『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第八十話 陳宮、決意するのこと
袁術はだ。馬車の中で御者を務めている張勲に対して言ってきた。
「のう七乃」
「はい、何でしょうか」
「今のところ敵は出ておらんな」
こうだ。馬車の中から身を乗り出して言うのだ。
「それでなのじゃが」
「蜂蜜水なら後ですよ」
張勲は袁術に対してすぐに釘を刺した。
「おやつの時間じゃないですから」
「むう、そうではない」
それを言われるとだった。袁術はむくれた顔で返した。
「また違う話じゃ」
「蜂蜜水ではあにのですか?」
「歌のことじゃ」
言うのはこのことだった。
「歌じゃ。そのことじゃ」
「歌われるんですか?」
「うむ。凛も呼んでじゃ」
ここでも彼女の名前を出すのだった。
「それでまた三人でじゃ」
「そうですね。いいですね」
「そうじゃろう。それにじゃ」
袁術の話は続く。
「張三姉妹も呼ばぬか?」
「あの三姉妹も呼ぶんですか」
「それと揚州の大小の姉妹もおるしのう」
人材は歌の方面でも豊富であった。
「どうじゃ?皆で楽しくやるか?」
「いいですね。それじゃあ」
「うむ、それではな」
「あと。少し思うんですけれど」
張勲から言ってきた。
「劉備さんのところの魏延さんですけれど」
「ああ、あの黒い奴じゃな」
「あの人もどうやら」
「そうじゃな。あれはかなり歌が上手いぞ」
袁術にもわかることだった。
「わらわ達と同じだけのう」
「そうですね。それもかなり」
「うむ、ではもう一人入れようぞ」
話を何時の間にか決めてしまっている。
「四人で歌おうぞ」
「戦いに勝ってからですね」
「勝ちたいのう」
「戦うからにはですね」
「うむ、勝つのじゃ」
戦いはだ。勝利を目指すものになっていた。そしてだった。
その中でだ。袁術はまた言う。
「そして勝って歌うのじゃ」
「そうしましょう。それとですね」
「今度は何じゃ」
「凛ちゃんですけれど」
張勲も彼女の名前を出すのだった。
「やっぱり。可愛いですよね」
「わらわは大好きじゃ」
「私もです」
「待て、凛はわらわのものじゃぞ」
曹操の配下であるがだ。この二人は取り合っているのだった。
「そのことを忘れるな」
「あら、厳しいですね」
「厳しいも何も凛とわらわは固い絆で結ばれている」
「ですからそれは私もですよ」
「いいや、わらわとの仲に比べればじゃ」
袁術はあくまで言う。
「七乃とのそれはまだまだじゃ」
「だって私達もうできてますから」
「できておらんではないか、だからわらわ達はじゃ」
こうだ。あくまで言い張る袁術だった。彼等は平和だった。
しかしだ。都ではだ。やはり不穏な空気が漂っていた。
董白がだ。曇った顔で宮廷の者達に話していた。
「こんな状況でもなのね」
「はい、宮殿の造営をです」
「せよとのことです」
「そんな余裕ないわ」
董白はその曇った顔で言った。
「生きるか死ぬかの戦争がはじまるっていうのに」
「ですがそれでもです」
「董卓様は」
「絶対に姉様じゃないわ」
董白は言い切った。
「姉様はそんなこと命じられないわ」
「ですが」
「董卓様のお名前で出された命です」
「それではです」
「やはり」
「その姉様は何処におられるのよ」
董白はきつい声でそのことを問い返した。
「私が御会いしたいと伝えて」
「ですが董卓様はです」
「誰にも合われないとのことです」
「話にならないわね」
董白の顔も声もうんざりとしたものになった。
「それじゃあね」
「とにかくです」
「宮殿の造営を」
「できないわよ、今は」
とてもだというのだ。
「戦で人を駆り出しているっていうのに」
「残った民達で」
「できるだろうと」
「宦官みたいなこと言うわね」
董白はそのことを本能的に察していた。
「姉様の言われることじゃないわね」
「ですから」
「それでも。相国であられる」
