『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第八十五話  命、忍達を救うのこと

 不意にだ。怪物達が言い出した。
「ちょっと出張の用事が出来たわね」
「そうね」
 こうだ。赤壁に行く途中で話すのであった。
「都に行かないといけないわね」
「今はね」
「何だ?都で何かあったのか?」
 華陀がその彼等に尋ねた。今彼等は道中を進んでいた。その中でのやり取りだった。
「まさかと思うが」
「ええ、董卓ちゃんが助け出されたわ」
「無事ね」
「そうか。それはいいことだな」
 華陀は二人の話を聞いてだ。笑顔で頷いた。
「これで天下を悩ませる種が一つ消えたな」
「ええ、ただね」
「これからが問題なのよ」
 怪物達はここでこう言うのだった。
「向こうも董卓ちゃんが助け出されたのは把握してるから」
「それで何もしてこない筈がないわ」
「そうだな」
 華陀もだ。それはわかるのだった。
 そのうえで頷いてだ。彼はこう言った。
「絶対に追っ手を差し向けて来るな」
「だからよ。すぐに都に向かいましょう」
「一刻の猶予もならないわ」
「ならばだ」
 獅子王が二人の話を聞いて述べた。
「飛ぶのか?それとも瞬間移動か?」
「瞬間移動よ」
「それを使うわ」 
 二人はその超能力をだ。何でもないといった感じで話した。
「皆が行かないと今回はね」
「駄目みたいな話だからね」
「そうか。だからか」
 獅子王もだ。それを聞いてあっさりと述べた。
「それで瞬間移動か」
「はい、そうしましょう」
「是非共」
 こうした話をしてだった。二人はだ。
 仲間達に対してだ。こうも言うのであった。
「じゃあ皆、ゲートは開いたから」
「ここから都に行きましょう」
 何時の間にか空間にだ。黒い扉が出て来ていた。
 その扉を開けるとだ。もうそこは都だった。暗鬱な空でだ。沈んだ雰囲気だった。
 その街を扉の向こうに見ながらだ。二人は言うのだった。
「ここを通ればすぐよ」
「一瞬で行けるわよ」
「そうか、早いな」
 この異常事態にもだ。平然としている華陀だった。
 そしてその華陀を見てだ。ギースが問うた。
「華陀はそれでいいのだな」
「んっ、何がだ?」
「だからだ。瞬時に移動しているのだぞ」
 ギースは怪訝な顔で常識を話した。
「それについては何も思わないのだな」
「便利な術だな」
 本当にこれだけの華陀だった。
「俺もこうした術を身に着けたいものだ」
「そうか。本当にそれだけか」
「妖術も使いようだからな」
 華陀は二人の術の一つをそれだと認識している。
「使う者の心が正しければだ」
「それでいいか」
「少なくともこの二人の心は正しい」
 怪物達の外見は全く見ていない。
「だからいいのだ」
「ならいいのだがな」
 ギースも遂に折れた。それでいいとだ。
 そのうえでだ。華陀にこんなことを言った。このことは言わずにはいられなかった。
「しかし。この二人は正しい心を持っているのか」
「そうだ。私を消しこの世界の為に働いている」
「あら、流石はダーリンね」
「あたし達のことをよくわかってくれてるわ」
 こう話す二人だった。その心正しき怪物達だ。
「そうなのよ。あたし達はこの世界を守る為に働いてるのよ」
「この世界を害する怪しい者達とね」
「怪しいか」
 刀馬が怪しいと見ている者達は二人を見ていた。自分の目の前にいるだ。
「そうだな。怪しいな」
「この美貌と天下を想う赤い心」
「あたし達にあるのはそれだけよ」
「今御主達を見た蜻蛉が落ちたのだが」
 刀馬はこんなことも言った。
「それが美貌か」
「虫さえも魅了するあたし達の美貌」
「思えば罪よね」
「そう思っているのならいいのだがな」
 刀馬も怪物達には返す言葉をなくした。そうした話をしてだった。
 彼等は都に入った。まさに一瞬だった。
 その黒い扉を潜ってからだ。また言う妖怪達だった。
「ネコ型ロボットの道具を応用して出したものだけれど」
「中々便利ね」
「そうね。あの青い猫ちゃんの使う道具はどれもね」
「凄く参考になるわ」
「青い猫か」
 華陀はその奇妙な猫にも関心を向けた。
「そうした猫もいるのだな」
「そうよ。二十一世紀にいるのよ」
「凄く役に立つのよ」
「その猫とも会ってみたいな」
