『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第三十二話 孔明、妹を得るのこと
この時だ。許昌に恐ろしいものが来ていた。
「か、華琳様!」
「大変です!」
夏侯惇と夏侯淵が慌てふためいて曹操のところに来た。
「恐ろしい魔人が二人」
「この街に殴り込んで来ました」
「魔人?」
それを聞いて眉を顰めさせる曹操だった。
「誰なの、それは」
「はい、一人は下着一枚の辮髪の大男です」
「もう一人は褌に髭のやはり大男です」
「?」
今度は首を傾げさせる曹操だった。
「何、それ」
「わかりません」
「しかしです」
二人は狼狽しきった声でさらに話す。
「恐ろしい速さで街に入りです」
「門を突破しました」
「門を」
それと聞いてまた眉を顰めさせる曹操だった。
「衛兵は何をしていたの?」
「全員叩きのめされました」
「一撃で吹き飛ばされました」
「そんなに強いの」
「恐ろしいまでの強さです」
「まさに怪物です」
二人はさらに言う。
「今夏瞬と冬瞬が必死に食い止めています」
「ですがそれも」
「あの二人なら大丈夫でしょ」
曹操は彼女達の名前を聞いて安心した。
「貴女達もそうだけれど武芸で天下に轟いているじゃない」
「ですが今は」
「まことに」
「木花」
ここでだ。背が高く豊かな胸を持つ淡い茶色の髪を長く伸ばした美女に顔を向けた。今曹操の傍にいるのは彼女だけであった。豪奢な青いビロードの服にはフリルがあちこちに付いている。膝までの水色のズボンにそれに編み上げ靴である。そうした格好である。
「誰だと思うかしら」
「そうですね。門を僅か二人で突破したことを聞くと」
「ええ」
「曹仁殿や曹洪殿だけでも危ないかも知れません」
「あの二人でもというのね」
「はい」
その通りだと答える美女だった。
「ここは曹操軍四天王全員でかからなければ問題かと」
「わかったわ。それじゃあね」
「はい、それでは」
「春蘭、秋蘭」
その四天王の残る二人に声をかけた。
「いいわね」
「まさか四天王全員で、ですか」
「我等で」
「そうよ。その方がいいかも知れないわ」
曹操の顔は真剣そのものだった。
「その怪物が本当なら」
「か、華琳様!」
ところがだった。ここでまた一人飛び込んで来た。
許緒がだ。慌てふためいた顔で来たのだ。
「夏瞬様と冬瞬様が!」
「な、何っ!」
「あの二人がか!」
夏侯惇と夏侯淵が驚きの声をあげる。
「まさか敗れたのか」
「まことなのか」
「それで魔人達が」
そしてであった。その彼等が来たのだった。
「さあ、曹操さん」
「お話したいことがあるのだけれど」
「くっ、来たか!」
「ここまで!」
二人の武人が思わず身構えた。
「おのれ、華琳様にはだ」
「指一本触らせぬ!」
「あら、つれないわねえ」
「全くよ」
二人の怪物は跳躍した。何丈も跳んでだった。
一気に曹操のところに来て。その唇を。
「さあ、挨拶の接吻を」
「遠慮はいらなくてよ!」
「か、華琳様!」
「華琳様ーーーーーーーーーーーーっ!!」
誰もが曹操に対して叫ぶ。しかしその操は。
「!!」
ここで曹操の目が覚めた。思わずベッドから起き上がる。
「何なの、その夢は」
「?華琳様」
「どうされたのですか?」
ここで荀ケとあの美女がいた。曹操のベッドの中にそれぞれだ。
見れば三人は誰もが一糸纏わぬ姿だ。その姿でいた
「何か夢でも見られたのですか」
「まさか」
「いえ、何でもないわ」
ここでこう返した曹操だった。
「気にしないで」
「そうですか」
「わかりました」
「ところで木花」
曹操は己の左にいるその美女に声をかけた。
「明日また人材が来るそうね」
「はい、そうです」
美女はこう述べた。
「この私荀攸の友人でして」
「木花、貴女のお友達なのね」
「はい、叔母上」
荀攸は微笑んで荀ケに返した。
「その通りです」
「あのね、木花」
「何か」
「私を叔母上と呼ぶは止めなさい」
彼女が言うのはこのことだった。
「まだそんな歳じゃないんだから」
「しかし続柄は」
「そういう問題じゃないの」
また返す彼女だった。