「そうね。そうなってるわね」
董白の言葉に棘が宿った。
「いいものよね。姉様のお名前を出せばいいんだから。それに」
「それに?」
「それにといいますと」
「帝はどうされているのかしら」
今度はだ。皇帝の話をするのだった。
「洛陽に入ってから一度もお顔を見てないわよ」
「帝はです」
「御身体が優れず」
「ですから」
「そうね。帝も相国もお姿を見せない」
董白はシニカルな口調で言っていく。
「有り得ないことね」
「はあ」
「それは」
「いいわ。仕方ないわ」
やはりシニカルな口調だった。
「それでだけれど」
「はい、それでは」
「宮殿の造営をです」
「御願いします」
「詠と話をしてね」
それでだというのだ。
「そうさせてもらうわ。ただ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「遅れそうね」
口実であった。明らかにだ。
「人手がないからね」
「だからですか」
「それでなのですか」
「兵は殆んど関に出払ったわ」
彼等はだ。そうしたというのだ。
「それに若い働き手はね」
「民のですね」
「その者達については」
「同じよ。他の造営に出してるわ」
実際にその通りだが程度は話してはいない。
「だから。遅れるわ」
「何時頃になるでしょうか」
「それでは」
「さてね」
やはりはっきりと答えない董白だった。
「それはわからないわね」
「左様ですか」
「残念ですね」
「まあ。造営はするわ」
今回は言葉だけである。
「そういうことでね」
「畏まりました。それでは」
「私達はこれで」
「貴方達もね」
董白はその彼等にも話した。
「帝にもお姉様にも御会いできないのね」
「残念ですが」
「それはできません」
彼等にしてもだ。そうなのだった。
それでだ。暗い顔でこう話すのだった。
「御二人はこの宮殿におられますが」
「それでもお姿は」
「本当におかしなことね」
また言うのだった。
「国の柱が双方もというのは」
「ですね。しかし」
「御姿はどうしても」
「わかったわ」
話を切る言葉だった。
「それではね」
「はい、それでは」
「それではといいますと」
「詠と話があるから」
こう言うのであった。
「貴方達は下がっていいわ」
「わかりました。それでは」
「これでは」
こうしてだった。側近達はその場を後にするのだった。そして董白は。
彼女自身の言葉通り賈駆のところに来てだ。そのうえで彼女に問うのだった。
「姉様はどうしてもなのね」
「そうよ。まだよ」
目を怒らせて返す賈駆だった。
「今は。ちょっとね」
「ちょっとちょっとって随分経つけれど」
「仕方ないじゃない。どうしても会えないのよ」
「私でも?妹の話でも」
「そうよ。残念だけれどね」
「残念とは思ってないから」
それはないという董白だった。
「ただ。それでもよ」
「会えないことがっていうのよね」
「そうよ。姉様がこんなに人前に姿を見せないし」
しかもだというのだ。
「帝もどうされたのよ」
「御病気よ」
賈駆も言うことは同じだった。
「だから仕方ないじゃない」
「普通に考えればね」
「普通に?」
「そう、普通に考えればね」
あえてだ。董白は皮肉を装って返す。
「姉様は何かあれば率先して動かれるのに」
「それが今はっていうのね」
「ましてや各州の牧達の軍がこの洛陽に迫っているのよ」
「それはわかってるわよ」
「どうして姉様が出陣されないのよ」
「月が出陣したことなんてないでしょ」
本質的に文官である彼女はそういうことはしないのだ。
「いつも華雄達がしてくれてるじゃない」
「それにあんたもね」
董白はまたシニカルな感じで言ってみせた。
「あんたもそうするわよね」
「私もって。どういうことよ」
「あんたも何かあればいつも自ら作戦を立てるじゃない」
「軍師として当然のことよ」
「けれど今はしないわよね」
「それが変だっていうのね」
「思いきりね。おかしいわね」
