『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第八十六話 董卓、赦されるのこと
袁紹と曹操の本陣にだ。吉報が入った。
「そうですのね、上手くいきましたのね」
「やっぱり董卓はあそこにいたのね」
「はい、そうです」
「あの場所にいました」
こう曹洪と曹仁が二人に話す。
「宮廷の奥深くにです」
「そう連絡がありました」
「まさかと思ったけれどね」
曹操が二人の報告に目を鋭くさせて述べる。
「そう。それなら」
「はい、張譲めもです」
「生きているとのことです」
彼のこともだ。話されるのだった。
「後宮の奥深くにです」
「そこにいます」
「?待つのじゃ」
これまで話を聞いていた袁術が二人に尋ねた。
「帝はどうされたのじゃ?」
「そうよね。帝はどうされたのかしら」
孫策も帝のことに気付いて言及する。
「御無事なのよね」
「帝のことはです」
「特に何も」
聞いていないとだ。二人は話すのだった。
「周泰殿達も御覧になられていないようです」
「帝はです」
「まさか」
袁紹はそのことを聞いてだ。顔を曇らせた。
そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「帝は宦官達に」
「大丈夫よ。帝は害されてはいないわ」
それは曹操が保障した。
「帝あっての宦官達なのはわかるわね」
「ええ、だからこそ厄介なのですわ」
「後宮は帝のもの。その帝がおられなければ」
「後宮はいらなくなり。宦官達も」
「そういうことよ。それはないわ」
曹操はまた袁紹に話した。
「帝は御無事よ」
「そうなのでしてね」
「ただ。帝もお姿を見せておられないし」
そのことからだ。曹操はこのことも察した。
「おそらくはね」
「董卓と同じ様に」
「幽閉されているわね。帝は後宮におられるわね」
「後宮。厄介ね」
曹操はこう言って顔を曇らせた。
「あそこに入ることはそれこそ宦官でないとできないしね」
「あれっ、入られないのは男だけじゃなかったのか?」
凱がこう袁紹達に問うた。
「後宮ってのはそうだったのじゃないのか?」
「それはそちらの世界の話じゃ」
そうだとだ。袁術が凱に話す。
「こちらの世界では帝の奥方か夫君や宦官しか入られぬのじゃ」
「夫?ああ、そうか」
漂はすぐに察して頷いた。
「女帝も普通なんだな。この世界じゃ」
「実際に漢の高祖や武帝も女性よ」
曹操がこのことを話す。
「光武帝もね」
「そうなんだな」
「こっちの世界は全然違うのよ」
女性の位置がだというのだ。
「普通に皇帝になれるから」
「その辺りが本当に違うのだな」
王虎も首を捻っている。
「同じ国でも。世界が違えばな」
「そうね。こっちもそちらの世界の話にはかなり驚いているわ」
曹操は王虎にも話す。
「未来の話もね」
「けれど。服はあれですわね」
袁紹は自分達の服とあちらの世界の者達の服を見比べて話した。
「妙に同じですわね」
「それもない筈なんだよ」
今話したのは丈だった。
「この時代に何で女ものの下着とか今の時代の俺達の服があるんだろうな」
「それがあまりにも妙だ」
マルコもそのことについて言及する。
「どういう世界なのか」
「そういう世界だって簡単に考えたらどうかしら」
今言ったのは孫策だった。
「確かにわからないことだけれどね。お互いにね」
「そう考えるべきじゃな」
山田十兵衛である。
「綺麗なお姉ちゃんが一杯いるとのう」
「むっ、そういえば御主」
袁術はその山田を見て怒った顔で言った。
「昨日七乃が風呂に入る時に風呂場の周りをうろうろしていたな」
「それは気のせいじゃ」
自分ではこう言う山田だった。
「わしはそんなことはしておらんぞ」
「信用できんのう」
袁術はそのことを本能的に察して述べた。
「絶対に覗こうとしておったな」
「ああ、この爺さんな」
ビッグベアが山田について話す。
「実は若くて可愛い女の子が何よりも好きなんだよ」
「おい、ここでそれを言うか」
「だからな。あんたその癖止めろよ」
ビッグベアは呆れる顔で山田に注意する。
