『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第百三十八話  草薙、オロチを封じるのこと

 アースクエイクは幻庵、臥龍と共に戦場にいた。その中でだ。
 鎖鎌を振り回しだ。仲間達に言うのだった。
「この戦が終わればな」
「そうだケ。元の世界に戻れるケ」
 幻庵は楽しそうな声で応える。
「やっとこれでキムとジョンと御別れだケ」
「だよな。本当にやっとだぜ」
 アースクエイクの言葉にも感慨がある。
「一体何時終わるかって思ってたけれどな」
「ああ、朝から晩なでな」
 臥龍も言う。
「ずっと修業三昧だったからな」
「しかもよ。修業の他にも強制労働もあってな」
「休みなしだったケ」
「そんな刑務所みてえなのが遂にだよ」
「終わるんだケ」
「こんな嬉しいことってないぜ」
 三人はこう話して笑顔で戦っていた。そこに希望を見て。
 しかし絶望はすぐに来た。よりによってだ。
 三人のところにキムとジョンが来てだ。こう言ってきたのだ。
「よし、この戦いが終わればだ!」
「元の世界でも修業ですね」
「えっ!?」
 三人同時にだ。驚きの声をあげた。
 そしてだ。アースクエイクが恐る恐る二人に尋ねたのだった。
「今何て言ったんだよ」
「そうだケ。わし等はそれぞれ時代が違うケ」
「それで何で修業が続くんだよ」
「うむ、卑弥呼さん達の協力でな」
「私達は時代をまたいで動けることになったのです」
 今わかった衝撃の事実だった。
「無論それぞれの時代に干渉することは駄目だが」
「更正を続けることはいいそうです」
「だからだ。私達はこれからもだ」
「ずっと一緒ですよ」
 にこやかに地獄を語る。そしてだ。
 チャンにチョイ、山崎がだ。三人に言ってきたのだった。
「よお、だからな」
「これからも宜しくでやんすよ」
「仲良くしようぜ、兄弟」
 こうだ。それぞれ死んだ目で三人に話してきた。それを受けてだ。
 三人は絶望しきった顔でだ。こう言うのだった。
「世の中甘くねえな」
「というか地獄は向こうからやって来るケ」
「本当にな。嫌な話だぜ」
 こう言ってだ。絶望を感じていたのだった。しかし何はともあれだ。
 キムがだ。こう言ってきたのだった。
「何はともあれだ。今はだ」
「そうです。戦いましょう」
 ジョンも彼等に言う。
「そうして生き残りです」
「これからも更正を続けるのだ」
「つまり俺達も遂にか」
「無限地獄に入ったケ」
「何で俺達だけこうなるんだよ」
 勝利の先に希望がないことを実感したのだった。そうした面々もいるのだった。
 だがそれでも戦いは続きだ。その戦いはだ。
 この場でも行われていた。蒼志狼は今刀馬と共にだ。朧と対峙していた。朧は己の周りに刃を数本、一本ではなかった。それを漂わせながら刀馬に言っていた。
「刀馬様とはです」
「戦いたくなかったというのか」
「貴方ならば必ず闇の王になられましたから」
 だからだとだ。彼はその無気味な笑みで彼に言うのだった。
「ですから。まことに残念です」
「即ちそれはだ」
 闇の王になる、それがどういうことかとだ。刀馬は己の紅の刃を手に言った。
「貴様の傀儡になるということだな」
「はて。そうなるというのですか」
「そうだ。貴様はだ」
 そのだ。朧が何者をだ。刀馬は看破してみせた。
「闇、そうだな」
「ふおっふおっふおっ、確かにです」
「貴様は闇の者だな」
「その通りです。私は闇の世界の者です」
「闇に囚われ徳川、そしてこの世に仇を為す者だな」
「ですがそれは刀馬様も同じではないですかな」
「俺もだというのか」
「はい。零を目指されその為にお義父上を殺された」
 朧は刀馬の過去を彼自身に言ってみせた。
「そうではないですかな」
「確かにな。俺は父を殺しだ」
 このことは彼自身も認めた。過去は否定しなかった。
 そしてだ。その刃のことも言うのだった。
「この紅の刃も手に入れた」
「ならばそこから闇に入られ」
「ふん、俺はだ」
「今は違うというのですかな」
「そうだ。今の俺は零を目指してはいない」
「では何を目指されているのですかな」
「無限だ」
 ここでだ。彼は紅の刃を朧に差し向けながらだ。
 そのうえでだ。蒼志狼を横目で見てから述べたのだった。
「今俺は無限を目指しているのだ」
「何故そうなったのでしょうか」
