『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                            第百二十八話  一同、泉で泳ぐのこと

 一同は都の外にある泉に向かう。その道中でだ。
 孫尚香は虎に乗りながらだ。その隣にいる陳宮に尋ねた。
「あんたはここでも犬なのね」
「そう言う孫尚香は虎なのです?」
 見れば陳宮の隣にはあの大きな犬がいる。ここでも一緒なのだ。
「よく懐かれるのです」
「ううん、そんなに変わってるかな」
「変わってるも何もねねは最初見てびっくりしたのです」
 その虎、白虎を見ながら言う陳宮だった。
「虎に乗っているなんて。何時食べられるかわからないのです」
「いい子よ、この子は」
 自分が乗るその虎を見ながら言う孫尚香だった。
「頭もいいしね」
「けれど虎なのです」
「虎、虎っていうけれど」
 それでもどうかというのである。
「別に全部の虎が人を襲う訳じゃないから」
「本当なのです?それは」
「犬だって全部の犬が怖い訳じゃないでしょ」
「それはその通りなのです」
「だからよ。シャオは虎とか他の動物のことがわかるの」
 孫尚香の特殊能力の一つである。
「だからいいのよ」
「ううん、動物の心がわかるとなると」
「呂布と一緒だっていうのね」
「恋殿は凄いのです」
 陳宮はここでも呂布だった。
「天下無双の豪傑でしかもとても優しい方なのです」
「動物、大事にしてるのよね」
「いつもそうしているのです」
「そんな呂布だからなのね」
 陳宮を見てだ。呂布は言った。
「陳宮も一緒にいるのよね」
「恋殿に助けられました」
 はじめて会った時のことはだ。陳宮にとっては何があろうと忘れられないことだった。
 それでだ。陳宮は言うのだった。
「その時に決めたのです。ねねは恋殿の為には何でもするのです」
「だから。虎牢関の時もなのね」
「そうなのです。何があってもなのです」
 呂布の為に動くというのだ。
「ねねは恋殿の為に動くのです」
「正直それって凄いことよ」
 そんな陳宮の言葉を聞いてだ。孫尚香はだ。
 優しい微笑みになりだ。こう言ったのだった。
「誰かの為に何でもできるって」
「そうなのです?」
「シャオはそこまでのことはできないから」
 自分のことを振り返っての言葉だった。
「陳宮は凄いと思えるわ」
「ねねは本当にただ恋殿の為に」
「だからそう思えるのが凄いから」
「そうなのです?」
「そうよ。じゃあこれからもずっとね」
「はいです。ねねは恋殿と一緒なのです」
 はっきりとした笑顔で言う陳宮だった。そうした話をしながらだ。
 一行は泉に着いた。その泉を見てだ。
 こちらの世界の何人かがだ。微妙な顔になり話をするのだった。
「まあここはね」
「色々とある場所だけれど」
「青い泉っていいます?」
「そんな場所なんだけれど」
「まあそのことはあえて言わないでおこうな」
 ラルフが苦笑いを浮かべて彼女達に言う。
「少なくともここじゃそうしたことはないからな」
「そうですね。私もこの泉には縁がありますが」
 郭嘉もかなり複雑な顔になっている。
「それでも。今は」
「ああ、素直にバーベキューに泉を楽しもうな」
「では。そうしましょう」
 こうラルフに応えてだ。そしてだ。
 郭嘉はだ。すぐにだ。袁術のところに行きだ。目をきらきらとさせて話すのだった。
「では美羽様、今から二人で」
「そうじゃな。楽しもうぞ」
 袁術も笑顔でその郭嘉に応える。
「凛がいてくれればわらわも満足じゃ」
「はい、ですから」
「凛ってほんまに華琳様の家臣なんか?」
 李典は真剣にだ。このことについて疑問を感じていた。
「最近特に怪し過ぎるやろ」
「ううむ、否定できないものがあるな」
 魏延がその李典に同意して応える。
「私は二人とは長い付き合いだがその頃から怪しかった」
「ああ、あっちの世界やな」
「そうだ。二人はとにかく相性がよ過ぎる」
「よ過ぎるんか?もうそんな域超えてるやろ」
「あとわかっていると思うがそちらの世界ではだ」
「ああ、張勲さんもやな」
「一緒だった。三人でも組み合わせもできるからな」
「あんたはダンス得意やったな」
 李典は魏延自身のことも話す。彼女自身に対して。
