『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第四十二話 于禁、事実を知るのこと
「それでなのだ」
「だよなあ」
馬超が張飛の言葉に頷いている。一行は旅を続けている。その中で歩きながら話をしているのだ。
「あそこの飯ってな」
「何か妙に量が少なかったのだ」
「一口分だけれどな」
「けちっているのだ」
張飛は不満な顔で言う。
「それは許せないのだ」
「ああ。せこいよな」
馬超は張飛の言葉に全面的に賛成だった。
「そんなことってな」
「全くなのだ。けれど安かったのだ」
「それはよかったな」
「だから許してもいいのだ」
「それはいいけれど」
こんなことを話す二人にだ。馬岱が言ってきた。
「翠姉様達って」
「んっ、何だ?」
「何かあるのだ?」
「食べ過ぎよ」
彼女が言うのはこのことだった。
「もうね。何人前食べてるのよ」
「そんなに食ってるか?」
「最近食欲がなくて困ってるのだ」
「何処がよ。平気で十人前食べてるじゃない」
馬岱は呆れた顔で二人に言う。
「物凄い勢いで食べるし」
「食わないともたないしな」
「これでも最近食欲がないのだ」
「だからその言葉信じられないから」
馬岱は張飛に対して言う。
「十人前なんてね」
「ううん、それでも最近朝御飯三杯までしか食べられないのだ」
「そこまで食べてだ」
趙雲が参戦してきた。
「何故御主はそんなに小さいのだ」
「まだ子供だから仕方ないのだ」
「そうか?確か十八歳以上ではなかったのか?」
趙雲はこのことを指摘した。
「我々は一応そうなっているのだぞ」
「けれど鈴々は一年生だったのだ」
張飛は眉を少し顰めさせて反論する。
「確か星は三年生だったのだ」
「私は一年生でしたよね」
孔明は自分を指差しながら話した。
「聖フランチェスカでしたっけ」
「何か聞いたことのある名前だな」
趙雲は少し考える顔になって述べた。
「妙に縁を感じる」
「確かあの学校って」
劉備も言うのだった。
「体操服ブルマですよね」
「人によっては物凄くいやらしくなるのよね」
馬岱はその劉備に話を合わせて言う。
「愛紗さんとか姉様とか星さんが着ると」
「私もなのだ」
「だって愛紗さん達って」
馬岱はその関羽に顔を向けて話す。
「胸大きいし」
「むっ」
ここで実際に関羽の胸が揺れ動いた。
「それに」
「まだあるのか」
「お尻の形もいいですしお腹だってくびれてるし」
要するにスタイルがいいというのだ。
「脚も長くてすらりとしてるし」
「ううむ、それでなのか」
「それでブルマって滅茶苦茶いやらしいですよ」
「それであたしもか」
「私もなのか」
馬超と趙雲も言ってきた。
「ブルマだとか」
「いやらしくなるのか」
「ブルマって存在そのものが武器だから」
こうまで言う馬岱だった。
「スタイルいい人が着ると滅茶苦茶なことになるのよ」
「それにしても」
ここで言うのは神楽だった。
「この世界ってブルマもあるのね」
「おかしいですか?それ」
「ううん、私の世界ではもう」
神楽は劉備の怪訝な言葉に返す。
「殆どないのよ」
「身体を動かす時に着るといいんですけれど」
「そのいやらしいってことで皆着なくなったの」
「そうなんですか」
「そうなの。私もスパッツだったしね」
「スパッツだったんですか」
「そう、それだったの」
彼女の通っていた学校ではそうだったというのである。
「私の学校ではね」
「神楽さんの世界ではそうだったんですね」
「ええ。ただ」
「ただ?」
「こっちの世界にもブルマはあるのね」
神楽は首を傾げさせながらこう言った。
「他にも色々な服があるし」
「それにです」
月も話す。
「この世界では色々な食べ物がありますが」
「それもなんですか?」
「ええ。それもなの」
こう鳳統に話すのだった。
「ジャガイモやサツマイモがあるのも」
「そちらの世界ではないんですね」
鳳統もそれはわかった。
「私達の世界は服や食べ物が相当発達しているんですね」
「そうなるわ。どちらもね」
そうだと話す月だった。
「こちらの世界はね」
「ううん、そういえば」
「私達の服はどうも」
孔明と鳳統が話す。
「そちらの世界の漢のそれとは違いますね」
「それもかなり」
「そうね」
黄忠も言う。
「私達の世界は違う部分の方がかなり多いわね」
「けれどこの世界に来ている」
ミナが言った。
「それはどうしてなのかしら」
「本当に幾ら考えてもわかりませんね」
「はい、何があるんでしょうか」
孔明と鳳統もそれはわからなかった。それでだった。
一行は歩いているうちにだ。ある村に来たのだった。そこは。
「むっ、この村は」
「かなり警護が厳しいな」
趙雲と関羽が言う。見ればその村はだ。
周囲に空壕がある。横にも広くしかも深い。
そして橋があるが吊り橋だった。しかも木で壁まである。四方をそうして厳重に護っている。そうした村であったのである。
