『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第二十二話 ガルフォード、見てはいけないものを見るのこと
「何だ?結構いるな」
「そうだな」
青い忍者装束の金髪碧眼の男がだ。黒い忍者装束に覆面の男に話していた。金髪の端整な男の傍には黒と白の毛の犬が合わせて四匹いる。
「こっちの世界に来たのは俺達だけじゃなかったか」
「うむ、それを思うと頼りになるか」
「そうだな。それでここの知事か?」
「大名だろう」
二人の言葉はここでは食い違っていた。
「それは」
「ああ、大名か?」
「確かそうだったな」
「そうだったか」
「違うわよ」
しかしだった。二人の前に立ち案内している荀ケがそれを否定した。
「何かこっちの世界に来た人って知らない言葉よく使うけれど」
「あれっ、違うのか」
「では何というのだ」
「牧よ」
荀ケは後ろの二人に顔を向けて述べた。
「それよ」
「ああ、そう呼ぶのか」
「そうだったのか」
「そうよ。ええと、それで」
荀ケはその二人を見ながらだ。また述べた。
「あんた達の名前は」
「ガルフォードっていうんだ」
「服部半蔵という」
二人はそれぞれ名乗った。
「宜しくな」
「曹操殿だったか」
「そうよ、曹操様がこの二つの州の主よ」
荀ケは二人にこのことも話した。
「あんた達の力、頼りにさせてもらうそうよ」
「そうか、それならな」
「我等の力存分に使わせてもらおう」
二人は言った。
「いいな、パピー」
「ワン」
ガルフォードは自分の傍のその犬に対して話す。するとそのパピーは嬉しそうに鳴いて応えてきた。
「パパー、ピピー、ピパーもそれでいいよな」
「ワン」
「ワン」
「ワン」
小さめの三匹の犬も嬉しそうに応える。ガルフォードはその声を聞いて笑顔で述べた。
「そうか、御前等もそれでいいか」
「犬との話ができるの?」
「ああ、そうなんだよ」
ガルフォードは笑顔で荀ケに対して答えた。
「忍術以外にな。犬の話もわかるんだよ」
「ふうん、そうなの」
「ああ、他にもナコルルって娘も犬の言葉がわかるがな」
「ナコルル?あの娘ね」
荀ケはその名前にはすぐに応えた。
「劉備殿のところにいる」
「知ってるのか」
「ええ、少しだけれどね」
荀ケはこう半蔵にも応える。
「知ってるわ」
「そうか」
「それでだけれど」
荀ケは二人にあらためて話した。
「あんた達もこれから宜しく頼むわね」
「ああ、宜しくな」
「それではな」
こうしてだった。彼等もまた曹操の陣営に加わったのだった。
そしてだ。彼等は鷲塚達と話した。場所は酒場だった。
「何だ?じゃあこっちの世界は随分物騒なのか」
「ああ、そうだ」
「曹操殿の領地は平和だがな」
鷲塚と双角がこう二人に話す。
「それでも確かな牧殿がいない国はだ」
「かなり酷いようだな」
「そうか、悪がはびこってるのか」
「厄介な話だな」
「うむ、今この国の王朝の力は弱まっている」
今いったのは十兵衛だった。
「それが厄介な問題となっているのだ」
「じゃあ俺達がここに来たのはそれを何とかする為か?」
「誰に呼ばれたのかはわからぬが」
「そうだな」
ここでだ。辮髪の上半身裸で白い服を下に着た筋骨隆々の男が来た。それは。
「御主達も来ていたか」
「ああ、王虎の旦那」
「貴殿も来ていたか」
「縁あってのようだな」
王虎は二人に対して述べた。
「どうやらな」
「ああ、そうだな」
「その様だな」
二人もそれに応えて話す。
「何か色々な面子が揃ってきているな」
「確かにな」
「我等だけではないぞ」
狂死郎がこう話す。
「ここにはおらぬが覇王丸もいるしのう」
「シャルロット殿もおられる」
ズィーガーもいた。
「とにかく多くの勇士が集ってきている」
「へえ、まだいるのかよ」
「そこまでいくと面妖ではあるな」
半蔵もそこまで聞いて流石にいぶかしむものがあった。
「何かあるのか」
「もしやと思うのだが」
ここで言ったのはズィーガーだった。
「アンブロシアがこの世界に」
「それは否定できんな」
十兵衛は服の袖の中で腕を組みながら述べた。
「我等がここに来たのは何もなくてではあるまい」
「そうじゃな。縁あってのことなのは間違いない」
狂死郎も彼のその言葉に頷く。
「それを考えればだ」
「今はだ」
双角が話す。
「ここに来たことを祝うとしようぞ」
「ああ、そうだな」
ガルフォードは双角の言葉には明るく返した。
「今はな」
「飲むか」
「ここはな」
こう話してだった。彼等はこの日はしこたま飲んだのだった。そうしてその夜のことだった。ガルフォードは実に奇怪な夢を見た。
「西暦一八四年」
何故かナレーションが入って来た。
「世界に二人の男が投下された」
かん高い声で告げられる。そうして。
不気味な、形容しがたい男達が出て来た。そうして。
「人類は恐怖に包まれた」
