『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                         第七十七話  ビリー、丈に挑みかかるのこと

 曹操は袁紹の陣に来た。そうして彼女と話すのだった。彼女の後ろには主だった将帥達がいる。袁紹もその後ろに彼女の配下を連れている。
「とりあえずもうすぐ出陣するけれど」
「何でして?」
「兵が少ないわね」
 こうだ。袁紹を見て言うのであった。
「十五万なのね。貴女が出した兵は」
「そうでしてよ」
「二十万は出せるのではなくて?」
 こう袁紹に問うのである。
「違うかしら」
「わたくしのところも色々あるのでしてよ」
 袁紹は思わせぶりな笑みを浮かべて曹操のその指摘に応えた。
「だからでしてよ」
「色々、ねえ」
「その通りですわ。それで五万程を予備に置いていますのよ」
「その予備は何処にいるのかしら」
 曹操は袁紹に対してさらに問うてみせた。
 そのうえでだ。彼女の後ろにいるその配下達を見てこう言った。
「しかも?義と審配がいないわね」
「それがどうしまして?」
「貴女の軍の武の五人衆の一人、しかもまとめ役がいないのね」
 ?義の袁紹軍での位置はだ。曹操も把握しているのだ。
「しかも参謀の一人であり護衛役の審配までなのね」
「事情があって来られないのでしてよ」
「留守番というのね」
「そういうことですわ」
 こう強引に言う袁紹だった。
「わかりましたわね」
「そうね。一応話は聞いたわ」
 曹操は見透かした様にして袁紹に言葉を返した。
「そういうことなのね」
「その通りですわ」
「とにかく。貴女の十五万と私の十万がね」
「この連合軍の主力になりますわね」
「その通りよ。共同作戦でいくわよ」
「わかっていますわ。それなら」
 このこと自体は簡単に決まった。
 そのうえで双方の将帥達は互いに話し合う。軍の細かいことに至るまでだ。その雰囲気はよかった。しかしである。
 そうした話し合いが終わってからだ。徐晃がだ。首を捻りながらこう言ったのだった。
「あの、華琳様」
「ええ、おかしいって言うのね」
「袁紹軍の面々何か隠してません?」
 こうだ。いぶかしみながら言うのである。
「本当に」
「その通りよ。?義達がいないことね」
「それに袁紹軍の兵が少ないです」
 徐晃はこのことも指摘した。
「そのことをあの緑の髪の」
「文醜ね」
「あの娘に聞こうとしたらすぐに何か話そうとして」
 それでだというのだ。そこからだ。
「慌ててあの黒髪の娘に口を塞がれてましたけれど」
「顔良ね。あの二人は相変わらずね」
「あの二人のそういうことを見ていたら」 
 どうかというのである。徐晃はそういうものを見て察したのである。
「絶対に何か隠してますね」
「歌、貴女は麗羽の軍と一緒に何かするのははじめてよね」
「はい、実は」
「そうね。それなら知らないのも無理はないわね」
 曹操は徐晃にこう言うのだった。彼女に顔を向けてだ。
「麗羽はね。誰が見てもわかるようなことをあえて隠したりするのよ」
「あえてですか」
「どうせあれよ。あの二人がいないのはね」
 ?義と審配のことである。
「涼州の方に送っているのよ」
「では五万の兵も?」
「そうよ。私達が董卓の主力の相手をするわね」
「その隙を衝いてですか」
「董卓の本拠地擁州を五万の兵で襲うつもりなのよ」
「成程、戦略としては妥当ですね」
「それを考えてなのよ。もっともこれは内緒のことよ」
 言わないというのである。連合軍の重要な戦略だからだ。
「だからね」
「あえて言わないことですか」
「そういうこと。もう春蘭達はね」
「わかっています」
「長い付き合いですから」
 夏侯姉妹の言葉である。
「何かを隠しているのは察しました」
「それはすぐに」
「それをあえて言わないの。董卓に漏れたらことだしね」
「わかりました。それでは」
「さて、何はともあれあの娘との打ち合わせは終わったわ」
 曹操はそのことはよしとした。しかしだ。
 荀ケを見るとだ。彼女はだ。
 異様に怒っていた。頬を膨らませている。その彼女を見て言うのだった。
「やっぱり。会いたくなかったのね」
「そうです。陳花だけは好きになれません」
 こう言う荀ケだった。
「あの娘と会うのは不吉そのものです」
「黒猫だからね、あの娘は」
「小さい頃から大嫌いなんです」
 姉妹同士でもなのである。
「全く。私が右だと言えば左で左と言えば右で」
「とにかく正反対よね、貴女達って」
「それで声は異様に似ていて」
 もっと言えば誰もが同じ声に聞こえる程である。
「服装なんてただの色違いで」
「そういうことが余計になのね」
「はい、本当に嫌いです」
 両目を怒らせてだ。怒りのオーラを放ちながらの言葉だった。
「何でいるんでしょう、あの娘が」
「まあ麗羽の軍師の一人だから」
