『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第五十七話 豪傑達、荘に戻るのこと
長い旅の末にだ。ようやくであった。
劉備達は懐かしい桃家荘に戻った。するとだ。
「ああ、戻ってきたな」
「待っていたぞ」
まずはテリーとリョウが出迎えてきた。
「結構時間がかかったな」
「やっぱり国を端から端はそうなるな」
「皆さんお元気でしたか?」
劉備は彼等に優しい笑顔で応えた。
「どなたか病気には」
「ああ、その心配はないぜ」
「病気になるようなやわな奴は一人もいないからな」
二人は気さくな笑顔で劉備に返した。
「それは安心していいぜ」
「そういうことだ」
「そうですか。じゃあ安心していいですね」
「ああ。ただな」
「ちょっと妙な話が出てるな」
ここで二人はこう劉備に言ってきた。
「何でもここに牧さんが入るらしいな」
「あの袁紹さんだ」
「ああ、それは聞いてるぜ」
馬超が二人のその話に応えた。
「匈奴とか烏丸討伐の功績でだな」
「あの姫さんもあれで結構やるからな」
「この州にとってもいいことだな」
二人も袁紹を評価することは評価していた。
「確かにおかしなところの多い人だけれどな」
「それでもやることはやるんだな」
「まあこの州は今まで牧がいなかったしな」
「いいことだな」
だが、だった。二人はここでこんなことも言うのだった。
「これでこの州もな」
「万全の統治が行われるんだな」
「あの、実はですね」
「もう牧さんおられるんですけれど」
その二人にだ。孔明と鳳統はこう話すのだった。
「ちゃんとおられますよ」
「公孫賛さんが」
「誰だよ、それ」
「聞いたことないんだが」
二人はいぶかしむ顔で軍師二人に返した。
「公孫賛!?」
「朝廷の将軍の人か?」
「だとしても相当影の薄い人だな」
「ああ、俺達が知らないんだからな」
挙句にはこんなことを言う彼等だった。
「朝廷が荒れてるのは知ってるさ」
「残念な話だな」
「これが冗談ではないからなあ」
関羽も溜息をつくしかなかった。
「公孫賛殿も不憫だ」
「悪い人じゃないんだけれどね」
黄忠も関羽の言葉に同意して言う。
「それでもね」
「しかも無能でもないのだな」
魏延も実は彼女のことを全く知らない。
「それでなのか」
「個性がないのであろうな」
厳顔は一言で本質を突いた。
「それではどうにもならぬわ」
「そもそも公孫賛って誰なのだ?」
張飛に至っては忘れていた。
「何か聞いたことのある名前なのだ」
「だから袁紹さんのところに行く時に一緒にいたじゃない」
馬岱がその張飛に話す。
「あの人よ」
「神楽は覚えているのだ」
彼女のことは忘れる筈がなかった。
「けれどそんな奴は」
「実は私もね」
ここでその神楽が苦笑いと共に話す。
「あの人のことはあまり」
「そうなんですか」
「どうも存在感がないのよ」
月に核心を話す。
「だから。ちょっとね」
「何か可哀想な人ですね」
「そうね。私達外から来た面々は皆目立つけれど」
「そうですね。私達も言われます」
「確かにね」
ミナもそれは同じだった。
「私もそうだから」
「それにしても白桃ちゃんは」
ここでまた真名を間違える劉備だった。
「牧じゃなくなったらどうなるのかしら」
「その前に朝廷があの方が牧だと知っているのかどうかが問題だな」
趙雲の言うことは厳しい。
「大将軍も宦官達もな」
「どちらもですか」
「御存知ありませんか」
「知っていれば必ず声がかかる」
趙雲はこう軍師二人に話す。
「あれだけ激しい争いを続けていればな」
「そうですね。確かに」
「どちらも少しでも味方を増やしたいと思っていますし」
軍師二人もここでこのことを理解した。
「特に大将軍は各地の牧の方々を多く部下にされています」
「その袁紹さんだけでなく曹操さんに孫策さんに袁術さんに」
牧達の大半である。
「地方と兵権を握っておられます」