「何かあるのか?」
「賊でもいるのか」
「そうでしょうね」
鳳統が言った。
「そうでないとここまでは」
「この辺りはまだ袁術さんの統治が及んでいませんし」
所謂南部なのだ。袁術の治めているそこのだ。孔明はそこを指摘するのだった。
「ですから。賊もまだ」
「いるんだと思います」
「そういうことかと」
「残念なことですが」
「袁術にも困ったことなのだ」
張飛は眉を顰めさせて言った。
「早いうちに南部まで治めていればこんなことにはならなかったのだ」
「それも理由がお化けが怖いっていうんだからな」
馬超は呆れた顔になっている。
「ったくよ、それってかなり恥ずかしいぜ」
「まだ子供だから仕方ないか?」
「いや、それは甘いだろう」
趙雲が今の関羽に対して告げる。
「やはりな」
「甘いか」
「仮にも牧なのだからな。州全体を治めなくてはいけない」
「それでか」
「そうだ、それでだ」
これが趙雲の主張だった。
「幼いといってもだな。少なくとも曹操殿や袁紹殿はそうしている」
「あの御二人はそうだな」
「基本的に空白地を作ったりはしない」
あればすぐにそこに人をやって治めるのが彼女達なのだ。
「徐州はともかくとしてな」
「そういえばあそこは」
黄忠もその徐州について話す。
「袁紹さんや曹操さんだけでなく孫策さんの領域にも接してるけれど」
「それでも誰も進出しない」
「どうしてなのですか?」
ミナと月が黄忠に問うた。
「何故なのかしら」
「あそこだけは」
「三人共今はそこまで統治の手を進められないのだ」
趙雲がこう指摘した。
「袁紹殿は北の胡の対処に忙しく孫策殿も山越を平定したばかりだ」
「それに曹操殿はだ」
関羽は曹操について話した。
「牧となっている二州の統治に今は専念しておられるからか」
「それで結果としてね」
黄忠が話す。
「徐州には誰も今は進められないのよ」
「何進さんが言っても」
「そうなんですね」
「そういうことなの。色々と難しい事情があるのよ」
こう話すのだった。そしてだ。
門の橋のところに行く。するとだった。
「待て」
白い髪を基本的に短くして後ろ髪だけを伸ばして三つ編にしている小柄な少女が出て来た。強い光を放つ黒い目はやや鋭く身体中に傷がある。そして黒い服に半ズボンという格好だ。身体は引き締まっていて表情もだ。
その少女が出て来てだ。一行に声をかけてきたのだ。
「貴殿等は何者だ」
「私達ですか」
「見たところ山賊ではないようだが」
それは少女もわかることだった。
「それは何よりだ」
「それは見てわかるのか」
ここで言う関羽だった。
「我々が賊ではないのは」
「雰囲気でわかる」
少女は関羽に対して述べた。
「それはな。だが」
「だが?」
「一体何者なのだ」
それを問う彼女だった。
「賊ではないにしてもだ」
「私の名前でいいですか?」
劉備が言ってきた。
「それで」
「うむ、頼む」
「劉備といいます」
劉備は自分の名前を話した。
「字は玄徳といいます」
「劉備?」
少女はその名前にふと眉を動かした。その眉の色も白だ。
「若しかして貴女は」
「私のこと知ってるんですか」
「幽州での烏丸征伐での英雄か」
こう言うのだった。
「そうだな」
「あのことをですか」
「ここにも伝わっている」
そうだというのだ。
「そしてだ」
「そして?」
「貴女が劉備殿だとすると」
今度は関羽達を見る。そうして言うのだった。
「他の方々は」
「鈴々は張飛なのだ」
張飛が右手をあげて言ってきた。
「知っているのだ?」
「あの猛豚将軍か」
少女は彼女の仇名を話した。
「貴女がか」
「猛豚将軍?」
張飛はその呼び名に怪訝な顔になった。
「それが鈴々の仇名なのだ」
「そう聞いているが」
「不思議な仇名なのだ」
今度は首を傾げさせる張飛だった。
「どうしてそうなったのだ」
「馬ではなく豚に乗っているからではないのか?」
関羽がこうその張飛に話した。
「だからだろう」
「それでなのだ」
「前から思っていたがどうして豚なのだ」
「何となく乗りやすいのだ」
だからだと話す張飛だった。
「それで乗っているのだ」
「それでか」
「馬にも乗れるのだ」
それはできるというのだ。
「それでもなのだ。豚が一番いいのだ」
「それでだ」
「それで?」
「それでというと」
「貴女は」
少女は今度は関羽を見て述べた。
「関羽雲長殿なのですね」
「わかるのか」
「山賊退治の黒髪の美貌の英傑」
「むっ!?」
少女の今の言葉にだ。関羽はその表情を晴れやかにさせた。
そのうえでだ。こう彼女に言うのだった。
「貴殿がはじめてだ」
「はじめてとは?」
「はっきりとそう言ってくれたのは」
「そうなのですか」
「そうだ、私は美貌なのだな」
そのことにやけに嬉しそうな顔を見せるのである。
「いいことだ。それを認めてくれるか」
