『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                           第百三十五話  十三、知恵を出すのこと

 十絶陣に対して。連合軍はそれぞれ精巧に作った人形を差し向けてだ。
 人形達を陣の中に送り込む。それを見てだ。
 許緒はだ。こんなことを言った。
「あのね」
「あのねって?」
 典韋がその許緒の言葉に尋ねた。二人もその人形達を見ているのだ。
「何かあるの?」
「お人形さん達ってどうして動くのかな」
 このことをだ。許緒は不思議に思って言ったのである。
「これまで動くお人形さんなんてなかったけれど」
「ああ、そのことなの」
「うん、どうしてなのそれは」
「ぜんまいを使ってるんだって」
 典韋は許緒にこう話した。
「それで動いてるんだて」
「ぜんまいって?」
「ほら、お人形さん達の背中にあるじゃない」
 典韋は人形達の中の一つ、ナコルルのそれを指し示しながら許緒に話す。見ればその人形は確かにナコルルそのものだ。実に精巧に作られている。
 だがその背中はだ。どうかというとだ。
 ぜんまいがあった。そのぜんまいを見てだ。典韋は言うのだった。
「ほらね、あそこにね」
「確かに。あるわね」
「そう、あれを回して動いてるのよ」
「ううん、そうだったの」
「これまでのお人形さんは動かなかったけれどね」
 夏侯惇が作った曹操の人形等にしてもだ。そうだった。 
 そして典韋は実際にだ。この人形の話を出した。
「ほら、真桜さんが作った董卓さんのお人形さんだって」
「そういえばあれも」
「自分で動かなかったわよね」
「それでもぜんまいを使えば」
「そう、お人形さんの中に一杯色々入っててね」
「一杯って?」
「そう、それで動いてるの」
 そうだというのだ。
「ぜんまいだけじゃなくてお人形さんの中にある全部のものを使ってね」
「ううん、何か凄いね」
「からくりっていうらしいわ」
 そしてその仕組みが何なのかも話す典韋だった。
「それで動いてるんだって」
「からくりなの」
「真桜さんやハイデルンさんはそう言ってたわ」
「あっ、そういえばハイデルンさんって」
 許緒はハイデルンのことも述べた。
「あの人ってよくお人形さん作ってるわね」
「そうでしょ。だから昨日のお人形さん作りにもね」
「手伝ってくれたのね」
「その時に他の人達も。色々と知恵を出してくれて」
「それでぜんまいを使ったんだ」
「そうみたいよ」
「ううん、本当にあっちの世界の人達がいてくれて」
 どうかとだ。考える顔で述べる許緒だった。
「本当に違ってきたわね」
「そうよね。色々なお料理だって勉強させてもらったし」
「うん、僕もたっぷり御馳走してもらってるよ」
 食べものの話になるとだ。許緒は満面の笑みで述べた。
「お料理上手な人も多いしね」
「うん、私もお料理のレパートリーが凄く増えたよ」
「いいことばかりよね」
「本当にね」
 こんなことを話していた二人だった。そしてだ。
 人形達を見ているのは彼女達だけではなかった。楓達もだ。
 考える顔で陣に入る人形達を見ながらだ。楓は雪に尋ねた。
「姉さんはどう思うのかな」
「敵陣のこと?」
「うん、どういったものかな」
 彼が見ているのは敵陣だった。その十絶陣だ。
 見れば相変わらず静かだ。しかしだったのだ。
「妖気が確かに凄いから」
「あの妖気ならばだ」
 どうかとだ。守矢がここで述べた。
「あの陣にどれだけの兵が入ろうともだ」
「中に入ったらすぐに」
「瞬時に滅されるだろう」
 そうなるとだ。守矢はその十絶陣を見ながら楓に述べた。
「まさにな。一瞬でだ」
「例えどの様な力を持っていてもね」
 そうなるとだ。月も述べた。
「あの陣は容易には陥ちないわ」
「だからこそ人形をまず陣の中に入れて」
 楓は徐庶のその戦術も述べた。
「そしてなんだ」
「そうだ。まずは敵陣を見る」
「一体どういったものかね。これは昨日お話にあった通りよ」
「敵を知り己を知らばだね」
 楓はここで兵法も口にした。
「それは敵陣も同じだね」
「そういうことだ。どの様なものでも」
