『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第五十四話 三姉妹、変装するのこと
剣を修復するという目的を果たし孟獲等を仲間に加えた劉備達は幽州に戻っていた。その時にだった。
「何か帰り道は」
「あっさりとしているな」
「そうですよね」
劉備が関羽と話していた。勿論他の面々も一緒である。
「何か順調にいっていて」
「不思議な位だ」
「あまり面白くないのだ」
張飛はふてくされたような顔で述べるのだった。
「帰り道も派手じゃないと面白くないのだ」
「だよなあ。折角漢を北から南にだったからな」
馬超も張飛のその言葉に頷く。
「何かこうな」
「帰り道も派手になのだ」
「ふむ。それではだ」
二人にいつも通り乗る趙雲であった。
「二人共今夜はだ」
「今夜は?」
「何だってんだよ」
「風呂の中でもいいが」
思わせぶりな笑みでだ。こう二人に言うのである。
「どうだ?肌を重ね合わせるか?」
「そんなことして何になるのだ?」
「お、おいそれはまずいだろ」
張飛と馬超で全く違う言葉を返す。
「一緒に寝るのならいいのだ」
「だからあたしは別にそんなことは」
「ふむ。鈴々はわかっていないから別にいいが」
趙雲は馬超を妖しい笑みで見ていた。
「翠はわかっているな」
「わかっているんならどうだってんだよ」
「それでいい」
いいというのである。
「では今夜。愛紗も入れて三人でだ」
「だから三人で何するんだよ」
「何故そこでいつも私が入るのだ」
「大きい胸同士三人で楽しもうではないか」
こんなことを言うのであった。
「どうだ?それで」
「だからいいっていってんだろ」
「私はその趣味はないぞ」
「今はなくてもそれでもだ」
ここでも二人を手玉に取る趙雲だった。
「よいではないか。それもまた」
「うう、駄目だ星には」
「勝てん」
少なくとも二人には無理な話であった。
「あたしはまだそうした経験は全然ないんだよ」
「私もだ」
「安心しろ、私もだ」
妖しい笑みはそのままの趙雲である。
「だからだ。はじめて同士でだ」
「星ちゃんは相変わらずね」
「そうじゃな」
そんな趙雲を見てだった。暖かい笑みで話す黄忠と厳顔であった。
「実はそうしたつもりはないのに」
「ああして二人をいじっておるからのう」
「そうして楽しむのも」
「よいことじゃ」
「そうなんですか?」
「翠さんも愛紗さんも困ってますけれど」
孔明と鳳統はいぶかしみながら二人に問うた。
「それでもなんですか」
「いいんですか」
「そういうのもまたね」
「友の付き合いぞ」
大人の余裕で話す二人であった。
「そういうこともそのうちわかるわ」
「大きくなればのう」
「私できれば」
「私も」
軍師二人は大人二人の言葉を受けてこう言うのであった。思い詰めたような顔になってだ。
「胸がそうなれば」
「本当にそうなれば」
「またその話なのね」
「好きだな、二人共」
馬岱と魏延がその軍師二人に言ってきた。
「こだわり過ぎじゃないかな」
「そう思うがな」
「何か蒲公英ちゃんも最近」
「私達よりも」
孔明と鳳統はその馬岱の目を横目でじっと見て話した。
「大きくなってない?」
「そうよね。やっぱり」
「私だって胸ないわよ」
二人にだ。馬岱は眉を顰めさせて返した。
「桃香さんや愛紗さんみたいにはいかないから」
「うう、そういえば桃香さんのおっぱいって」
「大きいだけじゃなくて」
それに止まらないのが彼女の胸だった。
「弾力もあるし」
「お椀みたいになってて」
「凄過ぎるわよね」
「どうやったらあそこまで」
「だから胸の話はそこまでにしてね」
馬岱がまた二人に言う。
「まあそれはそうとしてね」
「そうとして?」
「何かあるの?」
「うん、その桃香さんだけれどね」
馬岱がここで話すのは劉備自身のことだった。
「数え役萬三姉妹の一人に似てない?」
「あっ、そういえば」
「そうね」
「確かに」
神楽にミナ、月が馬岱の今の言葉に頷いた。
「長女の張角ね」
「あの娘に顔も胸も」
「背丈もですよね」
「違うのは髪の色だけで」
馬岱はさらに話す。
「もう何もかもが」