「とにかくね。その呼び方はよ」
「では何と御呼びすれば」
「姉上とでも呼んで」
その呼び方でというのだった、
「わかったわね、それで」
「わかりました、それでは」
こんな話をする彼女達だった。そうしてである。
次の日。曹操はまずはまた来た他の世界の者達と会っていた。
「真田小次郎」
「李烈火」
「徳川慶寅」
女と見まごうばかりの美貌の男に凛々しい辮髪の男、そして最後は凛々しい若者だった。李と名乗った男は丈の長い黄色の服に青いズボンだが他の二人はそれぞれ着物を着ている。
その三人を見てだ。曹操は話した。
「貴方達どれも」
「ん?何だ?」
「剣を使うわね」
慶寅のその言葉に応えてだった。
「そこの李は扇子みたいな得物ね」
「おわかりですか」
「大体ね。ただ」
「ただ?」
「貴方、まさか」
小次郎を見ての言葉であった。
「どうやら」
「曹操殿」
しかしだった。ここで小次郎の声が強くなった。
「そこから先は」
「そうなの」
「はい、そういうことで」
こう言うのであった。
「御願いします」
「わかったわ。ただ」
「ただ?」
「その服を見ると」
見ればその小次郎の着物は袖に独特の模様があった。その模様を見ての今の曹操の言葉である。
「貴方も鷲塚と同じなのね」
「鷲塚殿もここにですか」
「ええ、そうよ」
こう小次郎に話すのだった。
「その通りよ。いるわ」
「左様ですか」
「今陳留に行っているわ」
そこにいるというのだ。
「またすぐに会えるわ」
「鷲塚殿も」
「そうよ。どうやらね」
ここでさらに話す曹操だった。
「貴方の知り合いの者も多いわね」
「左様ですか」
「そうよ。それじゃあ宜しくね」
ここで微笑む曹操だった。
「貴方達三人共召抱えるわ」
「有り難き御言葉」
「それでは」
こうしてだった。彼等も曹操の配下になった。そしてだ。
小柄で八重歯のある金髪の少女だった。黒い半ズボンに緑の上着である。靴は青いブーツだ。
そしてその手には斧がある。かなり大きな斧で槍の様な柄がある。
その彼女がだ。こう名乗ってきたのだった。
「徐晃です」
「徐晃ね」
「はい、左様です」
まだ幼い声で礼儀正しく話すのであった。
「この度荀攸殿の推挙により参りました」
「そう。貴女がね」
「宜しければ曹操様の軍の末席にお加え下さい」
右膝をつき右手の平に左手の拳を当てて述べる。
「御願いします」
「ええ、それではね」
「早速武芸をお見せしますが」
「いえ、それはいいわ」
いいと返す曹操だった。
「それはもう木花から聞いているから」
「左様ですか」
「あの娘と桂花の人選に間違いはないわ」
二人の人物眼には絶対の信頼を置いていた。
「だからね」
「有り難き御言葉。それでは」
「さて、それでね」
「はい」
「貴女の真名を聞かせて」
話はそこに至った。
「何というのかしら」
「歌です」
徐晃は慎んだ声で曹操に述べた。
「それで御呼び下さい」
「わかったわ。では歌」
「はい」
「これから宜しくね」
こう話してであった。曹操のところにまたあらたな人材が加わったのであった。
劉備達は遂に水鏡先生のその屋敷に来た。するとだ。
濃紫の大きな縁のとんがり帽子に同じ色のドレスを思わせる上着と白のワンピースの女の子がいた。ストッキングは白であり翡翠色の髪に弱い感じの緑の目を持っている。
表情は弱々しいがそれでもだ。整い可愛らしい感じである。
その彼女はだ。一行を見てまずは怯える様子を見せた。
「あわわわわ・・・・・・」
「あわわ?」
「あわわなのだ」
関羽と張飛が彼女の言葉を聞いて言った。
「朱里と違うな」
「けれど似てるのだ」
「あの、私なんですか?」
孔明は二人の言葉に少し困った顔になった。
「私の口癖は確かに」
「まあそれで思ったのだが」
「朱里ははわわなのだ」
こんな話をしてだった。中に入ろうとする。それを見た紫の少女はさらに怯えてであった。屋敷の中に逃げる様に駆け去ったのであった。
それを見てだ。今度は馬超が言った。
「何だよ、あたし達が盗賊みたいだよな」
「そうよね」
馬岱も怪訝な顔で話す。
「何かあれじゃあね」
「別に襲ったりしないけれどな」
