『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第八十二話  周泰、都に忍び込むのこと

 その黒いフードとマントの者がフードを取り払った。その顔を見てだ。
 誰もが、劉備と彼女の周りの面々以外は。思わず声をあげてしまった。
「大将軍!?」
「生きておられたのですか!?」
「張譲に粛清されたのでは」
「違ったのですか」
「こうして生きておる」
 その女何進はこう驚く一同に対して述べる。
「ちゃんとな」
「幽霊ではないのう」
 袁術は真剣に見ている。
「確かに大将軍じゃな」
「しかし。どうして生きておられるのでしょうか」
 張勲もだ。この時代にはこう言うのだった。
「大将軍は張譲に暗殺されたと思いましたが」
「何とか逃れたのじゃ」
 こう言うのであった。
「それで華陀達に助けられたのじゃ」
「ああ、あの赤い髪の医者ね」
 曹操が言う。
「今度馬鹿なこと言ったら本気で首刎ねるわ」
「一体何がありまして?」
 袁紹がその曹操に対して怪訝な顔で問うた。
「貴女まさかあのべ・・・・・・」
「それは言わない約束でしょ」
 曹操は憤怒の気をみなぎらせて袁紹に言う。
「そういう貴女もだし」
「た、確かにそうですわね」
「全く。どうして同じ悩みを抱え続けるのかしら」
「これも何かの縁ですわね」
「そうね」
「はて。何の話じゃ?」
 何進はそんな二人の言葉に首を捻る。しかしであった。
 何はともあれだ。彼女は言うのであった。
「とにかくじゃ。わらわは生き長らえて劉備に保護されておったのじゃ」
「そうだったのね」
 孫策もその話には目をしばたかせて述べた。
「何はともあれ助かって何よりだわ」
「うむ。それで華陀に言われてじゃ」
 また彼であった。
「ここに参ったのじゃ」
「何かよくわかりませんが」
 孫権も首を捻って述べた。
「ここに来られたのは何かしらの事情があってのことなのですね」
「うむ。そなた達は洛陽についてはよく知らぬな」
「まあそれは」
「残念だけれど」
 袁紹も曹操もだ。難しい顔になって答える。
「わたくし達都のことは」
「長い間勤めていたけれどあの地の生まれではないし」
 実はこの中に洛陽生まれの者はいない。
「残念ですけれど」
「詳しくはないわ」
「わらわは洛陽の生まれでそこで肉屋をやっておったのじゃ」
 つまりだ。生粋の都人だというのだ。
「そして宮中にも大将軍として様々な造営に携わってきた」
「つまり細かい場所まで御存知なのですね」
「その通りじゃ」
 こう劉備にも答えるのだった。
「それが役に立つとはのう」
「わかりました。ではお願いします」
「うむ。それではだ」
 こうして何進も協力することになった。しかしである。
 やはり劉備と彼女の周りの者以外がだ。首を捻って言うのであった。
「大将軍が生きておられるのはわかりましたけれど」
「あの、それでもです」
「そのお耳は一体」
「どうされたのですか?」 
 そのだ。猫耳を見て言うのであった。
「大将軍の耳は猫の耳?」
「まさか将軍は猫好きだったとか?」
「いや、大嫌いであられた筈ですよ」
「それがどうして」
「嗜好が変わられた?」
「どうなのでしょうか」
 こうそれぞれ話す。とりわけだ。
 またしても袁紹と曹操がだ。あれこれと話すのだった。
「まさか。大将軍にそんな趣味が」
「どうかしらね。確かに風変わりなところはあられるけれど」
「けれど。猫はありませんわね」
「御自身の外見は考慮されてないわね」
「猫は。将軍には」
「合わないと思うけれど」
「聞こえておるぞ」
 何進はその二人に対して突っ込みを入れた。
「御主達から見てもおかしいか」
「御言葉ですが」
「どういった御心境の変化でしょうか」
 二人は怪訝な顔を変えていない。
