序?」
 その言葉自体にだ。司馬尉は冷笑で返した。
「そんな下らないことには興味はないわ」
「破壊と混沌、怨嗟と憎悪で彩られる国ですね」
「それが私の目指す国」
 司馬尉の笑みが変わった。冷笑から酷薄なものに。
 その笑みでだ。彼女は于吉に話すのだった。
「漢の次の国よ」
「そうですね。だからこそですね」
「貴方達と共にいるのよ」
 その本当の狙いをだ。司馬尉は話すのだった。
「そしてこの国にもいるのよ」
「素晴しいことです」
 ゲーニッツは軽い拍手をして司馬尉に述べた。
「人の世の秩序なぞ何にもなりません」
「その通りよ。それに私は血も愛するわ」
 このこともだった。司馬尉は闇の中で自ら話した。
「戦いになればその時は」
「常にですね」
「ええ、血を見させてもらうわ」
 笑みにある酷薄さがだ。さらにだった。
 その笑みでだ。彼女は言うのである。
「捕虜なぞ取らないわ」
「あれだな。京観だな」
 左慈がこの言葉を出した。
「骸で門を作るか」
「あれを作るのは至上の喜びよ」
 司馬尉にとってはだ。それが彼女の趣味なのだ。
「血が流れる骸で築くことはね」
「やはりいい趣味です」
 また言うゲーニッツだった。
「その残酷さ、まさに私達の同志に相応しい」
「ゲーニッツはそういうのが好きだからね」
 シェルミーは微笑んでこうゲーニッツに話した。
「だからこそね」
「はい、私は血を好みます」
 仕草だけはだ。慇懃である。
「ですから」
「そういうことね。では私達もね」
「俺は血を見る趣味はないがな」
 それでもだとだ。社も言うのだった。
「それでも戦いは好きだからな」
「では。皆さん」
 于吉が温厚に話す。
「今から向かいましょう」
「戦場にだな」
「そうです。彼等はもう迫っています」
 ここでまた左慈の言葉に応えるのだった。
「それでは」
「あの連中の相手も久し振りだな」
 こうしたことも言う左慈だった。
「目立つからすぐにわかるがな」
「目立つ?ああ、あの二人だね」
 クリスがすぐに気付いた顔で応えた。
「不気味なオカマ達だね」
「あれは私も驚いたわ」
 ミヅキがシェルミーの言葉に続く。
「まさか。ああした外見の人間がいるとはね」
「俺は妖怪かと思ったぜ」
 社は今は本気である。
「人間じゃないってな」
「まあそう思われるのもです」
「当然だけれどな」
 二人はそのことを否定しなかった。
「あの外見では」
「無理もないことだ」
「そうだよな。けれど人間なんだな」
 社がまた言う。
「それは間違いないのはわかったさ」
「それにしても異様だけれどね」
「見るのが辛いよ」
 こんなことも言うシェルミーとクリスだった。
「まあとにかく」
「あの連中とも戦うのかな」
「おそらくは」
 そうだとだ。于吉が彼等に答える。
「そうなります」
「そうですか。では何かあればです」
 ゲーニッツが于吉のその言葉に頷く。そうして。
 彼等は闇から去った。そのうえで戦場へと向かうのだった。
 連合軍は遂に洛陽を見た。そこで孫策が言うのであった。
「都に来るのも久し振りね」
「そうじゃなあ」
 黄蓋もここで言う。
「前に来たのは何時じゃったかのう」
「そういえばお母様が亡くなってから都を見ていないわ」
「何かと忙しかったからな」
「そうそう。揚州を治めて」
 まずは政だった。全てはそこからだ。
「軍も整えて山越を下して交州も治めて」
「やることばかりじゃった」
「それで久し振りに来たわね」
「これで戦でなければ」
「まことによいのですが」
 二張もいる。そのうえで孫策達に話すのだった。
「しかしそれは言ってもはじまりません」
「まずはです」
「うむ、戦じゃ」
 黄蓋はその都を見ながら話す。その南には。
 大軍が展開していた。その者達は。
「五十万というところじゃな」
「多いわね」
 孫尚香もその敵を見て言う。
「これはちょっとやそっとじゃ勝てないかしら」
「それでだけれどね」
 どうするか。孫策は妹に話す。