「それでジャージ着てたんやな」
「黒のな。そういえばだな」
「今も黒やな」
「あの二人は色は変わっているがな」
 魏延についてはそれはなかった。
「私はなかったからな」
「それでもあまり何とも思うてへん感じなのは何でや?」
「満足しているからだな」
 それでだと李典に応えながらだ。魏延は。
 自分の隣にいる劉備を見てだ。そのうえで李典にまた話した。
「今のままでな」
「ああ、わかったわ」
「私は最高の主を頂いた」
 やはり劉備を見ながらの言葉だ。
「これで満足できぬ者は愚か者だ」
「っちゅうか満足し過ぎやろ」
 李典が見ても呆れる程だった。
「あんたちょっとな」
「そうだろうか」
「そや。そういえば劉備さんが水着買う時どないしてたんや?あんた珍しくその場におらんかったらしいやんけ」
「いや、いた」
 いたというのである。
「しっかりとな」
「けど関羽も張飛も見とらんって言うてるで」
「影だ」
 魏延は李典の問いに一言で答えた。
「影の中にいたのだ」
「まさか思うけれど劉備さんのか」
「半蔵殿に教えてもらったのだ」
「うむ、その通りだ」
 その半蔵も出て来た。ここでも黒装束に覆面である。
「魏延殿の忠義に感じ入りだ。影入りの術を教えさせてもらったのだ」
「そうやったんかいな」
「あれはいい術だ」
 魏延は頬を赤らめさせて言った。
「桃香様を何時でも御護りできる。それにだ」
「それに?」
「その時は白だった」
 こんなことも言うのだった。
「白も似合う方なのだな」
「おい、何を見たんや何を」
「普段は桃色が好きな方だが白もいい」
 まだ言う魏延だった。目を微笑まさせたまま。
「いや、まことにいい術だ」
「役得でもあるんやな」
 そんな魏延に呆れる李典だった。そうした話をしながらだ。
 誰もが水着に着替える。そのうえでだ。
 泳ぎバーベーキューを焼く。その中でだ。
 青のトランクスタイプの水着のキムがだ。幻庵達に言っていた。
「いいか、何時でも修業だ」
「ですから今もです」
 黒のビキニの水着のジョンも言う。
「泳げ!ただひたすた泳げ!」
「バーベーキューを焼いてもまだ修業がありますよ」
「うう、わし等は何時解放されるんだケ」
「こんな滝昇れるかよ」
 幻庵とアースクェイクは滝を泳いで昇らさせられている。直角の百メートルはある滝だ。
 無論山崎達も一緒だ。彼等は泣きながら泳いでいる。
 その中でだ。幻庵は言うのだった。
「肉を焼いてすぐにこれだケ」
「しかも服着たままでだからな。着衣での水泳も大事だってな」
「全くキムの旦那もジョンの旦那も相変わらずだぜ」
「何の情け容赦もないでやんすよ」
 チャンとチョイも泣きながら泳いでいる。
「ったくよ、俺達も肉食いたいぜ」
「折角の骨休めになると思ったら全然違ったでやんすよ」
「まあ今更言ってもな」
 どうかとだ。山崎も泳ぎながら言う。
「仕方ないからな」
「そうなんだよな。旦那達の際限のスパルタは変わらないからな」
「滝だけで済めばいいでやんすが」
 チャンとチョイが言うとだ。言ったそばからだ。
 上からだ。岩なり流木なりが落ちて来た。
 それを見てだ。山崎は思わず叫んだ。
「おい、殺す気かよ!」
「旦那達は本当に半端じゃないぜ!」
「あっし等ここで終わりでやんすか!?」
「死にたくなければ岩や流木を砕け!」
「そうして進むのです!」
 そのキムとジョンも来た。彼等も何時の間にか服を着てそのうえで滝を昇っている。何故か二人はその滝をごく自然に進んでいっている。
 そうしながらだ。彼等はチャン達に言うのだった。
「私達もそうする!」
「こうしてです!」
 二人はそれぞれ滝から飛び出てだ。滝の水面から並行にだ。
 蹴りを放ち前から来た岩と流木を砕く。そのうえでだ。
 何もなかった様に滝に戻りだ。泳ぎを再開しながら彼等に話す。
「こうするのだ。わかったな」
「では先に進みましょう」
「この連中冗談抜きでオロチよりやばいだろ」
 そのオロチの血を引いている山崎も唖然となる。
「っていうか今何やったんだよ、今」
「最早この二人に常識は通用しないケ」
「ただひらすらしごく鬼だな」
 幻庵もアースクェイクも言葉もない。
「わしにしても無理だケ」
「しかもこの滝ってな」
 アースクェイクは上を見上げた。するとだ。