「零は零でしかない。そこにあるものは動きがない」
 その零についてだ。看破したのだった。
「だがだ。無限はだ」
「動きがあると」
「そして多くのものを手に入れられる」
 それを知った、そうした言葉だった。
「そしてそれこそが我が宿願を達せられるものだからだ」
「そしてその宿願とは」
「この男を倒す」
 蒼志狼をまた見た。今度は顔自体を向けて。
 そうしてだ。彼は言うのだった。
「俺のその遥か先に目指す侍の道。それがあるのだ」
「だからこそ零を捨てられたのですか」
「そうだ。そうした」
 こう朧に言うのだった。
「俺は零を捨て無限を選んだのだ」
「それがこの世界で貴方が学ばれたことですか」
「俺羽最早闇にはいない」
「そして零でもない」
「無限だ」
 まさにだ。それだというのだ。
「俺はその無限で。この男と同じものを選びだ」
「その方を倒されますか」
「そして侍の道を目指す、その果てをな」
「果てがあるとは思いませぬが」
「それならそれでいい」
 果てがなくとも。そして辿り着けなくともだというのだ。彼はいいというのだ。
「そしてその前にだ」
「私と戦われるというのですか」
「礼はさせてもらう」
 これが彼が今朧と戦う理由だった。
「俺を利用した礼はな」
「仕方ありませんな。それではです」
「俺を倒すか」
「いえ、もう一度闇の王を目指して頂きます」
 即ちだ。傀儡にするというのだ。
「そうなて頂きますので」
「ふん、ならばその前に斬る」
 やはり刃を手にして返す刀馬だった。
「貴様をな」
「では。今より」
「俺もだ」
 これまで沈黙を守っていた蒼志狼もだった。ようやく口を開いた。
 そしてそのうえでだ。こう朧に言ったのである。
「貴様と戦う」
「お父上の仇の方とですか」
「確かにこいつは親父を殺した」
 彼もまた事実を認めた。その過去をだ。
 そのうえでだ。彼もまた言うのだった。
「だが今はこいつと共に戦う」
「それは何故でしょうか」
「貴様が敵だからな」
 骸がだ。それだからだというのだ。
「俺達の世界もこっちの世界も害するな」
「それは責任感からのお言葉ですか」
「俺も一応幕臣だ」
 これまで表に出さなかったこのことをだ。蒼志狼は言ったのだった。
「ならばだ。世界を守らないとならないからな」
「幕府をではなく」
「幕府を守る。即ちそれがだ」
「世界を守るということですか」
「今はそうなるな。だからな」
「私と戦いますか」
「じゃあ覚悟はいいな」
 あらためてだ。朧に問う蒼志狼だった。
「今から倒させてもらうな」
「行くぞ」
 蒼志狼が蒼い刃を抜きだ。刀馬もだ。
 その紅の刃を朧に指し示したままだ。そのうえで言うのだった。
「貴様を倒す」
「そうさせてもらう」
 こう朧に告げてだ。二人同時にだった。
 朧に対して向かった。彼等の戦いも今はじまった。
 草薙は二階堂、大門と共にだ。オロチの面々と対峙していた。そしてそれはだ。
 神楽と八神もだ。それは同じだった。
 草薙達は社、シェルミー、クリスと。神楽と八神はバイス、マチュアとだ。それぞれ対峙していた。その中でだ。
 八神はだ。その鋭く冷たい目でオロチ達に告げたのだった。
「ではだ。すぐ楽にしてやる」
 右手を肩の高さに挙げてだ。指に青い炎をたゆらせて言うのだった。
「貴様等を全てな」
「言うものね。オロチの血を持っているというのに」
 マチュアがだ。その八神に言葉を返す。
「その私達を倒すなんて」
「オロチか」
「そう。貴方はオロチの血を引いているのよ」
「それは知っている。しかしだ」 
「それでもだというのね」
「見ろ。足下を」
 見れば八神と草薙の足下にだ。アッシュの面々が転がっていた。死んではいないが倒れている。八神はその彼等をマチュアに見せつつ言うのだった。
「この連中はかつて俺に仕掛けてくれた」
「そして今はだというのね」
「殺すつもりだったがそこまではいかなかった」
「ただ倒すだけで済ませたのかしら」
「俺に仕掛けた分の報復はさせてもらった」 
 だからだというのだ。
「この連中はこうして転がってもらっている」
「そしてなのね」
「次は貴様等だ。そしてだ」
「オロチの血の契約を」
「言った筈だ。何度もな」
 八神はその鋭い目で話していく。
「俺は誰にも従わん。血の契約も知らん」
「だから私達とも戦うのね」
