『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                             第十三話  曹操、袁紹と官渡で会うのこと

「ねえ麗羽様」
「何ですの?」
「何進将軍から手紙が来てますよ」
 文醜が君主の座にいる袁紹に対して述べる。隣には顔良がいる。袁紹の左右には田豊と沮授がいる。政治の話をしている時はこの二人だった。
「どうされますか?」
「大将軍からでして」
「はい、読まれますか?」
 こう主に対して言うのだった。
「何ならあたいが読みますけれど」
「いいですわ。自分で読みますわ」
 それは自分でするというのだった。
「それでは」
「はい、それじゃあ」
 こうして文醜の手から袁紹に手渡される。そのうえで読まれるのだった。
 読み終えるとだ。田豊と沮授がすぐに主に問うてきた。
「それでどう言っていますか?」
「大将軍は」
「異民族のことですわ」
 それだと二人に返すのだった。
「そのことですわ」
「異民族ですか」
「そういえば烏丸が最近」
「ええ、不穏な空気を見せていますわね」
 このことを話すのだった。
「それまでは異民族の中では比較的大人しかったというのに」
「はい、それでこのまま取り込めると思ったのですが」
「上手くいかなくなってきました」
 こう話す田豊と沮授だった。
「それどころか攻め込んできかねません」
「ですから」
「ええ。征伐ですわね」
 ここで結論を言う袁紹だった。
「ここは」
「それで大将軍からもですね」
「そのことで」
「では私達が出ます」
「すぐに征伐してきますよ」 
 顔良と文醜がこう言ってきた。
「花麗ちゃんと林美ちゃんもいますし」
「黒梅姉さんだって涼州から戻ってもらって」
「いえ、まずは華琳と話すように言ってますのよ」
 ところが袁紹はここでこう四人に言うのだった。
「華琳と二人で準備をするように書いてますわ。この征伐は大将軍直々に出られるそうですし」
「えっ、大将軍がですか?」
「それ本当ですか!?」
 顔良と文醜は今の袁紹の言葉にその目を思わず丸くさせた。
「普段は洛陽におられるのに」
「また今度はどうして」
「そうですね。おかしいですね」
「これは」
 田豊と沮授もこのことにはいぶかしむ顔になっていた。
「宦官達との争いを放っておいてですか」
「それで都を出られて」
「そうした事情はわたくしも知りませんが」
「はい。都の内情は今神代ちゃんが調べてますし」
「もうすぐ戻ってきますけれど」
「そうですわね。ただ」
 袁紹はここで考える顔で述べた。
「都を空けられるようになったのは間違いありませんわね」
「はい、そうでなければとても」
「そうしたことはできません」
 それは田豊と沮授も頷く。少なくとも政治に関することでは袁紹は決して無能ではなかった。そのことは周りもよくわかっていた。
「問題はそれが何かですが」
「そうですね。それが問題です」
「まあ今は神代が戻ってからですわね」
 袁紹は審配の真名を言いながら述べた。
「さて、それでですけれど」
「はい」
「じゃあすぐに曹操さんのところに行きますか」
「会見の場所も指定されてますわよ」
 それもだというのだった。
「場所は」
「はい、場所は」
「何処ですか?」
「官渡ですわ」
 その場所だというのだった。
「そこで二人で話すようにとのことですわ」
「官渡ですか」
「そこなんですね」
 顔良と文醜がそれを聞いて少し考える顔を見せた。
「何か戦場っぽい名前ですけれど」
「そこにですか」
「とりあえず同行は貴女達四人と」
「では花麗と林美は留守役ですね」
「ここは」
 張?と高覧はそうであると確認される。
「そういうことですね」
「わかりました」
「あと。間も無く神代が戻ってきますし」
 袁紹はまた彼女の名前を出した。
「あの娘も共にですわ」
「わかりました。それじゃあ」
「そういうことで」
「それで帰ったらまた人材との謁見でしたわね」
 袁紹は会見の話が終わると今度はこのことについて話をした。
「それですわね」
「はい、また何人か来ています」
「それを御願いします」
「わかりましたわ。それでは」
 こうして袁紹側は官渡に向かった。そして曹操側もだ。主立った将帥と兵達を連れてその官渡に向かっていた。その中でふと曹洪が曹操に対して問うてきた。彼女達は馬に乗っている。
「秋蘭だけ残ってもらったのは可哀想でしたね」
「そうですね」
 曹仁もそれについて言う。
「見送りの時寂しそうでしたし」
「それを考えたら」
「けれど仕方ないわよ」
 曹操はこう二人に返す。その左横には夏侯惇がいる。
「まさか首脳部を全員連れて行く訳にもいかないでしょ」
「それはそうですけれどね」
「じゃあやっぱり」
「秋蘭はまた今度よ」
 微笑んでの言葉だった。
「そういうことでね」
「しかし華琳様」
 ここで夏侯惇が言ってきた。
「何進大将軍が御自身から出征されるとは珍しいですね」
「そうね。普通なら私かその麗羽に命じて終わりよね」
「実際にこれまで北の胡人達に対しては袁紹殿に一任されていました」