「あの。大将軍そのお耳は」
「本当にどうされたのですか?」
「話はかくかくしかじかじゃ」
 何進はその耳の事情も話すのだった。
「何とか猫にならずに済んだがじゃ」
「それでもなのですか」
「耳だけは」
「そうじゃ。正直参っておる」
 こうも言うのであった。
「どうしたものかのう」
「どうも一生のものらしいです」
「残念ですが」
 孔明と鳳統がその猫耳について話す。
「ですからもう」
「諦められるしか」
「残酷な話じゃのう」
 何進も諦めるしかなかった。
「それは」
「ですけれど」
 何故か楽しそうに言う周泰であった。
 そしてそのうえでだ。こう何進に話すのだった。
「あの、将軍」
「何じゃ?」
「その耳ですけれど」
 目を輝かせてだ。何進に言うのである。
「できればですね」
「できれば。何じゃ」
「私もそうした耳が欲しくて」
「また変わったことを言うのう」 
 何進にしてはだ。そうとしか思えなかった。
 それで眉を顰めさせてだ。周泰に返した。
「わしは嫌で仕方ないのじゃが」
「ですけれど」
「まあその話は置いておいてですね」
 程cがここで言うのだった。
「とりあえずお話を進めましょう」
「そうだったわね」
 曹操も程cのその言葉に顔を向ける。
「とりあえずそのオロチがいることはわかったし」
「その連中は俺が絶対にぶっ潰す」
 草薙は右手を拳にして曹操に話す。
「何があってもな」
「貴方はそうした家の人だったわね」
「ああ、だからな」
 それでだというのだ。しかしであった。
 曹操はだ。その草薙に今はこう言うのであった。
「けれど今は焦らない方がいいわね」
「慎重にってことか」
「そうよ。そのオロチがこの世界でどういった状況なのかわからないから」
 それでだというのだ。
「迂闊な動きは控えるべきね」
「じゃあどうしろっていうんだ?」
「彼等とは多分」
「多分?」
「洛陽で戦うことになるわね」
 曹操は左手を己の口に当てて述べた。
「二つの関を抜けた後でね」
「じゃあその時にか」
「それまでは戦わないわ」
 また言う曹操だった。
「だから焦らないで」
「わかったぜ。それじゃあな」
「ええ、慎重にね」
「そういうことか。今はか」
「それよりもよ」
 曹操はあらためて話をしてきた。
「問題は。董卓よ」
「あの娘ですわね」
「看板に使われているならその看板を外すことね」
 こう袁紹にも述べる。
「そうすればいいのよ」
「ではここは」
 袁紹は曹操のその話を聞いてだ。
 考える顔になってだ。彼女も述べた。
「都に誰かを送って董卓を連れ出すのですわね」
「そうよ。話はそういうことよ」
「看板を外して裏にあるものを露わにする」
 孫権がそう言った。
「そうなればオロチも宦官の連中も困るわね」
「その通りじゃな」
 袁術も言う。
「これはよいかものう」
「なら話は決まりね。これでいくわ」
 曹操は軍師として諸侯に話した。
「まずは都にいる董卓を連れ出すわよ」
「それならですけれど」
 劉備はそれを聞いてだった。一同に話すのだった。
「忍び込むお話になりますよね」
「そうですよね。それは」
「なりますね」
 こうだ。孔明と鳳統も話す。
「でしたらあちらの世界の忍の方々が適任ですね」
「そうなりますね」
「それって結構多くないか?」
 公孫賛は忍と聞いてだ。こう述べるのだった。
「忍者になると」
「多いなら多いに越したことはないわね」
 孫策が微笑んで言う。
「それにうちにも適任者がいるしね」
「はい、確かに」
 甘寧が右手を平、左手を拳にして合わせてから述べた。
「ここはですね」
「ええ、じゃあ御願いね」
 孫策は周泰を見て微笑んで述べる。
「期待しているわよ」
「はい、やらせてもらいます」 
 周泰も孫策に晴れやかな笑顔で応える。