まさにだ。その通りだと返す董白だった。
「あんたも今回は作戦何も立てないし」
「ねねがいるじゃない」
「あの娘に何ができるっていうのよ」
陳宮に対して侮辱とも取れる言葉だった。だがそれでもあえて言ったのだった。
「まだ小さいし。しかも恋限定の軍師じゃない」
「それでも軍師は軍師よ」
「あんたと比べたら落ちるわよね」
幼さ故にだった。未熟だというのだ。
「それに対して相手は名だたる軍師が揃っているじゃない」
「その分恋がいるわよ」
「恋だったら何でもできるって訳じゃないでしょ」
「そうね。けれどよ」
「けれど、なのね」
「そうよ。あの関にあの娘がいたら大丈夫よ」
「だといいけれどね」
「とにかくよ。あんたはあんたでね」
賈駆の方から董白に話す。
「やって欲しいことがあるから」
「この都の防衛ね」
「それを頼むわ」
呂布達が出払っている。それならばだった。
「そういうことでね」
「わかってるわ、それはね」
棘を収めてだ。董白は言葉を返した。
「それはちゃんとするから」
「なら御願いね。そっちは」
「全く。何が何かわからないわ」
董白は眉を顰めさせて話す。
「今の状況はね」
「僕にそれを言うのね」
「あんた、何か知ってるでしょ」
賈駆のその眼鏡の奥の目を見据えて問うたのだった。
「姉様のことも全部」
「何が言いたいのよ」
「ありのままよ。それで隠してるわね」
問うその目の鋭さがさらに強くなる。
「そうしてるわね」
「別に何もないわよ」
「じゃあそういうことにしておいてあげるわ」
董白はここでは矛を収めた。しかしだった。
そのうえでだ。こんなことを言うのだった。
「とりあえずはね」
「これで帰るのね」
「今話すことはこれで終わったから」
だからだというのだ。
「それじゃあね。またね」
「ええ、またね」
こうしてだった。董白は賈駆の前を後にする。だがその中にある疑念はだ。消えないどころかさらに強まる一方だった。
そしてだ。出陣し関に入っているアースクエイクはだ。肉の塊を食いながらそのうえで共にいる幻庵に対してこう尋ねるのだった。
「なあ」
「何だケ?」
「呂布ちゃんだけれどよ」
尋ねるのは彼女についてだった。
「おかしいよな、最近」
「わしもそう思うケ」
幻庵も肉を喰らいながら彼の言葉に応える。巨大な豚肉をだ。
「暗いケ」
「だよな、どうしたんだろうな」
「この戦が気に入らないケ?」
「それか?」
「だからではないケ?」
また話す彼だった。
「まあわしは戦えればそれでいいケ」
「だよな。俺は盗みができないのは残念だけれどな」
生粋の盗賊である彼らしい言葉だった。
「それでもな。仲間が暗いのはな」
「やっぱり気になるケ」
「確かにこの戦おかしいけれどな」
アースクエイクは骨つき肉にかぶりつきながら話す。塩と胡椒をかけて焼いただけの簡単な料理だがそれでも実に美味いものだった。
「董卓さんは出て来ないしな」
「それもおかしいケ」
「おかしなことだらけだぜ。大体何で俺達洛陽に入ったんだ?」
「それで宮殿とか造ってケ」
「董白さんって贅沢とか嫌いなのにな」
「妙なことだケ」
「おかしなことだらけだよ」
アースクエイクから見てもそうなのだった。
「今回の戦はな」
「わしは覇王丸と手合わせできるのなら嬉しいケが」
「ああ、あいつ向こうにいるんだったな」
「あの生き方は泣かせるケ」
覇王丸への憧れはだ。そのまま残っている彼だった。
「だから是非だケ」
「剣を交えたいんだな」
「そういうことだケ。まあキムの旦那がいるのが残念だケが」
「あの旦那は仕方ないな」
そのことはもう諦めている二人だった。
「ジョンの旦那もな」
「あの二人はどうにもならないケ」
「一緒になったのが運の尽きだったな」
「こっちの世界で最悪の存在に遭ったケ」
「全くだよな」
キムとジョンについてはこう言う二人だった。しかしだ。
それでもだ。二人は呂布達にはこう言うのは変えなかった。
