『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第二十一話  劉備、友を選ぶのこと

 何進が幽州に向かっている中でだ。桃家荘に次々と戦士達ガ集ってきていた。
「何だ、御前等もいたのか」
「そうよ、久し振りね
 リョウに対してキングが微笑んで言葉を返していた。ロバートにユリも一緒である。
「こちらに来ているとは思ってたけれどね」
「そうなのか」
「他の軍にミッキー達もいるわよ」
「へえ、あいつ等も来てたのか」
「陣営は違うけれど今は一緒に戦うことになるわ」
 リョウにこのことも話すのだった。
「どう?今から楽しみでしょ」
「ああ、凄くな」
 まずはリョウ達だった。そして。
「へえ、あんた達もか」
「はい、そうなんです」
 アテナが草薙の言葉に笑顔で頷いていた。勿論ケンスウや鎮、パオも一緒である。
「私達もこの世界に来ていまして」
「それで今こうしてここに来たって訳か」
「何か。よからぬ気配を感じまして」
 ここでアテナの顔が曇った。
「まさかと思いますけれど」
「ああ、そうだな」
 それに草薙も頷く。
「あの連中もいるっぽいな」
「そうですね」
 アテナは暗い顔になった草薙に答える。
「どうやら。他にも大勢」
「色々とややこしい戦いになりそうだな」
 草薙はその暗くなった顔で述べた。
「この世界でもな」
「はい」
 彼等は何かを感じ取っていた。そうしてだった。
 テリー達もだ。来たのだった。
 彼等の姿が見えるとすぐに舞がアンディのところに来て怒る。
「アンディ、何処に行ってたのよ」
「何処って?」
「そうよ、何処になのよ」
 怒った顔で彼に言うのである。
「一体何処になのよ」
「それはまあ」
「何?私に言えない理由?」
「まさか。そんなのじゃないよ」
「それじゃあ何なのよ」
「俺達もあちこちを旅していたんだよ」
 テリーがその舞に対して話す。
「それでなんだよ」
「あれっ、そうだったの」
「それでここの話を聞いてな。来たってわけだ」
 こうその事情を話すのだった。
「それでなんだよ」
「それならそうと早く言ってくれたらよかったのに」
「言う前に来たじゃないか」
 アンディは困った顔でその舞に返す。
「それでどうしてそんなことを」
「御免なさい。後で納豆スパ御馳走するから許して」
「仕方ないなあ」
「鰐の唐揚げあるか?」
 丈はそれを欲しがった。
「中国には鰐もいるよな。それだったらな」
「ここには鰐はいませんよ」
「何っ、じゃあ鶏の唐揚げだ」
 こう香澄に返す。そうしてだった。
 ここでだ。新たな人間も来た。
 まずは曹操の方にだ。何人か来ていた。
「我もまたここに来た」
「宜しく頼む」
「それでいいかい?」
 覆面の忍者に雲水姿の中年の僧侶にボクシンググローブを両手にはめた大柄の口髭の男の三人だった。彼等が曹操のところに来たのだ。
「如月影二」
「望月双角」
「フランコ=バッシュってんだ」
「ここでまた面白い面々が来てくれたわね」
 曹操はその彼等を見て微笑んだ。
「貴方達もあちらの世界の武芸者なのね」
「わかるというのか」
「ええ、よくね」
 曹操は影二の言葉に対して微笑んで返した。
「知ってるかも知れないけれどここにはもう色々な人が来ていてね」
「おっ、何だ?」
 ここでヘヴィ=Dが天幕の中に入って来て声をあげた。
「あんた達も来たのかよ」
「ヘヴィ=Dか!」
 フランコは彼の顔を見て笑顔で声をあげた。
「そうか、あんたも来ていたのか」
「ああ、前からな」
「そうか。それなら楽しくやれるな」
「そうだな、宜しく頼むぜ」
 ヘヴィ=Dからも笑顔で言う。そうしてだった。
 彼等も曹操の陣営に加わった。そして袁紹の方にも。
「ええと、今度はこの人達ですのね」
「はい、マルコ=ロドリゲスさんに」
「押忍!」
 髭だらけの顔に浅黒い肌に白い道着のむさ苦しい男だった。
「グリフォンマスクさんに」
「宜しく頼む」
 レスラーの服に鳥の仮面の大男だ。
「北斗丸君です」
「御願いするね」
 マントに青い服の男の子だった。
「今度はこの人達です」
「またしても個性派揃いですわね」
 袁紹は顔良の言葉を聞いて少し困ったような顔になっていた。
「これはまた」
「気付いたらこの世界に来ていた!」
「何かと物騒な情勢のようだな」
「僕達でよかったら協力させて」
 こう言ってきた三人だった。
「それでいいか」
「是非戦わせてくれ」
「この世界の平和の為にね」
「少なくとも民の為になるのなら」
 袁紹はそれならというのだった。
「宜しいですわよ」
「袁紹様、じゃあこの人達も」
「ええ、宜しいですわよ」
 それはもう決まっているといった口調だった。
「それでは」
「何かあっさりと決まりましたね」
 審配もいた。
「この人達については」
「もうわかっていることでしてよ」 
 袁紹はいささか面白くなさそうにその審配に対して述べた。
「ですからもう遠慮なくですわ」
「成程、それで」
「それでなんですか」
「ええ、では貴方達も頼みましたわ」
 顔良と文醜に返してだった。こうして彼等もこの世界で活躍することになった。
 ジョンフンとジェイフンは次々に来る彼等を見てだ。首を傾げさせていた。
「何か向こうの世界にいるのと変わらなくなってきたな」
「そうだね。色々な人が来たしね」
「そうだよな。一番いいのは親父がいないことだな」
 それも言うドンファンだった。
「確か董卓さんのところでやりたい放題やってるんだよな」
「何かジョンさんと一緒にね」
「それで相変わらずチャンさんとチョイさんをしごきまくってるんだな」
「他の人達もいるみたいだけれどね」
 犠牲者はこの世界では遥かに多いのである。
「何かな、それってな」
「それって?」
「洒落にならないよな」
 ドンファンは言う。
「本当に袁紹陣営に来なくてよかったぜ」
「そのうち会うかも知れないけれど」
「ああ、絶対に嫌だな」
 ドンファンは心から言った。
「何があってもな」
「兄さんはさぼり過ぎるんだよ、修行でも何でも」
「いいじゃねえかよ。俺は実戦で磨かれるタイプなんだよ」
