『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                              第百二十五話  丈、学問をするのこと

 赤壁での戦いは終わった。それを受けてだ。
 劉備は主だった者達にだ。こう言うのだった。
「ええと。戦いは終わりましたし」
「はい。敵はまだいますが」
「それでも戦い自体は終わりました」
 そのことは間違いないとだ。孔明と鳳統が答える。
 そのうえでだ。軍師二人はこうも話す。
「これ以上この赤壁にいても意味がありません」
「ですからここはです」
「都に帰るべきなのね」
「はい、そうです」
「そうするべきです」
 これが軍師二人の案だった。
「そして都で何時でも出陣できるようにしてです」
「敵がまた仕掛けてくるのを待ちましょう」
「何だよ、こっちからは仕掛けられないのかよ」
 孔明と鳳統の話を聞いてだ。覇王丸が言ってきた。
「何ていうかな。歯痒い話だよな」
「仕方ありません。彼等は神出鬼没です」
「何時何処に出てくるかわかりませんから」
 だからだというのだ。彼女達はこう言うのだった。
「都で敵を待ち受けるべきです」
「そうして敵が来たところに向かいましょう」
「まあそれしかないな」
 今言ったのはラルフだった。軍人として述べる彼だった。
「迂闊に動いても何にもならないからな」
「むしろそこを付け込まれてだな」
 クラークは明るい口調だが指摘していることは厳しい。
「一発でやられちまうな」
「それならですね」
「今は」
「ああ。待つことが一番だ」
 クラークはレオナとウィップにも述べてみせた。
「待つことも戦いのうちさ」
「赤壁にいては例えば西方に出て来ればです」
「対応しにくいものがあります」
 孔明と鳳統がまた話す。
「ですから一旦です」
「都に戻るべきです」
「それがいいわね」
 ここで言ったのは孫策だった。
「全ての道は都に通ずだから」
「はい、都からあらゆる場所への道が敷かれています」
「ですからすぐに対応できますので」
「一旦都に戻りましょう」
「それもすぐに」
 中央集権国家故にだった。道は都である洛陽から出ているのだ。
 それでなのだった。二人はまずは都に戻ろうというのだ。
 二人の案を聞いてだ。劉備はだ。
 一同を見回してからだ。こう言うのだった。
「ではどうされますか、今回は」
「ええ、それでいいわ」
「異存はありませんわ」
 まずは曹操と袁紹が答える。
「戦いは終わったりこれ以上ここにいてもね」
「何にもなりませんわ」
「私も二人と同じ意見よ」
 孫策は右手を挙げて賛成の意思表示をしながら述べた。
「都に戻った方が何かと対応しやすいわ」
「その通りじゃな」
 袁術も同じ意見だった。
「こんなところにずっといても仕方がない。戻るべきじゃ」
「私もそう思うわ」 
 董卓ではなかった。妹の董白だ。まだ董卓は表には出られるようにはなっていないのだ。
 それで妹の彼女がいてだ。こう言ったのである。
「都にいた方が話も伝わってくるし対応も容易だしね」
「では決まりですね」
 彼女達の話を受けてだ。劉備もだった。
 納得する顔で頷きだ。あらためて一同に告げたのだった。
 全軍すぐに都への撤収に入る。その中でだ。
 タンは額の汗を拭きながら己の天幕をなおしている。それを見てだ。
 すぐに許緒が来てだ。こう彼に言った。
「あっタンさん手伝うよ」
「ほほう。可愛い娘さんが来たか」
「やだなあ。可愛くなんかないよ」
 そうは言ってもだ。許緒は笑顔になっていた。
 それでだ。タンにこんなことも言ったのである。
「けれど有り難うね」
「いやいや。それでどうしてここに来たのじゃ?」
「うん、僕の天幕は畳み終えたから」
 それでだというのだ。
「御手伝いに来たんだよ」
「おお、それは済まんのう」
「困った時はお互い様だしね」
「わしも歳じゃからな」
 タンは笑いながらこんなことも言った。