「何だこれは」
ここでガルフォードは思わず言ってしまった。
「それにあの連中」
「うっふ〜〜〜〜〜ん」
「さあて、行くわよ」
左右に辮髪にしてピンクのビキニの筋骨隆々の大男である。髭まであるが何故か化粧までしている。えも言われぬおぞましい姿だ。
そしてもう一人はだ。白い口髭に妙な髪形のこれまた筋骨隆々の大男だ。上はタキシードを羽織っているがその下は何と極めて小さい、乳首だけ隠したブラである。そして下半身は褌という格好である。
その男達がだ。身体をくねらせながら蠢いていたのだ。そして。
彼等が動く度にだ。周囲で大爆発が起き人々が吹き飛ばされていく。
「うわあっ!」
「ぎゃあっ!」
「この世界に平和をもたらす為に」
「私達、頑張っちゃうわよお」
「よ、妖怪だ!」
「お化けだ!」
しかし周囲の反応はこんなものだった。
「に、逃げろ!」
「殺されるーーーーーーーーーっ!!」
「あら、失礼ね」
「こんな美女を捕まえて」
しかし男達の態度は変わらない。
「私達は平和の為にここに来たのよ」
「それでどうしてそんなことを言うの?」
「だ、駄目だ!」
ここでガルフォードも遂に見ていられなくなった。
その手にジャスティスソードを持ってだ。男達に向かった。
「何かわからないが放っておけない!」
「あらん、いい男」
「おのこは大歓迎よ」
「妖怪!いや怪物か」
一体どれなのか。ガルフォードには判断がつきかねた。
「とにかくだ。このままやらせはしない!」
「あらん、どうするのん?」
「顔もスタイルもいいおのこだけれど」
「成敗!」
こう言ってだ。走りながらブラズマソードを放った。
電流を帯びた苦無が男達に放たれる。しかしであった。
「むん!」
「ふん!」
男達はその苦無を一睨みした。それだけであった。
何と苦無が砕け散ったのだ。跡形もなく砕け散り地面に落ちたのだった。
これにはさすものガルフォードも唖然となってしまった。
「な・・・・・・」
「おいたは駄目よお」
「私達は悪いことはしないから」
「嘘をつけ!」
今の言葉は姿形だけを見てのものではなかった。
「ならどうして世界を破壊しているんだ!」
「あらん、そういえば」
「何か爆発とか起こってるわね」
二人はガルフォードの言葉を受けて周囲を見回した。するとだ。その周囲で次々に爆発が起こり人々が吹き飛ばされていっていたのだ。
二人はそれに気付いてだ。あらためて言った。
「これは大変ねえ」
「大きな戦でも起こってるのかしら」
「御前等のせいだ!」
ガルフォードは自覚のない彼等に対して叫んだ。
「一体何の為にここに来たんだ!」
「だから世界を守る為よ」
「その為に来たのよ」
「だから嘘を言うな」
ガルフォードは彼等の言葉を頭から信じようとしなかった。
「御前達は人間なのか?それとも本当に」
「人間よ」
「見ればわかるじゃない」
「いいや、わからない」
本気で言ったガルフォードだった。
「その姿で何を言うんだ」
「言ってもわからないみたいね」
「顔はいいのに話はわからないのね」
男達もまたガルフォードの言葉の意味がわかっていなかった。
そうしてだ。彼等はここで動いたのだった。
「それならよ」
「こっちにもやり方があるわよ」
「やり方だと!?」
「そうよ、行くわよ」
「この漢女道の力見せてあげるわ」
そしてだ。お互いの名前を呼び合うのだった。
「卑弥呼!」
「貂蝉!」
お互いの名前を呼び合ってだ。そうして。
黒い何かが放たれた。それは。
光だった。黒い光が今ガルフォードを襲ったのだ。
「何っ、これは!?」
「漢女道奥義!」
「黒い霹靂!」
それがガルフォードだけでなく世界を包み込んだ。それからまたあのナレーションがかん高い声で言ってきたのであった。
「文明は崩壊し海は枯れ山は死んだ」
そこに残っているものはなかった。
「世界に残ったのは絶望だけだった」
「う、嘘だろ・・・・・・」
ガルフォードはそのナレーション通りの世界を見てへなへなとへたれ込んだ。
「あいつ等、一体・・・・・・」
「あら、やり過ぎたかしら」
「そうみたいね」
二人に反省の色はなかった。
「けれど世界は奇麗になったし」
「これでいいわよね」
二人は意気揚々と何処かに消えた。後に残っているのは崩壊した世界だけだった。
ここで目が覚めた。すると。
枕元にだ。あの男達が座っていた。じっと彼の顔を見下ろしている。
ガルフォードはその二つの顔を見てだ。すぐにこう思った。
「夢の続きだな」
こう思うことにした。そうしてすぐにまた寝たのだった。
朝になった。最悪の寝覚めだった。それで朝の食事前のトレーニングをするがだ。ジョンにこう言われたのだった。
「おい、ガルフォードとかいったな」
「ああ、ジョン=クローリーさんだよな」
「ああ、そうさ」
緑の軍服のサングラスの男が笑って言葉を返してきた。
「宜しくな」
