『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第百三十九話  群雄、戦を終わらせるのこと

 三人の前にだ。ゲーニッツが姿を現した。その彼を見てだ。
 草薙はだ。こう彼に告げた。
「じゃあ遂にだな」
「はい、全てを終わらせましょう」
 ゲーニッツは悠然とした笑みで草薙の言葉に応えた。
 そしてそのうえでだ。次はだ。
 八神を見てだ。彼にはこう言った。
「貴方は最後の最後まで、でしたね」
「俺はオロチではない」
「その血脈に従われないというのですね」
「先祖のことなぞ知るか。俺は俺だ」
 ゲーニッツに対してもだ。言葉を変えない八神だった。
「だからだ。俺を利用しようとした貴様を倒す」
「左様ですか」
「そして私も」
 神楽はだ。ゲーニッツを見据えて彼に告げた。
「貴方を今度こそ完全に倒し」
「仇を取られるというのですね」
「姉さんも想い、果たさせてもらうわ」
 こうゲーニッツに告げたのである。
「例え私がどうなろうとも」
「御命は惜しくはないのですか」
「ええ、惜しくはないわ」
 毅然としてだ。ゲーニッツに言葉を返す神楽だった。
「この神楽家の血脈、それに」
「それにですか」
「姉さんの想い、そういったものが適えられるなら」
 自分の命は惜しくない、そう言ってだ。
 そしてだった。三人はゲーニッツと戦いの間合いに入った。オロチとの最後の戦いもはじまったのだった。
 厳顔は砲を放った。そのうえでだ。
 妖術を繰り出す司馬師にだ。言った。
「これでどうじゃ!」
「ふん、この程度!」
 司馬師はその砲をだ。右手を左から右に横に払いだ。
 それで消し去って見せた。そのうえで言うのだった。
「甘いわね。この程度ではね」
「倒せぬというのじゃな」
「ええ、甘く見てもらっては困るわ」
「私達もまたね」 
 司馬師だけでなく司馬昭も言ってきた。二人は今も共にいるのだ。
「姉様と同じく妖の力を持っているのよ」
「だからこの程度では倒れないわよ」
「ふん、言うのう」
 厳顔はその司馬師に対して言い返す。
「ではあくまでか」
「そうよ。この世を闇で覆う」
「そして私達の国を築くのよ」
 司馬師だけでなく司馬昭も言ってきた。
「姉様と共に。人ならざる者の王朝を」
「その国をね」
「ならば何としてもじゃ」
 厳顔もだ。二人の言葉を受けてだ。
 あらためて砲を構えてだ。再び返すのだった。
「わしも絶対にじゃ」
「私達をなのね」
「倒すというのね」
「人としてのう」
 彼女はあくまで人として言う。そのうえでだ。
 お互いに対峙したままだ。構えを取る。そこにだ。 
 魏延に馬岱、そして公孫賛と何進が来た。さらにだ。
 紀霊や楽就も来た。袁術の下にいる者達もだ。
 二人の妖女を囲みだ。一斉に身構える。そうしてだ。
 今度は魏延がだ。二人に対して言ってきた。
「桃香様のところには行かせん!」
「あら、忠義ね」
「それによってなのね」
「そうだ。私は桃香様の忠臣!」
 その自負と共に言うのだった。
「だからこそ何としても御護りする!」
「言うわね。ならその忠義」
「叩き潰してあげるわ」
 二人は魏延のその言葉を嘲笑で受けた。そしてだった。
 そのうえでだ。構えを取りだ。一同と戦うのだった。本陣においても死闘が繰り広げられていた。
 しかしその中でだ。孔明と鳳統はだ。
 その本陣での戦いを目の前にして戸惑う劉備達にこう言うのだった。
「大丈夫です、ここはです」
「桃香様は歌に専念して下さい」
「桔梗さん達は必ずあの二人を倒してくれます」
「ですから」
「私達は歌うのね」
 今は歌を止めている。そのうえで孔明達に問うたのである。
「そうすることが一番なのね」
「そうです。皆さんの歌がこの戦いを決ます」
「その歌で敵を圧し味方の兵達の士気を奮い立たせてくれます」
「ですからどうか」
「歌い続けて下さい」
「わかったわ」
 二人に言われてだ。劉備はだ。
 確かな顔で頷いてだ。共に舞台にいる張角達に言うのだった。
「それじゃあね。戦いの間は」
「ええ、そうよね」
「歌って。そうして」
 まずは張梁と張宝が劉備に応える。
「この戦いを終わらせて」
「そうして平和を」
「皆で仲良く楽しく暮らすんだから!」
 張角が確かな顔で言い切った。
「もう戦争なんかいらない!必要なのは!」
「笑顔!」
 また言う劉備だった。
「皆の笑顔の為にも!」
「歌わないと!」
 張角は劉備に応えた。そしてだ。
 劉備に顔を向けてだ。こう言うのだった。
「じゃあ。皆を信じて!」
「最後の最後までね!」
「歌いましょう!」
「皆の為に!」
 二人はこうしてだ。共にだった。妹達と共に。
 四人で歌い続ける。そして孔明と鳳統もだ。歌い続ける。そしてそれはだ。
 戦場全体もだった。戦いの中でだ。連合軍の兵達は歌いはじめていた。そうしてだ。
 関羽達五虎はだ。司馬尉、この戦乱の中心にいる者の一人を囲んでだ。こう言っていた。
「聴け、この歌を!」
「これが人の歌なのだ!」