 それは曹操が指摘した。
「仕方ないんじゃないかしら」
「出陣しているだけでも迷惑です」
「いや、それは嫌い過ぎだろ」
 ここで覇王丸が突っ込みを入れた。彼も同行しているのだ。
「幾ら何でもな」
「とにかく嫌いなのよ」
 あくまでこう言う荀ケである。
「姉妹だから余計によ」
「そうなんだな」
「そういえばあんた兄弟いたかしら」
「いや、俺に家族はない」
 覇王丸はだ。己の事情をこう話した。
「十兵衛さんとはまた違う事情だからな」
「むっ、おじさんとは違うの」
「そこでおじさんと呼ぶか」
 その十兵衛もいる。彼は荀ケに対して話すのだった。
「確かにわしはそういう歳だが」
「何かそっちの方が呼びやすいから」
「それでだというのだな」
「そうよ。それでよ」
 こう話す荀ケだった。
「まあとにかく。問題はね」
「姉妹の人とは絶対に会いたくないってんだな」
「もう二度とね。そうしたいものよ」
 こう話してだった。荀ケはだ。
 とにかくその姉妹との仲の悪さを見せるのだった。そしてだ。
 争っているのはだ。彼等だけではなかった。
 ビリーがだ。たまたま丈を見てだ。やけに怒っていた。
「よりによってこんな場所で会うなんてな!」
「何だよ、ここでも怒るのかよ」
「当たり前だ、リリーは渡さないって言ってるだろ!」
「あのな、妹さんが大事なのはわかるけれどな」
「リリーは俺の宝だ!」
 ビリーは棒を両手に持ち丈を見据えて言う。
「誰にも渡すか!ましてや手前みたいな馬鹿にはな!」
「おい、馬鹿だから渡さねえっていいうのかよ」
「じゃあ聞くぞ」
 ビリーは丈を睨みながら問う。
「織田信長は何で死んだ?」
「風邪だろ?」
「やっぱり手前は馬鹿だ」
 ビリーは丈の今の答えをこう評した。
「それもどうしようもねえ馬鹿だ」
「だから何でそう言えるだよ」
「何処の世界に織田信長が風邪で死んだって馬鹿がいやがる!」
「っていうか御前イギリス人なのに何で織田信長知ってるんだ!」
「うるせえ!じゃあもう一回聞くぞ!」
「今度は何だ!」
「ロミオとジュリエットを書いたのは誰だ!」
 今度もだ。常識の問題だった。
「誰が書いた」
「んっ?永井豪だろ」
「30÷5は幾つだ」
「3だ」
 また間違える丈だった。
「だからそんな簡単な問題出して何だってんだよ」
「簡単だと思うんだな」
「ああ、他にも出してみろよ」
「ディスイズアペン書いてみろ」
「ったくよ。簡単な問題ばかり出しやがってよ」
 丈はぶつくさ言いながらビリーの質問に答え続ける。今度は足元にアルファベットを書いていく。しかしそこに書いた文字は。
「ほら、これでいいな」
「ザットアーペンになってるぞ」
「だからディスイズアペンだよ」
「全然違うだろうがよ」
「あれっ、そうか?」
「手前学校の成績どんなのだった?」
「体育以外は一だったぜ」
 狙っても取れない成績である。
「体育は五だったけれどな、いつもな」
「高校ちゃんと卒業してるんだよな」
「テストは名前書いてたらそれでよかったからな」
「やっぱり駄目だ」
 ビリーはその結論を出したのだった。
「幾ら何でも手前にリリーは渡せねえ」
「俺の何処が悪いってんだよ!」
「普通の頭になってから言え!」
 これでもだった。ビリーも譲歩していた。
 そしてだ。こう言うのだった。
「いいな、小学校レベルの成績ですらねえだろうが!」
「俺これでも高校出てるんだぞ」
「だから名前書いたら赤点じゃない学校だろうがよ」
「そういや赤点の奴いなかったな」
 名前を書けばそれだけで合格ならばだ。流石にいる筈もなかった。
「皆勉強してたんだな」
「イギリス人の俺でも手前の日本での学生生活がわかるぜ」
 どれだけ勉強が駄目だったがだ。わかるというのだ。
「しかも手前が学校の成績だけじゃねえ」
「何だよ。成績だけじゃねえのか」
「人間としても馬鹿だ」
 とにかくだ。丈は駄目だというのである。
「あの挑発もな」
「いかしてるだろ、あの挑発」
「ケツなんぞ見せやがって」
 忌々しげに言うビリーだった。彼の挑発についてもだ。
「二度とあんな挑発はするなよ」
「あんないい挑発はねえだろ」
「ああ、じゃあリリーはなしな」
 ビリーも言う。
「わかったな」
「無理にでもそっちに話をもってくんだな」
「とにかく人並みの知能身に着けろ」
「だからあるってんだろ」
「自覚しねえってのかよ」
「何を自覚するってんだよ」
 こんな不毛なやり取りが続くのだった。そしてだ。
 彼等は次第にだ。いがみ合いを続けてだ。
 やがて御互いに構えてだ。戦いに入ろうとしていた。
「どうしてもっていうんならな!」
「やるってのかよ」
「手前は何時か絶対に殺そうと思っていた」
 よりによってだ。殺すというのである。
「リリーにつく悪い虫は片っ端から始末してやる!」
「何かさっきと言ってること違うじゃねえか!」