馬超は首を傾げさせていた。そうしてだった。
「とにかくだ」
「そうね」
黄忠が趙雲の言葉に応える。
「何はともあれ今からだ」
「お屋敷の中に入りましょう」
「はい、それじゃあ」
孔明が笑顔で応えてであった。
一行は屋敷の中に入った。そして先生のところに行くとだった。
あの女の子がだ。先生にしがみついて震えていた。
「あの人達・・・・・・」
「あら、関羽さん」
先生はまずは関羽に気付いた。
「お久し振りですね」
「はい、こちらこそ」
関羽も微笑んで先生の言葉に応えた。
「お久し振りです」
「それに朱里も」
次に彼女に気付いた。
「来ていたのね」
「はい、先生」
孔明はにこりと笑って師の言葉に応えた。
「用がありここに来ました」
「そうだったのね。見たところはじめての人もいるわね」
「はいっ」
劉備が満面の笑顔で応える。そうしてであった。
一行は先生の歓待を受けた。女の子は先生の左隣に小さく座っている。
そこから動かない。それを見てだった。
張飛は首を傾げさせてだ。こう言うのであった。
「随分と気の弱い女の子なのだ」
「この娘は鳳統っていうのよ」
「鳳統なのだ」
「そうなの。この前屋敷に来た娘でね」
「あっ、お話は聞いてます」
こう返す孔明だった。皆今は円卓に座りそこでお茶を飲みながら話している。
「それがこの娘なんですか」
「そうなの。貴女の妹弟子ね」
「妹ですか」
その言葉を聞いた孔明の顔が晴れ渡った。
「私の」
「そうよ。妹よ」
「妹、私の」
幼い時のことも思い出す。その時はだ。
「あの時は」
「そうだったわね。貴女妹がいたわね」
「はい、お姉ちゃんもいます」
孔明の姉妹関係についても話される。
「お姉ちゃんは今孫策さんのところにいまして」
「そうだったわね」
黄忠がそれを聞いて述べた。
「諸葛勤さんだったわね」
「はい、この前は会えなかったですけれど」
ここで寂しい顔になる孔明だった。
「今度は会いたいです」
「そうよね。姉妹なんだから」
劉備はその言葉に笑顔になる。
「会いたいわよね」
「はい、そして今は」
孔明はその晴れ渡った顔で鳳統を見る。するとだった。
鳳統はだ。ここでまたびくりとなった。
「?どうしたの鳳統ちゃん」
「あわわ・・・・・・」
孔明は怯えた様な態度の彼女にきょとんとなった。
「後でお料理一緒に作ろうね」
「あら、作るのね」
先生は彼女のその言葉に優しい微笑みを見せた。
「この娘もお料理上手よ」
「そうなんですか」
「そうよ。じゃあ三人で作りましょう」
「わかりました」
こう話してであった。三人は厨房に入った。それを見届けてからだ。
趙雲はだ。少し怪訝な顔になって言うのであった。
「危ういかもな」
「そうね」
神楽が彼女のその言葉に頷く。
「あの娘の態度は」
「朱里は妹弟子の存在を見て喜んでいるがな」
「あの娘自身は」
「怯えている」
鳳統のそのことである。
「只でさえ気が弱いようだしな」
「そうね。孔明ちゃんもあまり気は強くないけれど」
孔明の弱点である。
「あの娘はそれ以上だし」
「そうだな。しかしだ」
ここでまた言う趙雲だった。
「筋はいいな」
「そうね」
今度応えたのはミナだった。
「孔明ちゃんと同じだけね」
「大きくなる」
趙雲の言葉は真剣そのものだった。
「必ずな」
「二人共ね」
「そういえばだけれど」
馬岱もここで言った。
「朱里ちゃんが伏龍よね」
「ええ、そうよ」
黄忠が彼女のその言葉に頷く。
「それじゃああの娘は」
「鳳雛よね」
馬岱は鳳統をこう評した。
「それよね」
「鳳雛か」
「合ってるよね」
こう従姉にも返す馬岱だった。
「朱里ちゃんが伏龍なんだし」
「あの娘は鳳雛なんだな」
「そう思うよ」
「朱里も凄いがあの娘も凄いか」
関羽も話す。
「将来が楽しみだな」
「お料理も楽しみなのだ」
張飛はここでも食べ物だった。
「早く食べたいのだ」
「待つ間何かする?」
劉備はこう皆に提案した。
「おはじきでも」
「稽古でもしないか?」
「そうだな。いいな」
趙雲は馬超のその言葉に頷きだ。ふと悪戯っぽく笑ってこう話した。
「翠、共に床に入ってだな」
「おい、何の稽古だよ」
