『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第四十四話  怪物達、北にも出るのこと

「何か帰って来てもなあ」
「忙しいって?」
「そうだよ。匈奴を征伐しておしまいじゃないからな」
 文醜が顔良にぼやいていた。
「そっからが本番って感じだよな」
「そうよね。それはね」
「あたい達武官でも書く仕事するなんて思わなかったよ」
「それもここまでね」
 二人は今お互いに机に座っていた。そのうえで木簡を開いてそこにあれこれと書いている。顔良は丁寧に書いているが文醜は雑な動きだった。
「四州に烏丸に匈奴かよ」
「これまで使った兵糧の帳簿整理なんてね」
「いつも黒梅姉さんがしてたしな」
「書類整理はね」
 そうしたことでは軍では彼女の担当だったのだ。しかしなのだった。
「けれどな。四州に二つの異民族だからな」
「軍も大きくなったし最近兵を動かすことも多かったし」
「兵糧の規模も消費もでかくなってか」
「私達もこうしてね」
「でかくなったのはいいさ」
 文醜もそれはいいとした。
「あたい達袁紹軍の威光も高まったしな」
「そうよね。けれどお仕事はね」
「こんなに増えちまったよ」
「花麗ちゃんと林美ちゃんも今忙しいみたいよ」
「あの二人だろ?幽州に兵隊進めるのは」
「ええ、そうよ」
 その通りだと話す顔良だった。手は止まらない。
「あの二人がね。今その準備をしてるわ」
「朝廷から正式に話が来たらすぐにか」
「ええ、幽州もね」
「袁紹様の統治下になるってか」
「そういうことよ」
「本当にそれ自体はいいんだけれどな」
 文醜のぼやきが続く。だが彼女も手は止めない。
「仕事が増えてなあ」
「袁紹様も今仕事に追われてるしね」
「ってそれまずいだろ」
 文醜はここでこう言った。
「麗羽様のストレスが溜まったらな」
「爆発するわよね」
「あの人そういうところが問題だからなあ」
 文醜は明らかにぼやいていた。
「変なストレス解消ばかり考えるし」
「あの鰻大会またやるんじゃねえか?」
「あれ?」
「そうだよ。鰻を胸で掴むあれだよ」
「麗羽様鰻お好きだしね」
「それか罰ゲーム大会な」
 それも有り得るというのだ。
「くじ引きに当たった奴がどんな罰ゲームを受けるか」
「足の裏をくすぐったりとかのあれね」
「とにかく変なことばかりするからね」
「ああいうムラっ気がなかったらいいんだけれどな」
「ただ。それだと」
 それはそれでと話す顔良だった。
「麗羽様らしくないし」
「袁家のお姫様らしくないよな」
「そうだからね。本当に難しい人よね」
「全くだよ」
 こんな話をしながら仕事をする二人だった。そして仕事をしているのは彼女達だけではなかった。常に袁紹を護る審配もだった。
 彼女はこの時も袁紹の部屋の前に立っている。それで主を護っているのだ。それが彼女の仕事だった。そうしているのだった。
 その彼女のところにだ。兵達が来て言ってきた。
「あの、今です」
「おかしな話が伝わってきたのですが」
「おかしな話?」
「はい、そうです」
「何でも青州にです」
 兵達は審配に対して話していく。
「奇怪な者達が現れたそうです」
「赤い髪の男に」
 まずは彼だった。
「それに裸の大男が二人」
「その三人だそうです」
「赤い髪の男といえば」
 審配はそのことを聞いて察した顔になった。そうして話すのだった。
「あの華陀かしら」
「名医のですか」
「針を使うという」
「あの男ではないかしら」
 こう予想を述べる彼女だった。
「赤い髪の若い男よね」
「はい、そうです」
「その通りです」
「それならそうかも知れないわ」
 華陀ではと話し続ける。
「けれど。何かしら」
「ではここは」
「どうされますか」
「華陀だったら問題はないわ」
 彼ならばというのだ。
「名医よ。誰かの病を癒してくれるから」
「だからですか」
「その者はいいのですね」
「ええ。けれど」
 しかしなのだった。審配は怪訝な顔になってだ。それで話すのだった。
「問題はその後だけれど」
「裸の大男達ですか」
「その二人ですね」
「何なの、それは」
 審配の怪訝な顔は変わらない。
「裸っていうのは」
「それがです」
「どうも妖術を使うそうで」
「妖術!?」
「はい、絡んだ悪党を忽ちのうちにです」
「その目だけで倒したとか」
 そうだというのである。
「そうした恐ろしい術を使うそうです」
「そうした者達だとか」
「その者達が我々の勢力圏に来たので」
「それでどうされますか」
「ここは」
「そうね。ここはね」
 考える顔になった。審配は参謀の一人でもあるのだ。それでだ。
「監視役をつけましょう」
「そうしてですか」
「今は」
「ええ、警戒にあたらせて」
 こう話すのだった。
「とりあえずはね」
「はい、それでは」
「その様に」
 こうしてだった。とりあえずの方針が決まったのだった。
 早速二人青州に派遣された。それは夜血と灰人だった。