「手前はそれ以前なんだよ!」
「じゃあリリーちゃんと一緒になるには手前をやっつけないと駄目なんだな!」
「リリーが欲しかったならな!」
 どうかというのである。
「俺を倒してからにするんだな!」
「よし、じゃあここでだ!」
「地獄に落としてやる!」
 こうして二人の戦いがはじまった。まずはだ。
 ビリーが棒をだ。前に突き出したのだった。
「ヒアーーーーー!!」
 するとだ。棒が伸びだ。三段になった。それで中段から攻めるのだった。
 だが丈はそれに対してだ。右手を下から上に大きく振ってだ。
「ハリケーーーーンアッパーーーーーーーッ!」
「それか!」
「この技は俺の基本なんだよ!」
「どういう基本だってんだ」
「俺を使ううえで基本なんだよ!」
 だから出すというのである。
「わかってると思うがな!」
「それならな!」
 ビリーは今度はだった。その棒を使ってだ。
 思いきり高く跳んだ。棒高跳びだ。
 そこから急降下を仕掛け棒を激しく回転させつつだ。丈に襲い掛かる。
「これでくたばりやがれ!」
「ふん、そう来るならな!」
「どうするってんだ!」
「タイガーーーーキーーーーーーーック!」
 力を溜めてそれからだ。
 思い切り斜め上に膝蹴りを繰り出す。全身に気をまとったうえでだ。
 それでビリーのその攻撃をだ。相殺したのだった。
 ビリーはあらためて着地してだ。そうして丈に言う。
「腕は落ちてないようだな」
「御互いにそうみたいだな」
「こっちの世界で遊んでるって思ってたがな」
「へっ、修業は忘れちゃいないぜ」
「だがな、俺もな!」
 ビリーは棒を手にだ。一機に間合いを詰めた。
 丈もそれに応えてだ。今度はだ。
 接近での打ち合いになった。それもまた激しい闘いだった。
 そうした激しい闘いを展開していた。それを見てだ。
 関羽がだ。首を捻りながら言うのだった。
「あの二人は何をしているのだ」
「ああ、あれか」
「あの喧嘩か」
 アクセルとローレンスがその関羽に話す。しかしその前にだ。
 二人はだ。こう関羽に話した。
「俺はアクセル=ホーク」
「私はローレンス=ブラッドだ」
「むっ、そういえばだ」
 その二人を見てだ。関羽はふとした感じで声をあげた。
「袁紹殿のところにいるな、貴殿達は」
「ああ、そうさ」
「今は袁紹殿のところで厄介になっている」
 その通りだと話す二人だった。
「まあ適当にやってるさ」
「それでここにいる」
「成程。それでだが」
「あの二人の喧嘩か」
「そのことだな」
「あの二人はどうしてあそこまで仲が悪いのだ?」
 関羽が言うのはこのことだった。
「仇敵同士なのか?」
「ビリーの妹さんにな。丈の奴が手を出そうってしてるんだよ」
「それでなのだ」
 こう関羽に話す二人だった。
「ビリーは妹さんを凄く大事にしていてな」
「悪い虫が付かないようにだ」
「ふむ、それでか」
 ここまで聞いてだ。関羽も頷くのだった。
 それでだ。まだ闘っている二人を見て言った。
「あそこまで仲が悪いのか」
「ああ、まあ放っておいていいからな」
「どうせすぐに終わる」
 そうだというのである。
「それでまた明日から喧嘩になるからな」
「気にしては負けだ」
「つまり止めないのか」
「ああ。下手に止めたら怪我するしな」
「全く気にしなくていい」
「そうなのか。むっ、済まない」
 急にだ。関羽はここでだ。
 ふと気付いた顔になってこう二人に言うのだった。
「私の名前を名乗り忘れていた」
「関羽さんだよな」
「知っている」
 二人は既にだった。彼女のその名前を知っていた。
 そしてだ。こう彼女に話すのだった。
「山賊退治の黒髪の英雄だったな」
「そして今は劉備殿の第一の臣だな」
「ううむ、完璧だ」
 関羽は二人のその返答にだ。感心すらしていた。
「そこまで知っていてくれるか」
「ああ。こうしてまた一緒になったのも縁だな」
「何か食べるとするか」
 二人はだ。関羽をそれに誘うのだった。
「西瓜あるぜ」
「ビーフシチューがある」
「ううむ、そちらの世界の食べ物か」
「西瓜は違うだろ」
 アクセルがそのことに突っ込みを入れた。
「西瓜はこっちの世界でもあるだろ」
「ビーフシチューのことだが。確かに西瓜も話に入れてしまった」
 この辺りはしっかりとわきまえる関羽だった。
「それは済まない」
「別にそれはいいけれどな」
「とにかくだ。食べるか」
「甘えさせてもらっていいか」
 関羽は二人に対して尋ねた。
「そうしていいか」
「よし、それじゃあな」
「共に食べるとしよう」
 こうしてだった。ビリーと丈を放置してだった。関羽達は西瓜とビーフシチューを楽しみに向かうのだった。そしてその放置されている二人は。
 まだ喧嘩を続けていた。彼等は。
「いい加減に死んでくれ」
「それはこっちの台詞だ」
 睨み合いながら言い合う。お互い傷だらけである。 