 関羽と張飛がだ。司馬尉に対して告げる。
「人は闇に飲み込まれはしない」
「御前なんかに負けないのだ!」
「そうだ、貴様がどう言おうとだ」
「あたし達は負けないんだよ!」
 趙雲と馬超もだ。司馬尉を見据えて言う。
「ここで貴様を倒す!」
「絶対にな!」
「その通りよ。例え九頭の九尾の狐であろうとも」
 黄忠も弓を構えている。
「ここで倒すわ」
「覚悟するのだ妖怪!」
 張角は今にも突き進まんばかりに叫ぶ。その八重歯が見えている。
「ここで成敗してやるのだ!」
「言うわね。けれどね」
 司馬尉は五虎に囲まれてもだ。それでもだった。
 悠然とした態度のままでだ。こう言うのだった。
「この私を倒すことはね」
「できないというのだな」
「甘く見ないことね」
 関羽に対してだ。司馬尉は構えも取らずだ。
 その全身に黒い禍々しい、触手の様にうねる気を纏わせつつだ。それでだった。
「この司馬尉仲達をね」
「では私達をか」
「倒すわ」
 このことを断言してみせるのだった。
「それも最高の恐怖と絶望を教えてね」
「言っておくけれどな!」
 馬超も己の十字槍を構えて述べた。
「あたし達はそういうのは知らないんだよ!」
「恐怖、絶望は人が必ず乗り越えられるものだ」
 趙雲は司馬尉が言ったその二つのものをその程度のものだと看破した。
「そうしたもので私達を脅かそうとしてもだ」
「無駄なことよ」
 黄忠は狙いを定めていた。司馬尉に対して。
「私達は勝つわ。必ずね」
「行くぞ司馬尉!」
 関羽が告げた。
「そしてこの戦いを終わらさせてもらう!」
「行くのだ!」
 張飛の言葉と共にだった。黄忠が弓を放ち。
 四人が司馬尉に一斉に襲い掛かる。五人と彼女の最後の戦いもはじまった。
 典韋と許緒も戦っている。その横にだ。
 甘寧と周泰が来てだ。二人に言ってきた。
「戦いは我等が押している」
「ですがそれでもです」
「そうよね。油断大敵よね」
「まだオロチや司馬尉がいるから」
「そうだ。だからこそだ」
「油断せずに敵を倒していきましょう」
 実際にその手にある刃で敵を倒していく二人だった。そうしていた。
 呂布もまただ。張遼、それに華雄と共にだ。
 戦場にいた。その中でだ。
 呂布は傍らにいる陳宮にだ。こんなことを呟いた。
「この戦いが終わったら」
「どうするのです?」
「ねねと二人で」
 陳宮、彼女の名前を出してだった。
「行き場所のない動物達を集めて」
「それでなのです?」
「一緒に暮らしたい」
 こう陳宮に言ったのである。
「そうしたい」
「ねねもなのです」
 そしてだ。それは陳宮もだった。
 確かな顔でだ。こう言うのだった。
「恋殿とずっと」
「暮らしたい?」
「生きていたいのです」
 暮らすのではなかった。生きるのだった。
 そのことを言いながらだ。そのうえでだ。
 戦局を見渡してだ。こう呂布に告げた。
「今度は右です!」
「右の敵を」
「そうです。攻めるべきです」
 戦局を見ての言葉だった。見ればだ。
 実際に右の敵が乱れている。そこを衝くべきだというのだ。
「そうすれば敵に打撃を与えられるのです」
「わかった。それなら」
「恋殿にはこのねねがいつもいるのです!」
 強い声でだ。陳宮は言った。
「だから何時までも一緒なのです!」
「そやな。そやったらや!」
「私達もだ!」
 張遼と華雄がだ。微笑みだ。
 そのうえでだ。二人はだ。
 それぞれ呂布と陳宮の左右につきだ。二人と共にだった。
 敵に突き進む。その中でまた言うのだった。
「うちもこの戦が終わったら関羽に告白や」
「私はそうだな、長寿の妙薬でも探すか」
「さて、戦が終わった時が楽しみや」
「泰平を楽しもうか」
「平和を手に入れる為に戦う」
 呂布は表情が無いまま。その両手に方天戟を持ち。
 その右の敵に突き進みながらだ。言うのだった。
「なら勝つ。絶対に」
「そうです。絶対なのです!」
 陳宮はその呂布から離れない。そうしてだった。
 戦いはさらに進んでいっていた。歌と共に。
 草薙は神楽、八神と共にオロチとなったゲーニッツと戦っていた。そのゲーニッツはだ。
 風だけではなかった。オロチの力もだ。
 その両手から放ちつつだ。三人に対して悠然と言ってきた。
「さて。今の私はです」
「倒せるかっていうんだな」
「そう言うか」
「はい。私はオロチ最強の男」
 その自負があった。確かにだ。
「その私にオロチが宿ったのですから。勝てますか?」
「ええ、勝てるわ」
 毅然としてだ。神楽はそのゲーニッツに返した。
「私達は。必ず」
「今の私にもですか」
「貴方はかつて二千年前に封じられ」
 最初の戦いだ。三人の祖先とオロチの最初の戦いだ。
 そしてだ。さらにだと言う神楽だった。
「前にも私達に封じられたわ」
「だからだというのですか」
「私達は負けない」
 毅然としたものは今もだった。
「例え何があっても」
「そう言うのですか。しかしです」
「そこから先は言うことがない」
 こう言いだ。八神はだ。
 その右手をだ。下から上に振りだ。炎を出した。
