『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第四十六話  馬岱、乳を羨むのこと

 劉備達は魏延に道案内を受けながら巴蜀に向かう。その中でだ。
「しかし益州ってのは」
「凄い山道だね」
 馬超と馬岱が周りの険阻な岩山や深い森を見ながら話をした。
「話には聞いてたけれどな」
「ここまでなんて」
「そんなに凄いか?」
 魏延は馬超に対して返す。馬岱はあえて無視している。
「ここは」
「だから凄いだろ」
「そうなのか。特にそうは思わないがな」
「これで凄くないとするとだ」
 趙雲もその山には言う。
「南蛮はどうなるのだろうな」
「南蛮はこんなものではない」
 実際にこう言う魏延だった。
「それこそ木々がさらに鬱蒼と茂りだ」
「鬱蒼とか」
「そして山ももっと険しい」
 そうだというのである。
「おまけに猛獣も多いぞ」
「猛獣なのだ」
「そうだ、大勢いる」
 張飛にもこう話すのだった。
「虎も豹も。大蛇もだ」
「そんなにいるのだ」
「だからここはまだ険しいうちには入らない」
 そうだというのであった。
「この程度はな」
「そうか。私は北の方しか知らなかったが」
 関羽は北の生まれだ。ここに来たのもはじめてだった。それで言うのだった。
「北とは木も違っているな」
「ええ。木も国によって違うのよ」
 黄忠がその関羽に答える。
「北と南でね」
「そうだったのか」
「北に行けば暑くて南に行けば寒くて」
 黄忠は気候についても話した。
「そうなるのよ」
「そうだったのか」
「ううん、それにしても」
 劉備はいささか困った顔になっていた。
「暑いわね」
「暑いですか」
「うん、暑いわ」
 こう魏延にも答える。見れば額にはうっすらと汗がある。
「私の服じゃちょっと」
「それはいけません」
 すぐに心配する顔になって言う魏延だった。
「ではすぐに」
「すぐに?」
「脱ぎましょう」
 こう劉備に言うのだった。
「上着でも」
「あっ、はい」
「そうすれば涼しくなります」
 魏延は実際にだ。劉備の上着に手をかけようとしていた。
「では私が今から」
「有り難う、魏延さん」
「あのですね」
 しかしだった。ここで孔明が魏延に言ってきたのだった。
「幾ら何でもここでは」
「むっ、何かあるのか」
「魏延さん桃香さんの服を脱がそうとしてますよね」
「そ、そうだが」
「あの、上着を脱がせたら」
「ブラだけになってしまいます」
 鳳統も話してきた。
「それはかなり」
「危ないです」
「いや、しかしだ」
 魏延はかなり焦りながらだ。二人の軍師に対して言い返す。
「私はただ劉備殿のことを考えてだ」
「それにしては顔が赤いですし」
「あの、ただ」
「ただ。何だ?」
「ブラウスだけでなく羽織ってるのを脱げばいいんじゃないですか?」
「それでいいと思います」
 上着を全て脱がそうとする魏延にだ。こう指摘するのだった。
「それで済むと思います」
「魏延さん若しかしてスカートまで狙ってません?」
 見ればだった。魏延は劉備のスカートまで狙っていた。それもだった。鳳統はそれも見ていた。かなり怪しい光景であった。
「幾ら暑くても」
「そこまでは」
「だから違う」
 まだこう言う魏延だった。
「私はただ。劉備殿の為にだ」
「そうですか?」
「だといいのですけれど」
 二人も怪しむがさらにだった。張飛も魏延をかなり疑う目で見て呟いた。
「怪しいことこの上ないのだ」
「私もそう思うな」 
 そしてそれは関羽もだった。
「魏延、姉者に対してだ」
「普通の感情を持っていないのだ」
「面白いことだ」 
 趙雲は楽しそうに笑っている。
「もっとも劉備殿は気付いておられぬがな」
「あたしでも気付くけれどな」
 馬超も今は腕を組んで考える顔になっている。槍を抱いてだ。
「劉備殿だけ何でなんだ?」
「そこがまた面白いわね」
 黄忠は趙雲と同じ顔になっている。
「さて、どうなるかしらね」
「ううん、まあ魏延さんって最後までは突っ込めない人みたいですし」
「とりあえずは見ているだけでいいでしょうか」
 軍師二人は的確に見抜いていた。
「それじゃあ今は」
「とりあえずは巴蜀に入りましょう」
 一行はこんな話をしながらその巴蜀に向かう。そしてであった。
 そこに入るとだ。すぐにであった。
「何かここは」
「そうね」
「活気のある街ですね」
 神楽の言葉にミナと月が応える。
「結構人が多いし」
「色々なものもありますね」
「政治が上手くいってるのね」
 神楽はこのことを察して述べた。
「だからここまで」
「益州は元々豊かな国です」
 鳳統がこのことを話す。見れば一行が今通っている村は左右に水田が広がりそこで人々が明るい顔で働いている。その数も多いのである。
「それに人も多いんです」
「そうだったの」
「はい、ただ今この州にはです」
 鳳統は劉備に応えながら話していく。
「牧がいません」