「ああ、こちらこそな」
「それはそうとどうしたんだ?」
ジョンはここで怪訝な顔になって彼に問うてきた。
「何か動きが悪いな」
「そうか?」
「ああ、寝不足か?」
ジョンはガルフォードを見ながらそうではないかと問うた。
「だったら気をつけろよ」
「いや、別にそうじゃないんだがな」
「そうか。だったらいいけれどな」
「特にな。それはそうとな」
「何だ、一体」
「あんたはアメリカ人だったな」
彼のことについて問うたのだ。
「確かそうだったな」
「ああ、そうだ」
その通りだと答えるジョンだった。
「アメリカ海軍にいたんだよ」
「へえ、ネービーかい」
「あんたの時代は相当昔で海軍っていっても小さかったよな」
「そうさ。街には荒くれ者が多くてな」
笑ってそんな話もするのだった。
「親父は保安官でな」
「そんな時代だったよな」
「そっちはどうだったんだい?」
「まあ治安はよくないな」
ジョンは苦笑いを浮かべてこのことは認めた。
「特に俺が最後にいた艦隊の港があったサウスタウンはな」
「サウスタウン?」
「南部の街でな。ルイジアナにあるんだよ」
その場所も話した。
「そこの港町でな。人は多いし賑わってるんだがな」
「悪い奴は多かったのか」
「そうだな。多かったな」
ジョンはガルフォードのその問いに対して頷いてみせた。
「ジェームスの奴は本当は根っからの悪人じゃないんだがな」
「ジェームス?」
「俺の古い友人でな。師匠でもあるんだよ」
笑ってこうガルフォードに説明する。
「オーストラリア生まれでな。色々と世話になったさ」
「そうなのか」
「曹操の姫さんのところで知ってる奴はあまりいないみたいだがな」
「それでもあんたにはかけがえのない相手なんだな」
「ああ、そうだ」
その通りだと。頷くジョンだった。
「できればこの世界でも会いたいがな」
「会えるといいな」
「そうだな、是非な」
「サウスタウンか」
ここでだ。二人のところに夏侯淵が来た。額にうっすらとかいた汗が妙に艶かしい。どうやら彼女も鍛錬をしていたらしい。
「ジョン殿のいた街だったな」
「ああ、夏侯淵さんか」
「そうだ。そのサウスタウンだが」
「そこがどうしたんだい?」
「そこから来た人間に今会った」
そうだというのだった。
「我が陣営に加わりたいとのことだ」
「へえ、それで誰なんだい?」
「何でもロディ=バーツとレニイ=クレストンというらしい」
「ああ、あの二人か」
ジョンは名前を聞いてすぐに応えた。
「探偵の二人だな」
「知っているのか」
「よくな」
こう夏侯淵に答えるのだった。
「拳を交えたことはないんだがな」
「それでもか」
「そうさ。それにしてもあの連中も来たなんてな」
「楽しそうだな」
「知ってる奴が来るのは楽しいさ」
その通りだと答えるジョンだった。
「やっぱりな」
「そうか」
「ああ、それでだけれどな」
ジョンはあらためて夏侯淵に対して問うた。
「二人は今何処なんだ?」
「今姉者に連れられて華琳様の面接を受けている」
「そうか」
「我々の陣営に迎え入れられるのは間違いない」
それはだというのだった。
「また面白い人材が来てくれたな」
「そうだな。俺も寂しくはないしな」
「ふふふ、貴殿がそう言うか」
夏侯淵はジョンの今の言葉についつい微笑みとなった。
「意外だな」
「意外かい?俺が寂しいって言うのは」
「どうもそういう印象ではなくてな。むしろ一匹狼の感じがする」
「空じゃそうさ。けれど海や陸じゃ違うさ」
「そうなのか」
「そうさ。それにしてもどんどん人が来るな」
ジョンはこのことを心から喜んでいるようであった。
「賑やかになってくるな」
「そうだな」
ここでだ。半蔵が来た。しかし三人の誰もそのことに驚きはしなかった。
「わかっていたか」
「特に気配は消してなかったよな」
ガルフォードはこうその半蔵に対して言葉を返した。
「そうだよな」
「うむ」
半蔵もガルフォードのその問いに対してこくりと頷いてみせた。
「その通りだ」
「ならわかるさ。確かに気配は感じにくかったけれどな」
「忍だったな」
夏侯淵はその半蔵にも顔を向けた。そのうえで彼にも声をかけた。
「貴殿もまた」
「その通り」
半蔵は彼女のその問いにこくりと頷いて答えた。
「伊賀の忍に他ならぬ」
「俺は一応甲賀なんだよ」
ガルフォードは笑って夏侯淵にこう話した。
「伊賀と甲賀はまあいいライバル関係にあってな」
「ライバル?競争相手のことだな」
夏侯淵はガルフォードの言葉に一瞬怪訝な顔になったがすぐにこう返した。
「そうだったな、確か」
「まあそういうところだな。俺も半蔵さんを目指して日々精進してるんだよ」
「それはいいことだな。それでガルフォード殿」
「ああ、何だ?」
「貴殿がいつも連れているその犬達だが」
夏侯淵は今度はパピー達を見ていた。
「その犬達は何かできるのか」
「勿論さ。忍犬なんだよ」