「しかし。呂布ちゃんも元気出して欲しいよな」
「女の子の暗い顔は好きだケがこの嫌な雰囲気は好きになれないケ」
こうした言葉を出すという意味で幻庵も人間だった。その人間としての感性でだ。彼もまた今のこの不穏な雰囲気に不快なものを感じていたのだ。
チャンとチョイもだ。偵察に出ながら話していた。二人の周りは荒野だ。
「この戦、凄く不愉快だよな」
「全くでやんす」
二人共不機嫌そのものの顔で話している。
「贅沢三昧の生活とかな」
「何かと問題があったでやんすよ」
「それで討伐戦仕掛けられてな」
「おかし過ぎるでやんすよ」
「これだけだと自業自得なんだよ」
「暴君が征伐を仕掛けられているということでやんす」
成り行きだけを考えればだ。そうだというのだ。
「けれどな。董卓さんってな」
「民を苦しめることはしないでやんす」
「それで何でこんなことになってんだ?」
「おかしなことだらけでやんすよ」
それがどうしてもというのだ。
「何か各州の牧を取り潰そうとしたりしてな」
「それじゃあ叛乱が起こるのは当たり前でやんす」
「で、こうして実際に戦になる」
「困るのは民達でやんす」
「董卓さんのやることか?」
「絶対に違うでやんすよ」
二人もそのことは感じ取っていた。それでなのだった。
偵察に出ながらもだ。こんな話をするのだった。
「あえて天下を乱れさせるようなことしてな」
「しかも都では贅沢三昧でやんす」
「まさに誰がいい目を見るって話だよ」
「誰も見ないでやんすな」
「ああ、君達そこにいましたか」
ここでだ。二人のところにジョンが来た。
キムも来た。四人になってまた話す彼等だった。チャンとチョイは自分達が思っていることを話す。するとキムとジョンもこう言うのだった。
「確かにだ。我々が都に入ってからだ」
「おかしなことが起こり続けています」
二人もこう思っていたのだ。
「国を意図的に乱させる」
「その様な流れですね」
「董卓殿のされることではない」
「これでは暴君の所業です」
「でしょ?あの董卓さんにしちゃ」
「変なことでやんすよ」
ここぞとばかりに二人に話すチャンとチョイだった。
「それに人前に出なくなりましたし」
「これもおかしいでやんす」
「誰か黒幕がいるのだろうか」
キムは腕を組み考える顔になって話した。
「まさかとは思うが」
「陰謀の匂いがしますね」
ジョンも言った。
「この状況は」
「正直戦うべきではないですね」
キムは真顔でジョンに話した。
「この戦いに正義はありません」
「しかもおそらくは董卓さんの御考えではありませんし」
「だとすればですね」
「戦えば過ちになります」
これが二人の考えだった。
だが、だ。二人はこんなことも言うのだった。
「しかし戦わなければ」
「それが命令ですから」
「戦うべきではない戦い」
「それをすることになりますね」
「俺だって暴れるのは好きだけれどな」
「切り刻む絶好の機会でやんすが」
何をやってもその嗜好は変わらない二人である。
「けれど気の進まない中じゃな」
「そんなことをしても面白くも何ともないでやんす」
これが二人の言葉だった。
そしてだ。あらためてだった。キムとジョンにこう話した。
「結局どうしますか?」
「今回はどうするでやんすか?」
「やることはやるしかありません」
ジョンは難しい顔で二人に答えた。
「その為にここに来ているのですから」
「結局そうですか」
「戦うしかないんでやんすね」
「ただ。状況が変われば」
どうかとだ。ジョンは話を変えてきた。
「それに乗るべきですね」
「ジョンさんの言う通りですね」
キムもジョンのその言葉に頷いた。
「そして戦うべき相手が前に出て来たならば」
「その相手を成敗しましょう」
「まあ平気で叩き潰せる相手なら俺達だってな」
「思う存分戦えるでやんすよ」
それならばだと言う二人だった。そしてだった。
