『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第百二十一話  張勲、昼に寝るのこと

 孔明も鳳統もだ。深刻な顔でいた。
 その顔でだ。また劉備に話していた。
「星の動きを見ているとです」
「本当に間も無くです」
「来るのね、敵が」
 劉備もだ。二人の言葉を聞いて頷く。
「そしていよいよ」
「戦いです」
「それがはじまります」
 こう劉備に言うのである。
「おそらく火で来ます」
「それをどうするかは既にかなりの対策を用意してきていますが」
「それが効果があるかよね」
「ただ火が起こるだけなら問題はありません」 
 それはいいとだ。孔明は話す。
「消火できます。しかしです」
「敵はそれだけではありません」
 鳳統も言う。
「雷に風、それにです」
「妖術も一杯あるわよね」
「妖術にも結界を張っていますが」
 鳳統はそれも大丈夫だと話しはした。しかしだとだ。
 曇った顔のままでだ。彼女は劉備に話すのだった。
「私達が見ていない術を使ってこられると」
「かなり危険です」
「草薙さん達から敵の術についてはあらかた聞いてるけれど」
「それで対策は一通りしました」
「それは確かです」
「けれどそれでも」
「敵も必死です。何をしてくるかわかりません」
「ですから。私達もです」
 どうかというのだ。彼女達もだ。
「何があっても冷静さを保ってです」
「戦いましょう」
「こちらから攻めることは無理なの?」
 劉備はここで攻撃について述べた。
「守りに徹してるけれど、私達って」
「それも考えたのですが」
「黄雛ちゃんや他の軍師の方々とも」
 会いそうして話し合ってだというのだ。
「迂闊に攻めると彼等の術にかけられます」
「逆にです」
「攻める時にはあらゆる結界がありませんし」
「ですから危険です」
「結界は軍全体ではなく陣にかけてるからよね」
 劉備も結界については把握していた。そのことはだ。
「陣にはかけられても軍全体となると」
「はい、軍は行動を移すと陣よりも遥かに拡がります」
「あまりにも広過ぎて結界を張れません」
 広さの問題だった。
「陣だけでも一杯なんです」
「大軍ですし」
「だからなのね」
 劉備も腕を組み困った顔で述べる。
「そういうことなのね」
「はい、そうです」
「その通りです」
 軍師二人もこう話す。そしてだった。
 今度はだ。劉備からこう言った。
「じゃあやっぱりここは」
「敵を迎え撃ちましょう」
「そうするしかありません」
 孔明と鳳統も応えてだった。これで方針は決まった。
 連合軍は敵を待ち受けていた。しかしだった。
 袁紹と孫策は港で向こう側を憎々しげに見てだ。こう話していた。
「同じ考えとは思いませんでしたわ」
「ええ、私もよ」
 二人は顔を見合わせて確かな表情で話していた。
「ここはうって出るべき」
「そして敵を一気に倒すべきよ」
「攻撃こそ最大の防御」
「まさにその通りね」
「そしてその先陣こそは」
 ここで袁紹が言った。
「わたくしであるべきですか」
「いえ、水の戦いよ」
 しかし孫策も言うのだった。
「それだったら私しかいないじゃない」
「貴女が先陣を務めるといいますの?」
「そうよ。袁紹は董卓との戦いの時は盟主だったじゃない」
「だから先陣は駄目だと仰いますのね」
「そうよ。ここは私に任せるのよ」
 孫策は何としても自分が先陣を務めようというのだ。
「わかったわね。貴女は第二陣に務めなさい」
「いえ、わたくしはもう盟主ではありませんわ」
 袁紹も負けてはいない。胸を張ってこう言い返す。
「ですから先陣を務めても問題はありませんわ」
「言うわね。水軍を率いた経験はないじゃない」
「泳ぎは達者ですわ。船酔いもしませんわ」
「けれどその指揮はどうかしら」
「わたくしにできないことはありませんわ」
 あくまで言い合う。だがその二人にだ。
 曹操と孫権が呆れた顔でだ。こう言うのだった。
「あのね。わざわざ敵が網を張ってる場所に入ってどうするのよ」
「姉様、ここは迎え撃つべきです」