「忍犬!?」
「忍術を使える犬のことさ」
それだというのである。
「それなんだよ」
「ふむ。では貴殿と同じか」
「そういうことさ。頼りになるパートナーだよ」
笑顔で屈んでそのうえでパピーの背中や顎をさすっている。パピーはそれだけで尻尾を振って実に嬉しそうな様子を見せている。
「何時でも一緒さ」
「そうか。犬も一緒か」
「実はこの犬達は切っても炎を当てても死なないのだ」
半蔵は何気にこのことも話した。
「実に頑丈な身体をしている」
「では弓矢を受けてもか」
「そうだ。死ぬことはない」
半蔵は夏侯淵のこの問いにも答えた。
「見たところ貴殿は弓使いのようだがな」
「わかるか」
「その手は弓を使う手だ」
夏侯淵の指を見ての言葉だった。見れば右手のその指がへらの如く平たくなっている。半蔵はその指を見ていたのである。
「常に矢を持っているな」
「確かにな。私は弓が最も得意だ」
「だからだ。それでわかった」
「鋭いな。どうやら忍というものは頭もいいようだな」
「そうでなくれは生きられはしない」
半蔵の言葉はここでは真剣なものになった。
「影に生き影に死ぬのだからな」
「俺は影の方とは関係ないけれどな」
ガルフォードはそうだというのだった。
「誰にも仕えていない正義の為に戦う忍だからな」
「正義か」
「ああ、俺は正義の為に戦ってるんだ」
微笑んでシャルロットに話す。
「それが俺なんだよ」
「ふむ。今この世は乱れに乱れている」
夏侯淵はガルフォードのその言葉を受けてだ。今の彼女達の国のことを話した。「ならばガルフォード殿」
「ああ」
「その力と心、役立ててもらうぞ」
「ああ、こちらこそ宜しくな」
ガルフォードは夢のことを忘れて夏侯淵の言葉に笑顔で応えた。そしてその頃夏侯惇はだ。金髪と立てた男と稽古をしていた。
「ふむ、やるな」
「おう、俺はやるぜ」
黒い上着に黄色いジーンズである。両手にはトンファーがある。
それを見守るブロンドの女は気の強そうな顔に赤いブラと青い上着にジーンズだ。彼女の手には長い鞭が持たれている。
「伊達にサウスタウンで探偵なんてしてねえさ」
「稼ぎは全然ないけれどね」
「レニイ、それは言いっこなしだぜ」
彼は女の言葉に少し口を尖らせた。
「あの街じゃ探偵は儲からないんだよ」
「あんたがいつも変なことするからじゃない」
「おいおい、俺は別にだな」
「してるわよ」
「おいおい、何を喧嘩しているんだ」
夏侯惇はそんな二人に対して言った。
「ロディ=バーツにレニイ=クレストンだったな」
「ああ、そうさ」
「名前覚えてくれたのね」
「そうだ。どちらも腕はかなりのものだな」
実際に剣を繰り出して確かめていた。
「ふむ。やはりあちらの世界から来た人間は違うな」
「へへっ、そりゃどうも」
「給料分は働くから安心してね」
二人は不敵に笑って夏侯惇に言葉を返す。
「しかし。こっちの世界は何か賑やかね」
「そうね。美人さんも多いしね」
「おいおい、稽古の時にそうした話は止めておけ」
夏侯惇は二人の今の言葉には苦笑いで返した。
「私とて気を引き締めているのだからな」
「おっと、悪いな」
「それは失礼したわ」
「全くだ。しかし」
夏侯惇はここでこんなことも言った。
「そうか、この世界は美女が多いか」
「俺のみたところはそうだな」
「こっちの。許緒ちゃんだったわね」
レニイは許緒を見ながらくすりと笑って述べた。
「数年経てばもう絶世の美女ね」
「えへへ、有り難うレニイお姉ちゃん」
許緒もそう言われてにこりと笑う。
「僕何かお姉ちゃん好きになったよ」
「私もよ。じゃあ許緒ちゃん」
「そうだね」
二人は笑みを浮かべ合って言い合う。
「稽古しましょう」
「朝御飯の後の稽古をね」
「手加減しないわよ、悪いけれど」
「それはこっちだってそうだよ。思いきりいくよ」
「ええ、こちらもね」
こう話してだ。二人も激しい稽古に入った。こうして曹操軍の朝は終わった。
そうしてその午後。荀ケがだ。曹操の前に来て話をしていた。
「あの」
「どうしたの、急にあらたまって」
「実は華琳様に御会いして頂きたい者がいまして」
「昨日のガルフォード達や朝のロディ達とは別にかしら」
「はい、そうです」
こう主に答えるのだった。
「一人は私の姪ですけれど」
「姪?」
「はい、荀攸といいます」
その名前も話したのだった。
「御会いして頂けるでしょうか」
「ええ、いいわよ」
曹操はにこりと笑って荀ケのその申し出に頷いてみせた。
「それならね。それに」
「それに?」
「貴女の姪ということは文官ね」
このことはもう見抜いているのだった。
「そうね。荀家の人間ならば」
「はい、その通りです」
謹んで答えた荀ケだった。
「それで宜しいでしょうか」
「正直なところ文官が欲しかったところなのよ」
「文官ですか」
「ええ、武勇の者は確かに幾らでも欲しいわ」