「力はおありですが」
「あの大将軍も基本的には悪人ではないわ」
黄忠はこのことを話した。
「生まれはよくないし判断力がないところもあるけれど」
「けれど外戚というだけで簡単に大将軍にはなれませんから」
「流石に」
軍師二人もそこを指摘する。
「ですからそれなりに」
「能力もあると思います」
「完全な馬鹿が大将軍にはなれないからな」
それは馬超もわかることだった。
「兵権を預かって朝廷でも三公の上に立つからな」
「そうよね。そこまでなる人だったら」
馬岱も考える顔で話す。
「幾ら皇后様のお姉さんってだけの人なら」
「そこまではなれんな」
厳顔も言う。
「ましてや肉屋の娘あがりで。そこまではのう」
「その大将軍が気付かないということは」
魏延も周りの話を聞いて述べた。
「そこまで存在感がないのか」
「だから誰なのだ?公孫賛は」
まだこう言う張飛だった。
「鈴々は知らないのだ」
「だから御前は一緒にいただろうに」
関羽も呆れる他なかった。
「何故知らないのだ」
「けれど結局はそういうことです」
「そうなります」
孔明と鳳統はその張飛の言葉について言った。
「鈴々ちゃんも忘れてしまう」
「それが公孫賛さんなんです」
「誰か知らないけれどな」
「何か不憫な人だな」
テリーとリョウも変わらない。
「まあとにかくな」
「話はそれ位にしてな」
「そうだよ。皆で来たんだから」
チャムチャムが笑顔で言う。
「皆でね。楽しくやろうよ」
「何か増えたしな」
「こっちに先に来た奴もいるしな」
テリーとリョウは彼等のことも話す。
「それならな」
「早速な」
こうしてだった。全員で劉備達の帰還を祝福してだった。
即座に宴の場が用意された。出されたものは。
「ううむ、馳走も」
「随分と変わったのだ」
関羽と張飛が思わず言う。見れば彼女達の世界にあるものばかりではない。
ロバートはだ。満面の笑顔でその二つを食べていた。
「やっぱこれやで」
「焼きそばにお寿司ですね」
「そや、この二つや」
こうアテナに話すのだった。
「わいはこの焼きそばと寿司が大好きなんや」
「ええと、ロバートさんって確か」
「そやったな」
ここでアテナとケンスウが眉を少し顰めさせて言う。
「イタリア人ですよね」
「それも大金持ちの」
「イタリア人なのは確かや」
ロバートはそれはその通りだというのだった。
「そやけどや」
「日本の食べ物ですけれど」
「大好物なんやな」
「寿司は江戸前ちゃうで」
しかも寿司に対してこだわりまで見せる。
「やっぱりあれや。上方や」
「大阪ですか?それだと」
「そっちなんかいな」
「そや、大阪や」
やはりそうだというのだ。
「大阪の寿司が最高やで」
「そういえば焼きそばもそうですよね」
「大阪やな」
「大阪最高や!」
挙句にはこんなことまで言い出す始末だった。
「食は大阪にありや!」
「それはいいんですけれど」
「ちょっとイタリア人には見えへんで」
「けどわいはれっきとしたイタリア人や」
「あの、ですけれど和食ばかり召し上がられて」
「イタリア料理あんまり食べとらんちゃいます?」
「そういえばそやな」
言われてやっと思い出す始末であった。
「何かわい空手やってからこうなったわ」
「そうだったんですか」
「極限流空手なんですな」
「そや。空手からや」
言うまでもなく日本文化である。空手もまた、だ。
「そっからやな。ここまで日本人になったんわ」
「日本人っていうか大阪人ですよね」
「もう骨の髄まで」
「ええこっちゃ」
しかもそれを肯定するのだった。本人から。
「わいはイタリア人であると共に大阪人になったんや」
「それがロバートだな」
リョウもここで言う。
「こいつはやっぱり大阪なんだよ」
「最近一段と凄くなってるし」
ユリは甘口のカレーを食べながら話す。
「お兄ちゃんは普通なのに」
「俺は普通か」
「だってロバートさんみたいに骨の髄まで大阪じゃないから」
