『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                            第六十三話  劉備、牧になるのこと

 乱は終わった。しかしであった。
 まだ最後の仕事が残っていた。朝になり華陀が言うのであった。
「それではこれからだ」
「あの書をだな」
「封印するのだ」
「そうだ。最後の大仕事だ」
 こう関羽と張飛にも言う。
「このゴオオオオオオオッド!米道のな」
「だからどうしてそこで大声で伸ばすのよ」
 突込みを入れたのは張梁だった。三姉妹が曹操の天幕の前に来てだ。そのうえで書を直接手渡すことになっているのだ。それで来ているのである。劉備や曹操、袁術、その家臣達も集まっている。
「やけに格好いいし」
「こう言うべきだから言うんだ」
 こう張梁にも話す。
「重要だから忘れないでくれよ」
「何か納得できるよね」
「そうね」
 張角と張宝が顔を見合わせて話す。
「それに何か言い方が」
「やけに楽しいし」
「さて、それでだ」
 ここまで話してだ。また言う華陀だった。
「その書をな」
「ええ、そうね」
 曹操もそれを言う。
「封印してなのね」
「そうだ。それではな」
 張角からその書を受け取りだ。そのうえで。
「病魔よ!」
 何故かここでも病魔であった。
「光になれーーーーーーーーーーっ!」
「ちょっと待った」
 ところがであった。ここで、であった。こう言って今まさに針を書に繰り出そうとする華陀を呼び止める声がしてきた。その声の主は。
「病魔を封印するのにまた大袈裟ですね」
「いや、それが俺のやり方だからな」
「封印するのに光になれというのもおかしな話です」
「そうか?俺は別に」
「この場合解放するでは?光になれとは」
「それもそうか」
「さて」
 そんな話をしているうちにだ。于吉が出て来たのだった。
 その彼を見てだ。三姉妹が言った。
「あっ、于吉」
「何でここに出て来たの?」
「また急に」
「この書は返してもらいますよ」
 于吉はその三姉妹に穏やかに話して述べた。
 そしてそのうえでだ。書を華陀から取ってだ。そのうえでだ。
「ではこれで」
「待て、まさか御前は」
「さて。どうでしょうか」
 華陀に言われてもだ。とぼけてだった。
 姿を消してだ。彼はその中で一行に告げた。
「では皆さん、縁があればまた会いましょう」
「あいつ、ひょっとして」
「そうね」
「おそらくはね」
 怪物二人が何処からか出て来て話す。
「彼はその一人ね」
「間違いないわね」
 こう話してだ。何処かに姿を消したのであった。
 その二人を見てからだ。袁術が顔を顰めさせて言う。
「今、物凄く気色悪いものが見えたのじゃ」
「はい、私もです」
「私も見ました」
 紀霊と楽就も応える。
「正視に耐えないものが」
「確かに」
「今のは何だったのじゃ?」
 袁術はそのことを言わずにはいられなかった。
「怪物にしか見えなかったぞ」
「ああ、俺の仲間達だ」
 しかし華陀はへ依然としてこう袁術に話すのだった。
「気のいい奴等だ」
「あの、それで済ませるには」
「かなり無理があるかと」
 紀霊と楽就は戸惑いながら華陀に返した。
「あの二人は」
「言い様がありませんし」
「そうか?何かおかしいところはあるか?」
 だが、だった。彼にはわからないことだった。
「空も飛べるし。頼りになる連中だぞ」
「いや、それは幾ら何でも」 
 徐晃も突っ込みを入れずにはいられなかった。
「空を飛べるとなると。人間では」
「術だろうな」
 そのこともこれで終わらせる華陀だった。
「見事な術だな」
「この男、違うわね」
 曹操も華陀のその器には唖然となっていた。