「そして俺を利用しようとしたり仕掛けて来た奴には礼をする」
「成程ね。話はわかったわ」
「ではいいな。死ね」
 今度は一言だった。
「苦しませる趣味はない。すぐ地獄に送ってやる」
「何としても従わせてあげるわ」
 八神はマチュアとの戦いに入った。そしてだ。
 神楽とバイスも戦いに入る。無論草薙達もだ。
 草薙はクリスと向かい合っていた。そうしながらだ。彼はクリスに問うた。
「ここでも手前がオロチになるのか?」
「さて、それはどうかな」
「だったらまた封じさせてもらうぜ」
 クリスを見据えてだ。そのうえでの言葉だった。
「もう二度と馬鹿なことはさせねえ」
「言うね。じゃあ」 
 クリスはその両手に炎を出した。八神と同じ炎を。
 そのうえでだ。彼はこう言ったのだった。
「行くよ、僕の炎達」
「行くぜ!」 
 草薙もだ。己の顔の高さに左手を掲げてだ。
 そこに赤い炎を出して手を一気に下げながら炎を握り潰しだ。こう言ったのだった。
「ここでも封じてやるからな!」
「できるものならね」
 大門と社、二階堂とシェルミーも戦いに入る。オロチとの戦いも佳境に入ろうとしていた。
 そしてそれはだ。彼等もだった。
 ハイデルンはタクマ、柴舟と共にだ。
 三人も攻める。しかしだ。
 ルガールは強かった。烈風拳とカイザーウェーブを次々に繰り出し三人を寄せ付けない。それはまさに嵐の如きだった。その攻撃を何とか避けながらだ。
 タクマがだ。こう他の二人に言った。
「このままではだ」
「埒が明かないな」
「そう言うのじゃな」
「そうだ。相手はあまりにも強い」
 だからだとだ。タクマはハイデルンと柴舟に言った。三人は今ルガールを前にしている。
 タキシードの上着を脱いでいるルガールはまさに仁王立ちだ。その彼を見ての話だった。
「このまま普通に攻めてもだ」
「確かに。駄目だな」
「前よりも強くなっているしのう」
「ふふふ、私とて遊んでいた訳ではないのだよ」
 そのルガールが不敵な笑みと共に三人に言ってきた。
「修業を続けてきたのだよ」
「だからか」
「その通りだよ。そしてだ」
「世界を破壊するというのか」
 ハイデルンが彼等に問うた。
「貴様もまた」
「それもいいが私はある趣味をまたはじめたのだよ」
「あの悪趣味なものをか」
「そう。倒した者を像にする」
 かつて彼が凝っていただ。その趣味をだというのだ。
「またはじめたのだよ」
「そして我等をか」
「君達もまたそうなってもらおう」
 三人をその隻眼で見つつだ。ルガールは笑っていた。
 そしてその笑顔と共にだ。彼は言うのだった。
「今からな」
「私はここで夢を果たさせてもらう」
 ハイデルンはそのルガールに対してだ。身構えてからだった。
 そのうえでだ。こう告げたのだった。
「家族、そして部下達の仇をだ」
「取るというのだな」
「貴様を倒す」 
 その構えからだ。ハイデルンは告げる。
「今度こそ完全にだ」
「そしてわしもじゃ」
 柴舟もだ。両手に炎をたゆらせていた。
「前に利用された借りは返してもらうぞ」
「あれだけの傷を受けて生きているだけでも凄いのだがな」
「生憎だがわしは不死身でな」
 自分でだ。笑って言う彼だった。
「あの程度では死なんのじゃよ」
「ふむ。それでか」
「そうじゃ。借りを返させてもらう」
 ルガールを見据え。彼も身構えたのだった。
 そしてタクマもだ。こうルガールに言うのだった。
「貴様をこれ以上放っておいては碌なことにならん」
「極限流空手、それで戦うか」
「悪を倒すのも武道家の務め、覚悟はいいな」
「いいだろう。では来給え」
 ルガールは余裕と共に三人に告げた。
「君達を最高の彫刻にしてやろう」
 彼と三人の戦いもはじまったのだった。
 戦いはだ。ケイダッシュ達も行っていた。彼はマキシマ、クーラと共にだ。
 ネスツの面々と戦っていた。イグニス、グリザリッド、そしてゼロがだ。
 三人と戦っていた。そしてその中でだ。
 ケイダッシュはだ。渾身の力でだ。
 炎を繰り出しだ。それでイグニスの腹を撃った。
 マキシマは至近でだ。潜在能力を出してだ。グリザリッドを吹き飛ばしクーラはまさに自爆覚悟でゼロに体当たりを敢行し彼を倒した。そうしてだった。
 ネスツの面々を倒した。それからケイダッシュは言うのだった。
「これでこの世界でも諦めたか」
「相変わらずの強さか」