「そういう意味でか」
「かといっても高知の匂いもしないけれど」
サカザキ家の出自はそこなのだった。ただしリョウはアメリカ人とのハーフでありアメリカでは日系人ということになっている。日系アメリカンなのだ。
「これといってね」
「鰹のたたきは好きだぞ」
「それでもよ。高知弁出さないし」
「そういえばそうだな」
「ロバートさんは大阪弁丸出しだけれどね」
「というか何でああなったんだ?」
リョウは餅に納豆を食べながら話す。
「日本文化、いや大阪文化がそれだけあいつに合ったのか」
「やっぱりそうなるわよね」
「大阪か」
かえすがえすもそれであった。
「大事なのは」
「そうなんでしょうね。大阪ね」
「大阪なあ」
「大阪ってどんな場所なのだ?」
張飛は焼きそばを豪快にすすりながら二人に問うた。
「楽しいところなのだ?それとも美味しいところなのだ?」
「どっちもだな」
「大阪はね」
これが二人の返答だった。
「美味いものは一杯あるし楽しい場所だらけでな」
「凄くいいところよ」
「それなら鈴々も行ってみたいのだ」
それを聞いてだ。張飛は明るい笑顔で言った。
「是非共なのだ」
「そうだな。機会があればな」
「鈴々ちゃんもね」
「けれど他の世界には行けないのだ」
ここで張飛の顔が困ったものになる。
「だからそれは」
「ああ、そういえばな」
「そうだったな」
草薙と大門がふと言った。
「聖フランチェスカ学園って学校があったな」
「そこの生徒達にそっくりな面々がいた」
「ああ、あそこな」
二階堂も二人の話から気付いた。
「あの学校に関羽達にそっくりな娘いたよな」
「っていうか皆いたぜ」
「うむ、間違いない」
「むっ、別の世界に別の我々がいるのか」
趙雲はやはりメンマを食べている。
「そうなのか」
「じゃあ私もいるのかしら」
「あっ、黄忠さんそういえば」
矢吹は鰯を貪りながら黄忠を見て言った。
「あの学校の保健の先生そっくり」
「ああ、そうだな。そういえばな」
「全くの生き写しだ」
草薙と大門も続く。
「そっくりさんなんてものじゃないな」
「ここまで同じとはな」
「あの、ひょっとして」
矢吹はだ。今度はうどんをすすっていた。とにかく彼等の世界の料理が揃っている。彼等は何でも食べているのであった。
「皆さん向こうの世界と行き来してません?」
「そんな器用なことができたら凄いぞ」
厳顔は酒を楽しんでいる。
「わし等は仙人ではないからのう」
「仙人は流石にいないな」
キングは豆腐のステーキを食べている。ここでもベジタリアンだ。
「それに近い人はいるが」
「ああ、タンさんね」
舞が食べているのはお雑煮だ。
「あの人なんかは」
「チンさんも?」
パオはチンを見ていた。
「それって」
「わしは仙人ではないぞ」
チンは笑いながらそれは否定した。
「決してのう」
「そうなんですか」
「わしは格闘家であって仙人ではないのじゃ」
これがチンの言葉だ。
「タンも同じじゃよ」
「玄武の翁は」
守矢が話す。
「どうなのだろうな」
「近いわね」
雪も考える顔で義兄に応える。
「あの人は」
「そういえば翁は今は」
「袁紹さんのところにおられるわ」
「そうか、あそこにか」
「ええ、元気らしいわ」
微笑んで彼に話す。
「だから安心してね」
「誰もがこの世界に来ているのだな」
守矢はここで少し俯く。
「そうなのだな」
「そうね。確かにね」
「しかし今はいいな」
だが、だった。守矢はここで話を打ち切った。
そしてそのうえでだ。こう言うのであった。
「今はそれよりもだ」
「この宴をね」
「楽しむ方が先だ」
微笑みながら。義妹に話す。
「その方がな」
「そうね。今はね」
「私も変わったか」
そしてだった。彼はこうも言うのだった。
「やはりな」
「いい方に変わったわ」
「そちらにか」
「以前の兄さんは張り詰めていたわ」
それがかつても守矢だというのだ。