「違うのですか?それは」
「いや、その通りだ」
こう主張する関羽だった。
「そうなのだな。私には美貌があるのだな」
「はい、確かに」
「いいことだ。貴殿はいい者だな」
満面の笑みで言う関羽だった。
「まことにな」
「とりあえずなのですが」
また言ってきた少女だった。
「あの」
「あの?」
「まだ何か」
「私が名乗っていません」
彼女が言うのはこのことだった。
「私の名前ですが」
「あっ、そういえば」
「そうでした」
孔明と鳳統もここではたと気付いた。
「貴女のお名前は」
「何というのですか?」
「楽進といいます」
こう名乗るのだった。
「宜しく御願いします」
「わかりました、楽進さん」
劉備がにこりと笑ってその楽進に答える。
「こちらこそ宜しく御願いします」
「はい、それでは」
「それでなのだけれど」
黄忠が楽進に言ってきた。
「この村はやけに物々しいけれどやっぱり」
「はい、賊に狙われています」
こう話す楽進だった。
「それでこうして守りを固めています」
「やっぱりね。そうだと思ったわ」
それを聞いて納得した顔で頷く黄忠だった。
そのうえでだ。劉備にそっと囁くのだった。
「劉備さん、ここは」
「はい、そうですね」
劉備の返答は天真爛漫としたものだった。
「あの、楽進さん」
「はい。何でしょうか」
「よかったらここは」
その山賊を退治することを申し出るのだった。するとだった。
すぐに詳しい話をすることになった。楽進は一行を村の中に入れた。そうしてそのうえで彼女達に対して今の村の事情等を話す。そしてだった。
「まあそういうこっちゃ」
「大変なの」
紫の髪を無造作に左右で束ねた威勢のよさそうな表情の青い目の少女と茶色の髪を編んでいる緑の目の眼鏡の少女だ。紫の髪の娘は虎縞のビキニに黒い半ズボンとブーツである。胸がやけに大きい。
緑の目の少女はピンクの上着に草色の丈の短いスカートと白いソックスという格好だ。その二人もそれぞれ劉備達に名乗ってきた。
「あっ、うち李典っていうんや」
「于禁っていうの」
「李典殿に于禁殿か」
関羽が二人の名前を聞いて頷く。彼等は今村のある家の中で車座になって話をしている。
「それで今はか」
「そや、曹操様のとこに仕官に行く時にな」
「この村に通り掛かったの」
「そんでや」
「この人達も一緒だったの」
ここでだ。三人の屈強な男達が出て来た。
白い道着の褐色の肌の髭の男だ。顎鬚まである。
そして人間離れしたいかつい顔の大男に最後は赤いシャツの顔立ちはいいが何処かひょうきんな面持ちのヌンチャクを持った男だ。彼等は。
「マルコ=ロドリゲス!」
「柳生磐馬」
「ホンフゥっちゃ」
それぞれ名乗ってきたのだった。
「うち等益州の方旅してやんやけど」
「この人達とばったり会ったの」
「話してみるといい方々で」
楽進もこう話す。
「意気投合して旅をしていたのです」
「うち等は曹操様のとこに仕官するつもりやねんけどな」
「この人達もお誘いしたの」
「それはいいことだな」
関羽は三人のその言葉に笑顔で答えた。
「あの方なら貴殿等を温かく迎えてくれるだろう」
「袁紹殿や孫策殿のところも考えたのですが」
「袁紹さん言うたらあんまりにも独特なお人やからな」
「おっぱいで鰻を掴むのは嫌なの」
それが大きかったのだった。
「幾ら何でもそれはないやろ」
「それで止めたの」
「まあ正解だな」
馬超が三人のその言葉に頷く。
「あの人も悪い人じゃないんだけれどな」
「あんまりにも趣味が悪いのだ」
張飛もそこを指摘する。
「正直あの人の趣味に会う奴じゃないとな」
「お勧めできないのだ」
「それで止めました」
はっきりと答える楽進だった。
「それで孫策殿ですが」
「あの人なら問題ないんじゃないの?」
「そうだな」
馬岱と趙雲が言う。
「悪い人とは聞かないわ」
「かなりいい方だぞ」
「何か揚州に無茶苦茶な化け物が出たって聞いたんや」
「それも二匹も」
二人はあの怪物二匹の噂を聞いていたのだ。
「そんなのおるとこはな」
「ちょっと怖いの」
「何でもほぼ裸で筋肉モリモリの肉体を持つ怪しい大男達だとか」
楽進の言葉はまさにその通りだった。
「空を飛び素手で何もかもを粉砕するとか」
「それは完全に人間じゃないですね」
孔明も言い切る。
「また他の世界からの人達でしょうか」
「そんな奴等知らんっちゃよ」
ホンフゥが言う。
「確かに色々いる世界っちゃ。それでも」
「いませんか?」
「何処の世界に空飛ぶ人間がいるっちゃ」
ホンフゥはそもそもの大前提から放す。
「化け物っちゃよ、それは」
「そうとしか思えないぞ」
マルコも言う。
「そんな奴がいると聞いてな。それでだ」
「揚州には行かなかった」
柳生も言った。
「止めたのだ」
「何か世の中変な人が一杯いますね」
鳳統も今はこう言うしかなかった。
「本当に」
「それでなのです」