 例えそれが妖術によるものだとしてもだ。守矢は言うのだった。強い顔で。
「弱みのないものはない」
「そうだね。だからこそ」
「まずは知ることだ」
 敵陣をだ。それをだというのだ。
「全てはそれからだ」
「そしてそのうえで」
 月は敵陣の中央を見ていた。そしてそこにいる者達をだ。
「刹那を封じなければならないわ」
「姉さん、そのことだけれど」
「お父様のことね」
「うん、父さんもこの世界に来ていて」
 そしてだというのだ。
「姉さんを今度こそは」
「私は。それでも」
 月は楓の言葉にだ。顔を俯けさせてだ。
 そのうえでだ。こう言うのだった。
「刹那を」
「月、父上には父上のお考えがあるのだ」
 だがその月にだ。守矢がだった。
 その強い声でだ。こう告げたのだった。
「そしてそれが例え父上を滅ぼすものであっても」
「けれどそれは」
「私とて父上が滅びることは耐えられない」
 子としての言葉だった。しかしだ。
 それでもだとだ。彼は言ったのだった。
「だが。それでもだ」
「それでもなのね」
「父上は御前を犠牲にしたくないのだ」
 言うのはこのことだった。黄龍の月を想う気持ちを理解しているからだ。だからこそ言ったのだ。そしてそのうえでだ。彼は妹にさらに言うのだった。
「だからだ。御前はだ」
「お父様の御心を」
「受け取るのだ。そしてだ」
「生きる・・・・・・」
「死ぬな」
 これ以上にない確かな声での言葉だった。
「決してだ。いいな」
「巫女であってもそれでも」
「巫女であろうとも犠牲になっていい道理はない」
 守矢は顔を上げて述べた。
「それはナコルルも同じだがな」
「あの娘もですか」
「この戦いは。おそらく死ぬ為の戦いではない」
「生きる為の戦いですか」
「そうだ。生きる為の戦いだ」
 まさにだ。そうだというのだ。
「それがこの世界での戦いなのだ」
「そういうことだよな」
 ここで出て来たのは漂だった。飄々とした様子だがそれでも確かな声だった。
 彼もだ。その人形達の動きを見ながらだ。月に話すのだった。
「命を賭けないといけないけれど粗末にしたらいけないんだよ」
「命をですか」
「そういうことさ。誰も死んだらいけねえよ」
 また言う漂だった。月に対して。
「皆生きてハッピーエンドを迎えないとな」
「ハッピーエンドとは確か」
「ああ、かがりちゃん達に教えてもらった言葉でな」
「アメリカか何処かの言葉でしたね」
「そうさ、英語でな」
「それでどういう意味なのでしょうか」
「大団円ってことだよ」
 日本語ではそうした意味になるとだ。漂は月に話した。
「そういうことなんだよ」
「大団円ですか」
「ああ、そうだよ」
 まさにそうだと述べる漂だった。
「だから皆生き残って最高の結末を迎えような」
「それができればいいのですが」
「できるさ、絶対にな」 
 ここでもだ。飄々としているがだ。
 確かな声でだ。漂は言うのだった。
「これだけ凄い奴等が揃ってるんだ。絶対にな」
「そういうことだ」
 まさにその通りだとだ。守矢も述べた。
 そしてそのうえでだ。彼はまた妹に言った。
「命は賭けろ。しかし粗末にはするな」
「粗末には」
「そうだ。絶対にな」
「それがお父様の想い」
「私も楓もいる」
 微笑みはしない。だがそれでも言うのだった。
「だからだ。必ずだ」
「私は生きられる」
「だから生きろ。絶対にだ」
 こう言ってだ。守矢は月を止めつつだ。十絶陣を見ていた。
 その十絶陣にだ。遂に人形達が入った。それを見てだ。
 徐庶がだ。こう劉備に言った。
「いよいよです」
「遂に敵陣がどういったものかわかるのね」
「はい、中に入れば血水になるのはわかっています」
 そのこと自体はわかっていた。死ぬということはだ。
 だがどうして攻められるのかがわからないからこそ仕掛けている。それ故にだった。
 人形達を陣に入れた。そしてその人形達を見て言うのだった。
「さて、それではです」
「あのお人形さん達がどう攻められるのか」
「それを見ましょう」
「けれど」
 だがここでだ。劉備はだ。
 ふと眉を潜ませてだ。暗い顔になりこう言った。
「若しも。陣の破り方がわからなかったら」
「敵陣がどういったものかわかってもですか」