「私達に迷惑をかけまいとして一人だけで先に進んで」
「だがそれは」
「よくなかったの。それは」
彼のそれをだ。否定する言葉だった。
「兄さんにとっても私達にとっても」
「御前や楓に。迷惑がかかっていたのか」
「結果としてね」
そうだったというのである。
「けれど今の兄さんならね」
「それはないか」
「そうなったわ。だから安心して見られるわ」
「そうか」
「だから私も」
上を見上げてだ。そうしてでの言葉だった。
「一人にならないわ」
「そうするといい」
静かに酒を飲みながらの言葉だった。
「そういうことか」
「そうね。そうなるわね」
彼等はそんな話をしていた。宴はそれぞれの話の中で行われていた。そしてだ。
劉備がだ。香澄からこんな話を受けていた。
「色違いですか」
「そうなんです。色違いなんです」
香澄は劉備に話す。
「私達の世界にはそういう人が多いんですよ」
「色が違って能力は同じなんですね」
「そうなんですよ。私達全員にいるんですよ」
「それも何人もですか」
「おかしな話ですよね」
「はい、そう思います」
その通りだと答える劉備だった。
「そんなことがあるんですね」
「それで偽者がどうとかって話にもなって」
香澄はさらに話す。
「結構複雑なんですよ」
「私もそっくりさんいましたけれど」
「誰ですか、その人は」
「はい、張角ちゃんです」
やはり彼女であった。
「もう髪の毛の色と声以外は本当にそっくりで」
「それってそのまま色違いですね」
「そうですよね。私もびっくりしました」
「ううん、世の中って本当に」
「いや、そっくりではなかったぞ」
ここで魏延が話してきた。
「私にはすぐにわかった」
「わかったんですか」
「桃香様のことなら何でもすぐにわかる」
魏延はここでは断言してみせた。
「何故なら私は常に桃香様のことを想っているからだ」
「はい、ここ重要」
お約束の馬岱の突っ込みであった。
「香澄さん、今こいつ想ってるって言いましたよね」
「はい、それは確かに」
「普通ここじゃ『思ってる』っていうけれど」
馬岱が指摘するのはこのことだった。
「こいつ今『想ってる』って言いましたね」
「それが何か」
「つまりこいつは桃香様のことが」
「ば、馬鹿を言え」
本人が顔を真っ赤にさせて文句を言ってきた。
「私はだ。あくまで桃香様の家臣としてだな」
「はい、じゃあ聞くわよ」
「むっ、何だ」
「桃香さんの今日の下着の色は?」
「白だ」
すぐに答える魏延だった。
「上下共にだ。純白の木綿のものだ」
「昨日の下着の色は?」
「薄い青だったな。どんな下着もよく似合われる」
「寝る時どうなってたの?昨日は」
「随分と寝乱れてておられた」
問われるままに話すのであった。
「おかげで太腿はおろかその薄い青の下着まで露わだった」
「こういう奴なんです」
ここでまた香澄に話す馬岱だった。
「最後の一線を踏み越えないのはただ度胸がないだけで」
「度胸といいますと」
「あっ、まさか香澄さんも」
馬岱は香澄もまた疎いことに気付いた。
「そうしたことは」
「何かあるんですか?それが」
「ああ、いいです」
わからないことがわかってだ。話を打ち切った馬岱だった。
「まあこいつはとにかく桃香さんのお傍にいたがるんで」
「主を御護りするのは当然のことだ」
「お風呂を一緒に入るのも?」
「その時が一番危険だからだ」
もっともな理由であった。
「だから私はだ」
「全く。そこまで想ってるのなら」
それがわかっている馬岱だった。
「さっさと一線越えたらいいのに」
「だから私はだ。あくまでだ」
「桃香さんの家臣だっていうのね」
「そうだ、それはだ」
「肝心なところで逃げ腰なんだから」
魏延のそうした性格を実によく把握している馬岱だった。
「そんなのじゃ何時までも同じだよ」
「貴様、一体私を何だと思っているんだ」
「皆気付いてるから」
しかし馬岱は容赦がない。
「本当に誰もがね」
