『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                           第五十三話  孟獲、七度捕らえられるのこと

 劉備達に挑戦状を叩きつけた形の孟獲達は一旦宮殿に戻った。そうしてそこにおいてだ。四人でこれからのことを話すのであった。
「何かおかしなことになっちゃったね」
「本当にだ」
 チャムチャムとタムタムもいる。兄は妹のその言葉に頷く。
「タムタム今回は」
「今回は?」
「孟獲強情だと思う」
 彼もまたそう見ているのだった。宮殿の一室に胡坐をかいて座ってだ。そのうえで自分の左隣にいる妹に対して話すのであった。
「ヘソのゴマ位気前よく渡せばいい」
「そうよね、それは」
「タムタム劉備達嫌いでない」
 それも言うタムタムだった。
「だから今回は」
「この話には加わらないの」
「タムタムそうする」
 これが彼の今回のことについての決定だった。
「チャムチャムはどうする」
「僕もそうする」
 彼女もなのだった。
「劉備さん達嫌いじゃないから」
「それじゃあタムタム達は」
「見ているだけね」
 彼等の方針は決定した。そしてそのことを玉座兼ベッドにいる孟獲に対してだ。話すのだった。
「それでいいか」
「今回は」
「仲間に入りたくなければそれでいいにゃ」
 孟獲はここでは普段の孟獲だった。
 特に咎めることなくだ。こう二人に言うのだった。
「遊びたくないならそれでいいにゃ」
「ならここに残る」
「留守番しておくね」
「そうするといいにゃ。御飯は好きなだけ食べるにゃ」
 孟獲も彼等を邪険になぞしはしない。そうしてだった。
 あらためてだ。トラ達に顔を向けてだ。こう言うのであった。
「とにかくにゃ」
「はいにゃ」
「絶対にあのおっぱい達に捕まらない」
「そうするにゃ」
「その通りにゃ。美以も絶対に捕まらないにゃ」
 腕を組んでだ。そのうえでの言葉だった。
「美以の知恵を見せてやるにゃ」
「そうにゃ。じゃあトラ達も」
「そうさせてもらうにゃ」
「絶対ににゃ」
 こうしてだった。三人もなのだった。
 絶対に捕まらないと強く誓う。そのうえで宮殿を出るのだった。
 しかしだった。孔明と鳳統はだ。一行を草陰に入れてだ。そのうえで自分達も入ってである。目の前にあるものを見ながら話すのだった。
「これでいいですね」
「後は孟獲さんを待つだけです」
「おい、これはだ」
 しかしだ。その二人に魏延が言う。
「幾ら何でもあれではないのか」
「あれですか」
「そう思いますか?」
「あれでは鳥の罠だぞ」
 見ればだ。バナナがありその上に巨大なザルがある。ザルは棒で支えられており棒には縄がある。縄を引っ張ればそれでザルが落ちる仕組みであった。
「捕まる筈がない」
「そうよね。鳥じゃないんだから」
 それを馬岱も言う。
「ちょっと。有り得ないんじゃ」
「大丈夫です、これで」
「絶対に捕まります」
 しかしだ。軍師二人は自信に満ちた声でこう答えるのだった。
「孟獲さんならこれで」
「絶対に捕まりますから」
「だといいのだがな」
「本当に上手くいくかしら」
「孟獲さんの知力はどうやら鈴々ちゃんや文醜さんと同じ位です」
「夏侯惇さんにもひけを取りません」
 あまりいい意味でないのは間違いなかった。
「ですからこれで」
「確実に捕まえられます」
「だといいがな」
「捕まるんならね」
 魏延と馬岱だけでなく他の面々も捕まえられるとは思っていなかった。しかしだった。
 孟獲が来た。そしてだった。
「あっ、バナナにゃ!」
 その罠のバナナに飛びつく。その瞬間だった。
「はい、それじゃあ」
「こうして」
 孔明と鳳統が縄を引っ張るとだった。それで終わりだった。
「にゃ!?急に真っ暗になったにゃ!」
 ザルの中から孟獲の声がする。
「どういうことにゃ!何が起こったにゃ!」
「ほら、言った通りになりましたね」
「無事捕まえられました」