 二人はぼやきながら道を歩いていた。
「何かかったるいな」
「そうだな」
 それぞれの剣を手にぼやいている。
「わざわざ青州に行くなんてな」
「これも仕事かよ」
「っていうのが審配さんの話だけれどな」
「引き受けるのもどうなんだ?」
 こんな話をしながら歩く二人だった。
「俺も丸くなったぜ」
「俺もだ」
「昔だったら絶対に引き受けない仕事だったな」
「言ってきた奴を斬ってたな」
 それがかつての彼等だった。しかし今は違っていた。
 仕事を引き受けてだ。そのうえで青州に向かっていたのだ。
 そうしてだった。ある街に入るとだった。
 大騒ぎになっていた。何か前にいるらしかった。二人はこのことにいぶかしんだ。
「何だ?」
「何があったんだ?」
「前に何かいるのか?」
「何かあるのかよ」
 それぞれ首を傾げさせながら言う。そうしてだった。
 自分達の方に来た町人に尋ねる。その町人もかなり我を失っている。
 その狼狽した有様でだ。二人に話してきた。
「あの、あそこにです」
「あそこ?」
「前にか」
「はい、怪物で出てるんですよ」
 こう言うのである。
「もう何が何かわからない怪物が二人も」
「怪物に人間の呼び方はあれだろ」
 夜血はそこに突っ込んだ。
「違うだろ」
「一応姿形はそう見えないこともないので」
 こう返す町人だった。
「それで」
「人間の形をした妖怪か?」
 灰人は話を聞いてこう述べた。
「つまりは」
「まあそんなところです」
「そういえばな」
「ああ、そうだな」
 ここで二人は頷き合った。そうして話すのだった。
「審配の嬢ちゃんも言ってたな」
「怪物が二人ってな」
「それか?」
「そうじゃないのか?」
 こう言い合ってだった。前に向かうのだった。
 人ごみを分けてそのうえで前に来た。するとだった。
 そこにいたのは。確かに怪物達だった。
「あら、皆恥ずかしがり屋ね」
「全くね」 
 彼等は周囲が自分達を見て逃げ惑うのを見てこんなことを言っていた。
「私達があまりにも美しいからって」
「見ないようにすることはないのに」
「そうよ。ほら、よく見て」
「減るものじゃないわよ」
 こう言ってポージングまでする。するとだった。
 彼等の周りで大爆発が起こる。恐ろしいまでの破壊力だった。
「ほら、私達の美しさに世界も感嘆しているわ」
「この爆発が何よりの証拠よ」
「あ、あれは!」
「ああ、間違いない!」
 夜血と灰人は彼等とその爆発を見て確信した。
「怪物だな!」
「どう見たってな!」
「おい、そこの怪物!」
「一体何だ貴様等は!」
 それぞれの得物を手に彼等に問う。
「何処から来た!」
「そして何だ今の爆発は!」
「あら、そんなの決まってるじゃない」
「そうよ」
 怪物達は平然としてその彼等に返す。
「私達の美しさを讃えた花火よ」
「今のはね」
「何が花火だ」
「今のはどう見ても違うだろうがよ」
 平然と言い切る怪物達に二人はムキになって言い返す。
「どうやら貴様等」
「この街を破壊するつもりらしいな」
「どうしてそう思うかしら」
「失礼しちゃうわ」
「失礼なのは手前等自身だ!」
「この化け物共が!」
 まさに誰がどう見てもなのだった。
 それで構えて戦おうとする。怪物達もそれを見てだった。
 不敵な笑みを浮かべて言うのだった。
「おいたは駄目よ」
「そんなことしたらよくないわ」
 不敵というよりは不気味な笑みだった。そうしてであった。
 彼等は構えを取らない。そのかわりにだった。
 それぞれウィンクしてみせた。するとだった。
 夜血と灰人のいたそこにも大爆発が起こった。それで吹き飛ばされたのだった。
「な、何っ!?」
「ここでも爆発が!?」
「私達の視線は何よりも凄いのよ」
「まさに百億ボルトの衝撃よ」
 彼等だけがこう言うのだった。
「そのあまりもの美しさによってね」
「祝福の花火があがるんだから」
「くっ、こいつ等やっぱり」
「妖術を使うんだな」
 二人は何とか立ち上がりながら言う。全身ボロボロである。
 そのうえで戦おうとする。しかしなのだった。
 怪物達はその彼等を見てだ。まだ言うのであった。
「私達の魅力があまりにも凄くて立つのね」
「もっと見たくて」
「どうしてそう言えるんだ、こいつ等」
「おかしいんじゃないのか?」
 これが二人の反論だった。足元がふらふらになっている。
「だがこいつ等を放置したらな」
「ああ、洒落にならないことになるな」
「俺達どころか何もかもがな」
「破壊されちまう」
 こう言ってだった。まだ戦おうとする。しかしここで、なのだった、
「ああ、そこにいたのか」
「あっ、ダーリン」
「戻って来たのね」
「また見つかったぞ」
 何でもないといった調子で言う華陀だった。
「俺達の仲間がな」
「あら、そうなの」
「またなのね」
「ああ、見つかった」
 笑顔で二人に話すのだった。
「そっちに行くか」
「ええ、それじゃあね」
「今からね」
 怪物達も彼の言葉に頷く。そうしてだった。