「だから何に気付いているんだ」
「言うまでもないでしょ」
「くっ、何故ここまで言われるのだ」
「ばればれだからよ」
馬岱の方が二枚も三枚も上手であった。そんな状況だった。
しかしそんな中でだ。宴は楽しく進んでいた。そしてである。
張飛はだ。こんなことを言った。肉を食べながら。
「そういえばなのだ」
「そういえば?」
「どうしたんだよ、急に」
関羽と馬超が彼女に問う。
「何かに気付いたのか?」
「だとしたら何だよ」
「最近何だかんだで落ち着いてきているのだ」
張飛はこう言うのだった。
「天下は乱れていると思ったら案外そうでもないのだ」
「地方はそうですね」
「確かに」
それにだ。軍師二人も言う。
「都はともかくとして」
「各州は」
「そうなのだ。それはいいことなのだ」
「ただ。注意して下さいね」
「肝心の都が危ないですから」
孔明と鳳統は少し厳しい顔になってそのことを指摘する。
「ですから決してです」
「油断できません」
「うう、じゃああれなのだ?」
張飛は難しい顔になって述べた。
「この穏やかさも何時どうなるか」
「はい、残念ですが」
「その通りです」
やはりこう話す孔明と鳳統だった。
「都が安定しない限りは」
「本当にどうなるか」
こう話すのであった。そんな状況なのだ。
しかし今はであった。幽州も穏やかである。平穏の中にあった。
桃家荘に戻ってから一週間が経った。その間劉備はだ。
のどかにその日々を過ごしていた。桃の木々の中で呑気にお茶やお菓子を食べながらだ。
「ううん、何かこのまま」
「このままとは?」
「どうかしたのだ?」
「平和に時間が過ぎたらいいなあって」
劉備もまたこんなことを言うのだった。
「そう思うけれど」
「確かに都は不穏だそうだが」
「それでも確かに平和になってきているのだ」
関羽と張飛も長姉のその言葉に頷く。
「我々もこのままな」
「仲良く暮らしたいのだ」
「そうよね。本当にね」
劉備は穏やかな笑顔であった。しかしだ。
その彼女達のところにだ。馬岱が来た。そうして三人に言うのだった。
「あっ、ここにいたんだ」
「あれっ、蒲公英ちゃん」
「どうしたのだ?」
「朝廷の人が来てるけれど」
こう三人に話すのである。
「桃香さんに御会いしたいって」
「私になの」
「そう。それでどうするの?」
「朝廷からの人がなんて」
劉備はだ。このことに驚きを隠せなかった。そのうえで馬岱に返すのだった。
「絶対に会わないと」
「そうよね。それじゃあね」
「ええ、それじゃあ」
こうしてだった。劉備は馬岱に案内されて館の客室に向かった。無論関羽と張飛も一緒である。するとそこにいたのは。
「むっ、御主は」
「呂布なのだ」
「そう」
呂布がそこにいた。そして陳宮もだ。
「用事があって来た」
「しっかり聞くのです」
当然陳宮も言う。
「今日恋殿が来られたはです」
「用件があるとのことだが」
「何なのだ、それで」
「反乱が起こった」
三人にこう話す呂布だった。
「それで」
「反乱!?」
「では都でか」
「遂になのだ」
「だったら何でねね達がここまで来られるのです」
陳宮はむっとした顔で三人に返した。
「恋殿はその朝廷の使者として来たのです」
「恋実は」
その呂布の言葉である。
「朝廷の官位持っているから」
「だから朝廷の使者として来たのです」
「むっ、そうだったのか」
「呂布は官位持っていたのだ」
「そう」
その通りだとだ。関羽と張飛に話をするのだった。
「その通り」
「確かにその強さではな」
「官位を貰えるのも当然なのだ」
「恋殿は強いだけではないのです」
あくまで呂布を褒め称える陳宮だった。
「優しくて賢いのです」
「賢いのだ!?」
それには疑問符を投げかける張飛だった。
「あまり喋らないからわからないのだ」
「将棋で誰にも負けたことがないのです」
「むっ、将棋強いのだ」
「そうなのです。何をやっても一番強いのです」
「じゃあ兵法もなのだ」