 軍師二人はにこやかに笑う。まさに少女の屈託のない笑みだった。
 しかしだ。その孟獲を見てだ。他の面々は唖然となっていた。
「嘘だ、これは」
「まさかと思ったけれど」
「あれで捕まるか」
「お猿さんじゃない」
 まさにそのレベルであった。孟獲はだ。
 そしてその頃だ。許昌ではだ。
 その夏侯惇がだ。檻の中にいた。そのうえで吼えていた。
「こら!何だこれは!」
「姉者、何をやっているのだ」
 その木の檻の前に夏侯淵がいる。彼女は呆れた顔で姉を見ながら言うのだった。
「まさか捕まるとは思わなかったぞ」
「うう、饅頭がある空手に取ってみればこれか」
「いい加減書類の仕事をしてもらいたくて罠を張って捕まえようと思ったが」
「本当に捕まるなんてね」
「思わなかったわ」
 曹仁と曹洪もいる。二人も呆れている。
「こんなのお猿さんでもないとね」
「捕まらないわよ」
「私が猿だというのか!」
 本人は檻の柵を両手で掴みながら抗議する。
「聞き捨てならんぞその言葉は!」
「そう言いたいならばだ」
「何だ、秋蘭」
「せめて捕まらないでくれ」
 これが妹の言葉だった。
「こちらも驚いているのだ」
「うう、何という不覚」
「けれどそれでもこれでね」
「書類の仕事してもらえるわね」
 曹洪と曹仁はこのことを素直に喜んでいた。
「じゃあ。名前を書いてもらうだけの仕事だから」
「春蘭、頼むわよ」
「だからだ。私はそんな仕事はだ」
 ムキになって言う夏侯惇だった。
「絶対に嫌だ!そうした仕事をするとだ!」
「身体中に蕁麻疹ができるのだな」
「そうだ。だから嫌だ!」
「それはわかるがそうも言っていられんのだ」
 妹は今は心を鬼にしていた。
「だからだ。今は仕事をしてくれ」
「うう。何ということだ」
「あの文醜殿ですら書類の仕事はしているのだぞ」
「何っ、あいつがか」
「嫌々だがな」
 それでもだというのである。
「しているのだ。だから姉者もだ」
「仕事をしろというのか」
「そういうことだ。頼んだぞ」
「嫌だ、私は嫌だ!」
 しかしだった。夏侯惇は強制連行されていくのであった。
 そんなことがあった。そしてである。
 孟獲はだ。捕まり縄で縛られている。しかしなのだった。
「まだにゃ!」
「まだか」
「諦めないのだ?」
「こんなことで美以はぎゃふんとは言わないにゃ」
 こう関羽と張飛に返す。確かにその目は死んではいない。
「この程度ではくじけないにゃ」
「わかりました。それなら」
「縄をほどかさせてもらいますね」
 孔明と鳳統はだ。ここでこう言うのだった。
「それでまたですね」
「挑まれますね」
「今度は捕まらないにゃ」
 孟獲は少なくともそのつもりだった。
「それを言っておくにゃ」
「はい、それでは」
「今は縄を」
 実際にだった。孟獲は縄をほどかれた。そのうえで彼女はすぐに密林の中に消えた。そしてそのうえでだ。二度目になるのであった。
 二度目はだ。張飛と馬岱が出ていた。そしてだ。
「それじゃあね」
「やるのだ」
 張飛が馬岱のその言葉に頷いてだった。その前にはだ。
 あからさまな罠があった。そこだけ濃い緑の覆いがしてある。
「これに引っ掛かるかな」
「絶対に引っ掛かるのだ」
 張飛は断言してみせた。
「これなら絶対になのだ」
「ううん、けれどここまであからさまって」
「愛紗はこれで捕まったのだ」
「おい、私なのか」
 その時のことを思い出してだ。関羽は草陰から張飛に抗議した。
「私がなのか」
「けれどあの時実際に捕まったのだ」
「そ、それはそうだが」
 そう言われるとだった。関羽も弱った顔になる。
「しかしだ。私はだ」
「そういえば御主はだ」
 趙雲がここでその関羽に対して話す。
「その時落とし穴に落ちてだ」
「何だというのだ」
「丸見えだったそうだな」
 彼女が今言うのはこのことだった。
「そうだったらしいな」
「な、何が丸見えなのだ」
「御主は白だからな」
 あえて何かは言わず色を言うのであった。
「まあ私もその色が多いがだ」
「子分達が言っていたのだ。本当に丸見えだったのだ」