「何かと節々が痛いわい」
「あれっ、何処か悪いの」
「いや、歳がくるとそうなるのじゃ」
「そういえば玄武の翁さんや花風院さんも言うわね」
「そうじゃな。実はこれで結構辛いのじゃよ」
「歳を取るのって大変なんだ」
「左様、何かとな」
 こう許緒に話すのだった。そしてだ。
 ここでだ。もう一人来た。それは誰かというと。
 典韋だった。彼女もタンのところに来て言うのである。
「御手伝いさせて下さい」
「おお、また可愛い娘が来たわい」
「そんな、私なんかとても」
 典韋はだ。顔を赤らめさせてタンに応えた。
「全然。華琳様と比べたら」
「そうだよね。僕達なんか全然だけれど」
「いやいや、かなりのものじゃよ」
 謙遜する二人にさらに言うタンだった。
「今もそうじゃがさらにじゃ」
「可愛くなるっていうんですか」
「そうなんですか」
「奇麗にもなる」 
 タンはまた言った。
「可愛さに加えてじゃ」
「それならとても嬉しいですけれど」
「何か恥ずかしいです」
 また言う二人だった。そんな話をしながらだ。
 二人はタンの天幕をなおしていく。それが終わってからだ。
 タンは二人にだ。両手を合わせて一礼するのだった。
「済まぬのう」
「いえいえ、お互いに助け合ってですから」
「御礼なんていいわよ」
 典韋も許緒もそれはいいとだ。やはり言うのだった。
「それよりもね。天幕なおし終わったし」
「何か食べない?」
「そういえば丁度その時間じゃな」
 タンは上を見上げた。するとだった。
 日は真上にあった。その日を見ての言葉だった。
「では何か食べようかのう」
「うん、じゃあ流琉ちゃんのお料理食べよう」
「早速作りますね」
「茶玉子はあるかのう」
 ここで己の好物を言うタンだった。
「それを食べたいのじゃが」
「あっ、茶玉子でしたら」
 どうかとだ。典韋はタンにすぐに話した。
「朝御飯の残りであります」
「ほう。ではそれを頂こう」
「茶玉子って美味しいよね」
 許緒はその茶玉子について笑顔で話す。
「朝とかあっさりしててね。僕三十個は食べるよ」
「いや、それは食べ過ぎでないかのう」
「だって僕食べる娘だし」 
 許緒はタンにあっけらかんとして話していく。
「それに食べないと動けないじゃない」
「確かにそうじゃな」
「だからそれだけ食べるんだ」
「茶玉子の他には何がいいですか?」
 典韋がまたタンに尋ねてきた。
「何でもできますけれど」
「では八宝菜を頼もうか」
「はい。ではそれを作らせてもらいますね」
 こんな話をしながらだった。彼等は料理をして食べていく。そしてだ。
 他の面々も天幕やそういったものをしまい撤収にかかっていた。それは張角達も同じでだ。張角が少し嫌そうに妹達に話していた。
「お姉ちゃん面倒臭いの嫌い」
「また姉さんはそんなこと言って」
「お引越しの準備よ。これは」
 妹達がその姉に対して言う。
「だから文句言わないの」
「ちゃんとしないと」
「けれど面倒臭いから」
 こう言って我儘を言い続ける姉だった。表情もそうした感じになっている。
「もうお手軽に何もしないでお引越しとかできないの?」
「そんなの出来る筈ないじゃない」
「早く天幕やお化粧品を馬車に積みましょう」
「やっぱりそうしないと駄目なの」
 口を少し尖らせてまだ言うのだった。
「しまわないと」
「当たり前よ。わかったらね」
「早くしまいましょう」
「わかったわ。親衛隊の人達にも迷惑かけちゃうし」
 見れば下喜達も彼女達の天幕を収めている。それを見てだ。
 嫌々だがそれでもだ。張角も撤収作業にかかる。その中でこんなことも言った。
「それにしても勝ってよかったね」
「ええ。戦いはまだ続くけれどね」
「それでもこの戦いは勝ったわ」
 張梁は明るく、張宝はクールに答える。
 しかしだ。二人は同時にこうも言うのだった。
「けれど敵はまだ残ってるからね」
「戦いは続くわ」
「そうよね。まだ于吉とか生きてるのよね」
 このことはだ。張角も困った顔になって述べる。その手が嫌がるものにもなっている。
