『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第五十一話  孫尚香、立ち上がるのこと

「胸がない人達のですか」
「はい、そうらしいですよ」
 周泰にだ。呂蒙が話していた。今二人は揚州の官邸において話しているのだ。
「曹操さんのところでそんな話をしていたそうです」
「何か変わった話ですね」
 呂蒙はその話を聞いて首を捻るのだった。
「けれどそれは」
「そうですよね。いいお話ですよね」
「胸は。私も」
 呂蒙は困った顔になっていた。
「自信がありませんし」
「私もですよ、それは」
 周泰は呂蒙以上にそうした顔になっていた。
「胸のことになると」
「どうしてもですよね」
「胸はなくてもいいと思います」
 周泰の言葉は意固地なものさえあった。
「そんなもの。なくても別に」
「私もそう思います」
 その考えは呂蒙も同じだった。
「けれど揚州は」
「言えないですけれどね」
「どうしても。それは」
「言えるわよ」
 しかしここでだ。二人のところに孫尚香が来た。そうしてその二人にあらためて言うのだった。
「胸なんてね、別になくてもね」
「小蓮様」
「おられたのですか」
「今この部屋の前を通り掛かったのよ」
 そうだったとだ。二人に話すのだった。
「そうしたらあんた達が胸のことを話しているのが聞こえたのよ」
「すいません、下らない話をしていまして」
「今止めますので」
「いいわよ。私だってそうだし」
 ところがだ。孫尚香はその話を制止しなかった。それどころかだ。
 二人に対してだ。こう言うのであった。
「それでだけれどね」
「はい、それで」
「何なのでしょうか」
「胸なんてなくてもいいのよ」
 彼女もこの意見であった。
「別にね。それはね」
「それはですか」
「そうなのですか」
「そうよ。胸なんてどうでもいいのよ」
 孫尚香の言葉はさらに強いものになる。
「っていうか何よ。あっても邪魔でしょ」
「それは」
「何といいますか」
「大体ね、姉様達にしても」 
 まず指摘するのは二人の姉達であった。
「冥琳様にしても」
「あの方は特に」
「凄いですよね」
「穏もね」
 陸遜もであった。
「お化けみたいな胸持って。何だってのよ」
「それで許昌で」
「胸のない人達が集まっていたそうでして」
「そうみたいね」
 孫尚香はこのことも知っているのだった。話を聞きながら頷いた顔であった。
「面白い集まりじゃない。シャオそれに大賛成よ」
「大賛成とは」
「それでは小蓮様は」
 揚州の貧乳組は孫尚香の言葉に顔を向けた。
「この揚州にですか」
「その貧乳の同志達を集めて」
「そうよ。やってやるわよ」
 はっきりとした顔での言葉だった。
「絶対にね」
「では今から」
「そうされますか」
「そうよ。後は」
 ここでだった。孫尚香の目が光ったのだった。
 そのうえでだった。大喬と小喬の二人も呼ばれてだ。孫尚香に告げられるのだった。
「いいわね。胸がなくてもね」
「はい、そうですよね」
「胸がある人だけじゃないですよね」
 二人も彼女のその言葉に頷くのだった。
「小蓮様の仰る通りです」
「私達も賛成です」
「有り難う。また同志が二人増えたわね」
 孫尚香は二人の参加も得てまた笑顔になった。
「見てなさいよ。巨乳に対して反旗を翻すわよ」
「あの、謀叛じゃないですから」
「反旗とは」
「謀叛じゃないけれど反旗よ」
 これが今の孫尚香の言葉だった。
「巨乳。それが何だっていうのよ」
「確かにそうですね。巨乳の人達って」
「私達の気持ちがわかりませんよね」
 二喬もまた言うのであった。
「胸が小さい人間のことなんて」
「それも全く」
「その通りよ。大体何でなのよ」
 孫尚香の言葉はムキになっていた。
「母様も姉様達も胸大きいのにシャオだけ」
「蓮華様のおっぱいはそれ程大きくないですけれど」
「まだ」
 しかしなのだった。孫権の胸はだ。
「けれど形いいですよね」
「張りも凄いですし」
「そうよ。だから蓮華姉様も敵よ」
 この場合はだというのだ。
「胸がある相手は。全員敵よ」
「そういえば関羽さんにしても黄忠さんにしても」
「一緒にいた不知火舞さんやキングさんも」