 また言う張飛だった。
「白お尻の形まで丸見えだったと言っていたのだ」
「くっ、あの時の不覚がまだ」
 そのことをまだ言われる関羽だった。しかしであった。
 何はともあれ罠は仕掛けられている。そのうえでだ。
 張飛と馬岱がだ。こう叫んだ。
「やーーーーーい孟獲!」
「知力一桁!」
 こう叫ぶのだった。
「猫の額と頭!」
「悔しかったらここまでこーーーい!」
「これで来るのね」
「さっきもそうじゃったしな」
 黄忠も厳顔もわかってきていた。
「それじゃあここはね」
「見させてもらうか」
 こんな話をしてだった。そうしてであった。
 孟獲はだ。実際に来たのだった。
「何にゃ!美以を馬鹿にするにゃ!」
「そうなのだ、この猫頭!」
「言って悪いか!」
「何!もう許せないにゃ!」
 こう言ってだ。二人に向かう。しかしだった。
 目の前にある覆いを見てだ。楽しげに笑ってだった。
「こんなのに引っ掛かる筈ないにゃ!」
 覆いの上を飛び越える。それで難を避けたと思った。ところが。
 張飛と馬岱の前に着地するとだ。そこは。
「にゃにゃ!?」
「この通りなのだ」
「前のは偽物でこれが本物なのね」
「落とし穴ば見えないことにこそ価値があるのだ」
 張飛は誇らしげに馬岱に話す。
「そういうことなのだ」
「成程ね。けれどこれで捕まえたね」
「一件落着なのだ」
 しかしだった。まだ孟獲は諦めない。それで孔明と鳳統はだ。また彼女を解き放つのであった。
「後悔するにゃ、美以は絶対に諦めないにゃ」
 こうしてまた密林の中に消える彼女だった。そして次は。
 劉備が出てだ。そのあまりにも豊かな胸を震わせて言った。
「皆ーーーー、それじゃあはじめるよ」
「むっ、まさか」
「おい、焔耶落ち着けよ」
 馬超が興奮しだした魏延に対して言う。
「まさかと思うけれどな」
「あの胸は至宝だ」
 こう言う魏延だった。
「他の者に渡してなるものか」
「ってまさかおい」
 馬超が止めるのも聞かずだ。彼女は姿を消した。そしてその間にもだった。
「揺れて揺れて」
 劉備はその豊かな胸を左右に震わせていた。
「縦に縦に」
 今度は上下にであった。
「斜め斜め」
 次はそちらであった。
「はい、おっぱい体操だよ」
「にゃにゃーーーーーーーーーーっ!」
「おっぱいだにゃーーーーーーーっ!」
「大きいにゃーーーーーーーーーーーーっ!」
 そしてそれを見てだった。
 孟獲が飛んできた。四人程一緒である。
 そしてだ。足元にあった縄にその足をかけて。
 下に仕組んであった。網に吊り上げられてだ。一網打尽だった。
「これで三度目なのだ」
「そうね」
 馬岱が張飛のその言葉に頷く。
「それはいいけれど」
「そうなのだ。それ自体はいいのだ」
「そうよ。何であんたがいるわけ?」
 馬岱はじとっとした目で網の中を見ていた。そこにはだった。
 魏延もいた。彼女はふてくされた顔でそこにいるのだった。
「どういうことよ、これって」
「ま、まあそれはだ」
 魏延はバツの悪い顔で馬岱に返す。
「色々あってだな」
「色々って何よ」
 何はともあれ三度目だった。しかし孟獲はまだ諦めない。
 今度も解き放たれる。そして次は。
 魏延が釣りをする。河の中で魚を仕込ませていた。
 それを離れた場所で見てだ。神楽が怪訝な顔で孔明と鳳統に問う。
「あの、今度は釣りなの?」
「はい、そうです」
「その通りです」
 その通りだと答える二人だった。
「孟獲さんはお魚が大好きなようなので」
「猫ですから」
 だからだというのである。
「それで今回はです」
「お魚で」
「何かもう何でもありね」
 こう言う神楽だった。その顔はいささか呆れているものだった。
「けれどこれで捕まったら」
「はい、絶対に捕まりますから」
「安心して下さい」
 二人がこう言った途端にあった。魏延が釣った。
「よし、来た!」
「嘘っ・・・・・・」
 これには驚くしかない神楽だった。今度は釣りであった。