 だがその炎は青ではなかった。赤い炎だ。その炎をゲーニッツに向けて放ってからだ。
 こうだ。彼に言ったのだった。
「俺は貴様を倒す。そしてつまらん因果を終わらせる」
「自由になりたいのですか?」
「自由?違うな」
 それとはまただ。違うというのだ。
「俺は俺を縛る貴様を倒すだけだ」
「それだけですか」
「そうだ。それだけだ」
 こう言うのだった。
「貴様を倒してだ」
「そう言われますか」
「少なくともな!」
 草薙は突進する。その両手に炎を宿らせてだ。
 そうしてゲーニッツの腹や胸に連続して攻撃を浴びせる。そうしながらだ。
 ゲーニッツにだ。こう言うのだった。
「俺達は手前の好きなようにはさせねえ!ここで倒してやる!」
「人間が神をですか」
「神だからっていってもな!」
 ゲーニッツは既にオロチと完全に一つになっていた。人格もだ。
 その彼に荒咬み等を浴びせつつだ。草薙はゲーニッツに対していた。
「この世界を好きな様にはさせねえんだよ!」
「世界を好きな様にしようとしているのは人間ではないのですか?」
「だからなんだな」
「はい、私は人を滅ぼします」
 その考えをだ。ゲーニッツは言った。
「文明なるものに染まった人をです」
「それが世界を好きなようにするからか」
「人は過ちを犯しました」
 あくまでだ。オロチからの視点での言葉だった。
「文明を手に入れ奢り昂ぶり」
「そしてだっていうのかよ」
「はい、世界を己のものと思い多くの命を奪っていきました」
「環境破壊ってやつだな」
「この世界は自然のままであるべきなのです」
 言いながらだ。ゲーニッツも反撃に転じる。その草薙にだ。
 その長身から腕や足を繰り出す。そしてだ。
 至近距離でだ。草薙に鎌ィ足も出す。己の力もだった。
 そうしながらだ。草薙、そして八神と神楽にも言うのであった。
「だからこそ。私は自然を、この世界を破壊する人を滅ぼすのです」
「手前の話は聞いたぜ」
 ゲーニッツの右の拳が来た。しかしだ。
 草薙は己の左手でその拳を掴んだ。そうして動きを止めてだ。
 それからだ。こうゲーニッツに返すのだった。
「けれどな。それでもな」
「くっ、私の拳を」
「人間は確かに独善さ。けれどな」
 だが、だ。それでもだと言う草薙だった。
「それは手前も同じなんだよ!」
「私が。人と同じ」
「人間は自然を破壊してるさ。けれどな」
「その自然を護っているのも人間よ」
 神楽は人間のその一面も指摘した。
「人はその二つの顔を持っているのよ」
「そのことを見ないで一方的に人を断罪するのがな!」
 まさにだ。それこそがだというのだ。
「独善なんだよ!」
「私をそう言うのですか」
「ああ!それに過ぎないんだよ!」
 また告げる草薙だった。
「そしてそれはな!手前が人を滅ぼす!」
「それが何か?」
「人と一緒にある多くの命や自然を滅ぼすってことでもあるんだよ!」
「人もまたこの世界の一部!」
 神楽もこのことを指摘する。
「貴方は世界を護ると言いながら世界を破壊しようとしているのよ!」
「あの司馬尉や于吉と手を結んでこの世界を破壊するっていうのもな!」
「貴方が何もわかっていない証!」
「俺達はこの世界の全部を護る為に!」
「貴方を倒します!」
「俺は世界には興味がない」
 ここでも八神は八神だった。だが。
 それでもだった。オロチには殺意の目を向けてだ。
 そうしてだ。こう神に告げたのだった。
「しかしだ。俺を利用した貴様には死んでもらう」
「それ故にですか」
「ではいいな」
 その剣呑な目をオロチに向けたままでの言葉だった。
「俺のこの炎、受けるのだな」
「くっ、このままでは」
 右の拳は草薙に捉えられたままだった。離れることはできない。
 そしてそこに八神が来てだ。彼は。
「楽には死ねんぞ!」
 こう叫びだ。青から赤に変わった炎をだ。
 それを一旦ゲーニッツの足下に出してだ。そこからだ。
 もう一度炎を出してそこにぶつけて。紅蓮の炎の柱を出した。
 ゲーニッツの動きがその炎の中で完全に止まった。そこに。
 草薙はその左手をゲーニッツの拳から放しそこからだ。
「喰らいやがれ!」
 大蛇薙ぎを放った。炎に包まれたゲーニッツは大きく吹き飛ばされる。
 そしてそこに神楽が来てだ。
「貴方の力、封じます!」
 光と共にだ。乱舞してだ。
 己の渾身の気をだ。ゲーニッツに込めてだ。打ち込んだのだった。
 三人の攻撃を次々に受けたゲーニッツはだ。完全にだ。
 姿を消した。しかし声だけが残りだ。
 三人にだ。こう言ってきたのだった。
「無念です」
「消されたことがだというのね」
「はい。この世界の過ちを正そうとしたというのに」
「貴方は最後の最後までわからなかったわね」 
 神楽は少し残念そうにだ。ゲーニッツと一体化しているオロチに返した。
「人のことも。世界のことも」
「人はこの世を害するものです」
 まだこう言うゲーニッツだった。
「そしてだからこそ私は彼等を。貴方達を」
「その貴方に言っておくわ」
 毅然としてだ。神楽はゲーニッツに告げた。声だけが残っている彼に。