「お姉ちゃんしつこい人嫌いなんだけれど」
「しつこいのが連中だからね」
「それは仕方ないわ」
 妹達はそのことはもう諦めていた。そのうえでの言葉だった。
「だから。また今度戦いがあったらね」
「私達はまた歌うことになるわ」
「それで皆を励ますのよね」
 張角もそのことはわかっていた。
 それでだ。今度は確かな表情と身振りになって述べるのだった。
「お姉ちゃんそれなら頑張るから」
「ええ、それはあたしもよ」
「私も」
 ここではだった。三姉妹の息は完全に重なっていた。
 それでだ。三人で言うのだった。
「いい?歌える限りね」
「ええ、歌ってね」
「皆を励ましましょう」
「結局私達それしかできないから」
 張角はこうも言った。そうした意味でだった。彼女達は生粋の歌い手であり踊り娘だった。旅芸人として生きてきただけはあった。
 その彼女にだ。下喜達が来て言ってきた。
「あっ、お手伝いします」
「そうして宜しいでしょうか」
「あっ、別にいいよ」
 親衛隊の面々にはだ。張角は明るく答えた。
「私達のことは私達でできるから」
「そうですか。それならです」
「お茶の用意をしておきますので」
「紅茶お願いね」
 さりげなく注文もする張角だった。
「楽しみにしてるからね」
「はい、それでは」
「用意しておきますので」
 こんな話もしたのだった。三姉妹も撤収にあたっていた。そしてだ。
 華陀はだ。華雄にこんなことを話していた。
「あんたはどうもな」
「私に何か病があるのか?」
「いや、病というよりかはだ」
 何かとだ。華陀は彼女を見ながら述べるのだった。
「運がないな」
「運がか」
「そうだ。前から妙におかしな目に逢ったりしないか?」
「そうしたことには尽きない」
 実際にそうだと答える華雄だった。
「短命だと占いで言われたこともある」
「短命か」
「実際には今も生きているがな」
「短命というのは極端だな」
 華雄の顔を見ながらさらに話す華陀だった。
「だがそれでもだ」
「それでもか」
「あんたの顔相には色々な災厄のものがあるな」
「貴殿は人相を見ることもできたのか」
「それも医術のうちだからな」
 占術からだ。病を見るというのである。
「そこから病を癒すこともしている」
「成程、流石だな」
「それでだ。あんたのその運のなさはだ」
「それは治るのか」
「ああ、治る」
 華陀は微笑んで豪語した。
「それもすぐにだ」
「運がすぐによくなるのか」
「これで治る」
 またしてもだった。あの金の針を出して言う華陀だった。
「これを額に刺せば一発で治る」
「待て。針を額にか」
「ああ、そうだ」
「そんなことをすれば死ぬではないか」
 彼女の常識からだ。華雄は抗議した。
「それはもはや医術ではないぞ」
「いや、運をなおすツボはそこにある」
「占いはツボなのか」
「運気だな。それをよくする必要があるんだ」
 華陀はあからさまに疑い声を荒わげている華雄に話していく。
「あんたの場合はそれが額にあるんだ」
「だからその額をか」
「そうだ。針で突けばな」
「運がよくなるんだな」
「その通りだ。ではいいか?」
「死ぬことはないな」
 真剣な面持ちでだ。華雄は華陀に尋ねた。
「特に」
「それは絶対にない」
 華陀もそのことは保障する。
「俺の針はそうしたものではないからな」
「ではいいのだがな」
「よし、早速突くか」
「頼む」
 即答だった。華雄は鼻陀の言葉を受けたのだった。
 そうしてだ。華陀はだ。
 右手に持ったその針をだ。華雄に突きつけたのだった。そのうえで言う言葉は。
「光になれーーーーーーーーーーーーっ!!」
 いつもの言葉を出してだ。華雄の額に針が刺されそこから光が出た。するとだ。
 それだけで華雄の顔は晴れやかなものになりだ。
 早速だ。小銭を足下に見つけたのだった。
「むっ、これは」
「早速幸運が来たな」
「貴殿の話は真だったのだな」
「俺は嘘は言わない」
 真吾と同じ様なことを言う。しかしだ。