 これで四度目だ。しかし諦めない孟獲だった。
 五度目はだ。バナナを上から吊り上げていてだった。
「バナナにゃ!」
 飛びつくとそこに眠り薬があって捕まる。だがやはり諦めない。
 六度目はだ。また落とし穴だった。今度も引っ掛かったのだ。
「どうしてこんなところににゃ!?」
「また引っ掛かるか?普通」
「ちょっとないだろ」
 趙雲と馬超も呆れてしまった。しかし捕まったのは確かだった。
 だがまだ諦めない孟獲はまたしても逃がされた。しかし七度目はだった。
「今度はこれか」
「これなのね」
 関羽と劉備がその罠を見ていた。通り掛かればそこに張った糸に反応してだ。吹き矢が飛んで来る仕掛けの罠を張っていたのだ。
「今度も確実にいけるな」
「そうよね、これまでの流れだと」
「けれどなのだ」
 張飛は少しばかり困った顔になっていた。
「あいつ凄く諦めが悪いのだ」
「そうだな。六回も捕まっているのにな」
「何か可哀想な感じもするし」
 関羽と劉備も末妹の言葉に応える。
「そろそろ終わりにしたいが」
「どうなのかしら」
「流石に。そろそろと思いますけれど」
「今度で七度目ですし」
 孔明と鳳統も考える顔になっている。
「けれど孟獲さんのあの諦めの悪さって」
「物凄いです」
「そこまで諦めの悪い人はね」
「そういないと思います」
 ミナと月も言う。
「けれど。変に力で訴えるよりも」
「ずっといいですよね」
「はい、そうです」
「その通りです」
 軍師二人もそれが言いたいのだった。
「力で強制しても孟獲さんとの間に後までいざかいを残すだけです」
「それでは何にもなりません」
「城を攻めるのではなく心を攻めるのです」
「大事なのはそれです」
 これが二人の狙いだった。
「ですからここはです」
「孟獲さんが本当にぎゃふんと言うまでです」
「やるしかないのね」
「どれだけ時間がかかっても」
 黄忠と厳顔もここで考える顔になった。
「だからこうして何度も罠を張って」
「それでじゃな」
「しかしそれでもな」
「ここまで来たことを考えたらな」
 趙雲と馬超は幽州からこの南蛮まで来た旅路を考えていた。
「これ位はな」
「何でもないか」
「幽州からか」
 魏延にとってはだ。信じられない長さだった。
「この国のまさに北から南だな」
「そうだよ。その間本当に色々あったんだよ」
 馬岱が驚く魏延に話した。
「袁紹さんのところや曹操さんのところにも行ったしね」
「二人共ややこしい人物と聞いているが」
「それに袁術さんのところにも」
「余計にややこしい人物と聞いているぞ」
 これが彼女から見た三人だった。
「本当に色々あったのだな」
「確かに癖のある方々だが」
「悪い奴等ではないのだ」
 関羽と張飛がそれは保障した。
「色々と楽しいこともあったしな」
「無茶苦茶なこともあったけれどなのだ」
「そういえば近頃」
 魏延は腕を組んでだ。こんな話をはじめた。
「その方々が支えている何進大将軍と宦官達の対立がさらに激しくなっているそうだな」
「その様じゃな」
 魏延の言葉にだ。厳顔が応えた。
「それで都は大変なようじゃな」
「天下は今は各州によってばらばらになっているわ」
 黄忠はそのことを憂いていた。
「牧のいない州は何かと困ったことになっているわ」
「賊も増えている」
「確かな牧のいる州はいいんだけれどな」
 趙雲と張飛も憂いのある顔を見せている。
「天下は不安定になってきている」
「それで肝心の都がそれじゃあな」
 そんな話をしていたらだった。また孟獲が捕まった。だがやはり諦めなかった。それでまたしても解き放たれる。これでこの日は終わった。
 その次の日の朝。孟獲は三人に対して叫んでいた。
「悔しいにゃ!」
「そうにゃ、七度も捕まったにゃ」
「何か凄い流れだったにゃ」
「あの手この手で」
「このこと、絶対に忘れないにゃ」
 怒ることしきりの孟獲だった。
「こうなったらにゃ」
「どうするにゃ?それで」
「美以様、それで」
「何をするにゃ?」
「こうなったら悪霊を呼ぶにゃ」
