『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                               第三十八話  袁術、劉備達と会うのこと

 三姉妹はだ。ある富豪のところで歌を披露した後でそれぞれ話していた。
「そういえばだけれど」
「うん、どうしたの?」
「姉さん、また唐突ね」 
 張梁と張宝が長姉の言葉に応える。
「昨日食べたラーメンの話?」
「あれは美味しかったけれど」
「違うわよ」
 張角はこのことは否定した。そのうえであらためて妹達に対して言うのだった。
「バイスさんとマチュアさんだけれど」
「あの人達のこと?」
「一体どうしたの」
「この前私が董卓さんのところに行こうって言った時なんだけれど」
 こんな話をしたというのである。
「その時ね」
「ええ。何かあったの?」
「それで」
「何か二人共急に難しい顔になって」
 張角は特にこれといって考えていない顔で話す。
「それでね。それは止めようって言ったのよ」
「擁州に行くのは」
「嫌なのかしら」
「ほら、擁州って長安があるじゃない」
 その擁州でも最大の都市である。この国でも屈指の都市だ。
「あそこに行こうって思ったんだけれど」
「長安いいわよね」
「確かに」
 妹達も姉のその言葉に納得した顔で頷く。
「あそこは前都だったしね」
「今もかなり栄えてるっていうし」
「それで私も提案したんだけれど」
 張角は今は自分の口に右の人差し指の先を当てて話す。
「二人共結局ね」
「ううん、折角そっちまで行けそうだったのに」
「残念ね」
「こうして中原を回るのもいいけれど」
 今の彼女の活動範囲はそうなっているのだ。
「それでも。西の方にもね」
「そうよね。行くべきよね」
「私もそう思うわ」
「二人にも何か考えがあるのかしら」
 ただそう思うだけの張角だった。事情を知らない為これも当然であった。
「やっぱり」
「よくわからないけれどそうなんでしょうね」
「そうね、多分」
 妹達もこう考えた。
「気にはなるけれどね」
「今はお仕事の管理はあの人達に任せてるし」
 かつては張宝がしていた。だがそれが変わったのだ。
「それならね」
「私達が言うのは止めましょう」
「ううん、そうなるのね」
「そうよ。だってあたし達はもう」
「仕事の管理は自分達ではしていないから」
 そのバイスとマチュアがしているのである。だからだ。
「あの人達に任せてね」
「そうしてね」
「そうね。じゃあ」
 ここでだ。張角は少しだけ考える顔になって述べた。
「長安はいいわよね」
「そうよ。他の国でもいいじゃない」
「何処でも」
「それで何処に行くのかしら、今度は」
 張角はもう長安のことは忘れてそのうえでまた話した。
「それでだけれど」
「確かね」
 張梁が答えた。
「揚州よ」
「そこなの」
「孫策さんのところ」
 張梁はまた話した。
「そこだから」
「じゃあ建業かしら」
 そこではないかと言う張宝だった。
「それじゃあ」
「建業って確かお魚が美味しいんだっけ」
 張角が言った。
「何か楽しみね」
「そうよね、じゃあ」
「楽しみに行きましょう」
 こうしてだった。三姉妹は何の心配もなく活動を続けていた。しかしだった。
 張角が行きたいと言っていた長安ではだ。相変わらず地獄が繰り広げられていた。
「うう、俺達この地獄から何時出られるんだ?」
「安心しな、ずっとだからな」
「永遠に終わらないでやんすよ」
 チャンとチョイが山崎に話す。三人は今鉄の下駄を履いてそのうえで山を駆け足で登らさせられているのだった。相変わらずの苦行だ。
「俺達なんかもう何年だ?」
「覚えてないでやんす」
「来る日も来る日も修行と重労働の日々だよ」
「まさに起きたら寝るまでこんな調子でやんすよ」
「何で俺までそうなるんだよ」
 山崎は涙を流しながら話した。
「こんなところに出て来てよ」
「運が悪かったんだよ」
「その通りでやんすよ」
 それだというのだった。
「残念だがな」
「諦めるでやんすよ」
「うう、何てついてないんだ」
 山崎もこの運命にはぼやくしかなかった。その間にもだ。
 キムが来てだ。厳しく言うのだった。
「こら!」
「うわっ、出た!」
「出たではない!」
 いきなり蹴りだった。山崎の顎に奇麗に決まった。
「喋りながら修行をすると怪我をするぞ!」
「じゃあ蹴るなよ!」
「これは愛の鞭だ!」
 こう主張するキムだった。
「だからいいのだ」
「糞っ、無茶苦茶な意見だな」
「無茶苦茶と言うのか。私が」
「それ以外に何だってんだよ」
「その屁理屈許せん!」
 そう叫んでだった。今度はだ。
「半月斬!」
「ぐわあああああああっ!」
 必殺技を浴びせる。本当に容赦がない。
