『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                           第二十八話  ミナ、一行に加わるのこと

 神楽は少し楽屋裏に出た。そこにいたのは。
 白い髪に長い腰巻を着けて上は短いブラを思わせる服を着た褐色の肌の女だった。白地に青で縁取りをしているのが見事に映える。
 顔立ちは整っている。静かで楚々としたものすらある。その少女が神楽の前に来たのである。
「真鏡名ミナよ」
「それが貴女の名前なのね」
「ええ」
 神楽の言葉にこくりと頷いて返す。そのうえで傍にいる犬に似た小さい生き物を見て言う。
「これはチャンプル」
「シーサーね」
「シーサーを知ってるの」
「沖縄の神の使いね」
 こうその少女ミナに言ってみせたのである。
「そうね」
「沖縄じゃない」
 だがミナはそれを否定したのだった。そして言うことは。
「琉球。私の国はそこなの」
「ああ、そうだったわね」 
 ミナに言われて神楽も微笑んで返した。
「沖縄の昔の名前はそうだったわね」
「私はそこから来たの」
 また話すミナだった。
「この国に」
「そうなのね」
「貴女はヤマトンチューね」
 今度はミナからの言葉だった。
「そうね」
「そうよ。そちらの人間よ」
 神楽はミナに話を合わせてこう言った。
「そこからこの世界に来たの」
「やっぱり。そうなのね」
「時代は違うけれど」
 このことは前置きした神楽だった。
「それでもそこからその国に来たの」
「私は妖術師なの」
 ミナはこのことも神楽に話した。
「貴女の国じゃ巫女と呼ばれる存在ね」
「そうね。そのシーサーも一緒だし」
「感じるの、この国には」
「貴女もなのね」
「よからぬ存在が集まってきている」
「ええ」
 二人は顔を真剣なものにさせていた。そのうえで話をするのであった。
「確かにね。集まっているわ」
「だからここに来たの」
 また言うミナだった。
「貴女達のところに」
「そう、私達のところに」
「今は何かしているから後で」
「そう、後でね」
「貴女のお友達とも話をさせてくれるかしら」
「勿論よ」
 神楽は真剣な面持ちでミナの言葉に頷いた。
「それじゃあね」
「ええ、それじゃあね」
「その時にまた会いましょう」
 こうミナに話す。
「それじゃあ。今は私達のやるべきことをやるから」
「応援しているわ」
 ミナはここで微笑んでみせてきた。優しい笑顔である。
「ミナという名前はね」
「ええ。何かしら」
「笑うっていう意味なの」
 こう言ってみせたのである。
「だから私笑うの好きなの」
「ミナで笑う。ということは」
「何なの?」
「貴女は確かに琉球の人だけれどアイヌの血も入っているのね」
 神楽にはすぐにわかることだった。彼女の知識の中にあったのだ。
「そうなのね」
「アイヌ。ナコルルやリムルルも」
「勿論いるわよ」
 こうミナに告げた。
「私達の館に残ってるわ」
「そうなの。あの二人も」
「この世界にも貴女と同じ世界の人は多くいるわ」
「そうね。覇王丸達も」 
 ミナは彼の名前を出した。
「四人の如来の宝珠を持つ人達も」
「いるわ。他の人達も」
「私がこの世界に来たのはそれが理由ね」
 ミナは静かに述べた。
「やっぱり」
「そうね。そして私もね」
「貴女は封じる者ね」
 ミナは神楽を見て言った。
「そうね。貴女は」
「そう、私は封じる者」
 実際にそうだと返す神楽だった。
「だから。ここにいるのよ」
「それなら私も一緒に封じさせて」
「この世界に集う魔を」
「この世界、この国には多くの魔が集っているから」
「わかっているわ。貴女も私も」
「封じる者」
 二人で話す。こうしてミナもまた加わることになったのだった。
 だが神楽は今はそれを劉備達に伏せてだ。楽屋に戻りそのうえで彼女達に言った。
「もういいかしら」
「はい、終わりました」
 劉備が答えた。
「じゃあ皆で」
「そうだな。行くとしよう」
 関羽が応える。見れば全員既に着替えている。
「しかし。どうにもな」
「どうにもって?」
「私はこういうことはかなり」
 関羽は困った顔で劉備に言葉を返していた。
「苦手だ」
「そうなの」
「恥ずかしいな」
 こう言って実際に頬を赤らめさせる。
「それでもこれか」
「恥ずかしいと思うからこそいいのだ」
 ここで言ったのは趙雲である。
「だからこそだ」
「それは何故だ?」
「恥じらいは色気を生む」
「色気?」
「愛紗は元が抜群にいい。そこに色気が加わればだ」
 趙雲はよく見ていた。関羽のその女をだ。
「それだけで多くの者を悩殺できるぞ」
「人を悩殺してどうするのだ」
 関羽にはわからないことだった。
「その様なことをしてもだ。何になるのだ」
「あたしもそう思うんだけれどな」
 馬超も関羽の言葉に同意する。
「悩殺とかそういうのはな」