「あっ、それ最近言われます」
劉備自身もそうだと言ってきた。
「私と張角ちゃんそっくりだって」
「そうですよね。本当に似ていますから」
馬岱は劉備本人にも話した。
「そっくりさんっていう位に」
「おっぱいがもう一つあるにゃ!?」
孟獲は話を聞いてこう考えた。
「それは最高にゃ。もう一つあったらもっと幸せになるにゃ」
「大王様、この場合はにゃ」
「二つになるにゃ」
「おっぱいは二つあるものにゃ」
トラ、ミケ、シャムは孟獲にさりげなく話す。
「奇麗で大きいおっぱいがさらに二つ」
「二つと二つで沢山」
「凄くいいことにゃ」
「そうにゃ。おっぱいが沢山あるにゃ」
孟獲は劉備のその胸を自分の頭で下から突き上げながら笑顔でいる。
「美衣はそれだけで幸せになれるにゃ」
「ふむ。そういえばだ」
趙雲がここで言う。
「これから徐州に入るがだ」
「何かあるのかよ、徐州に」
「その三姉妹が来ているそうだな」
趙雲は馬超の問いにこう答えた。
「それで舞台を開くそうだ」
「あっ、そうなんですか」
それを聞いてだ。目を輝かせる劉備だった。
「じゃあここはですね」
「その舞台をね」
「観たいというのじゃな」
「はい、それでいいですか?」
劉備はにこにことして黄忠と厳顔にも尋ねる。
「張角ちゃん達とても可愛いですし」
「そうね。旅も長かったし」
「ここで皆のご褒美によいのう」
二人も笑顔で劉備のその提案に頷く。
「じゃあ。徐州に入ればね」
「舞台を観るとしようぞ」
「あの三姉妹もかなり凄くなったな」
今言ったのは関羽である。
「最初はしがない旅芸人だったそうだが」
「そうなのだ。今じゃ誰でも知っているのだ」
張飛も言う。
「国の誰もがそうなのだ」
「知っているだけではないな」
魏延も話に加わる。
「その歌と演出も有名だな」
「何かお金とか管理している人が凄いみたいね」
馬岱が指摘するのはそこだった。
「ええと、黒と白の服の格好いい女の人達だって」
「黒と白なのね」
「はい、あまり表に出ないそうですけれど」
馬岱は神楽に対しても答えた。
「凄い人達みたいです」
「そうなのね」
「他にも応援団が一杯ついてますし」
「それは私達の世界と同じね」
その話になるとだ。神楽は笑ってこう言った。
「私達の世界もね」
「ああした娘達には応援団がなんですね」
「ええ、つくわ」
神楽は劉備にもこう話した。
「人気が出るとね。実力があると余計にね」
「あの娘達歌も凄く上手ですから」
肝心のそれもだというのだ。
「もう誰が聴いてもっていう位に」
「鬼に金棒ね」
「じゃあその舞台に」
「ええ、行きましょう」
こんな話をしていた。一行だった。そしてその中でだ。
タムタムはだ。こうチャムチャムに話した。
「チャム、ここは」
「お兄ちゃん、どうするの?」
「先に行く」
そうするとだ。妹に話すのだった。
「タムタム先にその幽州に行く」
「そうするの」
「北に悪い奴いる」
だからだというのである。
「それで行く」
「そう。それじゃあ」
「劉備達には話しておいて欲しい」
「お兄ちゃんからも話したら?」
「確かに。じゃあそうして」
「うん、行ってらっしゃい」
「また会う」
こんな話をしてだった。タムタムは先に桃家荘に向かった。一行は徐州に入った。
その頃だ。三姉妹の間では。こんな話をしていた。
「折角徐州に来たし」
「どうしたの、姉さん」
「何かあるの」
張梁と張宝が張角に問う。三人は今自分達が泊まっている立派な宿の中にいる。それぞれ天幕のベッドに座って話をしているのだ。
「ここ何度か来てるけれど」
「それでも」
「街を見回りたいの」
こう二人に言う張角だった。
「駄目かな、それ」
「別にいいけれど」
「一人で?」
「そう、一人で」
また言う張角だった。
「駄目かな、それって」
「それじゃあ姉さんだってすぐにばれない?」
「私達もうかなり有名になってるから」
二人も姉の我儘な性格は知っていたので止めなかった。言っても結局のところ外に出るとわかっていたからだ。だがそれでもだった。
二人はだ。姉にこのことを言うのだった。
「ばれたら大変よ」
「それこそ何が起こるか」