「しかも麗羽、貴女まだ先陣がしたいって」
「いけませんの?」
「駄目に決まってるでしょ」
 曹操は呆れた顔で袁紹に告げる。義勇軍の時と同じやり取りだ。
「全く。どうしていつもそう先陣に立ちたがるのよ」」
「将の務めですわ」
 袁紹はむっとした顔で言い返す。
「ですからわたくしはあえて」
「そういうでしゃばりなところは相変わらずなんだから」
「積極進取、これがわたくしの座右の銘ですわ」
「ちょっとは落ち着きなさい」
 段々姉が妹に言う様な口調になってきていた。
「子供の頃から全く変わらないんだから」
「姉上もです」
 孫権は困った顔で姉に話す。
「ここは落ち着かれて下さい」
「攻めるよりもっていうのよね」
「はい、迎え撃つのも戦術です」
 そこから話す孫権だった。
「それは軍師達にも言われていると思いますが」
「それでもね。どうも性分でね」
「攻めずにはいられませんか」
「ええ、そうなのよ」
 実に孫策らしい言葉だった。
「袁紹と同じでね」
「全く。もう少しご自重頂ければ」
 いいとだ。孫権は困った顔で述べる。
「私としても有り難いのですが」
「御免なさいね」
「とにかく戦いは間も無くです」
 そのことは孫権も呂蒙達から聞いてわかっていた。
「その時に迎え撃ちましょう」
「そうね。その時にこそね」
 あらためてだ。孫策は真面目な顔で述べた。
「戦うわよ」
「そうしましょう。是非共」
「それでわかったわね」
 孫権の話が終わってからだ。曹操は再び袁紹に話した。
「麗羽、貴女もよ」
「わかりましたわ。仕方ありませんわね」
「そこで仕方ないことって言うのがね」
 曹操は溜息を出してやれやれといった顔になった。
「本当に反省しない娘なんだから」
「うう、それでも攻めることは」
「時と場合によるでしょ。ましてやいつも先陣になりたがるから」
「それが問題というのでして?」
「問題も問題、大問題よ」
 まさにそうだというのだ。
「春蘭といい貴女といい」
「春蘭はいい娘ですわ」
「いい娘でもね。猪突猛進なのは困るのよ」
「つまり周りを見ろってことですのね」
「大将は迂闊に前線に出たら駄目でしょ」
 何かあってはそれで指揮に支障をきたすからである。それは時と場合によるが袁紹はとかく常に出たがるから問題だというのだ。
「まして水軍の指揮なんて未経験なのに」
「ですからわたくしは戦は」
「未経験だと問題があるに決まってるでしょ。けれどもういいから」
「天幕に戻るのでして?」
「そうしましょう。お茶とお菓子を用意してあるから」
「わかりましたわ」
 ようやく袁紹も頷きだ。そうしてだ。
 袁紹も孫策も引いた。そうしてだった。
 連合軍は全軍で待っていた。敵が来るのを。
 そして敵の方もだ。彼等の陣でだった。
 于吉がだ。こう同志達に話していた。
「それではです」
「ああ、いよいよだな」
「攻撃を仕掛けましょう」
 こうだ。左慈にも答えるのだった。
「それで宜しいでしょうね」
「ああ、遅れたがな」
「しかし今から遂にです」
 攻めるとだ。于吉は述べた。
「全軍で攻めます」
「そして勝ってな」
「この世界を闇に覆うのです」
「正直あれなんだよ」
 ここで言ってきたのは社だった。
「俺達の世界でもそうしたかったけれどな」
「果たせませんでしたね」
「残念ながらな」
 そうだとだ。社も話す。
「三種の奴等がいてな」
「俺もだった」
 今度は刹那が出て来て話す。
「四神、そして巫女によってだ」
「そうね。私もね」
 今度はミヅキだった。
「四人の如来の宝珠を持つ者達もいてね」
「とにかく一つ一つではじゃ」
 朧もいた。
「わし等の望みは果たせなかった」
「はい、しかしそれでもです」
 于吉はここで言った。
「私達が力を合わせれば可能です」
「俺達の流儀ではないだろうがな」
 それでもだとだ。左慈も話す。
「力を合わせることも大事だな」
「はい、目的を果たす為には」
「それならだ」
「打ち合わせ通りいきましょう」
 こうも言う彼だった。
「そうしてそのうえで」