「戦の場で勝てばそれでいいではないか」
「それは武人としてだ。だが我等はそれと共に女でもある」
 趙雲はその二人にまた話した。
「そういうことだ」
「よくわからないのだが」
「あたしも。それでこの服なのか?」
「だから。その服だと間違いないって」 
 横で馬岱が言う。
「もう袁紹さんのところなんか一発なんだから」
「そうなのか?」
「よくわからないが」
「まあとにかく行きましょう」
 孔明がいぶかしむ馬超と関羽に対して告げた。
「それからですよ、本当に」
「そうなのだ。鈴々も着慣れない服だけれど行くのだ」
 張飛も言う。
「じゃあ最初は誰なのだ?」
「私が行くわ」
 名乗り出たのは神楽だった。
「それでどうかしら」
「あら、その服なのね」
 黄忠がその彼女を見て声に笑みを含ませた。
「また凄い服を選んだわね」
「やっぱり私はこれだから」
 こう言うに止めた神楽だった。
「それでだけれど」
「いいと思うわ」
 黄忠は今度は目を細めさせて述べた。
「それじゃあ。最初は御願いね」
「ええ、それじゃあ」
 こうしてだった。まずは神楽が出て来た。するとであった。
「えっ、おい」
「これはまた」
「ああ、凄いな」
「似合ってるなんてものじゃない」
「必殺技だな」
 観客達が思わず息を呑む。何と彼女は巫女の服で来たのだ。
 その白を基調とした赤もある服を見てだ。観客達は呆然となった。これで流れは完全に劉備側のものとなったのである。
「次は誰なんだ?」
「一体誰なんだ?」
「それで」
「さて、それじゃあ」
 黄忠は大人の微笑みを浮かべて前に出た。
「私が行くわ」
「あっ、私も行きます」
 孔明も名乗り出た。
「それでいいですよね」
「ええ、いいわよ」
「それじゃあ二人で」
「行きましょう」
 今度は二人であった。その格好は。
「むっ、黒いスーツにタイトスカートか」
「それに黒縁眼鏡」
「おまけにストッキングもか」
「ポイント押さえてるな」
 黄忠の服である。彼女はその姿にしたのである。
「女教師ってやつか」
「いいねえ、刺激的で」
「わかってるよな」
「ああ、本当にな」
「さて、授業をはじめるわよ」
 そしてこんなことも言ってみせたのであった。
「皆いいわね」
「は、はい!」
「わかりました、先生!」
 観客達も思わず言う。そして孔明も見るとだ。
「へえ、この娘もわかってるな」
「ああ、おっとりしてそうだけれどな」
「わかってるわかってる」
「本当にな」
「はわわ、何か大反響ですう」
 孔明はそんな彼等の声を視線を受けて戸惑った声をあげる。見れば彼女の服は水兵の服だ。白地にズボンだがそれがまたよかった。
「私の格好そんなにいいですか?」
「凄く可愛いわよ」
 黄忠はその彼女を見て微笑んで話すのだった。
「その服で正解だったわね」
「そうですか」
「これで流れをさらに掴んだし」
「私の服ってそんなにいいですか」
「ズボンにはズボンの色気や可愛さがあるのよ」
 黄忠はこのことを指摘した。
「そういうことだからなのよ」
「ズボンにはズボンの、ですか」
「そういうこと。いいわね」
「はい、わかりました」
 こんな話をして観客の心をさらに掴んだ彼女達だった。そして次は。
「おおおっ、メイド!?」
「それにお嬢様の格好か」
「これまた押さえてるよな」
「ああ、いいよいいよ」
 趙雲と張飛だった。趙雲はメイドの格好をしていて張飛は黄色いふりふりのドレスである。二人はその格好で一緒に出たのである。
 張飛は観客達のその言葉にまずはその目を点にさせた。
「そんなにいいのだ?」
「言った通りだろう?」
 趙飛はその彼女を見ながら微笑んでみせてきた。
「御主にはその服もいいのだ」
「スカートなんて穿くのはじめてなのだ」
「だがそれでもなのだ」
「違和感があるのか」
「下がすーーすーーするのだ」
 こう言って困った顔を見せる。
「星はその服を着ても平気なのだ?」
「慣れればどうということはない」
 趙雲は悠然と笑って言葉を返した。
「スカートもな」
「そうなのだ」
「それよりもだ。張飛よ、聞いているか」
「うん、凄い歓声なのだ」
 彼女達もかなりの拍手と歓声を受けていた。
「鈴々達ってここまで凄いのだ」
「いやいや、まだ究極の人材がいるぞ」
「究極の?」
「そうだ、あの二人が勝利を決める」
 こうまで言うのであった。
「間違いなくな」
「そうなのだ、あの二人なのだ」
「凄いぞ、あれは」
 そうしてだった。この二人の次にその二人が出て来たのであった。そしてその二人を見た観客達の反応はどうかというと。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「これは凄い!」
「ないだろこれは!」
「もう最強だぞ!」
「そ、そんなにか!?」
 馬超が彼等の歓声に呆然となった。
「そんなに凄いのか?あたし達」
「ほらね、蒲公英の言った通りでしょ」