 それ以上にだ。彼は言ったのである。
「医者王は嘘を言わないものだ」
「医者王だからか」
「ここで勇者王とは言わないことだ」
 華陀は何気にこのことには注意してくれというのだった。
「医者王だからな。俺は」
「今はそうだな」
「そうだ。俺はあくまで医者王だ」
 それは絶対だというのである。
「頼んだぞ。そこは」
「わかっている。私にしてもな」
「あんたは張飛ちゃんとだったな」
「似ていると言われるが別人だ」
 華雄はこのことを強調して言うのだった。
「あくまでそうなのだ」
「そうだな。あんたと彼女は別人だな」
「声が似ているだけだ」
 あくまでそういうことにしようとする。
「それで頼む」
「わかってる。そういうことはな」
「済まない。だがくれぐれもな」
「御互いに気をつけなければならないな」
 そうした話もした。そして何はともあれだ。
 華雄の運はよくなった。それもかなりだ。彼女にもいいことがあった。
 そんな中で撤収準備が完了しようとしていた。それを見てだ。
 劉備もだ。目を細めさせて自分がなおした天幕を見つつ言うのだった。
「撤収は順調みたいね」
「はい、これで赤壁から去ることができます」
 関羽が微笑み劉備に話す。
「喜ばしいことです」
「そうよね。それじゃあまずはね」
「最初に出発するのはですね」
「誰にしようかしら」
「星と翠がいいかと」
 関羽がここで勧めるのはこの二人だった。
「あの二人なら先陣に向いています」
「そうね。先陣っていうといつも袁紹さんが出たがるけれど」
「あれはあの方のご性分ですから」
 少し苦笑いになってだ。
「あまり御気になさらずに」
「そうね。じゃあ星ちゃんと翠ちゃんと」
 そうしてだった。
「後は蒲公英ちゃんね」
「蒲公英も行かせますか」
「あの娘何か星ちゃんに懐いてるから」
 そうしたことを見てのことなのだった。
「それでなんだけれど」
「確かに。蒲公英は星に懐いていますよね」
「うん。だからいいかなって思って」
「わかりました。それではです」
 関羽も微笑んで劉備の言葉に頷いた。
「あの娘も先陣としましょう」
「それじゃあね」
「後は第二陣や第三陣ですが」
「曹操さんや袁紹さんで」
「そちらはお二人とお話して決めましょう」
 先陣以外はこれといって悩む状況ではなかった。
「ではその様にして」
「あと孫策さんや袁術さん達ともね」
「はい、それでは」
 こう話してだ。彼等のことも決めるのだった。そしてだ。
 劉備のいる本陣についてだ。関羽はこう言ったのだった。
「では私がです」
「愛紗ちゃんが?」
「本陣はお任せ下さい」
 こう劉備に名乗り出たのである。
「桃香様は何があっても御護り致します」
「有り難う。じゃあ本陣はね」
「それに鈴々もいます」
 関羽は彼女の名前も出した。
「桃香様に、若しあの者達が来てもです」
「有り難う。じゃあ今回もお願いね」
「はい。それでは」
 こう話しているとだった。ここでだ。
 魏延が出て来てだった。こう二人に言ってきたのである。
「いや、桃香様は私が御護りする」
「むっ、焔耶か」
「はい、お任せ下さい」
 劉備に顔を向けてだ。魏延は真剣そのものの顔で言う。
「確かに愛紗達もいますが桃香様の身辺は私が」
「そうよね。焔耶ちゃんいつも私と一緒にいてくれるし」
「夜も昼もお任せ下さい」
 魏延はさらに言う。
「例え何があろうともです」
「待て、義姉上は私が御護りするのだぞ」
 魏延があまりにも強引なので話に入る関羽だった。
「それで何故そこまで入ろうとする」
「私は桃香様の近衛隊長だぞ」
「しかしだ。御主は何か違うぞ」
「何が違うのだ」
「そもそも夜もとは何だ」
 関羽が問うのはここだった。
「あからさまに妖しいではないか」
「わ、私にはやましいことはない」
 そうは言ってもだった。魏延の目は泳いでいた。それもかなり。
 そしてその泳いだ目でだ。彼女は言うのだった。
「私はその責務を真っ当するだけだ」