 こんなことを言い出すのであった。
「そしてそれで奴等に復讐するにゃ」
「悪霊っていうとあれにゃ?」
「あっかんこーの神様に御願いして」
「そうするにゃ」
「その通りにゃ。では早速そうするにゃ」
 まさに思い立ったらすぐにであった。彼女は三人を連れて密林の奥に向かう。ここでもタムタムとチャムチャムは留守番であった。
「何か変なことになった?」
「けれど大丈夫」
 兄は妹を見下ろしてこう話した。
「孟獲悪い奴じゃない。大したことにならない」
「だといいけれど」
「この話もうすぐ終わる」
 タムタムはここでこうも言った。
「それも幸せに」
「そうなの」
「そう。タムタムわかる」
 また妹に話すのだった。
「だから安心していい」
「タム兄ちゃんがそう言うのならね」
 チャムチャムもそれで納得するのだった。そうしてだった。
 彼等は宮殿で待ち続けた。バナナやマンゴーを食べながら。
 そして孟獲はだ。白い石が何十段も積まれところどころに何かの動物を思わせる像が飾られている場所の真ん中、一番上に登ってだ。そうしてだった。
 パヤパヤをそこに置きだ。両膝をついて腰を完全に曲げて両手を投げ出してだ。そのうえで恭しく礼拝しながら言っていた。
「うらうらうら」
「うらうらうら」
「うらうらうら」
 三人がまず詠唱していた。そしてだ。
 孟獲がだ。槍を右手に持って立ち上がりだ。
 あちこちを走り回ってだ。叫んでいた。
「うら!うらうらうら!」
 そしてだ左目をウィンクさせて舌を出して叫ぶのであった。
「あっかんこーーーーーーーーーーー!」
 するとだ。快晴だというのに雷が落ちたのであった。
 その雷と音は劉備達からも聞こえた。それを聞いてであった。
 孔明と鳳統がだ。眉をしかめさせて言った。
「こんな晴れに?」
「おかしいですね」
「雲一つないのに」
「それで雷なんて」
「何かあるのか?」
 魏延も言う。
「よからぬことが」
「少なくともいいことではないな」
「そうなのだ。晴れなのに雷様なんてないのだ」
 関羽と張飛もそれを言う。
「何もなければいいのだがな」
「ううん、不吉な予感がするのだ」
 こう言っているとであった。そこにだ。
「にゃにゃーーーーーーーーーーっ!」
「逃げるにゃーーーーーーーーーーっ!」
「大変にゃーーーーーーーーーーーっ!」
 孟獲達が来た。一行にぶつかり吹き飛ばしてしまった。
「な、何っ!?」
「何が起こったのじゃ!?」
 倒れたが何とか起き上がり問う黄忠と厳顔だった。
 他の面々も起き上がる。その彼女達に対してだ。
 孟獲は狼狽しきった様子で。両手を振り回しながら一行に話す。
「パ、パヤパヤがにゃ」
「あの象さんがですか?」
「そうにゃ、悪霊を取り憑かせたらにゃ」
 こう一行に話すのだった。
「化け物になって大きくなってそれでにゃ」
「悪霊」
「まさか」
 それを聞いてだ。神楽と月の顔色が一変した。
「オロチが」
「刹那が。ここに」
「今パヤパヤは化け物にゃ!暴れ回って大変にゃ!」
「だったら」
 それを聞いてだ。ミナが己の弓を構えて言う。
「すぐに退治を」
「パヤパヤに傷をつけたら許さないにゃ!」
 それは絶対に許さない孟獲だった。
「そんなことをしたらそれこそにゃ」
「それならどうしろっていうのよ」
 馬岱が眉を顰めさせて彼女に問う。
「傷つけたら許さないって」
「そもそもその象さんは」
「何処ですか?」
 軍師二人が尋ねるのはまずはそこからだった。
「大きくなったとはいいますけれど」
「どれだけですか?」
 二人が言うとだった。一行の前にだ。
 密林の木々を遥かに超える巨大さでだ。漆黒の象が現れた。目は赤く牙が長く曲がっている。その象が出て来て彷徨するのだった。
 その象を見てだった。軍師二人は。
「はわわわわ、大変じゃないですか!」
「あんな大きさだとちょっとやそっとじゃ」
「一人では相手はできないな」
 それを言う関羽だった。
「どうすればいい、ここは」
「そうね。とりあえずはあの象を囲んで」