「では忍の皆さんと一緒に都に忍び込んで董卓さんを」
「御願いするわ。話はこれで決まりね」
「ちょっと派手な忍もいますけれどね」
 袁紹は何気にこんなことも言った。
「火月さんや蒼月さんが」
「あの二人本当に忍なのだろうか」
「目立ち過ぎではないのか?」
 夏侯姉妹が彼等のことを考えて首を捻った。
「もっとも。ガルフォードもな」
「目立つがな」
「舞も目立ち過ぎだな」
「あれ、忍んでるのか?」
 関羽と馬超は彼女のことを話した。
「あまりにも服の露出が凄くてな」
「女のあたしも目のやり場に困るんだけれどな」
「まあ。そういう問題はありますけれど」
「忍としては素晴しい力量を持っておられますから」
 孔明と鳳統はだからいいとするのだった。
「それじゃあ周泰さんと合わせてですね」
「陳宮さんにも御願いしたいことがありますが」
「ねねにですか?」
 話を振られた陳宮はだ。まずはきょとんとした顔になった。
 そしてそのうえでだ。こう二人に問い返すのだった。
「一体何を」
「陳宮さんには呂布さんにです」
「お話して欲しいのです」
「恋殿にですか」
「はい、御願いします」
「それでは」
 こう話してだった。二人はだ。
 陳宮に話す。そのうえでだった。こんなことも言うのだった。
「後は李典さんにもです」
「お話させてもらいます」
「そうしてそのうえで」
「無益な戦いは避けましょう」
「わたくしとしては」
 孔明と鳳統の話を聞いてだ。袁紹はだ。
 いささか面白くなさそうな顔をしてだ。こう言うのであった。
「やはり陣頭指揮を執って戦ってこそ」
「やっぱり本音はそれだったのね」
 彼女の横にいる曹操が呆れて溜息を出した。
「全く。総大将だから駄目だって何度言えばわかるのよ」
「ううむ。駄目ですのね」
「いい加減諦めなさい。全く」
「私としてはそれでいいのだが」
「姉者ももう少し慎重にだ」
 夏侯淵は呆れながら姉に言う。
「それが姉者のいいところだがな」
「そう言ってくれるか、秋蘭」
「うむ。姉者はな。それでいい」
 微笑んでだ。姉に言う妹だった。
「慎重な姉者は姉者らしくないからな」
「では私は戦になれば果敢にだ」
「そうしてくれ。背中は私が受け持つ」
「そこも春蘭を甘やかさない」
 曹操は夏侯淵にも言うのだった。
「全く。子供の頃から全く変わらないわね」
「まあ。無益な戦はしないならそれでいいですわね」
 袁紹もだ。それは避けるというのだった。
「ではそこのはわわさんとあわわさん」
「あの、それがですか」
「私達の名前ですか」
「確かそちらの魔法使いの方はポンコツさんでしたわね」
 こんなこともだ。袁紹は鳳統に言った。
「中身のお話はしませんの?」
「できればそれは」
「止めておくべきですわね」
「ええ、それはね」
 止めておくことになった。そうしてであった。
 何はともあれ話は進む。その流れであった。
 周泰は都に向かうことになった。しかしであった。
 何進にだ。こんなことをねだるのであった。
「耳ですけれど」
「またそれか」
「あの、行く前の御褒美というかそれで」
「それで?」
「耳を触っていいでしょうか」
 こうだ。うずうずとしてだ。目を輝かせながら言うのである。
「できれば」
「そうですよね。できれば私も」
 程cも出て来て何進に言う。
「御願いします」
「駄目じゃ」
 何進の返答は一言だった。
「わらわは猫ではないぞ」
「ですがそのお耳は」
「どう見ても」
「それでも駄目じゃ」
 何進はむっとした顔で二人に言い返す。
「全く。肉なら焼けるがのう」
「そうですか。じゃあ任務から帰ったら」
「お肉を皆で食べましょう」
 話はそこで落ち着いたのだった。こうしてであった。
 周泰と忍達が洛陽に向かうことになった。その顔触れは。
「ふむ。こうして見ればだ」