 そんな修行地獄だった。そしてその中でだ。チャンとチョイは暗い顔になってだ。そうしてそのうえでこんなことを言うのだった。
「山崎の旦那も諦めないとな」
「この地獄は無限ループでやんすよ」
 二人は既に諦めていた。修行地獄は永遠なのだ。
 そしてであった。長安の地獄とは正反対にだ。
 今荊州太守の館ではだ。音楽が聴こえてきていた。そうしてある。
 金髪を長く伸ばして巻かせた小さな幼女が歌っていた。黄色の丈の長いふわふわとした感じの服を着ている。オレンジも入っている。
 顔立ちは幼いがはっきりとした顔である。眉目は整っている。
 その彼女がだ。歌っていた。
 その前には青い髪を短くして白と青の上着に赤い丈の短いスカートの少女がいた。顔は少しだけ垂れ目で穏やかな顔をしている。しかし何処か癖がありそうだ。胸は大きい。そこが幼女と違っていた。
 そうしてである。彼女はこう己の前にいる幼女に言ったのだった。
「美羽様、お見事ですよ」
「うむ、そうか」 
 美羽と呼ばれた幼女はその言葉に笑顔で応える。
「歌はよいのう」
「はい。この張勲感服しました」
「もっと褒めるがよいぞ」
 幼女は笑顔のまま話す。
「この袁術褒め言葉は大好きじゃ」
「はい、それじゃあ」
「それにしてもじゃ」
 だが、だった。袁術はここで困った顔になって話すのだった。
「昨日の呂布じゃが」
「あの人ですか」
「そうじゃ、どうもな」
「どうも?」
「五月蝿いのう。州の南部まで統治せよとは」
「そのことですか」
「お化けが出るのに行けるものか」
 こう張勲に話す。
「とてもじゃ」
「それじゃあこのことは」
「お化けを退治する者はおるか?」
「では紀霊殿や楽就殿を向けられては」
「それものう」
 袁術はこの提案に難色を示す。そうしてこう言うのだった。
「今はな」
「賊に対してですね」
「そうじゃ。そっちに兵を回したい」
「じゃあとりあえずは」
「そうじゃ。ましてわらわ自ら行くとなるとじゃ」
「美羽様戦えませんからね」
「政ならできるのじゃがな」
 そのことには自信ありげな顔で話した。
「しかし戦はじゃ」
「ううん、私もお化けの退治は」
「できぬな。そうじゃな」
「はい、そういうのはちょっと」
 張勲も困った顔で話す。
「何でしたら昨日の呂布殿に御願いしてもよかったのですが」
「忘れておった。不覚だったぞ」
 今になってこのことを後悔する袁術だった。
「参ったのう」
「そうですよね、本当に」
「どうすればよいかのう」
「あの」
 ここでだった。黒い髪を肩で切り揃えた小柄な幼女が入って来た。赤い半ズボンを履き黒い上着である。その手には先が三つに別れた剣がある。
 その彼女がだ。こう言ってきたのである。
「あの、美羽様」
「あっ、紀霊殿」
「どうしたのじゃ?皐」
「御会いしたい人が来ております」
 その紀霊が言ってきた。
「どうされますか?」
「むっ、誰なのじゃ?」
「はい、劉備玄徳という方です」
「劉備とな」
「御存知ですよね、やはり」
「話は聞いたことがある」
 こう答える袁術だった。
「異民族征伐で功績を挙げたそうじゃな」
「はい、袁紹殿と曹操殿が出兵されたあの時にです」
「姉様がじゃったな」
 袁術は袁紹の名前が出ると嫌な顔になった。
「そうじゃったな」
「はい、その時にです」
「その劉備がここに来たのか」
「やはり御会いされますか?」
「うむ、会うとしよう」
 袁術はすぐに決めた。
「それではじゃ」
「そうされますか」
「劉備だけではないな」
 袁術はこう察しをつけてきた。
「他の者達もじゃな」
「はい、関羽殿達もおられます」
「関羽殿といいますと」
 張勲が言ってきた。
「あれじゃないですか。山賊退治の」
「そうじゃったな」
「美羽様、ここはですね」
 張勲はここで言うのだった。
「その関羽殿達にですね」
「うむ、その者達に」
「お化けを退治してもらいましょう」
 こう提案するのだった。
「それでどうでしょうか」
「おお、それは名案じゃな」
 話を聞いてだ。笑顔になる袁術だった。
「それではじゃ」
「ただ、美羽様」
「どうしたのじゃ、七乃」
「御会いする前に少し時間があればですけれど」
「あっ、それだったら」
 紀霊は張勲に対してすぐに答えてきた。相手が同僚なら話し方は普通だった。
「劉備殿達は今お昼を食べてるから」
「あっ、そうなの」
「ええ。時間は少しあるわ」
 こう張勲に話すのだった。
「それがどうかしたの?」
「諸将を集めてお話したいのだけれど」
 こう白手袋の手のうち右の方の人差し指を上に示させて話した。
「美羽様、それでいいですか?」
「何じゃ?何かあったのか?」
「はい、これからのことです」
 言葉の調子は穏やかなものだった。表情もだ。