「孫策さんのとこも行かんことにしてや」
「曹操さんのところにしたの」
そうしたことからだったのだ。
「今から許昌に向かうところでしたが」
「それでもな。この村に立ち寄ったらや」
「大変なことになってたの」
三人は次に村のことを話すのだった。
「放っておけずにです」
「留まって賊と戦ってるんや」
「マルコさん達と一緒に」
「とんでもない奴等でな」
マルコがここでその賊について話す。
「この村を手に入れて自分達の根城にしようとしているのだ」
「そんな悪い奴等は許せないっちゃよ」
ホンフゥは本気で怒っている。
「俺のこの手で逮捕してやるっちゃ」
「逮捕っていうと」
神楽はホンフゥの今の言葉からあることがわかった。
「貴方は警官なのね」
「そうっちゃよ。香港警察の看板刑事っちゃよ」
「看板ね」
「そうっちゃよ」
自分で言う彼だった。胡坐をかいているが胸を張る。三人も話に参加してそれでそれぞれ胡坐をかいて座っているのである。
「俺が検挙した犯人の数は半端じゃないっちゃよ」
「そういえば何か」
ここでだ。神楽も思い出したのだった。
「香港にやけに威勢のいい刑事さんがいると聞いたけれど」
「誰に聞いたっちゃ?その話」
「チンさんに」
彼だというのだ。
「聞いた話だけれどね」
「ああ、あいつっちゃね」
「やっぱり知ってるのね」
「あいつとは腐れ縁っちゃよ」
ホンフゥは顔をいささか顰めさせてそうだと話す。
「何かっちゅうとお金っちゃ。それと食うことばかりっちゃ」
「そうそう。困った人よね」
「けれど根っからの悪人じゃないっちゃ」
そうではないというのである。
「だから付き合ってそれで悪い奴の話を聞いてるっちゃ」
「それはいいことね」
「自分でもそう思うっちゃよ」
「刑事さんだからそれでなのね」
「賊は一人残らず退治っちゃ」
「それでだ」
柳生も話す。
「捕まえて擁州に送ることになっている」
「擁州。董卓さんのところね」
「そうらしいな」
柳生は黄忠の今の言葉に応えた。
「そこに悪人を更正させる場所があると聞いてだ」
「全員捕まえてそこに送ろうと考えています」
楽進もこのことを話す。
「そうなのですが」
「処刑はしないのか」
関羽がこう問う。
「賊なら別に斬ってもいいだろうね」
「どうにもならない奴はそうするで」
「それは当然なの」
関羽の言葉にこう答える李典と于禁が答える。
「けれどや。それでもや」
「そうでもない人は殺したくないの」
「優しいのね」
黄忠が二人の話を聞いて述べた。
「無駄な命は取らないのね」
「戦いは必要です」
これは楽進も認める。
「しかし無益な殺生は好みません」
「そやからや」
「そこに送ることにしたの」
「既に連絡はしてある」
柳生が語る。
「おいおい人が来てくれることになっている」
「ふむ。それではだ」
「ここはあれですね」
関羽と孔明が言う。
「我々もその賊退治にだ」
「協力させて下さい」
「宜しいのですか?」
楽進がその言葉を聞いて思わず問い返した。
「貴女達は何の関係も」
「義を見てせざるは勇なきなりだ」
「そういうことなのだ」
今度は関羽と劉備の言葉だ。
「そういうことだ。それでいいか」
「悪い奴等は全部やっつけるのだ」
「そういうことだな」
「ああ、また派手に暴れてやるか」
「どちらにしろ放ってはおけないわ」
趙雲、馬超、黄忠も言う。
「是非だ。我々もだ」
「賊退治に協力させてくれよ」
「よかったらだけれど」
「わかりました」
楽進も彼女達の言葉を聞いてだった。
そのうえでだ。その意気を受け取ったのだった。そうしてだった。
「それでは御願いします」
「よろしゅう頼むで」
「一緒に悪い奴等をやっつけるの」
「私達もね」
「戦わせてもらうわ」
神楽とミナも参加を申し出る。
「賊が何人いてもね」
「及ばずながら」
「私達は戦えないですけれど」
「他のことで」
孔明と鳳統もいる。
「協力させて下さい」
「是非」
こうしてだった。劉備達も賊退治に協力することになったのだった。そうしてだった。
村の警護をさらに固めそのうえでだ。地図も見るのだった。
「これがこの村とその近辺の地図です」
「あっ、これは」
「泉ですね」
孔明と鳳統がその地図を見て楽進に問う。
「この村の水源ですか」
「この泉が」
「はい」
その通りだと答える楽進だった。
「この季節は水はあまり豊かでないそうですが」
「それでも間も無くかなりの量の雨が降るらしい」
柳生も話す。
「雨季に入ってな」
「するとだ。その時にだ」
マルコの顔が曇る。そのうえでだった。
「賊達が来るのだ」
「水もついでに手に入れる為か」
「せこい奴等なのだ」
関羽と張飛はその理由を見抜いて眉を顰めさせる。
「人の水を奪おうなどとはな」
「真面目に働けなのだ」
「擁州に行ったら好きなだけ働かせてくれると聞いてるっちゃ」