「多いわね、忍もね」
 舞がだ。半蔵に対して述べる。彼等は彼等だけが通れる道を通ってだ。そのうえで都に向かっている。
 その影走りの中でだ。話しているのだ。
「結構いると思ってたけれどね」
「そうだな。拙者もいれば」
「私もいるし」
「俺もだな」
「私もいますよ」
 火月と蒼月の兄弟達もいる。
「まあこうして集ってるのも何かの縁だな」
「任務を遂行するだけです」
「うむ。それがしも参加させてもらっている」
 影二もいる。
「この国の都はどういった場所か」
「はい、それはですね」
 一同を先導する周泰が彼等に話す。
「かなり大きな町でして」
「そんなにか」
「大きいのですね」
「他の町とは全く違います」
 こうだ。火月と蒼月に話すのだった。
「とにかく凄い大きさですから」
「何か楽しみになってきたな」
 ガルフォードはパピーと共にいる。
「どうした町なのかな」
「けれどあれなのよね」
 舞はいささか残念そうに苦笑いして言った。
「今は町では遊べないのよね」
「そうだな。都に捕らえられている董卓殿を助け出す」
 半蔵が言う。
「それが我々の任務だからな」
「その通りです。それでは皆さん」
 周泰がまた彼等に話す。
「宜しく御願いしますね」
「ああ、わかった」
「それならな」
 火月とガルフォードが応える。そうしてだった。
 彼等は先に進む。その速さは馬に匹敵する。
 その中でだ。周泰はだ。
 ガルフォードに対してだ。こんなことを言うのだった。
「そういえばガルフォードさんは」
「ああ、何だ?」
「アメリカ出身ですよね」
 彼のだ。その出自について話すのだった。
「確かそうでしたよね」
「その通りさ」
 ガルフォードは駆けながら微笑んで答えた。
「アメリカのカルフォルニア出身さ」
「アメリカ人で忍者になられたんですか」
「そうさ。忍者ってのに憧れてな」
 それでだ。そうなったというのだ。
「青い目の忍者ってわけさ」
「成程、そうなんですね」
「もう一人アメリカ人の忍者がいるんだけれどな」
 ガルフォードは周泰にこうも話す。
「アースクェイクっていうな」
「アースクェイク?」
「とんでもなくでかい奴でな」
 それがそのアースクェイクだというのだ。
「そいつは確か張飛とか馬超と戦ってたっていうけれどな」
「こちらの世界に来てるんですか、その人も」
「そうだな。まあ姿は見ないけれどな」
「わかりました。では御会いできたらいいですね」
「色々と問題のある奴だけれどな」
 さりげなくだ。ガルフォードはアースクェイクについて話した。
「泥棒する為に忍者になった奴だしな」
「それってまずいでしょ」
 舞が顔を顰めさせてガルフォードに言う。
「忍術の悪用じゃない」
「何度も言ってるけれどな。聞きはしないんだ」
「全く以て困った男だ」
 半蔵もだ。アースクェイクについて話す。
「どうしたものか」
「ああした人は必ず成敗されますね」
 蒼月は冷めた口調で述べた。
「それか一生強制労働か」
「あいつにはいいお灸かもな」
 ガルフォードもこう考えるのだった。
「それもな」
「そうした人なんですね」
「まあ懲りない奴だからな」
 ガルフォードは周泰にまた話した。
「少なくともこっちの世界に来てるのは間違いないからな」
「御会いしたいけれどしたくない方ですか」
「まあそんなところだな」
 こんな話をしながらだ。一行は都に向かう。
 その彼等を送った連合軍の中ではだ。孔明と鳳統がだ。
 李典に対してだ。こんなことを話していた。
「それではです」
「それで御願いします」
「ああ、わかったで」
 笑顔でだ。李典は二人に応える。三人は今李典の天幕の中にいる。そしてそこでだ。彼女は何かをいじりながら二人の話を聞いていた。
 そのいじっているものはからくりだった。それを作ってから話すのだった。