「まことか、それは」
「そうだ。だから夜も昼もだ」
 夜の部分が強調される。
「失礼ながら褥を共にすることもお許し頂ければ最上だ」
「だから何故そこで褥なのだ」
「人は眠っている時が最も危ういからだ」
 それでだとだ。魏延は理由にして述べる。
「それだけのことだ」
「いや、違う」
「何処がどう違うのだ」
「御主はそもそもだ。義姉上のご入浴の時も入ろうとするな」
「当たり前だ。人は風呂に入る時も無防備なのだぞ」
「二人きりで全裸になって何をするつもりだ」
「あくまで桃香様を御護りするのみ!」
 一応こうは言う。
「私には桃香様への赤い心があるのみ!」
「赤だと。桃ではないのか」
「桃!?赤ではないというのか」
「そうだ。御主はそれではないのか」
 こんな言い争いをするのだった。そしてだ。
 その話を横で聞いてだ。張進は困った顔で鳳統に尋ねたのだった。
「お姉ちゃんも焔耶も無茶言っているのだ」
「焔耶さんはどう考えてもです」
 鳳統も困った顔で話す。
「桃香様に只ならぬ気持ちを抱いておられます」
「そうよね。誰がどう見ても」
 孔明もそのことについて言及した。
「だから本当に桃香様を御護りしたいけれど」
「けれどそれ以外に」
「絶対に桃香様にね」
「そうよね」
 劉備にどうされたいのかと思っているのかはあえて言わない二人だった。
 しかし孔明も魏延を困った顔で見ながらだ。言うのだった。
「忠誠心以上のものがあるから」
「だから今回もこうなってるし」
「困った話なのだ」
 張飛も二人と同じ考えだった。しかしだ。
 この状況についてだ。張飛は二人に尋ねたのだった。
「けれど今のこの喧嘩はどうすればいいのだ?」
「焔耶さんは引かないし」
「愛紗さんも義妹として桃香様を大切に思ってるし」
 関羽にはだ。桃の気はなかった。しかしだった。
 孔明は関羽についてだ。こう言うのだった。
「そのせいで今は言い争いになってるから」
「この状況はどうすれば」
「二人だから駄目なのだ!?」
 ふとだ。張飛はこんなことを言った。
「じゃあ三人ならどうなのだ?」
「あっ、それって」
「いいかも」
 張飛の思いつきの言葉にだ。二人はだ。
 顔を見合わせてだ。こう言い合ったのだった。
「そうよね。愛紗さんも焔耶さんも絶対に桃香様と一緒にいたいし」
「それならよね」
「しかも二人より三人の方が安心できるし」
「それなら」
 関羽と魏延の二人の護衛だ。それなら余計にだった。
「じゃあそうしてもらえれば」
「愛紗さんも焔耶さんも桃香さんと一緒にいられるし警護も余計に万全になるし」
「いいよね」
「じゃあそれで」
 こうしてだった。軍師二人は張飛の案を述べた。それによってだ。
 関羽と魏延が常に劉備の横にいるようになった。それを見てだ。
 厳顔がだ。苦笑して黄忠に話した。
「こうなるとは思っておったがのう」
「それでもなのね」
「うむ、正直呆れた」
 これが厳顔の偽らざる気持ちだった。
「焔耶も愛紗殿ものう」
「困ったことね」
「全くじゃ。焔耶にとって桃香様はまさに意中の相手なのじゃ」
 心底惚れているというのだ。
「何もかもが好みなのじゃ」
「そうみたいね。本当にね」
「まさに一目惚れだったしな」
 魏延にとっては劉備はまさにそうした相手なのだ。
「あれではそうそう間に入られぬが」
「それでも愛紗ちゃんもね」
「うむ、愛紗殿も桃香様を大事に思っておるからのう」
「愛紗ちゃんはそういう気はないけれど」
 そこが魏延とは違う。しかしそれでもなのだ。
「何処か嫉妬してるわね」
「愛紗殿は嫉妬深いな」
「そうね。ああ見えてね」
 それで魏延にもくってかかるというのだ。
「それが悪い方向にはいかないけれど」
「それが救いじゃな。愛紗殿は悪いことはせぬ」
 そういうことこそ関羽が最も嫌うことなのだ。それでなのだった。
「焔耶もその辺りはしっかりしておるしな」
「人としての筋はいい娘よね」
「実にな。我が弟子ならがよい奴じゃ」