「その場合はどうすればいいのかしら」
「大丈夫です」
 だがここでだ。劉備に言って来たのは。
 孔明だった。彼女は鳳統と共にだ。こう劉備に言うのだった。
「どういった陣かわかればです」
「必ずそこに付け入ることができます」
 鳳統も言う。
「どういった陣かわかれば属性もわかりますから」
「その属性を衝けばいいのです」
「属性をなの」
「万物には属性がありますから」
 孔明は学校の先生の様な顔になり劉備に話しだした。
「例えば火ですけれど」
「火、なのね」
「はい、火は確かに何もかも焼きますけれど」
「属性の関係で?」
「火は水に弱いですね」
 火の絶対の弱点、孔明が今言うのはこのことだった。
「そうですね。火には水で」
「他のものにもなのね」
「そうです。それぞれのものには弱点があります」
「ですから必ずです」
 鳳統も話す。
「属性がわかれば後は勝てます」
「じゃあここは」
「桃香様、御安心下さい」
 今度は鳳統がだ。確かに気弱な感じだがそれでも言ったのだった。
「この戦いは必ず勝てます」
「十絶陣を破って」
「十絶陣を破れば」
 その時はだとだ。鳳統はその時のことも述べたのだった。
「後は一気にです」
「敵は既に囲んでいますから」
 孔明もまた言う。
「攻めるだけです」
「最後の決戦になります」
「そうね。じゃあ私が今考えることは」
 十絶陣、そしてその中にある敵軍を見ての言葉だった。
「陣を破ってからなのね」
「桃香様の剣で于吉を討って下さい」
 鳳統が劉備に言うのはこのことだった。
「必ず。お願いします」
「もう一人の左慈や司馬尉達ですが」
 関羽もだ。劉備に対して言ってきた。五虎将は劉備の後ろに控えていた。ただし彼女のすぐ傍には魏延がだ。絶対に手放さないという感じでついている。
 その関羽がだ。話すのだった。
「我等にお任せ下さい」
「あの狐は絶対に退治するのだ」
 張飛もきっとした顔で言い切る。
「そうしてこの世界を守るのだ」
「司馬尉仲達、尋常な者ではないがのう」
 厳顔もだ。敵陣を見つつ述べる。
「しかし今かなりの力を使っておるじゃろう」
「十絶陣にですね」
「そうじゃ。あの陣は一つ一つが最高位の仙人の使う宝貝という」
 それならばだとだ。厳顔は馬岱に話す。
「それを十個一度に使っておるのじゃ。それならばじゃ」
「かなりの力を使ってますよね」
「消耗もしておる。ならばじゃ」
「一旦陣を崩せば」
「司馬尉はかなり弱っておる」
「それなら何とかなりますね」
 馬岱もだ。そこに勝機を見た。そのうえでの言葉だった。
「例えあいつがとんでもない化けものでも」
「どんな力でも限りがあります」
 鳳統は司馬尉のその力の限界を指摘した。
「無限というものはありません」
「そうじゃな。何にでも限りがある」
「どれだけ強大な力でもです」
 厳顔にもこう述べる鳳統だった。
「ですから。司馬尉仲達であろうともです」
「まさにじゃ」
 どうかとだ。また話す厳顔だった。
「十絶陣を破れるかどうかじゃな」
「そこに勝敗がかかっています」
「若し破れねばわし等は逆に後ろから攻められる」
 敵のやり方は既にわかっている厳顔だった。
「そうしてやられるだけじゃ」
「では。まずはです」
 徐庶は十絶陣とだ。その中を進む人形達を見続けていた。
 そしてそのうえでだ。言うのだった。
「見ましょう」
「そうね。それじゃあ」
 その徐庶の言葉に劉備が応え。そうしてだった。
 今まさにだ。人形達がそれぞれ陣の中央に来るとだ。瞬時にだ。
 それぞれの陣の旗が閃きだ。そして。
 氷や砂、風、炎が各陣でそれぞれ荒れ狂いだ。それによりだ。
 人形達を攻めそしてだった。後に残ったのは。
 何もなかった。まさに何もだ。
 それを見てだ。司馬尉は誇りきった顔で言ったのだった。
「人形だったみたいね」
「その様だな」
「どうやら十絶陣を見たみたいね」
 こう左慈に話しだ。そして言うのだった。
「それぞれの陣がどういったものか」
「つまり物見だったってことか」
「囮だったのよ。けれどね」
「それでもだな」
「この陣は破れはしないわ」
 絶対にだとだ。司馬尉は断言したのだった。