「全く、いい歳してな」
「わしはまだ七十じゃぞ」
「わしより年上ではないのか?」
タンがその山田に言う。
「わしは六十九じゃからのう」
「ええい、人生は七十からじゃ」
「ったく、この爺さんは」
ロックも山田のその言葉に呆れる。
「歳を取っても悪い意味で元気だな」
「人間七十だともう」
「古稀だけれどな」
顔良と文醜がひそひそと話す。彼女達の世界でもだ。この時代はそうなのだ。
「それでこうって」
「ある意味凄いよな」
「わしは二百まで生きるぞ」
また言う山田だった。
「そうしてずっと女の子と一緒に遊ぶのじゃ」
「それはいいとしまして」
袁紹はその山田を醒めた目で見ながら話した。
「貴方が若しセクハラをすれば」
「セクハラとな」
「その時は容赦しませんわよ」
こうだ。山田を見据えて言うのである。
「打ち首ですわよ」
「打ち首とな」
「ええ。セクハラは死罪」
袁紹の言葉は厳しい。
「我が軍の軍律ですわ」
「ううむ、恐ろしい軍律じゃな」
「婦女子への乱暴を禁じるのは当然のことよ」
曹操も山田に話す。
「それと一緒よ」
「せちがらい世界じゃ」
「だから爺さんは爺さんらしくしろ」
ロックは今度は山田に強く忠告した。
「さもないと本当に首と銅が生き別れだぞ」
「それは困った」
「まあそれで反省する様には見えないけれどな」
「ああ、この爺さんの辞書にはそんな言葉ないからな」
ビッグベアがロックに話す。
「そのことは安心してくれよ」
「安心することか?それは」
「まあそう考えてくれ」
「それはそうとしてじゃ」
タンがここまであれこれ雑談してからだ。袁紹達に尋ねた。
「その董卓殿じゃが」
「あの娘のことですわね」
「してどうするつもりなのじゃ?」
タンが彼女達に尋ねるのはこのことだった。
「やはりここは」
「あの娘が見てから考えますわ」
これが袁紹の今の言葉だった。
「それからですわよ」
「まさかと思うけれどな」
覇王丸が眉を顰めさせて話す。
「殺すってことはないよな」
「さて、それはどうかしら」
今度は曹操だった。彼女は思わせぶりな笑みで覇王丸に返した。
「とりあえず剣は皆磨いておいてね」
「まさか。それでは」
狂死郎の化粧の奥の顔が曇る。
「御主等、あの娘を」
「だから。あの娘がここに来てからよ」
またこう言うだあけの曹操だった。
「それでわかるわよ」
「おい、頼むから血生臭いことは止めてくれよ」
覇王丸はそのことは何としてもだというのだった。
「いいな、それはな」
「ほほう、優しいのう」
袁術がその覇王丸に言う。
「無駄な殺生は好まぬか」
「戦うならともかく無駄に人を殺すのは好きじゃないんだよ」
実際にそうだと話す覇王丸だった。
「だからな。董卓って娘もできるだけな」
「ですから。何度も申し上げますが」
袁紹がここでまた話す。
「それはあの娘が来てからですわ」
「わかるってんだな」
「その通りですわ。では今は」
今はだ。どうかと話してだった。
「虎牢関に進みますわよ」
「いよいよですよお」
陸遜がおっとりとしたその独特な口調で話す。
「最後の難関ですよ」
「やり方次第で戦わずに済みますね」
呂蒙がここで陸遜に話す。
「今度の戦いも」
「戦わずに済むのならそれに越したことはない」
柳生十兵衛はぽつりと述べた。
「何につけてもな」
「その通りだ。どうもこの戦いはおかしい」
ズィーガーはその眉を曇らせている。
「この世界にはどれだけ怪しい者達が潜んでいるのだ」
「そもそも皇帝を幽閉してるみたいだけれどな」
「それ自体が妙じゃのう」
ロックとタンがこう話す。
「その董卓って娘だけじゃなくてな」
「皇帝までとは」
「おかしなことだらけね」
曹操もこう言うのだった。
「というかおかしなことしかないわね」
「全くですわね。この戦」
袁紹も眉を曇らせている。
「その董卓のことだけではありませんわね」
「全く。何だってんだよ」
「この世界は」
そのことさえもわからないと話をしながらだ。彼等は本陣において董卓が無事救出された報を受けていた。そうしてそのうえでだった。
その董卓は連合軍と合流できた。その彼女を迎えたのは。