彼等はとりあえずは偵察をするのだった。連合軍の姿は確認してそのうえで氾水関に戻った。そうして陳宮に連合軍のことを話す。
話を聞いた陳宮はだ。暗い顔でこう返した。
「わかったのです」
「わかったって」
「それだけでやんすか?」
「とにかくわかったのです」
チャンとチョイにこんな風に返すだけだった。
「御疲れ様なのです」
「ううん、じゃあこれでな」
「御飯にさせてもらうでやんす」
「焼肉用意してあるです」
食事はそれだというのだ。
「確か四人は韓国人だったのですね」
「それはそうだが」
「その通りですが」
「ならたっぷり食べるのです」
陳宮はキムとジョンにも述べた。
「遠慮することはないのです」
「いや、遠慮しないけれどな」
「食べるのは大好きでやんすよ」
「なら。食べて来るのです」
こう言ってだ。彼女は四人を下がらせた。そのうえでだった。
呂布のところに行き偵察のことを話す。呂布は無表情で聞いているだけだ。
そしてだ。こう言うのだった。
「わかった」
「はいなのです。それならです」
「それなら?」
「ねね達もお昼にするのです」
今度は呂布に食事を勧めるのだった。
「そうするのです」
「食べる」
「そう、食べるのです」
また勧める。
「今日は恋殿の大好物の肉まんなのです」
「それなら」
「はい、食べるのです」
こうした話をしてだった。二人は小さな食堂に入り向かい合って肉まんの山を囲む。そうして食べようとするがそれでもだった。
呂布は食べようとしない。その呂布にだ。
陳宮は必死のかおになってだ。それでこう彼女に言った。
「あの、恋殿」
「何?」
「この肉まん美味しいのです」
食べながらだ。あえてこう言うのだった。
「だからどんどん食べるのです」
「恋、いい」
ところがだ。呂布はこう返すのだった。
「今はいい」
「いいのです?」
「食欲がない」
だからだというのだ。
「だからいい」
「そうなのです」
「ねねが食べればいい」
陳宮に対して言う。
「お腹一杯食べればいい」
「わかったのです」
項垂れた顔で答えるしかない陳宮だった。そしてだ。
陳宮だけ肉まんを食べた。しかしだった。
彼女も殆んど食べなかった。こうして食事は終わった。そのうえでだ。
自分の部屋に下がる。彼女も暗い顔だった。
しかしだ。その中で、であった。
陳宮はあることを決意した。そうしてまた何かが動くのだった。
その頃だ。進撃する連合軍の中でだった。馬超がだ。
隣にいる趙雲にだ。こんなことを言うのだった。
「しかし星ってな」
「どうしたのだ?」
「胸大きいよな」
こうだ。彼女の目立つ胸を見てのことだった。
「愛紗程じゃないけれどな」
「そう言う翠も結構なものではないか?」
「いや、あたしは別に」
「中々いい大きさではないか」
実際だ。馬超の胸もだ。結構以上に目立つものがある。
その胸を見ながらだ。趙雲は言うのだ。
「しかも形もいい」
「そうか?自分ではそう思わないけれどな」
「風呂場で見ているからわかる」
それでだというのだ。
「中々美味そうだ」
「おい、何でそういう話に持って行くんだよ」
「何度も言うが私はおなごも好きだ」
「じゃあひょっとしてあたしを」
「どうだ?本当に」
淫靡な笑みで馬超を見ながら言うのだった。
「愛紗も入れて三人でだ」
「またここで私が話に出るのだな」
いささか呆れた顔で言う関羽だった。
「星の胸へのこだわりは異常だな」
「心も見ているぞ」
「心も?」
「そうだ。二人のその心もだ」
見ているというのである。
「実にいい」
「いいか?」
「そうなのだろうか」
「素直で純情だ」
そのことは馬超も関羽も同じだった。
「そうした娘を味わうことこそいいのだ」
「そうそう、翠姉様って実はかなり女の子な性格なのよね」
馬岱も出て来て言う。
「愛紗さんもそうだけれど」
「女の子なのだ?」
「そう、女の子なのよ」
こうだ。馬岱は張飛にも話す。
「だから結構弄りがいがあるのよ」