「そうなのです。とにかく何でも強いのです」
ただ武勇が凄いだけではないというのである。
「それが恋殿なのです」
「呂布は想像以上に凄かったのだ」
「どうなのかです。恋殿こそは最高の武将なのです」
「じゃあ軍師は必要ないのだ!?」
あっさりと核心を言う張飛だった。
「御前はどうなるのだ?」
「うっ、それは」
「そこまで凄かったら軍師は必要ないのだ」
「それは違う」
陳宮が困っているとその呂布が言ってきた。
「恋、ねねが必要」
「けれど呂布は凄過ぎるのだ。それだったら」
「違う。人は誰かが絶対に必要だから」
こう言うのである。
「恋、ねねが傍にいないと」
「駄目なのだ!?」
「何時も傍にいて欲しい」
これが呂布の言葉だった。
「そういうもの」
「そうなのだ」
「そう。恋、ねねが好き」
ぽつりとだが確かな言葉だった。
「そのねね、いつも恋のことを考えてくれて」
「そうなのね」
「そして助けてくれる。ねね、とても大事」
こう言ってだ。その陳宮を見下ろす。
「ずっと一緒にいて欲しい」
「恋殿・・・・・・」
陳宮もその呂布の言葉を受けて暖かい顔になる。そしてであった。
あらためてだ。劉備達に対してこう言うのであった。
「それで反乱のこと」
「あっ、ああそうだな」
「そうでどうなったのだ!?」
関羽と張飛がふと気付いた顔になって言った。
「何処で反乱が起こったのだ」
「都でないのはわかったのだ」
「徐州」
そこだとだ。呂布は答えた。
「そこで反乱が起こった」
「えっ、徐州って」
それを聞いてだ。劉備は思わず驚きの声をあげた。
「あそこでなんですか?」
「そう」
呂布は劉備に対しても口調を変えない。
「あそこで」
「けれどあの州は」
「そうだな、我々は前に通ったが」
「平和だったのだ」
関羽と張飛もそれぞれ言う。
「それで反乱が起こるとは」
「信じられないのだ」
「けれど起こった」
しかしだという呂布だった。
「それでここにいる面々に」
「兵を出してもらいたいのです」
そういうことだというのであった。
「すぐに徐州に向かって欲しい」
「いいのです?」
「はい、わかりました」
即答する劉備だった。
「反乱が起こったら何の罪もない人達が巻き込まれますか」
「そう、それが問題」
呂布もそれを指摘する。
「悪い奴等をやっつけるだけならいいけれど」
「そうですよね、本当に」
「だから御願い」
呂布は劉備にさらに話す。
「反乱平定の為に徐州に」
「それじゃあすぐに」
「幽州は牧がいなくてそれでなのです」
陳宮はここでこんなことを言った。
「幽州で一番力のある劉備殿に白羽の矢が立ったのです」
「むっ、幽州の僕は公孫賛殿だが」
「そちらには声はかけないのだ?」
「誰なのです?それは」
陳宮は関羽と張飛の言葉に目をしばたかせる。
「聞いたことないのです」
「幽州には今のところ牧はいない」
呂布も言う。
「今度袁紹がなるけれど」
「そうなのです。だからねね達はここに来たのです」
そうだというのだ。
「牧がいればそこに行っているのです」
「朝廷はここに来るように言ってたから」
「公孫賛殿はどうやら本当に」
二人の言葉からだ。関羽はある事実を理解した。
「朝廷にも忘れられているようだな」
「だから誰、それ」
「知らない名前なのです」
やはりこう言う呂布と陳宮だった。とにかく誰からも忘れられている公孫賛だった。しかし何はともあれだった。彼女達の出陣が決まった。
「じゃあ出陣するのは」
「はい、そうですね」
「誰が出るのかを決めましょう」
皆宴が行われている部屋に集まっていた。そのうえで席について話すのだった。
孔明と鳳統がだ。劉備に話すのだった。
「まず愛紗さんに鈴々ちゃんですね」
「お二人は外せません」
その二人は絶対にだというのだった。
「それと星さんに翠さんですね」
「お二人も」
「うむ、わかった」
「それじゃあ行かせてもらうな」