「そしてどうだ。諦めるか?」
 ケイダッシュは仰向けに倒れているイグニスにまた問う。
「おかしなことをするのは」
「ネスツはこの世界では闇として生きようとした」
 于吉、オロチ達と結託してだ。そうしようとしていたのだ。
 だがそれがどうなったか。イグニスは倒れたまま言った。
「だがそれは適わなくなった」
「ではそのまま死ね」
「そうさせてもらう。しかしだ」
「しかし。何だ」
「御前達はどうするつもりだ」
 彼等の未来をだ。イグニスは問うのだった。
「所詮御前達は造られた人間。その中にあるものは求められ続ける」
「これまで通りか」
「御前達に安住の場所はない」
 イグニスが言うのはこのことだった。
「それでもか。御前達は生きるのか」
「そのことについては心配無用です」
 イグニスに対して言う声があった。それはだ。
 雛子だった。彼は胸を張って出て来てだ。イグニス達に告げたのである。
「私、四条家がケイダッシュさん達を責任を以て御守りします」
「御前は」
「私はお友達を何があっても見捨てません」
 その誇りと共にだ。雛子は言った。
「それ故にです」
「人造人間達を受け入れるのか」
「この方々は人間です」
「造られていてもだというのか」
「その御心が人間ならばです」
 まさにだ。そうだというのだ。
「だからこそです」
「言うな。ではだ」
「貴方達が気にされることではありませんわ」
 ケイダッシュ達が人として生きること、そのことについてはというのだ。
「では。安心して休まれて下さい」
「ふん、そう言うか」
「ええ、何度でも」
「なら勝手にするといい」
 イグニスもだ。諦める様にして言ってだ。そうしてだった。
 仰向けに立ったままゆっくりと目を閉じた。そしてグリザリッドとゼロもだ。
 静かに目を閉じ死んだ。それを見届けてからだ。
 ケイダッシュは雛子にだ。問う目で尋ねたのだった。
「今の言葉だが」
「はい、ケイダッシュさん達はこれからはです」
「あんたと一緒にいていいのか?」
「ケイダッシュさん達が望まれるなら」
 そうしてくれとだ。雛子は微笑んで彼等に返した。
「そうして下さい」
「どういうつもりだ。俺達は」
「いえ、貴方達は確かにです」
「人間だからか」
「そして私のお友達です」
 だからだというのだ。
「ですから」
「俺達を追う奴等は多いがな」
「そんなもの四条家にとってはプランクトンより小さなことですから」
 微笑さえ浮かべてだ。言い切る雛子だった。
「御気になさることはありませんわ」
「・・・・・・そうか」
「ではこれからも宜しくお願いしますね」
「わかった」
 ケイダッシュが彼等を代表してだ。雛子に答えた。こうしてだった。
 彼等は安住の地、そしてかけがえのない友を得た。この世界で。
 ネスツとの戦いは終わりだ。そしてだった。
 ケイダッシュにだ。マキシマとクーラが声をかけてきた。
「ではだ。戦いはまだ行われている」
「それなら」
「ああ、わかっている」
 戦場では死闘が続いていた。それを見てだった。
 ケイダッシュも彼等の言葉に頷きだ。雛子にも顔を向けて言った。
「ではだ。最後のな」
「はい、戦いですね」
 雛子も真剣な顔で頷きだ。共に戦いに戻るのだった。
 朧の刃が空中からだ。二人を襲い続けていた。
 だがそれをだ。二人はだ。
 かわしていく。その動きは。
 まさにだ。透けていた。朧の刃が二人を斬っても斬れない。そしてだった。
 二人はそこにいる。それを見てだ。朧は彼等が何をしているか悟ったのだった。
「見切りですか」
「そうだ。武道の極意の一つをだ」
 蒼志狼がだ。朧のその言葉に答える。
「俺達は使っている」
「貴様の攻撃は見切った」
 刀馬も言う。今彼の身体を刃が突き刺した。しかしだ。
 その身体を透けるだけだった。攻撃が全く通じない。その中でだった。
 刀馬はだ。蒼志狼に告げたのだった。
「ではいいな」
「決めるというのだな」
「そうだ。いい頃だ」
 こう彼に告げたのだ。
 そしてだ。蒼志狼もだ。刀馬の言葉に頷いてだ。
 己の構えでだ。刀馬に言ったのだった。
「ではだ。いいな」
「二人でだな」
「この世界での戦いが終わる」
 彼等の戦い、それがだというのだ。そうしてだった。
 お互いに構えを取りだ。そのままだった。
「覇っ!」
「死ねっ!」
 二人同時にだ。蒼い光と紅の光を放ちだ。それでだ。