ホンフゥが言うのは所謂強制労働である。
「是非そこに行ってもらうっちゃよ」
「その為にはですね」
劉備が言った。
「まずはこの村を守って」
「賊を倒しましょう」
最後に楽進が言った。これで決まりだった。
孔明と鳳統はすぐに泉を観に行った。そこは山の上で盆地状になっている。そこから村の前につながっているのであった。
そこに入ってだ。まずは鳳統が言った。
「ここの水をですね」
「どないするんや?」
「賊が来たら流しましょう」
こう提案するのだった。
「賊の数は多いですね」
「これが結構おるんや」
困った顔で話す李典だった。左手でその頭をかきながら話すのである。
「困ったことにな」
「それでは余計にです」
「水攻めで一気にかい」
「はい、それで倒しましょう」
こう話すのだった。
「それでどうでしょうか」
「ええな、それ」
李典もそれに賛成するのだった。
「ほな水を貯めてそれを一気に出す堤を作っておこか」
「そうですね。それなら」
孔明はここで名乗り出ようとする。彼女はそうしたものを作ることも得意だからだ。しかしここで李典が笑いながら話すのだった。
「ああ、それはうちがや」
「李典さんが?」
「そや、作るで」
笑顔で話す彼女だった。
「それはまかせとき」
「李典さんって」
「そういうものを作られるんですか」
「見るか?結構色々なもの作られるで」
こう話してだ。場所を変えた。三人は村に戻って小屋の中に入ってだ。李典のそのからくりを見るのだった。その三人でだ。
「へえ、この針金をですか」
「曲げて輪にしていってですね」
「それでからくりの中に入れてや」
その丸くした針金を見せての話だった。
「そんで動かすのに使うんや」
「成程、そうなんですね」
「凄いですね、これって」
「まあ作ろうと思えば作れるで」
「けれど実際にそれをやるのって」
「やっぱり凄いです」
二人は色々なからくりを見ている。どれも二人にとっては驚くべきものだった。
それを見てだ。また言う彼女達だった。
「それなら水攻めも」
「予想より確実にいけますね」
「ほなやろか」
李典がにんまりと笑う。その白く奇麗な歯が見える。
「三人で。悪い奴等をいてこます仕掛けを作ろうな」
「はい、それじゃあ」
「今から」
二人も頷いてだった。すぐに用意にかかるのだった。
楽進は馬岱と手合わせをしている。その時にだった。
槍を振るう馬岱はだ。彼女の戦い方を見て言うのだった。
「楽進さんって武器は使わないのね」
「一応槍は剣は使えますが」
「それでも拳が主なのね」
「はい」
両手を拳にして構えながらの言葉だった。
「そうです。気を使います」
「それと体術ね」
「そうです。その二つで戦います」
「気も使うっていうと」
馬岱が注目したのはここだった。
「やっぱり。その気を飛ばせるのね」
「はい、飛ばせます」
「今できる?」
「使わせて頂いて宜しいでしょうか」
「うん、御願い」
笑顔で答える馬岱だった。
「是非見せて」
「わかりました。それでは」
楽進は馬岱のその言葉に頷いた。そうしてだった。
すぐにだ。両手首の付け根を合わせて掌を縦に上下にしてだった。
そこから白く大きな気を飛ばしてみせたのだった。
「うわ、本当に凄いね」
「まだ完全に使いこなせていませんが」
「ううん、滅茶苦茶凄いよ」
馬岱は完全に驚嘆する顔になっている。
「楽進さん最高よ、滅茶苦茶凄いじゃない」
「私は別に」
「だって私なんてね」
「馬岱殿は?」
「気はまだ使えないから」
そうだというのである。
「姉様達は使えるけれどね」
「槍や弓に気を込めて放たれるのですね」
「うん、それはまだできないの」
「そうなのですか」
「できるようになりたいけれどね」
「そうなるにはです」
「修業よね」
どうしたらできるようになるのかはもうわかっていた。やはりそれだった。
「それをしていけばなのね」
「はい、私もまだまだですから」
「修業してるんだ」
「人生は常に修業です」
随分と厳しい言葉だった。自分自身に対して。
「ですから日々です」
「真面目だね、そういうところ」
「そうでしょうか」
「うん、真面目だよ」
馬岱はにこりとした笑顔で楽進に対して話した。
「とてもね。それがきっとね」
「きっと?」
「楽進さんを立派な人にしてくれるよ」
「私はそんな」
「謙遜しなくていいから」40
またにこりと笑っての言葉だった。
「だって本当のことだし」
「ですからそれは」
「いいっていいって。それじゃあね」
「はい、それでは」
「何か食べる?」
馬岱は話を変えてきた。
「ラーメンでもね」
「そうですね。もうお昼ですね」
気付けばだ。もうそんな時間だった。水時計が完全に落ちてしまっていた。
「それでは」
「うん。それで何食べるの?」
「麻婆豆腐はどうですか?」
楽進はそれはどうかというのである。
「唐辛子と山椒を効かせた」