 そしてそのうえでだ。御互いにだ。
 棒から炎を出し特大の竜巻を出してだった。
「超火炎旋風棍!!」
「スクリューーーアッパーーーーーッ!!」
 この二つの超必殺技を出し合いだった。相打ちで終わるのだった。そしてその派手な喧嘩が終わってからだ。丈は劉備の陣に戻った。
 その傷だらけの有様でだ。彼は言うのだった。
「ったくよ、いい加減認めろってんだよ」
「また喧嘩してたんだな」
「相変わらずなんですね」
「ああ・・・・・・って御前等来てるのか」
 見ればだ。丈に声をかけてきたのはドンファンとジェイフンだった。
「元気そうだな」
「ああ、丈さんもな」
「相変わらずお元気ですね」
「ああ。ただ随分見ない間に大きくなったな」
 丈は話をそれで終わらせた。かなり重要な話をだ。
「成長したんだな」
「丈さんはちょっと若返ってないか?」
「ですよね。少し」
 二人もこれで終わらせる。
「まあ何はともあれな」
「こっちの世界でも宜しく御願いします」
「おう、こちらこそな」
 丈は歯を輝かせて二人に応える。傷は何時の間にか完治している。
 そして完治してからだ。また話す彼だった。
「御前等誰のところにいるんだ?」
「袁紹さんのところだよ」
「そこにいます」
 そこだと話す二人だった。
「そこで可愛い女の子と美味い食い物に囲まれてるぜ」
「修業をしています」
「そうか。ビリーの野郎のところか」
 先程まで喧嘩していた相手のことを話すのだった。
「そうか」
「そのビリーさんと喧嘩してたんだよな、丈さんは」
「そうなんですね」
「そうだよ。相変わらずとんでもなく強情な奴だよ」
 彼から見ればそうなのだった。
「次にあった時は地獄に叩き落としてやるぜ」
「話が何かおかしくなってるだろ」
 今度はだ。ビッグベアが来たのだった。そのうえで丈に話すのだった。
「御前も少しは話し合いをしろ」
「全くだ。拳でばかり話すな」
 ホア=ジャイまで来た。
「久し振りに見たと思ったらよ」
「全然変わってないな。ある意味安心したぜ」
「んっ?御前等も来てたのかよ」
 丈は彼等の姿を見て声をあげた。
「いるだとって思ってたけれどな」
「ああ、こうしてな」
「気付いたらこっちの世界にいたんだよ」
「その辺り俺と同じだな」
 丈にしてもだ。実はそうなのだった。
 そして今度はだ。そのことを話すのだった。
「何で俺達こっちの世界にいるんだ?」
「それだな。俺も全くわからねえ」
「俺もだ」
 ビッグベアもホア=ジャイも言うのだった。
「楽しい世界だけれどな」
「食い物は一杯あるけれどな」
「その食べ物ですけれど」
 ジェイフンがその食べ物のことを話した。
「妙におかしいですよね」
「焼肉とかチヂミとか食えるってことだよな」
「はい、この時代は中国の三国時代です」
 兄に対して話すジェイフンだった。
「ですが普通に食べられますし」
「炒飯とかな。唐辛子使った料理とかな」
「明らかに僕達の知っている三国時代ではないです」
 それは間違いないというのだ。
「そのことが気になりますね」
「いや、それ以上にやっぱりな」
「はい、どうして僕達がこの世界に来ているかですね」
「しかも皆いるしな」
 ドンファンが見てもだった。その数はかなりのものだった。
「何かおかしなことだらけだからな」
「はい、一番の謎は何故僕達がこの世界にいるのか」
「というか戻れるのかよ」
 ホア=ジャイはこのことを言った。
「元の世界にな」
「どうでしょうか」
 それはだ。わからないと答えるしかないジェイフンだった。
「それはどうも」
「わからないな」 
 ビッグベアが難しい顔で言った。
「そう言うしかないな」
「すいません」
「謝らなくていいさ」
 それはいいというのだった。
「何しろどうしてここに来たのか自体がわからないからな」
「そうなりますね」
「まあ色々な奴がいて賑やかだけれどな」
 丈はこのことを話した。
「とりあえずはそれを楽しむか」
「そうするか。ってそう簡単に考えていいのか?」
「あれこれ難しく考えたって仕方ないだろ」
 ホア=ジャイに返すその言い方はまさに丈だった。
「だからな。このままな」
「やってくか」
「そうしようぜ」
 結局そこに行き着く彼等だった。そうしてだ。
 陣の中央においてはだ。リチャードとボブがだった。
 ダンスを踊っていた。リチャードはギターを鳴らしボブが踊っている。それはサンバだった。兵達はそのダンスを見て言うのだった。
「へえ、それが異界のダンスか」
「いい感じだな」
「派手でな」
「ああいうのもいいよな」
「だよな」 
 こうだ。各勢力の兵達が仲良く言うのだった。
「最初は何するだって思ったけれどな」
「へえ、面白いじゃないか」
「俺達も踊りたくなってきたぜ」
「そうですか?」
 ボブが踊りながらだ。彼等に笑顔で言うのだった。