 朧を斬らんとする。その光の刃が一気にだ。
 朧を貫いた。それと共に鮮血が辺りを染めて。空中を浮かんでいた刃が全て落ちた。
 だがその刃にもだ。二人はだ。それぞれの光を放ちだ。全て潰してしまった。
 そしてそのうえでだ。倒れている朧に対して問うたのだった。
「これで終わりだな」
「貴様自身である刃も全て潰えた」
「ならばだ。貴様はもうだ」
「生きてはいられまい」
「見事です。しかし」
 朧はまだ息があった。その最後の力で二人に言ってきたのだった。
「貴方達はやはり」
「そうだ。もとの世界に戻れば再びだ」
「俺達は互いに闘う」
 そうするとだ。蒼志狼も刀馬も朧に返した。
 そしてだ。刀馬がとりわけだ。朧に言うのだった。
「しかし最早闇の力によってではない」
「無限によってですか」
「何度も言うが零は捨てた」
 それはだ。最早変わらないことだった。彼の中で。
「俺はこれから紅の大河となり侍の道を進む」
「そうされますか」
「そして蒼の大空に勝つ」
 まただ。蒼志狼を見て言うのだった。
「そうする」
「ですか。では」
「死ぬか」
「闇、闇の包む世界」
 朧はここではじめて残念そうに言った。
「それが生まれないのはまことに残念ですが」
「案ずるな、最早貴様は死ぬ」
 蒼志狼の言葉はここでは冷たいものだった。
「何の憂いもなくだ。死ぬのだな」
「闇に栄えあれ」
 最後にこう言いだ。朧は消え去った。その骸さえもだ。完全にだ。煙の様に消え去ったのだった。それを見届けてからだ。刀馬は再び言うのだった。
「ではだ。これからはだ」
「そうだな。再びだな」
「侍の道を極めるのは俺だ」
「言うな。しかしそれはな」
「貴様だというのだな」
「ああ、俺は無限のこの侍の道を進む」
 遥かな彼方を見つつだ。言う蒼志狼だった。
「そして俺がだ」
「では生涯をかけてどちらが侍の道を極めるか」
 刀馬もだ。遥かな彼方を見つつ言う。
「勝負だ」
「望むところだ」
 こう言い合いだ。二人は元の世界での勝負も誓い合うのだった。
 ハイデルン達はルガールとの攻防を続けていた。互いに傷は深くなってきている。しかしだった。
 ルガールはまだ立っていた。そしてハイデルン達も。その中でだ。
 タクマがだ。意を決した顔で二人に言ってきた。無論彼も傷だらけだ。額から血が滲み出ていてそれが汗と混ざり合い彼の傷を映し出していた。
「策がある」
「何だ、それは」
「どうするのじゃ?」
「一か八かになるがいいが」
 まずはだ。このことを断るのだった。
「それでもいいか」
「あの男を倒せるのならな」
「それでいいぞ」
 二人はこうタクマに返す。その二人の話を受けてだ。
 タクマも頷きだ。そしてそのうえでだ。
 二人にだ。こう話したのだった。
「あの男がカイザーウェーブを放った時だ」
「その時にか」
「まずはわしが覇王至高拳で打ち消す」
 彼の渾身の必殺技だ。巨大な気を両手で放つ技だ。
「そしてそこにだ」
「我等が攻める」
「そうせよというのじゃな」
「超必殺技でな」
 しかもただ攻めるだけではなかった。それを使ってだというのだ。
「これでどうだ」
「そうだな。相手はルガールだ」
「それならばじゃ」
 二人もタクマのその言葉に頷いた。こうしてだった。
 ルガールの嵐の様な烈風拳の連続攻撃をかわす。そしてだ。
 その攻撃が来るのを待っていた。
「まだか」
「まだ来ないのか」
 今来るのは烈風拳だけだった。だがだった。
 烈風拳だけでは埒が明かないと見たのか。ルガールは。
 その両手を後ろに引いてだ。それからだ。
 思いきり前に振ってだ。こう叫んだのだった。
「カイザーウェーブ!」
「来たか!」
「今じゃな!」
「うむ、行くぞ!」
 二人の仲間に応えながらだ。タクマは。
 瞬時に全身に気を込めてだ。そのうえでだ。
 両手を上下にさせてそこからだ。巨大な気の壁を放った。その技こそが。
「覇王至高拳!」
 その技を出しだ。それでだった。
 ルガールのカイザーウェーブを打ち消した。カイザーウェーブは大きな技だ。だからこそ。
 ルガールに隙ができていた。タクマはそれを見逃さなかった。
 即座にだ。二人に叫んだ。
「今だ!」
「よし、ではわしじゃ!」
 最初に仕掛けたのは柴舟だった。彼は隙が出来たルガールの懐に飛び込み。