 こんなことも話すのであった。そんな話をしてであった。
 彼等は都に入った。まさに一瞬で。
 その頃だ。董卓は。
 周泰達と共に宮廷を出て夜の都の中を進んでいた。だがその後ろからだ。
 謎の一団が襲い掛かる。その者達に舞が攻撃を浴びせる。
「花蝶扇!」
 胸から扇を出してそれを投げてだ。彼等を撃つ。それで一人倒した。
 しかしその一団はさらに来る。かなりの数だった。 
 その白い、目が幾つもある覆面の者達を見てだ。舞は言うのだった。
「何なの、この連中」
「あやかしか」
 影二は接近してきた一人を蹴りで吹き飛ばしつつ言った。
「只の人間ではないようだが」
「そうですね。異様なものを感じます」
 周泰もだ。刀を抜き横から来る者達を切り払いながら述べる。
「この者達は一体」
「私もよくわからないのですけれど」
 董卓もだ。顔を曇らせて話す。一行は夜道の中を必死に進んでいる。その後ろから、左右からだ。その白い一団が迫って来ているのだ。
「ただ」
「ただ?」
「私を捕らえた張譲の後ろにいました」
「なら張譲の手の者でしょうか」
 周泰はまずはこう考えた。
「そうなのでしょうか」
「それにしてはおかしいんじゃないかしら」
 舞が周泰に対して言った。
「何かこの連中って」
「そうだな。この世界の者達ではない」
 影二も言う。
「かといって我等の世界の者達でもないな」
「どっちの世界の連中ではない感じね」
「そういえば」
 二人の話を聞いてだ。周泰もだった。
 その者達を刀で切りつつだ。そうして言うのだった。
「何かが違いますよね」
「影に近い感じね」
「闇だな」
 二人はまた言った。
「そうした感じの連中ね」
「何かよからぬ目的の為に動いているか」
「だから董卓さんに対してあの様なことをしたのでしょうか」
 周泰は言う。洛陽の夜は彼等以外は誰も出ていない。不気味に静まり返った街の家々も人の気配に乏しい。何もない感じだ。
 その街の中を進んでだ。それで話すのだった。
「国政を壟断する為に」
「そんな簡単な話じゃないわね」
 舞がすぐに言った。
「ほら、オロチの話だけれど」
「その彼等ですか」
「あの連中が今私達を追っている連中と組んでるなら」
 その可能性はかなり高いとだ。舞は考えながら話した。
「この世界の何もかもを壊そうとしているわね」
「この世界のあらゆるものを」
「国政の壟断とかそういう生易しいものじゃないわ」
 そうしたことですらだ。小事だというのだ。
「オロチが企てることはね」
「だからといってこの連中はオロチではない」
 影二は白装束の者達を見てまた話した。
「別の怪しさを感じる」
「ううん、話は単純じゃないんですね」
 周泰も言う。
「どんどんとんでもないことになっていますね」
「なっているわね」
「それは間違いないな」
 舞も影二も周泰に話す。三人で董卓を守りながら。
「けれどもうここまで来たらね」
「最後までやるしかない」
「そうしましょう。そしてまずは」
 まずはだというのだ。
「この都を出ましょう」
「董卓ちゃんを助け出してね」
「そうするとしよう」
「すいません」
 その董卓が三人に礼の言葉を述べる。彼女も懸命に駆けている。
 だが彼女の足は三人に比べて遅い。それがそのまま白装束の者達のつけ入る隙になっていた。
 だが何とか凌ぎながらだ。彼等は進んでいた。そして遂に東門が見えた。そこにだ。
「月!」
「姉さん!」
「詠ちゃん!陽!」
 董卓は二人の姿を認めて声をあげた。門の下にだ。二人が馬車を用意して待っているのだ。
「待っていてくれたの!」
「当たり前でしょ。待たなくてどうするのよ」
「話は後よ!」
 董白が姉に対して言う。
「とにかく。馬車に乗って」
「急いで!」
「う、うん!」
 董卓も彼女の言葉に応えてだ。そうしてだ。 
 馬車に向かう。そこにだった。
 半蔵達も出て来た。彼等は周泰達に声をかける。
「よし、それではだ」
「都を出るか!」
「はい、そうしましょう!」
 周泰が半蔵と火月の言葉に応える。
「今は急がないと」
「そうだな。しかしその連中は」
「何者ですか?」
 ガルフォードと蒼月が周泰達に迫っている白装束の者達を見て問う。
「見たことのない奴等だけれどな」
「敵なのはわかりますが」