「この司馬尉仲達の最高の術はね」
「ではだ。そろそろだな」
「既に用意はできています」
 于吉が微笑み二人に答える。
「彼等が十絶陣を破ろうとしそれに失敗した時に」
「攻めましょう」
「彼等の後ろに回り」
 そうしてだとだ。于吉はさらに話す。
「その補給路を断ち糧食等を燃やした上で」
「攻める。そうしてね」
「私達が勝ちますね」
「必ずね」
 司馬尉達も勝利を確信していた。そのうえでだ。
 司馬尉は己の陣に絶対の自信を見せていた。だが、だ。
 人形達が十絶陣の中で消え去ったのを見届けてだ。徐庶はだ。
 確かな声でだ。こう劉備に言ったのだった。
「わかりました」
「陣のことが?」
「はい、それぞれの陣は見せてもらいました」
 こう言う。見れば表情も確かなものだ。
 その顔でだ。劉備に言ったのである。
「後はまさにです」
「それぞれの属性を衝くのね」
「すぐに主だった方々を集めて下さい」
 劉備にこうも言った。
「そしてそれからです」
「わかったわ。それじゃあ」
 劉備も徐庶のその言葉に頷きだ。そのうえでだった。
 すぐにだ。双方の世界の面々が天幕の中に集められてだ。そうしてだった。
 徐庶はだ。劉備の横から一同に話したのだった。
「十絶陣のことはわかりました」
「それで、なんだな」
「はい、それぞれの陣にはやはり属性があります」
「そしてその属性の弱点の属性で攻める」
「そうしてなのね」
「敵陣を破ります」
 そうするとだ。徐庶は一同に説明した。
「これで勝てます」
「それはわかった」
 八神が徐庶の言葉に応えて述べた。
 そしてそのうえでだ。彼女にこう尋ね返したのだった。
「ではどいつがどの陣に行くのだ」
「そのことですね」
「そうだ。それはどうするのだ」
「今からお話します」
 徐庶ははっきりとした声で八神に答えた。
「陣の名前はそれぞれわかりませんが」
「それでもか」
「とりあえずの名前は決めたいと思います」
 名前、そこからだった。
「それぞれの属性に合わせてですが」
「では言ってみろ」
「まずは急にお人形が倒れ動かなくなった陣です」
 そしてだ。そこから煙の如く消え去ったのだ。
「あれはおそらく魂を抜かれたものと思います」
「あれっ、人形やで」
 李典がここで徐庶に突っ込みを入れた。
「それでも魂あるんかいな」
「見事な作りならです」
 それもあるというのだ。
「ましてや動けばです」
「そえでそうなるんかいな」
「魂はあらゆるものに宿ります」
 それ故にだというのだ。
「ですから」
「成程なあ。そういうものなんやな」
 その話を聞いてだ。李典はだ。
 腕を組み納得した顔になってだ。それで言うのだった。
「いや、かなりええ勉強になったで」
「はい、ですからあのお人形は動かなくなったのです」
「魂がなくなってやな」
「そうだったのです」
「でや。魂がなくなるんやな」
「はい、陣の中に入れば」
 そうなるとまた述べる徐庶だった。そしてだ。
 その話を聞いてだ。あかりが徐庶に尋ねた。
「ほなその陣の名前は何ていうんや?」
「落魂陣です」
 こう名付ける徐庶だった。
「魂を奪われますので」
「成程な。そうなるんやな」
「そうです。そして他の陣ですが」
 後九つの陣のこともだ。徐庶は話す。
「雷の陣は天絶陣、雷と炎が空と地から襲う陣は地烈陣」
「風の陣は風吼陣、氷の陣は寒氷陣、光の陣は金氷陣」
 徐庶は次々と話していく。
「砂の陣は化血陣、血水の陣は紅水陣」
「炎の陣は烈焔陣、何かに打たれる陣は紅砂陣です」
 こう全て言い終えるとだ。すぐにだ。
 命がだ。その徐庶に尋ねた。
「ではなのですね」
「はい、それぞれの陣に対する属性の方に入ってもらいです」
「そしてそのうえで」
「敵陣を攻略していきましょう」
 こう話す徐庶だった。かくしてだ。
 その策に基き人選が行われようとしていた。しかしだった。
 ここでだ。十三がこんなことを言って来たのだった。
「逆の属性で攻めるのもいいけれどな」
「それでもですか」
「若しもそれで負けるとな」
「その場合はですか」
「そいつはあっという間にやられるだろ」
 十三が言うのはこのことだった。
「逆の属性ならな。それよりもな」