 その両手の平を身体の前で打ち合わせそこから紅蓮の炎を出し。そして。
「これで・・・・・・」
 その炎を全身に纏い右手にとりわけ大きな炎を宿らせ。
 ルガールに突進してだ。大蛇薙を放ったのだった。
「終わりじゃあああああっ!!」
「次はわしだ!」
 そしてタクマもだ。構えを取りなおしてだ。
 全身炎に包まれたルガールに突進し。そしてだった。
 激しい拳と蹴りを連続して繰り出しだ。そのうえでだ。
 ルガールから一旦離れてだ。再びだった。
「覇王至高拳!」
 まずは一撃。それで終わりではなかった。
「覇王至高拳!」
 こう一撃放った。これで終わりかと誰もが思うところだった。
 だが何とだ。タクマは再びだった。
 両手を上下にさせてだ。そこからだった。
 再びだ。その技を放ったのだった。
「覇王至高拳!」
 三階連続でだ。覇王至高拳をルガールに叩き込んだのだ。この攻撃を受けてだ。
 さしものルガールも倒れようとする。だがここで。
 ハイデルンが跳んで来た。そのうえで。
 倒れようとするルガールの身体を掴みだ。そこからだった。
「ゴートゥヘル!」
 そのエナジー自体を吸いにかかった。そうしながらだ。
 彼はその隻眼でルガールを見つつだ。こう叫んだ。
「終わる!これで全て!」
「まさか。私がこれで」
「ルガール!全ての仇を取らせてもらう!」
 ハイデルンはルガールを見据えて叫んでいた。
「貴様の悪!そして私の因果も!」
「闇が負けるというのか。この私が」
「貴様は確かに強かった。しかしだ」
 だが、だ。それ以上にだというのだ。
「私の心はさらに強かった!貴様への復讐の念がな!」
「おのれ・・・・・・」
「全ては終わりだ!これで!」
 ルガールは全てのエナジーを吸い取られた。そうしてだ。
 その姿は忽ちのうちに消えた。後には何も残っていなかった。
 ハイデルンはルガールが消え去ったのを見てだ。それからだった。
 技を終えてだ。そのうえで言ったのだった。
「これで全てだ」
「終わったな」
「貴殿の敵討ちがな」
「そうだ、全て終わった」
 深い感慨と共にだ。彼は言うのだった。
「何もかもがだ。ではだ」
「うむ、この世界での戦いはまだ続いている」
「それはな」
「ならだ。最後の戦いをだ」
「また行こう」
 タクマと柴舟はこう二人に述べた。そしてだった。
 ハイデルンも二人の仲間にだ。確かな声で返したのだった。
「ではだ。この戦いを終わらせる為にだ」
「さらに戦おう」
「もう少しだけな」
 ルガールとの戦いは終わった。そのことを実感しながらだ。
 彼等はさらに戦うのだった。この世界での戦いを。
 八神は遂にだ。身体を屈めさせ己の頭上で両手を交差させてだ。
 そのうえでだ。こう叫んだのだった。
「遊びは終わりだ!」
 こう叫びだ。マチュアに突き進みだ。
 その爪、拳を幾度も繰り出してだ。そこからだ。
 マチュアを掴み取りだ。最後にだ。
 青い炎を放ちだ。爆発させたのだった。
 マチュアはその攻撃を受けて吹き飛んだ。これで勝敗は決した。
 そして神楽もだ。バイスにだ。
 分身する様にして攻撃を放ちだ。至近で光を放って吹き飛ばしていた。二人はオロチ達を退けていた。
 八神は倒れているマチュアを見下ろしてだ。彼女に問うた。
「さて、それではだ」
「見事ね。その技を繰り出すなんて」
「八神の拳は人を殺す為のものだ」
 そのだ。殺す目でマチュアを見下ろしての言葉だった。
「そしてそれはだ」
「私達オロチに対しても」
「そういうことだ。ではだ」
 その左手に青い炎を宿らせてだ。八神はまたマチュアに言った。
「止めをやろう。死ね」
「その必要はないわ」
 しかしだった。マチュアはだ。 
 不敵に笑いそのうえでだ。こう八神に言ってきたのだった。
 うつ伏せに倒れ顔を上げて八神を見ている。そのうえでの言葉だった。
「私は間も無く死ぬから」
「だからだというのか」
「ええ、ただね」
「ただ。何だ」
「オロチに勝てるかしら」
 不敵な笑みだった。死を前にしても。
「今度のオロチにはそう簡単には勝てないわよ」
「そう言うのか」
「ええ、それじゃあね」
 その言葉を遺言にしてだった。マチュアは。
 頭を下ろすとだ。そのままだ。
 姿を消した。やはり霧の様に消え去った。
 神楽もバイスが消えるのを見届けた。そのうえでだ。
 八神に顔を向けてだ。彼にこう告げた。