 その滝の上にだ。さらにだった。
 滝が見えていた。その直角の滝が何段も続いている。
 それを見てだ。彼等は言うのだった。
「何段あるんだよ」
「というかどうなってんだ?この山」
「無茶苦茶にも程があるでやんす」
「うむ、現地の人に御聞きしたところだ」
 キムはまた岩を砕いた。滝を泳ぎながら半月斬を出して砕いたのだ。
「三十段ある」
「百メートルの直角の滝が三十段です」
 ジョンも話す。
「それだけある」
「そこを全て昇るのです」
「わかったな。では頂上まで昇るぞ」
「そうしますよ」
「死ぬな、今度こそ」
 臥龍は真顔で言った。
「流石にこれは無理だろ」
「ああ、もう諦めたぜ」
「あっし等の命は今日で終わりでやんすよ」
 チャンもチョイも完全に今の人生を諦めた。今度こそ死ぬと確信したのだ。
 だが督戦隊も一緒にいてはどうしようもなかった。彼等はだ。
 滝を昇っていく。そうして岩や流木を受けているのだった。
 そんな彼等を泉から見ながらだ。際どい、胸が露わになっている紫のワンピースの黄蓋がだ。こんなことを言ったのだった。
「相変わらずえげつない修業じゃのう」
「あれ、死ぬでしゅよ」
 彼女の隣にいるチンも応える。
「一歩間違えなくてもそれこそ」
「キムとジョンはいつもああしておるが何を目指しておるのじゃ?」
「悪人の更正でしゅ」
「どう考えてもしごきの為のしごきじゃが?」
「二人が気付いていないだけでしゅ」
 何と本人達は気付いていないのだった。
「だからああしているでしゅよ」
「捕まった者は災難じゃな」
 黄蓋は心からその捕まった者達に同情していた。
「あれではまことに死ぬぞ」
「まあ今回だけはそう思うでしゅ」
「御主もよく捕まらんのう」
「何度か危うく捕まりそうになったでしゅよ」
 チンもだ。そうなりかけたというのだ。
「御金儲けの仕方が汚いと言われたでしゅよ」
「実際にそうであろう?」
「外道なことはしていないでしゅよ」
 このことは力説するチンだった。
「私は裏の世界には関わっても人の道は踏み外さないでしゅよ」
「だといいのじゃがのう」
「それでなのでしゅが」
 さらにだ。チンは言う。
「あの二人に捕まったらそれこそお金儲けどころではないでしゅから」
「逃げまくったのじゃな」
「いや、思い出した様にくるから大変でしゅよ」
「今も来るのか」
「その通りでしゅ。災厄以外の何者でもないでしゅよ」
 こんなことを言いながらだ。チンは泳ぎをはじめた。太っているがそれでも見事なクロールを見せる。それを見て黄蓋もだった。
 泳ぎはじめる。背泳ぎだがこれがだった。
 文醜が見てだ。驚くに値することだった。それでこう言うのだった。
「うわ、泳ぎだけじゃないな」
「そうね。あの人はね」
「それどころじゃないわね」
 緑のビキニの文醜にだ。審配と蔡文姫が応える。審配は青のワンピース。蔡文姫は黒と白のストライブのビキニという格好である。
 その二人はだ。黄蓋の胸を見ながら言うのである。
「胸が大きいだけにね」
「それが浮き袋にもなってるわね」
「ちぇっ、泳ぎは胸かよ」
 羨ましそうに言う文醜だった。
「色っぽいだけじゃないな、あれはな」
「まあ猪々子は胸ないから」
「どうしても負けるわね」
「胸ないだけ水に邪魔されないでいけるだろ」
 これが文醜の思うところだった。
「それで何でなんだよ、あの人は」
「だから。浮き袋になってるから」
「それでああなるじゃない」
 こう話す審配と蔡文姫だった。そしてだ。
 蔡文姫はだ。文醜にこんなことを話したのだった。
「それでだけれどね」
「んっ、どうしたんだ?」
「貴女泳げるわよね」
「ちゃんとな。泳げるぜ」
「だったらいいけれどね」
「赤壁じゃ毎日泳いでたじゃないか」
 川辺にあるのでだ。鍛錬と遊びを兼ねてそうしていたのだ。
「それ見てただろ」
「都に帰ってから泳いでなかったから」
「それで言うのかよ」
「ええ。けれど泳ぎは覚えてるのね」
「忘れるものじゃないだろ、泳ぎは」
「それはそうだけれど」
「まあ。滝を昇るのは無理だけれどな」 
 見ればキム達はまだ滝を昇っている。
「ああいうのはな」
「あれはまた例外中の例外だから」
「できなくていいんだな」
「というかの岩とか流木とか誰が落としてるのよ」