「勝つか」
「ただ。問題は」
 司馬尉がここで話す。
「私達の術は大抵封じられていることよ」
「貴女の落雷の術もまた」
「ええ、陣全体に結界が組まれているわ」
「そうです。彼等も考えています」
 于吉は冷静に話す。
「ですがそれは一つ一つです」
「一つ一つならね」
「全てを合わせればどうなのか」
 それが核心だった。于吉の言うことのだ。
「そういうことです」
「ああ、あれだね」
 クリスが笑って話す。
「矢も一つ一つなら簡単に折れるけれどね」
「そうです。三本なら容易にはいきませんね」
「それに十本なら」 
 どうかというのだった。それだけ合わされば。
「折れないね」
「そういうことです。私達は同志です」
「私は貴方達を嫌いではありません」
 ゲーニッツは微笑みこう言った。
「むしろ親しみさえ感じています」
「同じ志に目的を持っていますから」
 だからだとだ。于吉も彼等に話す。
「それ故にです」
「では全軍で行きましょう」
 こう話してだった。彼等はだ。
 全軍で出陣した。向かう先は一つだった。そのことはだ。
 既に連合軍の斥侯に見られていた。そうしてだ。
 郭嘉はだ。その報告を受けて鋭い目で言った。
「今夜ですね」
「そうですね。遂に来ますね」
 そのことにだ。郭嘉の隣にいる張勲も頷いて応えた。
「彼等が」
「夜の決戦ですか」
 夜ということにだ。郭嘉は不安を覚えて言った。
「厄介ですね。彼等は夜に強いでしょうが」
「闇の勢力ですからね」
「はい、それに今までも夜によく仕掛けてきています」
「夜での戦いはお手のものです」
「ですが我々は」
 眉を曇らせてだ。郭嘉は言った。
「昼の住人です。ならば」
「ううんと。ここはですね」
「ここは?」
「お昼には寝ておきましょう」
「昼にですか」
「そして夜に戦いになりますから」
 その夜に起きてだというのだ。
「ですから力を充分に蓄えたうえで」
「確かに。昼も起きて夜もというのは」
「辛いですよね」
「そうですね。それでは」
「敵が来るのは明日の夜になりますから」
 距離的にそうなるものだった。
「今のうちにそうしておくべきですね」
「確かに。今ならいけます」
「お昼も起きて夜もというのは辛いです」
 張勲は人間の睡眠から話す。
「ですから今のうちに休んでそうして」
「充分な気力と体力で戦いに赴く」
「それではですね」
「はい、華琳様達にお話しましょう」
「是非共」
 こうしてだった。今のうちに昼に休むことが提案された。それを聞いてだ。
 まずは曹操がだ。郭嘉と張勲、その二人に述べた。
「そのことは私も気付かなかったわ」
「そうだったのですか」
「曹操さんも」
「言われてみればそうよね」
 真剣な顔でだ。曹操は二人に述べる。
「今のうちに休んでそうして」
「はい、そうしてです」
「夜に戦いましょう」
「敵は昼には来ないわね」
 曹操にもそのことは読めていた。
「闇の勢力だからこそ」
「彼等は昼を嫌います」
 郭嘉の目が鋭いものになる。
「これまで昼に大きなことを仕掛けたことはありません」
「そう、そして陰謀を好むから」
「それを逆手に取りましょう」
「ではこのことは劉備達に伝えるわね」
 こうしてだった。曹操は二人をそのまま劉備達の前に連れて行きだ。二人の検索を紹介した。それを聞いて最初に言ったのは袁術だった。
 袁術は二人を見てだ。目を輝かせて言うのだった。
「よいぞ、流石はわらわの凛と七乃じゃ」
「何時の間に貴女のものになったのよ」
 郭嘉が入っていてだ。曹操はむっとした顔で彼女に文句をつけた。
「全く。最近凛を独占し過ぎよ」
「よいではないか。偶像支配の関係じゃ」
「その話出すとどうしても勝てないのよね」
 曹操でもそれは無理だった。
「全く。困ったことね」
「とにかくじゃ。では今から寝るのじゃな」
 袁術はかなり単純に考えていた。
「では今から休むとしようぞ」
「はい、そして夜にです」
「夜に起きましょう」
「来るとすれば今日、いや明日か」
 孫権は戦いの時を読んだ。目も鋭くなる。