「誰もいないの」
「太守の方も少ないですし」
 この問題もあるのだった。
「今治める方が求められています」
「そうなの」
「はい、そうです」
 また劉備に話す鳳統だった。
「牧がいればいいんですけれど」
「袁術殿が妥当だがな」
 ここで関羽が言った。
「この益州に近いしな」
「しかし袁術殿は自分の州で手が一杯ですから」
「とてもここまでは」
 鳳統と孔明がこう話す。
「益州の牧になるとです」
「人が見当たりません」
「厄介な話なのだ」
 張飛が困ったような顔で話す。
「お姉ちゃんが牧になればいいのに」
「私?」
「そうなのだ。そうなったら鈴々達が全力で支えるのだ」
「私はそんな。牧なんて」
 そのおっとりとした調子で話す劉備だった。
「とても」
「いえ、そうでもないわ」
 だが、だった。黄忠がここでその劉備に対して言うのだった。
「桃香さんは皇室につながる方だし」
「それでなんですか?」
「それに人柄もいいから。絶対にいい牧になれるわ」
「けれど私何もできませんよ」
 ここでもこう言う劉備だった。そして自分でさらに話す。
「政も戦も。曹操さんや袁紹さんみたいには」
「できなくてもいいの」
 また言う黄忠だった。
「それは私達がやるから」
「紫苑さん達がですか」
「桃香さんは桃香さんのやることがあるのよ」
「そうなの?」
「そう。だから政とか戦のことは気にしないで」
 ただしだ。このことは言い加えたのだった。
「最後に裁可してくれればいいから」
「それだけですか」
「政や戦についてはね」
 こう言うのであった。
「それだけでいいから」
「はい、その通りです」
 ここでまた魏延が劉備に言う。
「私達がです。劉備殿を全力で支えますから」
「魏延さんもですか」
「是非。お任せ下さい」
 己の右手をその己の胸に当てての言葉である。
「この魏延文長が命にかえても」
「それはよくわかるな」
 関羽の言葉だ。
「魏延の姉者への想いは若しかすると」
「鈴々達以上なのだ」
「それがおかしな方向に向かっているがな」
「それが心配なのだ」
「だから私は何も」
「まあとにかくだ」
「先に進むのだ」
 二人も魏延にはあえてこれ以上言おうとしなかった。そしてだ。
 そのうえでだ。さらに先に進むとであった。
 一行はある場所に来た。そこは。
「ほう、これは」
「いい場所に来たよな」
 趙雲と馬超がそれぞれ笑顔になる。一行の前に温泉があったのだ。
「丁度汗をかいていたところだ」
「入るか?」
「うん、そうしよう」
 馬岱が笑顔で二人の提案に頷く。
「皆で入ろう」
「そうね。それじゃあね」
「入りましょう」
 神楽と月も頷く。二人はここでこんなことを話した。
「日本でも温泉は人気があるのよ」
「皆大好きです」
「そうなのか」
 魏延が二人の言葉を聞いて言う。
「貴殿達の国でもそうなのか」
「ええ、そうよ」
「それでは皆さんと一緒にですね」
「劉備殿、それではです」
 魏延はここでも劉備であった。すぐに彼女に声をかけるのだった。
「今から一緒に温泉に」
「あっ、はい」
 劉備は相変わらず魏延のその熱い視線に気付かない。
「それじゃあ今から」
「そうです。それでは」
 魏延は劉備の背中に回ってだ。彼女の両肩から押すのであった。
「一緒に入りましょう」
「は、はい」
「放っておいていいの?」
 馬岱はそんな彼女を見ながら眉を顰めさせていた。
「桃香さんの貞節が危なくない?」
「それは大丈夫ですよ」
「魏延さんはそういう人ではありませんから」
 孔明と鳳統はここでもこう話すのだった。
「確かに危険な香りはしますけれど」
「むしろ」
「そうなのよね」
「そっちの方がね」
 不意にだった。楽しげな顔で言い合う二人だった。
「楽しいし」
「見ていてね」
「あら、二人共わかってるわね」
 黄忠はそんな二人の笑顔を見て口元を綻ばさせる。
「そうなのよね。そういうのが面白いのよ」
「今の言葉は何かな」
 関羽が黄忠の言葉に突っ込みを入れる。
「何処かの書き手みたいな言葉だな」
「妙に男らしい言葉なのだ」
 張飛も突っ込みを入れる。何はともあれであった。
 一行は温泉に入った。服を脱ぎ髪の長い面々は上で束ねそれで入る。その中でだった。
 ふとだ。張飛が馬岱を見て言う。彼女の髪も上で束ねられている。
「蒲公英も髪長いのだ」
「あれっ、今気付いたの?」
「何かそういうイメージがないのだ」
「普段は後ろで束ねてるからね」
 にこやかに笑って話す馬岱だった。二人も他の面々も既に湯舟の中にいる。そうしてその中で話をしているのであった。その中でだった。
「だからそれはね」
「そう見えないのだ」
「そうなの。それにしても」
 馬岱は馬岱で趙雲を見て言うのだった。
「星さんも髪の毛長かったんだ」
「ふふふ、今気付いたか」
「後ろを一条伸ばしてるんですね」
「そうだ。短く見せているが実はだ」
「そうしてるんですね」
「そうだ。それでどうだ」