「だから夜のだ。私はおなごでもいいのだ」
「おい、ちょっと待て!」
馬超は今の趙雲の言葉に顔を真っ赤にさせて返した。
「あたしはまだそういうことはだな!」
「安心しろ、私もだ」
「おい、それは本当か?」
「実はな。そうなのだ」
見れば趙雲も顔を少し赤らめさせている。
「しかしだ。御主の身体は何時見てもかなりいい」
「あのな、その稽古はやったらマジでやばいだろ」
「そうか」
「そうだよ。やるなら槍にしないか?」
「そうだな。お互い槍だしな」
趙雲にしても馬超にしてもその手に持っている武器は槍である。形こそそれぞれ違うがそれでもだ。槍なのは事実である。
「そうするか」
「身体を動かせば腹も減るしな」
「うむ、そうだな」
「それなら私もだな」
「私もね」
関羽と黄忠も稽古に入ることにした。
「そういえば紫苑は薙刀も使ったな」
「ええ、そうよ」
その通りだとにこりと笑って返す黄忠だった。
「弓程得意ではないけれどね」
「弓か。私も弓は使うが」
関羽にしてもだ。武芸者のたしなみとして弓を使うのだ。
「だがな。それでもな」
「愛紗は気も放てるからね」
「そうだ。飛び道具はそれで間に合う」
これができるのは関羽だけではない。ここにいる面々では劉備以外は全員できる。誰もがそれだけの域に達しているということなのだ。
「だからな。どうしても弓はな」
「鈴々も使えることは使えるのだ」
だが張飛の顔は曇っている。
「しかしなのだ」
「やはり弓は紫苑さんが一番よね」
馬岱がここでこう言う。
「もう何といってもね」
「ふふふ、有り難う」
「それじゃあ皆で稽古をするのだ」
張飛があらためて提案する。
「それでお腹を空かせるのだ」
「そうね。それじゃあ」
「私達も」
神楽もミナも頷いてだった。皆で行こうとする。しかしだ。
一人だけ取り残される面子がいた。彼女こそはだ。
「あの、私は?」
「あっ、劉備殿」
「忘れていたのだ」
「私武芸はあまり得意じゃないから」
困った顔になって言う。
「その、どうしようかしら」
「お料理を手伝うのは。駄目よね」
馬岱は言ったその傍から気付いた。
「それって」
「そうなの。それはちょっと」
やはり難しい顔での言葉だった。
「朱里ちゃんがやってくれるって言うし。どうしようかしら」
「それならだけれど」
馬岱は少し考えてからまた劉備に述べた。
「劉備さんって蓆とか靴作るの得意よね」
「ええ、それで生きてたし」
「それならそういうの作って時間を潰したらどうかな」
こう提案したのである。
「それならどうかしら」
「そうね」
劉備も視線を上にやって右手の人差し指を顎に当てて考える顔になって述べた。
「それが一番よね」
「そうでしょ?だからね」
「うん、わかったわ」
劉備はここで頷いた。
「それじゃあそうするわね」
「ええ、それじゃあね」
こうして劉備は蓆や靴を作ることにした。そうしてそのうえで皆それぞれ時間を潰すことにした。そしてその間だ。孔明達は料理を作っていた。
鳳統が野菜を切っているとだった。孔明が出て来て言うのだった。
「あっ鳳統ちゃん駄目だよ」
「えっ・・・・・・」
「そんな切り方じゃ怪我するよ」
こう言ってだった。その鳳統から包丁を取って切りはじめるのだった。
「こうするのよ」
「あわわ・・・・・・」
「こっちは私がやるから」
鳳統が困った顔になっていることには気付かない。
「鳳統ちゃんは向こうでお米洗って」
「そんな・・・・・・」
「先生」
孔明は包丁を切りながら先生に言う。
「次は何をしますか?」
「そうね、次はね」
「・・・・・・・・・」
鳳統は困った顔のまま弱ってお米を洗うだけだった。そんな中で孔明は先生と笑顔で話す。鳳統はその様子を見詰めるだけしかできなかった。
こうして料理ができた。その味は。
「美味いのだ」
「そうだな、やはり朱里の料理は見事だ」
満足した顔で言う張飛と関羽だった。
「味付けがしっかりしていていいのだ」
「鈴々に合わせているな。いや」
ここで関羽は気付いたのだった。そうしてだった。
「私達全員に合わせてくれたか」
「はい、皆さん稽古をされてましたよね」