「こんな感じでええかな」
「いえ、もっと簡単なものでいいです」
「外見がしっかりしたものなら」
「じゃあ動きは大したもんでなくてええんやな」
 李典は二人にそのことを尋ねた。
「肝心なのは外見なんやな」
「はい、そうです」
「それが似ていればいいです」
「この娘やな」
 鳳統がさらさらと描いたその絵を見る。そこには董卓の似顔絵があった。
 その絵を見てだ。李典はまずこう言った。
「あんた絵上手いな」
「そうですか?」
「ああ、めっちゃ上手いで」
 こう言って彼女を褒めるのだった。
「あれやな。揚州の呂蒙ちゃんとかも絵上手いけどな」
「私もですか」
「ああ、上手いわ」
 その見事なまでに描かれた董卓の似顔絵を見ながらだ。李典は話す。
「画伯になれるで」
「画伯ですか」
「張勲ちゃんなんか凄い絵やからな」
 ここでだ。李典は彼女の名前を出した。
「もうな。何て言うたらええか」
「そこまで凄いのですか」
「凄いで。口では表現できん位な」
「そうなんですか」
「あと。噂ではや」
 李典は絵についてさらに話す。
「何か伝説の画伯がおってや」
「伝説ですか」
「それはもう凄い絵を描くそうや。生き物か何かわからんような」
「その人のお名前は何というのですか?」
「確か小とか林とかいうたか?」
 李典は視線をやや上にやってその名前を出した。
「真名は優やったか」
「その人が伝説の画伯ですか」
「あまりにも凄い絵で大丈夫かって思われるような人らしいな」
「そこまで凄いんですか」
「そや。まあうちもその絵は一回見たけれど」
 李典の顔が青くなる。そのうえでの言葉だった。
「壮絶やったな」
「壮絶ですか」
「人間ってあんな絵が描けるんやな」
 こうまで言うのだった。
「つくづく思ったわ」
「そうですか」
「そや。まあとにかくや」
「はい、この絵で御願いします」
「わかったで。すぐに作るわ」
 こうしてだった。二人は李典にも頼むのだった。そうしてであった。
 二人はあらためてだ。李典にこんなことを話した。
「それでなんですけれど」
「お腹空きませんか?」
「ああ。もうすぐお昼やな」
 早速作りはじめている李典が応える。
「ほな何か食べよか」
「ラーメンはどうでしょうか」
 孔明がそれはどうかと話すのだった。
「チンさんが御馳走してくれるそうですし」
「あの太鼓腹のおっさんかいな」
「はい、お金が大好きな」
 何気にかなりのことを言う孔明だった。
「あの人です」
「あのおっちゃん確かにお金には汚いけれどな」
 李典もそのことはよく知っている。知ってしまったのだ。
「それでもな。悪い人やないからな」
「それにあの人はラーメンについては確かな人ですし」
「ほな。うちもな」
「はい、ラーメンですね」
「一緒にいただくわ」
 笑顔で孔明に応えた。
「そうさせてもらうで」
「わかりました。それじゃあ」
 こうしてであった。李典はだ。孔明達と共に昼食を食べることになった。そうして作りながら天幕を出てそこに行くとだ。そこにチンともう一人いた。
「あっ、李典ちゃんも来たっちゃね」
「よく来てくれたでしゅ」
「何や、このおっちゃんもおるんかいな」
 李典は彼と一緒にいるだ。ホンフゥを見て言うのだった。
「じゃあ餃子もあるな」
「よくわかったっちゃね」
「だってあんた餃子好きやしな」
 それでだ。わかったというのだ。
「実際にそやろ。餃子もあるやろ」
「焼き餃子でいいっちゃね」
「まあうちそっちの餃子も好きやし」
 だからだ。いいというのである。
「こっちじゃ水餃子か蒸し餃子が普通やけれどな」
「ですよね。何かそこが違いますよね」
「こちらの世界とあちらの世界じゃ」
「いや、私達の世界でもそうした餃子の方が普通でしゅよ」