 しかしだ。微妙に緊張を漂わせてだ。張勲は言うのであった。
「昨日都から呂布さんが来られましたけれど」
「あ奴は確か董卓の臣下であったな」
 袁術もこのことは知っていた。
「それがどうかしたのじゃ?」
「いえ、董卓さんではなくですね」
「では誰のことじゃ?」
「はい、都のことです」
 そちらだというのである。
「都のことでお話が」
「というと何のことなのじゃ?」
「まずは皆を集めましょう」
 いぶかしむ袁術にまた話した。
「それからです」
「何かよくわからぬがわかったぞ」
 こう答えた袁術だった。
「それではじゃ」
「はい。では皐ちゃん」
「そういうことなのね、七乃姉さん」
「ええ、皆を集めましょう」
「わかったわ。それじゃあ」
 こうしてだった。袁術の諸将が集められた。まずは茶色の髪を腰まで伸ばした長身の少女であり緑のチャイナドレスに黒いタイツという格好である。目は紫であり顔立ちははっきりしている。切れ長の目だ。
「楽就、只今参りました」
「うむ、黄菊よ」
 こう返す袁術だった。
「よくぞ参った」
「はい、美羽様それでお話は」
「まずは集まってからじゃ」
「わかりました」
 楽就は頷き袁術の前に控えた。その次にだった。
 今度は赤い燃える様な短い髪に左目だけ眼鏡をかけている少し大人の女だった。年齢は袁術の周りの者達の中で最も年長だろうか。鳶色の垂れ目であり眉は細くこれも垂れている。口は大きく一文字である。
 服は白い看護士の様な服だ。その女も来たのだった。
「揚奉、ここに」
「菖蒲も来たのう」
「はい、後は」
「あの者達じゃな」
 袁術はここで難しい顔になった。そうしてだった。
 張勲にだ。こう話すのだった。
「のう、七乃」
「何でしょうか、美羽様」
「何故あの様な者達が来たのかのう」
「何か他の世界から来られてるそうですが」
「一体どういう世界なのじゃ?」
 袁術はかなり困った顔であった。
「ああした者達がいる世界というのは」
「さて。何か色々と物騒な世界のようですね」
「それもわからん」
 袁術は難しい顔でまた話す。
「戦とは別に。得体の知れぬ者達が多くいるそうじゃが」
「はい、私達のこの世界とは全く違うとか」
「しかしこの世界に来た」
「その来た理由もわかりませんね」
「全くじゃな。妙なことばかりじゃ」
「ええ。それでは美羽様」
「何じゃ、今度は」
「それでもあの人達は召抱えられるのですね」
 にこにことした顔で主を見ながら問うた。
「そうされるのですね」
「その通りじゃ。折角わらわを頼ってきたのじゃ」
 それは当然だと。胸を張って話す袁術だった。
「だからじゃ。それはそれでよい」
「はい、ならそれでいいです」
 張勲もそれはいいとした。
「ではあの人達もこれから」
「うむ、来るのじゃな」
「はい、すぐに」
 こうしてだった。何人か来た。まずはだった。
「激ヤバじゃないか、こんなことになるなんて」
「一体何がやばいのかしら」
「さあ」
 白い顔に毛髪のない頭である。青い化粧を少ししている。黄色を主として白もある服を着ている。この男が言っているのを聞いてだ。楽就と紀霊が言い合うのだった。
「何かよくわからないわね」
「いつものことだけれど」
「このままじゃ全てが終わってしまう」
 男はまだ言うのだった。
「激ヤバだ!どうしたらいいんだ!」
「こ奴はまたなのか」
 袁術もその彼を見て呆れ顔であった。
「全く。何なのじゃ」
「相変わらずよくわからない人ですよね」
 張勲こう言う。
「ターションマオさんでしたね」
「呼び名は我が国の名前じゃな」
「はい、それは」
「しかしこんな奴知らんしな」
「ですからあちらの世界からの人ですから」
「ううむ、変な奴ばかりのようじゃな」
「美羽様と同じく」
 さりげなく毒を吐く張勲だった。しかもにこにことしながらだ。そうしてそのうえでだ。騒ぐターションマオをそのままにしてまた来たのだった。
 今度は青緑の髪に白い服の幼女にハンマーを持った男の子だった。それに太った小男と小柄な老人である。そういった面々であった。
「お尻ぶりぶり!胸ぼいんぼいん!」
「新曲だな、眠兎」
「そうだよ、乱童」
 幼女と男の子がこうやり取りをしていた。
「私が考えた曲」
「いい曲だよな」
「そうだね」
 もう一人いた。青い服にダークブラウンの髪を立たせた少年だ。ズボンはライトグレーである。白いマフラーが目立っている。
 その少年は乱童と眠兎にだ。笑顔で言うのだった。
「歌いやすそうだね」
「そういえばアルフレドって」
「最近お空飛んでる?」
「ああ、勿論だよ」
 その少年アルフレドは笑顔で頷くのだった。
「やっぱり空はいいよね」
「そうそう。おいら達に止められるのは」
「何もないから」
「しかし何故じゃ?」