彼等のことも話す。
「ガルフォード達も確かにね。けれどね」
「文官もですか」
「麗羽のところがそうじゃない。文官も多いでしょう?」
「はい」
「あの娘はその文官達に政治をさせて四つの州に異民族達を治めているし」
「そして烏丸もですね」
「そういうことよ。秋蘭も政治はできるけれど」
それでもだと。荀ケを見ながら話す。
「今我が陣営で文官、そして軍師ができるのは」
「私だけ、ですか」
「それではこれから心もとないわ。だからこそ」
荀ケを見てだ。あらためて述べた。
「その娘連れて来て」
「はい、それでは」
こうしてだった。荀ケに似た栗色の柔らかい、だが長く伸ばした髪に薔薇色の膝までのドレスにピンクのストッキングの少女が来た。顔は荀ケに似ていてその目の色も同じだが顔付きも目つきも彼女よりは幾分か穏やかである。その彼女が来たのだ。
「姪です」
「はじめまして、曹操様」
その少女は荀ケの隣から曹操に対して一礼した。
「荀攸と申します」
「あら、姪と聞いたけれど」
曹操はその荀攸を見てまずはこう言った。
「歳は変わらないのね」
「そうなんです。叔母さんはお母さんと歳が離れていまして」
「叔母さんって言わないでよ」
そう言われてだ。荀ケはすぐに言い返した。
「誰がおばさんよ。私とあんたは同じ歳じゃない」
「そうなんです。同じ歳なんです」
荀攸は笑って曹操に話した。
「私達は」
「そうだったのね。見てそうかしらとは思ったけれど」
「全く。叔母と姪でも一緒に育てられたじゃない」
「誕生日の方は私の方が先で」
「だからそういうこと言わないのっ」
荀ケは姪に対してむきになって話していた。
「それに曹操様の御前よ。もう少し慎みなさい」
「それはいいわ」
曹操はそれはいいとした。
「別にね」
「そうですか」
「それで荀攸」
「はい」
「まずは桂花について色々と仕事をしなさい」
こう彼女に命じるのだった。
「それから然るべき役職に就いてもらうわ」
「わかりました」
「そして」
そうしてだった。さらに彼女に問うた。
「貴女の真名は何というのかしら」
「水花です」
こう名乗るのだった。
「宜しく御願いします」
「わかったわ。水花ね」
曹操は微笑んでその名前を復唱した。
「こちらこそ宜しく御願いしますね」
「はい、わかりました」6
「それでだけれど」
そうしてだ。今度は曹操の方から言ってきたのだった。
「私は貴女の真名を呼ばせてもらうわ。それでね」
「それで?」
「貴女にも私の真名を呼んでもらうわ」
そうしてもらうというのである。
「それでいいわね」
「いいのですか?それは」
荀攸も流石に曹操の今の申し出には驚きを隠せなかった。
「あの、まだ今家臣になったばかりですけれど」
「いいのよ」
しかし曹操は微笑んで彼女に答えた。
「私がいいって言ってるのだからね」
「そうなのですか」
「家臣には真名で呼んでもらうようにしているのよ」
曹操はこうも話した。
「だからね。それでね」
「はい、それでは」
「では水花」
「はい」
あらためての話だった。
「これから宜しくね」
「わかりました、華琳様」
こう話してだった。そのうえで荀攸は曹操の家臣となった。曹操にも一人あらたな人材が加わったのだ。しかしここでガルフォードが皆に話していた。
「辮髪のビキニパンツ一枚の髭の男?」
「それにタキシードに褌の男?」
「何だそれは」
誰もが彼の言葉に首を傾げさせる。
「一体全体」
「そんな不気味な男見たことないけれど」
「そうだよな。ちょっと」
「何、それ」
「いや、俺も最初は夢で見ただけなんだ」
酒場であった。ガルフォードはここで曹操陣営に加わっている主だった者達に対してあの夢のことをこと細かに話していたのだ。
そのうえでだ。かなり狼狽もしていた。
「その二人が国を破壊し尽くしたんだよ」
「凄い夢ね」
響も思わず言ってしまった。
「常世が出たみたいな」
「アンブロジアが復活したらそうなるのか?」
王虎は真っ先にその状況を考えた。
「やはり」
「そうだな。それだな」
十兵衛もそれだと話した。
「そうした世界なのだろうな」
「ううむ、面妖な」
狂死郎は首を捻っていた。
「予知夢にしては奇怪であるな」
「というよりかね」
荀ケもいる。小柄だが酒をどんどん飲んでいる。大酒飲みで知られている覇王丸がその彼女の向かいからこう言ってきたのだった。
「随分飲めるんだな」
「そうかしら」
「酒好きか?」
「ええ、大好きよ」
にこりと笑って覇王丸のその問いに答えた。
「これだけは止められないの」
「そうか。こう言ったら悪いが人は外見に寄らないな」
「それは貴方もでしょ」
「俺も?」
「話は聞いたわ。立派ね」
覇王丸に対しての言葉である。
「恋人の人をあえて振り切ってって」
「よしてくれよ、その話は」
不敵に、だが寂しさも交えさせての笑みでそれを遮った覇王丸だった。