 チンが三人にそのことを話す。一同は話をしながら車座になって座る。その真ん中には鍋がありだ。そして鉄板も置かれていた。
「ただホンフゥはそちらの方が好きなんでしゅよ」
「焼き餃子がかいな」
「そうなのでしゅ」
 こうだ。チンは李典に話す。
「日本で焼き餃子を知ったのでしゅ」
「最初見て何だと思ったっちゃ」
 ホンフゥ自身もだ。焼き餃子について口を尖らせて話す。
「けれど食ってみたらこれが」
「美味かったんやな」
「最高だったっちゃ」
 そうだとだ。ホンフゥは笑顔で話す。
「だからどうだっちゃ。お嬢ちゃん達も」
「はい、それじゃあ」
「御言葉に甘えまして」
「そうさせてもらうで」
 こうしてだった、三人もだ。
 その餃子を食べる。そしてだ。
 ラーメンも食べてみる。そのラーメンも。
「あっ、このラーメンは」
「我が国のラーメンではないですね」
「スープがちゃうで」
 三人は食べてみてだ。すぐにわかった。
 そしてそのうえでだ。チンにそれぞれ尋ねた。
「あの、このラーメンって」
「どうしたんですか?」
「まさかこれも」
「はい、そうでしゅ」
 チンもだ。そのラーメンを勢いよくすすりながら話す。麺を箸で一気に掴んでだ。そうしてそのうえで口の中に入れてから話すのだった。
「これも日本のものです」
「これはお魚のからだしを取ったんですか」
「お魚のスープ」
「それと海草も入ってるな」
「そうでしゅ。煮干と昆布でしゅ」
 チンはそのスープのだしについても話した。
「そういうことでしゅ」
「ううん、凄くあっさりしてます」
「身体にもよさそうですね」
「食べてもあまり太らへんな」
「実はダイエットの為でしゅ」
 チンは三人にその理由も話した。
「見ての通り私はこの身体でしゅ」
「太り過ぎっちゃ」
 ホンフゥもそのチンに言った。彼は餃子を食べつつラーメンをすすっている。その日本の中華料理を食べながら話すのである。
「一体何を食ったらそこまでなるっちゃ」
「それでなのでしゅ」
 あらためて話すチンだった。
「カロリーの少ないこのラーメンにしてるでしゅ」
「健康の為だったんですね」
「それはいいことですね」
「まさに医食同源やな」
 三人もそのことはいいとした。だが。
 ラーメンを勢いよくすすり続けるチンにはだ。少し驚いた顔でそれぞれ言うのだった。
「それでも。そこまで召し上がられると」
「あまり意味がないのでは?」
「おっさん食い過ぎやで」
 見ればラーメンだけではない。餃子もだ。
 次から次に口の中に放り込んでだ。貪っている。それを見ての言葉だ。
「食べることはいいですけれど」
「限度が」
「太ったままでええんかいな」
「これまでに比べてカロリーがずっと低いからいいのでしゅ」
 だから大丈夫だと話すチンだった。
「これで身体を動かすから全然平気でしゅ」
「ほな昼寝もなしっちゃよ」
「むっ、昼寝も駄目でしゅか」
「あれも太るっちゃよ」
 それでだ。駄目だというのだ。
「そもそも食って寝て。何時仕事してるっちゃ」
「仕事はちゃんとしてるでしゅ」
「さもないとあそこまで金は溜められへんっちゃな」
「そうでしゅ。台湾は厳しいでしゅよ」
 ことだ。金儲けについてはだというのだ。
「ちょっとでも足を止めたら終わりでしゅ」
「それでまだお金を溜めてっちゃな」
「目指すは長者番付けトップでしゅ」
 相変わらずラーメンと餃子を貪りながらの言葉だった。
「まだまだ頑張るでしゅよ」
「裏の世界ともつながってっちゃな」
「むっ、何を言うでしゅか」
 チンはホンフゥの今の言葉にはむっとして返す。
「私はやましいことはしていないでしゅよ」
「何を嘘言うとるっちゃ」
 すぐにだった。ホンフゥは言い返した。
「裏の世界ともつながってダフ屋とかして儲けてるっちゃな」
「殺人や麻薬や強盗はやってないっちゃよ」