 こう話す趙雲だった。
「面白い髪型だろう」
「そうですね。短いようでそれでいて長いっていうのは」
「私自身これが気に入っている」
 そうだというのであった。
「だから続けているのだ」
「私もそうしようかな」
 馬岱はここでこうも考えるのだった。
「髪の毛を一条だけ伸ばすの。しようかな」
「止めた方がいいじゃないのか?」
 従姉が彼女に言ってきた。彼女も髪を上で束ねている。
「似合わないと思うぞ」
「似合わないかな」
「ああ、そう思う」
 こう従妹に話すのだった。
「御前にはな」
「そうかな」
「蒲公英は髪全部伸ばしてる方がいいと思うな」
「姉様みたいに?」
「まあそうだな」
 実際にそうだという馬超だった。
「髪型って結構難しいからな」
「そうだな。私もな」
 今度は関羽だった。
「実は短くしようと思うこともあるがな」
「絶対に止めた方がいいですよ」
 馬岱がそれを止めた。
「愛紗さんはやっぱり髪が長い方が」
「それを常にそう思う」
 実際にこう言う関羽だった。
「それでだ」
「その髪型でいくんですね」
「そうする」
 これが関羽の自分の髪への考えだった。
「どうも短くしてはならない気もする」
「それはいいのだが」
「何だ、星」
「枝毛には気をつけることだな」
 趙雲が今指摘するのはこのことだった。
「それにはだ」
「むっ、わかっていたのか」
「髪が長いとどうしてもなってしまうからな」
「これでもかなり気をつけているのだがな」
「それでもだ」
 また趙雲だった。
「いいな、それは」
「じゃああたしもやばいか?」
「私もなのね」
 馬超と黄忠もだった。
「髪が長いとどうしてもな」
「星もその一条の髪が気になるわよね」
「実はそうだ」
 趙雲もそれを隠さない。
「これでも髪の毛にはかなり気を使っているのだ」
「わかります、それは」
「私も」
 月とミナもであった。見れば彼女達もその髪は長い。
「どうしても。気になります」
「それは」
「ロングヘアは好きだけれど」
 神楽にしても髪は長い。
「けれど拭くのも乾かすのも」
「そして手入れもね」
「手間がかかるから」
 三人もなのだった。しかし一人例外がいた。
「そうなんですか?」
「むっ、そういえば姉者の髪は」
「長いだけでなくかなり多いのだ」
「はい、私髪の毛の手入れとかは特に」
 考えたことはないと。妹達に話す。
「してないんですけれど」
「それでその髪なのか」
「凄いのだ」
 しかもよく見ればだ。
「枝毛は全くない」
「ツヤも凄いのだ」
「本当に何もしていないんですよ」
 劉備はさらに話す。
「スタイルについても」
「何かそれって凄過ぎます」
「本当に」
 孔明と鳳統もこれには驚く他なかった。
「桃香さんは天性のものですね」
「自然と輝いている原石ですね」
「私は別に」
 また言う劉備だった。
「特にそれは」
「しかしです」
 ここで魏延が彼女に言う。
「だからといって手入れを怠ればです」
「怠れば?」
「よくありません」
 そうだというのであった。
「ですから」
「ですから?」
「これから私がです」
 すぐに迫ってきたのだった。
「お手入れを」
「魏延さんがですか」
「はい、お任せ下さい。それでは」
「それでは?」
「まずはあがりましょう」
 こう言ってだ。劉備を風呂からあがらせた。当然自分もだ。
 そして、であった。まずはその髪を念入りに洗うのだった。
 劉備のその髪を後ろから丹念に洗いながらだ。魏延はうっとりとして話すのだった。
「劉備殿の髪は本当に奇麗ですね」
「魏延さんまで」
「いえ、本当に奇麗です」
 そのうっとりとした顔で話していく。
「こんな髪ははじめてです」
「はじめてですか?」
「枝毛が一本もありません」
 まずはそれだった。
「本当に一本も」
「ううむ、有り得ないな」
「お姉ちゃんは完璧過ぎるのだ」
 また唸る妹達だった。
「私はいつもそれで悩んでいるのだが」
「鈴々みたいに短い髪でもそれはできてしまうのだ」
「しかしそれがない」
 魏延はまた指摘する。その髪を洗いながら。
「ここまでの髪があるとは。こうして手入れをすれば」
「よくなるんですか?」
「磨かれます」
 また劉備に話す。
「そしてそれは」
「それは?」
「髪だけではないです」
 うっとりとした言葉はそのままだった。
「では次は」
「次は?」
「お背中流します」
 こう話すのだった。
「そちらも」
「いえ、それは」
「お気遣いなく」
 劉備の遠慮はすぐ消したのだった。
「ではすぐに」
「ううん、だったら」
「はい、それでは」
 こうして今度は背中も流す。するとだった。
 魏延はさらにうっとりとした顔になってだ。劉備のその背中を見て話した。
「お肌も奇麗ですね」
「そうですか?」
「はい、白くて」
 まずはその色からだった。
「それにとてもきめ細かいです」
「確かにな」
「桃香さんの肌って凄いんだよな」