 二喬は彼女達のことも思い出して言う。
「凄い胸ですよね」
「あの人達もそういう人多いですよね」
「胸が大きければ何でも許されるの!?」
 孫尚香の眉が顰められている。
「何だっていうのよ」
「あちらにも敵はいますね」
「それもかなり」
「それと袁術のところの」
 孫尚香の強い言葉が続く。
「張勲よ。あいつだって」
「ああ、あの歌の上手い」
「あの側近の人ですよね」
「袁術はこの場合はいいのよ」
 孫尚香は今は彼女についてはいいというのだった。
「中身も同じだしね」
「はい、袁術さんは中身もですよね」
「胸は」
「だからいいのよ。とにかく胸がないのを集めるのよ」 
 完全にムキになっている。そしてであった。
「揚州のそうした面々をね。集めるわよ」
「それだけでは駄目ではないでしょうか」
 しかしだった。ここで三人のところに呂蒙が来た。周泰も一緒だ。
 そしてだ。三人、とりわけ孫尚香に対して言うのであった。
「ここはです。私達だけではなく」
「どうするっていうの?」
「その許昌の方々と連絡を取り」
 そうしてはというのだった。
「あとは劉備さんのところの方々ともです」
「そういえばいたわね」
 孫尚香は呂蒙の言葉にすぐに思い出した。
「虎女と。あのはわわ軍師ね」
「はい、あの方々もいますから」
「味方になりそうな人は多いです」
 呂蒙の言葉は真面目なものだった。
「曹操さんにしても。胸はあれですし」
「牧にもいるのね」
「その通りです。胸が小さいとはいってもです」
 どうかとだ。呂蒙は彼女にしては珍しく強く話した。
「心の中に大きなものがあればです」
「そうよね。胸が小さくてもね」
「はい、ですから」
 だからだとだ。呂蒙の言葉は続く。
「小蓮様、ここは大きくいきましょう」
「そうね。これからはあれよ」
 孫尚香は腕を組んで言い切った。
「貧乳の時代よ」
「では私はこのことについては」
 呂蒙も必死である。
「小蓮様に全てを捧げます」
「ええ、御願いね」
 そんな話をしていたのであった。そしてだ。
 袁術のところにだ。早速孫尚香からの手紙が来た。それを見てだった。
「ほほう、面白い話が来たぞ」
「面白い話とは?」
「そなたには関係のないことじゃ」
 傍にいる張勲には今は冷たかった。
「全く。世の中不公平じゃ」
「不公平とは?」
「わらわはわらわ自身も中身もない」
「あの、何がないんでしょうか」
「しかしそなたはそなた自身も中身も見事なものじゃ」
 そうだというのであった。じとっとなった目は張勲のその目にいっている。
「だからじゃ。このことはそなたには関係のないことじゃ」
「はあ。そうなんですか」
「安心せよ。兵を動かすとかいう話ではない」
「そうですね。そんな話は聞いたことがないですし」
 張勲は胸のことは知らなくともそれは知っていたのだった。
「今は揚州も北方も静かですしね」
「戦後処理だけじゃな」
 それはまだ続いていた。
「しかしまあ。兵は動いてはおらん」
「はい、やっぱり平和が一番です」
 張勲はにこりと笑ってそのうえで右手の人差し指を立てて離す。
「戦乱なんてない方がいいです」
「その通りじゃ。わらわは戦は好かん」
 袁術はだ。それは好きではないのだった。
「歌や踊りの方がどれだけいいか」
「そうですよね。そういえばです」
「歌のことか?」
「そうです。曹操さんのところに凄く歌の上手い人がいるそうですよ」
「ふむ。そうなのか」
「何か私達と凄く縁のある人みたいです」
 張勲はこんな話もするのだった。
「一度御会いしたいですよね」
「そうじゃな。わらわと仲良くなれるかも知れん」
 袁術は不思議とそんな感じがしていたのだ。
「一度会ってみたいのう」
「そうですよね。けれど美羽様」
 ここではだ。張勲はその大きな目をしばたかせながらそのうえで主に問うた。
「そのお手紙は本当に」
「だからそなたには関係のないことじゃ」
 内容についてはあくまで言おうとしない袁術だった。
「だから言わぬぞ」
「送り主は誰でしょうか」
 内容は絶対に言わないとみてだ。張勲は尋ねる内容を変えた。
「その人は」
「孫尚香じゃ」
 袁術はそれ位はとして言うのだった。
「あの者からの手紙じゃった」
「あっ、あの人からですか」