 こう言って微笑みも見せる厳顔だった。
「しかし。取り合いはのう」
「それは駄目なのね」
「桃香様が困ってしまうわ」
 だからそれはだというのが厳顔だった。
「実に厄介じゃな」
「それでも三人でいつも一緒ならいいわね」
「かなり問題は減るからのう」
「そうね。それじゃあ今の状況が最善ね」
 今考えられる限りのだというのだ。
 黄忠はこう言ってからだ。そのことを言った張飛についても話した。
「鈴々ちゃんもいいこと考えるわよね」
「そうじゃな。策とかそういうことは苦手じゃがな」
「閃きは凄いわね」
「あながちアホという訳ではない」
 張飛はどちらかというとだった。
「馬鹿ではあってもな」
「馬鹿とアホは違うものなのよね」
「左様。どちらかというとあ奴は馬鹿じゃ」
 つまりものを知らないというのだ。
「しかしアホではない」
「ものがわからないというのじゃないわね」
「そこが違う」
 張飛について考えるうえで極めて重要なことだった。
「そういえばわし等のところには馬鹿は多いが」
「アホはいないわね」
「うむ、おらん」
 そちらはいなかった。そしてだ。
「馬鹿は時として大きなことをするからのう」
「そうね。私達もそうだし」
「ははは全くじゃ。わしも御主も馬鹿じゃ」
「昔からそうだったけれど」
「歳を取ってさらに馬鹿になったわ」
 厳顔は口を大きく開けて笑っていた。高笑いだった。
「ではより馬鹿になろうぞ」
「今よりももっとね」
「うむ、馬鹿から大馬鹿になってやるわ」
「そうね。そうなりましょう」 
 二人は馬鹿について笑って言っていた。しかしだった。
 丈は今だ。賈駆に呆れられながらこう告げられていた。
「君馬鹿でしょ」
「何っ、俺の何処が馬鹿だ!」
「あのね。字も殆ど読めないし計算の初歩の初歩もできないじゃない」
 見ればあちらの世界で中学一年程度の字と計算だった。どちらもわからないというのだ。それでだ。賈駆は呆れて彼に言ったのである。
「それでどうして馬鹿じゃないって言えるのよ」
「あれっ、この問題ならよ」
「眠兎達にも解けるよ」
 乱童と眠兎が地面に書かれた問題を見てあっさりと解いていく。
「こうだよ?」
「正解よね」
「二人共正解よ」
 賈駆は二人については合格だと話す。
「というか君達もわかるのよね」
「こんなの簡単だろ」
「そう、簡単簡単」
「で、何で君がわからないのよ」
 眼鏡の奥からじとっとした目を向けてだ。賈駆は丈にまた言った。
「こんな簡単な問題が」
「こんなの俺の世界じゃ東大に入られる問題だぞ」
 丈はムキになって言い返す。
「こんな難しい問題見てたら蕁麻疹が起こるぜ」
「本当に出てるけれどね」
 丈の全身に赤い斑点が出ていた。恐ろしい病に罹った様にすら見える。
「というか君、あっちの世界で学問してたの?」
「ああ!?高校までちゃんと出てるぜ」
「高校はタイの高校に通ってたんだよ」
 ホアが丈の話を訂正する。
「けれど体育以外はオール一だったからな」
「おいホア、その話は止めろよ」
「事実だろ。しかも十段階でだっただろ」
「それの何処が悪いんだよ」
「しかもテストで二桁取ったことなかったしな」
 さらになのだった。
「全くよ。どういう頭の構造してるんだよ」
「あっちの世界のことは聞いても実感が湧かないけれど」
 それでもだと言う賈駆だった。
「東が馬鹿だってことはよくわかるわ」
「こいつ頭は全然動かないからな」
 ホアはまた補足してきた。
「赤点しか取ったことなくていつも補習だったんだよ」
「落第されても面倒だから何とか卒業してもらったのね」
「そうなんだよ。あまりにも馬鹿過ぎて学校側も困ってな」
 それで無理に卒業させたというのだ。
「で、どの学校でも創立以来のな」
「超馬鹿だったのね」
「こいつ学校の勉強できる才能ないんだよ」
「馬鹿故にね」
「ったくよ。二人で馬鹿馬鹿って言いやがって」
 いい加減丈も頭にきていた。
「強いからいいだろうがよ」
「けれど頭悪いじゃない」
「それは否定できないだろ」