 夏侯惇もこのことを指摘する。
「それが都を離れられてまでというのは」
「ただ武勲を挙げたいだけではないかも」
「功績を作りたいだけではなくて」
「そうね。都を離れられるようにもなったってことだし」 
 曹操は奇しくも袁紹と同じことを見抜いていた。
「その根拠も知りたいわね」
「そのことですけれど」
 荀ケもいた。彼女も言うのだった。
「何でも新しい側近が加わったそうです」
「側近!?」
 曹操は今の荀ケの言葉に顔を向けた。
「それが加わったの」
「はい、どうやら」
「側近、ね」
「司馬仲達という者だそうです」
「司馬仲達!?」
「仲達は字でして」
 荀ケはこう曹操に話していく。
「司馬懿というのが名前です」
「司馬懿!?」
「御存知ですか?」
「司馬氏のことは知っているわ」
 こう荀ケに答える。
「一応はね」
「そうですか」
「代々名門の家よ。高官も多く出しているわね」
「あっ、そういえばその名も」
「聞いたことがあります」
 ここで曹仁と曹洪も言った。
「都で代々高官を出している」
「その家ですよね」
「そうよ。しかも清流派の人間でおまけに嫡流でね」
 ここで曹操の目が曇った。
「宦官の孫の私や妾腹の麗羽とは全く違うわ」
「それにかなりの切れ者だそうですね」
 荀ケはこのことも言った。
「それで今は大将軍の第一の側近になられているそうです」
「それまでは私と麗羽が両腕ではなかったのかしら」
 実は曹操も袁紹も何進の派閥にいるのである。彼女にとって二人は頼りになる存在だった。それは軍事的な意味におけるところが大きい。
「それでその人物も入れたのね」
「頭脳でしょうか」
 荀ケがここでまた言った。
「参謀として入れられたのでしょうか」
「そして名代にもなる。そうした人材でしょうね」
「だとすれば宦官達とも渡り合える」
「あの十常侍達とも」
「だとすればかなりの人間ね。ただ」
 曹仁と曹洪に応えながら話す。
「何か不吉なものも感じるわね」
「不吉なものをですか」
「それを」
「ええ、何か感じるわね」
 顔を曇らせながらの言葉だった。
「私の取り越し苦労ならいいけれど」
「そうですか」
「その人物に対して」
「少し調べておきたいわね」
 また言う曹操だった。
「桂花、都の内情を探る時に一緒に御願いするわね」
「はい、わかりました」
 荀ケはすぐに頷いた。そんな話をしながら彼女達も官渡に向かう。
 そして袁紹達もだ。黄河を渡ってだ。そのうえで今官渡に向かっていた。
 田豊や顔良の四人の他に審配もいた。その彼女が馬上の袁紹に話していた。
「その司馬仲達という者はです」
「司馬氏についてはわたくしも知っていますわ」
 少しむっとした顔で言う袁紹だった。
「あれですわね。宮廷で代々高官を出している名門の」
「はい、そうです」
「そして清流派でしかも嫡流で」
 言っていることは曹操と同じだった。
「わたくしや華琳とは全く違いますわね。しかも才気煥発だとか」
「大将軍の御前に出てすぐにその弁を認められまして」
 こう主に話す審配だった。
「そして今やその参謀であり名代です」
「その人材がいるからこそ大将軍も都を離れられるようになったというのですね」
「どうやら」
「事情はわかりましたわ。ただ」
「ただ?」
「どうにも好きになれませんわね」
 袁紹もまたその顔を曇らせていた。
「話を聞く限りでは」
「そうなのですか」
「わたくしも麗羽も所詮妾の子、そして宦官の孫」
「そのことは」
「事実ですわ。それでわたくし達は常に除け者でしたし」
 幼い頃の記憶である。そのことに対する劣等感が今も彼女達の心の中にあるのだ。このことを忘れることは決してないのだった。
「それと比べたらその司馬仲達という者は」
「恵まれていますよね」
「確かに」
「ええ。本当にいけ好かない」
 袁紹は顔良と文醜にも言う。
「大将軍も御自身の出自を気にされておられるというのに」
「元々は肉屋の娘でしたね、あの方は」
「それが妹君が宮廷に入られて皇后になられて」
「その通りですわ。それが今ですわ」
 こう田豊と沮授にも答えるのだった。
「そうした方ですかわわたくし達を取り立てても下さいましたけれど」
「ですが袁術様も重用されていますし」
 審配はこのことも話した。
「それを考えれば」
「人材は有能であればいいということなのですわね」
 袁紹は忌々しく思いながらもこう話した。
「つまりは」
「そういうことではないでしょうか」
「もっとも袁術様はまだ幼い方ですが」
「あの方は嫡流ですし」
「美羽のことはいいですわ」
 袁紹は彼女の話はそれでいいというのだった。
「それよりも。華琳ですけれど」
「はい、会談ですね」
「烏丸討伐に関して」
「その打ち合わせが大事でしてよ」
 自分でそちらに話をやるのだった。気に入らない人物の話ばかりをしてそれで気が暗いものになったからである。だから変えたのである。
 そんな話をしているうちにお互いに官渡に着いた。そうして会談となるのだった。
 曹操と袁紹はお互いの顔を見ていた。双方馬上のままで見合っていた。
「久し振りね、麗羽」
「そうね、華琳」
 まずは微笑みを交あわせる。