「俺の選んだ道だから」
「私男嫌いだけれど」
荀ケはこのことは断った。
「けれどね。貴方やここにいる他の世界からの人達のことは認められるわ」
「認めてあげるじゃねえのかよ」
「言い換えるわ。認めさせてもらうわ」
謙遜になっていた。
「私にはそこまでできそうにないから」
「だからか」
「覇王丸、特に貴方にはね」
また覇王丸を見て言うのだった。
「その剣にかける心、見事よ」
「そりゃどうもな」
「だから。頼りにさせてもらうわ」
そしてこうも言うのであった。
「貴方の心と剣をね」
「ああ。じゃあ今日は飲むか」
「とことんね」
不敵な笑みを浮かべ合っての言葉である。
「飲みましょう」
「よし、容赦はしねえぜ」
「こちらこそね」
「凄いね。あの男嫌いの荀ケさんを認めさせるなんて」
許緒は酒よりも料理をたいらげながら二人のやり取りを見て驚いていた。
「覇王丸さんも」
「そうだな、覇王丸殿の心を認めたからこそだ」
「覇王丸さんの心を」
「あそこまで至ることは容易ではない」
その剣一筋に生きることはだというのだ。
「そうそうできるものではない」
「けれど荀ケさんだって華琳様のことを好きなんでしょう?」
「覇王丸殿にとってあの方はその曹操殿と同じだったのだ」
「その人を振り切ってなんだ」
「そのうえで剣を選んだのだ。あえてな」
「ううん、僕まだよくわからないけれど」
それがわかるにはだ。許緒はまだ長かなかった。だからである。
「それでも。凄いね」
「そうだ。覇王丸殿の心」
鷲塚はその覇王丸を見ながら述べた。
「それを蔑むことも貶めることもできはしない」
「僕鷲塚さんもそうだと思うよ」
「それがしもだというのか」
「そうだよ。鷲塚さんみたいに一途な信念持ってる人ってそういないよ」
こう話すのだった。
「とてもね」
「左様か」
「そうだよ。だから凄いよ」
また話すのだった。
「忠義と誠だよね」
「その二つによって生きている」
それこそが鷲塚なのだ。
「如何に時代が変わろうと変わらないものもある」
「うん、その心が凄いと思うよ」
「そうなのか」
「正直に言うけれど僕鷲塚さん達と会えてよかったよ」
彼だけではないというのだ。
「本当にね。今こうして話ができることもね」
「それがしもだ」
今度は鷲塚から言ってきた。
「許緒殿、御主の様な若い者がいれば」
「僕みたいな?」
「国は必ず立つ」
「立つんだ」
「そうだ、国は人によって立つもの」
実に鷲塚らしい言葉だった。その人を見ている彼らしい。
「だからこそだ。御主の様な若者こそが国を築き立たせるのだ」
「有り難う。それじゃあ鷲塚さんみたいな人がいる国はね」
「それがしの様な者がいる国は?」
「きっと立派な国になるね」
そうなるというのである。
「その心が永遠に残る国にね」
「だといいのだがな」
「ああ、なってるわよ」
ロサが言ってきた。
「神風特攻隊とか回天とかね。その心は歴史に残ってるよ」
「心はか」
「できはしないよ。命を捨てて敵にぶつかるなんてね」
その特攻隊のことをだ。ロサは話すのである。
「できはしないよ」
「それは当然だと思うが」
「いや、当然じゃないよ」
違うと。ロサは言った。
「そう思えることが凄いんだよ。許緒の言う通りね」
「忠義と誠。それは忘れはしない」
左手に杯を持ち酒を飲みながら。鷲塚は言った。
「それがしは。ただそれだけだ」
「そうだね。僕鷲塚さん大好きだよ」
許緒の顔は笑顔だった。
「ずっといようね。ずっとね」
「そうだな。それがしもそう思う」
こう話してだった。彼等も誓い合っていた。そしてその間にもだ。ガルフォードは夢と目覚めてから見てしまったものについて話していた。
「それで目覚めたらな」
「いたのか」
「その怪物が」
崇雷と崇秀もそこにいた。
「そんな化け物がこの国にいるのか」
「天下の乱れより危険ですね」
「夢だと思いたいさ、俺も」
ガルフォードは真顔だった。
「けれどあれは本当に夢だったのか?」
「わからんな」
ロブが言った。
「今はそうとしか言えん」
「この世界は色々あるからのう」
中も言った。
「そうした妖怪がいても不思議ではない」
「けれど幾ら何でもそこまでおかしいのはいないわよ」
荀ケは覇王丸と飲みながらこう話した。
「私も聞いたことないわよ、そんな妖怪」
「いないか?」
「いないと思うわ」
ガルフォードの問いに何故か弱気になる荀ケだった。
「多分だけれど」
「多分なのか」
「この国の他にも国があって」
荀ケは話す。
「あんた達の世界の日本だってあるけれど」
「おお、そうなのか」
それを聞いてだった。応えたのは双角だった。
「確か倭だったな」
「そうよ、倭ね」
まさにその国だというのだ。
「あそこのこともよくわからないし南蛮が南の方にあるし」
「南蛮!?」
「っていうと南の辺境の?」
「そうよ。そこもかなり変わった風俗らしいけれど」