「うん、だから」
不意にだ。張角はあるものを出してきた。それは。
「これ被ってね」
「髪の毛?」
「それなの」
「これをこうして」
ピンク色の長い髪の鬘を頭に被った。それで言うのだった。
「どうかな、これで」
「髪の色変わっただけじゃない」
「どう見ても」
醒めた言葉で言う妹二人だった。
「全然変わってないし」
「私もそう思う」
「ここで服も着替えて」
しかしまだ言う張角だった。白と緑の服も出しての言葉だ。
「どうかな、これで」
「下着は元々ピンクだけれど」
「それはいいの」
「下着なんて見せないとわからないから」
能天気に言う長姉だった。
「だからこれで問題ないわよ」
「ううん、それでも姉さんにしか見えないけれど」
「それでもなのね」
「そう、これで大丈夫よ」
こう言い切る張角だった。とりあえず髪はピンクになり服も着替えた。
「私が天和だってわからないわ」
「じゃああれよ。鋸とか鉈とかは振り回さないでね」
「それは御願い」
「お姉ちゃんそうしたのは」
「だって。姉さん何かあったら」
「そっちの方にいくから」
だからだという二人だった。
「中に誰もいませんよとか」
「それは絶対に止めて」
「わかったわ。じゃあ」
いい加減諦めた張角だった。否定できないからだ。
「そういうのはね」
「そう、絶対にね」
「気をつけて」
「何ならね」
「私達も」
心配でだ。妹二人もこう言わずにはいられなかった。
「一緒に行く?」
「やっぱりそうした方が」
「ううん、いいかな」
張角はここで迷いを見せた。
「お姉ちゃんだけだと何か」
「そう、不安だから」
「どうしても」
やはりであった。そうなるのだった。
「一緒に行こう」
「三人でね」
「ううん、じゃあそうしよう」
そして二人の言葉に頷く張角だった。そうしてであった。
三人はそれぞれ変装をした。張角はそのままの格好で後の二人は。
張梁は髪の色を黒くしてそれで上で束ねて黒い眼鏡をしている。服は赤にしている。そしてネクタイはかなり派手な黒と黄色の柄だ。
張宝は髪を青くして眼鏡を外してだ。青と白の服である。
「あれっ、一和ちゃんの服って」
「どうしたの」
「綾とか波とか?」
こんなことを言う張角だった。末妹のその姿を見てだった。
「そんな格好?」
「何、それ」
「何となく思ったけれど」
それでだと言う張角だった。
「そんな感じ?」
「そうなのね」
「それで地和ちゃんは」
真ん中の妹についても言うのだった。
「バイスさん達が言うあっちの世界の悪い人みたいだけれど」
「イメージはしたけれど」
「やっぱりそうなの」
「どう、この格好」
黒眼鏡の中で誇らしげな顔をしている次妹だった。
「中々似合ってるでしょ」
「何でその格好なのか気になるけれど」
「何となくだけれど」
張梁もこう言うのであった。
「それでなの」
「そうなのね」
「そういうこと。それで姉さん」
「うん、それで」
「何処に行くの?」
張梁は姉に具体的に尋ねた。
「それで」
「ええと、それは」
「それは?」
「何処に行こうかしら」
張角の返答は実にいい加減なものだった。
「それで」
「ひょっとして外に出たいだけで」
「何も考えてなかったの」
「だってお姉ちゃん」
ここで本領を発揮する彼女だった。まさに張角だった。
「自分でそういうの考えたことないし」
「やれやれね」
「姉さんらしいわ」
そんな長姉に呆れて返す妹二人だった。
「そういうところ本当に姉さんね」
「全く」
「駄目かな、やっぱり」
「一緒に来てよかったわ」
「地和姉さんに同じ」
怒りはしない。慣れているからだ。しかし言わずにはいられないのだった。
「子供の頃からずっとそうだったし」
「放っておけないから」
「そうなの?」
「そうよ、絶対に」
「だから一緒に来たし」
それでだとも話す二人であった。
「まあとにかくね」
「それなら」
「うん。何処に行くの?」
「街に行きましょう」
「そこにね」
二人の提案はこうであった。
「彭城の街にね」
「ここだけれど」
「ええと、彭城って」
その名を聞いてだ。張角はふと考える顔になって述べた。
「どんな街だったかな」