「ちょっと作戦会議に入るわよ」
「じゃあ行ってらっしゃい」
 孫尚香は姉達を送り出そうとする。しかしだ。
 ここで孫策は末妹にこう言うのだった。
「ああ、小蓮もよ」
「シャオも?」
「そう、あんたも会議に出てもらうわよ」
「またどうしてなの?」
 そう言われるとだ。孫尚香は首を捻ってだ。こう言うのだった。
「シャオもって」
「今回はかなり派手な戦になるからね」
「それで意見を言えっていうのね」
「言いたければね」
 そうしろというのだ。そうした話をしてからだ。
 孫策はあらためてだ。末妹にこんなことも述べた。
「この戦いは激しい戦いになるわよ」
「敵の数が多いから?」
「いえ、面子もどうもね」
「何かあかり達の世界の怪しい奴等もいるみたいだけれど」
「それよ。連中は強いわよ」
 孫策の顔が引き締まる。真剣なものになっての言葉だ。
「それも尋常じゃないわよ」
「オロチとか刹那よね」
「この世界をどうにかできるような奴等よ」
「ううん、そんな奴等との戦なのね」
「だからよ。相当激しい戦いになるわよ」
「ははは、腕が鳴るのう」
 この中でも陽気に笑う黄蓋だった。
「わしの弓が唸るわ」
「勿論祭には思う存分戦ってもらうわ」
 孫策はその黄蓋にも話す。
「頼んだだわ」
「それでは我々も」
「この力の限り」
 二張も強い表情になっている。
「働かせて頂きます」
「雪蓮様と共に」
「それと冥琳もね。今ここにはいないけれど」
 見れば孫策の傍にはだ。いつも共にいる彼女はいない。どうしてかというと。
「袁術との打ち合わせね」
「袁術と打ち合わせって?」
「あれよ。大喬と小喬のね」
 その二人のことでだというのだ。
「舞台のことで打ち合わせなのよ」
「ああ、それでなのね」
 孫尚香もそれを聞いて納得して言う。
「そういうことなのね」
「そうなのよ。まあ袁術はかなり癖が強いから」
 その人格のことはあまりにも有名になっている。無論孫策も彼女のそうした性格のことは熟知している。それでこう言うのだった。
「だからね。結構時間がかかってるみたいね」
「そもそも袁術殿はあれじゃ」
 ここでこう言う黄蓋だった。
「あまりにものう」
「性格がね」
「あれをあちらの世界ではSというそうじゃな」
 まさにその通りであった。
「黒姫とかも言われておるしな」
「あとあれよね」
 孫尚香はこんなことも言う。
「曹操のところの眼鏡の軍師とやけに仲がいいのよね」
「あれは運命の出会いじゃ」
 黄蓋も言い切る。
「まさにじゃ」
「運命、ね」
「偶像支配者じゃったかな」
 不意にだ。こうした言葉が出て来た。
「まさにあれじゃな」
「偶像支配者?」
「うむ、おそらくその縁じゃ」
 そうだとだ。黄蓋は孫尚香に話す。
「それでじゃな」
「多分あれよ」
 孫策もその話に乗ってきた。
「張勲も話に加わってるわね」
「その偶像に?」
「そうよ。その世界にね」
「何か知らないけれど深い関係なのね」
 そのことは孫尚香もわかったのだった。
「あの三人は」
「かなりね」
 まさにそうだと話す孫策だった。
「ちょっと。入られないものがあるのは確かね」
「ううん、色々と複雑なのはわかったわ」
 それはだと話す孫尚香だった。
「あの三人はそっとしておかないとね」
「というか間に入ったら洒落にならないことになるわよ」
「そうじゃな。あの三人はのう」
 孫策だけでなく黄蓋も話す。
「しかも三角関係だし」
「さらに困ったことにじゃ」
「何か。余計に酷い話だけれど」
「だから。そっとしておくに限るわ」
「離れた場所で見ておくことじゃ」
 こう言ってだ。彼女達も三人についてはそっとしておくことにした。そしてである。
 その頃張三姉妹は相変わらずのどかに旅芸人を続けていた。
 馬車の中でだ。張角が言うのだった。
「ねえ、何かね」
「何か?」
「何かって?」
「曹操さんからお手紙来てるけれど」
 こう妹達に言うのである。
「洛陽に来てくれって」
「ああ、そういえば曹操さん達って今」