「元気そうで何よりだわ」
「貴女の方こそね」
「さて、それでだけれど」
 ここであらためて話す曹操だった。
「烏丸が騒がしくなってきたそうね」
「ええ。そのことですけれど」
「私からも兵を出すわ」
 曹操はこう言った。
「左軍を受け持つわ」
「ではわたくしの軍が右軍ですわね」
「何進様も来られるわ。直々の出征だから」
「わたくしだけでも充分ですのね」
「そう思うけれどね。それでも今回はこう決まったわ」
 お互い都のことは知っていた。だがそれあえて言わずにだ。こう話をするのだった。
「だからね」
「わかっていますわ。ではそういうことで決まりですわね」
「そうね。会談するまでもなかったけれど」
「そうですわね。とはいいましても」
 ここでだった。袁紹は微笑んでみせた。そのうえで曹操に対して言うのだった。
「どうも妙な気配がしますわね」
「そうね。春蘭」
「はい」
 まずは夏侯惇に声をかけた。
「いいわね」
「わかっています。季衣」
「わかってますよ、春蘭様」
 ここで許緒も出て来た。
「悪い奴等が周りに一杯いますね」
「貴女の関係者かしら」
「生憎思い当たる節は随分とありますけれど」
 袁紹は今は顔は笑っているが目は笑っていなかった。
「それは貴女も同じではなくて?」
「その通りね。十常侍かしら」
「そう考えるのが妥当でしょうけれど」
「麗羽様、御気をつけ下さい」
 審配が彼女の横に来て言う。
「敵の数、多いです」
「曹仁さん、曹洪さん」
「ここは共闘ってことでいいよな」
 顔良と文醜もそれぞれの武具を持ちながら二人に声をかける。
「敵の数、結構多いですし」
「そっちが嫌ならいいけれどな」
「いえ、こちらからも言おうと思っていたところよ」
「それはね」
 言いながらだった。曹仁と曹洪も自分達の武具を出してきた。曹仁の武具は三つ又の鉾、曹洪の武具は二本の狼牙棍だ。夏侯惇も大刀を出し許緒もハンマーを出している。
 そのうえでだ。それぞれ構えるのだった。
 審配は袁紹の傍についてだ。そうして言うのだった。
「ここは動かれないで下さい」
「それがいいというのでしてね」
「はい、私達がいます」
 真剣そのものの顔だった。右手には既に剣を持っている。
「ですから」
「ただ。我が身は自分で守らなければなりませんわ」
「そういうことね」
 袁紹も剣を抜いていた。見事な大きな剣だ。
 そして曹操もだ。その手に大鎌を持っている。二人も戦う態勢に入っていた。
 そのうえで二人はだ。田豊達に言うのだった。
「貴女達は兵士達の警護を受けなさい」
「狙って来るのは私達だしね」
「ですがそれは」
「華琳様達が」
「心配無用ですわ」
「そのことは」
 こう返す二人だった。
「伊達にこれまで生き残ってきたわけではありませんわ」
「そこで見ていなさい」
 二人はこう言ってお互いに身構えるのだった。そこにだった。
 白い装束の一団が出て来た。覆面までしている。服は何か怪しげな法衣に見える。
 それを見てだ。夏侯惇の顔が曇った。
「貴様等、名を名乗れ!」
「・・・・・・・・・」
 だがその一団は何も言おうとしなかった。沈黙しているだけである。
 夏侯惇もそれを見てだ。それを当然の様に言うのだった。
「これも当然のことか」
「そういうことですね」
「こうした連中が名乗った方がおかしいしな」
 顔良と文醜が彼女の横に来て言う。
「それなら夏侯惇さん」
「ここはな」
「ああ、私達三人で迫る敵を倒す!」
 夏侯惇は高らかに言った。
「夏瞬!冬瞬!」
「ええ、春蘭!」
「わかってるわ」
 二人もこう夏侯惇に返す。
「華琳様は私達が」
「何があっても御護りするわ」
「そういうことね。頼りにさせてもらうわ」
 審配も言う。
「私達三人で麗羽様達をね」
 こうして戦いがはじまった。夏侯惇達はすぐに敵に斬り込む。そのうえで次々と倒していく。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「麗羽様達はやらせないから!」
「覚悟しやがれ!」
 それぞれの武具で縦横無尽に暴れる。その武勇は見事なものだ。
 それは曹洪達も同じだった。彼女達もそれぞれの武具を振るい敵を寄せ付けない。曹操も袁紹もその手に持っている自分達の武具を振るう。
「くっ!」
「その程度で!」
 二人は目の前に来たその白装束の者達をそれぞれ斬った。その中でお互いに言い合うのだった。
「どうしましたの?前より腕が落ちていなくて?」
「貴女の方こそね。領主の座にいて腕がなまったのではなくて?」 
 憎まれ口を言い合う。
「それでは。志を果たせそうにもありませんわね」
「そちらこそね」
「あら、わたくしはここでは死にませんわよ」
 袁紹は言いながらまた剣を振って敵を一閃した。
「悪運には恵まれていますし」
「それは私もよ」
 曹操も鎌を振るっていた。
「こんな場所で死ぬのは予定にはないわ」
「それでは。いいですわね」
「ええ、生き残るわよ」
 馬上ながら背中合わせになっていた。
「それじゃあね」
「何があってもね」
 こう言い合い二人も自ら戦っていた。戦いは激しくなる一方であり二人もかなりの数の刺客達を斬っていた。