 本当にだ。次から次に落ちてきている。
「えげつない修業もあるものだな」
「あれなあ。キムの旦那達も容赦しねえな」
「本当にあの人達死ぬんじゃないの?」
 審配も眉を顰めさせて言う。
「当たったらそれで終わりでしょ。とことんまで落ちるし」
「危険過ぎるから、あの修業」
「あたいもそう思うぜ」
 武勇には自信のある文醜が見てもだった。
「あれは死ぬだろ」
「それをあえてする二人ってね」
「厳しいにも程があるわね」
「付き合わされる方はたまったものじゃないな」
 文醜はつくづくといった口調で言う。
「いや、本当にな」
「猪々子も気をつけてね」
「あの二人は自分達から見て悪だったら来るから」
 審配と蔡文姫もそのことはよくわかっていた。
「だからね。いいわね」
「油断したらあの中よ」
「それだけは勘弁して欲しいな」
 文醜の顔は今は笑ったものではなかった。
 深刻な顔で滝の方を見ながらだ。そうして言うのだった。
 そしてだ。文醜はだ。二人にあらためて言った。
「で、これから何するよ」
「泳ぐか食べるか?」
「どっちにするかっていうの?」
「遊ぶ選択肢もあるだろ」
 文醜は第三の選択肢も出した。
「それもな」
「そういえばそうね」
「言われてみれば」
「じゃあどうするんだい?遊ぶかい?」
「じゃあ鞠でも使って」
「遊ぼうかしら」
 二人も文醜の誘いに乗ってだ。そのうえでだ。
 泉の中で鞠を投げ合って遊びだした。その遊びを見ながらだ。
 山田十兵衛はだ。いやらしい目でこう言うのだった。
「といのう、ピチピチのおなごばかりじゃて」
「あのな、爺さんいいか?」
 マイケルがその山田に声をかける。彼は黒のトランクスタイプの水着だ。
「あんた泳がないのかよ」
「うむ、そのつもりはない」
「だからかよ。そうやって女の子ばかり見てるのかよ」
「その通りじゃ」
 見れば彼は赤褌である。しかし水に入ろうとはしない。
 そのうえでだ。ずっと女の子達を見て目を細めさせているのだ。
 その山田にだ。マイケルは呆れた顔で言った。
「そんなのだからスケベ親父って言われるんだよ」
「親父か?」
「いや、爺さんだな」
 マイケルは自分の言葉を訂正した。
「あんたはそうだな」
「親父と言えば俺だろう?」
 フランコがぬっと出て来た。膝までのびっしりとした緑の水着である。
「俺なんかを言うんだよ、親父ってのはな」
「その通りだけれどな。しかしな」
「しかし。どうしたんだ?」
「いや、あんたは親父は親父でもスケベ親父じゃないんだな」
 マイケルはフランコにもこう言うのだった。
「特にな」
「俺羽女房にしか興味がないからな」
 これがフランコの返事だった。笑顔でマイケルに話す。
 そしてそのうえでだ。彼はこんなことも言った。
「だから特にな」
「それでいいっていうんだな」
「他の女の子には興味がないな」
 こう言い切る。
「だから俺はここで肉でも食ってるさ」
「そうなんだな。で、爺さんよ」
 マイケルはまた山田に声をかける。
「あんたはもうずっと見ているんだな」
「その通りじゃ。女の子はいいものじゃ」
 相変わらず目を細めさせている山田だった。
「目と心のいい保養じゃ」
「確かに気は若いな」
「そうじゃろう。それではじゃ」
「ああ、それでなんだな」
「もっとお姉ちゃんを見るのじゃ」
 こう言ってだ。周囲をその目で見ていく。
 サングラスもしていない。そうして見てだった。マイケル達に言うのだった。
「あれじゃな。水着がこの世界にもあるのはじゃ」
「いいっていうんだな」
「この世界の服の文化とかはわからんが」
「ゴムだってあるしな」
「これでよいのじゃ」
「水着があるのがか」
「水着は下着と同じじゃからな」
 山田は水着の本質を見事に指摘した。
「スタイルが完全に出るからよいのじゃ」
「だからなんだな。あんたが今いやらしい目をしてるのは」
「いらやしいか、わしは」
「ああ、かなりな」
 いやらしいとだ。マイケルは本人に対して断言してみせる。
「そう思えて仕方ないぜ」
「ははは、まあそう言わずにじゃ」
「言わずに。何だ?」
「これでも食わんか?」
 山田は何処からか煎餅を出してきた。それをまずはフランコに勧める。
 そのうえでだ。フランコにも勧めて言うのだった。
「ほれ、美味いぞ」