「わかってると思うけれど」
「戦いはだな」
「ええ、まだ一つ残っているわ」
「奴とだな」
「今度こそ。完全にね」
 神楽は確かな声で八神に告げる。
「オロチを封印するわ」
「そして未来永劫二度とか」
「この世には出させないわ」
 こう八神に話すのだった。
「そうするわよ」
「それは封じるのではないな」
 神楽の言葉からだ。八神は。
 そのことを察してだ。こう言ったのだった。
「倒すか」
「そうなるわ。完全にね」
「わかった。それではだ」
「貴方も協力してくれるわね」
「俺は誰とも手を組まん」
 ここでも八神は八神だった。彼から見れば群れることはしないというのだ。
 だがそれでもだ。彼は言った。
「だがだ。オロチはだ」
「倒すというのね」
「俺を利用しようとする奴は神であろうと殺す」 
 倒すではなかった。ここでは。
「そうするだけだ」
「そういうことなのね」
「八神の血脈なぞどうでもいい」
 八神にはだ。それもそうなることだった。
「ただ。俺を利用しようとした奴にやり返し」
「そしてそれからなのね」
「あいつを殺す」
 クリスと闘っている草薙を見て。そのうえでの話だった。
「それだけのことだ」
「貴方はその血脈とは別に」
「言った筈だ。そんなことはどうでもいい」
 またこう言う八神だった。
「俺は京を倒す。それだけだ」
「それは止められないのね、誰にも」
「俺は誰の言葉も聞かない。そういうことだ」
 こう言ってだ。八神は次の戦いを見据えていた。
 その草薙も二階堂も大門もだ。オロチの三人の一瞬の隙を見逃さなかった。
 オロチの三人はそれぞれの超必殺技を繰り出した。しかしだ。
 草薙達はそれぞれその技を防いだ。大門は受け身をしてだ。
 その受け身をして攻撃のダメージを最低限に抑えた彼にだ。社は言った。
「まさか全部受け身で防ぐなんてな」
「危ういところだった」
 最後の上への大きな投げも受け身で凌いでから立ち上がってだ。大門は社に言葉を返した。
「だが。今度はだ」
「どうだってんだい、一体」
「わしが攻める番だ」
 こう社に告げるのだった。彼を見据えて。
「それを言っておこう」
「言うねえ。俺も今の攻撃を防がれたのはな」
「不本意だというのか」
「さっきのせケリがついたと思ったからね」
 だからだというのだ。
「残念に思うのは当然だろ」
「ならばか」
「ああ、もう一度仕掛けさせてもらうぜ」
 不敵な笑みでだ。大門に言う社だった。
 彼はその両手を己の身体の前で旋回させている。まるで風呂を掻き混ぜる様に。
 そうしながらだ。その目を光らせてだ。
 大門に向かって突進した。そのうえでまた技を仕掛けようとする。
 だがその社にだ。大門は告げた。
「柔道の極意を言おう」
「何っ、極意?」
「左様、それを見せよう」
 こう言いだ。彼は突進してくる社を見据えていた。彼は今は動いていない。
 そしてそのうえでだ。社が彼を掴もうと手を出したところでだ。その手をだった。
 逆に掴みだ。そlこからだ。
「これが柔道の極意!」
「何っ、これは」
「敵の力を利用する!これこそがだ!」
 彼の地獄極楽落としを繰り出そうとした社にだ。逆にだった。
 大門はその彼の力をそのまま使ってだ。掴んだまま投げた。
 それは一度ではなく何度も何度も叩き着ける。その強さと勢いは己の力を利用されている社に防げるものではなかった。
 何度も叩き付けられさらにだった。社は。
 天高く放り投げられた。その大柄な身体が回転しつつ高々と舞う。
 そして大地に叩き付けられた時だ。大門は拳を天に立てて叫んだ。
「これで終わりだ!」
 その言葉通りだった。社は最早動けなかった。勝敗は決した。
 二階堂もだ。シェルミーの雷光拳を防いでからだ。即座にだ。
 カウンターで拳を繰り出してだ。そのうえでその技を出して叫んだ。
「雷光拳!」
「なっ、この技は」
「どうだ、俺の雷は!」
 シェルミーは防ごうとする。しかしだった。
 それは間に合わなかった。二階堂の拳はあまりにも速かった。
 そして雷の強さもだ。雷を操るシェルミーでさえもだ。
 凌げるものではなくだ。彼女も吹き飛ばされたのだった。
 その吹き飛ばされたシェルミーを見てだ。二階堂は会心の笑みで言った。
「これで終わりだな」
「そんな、私の雷よりも」
「確かにあんたの雷は凄かったさ」