「おお董卓殿来られたか」
「久し振りなのだ」
関羽と張飛がだ。彼女達を笑顔で迎えたのだ。
「何とか無事そうだな」
「何処か悪くないのだ?」
「身体の方は特に」
何もないとだ。董卓は二人に暗い顔で答える。
そしてその暗い顔でだ。二人に話すのだった。
「ですが私は」
「とにかくだ。長い間碌なものを食べていないのだろう」
「御馳走をたらふく食べるのだ」
二人は董卓が言うより先にこう言ってきた。
「さあ、早くな」
「どんどん食べるのだ」
「あの、ちょっと」
姉の代わりにだ。妹の董白が二人に言ってきた。
「いいかしら」
「むっ、御主はまさか」
「妹なのだ?董卓の」
「ええ、そうよ」
二人にそのことから話す董白だった。
「妹の董白っていうの。宜しくね」
「そうか。妹殿がおられると聞いたが」
「それが御前だったのだ」
「そうよ。姉様と一緒にここに来たのよ」
こう二人に話すのである。
「逃げてきたのよ」
「逃げてきたというのか?」
「それは違うと思うのだ」
「いえ、逃げてきたのよ」
それは違うと言おうとする二人にまた告げる董白だった。
そのことを話してだ。二人はだ。今度はこう董白に話した。
「何はともあれだ」
「御前も一緒に食べるのだ」
「そうね。どちらにしろね」
どうなのか。董白はここでこんなことを話した。
「もうすぐ。いなくなるしね」
「いなくなるとは」
「今度は何を言うのだ」
「私達はいいけれど」
いぶかしむ二人にだ。また言う董白だった。
「詠は何の関係もないから。助けてあげてね」
「ちょっと陽、何言ってるのよ」
賈駆はだ。その董白に慌てて言ってきた。
「そんなの僕がさせないから。月も僕が守るから」
「いいのよ。私と姉様はね」
どうなるのか。董白は観念している顔で賈駆に返す。
「今度のことでは首謀者だからね」
「けれどあれは僕が伝えて」
「姉様は国相だったのよ」
こう賈駆にだ。また言う。
「そして私はその腹心よ。それならよ」
「責任は逃れられないっていうの?」
「そうよ。それじゃあどうしても」
「そもそもあれは宦官達の陰謀だし」
「利用されたのは事実よ」
董白の観念している顔は変わらなかった。その口調もだ。
「だから絶対に」
「それはだ」
「絶対にないから安心するのだ」
関羽と張飛は二人を安心させようとこう話す。
「だからだ。心を落ち着けてだ」
「今から食べるのだ」
「その言葉信じていいの?」
董白は怪訝な顔で二人に問い返した。
「本当に」
「私達がそんなことをさせない」
「お姉ちゃんも同じ考えなのだ」
「お姉ちゃん?劉備殿のこと?」
賈駆はすぐに彼女のことだと察した。
「彼女がなの」
「そうだ。姉上はわかっておられる」
「悪いのは全部宦官達なのだ」
「責があるのはあの者達だ」
「それでどうして董卓達が処刑されないといけないのだ」
「・・・・・・その言葉信じさせてもらってもいいのね」
賈駆は二人の言葉を聞いてだ。警戒しながらもこう言った。
「そうさせてもらってもいいのね」
「信じてくれ、少なくともだ」
「何処かの国の鳩みたいなことは言わないのだ」
「わかったわ」
二人の強い目を見てだ。賈駆もこう言った。
そうしてだ。そのうえでだった。
董白に顔を向けてだ。こう問うた。
「それじゃあ陽」
「ええ、姉様と一緒にね」
「申し出を受けましょう」
そうしようというのだった。
「御馳走を頂ましょう」
「そうね。考えてみれば私達最近は」
「碌に食べていなかったわ」
食べ物の話にもなったのだった。
「月なんか特にね」
「そうよね。姉様はずっと幽閉されていたから」
「では皆で一緒に食べよう」
「朱里と雛里が腕によりをかけて作ってくれているのだ」
関羽と張飛が笑顔で話してだ。そうしてであった。
二人は食事の場に案内されるのだった。無論彼女もだ。
「では董卓殿もだ」
「一緒に来るのだ」
こうだ。二人は董卓にも話すのだった。
「そうして一緒に食べよう」
「御馳走をたっぷりとなのだ」
「はい」
董卓はその二人に対して小さく頷いた。そのうえでだ。