「皆さんも踊りたくなったんですね」
「そうだな。それじゃあな」
「俺達もよかったらな」
「一緒に踊っていいか?」
 こう実際に申し出る彼等だった。こうしてだった。
 彼等も実際にボブと一緒にサンバを踊ってみる。それはだ。
「うん、実際にするとな」
「難しいな」
「ええと、ここをこうやって?」
「こうするのかよ」
「はい、こうです」
 ボブは頭を軸に足を大きく開いて回転しながら話す。両手は組んでいる。つまり頭で回転してみせているのである。
「こうします」
「これ、下手したら禿るだろ」
「絶対にそうなるだろ」
 兵達はそのことを心配して言う。
「ボブは大丈夫なのか?」
「禿げないのか?」
「僕は禿げないんです」
 それは心配ないという彼だった。陽気に笑って話す。
「だからできます」
「俺達はそれはな」
「ちょっと止めておくな」
 兵達は尻込みしてだ。それはいいというのだった。
 そしてだ。こうも話すのだった。
「他のにするな」
「そうするな」
 こう言って彼等はそのダンスはしなかった。そしてその彼等の横でもだ。
 別の催しが行われていた。それは。
「あ、そおれ」
 狂死郎であった。
 舞を舞う。その舞いはだ。
「いいなあ、扇と薙刀を使ったな」
「派手で華麗でな」
「いい舞だよな」
 兵達は彼に対してもいいものを見出しているのだった。
 そうしてだ。こう本人にも言うのだった。
「いいぜ、あんた」
「最高だよ」
「確か仕事それなんだよな」
「うむ、そうじゃ」
 その通りだと答える狂死郎だった。しかしであった。
 彼はだ。ここでこう言うのであった。
「だがわしはまだ」
「まだ?」
「まだっていうと?」
「親父殿は超えてはおらん」
 それはだ。できていないというのだ。
「どうもじゃ。それはまだじゃ」
「えっ、それでか?」
「それでだっていうのか」
「まだできていないのか」
「そうよ。それはまだじゃ」
 残念な顔でだ。彼は言うのだった。
「まだできてはおらんのじゃ」
「その舞でできてないってな」
「あんたの親父さんって凄かったんだな」
「そこまでの人だったんだ」
「我が目指すものなり」
 そうだというのである。
「そして必ず乗り越えたいものよ」
「生涯の目標か」
「そういうことか」
「左様、目指すものがあればさらに高みに迎えるもなのであろう」
 自分でそれを分析しての。そうしての言葉だった。
「ではわしはじゃ」
「いいな、その目指すってのがな」
「それがいい結果になるぜ」
「絶対にな」
「よい結果にしてこそであろうな」
 また自分で語るのだった。
「では。さらに舞うぞ」
「ああ、見させてもらうな」
「今度の舞いもな」
 こうしてだった。彼等は狂死郎の舞を見ていくのだった。
 他にもだ。ダックもだった。ダンスを踊っている。そのうえでこんなことを言うのであった。
「いいねえ、祭りがはじまるぜ」
「何か色々いるからな」
 夜血がその彼に言うのだった。
「あんたは俺達より後の世界の人間だよな」
「そうさ、あんた日本人だな」
「ああ、そうだ」
 その通りだと答える夜血だった。今はあの殺伐さはない。
「糞みてえな場所に住んでるさ」
「糞みてえなねえ」
「何時か出たいぜ」
 そしてだ。こんなことを言うのであった。
「二人でな」
「二人?」
「惚れた相手がいるんだよ」
 それでだというのだ。
「それでな」
「へえ、あんたにもそういう相手がいるんだな」
「ただ。何処に行くかはな」
「それは決めてないか」
「何処がいいだろうな」
 こうダックに尋ねるのだった。するとそこにだ。
 灰人が来てだ。こんなことを言うのだった。
「よお、それならな」
「それなら?」
「俺と一緒にある国に行かないか」
「ある国って何処だよ」
「アメリカって国だよ」
 そこだと言うとだ。ダックが言うのだった。
「俺の国だな」
「何だ、あんたの国か」
「ああ、そこに一緒に行くか?」
 灰人はこう夜血に話すのだった。
「そうするか」
「そうだな。あそこにいてもな」
「何もならないだろ」
「あんたもそうだな」
 夜血は灰人を見て言った。
「それは」
「ああ、俺もな」
 実際にだ。彼も暗い顔になって言葉を返す。
 そうしてだ。こう返すのだった。
「あんな場所にあれ以上見てもな」
「仕方ないよな」
「それじゃあだな」
「あの坊さんに言われたさ」
 ここで灰人のその言葉が変わった。そうしてだった。
「アメリカに行けってな」
「そう言われたんだな」
「だから俺は帰れたらな」
 どうするか。そうした話になった。
「アメリカに行くぜ」
「じゃあ俺もあいつを連れてな」
「三人で行くか?」
「そうするか」
 そうした話をするのだった。
「そしてあんな街からな」
「出るか」
「詳しいことは知らないけれどな」
 ダックはだ。二人の話を聞いてふと言った。
「それでもあんた達も色々あるんだな」