 華陀の左右を固める。そして何処かに行こうとする。しかし華陀はだ。
 夜血と灰人に気付いた。そうして彼等に声をかけたのだった。
「あれっ、あんた達」
「何だ?」
「何だってんだ、手前は」
「そこの怪物達の仲間だな」
「そうだな」
「怪物?何処にそんなのがいるんだ?」
 彼もまたわかっていなかった。
「そんなの何処にもいないぞ」
「こいつ、おかしいのかよ」
「自分達の左右が見えないのかよ」
「やっぱり何もいないぞ」
 左右を見回してから答える彼だった。
「怪物なんてな。まあいい」
「いいって何がだ」
「まだか手前も」
「あんた達怪我をしてるな」
 彼が言うのはこのことだった。
「特にそこのあんた」
「俺か」
「ああ、あんただ」
 灰人に対しての言葉だった。
「あんた今薬を飲んでいるな」
「それが悪いのかよ」
「まずいな。止めた方がいい」
 真剣な顔で彼に告げる。
「絶対にな」
「へっ、そんなの俺の勝手だろ」
 話を聞こうとしない灰人だった。
「誰にも迷惑をかけてないだろうが」
「いいや、そうじゃない」
 華陀はそれを否定した。
「あんたは絶望しているな、これまでのことに」
「手前、何を言ってるんだ」
「誰かに言われた筈だ。あんたは絶望しちゃ駄目だ」
 確かな表情で彼を見据えての言葉だった。
「何があってもな」
「じゃあどうするんだ」
「とりあえず薬を止めるんだ」
 その薬をだというのだ。
「それにだ」
「それに?」
「その中毒症状と病気もな」
 こう言ってであった。
「治しておく」
「んっ、何だ。針かよ」
 夜血がそれを見て話す。
「それを使ってか」
「そうだ。じゃあはじめるぞ」
「わかった。それじゃあな」
 灰人もそれを受けることにした。そうしてだった。
 華陀は構えを取った。そこからだった。
 右手に持った針を突き出し。そして叫んだ。
「光になれーーーーーーーーーーーーっ!」
「むっ!?」
「これで終わりだ!」
 華陀はさらに叫んでだった。灰人のその胸が光った。それが終わった時だった。
 灰人の顔色がだ。見る見るうちによくなりだった。彼も言うのだった。
「何かな。実感できるな」
「自分でもわかるな」
「ああ、わかる」
 こう華陀に対しても話す。
「もう薬は必要ないな」
「そういうことだ。薬なんかなくてもな」
「戦えるんだな」
「あんた自身ともだ」
 目の前の敵だけではないというのだ。
「だから安心してくれ」
「礼を言うな」
 灰人ははじめて微笑んだ。この場ではじめてだった。
「あんたのお陰で。何かが見えてきた感じだ」
「医者は身体を癒すだけじゃない」
「心もっていうんだな」
「ああ、そうだ」
 まさにその通りだというのである。
「だからこそだ。俺は今な」
「わかった。それじゃああんたは悪い奴じゃないんだな」
「そうよ。そんなの見ればわかるじゃない」
「違う?」
 また怪物達が言ってきた。
「私達だってね。善意の塊なのよ」
「それわかって欲しいわ」
「いや、手前等は違うだろ」
「そもそも人間かよ」
 灰人だけでなく夜血も彼等には警戒を怠らない。
「大体名前は何なんだよ」
「化け物でもそれ位あるよな」
「だから化け物なんかじゃないわよ」
「失礼しちゃうわ」  
 まだ言う彼等だった。
「私達の名前はね」
「それを言うわね」
「だから早く言えよ」
「とにかく話はそれからだ」
「貂蝉よ」
「卑弥呼っていうのよ」
 ここでやっと名乗る彼等だった。
「宜しくね」
「いい名前でしょ」
「この連中は俺の仲間なんだ」
 華陀がここで二人に話す。
「この連中も宜しくな」
「あんた何も思わないのか?」
「その連中を見て何も思わないのか?」
「んっ?何をだ?」
 華陀だけが気付いていない。
「いい連中だぞ。空も飛べるしな」
「いや、空を飛べること自体がな」
「そもそも人間じゃないだろ」
 二人の突っ込みは正論だ。しかしであった。
 華陀はわかっていなかった。そしてわかっていないまま話を続けるのだった。
「それでなんだが」
「ああ、それで何で青州に来たんだ?」
「悪事を働きに来たんじゃないのはわかったけれどな」
「袁紹殿に会いたい」
 こう言う華陀だった。
「それでだ」
「ああ、あの人にか」
「それで来たってことか」
「そうだ。それとだ」
 華陀の言葉が続く。
「仲間も見つけた」
「仲間!?」
「仲間っていうと?」
「この人よね」
「そうよね」
 出て来たのはビロードのある赤いやたらと派手な着物を着てメイクをした男だった。その男が何者かというとであった。
「天草四郎時貞さん」
「いらっしゃい」
「気付いたらこの世界にいたが」
 その男天草が貂蝉と卑弥呼の言葉に応えて言う。
「ここは日本ではないな」
「そうよ、貴方が本来いる世界とは別の世界よ」
「その世界の漢なのよ」
「漢というと」
 天草はその国名を聞いただけでわかった。
「古に来たのだな」
「そうよ」
「これでわかってくれたわね」
「うむ、わかった」