孔明はにこりと笑って関羽のその問いに応えた。
「ですから塩分を強くしたんです」
「そうしてくれたのか」
「はい。お料理は美味しく食べてもらうものですよね」
孔明の持論である。
「ですから」
「それでなのか。流石だな」
「とにかく美味しいのだ」
「そういえば鈴々はだ」
関羽はいつも通りガツガツと食べる張飛を見ながら言う。
「料理はできるようになったのか?」
「できるようになっているのだ」
「お握りとお茶漬けなのだ」
その二つだけだと思ったら違っていた。
「あと卵かけ御飯なのだ」
「お握りって中国人食べない筈だけれど」
「そうよね」
ここで神楽とミナが言う。
「確か。冷えた御飯はね」
「食べないのじゃ」
「そうなのだ?」
しかし張飛には自覚がなかった。
「そんなことはじめて聞いたのだ」
「私もだが」
「あたしもだけれどな」
「私もよ」
趙雲に馬超、それに黄忠も言う。
「冷えた御飯でもだ」
「食べるよな」
「ええ」
「この世界の中国は私達の世界の中国とは違うのかしら」
「そうしたところは」
いぶかしみながら考える神楽とミナだった。
「トウモロコシやジャガイモもあるし」
「唐辛子もあるし」
「そういうのは普通にあるよ」
馬岱もその通りだと話す。
「この国はね」
「そういえば黄河流域でもお米が採れるし」
「そこも私達の世界とは違うのね」
このことを感じ取った二人だった。
そんな話をしながら皆で食事を食べる。ここでだった。
先生がだ。孔明を見ながら笑顔で話す。
「朱里はどんどん料理が美味しくなるわね」
「有り難うございます」
孔明はその先生の横で笑顔になる。そして鳳統は俯いている。実に対象的だった。
そしてだ。次の日には。
鳳統は厨房にいる先生の袖を引っ張って言うのだった。
「あの、先生」
「どうしたの?雛里」
「今日は」
「あっ、そうだったわね」
先生も鳳統に言われて思い出した顔になる。
「今日は山に行って薬草を摘む日だったわね」
「一緒に」
先生を見上げて御願いするのだった。
「だから」
「けれどね」
しかしであった。ここで先生は言うのだった。
「今日は駄目なの」
「駄目って・・・・・・」
「お客さんがいるから」
そのお客さんが孔明達であることは言うまでもない。
「だから今はね」
「そんな・・・・・・」
「いい娘だから聞き分けて」
母親の顔で鳳統に言う。
「わかるわよね」
「あうう・・・・・・」
「あっ、それなら」
丁度その場にいた孔明がここで言ってきた。
「私が一緒に行くわ」
「えっ・・・・・・」
「そうね、朱里が一緒ならね」
先生は彼女の申し出を聞いて穏やかな笑顔になる。
「御願いできるかしら」
「はい、わかりました」
明るい顔で応える孔明だった。そうしてだった。
鳳統に顔を向けてだった。彼女に問うたのだ。
「鳳統ちゃん、それでいいよね」
「私は・・・・・・」
「じゃあ行こう」
俯いている彼女の気持ちは気付かないうちにの言葉だった。
「一緒にね」
「うう・・・・・・」
こうしてであった。孔明は鳳統と一緒に薬草を摘みに向かった。その時だった。
微笑んでだ。そうして呟いた。
「妹、かあ」
鳳統についてこう考えていた。しかしであった。
その鳳統はだ。暗い顔であった。その顔で孔明の後ろについて行っていた。その姿は今日も外で稽古をしている関羽達にも見えた。
最初にだ。馬岱が言った。
「あれっ、鳳統ちゃんって」
「そうなのだ。何か暗いのだ」
彼女と槍を交えている張飛も話す。
「孔明と一緒にいるのに」
「だからなのかな」
ここでふとこんなことを言う馬岱だった。
「若しかして」
「馬鹿言え、姉貴分だぞ」
馬超はこう考えていた。
「それで何でそんな風になるんだよ」
「いや、わからんぞ」
だがここで趙雲が言った。
「それはな」
「それは?」
「そうだ、どうも孔明は今はしゃいでいる」
彼女はこのことに気付いていたのだ。はっきりとではないがだ。
「それで鳳統は除け者にされている感じだからな」
「そうね。朱里ちゃんには悪気がなくてもね」
黄忠も言う。
「自然とそうなっているかもね」
「だとすれば問題だな」