「そうじゃ。言うのはそれだけじゃ」
「わかりました。そうなのですね」
「謀叛とかいう話でもない」
 袁術はそれも否定した。
「物騒な話ではないから安心せよ」
「はい、それはわかります」
 しかしであった。張勲はにこやかな笑顔の中にだ。瞳の奥に何かしら光るものを含ませていた。そうしてそのうえで、なのであった。
 孫策のところにだ。一通の手紙が来たのだった。それは。
「あら、珍しいわね」
「珍しいとは?」
「そうよ。ほら、袁術のところの」
 傍らにいる妹にだ。こう告げるのだった。二人は今孫策の執務室にいる。そして孫権は姉のすぐ傍らに立っているのである。
「いるでしょ。張勲」
「あの者ですか」
「あの娘からの手紙よ。袁術からじゃなくてね」
「何の手紙でしょうか」
 張勲と聞いてもだ。孫権はいぶかしむばかりであった。
 そしてそのいぶかしむ顔でだ。姉に対して問うた。
「一体」
「胸ね」
 まずはこう言う孫策だった。
「胸の大きい面々でね」
「胸の大きい面々で、ですか」
「一緒に仲良くしないかって言ってきてるのよ」
「何故でしょうか、それは」
 話を聞いてだ。孫権はさらにいぶかしむ顔になった。
「胸が大きいということで、ですか」
「そういえばだけれど」
 ここでだ。孫策の目が動いた。そのうえでの言葉だった。
「小蓮があれこれと動き回っていたわね」
「そういえば最近」
 孫権も姉の言葉で気付いた。
「あの娘が大喬や小喬と会っていましたね」
「そこで辻褄が合うわよね」
 孫策はまた妹に話す。
「これでね」
「それでは」
「そうよ。三人の共通点は何かしら」
 孫策は楽しそうに話すのだった。
「それは一体何かしら」
「胸でしょうか」
 孫権もふと考えて言った。
「それは」
「そうね。私や蓮華にはあって小蓮にはないものね」
「そうですね。胸ですね」
「それよ。胸のない面々が集まってね」
「謀叛でしょうか」
「やると思う?」
 孫策は今の妹の言葉には楽しげな笑顔で返した。
「あの娘が」
「シャオがですか」
「あの娘がそういう風に見えるかしら」
「いえ、それは」
 そのことについてはだ。孫権もよくわかることだった。
「全くです」
「そういうことよ。あの娘はそんなことは全く考えていないわ」
「では何が目的でしょうか」
「あれよ。胸がない娘達を集めて」
 どうかというのだった。
「それで胸の大きい面々と張り合うつもりなのよ」
「そんなことを考えていたのですか」
「そうよ。それを考えているのよ」
「謀叛やそうしたことではありませんが」
「気になるのね」
「どうしてその様なことを」
 孫権はいぶかしむままだった。
「あの娘は。胸が小さいことなぞ」
「どうでもいいわよね」
「私はそう思います」
「私もよ」
 孫策もだった。今は首を捻っている。左手でその頭を支えてだ。そうしてそのうえで話すのだった。そのうえでの言葉であった。
「胸なんてね。本当にね」
「そうです。自然と大きくなりますし」
「あっても肩が凝るだけよ」
 持っている者の言葉である。
「もう昨日だって」
「私はそれ程でもありませんが」
「貴女はあれよね」 
 孫権の胸を見ての姉の言葉だ。
「大きさは程々だけれど形ね」
「形ですか」
「美乳ね。いつも思うけれどいい形よ」
「そこまでですか」
「その形のよさ、罪よ」
 ここでは楽しげに笑う姉だった。
「知ってるかしら。妹でも女同士ならね」
「あの、私はそういう趣味は」
「冗談よ。それはしないから安心しなさい」
「当然です。ですから私は」
「そうよ。それでだけれど」
「それで?」
「交州はどうなったのかしら」
 話すのはこのことだった。政治の話になった。
「そっちの方は」
「はい、それですが」
 孫権は姉の言葉に応えてすぐに述べてきた。
「間も無く朝廷の方からです」
「話が来るのね」
「正式にです」
「そう。これで交州も治めることになるのね」
 孫策は話を聞いて笑顔で言うのだった。
「遂にね」
「山越の件での功績が認められましたね」
「そうね。ただ」
「ただ?」
「暫く兵は動かせそうにないわね」
 ここでこんなことを言うのだった。
「揚州と交州の二つ以外にはね」
「そうですね。今は」