 賈駆とホアは速攻で丈に突っ込みを入れた。
「というか頭の中何入ってるのよ」
「本当にからっぽじゃねえだろうな」
「昔のギャグ漫画じゃあるまいしそんな筈ないだろうが」
 丈も段々必死になってきている。
「俺だってな。頭は動いてるんだよ」
「何処がよ」
「糞っ、俺の頭の何が悪いんだよ」
 そんなことを言ってもだ。丈は結局問題を解けなかった。賈駆が出したとの問題もだ。
 それでだ。賈駆自身も唖然となって言うのだった。
「こんな簡単な問題も解けないなんて」
「だから難しい問題ばかり出すなよ」
「いや、これかなり簡単な問題よ」
 見れば小学生程度の問題だった。それを見てだ。
 ホアもだ。呆然となって丈に言った。
「だからな。御前こんな問題もわからないのかよ」
「だから日本じゃ一流大学に行けるぞ」
「いや、これ小学生の問題だぞ」
 ホアもこのことを指摘して丈に話す。
「それが解けないってどうなんだよ」
「あんた格闘家になってよかったわね」
 賈駆は本心から彼に述べた。
「少なくとも学者にはなれないわね」
「学者!?あんなのなりたいとも思ったことねえぜ」
 丈はそうした意味で自分のことがわかっていた。
「何で小難しい本なんか読むんだよ」
「御前愛読書何だ?」
「決まってるだろ。ガンダムの漫画版に幽遊白書にな。それと」
「御前の中身の話なんだな」
 ホアは丈が挙げる作品からそのことを察した。
「そういえば御前の声って華陀さんと似てるしな」
「声は似てても頭の構造は全然違うのね」
「そうみたいだな。本当にな」
「流石にここまで馬鹿だと思わなかったけれど」
「声は同じでも頭も同じとは限らないか」
「そういうことね」
「糞っ、だから俺の何が悪いんだよ」
 まだ言う丈だった。
「こんなエリート大学の入試問題突きつけられて馬鹿呼ばわりなんてな」
「だからね。これ子供の問題だから」
「何でそこまれあれなんだよ」
「災難だぜ。身体は痒いしよ」
 全身の蕁麻疹を両手でぼりぼりとかく。仕草は猿めいていた。
「学問とかそんなの聞くのも嫌だぜ」
「そういえば草薙も高校は」
「ああ、あいつは卒業してないぜ」
 ホアは賈駆にこのことを話した。
「けれどそれは出席日数の関係だからな」
「ここまで馬鹿じゃないのね」
「留年してるだけで馬鹿じゃないんだよ」
「じゃあ超馬鹿はこいつだけなのね」
「ああ、そうなんだよ」
 こう話すホアだった。そんな話もしていたのだった。
 こんなやり取りの中で都に撤収していく。先陣はやはり馬岱達だった。
 馬岱は馬で先陣を進みながらだ。明るくこう言うのだった。
「やっぱり先頭っていいよね」
「ああ、そうだな」
「気持ちがいいものだな」
 テリーとロックがその馬岱に応える。二人は徒歩で彼女の傍にいる。
「戦いもとりあえず終わったしな」
「それも何よりだ」
「そうだね。赤壁では勝ったから」
 それは馬岱もよしとする。
 だが、だ。まだ戦いがあることについてはだ。彼女はこう言うのだった。
「けれどね」
「ああ、まだ奴等はいるからな」
「決着は次だな」
「それが問題よね」
 馬岱もここでは真剣な顔になる。
「一体何処にいるのかしら」
「これまで色々仕掛けてくれたがな」
「それを虱潰しにしてきたけれどな」
「今度は何処かしら」
 馬岱は首を捻りながら話す。
「何処に出て来るのかしら」
「さてな。連中だからまた碌でもないことしてくるだろうがな」
「わかるのはそれだけだな」
 それ以上はというと。
「何時何処で仕掛けてくるか」
「それがわからないってのはな」
「困るよね」
「まああれこれ考えても仕方ないけれどな」
 ここでこうも言うテリーだった。
「とりあえずは都に帰るか」
「うん、それで何か美味しいもの食べよう」
「料理なら任せろ」
 ロックが微笑んで馬岱に話す。
「美味いものをたっぷりと御馳走してやるからな」
「そういえばロックってお料理美味いよね」
「意外か?」
「ちょっとね」