 馬岱がその従姉の横から言う。
「この服だと間違いないって」
「そうなのか」
「そうよ。だからお姉ちゃん普通に滅茶苦茶可愛いから」
「そうか?」
「そういうこと。だからその服だともう完璧なのよ」
 見れば馬超は黒いゴスロリである。帽子まである。それに対して馬岱は白いゴスロリである。黒と白で見事に対比を見せているのだった。
「ほら、お客さん達凄い声じゃない」
「まるで雷だな」
「お姉ちゃんと蒲公英がそこまで凄いってことよ」
 馬岱はにこにことして話す。
「そういうことなのよ」
「御前もかよ」
「そうよ。だからこの歓声なんじゃない」
「何かかえって怖いな」
「怖い位がいいのよ。さて」
 馬岱はまた笑って言う。
「次は劉備さんと関羽さんよ」
「そうだな。じゃああたし達はこれでな」
「退散しよう」
 こうして劉備と張雲の番になった。今度は。
「すげえ・・・・・・」
「胸でけえ・・・・・・」
「しかもあの黒髪の娘凄い色気だな」
「ああ、何か我慢できなくなった」
「あそこまで凄いとな」
「なっ、何を言っているんだ」
 関羽も観客席の言葉を聞いて声をあげた。
「私をどうするつもりだ」
「別にどうするつもりはないんじゃないかな」
 その横にいる劉備はいつもの調子である。
「関羽さんが奇麗で可愛いっていうだけで」
「そ、そうなのか」
「そうよ。だってその格好って」
 関羽のその服を見ていう。見ればその服はだ。
 水色の軽やかなワンピースだ。ただそれを着ているだけでも関羽はいつもと違う服なので恥ずかしいのである。だがその恥じらいがさらに得点を高くさせていた。
 そして劉備はだ。淡いピンクのチャイナドレスである。ただしガーターストッキングは緋色で髪の毛は団子にしている。これまた刺激的な姿である。
「凄く似合ってるわよ」
「そ、そうなのか」
「関羽さんって凄く奇麗だし」
 確かに美貌も傑出している。
「それならこの歓声も間違いないわよ」
「それは劉備殿もではないのか?」
「私も?」
「そうだ、その姿では男が目を奪われない筈がない」
 そのチャイナドレスの劉備を見ての言葉である。
「私も。目のやり場に困る」
「どうしてなの?」
「その、胸に脚が」
 彼女のそうした部分を見てさらに顔を赤らめさせる関羽だった。
「あまりにも凄くてだ」
「そうなの?」
「翠や蒲公英も凄かったがそういうものを見てはだ」
「私ってそんなに凄いかな」
「女の私から見てもな」
 こう劉備にまた言う。
「女を好きになる趣味はないのだが」
「私は関羽さん好きだけれど」
「何っ!?」 
 劉備の今の言葉にぎくりとした顔になる。
「劉備殿、まさかそれは」
「だって関羽さん友達じゃない」
 劉備が劉備たる由縁の言葉だった。
「だからね」
「そうなのか。それでなのか」
「そうよ。だからなのよ」
「それならいいのだが」
 こう言われてほっとする関羽だった。何はともあれこれで美を競う競技は終わった。と誰もが誤認してしまっていたのだった。
「待て、私はどうなる!」
「あれっ、誰だ?」
「まだいたのか?」
「誰なんだ、あれ」
 観客達は慌てて出て来た公孫賛を見て目をしばたかせる。
「見たことないよな」
「劉備殿のところにいたのか?」
「そうじゃないのか?あれは」
「そうなのか」
「だから何故私はそうなんだ」
 そしてだ。司会のドンファンとジェイフンも言ってきた。
「あのさ、悪いけれどさ」
「飛び入りは認められていないのですが」
「だから飛び入りではない!」
 公孫賛はその二人にも言い返した。
「御主等は既に私を知っている筈だぞ」
「いや、だからさ」
「貴女はどなたでしょうか」
「公孫賛だ」
 名前を告げた。
「名簿に書いてあるだろう、劉備の方にだ」
「あっ、本当だ」
「そういえばそうですね」
 ここで二人もやっと頷いた。
「最後の一人誰かなって思ってたけれど」
「貴女だったんですか」
「何故こうまで忘れられるのだ?」
 いつものことながら嫌になっていた。
「私はいつもいつも」
「まああんたも出るってことだよな」
「それではどうぞ」
 二人はその公孫賛を舞台に出した。観客達の反応は。
「ふうん、そうかあ」
「あれって制服だよな」
「そうだよな」
「そこそこいいんじゃないのか?」
「なあ」
 こんな反応だった。かなり薄い。見れば彼女の服は黒いハイソックスに黒いスカートと制服、白いブラウスである。それであった。
「学園の日々かあ」
「その作品でしか攻略できないしな」
「まあそれならそれでいいんじゃないか?」
「なあ」
「うう、確かに私はあの作品でも不遇続きだ」
 悔しささえそこにはあった。
「だが。それでも一作目ではしっかりとヒロインだったのだぞ」
「まあアンチも多かったけれどな」
「そんなに気にしないで下さい」
 ここでまた司会の兄弟が言う。
「まあそういうことでな」
「有り難うございました」
「結局私はこれだけなのか」