関羽も青龍偃月刀を動かすその手を止めて述べた。
「朱里にとっても鳳統にとっても」
「じゃあちょっとついて行くのだ」
張飛がこう言った。
「鈴々も行ってそれで仲直りさせるのだ」
「この場合は仲直りじゃないんじゃないかしら」
神楽が今の彼女の言葉に首を傾げさせる。
「ちょっと」
「そうなのだ?」
「親密にさせることよね」
「そうね。けれど」
ミナはここで他の面々とは違う考えを述べた。
「安心していいわね」
「安心していい」
「どうしてなの?」
「それは」
「二人共。悪い気配は感じていないわ」
そうだというのである。
「だからね。私達は動かなくていいわ」
「そうなのかな」
「安心していいのかしら」
「本当に」
「そうね。私もそう思うわ」
今日は皆と一緒に稽古をしている劉備はミナの話に頷いた。
「ここは孔明ちゃんと鳳統ちゃんに任せよう」
「それでいいのだ?」
「ここは」
張飛も関羽も柳眉の今の言葉には複雑な顔になった。
「何かそれだったら」
「私達はここに残るが」
「そうね、ここはね」
劉備は笑顔になった。そうしてであった。112
こう皆に提案した。
「二人が帰ったらその時はね」
「うむ」
「何をするのだ?」
「皆でお風呂に入ろう」
これが劉備の提案だった。
「それでどうかしら」
「お風呂か」
「それを皆でなのだ」
「ええ、そうよ」
そうしてだった。また話すのであった。
「皆でね」
「ううむ、どういうことかわからないが」
「とりあえずそうするのだ」
皆いぶかしむながらそのうえで劉備の言葉に頷くことにした。そうしてだった。
彼女達は今は二人を待つだけだった。そしてその二人は。
薬草を摘んでいた。そこでだ。
孔明は上機嫌で傍に立っている鳳統に話していた。
「ねえ鳳統ちゃん、これがね」
「・・・・・・・・・」
黙っている彼女には気付かない。
「ペニシリン草でこれがインシュリン草で」
「・・・・・・・・・」
「物凄い効用があるのよ。だからね」
「知ってる」
「そう、知ってるの」
「全部知ってる」
立ったまま孔明の方を見ない。
「全部」
「そうよね、鳳統ちゃんもお勉強してるもんね」
「だから」
そしてだった。公明にこう言うのだった。
「言わなくていい」
「そうなの。だったらね」
孔明はここで上を見た。太陽が中天にある。それでだった。
弁当箱を出してだ。鳳統にこう申し出た。
「お弁当食べない?」
「お弁当・・・・・・」
「一緒にね。私が作ったんだけれど」
「いい」
「いいって」
「持ってるから」
だからだというのだ。
「私もお弁当持ってるから」
「そうなの・・・・・・」
「構わないで」
そしてだった。鳳統は孔明に対して告げた。
「私に構わないで」
「えっ・・・・・・」
「嫌い・・・・・・」
山ではじめて孔明の方を見て告げた。
「大嫌い!」
「えっ、鳳統ちゃん・・・・・・」
嫌いと告げるとだった。鳳統は孔明の前から駆け去ってだ。帰ろうとする。
「待ってよ、鳳統ちゃん!」
しかし鳳統は待たない。そうして橋に来た。かつて孔明と張飛が通ったその橋をだ。
その橋に来た。孔明はここで追いついた。
「鳳統ちゃん、待って!」
また鳳統に対して言う。
「私が悪かったらなおすから!」
彼女にしてもだ。どうして鳳統に嫌いと言われたかわからなかった。それで狼狽した顔になってだ。彼女に対して言うのだった。
「だから。待って!」
「待たない。待たなくていい」
しかし鳳統も聞き入れない。
「もう私に構わないで」
「そんな・・・・・・」
「いいから」
あくまでこう言う鳳統だった。
「私のことはいいから」
「その橋は」
孔明はここで橋のことを思い出した。
「気をつけて!」
「知ってるから」
鳳統もこのことは知っていたのだった。
「だから私にはもう」
「そんな、だから」
「あっ!」
鳳統の足元の板が落ちた。腐っていたのだ。
片足が落ちた。そして両足も。
何とか両手で板の場所を掴んで助かった。しかしだった。
今にも落ちそうである。落ちればその下は谷底だ。
「あわわ・・・・・・」
「待って、今行くから!」
ここで孔明は前に出た。無意識のうちにだ。