彼女もだった。二人に案内されてだ。劉備の天幕に向かうのだった。既にその天幕ではだ。周泰や忍の者達が劉備と話をしていた。
「そう、大変だったのね」
「あの程常にだが」
「忍者だとあんなの日常茶飯事だぜ」
半蔵とガルフォードが劉備に話す。場には趙雲や馬超達もいる。
「それもむしろだ」
「ずっと董卓さんが暗かったのが気掛かりだな」
「自責だ」
趙雲は二人の話を聞いて述べた。
「そのせいだ」
「自責か」
「この度の戦乱は御自身のせいだとだ」
趙雲は影二に対しても話した。
「そう考えているのだ」
「あの人凄く責任感強いからな」
馬超が董卓のその性格について話した。
「そうなるのも無理はないよな」
「常に善政を心掛けていて民思いの人だから」
黄忠も董卓について話す。
「余計にね。そうなっているわね」
「それじゃあ危ないわね」
舞がここまで聞いて言う。
「あの娘、自分から何を言い出すか」
「処刑を願うってのかよ」
火月がこのことを危惧した。
「まさかとは思うけれどね」
「いえ、そのまさかです」
蒼月は弟の危惧にこう話した。
「彼女は。我々にそう願うでしょう」
「そんなのおかしいだろ。だってよ」
火月は少し怒った顔になって兄の言葉に抗議を返した。
「利用されていたんだぞ、あの娘は」
「しかし彼女の名前で全てのことが行われていたのは事実です」
蒼月は厳然たるその事実を話すのだった。
「ですから」
「何だよ、それってよ」
火月は兄の話に余計に怒りだした。
「滅茶苦茶じゃねえかよ」
「いや、蒼月殿の言う通りだ」
半蔵は彼が正しいと話した。
「誰かが責を負わねばならんのだ」
「だからだっていうのかよ」
「そうだ。董卓殿達は責を負わねばならん」
このことをはっきりと話す半蔵だった。
「それが政というものだ」
「何だよ、それってよ」
火月はたまりかねた口調で返した。
「滅茶苦茶じゃねえかよ」
「あの、それは」
劉備もだ。顔を曇らせて言うのだった。
「何とかならないかしら」
「処刑のことですね」
「うん、あんまりだと思うわ」
劉備もそう思うのだった。そのことを周泰に話すのだ。
「だから。どうにかして」
「そうですね。おそらく袁紹さんも曹操さんもです」
ここで言ったのは徐庶だった。彼女は軍師の一人としてこの場に控えていた。孔明と鳳統は料理を作っていて彼女が劉備の傍にいるのだ。
その彼女がだ。こう話すのだった。
「処刑は考えておられません」
「そうなのね」
「責はあくまで宦官達にあります」
そのだ。董卓の名を使っていた彼等にだというのだ。
「それははっきりしています」
「それなら是非」
「しかしです」
希望を見出した劉備にだ。徐庶はまた話した。
「もう一方の方は」
「董卓さんは?」
「そう考えてはおられません」
「それじゃあ。自分からなの?」
「処罰を願われる筈です」
そこまで読んでだ。徐庶は話すのだ。
「是非共と」
「そんな、それじゃあ」
「袁紹殿も曹操殿も処刑をされずにはいられなくなります」
彼女自身がそう願うならだ。それではなのだ。
「ですから。結果としてです」
「そんなの駄目よ。どうして董卓さんが処刑されないといけないの」
「はい、ですからここはです」
「ここは?」
「私に考えがあります」
軍師としての言葉だった。
「ここはです?」
「ここは?」
こうしてだった。あることが実行に移されたのだった。そうしてであった。
袁紹達の本陣にだ。あるものが届けられた。それを届けた魏延がだ。右手の平に左手の拳を合わせて右膝をついてだ。袁紹達にあるものを差し出した。
それは白い布に覆われている。下の方が赤く塗れている。それを見てだ。まずは孫策がこう言うのであった。
「首ね」
「はい」
その通りだとだ。魏延は静かに答えた。
「董卓殿は自ら首を掻き切り自害されました」
「それでその首を持って来たのね」
「その通りです」
こう孫策に話すのである。
「首を。こちらに持って行って欲しいと」
「董卓自身が言ったのじゃな」
今度は袁術が言った。
「そうじゃな」
「左様です」
その通りだと話す魏延だった。
「この度の乱の責をと申されまして」