 誰もがかなりの数の刺客達を倒していた。しかしであった。
「ちょっと、この連中」
「ええ」
「おかしくない?」
「そうよね」
 曹仁と曹洪がここで気付いた。
「斬っても斬っても出て来るけれど」
「これってどういうこと?」
「数が減らないの?」
「そんなことは有り得ないわよ」 
 曹操は真剣な顔で言う。
「絶対にね。だから安心しなさい」
「その通りですわ。敵の数、決して多くはありませんわ」
 袁紹も敵を倒しながらまた言う。
「ですから。今は弱音を吐かないことですわ」
「そうですね。ここは何があっても」
 審配もその手の剣を振るい続けている。
「踏ん張らないと」
「くっ、敵の右を衝くのよ!」
「そこよ!」
 軍師達も戦えないながらも指示を出していた。
「何としてもここは!」
「華琳様を護りなさい!」
「いい、荀ケ」
 田豊は荀ケに対して声をかけていた。
「今回は共闘よ」
「わかっているわよ。今は友若のことは忘れるわ」
 荀ケも戦局を見ながら田豊に返す。
「私だって。今は」
「そういうことよ」
「それじゃあ」
 こうして三人も三人のできることをしていた。まさに正念場だった。
 刺客達は次々と出て来る。いい加減彼女達にも疲れが出てきていた。 
 しかしここでだ。彼女達に思わぬ助っ人が出て来たのである。
「ふむ。これは」
「そうだな、我が師よ」
 赤い髪で白い服の男が帽子を被り亀に乗った老人に応えていた。男の顔は精悍なものであり老人は顔中に白い見事な髭を生やしている。
「常世とは関係ないしろだ」
「邪な者達じゃな」
「それなら答えは出ているな」
「その通りデス」
 岩の如き顔の大男に小柄な少女が応えていた。
「ここはあの白い服の連中を」
「倒す」
 その大男が答える。
「いいな」
「わかったデス。じゃあ親父」
「行くぞ」
「そうですね」
 最後に青い髪で白い上着と青いズボンの少年があった。若々しい端整な顔である。
「あの女の人達が襲われているみたいですね」
「それにだ」
 赤い髪の男はその鋭い目で応えた。
「あの白い服の者達はだ」
「そうじゃな。よからぬ気配に満ちておる」
「常世の者ではないにしろ」
 それをまた言う。
「それでもだな」
「うむ、怪しい者達であるのは間違いないからのう」
「それでは」
「行くぞ」
 少年と大男が言った。それぞれ刀に釣竿といったものを出した。戦いに加わる。
「!?あれは」
「新手ですの?」
「いえ、違います」
 青い髪の少年が曹操と袁紹に答える。
「僕達は気付いたらこの世界にいたんですけれど」
「清か」
 男はそこではというのだ。
「だが。随分と古さもあるな」
「漢よ」 
 審配がこう答えた。
「それがこの国の名前よ」
「漢じゃと」
 老人はその国の名前を聞いて目を少し丸くさせた。
「ふむ、随分と昔じゃな」
「そうですね。けれど僕達の世界の清でも漢でもないようですね」
 少年はそこを指摘した。
「この国は」
「しかもかなり厄介なことになっている」
 大男は既に白装束の男達と戦闘に入っていた。彼等の方から来たのだ。
 他の三人もそれは同じだった。こうなってはだった。
「それじゃあ」
 ここでだ。少年の髪がだ。
 変わった青から金色になったのだ。
 そのうえで目の感じも変わりだ。刀を振るいながら言う。
「青龍の力見せてやるぜ!」
「!?髪の色が」
「変わった!?」
 田豊と沮授もそれを見た。
「これは一体」
「どういうことなの!?」
「私達の世界とは全く違う世界から来ているのは間違いないけれど」
 荀ケもそれを見て怪訝な顔になっている。
「あれは一体」
「しかも。調べてみたら」
「この世界に来るのは時代こそ違うけれど」
「そうよね」
 三人一緒になってそれぞれ話す。
「同じ世界から来ているし」
「それは何故かしら」
「何かあるというの?」
 三人はそのことについても少し考えるのだった。だが今はそれよりもだった。戦いの方が重要だった。兵士達に命令を出さなくてはいけなかった。
 四人が加わり戦局は少し楽になった。そしてそこにだ。
 ふと到着した者がいた。それは。
「曹操殿、そちらか」
「あっ、貴方は」
「この辺りの民心の慰撫にあたっていました」
 ズィーガーだった。彼が出て来たのだ。
 そしてだ。その他にもいた。
 一人は黒い髪を髷にして袖のない白地に端が黒い三角模様の服の男だった。もう一人は緑と薄い紺色の上着と袴を着て右目に眼帯をしている。最後の一人は赤く長い髪にその顔を白く塗り赤い隈取をしている。赤と金のやたらと派手な服と袴である。彼はその三人と一緒だった。
「アンブロジアとかそんなのか?」
「いや、違うようだが」
「賊なのは間違いないようじゃな」
 その三人の男達がそれぞれ言う。
 そしてだ。ズィーガーがここでその三人に対して告げる。
「宜しいでしょうか」
「ああ、いいぜ」
「この世界にどうして来たかはわからぬが」
「義を見てせざるは勇なきなりというが」
 こう言うのだった。それでだった。
 四人はそれぞれ白装束の男達に対して向かう。彼等の戦闘力もかなりのものだった。