「妖怪を仲間にしてもこの平然さ。有り得ないわ」
「今の絶対にそうよね」
「そうだよね」
 馬岱と許緒もそれを話す。
「人間じゃないわよね」
「妖怪よね」
 そんなことを話してだ。あの二人のことは殆どの者が人間ではないと断じた。だが問題はそれで終わりではなくだ。他にもあった。
 三姉妹がだ。下喜にこう言われたのである。
「えっ、バイスとマチュアが?」
「はい、急にです」
「いなくなったの?」
「何でよ、それって」
「マネージャーがいなくなるなんて」
 張梁と張宝も話す。
「これからまたお仕事がはじまるのに」
「おかしな話ね」
 その三人の怪訝な話を聞いてだ。草薙がいぶかしむ顔になってだ。彼女達に問うたのだった。
「おい、今バイスとマチュアって言ったな」
「うん、そうだけれど」
「あたし達のマネージャーよ」
「色々としてくれてるけれど」
「そうか。あいつ等も来ていたんだな」
「いるとは思っていたがな」
 草薙だけでなく八神も言ってきた。
「あんた達についてたのか」
「そうしていたか」
「何かあるの?」
 張角は二人の剣呑な様子にきょとんとした顔で返した。
「あの人達に」
「ある、だから言うんだ」
「それでだ」
 こう話す二人だった。
「あの連中がいるということはな」
「他のオロチの奴等もいるか」
「オロチ?」
「何、それ」
 張梁と張宝も怪訝な顔になってだ。草薙と八神に尋ね返した。
「蛇がどうかしたの?」
「怪しい感じはするけれど」
「簡単に言うとな」
 草薙は自分でもわかるようにだ。こう三姉妹達に話した。
「あの連中は世界を破壊しようとしている奴等だ」
「この世界をって」
「ああ。人間の世界をな。破壊しようとしている奴等だ」
「あの連中も人間ではないの?」
「そうよね」
 曹仁と曹洪は二人のことを知らないがそれでもこう言った。
「同じ人間なのに」
「そんなことをしてどうなるの?」
「あの連中は厳密に言うと人間じゃないからな」
 草薙はオロチについてこう述べた。
「オロチ一族っていってな。別の奴等だ」
「別の、ですか」
「じゃあ人の形をしているだけで」
 孔明と鳳統もここでわかった。
「その存在は人ならぬもの」
「邪神の類なんですね」
「近いな」
 草薙は鳳統の邪神という言葉に答えた。
「まあそういうところだ。どちらにしろあの連中も来てるとなるとな」
「はい、危険ですね」
「姿を消したといっても」
 孔明と鳳統は目を伏せさせながらも強い声で述べた。
「ここはやはり」
「逃してはいけません」
「その通りね。それじゃあここはね」
 曹操は劉備の軍師二人の言葉を受けてだ。すぐにこの断を下した。
「あの二人はお尋ね者ということでね」
「はい、では国中に」
「手配書や人相書きを配布しましょう」
 夏侯姉妹も主にすぐに応えた。
「大将軍にもお話して」
「捕まえましょう」
「麗羽や孫策にも伝えておくわ」
 曹操は彼女達にもだというのだった。
「美羽は丁度ここにいるし」
「任せてたも」
 袁術は胸を張って曹操の言葉に応えた。
「わらわの治める地で勝手なことは許さん」
「とりあえずこれで殆どの州は大丈夫ね」
 曹操は袁術に話してからこう述べた。
「ただ。徐州や益州は」
「誰か治めるに相応しい人物がいればです」
 荀ケがその曹操に述べた。
「その人物を牧に推挙すべきかと」
「そうね。この二州の牧ね」
 曹操は考える顔になっていた。そうしてだ。
 とりあえず今ここにいる面々を見回した。そのうえでだった。
 劉備を見てだ。こう話したのだった。
「この乱の平定は貴女の功績が大きいし」
「私ですか?」
「ええ。今貴女官位とかはないわよね」
「そういうのは」
「このまま幽州にいるままじゃね」
 このことも話す曹操だった。