「それは袁紹もだったわね」
 孫策は今度は彼女の名前を出したのだった。
「あの娘の場合は私のところよりややこしかったわね」
「北と西の諸民族ですから」
「そうだったわね。それで幽州の牧を任されることになって」
「しかも今治めている四つの州が既にありますし」
「こりゃあの娘も当分動けないわね」
「そうですね。ただ」
「ただ?」
 妹の今の言葉に顔を向ける。
「何なのかしら」
「あの方にとってはその方がいいのでは」
「いいっていうのに」
「あの方が政に専念されれば奇行がなくなります」
 だからだというのである。
「おかしな催し等も」
「あれねえ。余裕があったらすぐにするからね」
「それがなくなりますから」
 だからいいというのが孫権の言葉だった。
「だからどうでしょうか」
「確かにね。けれどあの娘も今何かがあってもね」
「動けませんか」
「残念なことにね。動けるのは」
「曹操殿と董卓殿と」
「あれね」
 孫策の顔が今度は困った笑顔になった。
「その袁術ね」
「あの方ですね」
「あそこの南部の統治は楽だから」
 問題はないというのである。
「兵位は出せるからね」
「何かあればですね」
「そういうことよ。中原で何かあったら」
 その場合の話にもなる。
「兵を出せるのはこの三つね」
「我々と袁紹殿は今は無理と」
「その通りよ。今は徐州が危ないのかしら」
 そこがだというのだった。
「牧もいないしね」
「そうですね。益州もそうですし」
「あそこはまた今のところどうにもならないわね」
「せめて徐州だけでも」
「誰かいないかしらね」
 孫策は腕を組んでぼやきだした。
「本当に。牧できる人がね」
「曹操殿はどうでしょうか」
 孫権は彼女の名前を出した。
「あの方に徐州もまた」
「ああ、それね」
「はい。そうすれば問題は解決しますが」
「残念だけれどそれはできないのよ」
 孫策はこう言って孫権のその言葉を退けた。
「宦官が五月蝿いのよ」
「あの張譲がですか」
「あの娘は昔張譲の親族と衝突しましたね」
「私達は只でさえ張譲に睨まれてるけれど」
 それは袁紹や袁術も同じであった。州牧達は全員宦官達と対立しているのだ。そこには複雑な政治的事情があるのであった。
「私達は大将軍の派だからね」
「確かに何進将軍も問題のある方ですが」
「特に私腹を肥やしたり悪事をする方ではないからね」
「はい、ですから」
「あの人についてるけれどね」
「我々は特に深くはありませんが」
 孫策達はだというのだ。
「曹操殿は」
「それに袁紹もね」
「だからですか。曹操殿に徐州は」
「そうよ。決してね」
「張譲が許さないと」
「向こうは帝を抑えているわ」
 その問題もあった。事情はとかく複雑だった。
「だからそう簡単にはね」
「いきませんか」
「勿論袁紹もよ」
 彼女もだというのだ。
「あの娘も曹操と同じ位張譲に嫌われてるからね」
「だからですね」
「ええ。だからね。あの娘も徐州の牧にはね」
「なれないのね」
「それで私も」
 孫策自身もだというのだ。
「只でさえ交州の牧にすることさえ渋っていたのにね」
「これ以上はですか」
「そうした意味では曹操と袁紹もなのよ」
 その二人もなのだった。
「特に袁紹なんて幽州も入れたら五州よ」
「勢力が大きくなり過ぎると」
「張譲の弱みは自分の兵を持っていないことよ」
 それがだというのだ。
「朝廷の兵は大将軍が掌握しておられるから」
「兵を持っていない」
「帝は篭絡しているけれどね」
 それでもだというのだった。その張譲はだ。兵を持っていないのである。
「それでも兵はね」
「ですね。だからこそ我々の勢力拡張を好まない」
「だからこそ徐州もまた」
「そういうことなのよね。私達三人は徐州は治められないのよ」
「本当に誰かいればいいのですが」
 孫権は憂いのある顔になっている。
「さもなければ徐州の民が」
「そうよね。しっかりと治める人がいないとね」
「それは宦官にとってはどうでもいいのですね」
「あの連中は自分のことしか考えていないわ」
 孫策の今の言葉は厳しいものだった。
「自分立ちの栄耀栄華だけね」
「それ以外にはですね」
「そうよ。その為にはね」
「他人がどうなってもですね」
「勿論民なんかどうでもいいわよ」