「全くでしゅ」
 老人と太った男がいぶかしむ声を出した。
「この連中は普通に空を飛べるが」
「全く以て謎でしゅ」
「いや、十兵衛さんチンさん」
 アルフレドはその山田十兵衛とチン=シンザンに話す。
「それはコツがありまして」
「コツで飛べるのじゃな」
「私も飛べるでしゅか」
「多分」
 アルフレドはチンのその肥満体形を見ながら話した。
「もっと痩せれば」
「痩せるのは無理でしゅよ」
 それは否定するチンだった。
「だって私は食べないと身体がもたないでしゅよ」
「ううん、飛ぶにはそのお腹が」
 また言うアルフレドだった。
「ですからもう少し」
「もう少しでしゅか」
「はい、痩せればいいですよ」
「じゃあ諦めるでしゅ」 
 チンは残念そうな顔で話した。丸いサングラスの奥の目が悲しそうである。
「仕方ありませんでしゅ」
「そうですか」
「わしは別にいいのじゃ」
 十兵衛はそれはいいというのだった。
「飛ぶことには興味がないからのう」
「女の子だよね、十兵衛さんが興味あるのは」
「それもぷりぷりの」
「その通りじゃ」
 笑って乱童と眠兎に話す。
「わしが興味があるのは可愛い娘だけじゃ」
「じゃあこの世界は」
「最高だよね」
「最高じゃ!」
 大きな声を出して言い切ったのだった。
「こんな世界があるとは。夢みたいなのじゃ」
「しかしセクハラじゃったな」
 袁術は難しい顔でその十兵衛に対して告げた。
「そうじゃったな」
「それがどうかしたのかのう」
「それをやってみよ。許さぬぞ」
 袁術のその顔は厳しいままだった。
「百叩きじゃ」
「何でそこまで言われるのじゃ」
「わらわもおなごとしてそうしたことは許さん」
 だというのである。
「だからじゃ。よいな」
「ううむ、折角百花繚乱の国じゃというのに」
「覚悟しておれ」
「はい、皆さん集まりましたね」
 張勲がここでまた言うのだった。
「それではお話をはじめましょう」
「それで何の話なのじゃ?」
「話はです」
「うむ。何のことじゃ?」
「都では相変わらずの状況が続いています」
 張勲はここから話した。
「何進大将軍と宦官達の争いがです」
「鬱陶しい奴等じゃ」
「全くですね」
「本当に」
 楽就と揚奉が袁術の言葉に頷く。
「全く。宦官というものは」
「どうしてあそこまで有害なのか」
「あんな連中は皆殺しにすればいいのじゃ」
 袁術は不快感を露わにさせていた。
「さっさとな」
「そうしてです」
 張勲は主の怒りをよそに話を続けていく。
「大将軍の側近にです」
「あっ、司馬慰ね」
 紀霊が言った。
「あの人のことね」
「はい。名門の出身でありしかも抜群の切れ者で早速大将軍に重く用いられているその人です」
「何か知らんが凄い奴だそうじゃな」
 袁術も言った。
「そうじゃな」
「そうです。この人の登場で大将軍は懐刀を得られました」
「それでどうなったのじゃ?」
 袁術は張勲に問うた。
「話は」
「大将軍は宦官達を締め付けられようとしておられます」
「いいことじゃ」
 袁術はこのことを素直に喜んだ。
「あんな連中に好き勝手させていてはならん」
「はい。ですが司馬慰殿ですが」
「その者に何かあったのか?」
「何しろ立場的にも能力的にも何の問題もない方です」
 張勲が指摘するのはここだった。
「ですから曹操さんと袁紹さんがです」
「ああ、御二人が」
「成程」
 ここで皆わかった。こちらの世界の面々はだ。
「やっぱりね。嫌うわよね」
「当然ながら」
「それで御二人は司馬慰殿を警戒しておられます」
「まあ当然じゃな」
 袁術も話をここまで聞いて述べた。
「麗羽姉様と華琳殿ではのう」
「御二人共劣等感の強い方ですから」
「所詮わらわと違うわ」
 袁術はこうも言った。
「わらわの様に袁家の嫡流ではないからのう」
「そうですよね。けれど」
「けれど?」
「その司馬慰殿美羽様の為にもならないかと」
 張勲はこのことも言うのだった。
「そうした方が大将軍の傍におられると」
「ううむ、そうかものう」
 袁術も張勲の言葉に考える顔になった。
「わらわの夢は相国になることじゃ」
「はい」
「三公より上になるぞ」
「ではその為には」
「司馬慰は敵になるのう」
「そうですね。それは」
 紀霊は袁術のその言葉に頷いた。そうしてだった。
「では我等の方針は」
「基本はここを治めるのじゃ」
 袁術も政を忘れてはいなかった。
「そしてそのうえで姉様や華琳殿と協力するぞ」
「そして司馬慰殿に対しますね」
「あと宦官は主だった奴は全員処罰じゃ」
 このことも忘れていなかった。
「十常侍は全員処刑じゃ」
「はい、ではその時が来れば」
「その様に」
「南部は」
 ふとだった。揚奉が言ってきた。
「どうされますか?」
「あれはとりあえずじゃ」