「それがよくわからないのよ」
「何者かもな」
 舞と影二は戦いながら答える。
「さっきからしつこく来るけれど」
「次から次に出て来る」
「我々の敵であることは間違いないな」
 半蔵は簡潔にこう判断した。
「それではだ」
「戦うか」
 ガルフォードも言ってだ。そうしてだった。
 彼等も白装束の一団と戦う。そうしてその者達を退かせようとする。
 しかしだ。何時の間にかだった。
 馬車にだ。その白装束の一団が群がって来た。そのうえでだった。
 一行を襲う。戦いはさらに激しさを増す。
 それを見てだ。董白は剣を手にしたままたまりかねた声で言う。
「どうしたものかしらね、ここは」
「そうそう容易に我等を出すつもりはないか」
「出すどころか」
 それどころかだとだ。董白は傍らで爆炎龍を出す半蔵に対して述べた。
「皆殺しにするつもりね」
「少なくとも董卓殿以外はそうだな」
「冗談じゃないわね」
 これが董白の言葉だった。
「ここまで来て。死んでたまるものですか」
「それなら何とか」
「ええ、姉様を早く馬車に乗せて」
 そうしてだというのだ。
「一刻も早くここを出ましょう」
「既に馬も用意してあります」
 蒼月はそれもあるというのだ。
「ですがこのままでは」
「どうしようもねえな!」
 火月は炎を刀に宿らせて振るいながら話す。
「これだけうじゃうじゃと出て来たらな!」
「本当にこの連中」
「何者なのだ」
 舞と影二も拳を振るっている。
「いきなり出て来たし」
「数にも限りがないのか」
「とりあえずは今はな」
 ガルフォードはパピー達と共に戦っている。
「この連中を退けてな」
「そうですね。そして」
 周泰も戦っている。刀だけでなく懐から小刀を出してそれを投げてもいる。
「都を出ましょう」
「難しい状況ね」
 賈駆は董卓を抱いて庇いながら話す。
「これだけ敵の数が多いと」
「けれど。姉さんは何としても」
「わかってるわよ。それはね」
 すぐに答える賈駆だった。
「月だけは。絶対に」
「そうしないとね。本当にね」
 それは何としてもだという二人だった。しかしだった。
 白装束の者達の数は増すばかりだった。状況は危機的なものになっていた。
 馬車と一行は十重二十重に囲まれている。そうなってしまってはだった。
「まずいな」
「そうですね」
 火月と蒼月が言う。その囲みの中でだ。
「ここまで囲まれるとな」
「どうしたものか」
「一点に集中攻撃を浴びせるか」
 半蔵は冷静に述べる。
「今は前をだ」
「それで董卓さんを馬車にお乗せして一気にですね」
 周泰も半蔵の言葉に応えて言う。
「突破されますね」
「そうだ。それしかないか」
「一か八かね」
 舞のその声が鋭いものになる。
「まさに命懸けになるわね」
「しかしそれしかない」 
 影二もだ。決断は下した。
「今はだ」
「なら姉さん、詠」
 董白は二人に対して声をかける。
「早く馬車に乗って。私達が道を開くから」
「陽、けれどそれだと」
「あんた達は」
「言っておくけれど死ぬ気はないから」
 心配する姉達にだ。こう言いはした。
「安心して。一緒に都を出ましょう」
「うん、じゃあ」
「御願いね」
「さて、仕掛けるとするか」
 ガルフォードは二人が馬車に乗ったのを見てからその馬車の前を見据えた。
「道を開くか」
「ちょっとばかり大変そうですけれどね」
 周泰も言う。
「それでもここは」
「それしかない。仕掛ける」
 最後に半蔵が言った。そうしてだった。
 忍達は血路を開こうとする。しかしここで。
 不意にだ。四方八方からだ。
 派手な爆発が起こった。それで白装束の者達が吹き飛ばされていく。
「なっ!?」
「な、何だ」
「これは一体」
「何が起こったのよ!?」
 周泰達も驚いた。突如と起こった爆発にだ。
 そしてだ。門の楼閣の上にだ。彼等が並んで腕を組んで立ちだ。高らかに叫ぶのであった。
「愛と正義と美の戦士!」
「ここに見参よ!」
 怪物達だ。彼等がそこにいた。
「あんた達、よく頑張ったわね!」
「義により助太刀するわ!」
「・・・・・・妖怪だな」
 半蔵はその彼等を見上げて言った。
「間違いない。人間ではない」
「いや、あの不気味な辮髪の化け物は」
 ガルフォードはそちらを見上げている。その彼の横ではパピー達が唸り声をあげている。