 こうしてであった。劉備側の出番は終わった。その採点はどうかというとだ。
「くっ、仕方ないですわね」
「やっぱり。向こうは凄過ぎますよね」
「ありゃ反則だろ」
 顔良と文醜も仕方ないといった顔で袁紹に話す。
「特に馬超さんが」
「あれはないだろ」
「まあいいですわ」
 袁紹はとりあえずは敗戦を受け止めた。
「それでは次ですわ」
「はい、それではです」
「次の勝負といきましょう」
 軍師二人が言ってであった。こうして次の勝負に入る。
 箱の中身を当てる勝負や腕相撲、それに連想問題が行われた。それぞれ一進一退であり戦いは最終戦にまで持ち込まれたのであった。
 その最後の戦いはだ。一騎打ちだった。
「さて、袁家伝統の決闘を行いますわよ!」
「ああ、あれなのだ」
「あれかよ」
 張飛と馬超はうんざりとした顔で言った。
「鰻なのだ」
「あれはあたし駄目だ」
 こう言って二人は退くのだった。
「大体胸でなんか掴めないのだ」
「あっても恥ずかしくてできないぜ、ありゃあよ」
「そうですよね。胸で鰻を掴む競争ですか」
 孔明も困惑した顔で話す。
「袁家ってそんなことまでしてるんですね」
「ううむ、かなり変態じみているな」
 趙雲もそれを言う。
「どうしたものかな、これは」
「私はあれは」 
 関羽も張飛達と同じ顔になっていた。
「無理だ。あまりにも恥ずかしい」
「私も。ちょっと」
 黄忠もであった。
「あそこまでは無理ね」
「こちらの世界には慣れたつもりでも」
 神楽も難しい顔をしている。
「そういうのは。格闘ならいいのだけれど」
「それじゃあ私が」
 ここで名乗り出たのは劉備だった。
「行くわ。それでいいかしら」
「いや、待て」 
 しかしであった。ここで出て来たのは公孫賛であった。
「ここは私が行こう」
「白々ちゃんが?」
「白蓮だ」
 まずはいつものやり取りからだった。
「私が行こう」
「どうしてなの?私が大将だし」
「ことのはじまりは私が幽州の飢饉を救わんとした為だ」
「あれっ、劉備さんの剣のことがはじまりだったのでは?」
 孔明が的確に突っ込みを入れた。
「確かそれは」
「だから幽州のこともあっただろう。何故私の話はそう簡単に忘れる」
「間違いなく公孫賛殿以外が話していたら誰も忘れなかった」
 趙雲の突っ込みは厳しい。
「その様な重要なことはな」
「私だからなのか」
「そうだ。とにかく幽州の民の為か」
「そうだ、だから私が行く」
 こう言う公孫賛だった。
「それでいいな」
「うん、わかったよ」
 劉備はその公孫賛の言葉を笑顔で受けた。
「じゃあ白々ちゃん、頑張ってね」
「何度も言うが白蓮だ、間違えるな」
「悪気はないんだけれど」
 黄忠はそんな劉備を見て言った。
「それでもそれが余計に」
「困ったことね。そこが」
 神楽も少し呆れていた。何はともあれ公孫賛が出ることになった。彼女と袁紹はは鰻がこれでもかと入れられたその水槽を囲んで対峙した。
「貴女ですのね」
「そうだ、袁紹」
「名前は存じませんが」
 袁紹は公孫賛の名前をどうしても覚えられなかった。
「それでも相手をして差し上げましてよ」
「だから御主といい曹操といい何故私のことを覚えられないのだ」
「だからどなたか存じませんことよ」
 袁紹の今の言葉に全てが出ていた。
「まあ名前のことはいいですわ」
「それはか」
「それよりも。はじめますわよ」 
 こう公孫賛に言ってみせた。
「鰻対決、袁家伝統の」
「鰻を胸で掴んでそれでその捕まえた数を競うのか」
「これに勝てたら剣にお米や麦は貴女達のもの」
「よし、それならばだ」
「わたくしに勝って御覧なさい。是非」
 こうしてであった。公孫賛と袁紹の鰻対決がはじまった。二人はそれぞれビキニに着替えてそのうえで水槽に入る。それからはじめるのだった。
 鰻を胸で掴みそうして捕まえる。口で言うのは簡単だがこれが難しかった。
「くっ、胸で暴れて」
「こらっ、そんなに動くな」
 ビキニの中で暴れ回る鰻達は二人にとって非常に厄介な相手であった。
「身体中にも絡みついてきますし」
「だから下には入るな!前にも後ろにも!」
「な、なあ」
「あ、ああ」
「これはまたえぐいな」
「エロ過ぎるだろ」
 観客達はこれまた呆然となった。
「鰻対決、いつもやって欲しいよな」
「本当にな」
「ここまできわどいとな」
「そそられるなんてものじゃないぜ」
「全くだよ」
 二人は何とか鰻を捕まえていく。だがそれは非常に厄介であった。
 胸だけでなく腕や脚、腰や尻にも絡みついてくる。しかもそこには蛸や烏賊まで入れていた。そうしたものにも捕まりさらに困ったことになっていた。
「れ、麗羽様・・・・・・」
「何か物凄く淫らなんですけれど」
 袁紹側もこれには呆然だった。
「それでいいんですか?」
「あの、その」
「これが袁家の決闘のやり方でしてよ!」
 まだこう言う袁紹だった。