「おお、じゃあちょっと稽古がてら楽しくやるか?」
 ここでアクセルがドンファンの前に出て来た。
「楽しくな」
「そうだな。やるか」
「おう、容赦はしねぜ」
「こっちこそな」
 ドンファンはこの世界を心から楽しんでいた。少なくともチャンやチョイよりは幸せであった。そして劉備のところにも二人来ていた。
「あれ、お姉ちゃん」
「リムルル、貴女もこっちの世界に」
「うん、来ていたの」
 茶色がかった髪を首のところで切った少女だった。その服はナコルルと一緒のものだ。その彼女もここに来たのであった。
「それで話を聞いてだったのだけれど」
「そうだったの」
「ええと、何か妖しい気配に満ちてない?」
「ええ」 
 ここで二人の顔が曇った。
「貴女も感じてなのね」
「来たの、それでなの」
「わかったわ。じゃあ今はね」
「御願いするわ」
 こうして二人も加わった。そうしてだった。
 もう一人は青い丈の短い学生服にズボン、黒く短く刈った髪にバンダナをしている。それなりに整っているが何か抜けている感じの顔である。
 その彼が来てみるとだ。いきなりびびっていた。
「聞いてないよーーーーーーーーーーーっ!!」
「何が聞いてないの?」
「草薙さんがいるからって来たのに!」
 何ともう一人いた。ブロンドの髪を切り揃えた青いめの美女だ。青のブラの上に緑のジャケットを着ている。そして青いズボンという格好だ。
 その彼女を見てだ。彼は今にも逃げようとしていた。シェーーッのポーズになっている。
「何でマリーさんまで?」
「私も今来たのだけれど」
「あれ?この人は?」
 劉備はブルーマリーを見て逃げようとしているその少年を見て言う。
「マリーさんのお知り合いですか?」
「ああ、矢吹慎吾っていうのよ」
 ここでマリーが言う。
「草薙京の舎弟でね。まあお騒がせキャラよ」
「お騒がせさんなんですか」
「あまり強くないけれどそれなりに使えるから」
 こう言うのである。
「それに悪い奴じゃないしね」
「いい人なんですね」
「そうよ。まあパシリにでも使って」
「ちょっと、俺パシリですか!」
 こう言われてだった。慎吾は泣きそうな顔になる。
「何でなんですか!」
「何でってそれがあんたのキャラクターじゃない」
 マリーの言葉は実に冷たい。
「だから受け入れるのね」
「とほほ、俺はこっちでもそんな役なんですか」
 何はともあれ彼も加わった。そうしてだった。
 遂にだった。何進も来たのだった。
「何か曹操さんと袁紹さんだけでいけるような気がするけれど」
「そこは政治的配慮ですから」
 孔明が劉備に対して言う。
「ですから気にしないで下さい」
「そうなのね」
「全然気にしなくていいですから」
 また言う孔明だった。
「というか気にしたら駄目ですから」
「そうなの、それじゃあ」
 これで納得する劉備だった。そして彼女が来た。
 薄紫の髪に長い睫毛の紫の目を持っている。妖艶な美貌をそこにたたえ胸は豊満である。胸と足がかなり露わになっているその姿でやって来た。
 服は紫色で鎧は着ていない。その彼女がであった。
「大将軍、ようこそ」
「おいで下さいました」
 曹操と袁紹がだ。それぞれ彼女の前にかしづいたのである。
「ではこれより北へ」
「そして烏丸」
「うむ、行こうぞ」
 美女は妖しい微笑みと共に二人に告げてきた。
「今よりのう」
「はい、それでは」
「今から我等が」
「そして」
 美女はここでだ。かしづく諸将の中に劉備の姿を認めて問うた。
「そこの者」
「私ですか?」
「そう、そなたじゃ」
 劉備を見ての言葉である。
「そなた。名は何という?」
「はい、劉備といいます」
「劉備?」
「字は玄徳です」
 自分からその字も話した。
「宜しく御願いします」
「はて、劉というとまさか」
「はい、皇族の血を引いています」
 公孫賛が美女に話す。
「中山靖王の末裔です」
「それで今ここにおるのか」
「はい、義勇軍です」
 それだと答える劉備だった。
「それで参加させてもらっています」
「皇室の血を引いて義勇軍というのもいただけぬな」
「では何進大将軍」
「ここはどうされますか?」
 すぐに袁紹と曹操がその美女何進に問うた。
「この劉備玄徳」
「一体」
「一軍を与えよ」
 何進はまずは二人にこう述べた。
「そしてじゃ」
「そして」
「どうされると」
「そのうえで武勲を挙げたならば然るべき官職を与えよう」
 そうするというのだった。
「今はとりあえず本陣付の将校の一人に命じる」
「本陣付のですね」
「立場は」
「左様。しかし腕に自信があるのならばじゃ」
 何進は柳眉を見ながらさらに話す。
「先陣を務めるがよい」
「劉備殿、ここは」
「任せるのだ」
 その劉備に関羽と張飛がそれぞれ左右から言ってきた。
「私達だけでなく星や翠もいる」
「それに紫苑もいるのだ」
「けれど今は」
「いえ、今は先陣を務めるべきです」
 孔明もこう言ってきた。
「ここで武勲を挙げれば道が大きく開けます」
「そう。それじゃあ」
「そして劉備よ」
 何進はまた彼女に声をかけてきた。
「返答や如何」
「わかりました」
 劉備は両手を合わせて何進に答えた。
「それでは」
「うむ、それでは今より軍議に入る」
 何進は劉備の言葉を受けたうえで周りに告げた。
「それでよいな」
「はい、それでは」
「今より」
 こうしてだった。彼等はその軍議に入った。その結果劉備の先陣が決まった。そして右軍は袁紹、左軍は曹操が指揮を執ることになった。何進は中央軍だった。しかし軍の要が左右にあるのは一目瞭然だった。
 出陣の時にだ。劉備は孔明に対して言っていた。
「留守を御願いね」
「はい、お任せ下さい」
 孔明はにこりと笑ってそのうえで劉備の言葉に応えていた。
「ここは」
「私達は今から行くけれど」
「蒲公英、大人しくしてろよ」
 馬超は劉備の後ろから従妹に対して言った。
「留守も大事な仕事だからな」
「ちぇっ、私も出陣したかったのに」
「まあそう言うな」
 その馬岱には趙雲が優しい笑みを浮かべて慰めてきた。
「御主の力は今ここで使え」
「ここで?」