「当たり前っちゃ。やってたらおいが刑務所に送ってるところっちゃ」
「そんな悪いことはしてないでしゅよ」
「まあそうっちゃな。チンは根っからの悪人ではないっちゃ」
「そこがあのオロチの人とは違うでしゅ」
 山崎のことである。
「そういえばあの人もここに来てるでしゅな」
「多分そうっちゃな。オロチが来てるっていうことはっちゃ」
「絶対に来てるでしゅ」
「ただあいつはオロチには組しないっちゃ」
 オロチ一族であるがそれでもなのだ。山崎はオロチ一族には組しないのだ。そうした意味で彼はオロチ一族の異端なのである。
「そのことは安心できるっちゃ」
「何かと物騒な人でしゅが」
「それこそあいつは根っからの悪人っちゃ」
 山崎はだ。そうなのだった。
「妙に笑えるところもあるっちゃが」
「それでも悪人でしゅ」
「それは否定できないっちゃ」
 そんな話をしていた。その話を聞いてだ。
 孔明はだ。今は餃子を食べながら話すのだった。
「オロチ一族もどうやら」
「一枚岩じゃない?」
 鳳統も言う。
「実は」
「そうかもね。少なくともその山崎さんという人は」
「オロチでありながらオロチには協力しない」
「そうした人もいるのね」
「それにあの八神さんも」
 今度はだ。彼の話になった。
「オロチの血を引いているけれど」
「オロチとは敵対している」
「できれば」
 鳳統は考える顔で述べた。
「あの八神さんにも是非」
「そうよね。あの人にも協力して欲しいけれど」
「あの人は」 
 八神のことはだ。二人もなのだった。
 わかってきていた。どういった者か。それを把握しての話だった。
「誰かに言われて何かをする人ではないから」
「私達にどうにかできる人じゃないから」
「あの人と草薙さん、それに神楽さん」
「三人の力が必要なのだけれど」
 それでもだというのだった。そんな話をしてだ。
 二人はラーメンを食べている。するとここでだ。
 李典がだ。二人に話すのだった。
「とりあえずからくりはな」
「はい、それです」
「宜しく御願いします」
「わかってるで。ちゃっちゃっと作るわ」
 そうするとだ。李典は笑顔で話すのだった。
「期待しててや」
「是非共」
「そうさせてもらいます」
 二人も笑顔で応える。そちらは順調だった。
 そうした話をしてであった。彼等は次の手を打っていた。そうしてだ。
 張遼と華雄はだ。虎牢関においてだ。二人で話をしていた。
「ううむ、こうして待っているのはだ」
「性に合わんっちゅうんやな」
「そうだ。やはり私は出陣してこそだ」
 華雄はだ。眉を顰めさせて話すのだった。
「それで戦うことこそがだ」
「気持ちはわかるけどな」
「今は落ち着けというのだな」
「そや。そんなに身体動かしたいんやったらや」
 どうするか。張遼は話すのだった。
「そこいらで泳ぐなり自慢の斧振り回してこい」
「泳ぐのか」
「あんた泳ぐの好きやろ」
 こう華雄に言うのである。
「水議も持ってるしな」
「あの競泳水着か」
「それ着て泳いできい。好きなだけな」
「それもいいか」
「他に走るのもええな」
「体操服になってだな」
 今度はこれだった。
「あれもいいな」
「折角そんなええスタイルしとるんや」
 少なくともだ。外見はいい華雄なのだ。それもかなりだ。
「目立たなしゃあないやろ」
「そうだな。そういえば御主は」
「うちが?どないしたんや?」
「体操服は持っているのか?」
 張遼の顔を見ての問いだった。
「それはあるのか」
「ああ、体操服な」
「着ているのを見たことはないが」
「実は持ってへんねん」
 張遼はあっさりと答えた。
「あれや。さらしと半ズボンだけで充分や」
「ブルマはないのか」
「そや。持ってへん」
 やはりあっさりと答える。
「そういうのはや」
「そうか。何か味気ないな」