こう話すのだった。
「けれど。ガルフォードが言うみたいなそこまで変態なのはいないわよ」
「そうなのか。じゃあ何なんだ?」
「夢、じゃないの?」
荀ケはこうガルフォードに返した。
「やっぱりね」
「それか?やっぱり」
「じゃあその妖怪二匹が今この許昌にいるっていうの?しかもあんた程の腕の持ち主の枕元に二人もいたなんてことがあるの?」
「それは」
「そっちの方が怖いわよ」
荀ケはあくまで現実的な視野から話していた。
「どんな妖怪よ、本当に」
「だから俺もよくわからないんだけれどな」
「誰にも気付かれずにあんたの部屋まで忍び込んで」
荀ケはさらに話す。
「そして誰にも気付かれずに消えたの?これだけいる一騎当千の連中をかわして」
「有り得ないっすね」
「そうだな」
暁丸とジャックも言う。
「そこまで考えるとっす」
「どんな怪物だ」
「だからよ。有り得ないのよ」
荀ケはまたこう言った。
「そこまで非常識な怪物がいるなんてね」
「外見も能力も」
ロイも言う。
「有り得ないな」
「兵達も常時城壁や門で見回っているし」
「曹操軍四天王もいる」
「じゃあやっぱり」
コスターとゴチャックは荀ケのその言葉に頷いた。
「普通に入るのは」
「相当な強さでも」
「っていうかよ。そんなのギース=ハワードだって無理だな」
「そうよね。忍者でもね」
ロディもレニイもそれは有り得ないとした。
「ないな」
「絶対に不可能ね」
「しかもガルフォードは忍の者」
「その感性は眠っていようと研ぎ澄まされている」
半蔵と影二はほぼ証言だった。
「それに気付かれることなくして枕元に立つとは」
「魔神であろうと無理なこと」
「魔神までってことは人間じゃ絶対に無視だな」
ビッグ=ボンバーダーは酒をかっくらいながら応えた。
「じゃあ荀ケの軍師さんの言う通りだな」
「今はフランコが見回りだったわよね」
荀ケはここでこう話した。
「確か」
「それと斬鉄だな」
「それだな」
「他の面々は山賊退治やら治水や都市の整備に行ってるけれど」
他の国から来た戦士達も何かと仕事をしているのだ。戦場だけでなく様々な内政の場面にも曹操や荀ケの指揮の下で動いているのである。
「それでもあの二人の見回りで気付かれない人間なんていないわよ」
「そうだよな。じゃあ俺が見たのはやっぱり夢か」
「きっとそうよ。疲れているのではなくて?」
荀ケはガルフォードを本気で気遣っていた。
「覇王丸程じゃないけれどあんたも立派な心の持ち主なんだから無理をしたら駄目よ」
「そこで覇王丸が出るのかよ」
「まあね。それはね」
それについてはいささかバツが悪そうに返す荀ケだった。
「それでもよ。あんたも思うところがあってあえて故郷を出たのよね」
「ああ、そうさ」
「それで犬達まで助けて密航までして忍者になって正義の為に戦う」
それこそがガルフォードだった。
「そうそうできることじゃないから」
「だから無理するなっていうのか」
「少なくとも休める時には休みなさい」
やはりガルフォードを気遣っていた。
「いいわね」
「ああ、そうだな」
ガルフォードは結果として荀ケのその言葉に頷いた。
「そうするか」
「そういうことよ。じゃあ皆今日は」
「今日は?」
「これからは?」
「飲みあかしましょう」
満面に笑みを浮かべてだ。荀ケは言った。
「いいわね。覇王丸と一緒にとことんまで飲むから」
「性格変わった?ひょっとして」
「最初来た時はかなりツンツンだったのに」
「それが」
一同でそんな荀ケを見て話すのだった。
「随分変わったなあ」
「本当にね」
「随分と」
「私だって変わるわよ」
荀ケは周りの言葉に少しむっとして返した。
「だって。人間なんだから」
「人間だからか」
「それで」
「そうよ、だからよ」
変わった理由をだ。人間だからだというのである。
「私だって変わるわよ」
「そういうことだな。じゃあ今日は仲良く飲むか」
「ええ、飲むわよ」
また笑顔で覇王丸の言葉に応えてだった。
「派手にね」
「よし、いい心掛けだ」
「言ったわね、容赦しないって」
荀ケは不敵に笑って 覇王丸の顔をまじまじと見てきた。
「そういうことよ」
「そうだったな。よし、受けるぜ」
「流石ね。じゃあ飲むわよ」
「拙者は甘いものの方が好きだが」
「それがしもだが」30
十兵衛と半蔵はこう零した。
「だから酒よりもな」
「茶の方がな」
「ああ、それだったら」
それを聞いてだ。許緒が早速言ってきた。
「僕と一緒に食べる?」
「そうだな。そうさせてもらうか」
「是非な」
二人は許緒のその言葉に乗った。そのうえで誰もが仲良く飲み食いを楽しむのだった。
そしてだ。フランコと斬鉄はこの時城壁を兵達を連れて見回っていた。夜の街は静まり返り何も聞こえはしない。街の灯りだけが見えるだけだ。
「今日も許昌は平和だな」
「うむ」