「人材も多いし勿体ないわね」
「といいますと?」
「貴女、牧をやってみる?」
 微笑んでだ。劉備自身に話した。
「何なら推挙するけれど」
「えっ、私が徐州にですか」
「そうよ。どうかしら」
「むっ、劉備が牧か」
 袁術もそのことを聞いて明るい顔になる。
「よいのう。そなたが隣にいれば楽しいぞよ」
「楽しいのですか?」
「そなたはいい奴じゃ」
 明るい顔でだ。劉備を見ての言葉だった。
「少なくとも孫策の奴よりはよっぽどいい奴じゃ」
「いいか?」
 関羽は袁術の今の言葉を聞いてだ。そっと張勲に尋ねた。
「袁術殿と孫策殿は上手くいっていないのか?」
「ついこの前まで領地のことでいがみ合っていまして」
 そうだと話す張勲だった。
「それで今もそのことで」
「御互い仲がよくないのか」
「些細なことですので御気になさらずに」
「まあ早く仲直りしてもらいたいところだな」
「とりあえず時間が回復してくれます」 
 笑顔で話す張勲だった。袁術も袁術で牧としての問題を抱えているのだ。
 そうした話も交えてだ。そのうえでだった。
 劉備はだ。また曹操に告げられた。
「それでどう?徐州の牧にね」
「どうしよう」
 曹操の言葉にだ。劉備はまず戸惑う顔を見せた。しかしその彼女にだ。
 孔明と鳳統がだ。こう言ってきた。
「御受けするべきだと思います」
「ここは是非です」
 これが軍師二人の言葉だった。
「このまま幽州で公孫賛さんのお世話になっている訳にもいきませんし」
「それに今この徐州は牧がいません」
「徐州の人達の為にもです」
「ここは御受けするべきです」
「徐州の人達の為にも」
 そう言われるとだ。劉備もだ。
 考える顔になってだ。こう述べたのであった。
「じゃあここは」
「そうだな。受けるべきだ」
「悪い話じゃないな」
 趙雲と馬超も劉備に話した。
「桃香殿の為にもな」
「この徐州の人達の為でもあるしな」
「それじゃあ」
 劉備は二人にも言われた。無論黄忠もだ。
「桃香さんが徐州の牧になられたら」
「私がなったら」
「御母上も喜ばれるわね」
「御母さんも」
 母のことを言われるとだ。自然に明るい顔になる彼女だった。
 そしてであった。関羽と張飛もであった。
「姉上、是非御受けするべきだ」
「御姉ちゃんが牧になるなんて夢みたいなのだ」
 こうだ。姉を笑顔で迎えて話した。
「天下万民の為にな」
「是非なのだ」
「わかったわ。じゃあね」
「話は決まりね」
 曹操は劉備が頷いたのを見て笑顔で述べた。
「とりあえず徐州は決まりね」
「そうですね。益州については」
「また考えましょう」
 荀ケに応えてだった。そのうえでだった。
 曹操は何進に劉備を徐州の牧にするように推挙した。そしてそれがすぐに受け入れられてだ。彼女は徐州の牧に任じられたのだった。
「おめでとう」
「よかったのです」
 呂布と陳宮がだ。まだ徐州で乱の処理をしている劉備達に告げた。
「これからこの徐州の牧」
「頑張るのです」
「はい、わかりました」
 劉備は笑顔で二人の言葉を受けた。
「私、頑張ります」
「それはいいのだが」
「けれどなのだ」
 ここでだ。関羽と張飛が顔を顰めさせてだ。呂布と陳宮に尋ねた。
「何故呂布殿が使者なのだ?」
「それにそのチビも」
「ねねはチビではないのです!」
 陳宮は張飛の今の言葉に怒って反論する。
「ねねにはちゃんと名前があるのです。このチビ!」
「何っ、鈴々をチビと言うのだ!」
「チビをチビと言って何が悪いのです!」
「御前に言われたくはないのだ!」
「それはこっちの台詞なのです!」
 ムキになってだ。顔を見合わせて言い合う二人だった。関羽はその二人に呆れた顔になる。
 だがとりあえずだ。呂布に対してまた問うのだった。