「どっかで見たな」
「どっかでって何処でだよ」
 火月がそのガルフォードに問う。
「あんな目立つ化け物一回見たら忘れられないだろ」
「それはそうだけれどな」
「何処で見たのか覚えてねえのかよ」
「夢で見たか?」
 その時のことを思い出したのだった。何とかだ。
「確か」
「つまり悪夢に出て来た妖怪ですね」
 蒼月はそう判断した。
「あの者達は」
「そんなところだな」
「けれどとりあえずは」
 舞もその上を見上げながら話す。
「私達に味方してくれるみたいだけれど」
「そうよ。その通りよ」
「あんた達は都を出なさい」
 妖怪達は楼閣の上から話す。
「ここはあたし達が引き受けるから」
「早くね」
「わかったわ」
 賈駆が最初に二人の言葉に頷いた。
「何処の魔界から来たのかわからないけれど。その言葉に甘えさせてもらうわ」
「そうだ。ここは俺達が引き受ける」
「ですから貴方達は都を出て下さい」
 その彼等が突破しようとした前にだった。
 刀馬と命が出てだ。白装束の者達を倒すのだった。
「急げ!」
「今のうちに!」
「そうね。姉さん、詠!」
 董白が二人に声をかける。
「今のうちよ!」
「う、うん!」
「それじゃあ!」
 二人も彼女の言葉に応える。そうしてだった。
 馬車に乗る。董卓が中に入りだ。賈駆が手綱を持つ。そのうえで出発した。
 馬車の前にはだ。命がいた。その彼女がだ。
 薙刀を縦横に振るいだ。白装束の者達を切り伏せる。そうしながら賈駆に言う。
「今のうちに!」
「え、ええ!」
「それじゃあ!」
 賈駆の横にいる董白も応える。彼女は今も剣を持っている。
「都を出るわよ!」
「早く!」
「わかりました!」
 周泰も応える。彼女だけでなく他の忍達もそれぞれ馬に乗っている。
 そのうえでだ。脱出にかかるのだった。
「行きましょう!」
「ええ、そうね!」
 舞が応える。そうしてだった。
 彼等は馬車を囲みだ。駆けだした。そうしてだった。
 彼等は都を脱出した。虎口を脱したのだった。
 それを見届けてからだ。怪物達はまたしても仕掛けた。
「さあ、留めよ!」
「受けるがいいわ!」
 こう叫んでだ。天高く舞い上がり。
 両手からだ。光を放ってだ。
 白装束の者達を吹き飛ばす。そうして彼等を退けたのだった。
 それが終わってから着地してだ。彼等は仲間達に言うのだった。
「じゃああたし達もね」
「戻りましょう」
「赤壁にね」
「今からね」
「わかりました」
 命が二人に対して答える。
「これで終わりですね」
「ええ、お疲れ様」
「これでまた一つ悪の芽が潰えたわ」
「悪か」
 刀馬は彼等のその言葉に目を向けた。既に彼等の周りの白装束の者達も退けられている。今東門にいるのは彼等だけになっている。
 その中でだ。刀馬は刀を抜いたまま二人に言うのだった。
「この連中は悪か」
「そうよ、この世界に介入しようとしているね」
「そうしてそれを己の意のままにしようとしているのを悪とするならね」
「彼等は悪になるわね」
「そうなるわ」
「知っているのだな」
 二人の言葉を聞いてだ。次はだ。
 刀馬はこのことを察したのだった。二人がこの白装束の者達について知っているということをだ。
「そうなのか」
「調べたのよ。ちょっとね」
「あたし達の本来の世界に戻って」
 そのうえでだというのだ。
「彼等もまたなのよ」
「この世界に介入しようとしているのよ」
「この世界には様々な勢力が入り込んでいるのだな」
 獅子王はそのことにだ。仮面の奥の目を鋭くさせた。
 そのうえでだ。こう話すのだった。
「何故そこまで入り込むのだ」
「オロチやアンブロジア、そして常世ですね」
 命は彼等の名前を出した。
「その他にもですね」
「そうよ。本当に色々来ているわ」
「貴方達のそうした存在もあらかたね」
「何故なのだ、それは」
 獅子王が二人にまた問う。
「この世界にそこまで」
「多分。介入しやすいからよ」
「それでなのよ」
 それでだ。彼等は来ているというのだ。
「この世界はあらゆる平行世界の中でもとりわけ変わった世界だから」
「本来の世界だと誰もが男の筈なのに女の子になっている」
「しかも文明的にも妙に進歩しているところもあるし」