「それからじゃな」
 黄忠は弓矢を、厳顔は巨大な砲を出していた。それが二人の得物である。
「本当にあれは一人や二人ではね」
「どうにもならんぞ」
 険しい顔になってだ。こう話すのだった。
 そしてここでまた。孟獲が言うのである。
「あれはパヤパヤにゃ。傷つけたら駄目にゃ!」
「それはわかったが」
「じゃあどうすればいいんだよ」
 趙雲と馬超は具体的に何をすればいいのかを尋ねた。当然二人もそれぞれの槍を構えている。そして他の面々も同じであった。
「何かあるのか、それは」
「あったらそれでやらせてもらうけれどな」
「尻尾にゃ!」
 孟獲が言うのはそこだった。
「尻尾にゃ、尻尾が悪霊の力の源にゃ」
「尻尾!?」
「象の尻尾に」
「そうにゃ、そこを打てば」
 どうなるかというのである。
「悪霊の力は消えるにゃ。それで終わりだにゃ」
「わかったわ」
「それなら」
 神楽と関羽が頷く。それでだった。
 二人はその象の後ろに回り込んだ。そして尻尾を見るとだった。
「二本あるわね」
「赤と青と」
 二人の見た通りだった。巨象の尻尾は二本あった。
 それを見てだ。いぶかしんですぐに孟獲に問うた。
「どっちなの、それで」
「悪霊の力の源は」
「どっちかなのにゃ」
 こんな返答だった。
「どっちかを打てばそれでパヤパヤは元に戻るにゃ」
「それで間違った方を打てば」
「その場合はどうなるのだ」
「その場合はもっと大変なことになるにゃ」
 孟獲も三人と共にだ。巨象の周囲を囲んでいた。そのうえで二人に話すのだ。
「悪霊の力が強まってパヤパヤがもっと大きくなって凶暴になるにゃ」
「それって洒落にならないんだけれど」
「今よりもか」
 馬岱と魏延がそれを聞いて言う。
「それなら余計に」
「失敗は許されないぞ」
「それでどっちなのかしら」
「どちらの尻尾だ」
 一行はそれがわからなくなっていた。巨象を囲みながら困惑する。しかしここで、であった。あの二人が来て言うのであった。
「待ってよ、確か孟獲ってさ」
「パヤパヤの尻尾噛んだ」
 チャムチャムとタムタムが来た。そうして一行に話すのだった。
「それなら歯形がついてるわよね」
「まだ尻尾に」
「あっ、そういえばそうにゃ」
 言われてそのことを思い出す孟獲だった。彼女の周りには既に三人が増殖してだ。彼女を護っていた。
「今思い出したにゃ」
「それならそっちを打てば」
「それでいい」
「そう。それなら」
 ミナが動いた。彼女もまた巨象の後ろに回り込む。そうしてだった。
 弓を斜め上に構える。象の尻尾に。その一方、赤いものを見てだ。
「あれね」
 歯形をはっきりと見た。もう間違えようがなかった。
 そのうえで弓矢を放つ。光が象の尻尾に迫る。
 そしてだ。その尻尾を見事に射抜いたのであった。
 これで決まりだった。巨象は咆哮をあげるとそこからすぐに姿を小さくさせて色が戻ってだ。元のパヤパヤになったのであった。
 孟獲はそれを見るとだ。泣きながらパヤパヤに抱きついて叫ぶのだった。
「よかったにゃ!もう二度とこんなことはしないにゃ!」
 これで一件落着であった。そうしてだ。
 孟獲はだ。落ち着きを取り戻した劉備達にだ。こう言うのだった。
「パヤパヤを助けてもらった御礼にゃ」
「御礼?」
「というと?」
「パヤパヤのヘソのゴマをやるにゃ」
 今は快く告げるのだった。
「それを水に入れて剣にかけるといいにゃ」
「いいんですか、それで」
「けれどまだ」
「確かにぎゃふんとは言ってないにゃ」
 孟獲もそれは言う。
「けれどにゃ」
「けれど?」
「けれどっていうと?」
「パヤパヤを助けてもらったにゃ」
 彼女が今言うのはこのことだった。
「その御礼にゃ」
「それでなんですか」
「けれどにゃ」
 ここで孟獲の言葉と目が強いものになった。
「一つ条件があるにゃ」
「条件ですか」
「そうにゃ。南蛮象は南蛮の宝にゃ」
 孟獲が今言うのはこのことだった。
「その南蛮象がどうなるのか美以は確かめる必要があるにゃ」