「何故使者としてここまで来たのだ」
「そのこと」
「そうだ。貴殿は董卓殿の配下ではないのか?何故朝廷の使者に」
「官位あるから」
 それでだという呂布だった。
「だから。それで」
「朝廷の使者として来たのか」
「そういうこと。だからここに来た」
「ねねは御供なのです」
 陳宮もここで言った。喧嘩は何時の間にか取っ組み合いになっている。
「そういうことなのです」
「そうだったのか」
「それで来たのだ」
 関羽と張飛もこれで納得した。
「そして我々は」
「徐州に入るのだ」
「劉備殿は左将軍にもなる」
 呂布はこのことも話してきた。
「皆その配下ということになる」
「そうか、我々もか」
「徐州に入るのだ」
「皆で頑張る」
 呂布は今度は二人に告げた。
「そうするといい」
「そこのチビも精々頑張るのです」
 取っ組み合いは終わっていた。だがまだ張飛に言う陳宮だった。
「酒でも飲んで失敗するのです」
「鈴々はそんな失敗はしないのだ!」
 また言い返す張飛だった。
「そういう御前も失敗なんかするななのだ!」
「ねねは失敗なんかしないのです!」
 陳宮もまたムキになる。
「御前とは違うのです!」
「鈴々も御前なんかと違うのだ!」
「御前みたいに馬鹿ではないのです!」
「馬鹿に馬鹿と言われたくないのだ!」
 あくまで仲の悪い二人であった。そんな二人をよそにだ。
 劉備は晴れて徐州の牧になった。そしてだ。
 それと共にだ。他のことも呂布によって話された。
「そう、正式にね」
「何か頭にくるのじゃ」
 曹操と袁術がそれぞれ話す。
「美羽と孫策もね」
「二人がいい目を見るのは癪なのじゃ」
「それぞれ幽州と交州にね」
「牧になるとはなのじゃ」
「けれどそれはわかっていたでしょう?」
 曹操はここで袁術に尋ねた。
「そのことは」
「確かにその通りなのじゃ」
 このことは袁術も認めた。ただし渋々である。
「では納得してやるのじゃ」
「どうしてもというのなら」
 呂布はここでその袁術に対して言った。
「益州の牧になるといい」
「それはいいのじゃ」
 だが、だった。袁術はその案は断るのだった。
 そのうえでだ。彼女はこんなことを言った。
「わらわは今の州だけで手が一杯なのじゃ。益州までとても手が回らないのじゃ」
「わかった。それなら」
「益州は他の誰かが治めるといいのじゃ」
 何はともあれそこまでは求めない袁術だった。そうしてだ。
 曹操と袁術はそれぞれが治める州に戻った。そして三姉妹もだ。
 あらためて慰安の旅芸人となった。その再出発の際だ。
 劉備達にだ。見送りを受けてだ。そこでだ。
「じゃあまたね」
「うん、またね」
 劉備と張角が笑顔で応える。
「また舞台観ていいわよね」
「是非観てね」
 こう話をするのであった。
「楽しみにしてるからね」
「うん、天和ちゃん」
 劉備はここで張角の真名を呼んだ。
「これからも頑張ってね」
「そうするわ。ところでね」
「ところで?」
「今私の真名呼んでくれたよね」
 満面の笑みでだ。劉備にこのことを話した。
「それじゃあね」
「天和ちゃんもね」
「劉備ちゃんの真名呼んでいい?」
 こう劉備に問うのだった。
「私もね」
「うん、いいわよ」
 劉備もだ。満面の笑顔で言葉を返した。
「私の真名だけれどね」
「何ていうの?」
「桃香っていうの」
 ありのままだ。名乗ったのであった。
「それが私の真名だから」
「わかったわ。じゃあ桃香」
 張角は劉備その真名を実際に呼んでみた。
「またね」
「うん、またね」
 こうしてであった。劉備は三姉妹と別れた。お互いに手を振り合ってだ。
 黄巾の乱は終わり劉備は晴れて徐州の牧になりだ。すぐに幽州の仲間達を呼んだ。そうして程なくして皆彼女の下に集まったのだった。