「まあな」
「それは否定しないさ」
 二人はその暗い顔でダックの言葉に返す。
「俺達が生まれ育った街だけれどな」
「何の愛着もないさ」
「所詮屑の溜まり場さ」
「そう言う俺達もだけれどな」
 そうした世界に住む者特有のだ。卑屈さも見せてだ。
 彼等はだ。こんなことも言うのだった。
「そんな中で蔑まれて生きてるんだよ」
「この血のせいでな」
「んっ、そういえばあんた」
 ダックはだ。灰人のその言葉であることに気付いた。
 彼の髪や肌を見てだ。そうして彼に話した。
「純粋なアジア系じゃないな」
「ああ。俺の親父はな」
「白人か」
 それだというのだ。
「それだな」
「そうだ。俺の親父は白人らしいんだよ」
「はっきりわからないんだな」
「誰かまではな」
「そうか」6
「あんたは何も思わないんだな」
 灰人はダックのその何でもないという態度を見て述べた。
「俺のこのことを聞いてもな」
「それは俺だけか?」
「あんただけかって?」
「他の奴もそうだろ」
 ダックはこう灰人に言い返すのである。
「そうだろ、それはな」
「そうだな。言われてみればな」
「この世界の奴も俺達の世界の奴も同じだよ、それは」
「俺の肌がどうとか髪がどうとかか」
「そんなことはどうでもいいんだよ」
 そうだというのだ。
「大事なのはあんたがどう思ってどうするかだよ」
「俺がか」
「俺の肌は黒いだろ」
 ダックはふとこんなことを話した。自分のことをだ。
「そうだろ、黒いだろ」
「そうだな。確かに黒いな」
「この肌の色だってな。言われたんだよ」
 ダックは笑いながらだ。灰人に対して話すのである。
「肌が黒い奴はな。除け者にされたりするんだよ」
「アメリカってのはそういう国か?」
「そういう奴もいるってこそさ」
 そうした人間ばかりではないとも話すのだった。
「全部が全部そうじゃないさ」
「俺の街じゃ殆んどの奴がそうだった」
「だったな。ひでえものだったな」
 夜血もそれを話すのだった。
「あんたが受けてきた仕打ちはな」
「見ていたな、あんたも」
「ああ。俺はそういうのは嫌いだっていうかな」
 夜血はだ。その充血している目を暗くさせてだった。
 そうしてだ。彼もまただと言うのだ。
「俺も同じだったからな」
「そうだな。あんたも実の親はわからなくてな」
「へっ、親がどうとかっていうだけでだよ」
 二人でだ。自嘲、いや自分達を否定している街に対してだ。嘲笑をして話すのだ。
「俺達は色々言われてきたんだよ」
「それでだ。俺達はそういう奴等を叩き斬る為にだ」
「今の剣技を身に着けた」
「そういうことがあったんだよ」
「今まではそうなんだな」
 ダックは彼等の過去をだ。過去だというのだった。
「そうなんだな」
「?それだけか?」
「そうなんだ、ってだけか」
「そうさ。確かに俺の肌だって黒いさ」
 ダックは陽気に笑いながら二人に話していく。
「けれどそれでもな。楽しくやってるんだぜ」
「楽しくか」
「やってるんだな」
「ああ、そうだよ」
 笑顔で話す彼だった。
「それ以上に楽しくやってるさ。むしろ肌の色がどうかとか言う奴なんて殆んどいないさ」
「それがアメリカか」
「そういう国なんだな」
「まあそうなるな。あんた達の時代は違うけれどな」
 ダックの時代よりもだ。人種問題が露わになっている時代だったのだ。
 そのことはダックもわかっていた。しかしそれでもだというのだ。
「それでもな。その街が嫌ならな」
「アメリカにか」
「行けっていうんだな」
「これからのことだよ」
 それを話すのだった。彼が話すのはこのことだった。
「大事なのはあんた達がこれからどうするかだよ」
「それか」
「これからか」
「明るく楽しくな」
 ここでも笑顔のダックだった。
「やっていけばいいんだよ」
「じゃあ俺達もか」
「やれるんだな」
「ああいう奴もいるしな。似た様な時代だろ」 
 ダックはだ。彼等のところに来るガルフォードを指し示した。彼はだ。
 明るく笑って三人のところに来てだ。こう話すのだった。
「何か暗いな。どうしたんだ?」
「あんた忍者だったな」
「そうだったな」
 夜血と灰人はそのガルフォードにこのことを問うた。
「一人で日本に来て身に着けたんだな」
「そうだったんだな」
「ああ、そうだよ」
 その通りだとだ。ガルフォードは笑顔で三人に話すのだった。
「それで忍者になったんだよ」
「その時に色々言われなかったか?」
「肌がどうとか髪がどうとかな」
「そんなことは気にしなかったからな」
 ガルフォードはだ。そうだったのである。
 彼はやはり明るくだ。二人に話すのである。
「俺はそれよりも忍者になりたかったからな」
「忍者にか」
「他の国の奴なのにか」
「そうさ。目は青いけれどそれでも大和魂は身に着いたと思ってるさ」
「それだよな」
 ガルフォードの話をここまで聞いてだった。ダックは言うのだった。