 辛辣だった。彼女達にはだ。
「全くね」
「そうですね。そうした意味ではわかりやすい面々ですね」
「あまりにもね。けれどそうした連中のせいで」
 孫策はその目を鋭くさせていた。そうしての言葉だった。
「民達が苦しむ道理はないわね」
「全くです。本当に」
「そうよね。まあ徐州も問題だけれど」
 そしてなのだった。さらにだ。
「貧乳ね」
「あの娘のことですか」
「変なことするわよ。全く」
 孫策は今度は苦笑いであった。
「だから胸なんてどうでもいいのにね」
「その通りです。胸なぞ」
 どうかというのだった。孫権も言う。
「どうでもいいのですけれど」
「自然と大きくなるわよね」
「全くです」
 その通りだというのであった。二人にとってはだ。
「普通に大きくなりますが」
「あの娘だってそのうち大きくなるんじゃないの?」
「そうですね。大きくなりますね」
「それがわからないのかしら。何故かしら」
「理解できません」
 二人はそんな調子だった。胸に対してあまりにも楽観的だった。しかしだ。
 孫尚香はだ。危機感を抱いていた。それも強烈なまでの。
 この日は周泰と呂蒙を前にしてだ。険しい顔で話すのだった。
「それで袁紹のところはなのね」
「はい、文醜さんがです」
「協力してくれるそうです」
「そう。それはいいわ」
 それを聞いてだ。満足した顔で言うのだった。
「袁紹のところにも同志がいたのね」
「そうです。私達のお友達です」
「大切な。胸のない」
「そして遂にです」
「董卓さんのところも」
 そしてだ。三人の前に出て来たのはだ。彼女であった。
 陳宮はだ。真剣な面持ちで三人に話すのだった。
「ねねもわかりましたです」
「私達の仲間に加わってくれるのね」
「胸が大きいことにこだわる奴は許せないのです!」
 こう孫尚香に対して叫ぶ。
「揚州への使者に来たらそんな素晴しい組織があったとは知らなかったのです」
「あれっ、組織だったの?」
 孫尚香はそれを聞いてきょとんとした顔になった。
「初耳だけれど」
「はい、今さっき組織になりました」
「貧乳の会です」
 周泰と呂蒙が話す。
「勿論首領は小蓮様ですよ」
「おめでとうございます」
「首領?会なのに?」
 孫尚香はそのことがそもそも疑問だった。
「何かおかしくないかしら、それって」
「いえ、細かいことは御気になさらずに」
「ここでは」
「何かよくわからないけれどわかったわ」
 腕を組んでこう言う孫尚香だtった。
「それじゃあね」
「はい、首領就任おめでとうございます」
「スサノオみたいになって下さいね」
 何故かそんな名前も出て来た。
「あと。この方も」
「加わって下さいます」
 今度出て来たのはだ。あかりだった。
 彼女もだ。元気のいい声でこう言う。
「よっしゃ!来たで!」
「あかりじゃない」
「そや。胸がでかいのが何やっちゅうねん」
 これが彼女の主張だった。
「そんなことにこだわる奴はアホや」
「その通りなのです!」
 陳宮も言う。
「そんなことにこだわる奴に正しいことを教えてやるのです」
「その通りや。あんたもわかっとるやないか」
「そう言う御前もです」
 あかりと陳宮はお互いを見て笑顔になる。
「貧乳のことがよくわかっているのです」
「貧乳こそが正義やで。うち等のこの正義、貫くで」
「そうなのです。ねねは」
 彼女はだ。どうかというのだった。
「恋殿の次に貧乳が大事なのです」
「大事なのね」
「その通りなのです」
 こう言うのだった。
「この世の胸の大きい奴は恋殿以外許せないのです」
「そうです。今こそ貧乳の権利を勝ち取りましょう」
「はい、絶対に」
 周泰と呂蒙もそれを言う。
「胸がないのも大きいのと同じ位素晴しいのですから」
「権利を勝ち取りましょうね」
「そうよ。同志も集まってきたし」
 孫尚香はさらに自信に満ちていた。
「いよいよね。正義の名の下に」
「そや。うちの全力を使ってや」
「貧乳の王道楽土を作るのです」
 この二人も加わるのだった。貧乳の輪は確実に大きくなっていた。
 それはだ。遠いこの地においてもだ。孔明がふと言うのであった。
「何かどうしても」
「どうしたの?朱里ちゃん」
「どうしてかわからないけれど」