 微笑みだ。その通りだと答える馬岱だった。
「けれど食べてみるとね」
「いいんだな」
「いつもそうしてテリーに作ってたんだ」
「テリーは料理できないからな」
 こうだ。彼が知っているテリーよりずっと若い彼を見て言うのだった。
「だから俺がこうしてな」
「成程。それでなんだよ」
「そうさ。じゃあ都に帰ったら、いや」
「いや?」
「今日の昼にでもどうだ?」
 早速だった。それでどうかというのだ。
「ハンバーガーとかそういうものになるけれどな」
「あっ、ハンバーガーね」
「あんたあれ好きだろ」
「うん、美味しいよね」
 明るい笑顔で応える馬岱だった。
「あれもね」
「あれは癖になるんだよ」
 テリーも笑顔でハンバーガーについて話す。
「ファーストフードってやつはな」
「何か食べ過ぎたら駄目なんだって?」
「中に入れる素材によるな」
 それについてはこう述べるロックだった。
「そりゃ身体に悪いもの入れたら駄目だろ」
「けれどそこを変えれば」
「ファーストフードでもいいんだよ」
「成程ね。そういうものなのね」
「チャイナだとあれだろ」
 ロックは馬岱の国のことをここで話した。
「医食同源って言うよな」
「うん、食べることはお薬を飲むことと同じだよ」
「それだよ。食べるからには身体にいいものじゃないとな」
「健康に悪いよね」
「それに満足に戦えないしな」
 笑ってこうも言うロックだった。
「だからちゃんとしたもの作るからな」
「うん、楽しみにしてるね」
「期待しててくれ。それじゃあな」
「うん、じゃあね」
 こうして馬岱は昼食をロックに作ってもらうことになった。そしてだ。
 テリーはだ。ふとこんなことを言った。
「しかし。まああれだな」
「あれって?」
「ああ。俺達がこっちの世界に来た理由な」
 首を少し捻りながらだ。馬岱に応えるのだった。
「それはこっちの世界でもあの連中と戦うことだったんだな」
「オロチとかアンブロジアとか?」
「それで誰に呼ばれたかっていうとな」
 テリーが考えていくとだ。ここでだ。
 ロックがだ。少し嫌そうな顔になって述べた。
「あの人達だな」
「それしかないな。信じたくないがな」
「ああ、あの人達ね」
 馬岱も少し嫌そうな顔になって言った。
「あの人達ならできるわよね」
「ああ、それも軽くな」
「できない筈がないな」
 テリーとロックは同時に言った。
「あれだけ異常な能力持ってるからな」
「時空を操る位はな」
 できるというのだ。
「おそらく俺達も呼んでこの世界の崩壊を防ぐ」
「そうした考えだったんだろうな」
「そうよね。やっぱりね」
 馬岱は今度は考える顔になって述べる。
「あの人達外見はあれでも悪い人達じゃないし」
「おそらくこの世界、いやあらゆる世界のことを真剣に考えている」
 テリーはそのことを見抜いて話した。
「誰よりもな」
「そういう人達なのね」
「そのことがやっとわかってきたか?いや」
 自分の言葉をだ。テリーは訂正した。そしてあらためて言うこととは。
「最初からわかっていてそのことを認識したか」
「そういうことなのね」
「ああ、そうなんだろうな」
 これがテリーの考えであり言葉だった。
「俺達はな」
「じゃあ今度の戦いこそね」
「それで終わらせる」
「あの人達の願いと期待に応えてね」 
 笑顔でこう話す馬岱だった。そうしてだった。
 連合軍は都に戻る。そのうえでだ。暫しの間休むのだった。


第百二十五話   完


                        2011・11・15



次の戦いに向けての簡単な打ち合わせ。
美姫 「以上に丈のお頭のインパクトよね」
ま、まあ、それはあまり触れないでいてあげようよ。
美姫 「ともあれ、まだ完全な決着はついていないけれども一先ずは休息って所ね」
次回もそんな話になるのかな。
美姫 「気になる次回は……」
この後すぐ!



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