「項羽のあれじゃない」
「本拠地だった場所よ」
「あっ、そうだったわね」
言われてやっと思い出す張角だった。
「あの西楚の覇王ね」
「滅茶苦茶強かったのよ」
「それで一旦は天下を治めたのよ」
この人物のことはこの時代においてもよく知られていた。その強さは伝説にさえなっていた。そしてその名前はどうなっているかというとだ。
「そのまま孫策さんの仇名にもなってるし」
「小覇王」
「それって孫策さんはまだ項羽さんにまでなってないってこと?」
張角は何気にこう言った。
「流石にそこまではなの」
「まあそうね」
「確かに孫策さんも強いけれど」
妹二人もここで姉に話す。
「項羽まではね」
「いってないわ」
「三万で五十万以上の大軍を破ったからね」
「それもあっという間に」
「そんなに強かったのね」
そのことをあらためて知った張角だった。
「西楚の覇王って」
「袁術も覇王って自分で言ってるけれどね」
「どうしてかわからないけれど」
実はそんなこともやっている袁術だった。
「あの人も歌上手いらしいけれど」
「それもかなり」
「ライバルとか?」
張角はふと言った。
「そういえばお姉ちゃんもそうだけれど」
「そうだけれどって?」
「今度はどうしたの」
「違う名前で舞台やったことあるけれど」
「楚四義だったわね」
「あれ、誰でもわかってたから」
また突っ込みを入れる二人の妹だった。
「だって。顔そのままだったから」
「わからない人いない」
「袁術さんもそうなのかな」
張角はさらに話すのだった。
「違う名前でお忍びでとか」
「それ言ったら皆そうよ」
「地和姉さんは違うけれど」
また言う二人の妹達だった。
「姉さんだってそうだし」
「そう。違う名前は言わないこと」
「ううん、妙は本名で」
しかしまだ言う張角だった。
「他の羽由とか真白とか凛とかは」
「姉さん違う名前多過ぎ」
「そんなのあったの」
「気付いたら」
そうだというのである。
「増えてて」
「全く。違う名前一杯用意しても」
「皆すぐにわかるから」
「変装よりも?」
「そう、そっちよりももろばれ」
「今の方がましな位」
その下手な変装でもだというのだ。見れば長姉が一番変装が下手だ。ただ色違いにしか見えない。
「けれどそういう人が多いのもね」
「事実だし」
「多いの」
「っていうか私達の殆どがよ」
「それまた言うけれど」
「お姉ちゃんだけじゃないのね」
それを聞いてまた能天気に笑う張角だった。そしてだ。
「よかったわ。それじゃあ」
「よくないから」
「中の話は洒落にならないから」
「中はなの」
「そうよ。それ注意してね」
「姉さんも中の話は」
妹二人は厳しい一面もあった。しかし能天気なままの長姉であった。
そして劉備達もだ。今彭城に来ているのだった。その話すことは。
「じゃあここが」
「はい、そうです」
「ここがです」
孔明と鳳統が劉備に説明していた。街を歩きながら。街は人が多いが今一つ活気がない。何かが足りない感じがそこにはあった。
「西楚の覇王項羽の本拠地だった場所です」
「そうだったんです」
「歴史のある街なのね」
「そうなります」
「項羽が死んでもこの街は残っていますし」
「項羽はとにかく強かったそうだな」
関羽は強い顔で語った。
「我々が束になっても敵わない程にな」
「それは鈴々も思うのだ」
張飛ですらであった。
「項羽の強さは尋常ではなかったと聞いているのだ」
「今天下で最強と言われているのは」
「呂布だろうな」
趙雲と馬超は彼女の名前を出した。
「あれでようやくか」
「相手にできる位じゃねえのか?」
「そうね。項羽は別格ね」
黄忠もそれを認める。
「歴史にもそう書いてあるし」
「まああれじゃ」
厳顔も話す。
「項王は別格じゃな」
「別格なのだ」
「あそこまで瞬く間に果たせた者はおらん」
それは厳顔も認めることだった。張飛にも返すのだった。
「敗れはしたがのう」
「それでもなんですね」
「やはり大した者じゃった」
劉備にも話すのだった。
「強さもな」
「けれど。愛紗ちゃんでも勝てないって」
「いや、ここにいる全員が向かってやっと五分だな」
趙雲も項羽についてはこう話した。