「それで自ら死にか」
袁術は目を少し左右に動かしてから述べた。
「ふむ。それでは仕方ないのう」
「自らの死で。他の者の助命も願っておられます」
魏延はまた話した。
「どうされますか」
「わかりましたわ」
袁紹が答えた。
「それでは。董卓さんの一族や家臣の者についてはです」
「責を問われませんか」
「この件での処断はそれだけですわ」
こうだ。問わないと話すのであった。
「これで終わりですわ」
「董卓は死んだわ」
曹操も言う。そしてふと笑みを浮かべてだ。こんなことも言うのだった。
「ただ。世の中似ている人間が三人はいるらしいわね」
「そうですわね。けれど別人ですわ」
袁紹も曹操の言葉に乗ってこんなことを言う。
「全くの別人でしてよ」
「外見が似ているからといって。それで何かするのはね」
「人としてあるまじきことですわね」
「そういうことよ」
それでいいとだ。二人は言った。
そしてだ。魏延もだ。こう二人に述べるのであった。
「では。董卓の配下の者達は」
「劉備さんにお任せしますわ」
あっさりと言う袁紹だった。
「その処断は」
「煮ようか焼こうが構わないわ」
実に素っ気無くだ。曹操も話す。
「そう、何をしてもね」
「左様ですか。それでは劉備様にはそうお伝えします」
魏延は二人の言葉をありのまま聞いた。そうしてだった。
劉備のところに戻りだ。このことを伝えるのだった。
そうしてだ。話を聞いた劉備はこう言うのだった。
「あれっ、じゃあ董卓ちゃんは?」
「はい、自害したことになりました」
徐庶がこうきょとんとした顔になる劉備に話した。
「あの人形の首を差し出したことで」
「そうなのね。けれど」
「勿論皆さん御承知です」
このことも話す徐庶だった。
「ですがあえてです」
「騙されたの?」
「この度の戦は董卓さんが敵ではありませんから」
徐庶はそのことを既にわかっていた。そのうえでの言葉だった。
「敵は宦官です。それに」
「それに?」
「間違いなく他にもいます」
ここで徐庶の目が鋭くなった。そのうえでの言葉だった。
「周泰さん達からの報告を聞く限りは」
「そうそう、それよ」
同席していた舞がここで話す。
「何かね。白装束の連中が一杯出て来て」
「尚且つだ」
半蔵もいる。彼も劉備達に話すのだった。
「我等の世界の者達もだ」
「それです。考えてみればです」
徐庶は半蔵の話を聞きながら述べていく。
「舞さんや半蔵さん達が来られているのならです」
「他の人達も来て不思議じゃないのね」
「はい、そうです」
その通りだとだ。徐庶は劉備に話す。
「よからぬ人達もです」
「残念だけれど私達の世界ってね」
「よからぬ者達も多いのだ」
こうだ。舞と半蔵が話すのだった。
「オロチ一族もいればね」
「アンブロジアという邪神もいるのだ」
「そしてです」
今度は雪だ。彼女も同席しているのだ。
「常世の者達もいます」
「何か。物凄く物騒な世界なのね」
「考えようによっては私達の世界以上にですね」
徐庶も彼等の話を聞いて目を鋭くさせて述べる。
「危うい世界ですね」
「そんな人達もこの世界に来ていても」
「おかしくありません。むしろ」
どうかとだ。徐庶は話す。
「来ていると考えるべきです」
「じゃあ洛陽にはそうした人達が」
「いるな、間違いなく」
蒼志狼が言い切る。
「こっちの世界にもな」
「話がどんどんキナ臭くなってくるな」
「全くだ」
馬超と趙雲は蒼志狼の話も聞いて言う。
「じゃああたし達あっちの世界の連中ともか」
「戦わなければならないのだな」
「厄介といえば厄介ね」
黄忠も話す。
「けれど。彼等も倒さないと」
「はい、泰平は戻りません」
徐庶はここでは言い切った。
「この戦は泰平をもたらす為の戦です」
「じゃあ。その為にもよね」
「はい、虎牢関です」
そこを何とかするかという話になった。
「あの関を抜け洛陽に向かいましょう」
「戦になるのかしら」
「それは避けられます」
大丈夫だとだ。徐庶は関のことも劉備に話した。
「あの関におられるのは華雄さんと張遼さんですね」
「うん、そうよね」
「御二人が戦われているのは董卓さんの為でしたが」