斬鉄はフランコのその言葉に頷いた。
「何もないな」
「そうだな。街は平和で村も平和だ」
「この国は平和そのものだ」
「曹操さんの政治がいいせいだな」
フランコは笑ってこう言った。
「いい政治家がいるとやっぱり違うな」
「その通りだな。そしてだ」
「そして?」
「近頃聞いた話だが」
こうフランコに前置きして話してきた。
「孫策殿の揚州でだ」
「ああ、南の方の国だよな」
「そこで紫鏡という外道が始末されたな」
「そうらしいな」
この話はフランコも聞いていた。それですぐに頷いて返した。
「何でもな」
「うむ、それは何よりだが」
「だが?何かあるのかよ、そいつに」
「我はあの男を知っている」
斬鉄はここでこう言うのだった。
「知りたくはなかったがな」
「つまり腐れ縁ってわけだな」
「左様、およそ心を持たぬ外道だった」
それがその紫鏡だというのだ。
「剣の腕はそれなりだったがそれでもだ。一人であそこまでできはしないな」
「孫策のお姫様の城の奥深くに忍び込んだり何度も暗殺しようとしたりだったな」
「孫権殿の命も狙っていたな」
「それが一人でできることか、か」
「あの男は心がない。従って人を集められる男でもなかった」
「ってことはだ」
ここまで聞いてだ。フランコもわかった。
「その紫鏡の後ろには」
「誰かがいる」
斬鉄は言った。
「間違いなくだ」
「じゃあ誰だよ、そいつは」
「宮中に蠢く宦官共か」
まずは彼等の名前が出た。
「若しくは」
「若しくは?」
「我等が元の世で戦っていた者」
この存在の話も出した。
「常世か」
「そいつか?前話していた」
「それかも知れぬ」
「何か不気味な話が出て来たな」
「しかしだ。我等もただこうしてここに来た訳ではあるまい」
「ああ、それはな」
このことはフランコもわかることだった。
「何もなくていきなり違う世界に来ましたってのはな」
「ない。しかもこれだけの数の戦士達が来た」
「何かあるって思うのが普通だよな」
「左様、常世か」
またこの名を出した。
「それを出さんとする刹那か。アンブロシアか」
「他にも何かいそうだな」
「そうだ。何かがいる」
斬鉄は確信していた。
「この世界に何かが。我等がこの世界に来るきっかけになった何かがだ」
「いるってことか。どうなるかね、一体」
「それはこれから次第だ。それではだ」
「ああ、見回りを続けるか」
「今はな」
こうフランコにも述べる。
「そうするとしよう」
「やっぱりまずは目先の仕事だよな」
「うむ」
正論であった。何はともあれまずは今している仕事をこなすことだった。
しかしだった。ここでだ。その城壁の物見櫓のところにだ。彼等がいた。
「見えるわね、、卑弥呼」
「ええ、貂蝉」
こう二人で言い合う。
「それなら今から」
「いいおのこを探して」
彼等は闇の中で気配を消していた。そのうえで話をしていた。
そしてである。ここでその貂蝉が言った。
「これからどうするの?」
「決まってるわよ。ここはね」
「ここは?」
「国中を回ってまずは私達と志を同じにする戦士達を集めましょう」
「そうね。オロチに常世が来ているし」
「アンブロジアもね」
「それにこの世界にも来ているわよ」
貂蝉はまた話した。
「あの二人が」
「わかってるわ。すぐに手は打つわ」
卑弥呼も貂蝉のその言葉に頷いた。
「とはいってもそれこそが戦士達を集めることだけれど」
「それにしても。スサノオといいあの連中といいね」
「そうね。何で色々な世界にも介入するのかしら」
「だありんのいた世界のうちの一つにも介入していたし」
まずはそこにもだというのだ。
「それにね。他の世界にも介入していたわね」
「外界の幾つにも来ているわね」
「スサノオのことはあの仮面の人達に任せていてもいいのよ」
その存在についてはというのだ。
「けれど。あの二人はね」
「私達の仕事だからね」
「そうよね。そしてあの世界の戦士達がオロチや常世を倒す」
「役割分担は万端ね」
「ええ。じゃあ私達は」
卑弥呼の言葉だ。
「今から同志達を集めましょう」
「そんなの私の魅力で一発よ」
「私だってそうよ」
ここで貂蝉も卑弥呼もその身体を不気味にくねらせて語る。
「さあ、誰でも篭絡するわよん」
「私のだありんは一体何処かしら」
こんな話をしてだ。二人はそこから大きく跳躍してそのうえで何処かに姿を消した。彼等が何者なのか。そもそも人間かどうかすら怪しかった。
第二十二話 完
2010・6・25
貂蝉や卑弥呼はやっぱりキャラが濃いな。
美姫 「少しの出番でもその存在感が凄いわよね」
ああ。やけに記憶に残ってしまうというか。
美姫 「ともあれ、多くの人たちが本当に来ていると改めて実感するわね」
確かにな。これからどうなっていくのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。