「同じ属性で攻めればいいというのですか
「それぞれの陣と同じ属性の力でな」
「それ以上の力で攻めてですか」
「陣を潰していけばどうだ?」
 十三はこう徐庶に話していく。
「それなら若し何かあってもな」
「同じ属性故にですね」
「そうそうやられはしないからな」
「確かに。相反する力はです」
 その二つの力がぶつかればどうなるか。徐庶もあらためて考える顔になりだ。
 そのうえでだ。十三に答えるのだった。
「敗れればその敗れた方の力は消えます」
「それはこっちにも言えることだな」
「はい、確かに」
「けれど同じ属性の力同士ならな」
 十三は確かな微笑みを浮かべて徐庶に話していく。
「違うだろ」
「はい、敗れても少しは耐えられますし」
「その分生き残れるよな」
 その間に逃げることもできるというのだ。十三はそこまで考えていた。
 それに加えてだった。十三はこのことも徐庶に話した。
「しかも勝ったらそれぞれの陣の力をな」
「私達の力にですね」
「取り入れられるからな」
「それなら」
 ここまで聞いてだった。徐庶はだ。
 確かな顔で頷きだ。そして十三に応えたのだった。
「その方が遥かにいいですね」
「よし、じゃあそれで決まりだな」
「はい」
 徐庶も微笑みになった。そのうえでだ。
 あらためて一同にこう言ったのだった。
「では少し検討しなおします」
「ああ、じゃあ俺はあそこだな」
 草薙がだ。微笑んで応えた。
「炎の陣に入るんだな」
「そうなります。烈焔陣にです」
「よし、じゃあやってやるか」
「ふん、敵陣に倒されるか」
 八神はその草薙にだ。いつもの淡々とした調子で言う。
「無様なことはするな」
「じゃあ誰に倒されればいいんだ?」
「貴様を倒すのは一人だけだ」
 その鋭い目でだ。草薙を見ながらの話だった。
「俺だ。俺しかいない」
「そういうことか」
「だからだ。敵陣なぞで無様に死なないことだな」
 そしてだ。八神はさらにこんなことも言った。
「そもそも俺はこの世界には興味はないが」
「またそう言うか」
「本当に相変わらずなの」
 楽進に于禁はその八神に突っ込みを入れた。
「しかしそれでもだな」
「あえて言うの?」
「そうだ。奴等は破壊と殺戮の世界にするというが」
 それは何かというのだ。八神にとっては。
「そんなものは好かん。暴力にもなるからな」
「あっ、そういえば八神さん暴力とかは」
「ええ、そうよね」
 ここで周泰と諸葛勤がふと気付いた。八神のそうしたことにだ。
「戦うことはされますけれど」
「そんなことは絶対に」
「弱い奴をいたぶる趣味はない」
 これが八神だった。そうした意味で暴力は好まないのだ。
 そしてだ。また言うのだった。
「敵を倒し殺すことはあってもな」
「その代わりな、こいつはな」
「すぐに裏切る」
 ビリーと影二が忌々しげにだ。仲間達に話した。その八神を見ながらだ。
「戦いが終わったら注意しろよ」
「我等はそれで痛い目を見た」
「俺は最初から仲間とは思っていなかった」
 その時のことをだ。実に淡々と述べる八神だった。
「だからだ。それはだ」
「当然だってのかよ」
「仲間でないならばか」
「そうだ。あの時は後始末をしただけだ」
 特に裏切りとも思っていないのだった。
「それだけのことだ」
「今はどうなのだ?」
 太史慈は警戒する目で八神を見つつ問い返した。
「我等を仲間でないと思っているのか」
「さてな。しかし少なくともだ」
「今は、か」
「こいつを殺す方が先だ」
 草薙を見てだ。そうしての言葉だった。
「そしてそれは元の世界でのことだ」
「貴殿のか」
「少なくともこの世界でのことではない」
「わかった。そういうことだな」
 その話を聞いてだ。静かに述べた太史慈だった。
 そしてそのうえでだ。彼女はだ。
 こうだ。その八神に告げたのだった。
「だが。それでもだ」
「俺がこの男を殺すことはか」
「容易ではないぞ」
「実力故にか」
「貴殿等の力は拮抗している」
 太史慈以外の者にもわかった。このことはだ。
 そして八神もその言葉を受けてまた言ったのだった。
「楽しみは長くあった方がいい」
「楽しみ、か」
「俺はこの男を必ず倒す」