 趙雲と馬超は湯舟の中からその劉備を見て話す。風呂の椅子に座りそうして後ろから魏延に洗ってもらっている彼を見ながらだ。
「白くてきめ細かいだけではなく」
「肌触りもいいんだよな」
「確かに」
 魏延も今それを感じていた。
「まるで餅だ。水の弾きもいい」
「ううん、何かそこまで言われると」
「美味しそうな」
 つい出してしまった言葉だった。
「ここまでとは」
「えっ、美味しそう?」
 劉備は魏延の今の言葉にふと顔を向けた。
「美味しそうって?」
「あっ、いえ」
「いえって」
「何でもありません」
 自分の言葉を慌てて打ち消す魏延だった。
「お気遣いなく」
「そうですか」
「はい、そうです」 
 また言う魏延だった。
「それで次は」
「次は?」
「前を洗います」
 劉備にさらに言うのであった。
「いいですね」
「あっ、いえ」
 今の申し出にはだ。魏延は慌てて断ろうとした。
「それはいいです」
「いえ、遠慮なく」
「遠慮なくですか」
「そうです、遠慮することはないです」
 魏延も魏延で引かない。
「ですから」
「あっ・・・・・・」
 劉備にその身体を摺り寄せる。身体全体で洗わんとする勢いだった。
「あの、魏延さん」
「ではいいですか?」
 劉備に小声で囁く。
「今から」
「じゃあ」
「はい、では今から」
 こうしてだった。劉備の肩や手を洗う。自分の手でだ。
 その光景を見てだ。孔明がその顔を真っ赤にさせていた。
「はわわ、何か今のお二人は」
「恥ずかし過ぎます」
 鳳統も真っ赤だった。
「魏延さんってあからさまに」
「劉備さんに対して」
「わかり過ぎる位わかるわ」
 神楽は流石に赤面していないがそれでも言うのであった。
「好きとかそういうレベルではないわね」
「このままいったら」
「危ないのんじゃないですか?」
 ミナと月は本当に心配していた。
「この状況は」
「かなり」
「そうよね。じゃあ何かあったら」
 馬岱は湯舟から今にも出ようとしている。
「私がね」
「いや、それには及ばない」
 趙雲がそれを止める。
「魏延は最後までは絶対にいけない」
「絶対になんですか?」
「そうだ。そこまでの勇気はない」
 そうだというのだった。
「精々胸止まりだ」
「じゃあいいんですか」
「そうだ、いい」
 また言う趙雲だった。
「見ているだけでな」
「ううん、そうなんですか」
 馬岱は今は動かなかった。しかしその間にもだった。
 魏延はさらに洗っていく。そしてだった。
 今度は劉備の腹、そして遂に胸だった。その胸の感触は。
「こ、これは」
「あの、胸は」
「大きいというものではありません」
 まさにそうだというのだった。
「大きいだけでなく」
「弾力が半端ではない」
「あれは素直に羨ましいのだ」
 関羽と張飛がまた話す。
「あそこまでの胸はな」
「けれど愛紗お姉ちゃんも」
 張飛はふとだ。関羽を見て話すのだった。
その胸は」
「私の胸か」
「凄過ぎるのだ」
 それを言うのだった。
「桃香お姉ちゃんとどっこいどっこいなのだ」
「私の胸はだ」
「お姉ちゃんは?」
「自然とこうなったのだがな」
「そうなのだ」
「そうだ。気付いたらこうなっていた」
 そうだというのであった。
「それは駄目なのか」
「私もだが」
「あたしもだよ」
「私もよ」
 ここで趙雲、馬超、黄忠も言う。
「胸というものは自然にだ」
「大きくなるんだけれどな」
「子供が生まれたら特にね」
「それはないのだ」
「絶対にないわよ」
 張飛と馬岱が三人の言葉をすぐに否定した。
「幾ら努力してもなのだ」
「大きくならないけれど」
「そうですよね、それは」
「二人の言う通りです」
 孔明と鳳統は困った顔で話す。
「胸なんて。そう簡単には」
「大きくならないです」
「そうかしら」
 劉備は四人の言葉に首を傾げさせている。
「本当に気付いたら大きくなるけれど」
「その通りだ」
 関羽が巨乳組を代表して劉備に続く。
「そんなものは自然にだ」
「はわわ、世の中不公平過ぎます」
「そうです」
 軍師二人も言う。
「何でこんなことになるんですか」
「私達なんてとても」
「とにかくこの胸は」
 魏延はまだ劉備の胸をまさぐっている。最早洗ってはいない。
「恐ろしいまでの威力が」
「威力だなんて」
「威力があり過ぎます」
 魏延はさらに言う。
「劉備殿、こうなれば」
「こうなれば?」
「この魏延、何があろうとお仕えします」
「お仕えだなんて」
 そう言われるとだった。劉備はそれは否定するのだった。
「それはいいです」
「いいとは」
「魏延さんは友達だから」
 こう言うのだった。
「だからそれで」
「友達ですか、私が」
「ええ、だから」
 それでだというのである。
「お仕えだなんて」
「では。私は」
「友達。だからね」
「はい、だから」
「真名で呼んでいいかしら」
 こう魏延に顔を向けて言った。
「それでどうかしら」
「真名で」
「ええ。まずはね」