「それならば受けるのが道理でしてよ」
「ううっ、何か凄い気迫」
「それはあるけれど」
 袁紹の家臣達もそれは認めた。
「けれど。何ていうか」
「これって」
「見ているだけで」
 顔を赤らめさせている彼女達だった。そして観客達も。
「いやらし過ぎるよな」
「これはかなり」
「やり過ぎじゃないか?」
「確かに」
 劉備達もだ。これには唖然としていた。
「いいんでしょうか。あそこまでして」
「ううん、かなりまずいと思うわ」
 黄忠も難しい顔で孔明に対して述べた。
「これはね」
「そうですよね。見ているこっちが」
 孔明も顔を真っ赤にさせている。
「恥ずかしくなります」
「本当にね」
「これでいいのかしら」
 また言う黄忠だった。
「公孫賛さんも」
「止めた方がいいだろ」
 馬超も言う。
「この状況はよ」
「そうだよね。これ夢に出るよ」
 馬岱はこう言った。
「いやらしい意味でね」
「そう思うのだ。これは出るのだ」
 張飛も顔を赤くさせている。
「同じ女でもそう思うのだ」
「まあそれもいいとは思うが」
 趙雲は僅かだがこの状況でも余裕があった。
「それでも。これはな」
「劉備殿、これは」
 関羽は見かねて劉備に言った。
「止めた方がいいのでは」
「そうよね。二人共これは」
 ほぼ裸で鰻や蛸や烏賊に絡められている。その中でのたうっているのだ。胸や腰だけでなく腕や脚にも絡み付いている。
「こ、こら口に入るな!」
「きゅ、吸盤が!」
「だからいやらしいにも程があるだろ」
「何かもう見ているとな」
「我慢できないっていうかな」
「洒落にならないぜ」
 だが二人は真剣だった。そしてだ。
 公孫賛は目を光らせた。そうしてだった。
「くっ、ここで負けては」
「袁家の意地にかけてここは負けませんわよ」
 袁紹がその彼女に意地を見せてきた。その豊かな胸で鰻をまた一匹捕まえていた。そのうえで己の水槽の中に放り込むのだった。
「何かあろうとも!」
「私はこれまで」
 公孫賛の中でこれまでの人生がフラッシュバックする。
「何処にいても忘れられ両親に置いてけぼりにされることも常だった」
 とにかく昔から目立たないのである。
「このまま終わるのか」
「わたくしは負けませんわよ!」
 また言う袁紹だった。
「決して!」
「いや!」
 公孫賛はここで声をあげた。
「私はまだだ!」
「!?」
「何だ!?」
「やらせはしない!やらせはしないぞ!」
 こう叫んでだった。己のそこそこの胸を使ってだ。凄まじい勢いで鰻を掴み取りはじめたのである。
「白々ちゃん!?」
 この場面でも真名を間違える劉備だった。
「底力?これって」
「うむ、そうだな」
 関羽は劉備のその言葉に頷いた。
「これこそが公孫賛殿の」
「それじゃあここは」
「勝てる」
 関羽は断言した。
「これはだ。公孫賛殿の勝利だ」
「そう、いけるの」
「まさかこれ程の底力があるとはな」
 関羽も驚くものだった。
「公孫賛殿もやる」
「麗羽様!」
「そっちの人が!」
 まだ公孫賛の名前を覚えられない袁紹陣営だった。
「追い上げています!」
「油断しないで下さい!」
「くっ、わかってますわ!」
 歯噛みしながら応える袁紹だった。
「ここは」
「はい、頑張って下さい!」
「負けないで下さい!」
「御覧なさい、わたくしの底力!」
 袁紹もだった。その力を見せた。
 彼女もまた凄まじい勢いで鰻を捕まえていく。そうしてであった。 
 両者は鰻はおろか蛸や烏賊まで捕まえていく。水槽の中にあるものは瞬く間になくなってしまった。だが問題はそれで終わりではなかった。
「数は?」
「一体どちらが」
「どちらが上?」
「一体」
 その数は火月と蒼月が数える。火月はその中で言った。
「何か全部食いたくなるな」
「それは後にするのです」
 蒼月は弟の言葉に突っ込みを入れた。
「まずは仕事です」
「わかってるさ。じゃあ今日は蒲焼にたこ焼きにいか焼きの祭だな」
「焼いてばかりですね」
「火しか使えないからな、俺は」
 こんな話をしながらそれぞれ袁紹が捕ったものと公孫賛が捕ったものを数える。その数は。
「互角だ」
「同じです」 
 二人はそれぞれ言った。
「どっちもな」
「同じ数でした」
「くっ、引き分けか!」
「無念ですわね」
 公孫賛も袁紹もそれを聞いて同時に眉を顰めさせた。
「ならどうなる?」
「勝負は」
「もう終わりでいいんじゃないかしら」
 ここで言ったのは劉備だった。
「白々ちゃんも袁紹さんも皆も力を尽くしたし」
「白蓮だ」
 また言い返す公孫賛だった。
「だからね。ここは」
「そうですよね。それに」
 孔明も話してきた。
「もうお米や麦は幽州に向かいはじめてますしね」
「何っ、気付いていたの?」
「まさか」
 これには田豊と沮授が驚いた。
「どうして気付いたというの?」
「それには」
「何かお話されていてそうじゃないかなって思ったんです」