 これで戦いはかなり有利になった。敵は瞬く間に数を減らされていく。
 そしてだ。何時しか誰もいなくなった。残っているのは曹操と袁紹の部下達と突如参戦してきたその戦士達だった。彼等だけであった。
 そしてだ。ズィーガーがまず言った。
「曹操殿、それでですが」
「ええ、丁度聞きたいと思っていたのよ」
 曹操もズィーガーに応える。戦いは終わり周りには白装束の者達の骸が転がっている。その中で馬を降り彼の話を聞いているのだ。
「いいかしら」
「はい、彼等ですが」
「覇王丸っていうのさ」
「柳生十兵衛」
「千両狂死郎という」
 白と黒の豪放磊落な雰囲気の男と隻眼の男と赤髪の男がそれぞれ名乗る。
「宜しくな」
「どうやら縁あってこの世界に来たが」
「いきなりこうしたことになるとはのう」
「けれどお陰で助かったわ」
 曹操は微笑んで三人に応えた。
「貴方達のお陰でね」
「そうか。だったらいいがね」 
 覇王丸は微笑んで彼等に話した。
「それならそれで越したことはないさ」
「うむ、しかしこの者達は」
「何じゃろうな」
 十兵衛と狂死郎はここで周りを見た。丁度骸が処理されているところだった。その白装束の者達のだ。
「刺客の様だが」
「乱派かのう」
「宦官かしらね」
 曹操は彼等の話からそう考えたのだった。
「十常侍達の」
「確かに。わたくし達がここで会合をするのはわかっていることでしたし」
 袁紹も言う。彼女も既に馬を降りている。周りには彼女と曹操の配下の者達もいる。
「刺客を送るには好都合ですわね」
「そうよね。ただ」
「ただ?」
「あの連中にしてはやることがはっきりしているわね」
 曹操は鋭い目で述べた。
「どうもね」
「そういえば。十常侍といえば」
「もっと陰険なことをしてきますわね」
「今までもそうだったしね」
 袁紹が自分の言葉に頷くのを見ながら話を続ける。
「それでも今のは随分と」
「はっきりし過ぎていますわね」
「それにここまでの数の刺客達を送るものかしら」
 曹操はこのことも指摘する。
「殆ど一軍だったわよ」
「十常侍達の私兵でしょうか」
 荀ケはそれではないかと言った。
「そうした裏の力も持っていますが」
「私兵ね」
「はい、影の者達です」
「その可能性はあるわね」
 曹操は真剣な顔で袁紹の言葉に頷いた。
「それもね」
「それでは」
「それでも数が多過ぎるわ」
 曹操はまたこのことを指摘した。
「普通の刺客の数でもないし」
「袁紹様、それにです」
「この者達ですけれど」
 今度は田豊と沮授が話す。
「動きがおかしくありませんでしたか?」
「次から次に。影みたいに出て来て」
「影、確かにそうですわね」
 袁紹も二人の話を聞いて言う。
「それを考えれば確かに刺客ですけれど」
「正規軍の動きでないのは間違いありません」
「それにです」
 二人は袁紹に対してさらに話す。
「十常侍は私達がここに来ることを知っています」
「それでここに刺客を送り込んでは」
「疑われますわね」
 袁紹の目がぴくりと動いた。
「間違いなく」
「はい、特に張譲がです」
「確実に」
「如何に帝の信頼がありお傍にいるからといって」
 袁紹はこのことも考えるのだった。
「それでも。これだけのことはそうそう迂闊には」
「できないと思います」
「それを考えたら」
「十常侍ではないと」
 袁紹もそれを言う。
「そういうことですわね」
「だとしたらこの連中は一体」
 ここで言ったのは審配だった。
「誰の手でしょうか」
「異民族がここまで来ることは有り得ないぞ」
 夏侯惇がそれを指摘する。
「こんな中原の深くまでだ」
「異民族はあたい達が上手く抑えてるぜ」
「はい、ちゃんと移住してもらってそれで平和に農耕をさせてもらってます」
 顔良と文醜がこのことを話す。
「精強な奴は軍に入れてな」
「軍規軍律も厳しくしていますから」
「それにこの服って異民族の服?」
「絶対に違うわよね」
 曹仁と曹洪もそこを指摘する。
「むしろ何か怪しい組織にいるみたいな」
「そんな連中の様な」
「そうね。考えたけれど十常侍の手の者じゃないわ」
「異民族は有り得ませんわね」
 曹操と袁紹がここで結論を出した。
「だとしたら一体」
「何者でして?」
「どうやら今答えが出る話ではないな」
 ここで赤髪の男が言った。
「長い時間がかかるようだな」
「そうじゃな。しかしさし当たっては話は終わった」
 老人はそれでだというのだった。
「じゃが」
「じゃが?」
「この話は続くのう」 
 こう曹操と袁紹達に話すのであった。
「それではじゃ」
「そうだな」
「そうするデス」
 大男の親子が言った。
「暫く間貴殿達とだ」
「一緒にいてもいいデスか」
「客将というのなら望むところですわよ」
 袁紹が名乗り出るのだった。
「それでしたら」
「そうですか。それでは」
 少年が袁紹の言葉に応える。
「宜しく御願いします」
「貴方達の御名前は?」
 袁紹は自分が迎え入れると言った彼等の名前を問うのだった。
「何といいますの?」
「楓です」
 まずは少年が名乗った。
「宜しく御願いします」
「直衛示源」
「その娘虎徹デス」
 次には大男の親娘だった。
「宜しく頼む」