「特に食文化と衣装の文化がね」
「それはあるな」
 ギースもだ。この世界の食文化と服装のことについては気付いていた。
「この時代には本来ジャガイモや薩摩芋はなかったし唐辛子もない」
「そうよ。気付いてたのね」
「そのことにも」
「しかも北の方でも米を食うことができる」
 ギースの指摘は続く。
「チャイナでは北と南で食生活が大きく変わる」
「北は麦、南は米だったな」
 クラウザーも話す。このことをだ。
「この時代なら麦よりも稗や粟の方が多かったな」
「ええ。本来は稗や粟のお粥が主食よ」
「しかもおかずもね」
「誰もがお野菜もお肉もふんだんに食べてるわよね」
「そうなってるわよね」
「それは有り得ない筈だ」
 ギースの指摘は続く。
「この世界は我々の時代並に食文化が発達している」
「服もそうだな」
 ミスタービッグは服について指摘した。
「我々の時代と同じ程の服を着ているな」
「下着なんか特にそうでしょ」
「かなり凄いでしょ」
「我々の時代の下着ではないのか」
 ミスタービッグはこうまで言った。
「ゴムも使っているようだ。服もかなり進歩しているな」
「そうよ。食文化と服装の文化はね」
「この世界はかなり発達しているのよ」
「もっと言えば武器もだけれど」
「本来はこの時代にはないものばかりよ」
 二人は今度はだ。武器についても話した。
「蛇矛とか方天画戟とかね」
「そういうものは本来この時代にはないでしょ」
「けれどこの世界には普通にあるものよ」
「つまり。この世界はそれだけ他の世界とは変わっているのよ」
 そうしたところを全て踏まえてだ。彼等は話すのであった。
「言うならば平行世界の中の特異点なのよ」
「そうした世界だからああした勢力がね」
 どうかというのだ。
「介入してくるのよ」
「そういうことなのよ」
「そういうことか」
 刀馬はそこまで聞いて納得した。
「それでなのか」
「そう、多分貴方達がここに来たのはね」
「彼等と戦う為なのよ」
 それが為だというのだ。
「誰かに呼ばれたのでしょうね」
「その誰かまではあたし達にもはっきりとはわからないけれど」
「神だな」
 ここで出て来たのは華陀だった。彼が言うのであった。
「強いて言うならそうだな」
「ええ。あたし達は平行世界の守護者というか監視者というかね」
「それが仕事なのよ」
 二人ははじめてだ。彼等のその役目も話すのだった。
「あたし達の他にもそうした人はいるけれどね」
「因果律の監視者もいれば」
「あらゆる世界を巡って戦う戦士もいるし」
「光の巨人に仮面の戦士達」
 謎の存在の名前も出た。
「とにかくね。あたし達の他にも多くの人達がいるのよ」
「あらゆる世界を護る戦士達がね」
「それでこの世界に来たんだな」
 ここまで話を聞いてだ。華陀は再び言った。
「そうだったのか」
「そういうこと。あたし達はこの世界を護って」
「この世界の人達がこの世界で幸せに暮らせるようにするわ」
 二人はウィンクして話した。そのウィンクでだ。
 周囲に再びだ。大爆発が起こった。
 それをよそにだ。彼等はさらに話す。
「その為にこの世界に来ているからね」
「頑張るわよ」
「わかった。それならだ」
 華陀もだ。二人の言葉に応える。そうしてだ。
 彼は強い声でだ。二人に再び話した。
「及ばずながら俺もだ」
「ダーリンがいてくれたら百人力よ」
「それに皆もいてくれるし」
 ギース達を見ての言葉だ。
「皆がいてくれるからね」
「あたし達も戦えるのよ」
「では我々が華陀達と共にいるのはだ」
 ギースは彼等の話からだ。こんなことを言った。
「運命だったのだな」
「この世界を救って貴方達自身も救われる為にね」
「その神が呼んだのでしょうね」
「そうだったのか」
「貴方達の世界の人達は貴方達だけでは救われにくいのよ」
「運命の巡り合わせが悪くてね」
 そのせいでだと言われるとだ。ギース達、しかも全員がだ。
 妙に納得した顔になった。幻十郎も話す。
「俺は。碌でもない生まれをして碌でもない生き方をしてきたが」
「その貴方もこの世界に来てどうかしら」
「変わったわよね」
「変わったな」
 その通りだとだ。彼もまた二人に話した。
「あちらの世界では斬り」
「あらゆる意味でね」
「斬ってきたのね」