「そう、ここでだ」
 こう言うのである。
「わかったな」
「じゃあ蒲公英はここは留守番なのね」
「娘を御願いね」
 黄忠は微笑んで馬岱に告げた。
「どうかね」
「うん、わかったよ」
 この言葉には笑顔で返した。
「それじゃあ私頑張るから」
「テリー殿やナコルル殿達もいる」
「これなら盗賊達が攻めてきても大丈夫なのだ」
 関羽と張飛も言う。兵のほぼ全てを率いて向かい護りは孔明と馬岱、それにナコルルや舞、テリー、それに草薙達に任せることにしたのだ。
 そのうえでだ。孔明はまた言った。
「皆さん一騎当千ですし」
「そう簡単にはここは陥落しないな」
「城壁を築いて正解だったのだ」
「はい、それでは」
 笑顔で言う孔明だった。
「皆さん頑張って来て下さいね」
「うん、行ってきます」
 劉備もにこりと笑って返す。そのうえで出陣した。そしてその中でだ。何進はふとこんなことを言ったのである。馬に乗りながらだ。
「しかしのう」
「しかし?」
「将軍、一体何が」
「幽州も牧がおらん」
 彼女が言うのはこのことだった。
「こうして烏丸がおるのにそれは不都合じゃな」
「そうですね、確かに」
「それは」
 誰も公孫賛のことを知らない。尚彼女は劉備と共に先陣にいる。しかしそのことにも気付いてもらえないままでいるのである。
「では幽州も袁紹殿にお任せしますか」
「そうしますか」
「そうじゃな。まずはこの戦を終わらせてじゃ」
「はい」
「そして袁紹が西の羌を押さえたならばじゃ」
 その時だというのだ。
「褒美も兼ねて幽州のことを帝にお話しよう」
「はい、それでは」
「その様に」
「幽州はこれでよい」
 何進はこの地はそれでいいとした。
「しかしじゃ」
「しかしですか」
「まだありますか」
「徐州も気懸かりじゃ。交州に益州もな」
「交州は孫策殿にお任せしましょうか」 
 部下の一人がこう言ってきた。
「ここは」
「それでどうでしょうか」
「そうじゃな。孫策じゃな」
 何進もその名前に頷いた。
「あ奴が山越を討てばその時に交州の牧にも任じよう」
「はい、それでは」
「その様に」
「そしてじゃ」
 何進は話をさらに進める。
「徐州はいづれ曹操にでも任せるとして」
「益州ですね」
「問題は」
「そうじゃな。あの地には?もいれば南蛮もおる」
 何進の顔が曇る。
「治めにくい地じゃ」
「全くです」
「しかも土地は険阻です」
「人が多く豊かな場所ではありますが」
「誰か然るべき者がいればいいのじゃが」
 何進は溜息交じりに述べた。
「誰かおらぬかのう」
「難しいところですね」
「全く」
「袁術は危ういし董卓は擁州だけで手が一杯のようじゃしな」
 問題は山積みであった。
「どうやら」
「そうですね。益州は今は」
「どうしても人をやる余裕は」
「誰かおらぬかのう」 
 何進は困った声であった。
「あの地を任せられる者は」
「今は我慢するしかありませんか」
「仕方ありませんか」
「うむ。仕方あるまい」
 何進も今は諦めるしかなかった。
「人がおらぬのではな」
「はい、司馬慰殿は都から動かせませんし」
「宦官達もいますから」
「せめて宦官共さえおらなければじゃ」
 語るその顔がさらに忌々しげなものになる。
「全く違うのにじゃ」
「はい、まさに」
「今は」
「仕方がないのう」
 溜息交じりにまた述べたのだった。
「今は」
「はい、それでは今は」
「まずは北をですね」
「烏丸を倒す」
 何進は言い切った。
「よいな、今からじゃ」
「はい、それでは」
「その様に」
 こんな話をしながら北に向かっていた。そうしてであった。
 まずは斥候に出ていた高覧からだ。報告があった。
「敵、来ました!」
「遂にですのね」
「はい、数にして五万」
 その数も述べられる。
「それだけです」
「五万?」
「それだけだというの?」
 それを聞いてだ。進軍する袁紹の両脇にいた田豊と沮授が声をあげた。
「烏丸は数にして三十万近く」
「戦える者は十万近いと聞いていますが」
「それでは今目の前にいる敵は」
 袁紹は二人の話を聞いて怪訝な目になった。
「一軍に過ぎませんわね」
「伏兵か、若しくは奇襲を仕掛けて来るか」
「そうしてくるかと」
「わかりましたわ。それでは」 
 二人の軍師の言葉を聞いてだ。袁紹はすぐに決断を下した。
「黒梅」
「はい」
 傍にいた麹義に対して告げる。
「すぐに兵を率いてあの者達を討ちなさい」
「すぐにですね」
「そう、弓兵に騎兵を用いて彼等を倒しなさい」
 こう麹義に告げるのだった。
「宜しいですわね」
「わかりました、ではすぐに」
「私達は正面から戦いますわ」
 袁紹はその正面を見据えながら述べた。
「そしてその間に」
「今曹操殿から早馬が来ました」
 田豊の言葉である。
「今から敵軍の側面を衝くとのことです」
「わかっていますわね、華琳も」
 袁紹は田豊の言葉を聞いて満足した顔で微笑んだ。そうしてだった。
「我が軍はこのまま正面から向かいますわ」
「了解です」
「それでは今から」
「おそらく今先陣が敵軍と衝突している筈」
 袁紹はこのことを既に予測していた。
「我が軍は後ろからフォローしますわ」
「じゃあ今から」
「行きましょう」
 顔良と文醜が言ってであった。そうしてだった。
 袁紹軍と曹操軍が敵に向かうその時にだ。劉備率いる先陣は烏丸五万の大軍と戦闘に入っていた。
 五人は劉備を守るようにして戦う。槍に矛、それに弓が戦場で煌く。
「たあっ!」
 張飛がその蛇矛を前に突き出して敵兵を突き落とす。他の四人も縦横無尽に暴れる。 
 しかしだった。数が多い。圧倒的な開きがあった。
「関羽さん!」
「心配無用!」
 関羽はその手にある青龍偃月刀を振るいながら劉備に対して応える。
「この程度!」
「けれど数が」
「案ずることはない」
 趙雲もその手にある槍を振り戦っている。
「この程度の数ならどうということはない」
「ああ、そうだ!」
 馬超も槍を次々に突き出している。
「こんな戦い西涼じゃいつもだったからな」
「例え敵が多くとも」
 黄忠の弓が次々に放たれる。
「これ位なら敗れはしません」