 その通りだと頷いてみせる天草だった。
「そういうことか。私は故あってこの世界のこの国に来たのか」
「おい、やけに素直だな」
「簡単に話を受け入れたな」
「この世のあらゆるものを見てきた故」
 灰人と夜血の突っ込みにもこう返す。
「受け入れられるようになった」
「それでか」
「そのせいでかよ」
「そうだ。それでだが」
 天草はあらためて華陀達を見てだ。そうして言うのだった。
「私を必要としてくれているか」
「ああ、是非来てくれ」
 こう返す華陀だった。
「俺達と一緒にこの世界を救おう」
「わかった。それではな」
「宜しくな」
「さあ、これでまた頼もしい仲間が増えたわよ」
「しかも凛々しいね」
 貂蝉と卑弥呼も言う。
「有り難いわ」
「本当にね」
「それで袁紹殿だが」
 華陀はいきなり話を元に戻してきた。
「いいか?」
「あんたはいいさ」
「そう、あんたはな」
 灰色と夜血は華陀はいいとしたのだった。だが、だった。
「そっちの連中はな」
「問題外だろ」
 その顔をそれぞれ思いきり顰めさせてだ。怪物達を見て言うのだった。
「絶対に大騒ぎになるぞ」
「だから駄目に決まってるだろ」
「言っている意味がわからないな」
 やはりわかっていない華陀だった。
「あんた達の言ってることがどうもな」
「・・・・・・あんた目悪くないか?」
「それか相当な大物か?」
 二人もいい加減華陀のことがわかってきた。
「まあとにかくあんたはいいさ」
「袁紹さんのところに行くのはな」
「じゃあこの連中もいいな」
「だから何でそんな話になるんだ」
「だからその連中はな」
 しかし幾ら言ってもであった。その二人がなのだった。
「嬉しいわ。袁紹さんって相当変わった方らしいけれど」
「一度会いたいって思ってたのよ」
「いや、あんた達の方が変わってるからな」
「いい加減自覚しろよ」
 二人の突っ込みもよそにだった。華陀達は冀州に向かった。その道中もだった。
「っておい」
「今さっき話したばかりだろうが」
 灰人と夜血が驚いた顔で言う。
「何でもう冀州に着いてるだよ」
「しかも袁紹さんの宮殿の前だろうがよ」
「テレポーテーションを使ったのよ」
「大したことじゃないわ」
 いきなり超能力を使ったのであった。
「こっちの世界じゃ縮地法っていうのかしら」
「確かそうだったわね」
「こいつ等やっぱり人間じゃねえな」
「ああ、確信したよ」
 はじめて見た時からだった。それでもなのだった。
 そうしてそれに頷いてだった。華陀に対して言う。
「じゃあ行くか」
「それでいいな」
「ええ、私達もね」
「行くわよ」
 まだ言う貂蝉と卑弥呼だった。
「袁紹さんのところにね」
「今からね」
「あのな、人の話聞いてるか?」
「さっきから何度も言ってるだろうがよ」
 二人はまた呆れながら怪物達に対して突っ込みを入れる。
「人間じゃない連中は無理だよ」
「流石にな」
「だから乙女なのよ」
「失礼しちゃうわ」
「こいつ等まだ言うかよ」
「斬っておきたいが何か死にそうにもねえしな」
 死なないというのは当たっていた。実はこの二人は不死身なのだった。例え何があっても死にはしないのが彼等なのである。
「まあとにかくどっかで飯でも食ってて待っててくれ」
「それでいいな」
「そこまで言うのなら仕方ないか」
 華陀もここで頷いたのだった。
「じゃあ行くか、袁紹殿のところにな」
「私もこの者達と共に時間を潰させてもらう」
 天草は残ると言うのだった。
「この国の料理を楽しみながらな」
「あんたは物分りがいいな」
「お陰で助かるよ」
 灰人と夜血は天草の分別のよさに心から感謝した。そうしてだった。
 そのうえでだ。彼等はさらに話すのだった。
「じゃあな」
「行こうか」
「ああ、それじゃあな」
 こうしてだった。華陀は袁紹のところに案内されることになった。しかしその怪物達がどうかというとだった。これが問題なのだった。
 一応天草と共に料理店に入る。そうしてだった。
 ふとだ。怪物達はこんなことを言うのだった。
「諦めてないわよね」
「勿論よ」
 卑弥呼はこう貂蝉に返す。
「乙女に諦めるという言葉はないわよ」
「その通りね。それじゃあ」
「はい、それじゃあね」
「ここは姿を消して」
「それで行きましょう」
 こうしてだった。彼等はカメレオンの如く姿を消してだった。それで何処かへと向かうのだった。そんな術も使えるのである。
 天草は二人が消えたがさして驚かずだ。こう言って席に着くのだった。
「用足しか」
 彼も流石に知らなかった。彼等が異常な術を幾つも使えるということをだ。そうしてそのまま落ち着いて料理を楽しむのであった。
 華陀は袁紹謁見を受けていた。袁紹の左右には今は田豊と沮授が控えている。主の座の階段の下のところには顔良と文醜がいる。
 その四人を傍に置いている袁紹がだ。華陀に対して言うのだった。
「灰人さんの病を治してくれたそうですわね」
「ああ、それか」
「話は聞きましたわ」
 こう返す袁紹だった。