「人は過ちを犯しても何時かは」
「何時かはですか」
「この世界をよりよくしていくわ。必ずね」
「信じられませんね」
「最初から信じてもらうつもりはないわ」
 神楽はオロチの否定の言葉にも毅然として返す。
「けれどそれでも」
「人はですか」
「ええ、貴方の思う様にはならないわ」
 こう言い切って見せたのだった。
「何があろうともね」
「どうでしょうか。しかし私は最早」
「倒させてもらったわ、完全に」 
 だからこそだというのだ。
「もう。この世に出ることはできないわね」
「はい、私は完全に滅びます」
 声もだ。やがては消えるというのだ。
「これでお別れになります」
「なら。最後に言っておくわ」
 神楽は空、ゲーニッツの声がするその方を見上げて彼に告げた。
「さようなら」
「お別れの言葉ですか」
「ええ、貴方と。それに」
「それに?」
「姉さんと。私達の因果に」
 そういったもの全てにだ。神楽は別れを告げたのだった。
 ゲーニッツは別れの言葉を言わなかった。言おうとしたのかそれとも最初から言うつもりはなかったのか。だがそのどちらにしてもなのだった。
 彼は消えた。完全にだ。その声さえもだ。
 それを見届けてからだ。草薙は言った。
「これで俺達の因果は完全に終わったんだな」
「ええ、家としてね」
「じゃあこれで自由か」
「血脈の因果はね」
 それはだと述べる神楽だった。だが。
 八神がだ。その草薙に言ってきたのだった。
「これで心おきなくだな」
「そうだな。戦えるな」
「貴様を倒すのは俺だ」
 また草薙にこう告げるのだった。その八神はだ。
 草薙の後ろ、少し離れた場所にいた。そしてだ。身体を草薙の背から見て横にしていた。
 そこからだ。こう彼に告げたのである。
「俺以外の何者でもない」
「そうだな。そして手前を倒すのもな」
「貴様だな」
「元の世界に戻ればな」
「首を洗って待っていろ」
 八神は告げた。
「そしてだ。俺以外の奴には倒されるな」
「へっ、妙な関係だな」 
 二人の関係についてだ。こうも言う草薙だった。
「だがな。その関係もな」
「受け入れているというのだな」
「絶対にケリはつけるぜ」
 即ちそれはだった。
「俺が勝ってな」
「奢らないことだな。それは俺の台詞だ」
「どうだろうな」
「何にしてももう因果は消えたわ」
 二人の間にあるものを見てだ。神楽はもう入ろうとはしなかった。
 だがそれでもだ。このことは言うのだった。
「それならね」
「ああ、また別の奴等との戦いはあるにしてもな」
「俺は俺のやるべきことを果たさせてもらう」
 二人はこう応えた。そうしてだった。
 今はオロチとの戦いが遂に終わったことを実感していた。二千年に渡る戦いがだ。
 馬岱がだ。司馬師と司馬昭に言っていた。
「中々しぶといわね」
「当然よ。私達にもね」
「やるべきことがあるから」
 こう返す二人だった。そしてだ。
 その両手に黒い気を帯びさせてだ。それを周囲に乱れ飛ばす。その激しい攻撃を繰り出してだ。
 二人はだ。こうも言ったのだった。
「さあ、この私達をね」
「一体どうして倒すのかしら」
「ふん、言うのう」
 そう言われてもだ。厳顔はだ。
 余裕のある笑みを浮かべてだ。こう言うだけだった。
「その程度の攻撃でわし等に勝つというのか」
「何っ、私達の妖気を見ても」
「まだそう言えるというの?」
「わし一人なら御主等一人の相手もできん」
 それは無理だとだ。厳顔もわかっていた。
 しかしだ。彼女がわかっていることはそれだけではなかった。そのことも言うのだった。
「しかし今は皆がおる」
「そうだ、私もだ!」
「蒲公英もいるんだから!」
 こうだ。魏延と馬岱が名乗る。そしてだ。
 袁術の家臣である紀霊と楽就もだ。それぞれ得物を構えて言う。
「私達もだ!」
「ここにいる!」
 こう名乗りを挙げてだ。二人を囲んでいるのだった。
 そしてだった。そこにさらにだった。
 呂蒙とだ。周瑜の軍師二人が来た。しかしだ。
 周瑜はその手に鞭を持ちだ。呂蒙も身構えている。それを見てだ。
 司馬師と司馬昭はだ。こう言うのだった。
「二人共只の軍師ではないわね」
「どうやら」
「私とて戦の場では常に己も戦っている」
 まずは周瑜が言う。
「そしてだ」
「私もかつては孫家の親衛隊にいた者」
 そうだったというのだ。呂蒙もだ。
「そして暗器も使えます」
「その我等も御主達と戦おう」
「そして倒します!」
 二人の言葉を聞いた司馬姉妹はだ。少し侮蔑した笑みになりだ。
 そのうえでだ。彼女達に問い返したのだった。
「軍師の仕事はいいのかしら」
「それを放り出したのではないようだけれど」
「安心しろ。そちらは穏に任せた」
「あの人なら大丈夫です」
 そしてだ。実際に前線ではだ。陸遜が穏やかな調子で孫策達に話していた。
「はい、このままです」
「敵を囲んでね」
「そうして攻めるのじゃな」
「はい、それでお願いします」
 こうだ。孫策と黄蓋に策を述べる陸遜だった。
「戦いはもうすぐ終わりますので」