「御願いしますデス」
「玄武の翁という」
 四人目は老人だった。
「それではのう。宜しくな」
「嘉神慎之介」
 最後に名乗ったのは赤髪の男だ。長い白衣が風に翻る。
「宜しくな」
「貴方達はただの剣士じゃないわね」
 審配はすぐにそれを見抜いた。
「何か背負っているわね」
「はい、実はですね」
「我等はそれぞれ四霊を司っている」
「四霊といったら」
 審配だけではなかった。他の者達もここで言う。
「あれ?あの四方を護る」
「その神獣達」
「それだっていうのか」
「はい、そうなんです」
 楓が彼女達に話す。
「それで悪しき常世を封印しているのですが」
「常世!?」
 その言葉を聞いてだった。曹操はすぐに察した。
「冥界のことかしら」
「簡単に言えばそうなる」
 嘉神がこう話す。
「そこから来る存在も封じているのだ」
「そうですか。それがですか」
「貴方達の責務ですか」
「そういうことになる。しかし」
 翁は田豊と沮授の言葉に応えながら述べた。
「わし等が何故この世界の来たのかは」
「全くわからない」
「それでもとりあえずは厄介をさせてもらうデス」
「それは遠慮なくですわ」
 袁紹は微笑んで彼等を受け入れていた。
「仕事はしてもらいますけれど」
「これでまた新たな人材が入りましたね」
「いいことですね」
 田豊と沮授はそのことを素直に喜んでいた。
「まずは何よりです」
「刺客にも狙われましたけれど」
「さて、会談も終わりましたし」
 袁紹は満足した顔で述べていた。
「後は」
「はい、帰りましょう」
「?に戻りましょう」
 顔良と文醜はこう袁紹に言った。
「政務がありますし」
「そういうことで」
「華琳様、私達も」
「そうしましょう」
 曹仁と曹洪も曹操に話す。
「許昌に戻って」
「それで」
「そうですわね」
「それじゃあ」
 二人もそれに頷きかけた。しかしここで、だった。
 袁紹軍の黄色い服と鎧兜の兵士が一人来た。見れば曹操軍のそれよりもかなり重装備だ。見れば袁紹軍の兵士達は鎧も重厚で武器もいいものである。
 その兵士が来てだ。袁紹に対して告げるのであった。
「袁紹様」
「どうしまして?」
「この辺りの村の長老に聞いたのですが」
 こう袁紹に言うのである。
「どうやらこの辺りには」
「ええ」
「財宝が眠っているとのことです」
 袁紹の前に片膝をついての報告だった。
「そう言っております」
「お宝が!?」
「はい、これです」
 言いながらであった。地図も差し出したのだった。
 それは一枚の古ぼけた地図だった。袁紹はそれを受け取りだった。
 目を輝かせてだ。こう言ったのである。
「暫くここに残りますわ」
「あ〜〜〜あ、またですか」
「はじまっちゃったよ」
 顔良と文醜はそんな袁紹を見て呆れた顔になった。
「あの、ではもう少しですか」
「ここに残るんですか」
「お宝があれば見つけなければ」
 袁紹の言葉だ。
「是非共」
「やれやれ、その趣味は変わらないわね」
 曹操はそんな袁紹を見ながら呆れながらも笑っていた。
「お宝探し好きなのね」
「全くです。袁紹殿」
 夏侯惇は何とか真面目さを保ちながら袁紹に対して言う。
「いい加減いい歳なのですからそうしたことは」
「止めろといいますの?」
「はい、どうかと思います」
 こう袁紹に言うのだった。
「ですからそれは」
「あら、夏侯惇」
 袁紹は夏侯惇の嗜めに対して少しむっとした顔で返した。
「そういう貴女もいつもお宝探しに夏侯淵と一緒に参加していたじゃない」
「あれは華琳様がどうしてもというからです」
 こう返しはした。
「ですから」
「その割にはいつも楽しんでいたのではなくて?」
 微笑みながらこう返す袁紹だった。
「貴女も」
「ですからそれは子供の時ではありませんか。今は」
「では華琳」
 今度は彼女の主に問う袁紹だった。
「貴女はどうでして?」
「言って聞かないのはわかってるわよ」
 これが曹操の返答だった。
「こうしたことではね」
「では宜しいですわね」
「ええ、いいわ」
 袁紹に対して微笑んで答える。
「それじゃあね。ただ」
「ただ?」
「もう将兵はいらないわね」
 こう言うのだった。
「お宝探しならね」
「そうですわね。それじゃあ」
「えっ、まさか」
「華琳様まで」
 それを聞いて大いに驚く曹仁と曹洪だった。
「御一緒にですか」
「お宝探しを」
「貴女も一緒よ」
 曹操は微笑んで二人にも告げた。
「勿論桂花、貴女もね」
「はい、私は」
 彼女に異存がある筈もなかった。顔を赤らめさせて応える。
「華琳様の仰ることなら」
「では麗羽様」
 そして袁紹には審配がいた。傍に控えたうえでの言葉だ。
「私もまた」
「ええ、それに水華、恋花」
「はい」
「わかっています」
 田豊と沮授は微笑んで応えた。
「では兵士達は戻ってもらい」
「そして客将の方々にも」
「貴方達は先に戻っていて下さいな」
 袁紹から楓達に告げる。
「兵士達が先導してくれるから」
「わかりました」
「それなら」
 彼等もそれで異存はなかった。五人だけになるのだった。
「もう刺客は来ないでしょうし」
「そうね。それじゃあ私も」
 曹操も言うのだった。