「ううむ、想像以上じゃな」
「そうよね」
 劉備の前でだ。厳顔と黄忠が笑顔で話をしている。
「桃香殿が牧になるとはのう」
「しかも左将軍にも任命されたわ」
「今では将軍様か」
 厳顔は悪戯っぽい笑みも浮かべてみせた。
「大したものじゃ」
「ううん、何か私それでも」
 だが、だった。劉備自身はこう言うのだった。
「これまでとあまり」
「変わってはおらん」
「そう言うのね」
「私は私だから」
 こう言うのだった。
「そんな。特には」
「いえ、これも全てです」
 その劉備にだ。魏延が強い声で話す。
「桃香様の人徳があらばこそです」
「私の?」
「はい、そうです」
 こう劉備に話すのだった。
「だからこそ我々もそうして」
「私に。そんな」
「いえ、自信をお持ちになって下さい」
 あくまでこう言う魏延だった。
「桃香様は本当に」
「だといいですけれど」
「ですから御自身に対して自信を持たれることです」
 また言うのであった。
「桃香様は必ず。天下を治めるに足る器の方になられます」
「はい、それまでね」
 魏延の言葉がさらに熱くなろうとしたところでだった。馬岱が言ってきた。
「あんたもう言い過ぎ」
「何っ、私の何処が悪い」
「悪いとは言わないけれど」
「では何だ」
「あんたの桃香様を見る目違うから」
 こうだ。いささか呆れながら話すのだった。
「もうね。こんな目になってるから」
「どんな目だというのだ」
「こんな目よ」
 実際に今の魏延の目になってみせる。熱くただ一点を凝視している目だ。
「本当によ。どんな目なのよ」
「私がそんな目をしているというのか」
「そうよ。全くあんたはねえ」
「臣下が主に忠義を誓うのは当然のことだ」
「あんたは忠義の限界超えてるから」
 そんな話をするのであった。しかし何はともあれだった。
 劉備は晴れて徐州の牧になった。それは確かであった。彼女は早速政治をはじめた。それについては孔明と鳳統が言うのであった。
「徐州の人口ですが」
「おおよそこの位です」
「えっ、もうできたの?」
 劉備は自分の執務用の机で二人の話を聞いた。そこで言うのだった。
「早いわね」
「元々の戸籍がありましたので」
「それを元に統計を取りました」
 そうだというのである。
「およそ三百万です」
「それが徐州の人口です」
「わあ、多いね」
 劉備はその人口を聞いて驚きの声をあげた。
「幽州の倍近くいるんじゃないの?」
「そうですね。徐州は土地がいいですし」
「住みやすい場所ですから」
 軍師二人は人口が多い理由をそこに求めた。
「寒く土地が痩せた幽州とはやはり」
「かなり違います」
「じゃあ治めるのは」
「はい、それなりに難しいです」
「それは注意して下さい」
「そうよね。異民族はいないけれど」
 それでもなのだった。
「この州は長い間牧がいなかったですし」
「それで政治が滞っていました」
「それをしっかりと立て直すことがです」
「桃香様の務めです」
「大変ね」
 それは劉備にもわかることだった。
「けれどやらないとね」
「はい、頑張って下さい」
「及ばずながら私達も」
「皆もいてくれるから」
「ですから。本当にです」
「頑張って下さい」
 こうしてだった。軍師二人は劉備の政治を助けるのだった。
 それは彼女達だけでなくだ。関羽達もだった。
 五人で兵を連れて見回りをしている。その中でだ。張飛が言うのだった。
「結構荒れているのだ」
「そうだな。長い間牧がいなかったからな」
 関羽もだ。少しぼやきながら話した。
「そのせいか。どうもな」
「田畑も街もだな」
 趙雲もいる。
「どうもな。長い間ほったらかしにされていたせいか」
「寂れてるな」
 馬超は関羽と同じ顔になっている。
「どうしたもんだよ」