「その時に備えて」
「はい、休息ということで」
「それも全員です」
「見張りは立てないの?」
 そのことを問うたのは董白だった。
「全員ということは」
「昼には来ないです」
 郭嘉はこのことは断言した。
「間違いなくです」
「確かに。于吉もオロチも他の連中も昼には大して動かないから」
「彼等は夜、闇を好みます」
 郭嘉は一同にこのことも話す。
「ですから昼は思い切ってです」
「おい、俺は普通に二日位なら徹夜できるぜ」
 山崎は董白の後ろから郭嘉に言ってきた。
「けれどそれでもなんだな」
「はい、今は休まれて下さい」
 それはどうしてもだと答える郭嘉だった。
「思い切ってです」
「大胆と言うべきか」
 見張りすら休ませることにだ。キムはこう評を述べた。
「そこまでしてか」
「はい、是非です」
「そうしましょう」
「そして夜に全軍で敵に向かうのですか」
 ジョンも言う。
「わかりました。では」
「はい、今は休みです」
「備えましょう」
 こう話す郭嘉と張勲だった。そしてそこにだった。
 怪物達はこの場にもいた。無論華陀もだ。怪物達がこう一同に言ってきたのだ。
「お昼のことはあたし達に任せて」
「空から見張ってるから」
 今回も人間の行動ではなかった。
「お昼には絶対に来ない連中だけれどね」
「どうしても不安な方もいるようだから」
 それで二人が昼の見張りをするというのだ。
「任せてね。あたし達なら一月寝なくても平気だし」
「何ともないわよ」
「一月って本当に人間かよ」
 口を尖らせて突込みを入れたのは凱だった。
「普通三日でもう我慢できないんだがな」
「実は俺も三日が限度だ」
 先程徹夜の話をしてきた山崎もここで話す。
「それ以上はもう無理だな」
「それでもこの・・・・・・人間って言っていいんだよな」
 凱はもうそのこと時が疑問だった。無理のないことであるが。
「一月は大丈夫だってか」
「もう全然平気よ」
「お肌も全然荒れないわよ」
「だったらいいんだけれどな」
 凱も彼等の主張に一応納得はした。
 そうしてだ。こう二人に述べた。
「ならあんた達も頑張ってくれよ」
「ええ、じゃあ皆はね」
「ゆっくりしていてね」
 あくまで昼は任せろという二人だった。尚且つだ。
 妖怪達はさらにだ。こんなことまで言った。
「あたし達夜も大丈夫だから」
「夜でもちゃんと見えるしね」
「猫の目?」
 ここで怪訝な顔になったのは許緒だった。
「猫って夜でも見えるけれど」
「そうよ。猫の目は特別なのよ」
 リムルルもそのことを許緒に話す。
「夜の中でもちゃんと見えるから」
「この人達の目って猫の目なのかな」
「そうじゃないかしら」
「あたし達の目はそれこそ何時でも何でも見えるのよ」
「それこそ完璧にね」
 ここでまた恐ろしい能力が明らかになった。
「千里先の糸くずでも見られるわ」
「真夜中でもね」
「やっぱり人間じゃないだろ」
 凱は本気で言った。
「そんな人間いるかよ。鬼の千里眼でもこうはいかねえぞ」
「ああ、そうだな」
 覇王丸も凱のその言葉に同意して頷く。
「やっぱり人間の能力じゃないだろ」
「そもそも何歳なのか」
 右京も真剣に疑っている。
「三皇の時代となると少なくとも三千年は昔なのだが」
「そうねえ。神農様も素晴らしい方だったわね」
「御自身がお身体を張って薬を作られてたから」
 この国の古の君主の一人だ。その三皇の一人である頭は牛だったという。そのことからわかる通り人ではない。神だったのである。
 その古の君主についてもだ。彼女達は話すのだった。
「伏儀様もおられて」
「そうしてこの世界があるのだからね」
「うむ、この二人やはり只者ではない」
 王虎が断言した。腕を組み。
「仙人か何かであろう」
「元はどんな生きものだったんだ?」
 テリーもだ。今は真剣に疑っている。
「仙人って人間以外でもなれたんだよな」
「そうじゃ。石や琵琶でもなれる」
 タンが弟子にこう説明する。
「それこそ何でもじゃ」
「じゃあ何からこうなったんだ?」
 テリーは師の話を聞いてあらためて述べた。