 孔明は温和な笑顔で話を続ける。
「それで今釣りをかけたんですけれどその通りだったんですね」
「うっ、やられたわ」
「まさかそう来るなんて」
「流石は諸葛孔明」
「私達を」
「どうやら一枚上手ですわね」
 袁紹は溜息と共に言った。既に水槽から出ている。だが全身ぬるぬるのままである。
「水華や恋花を出し抜けるなんて華琳のところのあの猫耳軍師でも無理ですのに」
「申し訳ありません、麗羽様」
「失態でした」
 主に謝る二人の軍師だった。
「いいですわ」
 しかし袁紹はその二人を許したのだった。言葉も穏やかである。
「次がありましてよ」
「次ですか」
「では次は」
「あの娘に勝ちなさい、いいですわね」
 こう言うだけであった。
「さて、それにしても」
「そうですね」
「引き分けですけれど」
 田豊と沮授はあらためて主に告げた。
「どうすればいいでしょうか」
「残る剣は」
「仕方ありませんわね」
 袁紹はここでまた溜息をついて言うのであった。
「ありのままを言うしかありませんわ」
「ありのまま?」
「ありのままって?」
 劉備側はそれを聞いてまずは目をしばたかせた。
「一体何が?」
「何かあるんですか?」
「お話しますわ。実はですね」
 まずは着替えてそのうえで謁見の間に入ってだ。袁紹は劉備達に詳しいことを話すのだった。それは劉備達にとっては驚くべきことだった。
「えっ、袁術殿のところに?」
「あの剣がある?」
「そんな事情で?」
「はい、そうなんです」
「それでなんだよ」
 顔良と文醜が申し訳なさそうに劉備一行に話す。
「張勲さんの目に見えない服と交換で」
「それでだったんだよ」
「それ、絶対に詐欺だよね」
「間違いありませんね」
 孔明は馬岱の言葉に頷いた。
「その服ありませんよ」
「裸の何とかみたいだよね」
「それでその服はどうなったのだ?」
 関羽は呆れながら袁紹に問うた。
「今は一体」
「今こうして着ていましてよ」
 袁紹はいつもの服で関羽に応える。
「こうして」
「・・・・・・そうか」
 それを聞いてもう突っ込むのを止めた関羽だった。袁紹という人物がさらにわかったのである。やはり何処かが妙な人物である。
 そしてだ。袁紹は今度は申し訳ない顔で劉備に話した。
「劉備さんには悪いことをしましたけれど」
「私にですか?」
「最初から言うべきでしたけれど」 
 それはわかっている袁紹なのだった。
「ついつい。楽しみを優先させて」
「麗羽様はああした大会が好きなので」
「気にしないでやってくれないかな」
 顔良と文醜がすぐにフォローを入れる。
「また宴を用意してますし」
「美味いものを腹一杯食って機嫌をなおしてくれよ」
「いや、別に」
「そう言われても」
「別に気分は悪くしていないし」
「そうなのだ」
 劉備達はこう袁紹達に返す。特に機嫌を悪くはしていない。
 そしてである。また劉備が話してきた。
「袁紹さん最初から幽州にお米や麦を送るつもりだったのですよね」
「えっ?」
「そうですよね」
 にこりと笑って彼女に問うのであった。
「それならです」
「いいといいますの?」
「はい、私達も楽しませてもらいましたし」
 だからいいというのである。
「ですから」
「そうですの」
「はい、剣は袁術さんのところですよね」
「ええ、そうですわ」
 袁紹はありのまま答えた。
「そちらにでしてよ」
「じゃあ今からそちらに行きます」
 また言う劉備だった。
「そういうことで」
「よし、それなら今からだな」
「行くのだ」
 関羽と張飛が笑顔で頷いてだ。劉備達は袁術のところに向かうことになった。
 ここで公孫賛は別れた。こう劉備達に言う。
「それでは私はこれでな」
「幽州に戻るのだ?」
「そうだ、民も救われた。後は私が戻る」
 こう張飛に返すのだった。
「政務があるからな」
「うむ、おそらく貴殿が幽州を去ったことは殆どの者が知らないと思うが」
「だからそれを言うな」
 困った顔で趙雲に返す。
「だがとにかくだ。これで暫くお別れだな」
「うん、それじゃあね」
 劉備が天真爛漫そのものの顔で公孫賛に話す。
「白々ちゃんも元気でね」
「白蓮だ、本当に覚えてくれ」
「何か最後まで変わらなかったな」
「そうだな」
 関羽は馬超のその言葉に頷く。
「劉備殿のこれはな」
「悪意がないだけに困ったことだ」
 こうした話の後で劉備達と別れる公孫賛だった。そしてその彼女達のところにである。神楽に連れられてミナが来たのであった。
「若しかしてその娘も」
「あちらの世界の方ですか」
「ええ」
 神楽は黄忠と孔明の言葉に頷いてみせた。
「そうよ」
「そうなのね、それじゃあ」
「私達にお話が」
「話はないわ」
 ミナはそれは自分から否定した。
「それはないわ」
「じゃあどうしたんですか?」
「まずは私の名前から言わせてもらうわ」
 ミナは劉備に対して話してきた。
「それでいいかしら」
「うん、御願い」 