「それで貴方は」
「華陀だ」
 自分から名乗った彼だった。
「宜しくな」
「名前は聞いてますわ」
 袁紹は彼の名乗りにこう返す。
「天下の名医だとか」
「名医とかそういうのはどうでもいい」
 彼は名声にはこだわらなかった。
「ただな」
「ただ?何ですの?」
「俺がここに来た理由がだ」
「私に会いに来たそうですわね」
「その通りだ」
 それはその通りだというのだった。
「あんたに用があってな」
「私は特に病気は持っていませんわよ」
 袁紹はそれは断った。
「家臣達も。灰人さん以外には」
「そうですね。とりあえず問題は」
「麗羽様のこの気まぐれな御気性だけで」
 ここでこんなことを言う田豊と沮授だった。
「まあそれは不治の病ですから」
「どうしようもありませんが」
「聞こえてますわよ」
 その二人にむっとした顔で返す袁紹だった。
「しっかりと」
「あっ、これはすいません」
「失言でした」
「全く。わざとですわね」 
 それはわかっていてもあえてこれ以上は言わない袁紹だった。そうしてである。
 あらためてだ。華陀に対して問うのだった。
「それで」
「ああ、俺がここに来た理由だな」
「病はもう治したのにですわね」
「そうだ、あんたに会いに来た」
 上にいる袁紹を見上げてそのうえでの言葉だった。
「絶対にと思ってな」
「絶対にといいますと」
 ここで袁紹もわかった。
「国家のことですわね」
「ああ。あんたは北を押さえてるな」
「その通りでしてよ」
 これは言うまでもなかった。今更といった感じだった。
「それは」
「それでだ。そのあんたに話があって来た」
「ということはだよな」
「そうよね」
 ここで文醜と顔良も話す。
「胡の連中のことか」
「それしかないわよね」
「そう、その胡だ」
 まさに彼等のことだと。華陀も言うのだった。
「最近あんたは匈奴に烏丸、それに西方と立て続けに出兵してるな」
「ええ、その通りでしてよ」
 袁紹自身もそのことを認める。
「ですがそれは」
「ああ、わかっている」
 華陀も彼女の言葉に頷いてみせる。
「君主として当然のことだな」
「胡を何とかしなければこの国は持ちませんわ」
「まずは外敵を何とかしないといけないからな」
「それが何か?」
「そのこと自体はいい」
 華陀もそれは否定しなかった。
「だがな」
「だが?何でしての?」
「最近の胡には注意してくれ」
「また攻めて来ると」
「流石に暫くは大人しい」
 暫くは、という限定であった。
「あんたがかなり叩いたからな」
「しかしこれからは」
「どうも向こうに人がいるようだ」
「人が?」
「簡単に言うと優れた主だな」
「それがいるのでしてね」
「優れただけじゃないかも知れないしな」
 ここでだった。華陀の顔が曇った。
「その辺りはどうもよくわからないところがあるがな」
「とにかく。あれですのね」
 袁紹にしても華陀の言葉が完全にわかったわけではなかった。しかしだった。
 彼のその言葉のうちわかる部分を頭の中で反芻してだ。そのうえで言った。
「とにかく」
「ああ、とにかくな」
「胡にはこれからも気をつける」
「そういうことだ」
「特に優れた主がいるかどうかですわね」
「よく見てくれないか」
「わかりましたわ」
 華陀の言葉にだ。頷いたのだった。
「それでは引き続き胡への警戒は続けていきますわ」
「そうしてくれ。あんたの役目は非常に大事だからな」
「自覚していますわ。それで」
「ああ。それで?」
「華陀さんだけでして?ここに来られたのは」
 袁紹はここでこの質問をしたのだった。
「ああ、それか」
「何か聞いたところによると」
 いぶかしみながらだったがそれでも言う袁紹だった。
「怪物が一緒にいるとか」
「確かそれが二人?」
「そう聞いているけれど」
 田豊と沮授も話す。
「それはどうなのですか?」
「今ここに?」
「この城には来ているが宮殿の中には来ていない」
 こう二人に話す華陀だった。
「俺だけだ」
「えっ、けれど」
「何か気配を感じるけれどな」
 ここで言ったのは顔良と文醜だった。
「圧倒的な気配が」
「異様に感じるんだけれどな」
「これって明らかに誰かが」
「あんた以外にここにいるってことだけれどな」
「いや、いるのは俺だけだ」
 こう言われてもこう話す華陀だった。
「実際にいるのは俺だけじゃないか」
「けれど気配が」
「じゃあ何だってんだよ」
 顔良と文醜がいぶかしむ。するとだった。
 不意にだ。彼等が出て来たのだった。そうしてだ。
「はぁ〜〜い、出て来たわよ」
「ダーリン、来ちゃったわよ」
「ああ、いたのか」
 二人を見てもだった。華陀はここでも動じない。
「それで気配がしたって言われたんだな」
「これでも消したのよ」
「随分と腕の立つ人がいるのね」
「そうみたいだな」
 何ともない調子で話す彼等だった。
 しかし袁紹達は違っていた。血相を変えて叫ぶのだった。
「!?これは」
「妖怪!!」
 まずは田豊と沮授だった。