「そうね。敵将もかなり倒れたし」
 孫権は戦局を見つつ陸遜に返した。
「それならね。気合を入れなおして」
「気を抜かないでお願いします」
 陸遜は口調も表情もおっとりとしている。しかしだった。
 戦局全体を見てだ。主達に述べていた。
「そしてそれは戦が終わってからもです」
「わかってるわ。勝って兜の緒を締めろね」
「その通りです」
 こう話してだ。彼女は軍師としての務めを果たすのだった。
 このことを知っているからこそだ。周瑜も呂蒙も安心してだ。司馬姉と対峙できていたのだ。
 その対峙の中でだ。周瑜は厳顔に言った。
「厳顔殿、いいか」
「うむ、何じゃ」
「囲むのは止めるべきだ」
 今の包囲をだ。解くべきだというのだ。
「ここは二人の正面に集る」
「それでは敵の背を撃てぬぞ」
「それでもいい」
「よいと申すか」
「敵の背を狙うだけが戦ではない」
 周瑜は鋭い目で司馬姉妹を見ていた。そのうえでの言葉だった。
「だからだ。ここはだ」
「ふむ。まずは我等は敵の前に集り」
「そして攻める」
 そうするというのだった。
「わかったな。まずは敵の正面に集ろう」
「わかった。ではじゃ」
 厳顔も司馬姉妹を見据えたままだ。
 そのうえで仲間達にだ。こう告げたのだった。
「よいか、周瑜殿の言う通りにじゃ」
「この連中の正面にか」
「集るのね」
「うむ、そうせよ」
 こうだ。厳顔は魏延と馬岱にも答えた。するとだ。
 二人はすぐに頷きだ。姉妹の前に来ていた厳顔の横に来た。
 袁術の家臣達もだ。彼女の言葉に頷きだ。そのうえでだ。
 彼女達もだ。包囲を解きだ。やはり集ったのだった。無論周瑜と呂蒙もそこにいる。
 そうして正面に集結してからだ。周瑜は厳顔に言った。
「厳顔殿はそこから砲撃を行ってくれ」
「それだけではないな」
「うむ、乱れ撃ちだ」
 そうしてくれというのだ。
「いいな。狙いは定めてくれなくてもいい」
「とにかく撃って撃って撃ちまくれか」
「そうしてくれ、いいか」
「わかった。それではのう」
 厳顔も周瑜の言葉を入れて頷く。そしてだ。
 そのうえでだ。二人に向けて砲撃の用意に入った。そして実際にだ。
 乱れ撃ちをはじめる。それは二人の攻撃を止めるまでのものがあった。
「くっ、この砲撃は!」
「滅茶苦茶、けれど」
「これでは迂闊に攻められないわ!」
「よくもこれだけの攻撃を!」
「狙いを定めるなら何かと間が開くがのう!」
 だが、だ。乱れ撃ちならばだというのだ。
「これならどれだけでも撃てるわ!」
「よし、今だ!」
 ここでだ。また叫ぶ周瑜だった。
「三人共、攻撃開始!」
「わかった!」
「いっちょやるで!」
「ここで決めるの!」
 今度は突如だ。司馬姉妹の右手からだ。三人が出た。
 楽進に李典、そして于禁だ。その三人がだ。
 一斉にだ。二人の側面から攻撃を浴びせたのだった。これにはだ。
 さしもの二人も戸惑った。それで構えを崩す。そこにさらにだった。
 周瑜は自ら鞭を手にだ。仲間達に対して叫んで突進した。
「攻める!総攻撃だ!」
「よし、今だな!」
「やってやるわよ!」
 魏延に馬岱がだ。彼女の言葉に応え。
 共にだ。突進して二人に渾身の攻撃を浴びせた。呂蒙もだ。
 その両手からありったけの暗器を放ってだ。二人を攻めた。
「これで終わりです!」
「我等もまた!」
「やります!」
 最後に紀霊と楽就もだ。二人に突進してだ。
 激しい攻撃を繰り出した。彼女達の渾身の力と技が二人を撃ちだ。
 全てを吹き飛ばした。その後で戦場に立っていたのは。
 厳顔達だった。厳顔はその戦場を見て呟いた。
「やったのう」
「はい、私達は生きています」
「皆無事です」
 魏延と馬岱がだ。その厳顔の言葉に応えて言う。
「ですが司馬師と司馬昭は」
「一体何処に」
「安心するといいわ。私達はね」
「ここにいるわ」
 二人の声がした。見ればだ。
 魏延達が攻撃を仕掛けたそれまで彼女達がいた場所から離れた場所にだ。二人はだ。
 それぞれ立っていた。だがその全身はだ。
 傷だらけになりだ。服もずたずたになっていた。髪は乱れあちこちから血が流れ滲み出ている。その二人はだ。
 何とか立ち苦悶の顔を浮かべながらも憎しみに燃える目で歯を食いしばりだ。顔をあげて言うのだった。
「やってくれたわね」
「この私達にここまでしてくれるなんて」
「くっ、まだ生きているのか」
「何ちゅうしぶとい奴等や」
 それを聞いてだ。楽進と李典はだ。
 唖然としながらもだ。また闘志を燃やして言う。
「ならばまただ」
「倒すまでやな」
「安心していいわ。私達はもうね」
「戦う力どころか」
「命も尽きたわ」
「あんた達の攻撃でね」
 そうなっているとだ。姉妹は言うのだった。
 そしてだった。姉妹は満身創痍の中でだ。戦士達に言った。
「この世界を闇の世界にするという私達の望み」
「それは適えられそうにもないわね」
「私達が倒される程の相手」
「なら姉様も」
「そこまでわかるとはな」
 周瑜は死を前にしても衰えていない二人の洞察にだ。感嘆さえ覚えた。
 そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「やはり恐ろしい者達だな」
「けれど。もうこれでね」
「私達は終わりよ」
 敗北は認める二人だった。
「ここまで傷を受ければ最早」
「生きられるものではないわ」
「この戦いは貴女達の勝利よ」
「そのことを認めてあげる」
「なら安心して死ぬの」
 于禁は少しむくれた顔で姉妹に告げた。
「沙和はもう戦いなんて嫌なの。女の子らしく生きたいの」
「そうだ、この世を破壊と混沌で覆うなぞだ」
「絶対に許さないだから」
 魏延と馬岱も姉妹に言う。
「だからだ。そのままだ」
「安心して死んで」
「何なら介錯はするわ」
「最後の情けでね」
 紀霊と楽就が前に出ようとする。しかしだった。
 姉妹はその彼女達にだ。毅然として言った。
「安心していいわ。その必要はないから」
「私達は今死ぬから」
 介錯の必要すらない、そうだというのだ。
「このまま二人でね」
「死なせてもらうわ」
「そうですか。それでは」
 呂蒙も介錯に動こうとした。しかしだ。
 二人の言葉を受けて動きを止めた。そしてそのまま二人を見届けることにしたのだ。
 その二人はだ。互いに寄り添いながらだ。その身体を消していき。
 そのうえでだ。お互いをいとしげに見合いつつ最後にこう言った。
「また生まれても」
「はい、その時もまた」
「私達はね」
「一緒です」
 こう言い合い姿を消す二人だった。こうしてだ。
 司馬師と司馬昭は完全に消えた。これでまた一つの戦いが終わった。
 そこにだ。猛獲達が来てだ。こう厳顔達に言ってきた。
「あの白い奴等も全員倒したにゃ」
「もう一人も残ってないにゃ」
「じゃあ後はどうするにゃ?」
「他の場所で戦うにゃ?」
「そうだな。ここには舞台を護る者達を置きだ」
 そうしてだとだ。周瑜は猛獲達の言葉を受けたうえで述べた。
「主な者達は敵の本陣に向かう」
「わかった。しかしじゃ」
「しかし。何だ」
「まさかあそこであの三人を繰り出してくるとはのう」
 厳顔は楽しげな笑みになってだ。こう周瑜に話すのだった。
「それは考えんかったがのう」
「策だ。内密にしていたのはだ」
「敵を欺くにはじゃな」
「そうだ。隠していたのは悪かったがな」
「よい。そのお陰で勝てた」
 二人は微笑みを浮かべながら話す。
「流石は孫家の軍師じゃ。ではこれからもじゃ」
「こちらもだ。これからもだ」
「宜しく頼むぞ」
「末永くな」
 笑みを浮かべ合いだ。戦友達は話した。そしてそのうえで最後の戦いに向かうのだった。
 司馬尉はだ。五虎に囲まれながらも彼女達と互角に戦っていた。その死闘の中でだ。
 馬超は司馬尉、縦横無尽に妖術を繰り出す彼女を見てだ。こう言うのだった。
「ったくよ。どれだけ攻めてもよ」
「全く動じないのだ」
 張飛もだ。忌々しげに応える。
 二人も他の者達も身構えたまま司馬尉を囲んでいる。しかしだ。
 司馬尉は囲まれながらも仁王立ちをしている。そのうえでだ。
 自信に満ちた笑みだ。四方八方に邪気を放ち続けていた。
 邪気は地面に炸裂すれば爆発を起こしだ。黒い瘴気を起こす。それもまた五人にとっては脅威だった。
 その脅威を避けながらだ。二人は言うのだった。
「こっちもかなり攻撃浴びせてるんだけれどな」
「何ともない様子なのだ」
「一体どうやったらこいつは倒れるんだ?」
「不死身なのだ?ひょっとして」
「いや、不死身ではないな」
 疑念さえ抱きだした二人にだ。趙雲が答える。
「そこまではいかない」
「そうなのか。不死身ではないんだな」
「それはないのだ」
「その証拠に我等の攻撃を受けてだ」
 五人も攻撃を仕掛けているのだ。弓にしろその得物を振って出す衝撃波や気にしてもだ。
 司馬尉を確実に撃っていた。それを見てだ。
 趙雲はだ。司馬尉が不死身ではないというのは間違いないというのだった。
「奴も死ぬ。不死ではないからな」
「そうか。じゃあこのまま攻めていけば」
「何時かは絶対になのだ」
「そうよ。私は不死身ではないわ」
 司馬尉自身もだ。このことを認めるのだった。
「決してね。死ぬことは死ぬわ」
「殷の頃もそうだったわね」
 黄忠はその頃の司馬尉のことを指摘した。弓を構えたまま。
「貴女は死んだわね」
「ええ、太公望にやられたわ」
 まさにその通りだとだ。司馬尉自身もそのことを認める。
 その間も五人に向けて攻撃を放つ。それをかわしながらだ。黄忠は話す。
「その時私は一度死んでるのよ」
「しかし司馬氏に力を授けか」
「私の魂は九つあるのよ」
 今度はこのことを関羽に話す司馬尉だった。
「そのうちの一つを乗り移らせたのよ。けれどね」
「しかしか」
「その魂もこれで最後」
 残る一つだというのだ。
「あまりにもやられ過ぎたわ」
「太公望にだけやられたんじゃないのかよ」
「ええ、項羽にもやられたし」
 あの西楚の覇王、彼女にもだというのだ。
「漢の高祖にも光武帝にもね。衛青にも倒されたことがあるわ」
「英傑ばかりなのだ」
 その話を聞いてだ。張飛は言った。