そしてその何とか手で止まっている鳳統のその手を掴んでだ。引き上げようとする。
「うう・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
「今あげるから」
全身に力を入れたあまり目を閉じていた。その中での言葉だった。
それで何とかあげてだった。ことなきを得た。そして二人でだった。
橋を超えたその場所で二人並んで座ってだ。弁当を食べながら話すのだった。
「私ね」
「うん」
「ずっと。色々な場所を盥回しにされてたの」
それが鳳統の過去だった。そうだったのだ。
「親戚のところも。施設も」
「そうだったの」
「けれど。何処も私が何も話さない、動かないって言って」
「邪魔にしたの」
「誰も相手にしてくれなかったし除け者にされて」
俯いたまま孔明に話す。
「それで水鏡先生のところに連れて来られたの」
「私と同じね」
「そうだったの」
「私も。色々な場所を盥回しにされて」
孔明もだった。そうされてきたのだ。二人山の中に並んで座って話す。
「それで先生のところによね」
「うん」
鳳統はさらに話す。
「先生がはじめて優しくしてくれたから」
「それも私と同じなのね」
「貴女が先生と親しくしてるのを見て」
それでだというのだ。
「先生を取られると思って」
「私も。そうなったら」
その場合はというのだった。
「多分。同じ気持ちになってたわね」
「そうなの」
「御免なさい」
孔明は鳳統に対して謝罪した。
「このことに気付かなくて」
「えっ・・・・・・」
「鳳統ちゃんに嫌な思いさせて」
「それは・・・・・・」
「私、浮かれてたの」
そして自分のことを話すのだった。
「ずっとね。妹ができたと思って」
「妹・・・・・・」
「そう、鳳統ちゃんをそう思って」
「そうだったの」
「それに先生に久し振りに会えて」
それもあった。
「それでだったの」
「本当に御免なさい」
鳳統に対して謝罪の言葉を述べた。
「私・・・・・・本当に」
「いいわ」
鳳統はその孔明に対してこう返した。
「もう」
「有り難う」
「じゃあこのお弁当食べたら」
鳳統からの言葉だった。
「帰ろう」
「そうね。もう夕方だし」
「皆待ってるし」
それもあった。
「それじゃあね」
こう話してだった。二人で並んで先生の屋敷に帰ったのだった。
そして屋敷に帰るとだった。
「おかえりなさい」
「さああ、こっち来て」
劉備と馬岱が二人を出迎えてだ。ある場所に連れて行った。そこは。
「お風呂?」
「どうしてここに」
「いいからいいから」
「今入れたばかりだからね」
劉備と馬岱は笑顔で二人の服を脱がせる。孔明も鳳統もまだ幼い身体をしている。下着は白でそれぞれの白い肌に実によく似合っている。
その下着も脱がされてだ。一糸まとわぬ姿になる。そしてだった。
劉備と馬岱も服を脱いでだ。四人で風呂に入るとだ。
「おお、来たか」
「待っていたのだ」
まずは関羽と張飛だった。そして。
皆いた。そこに。
「ほう、二人共中々奇麗な身体をしているな」
「ああ、肌も白いしな」
趙雲と馬超も言う。
「これは将来が楽しみだな」
「そうだな・・・・・・ってまたそっちかよ」
「だから私はおなごでもだ」
「そのネタはあたしか愛紗だけにしとけ」
「おい、何故そこで私が出る」
三人は風呂場の中で裸のまま言い合う。三人共胸がやけに目立つ。
「全く。大体だな」
「うむ。何だ」
「星も翠も最近特に悪ノリが過ぎるぞ」
「あたしはそんなのしてねえ」
馬超がこう反論する。
「星だろ、問題があるのは」
「いや翠御主もだ」
「あたしは星に振り回されてるだけだっ」
「しかし何だかんだでいつも乗っているではないか」
「乗らせてるのは誰なんだよ」
こういい合う二人だった。そしてだ。
黄忠は笑顔で孔明と鳳統に対して声をかけてきた。無論彼女も全裸である。
「いらっしゃい。待っていたわよ」
「うわ、凄い・・・・・・」
「黄忠さんの胸って」
二人は彼女のその胸に唖然となる。
「大きいですね」
「どうやったらそんなに大きくなるんですか」
「そうよね」
劉備も言うのだった。
「黄忠さんの胸って本当にね」
「いえ、劉備さんの胸も」