「左様だ。翠も愛紗も弄ってこそだ」
また妖しい笑みを見せて語る趙雲だった。
「もっとも。夜に弄りたいのが本音だが」
「結局そこに話をやるか」
「いつも通りの流れにするのか」
「夜なのだ?」
張飛はわからない顔で首を傾げる。
「どうして夜がいいのだ?」
「ええと。どうしてなのかな」
馬岱もわからないといった顔である。
「夜に何かあるのかしら」
「全然わからないのだ」
「まあ二人もそのうちわかる」
趙雲はこの二人には食指を動かさなかった。そのうえでの言葉だった。
「それではだ」
「それでは?」
「それではというと?」
「今から食事だ」
それをするというのだ。
「メンマを食するとしよう」
「ああ、あのメンマ丼か」
「それを食べるのだな」
「そうだ。あれを食べる」
今度は楽しげな微笑で言う趙雲だった。
「若しくはメンマサンドだ」
「どっちにしてもメンマなんだな」
「本当に好きだな」
「メンマは全てだ」
こうまで言い切る趙雲だった。
「だからこそだ」
「それでか」
「あそこまで食するのか」
「その通りだ。メンマはいいものだ」
趙雲はまた言う。
「さて、ではメンマ丼としよう」
「好きだな、本当に」
「そうだな」
馬超も関羽もいささか呆れる程だった。
そうした話をしながらだ。彼女達は食事を摂る。そしてその頃。
関に一人の男が来た。それは山崎だった。
彼は陳宮と会ってだ。思わぬことを言った。
「同じ匂いがしたぜ」
「同じ匂い?」
陳宮は彼のその言葉ニまずは首を捻った。
「何なのです、それは」
「ああ、俺と同じ匂いって意味だよ」
そうした意味での言葉だというのだ。
「俺は実は」
「悪党ではなかったのです?」
「悪党は悪党だよ」
それはそうだと返すのは忘れない。
「けれどな。そうした意味じゃなくてな」
「違うのです?」
「実は俺はな」
山崎は真面目な顔になっていた。
そしてその顔でだ。陳宮に話すのだ。
「オロチ一族なんだよ」
「オロチ一族!?」
その単語を聞いてだ。
陳宮は首を捻った。そのうえで山崎を見上げて問うた。
「何なのです?それは」
「簡単に言えば文明とかそういうのを破壊しようっていう奴等だよ」
「山崎はその一族なのです?」
「とはいって俺はそういう話には興味ねえけれどな」
オロチであってもだ。彼はそうなのだ。
「それでその匂いをな」
「感じたのです?」
「ああ、ちょっと用があって宮廷に入ってな」
それでだ。感じ取ったというのだ。
「その時代に匂ってきたんだよ、一族の匂いがな」
「ということは」
それを聞いてだ。陳宮はだ。
すぐに察した。これまでの異様な一連の出来事の事情をだ。
そしてそのうえでだ。こう山崎に話すのだった。
「月殿はまさか」
「多分オロチに捕まってるな」
山崎も言った。
「それで名前だけ使われてるな」
「ううむ、許せないのです」
「まあ俺はそういう世界を滅亡とかは興味ないんだよ」
「ないのです?」
「だからこっちにいるんだよ」
董卓のところにいるというのである。
「まあまさかキムの野郎までいるとは思わなかったけれどな」
「キムさんのところは置いておいてです」
「ああ、それでオロチのことだよ」
その話が続けられるのだった。
「このままこっちの世界を滅亡させていいかい?」
「そんなのは論外なのです」
はっきりと言い切った陳宮だった。
「何とかするのです」
「じゃあどうするんだ?」
山崎は陳宮を見下ろしながら彼女に問うた。
「あんた呂布を救いたいんだよな」
「ねねは恋殿の軍師です」
これが返答だった。
「それなら例え火の中水の中なのです」
「じゃあ決まりだな」
「もう決めていたのです!」
両手を力瘤にしての言葉だった。
「恋殿の為です!」
「言ったな。それならな」
「それなら?」
「あんたの思うことをするんだな」
こう陳宮に話すのだった。
「あんたがしたいことをな」
「ねねは世界が滅亡するなんて絶対に嫌です」