「ああ、悪いな」
「それじゃあな」
「うむ、美味いぞ」
 自分でも煎餅をボリボリとかじりながら言う。
「いやらしいならいやらしいでよいわ」
「開き直ったな、また」
「そう来たか」
「うむ。可愛い女の子を見ると心が弾む」
 今度はこう言うのだった。
「では共に見ようぞ」
「俺は別にいんだけれどな」
「俺もだ」
 マイケルもフランコも山田程女の子に興味はなかった。フランコもだ。
 それで今は煎餅を食べることに専念した。彼等はそちらだった。 
 その山田の刺さる様な視線を浴びながらだ。舞はマリーに話す。舞は紅のビキニ、マリーは群青色のビキニだ。デザインがそれぞれ細かいところが違う。
 その舞はだ。困った顔でマリーに話す。二人は今小石の岸辺で肉を食べている。
「十兵衛さんって本当に」
「何ていうか相変わらずね」
「だから困るのよ」
 本当に困った顔で言うのだった。
「あの人はね」
「そうね。けれどね」
「けれどって?」
「気が若いのは確かね」
 こうは言ってもだ。マリーは笑顔ではない。
 真顔でだ。舞に話すのだった。
「だから今も戦えるのよ」
「そうなるのね」
「そう。若し完全にお爺さんだったらどうかしら」
「隠居してるわよね。その時は」
「そういうことよ。気が若いからね」
「あの歳でも戦えるのね」
「そう思うわ。だから私達もね」
 ここでやっと笑顔になるマリーだった。そうしてだ。
 バーベキューのスペアリブを手に取りかぶりつきつつだ。こう言ったである。
「気は若くね」
「そうあるべきなのね」
「そういうことよ。じゃあ食べて」
「泳いでね」
 舞もここで笑顔になった。
「そうしましょう」
「わかったわ。それじゃあね」
 二人が笑顔で話しているとだ。ここでだ。
 徐庶がだ。焼いた玉葱を食べつつ二人に言ってきた。その言うこととは。
「私、今とても悲しいです」
「どうしたの?徐庶ちゃん」
「何かあったの?」
「お二人共背が高くて」
 徐庶が最初に言うのはこのことだった。
「それに体型も」
「体型って」
「何が言いたいのかわからないわね」
「とてもいいですから」
 こうだ。自分の身体、青のスクール水着に包んだその肢体を見ながら言うのである。
「羨ましいです」
「そんなのは大きくなればね」
「自然とこうなるわよ」
 舞もマリーもそれは大丈夫だと言うのだった。
「だから特にね」
「気にすることないわよ」
「よく言われますけれど」
 その持つ者にはというのだ。
「ですがそれでも私は」
「ううん。徐庶ちゃん可愛いけれど」
「胸とかは何時か大きくなるものだから」
「特に気にしたら駄目よ」
「そういうことはね」
「そうなんでしょうか」
 不安に満ちた顔で首を捻ってだ。
 そのうえでだ。徐庶は今言うのだった。
「だったらいいですけれど」
「まあとにかく今は食べましょう」
「お肉も野菜も美味しいわよ」
 実際に食べながらだ。徐庶に勧める二人だった。
「そこのラム焼けたわよ」
「ピーマンもね」
「わかりました。それじゃあ」
 とりあえず今は食べる徐庶だった。その彼女のすぐ側でだ。
 黒のスクール水着の孔明がだ。白のスクール水着の鳳統と話していた。その話すことはというと。
「ううん。泳ぐことってこれでかなり」
「そうなのよね」
 水泳自体について話していた。
「だから奇麗にもなるっていうけれど」
「それでも。実際に泳ぐとなると」
「疲れるから」
「どうしてもあまり長くは」
「何にゃ?二人は泳げないにゃ?」
 その二人にだ。猛獲が尋ねる。
「そうだったのにゃ?」
「あっ、少しは泳げるの」
「けれど沢山泳ぐことは」
 できないとだ。二人は暗い顔で猛獲に話す。
 それを聞いてだ。猛獲は二人にこう言うのだった。
「美衣は幾らでも泳げるにゃ。体力がないにゃ?」
「ずっと。本ばかり読んでいたせいかしら」
「そういうことはあまり」
 運動自体がだ。二人は苦手なのだ。
 そのことを言われてだ。猛獲は目を一旦しばたかせた。それからだ。
 こうだ。二人に言うのだった。
「身体を使うことも大事にゃが」
「どうしても。そうしたことは苦手で」
「つい」
「なら特にいいにゃ。人には得手不得手があるにゃ」
「そう言ってくれるの?」
「美衣ちゃんは」
「美衣は無理強いはしないにゃ」