「いけません麗羽様!」
「この者達は!」
「ええ、そうです!」
「ここはあたい達が!」
 顔良と文醜もだった。袁紹を護る場所に出てそのうえでそれぞれの得物を出す。
「化け物、ここは行かせないわ!」
「絶対にな!」
「くっ、その妖怪達は!」
 袁紹も剣を抜いて主の座から立っていた。
「一体何処から!」
「姿を消してここに来たのよ」
「そんなの簡単じゃない」
 実に素っ気無く返す二人だった。
「だってダーリンだけ会うなんて酷いじゃない」
「私達だって袁紹様と御会いしたいのに」
「ああ、この連中は気にしないでくれ」
 華陀が袁紹達に落ち着いて話す。顔良と文醜だけでなく田豊と沮授もそれぞれ袁紹の前に出てそれで主を護ろうとしている。
「何もしないからな。気のいい連中だ」
「そんな言葉信じられないわ」
「明らかに人間じゃねえだろ」
 顔良と文醜がすぐに華陀に突っ込む。
「しかも姿が消せるなんて」
「妖術まで使えるのかよ」
「やっぱり、この二人」
「化け物かよ」
「いや、違うぞ」
 華陀だけがそれを否定する。
「だからこその二人はだ」
「人間と言うのなら」
 袁紹がここでその華陀に言う。
「その証拠を見せて御覧なさい」
「証拠?そんなの私達自身がよ」
「そうよ、証拠よ」
 臆面もなくこう返す二人だった。
「この美貌を見てもそう言えるの?」
「人間としても最高の美貌の持ち主よ」
「見えませんわ」 
 袁紹ははっきりと言い切った。
「全く」
「ううん、悲しいわ」
「そう言われるなんて」
「とにかくでしてよ」
 袁紹は剣を抜いたまま四人に告げる。
「その怪物二人は」
「退治ですね」
「やはり」
「その通りですわ」
 こう田豊と沮授に答える。そのうえで顔良と文醜に話した。
「いいですわね」
「はい、わかりました」
「化け物退治も武将の務めですしね」
「覚悟しなさい!」
「成仏しやがれ!」
「仕方ないわね、これじゃあ」
「無駄な戦いをするつもりはないし」
 こう言った二人にだ。華陀は落ち着いて問うた。
「帰るんだな」
「ええ、そうするわ」
「ここはね」
「わかった。それでなんだが」
「天草さんね」
「あの人もよね」
「そうだ。折角巡り会えた仲間だ」
 もうそうなっていたのだった。彼等はだ。
「別れたら辛いからな」
「ええ。運命の出会いは大切にしないと」
「私達と同じくね」
「それではな。あの人も一緒にな」
「ええ、行きましょう」
「今から」
 こう言ってであった。三人は姿を消したのだった。まさに煙の如くであった。
 それを見てだ。袁紹達はまた驚いたのであった。
「消えた!?」
「一体何処に」
 田豊と沮授が最初に言う。二人はまだ袁紹の前に立ち主を護っている。
「気配は」
「それはどうなの?」
「消えたわ」
「この部屋の何処にも感じねえ」
 問われた顔良と文醜はすぐに答えた。顔は正面を向いたままだ。
「まさかと思うけれど」
「本当に妖術なのかね、こりゃ」
「そうかも知れませんわね」
 袁紹もいぶかしむ顔で言う。
「これは。とにかくですわ」
「はい、ここは」
「どうされますか」
「あの二人の顔、絶対に忘れられませんわ」
 華陀はこの時はどうでもいいのだった。それよりもだった。
「あの怪物達を手配なさい」
「そして捕まえれば」
「その時は」
「即刻生き埋めになさい」
 極刑であった。
「そうでもないと。この世に大きな災厄をもたらしかねませんわ」
「はい、わかりました」
「それでは」
 田豊と沮授がすぐに頷いた。しかしなのだった。
 ここでだ。顔良と文醜はこう言うのだった。
「けれど。あの二人って生き埋めにされても」
「それで死にそうにもないですけれど」
「刃も毒も効かなさそうですし」
「人間の力で死にますかね」
「それでも何としてもこの世から抹殺なさい」
 袁紹は最早生理的な嫌悪の域に達していた。
「わかりましたわね」
「じゃあ。手配ですね」
「とりあえずは」
「そういうことですわ」
 こう話してであった。二人の怪物達は袁紹領全土で指名手配されることになった。その不気味な顔が各地の壁に貼られる。
 しかしだった。その二人はだ。
 華陀は勿論天草と一緒に旅立っていた。今いるのは。
「ここは何処なのだ」
「ええ、建業よ」
「その郊外よ」
 そこだと答える二人だった。緑の中にいる。
「ここはお水が多くてね」
「いい場所よ」
「そうか。水か」
 天草はそれには特に感情を見せなかった。だがこう言うのだった。
「私のいた国は海に囲まれていたな」
「日本だったわね」
「そうだったわね」
「そうだ。この時代ではだ」
「私がいたわ」
 卑弥呼が言ってきた。
「この時代もいい国よ」
「そうか。貴殿がなのか」
「そうよ。それでね」
「うむ。何だ今度は」
「また一人来たわね」
 卑弥呼がこう言うとだった。彼等の前に右京がいた。
 彼は怪物達の姿を見てだ。すぐに刀に手をかけた。
「あやかしか」
「ああ、それは違う」
 華陀は彼にもこう話した。