 自分から名乗った劉備だった。
「私の真名はね」
「はい、確か」
「桃香」
 それをそのまま告げたのだった。
「宜しくね」
「桃香様ですか」
「そう、桃香よ」
 またぎ延に話す。
「それで魏延さんの真名は?」
「は、はい」
 座りながら姿勢を正す。そして劉備から手を放してだ。こう名乗るのであった。
「私の真名は」
「何ていうの?」
「焔耶です」
「焔耶ちゃんね」
「はい、宜しく御願いします」
 姿勢を正したままで話す。
「それではこれからも」
「ええ。それにしても焔耶ちゃんって」
 劉備は彼女の身体を見てだ。こう言うのだった。
「あれよね」
「あれとは?」
「スタイルいいわよね」
「そ、そうでしょうか」
「胸は大きいし」
 それはその通りだった。胸は確かにある。
 しかもだった。それは全体もであった。
「腰もくびれてるしお尻だって」
「お尻もですか」
「いい形しているわ」
 前から見てもおおよそわかることだった。
「美人だしもてるわよ」
「い、いえ私は」
「焔耶ちゃんは?」
「もてるとかそういうことは」
「いいの?」
「はい、興味がありません」
 座りながら直立不動になって劉備に話す。
「全くです」
「男の人は?」
「はい、全くです」
 そうだというのである。
「ありません」
「ううん、そうなの」
「どう見たってそうですよ」
「一発でわかります」
 孔明と鳳統がここでまた話す。
「魏延さんってどう見ても」
「女の子が好きですよね」
「というよりかは桃香さんが」
「好きで仕方ないとしか」
「本人は否定したいみたいだけれど」
 神楽がその二人のところに来て言う。
「それはどうかしら」
「否定できません」
「とても」
 こう返す二人だった。
「だって。あれでは」
「丸わかりもいいところですから」
「な、何を言ってるんだ」
 魏延は彼女達も顔を向けてそれは否定した。
「私はだ。桃香様に対して純粋に」
「愛情を向けている」
「絶対にそうですね」
 ミナと月もそうだと言うのであった。
「けれど別にいいわよね」
「はい。女同士も男同士も同じですから」
 月はこんなことも言った。そしてであった。皆にこう話すのだった。
「私の時代の日本では男同士でも女同士でも普通でしたから」
「私の時代もよ」
 ミナもであった。
「別にそれはね」
「数十年しかかかってないからそれは当然ですね」
「ええ、そうなるわ」
「私の時代もよ」
 ここで神楽もであった。
「日本ではそんなこと普通よ」
「何か素晴しい世界ですよね」
「ええ。神楽さんの時代の日本って」
 孔明と鳳統はそのことを素直に羨ましいと思っていた。
「私達の世界って男同士はあまりないですから」
「けれどそれが普通だなんて」
「素晴しい世界ですね」
「行ってみたいです」
「来れたら是非ね」
 神楽も彼女達のその言葉を受ける。
「色々と案内させてもらうわ」
「はい、それでは」
「縁がありましたら」
 軍師二人も笑顔で応える。そうしてだった。
 劉備と魏延はお互いの真名を知った。そして互いに呼び合うようになった。
 しかし馬岱とはだ。相変わらずであった。
「あのね、あんたね」
「何だ」
 道中でまた言い合う。
「何でそんなに胸があるのよ」
「知るものか」
「そんな筈ないでしょ」
 こう言い返す馬岱だった。
「何も知らないなんて」
「実際に知る筈がないだろ」
 魏延も言い返す。
「どうしてそんなことを知っているんだ」
「あのね。私なんてね」
「何だというのだ」
「幾ら努力しても大きくならないのよ」
 自分の胸を見て言うのであった。
「何をしてもね」
「そうなのか」
「そうよ」
 また言う馬岱だった。
「何をしてもなのよ」
「自業自得だ」
「何でそうなるのよ」
「日頃の行いが悪いからだ」
「私が?」
「そうだ、御前の日頃の行いがだ」
 また言う魏延だった。
「その顔を見ればわかる」
「顔ってね。あんたの顔こそ」
「何だというのだ」
「碌なものじゃないじゃない」
 いよいよ本格的に喧嘩になりだしていた。
「その胸だってね」
「胸がどうした」
「大きければいいってものじゃないのよ。大事なのは形よ」
「御前の胸は形も悪いだろうが」
「いいわよ」
 力説だった。魏延の顔を見据えてだ。
「それじゃあここで見せてやるわよ」
「ああ、風呂場で見たがな」
 これは確かだった。見ない筈がなかった。一緒に入っていてだ。
「もう一度見てやる、その形の悪い胸をな」
「あんたも見せなさいよ」
 馬岱も言い返す。言い返さない筈がなかった。
「いいわね」
「おう!見せてやる!」
「今ここでよ!」
「ああ、待て待て」
「いい加減にしろっての」
 だがここで、だった。関羽と馬超が二人の間に入ってきた。
「こんな道の真ん中で胸なぞ出すな」
「人が来たらどうするんだ」
「来ないわよ」
「そうだ、多分な」
 二人にも言い返す彼女達だった。
「こんな山の道の中に」
「何で来るんだ」