 このことは胸を張って言う猛獲だった。
「人にそういうことをするのはよくないことにゃ」
「だからなのね」
「それで」
「そうにゃ。それでにゃ」
 このことを話してからだ。あらためてだ。
 猛獲はだ。二人に言うのだった。
「で、どうにゃ?これから何して遊ぶにゃ?」
「ううんと。できるだけ身体使わない遊びなら」
「それならいいけれど」
「そう言われると困るにゃ」
 猛獲は二人の返事に今度は彼女が困った顔になる。
 そうしてだ。二人に言うのだった。
「遊びは身体を動かすにゃ。だから困るにゃ」
「そう言われてもちょっと」
「今はもう身体を動かすことは」
 二人が困っているとだ。ここでだ。
 トラにミケ、シャムが出て来てだ。三人にこんなことを勧めてきた。
「それじゃあいいことがあるにゃ」
「クラウザーさんと一緒に遊ぶにゃ」
「そうするにゃ」
 三人に言うことはこのことだった。
「クラウザーさんギャンブルが得意にゃ」
「その遊びが大好きにゃ」
「だからクラウザーさんと一緒に遊ぶにゃ」
「えっ、賭けごとはちょっと」
「それは」
 ギャンブル、即ち賭けごとと言われてだ。孔明と鳳統は。
 狼狽する顔になりだ。こう言うのだった。
「お金を賭けるのはよくないわ」
「そんなことしたら大変なことになるわよ」
「大丈夫にゃ。クラウザーさんお金は賭けないって言ってるにゃ」
「子供相手にそんなことはしないって言ってるにゃ」
「クラウザーさん嘘は吐かないにゃ」
 三人は笑顔でお金の心配はないと言う。実際にだ。
 クラウザーは騎士道精神の持ち主でありだ。嘘は嫌っている。確かに影の世界にいるがそれでもだ。彼は真面目な男なのである。
 その彼がそう言っていると聞いてだ。孔明と鳳統もだった。
 とりあえずは安心してだ。こう言うのだった。
「それじゃあ何も賭けないのなら」
「クラウザーさんいやらしい人じゃないし」
「安心するのだ」
 本人がぬっと出て来た。孔明達から見れば異様なまでに大きい。
 そのクラウザーがだ。こう言うのだ。
「私は子供相手に金は求めない」
「そうですよね。クラウザーさんは」
「そうした方ですよね」
「そうだ。ましてやだ」 
 その口髭の顔にやや不愉快なものも見せてだ。クラウザーはさらに言う。
「身体を求める様な下衆なことは断じてしない」
「何処かの変な漫画にあるみたいなですね」
「そうしたことは」
「そうだ。一切しない」
 こう言うのだった。
「何があろうとだ」
「そういうことお嫌いなんですね。クラウザーさんは」
「そうなんですね」
「それは騎士道に反する」
 そうした行為はだというのだ。
「だからしないのだ」
「クラウザーはいい奴にゃ」
 猛獲は両手を上げ満面の笑みを浮かべて言う。
「暗黒の世界にいるかも知れないけれどいい奴にゃ」
「ただ。シュトロハイム家が代々そういう家でしたね」
「その大秦の貴族の方の裏の警護を代々務めておられる」
「表の仕事もある」
 クラウザー自身がそのことも話す。
「だが主な仕事はそれなのだ。私の家はな」
「だから裏の世界にですか」
「関わっておられるのですね」
「しかし私は騎士だ」
 自分でも言うのだった。
「そのことは言っておく」
「ですか。じゃあよかったら」
「一緒にお願いします」
「でははじめるとしよう」
 クラウザーはトランプのカードを出してきた。その巨大な手にはあまりにも小さい。
「それでいいな」
「はい、お願いします」
「それじゃあ」
 こうしてだった。二人はだ。
 猛獲達と共にクラウザーとポーカーを楽しむことにした。その後でだ。
 バーベキューを食べながらだ。そのポーカーのことをだ。劉備達に話すのだった。
「クラウザーさん実はですね」
「賭けごとについてはその」
「普段とは違って」
「結構」
「せこいのだ?」 
 張飛は直感から指摘した。黄色のビキニを着ている。
「そうなのだ?クラウザーは」
「はい、やること為すことです」
「妙にそうなんです」
「ううん、意外なのだ」
 豚肉の巨大なものを頬張りながら首を捻る張飛だった。
「クラウザーはそういう奴だったのだ」
「はい、あまり上品な言葉ではないですが」
「クラウザーさんは」
「意外だな。確かに」
 見事な白ビキニ姿の趙雲もクラウザーのその一面には目を少しだけ見開く。