 こう前置きしてから鳳統に話すのだった。
「胸のことでね」
「胸?」
「やっぱり私の胸って大きくならないのかしら」
 困った顔での言葉だった。
「このままずっと」
「そうよね。私も」
「雛里ちゃんもなの」
「大きくならないのかしら」
 鳳統もだ。困った顔になっている。
「どうしても」
「愛紗さんなんか」 
 まずは彼女の名前が出て来た。
「あんなに大きいのに」
「桃香さんも」
 次は彼女だった。
「何もしないでもああなったのよね」
「そう言ってるけれど」
「そうなるのかしら」
 二人でだ。俯いて暗い顔になって話すのだった。
「あそこまで」
「大きくなれるのかしら」
「若しかしたら」
 ここでだ。鳳統が言った。
「あれじゃないかしら」
「あれって?」
「紫苑さんだけれど」
 彼女の名前も出る。
「お子さん生まれたら胸が」
「大きくなるの?」
「そうなのかな」
 こう孔明に話す。
「それで大きくなるのかしら」
「ううん、そうなのかな」
 孔明は暗い顔で彼女の言葉を聞いていた。
「じゃあ私も結婚して」
「子供ができたら」
「大きくなるの?」
「そうなのかな」
 こう二人で話すのだった。そしてだ。
 その二人のところに張飛と馬岱も来た。そして二人に尋ねるのだった。
「どうしたのだ?暗いのだ」
「そうよ。ほら、これ食べようよ」
 馬岱はここで二人にバナナを一房出す。
「元気が出るよ」
「あっ、バナナ」
「それなんですか」
「そうよ。これ食べるとね」
 馬岱はもうそのバナナを剥いている。まずは先を舌でねぶっている。
「大きくなれるらしいよ」
「えっ、大きく」
「大きくなれるんですか」
「うん。神楽さんがさっき言ってたよ」
 今度は先から頬張っている。そのバナナをだ。
「バナナって大きくしたい時に食べるものなのよ」
「そうなんですか」
「バナナが」
「うん。それでどう?」
 あらためてだ。二人に対して問う。
「二人も食べる?」
「は、はい」
「是非共です」
 二人の返答は即座であった。
 そのうえでだ。早速それを剥いて食べはじめる。それぞれ横からねぶってからだ。
「はううう、とても美味しいです」
「それに大きい・・・・・・」
「何でこんなにいやらしいのだ?」
 張飛もそのバナナを勢いよくしゃぶっている。
「バナナを食べるのは」
「そうよね。何かそう思えるよね」
 馬岱は今度は左右それぞれ一本ずつ持って交互に舐めている。
「バナナってね」
「けれどとても美味しいです」
「大きいですし」
「うん。ただ固さはね」
 それについてはとだ。馬岱は言う。
「柔らかいよね」
「それがかえっていいんですけれど」
「食べやすいですし」
「何本でもいけるのだ」
 三人はそれぞれ話す。
「だからバナナは大好きなのだ」
「それでだけれどね」
 また馬岱が言ってきた。
「まだまだあるよ。それもどう?」
「はい、じゃあ」
「御願いします」
 また応える軍師二人だった。そしてである。
 二人はだ。もう一つ言うのであった。
「飲み物は」
「何かありますか?」
「うん、これ」
 今度出してきたのはだ。白い液体だった。杯の中にある。
「これどう?」
「それは椰子の」
「椰子の実の中の」
「そう。お汁よ」
 まさにそれだというのだ。
「白く濁ってるけれどどうかな」
「何かそれも凄くいやらしいのだ」
 またこう言う張飛だった。
「バナナもあってそれだと余計にそう思えるのだ」
「けれど美味しそうね」
「うん、とても」
 孔明と鳳統は椰子の汁についても目を向けた。
「白く濁っているだけじゃなくて」
「どろりとして粘り気があって」
「この液って普通のよりずっと粘りがあるのよ」
 また言う馬岱だった。
「もうね。濃くて喉の奥に絡み付いてね」
「そこまでなんですか」
「ねばねばとしていて」
「うん。それじゃあどう?」
 また二人に問う馬岱だった。
「これ飲む?」
「はい、是非」
「飲ませて下さい」
 二人は目を輝かせんばかりになっている。そのうえでの言葉だった。
「私最近そうした白いのが大好きになったんです」
「どうしてかわからないけれど」
「ううん、ただ飲んでいると」
 張飛はだ。実際にその汁を飲みながら話す。
「妙な感じなのだ」
「これって本当にお汁かな」