「鈴々達は一騎当千なのだ」
 張飛は暴れ続けている。
「だからこれ位は何ともないのだ」
「張飛ちゃん・・・・・・」
「真名でいいのだ」
 張飛はここでこう劉備に返した。
「鈴々は共に戦う人には真名を預けるのだ」
「それでいいの?」
「いいのだ」
「そうだ、我等もだ」
「それは同じさ」
 趙雲と馬超も言う。
「この真名預けよう」
「何時でも呼んでくれよ」
「はい、これも何かの縁です」
 黄忠も応えるようにして言う。
「ですから」
「それじゃあ。今から」
「うむ、宜しく頼む」
 関羽もここで言ってきた。
「これからは真名同士で呼び合おう」
「わかったわ。じゃあ愛紗さん」
「うむ」
「鈴々ちゃん」
 また呼ばれる。
「星さん、翠さん、紫苑さん」
「うむ」
「ああ、いい呼び方だな」
「そうね」
「御願いします」
 あらためての言葉だった。
「ここは」
「わかっている、それではな」
「気の済むまで戦いましょう」
 関羽と黄忠が言う。彼女達は見事踏ん張りそのうえで袁紹、そして曹操の援軍を得た。これで何とか凌ぎきったのであった。
 このことは曹操達にも伝わった。彼女達は夜にそれを聞いて満足した顔で頷いた。
「中々やるわね」
「いえ、私はそんな」
「いえ、見事よ」
 天幕の中でだ。曹操は劉備に対して微笑んで述べていた。
「おかげで緒戦はものにできたわ」
「私は助けられてばかりで」
 劉備は謙遜したままであった。
「ですから本当に」
「指揮官は自ら武器を取らなくていいのよ」
 しかし曹操はこうも言うのだった。
「だからね。それでいいのよ」
「そうなんですか」
「その通りですわ。貴女は見事耐え抜きましたわ」
 袁紹もいた。そのうえで劉備に対して言うのだ。
「その指揮で」
「指揮っていっても」
 そう言われてもだった。やはり劉備には頷けるものがなかった。
「私はただいただけで愛紗さん達が」
「いや、私達もここまで満足に戦えることはなかった」
「その通りなのだ」
 関羽と張飛もまた彼女に言ってきた。
「劉備殿がいてくれると何か違う」
「不思議と身体が動くのだ」
「ということはだ」
 公孫賛も一応いる。
「桃香は人を動かす何かがあるのだったな」
「そうね。ただ」
「そういう貴女は一体」
 曹操と袁紹はその公孫賛を怪訝な顔で見ていた。
「誰なのかしら」
「見たところ一軍の将ですけれど」
「だから公孫賛だ!」
 たまりかねた声で二人に返す。
「何故忘れる!前に話したばかりだぞ!」
「公孫賛?」
「やっぱり知りませんわね」
 二人はそう言われても首を傾げさせるばかりだった。
「何処かで聞いたことがあるような」
「けれどそれでもどうしても」
「幽州の牧だ。しかもこの先陣は殆どが私の軍だぞ」
 たまりかねた声になっている。
「幽州の軍二万だ。何故忘れる」
「だから幽州には牧はいないわよ」
「それでどうして二万もいますの?」
「何度言っても何故覚えてもらえないのだ」
 公孫賛もいい加減困り果てていた。
「全く。これはどういうことだ」
「まあまあ白々ちゃん」
「白蓮だ」
 劉備はいつもの様に慰めるが真名を間違えていた。
「ここで間違えるか」
「あれっ、間違えていたの?」
「間違えている。まあいい」
 流石に今は言い返す気力もなかった。
「しかし。この戦いまずは勝利を収めて何よりだ」
「けれど。数が少ないわね」
「そうですわね」
 曹操も袁紹も烏丸の軍について話した。
「十万近くいたそうだけれど」
「何処に行きましたのかしら」
「残りは何処かに行った」
「それが問題なのだ」
 関羽と張飛も怪訝な顔になる。
「本軍に向かったか」
「嫌な予感がするのだ」
 張飛は顔を曇らせて述べた。
「鈴々達にとってとてもよくないことが」
「それは一体何だ?」
「まだよくわからないのだ」
 関羽に問われても暗い顔のままだった。しかしその時だった。
 孔明達がいるその桃家荘にだ。突如として敵が来た。
「大変!何か来たよ!」
「えっ、敵ですか!?」
 孔明は馬岱の声を聞いて驚いてベッドから出て来た。
「だとするとこれは」
「何!?盗賊!?」
「そんなものじゃありません!」
 孔明は慌てて城壁の方に向かいながら共に来る馬岱に対して告げた。
「これはですね」
「うん、これは」
「烏丸の軍です!」
 それだというのだ。
「それです!」
「えっ、けれどそれは」
 それを聞いてだ。馬岱は驚きの声をあげた。
「大将軍達の軍と戦闘中なんじゃ」
「烏丸の武器はその速さです」
 機動力だというのじゃ。
「ですからこうして桃家荘にも兵を送ってきたのです」
「兵をって」
「こうして後方の基地を陥落させて補給を絶つつもりです」
 孔明はそこまで読んでいた。
「それが彼等の戦術です」
「じゃあまずいんじゃないの?」
 馬岱は孔明のその言葉を聞いて暗い顔になった。
「この桃家荘もかなりの物資が集められてるし」
「はい、ここを陥落させられるとかなり危ないです」
 孔明もこのことはよくわかっていた。
「戦全体に大きな影響を及ぼします」
「そうだよね、それに」
「はい、私達には数はあまりありません」
 このことも話した。
「テリーさん達がいてくれていますが」
「そうだよね。流石に何万も来たら」
「こうした時に備えて城壁を築き壕を掘っておきましたけれど」
 流石孔明だった。そうした備えは忘れていない。
「ただ」
「ただ?」
「烏丸は馬を使うので城攻めは不得手です」
 まずはこう言った。
「けれど。何処かで攻城兵器を手に入れていたら」
「危ない?」
「かなり危険です」
 こう馬岱に話す。
「その時は何とかしないと」
「あのさ、それでね」
「それで?」
「すぐに連絡しよう」
 馬岱はすぐに言った。
「ナコルルにでも前線に行ってもらって」
「そうですね、援軍ですね」
「うん、それ」
 まさにそれだった。
「それを呼ぼう」
「はい、それでは」
 ナコルルが来ていた。それで頷いた。
「それじゃあママハハと一緒に」
「ああ、すぐに行ってくれ」
「頼んだぜ」
 テリーと丈がナコルルに告げる。
「俺たちはその間守るからな」
「宜しく頼むぜ」