「いいわね。じゃあそれとね」
「それと?」
「炒飯はどうかな」
馬岱はそれを提案するのだった。
「それはね」
「炒飯ですか。それならそれも」
「それも?」
「思いきり辛くしたものを」
そちらもだった。
「それを」
「ひょっとしてだけれど」
馬岱もここで気付いたのだった。それで少し探るような顔で楽進に対して問う。
「楽進さんって辛いの好き?」
「えっ!?」
「だって。さっきから唐辛子とか山椒とか言うし」
ここから察することができることだったのだ。
「だからね。そうじゃないかなって」
「確かに。実はです」
「やっぱり好きなのね」
「そうした刺激のあるものが」
やはり好きだというのであった。
「口に親しみます」
「そう。それじゃあね」
「それでいいでしょうか」
「私も辛いの好きだし」
それでだというのだ。
「益州風のお料理もね」
「そうですか。それでは今から」
「うん、食べようね」
「麺もいいですね」
楽進は微笑んでこうも述べた。
「そしてやはりそちらも」
「辛いものをね」
「はい、食べましょう」
こうしてだった。彼女達はその辛い料理を楽しむのだった。そしてだ。
劉備はだ。于禁と話していた。その話題は。
「あっ、于禁さんもなのね」
「そうなの」
笑顔で劉備に話す于禁だった。
「張三姉妹大好きなの」
「凄く歌が上手くて」
「可愛くて」
「舞台も凄くてね」
「一度都で見て凄く好きになったの」
于禁は眼鏡の下でにこにことして話す。
「グッズも全部持ってるわよ」
「実は私も。ほら」
ここで団扇を出してみせる劉備だった。
「張角ちゃんのね」
「あっ、それ私も今持ってるの」
「張梁ちゃんと張宝ちゃんもそれぞれね」
「違った魅力があっていいの」
「そうそう。本当に最高の三人よね」
「私もそう思うの」
まさに意気投合であった。その中でだ。于禁はふと言うのだった。
「けれど」
「けれど?」
「私歌や踊りは大好きなの」
それはだというのだ。
「観るのも自分がするのも」
「私もよ」
「そうよね。私達って何か」
「似てるわよね」
「劉備さんもひょっとして」
ここでさらに言う于禁は言うのだった。6
「あれなの?女の子の服装とか流行とか」
「大好きなの、そういうのって」
「やっぱりなの。一緒なの私達」
「うん。ただ」
「ただ?」
「私ちょっとね」
困った笑顔になってだ。于禁に話すのだった。
「武芸とか下手だし孔明ちゃんみたいに頭がいい訳でもないし」
「それでなの?」
「何か皆に迷惑ばかりかけていて」
「それは私もなの」
ここでだった。于禁は困った顔になって話すのだった。
「楽進ちゃんと李典ちゃんに迷惑ばかりかけて」
「迷惑って?」
「私戦うの苦手なの」
自然と顔を俯けさせてしまっての言葉だった。
「だから。それで二人の迷惑になってて」
「そうなの?」
「うん。山賊達はこれまで何度か退治してきたけれど」
「じゃあいいじゃない」
「それでも。あまり倒せなくて」
そのことをだ。明らかに負い目に感じているのだった。
「だから。それでなの」
「それ、私もだから」
「劉備さんもなの」
「だからそんなこと言わないで」
それを話す彼女だった。
「これから頑張ればいいんだし」
「そうなの?」
「うん、だからね」
劉備は自然とにこりとした笑顔になって于禁に話す。
「それは気にしないの」
「これからなの」
「そう、これからね」
「それでいいのなら」
不安げな顔だがだ。それでも柳眉の言葉を受けて頷く于禁だった。そうしてそのうえでだ。あらためて劉備に対して述べるのだった。
「私、頑張るの」
「そうするといいと思うわ」
「劉備さん、有り難うなの」
于禁はようやく顔をあげた。そのうえで劉備に言葉を返した。
「私頑張るの」
「一緒にね。頑張ろう」
「わかったの」
ようやくにこりと笑えた于禁だった。彼女もこれからが決まった時だった。
そうしてだった。その夜だ。楽進は服を脱ぎそしてだ。風呂に入る。 するとそこにだった。もう張飛がいたのであった。彼女は楽進に手を振ってきた。
「待ってたのだ」
「張飛殿?」
「そうなのだ、待ってたのだ」
また言ってきた張飛だった。
「一緒に入るのだ」
「湯を共にとは」
「おかしいのだ?」
「いえ、それは」
ないとは言う。そうして言う言葉は。
「ありません」
「ならいいのだ」
「真桜や沙和とはよく一緒に入りますので」
「そうなのか」
ここでもう一人の声が聞こえてきた。それは。
趙雲だった。彼女もいたのだ。湯舟の中に見事な胸が見える。
「ならいいな」
「けれど誰なんだ?」
馬超もいた。その長い髪を上で束ねている。項が見事だ。それは趙雲も同じにしている。
「さっきの名前は」
「あっ、真名です」
それだと答える楽進だった。そうしてそのうえで湯に入る。それから皆で話すのだった。
「李典と于禁の」
「ちょっと、そこで言うのはうっかりやで」