 草薙も見据え返している。二人の対峙は今も行われていた。
 そしてその中でだ。八神は言ったのだった。
「生涯をかけてな」
「へっ、そう簡単にやられはしないさ」
 草薙もだ。見据え返していた。言葉もだ。
 そうしつつだ。彼も八神に対して述べる。
「手前は一生かけてねじ伏せてやるさ」
「俺を倒すというのか」
「何度も何度も倒してやるさ」
「そうするというのだな」
「そうさ。俺も一生戦ってやるさ」
「ではだ。言っておく」
 八神は再びだ。草薙に言うのだった。
「陣なぞに倒されぬことだな」
「俺にはユキがいるからな。絶対に元の世界に帰ってやるさ」
 笑みで言う草薙だった。そしてその草薙にだ。
 何気なくだ鳳統が突っ込みを入れた。
「それに高校も卒業されてですね」
「あ、ああ。そうだな」
 高校の話になるとだ。草薙はだ。
 急にテンションを落としてだ。俯いて応えたのだった。
「まあ何ていうかな。それはな」
「おい、本当に何時卒業できるんだ?」
 二階堂はかなり本気で草薙に突っ込みを入れた。
「御前もう二十だろ」
「二十一だったのではないのか?」
 大門も話に加わる。
「とにかくだ。わし等はその頃には既にだ」
「卒業してたからな」
「確かに留年もあるがだ」
「高校で二回留年ってのはないだろ」
 二階堂は馬鹿にしてはいなかった。真剣だった。
 その真剣な顔でだ。草薙に言ったのである。
「除籍されないだけでも凄いな」
「だからだ。そろそろだ」
「高校は卒業しろよ」
「わかっちゃいるんだよ」
 草薙は極めてバツの悪い顔になって仲間達にも返した。
「けれどそれでもな」
「卒業はか」
「まだ先のことか」
「俺だって卒業したいんだよ」
 つまり何時までも留年したくはないというのだ。草薙にとってもだ。
 だがそれでもだとだ。さらに述べる彼だった。
「けれどそれでもな」
「ここまで高校を卒業できない奴がいるなんてな」
「ある意味恐ろしいことだ」
 二階堂も大門も呆れていた。だが何はともあれだった。
 戦士達はそれぞれの陣にだ。相応しい者たちを送ることにした。その人選はだ。
 全員でじっくりと話し合い決めた。まずはだ。
 落魂陣に入ったのはだ。あかりと命だった。
 三人は陣に入ってからだ。それからだ。
 あかりはその陣の中央の祭壇を見て。それで命に言った。
「ほな、やるで」
「はい、それでは」
「うちはこれを使うわ」
 あかりは札を出してきた。そしてだ。
 命もだ。その全身に気を出してだ。そのうえでだった。
 術を使いだした。二人同時にだ。
 その彼女達にだ。すぐにだった。
 何かが、姿の見えないそれが襲い掛かって来た。その何かに対してだ。
 あかりはだ。札を投げだ。命はその力を放ってだ。
 そのうえで何かと戦う。そしてその中でだった。
 あかりは命にまた言った。
「ここが正念場や」
「そうですね。勝たないとなりません」
「うち等が勝てればや」
 その時はどうだというのだ。あかりが言うのはこのことだった。
「この陣の力をうち等のもんにできる」
「そしてその力で」
「敵と戦うことができる」
「そや。ほなそうするで」
「前向きですね」
 あかりのその言葉にだ。命はそれを見てだ。
 そしてそのうえでだ。彼女に言ったのである。
「あかりさんはいつも」
「後ろ向きに考えるのは嫌いや」
「そうですね。あかりさんは」
「後ろ向きになっても何にもならんさかいな」
「そうですか。後ろ向きになってもですか」
「そや、前を向いて上を向いて生きるんや」
 こんなことを話してだった。そのうえでだ。
 彼女達はだ。札を次々と投げ力を放ちだ。何かと戦っていく。そしてだ。
 他の陣でもだった。戦士達は戦っていた。
 天絶陣には二階堂と陳がだ。雷を出してそこにいた。
 地烈陣にはガルフォードと半蔵がそれぞれの術で雷と炎を出している。
 風吼陣では丈とアクセル、マイケルに覇王丸が竜巻を出している。
 寒氷陣ではリムルルと蒼月、翁だった。
 金光陣はナコルル、それに神楽とミナがいる。
 化血陣は大門と示現だ。娘もいる。
 紅水陣には楓、月、守矢の兄妹達がいた。
 烈焔陣には草薙と八神、ズィーガー達だ。