「こうなったことも何かの縁だしね」
 アンディも言う。
「こうなったら」
「私達がいれば何とかなるわよ」
 舞は口ではこう言っても真剣な顔をしていた。
「何があってもね」
「はい、敵がどれだけいても頑張りましょう」
「よっしゃ、やったるで!」  
 ケンスウはその顔に気合を入れている。
「何があってもな!」
「援軍が来るまで頑張りましょう」
 アテナもいる。
「できたら来る前に」
「おいおい、それはまた強気だね」
 紅丸も来ていた。
「けれどその強気がいいぜ」
「そうだな。打って出るのもまたよしだ」
 大門は細い目で腕を組んでいる。
「守るだけでは限られている」
「よっし、じゃあ早速行くぜ!」
 草薙の拳はもう紅蓮に燃えている。
「派手にやってやるか!」
「何か凄い戦いになりそうですね」
 香澄は意を決した顔になっている。
「運命の分かれ道みたいな」
「そうかも知れんのう」
「そうですよね。生き残るかどうか」
 鎮とパオはこう離す。
「しかしならばこそじゃな」
「はい、誰も死んではいけませんね」
「お姉ちゃん、御願いね」
 リムルルは姉を見ていた。
「どうか劉備さん達に」
「とほほ、何かとんでもない場所に来たなあ」
「文句言わないの」
 マリーが真悟に対して告げる。
「こうしたことは予想できたでしょ」
「まさかこんな大軍に囲まれるなんて」
「皆さん、それじゃあ御願いします」
 孔明は生真面目な顔になっていた。
「何があっても守り抜きましょう!」
「よっし!打って出るぞ!」
「行くで!」
 リョウとロバートは早速城壁から飛び降りた。そうして早速技を放つ。
「虎煌拳!!」
「飛燕龍神脚!!」
 こう言ってそれぞれの技で烏丸の兵達を吹き飛ばす。そしてユリも続く。
「私も!」
「何か凄い人達ですね」
 孔明も敵の中に飛び込んでいく彼等を見て驚きを隠せない。
「まさか空中から技を放てるなんて」
「おっと、それ位普通だぜ」
「私達もこうして!」
 今度はテリーとアンディだった。二人も跳ぶ。
「パワーダンク!」
「龍撃弾!」
 彼等は早速攻撃をはじめた。それが戦いのはじまりだった。そしてナコルルはママハハと共に前線に向かう。そうして事態を報告するのだった。
「えっ、桃家荘に!?」
「烏丸の軍がか!」
「はい、そうです」
 ナコルルはこう劉備と関羽に対して告げる。
「数はよくわかりませんでしたが」
「間違いないな、別働隊の全てだ」
 趙雲はこう述べた。
「それだけ来ている」
「それじゃあ数万なのだ」
「おい、洒落にならねえぞそれってよ」
 張飛と馬超も狼狽しだした。
「それだけの数であそこに攻められたら」
「幾らキングや舞達がいてもよ」
「危険ですね」
 黄忠も顔を曇らせていた。
「このままでは娘も」
「すぐに戻ろう」
 劉備が狼狽する寸前の顔で言った。
「さもないと朱里ちゃん達が」
「いや、劉備殿」
 だがここで関羽がその劉備に対して言う。
「今は戦いの中だ。ここで戻っては」
「駄目っていうの?」
「そうだ、作戦中だ」
 こう言うのだった。
「だからだ。ここで戻ってはだ」
「けれどこのままじゃ」
 劉備は困った顔で関羽に返す。
「桃家荘が」
「そうなのだ、ここは戻るのだ」
 張飛も眉を顰めさせて言う。
「何があっても」
「そうだよ、朱里達が危ないぜ」
 馬超も劉備、張飛と同じ考えだった。
「すぐに戻らないと」
「そうね。馬だと何とかまだ間に合うわね」
 黄忠も述べる。
「今だと」
「そうよ、戻ろう」
 また言う劉備だった。
「今のうちに」
「はい、今ならまだ間に合います」
 ナコルルも言ってきた。
「ですから」
「愛沙は仲間を見捨てるのだ!?」
 張飛はその関羽に対して問うた。
「真名まで預け合った仲間を」
「馬鹿を言うな!」
 そう言われてはだった。関羽も怒った声で言い返す。
「私がその様なことをするか!しかしだ!」
「しかしどうだというのだ!」
「今は戦いの中だ。戻れる筈がない!」
「いえ、戻りましょう!」
 劉備は言う。
「関羽さんは私が戦功を挙げて出世されることを望んでおられるんですよね」
「そ、それは」
「ですから。私の為に」
 その関羽を見ての言葉だった。
「そこまでして」
「劉備殿はここで武勲を挙げられるべきだ」
 関羽はあくまで話す。
「そして中山靖王の子孫として。皇室の方として」
「そんなものいりません!」
 だが劉備は言った。
「私は地位や権力より皆の方がずっと大事です!ですから」
「それで宜しいのか?」
 関羽は真面目な顔で劉備に問うた。
「劉備殿はそれで」
「はい、構いません」
 劉備も毅然とした顔で話した。
「ですから。ここは」
「しかし、貴殿は」
 まだ劉備を気遣う関羽だった。
「このまま」
「話は聞いたわ」
「今しっかりと」
 ここでだった。後ろで声がしてきた。
「そうなのね。桃家荘がね」
「お友達の危機ですよね」
「あっ、曹操さんに袁紹さん」
「貴殿達か」
 劉備と関羽は二人が来ていたことに気付いた。
「何時の間にここに」
「来られていたのだ?」
「さっきだけれどね」
「作戦のことでお話に来たのですけれど」
 こう話す二人だった。
「大変なことになってるわね」
「事情はわかりましたわ」
「い、いや別に」
 関羽はそれは隠そうとした。
「何でもない。こちらのことでだ」
「桃家荘を陥落させられてはこの戦を続けられないわ」
「後方基地としても最大ですし」
「すぐに援軍が必要ね」
「その通りですわ」
 だが二人はこう言うのだった。
「貴女達にすぐに行ってもらいたいのだけれど」
「宜しくて?」
「しかしそれでは」
 関羽は二人の考えを察してすぐに言葉を返した。
「この戦自体が」
「あら、この程度の相手どうにでもなるわ」
「我が袁家の軍を甘く見てもらっては困りますわ」
 二人は不敵な笑みと共に関羽に対して返した。
「さて、それじゃあ」
「ええ、今からですわね」
 今度は二人でその笑みのまま言葉を交わした。そのうえで。
「烏丸の軍を一気に叩いて」
「わたくし自ら指揮しますわ」
「麗羽殿、それは」
「幾ら何でもよくないのでは」