「ズィーガーはこのままここで仕事を続けて覇王丸達はそれに加わって」
「ああ、わかったぜ」
「それでは」
 こうしてこの三人も今の持ち場が決まった。こうして話を決めてであった。
「では華琳」
「ええ、見つけた方がそのお宝を手にする」
「それで勝負ですわよ」
 お互い笑みを浮かべながらの言葉だった。
 こうしてだった。曹操と袁紹は互いの部下達と共に宝探しをはじめた。刺客達との死闘の後は楽しい遊びとなったというわけである。
 そしてその頃。新たに孔明を加えた関羽一行は今は予州にいた。そうしてであった。
「さて、もうすぐだな」
「はい」
 孔明が関羽の言葉に応えていた。
「もうすぐ官渡です」
「そうだな。しかし官渡には何かあっただろうか」
 関羽はここで首を傾げさせるのだった。
「あそこは森や平原があるだけで」
「何もないのだ?」
「そうだ。一度行ったがな」
 こう張飛にも答える。
「民家もないしな。戦場には向いているだろうが」
「そんな所に行っても何もないんじゃないのか?」
 馬超がここで言う。
「じゃあそこから別の場所に行くか」
「そうですね。ここから何処に行きます?」
 ナコルルはそこからの行く先を尋ねた。
「北ですか?それとも南ですか?」
「南がいいのではないのか?」
 今言ったのは趙雲であった。
「北はもう行っているしな」
「そうだな。北に行けば袁紹殿の領地だが」
「ああ、あの変わり者の」
「領土は上手く治めているけれどっていう?」
 キングと舞がそれを話す。
「鰻掴みをさせられそうだったらしいけれど」
「胸でって。あんまりじゃないの?」
「だから仕官止めたんだよ」
「とても無理なのだ」
 馬超と張飛がここで言う。
「そんなのできる筈ないだろ?」
「鈴々でも駄目なのだ」
「しかも吊り下げたバナナ取れとかファッションコンテストって」
 香澄はこのことに首を捻っていた。
「それをテストでしたんですか」
「何か武将での側近ナンバーワンを決めるつもりだったらしいのだ」
「今のところそっちの二枚看板の顔良、文醜とやったんだけれどな」
「あの曹操さんのところで言うと四天王に匹敵する人達ですよね」
 孔明は二人の名前を聞いたところでこう述べた。
「あの人達ですよね」
「知ってるのだ?」
「あの二人のこと」
「はい、お話は聞いています」
 この辺りは流石に孔明だった。
「袁紹さんのところには他にも武力に秀でた人がいますが」
「その中でも随一か」
「忠誠心も入れたら一番だと思います」
 こう関羽にも話すのだった。
「文醜さんはかなり賭け事がお好きだそうですが」
「そういえばそんな感じなのだ」
「だよな。あまり考えてなさそうだしな」
「元々は馬賊出身ですけれど袁紹さんが河北に入られた時に登用されたそうです」
「へえ、あの二人馬賊出身だったのか」
 馬超はその話を聞いて少し意外そうな顔になった。
「そういう風には見えなかったがな」
「しかし意外だな」
 趙雲はここでこう述べた。
「名門出身の袁紹殿がそうした馬賊出身の人材を側近に置くとはな」
「いや、それも当然だろう」
「そうよね」
 キングと舞はそれは当然と言うのだった。
「袁紹殿とやらは妾の子なのだろう?」
「この時代じゃそれってまずいだろうし」
「そうですよね。あまり出世できない立場ですし」
 香澄もそれを言う。
「だったらそうした人材でも」
「登用して当然か」
 趙雲も三人の話を聞いてあらためて頷いた。
「それも」
「そうですね。曹操さんも人材の出自にはこだわらないんですよね」
「あの方も宦官の家の出身だからな」
 ナコルルには関羽が答えた。
「だからな」
「それでなんですか」
「二人共それであそこまでなってるんだからな」
 馬超は顔を少し上げて言った。
「やっぱり凄いよな。涼州なんて豪族が一杯いてややこしいのにちゃんと治めていたしな」
「政治力は高いからな」
 趙雲もそれは認めた。
「しかしな。癖の強い方でもあるからな」
「だから鈴々も仕官しなかったのだ」
「何でああいう風になったんだろうな」
「劣等感だね」
 キングは張飛と馬超にこう述べた。
「妾の子ってことを意識してそれであそこまでなれるだけ頑張ったけれど」
「おかしな奴にもなったのだ?」
「何かバランスの悪い人だけれどな」
「そういうことだね。曹操ってのもそうじゃないかしら」
「そうだな。曹操殿もな」
 今度は関羽が言った。
「あらゆる方面に才能を発揮しておられるが」
「それでもなのね」
「妙に危ういところのある方だ」
 舞にも答える。
「肩肘を張っている部分もある。やはりそれも宦官の家だからか」
「そういう人って注意した方がいいわよ」
 舞は曹操についてだけでなく袁紹についても話していた。
「本人に能力があっても出自を気にする人はね。私一人知ってるから」
「ああ、あの男か」
「そうですね、あの人は」
 キングと香澄はすぐにそれが誰かわかったのだった。
「そうだったな。ああなるな」
「そうした意味では同じですね」
「んっ?誰だよそれ」
 馬超は三人の言葉に気付いて尋ねた。
「あんた達の知り合いか?」
「ギース=ハワードって言ってね。まあその曹操さんや袁紹さんと同じ様な立場でね」