「確かに」
二人は劉備の胸も見て呆然となっていた。
「大き過ぎます」
「本当に」
「そうかな」
劉備は二人の言葉を受けて自分の胸を見る。そのうえで自分の両胸を触ってみせる。触るとそれだけで弾力がはっきりとわかる。
「そんなに大きい?」
「大きいでしょ」
「私達も人のこと言えないかも」
神楽とミナもいた。
「あまりにも大きくてね」
「目のやり場に困るわ」
「ううん、特に気にしたことはないけれど」
そうしたことへの自覚は乏しい劉備であった。
「とにかくね。孔明ちゃん、鳳統ちゃん」
「はい」
「一体」
「背中流してあげるね」
にこりと笑ってタオルを出してきた。そうしてだった。
二人の背中を流す。他の面々も出て来た。
「愛紗も身体を洗うのだ?」
「うむ、そうだな」
関羽は張飛に対して微笑んで返す。
「鈴々、背中を流すぞ」
「鈴々は愛紗の前を洗うのだ」
「いや、それはいい」
関羽は顔を赤らめさせてそれで張飛の申し出を断った。
「前は自分で洗う」
「そうなのだ」
「では私はだ」
趙雲は妖しい笑みを浮かべて馬超に後ろから囁いてきた。
「私自身の身体を使って翠の身体を洗うとするか」
「おい、それやったら完全にまずいだろ」
馬超は顔を真っ赤にさせて言い返す。
「だから御前何で最近あたしにばっかり来るんだ!?」
「気のせいだ」
「気のせいじゃないだろ」
「じゃあ私が洗おうか?」
馬岱は趙雲の援護に出て来た。
「お姉様の身体」
「いいよ、自分で洗うからさ」
「そうなんだ」
「では私は蒲公英の身体を洗うとするか」
趙雲の矛先は馬岱に向かった。
「そうするか」
「御願いします、星さん」
「あら、何か妖しい感じね」
黄忠は自分の身体は自分で洗っている。
「皆何か」
「そうね。どうにもね」
「おかしな感じね」
神楽とミナも話す。二人はまだ湯舟の中にいる。
「それでもね」
「今はこれでいいわね」
「はわわ、これでいいんですか?」
「物凄い状況なんですけれど」
孔明と鳳統は今の状況に赤面することしきりだった。
「それにしても皆さん」
「物凄く奇麗です」
全員髪を解きその上で身体を洗っている。それがとても奇麗だった。
そしてだった。二人はそれぞれ顔を見合わせてだ。こう話すのだった。
「凄過ぎよね」
「本当に」
何時しか意気投合していた。そしてこの日は二人で同じベッドで休んだ。その次の日だった。
「私もですか」
「ええ、卒業よ」
先生が笑顔で鳳統に話す。
「だからね」
「だからですか」
「ええ。劉備さんと一緒に旅をしなさい」
そうしろというのである。
「それにね」
「それにですか」
「そうよ。仕官しなさい」
それもなのだった。
「いいわね、それで」
「仕官ですか」
鳳統にとってはまだ先のことだった。しかしである。
今先生に言われてだ。それを確かなものに感じたのだ。
そしてだ。左隣にいる孔明に顔を向けてだ。先生に話した。
「じゃあ朱里ちゃんとずっと」
「そうよ、ずっと一緒よ」
先生は微笑んで答えた。
「ずっとね」
「わかりました。それじゃあ」
「雛里ちゃん、これからも宜しくね」
孔明は笑顔で鳳統に対して応えた。
「頑張ろうね」
「うん、雛里ちゃん」
「あら、二人共」
ここで先生が笑顔で言った。
「もう真名で呼び合うようになったのね」
「あっ、そういえば」
「そうだな」
劉備と関羽もここで気付いた。
「仲良くなったのね」
「よかったな」
「あっ、確かに」
「そういえば」
二人は言ってから気付いた。
「じゃあ私達これからも」
「ずっと一緒ね」
二人で笑顔で言い合ってだ。にこりと微笑む。鳳統もまた屋敷を出ることになった。そうしてそのうえで彼女も運命の中に入るのであった。
第三十二話 完
2010・9・16
孔明の妹弟子、鳳統も仲間入りか。
美姫 「初めはどうなるかと思ったけれど、孔明と仲良くなったみたいで良かったわね」
だな。これで新たに軍師が加わったな。
美姫 「後は当初の目的を果たすだけね」
さてさて、どうなるかな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。