 劉備は微笑んで彼女の言葉に応えた。
「何ていうの?貴女のお名前は」
「真鏡名ミナ」
 その名前を名乗った。
「そしてこれはシーサーのチャンプル」
 傍らにいるチャンプルの名前も話したのだった。
「宜しくね」
「わかったわ。それでお話はないって聞いたけれど」
「一緒に行かせて欲しいの」
 ミナはこう劉備達に申し出た。
「理由は」
「ナコルルさん達と同じかな」
 馬岱がミナの口調からこのことを察した。
「やっぱり」
「ナコルル。そうね」
 ミナもナコルルの名前に反応して応えた。
「同じなの。それは」
「そうか。それでか」
「鈴々達と一緒に旅をしたいのだ」
「そうなの。駄目?」
 ミナは関羽と張飛荷対しても問うた。
「それは」
「いや、それはない」
「むしろな」
 趙雲と馬超がミナの申し出に対して答える。
「貴殿の様な者が集うのも運命だ」
「それに旅は多い方が楽しいしな」
 だからいいというのであった。
 そして劉備もだ。微笑んで話す。
「ミナちゃんよね」
「ええ」
「これから宜しくね」
 いつものにこりとした笑みで告げた。
「一緒に旅をしましょう」
「有り難う。それじゃあ」
「ミナちゃんもやっぱり日本の人なのかしら」
「この娘のいた時代ではまだ違うのよ」
 神楽がここで劉備に話した。
「その時はまだ琉球という国だったのよ」
「琉球?」
「詳しいことは後で話すわ。とにかくね」
「違う国なのね」
「そう考えて。それじゃあ」
「うん、それじゃあ」
 話がここでまとまった。そうしてであった。
 劉備達はその袁術のところに向かうのだった。旅はまだ続くのだった。
 そしてである。あの一行もだ。旅を続けていた。
「さあ、何処に行こうかしら」
「病に苦しんでいる人はいないかしら」
 怪物二人が身体をくねらせて言っている。
「ダーリン、心当たりはあるの?」
「そうした人に」
「病で苦しんでいる者は何処にでもいる」
 華陀は真面目な顔で二人に話す。
「身体だけでなく心もだ」
「心の病ねえ」
「確かに多いわよねえ」
 怪物達は華陀のその言葉に頷いた。
「それじゃあそういう人も」
「助けないとね」
「俺は心の病も治せる」
 それもだというのである。
「それが誰かだな」
「そうよね。そういえば」
「前から見慣れないカップルが来るわね」
 白い肌と赤い目に金髪の男だ。胸をはだけさせた濃紺の服を着ている。
 そしてもう一人はだ。白い肌に青い着物から素足を出した薄紫の髪の美女である。その二人が一行の前にやって来たのである。
「あちらの世界から来ていたわよね」
「ええ」
 ここで怪物達の目が光った。
「今この世界ではあちらの世界のよからぬ者達が集っているし」
「その者達と戦う者達みたいね」
「むっ、あの白い男は」
 華陀はここで男を見てその目を鋭くさせた。
「まずいな」
「あら、ダーリンにもわかった?」
「あのおのこのことが」
「心を病んでいるな。それに」
 華陀は今度は女を見て言った。
「女の方もまた」
「そうなのよねえ」
「二人共ね」
 怪物達はここでまた話すのであった。
「心に問題があって」
「運命的なもので」
「ここは何とかするか」
 華陀は言った。
「俺の医術で」
「じゃあ私達も協力するわ」
「ダーリンの為に一肌も二肌も脱ぐわよお」
 こう言ってだった。怪物達は男に襲い掛かった。
「ねえ貴方」
「ちょっといいかしら」
「何奴!」
 男はその二人にいきなり切り掛かった。
「怪物か!」
「あら、嫌ねえ」
「こんな美女を捕まえて」
 こんなことを言う二人だった。
「怪物だなんて」
「失礼しちゃうわ」
「あやかしか」
 男は二人を人間とは見ていなかった。
「ここにはそうした者もいるのか」
「だから違うわよ」
「むしろ私達はね」
 二人はその男に対して言うのだった。
「貴方を助けに来たのよ」
「そうよ、九鬼刀馬さん」
「!?俺の名前を知っているのか」
 九鬼刀馬は名前を言われてその眉を動かした。
「何故だ」
「私達はそちらの世界も知ってるから」
「だからなのよ」
「何故知っている」
 刀馬は至極妥当な問いを出した。
「俺のいるその世界を」
「あら、それは簡単よ」
「だって私達あらゆる世界を行き来できるから」
 だからだという怪物達であった。
「それでなのよ」
「だから知ってるのよ」
「そうだったのか」
 華陀は二人のその話を聞いても平気なものだった。
「二人共凄いんだな」
「あら、凄くないわよ」
「ダーリンだったら楽にできるわよ」
 二人はその華陀に対してさらっと話す。
「もうね。気合一つで充分だから」
「それはね」
「そうなのか」
 やはり平気な華陀である。
「俺もありとあらゆる世界を行き来できるようになるのか」
「そう。ただスサノオみたいな存在もいれば」
「聖杯を守る王もいたりするし」
 二人の話はここで微妙に複雑なものになった。
「その辺りはややこしいのよね」