 曹洪と曹仁が袁紹のその言葉にすぐ突っ込みを入れた。
「どうしてそういつも前に出られるのですか」
「弓矢の前に」
「大将は前に出るものでしてよ」
 しかし袁紹は得意そうに笑って述べる。
「ですからこうして」
「ですから。将が討たれてはどうしようもありません」
「何故昔から貴女は」
「ああ、高覧に張?だったわね」
「はい、曹操様」
「何でしょうか」
 二人は曹操のその言葉に応えた。
「麗羽の悪い癖が出たから」
「そうなんですよね」
「戦になって波に乗るとすぐに先頭に立ちたがる方ですので」
 高覧と張?は困った顔で話す。
「危なくて見ていられません」
「何かあったら」
「昔からそうなのよね」
 曹操もこう言うのだった。
「全く。ここはね」
「はい、私達が抑えますから」
「流石に主を失うわけにはいきませんし」
 何だかんだで呆れられながらも家臣達に愛されているようである。
「私達がこのまま右翼から敵の正面を引き受けますので」
「曹操様はまた側面から御願いします」
「ええ、わかったわ」
 二人のその言葉に頷く曹操だった。そのうえで曹洪と曹仁に顔を向けて告げた。
「冬瞬、夏瞬」
「はい、それでは」
「すぐに軍に戻り動くわよ」
 そうするというのだった。
「正面は麗羽の軍が引き受けるから」
「全く。将が前に出なくて何をしますの」
「ですから幾ら何でも矢面に自ら立たれないで下さい」
「麗羽様は剣しか使えないですし」
 何気にそれが問題の袁紹だった。
「ですから今回は後ろの方で全体の指揮を御願いします」
「最悪弓矢が届かない場所にいて下さい」
「全く。それでは戦の意味がありませんわ」
 まだ言う袁紹だった。極めて不機嫌な顔になっている。
「将たる者が前に出なくては」
「あのね、幾ら何でも限度があるのよ」
 曹操も溜息混じりに袁紹に告げる。
「そういうことは貴女のところの顔良や文醜がやってくれてるでしょう」
「それはそうですけれど」
「ならそれでいきなさい。私だってそういうことは春蘭や秋蘭に任せてるのよ」
「あの二人にですのね」
「わかったら大人しくしておきなさい」
 曹操は告げた。
「いいわね」
「わかりましたわ。それなら」
「はい、それじゃあ麗羽様」
「今はそうしましょう」
 高覧と張?がまた主に告げる。
「騎兵隊だけじゃなくて黒梅さんが強弩も用意していますし」
「それで防いで」
「そうですわね。ではその様にして」
 作戦のことにはまともに話を聞く袁紹だった。
「戦いますわよ」
「はい、それじゃあ」
「今から」
 こう話してだった。劉備達を援軍に向かわせる。彼女達は曹操と袁紹に礼をするとすぐに桃家荘に向かった。だがここでだった。
 公孫賛がだ。二人のところに来て言った。
「桃香達は何処だ?」
「あら、誰だったかしら」
「何処かで見たような」
 曹操と袁紹はその彼女の顔を見てきょとんとした顔になる。
「見たところ一軍の将だけれど」
「どなたでして?」
「だからいい加減覚えてくれ」
 公孫賛もいい加減泣きそうな顔になっている。
「私は公孫賛だ。白馬のだ」
「白馬っていっても多いしね」
「そうですわね」
 二人は白馬といっても動じない。
「だからそれを言われても」
「特にこれといって」
「何故いつもこうなんだ」
 公孫賛は歯噛みしてしまった。
「私は。何故いつもこうなんだ」
「さて、それじゃあね」
「ええ、烏丸の軍を叩きますわ」
 二人はそんな公孫賛を他所に戦の話を進める。
「今すぐに」
「そして戦いを終わらせますわよ」
 こうして公孫賛を蚊帳の外に置いて話すのだった。どうしても存在を示せない彼女だった。
 桃家荘ではだ。激しい戦いが繰り広げられていた。
「ベノムストライク!」
「とおーーーーーーーーーーっ!!」
 キングが脚から気を、舞が忍蜂を放って敵達を倒していた。
 これで数騎馬ごと吹き飛ばされる。しかしだった。
 敵は次から次に来る。門の前はまさに修羅場だった。
「くっ、幾らでも来るな」
「そうね」
 キングも舞も苦い顔で歯噛みしている。
「昼も夜も来る」
「一体何時休んでいるのよ」
「どうやら交代して攻めてきていますね」
 孔明が言った。今彼らは満月の下で戦っている。
「ですからこうして」
「数は向こうの方が圧倒している」
 大門も言う。
「それならこれも当然のことだ」
「その通りですね。こちらは村の人達を入れても五百足らず」
 兵としての数である。
「それに対して彼等はです」
「四万はいるぜ」
 二階堂紅丸は雷の拳で敵を倒していた。
「この数はな」
「ああ、そうだな」
 草薙は地面に炎を放ちそれで敵を焼いている。
「洒落にならない数だな」
「けれど何とか防いでますね」
 アテナは顔に汗をかきながらもこう述べた。
「今は」
「騎馬ですから」
 孔明はだからだという。
「馬は城壁を攻めることに向いていません」
「梯子も城を攻める兵器もないからのう」
 鎮はこのことがよくわかっていた。
「だからじゃな」
「そうやな。それが救いやな」
 ケンスウは超球弾を放っている。
「せめてものな」
「いえ、待って」
 しかしだった。ここでリムルルが言った。
 そしてだ。戦場の後ろの方を指差した。そこには。
「あれってまさか」
「はわわ、あれは!?」
 孔明がそれを見て驚きの声をあげる。
「あれは投石器です!」
「じゃああれで城壁を壊されたら」
「まずいですね」
「はい、危険です」
 こうパオと香澄にも答える。
「ですからここは何とかしないと」
「じゃあ私が行くわ」
 マリーが名乗り出た。
「ここはね」
「いえ、それは駄目です」
 しかし孔明はマリーのその提案を退けた。
「それは」
「どうしてなの、それは」
「敵の真っ只中です。若しマリーさん御一人で行けば」
「死ぬっていうのかしら」
「はい、そうです」
 まさにその通りだった。
「ですから駄目です」
「そんなこと言っていられる状況じゃないと思うけれど」
「それでも駄目です!」
 孔明の言葉は彼女らしくない強さがあった。
「マリーさんを死なせるわけにはいきません」
「だからなのね」
「はい、そうです」