「けれど。荒廃というところまではいかないから」
 黄忠は少し楽観的に述べた。
「それに人もそんなに減っていないし」
「何とかなるか」
「ええ、少し時間はかかるけれどね」
 それでもだというのだ。
「この州は上手にまとめられるわ」
「けれど鈴々は政治のことはわからないのだ」
 実に張飛らしい言葉だった。顔も困ったものになっている。
「街造りも感慨もできないのだ」
「それあたしもだよ」
 馬超もだった。ぼやく顔になっている。
「政治って言われてもな」
「そうなのだ。さっぱりわからないのだ」
「田畑とかな。そういうのどうやれば」
「それは安心していいわ」
 その二人にだ。黄忠が微笑んで話す。
「朱里ちゃん達がいるし」
「あの二人がなのだ」
「しっかりしてるからか」
「ええ。それに私や星も政治のことは少しはわかるから」
「そうだな。私も公孫賛殿のところで多少していた」
 趙雲もここでそれを話した。
「あの方のところには人材がいないからな」
「言葉は現在形なのだな」
「そうだ。幽州は実質あの方が一人で切り盛りしている」
 そうした状況だというのだ。
「それなりに優れた方だが」
「目立たないのだ」
「どうしてもだよなあ」
 張飛と馬超も話す。
「けれど星も政治できるのだ」
「そうだったんだな」
「とはいっても朱里や雛里程ではない」
 それを言う趙雲だった。
「私は政治はあくまでできる程度だ」
「そうなのだ」
「あまりできないんだな」
「そうだ。これは謙遜ではない」
 趙雲はそこを念押しした。
「決してな」
「やっぱり政治は難しいのだ」
「あたし達にはさっぱりだな」
「それはそれでいいのよ」 
 黄忠はぼやく二人にまた話した。
「貴女達には貴女達ができることがあるから」
「だったらいいのだ」
「本当にそうならな」
「政治ができるのはあの二人の他にはだ」
 趙雲も考える顔で話す。
「私と紫苑、それに桔梗殿に愛紗だな」
「私もなのか?」
「御主は政治の書も読んでいるな」
「それはそうだが」
「ならある程度はできる筈だ」
 こう話すのだった。
「それはな」
「だといいのだが」
「少なくとも今はわかる者は全て働いてもらわないといけない状況だ」
 それは間違いないというのである。
「だから御主もだ」
「わかった。それではだ」
 関羽もここで話した。
「私も政治をやらせてもらおう」
「そうだ。それでいい」
 また言う趙雲だった。
「御主も働け。充分な」
「そうさせてもらう」
 こんな話をしながら国を巡回していた。そうして賊達を平定しながらだ。国を安定させだしていた。徐州の政治ははじまったばかりだった。
 徐州の政治がはじまった前にだ。曹操はその帰路は途中まで袁術達と同じだった。そこでだった。
 別れの前の宴の場でだ。曹操は呆れた顔で曹仁と曹洪に話していた。
「凛はねえ」
「はい、わかります」
「あの娘は」
 二人は呆れた顔で曹操に応えていた。
「お酒には弱かったのですね」
「そうだったのですね」
「そうね。気付かなかったわ」
 曹操もだ。呆れた顔になっていた。
「それはね」
「けれど。それでも」
「あれはないのでは?」
「ないわね、本当に」
 その郭嘉を見ての言葉だった。
 郭嘉は袁術のところにいた。そしてだった。
 彼女にもたれかかりだ。真っ赤な顔になっていた。
「美羽様、あのですね」
「うむ、何なのじゃ?」
 袁術もだ。笑顔で応えている。
「それで」
「今日でお別れですね」
「そうじゃのう」
 その話をされるとだ。袁術は悲しい顔になった。
「折角凛と一緒になれたのにな」
「そうですね。私は華琳様の家臣ですが」
「しかしそれでもだというのじゃな」
「はい、美羽様の友です」
 それだというのである。