「そうなのよね」
「そうか、他の世界も色々あるんだな」
「けれどダーリンと私達がいれば大丈夫」
「それは安心して」
 またしても身体をくねらせて述べる。
「もう誰が来てもノックアウトしちゃうから」
「私達の美しさでね」
「何が美しいというのだ」
 刀馬が顔を顰めさせて二人に言う。
「貴様等何だ。魔界の住人なのか」
「確かに。そうかも知れませんね」
 女も真剣にそう考えていた。
「二人から妖気を感じますし」
「そうだな。尋常じゃないまでにな」
「刀馬様、ここは」
 女は彼を守るようにして前に出て来た。
「私が」
「案ずるな。この九鬼刀馬相手が誰であろうと背を向けることはない」
「しかし私は刀馬様の為に」
 女はまだ出ようとする。しかしであった。 
 ここでまた二人がだ。今度は女に対して言うのであった。
「命ちゃん」
「貴女はやるべきことがあるのよ」
「私のやるべきこと」
 その女命は二人の言葉に思わずその手を止めた。
「それは一体」
「刀馬さんは大河よ。けれどそれはまだ凍り付いているのよ」
「そしてその大河の氷を溶かすのが貴女なのよ」
 こう命に言うのであった。
「貴女こそがね」
「そうするのよ」
「私がですか」
 命はだ。動きを止めて二人のその話を聞くのであった。
「刀馬様の」
「そして刀馬さん」
「貴方もよ」
 怪物達は今度は刀馬に対して声をかけてきた。
「貴方もまた絶対の零ではなく」
「他のもの。流れる大河を目指してみればどうかしら」
「戯言を。俺が目指すのはあくまで絶対」
 だが刀馬はこう言って引かない。
「それは零だ。それ以外の何者でもない」
「だから。それを見極める為にもね」
「私達と来ない?」
 二人はあらためて刀馬を誘う。
「決して悪いようにはならないから」
「それに貴方が決着をつけたい相手にも会えるわよ」
「何っ!?」
 今の言葉を聞いてだ。刀馬も目を止めたのであった。
「今何と言った」
「だから。決着をつけたい相手によ」
「会えるわよ」
 二人はまた言ってみせた。
「それでも私達と一緒に行かないの?」
「それでもなの?」
「会えるかどうかはわからないがだ」
 刀馬はこうは言った。
「だが。それでもだ」
「そうよね。来るわね」
「私達と一緒に」
「あの男を斬るのは俺だ」
 その赤い目に憎悪が宿った。
「それならばだ」
「そうそう、一緒にね」
「来てね」
「命、御前はどうする」
 華陀達と共に行くと決めた刀馬はここで命に顔を向けて問うた。
「御前はだ。どうするのだ」
「私はもう決めています」
 命は静かに、だが確かに答えた。
「私は常に刀馬様と共にです」
「そうか」
「共に参ります」
 こう言うのである。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「好きにしろ」
 これが刀馬の返答だった。
「俺は止めはしない」
「わかりました、それでは」
「さて、これでまずは二人ね」
「そうね」
 化け物二人が笑いながら言う。
「こうして私達と同行するべき人達もね」
「どんどん集めるわよ」
「そうだな、世界の為だ」
 華陀はここでまた言った。
「この二人の心は徐々になおしていこう」
「まあ刀馬さんの本当の相手はね」
「彼じゃないけれどね」
 二人はこっそりとこんな話をした。
「本人にはあえて居間は話さないけれど」
「時が来ればわかることだから」
「そうなのか」
 華陀は二人の話を聞いてまた述べた。
「あの男、随分と根が深いな」
「そうなのよね。いいおのこなのにね」
「陰があるのもいいけれど」
 二人の見たくない部分が元気になっていた。何故か目も光っている。
「まあ命さんがいるから私達はいいわ」
「泣いて身を引くわよ」
「そうだな。二人の絆は強い」
 やはりこうしたことは何かが決定的にずれている華陀である。
「それに入ったら駄目だな」
「そういうことよ」
「ダーリンもわかってるじゃない」
「わからない筈がない。それではだ」
 声は明るく前を向いている。
「行くか、次の場所に」
「ええ、それじゃあね」
「今からね」
 こうしてであった。彼等は何処かへと向かうのであった。そうしていく先々でだ。常に恐ろしい騒動を引き起こしていくのであった。


第二十八話   完


                      2010・8・21



公孫賛、出オチにすらなってないのか。
美姫 「出てきて誰? だとねぇ」
結果として食料の方は解決という形になったけれど、肝心の剣はまたしても別の所に。
美姫 「まあ、新たな仲間も増えたし良いんじゃない」
かな? にしても、次の持ち主もすんなりと返してもらえるのか怪しい気がするが。
美姫 「どうなるかしらね。次回も待ってますね」
ではでは。



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