「いつもの三人なら出て来るのだ」
 張飛は彼等の話をした。
「何処でも出て来る奴等なのだ」
「そういえばそうですよね」
「あの人達って何処にもいますから」
 孔明と鳳統もあの三人のことを話す。
「一体どういう人達なんでしょうか」
「別人なんでしょうか、本当に」
「わからないな。だが」
 趙雲は考えるふりをしていた。
「話しをすれば本当に出て来るぞ」
「出て来るかしら」
「噂をすれば何とやらだ」
 こう黄忠にも返す。
「すぐにでもだ」
「ん?おいら達呼ばれたか?」
「そうじゃねえのか?」
 早速二人出て来た。太いのと小さいのだ。
「何か旅してるだけだけれど」
「何だってんだよ」
「噂をすれば」
「本当に出て来たなんて」
 魏延も馬岱もこれには少し驚いた。
「御前等もうここまで来たのか」
「動くの速くない?」
「んっ?初対面だぞ」
「っていうか御前等何者だよ」
 彼等の返答はこうだった。
「おいら達これから袁術さんのところで兵になりに行くんだよ」
「その途中なんだけれどよ」
「とりあえず俺達は真面目に生きてるぜ」
 いつもの真ん中の男も出て来た。
「どっかの誰かと間違えてるみてえだがな」
「しかし似ているな」
「そっくりじゃない」
 魏延と馬岱はまだ言う。
「世の中似ている者は何人もいるか?」
「私あんた達とそっくりの人達に何度も会ってるけれど」
「だから初対面だぞ」
「そうだよ。俺達今まで益州にいたんだからな」
 また太いのと小さいのが話す。
「牧様がいなくなって頼りなくなったから」
「それで袁術様のところに行くんだよ」
「また癖の強い人のところに行くな」
 馬超はそのことが気になって述べた。
「あの人結構あれなところあるぞ」
「けれど食えることは確かだからな」
 真ん中の男はそのことを考えて動いていた。
「だからな。それでだよ」
「それでなのか」
「ああ、じゃあこれでな」
 彼は関羽に対しても言葉を返した。
「また縁があればな」
「すぐに会える気がして仕方ないのだ」
 張飛はその三人を見て呟く。
「というかあんた達の顔は本当に何度も見るのだ」
「んっ、そういえばあんた」
「あれか?」
 太いのと小さいのがその張飛の顔を見てふと言うのだった。
「華雄将軍か?」
「違うか?」
「誰なのだ?それは」
 張飛は彼女のことを知らなかった。
「聞いたことがあるようなないようななのだ」
「ええと。もう一人の鈴々ちゃん?」
 劉備は視線を少し上にやって話した。
「若しかして」
「ううむ、それはあるかもな」
 これは関羽も考える顔で述べた。
「公孫賛殿も以前あの張遼と似ていたと思ったしな」
「あれっ、そういえば急に声が変わった?」
 劉備も関羽の言葉で気付いたのだった。
「パイパイちゃんって」
「姉上、白蓮殿ではないのか?」
 ここでも名前を間違える劉備だった。
「私もあの方のことはどうしても忘れてしまうが」
「包丁を持っていれば思い出すのだけれど」
 黄忠はそれで思い出すというのだった。包丁でだ。
「それだったな」
「そういえば。あの人って電車が似合いそうね」
 神楽は神楽でこんなことを言いはじめた。
「人を後ろから押すような」
「何か知らないが物騒だな」
 関羽もこう指摘する。
「あの方にまつわる話は」
「あと何気に。天和ちゃんも?」
 劉備は張角の話もした。
「結構聞くけれど」
「何をなのだ?」
「ええと。鉈とか鋸とか刀とか」
 確かに物騒なものばかりである。
「それとかバールのようなものとかクラブとか」
「全部人を殺すものね」
 神楽がそうしたものを聞いたうえで述べた。
「アイドルがそんなもの使うのかしら」
「それで中に誰もいませんよって」
 劉備はさらに言った。
「そうした感じで」
「んっ?そういえば姉上は」
「その張角に似てるのだ」
 関羽と張飛はこのことに気付いた。
「髪の色が変われば」
「それでそっくりなのだ」
「えっ、そうかな」
 だが本人に自覚はなかった。
「私天和ちゃんにそんなに」
「そっくりだな」
「ああ、言われてみればな」
 趙雲と馬超もこのことに気付いた。
「あの先程の三人程ではないが」
「似てるなんてものじゃないよな」
「そういえばそうだな」
 真ん中の男が言った。三人はまだいた。
「そこの胸の大きい姉ちゃん」
「はい」
「あんた天和ちゃんにそっくりだな」
「同一人物に見える」
「ああ、全くだぜ」
 太ったのと小さいのもここで言うのだった。
「サイン欲しいな」
「けれど別人だよな」
「はい、私は劉備といいます」
 名前を出してそうではないと断るのだった。
「ですから。天和ちゃんではないです」
「三姉妹みたいだけれどあれだな」
 また真ん中の男が言ってきた。
「地和ちゃんと人和ちゃんでもないしな」
「私のことか」
「鈴々みたいなのだ」
「ああ、地和ちゃんの胸は全然ないけれどな」
 このことであまりにも有名な張梁だった。
「そっちの黒髪のでかい姉ちゃんは胸もでかいしな」