 袁術は彼女の言葉にもすぐに答えた。
「劉備殿達に化け物を退治してもらってからじゃ」
「それからですか」
「お化けはどうにもならんのじゃ」
 怖がる顔であった。
「だからじゃ。仕方ない」
「ううむ、そうですか」
 楽就はそれを聞いて複雑な顔になった。
「それでは」
「そういうことじゃ。さて」
 ここまで話してだった。袁術はあらためて一同に話した。
「劉備殿と会おうか」
「はい、それでは」
 張勲が笑顔で応えてだった。そうしてだった。
 袁術は張勲と紀霊を連れて謁見の間に入ってだ。主の座に着いてそこで劉備達と会うのだった。張勲を右、紀霊を左にそれぞれ置いてだ。そのうえで劉備一行を出迎えた。
 程なくしてその劉備達が来た。まずは袁術の前に控える。
 その袁術はだ。すぐに劉備に言ってきた。
「苦しゅうない、立つがいい」
「はい」
「それでは」
 程なくしてだ。劉備達を立たせてだ。そのうえで話を聞くのだった。
「まずはですね」
「まずは。何じゃ?」
「これを」
 劉備はあるものを出してきた。それはだった。
 手紙だった。袁術はその差出人を見てまず顔を曇らせた。
「むむっ、これは」
「袁紹殿からのものですね」
「ううむ、不吉じゃな」
 張勲の言葉にも嫌そうな顔で返す。
「それでも読まないといかんのじゃな」
「はい、読まないと袁紹殿が」
「わかった。それではじゃ」
「はい」
「全く。いきなり美人だの何だのと自分を褒めておるわ」
 袁術は自分で手紙を読みながらぼやく。
「それで何じゃ?また大会を開いたのか」
「あの鰻のですか」
「あれは袁家伝統のじゃがな」
「それでも袁紹殿はあれが好き過ぎますよね」
「全くじゃ。ふんふん、それで」
 紀霊とも話をしながらだった。そうしてであった。
 手紙を読み終えた。それから劉備達に話すのだった。
「話はわかったぞ」
「それはですか」
「あの剣を返して欲しいのじゃな」
「御願いできますか?」
「美羽様」
「ここは先程のお話通り」
 張勲と紀霊がここで袁術に耳打ちした。
「お化けを退治してもらって」
「それを条件として」
「うむ、そうじゃな」
 袁術も二人の言葉に頷いた。そうしてだった。劉備にまた声をかけた。
「劉備殿」
「はい」
「あれは貴殿の家の宝なのじゃな」
「その通りです。ですからこちらにお伺いして」
「遠い幽州からの旅大変だったであろう」 
 労いの言葉も言う。
「そして名前を聞いてじゃが」
「私のですか?」
「そうじゃ。貴殿は劉家の者じゃな」
「はい、その通りです」
「皇室の方か」
 このことを確認したのだった。そのうえでだった。
 袁術はだ。ここで左右の二人に囁いた。
「無碍にはできぬのう」
「はい、そうです」
「それではここは」
「それにわざわざ幽州までここに来てくれたしのう」
「ではここは」
「やはり」
「うむ、返す」
 これはするというのだった。そうしてだった。
「ではここはじゃ」
「お化け退治と共に」
「そうして」
「その通りじゃ。ではな」
 こう話をしてだった。また劉備との話に戻った。
「では劉備殿」
「はい」
「剣は返そう」
 劉備に対して微笑んで告げた。
「貴殿の宝はな」
「そうしてくれますか?」
「うむ、ただしじゃ」
 この言葉を聞いてだった。関羽達は劉備の後ろでひそひそと話をした。
「やっぱりそう来たな」
「全くなのだ」
「返すには条件がある」
「そう来たな」
「そうね」
 こう話をしてだ。袁術を見るのだった。
「癖のありそうな人物だしな」
「やっぱり袁家の人間なのだ」
「用心してかかるべきだな」
「ああ、そうするか」
「それなら」
 そうしてだ。孔明と鳳統を見た。するとであった。
 孔明と鳳統は。すぐにあれを出してきた。
「あの」
「これですけれど」
「むっ、それは」
 袁術はそれを見てだ。すぐに笑顔になった。
「西瓜じゃな」
「はい、黄色い西瓜です」
「それです」
「おお、それはいいのう」
 黄色い西瓜と聞いてだ。袁術はより明るい顔になった。
 そのうえでだ。二人に言うのであった。
「ではその西瓜有り難く受け取らせてもらうぞ」
「はい、どうぞ」
「お召し上がり下さい」
「さて、後で桃に西瓜に」
 その西瓜は絶対に忘れなかった。
「蜂蜜水じゃな。豪勢にいこうぞ」
「それは駄目です」
「そうですよ」
 だが、だった。張勲と紀霊がだ。袁術に言ってきた。
「三つも一片に食べたらお腹壊しますよ」
「どれか一つにして下さい」
「ううむ、それは困るのう」
 袁術は二人のそのことばに難しい顔になって述べた。
「どうするかじゃな」
「はい、どれか一つです」
「くれぐれもです」
「悩むのう、ここは」
「それでです」
「どうされますか?」
 二人はすぐに話を戻してきた。
「劉備殿の剣は」