「それは確かです」
「そうじゃ。わらわ達は親友同士じゃ」
 それを言う袁術だった。
「永遠にじゃ」
「はい、これからも永遠に」
「それは約束じゃぞ」
「わかりました」
 こうだ。酒に酔った真っ赤な顔で袁術に言うのであった。
 そんな彼女を見てだ。張勲がこんなことを言った。
「私と凛ちゃんなんか昨日一緒の褥で寝ましたし」
「ああ、あれね」
 曹操がそれを聞いて言う。
「二人で昼寝してたわね。木陰で」
「あれは普通では?」
「褥という程のものではないのでは?」
 夏侯姉妹が話す。
「別にあれは」
「肌を重ね合うというものでは」
「けれどそれがいいのよ」
 曹操は楽しげに笑って話すのであった。
「美羽の態度が見ものよ」
「ううむ、美羽殿もあおちらの気が強いですが」
「華琳様もやはり」
「ええ。何か可愛い娘はね」
 多少だ。嗜虐性のある笑みを浮かべて話す曹操だった。
「いじめたくなるのよ」
「ですから我々もですか」
「褥においては」
「そうよ。そうしているのよ」
 こう話すのであった。二人にもだ。
「そしてそれはあの娘も同じなのね」
「張勲殿もですか」
「そちらの方でしたか」
「そうなるわね」
 こう話してであった。三人の成り行きを見るのであった。
 そしてだ。三人はというとだ。やはり袁術が言った。
「ええい、幾ら七乃といえどもじゃ!」
「私がですか」
「そうじゃ。凛は渡さぬからな!」
 このことを力説するのであった。
「何があってもじゃ。誰にも渡さぬ!」
「あらあら。我儘ですね」
「我儘ではない!」
 あくまでこう言う。
「凛とじゃ。これからもずっといるのじゃ!」
「だから私の家臣なんだけれど」
 曹操が横から言う。
「その辺り忘れないで欲しいわね」
「あの、ですが」
「今の三人は」
「わかってるわよ。だから見てるだけにしてるのよ」
 何だかんだで楽しんでいる曹操であった。三人を見てだ。
 袁術は明らかに張勲に対抗心を燃やしていた。郭嘉を自分の左肩にもたれかけさせてだ。そのうえで張勲に対して言うのであった。
「わらわ達は口移しで食べ合った仲じゃぞ」
「ですから私達は一緒に寝た」
「わらわ達の方が上じゃ!」
「いえいえ、私達の方が」
「どっちでもいいんじゃないの?」
 許緒は率直な感想を述べた。
「何か。凛さんの取り合いになっていて」
「そうよね。仕方ないわね」
 韓浩も苦い顔になって笑っている。
「見ていて微笑ましくはあるけれど」
「微笑ましいの?」
「ああ言い合う程仲がいいのはね」
「それがいいんだ」
「そうよ。いいの」
 こう話すのだった。彼女も三人を見ている。
 しかしだった。ここでだ。
 それまで酔っていてもたれかかっているだけだった郭嘉にだ。不意に動いてだ。
 そうしてだった。袁術の左頬に顔を寄せてだ。
 接吻した。そうしたのだった。これには誰もが驚いた。
「な、何と!?」
「そうする!?ここで」
「何ということを!」
「それは幾ら何でも!」
 皆唖然とする。それは曹操と張勲も同じだった。
「そう来たの!?」
「まさか」
 唖然となってだ。同時に声をあげたのであった。
「そのタイミングでの接吻は」
「ないのでは」
「美羽様、またお会いしたら」
 郭嘉はとろんとした目になって両手で袁術を抱き締めてだ。そうして話すのだった。
「宜しく御願いします」
「う、うむ」
 袁術本人もだ。これには唖然となっていた。
 そしてその唖然となっている顔でだ。郭嘉に応えていた。
「そうじゃな。わらわもな」
「文を送りますので」
「わらわもじゃ」
 戸惑いながらも応える袁術だった。とりあえず顔は今は蒼白だ。驚きによってだ。
 だがそれが次第に赤くなりながらだ。こう言うのであった。
「送るぞ。ただじゃ」
「ただ?」