「こんな妖しい仙人に」
「仙女と言って欲しいわ」
「美しい乙女なんだから」
 妖怪達は身体を左右にくねらせつつ主張する。
「そこんとこ間違えたらやーーよ」
「宜しくね」
「だから元は何だったんだよ」
 テリーは妖怪達に問うた。強張った顔で額に汗を流しつつ。
「あんた達が仙・・・・・・女だとしても元は何だったんだ?」
「人間よ」
「元々人間だったのよ」
 そうだというのだ。
「仙人には確かに動物やものからなる人もいるけれどね」
「あたし達は人間出身の仙人なのよ」
「一応そうなのか」
 テリーは二人が嘘を吐いていないことがわかった。
 しかしそれでもだ。こうも言うのだった。
「元は人間だったのかよ」
「まああれだな」
 ここで言ったのはリョウだった。
「仙人になれば姿も変わるんだな」
「そうなのか?それでこうなるのか?」
「俺も仙人については詳しくないけれどな」
 リョウはテリーにこんなことも言いながら述べていく。
「けれどそれでも仙人ってとんでもない連中なんだな」
「そういえば華陀さんも」
 ここで彼に声をかけたのは周泰だった。
「仙人なんでしょうか」
「いや、俺はまだ仙人じゃない」
 華陀はそれは否定した。
「百二十歳だからあと何百年かは修業しないとな」
「それで仙人になられるんですね」
「何時かはな」
 そうなるというのだ。
「ただそれは今すぐじゃないな」
「そうなんですか」
「ああ、俺も修業中の身だ」
 仙人になる、その為のだというのだ。
「俺の医術は仙人になっても続ける、それもな」
「そうして世の人達を助けられるんですね」
「そういことだな」
「ああ、そうだ」
 華陀は顔良と文醜の言葉にも応える。
「俺の使命は俺の医術で世の力になることだからな」
「そういうところがいいのね」
「ダーリンの痺れるところなのよ」
 また身体をくねらせて言う妖怪達だった。
「医術は仁術ってね」
「そのことを実際に行えることがいいのよ」
「声もいいしのう」
「そうですよね」
 袁術と呂蒙がここで言う。
「わらわは何故か華陀と同じ場所にいる気がするのじゃ」
「私もです」
「それを言うと私も詠さんと」
 鳳統は何故か彼女を真名で呼んでいた。
「いつも一緒にいる気がします」
「確かに。私もそう思うわ」
 本人もそのことを言う。
「事務とか所っていうのかしら。そっちで」
「私もそういえば」
 劉備もその話でふと気付いたことがあった。それは。
「董卓ちゃんと一緒にいることが多い様な」
「あれですね。中身の関係を言うとです」
 魏延がその劉備に囁いてきた。
「私も心当たりがありますし」
「焔耶もあれだったよね」
 馬岱はすぐにその魏延に突っ込みを入れた。
「偶像支配と関係あったよね」
「舞は得意だ」
 実はそういうこともできる魏延だった。
「それについては袁術殿達にもひけは取らないつもりだ」
「何か色々あり過ぎよね」
 馬岱もそのことについて言う。
「私もあちこちで心当たりあるけれど」
「私もな。実は天和にな」
 公孫賛もいるのだ。彼女の主張は。
「何か浅からぬ因縁を感じる」
「あんた誰や?」
 その公孫賛に突っ込みを入れたのは張遼だった。
「見ん顔やがこっちの世界の人間かいな」
「そうだが。知らないのか」
「知らんから尋ねてるんや」
 悪意も何もなくだ。張遼は真剣に問い返す。
「ほんま誰やねん」
「公孫賛だ。本当に知らないのだな」
「そうか。西園とか寺とかとちゃうんやな」
「そっちの方が有名になっているが違う」
 困った顔で返す公孫賛だった。
「全く。困ったことだ」
「公孫賛殿の影の薄さは変わらないのか」
「そうみたいですね」
 夏侯淵と顔良は彼女を知っている。だからこそ言うのだった。
「悪い御仁ではないのだが」
「こればかりはどうしようもないですね」
 二人は彼女に深く同情していた。だがそれでもどうにもならなかった。そして何はともあれだった。
 妖怪達を見張りに残し全軍昼に休息に入った。誰もが天幕の中に入り寝る。
 その中でだ。ふと荀ケが己の天幕の中でだ。こう姪に言った。