「むむむ、言うのはそこか」
「で、人和ちゃんは眼鏡だけれどな」
 張宝のトレードマークはそれだった。
「そっちの姉ちゃんは違うしな」
「鈴々に眼鏡なんて必要ないのだ」
「そうだろ。だから絶対に違うな」
「本当にサインが欲しいところだな」
「本人だったらよかったのにな」
 また言う太いのと小さいのだった。
「まあ袁術さんも歌が上手いし」
「そっちも楽しみにするか」
「そういえばあの人って」
「そうよね」
 孔明と鳳統がここでまた話す。
「歌と踊りはかなりですから」
「異常に上手で」
「張勲さんもかなり」
「上手ですよね」
 ミナと月は彼女のことも話す。
「お二人の歌はね」
「見事なものです」
「それで歌も楽しみにして行くんだよ」
 また言う真ん中のだった。
「そういうことでな」
「はい、それじゃあですね」
 劉備は明るい笑顔で彼のその言葉に応えた。
「また御会いしましょう」
「それじゃあな。しかしあんた」
「私ですか?」
「天和ちゃんと同じで胸が大きいな」
 最後に言うのはこのことだった。
「本当に何もかもそっくりだな」
「けれど声は違いますよ」
「それで別人だってわかるけれどな」
「そうですよね。声って大事ですよね」
「ああ、全くだぜ」
 彼がこう言うとだった。また孔明と鳳統が二人で話す。
「この人達って声も同じだから」
「本当に同一人物としか」 
 思えないのだった。ここが奇怪なのだった。
 何はともあれ三人は劉備達と別れ袁術のところに向かった。そしてだった。
 劉備達はだ。あらためて巴蜀に向かうのだった。その途中でだ。
 劉備は先程の三人の言葉を思い出してだ。こう言うのだった。
「そういえば」
「はい、何かありますか?」
「一体」
「私と天和ちゃんがそっくりってことだけれど」
 このことをだ。孔明と鳳統にも話すのだった。
「それってやっぱり嬉しいなって」
「思えるんですね」
「そのことが」
「うん。私天和ちゃんのファンだから」
 だからだというのだった。
「いいなあって」
「それでなんですか」
「だから」
「ええ。また今度舞台を観たいなって思うし」
「私そういえば」
 劉備の今の話を聞いてだ。鳳統は弱った感じになって言うのだった。
「三姉妹の歌は今まで直接聴いたことは」
「なかったの?」
「そうなの」
 こう孔明にも話す。顔は俯き気味になっている。
「今度機会があれば」
「そうね。その時はね」
「ええ、その時は」
「一緒に聴こう」
 孔明は鳳統ににこりと笑って話す。
「皆と一緒にね」
「ええ、それじゃあその時は」
「一人で聴くだけじゃなく皆で聴いたら」
 孔明はさらに話す。
「余計に楽しいからね」
「皆でだとなのね」
「そうよ。一人で聴いてもいいけれど」
 それでもだというのだ。
「皆で聴いたらもっといいから」
「うん。じゃあ皆で」
「聴こうね、雛里ちゃん」
「ええ、朱里ちゃん」
 お互いに微笑み合い真名も呼び合う。二人の仲はさらによくなっていた。
 そうして進みだ。遂にであった。
 趙雲が道の左に見える立て札を見て言った。
「よし、巴蜀だ」
「遂に来たわね」
 黄忠も言う。
「桔梗ちゃんのところに」
「桔梗?」
「桔梗っていうと?」
「あっ、その厳顔ちゃんの真名なの」
 それだと話す黄忠だった。
「私達昔から知り合いなのよ」
「そうだったんですか」
「ええ。長い付き合いね」
 劉備に対しても述べる彼女だった。
「どれ位になるかしら」
「ここで詳しく聞いたら駄目よね」
「命の保障はできないのだ」
 馬岱に張飛が話す。
「黄忠さんってそうした話すると凄く怖いから」
「射られても不思議じゃないのだ」
 それはもうわかっている二人だった。そして黄忠はさらに話すのだった。
「元気かしら、本当に」
「はい、お元気です」
 魏延が彼女に話してきた。
「では今から」
「それじゃあね。今からね」
「会いましょう、これから」
「また一緒に飲むわよ」
 こう話してだった。彼女達はいよいよ小古曽顔に会うのだった。
 そしてその時だ。袁術は張勲と話していた。今は仕事中で木簡を読んでいる。
 そうしながらだ。困惑した顔を見せていた。
「うう、嫌なのじゃ」
「お仕事が嫌ですか?」
「そうなのだ、嫌なのじゃ」
 その通りだというのであった。
「ここまで多いといい加減うんざりするのじゃ」
「南部の統治もはじめましたからね」
「それはいいのじゃが仕事が倍になったのじゃ」
「ですが麗羽さんもこれだけのことをされてますよ」
 張勲は何気なくを装って彼女の名前を出した。
「それもちゃんと」
「麗羽姉様はじゃと」
「はい、今度幽州の牧にもなられますし」
「うう、それならじゃ」
 それを聞くとだった。袁術の顔が変わった。うんざりとしたものから引き締まったものになった。そのうえでこう言うのであった。
「姉様には負けられないのじゃ」
「そうですよね。袁家の嫡流として」