これは誰もがだった。しかしだ。
それと共にだ。彼女はこうも言うのだった。
「けれどそれ以上になのです」
「それ以上になんだな」
「そうなのです。恋殿の悲しむ顔は見たくないのです」
まさにだ。彼女らしい言葉だった。
「何があろうともなのです」
「だな。じゃあ俺はな」
「山崎は?」
「都に案内しようか?宮廷にな」
「それでは時間がないのです」
だからだ。それはしないというのだ。
「都に行って戻ってだとここでの戦がはじまっているのです」
「明日にでも来るみたいだな」
山崎もそのことは聞いていた。
「敵軍がな」
「そうなのです。とにかく時間がないのです」
「じゃあ決まりだな」
山崎は笑顔で言った。
「行って来いよ」
「そうするのです」
「確かに俺は悪党で外道さ」
まさにそのものの言葉だった。
「けれどな」
「けれど?」
「他人が誰かの為に何かをすることを邪魔することはしないさ」
「それはないのです?」
「そういうことはしないんだよ」
また言う山崎だった。
「あとな。口は堅いぜ」
「口もなのです」
「このことは言わないさ」
笑ってだ。山崎は述べた。
「まあ帰ったら馬刺し御馳走してくれよ」
「馬刺し?ああ、馬の刺身なのですね」
「そうさ。それを御馳走させてもらうぜ」
「わかりましたのです。それなら帰ったら」
「前から妙に思ってたけれどな」
山崎はこんなことも述べた。
「何で俺達がこっちの世界に来てるのかな」
「それは誰もわからないことだったのです」
「とりあえず深く考えずに遊んでたけれどな」
「遊んではいなかったと思うのです」
「言い換えるか。強制労働と修業地獄だったな」
うんざりとした顔になってでだった。山崎は陳宮に話した。
「こっちの世界じゃな」
「それが楽しかったのです?」
「楽しいと思うか?」
「いえ、全然なのです」
それはもう言うまでもないことだった。
「凄く嫌そうだったのです」
「そうだよ。キムとジョンが一緒にいたからな」
それではだった。楽しい筈がなかった。
「洒落にならなかったな」
「それは今もなのです」
「その通りだよ。まあとにかくな」
「はいなのです」
「行って来るんだな」
陳宮に笑顔で告げた。
「それであんたの手に入れたいものを手に入れるんだな」
「そうするのです」
こうしてだった。陳宮は一人関を出た。そうしてそのうえでだった。彼女の為すべきことをせんと向かうのであった。
その頃連合軍では。また騒動が起こっていた。
ジョーカーがだ。騒いでいたのだ。
「全くねえ。何かが違うんだよね」
「そうか?」
「違うのかのう」
覇王丸と狂死郎がそのジョーカーに問い返していた。
「花札と同じだろ」
「このトランプなるものも」
「そうだ。同じだ」
ズィーガーもそれを言う。
「私も花札を知っているが」
「だから違うんだよ」
まだ言うジョーカーだった。
「何ていうかね。イカサマをしにくいんだよ」
「そんなことするなよ」
「全くだ」
覇王丸と狂死郎がこう突っ込みを入れる。
「今金とかはかけてないけれどな」
「それはいかんぞ」
「いかさまをしないと楽しくないじゃない」
しかしまだ言うジョーカーだった。
「だからここはさ。楽しくね」
「ったく、しょうがねえ奴だな」
「それが御主のやることか」
「そうだよ。だって僕は明るく楽しくだから」
それでだというのだ。
「イカサマも楽しくね」
「イカサマは楽しくするものなのか?」
十兵衛はそのことに疑問を呈した。
「それは違うと思うが」
「ああ、俺もそう思う」
「わしもだ」
「私もだ」
覇王丸と狂死郎だけでなくズィーガーも述べる。
「そこでそう言うのがな」
「御主のいかんところだ」
「政争堂々とするべきではないだろうか」
「そこが僕の違うところなんだよ」
ジョーカーは楽しく笑って話す。
「ほら、こうしてね」
「それは」
右京もいるがだ。彼はジョーカーのその手の動きを見て思わず声をあげた。