 また強い言葉で言う孔明だった。
「ここはまだです」
「けれどこのままじゃ城壁やばいぜ」 
 丈もこのことを心配している。
「もう少しあそこに近付けば俺のハリケーンアッパーであんなのは一発で破壊できるんだけれどな」
「はい、もう少しなのですが」
 孔明もその距離を見ていた。
「もう少しであそこにまで」
「しかし。その少しが辛いね」
 アンディも残影拳で敵を馬ごと倒しながら難しい顔になっている。
「それがね」
「ちっ、そうだな」
 テリーもそれは認めるしかなかった。
「この状況じゃな」
「しかも何かな」
 草薙は難しい顔で周囲を見回す。
「敵がさらに増えてきたみたいだしな」
「このままじゃ門に帰るしかないかも」
 リムルルは狼狽しだしていた。
「数が多過ぎるから」
「そうですね。残念ですけれど」
 孔明もリムルルの言葉に傾く。
「ここは」
「じゃああれどうするの?」
 真吾は投石器を指差して一同に問うた。
「五台もあるけれどさ」
「仕方ありません」
 孔明もこう言うしかなかった。
「今は」
「そんな、じゃあこのまま」
「まだに決まってるだろ」
 その真吾に草薙が言う。
「城壁を破られたら俺達がその城壁になるんだよ」
「俺達がですか」
「戦えるなら戦うんだよ」
 草薙はまた言った。
「それでわかったな」
「はい、じゃあ」
「この村は何があっても護る」
 草薙は本気だった。
「いいな」
「はい、じゃあ」
「そうです。何があっても守り抜きます」
 孔明も草薙のその言葉を受けて意を決した。
「私達で」
 こう言って今は仕方なく下がろうとした。しかしその時だった。
「朱里ちゃん、皆!」
「無事か!」
 何かが来た。それは。
 騎馬の一団だった。それが烏丸の兵達を薙ぎ倒していく。
「まさかあれは」
「援軍!?」
「もう来たのか!?」
「それにあれは」
 見ればだ。その先頭にいるのはだ。
 劉備だった。そして。
「関羽さん」
「それに張飛も!」
「お姉様もいるわ!」
 馬岱は従姉の姿を認めていた。そして瑠々も。
「お母さんも」
「その通りだ!」
 そしてだ。何故か彼等がいる門の上の物見櫓ところからだ。あの声がしたのであった。
「今我々は義の為に来たのだ!」
「!?あんたは」
「一体」
 キングと舞はその声の主を見た。するとそこにいたのは。
 誰がどう見ても趙雲だった。ただ仮面をしているだけである。その彼女が櫓の上に颯爽と立っていたのである。
「おい、あれって」
「そうだよな」
「誰がどう見ても」
「やっぱり」
 皆彼女を指差してあれこれと話す。それは最早誰がどう見てもであった。
「あの、趙雲さん」
 リムルルが呆然としながら彼女を見上げながら問うた。
「何をされてるんですか?」
「あっ、リムルルちゃんそれは」
 しかしだった。ここで孔明が言う。
「言ったらいけないことになっています」
「言ったらなんですか」
「はい、あの人は華蝶仮面さんです」
 彼女は流石にわかっていた。
「ですから。ここはですね」
「華蝶仮面さんと御呼びするんですね」
「そうです。あの人に合わせないとメンマを取り上げられた時と同じだけ怒りますから」
「難しい人なんですね」
 真吾も呆れながら言う。
「それって」
「まあ気にしないで下さい」 
 強引にそういうことにする孔明だった。
「それでなんですが」
「乱世に舞い降りた一輪の花」
 趙雲の言葉は続いていた。
「人呼んで華蝶仮面!」
「という設定なんだな」
「成程」
「じゃあそういうことで」
「やっていきましょう」
 皆それに合わせることにした。そうしてであった。
「それで華蝶仮面さん」
 リムルルはこう言い換えた。
「それで私達をですか」
「そうだ、助太刀に参った」
 まさにその通りだというのだ。白い満月を背にして颯爽と言う。
「今ここに!参る!」
 天高く跳んでだ。そのうえで何処からともなく来た愛馬に乗った。
 そこから烏丸の兵達を手にしている槍で縦横無尽に突き崩す。少なくともそれで孔明達は助かった。
 そして彼女だけではなかった。他の面々もだ。
「はああああああっ!!」
「たああああああっ!!」
 関羽と張飛がだ。それぞれの得物から衝撃波を出してそのうえで投石器を一撃で叩き潰したのである。
 それからだ。馬超もだ。
「あたしだってな!」
「翠、出せるか」
「ああ。星、そっちはどうだ!」
「いけるぞ!」
 こう馬超の隣に来て言うのである。
「私もまたな」
「そうか、それならな!」
「やるぞ!」
「愛紗達と同じくな」
 二人もそれぞれの槍を大きく振った。それによってだ。
 凄まじい衝撃波を出してだ。彼等もその投石器を粉砕したのだった。
「何っ、投石器が!?」
「一撃でか!」
 烏丸の兵達もこれには唖然となった。
「まさか、あいつ等」
「化け物か!?」
「化け物ではないわ」
 黄忠は馬上から弓を放っていた。
「ただ」
「ただ!?」
「何だってんだ?」
「虎よ」
 それだというのである。
「そう覚えておくといいわ」
「人が虎だって!?」
「どういうことだ、それは」
「それぞれが虎の強さと誇りを持っている」
 言いながらだった。黄忠は最後に残った投石器に弓をつがえてだ。そうして。 
 放った。するとそれは衝撃波そのものとなって投石器に突き刺さった。それで一撃で粉砕してしまったのである。
「これでよし、ね」
「紫苑さん、お見事です」
 これには孔明もこう言うだけだった。
「これで投石器は全てですね」
「ええ、そうみたいね」
 黄忠もその言葉に頷いた。
「これで」
「そうだな。後は敵の掃討だけだ」
 関羽は周囲を見回して述べた。
「それで終わりだな」
「よし、行くぜ!」
「皆でやっつけるのだ!」
 馬超と張飛が叫んでだ。そのうえで周囲の敵を倒していった。
 桃家荘での戦いは劉備達の援軍により彼等の勝利となった。そして烏丸本軍との戦いもまた勝利を収めることができたのである。
「勝ちましたわね」
「全く。今回もやってくれたわね」
 曹操が勝ち誇る袁紹の横で溜息をついていた。
「どうしてそう前線に出たがるのよ」
「ですから戦ですから」