 そのうえでだ。こう言うのだった。
「何ごとにも貴族らしく大きく構えている御仁だが」
「賭けごとになるとこれがです」
「妙に小さなことにこだわって」
「勝負に出るのも妙に」
「細かいといいますか」
「あの旦那賭けごとになると性格変わるんだな」
 胸がかなり露わになっている際どいだ。赤と黄色のワンピースの馬超も首を捻る。
「それは本当に意外だな」
「けれど本当にただ遊ぶだけで」
「何かを賭けることはしませんでした」
 言ったことは絶対に守るクラウザーだった。
「そのことは確かです」
「絶対にしませんでした」
「ならいいんだけれどな」
 馬超は二人のその言葉を聞いてまずは納得した。
「旦那もそこはちゃんとしてるんだな」
「はい、ですから安心して遊べました」
「ポーカー自体は」
「それはいいことだ」
 趙雲は二人のその話を聞いて微笑んで応えた。
「楽しめたのならな」
「はい、そうさせてもらいました」
「お蔭で楽しい時間を過ごせました」
 クラウザーのそのせこさを見たとはいってもだというのだ。
 そうした話をする二人だった。その横ではだ。
 荀ケがだ。ここでもだ。
 ピンクのワンピース姿だが水には入らずにだ。石の上で体育座りをしてだ。褌姿の覇王丸と飲んでいた。そうして言うだった。
「やっぱりね。楽しくっていったらね」
「酒なんだな」
「お酒は百薬の長よ」
 こう言いながら飲むのである。そしてだ。
 自分の前にいてやはり飲んでいる董卓にも言う。董卓は大人しい、淡い紫のセパレーツである。所々にフリルもついているものだ。
「それはそうとよ」
「はい、私ですよね」
「ええ。あんたも飲めたのね」
「お酒は大好きです」 
 大人しめの微笑みでだ。答える董卓だった。
「飲んでいると何かそれだけで」
「そうよね。楽しくなるのよね」
「荀ケさんがお酒好きだとは聞いてましたけれど」
「そうよ。大好きよ」
 自分でもそのことを隠さない。そうしてだ。
 もう一人いるだ。ズィーガーにこんなことを言ったのだった。
「それでズィーガービール造ってるけれど」
「あれですね」
「あれもいいわよね」
 こうだ。米の酒を飲みながら話すのである。
「美味しいわ。麦のお酒もね」
「そうです。ビールは全ての父であり母なのです」
 ズィーガーは笑わないがそれでも言う。
「だからこそ飲むべきなのです」
「それで造るのね」
「何でしたら製造方法をお教えしますが」
「あっ、それお願いできる!?」
「よかったら」
 荀ケも董卓もだ。ズィーガーのその言葉にだ。
 思わず顔を向けてだ。そうして応えたのである。
「私もビール造って飲みたいから」
「是非お願いします」
「ちょっと、月は気をつけてよ」
 その彼女にだ。いつも一緒にいる賈駆が眉を顰めさせて注意してきた。彼女は董卓と同じデザインだが色は濃い紫のセパレーツを着ている。
 その賈駆が董卓に注意することとは。
「ただでさえ身体弱いんだし」
「うん、だからなのね」
「お酒は控えてよね」
 心から心配する顔での言葉だった。
「そこはね」
「そうよね。健康第一だから」
「そう。お酒は飲み過ぎると駄目なの」
 その点を強く言うのだった。
「だから。今もこれ位にしてね」
「えっ、大丈夫よ、まだ」
「何言ってるの、もう顔真っ赤じゃない」
「お酒飲んだらこうなるものだから」
「けれど駄目なものは駄目なの」
 賈駆の言葉は強い。
「わかったわね」
「うう、まだ大丈夫なのに」
「月はそう言っていつも飲み過ぎるじゃない」
 完全に妻になっている賈駆だった。
「だからよ。いいわね」
「わかったわ。それじゃあ」
「そう。気をつけないと」
「何言ってるのよ。飲んでこそじゃない」
 しかし荀ケは違った。あくまで飲み続ける。
 そうしてだ。こう周りに言うのである。
「お酒は飲んで飲んで飲まないと」
「っていうかあんた本当に酒好きだな」
 覇王丸もその荀ケに言う。
「泳がないで飲むからな」
「私泳ぐのとか得意じゃないしね」
「それでか」
「そう、飲むのよ」
 泳がないから飲む。まさにそうだというのだ。
「飲んで飲んでね」
「それはいいのですが」
 しかしだとだ。ここでだ。
 ズィーガーがだ。こうその荀ケに言うのだった。
「お酒を飲んでから泳ぐことはです」