「話を聞いているとだ」
「やっとって」
「項羽の強さはそこまでだった」
趙雲はまた話すのだった。
「一人であそこまでできたのだしな」
「まあなあ。正直今の時代にいても凄かっただろうな」
馬超も考える顔で述べる。
「項羽だけはな。洒落にならないよ」
「その項羽のいた場所だけれどね」
黄忠は周りを見回していた。その城のだ。
「牧がいないせいね。今一つ活気がないわ」
「そうですよね。そこそこ栄えていても」
「しっかりとした牧がいないから」
黄忠は馬岱にも話した。
「そのせいでね」
「誰かいないかしら。牧は」
「曹操殿か袁紹殿は駄目なのか?」
魏延は二人の名前を出した。
「あのお二人のどちらかで」
「それか孫策殿じゃな」
厳顔は彼女の名前を出した。
「三人の治める場所の丁度間にあるがのう」
「その間にあるのがまずいと思います」
「それがです」
ここでだ。孔明と鳳統が指摘した。
「お互いに影響し合う場所にありますから」
「簡単に牧に名乗り出られないんです」
「三人共何進大将軍の下にいるのにか?」
魏延はいぶかしむ顔で二人に問い返した。
「それでもか」
「三人共自分達の勢力を持っておられますから」
「ですからそれもあって」
事情は複雑なのだった。
「ここは誰か牧になるのに相応しい方がおられれば」
「三人以外の」
「袁術殿は・・・・・・無理だな」
関羽は彼女の名前を出したがすぐに自分で引っ込めた。
「御自身の場所だけで手が一杯だな」
「はい、そう思います」
「袁術さんも」
二人も彼女についてはこう見ていた。
「あの州は治める領域も人も多いですから」
「それに南部を治めはじめられたばかりですし」
「ですから今は」
「徐州までは」
「そうだな。公孫賛殿も幽州におられるしな」
関羽がこの名前を出すとだった。孟獲がきょとんとして言うのだった。
「誰にゃ?それは」
「そうにゃ。聞いたことがないにゃ」
「何処の誰にゃ?」
「全く知らないにゃ」
トラ、ミケ、シャムも続く。
「誰も知らないにゃ?その人」
「多分存在感が薄いにゃ」
「そうに違いないにゃ」
「その通りだ」
趙雲も彼女達のその言葉を認めて言う。
「あの方は。残念だが」
「そういえば何か幽州の牧に袁紹さんがなるらしいですね」
馬岱はふとこのことを皆に話した。
「そんなこと話してる人いますよね」
「ああ、烏丸とか匈奴とかの征伐の功績でだな」
馬超はその根拠はそれだと見ていた。そしてその通りだった。
「確かに充分な功績だけれどな」
「けれど。そうなったら公孫賛はどうなるのだ?」
張飛はいぶかしむ顔で言った。
「鈴々も忘れていたのだ」
「絶対に忘れられてますね」
「朝廷にも」
孔明と鳳統はそう見た。
「多分。朝廷も袁紹さんも幽州に牧はいないと考えておられます」
「ですからそこに袁紹さんを」
「気の毒な話だな」
ここまで聞いてだ。関羽は憂いのある顔を見せた。
「公孫賛殿にとっては」
「桃々ちゃんって何か」
また真名を間違えている劉備だった。
「悪い娘じゃないけれど」
「存在感がないわね」
神楽もこのことは熟知していた。
「それもかなり」
「そういう人っているわね」
「そうですね」
それはミナと月も言う。
「中にはそうした人も」
「やっぱり」
「そうした人は何をどうやっても目立てないのよ」
神楽が今話すことは厳しい現実だった。
「どう努力してもね」
「希望はないのか」
「残念だけれど」
首を横に振って関羽にも述べる。
「そうした場合は」
「本当に気の毒だな」
また言う関羽だった。話をここまで聞いてだ。
「悪い方ではないし無能でもないのだが」
「だから器用貧乏なのだ」
趙雲が指摘するのはそこだった。
「曹操殿の様に何でもできる訳でも袁紹殿の様にやたらとムラがある訳でもないな」
「それか」
「かといって孫策殿の様に武勇に秀でている訳でも袁術殿の様に芸がある訳でもない」
「噂ではふがふがと言う癖があるそうだけれどね」
黄忠は公孫賛のこんな噂を話した。
「あとは包丁を使うのが得意だったかしら」
「弟を溺愛しているともいうがのう」
厳顔も話す。
「しかしそれはあくまでのう」