 紅砂陣にはストラウド、タクマ、ハイデルン、柴舟といった精神力の強い面々がいた。
 彼等はそれぞれの陣の中で力と戦っている。それを見てだ。
 司馬尉は眉を顰めさせてだ。忌々しげに呟いたのである。
「まずいわね」
「陣が危ないのですか?」
「正直に言うわね」
 ゲーニッツに返す言葉も忌々しげである。その口調でだった。
「そうよ。危ういわ」
「やはり」
「こう来るとはね」
 予想外という言葉だった。
「やってくれるわ」
「同じ属性同士の相手を投入してきましたね」
「ええ、こう来るとね」
「まずいですか」
「どの陣にも属性があるわね」
「はい、それは確かに」
「それを衝かれるとね」
 どうかというのだ。その場合はだ。
「十絶陣は弱いのよ」
「そうだったのですか」
「例えばよ」
 ゲーニッツにも顔を向けてだ。司馬尉は言った。
「貴方の力は風よね」
「はい、その通りです」
「その風と同じ力で来られたらどうかしら」
「中々やりにくいですね」
「そうでしょ。これは対する力ならどうかしら」
「その方がやりやすいですね」
 ゲーニッツは穏やかに笑って答えた。
「力と力の完全なぶつかり合いですから」
「多分向こうもそう来るつもりだったのよ」
 徐庶の考えは知らない。だがそれでも読むことはできた。
 それ故にだった。司馬尉は今言えたのである。
「けれどそれをね」
「ああしてですね」
「攻めて来られると」
「例えこちらが勝っても」
「力がなびいているだけに」
 同じ属性のだ。それにだというのだ。
「相手に向かうことは少ないわ」
「そうなりますか」
「本当によく考えたわ」
 これまで以上に忌々しげに言う司馬尉だった。そしてだ。
 あらためて陣を見る。その十の陣を。その状況は。
 まだ力は伯仲していた。しかしだった。次第にだ。
 陣の力はだ。戦士達の力になびいっていっていた。それを見てだった。
 徐庶はだ。確かな声で言った。
「このままで、です」
「いけるのね」
「はい、このままいけば」
 大丈夫だとだ。劉備に言うのだった。
「十絶陣は全てです」
「破れるのね」
「そしてその力は」
 陣の力もだ。どうなるかというのだ。
「私達のものになります」
「けれどその力使えるのかしら」
「それは任せてくれ」
 ここで出て来たのは華陀だった。
 彼はその戦いを見ながらだ。劉備と徐庶に述べたのである。
「俺の針に力を乗せてだ」
「そうしてなんですか」
「敵陣に打ち込む」
 そうするというのだ。
「針を投げてそうしてだ」
「その針に力を乗せて」
「そのまま敵陣に打ち込めば。敵にかなりのダメージを与えられるからな」
「華陀さんの針ってそういうことにも使えるんですね」
 それを聞いてだ。思わず言う劉備だった。
「治療だけじゃなくて」
「ああ、俺の針は五行の力を全て取り入れることができる」
 そうだとだ。その黄金の針を出して言ったのである。
「だからだ。それを使う」
「ではお願いします」
 徐庶はすぐにだ。華陀に対して言った。
「そしてそのうえで」
「ああ、敵の数は少しでも減らさないとな」
「はい、敵の数は百万といったところです」
 徐庶は今度は敵陣の中央を見た。その中央を見てだ。
 それでだ。華陀に言ったのである。
「これを五十万位まで減らして」
「後はな」
「はい、一気に攻めましょう
 既に包囲はしている。後は十絶陣を破りその力を敵に打ち込んでだった。それからだと言うのだ。
 その十絶陣を見つつだ。今度はだ。
 袁紹がだ。眉を顰めさせて言うのだった。
「ううむ、ここは」
「わかってると思うけれどね」
 すぐにだ。曹操がその袁紹に言ってきた。
「十絶陣が破られてもね」
「それでもですわね」
「すぐに攻め込んだら駄目よ」
 何かというと突っ込みたがる袁紹を窘める言葉だった。
「状況が整ってからよ」
「それからなの」
「そう、それでよ」
 また言う曹操だった。
「それから思う存分戦えるからね」
「わかりましたわ。それでは」
 袁紹もだ。渋々ではあってもがだ。
 それでも頷きだ。そして応えたのだった。
「それからですわね」
「そうよ。それにしても貴女はね」
「何でして?」
「子供の頃から変わらないわね」
 その袁紹を見ての話だった。