「はい、麗羽様は嫡流ではないですから」
「嫡流はわらわなのじゃ」
 このことを強く言う袁術だった。
「年少だからといって侮られては困るのじゃ」
「じゃあわかりますね」
「うむ、わかったのじゃ」
 その真面目な顔での言葉だった。
「姉様に負けてはいられないのじゃ」
「それとですね」
「何じゃ、今度は」
「人が来ていますよ」
 今度言うのはこのことだった。
「また。あちらからの方です」
「ほう、またなのじゃな」
「はい、来ていますけれど」
「ならばじゃ。これを終わらせてじゃ」
 袁術のその手が速くなった。筆を動かしだしている。
「その者に会おうぞ」
「ええ。それじゃあ」
「姉様や曹操のところには随分と人材が来ておるそうじゃな」
 袁術はここでこのことも話した。
「そうじゃな」
「はい、かなりの人達が来ていますね」
「それが腹が立つのじゃ」
 今度はむっとした顔になる袁術だった。
「全く以てじゃ」
「まあ今は落ち着かれて」
「仕事をしてじゃな」
「会うぞ」
「そしてその後は」
「蜂蜜水じゃ」
 これも忘れていないのだった。
「よいな、七乃」
「はい。ただし一杯だけですよ」
「ううむ、二杯は飲みたいのじゃ」
「虫歯になりますけれどいいですか?」
「何っ、虫歯とな」
「それでもいいのならいいですけれど」
 にこりとして怖いことを話す張勲だった。
「それでもいいというのなら」
「わ、わかったのじゃ」
 袁術は虫歯と聞くとすぐに青い顔になった。そのうえで答えるのだった。
「それでは一杯だけにしておくのじゃ」
「はい、わかりました」
「虫歯は嫌なのじゃ。あんな痛いものは二度と御免なのじゃ」
「ですから。蜂蜜水はです」
「一杯だけじゃな」
「はい、そういうことで」
 これは譲らないのであった。
「それとですけれど」
「今度は何じゃ?」
「何か曹操さんのところで凄い歌手が加わったとか」
「歌手じゃと」
「何か胸が凄く小さい」
 このことも忘れない張勲だった。
「そうした歌手だとか」
「ふむ。胸が小さいのか」
「はい、自分でもそれを気にしているとか」
「そんなものはどうでもいいではないか」
 袁術は何気に自分の胸も見て言うのだった。
「わらわも小さいぞ」
「そうですね。胸は小さく大志は少しだけ大きく」
「大志は一番大きくなのじゃ」
 袁術も言う。
「袁家の棟梁として三公の一人になるのじゃ」
「そして四代から五代に」
「姉様には負けぬのじゃ」
 ここでも袁紹を意識していた。
「しかし。胸が小さいとな」
「はい、とても」
「ふうむ。胸というのは難儀なものじゃな」
 袁術はここでも己の胸を見る。まな板そのもののその胸をだ。
「これ程人によって差があるものもないぞ」
「ですよね」
 張勲は何気に己のその豊かな胸を揺らしている。にこりとしながら。
「それは」
「七乃はあるのう」
「そうですか?私はまだ」
「姉様もそうじゃし孫策の奴もじゃ」
 何故かここで孫策の名前も忌々しげに出すのであった。
「あの胸は気に入らんのじゃ」
「では孫尚香さんは?」
「あれはよいのじゃ」
 彼女については寛大な顔で語る。
「わらわと同じだからじゃ」
「美羽様らしいお言葉で何よりです」
「もっと褒めてたも」
 ここでは得意げな顔で言う袁術であった。
「わらわは満足じゃ」
「左様ですか」
「そうじゃ。胸が何だというのじゃ」
 袁術はさらに言う。
「違うか」
「小さくともですね」
「そうじゃ。大きい胸が何だというのじゃ」
 また言うのであった。
「御主に言ってもわからんじゃろうがのう」
「はい、それはですね」
 にこりと笑うのはそのままにして話す張勲だった。
「申し訳ありませんが」
「その点だけは曹操に同意じゃ」
「そういえば曹操さんも」
「左右のあの二人は論外じゃ」
 彼女達はというのであった。
「全く。胸ばかり大きい奴等じゃ」
「けれど最近曹操さんの陣営でも」
「胸が小さいのが増えておるか」
「はい、かなり」
「ならばよいのじゃがな」
「そういうことですね。それでは」
 ここまで話してだった。そうして。
 袁術はまた言うのであった。
「ではその者に会おうぞ」
「はい、それでは」
「楽しみじゃ。その後の蜂蜜水ものう」
 それを楽しみにしながらだった。袁術は向かうのだった。彼女も彼女で何かと悩みがあるのだった。完全な能天気ではなかった。


第四十六話   完


                        2010・11・21



途中、主に魏延が桃香絡みで少々あったけれど、無事に到着したな。
美姫 「黄忠がいるから厳顔との面会はすんなり行くとは思うけれどね」
牧になるとかどうとかはすんなりといくかな。
美姫 「どうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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