「この連中が違うんだ」
「そう言えるのか」
「言えるさ。それよりもあんたも」
 右京のその白い顔を見ての言葉だった。
「胸を患ってるな」
「わかるのか」
「わかるさ。俺は医者だからな」
 ここでもこう答えた。
「それはな」
「医者か。そうは見えぬが」
「だが本当のことだ。それでだ」
「うむ、それでか」
「その胸の病、治させてもらっていいか」
「私の病をか」
「ああ、いいか?」
 あらためて右京に対して問う。
「あんたにとっても悪い話じゃない筈だ」
「この胸の病は」
 右京自身が最もよくわかっていることだった。他ならぬ己のことだからだ。
「不治だ。それを癒せるというのか」
「癒すんじゃない、治すんだ」
 そうだと答える華陀だった。
「完全にな」
「そうしてくれるか」
「ああ。じゃあいいな」
「頼む」 
 右京も華陀のその言葉に頷いた。
「若し治せるというのなら」
「よし、それならな」
「さあ、ダーリン頑張ってね」
「ここでもね」
「よし、行くぞ!」
 華陀が身構える。その手にまた黄金の針を持つ。
 そしてだった。右京のやつれた胸にその針を刺して叫ぶ。
「光になれーーーーーーーーーーーっ!!」
 その胸から黄金の光が放たれそれが辺りを包んだ。それが消えた時。
 右京の顔色がだ。見る見るうちに変わっていった。血の気が戻ってきたのだ。
 それを感じてだ。彼は言うのだった。
「確かにな」
「わかるな。病が消えたのが」
「うむ、よくわかる」
 その通りだと言うのだった。
「病が本当に消えるとはな」
「どうやらあんたはこれからも生きないといけないらしいな」
「これからもか」
「俺はあらゆる病を治せる」
 それはできると言うのだ。
「しかしだ」
「しかし?」
「北斗の神に魅入られた人間の病は無理だ」
「七つの星の脇にもう一つ星が見えてる人はね」
「無理なのよ」
 怪物達も右京に対して話す。
「残念だけれどね」
「それはできないのよ」
「そうなのか」
「そうだ。だがあんたの病は治った」
 言うのはそこからだった。
「それはあんたがまだ死ぬ運命になり証だ」
「そうか。私はまだ生きられるのか」
「あんたのするべきことをするんだな」
 華陀は言う。
「この世界でもな」
「そしてか」
「そういうことだ。じゃあまたな」
 華陀はその右京に微笑んで話した。
「また会おうな」
「さあ、皆と合流してな」
「そこからまた行きましょう」
 華陀に二人が声をかけてきた。
「またすぐに新しい仲間が来るわよ」
「私達の前にね」
「そうだな。運命が導いてくれるな」
 華陀も二人の言葉に微笑んで応える。
「俺達をな」
「ええ、それじゃあね」
「行きましょう」
「わかった。じゃあな」
 また右京に言うのであった。
「機会があればまた会おう」
「またな。それでだが」
「ああ、何だ?」
「次に会った時にだ」
 微笑んで言う右京だった。
「一杯奢らせてもらいたい」
「御礼にか」
「そうだ、それでいいだろうか」
「ははは、酒は嫌いじゃないがそれは遠慮しておこう」
「いいのか」
「医術は仁術だ。御礼を求めるものじゃない」
 これが華陀の返事だった。
「だからな。それはいい」
「そう言うのか」
「そうだ。その酒はあんたが飲むといい」
 そうだと言うのだった。
「そういうことでな。いいな」
「わかった。ではそうさせてもらう」
「それじゃあ今度こそ本当にな」
「また会おう」
 こう挨拶を交えさせてだ。彼等は別れたのだった。そうしてであった。
 華陀達も旅に入る。ここで彼が言う。
「じゃあ次は何処に行く?」
「益州に向かいましょう」
「そこにしましょう」
 こう話す彼等だった。
「ここから西にね」
「それでどうかしら」
「そうだな。俺も少しな」
 華陀もここで考える顔になって応えた。
「ゴオオオオオオオッド!!米道の本部に戻りたいしな」
「そこになのね」
「一旦戻るのね」
「思ったよりも連中の浸透が深くなっている」
 こう言うのだった。
「そのことを伝えたい」
「よし、それならね」
「そこもなのね」
「そうだ。そこにも寄ってくれるか」
「ダーリンの為ならね」
「何処でも行くわよ」
 これが二人の返事だった。
「それじゃあ最初に行きましょう」
「そのゴオオオオオオッド!米道にね」
「済まないな。皆もそれでいいか」
「断る理由もないな」
「そうだな」
 ギースとクラウザーが答える。
「私はいい」
「私もだ」
「俺もだ」
 刀馬も答えてきた。
「そうするといい」
「私もです。この国を覆わんとしている禍々しいものを」
 命もだった。それを感じていたのだ。そして感じたうえでだ。こう言うのだった。
「消し去る為に行かれるのですかな」
「済まないな」
 華陀は仲間達の言葉を受けて言った。
「共に来てくれて」
「これも縁だ」
 ミスタービッグの言葉だ。
「気にするな」
「そういうことだな」
「では行こう」
 獅子王と無限示も言う。
「その地にな」
「今からな」