「中の話だから」
「少なくとも今の本人の話ではないからのう」
「どうしようもないわね」
こんな話をしながら街を歩いていた。そしてだ。
バイスとマチュアはだ。三姉妹がいなくなったのを見てだ。こう話すのだった。
「また勝手に出ていったわね」
「そうね」
別に困ったものは見せていなかった。ただこう話すだけだった。
「さて、それならね」
「ええ、それはかえって好都合ね」
こう話してだった。二人で向かい合ってだ。
あらためてだ。こんなことを話すのだった。
「状況はいいかしら」
「どうかしらね」
こう話していくのだった。
「あの三姉妹の力は確かに凄いけれど」
「特に長姉はね」
張角のその潜在能力にはとりわけ注目しているのだった。
「けれど。性格が」
「ええ。無邪気だから」
「それも三人共ね」
「有名になって遊びたいだけだから」
それが三人が基本的に願っていることなのだった。
「ここで野心を出して乱を起こしてくれたらいいのだけれど」
「そうは上手くいかないみたいね」
「おい、それは困る」
ここでだ。二人の前に小柄な緑の髪の男が出て来た。服は白い。
その男はだ。怪訝な顔で二人に話すのだった。
「何の為の太平要術の書だ」
「あら、左慈ね」
「来たのね」
「進むのが遅いな」
ここでこう言う左慈だった。
「それで気になってだ」
「わざわざここまで来てなのね」
「私達にハッパをかけにきたのね」
「そういうところだ。この国は騒乱に向かうと思われたが」
「思ったようにはいっていないわね」
「想像以上にしっかりしてるわ」
バイスとマチュアはこう言うのだった。
「どうもね」
「上手くいかないわ」
「そうだな。俺もだ」
左慈も眉を顰めさせて話す。
「各地の群雄が思った以上に優れている」
「そのせいで異民族に乱を起こさせても失敗するし」
「国は安定してきているわね」
「しかもだ」
左慈はその目を怒らせてきた。
「御前達の世界の奴等も次々と来ているな」
「ええ、どうやらね」
「気付いている存在がいるわね」
二人もここで警戒する顔を見せた。
「私達のことにね」
「それで彼等をこの世界に呼び込んでいるのね」
「どうする、ここは」
左慈は二人にあらためて問うた。
「何かいい考えはあるか」
「とりあえずは様子見かしら」
「それしかないわね」
二人は今はこう言うしかなかった。
「あの三人の力をどうにかしてそちらに向けて」
「やっていくしかないわね」
「あの三人は何だ」
左慈は三姉妹についても言及した。
「能天気な普通の女達でしかないぞ」
「そうね。性格はね」
「本当にその通りよ」
「あの連中で本当にいいのか」
左慈はさらに言う。
「宮廷にいる張譲の方がだ。余程使えるぞ」
「あの宦官ね」
「確かに性格的にも私達の目的に相応しいわね」
「それはそうだけれど」
「それでも今はね」
「ふん、まあいい」
左慈はここで話を打ち切った。
「御前達に任せる」
「ええ、是非ね」
「そうしてもらえると助かるわ」
二人もそれでいいとするのだった。それが彼女達の考えだった。
何はともあれだ。今はであった。
「とりあえずはね」
「このままいくわ」
「それではな。俺はこれで帰る」
「ええ、またね」
「社達に宜しくね」
左慈は右手を握り締める。するとそこから闇が生じその中に消えていく。それを見届けてからだ。二人はまた話すのだった。
「きっかけがあればね」
「すぐに火が点く話ね」
「ええ、何かしらのきっかけがあれば」
「それを待つとしましょう、今は」
こうしてだった。二人は今は待つのだった。そのきっかけが生じる機会が近いことを感じながら。そうして待つのであった。不気味な笑みと共に。
第五十四話 完
2011・1・11
三姉妹が変装して街に。
美姫 「もしかして、劉備たちと鉢合わせする可能性もあるかしらね」
どうなるだろうか。まあ、それよりも今回もまた公孫賛が可哀相だが。
美姫 「まさか、朝廷からも忘れられるなんて」
牧という役職まであるというのに。こんな形で失う事になるのかな。
美姫 「そちらもちょっと気になるわね」
どうなるのか、次回も待っています。
美姫 「待ってますね」