「ブルマはなあ。いやらしいからな」
 張遼は腕を組んでだ。難しい顔になって華雄に述べた。
「あれって下着と同じやろ
「そうだな。下着の上に下着を着ける様なものだ」
「めっちゃやらしいわ」
 それでだというのだ。
「うちは好きにはなれん」
「上もなのか」
「あんたそれでブラもろに見られたことあるやろ」
「あったな。呂布と二人三脚の時だったな」
 そのだ。天下きっての猛将と組んだ時にだというのだ。
「全力を発揮した奴に引き摺られてな」
「周り皆見てたで」
「あの時は参った」
 実際にそうだったと話す華雄だった。
「引き摺られるだけではなかったしな」
「ブラ見られた方が辛かったんやな」
「私とて女だ。見せないことが目的のものを公で見られるのはだ」
「やっぱり嫌やな」
「そういうことだ。それでだ」
「ああ、それでやな」
「とにかく今はだな」
 華雄は残念そうに述べた。
「待っているしかないな」
「恋がどうなるかやな」
「恋とねねか」
「まああの二人やったら滅多なことでは負けへんやろ」
 張遼はそのことは安心していた。
「だからうち等もや」
「出番はないか」
「仕方ないわ。うち等はそういう運命の星の下にあるんや」
「おい、それを言うとだ」
「あかんか」
「本当に出番がなくなったらどうする」
 怒った顔でだ。張遼に言う。
「只でさえ恋の方が目立っているというのに」
「あの戦闘力やさかいな」
「流石に恋には負ける」
 華雄もだ。認めるしかないことだった。
「あの武芸はまさに鬼神だ」
「うち等二人同時でもあっさり負けるしな」
「あれでは。敵がどれだけ来ても」
「まあ負けへんな」
「では。やはり」
「出番ないかもな」
「仕方ないか。それも」
「まあ身体動かしてストレス発散しいや」
 それはそうしろというのだった。
「それでゆっくり待っとくか」
「そうするか。それではな」
「そうしよか。それでその後でや」
「その後でか」
「酒でも飲もか」
 その後はだ。それだというのだった。
「そやったらな」
「酒か。いいな」
「二人で楽しく飲もで」
 張遼は明るい笑顔で華雄に話す。
「そういうことでな」
「うむ、では少し泳いで来る」
 笑顔で話す華雄だった。
「それではな」
「そうするとええわ。それにしても」
「うむ。何だそれで」
「うち等今何処におんねん」
 話が変わった。急にだ。
 見ればだ。二人はだ。迷路の中にいた。
 地下道が複雑に入り組んでいる。その中において話すのだった。
「気付いたらこんな場所にいたが」
「何で虎牢関にこんなのがあんねん」
「あれなのか。敵の侵入を防ぐ為か」
「いや、地下から来んやろ。脱出路にしてもおかしいで」
「では何の為にこの迷路はあるのだ」
「わからんな。とにかくや」
「ここを出なければな」
 まずはだ。それだった。
「さもないと最悪の場合餓死だ」
「そうやな。出んとな」
「まあさか洛陽に続いているということはないな」
「それは流石にないやろ」
 張遼もそれはないとした。
「そこまで広い迷宮っていうのは」
「洛陽から離れているしな」
「そこまではな。けれどそれでもや」
 左右の壁と目の前の分かれ道を見てであった。
 二人は眉を顰めさせてだ。それで言うのであった。
「はよ出んとな」
「うむ、確かに餓死してしまう」
「何でこんな場所に来たんやろな」
「気付けばだからな」
 二人はこんな話をしながらだった。迷路の中を彷徨うのだった。
 そうしてやっと関から出た時にはだ。次の日であった。二人にとってはまことに不幸なことであった。


第八十二話   完


                        2011・5・14







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