「結局あれなんだよ。心の持ちようなんだよ」
「それでどうしていくか」
「それか」
「街が嫌なら出て行ってな」
 それはもうそうした方がいいというのであった。どうしようもないとだ。ダックは二人の話からそのことを悟ったからである。それでだ。
 しかしだ。やはり彼は二人にこう言うのを忘れなかったのである。
「それでだよ」
「これからか」
「それと俺達がどう思うかか」
「それが大事だからな。しっかりとしなよ」
「まだ完全には頷けないけれどな」
「少し無理があるがな」
 それはだと話す二人だった。しかしだ。
 彼等はだ。少しだけ明るい顔になってだ。こう話すのだった。
「それでもな。この世界でやっていってな」
「帰られたら。考えるか」
 少しだけ前向きになれたのだった。そんな二人を見てだ。
 ガルフォードはだ。笑顔で言った。
「やっぱり人間前を見ないとな」
「ああ、俺だってな」
 ダックもだ。明るく言うのだった。
「今度こそテリーの奴に勝つぜ」
「あんたのライバルだっていうんだな」
「ああ、そうさ」
 笑ってだ。こう返すダックだった。
「やってやるぜ。俺はな」
「おっ、ダックか」
 いいタイミングでだ。テリーが出て来た。
 そうしてだ。彼からダックに言うのだった。
「久し振りにやるか?」
「ああ、やるか」
 ダックも笑顔で返すのだった。
「それじゃあな」
「やるか」
「今度は俺が勝つぜ」
「へっ、今度も俺が勝つからな」
 こんな話をしてだった。二人は明るく闘うのだった。
 そんな明るい世界でもあった。そしてだ。その中でだ。
 彼等は出陣の時を迎えていた。その時は確実に近付いてきていた。
 だが、だ。皆こんな有様だった。
「ううむ、困った」
「そうだな」
「ここ何処なのよ」
 李の言葉にだ。リックと香緋が言うのだった。
「道に迷うとはな」
「困ったわね」
「済まない、私はどうもだ」
 李はだ。困った顔で二人に話すのだった。
「方向音痴なのだ」
「あまりそうは見えないがな」
「意外ね」
「さて、ここは何処だ」
 李は困り果てた顔で周囲を見回す。周りには何も見えない。全くの荒野だ。
 その中でだ。三人はそれぞれ周囲を見回して話すのだった。
「許昌の近辺らしいが」
「陣地も見えないが」
「本当に一体何処なのかしら」
 そしてだ。ここでリックは李に対して言うのだった。
「あんたは中国人だな」
「うむ、そうだが」
「中国人なら中国の地形は知っていないのか」
「残念だが中国は広い」
 李がここで言うのは中国の広大さだった。
「私も。だから」
「そうか。わからないか」
「それに私はだ」
 まただ。自分のことを話す李だった。
「方向音痴なのだ」
「だからわからないか」
「こうなったのね」
 香緋もここでわかったのだった。
「成程な」
「中々洒落にならないことだけれど」
「とにかく陣に戻ろう」
 李は真剣な面持ちで二人に話す。
「そうするとしよう」
「そうしたいのは山々だが」
「本当に何処なのかしら」
 こんなことを話しながらだった。彼等はだ。
 あてもなくさすらおうとしていた。しかしここでだ。
 周泰が来てだ。こう彼等に声をかけたのである。
「あれ、どうしたんですか?」
「どうしてとは」
「それは」
「はい、何かあったんですか?」
 何も知らないといった顔でだ。周泰は三人にまた話した。
「こんな場所で一体」
「少し散歩していたらだ」
 李が困った顔になりその周泰に話す。
「ここに来ていた」
「えっ、ここにですか」
「何故か陣を出ていた」
 そうだったというのである。これは本当のことだ。
「どうしてかはわからない」
「俺もだ。一緒にいてだ」
「ここにいたのよ。気付いたら」
 リックと香緋もだ。周泰にこう話す。
「それにしてもここは」
「何処なのかしら」
「ええと、迷子になられたんですね」
 周泰は三人の話を聞いてだ。すぐにこのことを察した。
 そしてだ。そのうえでこう話すのだった。
「それでしたら」
「それでしたら?」
「私物見からの帰りでして」
 自分のことを話してのことだった。それからだった。
「今から陣に帰りますけれど」
「それだったら。悪いけれど」
 香緋がその周泰に話すのだった。
「陣まで連れて行ってくれるかしら」
「はい、いいですよ」
 満面の笑みで答える周泰だった。
「そうさせてもらいますね」
「済まない」
 李がその周泰に礼を述べる。
「それでは。今から」
「陣は何処なのだ」
「こっちです。では一緒に」
 周泰は笑顔で述べた。そうしてだった。
 彼等は陣に戻った。するとである。
 そこではだ。于禁がだ。皆と一緒に札での遊びをしているのだった。
「あっ、皆お帰りなの」
「はい、只今帰りました」
 周泰が笑顔で応える。
「ところで皆さん何をされてるんですか?」
「ポーカーなの。それをしてるの」