「全く。命知らずとかそういう問題じゃないでしょ」
「全くです。何というか」
「何かあってからでは遅いのですが」
 夏侯惇と夏侯淵もこれにはぼやいてばかりだ。
「麗羽殿は血気にはやり過ぎます」
「我等から見てもです」
「あら、前線で指揮を執るのは当然でしてよ」
 まだ言う袁紹だった。
「それは」
「だから。総大将が出てどうするのよ。しかも」
 曹操の溜息と共の言葉が続く。
「この戦いはそこまでする戦いじゃないでしょ」
「そうでして?」
「そうよ。まあとにかく戦いは終わったわ」
 曹操はそのこと自体はいいとした。
「これでね」
「そうですわね。ところで」
 袁紹はここで話を変えてきた。
「劉備さんはどうでして?」
「ああ、あのおっとりした方ですか」
「そういえばあの方は」
 夏侯惇と夏侯淵も言われて思い出した。
「下手をすれば命令違反になりますが」
「どうしたものか」
「それならいい考えがあるわ」
 しかしここで曹操が言った。
「劉備は私達の命令で後方に攻撃をかけていた敵の別働隊を撃退した」
「あっ、それならいいですね」
「ですよね。武勲を挙げたことになりますよね」
 顔良と文醜は曹操のその言葉を聞いて笑顔になった。
「命令違反にもなりませんし」
「劉備さんにとってかえっていいですよね」
「そうですわね。これでいいですわね」
 袁紹もそれでいいとした。
「では大将軍にはその様に」
「ええ、そうしましょう」 
 こうしてだった。彼女達は何進に対して劉備について報告した。これを受けて何進は劉備の功績を認め琢の相に任じたのだった。
「私が、ですか」
「はい、この度の武勲を認められてです」
「それによってです」
 関羽と孔明がにこりと笑って劉備に告げていた。
「それでなのです」
「お受けされますか?」
「なっていいんですよね」
 劉備は戸惑いながら二人の言葉に応えた。
「私が」
「是非にとのことです」
「何大将軍からですよ」
「ということは」
 それを聞いてだ。黄忠が述べた。
「皇室の外戚である大将軍のお言葉だからそのままなりますね」
「それなら問題ないのだ」
 張飛も笑顔で頷く。
「お姉ちゃんは是非なるべきなのだ」
「お姉ちゃん、そうだな」
 今の張飛の言葉に趙雲がふと目を動かした。
「互いに力を合わせて勝利を収め救い合った。だからここは」
「ここはって何だ?」
 馬超がその趙雲の言葉に顔を向けた。
「何するんだよ」
「ひょっとして義兄弟の契りとか?」
 馬岱はそれではないかというのだった。
「それなの?」
「そうだ、それだ」
 趙雲は微笑んで馬岱に述べた。
「どうやら我等も主に巡り会えたようだしな」
「主、そうですね」
 孔明もその言葉に微笑んだ。
「劉備さんこそがですね」
「主って私が」
「そうだな、劉備殿なら問題はないよな」
 馬超も笑顔で話す。
「援軍に戻るのを決めたのも劉備殿だったしな」
「よし、なら話は決まりだ」
 関羽も優しい笑みになっていた。
「劉備殿を我等の主として」
「そして義兄弟の契りを結びましょう」
 黄忠もいた。
「劉備殿が琢の相になったそのお祝いも兼ねて」
「さあ、それならいい場所がありますよ」
 孔明が笑顔で話す。
「そこで宴を開きましょう」
「よし、じゃあ俺達もな」
「参加させてもらうか」
 テリーと丈が笑顔で言ってきた。
「俺達は俺達で兄弟がいてそれには入られないがな」
「それでもな。酒に御馳走は頂くからな」
「何か現金ね。けれどいいわ」
 舞は微笑みながら述べた。
「それでね」
「それじゃあ皆さん行きましょう」
 孔明が笑顔で話した。
「是非」
「よし、それじゃあ」
「行くのだ!」
 最後に関羽と張飛が応えた。そうしてだった。
 全員で来た場所は桃園だった。そこは桃色の花が咲き誇る素晴しい場所だった。そしてそこで七人がそれぞれの武器、それに団扇を重ねていた。
「我等は生まれた時は違えども」
「生きる時は同じ」
「そして死ぬ時も同じ」
「それが分かたれることはない」
「例え何があろうとも」
 頭上に掲げられたそれぞれの武器が重なり合っていた。そのうえでの言葉だった。
「今ここに誓おう」
「兄弟として」
「はい」
 この言葉と共にだった。乙女達は義姉妹となった。
 それを見てだ。馬岱が微笑んでいた。
「蒲公英は加わらなかったけれどいいものね」
「何で入らなかったんだ?」
 二階堂がその馬岱に問う。彼等は桃の木のところに立っている。
「あんたは」
「蒲公英は翠お姉ちゃんともう義姉妹みたいなものだからね。だから」
「それでか」
「従姉妹同士だから」
 だからだというのだった。
「だからよ」
「そうか、それでなのか」
「誘われたけれどいいかなって思ったのよ」
 そうだとも二階堂に話す。
「だからね。蒲公英は見てるだけなの」
「それもありだな。じゃあな」
「そうね、誓いも終わったし」
「飲むぜ。刺身もあるしな」
「おいおい、相変わらず好きだな」
 草薙は二階堂が笑顔で刺身と言ったことに少し呆れた声で述べた。
「生の魚は結構危ないぜ」
「へっ、俺がそれ位でどうにかなるかよ」
 二階堂は笑いながら草薙に返した。
「もっとも変な魚は焼くがな」
「それがいい。そうした魚はわかるな」
「ああ、直感でな」
 わかると。大門にも答える。
「とにかく早速飲んで食うか」
「そうだな。そうしよう」
 最後に大門が頷いてだった。全員で宴に入る。戦士達は今集った。だがまだ星が多く残っていた。その星達もまた集っていくのだった。


第二十一話   完


                          2010・6・21



劉備の元に結構集まった形に。
美姫 「色んな所で再会もあったりしたわね」
だな。しかし、結構緊迫した戦闘なんだけれど公孫賛が哀れすぎてそっちに気が。
美姫 「いつかちゃんと覚えられる日が来ると良いわね」
さて、とりあえずは休息を得れたな。
美姫 「ここから次回がどうなるのかしらね」
次回も待っています。



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