「トラもにゃ」
「ミケもにゃ」
「やっぱりシャムもにゃ」
 三人もだというのだ。
「だからにゃ。ここはにゃ」
「ここは?」
「名前は何といったにゃ?」
 劉備に対してそれを問うた。
「そういえば聞いていなかったにゃ」
「劉備といいます」
 そのまま素直に答える劉備だった。
「そういえばまだ名前はお話していませんでしたっけ」
「そうだったにゃ。その劉備がにゃ」
 あらためて彼女に言うのであった。
「パヤパヤのヘソのゴマをどう使うか」
「剣に使ってもまだあまるからですね」
「それを見届けないといけないにゃ。だからにゃ」
 それでこう劉備に告げた。
「ここは一緒に行かせてもらうにゃ」
「同行、ですか」
「そうにゃ。それが条件にゃ」
 これがなのだった。彼女の言う条件であった。
「それでいいにゃか?」
「はい、それでは」 
 劉備はだ。孟獲のその条件に対して頷いたのだった。 
 そしてそのうえでだ。孟獲達の同行についても述べた。
「それなら。これから宜しく御願いしますね」
「うむ、頼むにゃ」
 こうしてだった。孟獲達も加わるのだった。
 タムタムとチャムチャムもだった。一行はその大人数で幽州に帰ることになった。
 南蛮を発つ時にだ。ふと神楽が言うのだった。
「ここから幽州はかなり遠いけれど」
「どうしたのにゃ?」
「貴女達はそこまで言ったことはないわね」
 彼女が言うのはこのことだった。
「それはそうね」
「これでも美以達も旅をしたことがあるにゃ」
 しかし孟獲は神楽に対してこう言うのだった。
「だから大丈夫にゃ」
「あら、そうだったの」
「成都まで出たことがあるにゃ」
「ほう、あの街にか」
 それを聞いてだ。関羽がその目を動かした。
「思ったより遠出しているな」
「だからにゃ。外に出るのも慣れてるにゃ」
 こう話すのである、
「その北のところはまだにゃが」
「一つ言っておくのだ」
 張飛ガ話してきた。
「寒いのは覚悟しておくのだ」
「寒い?」
 寒いと聞いてだ。孟獲はきょとんとなった。そのうえでの言葉は。
「寒いって何にゃ?美味いにゃ?」
「あれっ、ひょっとして」
 劉備は孟獲のその言葉を聞いてあることに気付いた。
「孟獲さんって寒いという言葉は」
「寒いって本当に何にゃか?」
「ミケ知らないにゃ」
「シャムもにゃ」
 三人もであった。寒いとは何かを知らないのだった。
「食べ物にゃか?」
「お魚にゃ?」
「それとも果物にゃ?」
「どうやら孟獲さん達は南蛮にずっとおられるので」
「そうしたことは御存知ないみたいです」
 孔明と鳳統がこう指摘した。
「寒いという感覚自体も」
「そうみたいです」
「そうなのか。だが北に行けばだ」
「多分わかるのだ」
 関羽と張飛も今はそれでいいとした。そしてであった。
 タムタムとチャムチャムもであった。二人も言う。
「ではタムタム達も」
「一緒にね」
「そうにゃ。タムタム達も大切な仲間にゃ」
 孟獲も二人の申し出に笑顔で応える。
「じゃあ一緒に幽州に行くにゃ」
「ではいざ」
「北に行こう」
「はい、わかりました」
 劉備は二人も受け入れてだ。そうして笑顔になってだった。
 一行は幽州に戻る。それもまた旅であった。そしてその旅から帰るとだ。戦いが彼女達を待っていた。だが彼女達はそのことを知らなかった。


第五十三話   完


                       2010・12・22



孟獲を捕らえては逃がしを繰り返し。
美姫 「色々とあって、仲間みたいな感じはなったわね」
だな。にしても、三回目のは。
美姫 「魏延は何と言うか……」
あははは。いや、まあ仕方ない……か?
美姫 「まあ、無事に仲間も増えたみたいだしね」
だな。次はどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」



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