それぞれ笑顔で応える二人だった。
「それと紫苑さんもですね」
「御願いできますか?」
「ええ、わかったわ」
すぐに頷く黄忠だった。
「この五人の方が軸で」
「そして軍師の私達に」
彼女達自身もだというのである。
「あとは」
「他には」
軍師二人は席を見回す。そうしてまた言うのであった。
「草薙さんにテリーさん、リョウさん」
「アテナさんにナコルルさん、ケンスウさんに舞さんですね」
他の世界の面々の名前も挙げていく。
「御願いできるでしょうか」
「ここは」
「ああ、わかった」
草薙が笑顔で二人の言葉に応えた。
「じゃあ暴れさせてもらうな」
「他の人達は留守番を御願いします」
「兵は三割置いていきますので」
「えっ、じゃあ蒲公英は!?」
「だから留守番だろ」
従妹にすぐに告げた馬超だった。
「御前呼ばれなかっただろ」
「そんな、折角の戦なのに」
「ちょっとは大人しくしてろ」
こう自分の左隣に座っている従妹に言うのだった。
「今まで散々悪戯してたんだからな」
「うう、何か面白くない」
「まあ蒲公英くちゃんはですね」
「ここは留守番を御願いします」
軍師二人はわかっていて言う。
「そういうことで」
「それじゃあ」
「俺留守番なのかよ」
矢吹はだ。ここで実に落胆した顔をみせた。
「折角草薙さんと一緒にって思ったのにな」
「そういうのは火を出せるようになってからだな」
「うむ、そうだな」
その矢吹に二階堂と大門が言う。
「それからだな」
「今は修業だ」
「そうですね。火が出せるようになってから」
二人の言葉にすぐに元気を取り戻す矢吹だった。
「俺、その時に頑張ります」
「だから出ねえって」
草薙の言葉は容赦がない。
「この火は特別なんだからな」
しかし矢吹の耳には入らない。そしてである。
劉備がだ。こんなことを二人に言うのであった。
「あの、私は?」
「えっ、桃香さんですか」
「一体何でしょうか」
「私呼ばれなかったけれど」
きょとんとして二人に尋ねるのであった。
「それじゃあ私は」
「あの、桃香さんは」
「勿論なんですけれど」
孔明と鳳統はきょとんとした顔で劉備に返す。
「出陣を御願いします」
「絶対にです」
「そうなんですか」
「総大将ですから言うまでもないって思ってましたけれど」
「あの」
軍師二人も驚きを隠せない。
「ですから」
「それは」
「そうだったんですか」
「はい、そうです」
「じゃあ御願いします」
これで話は決まった。しかしであった。
ここでまた一人だ。名乗り出てきたのであった。
「待ってくれないか」
「あっ、焔耶さん」
「やっぱりなんですね」
「そうだ、桃香様が出陣されるのならだ」
魏延は身を乗り出しながら二人に言うのだった。
「私もだ」
「あの、けれど」
「もう人は」
「桃香様は私が御護りする」
あくまでこう言うのであった。
「だからだ。何があってもだ」
「そうですか。じゃあ」
「御願いできますか?」
「桃香様、ご安心下さい」
魏延は今度は劉備に顔を向けて断言した。
「この焔耶、何があろうと桃香様を」
「はい、じゃあお願いね」
桃香だけがにこやかである。
「焔耶ちゃん、出陣の時もね」
「わかりました、それでは」
「ちぇっ、焔耶はよくて私は駄目なの」
それが面白くない馬岱だった。
「何だってのよ」
「だから諦めろ」
またここで従姉が言う。
「全く御前は」
「だって戦だから」
「それでも今度は留守番しろ」
あくまでこう言う馬超だった。
「いいな、絶対にだ」
「ちぇっ、つまんないの」
「とにかくですね」
「それではすぐに準備をしましょう」
孔明と鳳統は話を中断させてとりあえず馬岱を援護した。
「用意ができ次第出陣です」
「徐州に」
「はい、わかりました」
劉備が笑顔で応える。こうして出陣が決定したのだった。
劉備達は徐州に出陣する。そしてまたしてもだ。彼女達は運命と巡り会うのだった。
第五十七話 完
2011・1・17