 二人は同じ天幕の中で並んで寝ている。寝たまま言うのだった。
「ねえ」
「はい、何ですか?」
「この戦いが終わったらあんたどうするの?」
「この戦いが終わればですか」
「ええ、どうするの?」
 問うのはこのことだった。
「それはどうするの?」
「華琳様にお仕えしていくつもりですが」
 これが叔母への返答だった。
「これからも」
「そう。実は私もね」
「叔母上もですか」
「叔母さんと言うのは止めてね」
 荀ケは仰向けに寝たままむっとした顔で返す。そのことは彼女にとっては許せないことなのだ。
「いいわね」
「ですが私にとって桂花姉様は」
「姉様って呼べばいいじゃない。まだおばさんって言われる歳じゃないわよ」
「それなら女王陛下は」
「世界が違うわよ」
 それでだ。その呼び方も駄目だというのだ。
「言っておくけれどオートマも野良メイドも駄目よ」
「何か関わりある世界多いですね」
「色々とあるのよ。とにかくね」
「はい、これからのことですよね」
「そうなのね。じゃあ同じね」
 また言う荀ケだった。
「私もそうするから」
「華琳様にお仕えしていかれるのですね」
「もっと言えば漢王朝にね」
 この国にだというのだ。まさにだ。
「そうしていくわ。私もね」
「わかりました。ではこれからも二人で」
「陳花もそうみたいだけれど」
 彼女の名前を出して荀ケは自分で不機嫌な顔にもなった。
「忌々しいけれどね」
「陳花叔母上とはまだ」
「あいつにはおばさんって言ってもいいから」
 こう言う荀ケだった。
「わかったわね」
「左様ですか」
「お婆さんって言ってもいいから」
 こうまで言う始末だった。
「いいわね。そう呼びなさいよ」
「それは命令では」
「いいのよ。ただね」
「ただ?」
「劉備殿のところの馬超だけれど」
 不意に口調が穏やかになり言う荀ケだった。
「何か妙に妹に思えるのよね」
「ですから女王陛下ですから」
「それかしら。もっともそれを言ったら凪は私の御主人様?」
「確か野良メイドでしたから別の方がそうなるのでは」
「そうだったわね。それにしても野良メイドって」
 そのことについてだ。荀ケは首を傾げさせて話す。
「何か凄い設定よね」
「私もそう思います、それは」
「そうよね。有り得ないっていうか」
「叔母上のお声はメイド向きだと思いますが」
「だからおばさんじゃなくて。まあとにかくね」
 とにかく呼び方のことは注意してまた姪に言う。
「結構腹黒い女の子の役は得意だから」
「企むタイプはですね」
「何かいつも失敗するけれどね」
 何かとややこしい彼女だった。そんな話をしてだ。
 叔母と姪は天幕の中にいて休む。そうして昼を過ごすのだった。
 そして夜だ。ビッグベアが少し面白くなさそうに言っていた。
「何ていうかな。夜に酒を飲めないっていうのはな」
「だよな。ちょっともの足りないよな」
「全くだよ」
 彼と一緒にいるホアと王も彼の言葉に頷く。彼等は彼等で車座になり有色を食べている。そうしながら仲間うちで話をしているのだ。
 その中で巨大な牛肉を食べながらだ。ビッグベアは言う。
「この時間だと昼に酒を飲めっていうんだな」
「だよな。夜に敵が来るのならな」
「そうなるよね」
「昼に飲むってのもなあ」
 ビッグベアはそのことについて難しい顔で述べる。
「何か違うんだけれどな」
「俺は何時でも飲むけれどな」
 ホアはそこは違っていた。
「戦いになったら飲むからな」
「ホアさんのお酒って中に何が入ってるの?」
「何って普通のタイの酒だよ」
 ホアはこう王に話す。
「特に何のおかしなところもないな」
「ふうん、そうなんだ」
「じゃあ何だって思ってたんだよ」
「いや、蝮酒か何かじゃないかって思って」
 所謂強精酒である。
「そういうのじゃなかったんだ」
「本当にただの酒だぜ」
 ホアはそれは間違いないと話す。
「王も飲んでみるか?今度な」
「うん、じゃあその時に」
「俺も貰っていいか?」
 ビッグベアはホアに自分もだと頼んだ。
「酒は嫌いじゃないしな」