「どうされますか?」
「うむ、最初は条件付で返すつもりじゃったが」
 袁術は考えを明らかに変えていた。単純ではある。
「わらわの気分がよくなった」
「それではここは」
「返されますか」
「いや、少し変える」
 流石に最後の一線は守っていた。
「返しはするがじゃ」
「お返しはされますか?」
「それは」
「ただし。化け物を退治できなければ貰い受ける」
 そうするというのである。
「それでどうじゃ」
「そうですね。それだと」
「いいと思います」
 こう答えてだった。二人も賛成した。
 そのうえでだ。袁術はまたしても劉備との話に戻ってだ。こう言うのであった。
「劉備殿」
「はい」
「剣は返そう」
 思わせぶりな微笑みと共の言葉だった。
「それはじゃ」
「そうしてくれますか?」
「うむ。ただし条件がある」
「条件といいますと」
「若し化け物を退治できなかった時はじゃ」
「その時は」
「その剣はわらわのものとなる」
 こう劉備に言うのだった。
「それでどうじゃ?」
「つまり私達がお化けを倒せばそれでいいんですね」
「うっ・・・・・・」
 劉備の明るい顔と返答にだ。袁術も引いた。
「それはその通りじゃが」
「わかりました。ではそうさせてもらいます」
「それでよいのじゃな」
「はい、御願いします」
 実際に笑顔で答える劉備だった。
「それで」
「では七乃、皐」
「わかりました」
「それでは」
 左右の二人も袁術の言葉に頷いてだ。そのうえでだった。
 剣は劉備に返された。大ぶりで黒い柄と鞘である。所々に金が施され赤や青の宝玉もある。実に見事で華麗な装飾であった。
 その剣を見てだ。孔明が言った。
「はわわ、これは」
「そうよね」
 鳳統もだった。
「かなり凄い剣ですよ」
「装飾だけでもかなりの価値があります」
「わらわもこれ程までの剣は見たことがないぞ」 
 袁術も言う。
「手放すのが惜しいがまあ致し方ない」
「袁術さん、有り難うございます」
「礼はよい。ただしじゃ」
「はい、ただしですね」
「化け物を退治できなかったらじゃ」
「その時はですね」
「わらわのものとなるぞ」
 このことを念押ししてだった。そのうえで袁術は剣を手渡したのだった。そうしてそのうえでだった。
 劉備達は化け物退治に向かった。その道中関羽と飛は浮かない顔だった。その彼女達を見て黄忠と馬岱がひそひそと話をする。
「二人共何か様子がおかしいわね」
「そうですよね。どうしたんでしょう」
「化け物も山賊も同じなのにな」
 馬超はこう考えていた。
「それでどうしてなんだ?」
「まあ行ってみればわかる」
 趙雲はわかっていて言わなかった。
「そこにな」
「そうなのね」
「お化けの前でってことね」
「何かよくわからないけれどそうなんだな」
「その通りだ。では先に進もう」
「それにしてもですね」
 孔明は明るい顔であった。
「剣を返してもらったのは成功でしたね」
「うん。やっぱり西瓜をあそこで出したのがよかったかも」
「そうよね。最初に出すのじゃなくて」
「状況をあえて見計らって」
 二人はそうしたのである。
「あそこで出して」
「それがよかったわね」
「作戦成功ね」
 神楽もその二人に言った。
「お陰で剣は手に入ったわね」
「はい、ただお化けを倒せないと」
「同じです」
「そういうことね。けれどお化けなら」
「ミナさんは倒せるんですね」
「ええ」
 こう月に答えるミナだった。
「弓で。それは」
「そうですか。それなら大丈夫ですね」
「ただ」
「ただ?」
「若しも人がしていたのなら」
 ミナは既にこの場合を考えているのだった。
「少し厄介なことになるわね」
「人ならばですか」
「そういうことも有り得るから」
 ミナは話す。
「だからその時は」
「その時はです」
 月の顔が厳しいものになった。そうしての言葉だった。
「賊ならば退治するだけです」
「そうね。そうするしかないわね」
 神楽も月のその言葉に頷いたのだった。
「ここはね」
「そういうことになります」
「私としては賊の方が気が楽だけれど」
「私もです。できれば」
 こんな話をしながらだった。その南部に向かった。そしてだった。
 化け物が出て来るその廃寺に来た。既に夜になっていた。
「暗いな」
「そうなのだ」
 まずは関羽と張飛が言った。
「ううむ、この寺は」
「ボロっちいにも程があるのだ」
 見ればだ。暗闇の中でシルエットになっているがそれはだ。屋根も柱も壁もだ。見事なまでに朽ち果ててしまっているのがわかるものだった。
 その廃寺を見てだ。二人はまた言った。
「ここはな」
「そうなのだ」
「行くか」
「それしかないのだ」
「そうよね」
 二人に劉備が話してきた。
「何があってもね」
「剣を取り戻す為ですか?」
「それで」