 馬岱は首を傾げさせている。
「何か別の。椰子じゃない気もするけれど」
「それは気のせいですよ」
「間違い無く椰子のお汁ですよ」
 軍師二人はそれは保障するのだった。
「それじゃあ今から」
「飲みましょう」
「うん、じゃあどうぞ」
 笑顔で差し出す馬岱だった。
「飲んでね」
「はい、それじゃあ」
「御願いします」
 こうしてだった。二人はその白く濁った濃い汁を飲むのだった。それとバナナもだ。
「何か大きくならなくても」
「そうよね」
 そしてそのうえであらためて言うのだった。
「これを飲んでると」
「自然に」
「美味しいし」
「いやらしい気持ちにもなってきたかしら」
 こんなことも言うのだった。
「不思議と」
「どうしてかわからないけれど」
 それはというのだった。そしてだった。
 飲んで食べながらだ。二人はこんなことも話した。
「大きくならなくても」
「そのままでも認めてもらえれば」
「どうなの?」
「それでいいんじゃいかなって」
「思いはじめました」
 また馬岱に対して話すのだった。
「どうでしょうか、それは」
「小さいままでも。それを主張して肯定すれば」
「ううん、何のことかはわからないけれど」
 しかしなのだった。馬岱はこう言うのだった。
「そうよね。小さくてもいいよね」
「はい、蒲公英ちゃんも同じですね」
「私達と」
「多分ね」
 無意識でわかっている馬岱だった。
「それはね」
「そうなのだ。鈴々もそう思うのだ」
 張飛も無意識からだった。
「小さくても別にいいのだ」
「私達それを認めてもらう為に」
「頑張ります」
 軍師二人は言った。言い切った。
「きっと明るい未来が待っていますから」
「必ずですね」
「そうそう。人って目指せばね」
 馬岱はここでまた言う。
「その目指すものになれるしね」
「手に入れることもできますし」
「だからこそ」
「誰かから聞いたのだ」
 張飛もいる。ここでは四人は一つだった。
「希望は人といつも一緒にいてくれるのだ」
「はい、ですから」
「頑張りましょう」
「そうね。絶対にね」
 こう四人で言い合う。そしてであった。
 劉備がだ。その四人に言ってきた。
「あの、そろそろですよ」
「出発なのだ?」
「はい、いよいよ南蛮の都だそうです」
 そうだとだ。四人に言うのだ。
「そこに」
「都って?」
 馬岱はそれを聞いて目をしばたかせた。
「あの、街って南蛮にあるの?」
「というか人自体いないんですけれど」
「これまで」
 軍師二人もそれを言う。
「何処もかしこも密林で」
「人すらも」
「そうなのだ。いるのは動物ばかりなのだ」
 張飛も首を傾げさせながら話す。
「人なんていたのは」
「タムタムさんとチャムチャムさんの」
「お二人だけです」
「本当にいるのかしら」
 馬岱はこうまで言う。
「ここに人なんて」
「いるよ」
「タムタム嘘吐かない」
 その二人が答えてきた。
「だから安心していいよ」
「しかも孟獲いい奴」
 タムタムはこうも言ってきた。
「何の心配もいらない」
「いい人なんですか」
 孔明はそれを聞いて少し考える顔になった。そうしてだった。
 そのうえでだ。こう話すのだった。
「それだと話は簡単に進むでしょうか」
「ただ。初対面だから」
 鳳統はこのことを問題にしていた。
「打ち解けていく必要がありますね」
「とりあえず話していこう」
「そうしよう」
 こう話してだった。軍師二人でだった。
 そのうえであれこれと話してだった。その孟獲の宮殿に向かうのだった。


第五十一話   完


                                   2010・12・18



前回の続きからかと思いきや。
美姫 「まさかいきなり胸の話とはね」
同盟が結成されるかもな。
美姫 「雪蓮も言っていたけれど、流石に謀反はないでしょうね」
それはそれで後世にどう伝わるのか面白そうだがな。
美姫 「で、劉備たちの方は順調みたいね」
だな。次回はいよいよ孟獲の宮殿かな。
美姫 「どうなるかしらね。次回も待ってますね」
ではでは。



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