「そうなの」
ここでその李典と于禁も出て来た。二人も湯舟の中にいるのだった。
「真名は自分で言わんとな」
「駄目なの」
「うっ、済まない」
楽進は俯いた顔で二人に謝る。
「つい言ってしまった」
「まあ皆にはここでうちが自分から言ったしな」
「いいの」
「何だ、もう言ったのか」
「お風呂の中でさらに仲良くなってな」
「それでなの」
さらに話す二人だった。そうしてであった。
今度は関羽が湯舟の中に入って来た。その見事な裸身が露わになっている。そしてその自慢の黒髪を馬超のそれと同じく上で束ねている。
その彼女がだ。楽進に対して言うのだった。
「楽進殿」
「はい、何でしょうか」
「貴殿はどうも私に似ているのかもな」
「関羽殿にですか」
「硬いところがあるな」
言うのはこのことだった。
「どうもな」
「そうだな。硬いな」
趙雲がその通りだと言ってきた。
「二人共な」
「もう少し柔らかくいくのだ」
これは張飛の言葉だ。
「鈴々なんか滅茶苦茶柔らかいのだ」
「そやそや。人生真面目だけやあかんで」
「もっと楽しく活きるの」
「あんた達はまた気楽過ぎないか?」
馬超がその三人に突っ込みを入れた。
「もうちょっと真面目になった方がな」
「そか?うちもやる時はやるで」
「そのつもりなの」
一応はこう返す李典と于禁だった。
「ちゃんとな。戦いは手を抜かんし」
「私きめたの。必死に頑張るの」
「そうあって欲しいが」
楽進は心配する顔でその二人を見ていた。
「しかし私は硬いか」
「時々酒を飲むのもいい」
趙雲は酒を勧めるのだった。
「それでゆっくりとするのもな」
「いいのですね」
「酒は百薬の長だ」
こうまで言う。
「飲めば飲む程いい」
「うちもお酒大好きやで」
「お茶と同じ位好きなの」
この二人もだった。
「どんどん飲まなな」
「飲むとなればとことんなの」
「それはいいことなのだ」
張飛はそれはいいこととした。しかしだった。
ふと李典の胸を見てだ。眉を顰めさせて言うのだった。
「真桜の胸は酷いのだ」
「んっ?これか?」
「どうやったらそんなに大きくなるのだ」
「まあ山羊のお乳とかキャベツ飲んだり食うてたらな」
「大きくなったのだ?」
「そや」
その通りだというのである。
「それでなんや」
「それでそこまで大きくなるのだ」
「少なくともうちはそやで。それに」
「それになのだ?」
「あと名前を換えたせいかもな」
こんなことも言う彼女だった。
「実はうちアルバイトでメイドとかやる時最近まで鏡水って名前にしてたんや」
「それを変えたのだ?」
「五郎八にしてん」
それに換えたというのだ。
「そのせいちゃうか」
「それも関係あるのだ?」
「ひょっとしたらな」
そうではないかというのである。
「あるかもな」
「いや、ないだろそれは」
すぐに関羽が突っ込みを入れた。
「私はだ。メイドの時の名前は美奈だがな」
「そのままじゃないのか?」
馬超がこう突っ込みを入れた。
「それだと」
「ううむ、姓はともかく名を換えるのは好きではない」
「それでか」
「そうだ。だから好きではない」
また言う彼女だった。
「だからこの名前でいっているのだ」
「誰かすぐにわかるな」
趙雲もそこを指摘する。
「もっと違う名前にすればどうだ」
「そういうものか」
「まあ結構ばれるもんやけどな」
「私もすぐにばれたの」
李典と于禁もここでこの話に入る。
「うちなあ。隠したつもりやったけどな」
「しっかりばれてたの」
「こうしたことはわかってしまう」
「そうだな」
趙雲と馬超も頷く。
「袁紹殿はお忍びの名前の方が有名なようだしな」
「張勲殿なんか幾らそういう名前あるんだろうな」
「鈴々もあからさまにわかってしまったのだ」
困った顔になっている。実は彼女もそうした名前を使ってきたのだ。
「本当にすぐばれるのだ」
「まあよお考えたら顔は同じやさかい」
「声は特になの」
李典と于禁がまた話す。
「それは仕方ないな」
「割り切ってやるしかないの」
「そういうことか。しかし本当にだな」
関羽も李典のその胸を見て話す。
「大きな胸だな」
「関羽さんには負ける思うで」
「そうか?かなり見事だな」
あらためて見るとまさに見れば見る程だった。そんな胸だった。
「それでもか」
「うちは胸が大きいだけやけど」
李典も李典で関羽を見ている。そしてだった。言う言葉は。
「関羽さんはスタイル全体がええしな」
「確かにな。絶妙なまでだな」
「腰もくびれてるしな」
趙雲と馬超もそれは言う。
「劉備殿とどちらがな」
「凄いスタイルだろうな」
そんな話をしていたのだった。それが彼女達の入浴だった。
それから夕食を皆で食べてだ。寝る時になる。全員髪を解いて寝巻きになるとだった。今度は黄忠とその劉備を見ての話になった。
「胸、一番やろ」
「圧倒的なの」
まずは黄忠を見てだった。彼女は薄い赤紫の色の寝巻きだ。