「わらわの唇に接吻したのはじゃ」
 それをだ。郭嘉本人に話す。
「凛がはじめてじゃぞ」
「私はですか?」
「そうじゃ。凛がじゃ」
 こう言うのである。
「ううむ、しかし」
「しかしなんですか」
「接吻とは。よいものじゃな」
 真っ赤な顔になっていた。そのうえでの今の言葉だった。
「凛、よいぞ」
「私も接吻ははじめてでした」
「ではお互いはじめて同士じゃな」
「はい、そうですね」
「さらによいぞ。わらわ達の仲は永遠じゃ」
 こんな有様になってしまっていた。
 それを見て。落ち着きを取り戻した曹操が言う。
「これはねえ」
「何といいますかですね」
「ええ、そうね」
 こう張勲に応える。二人とも笑顔が引きつっている。
「凛はまだ全然手をつけていなかったけれど」
「そうだったのですね」
「何か全部美羽に取られちゃったわね」
「そうなってしまいましたね」
「仕方ないわね」
 今度は困った笑顔になる曹操だった。
「こうなったらね」
「ですが主従関係は続けられますね」
「ええ、それはね」
 続けるというのである。
「けれど。褥はね」
「諦めるしかありませんか」
「残念だけれどね」
 また言う彼女だった。
「けれど。あの二人は」
「異常に仲がいいと仰るのですね」
「ええ。貴女も入れてね」
 さりげなく張勲を見ることも忘れない。
「それはまたどうしてかしら」
「色々とありまして」
 にこりと笑って話す張勲だった。
「私達には」
「三人で、よね」
「はい、私達三人は」
 まさにそうだというのである。
「他の世界でもです」
「それを言うと複雑そうね」
「偶像支配者という世界で」
「おい、それ英語読みしたらどうなるんだ?」
 ヘヴィ=Dが思わず突っ込みを入れた。
「洒落にならないだろうが」
「確かにそうかも知れませんね」
 張勲はにこりと笑って返す。
「ですからそれはあえて言わないということで」
「それでもあの二人は凄いな」
「そうだな」
 ラッキーとブライアンもそれを話す。
「っていうかこの世界ってな」
「女同士もいいのか」
「別に男同士でもいいわよ」
 それを言うのは曹操だった。
「とはいってもあんた達はそっちの趣味はないのね」
「俺はな。そういうのには興味はないな」
 ヘヴィ=Dが答える。
「特にな」
「そうね。ただそういうことに縛りはないから」
「そのことはか」
「覚えておいてね」
「一応わかった」
 多少ぶっきらぼうに返すヘヴィ=Dだった。
「それはな」
「俺もな。一応はな」
「わかった」
 ラッキーとブライアンも応える。
「まあ乱もすぐに終わったしな」
「何よりだったな」
「そうね。それはね」
 そのことは素直に喜んでいる曹操だった。
「処罰も軽いもので済んだし」
「では国に帰りましたら」
「すぐにですね」
「ええ。政治よ」
 こう夏侯姉妹に返す。
「また忙しくなるわね」
「はい、ではそちらにも」
「励みましょう」
 相変わらずの袁術と郭嘉を見ながら話すのであった。黄巾の乱は完全に終わった。しかしであった。それは新たな乱のはじまりでもあった。


第六十三話   完


                      2011・2・15



乱も収まって、劉備もとうとう牧に。
美姫 「いよいよ、ここから出発って感じよね」
能力の高い臣下が居るからいきなりでも大丈夫だろうとは思うがな。
美姫 「暫くは政治関係かしらね」
しかし、書を奪われているからな。
美姫 「そっちは華陀たちが追うでしょう」
どうだろうな。これからどうなって行くのか。
美姫 「続きはまとめてすぐ!」
それでは、また後で。



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