 二階堂もそれは言う。
 しかしそのうえでだ。こうも言う彼だった。
「けれどな。俺の雷はもっと凄いんだよ」
「そういうことなのね・・・・・・」
「俺の勝ちだな」
 右手を己の顔の前に出して掲げさせてだ。勝利を言う二階堂だった。
 草薙もだ。クリスの大蛇薙ぐを防いでからだ。
 即座にだ。左手に炎を出してそこから全身を紅蓮の炎で覆い。
 右手から下にだ。それを繰り出したのだった。
「これで・・・・・・どうだ!」
「そんな、僕の炎よりも!」
「偽物の炎は本物の炎にはかなわねえ!」
 技を繰り出しながらだ。この言葉を出す草薙だった。
 そしてそのうえでだ。クリスをだ。
 紅蓮の炎で焼き吹き飛ばしてだ。左手を掲げて言った。
「俺の・・・・・・勝ちだ!」
 彼もまた勝利を宣言した。戦いはだ。
 完全にだ。草薙達の勝利だった。そのうえでだ。
 草薙はこうだ。倒れているオロチ達に尋ねた。
「で、オロチは何処だ?」
「まさかここまで来て今回は出ないとか言うんじゃないだろうな」
「それはないな」
「安心しな。これまでの戦いで力は十分に蓄えられたさ」
 社がだ。仰向けに倒れ伏しながらも顔だけをあげて三人に応えた。
「だからな。オロチはな」
「復活するってか」
「この世界でもまた」
「そうさ。しかしそのオロチはな」
「僕じゃないよ」
 社だけでなくクリスもだ。倒れながらも二階堂と大門に告げてきた。
「俺達の中で最強のあいつがな」
「今度のオロチだよ」
「さて、どうかしら」
 シェルミーもだ。倒れながらも声は死んでいなかった。
 そのまだ生きている声でだ。倒れながらも告げてきていた。
「彼のオロチに勝てるかしら」
「例えどんなオロチでもな」
 草薙がその彼等に言葉を返す。
「俺達は負けない、倒してみせる」
「そうかい、じゃあ頑張りな」
「精々ね。そしてね」
「真の切望を味わうといいわ」
 こう捨て台詞めいたものを残してだ。オロチ四天王のうち三人もだ。
 事切れ姿を消した。その彼等を見届けてからだ。
 二階堂と大門はだ。こう草薙に告げたのだった。
「後はな」
「御主達の戦いになる」
「ああ、わかってるさ」
 それはもう既にわかっているとだ。草薙も二人に答える。
 そしてそのうえでだ。彼はこう言うのだった。
「じゃあな。オロチとは最後の最後の戦いになるな」
「そうだな。こっちの世界でな」
「完全に決着がつく」
「これで因果は終わらせるぜ」
 確かな顔でだ。草薙はまた言った。
「何もかもな」
「じゃあな。俺達は別の戦場に行くがな」
「後は任せた」
「ああ、じゃあやるか」
 草薙が言うとだ。彼の後ろにだ。
 神楽と八神が来た。その二人がだ。
 それぞれだ。彼に言ってきたのだった。
「では。行くわよ」
「オロチを倒す」
「ああ、それじゃあ行くか」
 そのオロチのところにだ。三人で行こうとした。しかしだ。
 その彼等の前にだ。今だった。
 前から悠然とだ。嵐を起こしつつだ。彼が来たのだった。
 その彼を見てだ。草薙が鋭い顔になりそのうえで笑みを浮かべて言った。
「向こうから来てくれたな」
「好都合だ」
 そのことにだ。八神はこう言った。
「こちらから出向く手間が省けた」
「そうなるか」
「ならばだ」
 八神はその彼を見ながらさらに言う。
「殺してやろう。すぐ楽にしてやる」
「いいわね、二人共」
 神楽もだ。その草薙と八神に告げる。
「ここで私達の。二千年の戦いが」
「ああ、終わるな」
「下らん因果が」
「そうよ。ではね」
 あらためて言う神楽だった。彼女は自然に身構えていた。
 草薙も八神もだ。それぞれ身構えてだった。
 そのうえで最後の戦いを迎えていた。今最強最後のオロチが姿を現したのだった。


第百三十八話   完


                          2012・1・16



オロチの前の露払いも終わったか。
美姫 「流石に簡単にはいかなかったけれど、どうにかオロチの下まで来たわね」
いよいよオロチの登場だな。
美姫 「封じずに倒すようだけれど」
果たしてオロチを消滅させられるのかどうか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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