「戦をしてるわね」
 張梁も張宝も気付いて言う。
「それで洛陽に向かっていたな」
「それじゃあ洛陽に辿り着けたのね」
「よかったわよね」
 張角はそのことににこりとして言うのだった。
「これで戦が終わるのかしら」
「まあ。洛陽に辿り着いたってことは勝ってることだから」
「順調にいっていることは確かね」
「そうよね。じゃあこのまま行こう」
 張角はお菓子を食べながら妹達に話す。
「都にね」
「うん。じゃあ今からね」
「一緒に行こう」
「皆にも声をかけよう」
 親衛隊の面々にだというのだ。
「それですぐに都に行ってね」
「都に行って?」
「それで。どうなの姉さん」
「美味しいもの一杯食べよう」
 ここでも張角だった。能天気にこんなことを言うのだった。
「御馳走が待ってるわよ」
「だから。姉さんはまずそこなのね」
「相変わらず食べることばかり考えてるのね」
「大丈夫、お姉ちゃん太らないから」
 だからいいと話すのだ。本当に相変わらずである。
「胸にだけ栄養がいくから」
「何言ってるのよ。この前なんて」
「お菓子食べ過ぎて曹操さんに怒られて」
 曹操は彼女達の統括的な管理も行っているのだ。
「走らさせられて泳がさせられたわよね」
「何日も減量させられて」
「うっ、それでもよ」 
 妹達に言われて強張った顔になる。しかしそれでも言うのだった。
「お姉ちゃん胸だけが大きくなるからいいのよ」
「確かに胸は小さくならないわよね」
「姉さんの胸は」
「だからいいのよ」
 言ったその傍から胸が大きく揺れる。
「それでね」
「全く。本当にお気楽なんだから」
「姉さんらしいといえばらしいけれど」
「ううっ、何かお姉ちゃんボロクソ」
 妹達の言葉に泣きそうな顔になる。しかしだった。それでも張角は張角でありだ。相も変わらずまだこんなことを言うのだった。
「気を取り直してね」
「気を取り直して?」
「どうするの?」
「都に向かう間にね」
 どうするかというのである。
「旅行しよう」
「今度は旅行なのね」
「遊んでばかり」
「だって。人生遊ばないと駄目よ」
 言うことは何をしてもだ。全く変わらないのだった。
「だから。旅行楽しもう」
「まあね。あたし達も旅行は好きだし」
「だから旅芸人に戻ったっていう面もあるから」
「じゃあいいわよね」
 こんな話をしてだった。三姉妹もまた都に向かうのだったその中でだ。
 実際にだ。張角は旅の中で外の風景を見ながら話すのだった。
「やっぱりこうしてお外を見るのって」
「楽しいのね」
「それだけで」
「お姉ちゃん旅大好き」
 まさにそうだというのである。
「こうして旅行をするのも好き」
「やれやれ。お姉ちゃんって昔から」
「些細なことで満足できるのね」
「駄目かな、それって」
 きょとんとした顔でまた妹達に尋ねる。
「だって。幸せって普通にその辺りにあるじゃない」
「それを見つけて楽しめるのがね」
「姉さんらしいのよ」
「だから。それが駄目なの?」
 少しきょとんとした顔で妹達にまた問う。
「幸せを見つけて楽しむのって」
「悪いとは一言も言ってないわよ」
「私も」
 二人共微笑んで長姉に話す。
「姉さんはそれでいいのよ」
「私達もそうだし」
「そうよね。幸せってあちこちにあるのよ」
 それでだというのだ。
「それを見つけて楽しむのよ」
「だからいいのね」
「それで」
「そう、幸せは何処にでもあるから」
 左手の人差し指を出してだ。張角は明るく話す。
「これからも楽しんで生きようね」
「そうした姉さんと一緒にいるのも」
「幸せね」
 そうした話をしながらだ。三姉妹も都に向かうのだった。都に星達が集ろうとしていた。そうしてそのうえでだ。運命の戦いがはじまろうとしていた。


第八十九話   完


                     2011・6・14







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