「ここまでかいとな」
「目がいって仕方ないの」
「あら、そういう李典さんも」
黄忠は微笑んで李典に対して返す。
「立派だけれど」
「いやあ、負けるわ」
「私もそこまで大きくなりたいの」
「なれるわ」
笑顔で言う黄忠だった。
「ちゃんとね」
「なれるの?」
「そう、なれるわ」
また言う。
「ちゃんとね」
「そうだったらいいけれど」
「それでね」
「はい」
「胸を大きくするには」
于禁にその秘訣を話すのだった。
「恋をすることを」
「恋をなのですね」
「そうよ。恋をよ」
「わかりました。それならなの」
于禁は真剣な顔で黄忠の言葉に頷く。そうしてだった。
「私そっちも頑張るの」
「何ごとも努力が重要だ」
ここでも真面目な楽進だった。
「それはな」
「そうなの。私頑張るの」
「沙和にはいつも助けられている」
これは于禁には想像もできない言葉だった。
「よくな」
「そうなの?」
「戦いの時も横を守ってくれる」
「そやな」
李典も楽進のその言葉に同意してきた。無論この三人も髪を解いている。解けばだ。三人共かなりの長さである。特に楽進と于禁の髪は普通に腰まである。相当な長さだ。
「お陰でうちも気楽に戦えるわ」
「感謝しているのだがな」
「そうなの?」
二人の言葉を聞いてだ。于禁は目を丸くさせて驚いた。
そしてだ。彼女はその驚いた顔で二人に問い返した。
「私、二人の役に立ってるの」
「気付いてなかったんかいな」
「そのことに」
「全然。今言われてびっくりしてるの」
「うち等だけやないで」
「マルコ殿達もだ」
彼等もだというのだ。
「感謝してくれているのだぞ」
「あんた本人には言ってへんけれどな」
「どうしてなの?それは」
「あんた照れ性やさかいな」
だからだというのだ。
「それでや」
「それでなの」
「そういうこっちゃ。まああれや」
「沙和は自分で思っている程弱くはない」
それはないというのだ。
「頼りにしているからな」
「二人共有り難うなの」
于禁は泣きそうな顔で二人に言う。
「私これからもっともっと頑張るの」
「ああ、よろしゅう頼むで」
「これからもな」
二人も彼女に微笑みで返す。そうしてだった。
于禁は笑顔で眠りに入った。その昨夕を二人が囲んでだった。そうして眠るのだった。
そして劉備達も寝る。しかしだった。
劉備は中々眠れなかった。目を閉じていてもだ。
その彼女にだ。関羽が言ってきたのだ。
「劉備殿」
「関羽さん?」
「うむ。どうしたのだ?」
関羽は劉備の隣に寝ている。この時も張飛にまとわりつかれている。その見事な胸が半分見えている。他の面々もそれぞれ寝ている。李典と馬超の寝相の悪さが目立っている。
「眠れないのか」
「于禁さんはお二人に頼りにされてたんだね」
「その様だな」
「けれど私は」
自分はだというのだ。
「そうしたことは」
「できていないというのだな」
「関羽さんも迷惑ですよね」
目は既に開けている。そうして暗い天井を見ながら話すのだった。
「やっぱり。私なんかと一緒で」
「いや、それは違うぞ」
「違うんですか?」
「劉備殿には助けられている」
そうだというのである。
「精神的にな」
「精神的にですか?」
「そうだ、助けられている」
そうだというのである。
「それもかなりな」
「そうだといいんですけれど」
「劉備殿のその明るさ」
関羽が言うのはそのことだった。
「そして穏やかさと優しさ」
「そうしたものがですか」
「私の心を癒してくれる」
さらにであった。関羽は言葉を続ける。
「私だけでなくだ」
「関羽さんだけでなくですね」
「鈴々も。朱里達も皆劉備殿に癒してもらっている」
「癒しですか」
「それは何にも替えられないものだ。そう」
「そう?」
劉備もだ。関羽のその言葉を聞いていた。そうしてだった。
自然と彼女に顔を向けていた。そのうえでの問いだった。
「そうといいますと」
「劉備殿に魅かれているのだ。是非共にいたいとな」
「皆さんがですか」
「劉備殿は劉備殿だからいいのだ」
「私だから」
「そうだ。だから気にすることはない」
「わかりました」
劉備もだ。関羽のその言葉に頷いたのだった。
そうしてだ。微笑んで言うのだった。
「私は私で皆さんに」
「そうしてくれるな、これからも」
「そうさせてもらいます」
劉備もまた同じだった。自分のことには気付いていなかった。そしてそのことに驕ることもなかった。そうしたこと全てが彼女の最大の武器であることもだ。彼女は気付いていなかったのだった。
第四十二話 完
2010・11・8
于禁の悩みを聞いて、劉備までが。
美姫 「でも、どっちも杞憂で終わって良かったじゃない」
だよな。劉備と関羽の絆も深まったような感じだし。
美姫 「まさに雨降ってって感じかしらね」
まあ、小雨って感じだったがな。
美姫 「次回はどうなるかしらね」
次回も待ってますね。