「益州まで一瞬に行けるわ」
「すぐにね」
 また怪物達が話す。
「それならね」
「今から行きましょう」
「よし、それならな」
 こうしてまた旅をはじめる二人だった。そしてまた新しい仲間と巡り会うのだった。
 そして劉備達もだ。その益州に向かっていた。
 その中でだ。劉備が言うのだった。
「何か少し暑くなってきたような」
「はい、それはですね」
 孔明がその劉備の言葉に答える。
「南方に来ているからです」
「それでなの」
「私達は益州でもかなり南に向かっています」
「北に行けば寒くなり南に行けば暑くなります」
 鳳統も話す。
「ですから」
「そういうことね。それじゃあね」
「はい、それじゃあ」
「服とか脱いだらよくないわよね」
「脱がない方がいいですね」
 孔明はすぐにそれを止めた。
「やっぱりそれは」
「そうなの」
「さもないと蚊に襲われますよ」
 何故脱いだらいけないのかも話すのだった。
「ですから」
「蚊、そんなに多いの」
「はい、ですから脱がない方がいいです」
 また言う孔明だった。
「さもないと大変なことになりますから」
「ううん、やっぱり蚊に刺されるのは」
 劉備もそれを聞いて困った顔になる。
「遠慮したいし」
「そうですよね。ですからここは」
「わかったわ」
 劉備は仕方ないといった顔で頷いた。
「じゃあ脱がないわ」
「それがいいですね」
「けれど。南蛮よね」
「はい、そこの五つの泉です」
「南蛮ってまだ遠いの?」
 今度は距離のことを尋ねるのだった。
「それは。まだ遠いの?」
「っていうか益州って無闇に広いしな」
「そうなのよね」
 馬超と馬岱がこんなことを言う。
「ここからでも南蛮まで結構あるだろ」
「ううん、そうかも」
「それにだ」
 趙雲も話す。
「まだ益州に入ったばかりだしな」
「まだこれからなのね」
 黄忠もいる。
「南蛮への道は」
「そうなります。ですから道中は何かと御気をつけ下さい」
「お水は特にです」
 鳳統と孔明が話す。
「絶対にまずは沸かしてお湯にしてから」
「そうして飲まないといけませんよ」
「水か」
「そういえばいつもそうしているのだ」
 関羽と張飛がここでこのことに気付いた。
「お茶を飲む為だがな」
「それはいいのだ?」
「はい、とてもいいです」
「お茶も身体にいいですし」
 二人は関羽達の問いにこう答えた。
「とにかく生水は危ないですから」
「絶対にそのまま飲まないで下さいね」
「そうね。下手をすると命に関わるからね」
 神楽もこのことを知っていた。
「だからそれが一番ね」
「ええ。火はあるし」
「絶対にそうしましょう」
 ミナと月もだった。
「シーサーに飲ませるお水もね」
「注意してですね」
「とにかくお水なのね」 
 劉備も言った。
「気をつけないといけないのは」
「はい、お腹を壊すだけでは済みませんから」
「食べ物も」
 それもだというのだ。
「何かにつけて気をつけて」
「そうしていきましょう」
「ううむ、食べ物はそういえばな」
「これまで美味しければいいと思っていたのだ」
 関羽と張飛の言葉だ。
「だがそうではなくか」
「気をつけないと駄目だったのだ」
「特に生肉は駄目よね」
「はい、お魚はとりわけです」
「絶対に火を通して下さいね」
 孔明と鳳統は神楽の問いにも返す。
「河のものが危ないです」
「虫がいますから」
「虫って」
 劉備は二人の言葉にぎょっとした顔になる。色は白くなっている。
「そんなのまでいるの」
「ですから本当にです」
「危ないですから」
「わ、わかったわ」
 劉備は声も少し震えていた。
「それじゃあ本当に」
「これは兵隊さん達もですね」
「そうなるわね」
 二人はこのことを軍にも当てはめて考えていた。
「生水は厳禁ということで」
「絶対に沸かしてから」
「それで食べ物も火を通して」
「そうして食べないと」
「さもないと大変なことになっちゃうのね」
 劉備も二人の話を聞いてわかったのだった。
「それだけで」
「戦う前に戦力を消耗してはどうにもなりませんから」
「ですから」
 それでなのだった。とにかく二人が考えを及ばせている事柄は広く深かった。
 そしてそんな話をしながらだった。一行はさらに進む。そうしてだった。
 ある郡に向かおうとしていた。そこでもまた彼女達は出会うのであった。新たな仲間に。


第四十四話   完


                           2010・11・13



卑弥呼たちは何処に行っても化け物扱いだな。
美姫 「うーん、これもまた仕方ないのかもね」
今回も華陀は病を治しているな。
美姫 「本業が医者だものね。そして、次の目的地が」
劉備たちと同じか。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
だな。次回も待っています。



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