 孔明と鳳統がこう劉備に問うた。
「ですから絶対に」
「ここは」
「ううん、それもあるけれど」
 しかしだった。劉備はここで言うのだった、
「やっぱり。お化けだから」
「はい」
「それで、ですか」
「放っておいたら他の人とか襲いそうだし」
 劉備は化け物をそうしたものだと考えていた。そのうえでの言葉だった。
「だから。退治しておかないとね」
「ううん、劉備殿って凄いですよね」
「そうよね」
 二人は劉備その言葉を聞いて感心して言った。
「そうしたことをちゃんと考えておられて」
「御自身のことよりも」
「だって誰かの為に何かしないと」
 また言う劉備だった。
「駄目じゃない」
「そう考えられる人って中々いませんから」
「はい、本当に」
「自分のことしか考えない人って」
「確かにいます」
 孔明と鳳統はそうした人間のことを話すのだった。
「そうした人と比べて劉備さんは」
「本当に素晴しい人です」
「そうかしら」 
 自分ではその自覚はあまりないのがまさに劉備だった。そうしてだった。彼女はあらためて一同に対して言うのであった。
「それじゃあここは」
「はい、行きましょう」
「お化け退治です」
 孔明と鳳統が言ってだった。一行は寺の中に入った。寺の中はしんと静まり返っていた。暗闇の中に廃墟だけがあった。
 その中を通りながらだ。馬超が言った。馬岱もである。
「本当に何か出そうな場所だな」
「そうだね。お化けがね」
「出るよな、これは」
「うん、私もそう思う」
「そう、例えば後ろから」
 趙雲も思わせぶりに囁く。
「うらめしや〜〜〜、とな」
「ま、まさかな」
「そんなことはないのだ」
 関羽と張飛はそれを必死に否定しようとする。
「と、とにかくだ」
「何時出て来てもいいようにするのだ」
「ええ、それはね」
 黄忠のその手にはもう弓がある。
「何時でも。何処から来てもね」
「それでどんな化け物でしょうか」
 月はこのことを考えていた。
「一体」
「そうね。例えばだけれど」
 神楽が言ってきた。
「身体は虎、頭は狸、尻尾は蛇で」
「それはあれですね」
「しかも声はとらつぐみで」
「鵺ですよね」
 月は神楽の話にこう突っ込みを入れた。
「それって」
「ええ、それよ」
 まさにその鵺だというのだった。
「それの可能性もね」
「零ではないですよね」
「はい、そういう場合は」
「私がこの弓で」
 ミナも既に弓を持っている。傍にはチャンプルもいる。
「倒すわ。むしろ」
「むしろ?」
「むしろといいますと」
「鵺ならまだいいわ」
 そうだというのであった
「若し腐れ外道やそうした相手なら」
「話には聞いてるわ」
「恐ろしい妖怪だったそうですね」
「人を喰らう餓鬼」
 それがその腐れ外道だというのである。
「私達が退治してよかったわ」
「っていうかそんな恐ろしい存在がいたんですか!?」
「そちらの世界には」
 孔明と鳳統はそのことの方が怖かった。
「あの、お化けが本当にいるって」
「それはかなり」
「もういないわ」
 ミナは怯える二人にこう話した。
「だから安心して」
「それでもです」
「妖怪がいたなんて」
「この世には色々なものがいるから」
 ミナは二人にさらに話した。
「だから。そうした存在も」
「いるんですか」
「怖過ぎです」
 そんな話をしているうちに道観の前に来た。するとであった。
 何処からかだ。声がしたのだった。
「帰れ〜〜〜〜」
「うっ、遂に」
「出て来たのだ」
 関羽と張飛が青い顔になる。
「どうする?それで」
「どうするのだ」
「いや、それは決まってるだろ」
 馬超がその二人に言う。彼女は既に槍を構えている。
「退治しないとな」
「そ、それはそうだが」
「わかっているのだ」
「前からよ」
 黄忠がここで言った。するとだ。
 その道観からだ。出て来たのだった。
 巨大な顔が出て来てだ。そうして巨大な顔で叫ぶ。
「帰れ〜〜〜〜」
「あれはまさか」
「そうよね」
 孔明と鳳統はその顔を見て二人で頷き合う。
「只の」
「間違いないわ」
「じゃあどうしようかしら」
 神楽もわかっているようだった。その証拠に二人に言ってきた。
「ここは」
「私達はいいのですけれど」
「ただ」
 孔明と鳳統は関羽と張飛を見た。見れば二人はだ。
 全く動かない。構えさえ取っていない。それを見てだ。
 ミナと月がだ。二人に言った。
「二人共、私が援護するから」
「一緒に行きましょう」
「あ、ああ」
「わかっているのだ」
 二人は一応請う言いはする。それで構えは取った。
 しかしだ。二人はそれでも動こうとしなかった。
 そんな二人を見てだ。今度は馬岱が言ってきた。
「愛紗さん、鈴々ちゃん」
「こ、今度は何だ?」
「何が言いたいのだ」
「何がって行こうよ」