 幻十郎は女だけでなく男もいける。そうした意味でもだ。千人斬りをしてきたのだ。
 そうしてだ。その中でもだった。彼の生きてきた道は。
「斬り酒に博打に薬だ」
「そうした生活を送ってきたけれど」
「今はどうかしら」
「どれからも離れた」
 そうしただ。あらゆる退廃からだ。離れたというのだ。
「だが。決して悪い気はしない」
「あたし達と一緒にいて楽しい?」
「それはどうなの?」
「つまらなくはない」
 そうではないと話すのだった。
「むしろ。いい感じだ」
「それであの人とはどうなの?」
「いつも言っているあの人は」
「あの男は斬る」
 覇王丸についてはだ。目を鋭くさせて述べた。
「何としてもだ。斬る」
「それはなのね」
「変わらないのね」
「しかしそれはあの男があってこそだ」
 覇王丸のことを考えながらだ。そのうえでの言葉だった。
「あの男が死ぬことは望まない」
「それは元からよね」
「そうね」
 二人は幻十郎のその本心を見抜いていた。実は彼は覇王丸を憎みそのうえで斬ろうと常に考えていた。だがそれでもなのだ。
 実は覇王丸が死ぬことが望んでいなかった。そうだったのだ。
 そのことを言われてだ。幻十郎も言うのだった。
「俺はあの男とは生涯をかけて斬り合う」
「一生ね」
「そうしたいのね」
「それを何と言うのか」
 幻十郎はそれを何と言うのか知らない。しかしそれでもだった。
「だが、だ」
「それでいいのね」
「そうなのね」
「あいつを最後に斬るのは俺だ。俺しかいない」
「なら。生涯をかけて戦うといいわ」
「そうしてね」
 二人もこう話すのだった。幻十郎もだ。彼の歩むべき道を見出していた。
 そんなことを話してだった。彼等もだ。
 都を去る。そうしてであった。
 赤壁にだ。扉を潜って入るのであった。そこを詳しく見回してだ。華陀が言った。
「ここはまずいな」
「あら、ダーリンは気付いたのね」
「流石ね」
「ああ。風だな」
 その風を受けながらだ。彼は話す。
「風が急に変わる。それが危ないな」
「しかもね。向こうには風を操る者もいるから」
「それも注意してね」
「あの男か」
 風を操る男と聞いてだ。ギースがまた言った。
「吹きすさぶ風だな」
「ええ。他にも全員揃っているから」
「余計に危ないのよ」
「あの者達も全てか」
 そこまで聞いてギースはその目をさらに鋭くさせた。
 その鋭くなった声でだ。彼女は話した。
「ではだ。ここで戦うとなるとだ」
「彼等も一気に仕掛けて来るわよ」
「ここでの戦いはまさに正念場になるわよ」
「正念場だな」
 また言う華陀だった。
「赤壁での戦いがどうなるかでこの世界はかなり決まるんだな」
「あたし達も必死に頑張るから」
「ここでは特にね」
 怪物達も周囲を見回している。そのうえでの言葉だ。
 こんな話をしてだ。彼等はだ。
 赤壁を細かいところまで見回ってだ。この地のことも把握したのだった。
 そうしてだ。彼等は彼等のやるべきことをしていっていた。その中でだ。
 天草がだ。不穏なものを感じ華陀に話した。
「都に戻った方がいいな」
「都か」
「うむ。感じる」
 目を剣呑なものにさせての言葉だった。
「都においてもだ」
「戦いが行われるんだな」
「それは避けられない様だ」
 そうなるというのだ。
「この気配は」
「あたしも感じたわ」
「あたしもね」
 怪物達もだ。感じていたのだ。
「都でもね。はじまるのね」
「それは避けられなかったみたいね」
「戦いは都でもか」 
 華陀もその目を険しくさせている。
「そういうことか」
「仕方ないわね。考えてみれば彼等は都に潜んでいるのだから」
「避けられないのも道理ね」
 怪物達がまた言う。
「そこから何かをするのなら」
「結局都でも戦いになるわ」
「よし、それならだ」
 華陀は決断を下した。その決断は。
「また都に向かわないとな」
「そうして戦いましょう」
「あたし達もね」
 こう話してだった。彼等は再び都に戻るのだった。彼等もまただ。運命の戦いの中にいたのだ。
 連合軍は虎牢関に向かっていた。その途中でだ。
 孫策のところに一羽の鳩が来た。その鳩の足に括りつけられている手紙を開いてだ。孫策は満足した顔で周囲に言うのであった。
「やってくれたわ」
「明命がですか」
「やってくれたのね」