「すぐに出ようとするところは」
「否定はしませんわ」
 今度は憮然とした顔になっている。
「そのことは」
「否定はしないのね」
「事実だからこそ」
 それ故にだというのだ。
「それはしませんわ」
「そういうことなのね。それでね」
「ええ、その後で」
「決戦よ」
 曹操の言葉が強くなる。
「その用意はね」
「何時でもできていますわ」
 ここでは袁紹の性急さがいい方向に出ていた。
「それこそ本当に」
「そうね。それじゃあね」
「ここで終わらせますわよ」
 今度はこそはと。袁紹の士気も高い。
 そしてその高い士気からだ。あらためて曹操に言うのだった。
「この戦いが終われば」
「泰平の世が来るわね」
「そうなりますわね。乱れた世の中でしたけれど」
「それが本当に終わるのよ」
 曹操もだ。その泰平の世にだ。
 希望を見ながらだ。最後の戦いを見ていた。
 そしてそのうえでだ。そこにだ。
 袁術も来てだ。そのうえで二人に言って来た。
「ううむ。泰平になればじゃ」
「ええ、何ですの?」
「歌を歌うとでもいうの?」
「その通りじゃ。泰平の世にこそ歌は栄えるのじゃ」
 だからだとだ。袁術も戦いの果てに希望を見ながら言うのだった。
「だからこそじゃ」
「そうね。歌はね」
 曹操はその歌について具体的に述べる。
「泰平の世にこそ栄えるけれど」
「それでもなのじゃ?」
「乱れた世にも人を支えてくれてきたわ」
 その言葉は既に過去形になろうとしていた。
「だからこそ素晴らしいのよ」
「乱世にもか」
「だから貴女も歌ってきたんじゃないの?」
 袁術の方を見てだ。曹操は彼女に問うたのだった。
「これまで。色々な歌を」
「正直わらわは歌いたいから歌ってきたのじゃ」
「最初はそうだったのね」
「うむ、しかし今はじゃ」
「人の為によね」
「そうなってきたかのう」
 はっきりとした実感はないがだ。それでもだ。
 曹操の話を聞いてだ。腕を組み考える顔になって述べたのである。
「言われてみればじゃ」
「だからよ。それでね」
「ではじゃな」
「歌は歌い続けるべきよね」
「辛い時も楽しい時もじゃな」
 袁術もだ。そのことがわかってきた。
 まだ幼い彼女だがそのことがわかってきてだ。それで曹操に述べたのである。
「わらわはこれからも歌い続けるぞ」
「そうしなさい。だからね」
「凛じゃな」
「貴女にあげたんだから」
 既にだ。郭嘉はそうなっていた。
「惜しいけれどね。軍師としても優秀だし」
「済まぬのう。しかし凛はじゃ」
「貴女のものだっていうのね」
「凛と一緒にいるとそれだけで楽しいのじゃ」
 満面の笑みになって言う袁術だった。
「波長が合い過ぎて困るのじゃ」
「合い過ぎる位にね」
「何かあれがいいのじゃ」
「全く。負けたわ」
 二人の関係についてはだ。曹操もだ。
 ついつい苦笑いになってだ。それで言ったのだった。
「この私が女の子を誰かに譲るなんてね」
「そういえばですけれど」
 ここでふと言う袁紹だった。
「貴女のところのあの小さい軍師二人ですけれど」
「桂花と風ね」
「お二人共結構色々な世界で観ますわね」
「桂花はオートマになったりメイドになったりね」
「それに女王にもなってますわね」
「あの娘結構色々な世界に関わってるから」
 そのことについても言える曹操だった。
「下手したら私達以上にね」
「そうですわね。もう一人の方も」
「私達もだけれどね」
 実はそれは彼女達もだった。だがそうした話の中でもだ。
 誰もが決戦を見ていた。最後の戦いをだ。そしてその戦いの時は今まさに迫っていた。


第百三十五話   完


                          2012・1・10


人形によって属性を見破り、対応する者で向かうか。
美姫 「徐庶の策は見事に成功みたいね」
だな。弱点となる属性じゃなくて同じ属性とは。
美姫 「このまま押し切れるかしらね」
さて、どうかな。このまま黙ってやられるような連中でもないだろうし。
美姫 「どうなるのか、次回も待ってますね」
待ってます。



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