 彼女もこう二人に言うのだった。
「早いところ化け物退治をしようよ」
「行くぞ」
 最後に趙雲が言った。彼女は両足に力を溜めてだ。そのうえで跳躍しようとした。しかしここで彼女にとって思わぬ事態が起こった。
「ま、待ってくれ!」
「一人にしないで欲しいのだ!」
 その関羽と張飛がだ。彼女をそれぞれ左右から抱き締めてきたのだ。
 趙雲はそれで動きを止めてしまった。止められたと言うべきか。
「待てっ、いきなり何をする!」
「だからお化けだぞ!」
「ちょっとそれは勘弁して欲しいのだ!」
「それはわかるが」
 趙雲は左右から抱かれながらも何とか言った。
「それでもだ」
「そうだよ。早く行くぞ」
 馬超がその二人に言ってきた。
「こんなことしててもな」
「翠もいてくれ!」
「御願いなのだ!」
「うわっ、あたしもかよ!」
 今度は馬超も抱き締められた。四人で絡み合う。
「待て愛紗、脚と脚の間に身体を入れるな!」
「そ、そんなつもりはない!」
「鈴々、何処触ってるんだよ!」
「翠こそ鈴々の上に跨るななのだ!」
 無茶苦茶なことになっている。
「わ、私は胸は駄目なのだ・・・・・・」
「そう言う星も首筋を触るのは」
「あのな、あたし背中は・・・・・・あっ!」
「翠、耳を噛むななのだ・・・・・・」
 しかもだ。二人同士だけでなくだ。
「翠、胸に手が入ってるぞ」
「鈴益々、スカートの中は駄目だ」
「愛、だからよ、お尻触らないでくれよ」
「星、太腿と太腿が」
 そんな四人を見てだ。孔明と鳳統は真っ赤になっていた。そのうえだった。
「はわわ、こっちも大変ですう」
「どうしよう、これは」
「一時撤退しかないわね」
 黄忠はいささか残念そうに言った。
「幾ら何でもこれじゃあね」
「いやらし過ぎるわね」
「浮世絵みたいですね」
 神楽と月もそんな四人を見て話す。
「この状況はちょっと」
「どうしたものでしょう」
「お化けどころじゃないし」
 馬岱もは為す。
「撤退しかないよね」
「いえ、ここは」
 だが、だった。劉備があの剣を手に言うのだった。
「お化けを絶対に」
「そうしたいのはやまやまだけれど」
 その劉備にミナが話す。
「主力の四人があれだから」
「え、ええと」
 劉備もだ。今の四人を見て真っ赤になった。
 最早それぞれ下着も露わになってほぼ半裸になってだ。鰻がそれぞれ絡み合うようになってしまっていた。そうした状況だったのだ。
 そんな四人を見てだ。孔明が言った。
「とりあえずは」
「どうしよう、朱里ちゃん」
「四人に言おう。大声で」
「一時撤退ね」
「劉備さんは雛里ちゃんが言ってあげて」
 劉備には彼女だというのだ。
「四人はどうしてもというのなら」
「どうしてもなら?」
「皆でこのまま担いで行こう」
「それしかないのね」
「ええ、だから」
「それも一つの手ね」
 黄忠は孔明のその言葉に頷いた。
「それじゃあね」
「はい、とにかく撤退です」
「得物は全部拾っておかないと」
 最早構えるどころではなくだ。四人は絡み合い続けている。
「うっ、くぅ・・・・・・」
「はう、あっ・・・・・・」
「あひっ、ふっ・・・・・・」
「あう、ああ・・・・・・」
「何処をどうやったらここまでなるのかしら」
 馬岱はそんな四人を見てまた言う。
「とにかく姉様達を持って行こう」
「ええ、じゃあ」
「私達も」
「協力させてもらいます」
 馬岱に神楽、ミナ、それに月が頷く。そうしてだった。
 四人でそれぞれを引き離してそのうえで担いで行く。得物は黄忠が持った。鳳統はまだ残ろうとする柳眉に対して話した。
「劉備さん、あの」
「どうしたの?鳳統ちゃん」
「もう帰りましょう」
 彼女のスカートを両手で引っ張っての言葉だった。
「皆さんも撤退に移られましたし」
「そうなの」
「はい、ですから」
 鳳統はまた話した。
「劉備さんも」
「それじゃあ」
 それに頷いてだった。劉備も遂に戦線を離脱したのだった。
 ここでは退治どころではなかった。撤退するしかなかった。一行は拠点にした宿に戻りだ。とりあえずは体勢を立て直すことになった。


第三十八話   完


                      2010・10・15



ようやく袁術と会えたけれど……。
美姫 「やっぱりすぐには返してくれないわね」
条件はお化け退治か。あっさり行くかと思ったけれど。
美姫 「そう簡単ではなかったわね」
一時撤退したしな。体制を立て直して再び挑戦か。
美姫 「無事に退治できるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね」



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