 孫権と孫尚香が姉の言葉に笑顔になる。
「董卓を都から助け出したのね」
「そうしてくれたのね」
「それで今こちらに向かっているわ」
 進軍を続けるだ。連合軍のところにだというのだ。
「無事ね」
「本当に何よりですね」
「これで虎牢関でも戦わなくて済むわね」
「ええ。それにね」
 しかもだとだ。孫策は妹達に言葉を加えてきた。 
 ただしだ。ここで彼女の表情が変わった。
 それまでにこやかだったものが剣呑なものになりだ。彼女は言うのだった。
「いたわよ、あいつがね」
「張譲がですか」
「やっぱりいたのね」
「ええ、そのことも書いてあったわ」
 手紙にだとだ。書いてあったというのだ。
「後宮の奥深くにいたわ」
「そうなのね。予想通りね」
「生きていたの、あいつ」
「それで董卓の名前を使って色々とやっていたみたいね」
 孫策は話す。
「あいつらしいって言えばあいつらしいけれどね」
「全くですね。宦官らしい」
「実にです」
 張昭と張紘がここで孫策に言う。二人も主と同じく馬に乗っている。その主の後ろからだ。二人は言ってきたのである。
「陰険なやり方です」
「はっきりと言うわ」
 孫策は眉を怒らせていた。今度はそうなっていた。
「私はね。ああした連中が一番嫌いなのよ」
「人の名を騙り悪を行う者がですか」
「御嫌いですね」
「ええ、大嫌いよ」
 こう二張にも話す。
「薄汚い話よね」
「そうですね。それこそまさに悪です」
「後宮には残念なことに多くいますが」
「張譲は斬るわ」
 本気だった。完全にだ。
「この私がね」
「わかりました。それでは」
「あの者は孫策様が」
「まあ袁紹や曹操もそう思ってるでしょうね」
 ここでは少し苦笑いになって話す孫策だった。
「あの二人は宦官達とは私達よりずっと因縁があるからね」
「確かに。では張譲はお二人に譲られますか」
「そうされますか」
「私の方が譲ってもらいたいわね」
 そうだというのであった。彼女の方がだ。
「そこは何とかね」
「ですが袁紹殿も曹操殿も非常に我の強い方です」
「交渉は難航しそうですね」
「でしょうね。あの二人に袁術もいるし」
 我の強い面々ばかりの連合軍であった。
「まあそこは何とかね」
「認めてもらいますか」
「張譲を斬ることは」
「そうしてもらうわ。何とかね」
 こんな話をしながらだった。董卓が助け出されたことは連合軍に伝わった。このことは第二陣において本陣を構えている袁紹達にも伝わった。
 そしてだ。彼女達も言うのであった。
「宜しい、では張譲の首を討つのはわたくしですわよ」
「いえ、ここは私よ」
 二張の予想通りだった。やはり二人もこう言う。
「あの宦官の首は是非共」
「ちょっと、待ちなさいよ麗羽」
「華琳、貴女がというのでして?」
「そうよ。あの女には借りが散々あるのよ」
「それはわたくしもですわ」
「だから絶対にというのね」
「そうでしてよ」
 こう言ってだ。袁紹も引かない。
「敵の黒幕を成敗するのは総大将の務めですわよ」
「何言ってるのよ。総大将は本陣でどっかりと座ってればいいのよ」
「軍師が自ら鎌を持つのはどうかと思いますわよ」
「儀式を取り仕切るのも軍師よ」
 お互いに言い合う。そんな二人を見てだ。
 夏侯淵は首を捻ってだ。こう言うのであった。
「全く。お二人は相変わらずだな」
「それがいいのではないのか?」
「悪いとは思わないが困ったことではある」
 こう言うのである。
「麗羽様も華琳様も昔からだからな」
「だが張譲はだ」
「成敗して当然だというのだな」
「そうだ。ではどちらかが討たれるべきではないのか」
「そうかも知れないがそれで喧嘩をされるのはだ」
 それが困ったことだというのだ。夏侯淵に言うことは正論ではあった。
「幾つになっても。そうしたところは変わられないのだな」
「そういう御主もだな」
「私もか」
「そうだ。子供の頃から心配性だな」
 こう妹に言う。
「特に華琳様に対しては」
「そうかもな。それが私の役目なのだろうな」
「心配して世話を焼くことがか」
「私に対してもだな」
「姉者もだ。だが結局私がそれがいいのだろう」
 自分でこう話すのだった。
「だからこうして今もここにいるのだ」
「そうだな。私も秋蘭がいないとだ」
「そう言ってくれるのだな」