「俺が教えたんだよ」
 こう話すのはブラックホークだった。見れば彼が一緒にいる。
「トランプをな」
「ああ、トランプね」
 香緋がそれを聞いて言った。
「それしてるの」
「これかなり面白いの」
 于禁は笑顔で話すのだった。
「もう病みつきになるの」
「いや、そんなに楽しいか?」
 マキシマがこうその于禁に言う。
「こんなの何でもないだろ」
「皆普通にやるぜ」
 ケビンもこう言う。
「こんなのな」
「それでこんなに楽しいって」
「そうか?」
 ブラックホークとマキシマがまた言う。
「俺達の世界じゃな」
「普通にやってるけれどな」
「そうなの?こんな面白いのが普通になの」
「そうだけれどな」
「普通にな」
「ううん、あっちの世界って凄いの」
 于禁はあちらの世界にだ。興味を見せていた。
 そしてだ。こんなことを言うのだった。
「沙和もあっちの世界に行ってみたいの」
「ほんまやな」
 李典も彼女のその意見に同意して頷く。彼女もトランプに興じている。
「あっちの世界もごっついおもろいみたいだしな」
「ああ、はっきり言って面白いぜ」
「かなりな」
「そうか。面白いか」
 楽進もいた。彼女も一緒に遊んでいる。
「なら一度縁があれば」
「ああ、来るといいさ」
「あっちの世界でも楽しくやろうな」
「そうするとしよう。ただ、だ」
 ここで首を捻る楽進だった。そうして言う言葉は。
「貴殿達がこうしてこの国に来ている理由はわからないがな」
「どうしてだろうな、それ」
「本当にな」
 それはだ。誰にもわからなかった。
 ただこのことはだ。ケンスウこの言葉で終わった。
「まあそれはそのうちわかるやろ」
「そのうちか」
「わかるか」
「ああ、わかるで」
 能天気に言う彼だった。
「何も理由なくてこんなに大勢来る筈ないしな」
「まあそやな」
 それはその通りだと頷いたのは李典だった。
「理由なくてこんだけうじゃうじゃ来ましたってある意味怖いで」
「そやろ?そやったら今はや」
「面白おかしく過ごすのがええな」
「そういうものか?」
 真面目な楽進は彼等のそうした話には眉を少しばかり顰めさせて言う。
「何故来ているのか。考えなくていいのか」
「ええって。考えてわかるもんでもなさそうやし」
 だからだと返す李典だった。
「考えてわかるんやったらええけれどな」
「そうなるか。それではだ」
「ああ、トランプだけやたったらあれやし」
 ケンスウが笑いながら話す。
「何か食うか?」
「では麻婆豆腐でも」 
 楽進が言うのはこれだった。
「食べるか」
「それかいな」
「駄目だろうか。若しくは益州風のラーメンだが」
「凪は相変わらず辛いの好きやなあ」
 李典がそんな楽進に呆れた様な笑いで言う。
「こうしてトランプしながらそういうのはちょっとなあ」
「では何がいいのだ?」
「肉饅やろ」
 ケンスウはそれを推した。
「それがええやろ」
「ふむ。肉饅か」
「それかサンドイッチだな」
 ブラックホークはそれを出す。
「そういうのでどうだ?」
「餅もいいぞ」
 リョウが言うのはこれだった。
「あれは手軽に食べられるしな」
「とにかくあれなの。トランプしながら食べられるのがいいの」
 于禁はそれだというのだった。
「そういう食べ物がいいの」
「とにかく何か食おうで」
 ケンスウがまた言った。
「肉饅あるか?」
「ほい、どうぞ」
 李典は何処からともなくだ。皿に盛り上げられた肉饅の山を出してきた。
「食おうか」
「サンドイッチあるか?」
「これやろ?」
 今度はだ。皿に盛り上げられたサンドイッチが出た。
「サンドイッチって」
「そうだよ、それだよ」
 ブラックホークは笑顔でそのサンドイッチに応えた。
「それがサンドイッチなんだよ」
「そうやねんな。何か色々な食べ物があるんやな」
「あるんだよ、これがな」
 ブラックホークは楽しげに笑いながら応える。
「俺達の世界にもな」
「美味いな」
 楽進はそのサンドイッチを食べながら話す。
「手も汚れない。いいものだ」
「餅もどうだ?」
 リョウは餅を出していた。つきたての丸いそれをだ。笑顔で食べている。
「美味いぞ」
「餅は二種類あるの」
 于禁はまた話す。
「お米の餅と麦の餅なの」
「これは米の餅だけれどな」
「どっちも美味しいの」
 于禁は笑顔で話しながらその米の餅を食べている。そのうえでの言葉だった。
「じゃあ食べながらなの」
「よし、トランプな」
「やろうで」
 こうしてだ。出陣を前にしてリラックスしている彼等だった。その彼等にも不安はあった。だがそれ以上にだ。仲良く楽しく過ごしている彼等だった。


第七十七話   完


                      2011・4・17







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