「じゃあ御前はこれまで散々悪いことをしてその度にだったのだ」
「そうよ。倒されてきたわ」
 まさにだ。そうなってきたというのだ。
「黄帝、老子、夏の初代王にも」
「では御主はやはり古からか」
「そうよ。この世を乱そうとしてきたけれどね」
 だがこれまではだというのだ。
「適わないでいたわ。けれど今度こそは」
 紅に輝く目でだ。言うのだった。
「この世界を破壊と混沌で」
「生憎だがそうはさせん」
 関羽はその得物を構えて司馬尉に返す。
「貴様はここで死ぬ」
「そうなのだ。絶対にやっつけるのだ」
 張飛もだ。蛇矛を構えなおす。
「御前はここで死ぬのだ」
「けれど貴女達にこの私が倒せるからしら」
 司馬尉の余裕は変わらない。
「果たしてね」
「倒してみせよう」
 趙雲が司馬尉に槍を向けた。
「我等五人の渾身の技でだ」
「ああ、行くぜ!」
 馬超も構えなおす。
「今度こそ倒すからな!」
「いいわね、皆」
 黄忠の目も死んでいない。その目でだ。
 弓を構えながらだ。他の四人に言ったのである。
「私が気を放つわ」
「弓矢ではなくか」
「ええ、気よ」
 放つのはそれだとだ。関羽に応える。
「それもね」
「何っ、紫苑それは」
「まさか!?」
「私の切り札よ」
 何とだ。分身してみせたのだ。黄忠は五人になっていた。
 その分身の術からだ。四人に話すのだった。
「これでね。この女をね」
「倒すか」
「そうするのか」
「後ろは任せて」
 後ろからの援護、それはだというのだ。
「だから皆もまた」
「わかった。それではだ」
「あたし達もやる!」
 趙雲と馬超もだ。遂にだ。
 その潜在能力まで出してだ。そしてだった。 
 身構えつつだ。分身してみせた。二人もできたのだった。
「忍術というのか、これは」
「やってみると難しいけれど何とかなるな」
「うむ、そして一人よりもだ」
「ずっと強いからな」
 ならばだというのだ。
「この女も倒せる」
「絶対にな!」
「愛紗!鈴々達もなのだ!」
 張飛も関羽に言う。
「分身をするのだ!」
「できるか、しかし」
「できない筈がないのだ。鈴々達も全ての力を出せば」
 そうすればだというのだ。
「絶対に出来るのだ」
「言うよりまずはだな」
「やってみるのだ!」
「よし、わかった!」
 関羽もだ。張飛の言葉に頷きだ。
 二人で構えたままだ。その全身の力を出した。
 するとだ。彼女達もだった。
 身体が分かれた。そのうえで言うのだった。
「この力でだ」
「司馬尉!必ず倒すのだ!」
「いいか、私達全員で一度に攻める」
 関羽は四人の仲間に話す。そのそれぞれの口で。
「そして渾身の一撃を浴びせてだ」
「司馬尉を倒す」
「そうするか」
 趙雲も馬超も応える。そうしてだった。
 分身した五人はそれぞれだった。攻撃に入った。黄忠が弓を放ちだ。
 四人は突進してだ。乱舞を仕掛けた。 
 それぞれの得物を縦横に振るい司馬尉を撃たんとする。その五人にだ。
 やはり邪気を縦横に放つ司馬尉だった。しかしだ。
 その気は今度は当たらない。分身はどれも透ける。
「くっ、私の邪気が!?」
「本物は一つなのだ!」
 攻撃を仕掛けながらだ。張飛が叫ぶ。
「その本物が倒れない限りなのだ!」
「私達は倒れん!」
 関羽もだ。それぞれの分身で司馬尉に攻撃を浴びせつつ言う。
「司馬尉!今度こそだ!」
「鈴々達の勝ちなのだ!」
 こう叫んでだった。五人はだ。
 その全てを出した攻撃を司馬尉にぶつけた。そして。
 五人同時にだ。それぞれの得物にだ。
 これ以上にない気を込めた。それぞれの色のだ。
 その気をだ。司馬尉にだった。
 ぶつけた。全て。するとだった。
 司馬尉の周りを爆発が包んだ。そしてそれが消えた時にだ。
 戦場に立っているのは五人だけだった。既に分身は全て消えていた。
 だがそれでもだ。関羽は前を見据えて構えていた。そのうえでだ。
 こうだ。言ったのだった。
「司馬尉、何処にいる」
「流石に今ので終わったと思うがな」
「しかしまだ姿はあるな」
 馬超に趙雲もだ。そのことを問う。
「なら今何処にいやがる」
「姿を見せることだ」
「ええ、ここよ」
 そして実際にだ。司馬尉の声がしてきた。
 見ればだ。司馬尉はだ。まだ立っていた。
 しかし満身創痍であり全身ズタズタになりだ。左手の傷を右手で押さえながらだ。
 何とかといった感じで立っていてだ。こう言うのだった。
「ただ。もうね」
「戦えないのだ?」
「そうよ」
 こう張飛達に答えたのである。
「私ももう限界よ」
「では我等の勝利か」
「そうなるわね。私の九つの命も尽きたわ」
 今の戦いでだ。そうなったというのだ。
「こうなってはもう諦めるしかないわね」
「ではそのまま倒れるのだな」
 趙雲はその司馬尉にクールに告げた。
「最早戦いは終わった。それではだ」
「そうさせてもらうわ。残念だけれどね」
「九頭の九尾の狐かよ」
 馬超は司馬尉そのものについて言及した。
「とんでもない力だったな」
「そうね。けれど私達はその狐にね」