「何をするにも張り合いがない」  
 夏侯惇もだ。妹に話す。
「いつも迷惑をかけているが」
「気にすることはない」
 それはいいというのであった。姉に対して。
「姉者はいつも自分が真っ先に前に出るな」
「出ずにはいられないのだ」
「それが姉者のいいところだ」
 微笑んで姉に話す妹だった。
「むしろ消極的な姉者なぞだ」
「考えられないのか?」
「袁紹殿のところで考えるとだ」
 丁度だ。二人のすぐ隣にだ。袁紹のところの二人も馬に乗っていた。
「顔良が私だろうな」
「では私は文醜になるのか」
「そうなるだろうか」
「はい、私もそう思います」
 その顔良も夏侯淵の話に加わってきた。
「結構文ちゃんには困ってますけれど」
「それでも悪い気はしないな」
「しません。むしろ前に出ない文ちゃんって」
「文醜ではないな」
「といか想像できません」
 そこまで至るというのだ。
「麗羽様も暴走されない方が想像できません」
「麗羽殿は暴走できなかったのだ」
 ここでこんなことを言う夏侯淵だった。
「幼い頃はな」
「そうらしいですね。あの頃の麗羽様は」
「そうだったのだ。いつもお一人だった」
 こう話してだ。夏侯淵はもう一人の名前を出した。
「華琳様もそうだった」
「御二人は幼い頃は寂しかったんですね」
「華琳様は宦官の家の娘だった」
 そのだ。国政を壟断する宦官の家のだというのだ。
「そして麗羽殿の母君は側室だった」
「そうですよね。だからこそ」
「御二人に声をかける者はいなかった」
 それが幼い頃の曹操と袁紹だったのだ。
「馬鹿にされ爪弾きにされていたのだ」
「御二人共だったんですね、本当に」
「だからこそお互いに知り合いだ」
 似た境遇同士でだ。知り合ったというのだ。
「そして我等も華琳様達のお傍に来てだ」
「それで変わられたんですか」
「そうだ。幼い頃の御二人はいつも抑圧されていたのだ」
 それでは暴走なぞだ。とてもだというのだ。
「だから今はああしておられる方がいいのだろうな」
「何かと先陣に出られたがってもですが」
「そうなのだろう。確かに困りはするが」
 袁紹のそのでしゃばりなところはだというのだ。
「しかしそれでもそうした麗羽殿は想像できないしな」
「曹操さんもですね」
「華琳様も実は寂しがり屋なのだ」
 夏侯淵は声だけを微笑まさせて話す。
「いつも誰かと共にいたい方なのだ」
「ですね。麗羽様もそうですし」
「そして私はだ」
「私もですね」
「そうした華琳様に姉者を後ろから支えるのが仕事だ」
「私は麗羽様と文ちゃんを」
「んっ?あたい?」
 ここでようやく二人の話に気付いた文醜だった。そのうえで夏侯惇に尋ねた。
「この二人一体何話してるんだ?」
「我等のことだ」
「何だよ、あたい達のことかよ」
「そうだ。要するにだ」
 夏侯惇はここでいささかとんでもない解釈をしてみせた。
「我等がいてこそ。二人共は元気になるそうだ」
「だよな。斗詩ってあたいがいないとどうしようもないからな」
「何故そうなる」
「あのね、文ちゃんね」
 夏侯淵と顔良が困った顔で二人に言い返す。
「私達はむしろ困っているのだが」
「全く。お気楽なんだから」
「困っているのか?」
「あたい達何かしたか?」
 自覚のない二人だった。
「私の何処に困っているのだ」
「変なことはしてないつもりだけれどな」
「全く。いつもこうなんだから」
「そうだな。しかしこうしたところがな」
 夏侯淵は今は微笑んで顔良に話す。
「姉者達のいいところだ」
「そうですね。そうした意味ですと」
「二人の言っていることも正しいか」
「そうなりますね」
 こんな話をしてだ。二人は夏侯惇と文醜を見るのだった。そうした話をしながら虎牢関の前まで来た。洛陽を守る最後の関に。


第八十五話   完


                        2011・5・21



無事に忍たちによって月たちが救出されたな。
美姫 「本当よね。これで少なくとも菫軍とは戦わずに済むわね」
それでも戦わずに勝利にはならないだろうがな。
月がいなくなったのが分かればどう動くか。
美姫 「次回も楽しみね」
次回も待ってます。



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