「ああ、じゃあそっちも酒用意してくれるか」
「ビールでいいよな」
「いいぜ。それじゃあな」
「ああ、この戦いが終わったらな」
「僕もお酒用意するからね」
 二人もそうなら王もだった。
「台湾のお酒ね」
「ああ、そういえば王はそこ出身だったよな」
「そうだよ。台湾人だよ」
「リーの爺さんと同じなんだな」
 ビッグベアはここで彼の名前を出した。
「台湾出身だからな、あの爺さんも」
「台湾人も結構多いでしょ」
「意外とな。チンのおっさんもだしな」
 それは彼も同じだった。台湾人なのだ。
「そう考えると多いよな」
「台湾人って独特の感じがあるって言われるんだよね」
 王は鍋の麺を食べながら話す。鍋には麺の他に野菜もある。そうしたものも食べている。
「おおらかっていうか穏やかっていうか」
「チンのおっさんはそれ以上にがめついって印象があるけれどな」
 ホアは彼についてはこう言う。
「っていうかどれだけ金に汚いんだよ」
「しかも服とか趣味悪いしな」
 ビッグベアはチンの趣味についてだった。
「きんきらきんでな」
「あれで人間として性格まで悪かったら最悪だったな」
「人間的には悪くないからな」
「そうですよね。それは」
 少なくとも悪人ではないのがチンなのだ。
「食いまくるし居眠りばかりでもな」
「露骨な悪事はしませんからね」
「だからまだ救いがあるんだよ」
 それをビッグベアも言う。
「まあ確かに碌でもない御仁だけれどな」
「随分言ってくれるでしゅね」
 噂をすれば何とやらだった。本人が来た。
 そうしてだ。こう三人に言うのだった。
「私はただお金儲けが趣味なだけでしゅよ」
「それで黒社会ともつながるのかよ」
 ホアはこのことを問うた。
「それはまずいだろ」
「黒社会は黒社会でもとんでもない奴等とは一緒でないでしゅよ」
 台湾の黒社会も程度があるというのだ。
「外道とは付き合わないでしゅよ」
「前の山崎みたいなのとはか」
「付き合ってないんですね」
「当然でしゅ。私は外道は嫌いでしょ」
 そのことはホアと王にも断るのだった。
「人の道は踏み外したら駄目でしゅよ」
「俺もなあ。一回そうなりかけたからな」
「俺もだよ」
 ホアとビッグベアはここで自分を振り返った。
 そうしてだ。いささか悔やむ顔で言うのだった。
「丈の奴に負けてな。一時期ぐれてたからな」
「ヒールになっちまってたな。完全に」
「そういえばビッグベアさんは昔はライデンでしゅたね」
「今でも時々覆面は被るぜ」
 そうした意味でライデンになるというのだ。しかしだった。
「けれどそれでもな」
「人の道はでしゅね」
「ああ、正統派で生きることを心掛けてるさ」
「それはいいことでしゅ。清く正しく真面目に生きることが一番でしゅよ」
 チンがこう言うとだった。ホアとビッグベアはだ。
 むっとした顔になりだ。こう言うのだった。
「いや、あんたは清くも正しくもないからな」
「真面目でもないだろ」
「やくざ屋さんと仲良くするのは止めろよ」
「あと訳のわからねえ刑事とは」
「ああ、ホンフゥのことでしゅね」
 誰なのか即座にわかることだった。
「ホンフゥは確かに癖が強いですが真面目ないい刑事でしゅよ」
「真面目でも何か違うだろ」
「破天荒に過ぎるだろ」
 こう言う二人だった。そんな話をしながらだった。
 彼等は夜に酒なしで明るくやっていた。飲まなくてもそれでもだった。彼等は楽しくやっていた。そのうえで決戦の時を待っていたのだ。


第百二十一話   完


                       2011・11・6



どうやら決戦は夜になりそうだな。
美姫 「左慈たちも珍しく協力してくるみたいだけれど」
果たして結界がどの程度の強度かだな。
美姫 「いよいよね」
だな。この地での決着はどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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