 黄忠は感慨と共に述べた。
「勝てたのね」
「そして世界は救われた」
 関羽は感慨と共に言った。
「よかった、本当にな」
「この世界は。貴女達のものになったわ」
 司馬尉はこのうえない無念さを込めてその関羽に述べた。
「こうなってはどうしようもないわ」
「では介錯か」
 関羽はその得物を手に一歩前に出た。
「それは私が務めよう」
「その必要はないわ」
「ではそのまま死ぬのか」
「死ぬ時に誰の世話にもならないわ」
 だからだというのだった。
「貴女が気にかけることではないわ」
「そうか、それならな」
「妹達も既に倒れているわ」
 司馬尉もまた、だ。このことを感じ取っていた。
 それでだ。最期の微笑みを浮かべ言ったのだった。
「なら。冥界でも寂しくはないわ」
「冥界でも暴れるつもりなのだ?」
「それも一興ね。けれど何はともあれ」
「御前は今から死ぬのだ」
「そうさせてもらうわ。ではね」
 最後に一言言った。その言葉は。
「この世から。完全にさようなら」
 こう関羽達に告げてだった。司馬尉もまたその姿を消したのだった。その瞬間九つの首を持つ九尾の狐の巨大な影が見えた。だがそれは瞬時に消えてだ。後には何も残らなかった。
 そしてそれを見届けてからだ。関羽は仲間達に言った。
「これでまただな」
「そう、戦いが終わったのだ」
「一つの戦いがな」
 こう張飛に言う関羽だった。
「完全に終わった」
「そうなのだ。正直ほっとしているのだ」
 実際にその顔を晴れやかにさせて言う張飛だった。
「本当によかったのだ」
「そうね。見れば全体の戦いもね」
 黄忠も満ち足りた様な顔でだ。戦場全体を見回してだ。
 それからだ。こう言ったのだった。
「終わりに近付いているわね」
「あと一押しだよな」
 馬超は十字槍を右手に持ち述べた。
「あたし達の勝ちだよな」
「うむ、ではその最後の一押しをだ」
 趙雲も今は素直な微笑みを浮かべ述べた。
「今から仕掛けるか」
「よし、では今から総攻撃だ!」
 関羽がまた仲間達に告げた。今度はこの言葉だった。
「そしてこの戦いに勝ち」
「世界を救うのだ!」
 張飛は右手に持つ蛇矛を高々と掲げて叫んだ。そしてだった。
 五人はまた戦いに赴く。最後の一押しを仕掛ける戦いにだ。
 戦いはあと少しのところまで来ていた。それを見てだ。
 華陀はだ。確かな顔で妖怪達に述べた。
「いよいよだな」
「ええ、司馬三姉妹も遂に倒れたわ」
「オロチ達も全て消え去ったわ」
 妖怪達も確かな笑みでこう華陀に答える。
「残るは于吉と左慈」
「あの二人だけよ」
「本当にこれで最後だな。しかしだな」
 確かに戦いは勝利に近付いている。それでもだった。
 華陀はそのことを感じ取りだ。こう述べたのだった。
「あの連中は流石にな」
「普通の力では倒せないわ」
「彼等は特別なのよ」
「特別か」
「そう、普通に戦っても駄目なのよ」
「それにあたし達と同じでね」
 つまり妖怪と大して変わりない存在だというのだ。
「実は不死身でね。あらゆる世界を行き来して干渉してきてるのよ」
「この世界でだけ仕掛けているのじゃないのよ」
「そうなのか。あんた達と同じか」
「そう、特にこの女の子達の世界にご執心でね」
「あの娘達のいる他の世界にも関わってきているのよ」
 二人が明かすのはこの事実だった。
「並行世界っていうんだけれど」
「それぞれの世界に介入して自分達の思うがままの世界にしようとしてるの」
「成程な。ではこの世界で奴等を退けてもな」
「そうよ。あたし達の戦いはね」
「まだ続くわよ」
 彼女達の戦いはだというのだ。
「けれどこの世界での戦いは終わりよ」
「そしてこちらの世界に来た彼等の戦いもね」
 草薙や覇王丸、彼等のそれもだというのだ。
「長い果てしない戦いだったけれど」
「これで終わるのよ」
「よし、わかった」
 その話を受けてだ。華陀はだ。
 決意した顔になりだ。そしてこう言ったのだった。
「ではその戦いにこれから俺もだ」
「ダーリンもなのね」
「あたし達と一緒に戦ってくれるのね」
「ああ、やってやる!」
 華陀は宣言した。今遂に。
「俺は戦う、そして」
「あらゆる世界を」
「あたし達と共に」
「病を倒す!」
 彼にとって病はまさにだ。倒す存在だった。そう宣言してだ。
 彼等は今はじまった果てしない戦いを見ていた。この世界が終わってもさらに続くだ。その戦いを見据えていたのだった。そのうえで彼等は決意をあらたにしていたのだ。


第百三十九話   完


                            2012・1・19



遂に倒しきったか。
美姫 「みたいね。いよいよ終戦ね」
だな。流石に左慈たちは残ったみたいだけれどな。
美姫 「そうね。でも、とりあえずは終結よね」
だな。どんな結末になるのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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