「けれど董卓ちゃんは」
「助け出されましたから」
それでだというのだ。董卓が救出されたならばだ。
彼女達も戦う理由がない。それでなのだった。
「ですから。もう」
「よかったわ。今度も戦わないで済むのね」
「無駄な戦いは避けるに越したことはありません」
徐庶は冷静に述べた。
「それでは。今は」
「うん、御馳走食べよう」
「そろそろ朱里ちゃんと雛里ちゃんのお料理ができます」
待ちに待っただ。それがだというのだ。
「では皆さんで」
「うん、食べよう」
こうした話をしてだった。そのうえでだ。
劉備達は董卓達を天幕に招いてだ。それでだった。
彼女達にもだ。御馳走を出す。その中でだ。
劉備は董卓にだ。満面の笑顔で話した。
「それじゃあ董卓ちゃん」
「は、はい」
「遠慮なく食べてね」
こう話すのだった。
「一杯あるからね」
「毒は入ってないわよね」
賈駆は董卓の横で眼鏡の奥の目を警戒させている。
「若しそうなら」
「大丈夫ですよ」
孔明はその賈駆にだ。にこやかに笑って答えた。
「そんなのを入れるのは料理じゃありませんから」
「信じていいのね」
「もう董卓さんは自害されました」
鳳統は公にはそうなっていることを話した。二人は今は白いエプロンに三角巾を装備している。その姿で賈駆に話すのだった。
「それ以前に私達はそんなことをしません」
「そうね。言われてみればね」
賈駆は二人の目を見て述べた。
「御免なさい。疑ってしまったわ」
「気にすることはないのだ」
張飛が賈駆のその暗い気持ちを跳ね飛ばした。
「もうこれから董卓達は鈴々達の仲間なのだ」
「仲間!?」
その言葉にだ。董白が目をしばたかせて言葉を返す。
「仲間って!?私達が!?」
「はい、そうです」
その通りだとだ。劉備がまた話す。
「今日から皆さんは私達のお友達です」
「お友達って何よ」
また賈駆が言う。今度は多少唖然とした顔になっている。
「僕達は敵同士だったのよ。それでどうして」
「昨日の敵は今日の友」
関羽も今は微笑んでいる。
「そういうことでいいではないか」
「何か話が凄い勝手に進んでるけれど」
「それによ」
賈駆と董白が眉を顰めさせながら話す。
「大体月は自害したことになってるけれど」
「それでお友達だなんて」
「あれっ、確かこの娘って」
馬岱がその董卓を見て楽しげに話した。
「名前は」
「そうじゃ。董々というのじゃ」
厳顔がにこにことして話す。
「可愛い名前じゃのう」
「それが私の名前なんですか」
董卓本人は目をしばたかせていた。そのうえでの言葉だった。
「そうだったんですか」
「おや、御主は董々ではないか」
笑みを浮かべてだ。彼女自身にも言う厳顔だった。
「違ったかのう」
「そうなんですか」
「そうじゃ。では話は終わってじゃ」
「うん、それじゃあね」
劉備が満面の笑みで厳顔の言葉に応えて言う。
「食べよう。それで飲もう」
「御主達も飲むのじゃ」
また厳顔が董卓達に話す。
「楽しくな」
「じゃあ月、陽」
賈駆が姉妹に囁く。
「食べよう。僕が一緒にいるから安心して」
「うん、詠ちゃん」
「それじゃあね」
「それとよ」
賈駆は劉備達に顔を向けてだ。こう言うのだった。
「今まで言いそびれたけれど」
「はい。何でしょうか」
「有り難う」
頭を下げてだ。劉備達に言うのだった。
「月を助けてくれて有り難う」
「私も」
「助けて下さり有り難うございます」
董白に続いてだ。董卓自身も頭を下げる。そうして礼を述べるのだった。
その三人にだ。劉備は満面の笑顔で話した。
「それじゃあね」
「それではだ」
「一緒に食べるのだ」
関羽と張飛も言ってだ。そうしてだった。
皆笑顔で御馳走を食べていく。董卓達は劉備達の仲間になった。星達はさらに集ってきていた。そうして闇に対しようとしていたのだった。
第八十六話 完
2011・6・7
菫卓の救出も無事に終わったな。
美姫 「その事後処理もね」
死んだ事にして劉備の元にか。
美姫 「これで杞憂する事はなくなったわね」
後は本当の黒幕退治だな。
美姫 「さあて、どうなるのかしらね」