「そう、絶対に駄目なのよね」
「非常に危険です。止めておいて下さい」
「わかってるわ。それはしないから」
「はい、くれぐれもお願いします」
 これが荀ケへの言葉だった。
「何があろうともです」
「そうそう。お酒を飲むと身体の感じが変わるから」
 荀ケ自身もそのことはよくわかっていた。学識がここで出る。
「飲んだら冷たい水に入るとかは危ないのよ」
「よくわかってるな、流石に」
「飲むからにはよ。お酒のことも知らないと」
 酔って真っ赤な顔でだ。荀ケは言う。
「そうでしょ?危ないじゃない」
「その通りです」
 ズィーガーも荀ケのその言葉にここでも頷く。
「くれぐれもお気をつけ下さい」
「まあ飲む量は多いけれどね」
 言いながらさらに飲む荀ケだった。
「それはそれ、これはこれよ」
「おう、じゃあもっと飲むか」
 覇王丸は機嫌よくそのうえでだ。バーベーキューの肉もかじる。
 そして荀ケにだ。皿の上の肉を勧める。
「どうだい?これ」
「ええ、頂くわ」
「あっ、私もいいですか?」
「僕も」
 董卓達も覇王丸のその肉を見て言う。覇王丸はその彼女達にもだった。
 笑顔でだ。こう返したのである。
「当たり前だろ。皆で楽しくやろうぜ」
「パイもありますよ」
 ズィーガーはバーベキュー以外のものも出してきた。
「ギドニーパイ。如何でしょうか」
「豚の内臓のパイですね」
 董卓がそのギドニーパイについてズィーガーに尋ねる。
「ズィーガーさんの得意料理の」
「そうです。それも如何でしょうか」
「お願いします。それでは」
「そうね。ちょっと頂こうかしら」
 持ち前の素直でなさを少し発揮する賈駆だった。
「それじゃあね」
「はい、では皆で食べましょう」
 ズィーガーは笑わない。しかし親切で礼儀正しい態度でだ。仲間達に対するのだった。そうして今は楽しい時間をだ。皆で過ごすのだった。
 しかしだった。華陀はだ。離れた場所で怪物達にこう言われていた。
 森の中だ。そこにおいてだ。
 普段と変わらない姿に戻りいつも通り奇天烈な格好の二人にだ。その話を聞いて言うのだった。
「そうか。北か」
「ええ、匈奴の国よ」
「五胡ね」
「漢の中の拠点はあらかた潰したからな」
 それはもうだ。全てしてしまった。それならだというのだ。
「北か」
「ほら、袁紹さんも度々北を攻めてたわよね」
「あの娘が攫われたりしたし」
 蔡文姫のことも話される。
「彼等は最初からあそこにも拠点を置いておいたのよ」
「いざという時の最後のね」
「そしてここで遂にね」
「その最後の拠点から仕掛けてくるのよ」
「最後の拠点か。それならだな」
 いよいよだ。華陀の顔が険しくなる。
 そうしてだ。こう言うのだった。
「本当に最後の戦いだな」
「そうよ。最後の最後よ」
「ラストバトルになるわよ」
 妖怪達もだ。今は真剣な顔である。
 そしてそれを聞いてだ。華陀も言うのだった。
「この世界、そして仲間達の世界の為にもな」
「そこにいる多くの生ある者達の為にもね」
「勝たないといけないわよ」
「ああ、わかった」
 確かな声でだ。華陀は応えた。
 そうしてだ。彼はその右手に黄金の針を出した。その針を見ながらの言葉だった。
「ではこの世界の病を癒そう」
「そう、ダーリンならできるわ」
「天下の名医だからね」
「医者王として俺は戦う」
 その背にだ。黄金の光をまといながらだった。
「そして勝つ」
「そう、何が何でも勝つわよ」
「二つの世界の為に」
 魔物達も世界の為に戦うのだった。確かに外見は人間のものでは断じてない。しかしその心はだ。あくまで人間であり純粋なのである。


第百二十八話   完


                          2011・12・9



前回に続き、水着の回。
美姫 「前回とはまた違うメンバーの番ね」
だな。ゆっくりと英気を養うのは良い事だ。
美姫 「決戦も近いしね」
最後にはあの二人も出てきたし。と言うか、こいつらは普段から格好が。
美姫 「まあ、今回はシリアスだったけれどね」
確かにな。近付く決戦に向け、各々が決意を。
美姫 「次回はどんな話になるのかしらね」
次回も待ってます。



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