 こう馬超達にも話すのだった。
「桁外れに強くて本人もかなりの能力があったんだけれど」
「腹違いの弟は能力と立場だけでなくて家柄もあってね」
「ウォルフガング=クラウザーって人ですけれど」
 キングと香澄はクラウザーについて話した。
「そいつをかなり意識していてね」
「そこからおかしくなったのよ」
「では曹操殿や袁紹殿の前にそうした人物が出れば」
「まずいことになるか」
 関羽と趙雲はすぐにそうなった場合のことを考えた。
「そういえは袁家の嫡流は袁術殿だったか?」
「あの方だったな」
「はい、ですがあの人はまだ幼いですし」
 孔明がその袁術について話した。
「それに素質はありようですけれど何分気まぐれなところの多い方でして」
「二人のライバルにはならない」
「そういうことか」
「はい。ですが最近どうやら」
 孔明の話は続く。
「御二人を両腕と頼んでいる何進大将軍の側近に司馬仲達という人が入ったそうです」
「司馬仲達!?」
 馬超がその名前を聞いて声をあげた。
「司馬氏っていったら代々高官出してる家だけれどな」
「その家の方です」
「で、嫡流ってか」
「はい。しかもかなりの切れ者だとか」
 家柄も血筋も能力もあるのだという。
「曹操さんと袁紹さんは血筋でかなり苦しんでおられますがその方は、です」
「しかし何進大将軍は確か肉屋の出でだ」
 関羽は何進二ついて話した。
「それで出自により重く見られていなかった曹操殿と袁紹殿を重用されているのではなかったのか」
「ですが袁術さんも重用されてますし。それを考えますと」
「結局能力があればそれでいいというのか」
「敵の多い方ですし。人材は御一人でも多くだと思います」
 孔明は関羽だけでなく他の面々にも話していた。
「そういうことかと」
「そうか。そういうことか」
「おそらく曹操さんと袁紹さんはその司馬仲達さんをかなり警戒しておられます」 
 孔明はこのことも話した。
「それがよからぬ方向に進まなければいいのですが」
「そうか」
「家柄では曹家も袁家も司馬家には負けてないんだけれどな」
 馬超はこのことを指摘はした。
「それはな」
「しかしそれでもってことだね」
「出自も問題になる訳だから、この時代は」
 キングと舞がこのことをまた指摘する。
「ややこしい話だけれどね」
「能力があるだけじゃ駄目なこともあるのね」
「牙神さんもそうでしたし」
 ナコルルもある人物の名前を出した。
「あの人も。それでああなってしまってますし」
「色々な人間がいるものだがな」
 趙雲はふと達観したように述べた。
「劣等感で伸びることもあればそれによりおかしな方向にいってしまうこともある」
「曹操殿も袁紹殿はそうした意味で危ういか」
「少し離れて見ておいた方がいいかも知れませんね」
 関羽と孔明はここでこう言った。
「御二人共、特に曹操殿は仕官するのもいいのだが」
「その司馬仲達さんのことも気になりますから」
 だからそれはしないというのだ。そして孔明はここでこうも言うのだった。
「そして南、正確には南西の揚州ですけれど」
「江南なのだ?」
「はい、そこは今孫氏が牧として治めておられます」
 こう張飛に話す。
「孫策さんが御母上の孫堅さんの跡を継がれて」
「江南の小覇王だな」
 趙雲が彼女について述べた。
「戦に強いだけでなく人材を見るのも確かで気さくな人柄で民からも慕われているという」
「へえ、そういう人なのかよ」
「そうだ。かなりの傑物だと聞く」
 馬超に対しても話す。
「一度揚州に行ってみるのも悪くはないな」
「そうですね。それじゃあ官渡を一度見てから揚州に向かいましょう」
 孔明がここで言った。
「長江を見るのもいい経験ですしね」
「河かあ。あたし河はあまり見てないんだよな」
 馬超は何かまだ見ていないものを見に行くような言葉を出した。
「長江って黄河よりもまだ凄い河なんだよな」
「そうですね。あの地でその西楚の覇王項羽が生まれましたし」
「その孫策殿の通り名の元にもなっただな」
 関羽も項羽について言う時は言葉が少し緊張していた。項羽の武勇はこの時代においても伝説となって残っている。敗れはしたが史記においても屈指の英傑の名前は残っているのである。
 その項羽の話も出てだ。皆緊張しながら言い合う。
「よし、それでは」
「行きましょう、江南に」
「そうしましょう」
 こうして彼女達は官渡の次の行く先も決めたのだった。そうしてそのうえで官渡に進むのだった。そこで珍妙な騒動に巻き込まれるとも知らずに。


第十三話   完


                         2010・5・16



人数がかなり多くなってきたな。
美姫 「他にもまだ出てくるのかしらね」
ともあれ、今回は曹操と袁紹が中心だったかな。
美姫 「今回は愛紗たちは何事もなく旅を続けているみたいだしね」
でも、次回はそうもいきそうもない感じだったが。
美姫 「何が起こるのかしらね」
次回も待っています。



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