「妖術か」
ジョーカーはその手から無数のカードを出してだ。宙に舞わせたのだ。
そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「それはそちらの時代の術なのか」
「ああ、違うよ」
ジョーカーはそれは否定した。相変わらずカードをまわせながら。
「これって手品なんだよ」
「手品というと」
「マジックだよ」
それだというのである。
「これは手品だよ」
「手品というのか」
「妖術はちょっと以上に超絶な術だけれどね」
「手品は違うのか」
「そうだよ。手品は違うよ」
こう右京に話すのだ。
「やるにはコツがあってね」
「コツがあるのか」
「それが手品なんだ」
「じゃああれか?」
今度は覇王丸が言ってきた。
「乱鳳とかが空を飛ぶのもあれもか」
「あれは手品じゃないね」
それはすぐに否定するジョーカーだった。
「とはいっても妖術でもないね」
「それでもないのかよ」
「あれは何なのかなあ」
ジョーカーも首を捻ることだった。
「僕もよくわからないよ」
「人は鳥ではない」
十兵衛もそれを話す。
「だからあれはな」
「面妖な話じゃ」
狂死郎もこう言う。
「普通に空を飛んでのう」
「僕もあれはわからないんだ」
手品を得意とするジョーカーもだった。
「一体何なのかなあ」
「やはり魔術なのか」
ズィーガーはこう考えた。
「あれは」
「もっと違うものじゃないかな」
ジョーカーはまた首を捻る。
「何かはわからないけれどね」
「眠兎もな」
覇王丸は彼女の名前も出した。
「あいつも空飛ぶしな」
「離天京では普通なのか?」
「いや、普通じゃないだろ」
十兵衛にすぐに述べた。
「どう考えてもな」
「だよね。絶対に」
また話すジョーカーだった。
「人間空飛ぶことはできないよ」
「人間ではないのか」
右京はこう述べた。
「それでは」
「いやいや、おいら達人間だよ」
「そうだよ」
ここで本人達が出て来て言う。
「ちゃんとしたね」
「それ以外の何だっていうのよ」
「そうなのかな」
「そんなの見ればわかるじゃないか」
「そうそう」
二人はジョーカーに対しても言う。
「人間以外の何だっていうんだよ」
「空なんて誰も飛べるよ」
「今もできるのかよ」
覇王丸がそれを問う。
「それは」
「ああ、できるさ」
「普通にね」
こう言ってだ。実際に空を飛んでみせる二人だった。それを見てだ。
兵達がだ。仰天して言うのだった。
「な、何だ!?」
「人が空を飛んでる!?」
「おい、嘘だろ!」
「仙人か!?」
「いや、妖怪か!」
彼等にとってみればまさにそう思える光景だった。それでだ。
中には上に向かって弓を放つ者まで出る。まさに大騒ぎだった。そしてその騒ぎを抑える為にだ。紀霊が出て来て収めるのだった。
「まあ待て、あれは乱鳳と眠兎だ」
「むっ、そういえば確かに」
「あの二人だ」
「そうですね」
「味方だ。おそらく妖術で空を飛んでいるのだ」
彼女はそう考えるのだった。
「気にするな。いいな」
「わかりました。それでは」
「今は」
「うむ。しかしな」
ここでだ。紀霊はだ。
項垂れる顔になってだ。言うのだった。
「あちらの世界の人間は。本当に色々だな」
その色々なことを見ることになった。その中でも進軍が続けられていく。
第八十話 完
2011・5・10
進軍する中で色々な事が本当に。
美姫 「まあ、その殆どが異世界の人たちというのはどうかしらね」
あははは。とは言え、こっちの人もこっちの人で。
美姫 「よね。袁紹はしつこいぐらいに先陣と騒ぐしね」
盟主が自ら決まった作戦を特に意味もなく急に変更は駄目だろう。
美姫 「まあ、その辺りは実際に実行される前に周りが抑えているけれどね」
菫軍の方も内部で動きがあるみたいだし。
美姫 「両軍がぶつかり合う前にどうにかできるかしらね」
どうなるのか、次回も待っています。
美姫 「待ってますね」